説明

ブレーキシステム

【課題】圧力センサを用いないブレーキシステムにおいても、温度の変化によってブレーキフィーリングに影響を与えにくいブレーキシステムを提供することを課題とする。
【解決手段】ブレーキシステムに、ブレーキ操作子12F、12Rの回動量を検出する入力側ポテンショメータ28F、28Rと、第2マスターシリンダ36F、36Rの押圧量を検出する出力側ポテンショメータ38F、38Rと、車輪制動手段のブレーキキャリパの温度又はこのブレーキキャリパの作動液の温度を検出する温度センサ42F、42Rとを設けた。
【効果】従来の2個の圧力センサを、2個のポテンショメータと1個の温度センサに置き換えた。温度センサで、ブレーキキャリパの温度又はこのブレーキキャリパの作動液の温度を検出し、この温度に基づいて制動力を補正させるようにした。結果、温度の変化によってブレーキフィーリングに影響を与えにくいブレーキシステムが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧モジュレータを備えているブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキ操作子に対応してアクチュエータを作動させ車輪を制動させるブレーキシステムとして、いわゆる、ブレーキ・バイ・ワイヤ(BBW:Bake By Wire)が知られている(例えば、特許文献1(図1)参照。)。
【0003】
特許文献1の図1に示されるように、入力側に第1圧力センサ(35)(括弧付き数字は、特許文献1に記載された符号を示す。以下同様)及び第2圧力センサ(36)が設けられ、出力側に第3圧力センサ(52)が設けられている。
そして、特許文献1では、入力側圧力に対応した出力側圧力になるようにアクチュエータ(液圧モジュレータ(46))を駆動させることにより、制動制御を実施する。
【0004】
入力側の第1圧力センサ(35)と第2圧力センサ(36)の一方は省くことができるものの、入力側と出力側に各1個、合計2個の圧力センサは設けなければならない。
圧力センサは、圧力を電気信号に変換するために高価な圧電素子を使用するなどして、全体として高価なものとなる。
【0005】
ブレーキシステムのコストダウンを考えると、高価な圧力センサに代わる安価な代替手段が求められる。ただし、ブレーキングによる発熱等によって作動液(ブレーキ液)の液圧特性が変化するため、液圧を直接検出しないような代替手段では、状態によってブレーキフィーリングが異なることが予見される。
【0006】
しかし、液圧を直接検出しないような代替手段であってもブレーキシステムに採用できるような技術が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−78602公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、圧力センサを用いないブレーキシステムにおいても、温度の変化によってブレーキフィーリングに影響を与えにくいブレーキシステムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、運転者によって操作されるブレーキ操作子に連動して液圧を発生する第1マスターシリンダと、この第1マスターシリンダによって得られた液圧により制動力を発生する車輪制動手段と、前記第1マスターシリンダと前記車輪制動手段とを接続して前記液圧を伝達する主液圧回路と、この主液圧回路に設けられ前記液圧を伝達又は遮断する常開型電磁弁と、モータにより第2マスターシリンダを押圧し前記車輪制動手段を作動させ得る液圧を発生させる液圧モジュレータとを備えているブレーキシステムにおいて、
このブレーキシステムは、さらに、
前記ブレーキ操作子の回動量を検出する入力側ポテンショメータと、
前記第2マスターシリンダの押圧量を検出する出力側ポテンショメータと、
前記車輪制動手段のブレーキキャリパの温度又はこのブレーキキャリパの作動液の温度を検出する温度センサと、
前記入力側ポテンショメータの検出値に対応した前記出力側ポテンショメータの目標値を定めて、該目標値に前記出力側ポテンショメータの検出値が合うように前記モータを制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記温度センサから検出される温度に応じて、前記目標値を補正することを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明では、ブレーキシステムは、さらに、車輪の速度を検出する車輪速センサを備え、
制御部は、さらに、車輪速センサで得た第1速度情報と、一定時間後に車輪速センサで得た第2速度情報との差を一定時間で除すことにより得られる減速度を演算する機能を有し、温度情報に加えて前記減速度に基づいて目標値を補正することを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明では、温度のみ又は温度及び前記減速度をパラメータとして入力側ポテンショメータの検出値と目標値との相関を段階的に定めておき、この相関を制御部に与え、制御部は段階的に定めた相関を切り換えることで補正を実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、ブレーキシステムに、ブレーキ操作子の回動量を検出する入力側ポテンショメータと、第2マスターシリンダの押圧量を検出する出力側ポテンショメータと、車輪制動手段のブレーキキャリパの温度又はこのブレーキキャリパの作動液の温度を検出する温度センサとを設けた。
【0013】
すなわち、従来の2個の圧力センサを、2個のポテンショメータと1個の温度センサに置き換えた。温度センサで、作動液の温度を検出し、この温度に基づいて制動力を補正させるようにした。結果、圧力センサを用いないブレーキシステムにおいても、温度の変化によってブレーキフィーリングに影響を与えにくいブレーキシステムを提供することができる。
【0014】
ポテンショメータ及び温度センサは、構造が単純であることから安価である。したがって、本発明によれば、ブレーキシステムのコストダウンが容易に図れる。
【0015】
請求項2に係る発明では、補正に減速度の要素を加えた。すなわち、ブレーキ操作子の回動量に対応した制動が得られないときには、所望の制動性能が得られるまで制動力を補正するようにした。結果、より好ましいブレーキフィーリングが保たれる。
そのためには、車輪速センサが必要であるが、車輪速センサはABS対応車両に常備されているものが使えるので、本発明を実施するに際し、コストの上昇を極力抑えることができる。
【0016】
請求項3に係る発明では、温度のみ又は温度及び減速度をパラメータとして入力側ポテンショメータの検出値と目標値との相関を段階的に定めておき、この相関を制御部に与え、制御部は段階的に定めた相関を切り換えることで補正を実施するようにした。
相関を数式化してもよいが、本発明のようにマップ化しておけば、迅速にマップが選択され、制御の高速化が図れる。結果、応答性能が高まり、好ましいブレーキフィーリングが保たれる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】自動二輪車の概念図である。
【図2】本発明に係るブレーキシステムの構成図である。
【図3】制御部の入力及び出力を説明する図である。
【図4】マップAの具体例を示す図である。
【図5】マップBの具体例を示す図である。
【図6】本発明に係るブレーキシステムの制御フロー図である。
【図7】マップAの作用説明図である。
【図8】マップCの具体例を示す図である。
【図9】図6の変更実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0019】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、自動二輪車10は、ハンドル11に、運転者の手で操作される前側ブレーキ操作子12F(Fは前を示す添え字。以下同じ)を備え、前側車輪13F近傍に前側車輪速センサ14F及び前側車輪制動手段15Fを備える。この前側車輪制動手段15Fは、前側車輪13Fに取付ける前側ブレーキディスク16Fと、この前側ブレーキディスク16Fを制動する前側ブレーキキャリパ17Fとからなる。
【0020】
加えて、自動二輪車10は、車体18に揺動自在に取付けられ運転者の足で操作される後側ブレーキ操作子12R(Rは前を示す添え字。以下同じ)を備え、後側車輪13R近傍に後側車輪速センサ14R及び後側車輪制動手段15Rを備える。この後側車輪制動手段15Rは、後側車輪13Rに取付ける後側ブレーキディスク16Rと、この後側ブレーキディスク16Rを制動する後側ブレーキキャリパ17Rとからなる。
【0021】
さらに、自動二輪車10は、車体18に、前側液圧モジュレータ19F及び後側液圧モジュレータ19R、これらの前側液圧モジュレータ19F及び後側液圧モジュレータ19Rを制御する制御部20及びバッテリ21を備える。
【0022】
これらの構成要素の相互関係及び作用を図2で説明する。
説明を容易にするために非コンビネーションモードでの前側車輪制動システムを説明する。
前側車輪制動は、前側車輪の回転速度がゼロ又は所定値以下の第1モードと、前側車輪の回転速度が所定値以上の第2モードと、前側車輪の回転速度が所定値以上で且つ前側操作子の操作量が所定値以上の第3モードとの何れかが選択される。
【0023】
第1〜第3モードを、図2に基づいて順次説明する。
第1モード:
前側車輪速センサ14Fで得た速度情報を制御部20で取得し、前側車輪速度が所定値以下と判断した時には、制御部20は、第1ソレノイドバルブ23F(常時閉)を閉じ、常開型電磁弁24F(常時開)を開き、第2ソレノイドバルブ25F(常時閉)を閉じた状態とする。
【0024】
なお、常開型電磁弁24Fは、第1マスターシリンダ27Fと液圧モジュレータ19Fとを繋ぐ主液圧回路31Fに設けられ、閉で液圧の伝達が遮断され、開で液圧が伝達される。常開型とは、電磁コイルが断線するなどのトラブルが発生したときには、スプリングの押し作用で電磁弁の開状態が保たれる形式を指す。
【0025】
ブレーキ操作子12Fが握られると第1マスターシリンダ27Fで液圧が発生し、ブレーキキャリパ17Fへ伝達される。ブレーキキャリパ17Fはブレーキディスク16Fを制動する。この第1モードはメインスイッチがオフの場合にも適用される。よって、停車中や極低速での走行中には、それぞれ電磁弁に通電されなくなり、省エネが図れる。
【0026】
第2モード:
前側車輪速センサ14Fで得た速度情報を制御部20で取得し、前側車輪速度が所定値以上であると判断した時には、制御部20は、第1ソレノイドバルブ23Fを開く。電磁弁24Fは開いたまま、第2ソレノイドバルブ25Fは閉じたままである。すなわち、第2モードは、いわゆるBBWに切換わる前段階の準備モードである。
【0027】
第3モード:
前側車輪速センサ14Fで得た速度情報を制御部20で取得し、前側車輪速度が所定値以上であると判断し且つ入力側ポテンショメータ28Fで得た操作量情報を制御部20で取得し、操作量が所定値以上であると判断した時には、制御部20は、第1ソレノイドバルブ23Fは開いたままで、電磁弁24Fを閉じ、第2ソレノイドバルブ25Fを開ける。
【0028】
電磁弁24Fが閉じているため、第1マスターシリンダ27Fで発生した液圧はブレーキキャリパ17Fへ伝達されない。代わりに、制御部20は液圧モジュレータ19Fを作動させる。詳細には、モータ33Fを始動し、減速ギヤ群34Fを介しカム軸35Fを回動し、第2マスターシリンダ36Fのピストン37Fを前進させる。発生した液圧は第2ソレノイドバルブ25Fを通って、ブレーキキャリパ17Fへ伝達される。ブレーキキャリパ17Fはブレーキディスク16Fを制動する。
カム軸35Fの回動量は出力側ポテンショメータ38Fで検出する。
【0029】
この際に、第1マスターシリンダ27Fで発生した液圧は、第1ソレノイドバルブ23Fが開いているため、ストロークシミュレータ32Fにも作用する。ストロークシミュレータ32Fは、液圧に応じてピストン39Fがスプリング41Fに抗して移動し、油路の体積を増加する。結果、ブレーキ操作子12Fに「遊び」ができる。すなわち、ブレーキ操作子12Fの操作フィーリングを維持する。
【0030】
ブレーキ操作子12Fの操作量を電気信号に置き換え、この信号をワイヤ(配線)を介して制御部20へ送り、制御部20はワイヤを介して液圧モジュレータ19Fを制御する。ワイヤを介した制御であるため、バイワイヤ方式ブレーキシステム(ブレーキ・バイ・ワイヤ:BBW)と呼ばれる。
【0031】
さらに、車輪制動手段15Fのブレーキキャリパの温度又はこのブレーキキャリパの作動液の温度を検出する温度センサ42Fを設ける。また、モータ33Fの給電系に、電流値を検出する電流計43Fを設ける。
【0032】
以上の第1〜第3モードは、後側ブレーキ操作子12R及び後側液圧モジュレータ19Rについても同様に実施される。構成、作用は前側と同一であるため、符号にRを添えて説明を省略する。
【0033】
ブレーキングシステムでは、他にコンビネーションブレーキングやABS操作が行われる。
コンビネーションブレーキングでは、前側ブレーキ操作子12Fが操作されたときには、後側ブレーキ操作子12Rの操作の有無に無関係に、前側車輪と後側車輪とに一定の比率で制動を掛ける。この制御は制御部20によって実施する。
【0034】
また、前側車輪と後側車輪の回転速度との差を検出し、この差が増大し、スリップの発生が予想されるときには、回転速度の値の小さい方の車輪のブレーキを緩めて対応する。
この操作をABS操作といい、制御部20がカム軸35Rを戻し、ピストン37Rを後退させることでABS操作を行う。
【0035】
前側において、制御部20へ次に述べる各種の情報が送られる。入力側ポテンショメータ28Fから前側ブレーキ操作子12Fの回動量(角度)θfa(添え字aは検出値を示す。)が送られ、温度センサ42Fから温度Tfaが送られ、車輪速センサ14Fから前側車輪速Vfaが送られ、電流計43Fからモータ33Fでのモータ電流Ifaが送られ、出力側ポテンショメータ38Fからカム軸35Fの回動量(角度)θcfaが送られる。
後側においても同様である。
【0036】
図3に示すように、各種の情報を取得した制御部20は、後述する制御フローを実施することで、前側モータ(図2、符号33F)や後側モータ(図2、符号33R)を制御する。
【0037】
次に、温度と制動性との関係を説明する。
作動液の温度は、走り出しの時点では、ほぼ外気温度と同じである。走行中は制動操作を行うため、ブレーキディスク及びブレーキキャリパの温度が上がり、この影響を受けてピストンシールによるピストンのロールバック(戻り)量が変化する。
【0038】
この変化に伴って、ブレーキ操作子の回動量が同一であっても、制動力が変化する。言い換えると、一定の制動力を得るには、高温になるほど、ブレーキ操作子の回動量を増す必要がある。
このことをグラフ化すると、次のようになる。
【0039】
図4に示すように、前側ブレーキ操作子の回動量(θfa)を横軸、前側カム軸の回動量(θcf)に係る目標値(θcfc)(最後の添え字cは目標値を示す。)を縦軸に取ると、温度をパラメータとして、マップ1〜マップ4を描くことができる。マップは2以上であればよく、数は任意である。
すなわち、温度が低いときには目標値は小さくともよいので例えばマップ1を選択し、温度がそれより高ければ目標値を嵩上げする必要があるので例えばマップ2を選択する。後側ブレーキ操作子についても同様。
図4に示すグラフを、マップAと呼ぶ。
【0040】
次に、モータ電流について検討する。
図2において、前側モータ33Fによりカム軸35Fの回動を実施する。カム軸35Fの回動量(角度)を変えるとピストン37Fの反力が変化する。すなわち、前側カム軸角θcfに基づいて、前側モータ33Fの負荷が変化する。この負荷はモータ電流が指標となる。この原理から、次に述べるマップBを作製することができる。
【0041】
図5に示すように、横軸に前側カム軸角(θcfa)を取り、縦軸に前側モータ電流(Ifa)を取ると、そのモータ固有の基準電流を、例えば一次曲線Istd(stdは基準を意味する添え字。)で描くことができる。この曲線Istdにプラスマイナスの余裕を見込んで許容電流値幅を定める。すなわち、曲線Istdの両側に引いた曲線I1と曲線I2との間が許容電流値となる。
【0042】
検出した前側カム軸角がθactで、検出したモータ電流がIactであったとする。横軸から直線(1)を立ち上げ、縦軸から直線(2)を引き、両直線の交点(θact,Iact)が、許容電流値幅に入っていれば正常、外れれば異常と判定することができる。
【0043】
以上に説明したマップA、マップBを用いて実施する制御フローを次に説明する。なお、ブレーキシステムの前側と後側は基本構成が同一であるため、前側を例に説明する。
図6に示すように、前側カム軸角θcfaを読込み(ST01)、前側モータ電流Ifaを読込む(ST02)。マップB(図5)により、前側モータ電流IfaがI1とI2の間にあるか否かを調べる(ST03)。否であれば警報音を鳴らし(ST04)、異常を表示してフローを終える(ST05)。
【0044】
ST03でモータが正常であることが確認されれば、前側ブレーキ操作子の回動量θfaを読込み(ST06)、前側温度Tfaを読込む(ST07)。
【0045】
T1<T2<T3の関係にある閾値温度T1〜T3は図4のマップA作製時に、実証実験などにより予め決めておく。
読込んだ前側温度TfaがT1より小さいか否かを調べ(ST08)、小さければマップA(図4)でマップ1を選択する(ST09)。
【0046】
図7は図4の抜粋図であり、読込んだθfaと選択したマップ1により、目標値θcfcが決定される(ST10)。
制御部は前側カム軸角θcfが目標値θcfcに合致するように前側モータを正転又は逆転させる(ST11)。
すなわち、制御部は、入力側ポテンショメータの検出値θfaに対応した出力側ポテンショメータの目標値θcfcを定めて(ST10)、該目標値θcfcに出力側ポテンショメータの検出値θcfaが合うようにモータを制御する(ST11)。
【0047】
ST08で否であれば、TfaがT1以上T2未満であるか否を調べ(ST12)、Yesであれば、マップAでマップ2を選択し(ST13)、ST10、ST11を実行する。
【0048】
ST12で否であれば、TfaがT2以上T3未満であるか否を調べ(ST14)、Yesであれば、マップAでマップ3を選択し(ST15)、ST10、ST11を実行する。
【0049】
ST14で否であれば、TfaがT3以上であって十分に高温であるため、警報音を発し(ST16)、マップAでマップ4を選択し(ST17)、ST10、ST11を実行する。
【0050】
以上の説明から明らかなように、温度センサで、ブレーキキャリパの温度又はこのブレーキキャリパの作動液の温度を検出し、この温度に基づいて制動力を補正させるようにした。結果、圧力センサを用いないブレーキシステムにおいても、温度の変化によってブレーキフィーリングに影響を与えにくいブレーキシステムを提供することができる。
【0051】
次に、図6に減速度を加味してなる変更例を説明する。
先に述べたように、作動液の温度は、走り出しの時点では、ほぼ外気温度と同じである。走行中は制動操作を行うため、ブレーキディスク及びブレーキキャリパの温度が上がり、この影響を受けてピストンシールによるピストンのロールバック(戻り)量が変化する。
【0052】
この変化に伴って、ブレーキ操作子の回動量が同一であっても、制動力が変化すると共に減速度も変化する。減速度が小さければ、ブレーキ操作子の回動量を増す必要がある。
このことをグラフ化すると、次のようになる。
【0053】
図8に示すように、減速度をパラメータとして、マップ5〜マップ8を描くことができる。
すなわち、減速度が大きいときには目標値は小さくともよいので例えばマップ5を選択し、減速度がそれより小さければ目標値を嵩上げする必要があるので例えばマップ6を選択する。後側ブレーキ操作子についても同様。
【0054】
図8に示すグラフを、マップCと呼ぶ。
以上に説明したマップA、マップB及びマップCを用いて実施する制御フローを次に説明する。なお、ブレーキシステムの前側と後側は基本構成が同一であるため、前側を例に説明する。
【0055】
図9に示すフローは、図6のフローと重複する部分が少なくないが、正確を期すため全ステップを説明する。
図9に示すように、前側カム軸角θcfaを読込み(ST21)、前側モータ電流Ifaを読込む(ST22)。マップB(図5)により、前側モータ電流IfaがI1とI2の間にあるか否かを調べる(ST23)。否であれば警報音を鳴らし(ST24)、異常を表示してフローを終える(ST25)。
【0056】
ST23でモータが正常であることが確認されれば、前側ブレーキ操作子の回動量θfaを読込み(ST26)、その時点での前側車輪速Vfa1を読込む(ST27)。さらに、短い時間であるt時間が経過したら再度前側車輪速Vfa2を読込む(ST28)。制御部でAf=(Vfa1−Vfa2)/tの算式により、減速度Afを演算する(ST29)。
【0057】
前側温度Tfaを読込む(ST30)。
X3<X2<X1の関係にある減速度閾値X3〜X1は図7のマップC作製時に、実証実験などにより予め決めておく。
読込んだ前側温度TfaがT1より小さいか否かを調べ(ST31)、小さければST32へ進み、減速度Afが減速度閾値X1より大きいか否かを調べる。大きければ、マップC(図7)でマップ5を選択する(ST33)。
【0058】
読込んだθfaと選択したマップ5により、目標値θcfcが決定される(ST34)。
制御部は前側カム軸角θcfが目標値θcfcに合致するように前側モータを正転又は逆転させる(ST35)。
【0059】
ST31で否であれば、TfaがT1以上T2未満であるか否を調べ(ST36)、Yesであれば、ST37へ進み、減速度Afが減速度閾値X2を超えX1以下であるか否かを調べる。Yesであれば、マップC(図7)でマップ6を選択し(ST38)、ST34、ST35を実行する。また、また、ST32が否の場合も、ST37、ST38、ST34、ST35を実行する。
【0060】
ST36で否であれば、TfaがT2以上T3未満であるか否を調べ(ST39)、Yesであれば、ST40へ進み、減速度Afが減速度閾値X3を超えX2以下であるか否かを調べる。Yesであれば、マップC(図7)でマップ7を選択し(ST41)、ST34、ST35を実行する。また、また、ST37が否の場合も、ST40、ST41、ST34、ST35を実行する。
【0061】
ST39で否であれば、TfaがT3以上であって十分に高温であるため、警報音を発し(ST42)、減速度を増す必要があるため、マップCでマップ8を選択し(ST43)、ST34、ST35を実行する。また、ST40が否の場合も、ST42、ST43、ST34、ST35を実行する。
【0062】
この例では、補正に減速度の要素を加えた。すなわち、ブレーキ操作子の回動量に対応した制動が得られないときには、所望の制動性能が得られるまで制動力を補正するようにした。結果、より好ましいブレーキフィーリングが保たれる。
そのためには、車輪速センサが必要であるが、車輪速センサはABS対応車両に常備されているものが使えるので、本発明を実施するに際し、コストアップの虞はない。
【0063】
尚、図4及び図8で説明したマップA及びCは、相関式(数式)とすることもできる。又は、テーブル化することもできる。したがって、マップA及びCはブレーキ操作子回転量θfaに基づいて目標値θcfcが定まるものであれば、形式は任意である。
【0064】
また、図6において、ST01とST02を入れ替えることは差し支えない。ST06とST07についても同様。
図9において、ST31とST32を入れ替え、ST36とST37を入れ替え、ST39とST40を入れ替えることもできる。したがって、制御フローは、本発明の目的を達成する範囲において、任意に変更することは差し支えない。
【0065】
また、本発明のブレーキシステムは、実施の形態では自動二輪車に適用したが、三輪車や四輪車など他の車両に適用することは差し支えない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、車両のブレーキシステムに好適である。
【符号の説明】
【0067】
10…自動二輪車、12F、12R…ブレーキ操作子、14F、14R…車輪速センサ、15F、15R…車輪制動手段、17F、17R…ブレーキキャリパ、19F、19R…液圧モジュレータ、20…制御部、24F、24R…常開型電磁弁、27F、27R…第1マスターシリンダ、28F、28R…入力側ポテンショメータ、31F、31R…主液圧回路、33F、33R…モータ、36F、36R…第2マスターシリンダ、38F、38R…出力側ポテンショメータ、42F、42R…温度センサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者によって操作されるブレーキ操作子(12F、12R)に連動して液圧を発生する第1マスターシリンダ(27F、27R)と、この第1マスターシリンダ(27F、27R)によって得られた液圧により制動力を発生する車輪制動手段(15F、15R)と、前記第1マスターシリンダ(27F、27R)と前記車輪制動手段(15F、15R)とを接続して前記液圧を伝達する主液圧回路(31F、31R)と、この主液圧回路(31F、31R)に設けられ前記液圧を伝達又は遮断する常開型電磁弁(24Fまたは24R)と、モータ(33F、33R)により第2マスターシリンダ(36F、36R)を押圧し前記車輪制動手段(15F、15R)を作動させ得る液圧を発生させる液圧モジュレータ(19F、19R)とを備えているブレーキシステムにおいて、
このブレーキシステムは、さらに、
前記ブレーキ操作子(12F、12R)の回動量を検出する入力側ポテンショメータ(28F、28R)と、
前記第2マスターシリンダ(36F、36R)の押圧量を検出する出力側ポテンショメータ(38F、23R)と、
前記車輪制動手段(15F、15R)のブレーキキャリパ(17F、17R)の温度又はこのブレーキキャリパ(17F、17R)の作動液の温度を検出する温度センサ(42F、42R)と、
前記入力側ポテンショメータ(28F、28R)の検出値に対応した前記出力側ポテンショメータ(38F、38R)の目標値を定めて、該目標値に前記出力側ポテンショメータ(38F、38R)の検出値が合うように前記モータ(33F、33R)を制御する制御部(20)と、を備え、
前記制御部(20)は、前記温度センサ(42F、42R)から検出される温度に応じて、前記目標値を補正することを特徴とするブレーキシステム。
【請求項2】
前記ブレーキシステムは、さらに、車輪(13F、13R)の速度を検出する車輪速センサ(14F、14R)を備え、
前記制御部(20)は、さらに、前記車輪速センサ(14F、14R)で得た第1速度情報と、一定時間後に前記車輪速センサ(14F、14R)で得た第2速度情報との差を前記一定時間で除すことにより得られる減速度を演算する機能を有し、前記温度情報に加えて前記減速度に基づいて前記目標値を補正することを特徴とする請求項1記載のブレーキシステム。
【請求項3】
前記温度のみ又は前記温度及び前記減速度をパラメータとして前記入力側ポテンショメータ(28F、28R)の検出値と前記目標値との相関を段階的に定めておき、この相関を前記制御部20に与え、前記制御部(20)は前記段階的に定めた相関を切り換えることで前記補正を実施することを特徴とする請求項1又は請求項2記載のブレーキシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−126170(P2012−126170A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277215(P2010−277215)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】