説明

ベルト式無段変速機及び変速機制御装置

【課題】内燃機関の燃料の消費量の増加を抑制すること。
【解決手段】ベルト式無段変速機は、プーリ油圧室内の作動油の温度の低下量であって、プーリ油圧室内の作動油の排出が禁止された状態からプーリ油圧室内の作動油の排出が許可された状態に切り替えられた時を起算点とした作動油の温度の低下量に基づいて、プーリ油圧室からの作動油の排出が禁止される状態への切り替えを禁止する作動油閉じ込み手段を備える。これにより、ベルト式無段変速機は、内燃機関の燃料の消費量の増大を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ベルト式無段変速機及び変速機制御装置に関し、さらに詳しくは、油圧室内の作動油の圧力によって変速比が調節されるベルト式無段変速機及び変速機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧室に作動油を供給し、その作動油の圧力によって変速比が調節されるベルト式無段変速機がある。例えば、特許文献1には、油圧室の外部から油圧室への作動油の供給を許可する供給側弁と、可動シーブの固定シーブに対する軸方向における位置を一定とする際に油圧室から外部への作動油の排出を禁止する排出側制御弁とを備えるベルト式無段変速機が開示されている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−300270号公報、段落番号0008
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、可動シーブの固定シーブに対する軸方向の位置が一定となる場合以外に、油圧室からの作動油の排出の禁止と許可とを切り替える具体的な場合が開示も示唆もされていない。しかしながら、油圧室からの作動油の排出の禁止と許可とを切り替える場合によっては、内燃機関の燃料の消費量の増加を十分に抑制できないおそれがある。
【0005】
例えば、油圧室からの作動油の排出の禁止と許可との切り替えが頻繁に発生すると、油圧室からの作動油の排出の禁止と許可とを切り替えるために必要な動力が増大する。ここで、通常、前記動力は、内燃機関から取り出される回転から得られる。結果として、従来のベルト式無段変速機は、油圧室からの作動油の排出の禁止と許可との切り替えが頻繁に発生すると内燃機関の燃料の消費量の増加の抑制が不十分になるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、内燃機関の燃料の消費量の増加を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るベルト式無段変速機は、内燃機関から取り出された回転が入力されて回転軸を軸として回転するシャフトと、前記シャフトに連結されて前記回転軸を軸として回転する固定シーブと、前記固定シーブと対向して前記シャフトに設けられて前記回転軸方向に前記シャフト上を移動する可動シーブと、前記シャフトに設けられて、前記可動シーブに対して作動油の圧力によって前記回転軸方向の力を与えるプーリ油圧室と、前記プーリ油圧室内の前記作動油の温度の低下量であって、前記プーリ油圧室内の前記作動油の排出が禁止された状態から前記プーリ油圧室内の前記作動油の排出が許可された状態に切り替えられた時を起算点とした前記作動油の温度の低下量に基づいて、前記プーリ油圧室からの前記作動油の排出が禁止される状態への切り替えを禁止する作動油閉じ込み手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るベルト式無段変速機は、プーリ油圧室からの作動油の排出が禁止されている状態から、プーリ油圧室からの作動油の排出が許可された状態に切り替えられた後、プーリ油圧室内の作動油の温度の低下量が不十分な場合、プーリ油圧室からプーリ油圧室の外部への作動油の排出が禁止された状態への切り替えを禁止する。つまり、本発明に係るベルト式無段変速機は、プーリ油圧室内の作動油の温度の低下量が十分な場合にのみ、プーリ油圧室からプーリ油圧室の外部への作動油の排出が禁止された状態への切り替えを許可する。
【0009】
ここで、プーリ油圧室内の作動油の温度の低下量が十分な場合とは、プーリ油圧室内に再度作動油を閉じ込めても、プーリ油圧室内で作動油の温度が適切な温度を超えるまでの時間を十分に確保できる場合である。ここで、プーリ油圧室内で作動油の温度が適切な温度を超えるまでの時間を十分に確保できる場合とは、プーリ油圧室からの作動油の排出の許可と禁止との切り替えが頻繁に発生することを抑制できる場合である。
【0010】
これにより、本発明に係るベルト式無段変速機は、プーリ油圧室内の作動油の温度が適切な温度を超えるまでの時間の減少を抑制できる。よって、本発明に係るベルト式無段変速機は、プーリ油圧室からの作動油の排出の許可と禁止との切り替えが頻繁に発生することを抑制できる。結果として、本発明に係るベルト式無段変速機は、シャフトに入力される回転を発生させる内燃機関の燃料の消費量の増大を抑制できる。
【0011】
本発明の好ましい態様としては、前記作動油閉じ込み手段は、前記起算点から経過した時間に基づいて、前記起算点からの前記作動油の温度の低下量を推定することが望ましい。
【0012】
本発明の好ましい態様としては、前記作動油閉じ込み手段は、前記起算点よりも後に前記プーリ油圧室に導かれた作動油の流量に基づいて、前記起算点からの前記作動油の温度の低下量を推定することが望ましい。
【0013】
本発明の好ましい態様としては、前記作動油閉じ込み手段は、前記プーリ油圧室に導かれる前記作動油の温度に基づいて、前記起算点からの前記作動油の温度の低下量を推定することが望ましい。
【0014】
本発明の好ましい態様としては、前記作動油閉じ込み手段は、前記起算点から経過した時間に基づいて推定された前記作動油の温度の低下量と、前記起算点よりも後に前記プーリ油圧室に導かれた作動油の流量に基づいて推定された前記作動油の温度の低下量と、前記起算点よりも後に前記プーリ油圧室に導かれた作動油の流量に基づいて推定された前記作動油の温度の低下量と、に基づいて、前記プーリ油圧室からの前記作動油の排出が禁止される状態への切り替えを禁止することが望ましい。
【0015】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る変速機制御装置は、内燃機関から取り出された回転が入力されて回転軸を軸として回転するシャフトと、前記シャフトに連結されて前記回転軸を軸として回転する固定シーブと、前記固定シーブと対向して前記シャフトに設けられて前記回転軸方向に前記シャフト上を移動する可動シーブと、前記シャフトに設けられて、前記可動シーブに対して作動油の圧力によって前記回転軸方向の力を与えるプーリ油圧室とを備えるベルト式無段変速機を制御する変速機制御装置であって、前記プーリ油圧室内の前記作動油の温度の低下量であって、前記プーリ油圧室内の前記作動油の排出が禁止された状態から前記プーリ油圧室内の前記作動油の排出が許可された状態に切り替えられた時を起算点とした前記作動油の温度の低下量に基づいて、前記プーリ油圧室からの前記作動油の排出が禁止される状態への切り替えを禁止することを特徴とする。
【0016】
本発明に係る変速機制御装置は、プーリ油圧室からの作動油の排出が禁止されている状態から、プーリ油圧室からの作動油の排出が許可された際に、プーリ油圧室内の作動油の温度の低下量が十分な場合に、プーリ油圧室からプーリ油圧室の外部への作動油の排出を許可する。
【0017】
これにより、本発明に係る変速機制御装置は、プーリ油圧室内の作動油の温度が適切な温度を超えるまでの時間の減少を抑制できる。よって、本発明に係る変速機制御装置は、プーリ油圧室からの作動油の排出の許可と禁止との切り替えが頻繁に発生することを抑制できる。結果として、本発明に係る変速機制御装置は、シャフトに入力される回転を発生させる内燃機関の燃料の消費量の増大を抑制できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るベルト式無段変速機及び変速機制御装置は、内燃機関の燃料の消費量の増加を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この発明を実施するための最良の形態(以下実施形態という)によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。
【0020】
図1は、本実施形態に係るベルト式無段変速機を備えた車両の動力伝達部分における全体の構成を示す概念図である。図1に示すように、車両100の動力伝達機構は、ベルト式無段変速機110と、内燃機関120と、トルクコンバータ130と、前後進切換機構140と、減速装置150と、差動装置160と、を備える。
【0021】
内燃機関120は、円筒形状に形成されるシリンダの中心軸方向にピストンが往復運動し、前記ピストンの往復運動を回転運動に変換するクランクシャフト121から回転を出力する。
【0022】
なお、内燃機関120は、ピストンとシリンダとを備えるいわゆるレシプロ式の内燃機関に限定されない。内燃機関120は、回転力を出力できるものであればよく、例えば、内燃機関120は、ロータリー式の内燃機関でもよいし、モータでもよい。
【0023】
トルクコンバータ130は、流体クラッチの一種であり、内燃機関120から取り出された回転を作動油を介して前後進切換機構140に伝える。また、トルクコンバータ130は内燃機関120から取り出されたトルクを増幅する。
【0024】
前後進切換機構140は、トルクコンバータ130からの回転の回転方向を切り替えてベルト式無段変速機110へ前記回転を伝える。
【0025】
ベルト式無段変速機110は、前後進切換機構140から入力される回転の回転速度を所望の回転速度に変更して出力する。なお、ベルト式無段変速機110の詳細な説明は後述する。
【0026】
減速装置150は、ベルト式無段変速機110からの回転の回転速度を減速して差動装置160に前記回転を伝える。
【0027】
差動装置160は、車両100が旋回する際に生じる旋回の中心側、つまり内側の車輪180と、外側の車輪180との回転速度の差を吸収する。
【0028】
上記構成要素によって車両100の動力伝達機構は形成される。内燃機関120から取り出された回転は、クランクシャフト121を介してトルクコンバータ130に伝えられる。トルクコンバータ130によってトルクが増幅された回転は、ベルト式無段変速機110の入力軸としてのインプットシャフト131を介して前後進切換機構140に伝えられる。
【0029】
前後進切換機構140によって回転方向が切り替えられた回転は、入力側のシャフトとしてのプライマリシャフト51を介してベルト式無段変速機110に伝えられる。ベルト式無段変速機110によって、回転速度を変更された回転は、減速装置150に伝えられる。
【0030】
減速装置150によって減速された回転は、減速装置150のファイナルドライブピニオン151と、ファイナルドライブピニオン151に噛み合う差動装置160のリングギア161とを介して差動装置160に伝えられる。
【0031】
差動装置160に伝えられた回転は、ドライブシャフト170に伝達される。差動装置160側とは反対側のドライブシャフト170には、車輪180が取り付けられる。ドライブシャフト170に伝えられた回転は車輪180に伝達される。これにより、車輪180は回転し、車輪180が路面に前記回転を伝達することにより車両100は走行する。
【0032】
ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ50と、セカンダリプーリ60と、ベルト80とを含んで構成される。ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ50に回転が入力される。プライマリプーリ50に入力された回転は、セカンダリプーリ60に伝えられる。この時、前記回転は、その回転速度を調整される。
【0033】
セカンダリプーリ60に伝えられた回転は、減速装置150に伝えられる。なお、入力軸であるプライマリシャフト51の回転速度を出力側のシャフトとしてのセカンダリシャフト61の回転速度で除算した値を変速比という。また、変速比を変更することを、以下、変速という。
【0034】
図2は、本実施形態に係るプライマリプーリを示す断面図である。ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ50とセカンダリプーリ60とが、ほぼ同様に構成される。よって、本実施形態では、プライマリプーリ50を主に説明する。
【0035】
プライマリプーリ50は、プライマリシャフト51と、プライマリ固定シーブ52と、プライマリ可動シーブ53と、プライマリプーリ油圧室54と、スプライン55と、プライマリ隔壁56とを備える。プライマリシャフト51は、図1及び図2に示すように、軸受81、軸受82によってインプットシャフト131の回転軸と同軸上に回転可能に支持される。ここで、セカンダリシャフト61は、図1に示すように、軸受83、軸受84によってプライマリシャフト51に対して平行に回転可能に支持される。
【0036】
プライマリシャフト51は、筒状に形成される。図2に示すように、プライマリシャフト51は、回転軸RLを軸として回転する。プライマリ固定シーブ52は、通常は、プライマリシャフト51と一体に形成される。なお、プライマリ固定シーブ52は、プライマリシャフト51と別個に形成され、プライマリシャフト51に固定して設けられてもよい。このように構成されて、プライマリ固定シーブ52は、回転軸RLを軸にプライマリシャフト51と一体に回転する。ここで、回転軸RLと直交する方向を径方向という。プライマリ固定シーブ52は、プライマリシャフト51の外周から径方向に突出して形成される。
【0037】
プライマリ可動シーブ53は、プライマリシャフト51とは別個に形成される。プライマリ可動シーブ53は、プライマリシャフト51が嵌め込まれる貫通孔を有して形成される。前記貫通孔の内周面には、スプライン55が形成される。プライマリ可動シーブ53は、スプライン55を介してプライマリシャフト51に嵌め込まれて取り付けられる。プライマリ可動シーブ53は、プライマリ固定シーブ52と対向してプライマリシャフト51に嵌め込まれる。
【0038】
スプライン55は、プライマリ可動シーブ53がプライマリシャフト51上をプライマリシャフト51の回転軸RLに沿って摺動できるようにプライマリ可動シーブ53を支持する。加えて、スプライン55は、回転軸RLを軸とする回転をプライマリシャフト51からプライマリ可動シーブ53へ伝える。よって、プライマリ可動シーブ53は、スプライン55により、プライマリシャフト51上をスライドして移動すると共に、プライマリシャフト51と一体に回転する。
【0039】
プライマリ固定シーブ52とプライマリ可動シーブ53との間には、略V字形状のプライマリ溝80aが形成される。また、プライマリ可動シーブ53がプライマリシャフト51上を摺動することにより、プライマリ固定シーブ52とプライマリ可動シーブ53との距離が変化する。ここで、セカンダリプーリ60にも、図1に示すように、プライマリ溝80aと同様のセカンダリ溝80bが形成される。
【0040】
プライマリ溝80aとセカンダリ溝80bとの間には、金属製の無端ベルトであるベルト80が巻き掛けられている。ベルト80は、プライマリプーリ50の回転をセカンダリプーリ60へ伝える。
【0041】
図2に示すように、プライマリプーリ油圧室54は、プライマリシャフト51と、プライマリ可動シーブ53と、プライマリ隔壁56とによって囲まれて形成される空間である。プライマリ隔壁56は、貫通孔を有して形成される。プライマリ隔壁56は、前記貫通孔にプライマリシャフト51が嵌め込まれてプライマリシャフト51に設けられる。プライマリ隔壁56は、プライマリ可動シーブ53を境にして、プライマリ固定シーブ52側とは反対側に設けられる。
【0042】
プライマリプーリ油圧室54は、プライマリプーリ油圧室54に供給される作動油により、プライマリ可動シーブ53をプライマリ固定シーブ52側へ押す。これにより、プライマリシャフト51に沿って、プライマリ可動シーブ53がプライマリ固定シーブ52側へ押される。これにより、プライマリプーリ油圧室54は、プライマリ溝80aに巻き掛けられるベルト80に対して挟圧力を発生させる。
【0043】
前記挟圧力により、プライマリ可動シーブ53とプライマリ固定シーブ52との距離が変化すると、セカンダリプーリ60が備えるセカンダリ固定シーブ62とセカンダリ可動シーブ63との距離もベルト80の張力を一定に保つように変化する。これにより、プライマリプーリ50に対するベルト80の接触半径と、セカンダリプーリ60に対するベルト80の接触半径とが変化する。このようにして、ベルト式無段変速機110は、内燃機関120から取り出された回転を変速する。
【0044】
プライマリシャフト51は、第1油路OL01を有する。第1油路OL01は、一方の端部が作動油の供給元であるオイルタンクOTに接続され、他方の端部がプライマリプーリ油圧室54に開口する。これにより、第1油路OL01は、オイルタンクOTとプライマリプーリ油圧室54との間で作動油を流す。第1油路OL01は、プライマリシャフト51の回転軸RLに沿う方向に形成される複数の軸方向油路OL01aと、回転軸RLと直交する方向に形成される複数の径方向油路OL01bとを含んで形成される。
【0045】
第1油路OL01の経路上には、オイルタンクOTからプライマリプーリ油圧室54に向かって順に、オイルポンプOPと、変速比制御側レギュレータORaと、作動油閉じ込み手段としての作動油閉じ込み装置10とが設けられる。オイルポンプOPは、オイルタンクOTからプライマリプーリ油圧室54に向けて作動油を送る。
【0046】
ここで、オイルポンプOPは、クランクシャフト121から作動するための動力を得ている。よって、オイルポンプOPが消費する動力が増加すると、クランクシャフト121の有するエネルギーが消費される。このエネルギーの消費を補うために、内燃機関120は、燃料の噴射量が増加する。このように、オイルポンプOPが消費する動力が増加すると、内燃機関120の燃料の消費量が増加する。
【0047】
本実施形態では、このオイルポンプOPが消費する動力の増加を抑制して、内燃機関120の燃料の消費量の増加を抑制することを目的とする。なお、内燃機関120の燃料の消費量の増加とは、燃費の悪化と同意である。つまり、ベルト式無段変速機110は、オイルポンプOPが消費する動力の増加を抑制することにより、燃費の悪化を抑制する。
【0048】
変速比制御側レギュレータORaは、プライマリプーリ油圧室54へ供給する作動油の圧力を調節する。また、変速比制御側レギュレータORaは、ECU40と電気的に接続される。なお、変速比制御側レギュレータORaは、プライマリプーリ油圧室54から作動油を排出する際に、オイルタンクOTに作動油を戻す。
【0049】
作動油閉じ込み装置10は、プライマリプーリ油圧室54からの作動油の排出を制御する装置である。作動油閉じ込み装置10は、所定の期間、プライマリプーリ油圧室54からの作動油の排出を禁止する。なお、プライマリプーリ油圧室54からの作動油の排出が禁止されている状態を閉じ込み状態という。また、プライマリプーリ油圧室54からの作動油の排出が許可されている状態を開放状態という。
【0050】
図3は、プライマリプーリ油圧室が閉じ込み状態での作動油閉じ込み装置を拡大して示す断面図である。図4は、プライマリプーリ油圧室が開放状態での作動油閉じ込み装置を拡大して示す断面図である。以下に、作動油閉じ込み装置10の一例を説明する。
【0051】
作動油閉じ込み装置10は、ピストン動作用油圧室11と、シール部12と、弁体13と、ピストン14と、スプリング15とを備える。ピストン動作用油圧室11は、ピストン動作用油圧室11内の作動油の圧力によって、ピストン14に対して押圧力を与える。シール部12は、第1油路OL01内にテーパ面12aを有して形成される。テーパ面12aは、プライマリプーリ油圧室54に近づくほど向かい合うテーパ面同士の距離が大きくなる。
【0052】
シール部12は、開口12bを有する。この開口12bを介して作動油がシール部12を行き来する。弁体13は、球状に形成される。弁体13の直径は、開口12bの直径よりも大きい。弁体13は、シール部12のテーパ面12aとプライマリプーリ油圧室54側から接触する。これにより、弁体13は、開口12bをプライマリプーリ油圧室54側から塞ぐ。
【0053】
ピストン14は、受圧面14aと、棒状部14bとを備える。受圧面14aは、ピストン動作用油圧室11内に配置される。棒状部14bは、第1油路OL01内に配置される。棒状部14bは、一方の端部が、受圧面14aと連結される。また、棒状部14bは、他方の端部が、開口12bを貫通して弁体13と接触する、または連結される。これにより、ピストン14がピストン動作用油圧室11内の作動油の圧力によって、弁体13に近づく方向へ移動すると、ピストン14は、弁体13をシール部12から離れる方向へ押す。
【0054】
スプリング15は、ピストン14に対して弁体13から離れる方向の力を与える。なお、前記力は、ピストン14が、弁体13に近づく方向に動いた後に、その前の状態、つまり、図3に示す閉じ込み状態に戻るために必要な最低限の力である。
【0055】
ピストン動作用油圧室11には、作動油が供給される。以下に、前記作動油の供給経路を説明する。図2に示すように、プライマリシャフト51には、第1油路OL01と別の第2油路OL02が形成される。第2油路OL02は、一方の端部が作動油の供給元であるオイルタンクOTに接続され、他方の端部がピストン動作用油圧室11に開口する。これにより、第2油路OL02は、オイルタンクOTとピストン動作用油圧室11との間で作動油を流す。第2油路OL02は、プライマリシャフト51の回転軸RLに沿う方向に形成される複数の軸方向油路OL02aと、回転軸RLと直交する方向に形成される複数の径方向油路OL02bとを含んで形成される。
【0056】
第1油路OL01の経路上には、オイルタンクOTからプライマリプーリ油圧室54に向かって順に、オイルポンプOPと、閉じ込み制御側レギュレータORbと、作動油閉じ込み装置10とが設けられる。オイルポンプOPは、オイルタンクOTからピストン動作用油圧室11に向けて作動油を送る。
【0057】
閉じ込み制御側レギュレータORbは、ピストン動作用油圧室11に供給する作動油の圧力を調節する。また、閉じ込み制御側レギュレータORbは、後述するECU40と電気的に接続される。なお、閉じ込み制御側レギュレータORbは、ピストン動作用油圧室11から作動油を排出する際に、オイルタンクOTに作動油を戻す。
【0058】
ここで、図3に示すように、受圧面14aの作動油の圧力を受ける面積を受圧面積Apとする。また、シール部12の弁体13と接触する部分は円形であり、前記円形の面積をシール部面積Acvとする。また、ピストン動作用油圧室11内の作動油の圧力を油圧Pcvとし、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の圧力を油圧Psとする。また、スプリング15が発生させる力をスプリング力Fspとする。以下に、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態での各油圧室内の油圧の関係と、プライマリプーリ油圧室54が開放状態での各油圧室内の油圧の関係とを説明する。
【0059】
閉じ込み状態の場合、弁体13は、図3に示すように、シール部12と接触する。これにより、油圧Psの大きさに関係なく、プライマリプーリ油圧室54からの作動油の排出は、作動油閉じ込み装置10により禁止される。
【0060】
プライマリプーリ油圧室54を開放状態にする場合、油圧Pcvと受圧面積Apとの積が油圧Psとシール部面積Acvとの積にスプリング力Fspを加えた値よりも大きくなるように、閉じ込み制御側レギュレータORbによって油圧Pcvが調節される。これにより、弁体13は、図3に示すように、ピストン14によってシール部12から離れる方向に移動する。弁体13がシール部12から離れると、プライマリプーリ油圧室54内の作動油は、開口12bを介してプライマリプーリ油圧室54内から排出される。
【0061】
なお、プライマリプーリ油圧室54が開放状態の場合、作動油は、プライマリプーリ油圧室54内に向かって弁体13とシール部12のテーパ面12aとの間の隙間を流れる。この作動油の流れにより、弁体13がシール部12から離れれば、ピストン14が弁体13から離れても、プライマリプーリ油圧室54の開放状態は保たれる。つまり、ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ油圧室54を開放状態に保つのに油圧Pcvを必要としない。
【0062】
また、ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態にする場合、油圧Pcvと受圧面積Apとの積が、油圧Psとシール部面積Acvとの積にスプリング力Fspを加えた値以下になるように、閉じ込み制御側レギュレータORbによって油圧Psを調節される。
【0063】
ここで、弁体13は、シール部12の開口12bに嵌り込んでいる。よって、ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ油圧室54を開放状態に保つのに油圧Pcvを必要としない。つまり、ベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態から開放状態へ切り替える際、及びプライマリプーリ油圧室54を開放状態から閉じ込み状態に切り替える際に油圧を必要とする。
【0064】
なお、作動油閉じ込み装置10は、上述の構成に限定されない。作動油閉じ込み装置10は、所定の期間、プライマリプーリ油圧室54からの作動油の排出を禁止できる構成であればよい。例えば、図2に示す作動油閉じ込み装置10は、プライマリ隔壁56に設けられているが、第1油路OL01の経路上であれば設置場所は限定されない。作動油閉じ込み装置10は、例えば、プライマリシャフト51に設けられてもよい。
【0065】
ここで、作動油閉じ込み装置10を備えないベルト式無段変速機110の場合、ベルト式無段変速機110の変速比を一定に保つ際は、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の圧力を一定に保つためにオイルポンプOPを作動させる。しかしながら、本実施形態の場合、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態の際は、オイルポンプOPを作動させることなく、プライマリプーリ油圧室54内の圧力が一定に保たれる。つまり、オイルポンプOPを作動させることなく、ベルト式無段変速機110の変速比が一定に保たれる。
【0066】
これにより、閉じ込み状態の間、ベルト式無段変速機110は、オイルポンプOPが消費する動力が減少する。結果として、ベルト式無段変速機110は、内燃機関120の燃料の消費量の増加が抑制される。
【0067】
しかしながら、プライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態の時間が長くなるほど、以下に記すおそれがある。ベルト式無段変速機110は、ベルト80とプライマリ可動シーブ53とが接触する。ここで、ベルト式無段変速機110の稼動時、ベルト80には、プライマリ可動シーブ53に対する相対的な移動、いわゆるすべりが生じる。
【0068】
このすべりにより、プライマリ可動シーブ53とベルト80との間には、摩擦熱が生じる。この摩擦熱は、プライマリ可動シーブ53を介して、プライマリ可動シーブ53を含んで構成されるプライマリプーリ油圧室54内の作動油に伝えられる。
【0069】
また、内燃機関120とベルト式無段変速機110とは、各々を構成する金属部材同士が連結されている。これにより、内燃機関120が発生する熱が、ベルト式無段変速機110に前記金属部材を介して伝えられる。この内燃機関120からベルト式無段変速機110に伝えられる熱も、プライマリシャフト51やプライマリ隔壁56、プライマリ可動シーブ53等を介して、プライマリプーリ油圧室54内の作動油に伝えられる。
【0070】
このように、作動油は、前記摩擦熱や内燃機関120が発生させる熱を受ける。これにより、作動油は、前記熱によって温度が上昇する。なお、以下、前記摩擦熱や内燃機関120が発生させる熱等、作動油が受ける熱を単に熱という。
【0071】
プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態の場合、プライマリプーリ油圧室54内の作動油はプライマリプーリ油圧室54から排出されない。また、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態の場合、プライマリプーリ油圧室54内には、新しい作動油が供給されない。よって、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態の間、プライマリプーリ油圧室54内の作動油は、冷却されることなく前記熱によって温度が上昇する。
【0072】
作用油の温度が上昇すると、通常、作動油は膨張する。よって、プライマリプーリ油圧室54内の作動油も、前記熱によって温度が上昇すると膨張する。しかし、プライマリプーリ油圧室54は閉じ込み状態であるため、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度が上昇するとプライマリプーリ油圧室54内の作動油の圧力が上昇する。
【0073】
よって、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態中に作動油の温度が上昇すると、プライマリ可動シーブ53がプライマリ固定シーブ52に近づく方向へ移動する。つまり、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態中に作動油の温度が上昇すると、ベルト式無段変速機110は変速比がベルト式無段変速機110が目標とする変速比からずれる。
【0074】
なお、ベルト式無段変速機110が目標とする変速比とは、車両100の走行条件からECU40が算出した変速比であって、ここでは、内燃機関120の燃料の消費量を抑制することを目的とした変速比である。
【0075】
結果として、ベルト式無段変速機110は、内燃機関120の燃料の消費量が増大するおそれがある。なお、ベルト式無段変速機110が目標とする変速比とは、車両100の走行条件からECU40が算出したベルト式無段変速機110が目標とすべき変速比である。
【0076】
プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の上昇を抑制するには、プライマリプーリ油圧室54を開放状態にすればよい。これにより、プライマリプーリ油圧室54内の作動油はプライマリプーリ油圧室54から排出され、プライマリプーリ油圧室54内に新しい作動油が導かれる。つまり、プライマリプーリ油圧室54内の作動油が新しい作動油に入れ替えられる。
【0077】
しかしながら、むやみにプライマリプーリ油圧室54を開放状態にすると以下に記すおそれがある。例えば、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度は実際には上昇しておらず、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の入れ替えが不必要な時期、つまり最適ではない時期に、プライマリプーリ油圧室54を開放状態にするおそれがある。これにより、プライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態と開放状態とが頻繁に切り替えられるおそれがある。
【0078】
プライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態と開放状態との切り替えが頻繁に発生すると、プライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態と開放状態との切り替えに必要な油圧の分、オイルポンプOPを動作させるために必要な動力が増加する。結果として、ベルト式無段変速機110は、内燃機関120の燃料の消費量が十分に抑制できないおそれがある。
【0079】
また、プライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態と開放状態との切り替えが頻繁に発生すると、ピストン14の移動回数が増える。すると、棒状部14bと弁体13との衝突回数も増加し、弁体13が摩耗して変形するおそれがある。また、弁体13とシール部12との衝突により、弁体13とシール部12とが摩耗して弁体13とシール部12とが変形するおそれがある。
【0080】
これにより、ベルト式無段変速機110は、弁体13とシール部12との間に予期しない隙間ができる。この隙間を作動油が流れて、ベルト式無段変速機110は、閉じ込み状態が正しく保たれない。
【0081】
これによって、ベルト式無段変速機110は、実際の変速比とベルト式無段変速機110が目標とする変速比とのずれ量が増大し、オイルポンプOPを動作させるために必要な動力が増加する。結果として、ベルト式無段変速機110は、内燃機関120の燃料の消費量が十分に抑制できないおそれがある。
【0082】
このように、作動油閉じ込み装置を備えるベルト式無段変速機110では、内燃機関120の燃料の消費量の増大を抑制するためには、プライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態と開放状態との切り替えの時期が重要な要素となる。よって、本実施形態のベルト式無段変速機110は、プライマリプーリ油圧室54が開放状態にされてから、次にプライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態にされる際に、プライマリプーリ油圧室54を最適な時期に閉じ込み状態にすることによって、内燃機関120の燃料の消費量の増大を抑制する。
【0083】
ベルト式無段変速機110は以下に記す構成と制御手順とを備える。ベルト式無段変速機110は、図2に示す作動油流量センサD02と、図1に示す作動油温度センサD01と、変速比センサD03と、ECU40に組み込まれて構成される変速機制御装置20とを備える。
【0084】
図2に示す作動油流量センサD02は、変速比制御側レギュレータORaとプライマリプーリ油圧室54との間の第1油路OL01に設けられる。作動油流量センサD02は、プライマリプーリ油圧室54へ導かれる作動油の流量を検出する。作動油流量センサD02は、ECU40と電気的に接続される。これにより、ECU40は作動油流量センサD02からプライマリプーリ油圧室54へ導かれる作動油の流量を取得する。
【0085】
図1に示す作動油温度センサD01は、ベルト式無段変速機110の作動油が溜められるオイルパンに設けられて、前記オイルパン内の作動油の温度を検出する。作動油温度センサD01は、ECU40と電気的に接続される。これにより、ECU40は作動油温度センサD01からベルト式無段変速機110内の作動油の温度を取得する。
【0086】
変速比センサD03は、入力側回転速度センサD03aと、出力側回転速度センサD03bとを含んで構成される。入力側回転速度センサD03aは、プライマリシャフト51に設けられて、プライマリシャフト51の回転速度を検出する。出力側回転速度センサD03bは、セカンダリシャフト61に設けられて、セカンダリシャフト61の回転速度を検出する。入力側回転速度センサD03a及び出力側回転速度センサD03bは、ECU40と電気的に接続される。これにより、ECU40は、変速比センサD03からベルト式無段変速機110の現在の変速比を取得する。
【0087】
図5は、本実施形態に係る変速機制御装置の構成を示す概念図である。ECU40は、図1に示す内燃機関120、図2に示す変速比制御側レギュレータORa、閉じ込み制御側レギュレータORb等と電気的に接続され、これら内燃機関120、変速比制御側レギュレータORa、閉じ込み制御側レギュレータORb等の制御対象の動作を制御する。
【0088】
ECU40は、例えば、内燃機関120のインジェクタ、点火プラグ、電子スロットル弁の開度を調節するアクチュエータ等とも電気的に接続される。これにより、ECU40は、インジェクタの燃料噴射量及び燃料噴射時期、点火プラグの点火時期、電子スロットル弁の開度等を制御する。つまり、ECU40は、インジェクタ、点火プラグ、電子スロットル弁等を制御することにより、内燃機関120から取り出されるトルクを制御する。
【0089】
また、ECU40は、図1に示す作動油温度センサD01、入力側回転速度センサD03a、出力側回転速度センサD03b、図2に示す作動油流量センサD02、その他にも内燃機関120の各検出手段類に電気的に接続され、これらの検出手段から各種の情報を取得する。
【0090】
図5に示すように、変速機制御装置20は、ECU40の中央演算装置Epに組み込まれて構成されている。ECU40は、中央演算装置Epと、記憶部Emと、入力ポートINp及び出力ポートOUTpと、入力インターフェースIFin及び出力インターフェースIFoutとから構成される。なお、ECU40とは別個に、変速機制御装置20を用意し、これをECU40に接続してもよい。
【0091】
変速機制御装置20は、情報取得部21と、比較判定部22と、演算部23と、変速比制御部24と、閉じ込み制御部25と、を含んで構成される。情報取得部21は、図2に示す作動油流量センサD02、図1に示す作動油温度センサD01、入力側回転速度センサD03a、出力側回転速度センサD03b等の検出手段が検出した結果、後述する記憶部Emに格納された情報、機関制御部26が有する情報、等を取得する。
【0092】
比較判定部22は、情報取得部21が各検出手段から得た数値や記憶部Emから取得した数値を比較する。演算部23は、情報取得部21が取得した数値に対して演算を行う。演算部23は、例えば、中央演算装置Epが有するカウンタに対して加算等の演算を行う。
【0093】
変速比制御部24は、プライマリシャフト51の回転速度が、目標とする回転速度になるように、ベルト式無段変速機110の変速比を制御する。閉じ込み制御部25は、図2に示す作動油閉じ込み装置10の動作を制御する。
【0094】
中央演算装置Epは、変速機制御装置20に加えて、機関制御部26を有する。機関制御部26は、内燃機関120の運転制御を行う。中央演算装置Epと記憶部Emとは、バスBcとにより接続される。中央演算装置Epと入力ポートINpとは、バスBaとにより接続される。中央演算装置Epと出力ポートOUTpとは、バスBbとにより接続される。
【0095】
変速機制御装置20の情報取得部21は、機関制御部26が有する内燃機関120の運転制御データを取得し、これを利用する。また、変速機制御装置20は、ベルト式無段変速機110の変速比を制御する手順を、機関制御部26があらかじめ備えている内燃機関120の運転制御ルーチンに割り込ませてもよい。
【0096】
入力ポートINpには、入力インターフェースIFinが接続されている。入力インターフェースIFinには、図1に示す作動油温度センサD01、入力側回転速度センサD03a、出力側回転速度センサD03b、図2に示す作動油流量センサD02、その他各種検出手段が接続されている。
【0097】
これらの各種検出手段から出力される信号は、入力インターフェースIFin内のアナログ/デジタルコンバータADCやディジタル入力バッファDIBにより、中央演算装置Epが利用できる信号に変換されて入力ポートINpへ送られる。これにより、中央演算装置Epは、ベルト式無段変速機110の変速比の制御や、内燃機関120の制御に必要な情報を取得できる。
【0098】
出力ポートOUTpには、出力インターフェースIFoutが接続されている。出力インターフェースIFoutには、変速比制御側レギュレータORa、閉じ込み制御側レギュレータORbが接続される。また、出力インターフェースIFoutには、内燃機関120のインジェクタ、点火プラグ、電子スロットル弁のアクチュエータ、その他内燃機関120における制御対象が接続されている。
【0099】
出力インターフェースIFoutは、制御回路IFouta、制御回路IFoutb、制御回路IFoutc等を備えており、中央演算装置Epで演算された制御信号に基づき、前記制御対象を動作させる。このような構成により、前記検出手段からの出力信号に基づき、ECU40の中央演算装置Epは、変速比制御側レギュレータORa、閉じ込み制御側レギュレータORb、インジェクタ、点火プラグ、電子スロットル弁を制御して、ベルト式無段変速機110の変速比及び内燃機関120の出力を制御する。
【0100】
記憶部Emには、ベルト式無段変速機110の変速比を制御する手順を含むコンピュータプログラムや制御データマップが格納されている。記憶部Emは、RAM(Random Access Memory)のような揮発性のメモリ、フラッシュメモリ等の不揮発性のメモリ、あるいはこれらの組み合わせにより構成できる。
【0101】
上記コンピュータプログラムは、中央演算装置Epへ既に記録されているコンピュータプログラムとの組み合わせによって、ベルト式無段変速機110の変速比を制御する手順を実現できるものであってもよい。また、この変速機制御装置20は、前記コンピュータプログラムの代わりに専用のハードウェアを用いて、同等の機能を実現するものであってもよい。
【0102】
図6は、本実施形態に係るベルト式無段変速機の作動油閉じ込み装置を制御する手順を示すフローチャートである。以下に示す手順は、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられた後に、再度プライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態とするか否かを判定する手順である。
【0103】
ステップST101で、情報取得部21は、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態であるか開放状態であるかの情報である開閉情報を記憶部Emから取得する。次にステップST102で、比較判定部22は、ステップST101で情報取得部21が取得した開閉情報に基づいてプライマリプーリ油圧室54が開放状態であるか否かを判定する。
【0104】
なお、記憶部Emに開閉情報が記憶されていない場合、比較判定部22は、作動油流量センサD02が検出したプライマリプーリ油圧室54に導かれる作動油の流量に基づいてプライマリプーリ油圧室54が開放状態であるか否かを判定してもよい。例えば、プライマリプーリ油圧室54に導かれる作動油の流量が0の場合、比較判定部22は、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態であると判定する。
【0105】
なお、記憶部Emに開閉情報が記憶されていない場合、比較判定部22は、変速比センサD03が取得した変速比の変化に基づいてプライマリプーリ油圧室54が開放状態であるか否かを判定してもよい。例えば、変速比に変化がない場合、つまり変速比が固定されている場合、比較判定部22は、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態であると判定する。
【0106】
但し、変速比が固定されている場合であっても、プライマリプーリ油圧室54が必ずしも閉じ込み状態であるとは限らない。よって、比較判定部22は、プライマリプーリ油圧室54に導かれる作動油の流量と、変速比の変化との両方に基づいて、プライマリプーリ油圧室54が開放状態であるか否かを判定した方がより正確にプライマリプーリ油圧室54の開閉状態を判定できる。
【0107】
また、作動油流量センサD02と変速比センサD03とのうちの一方の検出手段に不具合が生じた場合であっても、他方の検出手段が検出した検出結果に基づいて、比較判定部22は、プライマリプーリ油圧室54が開放状態であるか否かを判定できる。
【0108】
プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態の場合(ステップST102、No)、プライマリプーリ油圧室54が開放状態になるまで、変速機制御装置20は、ステップST101の内容とステップST102の内容とを繰り返し実行する。
【0109】
ステップST102で、プライマリプーリ油圧室54が開放状態である場合(ステップST102、Yes)、ステップST103で、比較判定部22は、現在のプライマリプーリ油圧室54の開放状態が、閉じ込み状態からの切り替え直後であるか否かを判定する。
【0110】
現在のプライマリプーリ油圧室54の開放状態が、閉じ込み状態からの切り替え直後である場合(ステップST103、Yes)、ステップST104で、演算部23は、カウントCTのカウントアップを0から開始する。ここで、カウントCTは、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられた時を起算点としたときの、前記起算点から経過した時間である。また、演算部23は、ステップST104で、プライマリプーリ油圧室54に導かれる作動油の流量である作動油流量Qoのカウントアップを0から開始する。
【0111】
現在のプライマリプーリ油圧室54の開放状態が、閉じ込み状態からの切り替え直後ではない場合、つまり、現在のプライマリプーリ油圧室54の開放状態が、プライマリプーリ油圧室54の開放状態の維持による場合(ステップST103、No)、ステップST105で、演算部23は、現在のカウントCTを更新する。演算部23によって更新されたカウントCTは、記憶部Emに記憶される。
【0112】
また、演算部23は、ステップST105で、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられた時を起算点としたときの、前記起算点からの作動油流量Qoを更新する。具体的には、演算部23は、情報取得部21が作動油流量センサD02から取得した現在の作動油流量を、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられてから順次加算していくことで、作動油流量Qoを算出する。演算部23によって更新された作動油流量Qoは、記憶部Emに記憶される。
【0113】
演算部23によって、ステップST103の内容またはステップST104の内容が実行されると、次にステップST106で、比較判定部22は、閉じ込み制御部25がベルト式無段変速機110に対してプライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態にするか否かの情報である閉じ込み要求情報を記憶部Emから取得する。
【0114】
ここで、閉じ込み要求情報は、図6に示す手順とは別の手順である閉じ込み判定手順によってプライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態にすべきか否かを判定され、記憶部Emに記憶されている。ここで、以下に前記閉じ込み判定手順の一例を説明する。
【0115】
比較判定部22は、例えば、ベルト式無段変速機110の変速比や、車両100の車速や、内燃機関120か取り出されるトルクや、車両100の駆動力等に基づいてプライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態にすべきか否かを判定する。
【0116】
次に、ステップST107で、比較判定部22は、ステップST106で情報取得部21が取得した閉じ込み要求情報に基づいて、プライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態にする要求である閉じ込み要求があるか否かを判定する。閉じ込み要求がない場合、つまり、比較判定部22が、プライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態にすべきではないと判定した場合(ステップST107、No)、閉じ込み要求がある(ステップST107、Yes)まで、変速機制御装置20は、ステップST101からステップST107までの内容を繰り返し実行する。
【0117】
ステップST107で、閉じ込み要求があると判定されると(ステップST107、Yes)、ステップST108で、情報取得部21は、現在のカウントCTを記憶部Emから取得する。次に、ステップST109で、比較判定部22は、カウントCTが所定値a以上であるか否かを判定する。
【0118】
ここで、所定値aは、ベルト式無段変速機110の作動油の温度が、環境温度にまで低下したと考えられる時間である。ここで、環境温度とは、ベルト式無段変速機110が作動中の一般的なオイルパン内の作動油の温度であって、ベルト式無段変速機110の動作に不都合が生じない範囲の温度である。環境温度は、例えば、80度から120度である。
【0119】
上述したように、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態の間、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度は上昇する。そこで、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度が適切な温度を超えた場合に、プライマリプーリ油圧室54は閉じ込み制御部25によって開放状態にされる。
【0120】
これにより、プライマリプーリ油圧室54内の作動油はプライマリプーリ油圧室54から排出されてベルト式無段変速機110のオイルパンに戻される。これにより、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度は、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態であったときよりも低下する。
【0121】
しかしながら、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態の時にプライマリプーリ油圧室54内で熱を受けて温度が上昇した作動油が、オイルパン内の作動油と混ざり合うことにより、オイルパン内の作動油の温度が上昇する。なお、以下、オイルパン内の作動油の温度をベルト式無段変速機110全体での作動油の温度として作動油温度Toとする。
【0122】
よって、閉じ込み要求があるからといって、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられて十分な間隔をおかずにプライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態にされると、作動油は、十分に温度が低下していない状態で再度プライマリプーリ油圧室54内に導かれる。
【0123】
よって、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられて十分な間隔をおかずにプライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態にされると、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度が適切な温度を超えるまでの時間が減少する。
【0124】
なお、適切な温度とは、プライマリプーリ油圧室54内で作動油の温度が上昇し、作動油が膨張することによって生じる実際の変速比とベルト式無段変速機110が目標とする変速比との差による、車両100が走行する際に内燃機関120の燃料の消費量の増大量が問題にならない範囲の値である。所定値aは、例えば、80度〜120度の値である。
【0125】
ここで、ベルト式無段変速機110に対する閉じ込み要求がある場合でも、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられて十分な間隔をおかずにプライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態にされると、プライマリプーリ油圧室54の閉じ込み状態と開放状態との切り替えが頻繁に発生する。
【0126】
そこで、本実施形態では、変速機制御装置20は、閉じ込み要求があった場合に、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられて所定の時間である所定値aが経過してからプライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態にする。
【0127】
つまり、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられてから経過した時間に基づいて、起算点からのプライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量を推定する。
【0128】
ここで、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられてから経過した時間が長くなるほど、より多くの作動油がプライマリプーリ油圧室54から排出され、より多くの新しい作動油がプライマリプーリ油圧室54内に導かれている。よって、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられてから経過した時間が長くなるほど、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量は大きくなる。
【0129】
プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられてから経過した時間と、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量とは、上述の関係にある。よって、変速機制御装置20は、この関係をマップや演算式として有し、前記マップや前記演算式を用いて、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられてから経過した時間からプライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量を推定する。
【0130】
変速機制御装置20は、このようにして推定したプライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量が十分な場合に、プライマリプーリ油圧室54の開放状態から閉じ込み状態への切り替えを許可する。
【0131】
上述したように、所定値aは、ベルト式無段変速機110の作動油の温度が、環境温度にまで低下したと考えられる範囲の時間であって、結果として、プライマリプーリ油圧室54の開放状態と閉じ込み状態との切り替えが頻繁に発生することを抑制できる範囲の時間となる。
【0132】
つまり、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54の開放状態と閉じ込み状態との切り替えが頻繁に発生することを抑制するために、ステップST109で、カウントCTと所定値aとを比較することにより、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量が十分か否かを判定する。
【0133】
カウントCTが所定値aよりも小さいと判定されると(ステップST109、No)、カウントCTが所定値a以上であると判定される(ステップST109、Yes)まで、変速機制御装置20は、ステップST101からステップST109までの内容を繰り返し実行する。
【0134】
カウントCTが所定値a以上であると判定されると(ステップST109、Yes)、ステップST110で、情報取得部21は、現在の作動油温度Toを作動油温度センサD01から取得する。次に、ステップST111で、比較判定部22は、作動油温度Toが所定値b以下であるか否かを判定する。
【0135】
ここで、所定値bは、上述の環境温度である。つまり、所定値bは、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度が適切な温度を超えるまでの時間の減少が抑制できる温度である。変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54の開放状態と閉じ込み状態との切り替えが頻繁に発生することを抑制するのにあたって、ステップST111で、作動油温度Toと所定値bとを比較することにより、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量が十分か否かを判定する。
【0136】
つまり、変速機制御装置20は、オイルパン内の作動油の現在の温度である作動油温度Toに基づいて、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量を推定する。ここで、オイルパン内の作動油の現在の温度である作動油温度Toが低いほど、プライマリプーリ油圧室54はより温度の低い新しい作動油がオイルパンから供給される。よって、オイルパン内の作動油の現在の温度である作動油温度Toが低いほど、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量は大きくなる。
【0137】
オイルパン内の作動油の現在の温度である作動油温度Toと、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量とは、上述の関係にある。よって、変速機制御装置20は、この関係をマップや演算式として有し、前記マップや前記演算式を用いて、オイルパン内の作動油の現在の温度である作動油温度Toからプライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量を推定する。
【0138】
なお、オイルパン内の作動油は、プライマリプーリ油圧室54内の作動油よりも温度の変化が小さい。これは、オイルパン内の作動油の量がプライマリプーリ油圧室54内の作動油の量よりも大きいため、オイルパン内の作動油の方が熱容量が大きいためである。よって、作動油温度Toは、正確に前記起算点での温度でなくてもよい。作動油温度Toは、前記起算点の前後での温度であっても、前記起算点での温度に近似した温度であればよい。
【0139】
変速機制御装置20は、このようにして推定したプライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量が十分な場合に、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54の開放状態から閉じ込み状態への切り替えを許可する。
【0140】
作動油温度Toが所定値bよりも大きいと判定されると(ステップST111、No)、作動油温度Toが所定値b以下であると判定される(ステップST111、Yes)まで、変速機制御装置20は、ステップST101からステップST111までの内容を繰り返し実行する。
【0141】
作動油温度Toが所定値b以下であると判定されると(ステップST111、Yes)、ステップST112で、情報取得部21は、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態へと切り替えられてからの作動油流量Qoを記憶部Emから取得する。次に、ステップST113で、比較判定部22は、作動油流量Qoが所定値c以上であるか否かを判定する。
【0142】
ここで、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態へと切り替えられると、プライマリプーリ油圧室54内には、新たな作動油が導かれる。前記新たな作動油の温度は、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態の間、プライマリプーリ油圧室54内に閉じ込められていた作動油の温度よりも低い。
【0143】
よって、前記新たな作動油がプライマリプーリ油圧室54内に導かれると、前記新たな作動油とプライマリプーリ油圧室54内の作動油とが混ざりあう。これにより、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度は低下する。このように、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度は、前記新たな作動油の量が多ければ多いほど、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態であった時よりも低下する。
【0144】
所定値cは、プライマリプーリ油圧室54内に前記新たな作動油が所定値c以上導かれることにより、適切な温度以下になったと判定できる流量である。なお、前記適切な温度とは、上述したように、プライマリプーリ油圧室54内で作動油の温度が上昇して作動油が膨張することによって生じる実際の変速比とベルト式無段変速機110が目標とする変速比との差による、車両100が走行する際に内燃機関120の燃料の消費量の増大量が問題にならない範囲の温度である。
【0145】
変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54の開放状態と閉じ込み状態との切り替えが頻繁に発生することを抑制するのにあたって、ステップST113で、作動油流量Qoと所定値cとを比較することにより、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量が十分か否かを判定する。
【0146】
つまり、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられてからプライマリプーリ油圧室54に導かれた作動油の流量である作動油流量Qoに基づいて、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量を推定する。
【0147】
ここで、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられてからプライマリプーリ油圧室54に導かれた作動油の流量である作動油流量Qoが大きいほど、より多くの作動油がプライマリプーリ油圧室54から排出され、より多くの新しい作動油がプライマリプーリ油圧室54内に導かれている。
【0148】
よって、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられてからプライマリプーリ油圧室54に導かれた作動油の流量である作動油流量Qoが大きいほど、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量は大きくなる。
【0149】
プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられてからプライマリプーリ油圧室54に導かれた作動油の流量である作動油流量Qoと、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量とは、上述の関係にある。よって、変速機制御装置20は、この関係をマップや演算式として有し、前記マップや前記演算式を用いて、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられてからプライマリプーリ油圧室54に導かれた作動油の流量である作動油流量Qoからプライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量を推定する。
【0150】
変速機制御装置20は、このようにして推定したプライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度の低下量が十分な場合に、プライマリプーリ油圧室54の開放状態から閉じ込み状態への切り替えを許可する。
【0151】
作動油流量Qoが所定値cよりも小さいと判定されると(ステップST113、No)、作動油流量Qoが所定値c以上であると判定される(ステップST113、Yes)まで、変速機制御装置20は、ステップST101からステップST113までの内容を繰り返し実行する。
【0152】
作動油流量Qoが所定値c以下であると判定されると(ステップST113、Yes)、ステップST114で、閉じ込み制御部25は、プライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態にする。具体的には、閉じ込み制御部25は、閉じ込み制御側レギュレータORbを制御して、油圧Pcvと受圧面積Apとの積が、油圧Psとシール部面積Acvとの積にスプリング力Fspを加えた値以下になるように、油圧Psを調節する。
【0153】
次に、ステップST115で、演算部23は、記憶部Emに記憶されているカウントCTと作動油流量Qoをリセットする。変速機制御装置20は、以上のステップST101からステップST115の内容を繰り返し実行する。
【0154】
ここで、ステップST108の内容とステップST109の内容とをまとめて、ステップSTAとする。ステップSTAは、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられてから所定の時間が経過するまでは、プライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態にはしないための判定手順である。
【0155】
変速機制御装置20は、ステップSTAにより、ベルト式無段変速機110の作動油の温度が、環境温度にまで低下したかを判定し、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度が適切な温度を超えるまでの時間の減少を抑制する。結果として、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54の開放状態と閉じ込み状態との切り替えが頻繁に発生することを抑制して、内燃機関120の燃料の消費量の増大を抑制する。
【0156】
また、変速機制御装置20は、ステップSTAにより、ベルト式無段変速機110の作動油の温度には関係なく、単にプライマリプーリ油圧室54の開放状態と閉じ込み状態との切り替えが頻繁に発生することを抑制することもできる。つまり、所定値aの値を大きくすればするほど、プライマリプーリ油圧室54が開放状態から閉じ込み状態へと切り替えられるまでの時間は長くなる。これにより、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54の開放状態と閉じ込み状態との切り替えが頻繁に発生することを抑制できる。
【0157】
また、ステップST110の内容とステップST111の内容とをまとめて、ステップSTBとする。ステップSTBは、現在のベルト式無段変速機110の作動油温度Toが所定の温度である環境温度にまで低下するまでは、プライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態にはしないための判定手順である。
【0158】
変速機制御装置20は、ステップSTBにより、ベルト式無段変速機110の作動油温度Toが、環境温度にまで低下したかを判定し、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度が適切な温度を超えるまでの時間の減少を抑制する。結果として、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54の開放状態と閉じ込み状態との切り替えが頻繁に発生することを抑制して、内燃機関120の燃料の消費量の増大を抑制する。
【0159】
また、ステップST112の内容とステップST113の内容とをまとめて、ステップSTCとする。ステップSTCは、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられてから所定の流量の作動油が、プライマリプーリ油圧室54に導かれるまでは、プライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態にはしないための判定手順である。
【0160】
変速機制御装置20は、ステップSTCにより、プライマリプーリ油圧室54の作動油の温度が、適切な温度にまで低下したかを判定し、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度が適切な温度を超えるまでの時間の減少を抑制する。結果として、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54の開放状態と閉じ込み状態との切り替えが頻繁に発生することを抑制して、内燃機関120の燃料の消費量の増大を抑制する。
【0161】
変速機制御装置20は、上述したように、ステップSTAと、ステップSTBと、ステップSTCとの全ての手順を全て実行する。これにより、より確実に、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54の開放状態と閉じ込み状態との切り替えが頻繁に発生することを抑制して、内燃機関120の燃料の消費量の増大を抑制する。しかしながら、本実施形態はこれに限定されず、変速機制御装置20は、ステップSTAと、ステップSTBと、ステップSTCとのうち、少なくとも1つの手順を実行すればよい。
【0162】
この場合、変速機制御装置20は、実行すべき手順の数が低減されるため、変速機制御装置20は作動油閉じ込み装置10を制御する手順を実行する際の負荷が低減される。また、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度が適切な温度を超えるまでの時間の減少を抑制できる。結果として、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54の開放状態と閉じ込み状態との切り替えが頻繁に発生することを抑制して、内燃機関120の燃料の消費量の増大を抑制できる。
【0163】
また、変速機制御装置20は、ステップSTA(ステップST109)と、ステップSTB(ステップST111)と、ステップSTC(ステップST113)との全てで肯定的な判定が下された場合にステップST114で、閉じ込み制御部25がプライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態にしたが、本実施形態ではこれに限定されない。以下に、一例として、作動油閉じ込み装置10を制御する他の手順を説明する。
【0164】
図7は、本実施形態に係るベルト式無段変速機の作動油閉じ込み装置を制御する他の手順を示すフローチャートである。図7に示すステップST101からステップST115の各手順は、図6に示すステップST101からステップST115の各手順と内容は同一である。よって、各手順の詳細な説明は省略し、変速機制御装置20が実行する順番を主に説明する。
【0165】
ステップST109で、比較判定部22が、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられてから所定の時間が経過していると判定すると(ステップST109、Yes)、変速機制御装置20は、ステップST114に移行する。ステップST109で、比較判定部22が、プライマリプーリ油圧室54が閉じ込み状態から開放状態に切り替えられてから所定の時間が経過していないと判定すると(ステップST109、No)、変速機制御装置20は、ステップSTBに移行する。
【0166】
ステップST111で、比較判定部22が、作動油温度Toが環境温度にまで低下していると判定すると(ステップST111、Yes)、変速機制御装置20は、ステップST114に移行する。ステップST111で、比較判定部22が、作動油温度Toが環境温度にまで低下していないと判定すると(ステップST111、No)、変速機制御装置20は、ステップSTCに移行する。
【0167】
ステップST113で、比較判定部22が、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度が適切な温度にまで低下するのに十分な量の作動油がプライマリプーリ油圧室54内に導かれていると判定すると(ステップST113、Yes)、変速機制御装置20は、ステップST114に移行する。ステップST113で、比較判定部22が、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度が適切な温度にまで低下するのに十分な量の作動油がプライマリプーリ油圧室54内に導かれていないと判定すると(ステップST113、No)、変速機制御装置20は、ステップST109、ステップST111、ステップST113のいずれかで肯定的な判定が下されるまで、ステップST101からステップST113までを繰り返し実行する。
【0168】
このように、変速機制御装置20は、ステップST109、ステップST111、ステップST113のいずれかで肯定的な判定が下された場合に、プライマリプーリ油圧室54を閉じ込み状態にしても、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度が適切な温度を超えるまでの時間の減少を抑制できる。結果として、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54の開放状態と閉じ込み状態との切り替えが頻繁に発生することを抑制して、内燃機関120の燃料の消費量の増大を抑制できる。
【0169】
なお、ステップSTAと、ステップSTBと、ステップSTCとの組み合わせは上記構成に限定されず、いかなる組み合わせであってもよい。変速機制御装置20は、例えば、ステップSTA、ステップSTB、ステップSTCの重要度に基づいて、ステップSTAと、ステップSTBと、ステップSTCとの組み合わせを設定されてもよい。この場合、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54内の作動油の温度が適切な温度を超えるまでの時間の減少をより確実に抑制できる。結果として、変速機制御装置20は、プライマリプーリ油圧室54の開放状態と閉じ込み状態との切り替えが頻繁に発生することを抑制して、内燃機関120の燃料の消費量の増大をより確実に抑制できる。
【産業上の利用可能性】
【0170】
以上のように、本発明に係るベルト式無段変速機は作動油閉じ込み装置を備えるベルト式無段変速機及び前記ベルト式無段変速機を制御する変速機制御装置に適しており、特に、内燃機関の燃料の消費量の増加を抑制することに適している。
【図面の簡単な説明】
【0171】
【図1】本実施形態に係るベルト式無段変速機を備えた車両の動力伝達部分における全体の構成を示す模式図である。
【図2】本実施形態に係るプライマリプーリを示す断面図である。
【図3】プライマリプーリ油圧室が閉じ込み状態での作動油閉じ込み装置を拡大して示す断面図である。
【図4】プライマリプーリ油圧室が開放状態での作動油閉じ込み装置を拡大して示す断面図である。
【図5】本実施形態に係る変速機制御装置の構成を示す概念図である。
【図6】本実施形態に係るベルト式無段変速機の作動油閉じ込み装置を制御する手順を示すフローチャートである。
【図7】本実施形態に係るベルト式無段変速機の作動油閉じ込み装置を制御する他の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0172】
10 作動油閉じ込み装置
11 ピストン動作用油圧室
12 シール部
12a テーパ面
12b 開口
13 弁体
14 ピストン
14a 受圧面
14b 棒状部
15 スプリング
20 変速機制御装置
21 情報取得部
22 比較判定部
23 演算部
24 変速比制御部
25 閉じ込み制御部
26 機関制御部
40 ECU
50 プライマリプーリ
51 プライマリシャフト
52 プライマリ固定シーブ
53 プライマリ可動シーブ
54 プライマリプーリ油圧室
55 スプライン
56 プライマリ隔壁
60 セカンダリプーリ
61 セカンダリシャフト
62 セカンダリ固定シーブ
63 セカンダリ可動シーブ
80 ベルト
80a プライマリ溝
80b セカンダリ溝
81〜84 軸受
100 車両
110 ベルト式無段変速機
120 内燃機関
121 クランクシャフト
130 トルクコンバータ
131 インプットシャフト
140 前後進切換機構
150 減速装置
151 ファイナルドライブピニオン
160 差動装置
161 リングギア
170 ドライブシャフト
180 車輪
D01 作動油温度センサ
D02 作動油流量センサ
D03 変速比センサ
ADC アナログ/デジタルコンバータ
Ba、Bb、Bc バス
DIB ディジタル入力バッファ
Em 記憶部
Ep 中央演算装置
IFin 入力インターフェース
IFout 出力インターフェース
IFouta〜IFoutc 制御回路
INp 入力ポート
OL01 第1油路
OL01a 軸方向油路
OL01b 径方向油路
OL02 第2油路
OL02a 軸方向油路
OL02b 径方向油路
OP オイルポンプ
ORa 変速比制御側レギュレータ
ORb 閉じ込み制御側レギュレータ
OT オイルタンク
OUTp 出力ポート
RL 回転軸
a、b、c 所定値
Acv シール部面積
Ap 受圧面積
CT カウント
Fsp スプリング力
Pcv 油圧
Ps 油圧
Qo 作動油流量
To 作動油温度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から取り出された回転が入力されて回転軸を軸として回転するシャフトと、
前記シャフトに連結されて前記回転軸を軸として回転する固定シーブと、
前記固定シーブと対向して前記シャフトに設けられて前記回転軸方向に前記シャフト上を移動する可動シーブと、
前記シャフトに設けられて、前記可動シーブに対して作動油の圧力によって前記回転軸方向の力を与えるプーリ油圧室と、
前記プーリ油圧室内の前記作動油の温度の低下量であって、前記プーリ油圧室内の前記作動油の排出が禁止された状態から前記プーリ油圧室内の前記作動油の排出が許可された状態に切り替えられた時を起算点とした前記作動油の温度の低下量に基づいて、前記プーリ油圧室からの前記作動油の排出が禁止される状態への切り替えを禁止する作動油閉じ込み手段と、
を備えることを特徴とするベルト式無段変速機。
【請求項2】
前記作動油閉じ込み手段は、前記起算点から経過した時間に基づいて、前記起算点からの前記作動油の温度の低下量を推定することを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機。
【請求項3】
前記作動油閉じ込み手段は、前記起算点よりも後に前記プーリ油圧室に導かれた作動油の流量に基づいて、前記起算点からの前記作動油の温度の低下量を推定することを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機。
【請求項4】
前記作動油閉じ込み手段は、前記プーリ油圧室に導かれる前記作動油の温度に基づいて、前記起算点からの前記作動油の温度の低下量を推定することを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機。
【請求項5】
前記作動油閉じ込み手段は、前記起算点から経過した時間に基づいて推定された前記作動油の温度の低下量と、前記起算点よりも後に前記プーリ油圧室に導かれた作動油の流量に基づいて推定された前記作動油の温度の低下量と、前記起算点よりも後に前記プーリ油圧室に導かれた作動油の流量に基づいて推定された前記作動油の温度の低下量と、に基づいて、前記プーリ油圧室からの前記作動油の排出が禁止される状態への切り替えを禁止することを特徴とする請求項1に記載のベルト式無段変速機。
【請求項6】
内燃機関から取り出された回転が入力されて回転軸を軸として回転するシャフトと、前記シャフトに連結されて前記回転軸を軸として回転する固定シーブと、前記固定シーブと対向して前記シャフトに設けられて前記回転軸方向に前記シャフト上を移動する可動シーブと、前記シャフトに設けられて、前記可動シーブに対して作動油の圧力によって前記回転軸方向の力を与えるプーリ油圧室とを備えるベルト式無段変速機を制御する変速機制御装置であって、前記プーリ油圧室内の前記作動油の温度の低下量であって、前記プーリ油圧室内の前記作動油の排出が禁止された状態から前記プーリ油圧室内の前記作動油の排出が許可された状態に切り替えられた時を起算点とした前記作動油の温度の低下量に基づいて、前記プーリ油圧室からの前記作動油の排出が禁止される状態への切り替えを禁止することを特徴とする変速機制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−257538(P2009−257538A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−109565(P2008−109565)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】