説明

プラズマ処理装置

【課題】プラズマ中に浮遊するダストが基体に付着して形成される構造欠陥を低減し、プラズマ処理による製造物の歩留まりの向上を図ること。
【解決手段】少なくとも一部が誘電体で形成された減圧可能な反応容器と、反応容器内に円筒状基体を設置する複数の基体支持体と、円筒状基体を加熱する基体加熱手段と、反応容器内にガスを供給するガス供給手段と、反応容器内を排気する排気手段と、反応容器の外側に設置された複数の高周波電極によって反応容器内に供給したガスのプラズマを生成するための高周波電力供給手段を備えたプラズマ処理装置において、反応容器の底面に前記排気手段を接続する排気口を設け、少なくとも排気口の周囲を冷却する冷却手段を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、電子写真用感光体、画像入力用ラインセンサー、撮影デバイス、光起電力デバイス等を作製するプラズマ処理装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体デバイス、電子写真用感光体、画像入力用ラインセンサー、撮影デバイス、光起電力デバイス等を作製する真空処理方法として、プラズマCVD法、反応性スパッタ法、熱CVD法、光CVD法等の処理方法が知られており、多くの装置・方法が実用化されている。
【0003】
例えば、プラズマCVD法を用いたプラズマ処理装置を用いることによって、原料ガスをグロー放電中で分解し、基体上に堆積膜を形成することができる。例えば、原料ガスにSiH4を用いることで水素化アモルファスシリコン(a- Si:Hとも表記する)堆積膜を形成することが可能である。
【0004】
堆積膜を形成する装置における歩留まり損失の多くは堆積膜の膜質低下及び膜質の不均一性が原因のものと、構造欠陥の発生が原因のものがある。特に、堆積膜の構造欠陥は各工程中に基体にダストが付着することが原因である。例えば、基体投入工程の反応炉内のクリーン度や、処理中に発生する新たなダストの影響が挙げられる。処理中に発生する新たなダストとは、例えば、基体以外の反応炉内部品にも堆積膜形成時には堆積膜が形成され、こうした堆積膜が処理中に剥れることによって発生する膜片や、プラズマ処理中に気相反応で生成される微粒子等が考えられる。例えば、電子写真用感光体を形成する場合、このようなダストの影響で構造欠陥が発生すると、電子写真プロセスで形成する画像上にも画像欠陥として現れるため、歩留まりが低下する。
【0005】
このようなプラズマ処理前および処理中に反応容器内に存在するダストを低減するために熱泳動現象を利用したダスト低減装置およびダスト低減方法が提案されている。
【0006】
例えば、化学気相成長装置において、反応室内壁を反応ガスの温度以上、ウエハを保持、加熱するステージの温度以下に加熱保持し、反応室内壁とステージの間の半導体ウエハを取り囲む位置に反応室内壁温度以下に保持されるリングを設け、反応室内で反応ガスの気相反応により生じる反応生成物をそのリングに熱泳動によって付着させる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
【特許文献1】特開平3−82020号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記装置によって、気相反応により生じる反応生成物の半導体ウエハへの影響を低減することができる。
【0009】
しかしながら、反応容器内に複数の基体を設置して処理する構成のプラズマ処理装置の場合、単に反応容器内に冷却部を設けるだけでは基体への微粒子の影響を効率的に低減することが難しい場合があった。プラズマ中の微粒子は、静電気力、重力、熱泳動力等を受けるため、重力によって微粒子は反応容器の重力方向下向きに力を受ける。
【0010】
又、静電気力の影響によってプラズマシースに捕獲され易く、反応容器の底面上に浮遊した状態になる。このように反応容器中にダストが浮遊している条件で処理を行うと少なからずその影響を受けてしまう。例えば、電子写真用感光体のように積層構造の堆積膜を形成する場合、処理条件を変化させた時等に浮遊した微粒子が基体に付着し易い条件となって、構造欠陥を発生させてしまう場合があった。
【0011】
電子写真装置に対する市場の要求レベルは日々高まっており、印刷並の高画質を実現していくためには、これまで問題とならなかったレベルの微小な球状突起に起因する画像欠陥を低減していく必要があり、それらを実現させるためには、従来に比べてプラズマ処理装置の構成を改善する必要が出てきた。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、基体へのダストの付着を抑制することができ、構造欠陥の発生を低減し、歩留まりの向上を図ることができるプラズマ処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、反応容器内に複数の基体を設置して処理するプラズマ処理装置において、反応容器底面の構成によって、プラズマ処理中に微粒子が基体に付着することを抑制し、被処理体の構造欠陥の発生を低減できることを見出した。
【0014】
即ち、少なくとも一部が誘電体で形成された減圧可能な反応容器と、反応容器内に円筒状基体を設置する複数の基体支持体と、円筒状基体を加熱する基体加熱手段と、反応容器内にガスを供給するガス供給手段と、反応容器内を排気する排気手段と、反応容器の外側に設置された複数の高周波電極によって反応容器内に供給したガスのプラズマを生成するための高周波電力供給手段を備えたプラズマ処理装置において、反応容器の底面に排気手段を接続する排気口を設け、少なくとも排気口の周囲を冷却する冷却手段を設ける。
【0015】
上記構成のように、底板に冷却機構を設けることによって、プラズマ処理中に反応容器底板上に浮遊するダストに重力に加えて、重力方向下向きの熱泳動力を加え、ダストが基体からより離れる方向に移動させ、更に、少なくとも排気口の周囲に冷却手段を設けることによって、冷却手段によって吸い寄せたダストを排気口から反応容器外に排出し、基体へのダストの付着を抑制する。
【0016】
又、本発明の構成では、プラズマ処理時の基体及び基体支持体を加熱しながら処理する場合が多く、基体及び基体支持体の温度は反応容器の壁面よりも高い状態になる場合が多い。その結果、複数の基体支持体の配置円よりも内側に浮遊するダストには反応容器の側面方向、即ち反応容器の中央部から外部方向へ熱泳動力が加わり易い。従って、底板に設ける排気口を基体配置円の内側に設け、少なくともその排気口の周囲を冷却することによって、複数の基体支持体の配置円よりも内側に浮遊するダストが反応容器の側面方向に移動しにくくすることができ、その結果、よりダストが基体に付着しにくい構成とすることができる。
【0017】
更に、排気口周囲の冷却機構の温度を基体、基体支持体、反応容器壁面の温度以下に冷やすとより顕著な効果が得られる。
【0018】
又、底板の表面温度のうち、基体支持体配置円部が最も温度が高くなるように底面部に温度勾配とすることによってその顕著な効果が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、少なくとも一部が誘電体で形成された減圧可能な反応容器と、反応容器内に円筒状基体を設置する複数の基体支持体と、円筒状基体を加熱する基体加熱手段と、反応容器内にガスを供給するガス供給手段と、反応容器内を排気する排気手段と、反応容器の外側に設置された複数の高周波電極によって反応容器内に供給したガスのプラズマを生成するための高周波電力供給手段を備えたプラズマ処理装置において、反応容器の底面に前記排気手段を接続する排気口を設け、少なくとも排気口の周囲を冷却する冷却手段を設けることによって、プラズマ処理中に反応容器内に浮遊するダストに重力下向きの熱泳動力を加え、ダストが基体から離れる方向に移動させ、更に、その冷却部を少なくとも排気口の周囲とすることによって反応容器外にダストを排出し、基体へのダストの付着を抑制することができ、構造欠陥の発生を低減し、歩留まりを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のプラズマ処理装置の一例として、a−Si:H系電子写真用感光体形成装置を以下に説明する。
【0021】
図1は、同時に6本のa−Si:H系感光体を形成できるプラズマ処理装置の縦断面図、図2は図1のプラズマ処理装置のA−B横断面図、図3は図1のプラズマ処理装置の反応容器底面部分を示す図である。
【0022】
図1の装置は、大まかには、プラズマ処理装置100、ガス供給システム102、高周波電源103、真空ポンプ104から構成されている。
【0023】
プラズマ処理装置100は、減圧可能な反応容器101、反応容器101内同一円周上等間隔に設置された基体支持体106、駆動装置114の駆動力を伝達し基体支持体106を自転させる回転軸シャフト107、反応容器101に加熱ガスや原料ガスを導入するガス供給手段となるガス管109、反応容器101内を減圧するために真空ポンプ104を接続するための排気配管118および排気口119、反応容器101内へ導入した原料ガスのプラズマを生成のための高周波電力を印加する高周波電極112、高周波電極112から放出される電磁波がプラズマ処理装置外に漏れないように遮蔽するシールド容器108等から構成されている。
【0024】
本発明の装置の特徴として、排気口119周囲に冷却手段121が設けられ、反応容器101の底面及びプラズマ漏れ防止体120を冷却する構成になっている。尚、図1の装置では、排気口119は、6本の基体105が配置される配置円の内側に設置されている。
【0025】
冷却手段121の冷却方法は特に所望の温度に冷却できれば制限はなく、その方法として空冷、水冷、その他の冷媒を用いた冷却手段、或はペルティエ効果を用いた冷却手段等が考えられる。図1の装置では水冷機構を採用している。又、冷却手段121には熱伝導性の高い材質を用いることが好ましい。特に制限はないが、加工性、耐久性、コストの面からアルミニウム合金、真鍮或は銅が好適な材料として挙げられる。
【0026】
又、図には示していないが、冷却手段121に直接堆積膜が付着しないように、防着部材を設置する構造とすることも挙げられる。防着部材にも熱伝導性の高い材質を用いることが好ましく、特に制限はないが、加工性、耐久性、コストの面からアルミニウム合金、真鍮或は銅が好適な材料として挙げられる。
【0027】
又、防着部材に付着した堆積膜が処理中に剥がれないように、防着部材表面と堆積膜の密着性を向上することが好ましい。具体的には、防着部材の堆積膜が付着する面をJIS B0601(1994)に準じて測定される十点平均粗さRz(JIS)が10nm以上100nm以下の範囲とすることが好ましい。十点平均粗さRz(JIS)を上記の範囲にする方法として、ブラスト処理、或はプラズマ溶射処理などが好適な方法として挙げられる。尚、プラズマ溶射処理を施す場合の溶射材料は処理に悪影響を与えない材料であれば特に制限はないが、プラズマ溶射処理後の表面性やコスト、耐久性の面からアルミニウム、ニッケル、ステンレスが好適な材料として挙げられる。
【0028】
図1に示す装置の反応容器101は円筒状で、反応容器101の上面および下面は基本的に平面で閉塞された構造になっている。尚、上下面は高周波電力を遮蔽するために導電性の材質であることが好ましい。特に制限はないが、加工性、耐久性、コストの面から、アルミニウム合金或はステンレスが好適な材料として挙げられる。
【0029】
一方、側面部は外部に設けられた高周波電極112から放射される電磁波を反応容器101内に透過するために、少なくとも一部を誘電体で構成し、その材質にはアルミナ、二酸化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ジルコン、コンジェラート、ジルコン−コンジェラート、酸化珪素酸化ベリリウムマイカ系セラミック等を用いることが好ましい。中でも加工性、耐久性に加え、高周波電力の吸収がより少ないという点からアルミナがより好適な材料である。
【0030】
尚、反応容器101内の部材でプラズマに接する内面は堆積膜の密着性を向上させるために、堆積膜が付着する面をJIS B0601(1994)に準じて測定される十点平均粗さRz(JIS)が10nm以上100nm以下の範囲とすることが好ましい。十点平均粗さRz(JIS)を上記の範囲にする方法として、ブラスト処理、或はプラズマ溶射処理等が挙げられる。尚、プラズマ溶射処理を施す場合、導電性の部材には、アルミニウム、ニッケル、ステンレスがその好適な材質として挙げられる。
【0031】
又、誘電体材料の部材には、アルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ジルコン、コンジェラート、ジルコン−コンジェラート、酸化珪素酸化ベリリウムマイカ系セラミックがその好適な材質として挙げられる。
【0032】
続いて、ガス供給システム102は、処理に用いる加熱ガスや原料ガス、例えばSiH4 、GeH4 、H2 、B26 、PH3 、CH4 、NO、Ar、He、N2 等をマスフローコントローラー等により所定流量で供給可能な構成となっており、ガス管109を通じて反応容器101内へ供給する構成である。
【0033】
高周波電源103から出力された高周波電力は、整合回路111、電力分岐板110を介して反応容器101外に設置された6本の棒状の高周波電極112に供給する構成である。そして、電力分岐板110、高周波電極112並びに反応容器101はシールド容器108内に収納されている。
【0034】
反応容器101内は真空ポンプ104によって所望の圧力まで真空引きと、ガス供給システム102より所望のガスを所定流量で供給し、コンダクタンスバルブ113によって、真空ポンプ104の排気速度を調整することによって所望の圧力に調整することが可能になっている。
【0035】
次に、図1の装置で作製可能なa−Si:H系感光体の模式断面図の一例を図5に示す。
【0036】
図5のa−Si:H系感光体は、基体である導電性の基体501上に電荷の注入を阻止する第1層として電荷注入阻止層502、第2層として光導電層503、第3層として表面層504の順に積層し、第1層と第2層の間にキャリアの移動性や機械的な密着性を向上する目的で電荷注入阻止層の変化領域505を設けている。
【0037】
更に、図5には示していないが、第2層の光導電層503と第3層の表面層504の間にキャリアの移動性、光の透過性や機械的な密着性を改善する目的として表面層の変化領域を設けても良い。又、他のa−Si:H系感光体の層構成の例として、光導電層503を電荷発生層と電荷輸送層の2層に機能分離したものや、光導電層503と表面層504の間に上部電荷注入阻止層を積層し、負帯電極性を持たせた感光体等が挙げられる。
【0038】
図1のプラズマ処理装置を用いて図5に示すa−Si:H系感光体を作製する手順を以下に説明する。
【0039】
a−Si:H系感光体の作製は、大まかには、基体の切削・洗浄を行う前処理工程、基体を堆積膜形成装置に投入する投入工程、基体を加熱する加熱工程、基体上に堆積膜を形成する堆積膜形成工程、堆積膜形成後、基体を取り出す搬出工程、堆積膜形成装置のクリーニングを行う後処理工程の順に行われる。
【0040】
以下に本発明に関係する投入工程から堆積膜形成工程について以下に説明する。
【0041】
先ず、少なくとも投入工程は、必要十分なクリーン度に保持されたクリーンルーム或はクリーンブースにおいて行う。前処置工程を施した円筒状基体105を反応容器101内の基体支持体106に設置し、真空ポンプ104により反応容器101内を排気する。円筒状基体105設置後、真空ポンプ104によって所望の圧力まで排気する。
【0042】
このとき、排気によって反応容器101内のダストを巻き上げないように、通常よりも遅い排気速度で所定圧力まで減圧した後、通常の排気速度で所望圧力まで排気すると尚好ましい。排気速度の調整は、コンダクタンスバルブ113による排気コンダクタンス調整、真空ポンプの切り替え、真空ポンプの回転周波数の変更等が挙げられる。
【0043】
続く加熱工程では、ガス供給システム102よりガス管109を通じて加熱ガスを反応容器101内に導入し、円筒状基体105、或は、基体支持体106内側の空間にも加熱ガスを導入する。尚、加熱ガスは反応性が低く、円筒状基体105や反応容器101内の部品に悪影響を及ぼさず、加熱工程終了後の堆積膜形成工程へ影響をしないガス種であることが必要である。そして、加熱ガスは熱伝導率が高く、コスト的に安価なガスであることが好ましいので、H2 、He、N2 、Arを用いることが好ましい。
【0044】
加熱ガスが所定流量になったら、コンダクタンスバルブ113の開度を調整して反応容器101内を所定圧力に設定する。或は、真空ポンプ104の排気速度を調整して、反応容器101内を所定圧力に設定する。所定圧力は、発熱体115の発熱量、加熱ガス種、加熱設定温度等によって最適化することが好ましいが、ガス雰囲気の熱伝導率は数百Pa〜数MPaの範囲で圧力に殆ど依存しないので、数百Pa〜数kPa以下の圧力に設定すれば、十分な熱伝導率を得られる。
【0045】
又、発熱体115は円筒状基体105、基体支持体106を加熱可能なものならば特に制限はなく、例えば、シース状ヒータの巻き付けヒータ、板状ヒータ、セラミックヒータ等の電気抵抗発熱体、ハロゲンランプ、赤外線ランプ等の熱輻射ランプ発熱体、液体、気体等を媒体とした熱交換手段による発熱体が挙げられる。図1に示す装置ではシース状ヒータの巻き付けヒータを用いている。
【0046】
円筒状基体105が所望温度に加熱・制御できたら、加熱ガスの供給を停止し、真空ポンプ104によって、反応容器101内のArガスを十分排気する。加熱ガスの排気が終了したら、続いて、ガス供給システム102よりガス管109を通じて電荷注入阻止層形成に用いるガス種を所定流量で反応容器101内に供給し、コンダクタンスバルブ113の開度を調整して反応容器101内を所定圧力に設定する。
【0047】
又、少なくともこの段階には冷却手段に冷却水の供給を始め、冷却手段による冷却を開始する。冷却手段の温度は、基体および基体支持体の温度以下とすることが好ましく、より好ましくは100℃未満の範囲が好ましい。更に、熱泳動力は温度勾配に比例するので、基体及び基体支持体と冷却手段との温度勾配が10℃/cm以上であれば、尚好ましい。又、冷却手段による冷却は少なくとも堆積膜形成工程終了まで継続する。
【0048】
反応容器101内の圧力が安定したら、高周波電源103より整合回路111、電力分岐板110を介して複数の高周波電極112に高周波電力を印加して反応容器101内に原料ガスのプラズマを生成し、円筒状基体105上に電荷注入阻止層を形成する。電荷注入阻止層形成中、基体温度は所定温度範囲に制御する。電荷注入阻止層形成時の基板温度は150〜300℃の範囲が好ましく、より好ましくは150〜250℃の範囲が好ましい。
【0049】
電荷注入阻止層が所望の膜厚に到達したら、ガス種、ガス流量、印加電力、反応圧力等を光導電層形成条件まで、同時又は別々に変化して電荷注入阻止層の変化領域を形成する。変化は各々連続的であっても良いし、段階的不連続な変化であっても良い。
【0050】
反応容器101内が光導電層形成条件に設定できたら光導電層の形成を続けて行い、光導電層が所望の膜厚に到達したら、高周波電力の供給を停止し、光導電層の形成を終了する。光導電層形成中、基板温度は所定温度範囲に制御する。光導電層形成時の基板温度は、150〜300℃の範囲、より好ましくは、180〜250℃の範囲が好ましい。
【0051】
その後、反応容器101内を、表面層形成条件にして、高周波電源103より整合回路111を介して高周波電極112に高周波電力を印加して原料ガスのプラズマを生成し、光導電層上に表面層を形成する。表面層が所望の膜厚に到達したら、高周波電力の供給を停止し、原料ガスの供給も停止してa―Si: H系感光体の形成を終了する。
【0052】
図5の電子写真用感光体は光導電層503と表面層504の間に界面があるが、電荷注入阻止層502と光導電層503を変化領域505で形成したように変化領域を設けて、連続的な形成を行っても良い。
以下に、実験例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制限されるものではない。
【実施例1】
【0053】
本実施例では図1〜3に示す装置を用いて、図5に示す層構成のa−Si:H系感光体を表1に示す条件で作製した。又、高周波電源103の発信周波数は105MHzを選択した。
【0054】
a−Si:H系感光体の作製手順を以下に説明する。
【0055】
先ず、投入工程において、切削・脱脂洗浄した直径80mm、長さ358mmのアルミニウムを主原料とする円筒状基体105を基体支持体106に設置し、真空ポンプ104によって50Pa以下まで真空引きを行った。
【0056】
加熱工程では、駆動装置114により回転軸シャフト107を介して基体支持体106及び基体支持体106に積載された円筒状基体105を1rpmで自転させながら、加熱用ガスとしてHeガスを500ml/min. (nomal)で反応容器101に供給すると同時に真空ポンプ104で排気しながら、反応容器101内の圧力を100Paに維持し、発熱体115によって120分で200℃に加熱・制御した。
【0057】
加熱工程終了後、成膜工程では加熱ガスの供給と円筒状基体105の自転を停止し、反応容器101内を1Pa以下まで減圧した後、反応容器101内を表1の電荷注入阻止層条件として電荷注入阻止層を成膜した後、電荷注入層の変化領域、光導電層、表面層の順に堆積膜を順じ形成して、a−Si:H系感光体を作製した。
【0058】
尚、本実施例では冷却手段に18℃の冷却水を循環し、基体及び基体支持体以下の温度に維持した。
【0059】
【表1】

注)流量の単位はml/min. (nomal)
搬出工程では、反応容器101内を1Pa以下まで一旦減圧した後、ガス管109よりArガスを供給して複数回パージを行った後、ガス管109より冷却ガスとしてHeガスを反応容器101内に供給し反応容器101の内圧を1×103 Paとして円筒状基体105を自然冷却した。円筒状基体105の温度が十分下がったら、冷却用のHeガスを一旦排気した後、ガス管109よりN2
ガスを供給し、反応容器101を大気圧に戻し反応容器101より円筒状基体105を取り出した。

<比較例1>
本比較例では、実施例1と同じ装置を用いて、同じ層構成のa−Si:H系感光体を作製した。但し、本比較例では冷却手段への冷却水の供給を停止し、冷却は行わずに行った。
【0060】
尚、処理中の冷却手段の温度は、表2に示す温度であった。
【0061】
【表2】

実施例1及び比較例1で作製したa−Si:H系感光体の周方向の特性について「帯電能」、「残留電位」及び「突起の数」について以下の具体的方法で評価した。
「帯電能」
電子写真用感光体の帯電能は、電子写真用感光体を本テスト用に改造されたキヤノン製の複写機iR5000に設置し、上記複写機の主帯電器に一定電流を流した時の現像器位置での感光体表面の暗部電位を測定する。帯電能測定は電子写真用感光体の軸方向中心位置で感光体周方向にわたって行い、その平均値で定義した。従って、数値が高いほど良好である。
「残留電位」
電子写真用感光体の残留電位は、電子写真用感光体を本テスト用に改造されたキヤノン製の複写機iR5000に設置し、上記複写機の主帯電器に電流を流し、表面電位の平均値を設定値に帯電させ、像露光器位置で一定光量を照射した際の現像器位置での感光体表面の電位を測定する。残留電位測定は電子写真用感光体の軸方向中心位置で感光体周方向に亘って行い、その平均値で定義した。従って、数値が低いほど良好である。
「突起の数」
電子写真用感光体の表面を顕微鏡で観察し、一定面積にある直径10μm以上の球状突起の数を数える。従って、数値が小さいほど良好である。
【0062】
評価の結果、比較例1に比べ、実施例1で作製した電子写真用感光体は「帯電能」、「残留電位」ともに変化はなく、実施例1で作製した電子写真用感光体の「突起の数」は比較実施例1で作製した電子写真用感光体よりも全領域で30%程度少なく、特に基体下端部で50%程度少なくなり、本発明の優れた効果が確認された。
【実施例2】
【0063】
本実施例では、図1〜3に示す装置を用いて、実施例1と同じ成膜条件でa−Si:H系感光体を作製した。但し、本実施例では、実施例1に比べて冷却手段への供給水量を上げて冷却能力を向上し、冷却手段121の温度を表3に示す温度として行った。
【0064】
【表3】

実施例2で作製したa−Si:H系感光体の「帯電能」、「残留電位」、「突起の数」について、実施例1と同様の方法で評価した。
【0065】
評価の結果、比較例1に比べ、実施例2で作製した電子写真用感光体は「帯電能」、「残留電位」共に変化はなく、「突起の数」は比較例1で作製した電子写真用感光体よりも全領域で50%程度少なく、特に基体下端部で80%程度少なくなり、本発明の優れた効果が確認された。
【実施例3】
【0066】
本実施例では、図1〜3に示す装置に改造を施し、冷却手段121を図4に示すように、反応容器底面に基体支持体配置円の内側に設けた第1の冷却手段121aと、基体支持体配置円の外側に設けた第2の冷却手段121bの2箇所に設け、双方に冷却水を供給する構成とし、反応容器底面の基体支持体配置円の内側及び外側を冷却することによって、反応容器底面の基体支持体配置円上部分の温度が最も高くなるように、反応容器底板に温度勾配をつけることが可能な構成とした。本実施例は、表4に示す条件で、実施例1と同じ層構成のa−Si:H系感光体を作製した。
【0067】
【表4】

注)流量の単位はml/min. (nomal)

<比較例2>
本比較例では、実施例3と同じ装置を用いて、同じ層構成のa−Si:H系感光体を作製した。但し、本比較例では冷却手段への冷却水の供給を停止し、冷却は行わずに行った。それ以外は実施例3と同じ条件で行った。尚、処理時の第1の冷却手段121a及び第2の冷却手段121bの温度は、表5に示す温度であった。
【0068】
【表5】

実施例3及び比較例2で作製したa−Si:H系感光体について「帯電能」、「残留電位」、「突起の数」について実施例1と同様の方法で評価した。
【0069】
評価の結果、比較例2に比べ、実施例3で作製した電子写真用感光体は、「帯電能」及び「残留電位」は、ほぼ同レベルであったものの、「突起の数」は比較実験例2で作製した電子写真用感光体よりも全領域で50%程度少なく、特に基体下端部で85%程度少なくなり、本発明の優れた効果が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】a−Si:H系感光体を形成可能な本発明のプラズマ処理装置の縦断面図である。
【図2】a−Si:H系感光体を形成可能な本発明のプラズマ処理装置の横断面図である。
【図3】実施例1,2に用いたプラズマ処理装置の反応容器底面の構成を示す模式図である。
【図4】実施例3に用いたプラズマ処理装置の反応容器底面の構成を示す模式図である。
【図5】a−Si:H系感光体の層構成断面の模式図である。
【符号の説明】
【0071】
100 プラズマ処理装置
101 反応容器
102 ガス供給システム
103 高周波電源
104 真空ポンプ
105 円筒状基体
106 基体支持体
107 回転軸シャフト
108 シールド容器
109 ガス供給手段
110 電力分岐板
111 整合回路
112 高周波電極
113 コンダクタンスバルブ
114 回転駆動装置
115 発熱体
116 減速ギヤ
117 同軸ケーブル
118 排気配管
119 排気口
120 プラズマ漏れ防止体
121 冷却手段
121a 第1の冷却手段
121b 第2の冷却手段
122 基体支持体配置円
501 基体
502 電荷注入阻止層
503 光導電層
504 表面層
505 電荷注入阻止層の変化領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が誘電体で形成された減圧可能な反応容器と、前記反応容器内に円筒状基体を設置する複数の基体支持体と、前記円筒状基体を加熱する基体加熱手段と、前記反応容器内にガスを供給するガス供給手段と、前記反応容器内を排気する排気手段と、前記反応容器の外側に設置された複数の高周波電極によって前記反応容器内に供給したガスのプラズマを生成するための高周波電力供給手段を備えたプラズマ処理装置において、
前記反応容器の底面に前記排気手段を接続する排気口を設け、少なくとも前記排気口の周囲を冷却する冷却手段を設けたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記排気口が前記複数の基体支持体が配置された配置円の内側に設けられていることを特徴とする請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記冷却手段は前記反応容器と、前記基体と及び前記基体支持体よりも低温に保持されることを特徴とする請求項1又は2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記反応容器底面の表面温度のうち、前記複数の基体支持体が設置される配置円部が最も温度が高く、前記配置円部より外側及び前記配置円部より内側が前記配置円部よりも低温に保持されることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のプラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−9041(P2006−9041A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−183179(P2004−183179)
【出願日】平成16年6月22日(2004.6.22)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】