プラズマ装置
【課題】分解や組み立てをより容易に行うことができるプラズマ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】導波路の少なくとも一部を、同軸ケーブル12およびこの同軸ケーブル12の両端に設けられた同軸導波管変換器11,13とする。これにより、導波路に用いる導波管を少なくすることができるので、組み立てたり分解したりする際に、従来のように多数のボルトとナットの取り付けや取り外しが不要となり、結果として、より容易に組み立てや分解を行うことができる。また、同軸ケーブル12がフレキシブルなので、従来のような歪みの問題を解消することができ、より容易に組み立てを行うことができる。
【解決手段】導波路の少なくとも一部を、同軸ケーブル12およびこの同軸ケーブル12の両端に設けられた同軸導波管変換器11,13とする。これにより、導波路に用いる導波管を少なくすることができるので、組み立てたり分解したりする際に、従来のように多数のボルトとナットの取り付けや取り外しが不要となり、結果として、より容易に組み立てや分解を行うことができる。また、同軸ケーブル12がフレキシブルなので、従来のような歪みの問題を解消することができ、より容易に組み立てを行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVD装置、スパッタ装置、エッチング装置などマイクロ波を導入して発せさせたマイクロ波プラズマを利用して各種処理を行うプラズマ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、マイクロ波プラズマは、CVD装置やエッチング装置のプラズマ源として広く用いられている。このマイクロ波プラズマは、磁場を重畳して電子のサイクトロン共鳴運動によるイオン化でプラズマ密度を高めたプラズマ(以下、ECR(ECR:Electron Cyclotron Resonance)プラズマという)として、CVD装置、エッチング装置、スパッタ装置等に利用されている。このようなECRプラズマを利用するCVD装置やエッチング装置等のECRプラズマ装置の一例を図10に示す。
【0003】
図10に示すECRプラズマ装置100は、マグネトロン101、アイソレータ102、Hコーナー103、入射反射波モニタ104、直線導波管105、チューナ106、直線導波管107、Hコーナ108、直線導波管109、石英窓110およびチャンバ111がこの順番で接続された構成を有する。このチャンバ111の周囲には、マグネット112が配置されている。ここで、マグネトロン101から石英窓110までの各構成要素は、それぞれのフランジをネジ止めすることにより接続されている。このため、マグネトロン101から最も離れた石英窓110のフランジには、相当な重量がかかることになる。そこで、その負荷を軽減するために、マグネトロン101から石英窓110までの所定の箇所には、その重量を支持するためのジグが設けられている。
【0004】
このようなECRプラズマ装置100では、マグネット112により磁場が生成されたチャンバ111内部のプラズマ室111aにアルゴンやキセノンなどのガスを導入し、マイクロ波を石英窓110からプラズマ室111a内部に透過させることにより、プラズマ室111aに安定したECRプラズマを生成する。このとき、成膜材料またはエッチング材料のガスも同時に導入すると、これらのガスもプラズマ状態になり、プラズマ室111a内部に置かれた基板113上に成膜したり、基板113をエッチングしたりする。
【0005】
また、ECRスパッタ装置においては、マグネトロンで生成したマイクロ波を導波管によりプラズマ源まで輸送する経路の途中、それぞれのマイクロ波の強度が同等になるようその経路を二分岐し、これらをプラズマ源の出力方向に対して垂直な方向から導入するタイプ(分岐結合型)が主流となっている(例えば、非特許文献1参照。)。このようなECRスパッタ装置の一例を図11に示す。
【0006】
図11に示すECRスパッタ装置200は、マグネトロン101、アイソレータ102、Hコーナー103、入射反射波モニタ104、直線導波管105、チューナ106、直線導波管107およびHコーナ108がこの順番で接続され、T分岐管201により分岐された第1ブランチ部202,第2ブランチ部203がチャンバ204に接続された構成を有する。ここで、第1ブランチ部202は、T分岐201に接続された直線導波管2021,Eコーナー2022,直線導波管2023,Eコーナー2024,直線導波管2025およびチャンバ204に接続された石英窓2026がこの順番で接続された構成を有する。また、第2ブランチ部203は、直線導波管2031,Eコーナー2032,直線導波管2033,Eコーナー2034,直線導波管2035および石英窓2036がこの順番で接続された構成を有する。また、チャンバ204の周囲には、マグネット205,206が配置されている。なお、図11において、図10と同等の構成要素については、同じ名称および符号を付し適宜説明を省略する。
【0007】
このようなECRスパッタ装置200では、マグネット205,206により磁場が生成されたチャンバ204内部のプラズマ室204aにアルゴンやキセノンなどのガスを導入し、プラズマの出力方向に対して垂直な方向に配設された石英窓2026,2036からマイクロ波を透過させてプラズマ室204a内に導入することにより、プラズマ室204aに安定したECRプラズマを生成する。プラズマ中の電子は、イオンよりも軽いため、発散磁場に沿って速く基板208側へ移動する。また、イオンは、発生した空間電荷分布がつくる電場に加速されて基板208側に移動する。このような状態でターゲット207にRF電圧を印加すると、イオンがターゲットをスパッタし、基板208上には、スパッタされた物質が成膜される。
【0008】
このような分岐結合型という構成を採るECRスパッタ装置200では、ECR共鳴条件を満足させた上で、石英窓2026,2036をプラズマが直接見えない位置に設けることを実現している。これにより、ターゲット207からスパッタされた生成物のうち、直線的に進行するものは物理的に石英窓2026,2027には到達し得ないので、その生成物が石英窓2027,2028に付着するのを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M. Shimada, T. Ono, H. Nishimura, S. Matsuo, "Application of electron cyclotron resource plasma source to conductive film deposition", J. Vac. Sci. Technol., American Vacuum Society, A 13, May/Jun 1995, pp.815-819
【非特許文献2】George L. Ragan, "MICROWAVE TRANSMISSION CIRCUITS", 1948, pp314-361
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、石英窓へのスパッタ生成物の付着を抑制できるとはいえ、スパッタされた原子の中には、真空中を漂い、回り込んで石英窓まで到達するものが存在する。特に、金属ターゲットを使用して金属膜を形成する場合には、スパッタされた原子の多くが金属原子または金属原子クラスターなので、これが石英窓に僅かにでも付着すると、マイクロ波の石英窓の透過に支障が生じる。また、反応性スパッタにより化合物を堆積する場合には、酸素プラズマによる酸化を免れて石英窓に到達する金属原子が多く存在するので、ある程度成膜を継続すると金属原子が石英窓に付着するので、マイクロ波が石英窓を透過しにくくなる。
【0011】
マイクロ波が石英窓を透過しにくくなるとプラズマ室で放電不良が発生するので、石英窓がある程度の透過性を維持できるよう、石英窓が汚れる度に石英窓を交換する必要がある。この交換頻度は、酸素流量とスパッタされる材料の特性に大きく依存するが、例えば、Znターゲットを用いてZnO透明導電膜を堆積する場合には10時間程度である。
【0012】
石英窓を交換するには、石英窓から分岐部までに至るマイクロ波導波管を全て分解するとともに組み立てる必要がある。この作業には、多数のボルトとナットの取り外しおよび取り付けが含まれるので、非常に手間がかかる。
【0013】
特に、図11に示したような分岐結合型のマイクロ波導波管の場合には、分岐して結合させる第1ブランチ部202,第2ブランチ部203をそれぞれの石英窓2026,2036から順番に組み立てる際、両者が合流するT分岐管201との接続場所において、導波管同士(直線導波管2021,2031)の端面が整合しないことがしばしば生じている。これは、正確に合致した長さの導波管を使用したとしても、面内や面外の回転のずれが生じるからである。この回転のずれの原因としては、導波管の直線部と端面フランジの溶接が必ずしも正確に直角ではなく、僅かにずれていることが考えられる。このように、いくつもの導波管の構造体を組み上げていくにしたがって、そのずれが次第に大きなものになっていく。導波管の構造体の歪みは補正するのが困難なので、導波管の端面を整合させるには、隣り合う導波管同士で歪みがうまく整合するものを見つけてきて、使用するしかなかった。回転のずれが生じているときには、ネジを締めたときに一方向に力が加わってねじ山をつぶすこともある。したがって、導波管の分解はできるだけ行わないのが望ましい。
【0014】
また、図10に示したような分岐結合型でないマイクロ波導波管では、石英窓110にかかる負荷を軽減するためにジグを設けているが、マグネトロン101から石英窓110までの間を遊びのない導波管で接続するため、そのジグの設置が困難であった。
【0015】
このように、従来のプラズマ装置では、装置の分解や組み立てが困難であった。そこで、本願発明は、分解や組み立てをより容易に行うことができるプラズマ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述したような課題を解消するために、本発明に係るプラズマ装置は、マイクロ波発生源と、このマイクロ波発生源で発生させたマイクロ波を伝送する導波路と、この導波路により伝送されたマイクロ波が石英窓を介して導入されるプラズマ室とを備えたプラズマ装置であって、導波路は、少なくとも一部が、同軸ケーブルおよびこの同軸ケーブルの両端に設けられマイクロ波の伝播モードを変換する変換器から構成されることを特徴とする。
【0017】
上記プラズマ装置において、導波路は、途中で2つの第1,第2の導波路に分岐し、この第1,第2の導波路がプラズマ室に接続される分岐結合型の形状を有し、第1,第2の導波路は、少なくとも一部が同軸ケーブルおよびこの同軸ケーブルの両端に設けられた変換器から構成されるようにしてもよい。
【0018】
上記プラズマ装置において、石英窓から変換器、および、分岐から変換器までの導波路の実効的な電気長は、マイクロ波の半波長の整数倍であるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、導波路の少なくとも一部を、同軸ケーブルおよびこの同軸ケーブルの両端に設けられた変換器とすることにより、従来よりも用いる導波管を少なくすることができ、歪みの問題が解消されるので、分解や組み立てをより容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る直線型のECRプラズマ装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】(a)はアンテナプローブ型の同軸導波管変換器の構成を示す平面図、(b)はアンテナプローブ型の同軸導波管変換器の構成を示す正面図である。
【図3】(a)はTバー型の同軸導波管変換器の構成を示す平面図、(b)はTバー型の同軸導波管変換器の構成を示す正面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る分岐結合型のECRスパッタ装置の構成を模式的に示す図である。
【図5】第1,第2ブランチ部の構成を模式的に示す図である。
【図6】導波管のみで全体のマイクロ波回路を構成した場合のスパッタ中の酸素流量に対するSiO2の成膜速度と屈折率を示す図である。
【図7】T型分岐から石英窓までの一部を同軸ケーブルで置き換えた場合のスパッタ中の酸素流量に対するSiO2の成膜速度と屈折率を示す図である。
【図8】ローパワー仕様の同軸導波管変換器と同軸ケーブルを用いた場合の、成膜時間に対する同軸ケーブル外側の温度を計測したものである。
【図9】ハイパワー仕様の同軸導波管変換器と同軸ケーブルを用いた場合の、成膜時間に対する同軸ケーブル外側の温度を計測したものである。
【図10】従来の直線型のECRプラズマ装置の構成を模式的に示す図である。
【図11】従来の分岐結合型のECRスパッタ装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施の形態]
以下、図面を参照して、本発明の第1の実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施の形態に係るECRプラズマ装置1は、マグネトロン101、アイソレータ102、Hコーナー103、入射反射波モニタ104、直線導波管105、チューナ106、直線導波管107、Hコーナ108、同軸導波管変換器11、同軸ケーブル12、同軸導波管変換器13、石英窓110およびチャンバ111がこの順番で接続された構成を有する。なお、本実施の形態において、図10に示したECRプラズマ装置100と同等の構成要素については、同じ名称および符号を付し、適宜説明を省略する。
【0023】
ここで、同軸導波管変換器11は、直線導波管107等の中空導波管を導波してきたマイクロ波を、同軸ケーブル12の伝播モードに変換して、同軸ケーブル12に入力するものである。また、同軸導波管変換器13は、同軸ケーブル12を導波してきたマイクロ波の伝播モードを後段の導波路の伝播モードに変換して出力するものである。このような同軸導波管変換器11,13は、図2に示すようなアンテナプローブ型、図3に示すようなTバー型、クロスバー型およびリッジ型など、公知の同軸導波管変換器から構成される(例えば、非特許文献2参照。)。
【0024】
同軸ケーブル12は、フレキシブルな公知の同軸ケーブルから構成される。
【0025】
このように、本実施の形態によれば、導波路の少なくとも一部を、同軸ケーブル12およびこの同軸ケーブル12の両端に設けられた同軸導波管変換器11,13とした。これにより、導波路に用いる導波管を少なくすることができるので、組み立てたり分解したりする際に、従来のように多数のボルトとナットの取り付けや取り外しが不要となり、結果として、より容易に組み立てや分解を行うことができる。また、同軸ケーブル12がフレキシブルなので、従来のような歪みの問題を解消することができ、より容易に組み立てを行うことができる。
【0026】
また、本実施の形態では、石英窓110には同軸導波管変換器13のみが固定されているだけなので、石英窓110にかかる負荷が小さくなる。このため、マグネトロン101から同軸導波管変換器11までの支持について考慮すればよいので、その支持を行うジグの設定が容易になる。
【0027】
[第2の実施の形態]
次に、本発明に係る第2の実施の形態について説明する。なお、本実施の形態は、図11を参照して説明した分岐結合型のECRスパッタ装置200の第1ブランチ部202,第2ブランチ部203の一部を、同軸ケーブルおよび同軸導波管変換器に置き換えたものである。したがって、本実施の形態において、図11に示したECRスパッタ装置200と同等の構成要素については、同じ名称および符号を付し、適宜説明を省略する。
【0028】
図4に示すECRスパッタ装置2は、マグネトロン101、アイソレータ102、Hコーナー103、入射反射波モニタ104、直線導波管105、チューナ106、直線導波管107およびHコーナ108がこの順番で接続され、T分岐管201により分岐された第1ブランチ部21,第2ブランチ部22がチャンバ204に接続された構成を有する。ここで、第1ブランチ部202は、T分岐201に接続された直線導波管2021,スペーサ211、同軸導波管変換器212,同軸ケーブル213,同軸導波管変換器214、延長ストレート215,直線導波管2025およびチャンバ204に接続された石英窓2026がこの順番で接続された構成を有する。また、第2ブランチ部203は、直線導波管2031,スペーサ221、同軸導波管変換器222,同軸ケーブル223、同軸導波管変換器224、延長ストレート225、直線導波管2035および石英窓2036がこの順番で接続された構成を有する。
【0029】
ここで、同軸導波管変換器212および同軸導波管変換器214は、直線導波管2021,2031等の中空導波管を導波してきたマイクロ波を、同軸ケーブルの伝播モードに変換して同軸ケーブル12に入力するものである。また、同軸導波管変換器222,224は、同軸ケーブル212または同軸ケーブル223を導波してきたマイクロ波を、後段の導波路の伝播モードに変換して出力するものである。これらの同軸導波管変換器212,214,222,224は、図2に示すようなアンテナプローブ型、図3に示すようなTバー型、クロスバー型およびリッジ型など、公知の同軸導波管変換器から構成される。
【0030】
また、同軸ケーブル213および同軸ケーブル223は、フレキシブルな公知の同軸ケーブルから構成される。
【0031】
なお、本実施の形態においては、マイクロ波を一旦分岐して2つの石英窓2026,2036からプラズマ室204aへ導入するため、導波管の長さが定在波に合致するような安定稼働条件が加わる。すなわち、石英窓から同軸導波管変換器まで、および、もう一方の同軸導波管変換器からT型分岐までの実効長さがマイクロ波の管内波長(λg)の半分(λg/2)の整数倍になるように導波管の長さを調整することが必要である。これはマイクロ波が細切れになった導波管ブロックそれぞれにおいて定常波になるための条件であり、安定して導波管中にマイクロ波が伝播することを保証するためである。これについて、図5を参照して説明する。
【0032】
まず、石英窓側の導波管については、同軸導波管変換器214と同軸導波管変換器224との間の距離(2d1)に窓材(石英窓2026,2036)を用いることによる経路の延長分(2r)を足した長さ(2d1+2r)が、λg/2の整数倍に導波管の長さを調整するとよい。最も多く使われている2.45GHzのマイクロ波に対応する導波管内の波長λgは15.8mmである。これにより図5の石英窓側の経路については、定在波の条件を満足する。なお、長さを調整するには、本実施の形態のように延長ストレート215,225の導波管を継ぎ足したり、ブロックや板などのスペーサを挿入したりすればよい。
【0033】
次に、T分岐側の導波管については、同軸導波管変換器212,222の端部からT分岐201の中央までの距離(d2)が、λg/2の整数倍にとなるよう導波管の長さを調整すればよい。さらに、図4に示すように、T分岐201からチューナー106までの距離についても、(p+q−α)の値がλg/2の整数倍となるよう導波管の長さを調整すればよい。ここで、αは、Hコーナー108のショートカット分を意味する。
【0034】
このように、本実施の形態によれば、導波管の一部を同軸ケーブル213,223および同軸導波管変換器212,214,222,224で置き換えることにより、導波路に用いる導波管を少なくすることができるので、組み立てたり分解したりする際に、従来のように多数のボルトとナットの取り付けや取り外しが不要となり、結果として、より容易に組み立てや分解を行うことができる。また、同軸ケーブル213,223がフレキシブルなので、従来のような歪みの問題を解消することができ、結果として、より容易に組み立てを行うことができる。したがって、石英窓2026,2036の交換やプラズマ室内211aのクリーニングなどのメンテナンスを容易に行うことができる。これは、特に、金属ターゲットを用いる場合にメリットが大きい。また、ネジ止めされて一体となった重い導波管を固定する場合の自由度も大きくすることができる。
【0035】
次に、従来の導波管を使用した場合と同軸ケーブルを使用した場合で、成膜上から得られる結果に差異が無いことを確認するために、Siターゲットからの反応性スパッタによりSiO2膜を形成した。この結果について、図6,図7に示す。ここで、図6は、導波管のみで全体のマイクロ波回路を構成した場合、図7は、本実施の形態、すなわちT型分岐から石英窓までの一部を同軸ケーブルで置き換えた場合の、スパッタ中の酸素流量に対するSiO2の成膜速度(図中の白丸印で示す)と屈折率(図中の黒丸印で示す)を計測したものである。
【0036】
なお、本実施の形態では、同軸ケーブル213,223としては、内部導体の外形が3.5mm、ケーブル外径が13mmの10D−FD(株式会社フジクラ製)を用いた。また、同軸導波管変換器212,214,222,224としては、最大投入電力が約300Wで、HN−R型同軸コネクタが設けられた図2に示すアンテナプローブ型の同軸導波管変換器を用いた。
【0037】
なお、図6,図7では、いずれも分岐結合型のECRスパッタ装置を用い、マイクロ波の周波数が2.45GHz、プラズマ生成のためのアルゴンガス流量が8sccm、マイクロ波パワーが500W、マグネット電流が14A、ターゲットにかけるRFパワーが500Qと設定した。また、成膜させる基板には、4インチSi基板を用い、無加熱で基板表面垂直方向がスパッタ粒子の来る方向に一致するように配設した。
【0038】
図6と図7を比較すると、ターゲット表面に酸化されていないSiの領域が露出した状態のメタルモードと、表面が完全に酸化されている酸化モードの移り変わり点に対応する酸素流量は、3.5sccmと正確に一致している。また、成膜速度や屈折率の値そのものも同じである。したがって、成膜においては、導波管と同軸ケーブルの何れを用いても膜質と成膜速度に差異が無いことが検証された。
【0039】
同軸ケーブルを用いた場合、同軸ケーブル内において伝送のロスが生じて同軸ケーブルの温度が上昇する。これが実用上問題ない範囲であるか否かを調べ結果を、図8,図9に示す。
【0040】
図8は、ローパワー仕様の同軸導波管変換器と同軸ケーブルを用いた場合の、成膜時間に対する同軸ケーブル外側の温度を計測したものである。ここで、マイクロ波パワーとRFパワーが、それぞれ400W(図中の白丸印で示す),450W(図中の黒丸印で示す),500W(図中の白四角印で示す)とした。図8からわかるとおり、約14分後に温度変化が定常状態になっており、このときの温度は、400Wで47℃、450Wで52℃、500Wで57℃である。同軸ケーブルの耐熱温度は70℃であるので、500Wにおける使用でも問題が無いことが検証された。
【0041】
図9は、ハイパワー仕様の同軸導波管変換器と同軸ケーブルを用いた場合の、成膜時間に対する同軸ケーブル外側の温度を計測したものである。ここで、マイクロ波パワーとRFパワーは、500W(図中の白丸印で示す),600W(図中の黒丸印で示す),700W(図中の白四角印で示す)とした。図9からわかるように、600Wと700Wでは30分、500Wでは50分で定常状態に達しており、この定常状態の温度は、500Wで40℃、600Wで44℃、700Wで49℃である。したがって、いずれの場合においても、長時間の使用に全く支障がないことが検証された。
【0042】
さらに、同軸ケーブルを用いた場合には、容易にマイクロ波のマッチングがとれ、反射波モニターによると、反射強度は常にゼロレベルであった。これに対して、導波管だけの場合には、導波管回路の長さが少しでもずれていると反射成分が必ずしもゼロでなくなる。これは定在波の条件からずれて反射した成分は、同軸ケーブル内で吸収されて熱に変わるためと考えられる。
【0043】
なお、第1,第2の実施の形態において、チャンバ側の同軸導波管変換器は、パッチアンテナとして機能する構成を有するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、マイクロ波を導波管を用いて伝達させる各種装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1,2…ECRプラズマ装置、11…同軸導波管変換器、12…同軸ケーブル、13…同軸導波管変換器、21…第1ブランチ部,22…第2ブランチ部、101…マグネトロン、102…アイソレータ、103…Hコーナー、104…入射反射波モニタ、105…直線導波管、106…チューナ、107…直線導波管、108…Hコーナ、110…石英窓、111…チャンバ、111a…プラズマ処理室、112…マグネット、201…T分岐管、204…チャンバ、204a…プラズマ処理室、205,206…マグネット、211…スペーサ、212…同軸導波管変換器,213…同軸ケーブル,214…同軸導波管変換器、215…延長ストレート、221…スペーサ、222…同軸導波管変換器,223…同軸ケーブル、224…同軸導波管変換器、225…延長ストレート、2021…直線導波管,2025…直線導波管、2026…石英窓、2031…直線導波管、2035…直線導波管、2036…石英窓
【技術分野】
【0001】
本発明は、CVD装置、スパッタ装置、エッチング装置などマイクロ波を導入して発せさせたマイクロ波プラズマを利用して各種処理を行うプラズマ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、マイクロ波プラズマは、CVD装置やエッチング装置のプラズマ源として広く用いられている。このマイクロ波プラズマは、磁場を重畳して電子のサイクトロン共鳴運動によるイオン化でプラズマ密度を高めたプラズマ(以下、ECR(ECR:Electron Cyclotron Resonance)プラズマという)として、CVD装置、エッチング装置、スパッタ装置等に利用されている。このようなECRプラズマを利用するCVD装置やエッチング装置等のECRプラズマ装置の一例を図10に示す。
【0003】
図10に示すECRプラズマ装置100は、マグネトロン101、アイソレータ102、Hコーナー103、入射反射波モニタ104、直線導波管105、チューナ106、直線導波管107、Hコーナ108、直線導波管109、石英窓110およびチャンバ111がこの順番で接続された構成を有する。このチャンバ111の周囲には、マグネット112が配置されている。ここで、マグネトロン101から石英窓110までの各構成要素は、それぞれのフランジをネジ止めすることにより接続されている。このため、マグネトロン101から最も離れた石英窓110のフランジには、相当な重量がかかることになる。そこで、その負荷を軽減するために、マグネトロン101から石英窓110までの所定の箇所には、その重量を支持するためのジグが設けられている。
【0004】
このようなECRプラズマ装置100では、マグネット112により磁場が生成されたチャンバ111内部のプラズマ室111aにアルゴンやキセノンなどのガスを導入し、マイクロ波を石英窓110からプラズマ室111a内部に透過させることにより、プラズマ室111aに安定したECRプラズマを生成する。このとき、成膜材料またはエッチング材料のガスも同時に導入すると、これらのガスもプラズマ状態になり、プラズマ室111a内部に置かれた基板113上に成膜したり、基板113をエッチングしたりする。
【0005】
また、ECRスパッタ装置においては、マグネトロンで生成したマイクロ波を導波管によりプラズマ源まで輸送する経路の途中、それぞれのマイクロ波の強度が同等になるようその経路を二分岐し、これらをプラズマ源の出力方向に対して垂直な方向から導入するタイプ(分岐結合型)が主流となっている(例えば、非特許文献1参照。)。このようなECRスパッタ装置の一例を図11に示す。
【0006】
図11に示すECRスパッタ装置200は、マグネトロン101、アイソレータ102、Hコーナー103、入射反射波モニタ104、直線導波管105、チューナ106、直線導波管107およびHコーナ108がこの順番で接続され、T分岐管201により分岐された第1ブランチ部202,第2ブランチ部203がチャンバ204に接続された構成を有する。ここで、第1ブランチ部202は、T分岐201に接続された直線導波管2021,Eコーナー2022,直線導波管2023,Eコーナー2024,直線導波管2025およびチャンバ204に接続された石英窓2026がこの順番で接続された構成を有する。また、第2ブランチ部203は、直線導波管2031,Eコーナー2032,直線導波管2033,Eコーナー2034,直線導波管2035および石英窓2036がこの順番で接続された構成を有する。また、チャンバ204の周囲には、マグネット205,206が配置されている。なお、図11において、図10と同等の構成要素については、同じ名称および符号を付し適宜説明を省略する。
【0007】
このようなECRスパッタ装置200では、マグネット205,206により磁場が生成されたチャンバ204内部のプラズマ室204aにアルゴンやキセノンなどのガスを導入し、プラズマの出力方向に対して垂直な方向に配設された石英窓2026,2036からマイクロ波を透過させてプラズマ室204a内に導入することにより、プラズマ室204aに安定したECRプラズマを生成する。プラズマ中の電子は、イオンよりも軽いため、発散磁場に沿って速く基板208側へ移動する。また、イオンは、発生した空間電荷分布がつくる電場に加速されて基板208側に移動する。このような状態でターゲット207にRF電圧を印加すると、イオンがターゲットをスパッタし、基板208上には、スパッタされた物質が成膜される。
【0008】
このような分岐結合型という構成を採るECRスパッタ装置200では、ECR共鳴条件を満足させた上で、石英窓2026,2036をプラズマが直接見えない位置に設けることを実現している。これにより、ターゲット207からスパッタされた生成物のうち、直線的に進行するものは物理的に石英窓2026,2027には到達し得ないので、その生成物が石英窓2027,2028に付着するのを防ぐことができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】M. Shimada, T. Ono, H. Nishimura, S. Matsuo, "Application of electron cyclotron resource plasma source to conductive film deposition", J. Vac. Sci. Technol., American Vacuum Society, A 13, May/Jun 1995, pp.815-819
【非特許文献2】George L. Ragan, "MICROWAVE TRANSMISSION CIRCUITS", 1948, pp314-361
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、石英窓へのスパッタ生成物の付着を抑制できるとはいえ、スパッタされた原子の中には、真空中を漂い、回り込んで石英窓まで到達するものが存在する。特に、金属ターゲットを使用して金属膜を形成する場合には、スパッタされた原子の多くが金属原子または金属原子クラスターなので、これが石英窓に僅かにでも付着すると、マイクロ波の石英窓の透過に支障が生じる。また、反応性スパッタにより化合物を堆積する場合には、酸素プラズマによる酸化を免れて石英窓に到達する金属原子が多く存在するので、ある程度成膜を継続すると金属原子が石英窓に付着するので、マイクロ波が石英窓を透過しにくくなる。
【0011】
マイクロ波が石英窓を透過しにくくなるとプラズマ室で放電不良が発生するので、石英窓がある程度の透過性を維持できるよう、石英窓が汚れる度に石英窓を交換する必要がある。この交換頻度は、酸素流量とスパッタされる材料の特性に大きく依存するが、例えば、Znターゲットを用いてZnO透明導電膜を堆積する場合には10時間程度である。
【0012】
石英窓を交換するには、石英窓から分岐部までに至るマイクロ波導波管を全て分解するとともに組み立てる必要がある。この作業には、多数のボルトとナットの取り外しおよび取り付けが含まれるので、非常に手間がかかる。
【0013】
特に、図11に示したような分岐結合型のマイクロ波導波管の場合には、分岐して結合させる第1ブランチ部202,第2ブランチ部203をそれぞれの石英窓2026,2036から順番に組み立てる際、両者が合流するT分岐管201との接続場所において、導波管同士(直線導波管2021,2031)の端面が整合しないことがしばしば生じている。これは、正確に合致した長さの導波管を使用したとしても、面内や面外の回転のずれが生じるからである。この回転のずれの原因としては、導波管の直線部と端面フランジの溶接が必ずしも正確に直角ではなく、僅かにずれていることが考えられる。このように、いくつもの導波管の構造体を組み上げていくにしたがって、そのずれが次第に大きなものになっていく。導波管の構造体の歪みは補正するのが困難なので、導波管の端面を整合させるには、隣り合う導波管同士で歪みがうまく整合するものを見つけてきて、使用するしかなかった。回転のずれが生じているときには、ネジを締めたときに一方向に力が加わってねじ山をつぶすこともある。したがって、導波管の分解はできるだけ行わないのが望ましい。
【0014】
また、図10に示したような分岐結合型でないマイクロ波導波管では、石英窓110にかかる負荷を軽減するためにジグを設けているが、マグネトロン101から石英窓110までの間を遊びのない導波管で接続するため、そのジグの設置が困難であった。
【0015】
このように、従来のプラズマ装置では、装置の分解や組み立てが困難であった。そこで、本願発明は、分解や組み立てをより容易に行うことができるプラズマ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述したような課題を解消するために、本発明に係るプラズマ装置は、マイクロ波発生源と、このマイクロ波発生源で発生させたマイクロ波を伝送する導波路と、この導波路により伝送されたマイクロ波が石英窓を介して導入されるプラズマ室とを備えたプラズマ装置であって、導波路は、少なくとも一部が、同軸ケーブルおよびこの同軸ケーブルの両端に設けられマイクロ波の伝播モードを変換する変換器から構成されることを特徴とする。
【0017】
上記プラズマ装置において、導波路は、途中で2つの第1,第2の導波路に分岐し、この第1,第2の導波路がプラズマ室に接続される分岐結合型の形状を有し、第1,第2の導波路は、少なくとも一部が同軸ケーブルおよびこの同軸ケーブルの両端に設けられた変換器から構成されるようにしてもよい。
【0018】
上記プラズマ装置において、石英窓から変換器、および、分岐から変換器までの導波路の実効的な電気長は、マイクロ波の半波長の整数倍であるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、導波路の少なくとも一部を、同軸ケーブルおよびこの同軸ケーブルの両端に設けられた変換器とすることにより、従来よりも用いる導波管を少なくすることができ、歪みの問題が解消されるので、分解や組み立てをより容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る直線型のECRプラズマ装置の構成を模式的に示す図である。
【図2】(a)はアンテナプローブ型の同軸導波管変換器の構成を示す平面図、(b)はアンテナプローブ型の同軸導波管変換器の構成を示す正面図である。
【図3】(a)はTバー型の同軸導波管変換器の構成を示す平面図、(b)はTバー型の同軸導波管変換器の構成を示す正面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る分岐結合型のECRスパッタ装置の構成を模式的に示す図である。
【図5】第1,第2ブランチ部の構成を模式的に示す図である。
【図6】導波管のみで全体のマイクロ波回路を構成した場合のスパッタ中の酸素流量に対するSiO2の成膜速度と屈折率を示す図である。
【図7】T型分岐から石英窓までの一部を同軸ケーブルで置き換えた場合のスパッタ中の酸素流量に対するSiO2の成膜速度と屈折率を示す図である。
【図8】ローパワー仕様の同軸導波管変換器と同軸ケーブルを用いた場合の、成膜時間に対する同軸ケーブル外側の温度を計測したものである。
【図9】ハイパワー仕様の同軸導波管変換器と同軸ケーブルを用いた場合の、成膜時間に対する同軸ケーブル外側の温度を計測したものである。
【図10】従来の直線型のECRプラズマ装置の構成を模式的に示す図である。
【図11】従来の分岐結合型のECRスパッタ装置の構成を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施の形態]
以下、図面を参照して、本発明の第1の実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
図1に示すように、本実施の形態に係るECRプラズマ装置1は、マグネトロン101、アイソレータ102、Hコーナー103、入射反射波モニタ104、直線導波管105、チューナ106、直線導波管107、Hコーナ108、同軸導波管変換器11、同軸ケーブル12、同軸導波管変換器13、石英窓110およびチャンバ111がこの順番で接続された構成を有する。なお、本実施の形態において、図10に示したECRプラズマ装置100と同等の構成要素については、同じ名称および符号を付し、適宜説明を省略する。
【0023】
ここで、同軸導波管変換器11は、直線導波管107等の中空導波管を導波してきたマイクロ波を、同軸ケーブル12の伝播モードに変換して、同軸ケーブル12に入力するものである。また、同軸導波管変換器13は、同軸ケーブル12を導波してきたマイクロ波の伝播モードを後段の導波路の伝播モードに変換して出力するものである。このような同軸導波管変換器11,13は、図2に示すようなアンテナプローブ型、図3に示すようなTバー型、クロスバー型およびリッジ型など、公知の同軸導波管変換器から構成される(例えば、非特許文献2参照。)。
【0024】
同軸ケーブル12は、フレキシブルな公知の同軸ケーブルから構成される。
【0025】
このように、本実施の形態によれば、導波路の少なくとも一部を、同軸ケーブル12およびこの同軸ケーブル12の両端に設けられた同軸導波管変換器11,13とした。これにより、導波路に用いる導波管を少なくすることができるので、組み立てたり分解したりする際に、従来のように多数のボルトとナットの取り付けや取り外しが不要となり、結果として、より容易に組み立てや分解を行うことができる。また、同軸ケーブル12がフレキシブルなので、従来のような歪みの問題を解消することができ、より容易に組み立てを行うことができる。
【0026】
また、本実施の形態では、石英窓110には同軸導波管変換器13のみが固定されているだけなので、石英窓110にかかる負荷が小さくなる。このため、マグネトロン101から同軸導波管変換器11までの支持について考慮すればよいので、その支持を行うジグの設定が容易になる。
【0027】
[第2の実施の形態]
次に、本発明に係る第2の実施の形態について説明する。なお、本実施の形態は、図11を参照して説明した分岐結合型のECRスパッタ装置200の第1ブランチ部202,第2ブランチ部203の一部を、同軸ケーブルおよび同軸導波管変換器に置き換えたものである。したがって、本実施の形態において、図11に示したECRスパッタ装置200と同等の構成要素については、同じ名称および符号を付し、適宜説明を省略する。
【0028】
図4に示すECRスパッタ装置2は、マグネトロン101、アイソレータ102、Hコーナー103、入射反射波モニタ104、直線導波管105、チューナ106、直線導波管107およびHコーナ108がこの順番で接続され、T分岐管201により分岐された第1ブランチ部21,第2ブランチ部22がチャンバ204に接続された構成を有する。ここで、第1ブランチ部202は、T分岐201に接続された直線導波管2021,スペーサ211、同軸導波管変換器212,同軸ケーブル213,同軸導波管変換器214、延長ストレート215,直線導波管2025およびチャンバ204に接続された石英窓2026がこの順番で接続された構成を有する。また、第2ブランチ部203は、直線導波管2031,スペーサ221、同軸導波管変換器222,同軸ケーブル223、同軸導波管変換器224、延長ストレート225、直線導波管2035および石英窓2036がこの順番で接続された構成を有する。
【0029】
ここで、同軸導波管変換器212および同軸導波管変換器214は、直線導波管2021,2031等の中空導波管を導波してきたマイクロ波を、同軸ケーブルの伝播モードに変換して同軸ケーブル12に入力するものである。また、同軸導波管変換器222,224は、同軸ケーブル212または同軸ケーブル223を導波してきたマイクロ波を、後段の導波路の伝播モードに変換して出力するものである。これらの同軸導波管変換器212,214,222,224は、図2に示すようなアンテナプローブ型、図3に示すようなTバー型、クロスバー型およびリッジ型など、公知の同軸導波管変換器から構成される。
【0030】
また、同軸ケーブル213および同軸ケーブル223は、フレキシブルな公知の同軸ケーブルから構成される。
【0031】
なお、本実施の形態においては、マイクロ波を一旦分岐して2つの石英窓2026,2036からプラズマ室204aへ導入するため、導波管の長さが定在波に合致するような安定稼働条件が加わる。すなわち、石英窓から同軸導波管変換器まで、および、もう一方の同軸導波管変換器からT型分岐までの実効長さがマイクロ波の管内波長(λg)の半分(λg/2)の整数倍になるように導波管の長さを調整することが必要である。これはマイクロ波が細切れになった導波管ブロックそれぞれにおいて定常波になるための条件であり、安定して導波管中にマイクロ波が伝播することを保証するためである。これについて、図5を参照して説明する。
【0032】
まず、石英窓側の導波管については、同軸導波管変換器214と同軸導波管変換器224との間の距離(2d1)に窓材(石英窓2026,2036)を用いることによる経路の延長分(2r)を足した長さ(2d1+2r)が、λg/2の整数倍に導波管の長さを調整するとよい。最も多く使われている2.45GHzのマイクロ波に対応する導波管内の波長λgは15.8mmである。これにより図5の石英窓側の経路については、定在波の条件を満足する。なお、長さを調整するには、本実施の形態のように延長ストレート215,225の導波管を継ぎ足したり、ブロックや板などのスペーサを挿入したりすればよい。
【0033】
次に、T分岐側の導波管については、同軸導波管変換器212,222の端部からT分岐201の中央までの距離(d2)が、λg/2の整数倍にとなるよう導波管の長さを調整すればよい。さらに、図4に示すように、T分岐201からチューナー106までの距離についても、(p+q−α)の値がλg/2の整数倍となるよう導波管の長さを調整すればよい。ここで、αは、Hコーナー108のショートカット分を意味する。
【0034】
このように、本実施の形態によれば、導波管の一部を同軸ケーブル213,223および同軸導波管変換器212,214,222,224で置き換えることにより、導波路に用いる導波管を少なくすることができるので、組み立てたり分解したりする際に、従来のように多数のボルトとナットの取り付けや取り外しが不要となり、結果として、より容易に組み立てや分解を行うことができる。また、同軸ケーブル213,223がフレキシブルなので、従来のような歪みの問題を解消することができ、結果として、より容易に組み立てを行うことができる。したがって、石英窓2026,2036の交換やプラズマ室内211aのクリーニングなどのメンテナンスを容易に行うことができる。これは、特に、金属ターゲットを用いる場合にメリットが大きい。また、ネジ止めされて一体となった重い導波管を固定する場合の自由度も大きくすることができる。
【0035】
次に、従来の導波管を使用した場合と同軸ケーブルを使用した場合で、成膜上から得られる結果に差異が無いことを確認するために、Siターゲットからの反応性スパッタによりSiO2膜を形成した。この結果について、図6,図7に示す。ここで、図6は、導波管のみで全体のマイクロ波回路を構成した場合、図7は、本実施の形態、すなわちT型分岐から石英窓までの一部を同軸ケーブルで置き換えた場合の、スパッタ中の酸素流量に対するSiO2の成膜速度(図中の白丸印で示す)と屈折率(図中の黒丸印で示す)を計測したものである。
【0036】
なお、本実施の形態では、同軸ケーブル213,223としては、内部導体の外形が3.5mm、ケーブル外径が13mmの10D−FD(株式会社フジクラ製)を用いた。また、同軸導波管変換器212,214,222,224としては、最大投入電力が約300Wで、HN−R型同軸コネクタが設けられた図2に示すアンテナプローブ型の同軸導波管変換器を用いた。
【0037】
なお、図6,図7では、いずれも分岐結合型のECRスパッタ装置を用い、マイクロ波の周波数が2.45GHz、プラズマ生成のためのアルゴンガス流量が8sccm、マイクロ波パワーが500W、マグネット電流が14A、ターゲットにかけるRFパワーが500Qと設定した。また、成膜させる基板には、4インチSi基板を用い、無加熱で基板表面垂直方向がスパッタ粒子の来る方向に一致するように配設した。
【0038】
図6と図7を比較すると、ターゲット表面に酸化されていないSiの領域が露出した状態のメタルモードと、表面が完全に酸化されている酸化モードの移り変わり点に対応する酸素流量は、3.5sccmと正確に一致している。また、成膜速度や屈折率の値そのものも同じである。したがって、成膜においては、導波管と同軸ケーブルの何れを用いても膜質と成膜速度に差異が無いことが検証された。
【0039】
同軸ケーブルを用いた場合、同軸ケーブル内において伝送のロスが生じて同軸ケーブルの温度が上昇する。これが実用上問題ない範囲であるか否かを調べ結果を、図8,図9に示す。
【0040】
図8は、ローパワー仕様の同軸導波管変換器と同軸ケーブルを用いた場合の、成膜時間に対する同軸ケーブル外側の温度を計測したものである。ここで、マイクロ波パワーとRFパワーが、それぞれ400W(図中の白丸印で示す),450W(図中の黒丸印で示す),500W(図中の白四角印で示す)とした。図8からわかるとおり、約14分後に温度変化が定常状態になっており、このときの温度は、400Wで47℃、450Wで52℃、500Wで57℃である。同軸ケーブルの耐熱温度は70℃であるので、500Wにおける使用でも問題が無いことが検証された。
【0041】
図9は、ハイパワー仕様の同軸導波管変換器と同軸ケーブルを用いた場合の、成膜時間に対する同軸ケーブル外側の温度を計測したものである。ここで、マイクロ波パワーとRFパワーは、500W(図中の白丸印で示す),600W(図中の黒丸印で示す),700W(図中の白四角印で示す)とした。図9からわかるように、600Wと700Wでは30分、500Wでは50分で定常状態に達しており、この定常状態の温度は、500Wで40℃、600Wで44℃、700Wで49℃である。したがって、いずれの場合においても、長時間の使用に全く支障がないことが検証された。
【0042】
さらに、同軸ケーブルを用いた場合には、容易にマイクロ波のマッチングがとれ、反射波モニターによると、反射強度は常にゼロレベルであった。これに対して、導波管だけの場合には、導波管回路の長さが少しでもずれていると反射成分が必ずしもゼロでなくなる。これは定在波の条件からずれて反射した成分は、同軸ケーブル内で吸収されて熱に変わるためと考えられる。
【0043】
なお、第1,第2の実施の形態において、チャンバ側の同軸導波管変換器は、パッチアンテナとして機能する構成を有するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、マイクロ波を導波管を用いて伝達させる各種装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1,2…ECRプラズマ装置、11…同軸導波管変換器、12…同軸ケーブル、13…同軸導波管変換器、21…第1ブランチ部,22…第2ブランチ部、101…マグネトロン、102…アイソレータ、103…Hコーナー、104…入射反射波モニタ、105…直線導波管、106…チューナ、107…直線導波管、108…Hコーナ、110…石英窓、111…チャンバ、111a…プラズマ処理室、112…マグネット、201…T分岐管、204…チャンバ、204a…プラズマ処理室、205,206…マグネット、211…スペーサ、212…同軸導波管変換器,213…同軸ケーブル,214…同軸導波管変換器、215…延長ストレート、221…スペーサ、222…同軸導波管変換器,223…同軸ケーブル、224…同軸導波管変換器、225…延長ストレート、2021…直線導波管,2025…直線導波管、2026…石英窓、2031…直線導波管、2035…直線導波管、2036…石英窓
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波発生源と、
このマイクロ波発生源で発生させたマイクロ波を伝送する導波路と、
この導波路により伝送されたマイクロ波が石英窓を介して導入されるプラズマ室と
を備えたプラズマ装置であって、
前記導波路は、少なくとも一部が、同軸ケーブルおよびこの同軸ケーブルの両端に設けられ前記マイクロ波の伝播モードを変換する変換器から構成される
ことを特徴とするプラズマ装置。
【請求項2】
前記導波路は、
途中で2つの第1,第2の導波路に分岐し、この第1,第2の導波路が前記プラズマ室に接続される分岐結合型の形状を有し、
前記第1,第2の導波路は、少なくとも一部が同軸ケーブルおよびこの同軸ケーブルの両端に設けられた変換器から構成される
ことを特徴とする請求項1記載のプラズマ装置。
【請求項3】
前記石英窓から前記変換器、および、前記分岐から前記変換器までの導波路の実効的な電気長は、前記マイクロ波の半波長の整数倍である
ことを特徴とする請求項2記載のプラズマ装置。
【請求項1】
マイクロ波発生源と、
このマイクロ波発生源で発生させたマイクロ波を伝送する導波路と、
この導波路により伝送されたマイクロ波が石英窓を介して導入されるプラズマ室と
を備えたプラズマ装置であって、
前記導波路は、少なくとも一部が、同軸ケーブルおよびこの同軸ケーブルの両端に設けられ前記マイクロ波の伝播モードを変換する変換器から構成される
ことを特徴とするプラズマ装置。
【請求項2】
前記導波路は、
途中で2つの第1,第2の導波路に分岐し、この第1,第2の導波路が前記プラズマ室に接続される分岐結合型の形状を有し、
前記第1,第2の導波路は、少なくとも一部が同軸ケーブルおよびこの同軸ケーブルの両端に設けられた変換器から構成される
ことを特徴とする請求項1記載のプラズマ装置。
【請求項3】
前記石英窓から前記変換器、および、前記分岐から前記変換器までの導波路の実効的な電気長は、前記マイクロ波の半波長の整数倍である
ことを特徴とする請求項2記載のプラズマ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−189731(P2010−189731A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36546(P2009−36546)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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