説明

フレキシブル積層板及びフレキシブル積層板の製造方法

【課題】容易にエッチングにて除去することができて回路パターンを精度良く形成することが可能であるフレキシブル積層板及びこのフレキシブル積層板の製造方法を提供する。
【解決手段】ベースフィルム11と、このベースフィルム11に積層された導電層12と、を備えたフレキシブル積層板10であって、ベースフィルム11と導電層12との間に、導電層12を構成する金属元素と該金属元素よりも酸化しやすい易酸化元素とを含有する合金からなる合金層13が設けられるとともに、この合金層13中の前記易酸化元素が酸素と反応して生成した酸化物を主成分とする酸化物層14が形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂等からなるベースフィルムの表面に導電性を有する導電層を形成したフレキシブル積層板に関し、特に、TABテープ、フレキシブル回路基板またはフレキシブル配線板などとして使用されるフレキシブル積層板及びこのフレキシブル積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化・軽量化・構造の柔軟化に有利な回路基板として、TAB(Tape Automated Bonding)やFPC(Flexible Print Circuit) 等を用いた回路基板に対する需要が高まってきている。
このような回路基板として使用されるフレキシブル積層板として、例えば、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の薄膜形成技術により、ポリイミド等からなるベースフィルム上に直接的に金属薄膜を回路パターンに沿って成膜したのちこの金属薄膜上に電解めっき等により金属めっき層を堆積させて回路パターン状に導電層を形成したものや、金属薄膜をベースフィルムの表面に形成し、その上に電解めっき等で金属を堆積させて導電層を形成し、この導電層をエッチングして回路パターンを形成したもの等が提案されている。
【0003】
しかし、このような構造のフレキシブル積層板では、導電層を構成する金属元素がベースフィルム内に拡散して、ベースフィルムの絶縁性が低下してしまうといった問題があった。また、エッチングによる回路パターン形成工程や電解めっき工程等において、ベースフィルムと導電層間の接合強度が低下し、剥離しやすいという問題があった。
【0004】
そこで、例えば特許文献1、2には、導電層とベースフィルムとの間にNi−Cr合金からなる中間層を設けることにより、導電層を構成する金属元素のベースフィルム内への拡散防止を図ったフレキシブル積層板が提案されている。また、Crを含有する中間層を形成することで、Crのd電子とポリイミド樹脂のπ電子との共有結合により中間層とベースフィルムとの接合強度の向上を図っている。
【特許文献1】特許第3944401号公報
【特許文献2】特開2005−26378号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、Ni−Cr合金からなる中間層を有しているフレキシブル積層板においては、Crが不動態皮膜を形成するために、エッチングによる除去が非常に困難であり、導電層に回路パターンを形成した場合に、中間層を完全に除去できず回路パターンを精度良く形成することができないといった問題があった。また、エッチングを行う場合には、まず、酸濃度の低いエッチング液で導電層をエッチングした後に、導電層に対して防錆効果を有する防錆剤を含有したエッチング液によってエッチングを行っている。つまり、エッチングを2回以上に分けて行う必要があり、フレキシブル積層板の製造コスト増大につながっていた。
さらに、エッチング工程が長時間にわたることになり、ベースフィルムと導電層間の接合強度が低下して剥離しやすくなってしまうおそれがあった。
【0006】
また、Ni−Cr合金をベースフィルム上にスパッタリングによって積層させる場合には、5kW/cmといった比較的高い熱エネルギーが必要となるため、ベースフィルムには耐熱性が要求されることになり、高価なポリイミドからなるベースフィルムを採用せざるを得なかった。
【0007】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであって、エッチングにて容易に除去することができて回路パターンを精度良く形成することが可能であるフレキシブル積層板及びこのフレキシブル積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明に係るフレキシブル積層板は、ベースフィルムと、このベースフィルムに積層された導電層と、を備えたフレキシブル積層板であって、前記ベースフィルムと前記導電層との間に、前記導電層を構成する金属元素と該金属元素よりも酸化しやすい易酸化元素とを含有する合金からなる合金層が設けられるとともに、この合金層中の前記易酸化元素が酸素と反応して生成した酸化物を主成分とする酸化物層が形成されていることを特徴としている。
【0009】
本発明に係るフレキシブル積層板によれば、ベースフィルムと導電層との間に、易酸化元素が酸素と反応して生成した酸化物を主成分とする酸化物層が設けられているので、この酸化物層によって導電層を構成する金属元素がベースフィルム内に拡散することを防止でき、ベースフィルムの絶縁性を維持することができる。
また、酸化物層は、Ni−Cr合金に比べてエッチング性が良好であり、導電層をエッチングする際に使用されるエッチング液によって容易に除去することができる。したがって、微細な回路パターンであっても精度良く形成することができ、短絡等の発生を確実に防止できる。また、導電層と中間層とを同時にエッチングすることができ、このフレキシブル積層板を低コストで製造することができる。
【0010】
さらに、エッチング工程を短時間で行うことにより、ベースフィルムと導電層間の接合強度の低下を防止することができる。
なお、導電層を構成する金属元素よりも酸化しやすい元素とは、このフレキシブル積層板が使用される温度範囲(例えば−20℃〜200℃)において導電層を構成する金属元素よりも酸化物生成自由エネルギーが小さな元素のことである。
また、合金層は、合金層中の易酸化元素がすべて反応して酸化物となって酸化物層を形成し、残りの導電層を構成する金属元素と酸化物層とが一体化することによって、明確に確認されなくなってもよい。
【0011】
ここで、前記導電層をCu又はCu合金で構成し、前記合金層に、前記易酸化元素としてMg、Mn、Si、Sn、Cr及びZrから選択される1種または2種以上が含有されていてもよい。
この場合、導電層がCu又はCu合金で構成されているので、導電層の抵抗率が低く効率良く通電することができる。また、合金層に、易酸化元素としてMg、Mn、Si、Sn、Cr及びZrから選択される1種または2種以上が含有されており、これらの元素は容易に酸素と反応して酸化物を形成するため、酸化物層を確実に形成することができる。
【0012】
また、前述の合金層をベースフィルム上にスパッタリングによって積層させる場合には、比較的低い熱エネルギーでスパッタリングができるため、耐熱性の低い材料からなるベースフィルムを採用することが可能となる。例えば、従来のベースフィルムとして広く使用されているポリイミドよりも廉価であるポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンナフタレートを採用することにより、このフレキシブル積層板をさらに低コストで製造することができる。
【0013】
また、前記酸化物層の厚さを、2nmから20nmの範囲内に設定してもよい。
この場合、酸化物層の厚さが2nm以上とされているので、導電層を構成する金属元素のベースフィルムへの拡散を確実に防止できる。また、酸化物層の厚さが20nm以下とされているので、エッチングによる酸化物層の除去を短時間で行うことができる。
【0014】
本発明に係るフレキシブル積層板の製造方法は、前述したフレキシブル積層板の製造方法であって、ベースフィルムの表面に、導電層を構成する金属元素と該金属元素よりも酸化しやすい易酸化元素とを含有する合金からなる合金層を形成する合金層形成工程と、前記合金層の上に前記導電層を形成する導電層形成工程と、前記合金層中の前記易酸化元素を酸化して酸化物層を形成する酸化物生成工程と、を備えていることを特徴としている。
本発明に係るフレキシブル積層板の製造方法によれば、合金層及び導電層を形成した後に、酸化物生成工程によって易酸化元素を酸化させて酸化物層を形成しているので、工程が簡単であって前述のフレキシブル積層板を低コストで製造することができる。
【0015】
ここで、前記導電層形成工程を、めっき工程としてもよい。
前述のフレキシブル積層板においては、合金層が、導電層を構成する金属元素と前記易酸化元素とを含有する合金で構成されているので、合金層上に導電層を構成する金属元素を直接めっきすることができる。よって、合金層の上に導電層となる金属元素をスパッタリングする必要がなくなり、スパッタリング時におけるコンタミ等の問題を防止することができる。また、前述のフレキシブル積層板をさらに低コストで製造することができる。
【0016】
さらに、前記合金層形成工程の前に、前記ベースフィルムの表面を活性化する表面活性化処理工程を有し、この表面活性化処理工程を酸素プラズマ処理としてもよい。
この場合、ベースフィルムの表面を表面活性化処理することで、ベースフィルム表面に残存したモノマー等の異物を除去することができ、ベースフィルムと合金層との接合強度を向上させることが可能となる。また、表面活性化処理工程として酸素プラズマ処理を採用することにより、ベースフィルムの表面に多くの酸素を内在させることができ、その後の酸化物生成工程によって合金層中の易酸化元素と反応させて酸化物層を確実に形成することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、容易にエッチングにて除去することができて回路パターンを精度良く形成することが可能であるフレキシブル積層板及びこのフレキシブル積層板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の第1の実施形態であるフレキシブル積層板について添付した図面を参照して説明する。
このフレキシブル積層板10は、図1に示すように、ベースフィルム11と、ベースフィルム11に積層された導電層12と、これらベースフィルム11及び導電層12との間に設けられた合金層13及び酸化物層14とを具備している。
【0019】
ベースフィルム11は、合成樹脂で構成されており、本実施形態では、ポリエチレンフタレート(PET)樹脂で構成されている。このベースフィルム11は、単層であってもよいが、複数種の合成樹脂を積層した積層フィルムであってもよい。
さらに、ベースフィルム11の厚さは特に限定されないが、ベースフィルム11としての剛性を確保する観点から12μm以上が好ましく、フレキシブル積層板10の変形の容易さを確保する観点から125μm以下であることが好ましい。本実施形態では、ベースフィルム11の厚さは約38μmとされている。
【0020】
導電層12は、導電性を有する材質、具体的には、Cu、Cu合金、Al、Al合金、Ag、Au、Ptなどから選択される1種または2種以上で構成され、特に好ましくはCu、または、Ni、Zn、もしくはFe等を含むCu合金で構成されている。なお、本実施形態においては、Cuによって構成されている。
導電層12の厚さは特に限定されないが、10nm以上であればよく、より好ましくは30nm以上である。なお、導電層12が10nmよりも薄いとめっき工程にて焼き切れる等の不良が発生しやすくなる。なお、本実施形態では、導電層12の厚さは約100nmとされている。
【0021】
合金層13は、導電層12を構成する金属元素とこの金属元素よりも酸化しやすい易酸化元素とを含有する合金によって構成されている。なお、導電層12を構成する金属元素よりも酸化しやすい元素とは、このフレキシブル積層板10が使用される温度範囲(例えば−20℃〜200℃)において導電層12を構成する金属元素よりも酸化物生成自由エネルギーが小さな元素のことである。本実施形態では、導電層12がCuで構成されているので、易酸化元素はCuよりも酸化しやすい元素であるMg、Mn、Si、Sn、Cr及びZrのうちの1種または2種以上が選択される。本実施形態では、合金層13はCu−Mg−P合金で構成されている。
なお、この合金層13は、後述する酸化物生成工程によって易酸化元素が酸化し、酸化物層14と導電層12を構成する金属元素とが一体化することによって、明確に確認されない場合がある。
【0022】
酸化物層14は、合金層13に含有された易酸化元素と酸素とが反応して生成した酸化物を主成分としている。ここで本実施形態では、易酸化元素であるMgの酸化物であるMgOを主成分とする酸化物層14が形成されている。
この酸化物層14の厚さは特に限定されないが、導電層12を構成する金属元素(Cu)のベースフィルム11内への拡散を防止する観点から2nm以上とすることが好ましく、にエッチングにて回路パターンを形成する際におけるエッチング速度を確保する観点から20nm以下とすることが好ましい。
【0023】
次に、この構成のフレキシブル積層板10の製造方法について図2を用いて説明する。
ポリエチレンフタレート樹脂で構成されたベースフィルム11の表面に付着したモノマー等を除去するために表面活性化処理を行う(表面活性化処理工程S1)。表面活性化処理は、各種プラズマ処理等を選択することが可能であるが、本実施形態では酸素プラズマ処理を採用している。
【0024】
酸素プラズマ処理によって表面活性化処理を施したベースフィルム11の表面に、Cu−Mg−P合金をスパッタリングによって積層させ、合金層13を形成する(合金層形成工程S2)。このスパッタリングには、予め所定の組成に調整されたCu−Mg−P合金ターゲットを用いることが好ましい。
次に、合金層13の上にCuをめっきして導電層12を形成する(導電層形成工程S3)。ここで、合金層13がCuを含有する合金で構成されているので、合金層13の上にCuを直接めっきすることが可能となる。
【0025】
合金層13及び導電層12を形成した後に、表面の洗浄及び防錆処理(S4)を行う。表面の洗浄及び防錆処理を施した後に、乾燥のために熱処理を施すことになるが、この熱処理条件を調整することで易酸化元素と酸素とを反応させて酸化物を生成させる(酸化物生成工程S5)。ここで、熱処理条件は、80℃〜150℃の範囲とすることが好ましい。これにより、易酸化元素であるMgと酸素とが反応し、MgOが生成して前述の酸化物層14が形成される。
【0026】
なお、酸化物生成工程S5において、合金層13中の易酸化元素(Mg)をすべて反応させて酸化物(MgO)とした場合には、合金層13は、易酸化元素(Mg)が酸化物層14となり、残りのCuが導電層12と一体化することで明確に確認されなくなってもよい。
【0027】
このような構成とされた本実施形態であるフレキシブル積層板10においては、ベースフィルム11と導電層12との間に、易酸化元素であるMgと酸素との反応により生成したMgOを主成分とする酸化物層14が設けられているので、導電層12を構成する金属元素であるCuがベースフィルム11内に拡散することを酸化物層14によって防止することができる。よって、ベースフィルム11の絶縁性を確保することができ、このフレキシブル積層板10を用いた回路基板等の信頼性を大幅に向上させることができる。
【0028】
また、MgOを主成分とする酸化物層14は、導電層12(Cu)をエッチングするエッチング液によって容易に除去することができるので、導電層12及び酸化物層14を1種類のエッチング液で同時に除去することが可能となり、このフレキシブル積層板10を低コストで製造することができる。また、回路パターンを精度良く形成することができ、微細な回路パターンを形成した場合でも短絡が発生することがない。
さらに、エッチングを短時間で行うことが可能となり、ベースフィルム11と導電層12間の接合強度の低下を防止することができる。
【0029】
また、酸化物層14は、金属光沢がなく光を反射しにくいため、このフレキシブル積層板10の透明度が増すことになる。したがって、例えば、有機ELディスプレイや液晶ディスプレイ等の回路基板として適用することが可能となる。
【0030】
また、導電層12がCuで構成されているので、導電層12の抵抗率が低く効率良く通電することができる。
さらに、Cu−Mg−P合金は、Ni−Cr合金に比べて低い熱エネルギーでベースフィルム11上にスパッタリングをすることが可能となる。これにより、耐熱性が低いポリエチレンテレフタレートからなるベースフィルム11を用いてフレキシブル積層板10を構成することが可能となる。ここで、ポリエチレンテレフタレートはポリイミド樹脂よりも廉価であり、このフレキシブル積層板10を低コストで製造することができる。また、ポリエチレンテレフタレートはポリイミドよりも透明度が高く、フレキシブル積層板10の透明度をさらに向上させることができ、有機ELディスプレイや液晶ディスプレイ等の回路基板として適している。
【0031】
また、酸化物層14の厚さが2nm以上とされているので、導電層12を構成する金属元素(Cu)のベースフィルム11内への拡散を確実に防止できる。さらに、酸化物層14の厚さが20nm以下とされているので、エッチングによる酸化物層14の除去を短時間で行うことができるとともに、このフレキシブル積層板10の透明度を確保することができる。
【0032】
さらに、ベースフィルム11上に合金層13及び導電層12を形成した後に、酸化物生成工程S5によって易酸化元素を酸化させて酸化物層14を形成しているので、このフレキシブル積層板10を低コストで製造することができる。特に、本実施形態では、表面の洗浄、防錆処理を施した後の乾燥工程における熱処理条件を変更することで酸化物を生成しているので、従来の製造方法に対して特別な工程を増やす必要がない。
【0033】
また、合金層13がCu−Mg−P合金とされ、導電層12がCuで構成されているので、合金層13上にCuを直接めっきすることで導電層12を形成することができる。よって、ベースフィルム11上にCuのスパッタリングを行う必要がなく合金層13をスパッタリングするのみとなり、スパッタリング時におけるコンタミ等の問題を防止することができる。また、このフレキシブル積層板10を低コストで製造することができる。
【0034】
また、本実施形態では、ベースフィルム11の表面を活性化する表面活性化処理工程を有し、この表面活性化処理工程として酸素プラズマ処理を採用しているので、ベースフィルム11の表面に残存したモノマー等の異物を除去することができ、ベースフィルム11と合金層13との接合強度を向上させることが可能となる。また、ベースフィルム11の表面に多くの酸素を内在させることができ、その後の酸化物生成工程によって合金層13中の易酸化元素であるMgと反応させて酸化物層14を確実に形成することができる。
【0035】
次に、本発明の第2の実施形態であるフレキシブル積層板について説明する。
このフレキシブル積層板20は、ベースフィルム21の材質と、合金層23を構成する合金の組成とが第1の実施形態と異なっている。
【0036】
本実施形態において、ベースフィルム21は、ポリイミド樹脂によって構成されている。ここで、ベースフィルム21を構成するポリイミド樹脂は、BPDA系ポリイミド樹脂やPMDA系ポリイミド樹脂であってもよい。一般的にBPDA(ビフェニルテトラカルボン酸)を原料とするポリイミドフィルム(宇部興産製商品名「ユーピレックス」など)は熱および吸湿寸法安定性および剛性が良好であり、主にTAB用途に使用されているが、金属薄膜との接合強度が低い特徴を有する。一方、PMDA(ピロメリット酸二無水物)を原料とするポリイミドフィルム(東レ・デュポン製商品名「カプトン」、鐘淵化学工業製商品名「アピカル」など)は金属薄膜との接合強度が高いとされている。このような特性を考慮して適宜選択することが好ましい。また、ベースフィルム21は、単層であってもよいが、複数種のポリイミド樹脂を積層した積層フィルムであってもよいし、中間層2が形成される表面のみがポリイミド樹脂で構成されていてもよい。
なお、このベースフィルム21の表面には、シランカップリング剤処理が施されるとともにシリカ(SiO)系のフィラーが塗布されている。
【0037】
また、本実施形態では、合金層23は、導電層22を構成する金属元素であるCuと、Cuよりも酸化しやすい易酸化元素であるMnを含有するCu−Mn合金で構成されている。なお、この合金層23は、後述する酸化物生成工程によって易酸化元素が酸化し、酸化物層14と導電層12を構成する金属元素とが一体化することによって、明確に確認されない場合がある。
本実施形態における酸化物層24は、易酸化元素であるMnと、ベースフィルム21に含有されたSiと、酸素との化合物であるMnSiによって構成されている。
【0038】
この第2の実施形態のように、易酸化元素であるMn以外の元素(Si)を含有した酸化物によって酸化物層24を形成しても、第1の実施形態と同様の効果を奏することができる。
また、MnSiは比較的安定した層として存在するため、導電層22を構成する金属元素(Cu)のベースフィルム21内への拡散を確実に防止することができる。
なお、本実施形態では、ベースフィルム21の表面には、シランカップリング剤処理が施されるとともにシリカ(SiO)系のフィラーが塗布されているので、MnSiを確実に生成することができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態であるフレキシブル積層板について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、合金層としてCu−Mg−P合金及びCu−Mn合金を例に挙げて説明したが、これに限定されることはなく、Cu−Si−Sn合金、Cu−Cr−Zr合金等であってもよい。導電層を構成する金属元素(この場合はCu)よりも酸化しやすい易酸化元素を含む合金であればよい。
【0040】
また、導電層をCuで構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、Cu合金、Al、Al合金、Ag、Au、Ptなどから選択される1種または2種以上で構成されていてもよい。この場合には、合金層に含まれる易酸化元素も導電層を構成する金属に併せて選択する必要がある。
【0041】
さらに、フレキシブル積層板は、フレキシブル回路基板のみでなく、TABテープ、フレキシブル配線板などを構成するものであってもよい。
また、ベースフィルムの片面に酸化物層及び導電層を形成したもので説明したが、これに限定されることはなく、ベースフィルムの両面に酸化物層及び導電層が形成されていてもよい。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例を挙げて本発明の効果を実証する。
ベースフィルムとして、厚さ38mmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製:商品名カプトン150EN)を用いた。
【0043】
(実施例1〜4)
まず、5N(99.999%)ベースの純度の無酸素銅を溶解し、これに金属Mnを添加して、Mn濃度が1wt%、2wt%、4wt%、10wt%とされたCu−Mn合金を作製した。
このCu−Mn合金をターゲットとして、アルゴンガスを導入したチャンバー内においてベースフィルム上にスパッタリングを行い、厚さ25nmの合金層を形成した。
次に、チャンバー内に酸素ガスを導入して酸化処理を行い、前記合金層中のMnを酸化して酸化物層を形成した。
その後、銅をスパッタリングして厚さ200nmの銅層を形成した後、電気メッキによって銅層の上に銅メッキを施し、厚さ8μmの導電層を形成した。ここで、酸化物層を形成した後に銅層を形成するのは、酸化処理のままでは硫酸銅メッキ液に浸漬したときに著しく腐食が進行してしまうため、また、電流を流し易くして電気メッキを効率的に行うためである。
【0044】
(実施例5〜7)
三菱伸銅社製のMSP1(Cu−Mg−P合金)をターゲットとして、アルゴンガスを導入したチャンバー内においてベースフィルム上にスパッタリングを行い、厚さ25nmの合金層を形成した。このとき、Mgの濃度が0.4wt%,0.6wt%,0.8wt%のものをそれぞれ用いた。その後、実施例1〜4と同様に、酸化物層及び導電層を形成した。
【0045】
(実施例8)
5N(99.999%)ベースの純度の無酸素銅を溶解し、これに金属Mgを添加して、Mg濃度が1wt%とされたCu−Mn合金を作製した。このCu−Mg合金をターゲットとして、アルゴンガスを導入したチャンバー内においてベースフィルム上にスパッタリングを行い、厚さ25nmの合金層を形成した。その後、実施例1〜7と同様に、酸化物層及び導電層を形成した。
【0046】
(従来例)
ベースフィルムの上に、Ni−20wt%Cr合金をターゲットとしてスパッタリングを行い、厚さ25nmの合金層を形成した。その後、酸化処理は行わず、導電層を形成した。
【0047】
(比較例1〜4)
実施例1(Cu−1wt%Mn)、実施例3(Cu−4wt%Mn)、実施例4(Cu−0.4wt%Mg)、実施例6(Cu−0.8wt%Mg)において、酸化物層を形成せずに、合金層の上に導電層を形成したものである。
【0048】
(評価)
特性評価として、ピール試験とエッチング試験を行った。
ピール試験は、エッチング条件の影響を排除するために、カッターナイフで幅500μmの試験片を切り出し、90°ピール試験機でピール強度を測定した。
エッチング試験は、200μmの線幅のパターンをエッチングし、オーバエッチの有無、残渣の有無を評価した。なお、エッチング液として、アンモニア系溶液、塩化第二鉄溶液、過酸化水素添加塩化第二鉄溶液、の3種類を使用した。
評価結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
Cu−Mn合金を合金層として酸化物層を形成した実施例1〜4のうち、Mn濃度が1wt%、2wt%、4wt%とされた実施例1〜3では、ピール強度が従来例よりも高く、かつ、3種類すべてのエッチング液でエッチングを良好に行えることが確認された。
一方、Mn濃度が10wt%とされた実施例4では、エッチング性は良好であったが、ピール強度が従来例よりも低い値となった。これは、酸化処理によって生成するMn酸化物若しくはベースフィルムに含有されているフィラー成分とMnとの反応生成物が多くなって破断の起点と成り得るため、また、Mn濃度を上昇させることによりMnに付随する不純物の影響であると推測される。したがって、Mnの純度を向上させることによって、ピール強度の向上を図ることができると考えられる。
【0051】
三菱伸銅社製のMSP1(Cu−Mg−P合金)を合金層として酸化物層を形成した実施例5〜7においては、Mgの添加量が多いほどピール強度が上昇する傾向が認められた。また、3種類すべてのエッチング液でエッチングを良好に行えることが確認された。ここで、合金層にはPも含まれることになるが、PはCu−P化合物として膜中に存在しているものと推測される。仮に、Pが単離してチャンバー内の酸素や水蒸気と反応して燐酸が生成した場合、著しい腐食性を示すことになるが、試験後のチャンバー内を観察しても腐食の痕跡が観察されないことからも、PはCu−P化合物として膜中に存在しているものと推測される。
【0052】
一方、Ni−20wt%Cr合金の合金層を形成した従来例においては、ピール強度は比較的高いが、過酸化水素添加塩化第二鉄溶液以外のエッチング液では、エッチングを良好に行うことが不可能であることが確認される。
また、酸化物層を形成していない比較例1〜4においては、ピール強度が著しく低下しており、フレキシブル積層板として利用することは不可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1の実施形態であるフレキシブル積層板を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態であるフレキシブル積層板の製造方法を示すフロー図である。
【図3】本発明の第2の実施形態であるフレキシブル積層板を示す断面図である。
【符号の説明】
【0054】
10、20 フレキシブル積層板
11、21 ベースフィルム
12、22 導電層
13、23 合金層
14、24 酸化物層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースフィルムと、このベースフィルムに積層された導電層と、を備えたフレキシブル積層板であって、
前記ベースフィルムと前記導電層との間に、前記導電層を構成する金属元素と該金属元素よりも酸化しやすい易酸化元素とを含有する合金からなる合金層が設けられるとともに、この合金層中の前記易酸化元素が酸素と反応して生成した酸化物を主成分とする酸化物層が形成されていることを特徴とするフレキシブル積層板。
【請求項2】
前記導電層がCu又はCu合金で構成され、
前記合金層は、前記易酸化元素としてMg、Mn、Si、Sn、Cr及びZrから選択される1種または2種以上を含有していることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル積層板。
【請求項3】
前記酸化物層の厚さが、2nmから20nmの範囲内に設定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のフレキシブル積層板。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載されたフレキシブル積層板の製造方法であって、
ベースフィルムの表面に、導電層を構成する金属元素と該金属元素よりも酸化しやすい易酸化元素とを含有する合金からなる合金層を形成する合金層形成工程と、
前記合金層の上に前記導電層を形成する導電層形成工程と、
前記合金層中の前記易酸化元素を酸化して酸化物層を形成する酸化物生成工程と、
を備えていることを特徴とするフレキシブル積層板の製造方法。
【請求項5】
前記導電層形成工程は、めっき工程であることを特徴とする請求項4に記載のフレキシブル積層板の製造方法。
【請求項6】
前記合金層形成工程の前に、前記ベースフィルムの表面を活性化する表面活性化処理工程を有し、この表面活性化処理工程が酸素プラズマ処理であることを特徴とする請求項4又は請求項5に記載のフレキシブル積層板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−81294(P2009−81294A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−249820(P2007−249820)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000176822)三菱伸銅株式会社 (116)
【Fターム(参考)】