説明

プリント配線板およびその製造方法

【課題】プリント配線板において、感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物からなる保護層から、環状ジメチルシロキサンオリゴマーのブリードアウトを十分に抑制し、しかも優れた耐メッキを実現する。
【解決手段】テトラカルボン酸二無水物とジフェニルシリレン単位を有するシロキサンジアミンとシロキサン非含有ジアミンとをイミド化して得られるシロキサンポリイミド樹脂と、架橋剤と、光酸発生剤とを含有する感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物の熱硬化物からなる保護層を、プリント配線板の銅または銅合金配線パターンの少なくとも一部の上に形成する。架橋剤として、液状エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン類及びレゾール類からなる群より少なくとも一種を特定量使用し、また感光剤として、光酸発生剤を特定量使用する。プリント配線板の銅または銅合金配線パターンの表面は、粗化処理が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物から形成された保護層を備えたプリント配線板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族テトラカルボン酸と、芳香族ジアミンとをイミド化してなる芳香族系ポリイミド樹脂は、その優れた耐熱性や絶縁性のために、電子部品の層間絶縁膜やカバーレイの材料として広く使用されているが、そのような芳香族系ポリイミド樹脂に対し、優れた可撓性と接着性とが求められるようになっている。このため、芳香族ジアミンの一部をシロキサンジアミンに代え、ポリイミド骨格にシロキサン骨格を導入したシロキサンポリイミド樹脂の使用が増大している。
【0003】
しかしながら、シロキサンポリイミド樹脂の原料であるシロキサンジアミンには、アミノ基を持たない環状ジメチルシロキサンオリゴマーが不純物として含まれているため、製造したシロキサンポリイミド樹脂を層間絶縁膜やカバーレイ等として電子部品に適用した場合、電子部品を半田リフロー工程等の熱処理工程に投入すると、層間−線間絶縁膜やカバーレイの表面にアウトガスとして発生した環状ジメチルシロキサンオリゴマーが再付着またはブリードアウトし、電子部品における接点障害や導電性の低下、接着強度の低下等が生ずるという問題があった。なお、本明細書中において、「ブリードアウト」とは、膜等の固層中から含まれている物質が固層表面に移動し、そこで液化または固化すること、あるいはそこで揮発し拡散する現象を意味する。
【0004】
この問題を解決するために、ジアミン成分として少なくともジアミノシロキサンを含むジアミン化合物とテトラカルボン酸二無水物とをトルエンやエーテル系溶媒中でイミド化反応させる際に、例えば、数回に分けて、揮発する溶媒を系外に排出すると共に、溶媒を補充する方法が提案されている(特許文献1)。この方法によれば、環状ジメチルシロキサンオリゴマーは、溶媒に比べ比較的低沸点であるため、揮発する溶媒と共に、系外に排出され、環状ジメチルシロキサンオリゴマーの濃度が低減されたシロキサンポリイミドワニスが得られるとされている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−263058公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法では、常圧で揮発した溶媒を系外に排出しているため、6量体までのジメチルシロキサンオリゴマーをかなり除去できるが、7量体以上のジメチルシロキサンオリゴマーを十分には除去できないという問題があった。このため、特許文献1の方法で得られたシロキサンポリイミドワニスに、感光剤を混合して感光性を付与するとともに、ポリイミドの架橋剤として広く用いられているシランカップリング剤、エポキシアミン、固形エポキシ樹脂等を配合した場合、得られた感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物をプリント配線板上に成膜し、パターニングし、硬化させて得た薄い保護層(メッキレジストやソルダーレジスト等)から、不純物である環状ジメチルシロキサンオリゴマーがブリードアウトすることを依然として抑制することが困難であるという問題があった。
【0007】
また、このような感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物から形成された保護層を備えたプリント配線板に対しては、保護層で被覆されていない銅または銅合金配線パターン領域(開口エリア)に無電解もしくは電解メッキ層を成長させるためにメッキ処理が施されているが、保護層と銅または銅合金配線パターンとの間の密着が十分とはいえないため、開口エリア周辺部に変色が生じる場合があり、耐メッキ性の向上が求められていた。
【0008】
本発明の目的は、以上の従来の技術の課題を解決しようとするものであり、感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物からなる保護層を有するプリント配線板であって、保護層から、不純物である環状ジメチルシロキサンオリゴマーのブリードアウトが十分に抑制され、しかも優れた耐メッキを示すプリント配線板を提供することがである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ジアミン成分としてジフェニルシリレン単位を有するシロキサンジアミンを使用してシロキサンポリイミド樹脂を調製し、更にそれに特定の種類と量の架橋剤を配合した感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物を使用して保護層を形成することにより環状ジメチルシロキサンオリゴマーのブリードアウトを抑制でき、また、配線板の銅または銅合金配線パターンを予め表面粗化処理しておくと、その上に形成された保護層の耐メッキ性を向上させることができることを見出し、本願発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明は、テトラカルボン酸二無水物とジフェニルシリレン単位を有するシロキサンジアミンとシロキサン非含有ジアミンとをイミド化して得られるシロキサンポリイミド樹脂と、架橋剤と、光酸発生剤とを含有する感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物の熱硬化物からなる保護層が、プリント配線板の銅または銅合金配線パターンの少なくとも一部の上に形成されてなる当該プリント配線板であって、
架橋剤として、液状エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン類及びレゾール類からなる群より選択される少なくとも一種を、シロキサンポリイミド樹脂100質量部に対し1〜20質量部使用し、感光剤として、光酸発生剤をシロキサンポリイミド樹脂100質量部に対し5〜30質量部使用し、
銅または銅合金配線パターンの表面が、表面粗化処理されていることを特徴とするプリント配線基板を提供する。
【0011】
また、本発明は、上述のプリント配線板の製造方法であって、
プリント配線板の銅または銅合金配線パターンの表面を、表面粗化処理し、
表面粗化処理された銅または銅合金配線パターンの少なくとも一部の上に、テトラカルボン酸二無水物とジフェニルシリレン単位を有するシロキサンジアミンとシロキサン非含有ジアミンとをイミド化して得られるシロキサンポリイミド樹脂と、架橋剤と、光酸発生剤とを含有する感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物を成膜し、露光、現像してパターニングし、ポストべークにより熱硬化させて保護層を形成し、更に必要に応じて無電解メッキまたは電解メッキを施すプリント配線板の製造方法において、
架橋剤として、液状エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン類及びレゾール類からなる群より選択される少なくとも一種を、シロキサンポリイミド樹脂100質量部に対し1〜20質量部使用し、感光剤として、光酸発生剤をシロキサンポリイミド樹脂100質量部に対し5〜30質量部使用することを特徴とする製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ジアミン成分としてジフェニルシリレン単位を有するシロキサンジアミンを使用し、更に感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物からなる薄膜等の保護層に、特定の熱硬化性の架橋剤による三次元構造が形成されるので、その三次元構造中に不純物である環状ジメチルシロキサンオリゴマーが捕捉され、その結果、環状ジメチルシロキサンオリゴマーのブリードアウトを防止乃至抑制することができ、更に熱硬化により良好な耐メッキ性が得られる。また、感光剤として酸発生剤を特定量含有しているので、シロキサンポリイミド樹脂組成物がポジ型感光性となり、露光、アルカリ現像によりパターニングが可能となる。
【0013】
また、プリント配線板の銅または銅合金配線パターンが、予め表面粗化処理されているので、銅または銅合金配線パターンと保護層との間の密着性を高めることができ、保護層の耐メッキ性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明のプリント配線板の保護層を形成するための感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物は、テトラカルボン酸二無水物とジフェニルシリレン単位を有するシロキサンジアミンとシロキサン非含有ジアミンとをイミド化して得られるシロキサンポリイミド樹脂100質量部と、液状エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン類及びレゾール類からなる群より選択される少なくとも一種の架橋剤1〜20質量部と、感光剤として光酸発生剤5〜30質量部とを含有する。
【0015】
まず、感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物の主成分であるシロキサンポリイミド樹脂について説明する。このシロキサンポリイミド樹脂は、ジアミン成分として、ジフェニルシリレン単位を有するジアミノシロキサンを使用するので、環状ジメチルシロキサンオリゴマーの発生量を低減することができる。
【0016】
本発明で使用するシロキサンポリイミド樹脂の構成単位となるテトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,4,3′,4′−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、4,4′‐オキシジフタル酸二無水物、3,4,3′,4′−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、9,9−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)フルオレン二無水物、9,9−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]フルオレン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4′−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビストリメリート二無水物、2,2−ビス(4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン二無水物等を挙げることができる。中でも、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物を好ましく使用できる。
【0017】
また、本発明で使用するシロキサンポリイミド樹脂の構成単位となるシロキサンジアミンとしては、少なくとも分子内にジメチルシリレン骨格を有する化合物であり、従来より、ポリイミド樹脂のシロキサン変性に用いられているものを使用できる。中でも、難燃性、相溶性確保の点から以下の式(1)の構造を有するものを好ましく使用できる。
【0018】
【化1】

【0019】
式(1)中、nは1〜30の整数、好ましくは1〜20の整数であり、mは1〜20の整数、好ましくは1〜10の整数である。mが1以上であるから、式(1)のシロキサンジアミンはジフェニルシリレン骨格を有することになり、シロキサンポリイミド樹脂の難燃性が向上する。しかも、mが1以上であるので、不純物である環状ジメチルシロキサンオリゴマーのブリードアウトをある程度抑制することが可能となる。このようなシロキサンジアミンの具体例としては、信越化学工業株式会社製のX−22−9409(m>1)を挙げることができる。なお、シロキサンジアミンとして、アミノ基がtert−ブトキシカルボニル基などのカルバメート系、フタロイル基などのイミド系、p−トルエンスルホニル基などのスルホンアミド系により保護されているものも使用できる。
【0020】
本発明で使用するシロキサンポリイミド樹脂の構成単位となるシロキサン非含有ジアミンとしては、分子内にジメチルシリレン骨格およびジフェニルシリレン骨格を持たないジアミンを使用することができ、その具体例としては、3,3′−ジアミノ−4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)へキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3′−ジアミノ−4,4′−ジヒドロキシジフェニルメタン、3,3′−ジヒドロキシ‐4,4′−ジアミノビフェニル、2,4−ジアミノフェノール、9,9−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン等のジアミノフェノール誘導体;p−フェニレンジアミン、4,4′−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2′−ビス(トリフルオロメチル)−4,4′−ジアミノビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′−ジアミノベンズアニリド、5,5′−メチレン‐ビス(アントラニック酸)、9,9−ビス[4−(4−アミノフェノキシフェニル)]フルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェノキシ)フルオレン、4,4′−ジアミノジフェニルスルホン、3,4′−ジアミノジフェニルエーテル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4′−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、o−トリジンスルホン等の芳香族ジアミン;trans−1,4−シクロヘキサンジアミン、cis−1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等の脂肪族ジアミンを挙げることができるが、これらに限定されるものではないものの、好ましくはジアミノフェノール誘導体、特に、3,3′−ジアミノ−4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホンを挙げることができる。
【0021】
本発明で使用するシロキサンポリイミド樹脂は、溶媒中でテトラカルボン酸二無水物とジフェニルシリレン単位を有するシロキサンジアミンと必要に応じてシロキサン非含有ジアミンとを、還流条件下でイミド化反応させることにより製造できるが、以下の工程(a)及び(b)を有する製造方法により得ることもできる。
【0022】
工程(a)
まず、溶媒中でテトラカルボン酸二無水物とジフェニルシリレン単位を有するシロキサンジアミンとを還流条件下でイミド化反応させて酸無水物末端シロキサンイミドオリゴマーを含む反応混合物を得る。
【0023】
酸無水物末端シロキサンイミドオリゴマーを得るためには、シロキサンジアミンよりも第1のテトラカルボン酸二無水物のモル量を多くすればよい。ただし、シロキサンジアミンの使用量は、全テトラカルボン酸二無水物1モルに対し、少なすぎると接着性、可撓性の維持が困難になる傾向があり、多すぎると耐熱性が低下する傾向があるので、好ましくは、0.1〜0.9モル、より好ましくは、0.3〜0.8モルである。
【0024】
工程(a)において、イミド化反応を還流条件下で行う理由は、ディーンスタ−ク分離管等を用いてイミド化水を除くためである。従って、溶媒としては、テトラカルボン酸二無水物とシロキサンジアミンとの間のイミド化反応が生ずる温度で還流する溶媒であって、共沸により水を分離できる溶媒を使用する。このような溶媒としては、ジグライム、トリグライム等のグライム類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒や、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等のラクトン系溶媒、それらの混合物を使用することができる。また、発明の効果を損なわない限り、トルエン、キシレン、ベンゼン、メシチレン等の芳香族炭化水素系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン等のアミド系溶媒を併用してもよい。本工程(a)では、還流温度等の点から好ましくはグライム類と芳香族炭化水素溶媒との混合溶媒、中でもトリグライムと、ベンゼン、トルエン、キシレン及びメシチレンからなる群より選択される少なくとも一種との混合溶媒(w/w=1/(0.1〜10))を好ましく使用できる。
【0025】
工程(a)における溶媒の使用量は、溶媒や反応基質の種類により異なるが、少なすぎるとモノマー分散不良や還流効率の低下を引き起こし、多すぎると溶媒の気化熱が大きくなり反応槽内の温度が上がりにくくなるので、テトラカルボン酸二無水物とシロキサンジアミンとの合計の質量が5〜60質量%となる量で使用することが好ましい。
【0026】
イミド化反応の反応温度は、溶媒や反応基質の種類や使用量により異なるが、低すぎるとイミド化反応が完結せず、高すぎるとイミド化反応以外の副反応が生じる可能性があるので、好ましくは150〜220℃、より好ましくは160〜200℃である。反応時間は、理論量のイミド化水を除去するに要した時間であり、通常0.5〜12時間、好ましくは1〜8時間である。
【0027】
なお、工程(a)におけるイミド化の際に、必要に応じてトリエチルアミン等の3級アミン、芳香族系イソキノリン、ピリジン等の塩基性触媒や、安息香酸、パラヒドロキシ安息香酸などの酸触媒を添加してもよい。
【0028】
工程(b)
工程(a)の反応終了後、工程(a)で得られた酸無水物末端シロキサンイミドオリゴマーの溶液に、シロキサン非含有ジアミンを添加し、シロキサン非含有ジアミンと酸無水物末端シロキサンイミドオリゴマーとをイミド化反応させ、それによりシロキサンポリイミド樹脂を得る。この場合、必要に応じてシロキサン非含有ジアミンと共に、先に使用したものと同じ又は異なるテトラカルボン酸二無水物を添加してもよい。また、必要に応じて溶媒を添加してもよい。これによりポリイミド固形分濃度を調整する事が可能となる。溶媒としては、工程(a)で用い得るものを使用できる。特に、シロキサンポリイミド樹脂をワニスとして使用する場合には、コーティング時の吸湿によるポリイミド析出を防ぐために、比較的吸湿性の低い溶媒であるエーテル系溶媒、ラクトン系溶媒、非極性溶媒などを単独、または混合して使用することができる。特に、本工程(b)では、トリグライム(別名:トリエチレングリコールジメチルエーテル)とγ−ブチロラクトンとの混合溶媒(w/w=1/(0.1〜10))を好ましく使用できる。
【0029】
シロキサン非含有ジアミンの使用量は、機械特性が十分な保護層を得るための分子量を確保するために、シロキサンジアミンと合算したモル数が、全テトラカルボン酸二無水物1モルに対して、好ましくは0.1〜0.9モル、より好ましくは0.3〜0.8モルとなる量である。
【0030】
なお、工程(b)におけるイミド化の際に、工程(a)の場合と同様に、必要に応じてトリエチルアミン等の3級アミン、芳香族系イソキノリン、ピリジン等の塩基性触媒や、安息香酸、パラヒドロキシ安息香酸などの酸触媒を添加してもよい。
【0031】
工程(b)におけるイミド化反応温度に関し、工程(b)においては極性基を有する酸二無水物やジアミン成分を使用した場合には、ワイゼルベルグ効果により生成したシロキサンポリイミド樹脂の粘度が増大し、撹拌棒の周囲に巻き付く現象が生ずることがある。生成したシロキサンポリイミド樹脂の粘度の増大を避けるためには、反応系中に水を存在させることが好ましい。この場合、水の量が少なすぎると増粘する危険性が高まり、多すぎるとポリイミドの分子量が低下する恐れがあるので、反応混合物中に0.01〜1.1質量%の割合で水を存在させることが好ましい。
【0032】
工程(b)におけるイミド化の際の反応温度は、溶媒や反応基質の種類や使用量により異なるが、低すぎるとイミド化反応が完結せず、高すぎるとイミド化反応以外の副反応が生じる可能性があるので、好ましくは、150〜220℃、より好ましくは、160〜200℃である。反応時間は、通常0.5〜12時間、好ましくは、1〜8時間である。これにより、環状ジメチルシロキサンオリゴマーの含有量が少ないシロキサンポリイミド樹脂がワニス状態で得られる。
【0033】
次に、感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物で使用する架橋剤について説明する。架橋剤は、文字通り、それ自身が加熱により重合硬化して三次元架橋構造を形成するものである。このため、三次元構造中に不純物の環状ジメチルシロキサンオリゴマーを閉じこめ、そのブリードアウトを抑制乃至防止することができる。
【0034】
このような架橋剤としては、シロキサンポリイミド樹脂に対し相溶性を有する、液状エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン類及びレゾール類からなる群より選択される少なくとも一種が挙げられる。特に、環状シロキサンの揮発・拡散を防ぐ点から、液状エポキシ樹脂とベンゾオキサジン類とを同時に併用、または液状エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン類及びレゾール類とを同時に併用することができる。ここで、液状エポキシ樹脂の重合は、シロキサンポリイミド樹脂に残存するアミノ基が加熱によりアニオン重合開始点となり進行する。ベンゾオキサジン類の重合は、加熱によりオキサジン環が開環してメチレニウムカチオンとフェノール性のオキソニウムアニオンが生成し、メチレニウムカチオンがベンゼン環に対し求核置換重合して進行する。レゾール類の場合は、フェノール性水酸基がベンゼン環に対し加熱により脱水縮合重合することで進行する。
【0035】
このような液状エポキシ樹脂及びレゾール類としては、シロキサンポリイミド樹脂に対し良好な相溶性を有するように、好ましくは1〜100000mPa.s、より好ましくは1〜50000mPa・sである。ここで、粘度は、25℃でB型粘度計により測定した値である。他方、ベンゾオキサジン類は、通常、常温では固体であるが、軟化点が高すぎるとシロキサンポリイミド樹脂に対する相溶性が低下するので約100℃以下のものが好ましい。
【0036】
架橋剤として使用する液状エポキシ樹脂の好ましい具体例としては、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(jER807、ジャパンエポキシレジン株式会社等)、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(jER828、ジャパンエポキシレジン株式会社等)、脂環式エポキシ樹脂(セロキサイド2021、ダイセル化学工業株式会社等)、グリシジルアミン型エポキシ樹脂(iER604、ジャパンエポキシレジン株式会社;GAN、日本化薬株式会社等)などが挙げられる。中でも、入手の容易さの点から、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を好ましく使用できる。
【0037】
架橋剤として使用するベンゾオキサジン類の好ましい具体例としては、以下の式(1)のビスフェノールS型ベンゾオキサジン、式(2)のビスフェノールF型ベンゾオキサジン、式(3)のビスフェノールA型ベンゾオキサジン(いずれも小西化学工業株式会社)を挙げることができる。中でも、入手の容易さの点から、ビスフェノールF型ベンゾオキサジンを好ましく使用できる。
【0038】
【化2】

【0039】
また、架橋剤として使用するレゾール類の好ましい具体例としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物を触媒として用いて得たアルカリレゾール樹脂、アンモニアを触媒として用いて得たアンモニアレゾール樹脂、2価金属塩を触媒として用いて得たハイオルソレゾール樹脂等が挙げられる。中でも、入手の容易さの点からアルカリレゾール樹脂を好ましく使用することができる。
【0040】
本発明で使用する感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物中の架橋剤の含有量は、シロキサンポリイミド樹脂100質量部に対し、架橋剤1〜20質量部、好ましくは1〜15質量部、より好ましくは1〜10質量部である。架橋剤の含有量がこの範囲を下回ると環状シロキサンの揮発・拡散の抑制効果が不充分となり、超えると可撓性に乏しくなり、膜が硬くなる傾向があるので好ましくない。
【0041】
なお、架橋剤として液状エポキシ樹脂とベンゾオキサジン類とを同時に併用した場合、液状エポキシ樹脂1質量部に対しベンゾオキサジン類を好ましくは0.5〜10質量部の割合で使用する。ベンゾオキサジン類が少なすぎると環状シロキサンの揮発・拡散の抑制効果が不充分となり、多すぎると可撓性に乏しくなり、膜が硬くなる傾向があるからである。また、液状エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン類及びレゾール類とを同時に併用する場合、液状エポキシ樹脂1質量部に対しベンゾオキサジン類を好ましくは0.5〜10質量部、レゾール類を好ましくは0.5〜10質量部の割合で使用する。レゾール類が少なすぎると環状シロキサンの揮発・拡散の抑制効果が不充分となり、多すぎると可撓性に乏しくなり、膜が硬くなる傾向があるからである。
【0042】
次に、感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物で使用する光酸発生剤について説明する。光酸発生剤は、それを含有するシロキサンポリイミド樹脂組成物の薄膜が紫外線などに露光したときに、薄膜中で分解して酸を発生し、薄膜をアルカリ現像可能とする特性を組成物に付与するものであり、感光剤として使用されている。
【0043】
このような光酸発生剤としては、ジアゾニウム塩、ジアゾキノンスルホン酸アミド、ジアゾキノンスルホン酸エステル、ジアゾキノンスルホン酸塩、ニトロベンジルエステル、オニウム塩、ハロゲン化物、ハロゲン化イソシアネート、ハロゲン化トリアジン、ビスアリールスルホニルジアゾメタン、ジスルホン等が挙げられる。中でも、未露光部の水溶性を抑制する効果を有するo−キノンジアジド化合物を好ましく使用できる。o−キノンジアジド化合物の具体例としては、1,2−ベンゾキノン−2−アジド−4−スルホン酸エステル又はスルホン酸アミド、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホン酸エステル又はスルホン酸アミド、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホン酸エステル又はスルホン酸アミド等が挙げられる。これらは、例えば、1,2−ベンゾキノン−2−アジド−4−スルホニルクロリド、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−5−スルホニルクロリド、1,2−ナフトキノン−2−ジアジド−4−スルホニルクロリド等のo−キノンジアジドスルホニルクロリド類とポリヒドロキシ化合物又はポリアミン化合物を脱塩酸触媒の存在下で縮合反応することによって得ることができる。
【0044】
本発明で使用する感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物中の光酸発生剤の含有量は、シロキサンポリイミド樹脂100質量部に対し、5〜30質量部、好ましくは5〜20質量部である。光酸発生剤の含有量がこの範囲を下回ると十分な感度が得られず、超えると樹脂組成物の耐熱性が低下する傾向があるので好ましくない。
【0045】
本発明で使用する感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物には、必要に応じて金属不活性剤、消泡剤、防錆剤、有機溶媒等の公知の添加剤を配合することができる。
【0046】
本発明で使用する感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物は、シロキサンポリイミド樹脂、架橋剤、感光剤、その他の添加剤や溶媒とを常法により均一に混合することにより製造することができる。
【0047】
本発明で使用する感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物を熱硬化させて得た保護層(メッキレジストやソルダーレジスト等)は、従来のシロキサンポリイミド樹脂の場合と異なり、環状ジメチルシロキサンオリゴマーのブリードアウトが大きく抑制されたものとなる。
【0048】
本発明のプリント配線板は、上述の感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物の熱硬化物である保護層が、プリント配線板の銅または銅合金配線パターンの少なくとも一部の上に形成された当該プリント配線板であって、銅または銅合金配線パターンの表面が、表面粗化処理されていることを特徴とするものである。このため、銅または銅合金配線パターンの表面には保護層のアンカーとなる微少な凹凸が形成され、その結果、保護層の密着性が高まり、耐メッキ性が向上する。
【0049】
そのような表面粗化処理としては、無機微粒子の水性スラリーを用いたウェットブラスト処理や、銅または銅合金用の化学エッチング剤を用いたいわゆる化学研磨処理が好ましく挙げられる。また、粗化のレベルは、現像性との両立の観点から、好ましくはRa(平均表面粗さ)が50〜500nmである。
【0050】
ウェットブラスト処理で使用する水性スラリーに分散させる研磨剤となる無機微粒子としては、アルミナ粒子、シリカ粒子、ジルコニア粒子、樹脂粒子等が挙げられる。中でも、入手の容易さの点でアルミナ粒子を好ましく使用することができる。
【0051】
これらの無機微粒子の平均粒径は、小さすぎると水性スラリー中で分散し難くなり、大きすぎると銅また銅配線パターンの表面に微妙な凹凸を形成し難くなるので、好ましくは1〜200μm、より好ましくは2〜100μmである。
【0052】
これらの無機微粒子は、水性スラリーとして使用されるが、媒体として水以外に、水混和性の有機溶媒(メタノール、エタノール、アセトン等)を併用することができる。また、水性スラリーには、公知の分散安定剤を配合することができる。
【0053】
ウェットブラスト処理では、水性スラリーを圧縮空気でプリント配線板に向かって、通常80〜200m/秒の速度で噴射することが好ましい。
【0054】
好ましい化学研磨処理としては、硫酸と過酸化水素水とアゾール系防錆剤と芳香属系過酸化水素分解抑制剤と含有するエッチング剤を用いたものが挙げられる。ここで、アゾール系防錆剤としては、イミダゾール系化合物、トリアゾール系化合物、テトラゾール系化合物等が挙げられる。また、芳香族系過酸化水素分解抑制剤としては、ベンゼンスルホン酸類、例えば、トルエンスルホン酸、フェノールスルホン酸などを添加することができる。なお、このような化学研磨処理により、銅または同合金表面にアゾール系防錆剤や芳香属系過酸化水素分解抑制剤が化学的にもしくは物理的に結合し有機物である保護層との間の密着性をより向上させるものと考えられる。
【0055】
硫酸のエッチング液(1リットル)中の含有量は、少なすぎるとエッチング速度が遅く、多すぎても配合量に見合う効果がえられないので、好ましくは50〜300gである。過酸化水素のエッチング液中の含有量は、少なすぎるとエッチング速度が遅く、多すぎると均一なエッチングが困難になるので、好ましくは硫酸100g当たり10〜30質量%である。
【0056】
化学研磨処理では、エッチング液を室温〜50℃に維持しつつ、プリント配線板の銅または銅合金配線パターン面にスプレーすることや、撹拌したエッチング液にプリント配線板を浸漬することが好ましい。
【0057】
本発明のプリント配線板は、いわゆるフレキシブルプリント配線板、ガラスエポキシ配線板、積層プリント配線板等を対象とすることができる。また、銅または銅合金パターンとしても、従来のセミアディティブ法やビルトアップ法で形成された任意の厚みのものを適用することができる。
【0058】
また、プリント配線板の保護層の形成位置は、銅または銅合金配線パターンの少なくとも一部の上である。配線パターンが露出している場合には、保護層と配線パターンとの境界が存在するので、保護層の耐メッキ性の向上効果を確認することが容易となる。なお、保護層が配線パターンの全面を覆った場合には、それらの間に境界ができることを想定できなくなるので、耐メッキ性の向上効果を確認することが困難となる。
【0059】
上説明した本発明のプリント配線板は、次のように製造することができる。まず、プリント配線板の銅または銅合金配線パターンの表面を前述したように表面粗化処理する。次に、表面粗化処理した配線パターン上にバーコーター、ロールコータ、コンマコータ、あるいはスクリーン印刷機等を用いて、本発明の感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物を塗布し、50〜100℃で乾燥して成膜し、その膜を露光マスクを介して紫外線などの活性エネルギー線を照射して露光させ、水酸化ナトリウム水溶液等を用いるアルカリ現像により露光部を除去してパターニングし、その後120〜250℃に加熱するポストべークにより熱硬化させることにより保護層を形成し、更に、必要に応じて、無電解ニッケルメッキ等の無電解メッキを施しあるいは電解メッキを施すことにより製造することができる。
【実施例】
【0060】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。
【0061】
参考例1(架橋剤を含有する感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物)
(1)シロキサンポリイミド樹脂の製造
ディーンスタークトラップを備えたポリイミド樹脂用合成装置の反応容器に、862.65g(0.639mol)のジアミノシロキサン(ジアミノジフェニル/ジメチルシロキサン(アミン当量675g/mol)、商品名;X−22−9409、信越化学工業株式会社製)と、363.6g(1.01mol)の3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(リカシッドDSDA、新日本理化株式会社製;純度99.6%)と、547gのトリグライムと、200gのトルエンとを投入し、混合物を2時間十分に攪拌した。その後、185℃まで昇温させ、2時間その温度を保ち、ディーンスタークトラップで水を回収しながら、反応液を還流攪拌した。
【0062】
得られた反応混合物を、酸化皮膜が除去されたシリコンウェハー上に塗布し、100℃で10分間乾燥させFT−IR透過法によって末端官能基の同定を行った。1780cm−1付近にイミドカルボニルの吸収が出現し、1860cm−1付近に環状酸無水物カルボニル伸縮振動の吸収が確認できたことから酸無水物末端シロキサンオリゴマーの生成が確認できた。
【0063】
反応混合物を80℃まで放冷し、101.44g(0.361mol)の3,3′−ジアミノ−4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン(BSDA、小西化学工業株式会社製;純度99.7%)を投入し、室温で12時間攪拌した。攪拌後、185℃まで昇温し、その温度で2時間加熱攪拌した。その後、室温まで冷却し、ジフェニルシリレン単位含有シロキサンポリイミド樹脂のワニスを得た。
【0064】
(2)感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物の調製
シロキサンポリイミド樹脂のワニスに、感光剤(4NT−300、東洋合成工業株式会社)を10phrと、金属不活性剤(防錆剤)(CDA−10、株式会社ADEKA)を0.3phrと、架橋剤として液状エポキシ樹脂(jER807、ジャパンエポキシレジン社)を0.5phrと、ベンゾオキサジン(BF−BXZ、小西化学株式会社)を5phrと、レゾール樹脂(BRL−274、昭和高分子株式会社)を2phrとを加えて室温で均一に混合して感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物を得た。ここで、phrの意味は、ポリイミド固形分を100質量部としたときの添加量(質量部)である。
【0065】
参考例2(架橋剤を含有しない感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物)
架橋剤である液状エポキシ樹脂(jER807、ジャパンエポキシレジン株式会社)と、ベンゾオキサジン(BF−BXZ、小西化学株式会社)と、レゾール樹脂(BRL−274、昭和高分子株式会社)とを使用しないこと以外、参考例1と同様に、シロキサンポリイミド樹脂を取得し、更に、感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物を得た。
【0066】
参考例3(ウェットブラストにより物理的に粗化処理された配線板の作成)
絶縁層厚25μm及び銅厚12μmの銅張積層板(ユピセルN、宇部日東化成株式会社)の銅表面を、マコー株式会社のウェットブラストシステム(http://www.macoho.co.jp/参照)を用いて、以下の条件(WB1)で表面粗化処理し、物理的に粗化処理された配線板を得た(平均面粗さRa:73.95nm)。
【0067】
(WB1条件)
研磨剤: アルミナ微粒子
中心粒径: 6.7μm
水性スラリー中研磨剤濃度: 14体積%
使用ガン: 幅広タイプ
処理速度: 1.8m/分
投射距離: 20mm
投射角度: 90度
エアー圧:0.15Mpa
【0068】
参考例4(ウェットブラストにより物理的に粗化処理された配線板の作成)
エアー圧を0.25MPaとすること以外(WB2条件)は、参考例3を繰り返すことにより、物理的に粗化処理された配線板を得た(平均面粗さRa:100.7nm)。
【0069】
参考例5(化学的に粗化処理された配線板の作成)
絶縁層厚25μm及び銅厚12μmの銅張積層板(ユピセルN、宇部日東化成株式会社)の銅表面に対し、まず、酸性洗浄液(CB−7612、メック株式会社)の10倍希釈液(液温25℃)をスプレーし、水道水をスプレーし、4%苛性ソーダ水溶液(40℃)をスプレーし、純水をスプレーし、エッチング液(25℃)(BO7770VP、メック株式会社)にプレディップし、エッチング液(25℃)(BO7770VP、メック株式会社)に本ディップし、純水をスプレーし、エアーナイフ(50℃)で水切りを行い、熱風(80℃)ブロアーにより乾燥することにより銅表面が化学的に粗化処理された配線板を得た(エッチング量:約0.5μm)。
【0070】
参考例6(化学的に研磨処理した配線板の作成)
絶縁層厚25μm及び銅厚12μmの銅張積層板(ユピセルN、宇部日東化成株式会社)の銅表面を、まず、ソフトエッチング液(CPE−755、三菱ガス化学株式会社)の10倍希釈液(液温30℃)に浸漬し、続いて5%硫酸に浸漬した。その後、純水で洗浄し、エアーナイフで水切りを行い、熱風(50℃)ブロアーにより乾燥し、銅表面が化学的に研磨処理された配線板を得た。
【0071】
実施例1〜6及び比較例1〜3
表1に示す組み合わせに従い、参考例1又は2の感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物を、参考例3〜6の配線板に、バーコーターを用いて仮乾燥後で10μmとなるように塗布し、80℃で10分間乾燥した。この樹脂組成物膜に対し、露光マスクを介して紫外線(条件2500mJ/cm)を照射して露光を行った。露光後、基板を3質量%の水酸化ナトリウム水溶液に40℃で60秒分間浸漬して、樹脂組成物膜の露光部を除去して現像した。基板を30℃の水で60秒間洗浄し、10質量%の室温の希硫酸水溶液に10秒間酸洗浄し、更に、室温の蒸留水で120秒水洗した。その後、窒素雰囲気下でポストべーク(200℃、60分間)を行い、樹脂組成物膜を熱硬化させ、保護層を備えた配線板を得た。
【0072】
<環状ジメチルシロキサンのブリードアウトの抑制効果評価>
実施例及び比較例の配線板から幅4mmで長さ50mmの大きさのサンプルを、樹脂組成物膜が存在している箇所から切り出し、50ml/分の流速のヘリウムガス流通下で、260℃で15分間加熱することで、サンプルから揮発性成分をパージし、他方でその揮発成分を−20℃でTenax−TA捕集管にトラップした。続いて、トラップした成分を所定の条件下でヘリウムガス流中に気化させ、そのヘリウムガスをGC−MS装置(JAS100、JAI社)に導入し、環状ジメチルシロキサン量を定量した。得られた結果を表1に示す。
【0073】
<耐メッキ性の評価>
実施例及び比較例の配線板の露出した銅表面に、電解直金メッキを行うことにより金メッキ膜(0.03μm厚)を形成した。または、電解ニッケル/金メッキを行うことにより、銅表面が露出した露光部に、硬質Ni(3μm)/金メッキ(0.05μm厚)を形成した。得られた、電解メッキ処理され且つ保護層を備えた実施例及び比較例の配線板における電解メッキ領域の周縁の保護層の変色の様子を目視にて評価した。変色しない場合を良(G)と評価し、僅かでも変色した場合を不良(NG)と評価した。
【0074】
【表1】

*1: 感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物
*2: 配線板
*3: 参考例2のシロキサンポリイミド樹脂組成物
*4: 参考例1のシロキサンポリイミド樹脂組成物
*5: 参考例6の化学的に研磨処理された配線板
*6: 参考例3のウェットブラスト処理により物理的に粗化処理された配線板
*7: 参考例4のウェットブラスト処理により物理的に粗化処理された配線板
*8: 参考例5の化学的に粗化処理された配線板
【0075】
表1から明らかなように、参考例3〜5の表面粗化処理した配線板に、参考例1の架橋剤を含有する特有のシロキサンポリイミド樹脂組成物の熱硬化物からなる三次元架橋構造を有する保護層を備えた実施例1〜6の配線板は、環状ジメチルシロキサンオリゴマーのブリードアウトが抑制されており、しかも耐メッキ性にも優れていることがわかる。
【0076】
他方、参考例6の従来の化学研磨処理した配線板に、架橋剤を含有しない参考例2の感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物を使用して得た保護層を備えた比較例1の配線板は、環状ジメチルシロキサンオリゴマーのブリードアウトが抑制されておらず、しかも耐メッキ性にも問題があることわかる。参考例1の感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物を使用して得た保護層を備えた比較例3の配線板は、環状ジメチルシロキサンオリゴマーのブリードアウトが抑制されておらず、また、耐メッキ性にも依然として問題があることがわかる。逆に、比較例1の場合に対し、架橋剤を含有する参考例1の感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物を使用して得た保護層を備えた比較例2の配線板は、環状ジメチルシロキサンオリゴマーのブリードアウトが抑制されていたが、比較例1よりは耐メッキ性は改善されていたものの、比較例3、更には実施例1〜6に比べ、耐メッキ性に問題があったことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の保護層を備えたプリント配線板においては、ジアミン成分としてジフェニルシリレン単位を有するシロキサンジアミンを使用し、更に感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物からなる薄膜等の保護層に、特定の熱硬化性の架橋剤による三次元構造が形成されるので、環状ジメチルシロキサンオリゴマーのブリードアウトを抑制もしくは防止することができ、更に熱硬化により良好な耐メッキ性が得られる。更に、プリント配線板の銅または銅合金配線パターンが、予め表面粗化処理されているので、銅または銅合金配線パターンと保護層との間の密着性を高めることができ、保護層の耐メッキ性がいっそう向上している。従って、接続信頼性の高いプリント配線板として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラカルボン酸二無水物とジフェニルシリレン単位を有するシロキサンジアミンとシロキサン非含有ジアミンとをイミド化して得られるシロキサンポリイミド樹脂と、架橋剤と、光酸発生剤とを含有する感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物の熱硬化物からなる保護層が、プリント配線板の銅または銅合金配線パターンの少なくとも一部の上に形成されてなる当該プリント配線板であって、
架橋剤として、液状エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン類及びレゾール類からなる群より選択される少なくとも一種を、シロキサンポリイミド樹脂100質量部に対し1〜20質量部使用し、感光剤として、光酸発生剤をシロキサンポリイミド樹脂100質量部に対し5〜30質量部使用し、
銅または銅合金配線パターンの表面が、表面粗化処理されていることを特徴とするプリント配線基板。
【請求項2】
架橋剤が、液状エポキシ樹脂および/またはベンゾオキサジン類、または液状エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン類およびレゾール類である請求項1記載のプリント配線板。
【請求項3】
液状エポキシ樹脂の粘度が、1〜100000mPa.sである請求項1または2記載のプリント配線板。
【請求項4】
テトラカルボン酸二無水物が、3,3′,4,4′−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物である請求項1〜3のいずれかに記載のプリント配線板。
【請求項5】
ジフェニルシリレン単位を有するシロキサンジアミンが、式(1)
【化1】

(式中、nは1〜30の整数であり、mは1〜20の整数である。)
の構造を有する請求項1〜4のいずれかに記載のプリント配線板。
【請求項6】
シロキサン非含有ジアミンが、ジアミノフェノール誘導体である請求項1〜5のいずれかに記載のプリント配線板。
【請求項7】
ジアミノフェノール誘導体が、3,3′−ジアミノ−4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホンである請求項6記載のプリント配線板。
【請求項8】
ポリシロキサンポリイミド樹脂が、テトラカルボン酸二無水物とシロキサンジアミンとシロキサン非含有ジアミンとの反応混合物を、0.01〜1.1質量%の水の存在下でイミド化することにより得られたものである請求項1〜7のいずれかに記載のプリント配線板。
【請求項9】
光酸発生剤が、o−キノンジアジド化合物である請求項1〜8のいずれかに記載のプリント配線板。
【請求項10】
請求項1記載のプリント配線板の製造方法であって、
プリント配線板の銅または銅合金配線パターンの表面を、表面粗化処理し、
表面粗化処理された銅または銅合金配線パターンの少なくとも一部の上に、テトラカルボン酸二無水物とジフェニルシリレン単位を有するシロキサンジアミンとシロキサン非含有ジアミンとをイミド化して得られるシロキサンポリイミド樹脂と、架橋剤と、光酸発生剤とを含有する感光性シロキサンポリイミド樹脂組成物を成膜し、露光、現像してパターニングし、ポストべークにより熱硬化させて保護層を形成するプリント配線板の製造方法において、
架橋剤として、液状エポキシ樹脂、ベンゾオキサジン類及びレゾール類からなる群より選択される少なくとも一種を、シロキサンポリイミド樹脂100質量部に対し1〜20質量部使用し、感光剤として、光酸発生剤をシロキサンポリイミド樹脂100質量部に対し5〜30質量部使用することを特徴とする製造方法。
【請求項11】
表面粗化処理が、水性スラリーを用いたウェットブラスト処理である請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
表面粗化処理が、エッチング剤を用いた化学研磨処理である請求項10記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−80878(P2010−80878A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250581(P2008−250581)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】