説明

プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法並びにプラズマ処理のバイアス電圧決定方法

【課題】プラズマ処理に応じて、適切なイオンエネルギー分布を形成できるプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法並びにプラズマ処理のバイアス電圧決定方法の提供。
【解決手段】載置台2が内部に配置された真空チャンバ11と、載置台2にDCパルス電圧であるバイアス電圧を印加するDCパルス電圧発生部3と、を備える。DCパルス電圧発生部3は、イオンのエネルギー値を横軸にとり、イオンの頻度を縦軸にとったイオンエネルギー分布図において、前記DCパルス電圧の振幅値に対応してピークが現れることを利用して、前記振幅値が互に異なる複数種のDCパルス電圧を発生させ、これにより前記分布図において互に隣接するピーク同士が重なり合って重なり領域を形成するイオンエネルギー分布パターンがプラズマ処理に適切なパターンとなるように調整される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に対してバイアス電圧を印加してプラズマ処理を行うプラズマ処理装置、及びプラズマ処理方法並びに前記バイアス電圧の決定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば半導体装置の製造プロセスであるプラズマ処理を行う装置として、平行平板型プラズマ装置が挙げられる。この装置は、真空チャンバ内にて平行平板間に高周波電力を印加して処理ガスを励起(プラズマ化)させるものであるが、成膜時の膜質の向上やエッチング時の垂直性を得るために載置台に負電圧のバイアスを印加し、プラズマ中の正イオンを載置台上の基板である半導体ウエハ(以下「ウエハ」という)に引き込むようにしている。
【0003】
ところで、特許文献1には、バイアス電位が周期的に変動することにより、イオンの基板入射エネルギーが周期的に変動するが、イオン質量による電位への追従遅れがあるため、イオン追従電圧はバイアス用の高周波電圧の振幅よりも小さい振幅で時間変動することが記載されている。またイオンのエネルギーを横軸にとり、イオンの頻度を縦軸にとったイオンエネルギー分布図を作成すると、図10に示すような、鋭い2つのピークを持つイオンエネルギー分布が得られることが記載されている。
【0004】
一方、成膜時における薄膜の結晶性の向上や、エッチング時における形状欠陥の向上を図るために、プラズマ処理の種別に応じて適切なイオンエネルギー分布が存在する。例えば図11に示すように、太陽電池用のシリコン膜の成膜プロセスでは15eV以下の低エネルギー帯(パターンA)、レジスト膜のエッチングでは例えば100eV以下のエネルギー帯(パターンB)、有機膜のエッチングプロセスでは例えば300eV〜400eV付近のエネルギー帯(パターンC)が夫々存在するイオンエネルギー分布を形成することが好ましいとされている。また多層膜のエッチングプロセスでは、図12に示すように、エッチング選択性を向上させるための低エネルギー帯(パターンD)と、エッチング形状を良好にするための高エネルギー帯(パターンE)とが存在するイオンエネルギー分布を形成することが好ましいとされている。
【0005】
しかしながら、これらのイオンエネルギー分布はより精密な分布形状の制御が必要であり、従来の手法ではプラズマ処理に応じて適切なイオンエネルギー分布を形成することは困難である。
【0006】
ところで、前記特許文献1では、下部電極に高周波電圧と重畳するように負DCパルス電圧を印加する技術が記載されている。この技術では、高周波電圧と負DCパルス電圧とを組み合わせることによりバイアス電位が制御されるため、イオンエネルギー分布のピーク位置を調整することができる。しかしながら、本発明者は、任意形状のイオンエネルギー分布を形成できる手法の確立を目指している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−187975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情の下になされたものであり、プラズマ処理に応じて、適切なイオンエネルギー分布を形成できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このため本発明のプラズマ処理装置は、
基板が載置される載置部が内部に配置された真空チャンバと、
この真空チャンバ内にプラズマ処理のための処理ガスを供給するガス供給部と、
前記処理ガスに電力を供給して当該処理ガスをプラズマ化するプラズマ生成部と、
前記載置部にDCパルス電圧であるバイアス電圧を印加するバイアス電源部と、を備え、
前記バイアス電源部は、
前記イオンのエネルギー値を横軸にとり、イオンの頻度を縦軸にとったイオンエネルギー分布図において、前記DCパルス電圧の振幅値に対応してピークが現れることを利用して、前記振幅値が互に異なる複数種のDCパルス電圧を発生させ、これにより前記分布図において互に隣接するピーク同士が重なり合って重なり領域を形成するイオンエネルギー分布パターンがプラズマ処理に適切なパターンとなるように、調整されていることを特徴とする。
【0010】
また本発明のプラズマ処理方法は、
基板を真空チャンバ内に載置部に載置する工程と、
この真空チャンバ内にプラズマ処理のための処理ガスを供給する工程と、
前記処理ガスに電力を供給して当該処理ガスをプラズマ化する工程と、
前記載置部にDCパルス電圧であるバイアス電圧を印加する工程と、を含み、
このバイアス電圧を印加する工程は、
前記イオンのエネルギー値を横軸にとり、イオンの頻度を縦軸にとったイオンエネルギー分布図において、前記DCパルス電圧の振幅値に対応してピークが現れることを利用して、前記振幅値が互に異なる複数種のDCパルス電圧を発生させ、これにより前記分布図において互に隣接するピーク同士が重なり合って重なり領域を形成するイオンエネルギー分布パターンがプラズマ処理に適切なパターンとなるように、前記バイアス電圧を印加する工程であることを特徴とする。
【0011】
さらに、本発明のプラズマ処理のバイアス電圧決定方法は、真空チャンバ内の載置部に基板を載置した状態で、当該真空チャンバ内に供給された処理ガスに電力を供給して当該処理ガスをプラズマ化してプラズマを生成すると共に、前記載置部に載置された基板にプラズマ中のイオンを引き込むために当該基板にDCパルス電圧であるバイアス電圧をバイアス電源部により印加しながら基板に対してプラズマ処理を行い、
前記バイアス電源部は、
前記イオンのエネルギー値を横軸にとり、イオンの頻度を縦軸にとったイオンエネルギー分布図において、前記DCパルス電圧の振幅値に対応してピークが現れることを利用して、前記振幅値が互に異なる複数種のDCパルス電圧を発生させ、これにより前記分布図において互に隣接するピーク同士が重なり合って重なり領域を形成するイオンエネルギー分布パターンを形成するように調整され、
前記バイアス電圧の印加パターンを種々設定して、各設定毎に前記プラズマ処理を行い、各プラズマ処理を行った後の基板のプラズマ処理結果に基づいて、良好なプラズマ処理が得られるバイアス電圧の印加パターンを求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バイアス電源部において、振幅値が互に異なる複数のDCパルス電圧を発生させるかあるいは1つのDCパルス電圧において段階的に振幅値を変えているので、イオンエネルギー分布図において互に隣接するピーク同士が重なり合って重なり領域が形成されるイオンエネルギー分布パターンを、プラズマ処理に適した形状に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るプラズマ処理装置の実施の形態を示す断面図である。
【図2】イオンエネルギー分布の一例を示す特性図である。
【図3】イオンエネルギー分布の一例を示す特性図である。
【図4】イオンエネルギー分布の一例を示す特性図である。
【図5】イオンエネルギー分布の一例を示す特性図である。
【図6】イオンエネルギー分布の一例を示す特性図である。
【図7】本発明に係るバイアス電圧決定方法で用いられる実験装置の実施の形態を示す断面図である。
【図8】本発明に係るバイアス電圧決定方法の第1の工程を示すフローチャートである。
【図9】本発明に係るバイアス電圧決定方法の第2の工程を示すフローチャートである。
【図10】従来のイオンエネルギー分布の一例を示す特性図である。
【図11】イオンエネルギー分布の一例を示す特性図である。
【図12】イオンエネルギー分布の一例を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明のプラズマ処理装置の実施の形態であるプラズマエッチング装置1の構成について、図1を参照しながら説明する。図1中11は、円筒状の真空チャンバであり、その内側表面は、例えばアルマイトコーティングされることにより絶縁されている。また真空チャンバ11の底面に設けられた排気口12には、真空ポンプ及び圧力調整部を含む排気装置13が排気路14を介して接続されており、後述する制御部100からの制御信号に基づいて真空チャンバ11内を真空排気し、所定の真空度に維持するように構成されている。図1中15は搬入口、16は搬入口を開閉するゲートバルブである。
【0015】
この真空チャンバ11内の底面中央には、基板例えばウエハWを載置するための載置台2が設けられており、この載置台2は例えば平面形状が円形に構成されている。また、載置台2の内部には下部電極21が埋設されており、この下部電極21にはDCパルス発生部3が接続されている。このDCパルス発生部3は、載置部2に例えば1MHzの負のDCパルス電圧であるバイアス電圧を印加するバイアス電源部に相当する。
【0016】
このDCパルス発生部3は、例えばパルス発振器と、パルス増幅器と、ローパスフィルタとを備えており、DCパルス電圧の振幅値やパルス幅を連続的に変化させることができるように構成されている。当該実施の形態では、例えば図2(a)に示すように、振幅値が互に異なりかつ段階的に大きくなる複数種例えば4つの矩形パルス電圧波形を周期単位とする波形パターンが設定される。図中22は、プラズマをウエハWに集束させるためのフォーカスリングである。
【0017】
また、真空チャンバ11内の上方側には、載置台2と対向するようにガスシャワーヘッド4が設けられている。このガスシャワーヘッド4は、真空チャンバ11内にプラズマ処理のための処理ガスを供給するガス供給部をなすものである。この例ではガスシャワーヘッド4は、平面形状が円形であり、例えば石英などのセラミックスにより構成されている。ガスシャワーヘッド4は内部に処理ガスが供給される空間41を備えるように構成されると共に、その下面には真空チャンバ11内へガスを分散供給するための多数のガス供給孔42が、空間41に連通するように形成されている。前記ガスシャワーヘッド4の上面中央にはガス導入路43が設けられ、このガス導入路43の他端側はバルブV1や流量制御部44等を備えたガス供給系45介して処理ガスの供給源46に接続されている。数種類の処理ガスが供給される場合には、当該ガスシャワーヘッド4には図示しない別の導入路が接続される。図中47は絶縁体からなるカバー体である。
【0018】
また、ガスシャワーヘッド4には高周波電源部5が接続されている。この高周波電源部5はプラズマ発生用の高周波電力を供給するものであり、例えば100MHzの高周波を印加するように構成されている。この例では、高周波電源部5が、処理ガスに電力を供給して当該処理ガスをプラズマ化するプラズマ生成部に相当する。
【0019】
このプラズマエッチング装置には、例えばコンピュータからなる制御部100が設けられている。この制御部100は、プログラム、メモリ、CPUからなるデータ処理部を備えており、前記プログラムには制御部100からプラズマエッチング装置の各部、例えば高周波電源部5、DCパルス発生部3、排気装置13、ガス供給系45等に制御信号を送り、後述の各ステップを進行させることで、ウエハWに対する所定のプラズマ処理、例えばエッチング処理が実施されるように命令(各ステップ)が組み込まれている。このプログラムは、コンピュータ記憶媒体例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、MO(光磁気ディスク)等の記憶部に格納されて制御部100にインストールされる
続いて、このプラズマエッチング装置1にて実施されるプラズマエッチング方法について説明する。先ずゲートバルブ16を開いて図示しない搬送機構により真空チャンバ11内にウエハWを搬入して載置台2上に載置し、搬送機構が退出した後、ゲートバルブ16を閉じる。
【0020】
そして、排気装置13により排気路14を介して真空チャンバ11内の排気を行い、真空チャンバ11内を所定の圧力に維持する共に、真空チャンバ11内にガスシャワーヘッド4から処理ガスであるエッチングガスを導入する。一方、高周波電源部5及びDCパルス発生部3が例えば同時にオンになる。こうして下部電極21に、例えば1MHzの負のDCパルス電圧が印加されると共に、高周波電源部5から例えば100MHzのプラズマ発生用の高周波電圧が印加される。
【0021】
このように高周波電圧が印加されると高周波エネルギーが発生し、これにより前記処理ガス例えばCFガスが活性化されて、ガスシャワーヘッド4の下方側にてプラズマが形成される。ここで、真空チャンバ11の下方で排気が行われることにより、前記プラズマが下降し、プラズマを構成する各種イオンは、下部電極21に印加されるバイアス電圧によりウエハWに引き込まれ、異方性エッチングが行われる。
【0022】
ここで、プラズマのイオンエネルギー分布について説明する。このイオンエネルギー分布とは、プラズマ中のイオンのエネルギー値を横軸にとり、イオンの頻度を縦軸にとった特性図である。先ずプラズマ発生用の高周波電源部5からは100MHzの高周波を印加しているので、この高周波印加に基づくイオンエネルギー分布を求めると、図2(b)中一点鎖線にて示すように、イオンエネルギーの領域は、例えば15eV以下における帯状の領域が得られる。
【0023】
一方、下部電極21には、DCパルス発生部3から1MHzの負のDCパルス電圧を印加しているので、これにより得られるイオンエネルギーは、プラズマ発生用の高周波に起因するイオンエネルギーよりも大きい。
【0024】
ここで、この実施の形態に係るプラズマ処理装置では、バイアス電圧の印加に関して工夫することにより、目的とするプラズマ処理に適したイオンエネルギー分布が得られるように構成されている。例えばレジスト膜のエッチングを行う場合には、既述の図11のパターンBのイオンエネルギー分布が得られるようにバイアス電圧が設定されている。
【0025】
この設定に関して以下に詳述する。下部電極21に、負のDCパルス電圧を印加すると、DCパルス電圧の振幅値に対応したピークを有するイオンエネルギー分布が形成される。例えば図4(a)のように、振幅値が負電圧−Va及び負電圧−Vbであるパルスを下部電極21に交互に印加すると、図4(b)に示すように、負電圧−Vaに起因するピークPaと、負電圧−Vbに起因するピークPbとを備えたイオンエネルギー分布が形成される。
【0026】
また図2(a)のように、振幅値が互に異なりかつ段階的に大きくなる4つのパルス電圧波形を周期単位とする波形パターンを設定すると、図2(b)に示すように、4つのバイアス電圧に基づくピークが互に重なるようなイオンエネルギー分布が形成される。この際、振幅値が互に異なりかつ段階的に変化するパルス電圧波形を周期単位とする波形パターンには、図3(a)や図3(b)に示すパターンも含まれる。
【0027】
従って、各パルスの振幅値を調整することにより、バイアス電圧に起因するイオンエネルギーのピーク位置を調整することができる。そして前記1周期に含まれるパルスの数と各パルスの振幅値とを調整すれば、イオンエネルギー分布図において互に隣接するピーク同士が重なり合って重なり領域が形成され、結果として目的とするイオンエネルギーの帯域を有するイオンエネルギー分布が得られる。
【0028】
目的とするイオンエネルギー分布とは、プラズマ処理に適したイオンエネルギー分布であり、プラズマ処理に適したとは、例えばエッチングプロセスであれば、凹部の壁部の垂直性が良好であることであり、成膜プロセスであれば、膜質が良い薄膜、例えば太陽電池用のシリコン膜であれば、欠陥密度が低い薄膜が作れることである。プラズマ処理に適したイオンエネルギー分布の設定については、実際のプロセスを行う装置を用いて、バイアス電圧であるパルス電圧の発生の仕方を種々変えてプロセスを行い、そのプロセス結果を評価して決定してもよいが、後述するように実験機を用いて同様にして決定してもよい。
【0029】
こうして、適切なイオンエネルギー分布を有するプラズマによりプラズマ処理この例ではエッチング処理を行った後、高周波電源部5及びDCパルス発生部3をオフすると共に、処理ガスの供給を停止し、真空チャンバ内11に残留したガスを排気する。そして、ゲートバルブ16を開いて、前記搬送機構によりウエハWを真空チャンバ11から搬出する。
【0030】
上述の実施の形態によれば、DCパルス発生部3により、振幅値が互に異なる複数種のDCパルス電圧であるバイアス電圧を発生されているので、バイアス電圧に基づくイオンエネルギー分布において、互に隣接するピーク同士が重なり合った重なり領域が形成される。このためDCパルス発生部であるバイアス電源部3を調整することにより、つまりDCパルスの印加パターンを調整することにより、イオンエネルギーの大きさが帯状に広がり、プラズマ処理に応じた適切なイオンエネルギー分布パターンを形成することができる。
【0031】
さらに、上述実施の形態では、プラズマ発生用の高周波印加により、イオンエネルギー分布において、バイアス電圧では形成できない低エネルギー帯に重なり領域を形成することができる。従って図5(a)に一点鎖線で示すプラズマ発生用の高周波に起因するピークP1と、同図に点線で示すバイアス電圧に基づくピークP2とが形成される場合、これらのピークP1、P2の間のエネルギー帯を埋めるように、バイアス電圧に因る多数のピークを重ねることにより、図5(b)に示すように、低エネルギー帯に帯状の重なり領域を形成することができる。
【0032】
このように、バイアス電源部を調整することにより、100eV以下に重なり領域を形成することができるので、レジスト膜のエッチング処理に適したイオンエネルギー分布を形成できる。このため、エッチング選択性が高く、エッチング形状が良好なレジスト膜のエッチング処理を行うことができる。
【0033】
また、例えば300eV〜400eV付近に重なり領域を有するイオンエネルギー分布を形成した場合には、有機膜のエッチングを良好に行うことができる。さらに、低エネルギー帯と高エネルギー帯に重なり領域を有するイオンエネルギー分布も形成することができ、この場合は多層膜のエッチングを良好に行うことができる。
【0034】
さらにまた、上述のプラズマ処理装置を用いてプラズマ成膜処理を行うこともでき、例えば処理ガスとしてSiHガスとHガスとを用いて、太陽電池用のシリコン膜を形成する場合には、15eV以下の低エネルギー帯に重なり領域を有するイオンエネルギー分布を形成することにより、欠陥密度が低いシリコン膜を成膜することができる。
【0035】
続いて、本発明の他の実施の形態について図6を用いて説明する。この例は、負のDCパルス電圧は、1つのパルス電圧が段階的に振幅値が変化するように生成され、前記バイアス電圧を印加する工程では、前記振幅値が互に異なる複数のパルス電圧を印加する代わりに、1つのパルス電圧において振幅値が段階的に変わるパルス電圧を印加するものである。ここで1つのパルス電圧が段階的に振幅値が変化するように生成されるとは、例えば図6(a)に示すような波形パターンであり、この場合であっても、イオンエネルギー分布において、各振幅値に起因するピークが重なりあって重なり領域が形成される。
【0036】
また互に振幅値が異なる複数種のパルス電圧を発生させる場合には、図6(b)に示すように、例えば同じ振幅値の2個のパルスが1組となって、互に振幅値の異なる組のパルスを用いてもよい。
【0037】
本発明は、以上のようにバイアス電源部から互に振幅値が異なる複数種のパルス電圧を発生させるかあるいは1つのパルス電圧が段階的に振幅値が変化するようにパルス電圧を発生させるものであるが、複数種のパルスの種別の数は、イオンエネルギー分布において目的とするイオンエネルギーの帯域の広さによって決定される。
【0038】
続いて、本発明のプラズマ処理のバイアス電圧決定方法の一実施の形態について説明する。この方法は、実験機を用いて、プラズマ処理に適したイオンエネルギー分布の理想パターンと、このイオンエネルギー分布を得るためのDCパルス電圧波形の理想パターンを取得する第1の工程と、実際に基板に対してプラズマ処理を行うプラズマ処理装置を用いて、前記イオンエネルギー分布の理想パターンを得るためのDCパルス電圧印加パターンの微調整を行う第2の工程と、を備えている。なお当該実施の形態では、プラズマ処理として成膜処理を行なう場合を例にして説明する。
【0039】
先ず、第1の工程にて用いられる実験機6について、図7を参照して説明する。図7中61は、基板であるウエハWの真空チャンバであり、その内側表面は、例えばアルマイトコーティングされることにより絶縁されている。この真空チャンバ61は、円筒形状に構成され、底部にはウエハWの載置部62が着脱自在に設けられている。載置部62にはDCパルス発生部3が接続されており、このDCパルス発生部3は、上述の図1に示すものと同様に構成されている。
【0040】
この真空チャンバ61内の上方側にはウエハWと対向するようにプラズマ発生用の平面アンテナ63が設けられ、ここに2.45GHzのマイクロ波が印加されるように構成されている。さらに、真空チャンバ61の上部側には処理ガス供給路64を介して処理ガス源65が接続されると共に、真空チャンバ61の下部側には排気路66を介して真空排気手段67が接続されている。さらに真空チャンバ61にはイオンエネルギー測定手段7が設けられている。このイオンエネルギー測定手段7としては、例えばエネルギー選択機構付きの四重極型質量分析器を用いることができる。
【0041】
前記第1の工程について、プラズマ処理としてエッチング処理を行う場合を例にして、図8を参照しながら説明する。先ずDCパルス発生部3にて、振幅値が互に異なる複数種のパルス電圧を発生させるように、DCパルス電圧の印加パターンを設定する(ステップS1)。そして、成膜対象となるウエハWを載置部62に載置し、当該載置部62を真空チャンバ61内の底部に取り付ける。
【0042】
そして、真空排気手段67により排気を行い、真空チャンバ61内を所定の圧力に維持する共に、処理ガスである成膜ガス例えばSiHとHガスを導入する。一方、高周波電源部5及びDCパルス発生部3を例えば同時にオンにして、ウエハWに1MHzの負のDCパルス電圧を印加すると共に、例えば2.45GHzのプラズマ発生用のマイクロ波を平面アンテナ63に印加する。こうして処理ガスに電力を供給して、当該処理ガスをプラズマ化し、所定のシリコン膜の成膜処理(プラズマ処理)を行う(ステップS2)。
【0043】
一方、成膜処理と並行して、イオンエネルギー測定手段7により、イオンエネルギー分布パターンを取得する(ステップS3)。次いで、成膜処理されたウエハWについて、成膜処理の特性が良好であるか否か評価する(ステップS4)。この例では、シリコン膜の膜質について欠陥密度を評価することにより行われる。そしてプラズマ処理の特性が良好である場合には、DCパルス発生部3にて設定したDCパルス電圧の印加パターンを理想パターンとして取得すると共に、このときのイオンエネルギー分布パターンを理想パターンとして取得する(ステップS6)。一方、プラズマ処理の特性が良好ではない場合には、ステップS1に戻ってDCパルス電圧の印加パターンを再度設定し、以降の工程を繰り返して実行する。
【0044】
また、プラズマ処理がエッチング処理である場合では、実験装置において、処理ガスとしてエッチングガスを導入し、実際にウエハWに対してエッチング処理を行った後、プラズマ処理の特性が良好であるか否かは、例えばエッチングレートや、形状欠陥等について評価する。
【0045】
続いて第2の工程について説明する。第2の工程を実施する装置は、実際に基板に対してプラズマ処理を行うプラズマ処理装置にイオンエネルギー測定手段を設けたものである。
【0046】
当該第2の工程について、プラズマ処理として成膜処理を行う場合を例にして、図9を参照しながら説明する。先ずDCパルス発生部3において、第1の工程にて得られたDCパルス電圧の波形パターンの理想パターンを設定する(ステップS11)。次いで、成膜対象となるウエハWを真空チャンバ11内の載置台2上に載置する。
【0047】
そして、真空排気手段67により排気を行い、真空チャンバ11内を所定の圧力に維持する共に、ガスシャワーヘッド4から処理ガスである成膜ガス例えばSiHガス、Hガスを導入する。一方、高周波電源部5及びDCパルス発生部3を例えば同時にオンにして、下部電極21に例えば1MHzの負のDCパルス電圧を印加すると共に、高周波電源部5に例えば100MHzのプラズマ発生用の高周波電圧を印加する。こうして処理ガスに電力を供給して、当該処理ガスをプラズマ化し、シリコン膜の成膜処理(プラズマ処理)を行う(ステップS12)。
【0048】
一方、成膜処理と並行して、イオンエネルギー測定手段により、イオンエネルギー分布パターンを取得する(ステップS13)。このイオンエネルギー分布パターンの取得は、第1の工程と同様である。次いで、取得されたイオンエネルギー分布パターンが、イオンエネルギー分布の理想パターンと合っているか評価する(ステップS14)。このパターンが合っているか否かについては、例えばイオンエネルギーの重なり領域同士が合っているか否かによって判断され、例えば理想パターンの重なり領域と一致している場合の他、重なり領域の位置のずれが多少生じている場合も含まれる。
【0049】
そして、パターンが合っている場合には、DCパルス発生部3にて設定したDCパルス電圧の印加パターンを決定値として取得する(ステップS15)一方、パターンが合っていない場合には、ステップS11に戻って、DCパルス電圧の波形パターンを微調整し、以降の工程を繰り返して実行する。
【0050】
このようなプラズマ処理のバイアス電圧決定方法によれば、実験装置では、ウエハWに直接DCパルス発生部3が接続されており、DCパルス発生部3とウエハWとの間にマッチングボックスやインピーダンス素子が存在しないため、ウエハWに対して直接矩形波を印加することができる。このため印加したDCパルス電圧に対応するイオンエネルギー分布を得ることができ、イオンエネルギー分布の理想パターンを確保するときのDCパルス電圧の調整が容易になる。
【0051】
一方、実際のプラズマ処理装置では、図示はしていないが、既述のようにDCパルス発生部3とウエハWとの間にマッチングボックスやインピーダンス素子が存在するため、DCパルス電圧の波形パターンにおいて必ずしも矩形波が得られているとは限らない。しかしながらイオンエネルギー分布の理想パターンを得るための、DCパルス電圧の印加パターンの理想パターンは概ね妥当な範囲であり、この理想パターンから大きく外れることはないため、当該印加パターンは微調整で済み、このバイアス電圧の決定を容易に行うことができる。また、イオンエネルギー分布の理想パターンに合うようにDCパルス電圧の印加パターンを調整すればよく、上述のようにプラズマ処理装置を構成すればDCパルス電圧の調整と同時にイオンエネルギー分布を取得できるので、他の装置にて結晶性やエッチング形状を検査する場合に比べて、容易にDCパルス電圧の印加パターンを決定することができる。
【0052】
また本発明のプラズマ処理装置において、処理ガスをプラズマ化するための高周波電力を供給する高周波電源部は、上部電極と下部電極とを有する通常の平行平板型のプラズマ処理装置において、これら電極間に処理ガスをプラズマ化するための高周波電力を供給するものであってもよいし、マイクロ波アンテナから高周波電源部を放射するものや誘導加熱によりプラズマを生成するものであってもよい。また平行平板型のプラズマ処理装置においては、下部電極を兼用する載置台に処理ガスをプラズマ化するための高周波電力と、DCパルス電圧であるバイアス電圧を印加するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0053】
W 半導体ウエハ
11 真空チャンバ
2 載置台
3 DCパルス発生部
C 受け渡し手段
4 ガスシャワーヘッド
5 高周波電源部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板が載置される載置部が内部に配置された真空チャンバと、
この真空チャンバ内にプラズマ処理のための処理ガスを供給するガス供給部と、
前記処理ガスに電力を供給して当該処理ガスをプラズマ化するプラズマ生成部と、
前記載置部にDCパルス電圧であるバイアス電圧を印加するバイアス電源部と、を備え、
前記バイアス電源部は、
前記イオンのエネルギー値を横軸にとり、イオンの頻度を縦軸にとったイオンエネルギー分布図において、前記DCパルス電圧の振幅値に対応してピークが現れることを利用して、前記振幅値が互に異なる複数種のDCパルス電圧を発生させ、これにより前記分布図において互に隣接するピーク同士が重なり合って重なり領域を形成するイオンエネルギー分布パターンがプラズマ処理に適切なパターンとなるように調整されていることを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記DCパルス電圧は矩形波であることを特徴とする請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記DCパルス電圧は、1つのDCパルス電圧が段階的に振幅値が変化するように生成され、
前記バイアス電源部は、前記イオンエネルギー分布図において互に隣接するピーク同士を重なり合わせてイオンエネルギー分布パターンをプラズマ処理に適切なパターンとするためには、前記振幅値が互に異なる複数のDCパルス電圧を発生させる代わりに、1つのDCパルス電圧における段階的に変わる振幅値が調整されていることを特徴とする請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記プラズマ生成部は、これら電極間に処理ガスをプラズマ化するための高周波電力を供給する高周波電源部を備え、
イオンエネルギー分布図において、この高周波電源部の高周波電力に対応するピークが、前記バイアス電圧に基づいて形成される前記重なり領域と重なり合って更なる重なり領域が形成され、プラズマ処理に適切なイオンエネルギー分布パターンとなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
基板を真空チャンバ内に載置部に載置する工程と、
この真空チャンバ内にプラズマ処理のための処理ガスを供給する工程と、
前記処理ガスに電力を供給して当該処理ガスをプラズマ化する工程と、
前記載置部にDCパルス電圧であるバイアス電圧を印加する工程と、を含み、
このバイアス電圧を印加する工程は、
前記イオンのエネルギー値を横軸にとり、イオンの頻度を縦軸にとったイオンエネルギー分布図において、前記DCパルス電圧の振幅値に対応してピークが現れることを利用して、前記振幅値が互に異なる複数種のDCパルス電圧を発生させ、これにより前記分布図において互に隣接するピーク同士が重なり合って重なり領域を形成するイオンエネルギー分布パターンがプラズマ処理に適切なパターンとなるように、前記バイアス電圧を印加する工程であることを特徴とするプラズマ処理方法。
【請求項6】
前記DCパルス電圧は、矩形波であることを特徴とする請求項5記載のプラズマ処理方法。
【請求項7】
前記DCパルス電圧は、1つのDCパルス電圧が段階的に振幅値が変化するように生成され、
前記バイアス電圧を印加する工程は、前記イオンエネルギー分布図において互に隣接するピーク同士を重なり合わせてイオンエネルギー分布パターンをプラズマ処理に適切なパターンとするためには、前記振幅値が互に異なる複数のDCパルス電圧を印加する代わりに、1つのDCパルス電圧において振幅値が段階的に変わるDCパルス電圧を印加することを特徴とする請求項5記載のプラズマ処理方法。
【請求項8】
前記処理ガスをプラズマ化する工程は、前記処理ガスをプラズマ化するために高周波電源部から高周波電力を供給することにより行われ、
イオンエネルギー分布図において、この高周波電源部の高周波電力に対応するピークが、前記バイアス電圧に基づいて形成される前記重なり領域と重なり合って更なる重なり領域が形成され、プラズマ処理に適切なイオンエネルギー分布パターンとなるように、前記高周波電力を印加することを特徴とする請求項5ないし請求項7のいずれか一項に記載のプラズマ処理方法。
【請求項9】
真空チャンバ内の載置部に基板を載置した状態で、当該真空チャンバ内に供給された処理ガスに電力を供給して当該処理ガスをプラズマ化してプラズマを生成すると共に、前記載置部にDCパルス電圧であるバイアス電圧をバイアス電源部により印加しながら基板に対してプラズマ処理を行い、
前記バイアス電源部は、
前記イオンのエネルギー値を横軸にとり、イオンの頻度を縦軸にとったイオンエネルギー分布図において、前記DCパルス電圧の振幅値に対応してピークが現れることを利用して、前記振幅値が互に異なる複数種のDCパルス電圧を発生させ、これにより前記分布図において互に隣接するピーク同士が重なり合って重なり領域を形成するイオンエネルギー分布パターンを形成するように調整され、
前記バイアス電圧の印加パターンを種々設定して、各設定毎に前記プラズマ処理を行い、各プラズマ処理を行った後の基板のプラズマ処理結果に基づいて、良好なプラズマ処理が得られるバイアス電圧の印加パターンを求めることを特徴とするプラズマ処理のバイアス電圧決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−104382(P2012−104382A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252109(P2010−252109)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】