説明

ボラジン系樹脂組成物、絶縁被膜及びその形成方法

【課題】金属性不純物が少なくリーク電流の発生を十分に抑制できる絶縁被膜を有効に形成できるボラジン系樹脂組成物の製造方法を提供すること。
【解決手段】B,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類とヒドロシラン類とを、固体触媒の存在下に重合させる第1の工程と、第1の工程を実施した後に、固体触媒を除去する第2の工程と、を備え、固体触媒が、白金アルミナ等であり、ヒドロシラン類が、下記式(2);


で表されるもの等である方法により、主鎖又は側鎖にボラジン骨格を有する重合体を製造し、重合体と、該重合体を溶解可能な溶剤とを含むボラジン系樹脂組成物を得る、ボラジン系樹脂組成物を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボラジン系樹脂の製造方法、ボラジン系樹脂組成物、絶縁被膜及びその形成方法、並びに電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の通信機器の小型化、高出力化、及び信号の高速化に伴い、CMPによる膜平坦化の実現とも相俟って、電子部品の絶縁被膜(IMD:メタル層間絶縁膜、ILD:メタル下層間絶縁膜、PMD:前メタル絶縁膜等)には、耐熱性、機械特性、吸湿性、接着性、成形性、高エッチ選択比、等の他、特に低比誘電率が求められている。
【0003】
これは一般に、配線の信号の伝搬速度(v)と、配線材料が接する絶縁材料の比誘電率(ε)とは、v=k/√ε(kは定数)で表される関係を有しており、信号の伝搬速度を高速化して配線遅延を低減するためには、使用する周波数領域を高くし、或いは、絶縁材料の比誘電率を極力低くする必要があるからである。
【0004】
このような絶縁被膜材料として量産ベースで現在実用化されている低誘電率材料としては、比誘電率が3.5程度のSiOF膜(CVD法)が挙げられ、その他に、比誘電率が2.5〜3.0の有機SOG(Spin On Glass)、有機ポリマー等の検討が進行中である。
【0005】
また、他の有機系の低誘電率材料としては、ベンゼンの炭素原子が窒素原子及びホウ素原子で置換された分子構造を有するボラジンは、ベンゼンに比して誘電率の計算値が低いことが知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、B,B’,B’’−トリアルキニルボラジン化合物と少なくとも2個以上のヒドロシリル基を有するケイ素化合物とを、白金触媒存在下で混合し、その溶液を塗布することによって得られる耐熱性のボラジン含有ケイ素ポリマー薄膜も知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−340689号公報
【特許文献2】特開2002−155143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述した有機SOGは低誘電率材料として有望であるものの、メモリ素子や論理素子といった半導体装置から成る電子部品の更なる微細化及び多層化に対応するには、更なる低誘電率化が熱望されている。これに対し、上記特開2002−155143号公報のボラジン含有ケイ素ポリマー薄膜は、その高耐熱性及び低誘電率を発現することから、次世代の絶縁被膜として期待される。
【0008】
しかし、かかるボラジン含有ケイ素ポリマー薄膜は、上述したようにB,B’,B’’−トリアルキニルボラジン化合物とヒドロシリル基を有するケイ素化合物とを、白金触媒存在下で混合した溶液をそのまま塗布することにより製造されるため、薄膜中に白金触媒が不可避的に不純物として残留してしまう。例えば、層間絶縁膜中に金属性不純物が存在すると、リーク電流が発生し、絶縁膜としての性能が低下又は劣化する要因となり得る。よって、特開2002−155143号公報の薄膜を層間絶縁膜に用いると、白金触媒が金属性不純物となってリーク電流が発生することが容易に想像される。
【0009】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、金属性不純物が少なくリーク電流の発生を十分に抑制できる絶縁被膜及びその製造方法、その絶縁被膜を有効に形成できるボラジン系樹脂組成物、並びにそのボラジン系樹脂組成物の主成分であるボラジン系樹脂の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、リーク電流の発生を十分に抑制して特性の低下及び劣化を十分に防止できる電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、所定のボラジン化合物と所定のケイ素化合物を固体触媒の存在下に重合させた後に、かかる固体触媒を除去することにより、触媒由来の金属性不純物を格段に低減できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、主鎖又は側鎖にボラジン骨格を有する重合体であるボラジン系樹脂を製造する方法であって、B,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類とヒドロシラン類とを、固体触媒の存在下に重合させる第1の工程と、前記第1の工程を実施した後に、前記固体触媒を除去する第2の工程と、を備えることを特徴とするボラジン系樹脂の製造方法を提供する。
【0012】
このような構成のボラジン系樹脂の製造方法では、第1の工程において、B,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類とヒドロシラン類とが重合され、ボラジン系樹脂である有機ケイ素ボラジン系ポリマーが形成されるが、触媒として固体触媒を用いているために、第2の工程において当該触媒が非常に容易に且つ低い残留率で除去される。その結果、金属成分が十分に除去された有機ケイ素ボラジン系ポリマーが得られる。
【0013】
ここで、固体触媒は、化合物系担体に触媒を担持させた担持触媒であることが好ましい。かかる触媒を用いることにより、触媒粒径を大きくすることが困難な、非化合物系担体に触媒を担持させた担持触媒(例えば、白金炭素触媒)を用いる場合に比べて、反応系から触媒を濾別することが容易になるため、金属性不純物を格段に低減できる。また、炭素系担体に触媒を担持させた触媒(例えば、白金炭素触媒)で懸念される、担体の導電性に基づくリーク電流の発生等のおそれがない。
【0014】
B,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類としては、下記式(1);
【化1】


で表されるものであると好ましい。ここで、式中、R1はアルキル基、アリール基、アラルキル基又は水素原子を示し、R2はアルキル基、アリール基、アラルキル基又は水素原子を示す。
【0015】
より具体的には、ヒドロシラン類が、下記式(2);
【化2】


又は下記式(3);
【化3】


で表されるものであると有用である。ここで、式中、R3及びR4はアルキル基、アリール基、アラルキル基及び水素原子の中から選ばれる同一又は異なる1価の基を示し、R5は置換若しくは未置換の芳香族の2価の基、オキシポリ(ジメチルシロキシ)基、又は酸素原子を示し、R6はアルキル基、アリール基、アラルキル基又は水素原子を示し、nは2以上の整数を示す。
【0016】
また、本発明によるボラジン系樹脂組成物は、主鎖又は側鎖にボラジン骨格を有する重合体と、その重合体を溶解可能な溶剤とを含んでおり、固形分濃度が0.5質量%以上(上限は好ましくは80質量%)であり、且つ、金属不純物含有量が30ppm以下であることを特徴とする。そして、その重合体は、本発明によるボラジン系樹脂の製造方法により製造されて成るボラジン系樹脂であって、低比誘電率を発現するものであり、溶剤に溶解された状態で半導体基板等の基体上に簡便に塗布できる。
【0017】
このボラジン系樹脂組成物中の固形分濃度が0.5質量%未満となると、基体上に塗布する場合に、1回の塗布で得られる塗膜の厚さが薄くなり、当該膜の強度や耐熱性、及び乾燥させて絶縁被膜としたときの絶縁特性の信頼性が低下するといった不都合がある。また、金属不純物含有量が30ppmを超えると、このボラジン系樹脂組成物を例えば極微細構造を成す多層配線の層間絶縁膜として用いたときに要求される低比誘電率を達成できないことがあり、或いはリーク電流の発生が顕著となってしまい、素子等のデバイス特性の悪化を生じるおそれがある。なお、「固形分濃度」とは、樹脂組成物において、溶剤等の揮発成分を乾燥した時に残留する成分の量を表したものである。
【0018】
さらに、重合体が下記式(4);
【化4】


で表される繰り返し単位を有するものであると、成膜性、化学的安定性の観点から好ましい。
【0019】
ここで、式中、R1はアルキル基、アリール基、アラルキル基又は水素原子を示し、R2はアルキル基、アリール基、アラルキル基又は水素原子を示し、R3及びR4はアルキル基、アリール基、アラルキル基及び水素原子の中から選ばれる同一又は異なる1価の基を示し、R5は置換若しくは未置換の芳香族の2価の基、オキシポリ(ジメチルシロキシ)基、又は酸素原子を示し、R6はアルキル基、アリール基、アラルキル基又は水素原子を示し、aは正の整数を示し、bは0又は正の整数を示し、pは0又は正の整数を示し、qは0又は正の整数を示す。
【0020】
また、本発明による絶縁被膜の形成方法は、基体上に絶縁被膜を形成する方法であって、本発明によるボラジン系樹脂組成物を基体上に塗布して塗布膜を形成し、該塗布膜を乾燥せしめることを特徴とする。
【0021】
また、本発明による絶縁被膜は、基体上に設けられており、本発明による絶縁被膜の形成方法により形成されて成り、特に、基体上に設けられた複数の導電性層のうち互いに隣設された導電性層の間に形成されたもの、すなわち、リーク電流を十分に低減する必要がある層間絶縁膜として有用である。
【0022】
そして、本発明による電子部品は、本発明による絶縁被膜が形成されて成る電子部品、半導体装置や液晶装置といった電子デバイスを構成するものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明のボラジン系樹脂及びその製造方法並びにボラジン系樹脂組成物によれば、金属性不純物が少なくリーク電流の発生を十分に抑制できる絶縁被膜を形成できる。また、本発明の絶縁被膜及びその製造方法によれば、リーク電流の発生を十分に抑制できると共に、耐熱性等の諸特性を向上できる。さらに、本発明の電子部品によれば、リーク電流の発生を十分に抑制して特性の低下及び劣化を十分に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1における重合開始直後の反応液のガスクロマトグラムを示すグラフである。
【図2】実施例1における重合開始から3日間攪拌後の反応液のガスクロマトグラムを示すグラフである。
【図3】実施例1で得られた重合体のGPCチャートを示すグラフである。
【図4】本発明による電子部品の好適な一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、化学式及び図面を参照しつつ、本発明にかかるボラジン系樹脂の製造方法、ボラジン系樹脂組成物、絶縁皮膜の形成方法、絶縁皮膜及び電子部品についての、好適な実施形態について説明する。
【0026】
(ボラジン系樹脂の製造方法)
先ず、本製造方法で製造されるボラジン系樹脂について説明する。本製造方法において、B,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類及びヒドロシラン類をモノマー成分として用い、それらを重合することにより製造されるボラジン系樹脂は、主鎖又は側鎖にボラジン骨格を有する重合体(以下、かかる構造の重合体を単に「ボラジン系樹脂」という。)である。
【0027】
ボラジン系樹脂は、主鎖又は側鎖に置換又は無置換のボラジン骨格を有する重合体であればよく、例えば、Chemical Review 誌、vol 90、pp.73〜91(1990).やCHEMTECH 誌、1994年7月、pp.29〜37.記載の重合体等を挙げることができる。具体的には、以下に示す繰り返し単位の少なくとも一つを有する重合体が好適である。
【化5】

【0028】
ボラジン系樹脂の分子量(Mn;ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレンの検量線を使用して換算した値の数平均分子量)は、好ましくは500〜5000000、より好ましくは1000〜1000000である。この分子量(Mn)が過度に低く、例えば500未満の場合、耐熱性、及び後述する絶縁被膜の機械特性が劣る傾向にあり、例えば、かかる絶縁被膜を層間絶縁膜として用いるときにプリベークが困難となったり、成膜後の平坦化をCMPで行うときに剥離等を生じ易くなるおそれがある。これに対し、この分子量(Mn)が過度に高く、例えば5000000を超えると、絶縁被膜の加工性が悪化し、例えば、かかる絶縁被膜にW等の金属プラグ形成用のヴィアホール等を所望の形状に制御し難くなるおそれがある。
【0029】
ボラジン系樹脂としては、下記式(4)又は式(5)で表される繰り返し単位を有してなる有機ケイ素ボラジン系ポリマーが、成膜性、化学的安定性に優れており、かかる観点より一層好適な例として挙げることができる。
【化6】


【化7】

【0030】
なお、式(4)及び(5)において、
【化8】


は、以下のいずれかを示し、
【化9】


これと同様に、
【化10】


は、以下のいずれかを示す。
【化11】

【0031】
そして、
【化12】


は、以下のいずれかを示す。
【化13】

【0032】
また、式(4)における破線は、ボラジン残基におけるアルキニル基由来の炭素に結合が生じていることを意味し、式(5)における破線は、ボラジン残基におけるアルケニル基由来の炭素に結合が生じていることを意味する。
【0033】
また、式(4)及び(5)において、R1はアルキル基、アリール基、アラルキル基又は水素原子を示す。この場合、アルキル基の炭素数は好ましくは1〜24、より好ましくは1〜12である。また、アリール基の炭素数は好ましくは6〜20、より好ましくは6〜10である。さらに、アラルキル基の炭素数は好ましくは7〜24、より好ましくは7〜12である。より具体的には、基R1として、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、オクチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、水素原子等が挙げられ、これらの中では、メチル基、エチル基、フェニル基又は水素原子がより好ましい。
【0034】
そして、式(4)及び(5)において、R2はアルキル基、アリール基、アラルキル基又は水素原子を示し、アルキル基の炭素数は好ましくは1〜24、より好ましくは1〜12である。アリール基の炭素数は好ましくは6〜20、より好ましくは6〜10である。また、アラルキル基の炭素数は好ましくは7〜24、より好ましくは7〜12である。より具体的には、基R2として、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、オクチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントラセニル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基、フルオレニル基等のアラルキル基、水素原子等が挙げられ、これらの中では、メチル基、フェニル基又は水素原子がより好ましい。
【0035】
さらに、式(4)及び(5)において、R3及びR4はアルキル基、アリール基、アラルキル基又は水素原子の中から選ばれる同一又は異なる1価の基を示し、これらの中では、アルキル基、アリール基又は水素原子がより好ましい。この場合、アルキル基の炭素数は好ましくは1〜24、より好ましくは1〜12である。また、アリール基の炭素数は好ましくは6〜20、より好ましくは6〜10である。さらに、アラルキル基の炭素数は好ましくは7〜24、より好ましくは7〜12である。より具体的には、基R3及びR4として、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、オクチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、水素原子等が挙げられ、これらの中ではメチル基、フェニル基又は水素原子がより好ましい。
【0036】
またさらに、式(4)及び(5)において、R5は置換若しくは未置換の芳香族の2価の基、オキシポリ(ジメチルシロキシ)基、又は酸素原子を示す。この場合、芳香族の2価の基の炭素数は好ましくは6〜24、より好ましくは6〜12である。この芳香族の2価の基には、2価芳香族炭化水素基(アリーレン基等)の他、酸素等のヘテロ原子を連結基として含むアリーレン基等が含まれる。また、この芳香族の2価の基に結合していてもよい置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。より具体的には、基R5として、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等のアリーレン基、ジフェニルエーテル基等の置換アリーレン基、酸素原子等が挙げられ、これらの中ではフェニレン基、ジフェニルエーテル基又は酸素原子がより好ましい。
【0037】
さらにまた、式(4)及び(5)において、R6はアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。この場合、アルキル基の炭素数は好ましくは1〜24、より好ましくは1〜12である。また、アリール基の炭素数は好ましくは6〜20、より好ましくは6〜10である。さらに、アラルキル基の炭素数は好ましくは7〜24、より好ましくは7〜12である。より具体的には、基R6として、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、オクチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられる。
【0038】
また、式(4)及び(5)において、a及びbは、それぞれ繰り返し単位数を表し、aは正の整数であって、好ましくは1〜20000、より好ましくは3〜10000であり、特に好ましくは5〜10000である。また、bは0又は正の整数であって、好ましくは0〜1000、より好ましくは0〜100である。ただし、a及びbはそれらの構成比率を示すものであって、結合状態(ブロック共重合、ランダム共重合等)のいずれかの形態に限定されるものではない。
【0039】
このような共重合体において、aとbとのそれぞれの個数の比(a:b)は特に制限されず、a/b比がより大きい、つまり高分子主鎖中の鎖状構造の割合が比較的多い場合、溶媒に対する共重合体の溶解度が高められ且つ融点が低くなることにより、共重合体の加工性が向上すると予想される。一方、a/b比がより小さい、つまり高分子主鎖中の架橋構造の割合が比較的多い場合、共重合体の耐熱性、耐燃焼性が向上すると予想される。したがって、用途等に応じて、或いは、共重合体の各モノマーユニットの構造及びその組み合わせに応じて、良好な加工性及び耐熱性、耐燃焼性を与える共重合体の最適なa/b比の範囲を適宜設定することができる。
【0040】
さらに、式(4)及び(5)において、pは0又は正の整数、qは0又は正の整数を示し、後述するnとは、p+q+2=nの関係を有する。pの好ましい範囲は0〜10であり、より好ましくは1〜8である。また、qの好ましい範囲は0〜10であり、より好ましくは1〜8である。
【0041】
またさらに、式(4)及び(5)において、Z1は下記式(6);
【化14】


又は下記式(7);
【化15】


で表される2価の基であり、同一分子鎖において、Z1が式(6)又は(7)のいずれか一方の構造で構成されていても、或いは、両方の構造が同一分子鎖内に含まれていても構わない。なお、式(6)及び(7)におけるR3、R4、R5、R6、p及びpは前述したものと同様である。
【0042】
次に、本発明にかかるボラジン系樹脂の製造方法における各工程の好適な実施形態について説明する。
【0043】
第1の工程で用いられる、B,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類(x)は、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【化16】

【0044】
上記式(1)において、R1はアルキル基、アリール基、アラルキル基又は水素原子を示す。この場合、アルキル基の炭素数は1〜24、好ましくは1〜12である。また、アリール基の炭素数は6〜20、好ましくは6〜10である。さらに、アラルキル基の炭素数は7〜24、好ましくは7〜12である。より具体的には、基R1として、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、オクチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、水素原子等が挙げられ、これらの中ではメチル基、エチル基、フェニル基又は水素原子がより好ましい。
【0045】
また、式(1)において、R2はアルキル基、アリール基、アラルキル基又は水素原子を示す。この場合、アルキル基の炭素数は1〜24、好ましくは1〜12である。また、アリール基の炭素数は6〜20、好ましくは6〜10である。さらに、アラルキル基の炭素数は7〜24、好ましくは7〜12である。より具体的には、基R2として、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、オクチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントラセニル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基、フルオレニル基等のアラルキル基、水素原子等が挙げられ、これらの中ではメチル基、フェニル基又は水素原子がより好ましい。
【0046】
式(1)で表されるB,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類(x)を更に具体的に例示すると、B,B’,B’’−トリエチニルボラジン、B,B’,B’’−トリエチニル−N,N’,N’’−トリメチルボラジン、B,B’,B’’−トリ(1−プロピニル)ボラジン、B,B’,B’’−トリフェニルエチニルボラジン、B,B’,B’’−トリフェニルエチニル−N,N’,N’’−トリメチルボラジン、B,B’,B’’−トリエチニル−N,N’,N’’−トリフェニルボラジン、B,B’,B’’−トリフェニルエチニル−N,N’,N’’−トリフェニルボラジン、B,B’,B’’−エチニル−N,N’,N’’−トリベンジルボラジン、B,B’,B’’−トリス(1−プロピニル)−N,N’,N’’−トリメチルボラジン等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。また、1種のB,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類を単独で用いることもできるが、2種以上のB,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
第1の工程で用いられる、ヒドロシラン類(y)は、下記式(2)又は下記式(3)で表されるものが好ましい。
【化17】


【化18】

【0048】
式(2)において、R3及びR4はアルキル基、アリール基、アラルキル基又は水素原子の中から選ばれる同一又は異なる1価の基を示し、これらの中では、アルキル基、アリール基又は水素原子がより好ましい。この場合、アルキル基の炭素数は1〜24、好ましくは1〜12である。また、アリール基の炭素数は6〜20、好ましくは6〜10である。さらに、アラルキル基の炭素数は7〜24、好ましくは7〜12である。より具体的には、基R3及びR4として、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、オクチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基、水素原子等が挙げられ、これらの中ではメチル基、フェニル基又は水素原子がより好ましい。
【0049】
また、式(2)において、R5は置換若しくは未置換の芳香族の2価の基、オキシポリ(ジメチルシロキシ)基、又は酸素原子を示す。この場合、芳香族の2価の基の炭素数は6〜24、好ましくは6〜12である。この芳香族の2価の基には、2価芳香族炭化水素基(アリーレン基等)の他、酸素等のヘテロ原子を連結基として含むアリーレン基等が含まれる。また、この芳香族の2価の基に結合していてもよい置換基としては、アルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。より具体的には、基R5として、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニレン基等のアリーレン基、ジフェニルエーテル基等の置換アリーレン基、酸素原子等が挙げられ、これらの中ではフェニレン基、ジフェニルエーテル基又は酸素原子がより好ましい。
【0050】
さらに、式(3)において、R6はアルキル基、アリール基又はアラルキル基を示す。この場合、アルキル基の炭素数は1〜24、好ましくは1〜12である。また、アリール基の炭素数は6〜20、好ましくは6〜10である。さらに、アラルキル基の炭素数は7〜24、好ましくは7〜12である。より具体的には、基R6として、メチル基、エチル基、イソプロピル基、t−ブチル基、オクチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基等が挙げられる。
【0051】
またさらに、式(3)において、nは2以上の正の整数を示す。前出の式(4)におけるp及びqとは、p+q+2=nの関係を有する。nの好ましい範囲は2〜10であり、より好ましくは3〜8である。nが過度に大きく(換言すれば、環が大きく)、例えば10を超えると、耐熱性、後述する絶縁被膜の機械特性が不都合な程に低下する傾向にある。
【0052】
式(2)又は(3)で表されるヒドロシラン類(y)には、ビス(モノヒドロシラン)類、ビス(ジヒドロシラン)類、ビス(トリヒドロシラン)類、ポリ(ヒドロシラン)類が含まれる。具体例としては、m−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン、p−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン、1,4−ビス(ジメチルシリル)ナフタレン、1,5−ビス(ジメチルシリル)ナフタレン、m−ビス(メチルエチルシリル)ベンゼン、m−ビス(メチルフェニルシリル)ベンゼン、p−ビス(メチルオクチルシリル)ベンゼン、4,4’−ビス(メチルベンジルシリル)ビフェニル、4,4’−ビス(メチルフェネチルシリル)ジフェニルエーテル、m−ビス(メチルシリル)ベンゼン、m−ジシリルベンゼン、1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7,9−ペンタメチルシクロペンタシロキサン、1,3,5,7−テトラエチルシクロテトラシロキサン、1,3,5−トリフェニルシクロトリシロキサン、1,3,5,7−テトラフェニルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7−テトラベンジルシクロテトラシロキサン等が挙げられる。ただし、これらに限定されるものではない。
【0053】
これらの中では、m−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン、p−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン又は1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジシロキサン、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンがより好ましい。また、1種のヒドロシラン類(y)を単独で用いることもできるが、2種以上のヒドロシラン類(y)を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
第1の工程で用いられる、固体触媒(z)は、前述したB,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類(x)とヒドロシラン類(y)の重合反応(ヒドロシリル化重合)を促進し、反応基質(xとy)や、後述する任意に添加可能な重合溶媒中に金属成分が溶出せず、且つ重合終了後に濾別除去可能な金属含有触媒であることが好ましい。
【0055】
固体触媒(z)の具体例としては、白金粉末、パラジウム粉末、ニッケル粉末等の金属単体粉末;白金炭素、パラジウム炭素、ロジウム炭素等の炭素系担体に触媒を担持させた触媒;化合物系担体(非炭素系担体)に触媒を担持させた担持触媒が挙げられる。なお、化合物系担体に触媒を担持させた担持触媒としては、白金アルミナ、白金シリカ、パラジウムアルミナ、パラジウムシリカ、ロジウムアルミナ、ロジウムシリカ等の金属酸化物担体担持触媒;ラネーニッケル等の合金触媒;B.Marciniec編、Comprehensive Handbook on Hydrosilylation、Pergamon Press(1992)やPolymer Journal、34、97−102(2002)に記載のポリマー担持ロジウム触媒(polym−PPh2・RhCl(PPh33、polym−PPh2・RhCl3、polym−CH2Cl2・RhCl(CO)(PPh32など);ポリマー担持白金触媒(Polym−CH2SH/H2PtCl6)(ここで、polyはポリ(スチレン−co−ジビニルベンゼン)などの主鎖骨格を意味する。);表面官能基化シリカゲル担持白金触媒(Silica−(CH23−SH/H2PtCl6)が挙げられる。これらの触媒は単独で用いてもよく、また、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
固体触媒(z)としては、金属単体粉末又は化合物系担体に触媒を担持させた担持触媒が好ましく、化合物系担体に触媒を担持させた担持触媒が特に好ましい。これらの触媒は触媒粒径の制御が容易なために、大きな粒径のものが比較的容易に作製でき、そのようなサイズの触媒を用いることにより、反応系から触媒を濾別することが容易になる。また、得られるボラジン系樹脂を絶縁皮膜として用いた場合のリーク電流の発生を特に効果的に抑制できる。一方、炭素系担体に触媒を担持させた触媒は、微粉末として存在するため、反応系における沈降速度が遅く、触媒を充分なレベルまで除去することが必ずしも容易でない。また、担体が導電性の炭素からなることから、極微量に触媒が在留している場合に絶縁皮膜にリーク電流が発生するおそれがある。
【0057】
第1の工程において、B,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類(x)と、ヒドロシラン類(y)との重合反応を生じさせる場合において、重合の際の系の流動性を保ち、重合後に固体触媒(z)の除去を容易にするために、系に重合溶媒(s)を添加してもよい。重合溶媒(s)としては、原料(x,y)と反応するものや、固体触媒(z)が分解したり、金属成分が溶離するもの以外の、種々の溶媒を用いることができる。かかる溶媒としては、芳香族炭化水素系、飽和炭化水素系、脂肪族エーテル系、芳香族エーテル系等の溶媒が挙げられ、より具体的には、トルエン、ベンゼン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ヘキシルベンゼン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジフェニルエーテル等が挙げられる。これらの重合溶媒は単独で用いてもよく、また、複数を組み合わせて使用してもよい。
【0058】
第1の工程において、B,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類(x)とヒドロシラン類(y)の仕込みモル比は、B,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類1モルに対して、ビス(ヒドロシラン)が0.1〜10モルの範囲であると好適であり、より好ましくは、B,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類1モルに対して、ビス(ヒドロシラン)が0.2〜5モルの範囲である。
【0059】
また、第1の工程において、固体触媒(z)の使用量は、B,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類又はヒドロシラン類のうちモル量の少ない方の原料化合物に対する金属原子のモル比が0.000001〜5の範囲であると好適である。
【0060】
第1の工程において、重合溶媒(s)を用いる場合は、B,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類及びヒドロシラン類の総量100重量部に対して重合溶媒(s)を50〜100000重量部使用することが望ましい。
【0061】
第1の工程における反応温度及び反応時間は、B,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類とヒドロシラン類とが重合し、所望の分子量を有する有機ケイ素ボラジン系ポリマーが得られる条件であれば特に制限されない。具体的には、原料の反応性や触媒の活性によって異なるが、反応温度は−20℃〜200℃の範囲で冷却又は加熱することができる。より好ましい反応温度は、0℃〜150℃、更に好ましくは0℃〜100℃である。一方、反応時間は好ましくは1分〜10日であり、より好ましくは1時間〜10日、特に好ましくは2時間〜7日である。
【0062】
なお、第1の工程は乾燥窒素やアルゴン等の不活性雰囲気下で行うことが望ましく、装置構成を簡略化する観点から、大気下でも行うことが可能である。
【0063】
第1の工程終了後、第2の工程おいて、固体触媒(z)の除去を行う。除去は、第1の工程で得られた反応液を濾別することにより実施することが好ましい。濾別の方法としては、一般的に用いられる自然濾過、吸引濾過、加圧濾過等の濾過法を用いることができる。また、濾材には濾紙、濾布、樹脂膜等を使用でき、さらに、自然沈降や遠心分離等によって触媒を除去することも、濾別の態様に含まれる。このようにして、固体触媒(z)の除去することにより、金属不純物含有量が低減されたボラジン系樹脂(有機ケイ素ボラジン系ポリマー)を含んだ濾液が得られる。
【0064】
第2の工程実施後、得られた濾液を減圧濃縮又は加熱濃縮することにより重合溶媒(z)等を除去することにより、固形状のポリマーとしてボラジン系樹脂を得てもよい。また、再沈殿、ゲル濾過カラム、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラム)カラム等により分取してボラジン系樹脂を得てもよい。なお、第2の工程において得られた濾液は、そのままの状態で後述するボラジン系樹脂組成物(C)として用いることができる。
【0065】
(ボラジン系樹脂組成物(C))
次に、本発明にかかるボラジン系樹脂組成物(C)の好適な実施形態について説明する。
【0066】
ボラジン系樹脂組成物(C)は、前述のボラジン系樹脂の製造方法によって得られたボラジン系樹脂と後述する溶剤を均一に混合することによって製造することができる。具体的には、第2の工程工程で得られた濾液をそのままボラジン系樹脂組成物(C)として用いてもよく、第2の工程で得られた濾液に重合溶媒より高沸点の溶剤を加え、低沸点の重合溶媒を留去して製造してもよい。後者の場合は、ボラジン系樹脂組成物(C)は、高沸点の溶剤とボラジン系樹脂との混合物になる。ボラジン系樹脂組成物(C)は、第2の工程後、前述のようにして作製した固形状のボラジンポリマーを後述する溶剤に溶解して製造してもよい。
【0067】
ボラジン系樹脂を溶解可能な上記溶剤としては、ボラジン系樹脂と反応せずに、これを溶解可能な溶剤が好ましい。かかる溶剤としては、トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ヘキシルベンゼン、テトラリン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンなどの炭化水素系溶剤、エチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジフェニルエーテル等のエーテル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、γ−ブチロラクトン等のエステル系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、キノリン等の含窒素溶剤、クロロホルム等のハロゲン系溶剤、ジメチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0068】
これらの溶剤は単独で用いてもよく、或いは、複数組み合わせて使用してもよい。溶剤の使用量は、ボラジン系樹脂の固形分濃度が好ましくは0.5〜80質量%、より好ましくは1〜70質量%、更に好ましくは2〜60質量%となるようにすると好適である。この固形分濃度が0.5質量%未満であると、基体上に塗布する場合に、1回の塗布で得られる塗膜の厚さが薄くなり、当該膜の強度や耐熱性、及び乾燥させて絶縁被膜としたときの絶縁特性の信頼性が低下する傾向にある。一方、その固形分濃度が80質量%を超えると、ボラジン系樹脂組成物(C)の粘性が過度に高められ、均一な薄膜を形成させることが困難な傾向にある。
【0069】
このように構成されたボラジン系樹脂組成物(C)は、固体触媒(z)に由来する金属成分、更にはハロゲン等の不純物含有量が十分に低減されたものである。ボラジン系樹脂組成物(C)中の金属不純物含有量は、絶縁被膜の製造装置に悪影響を及ぼさず、かかる絶縁被膜を層間絶縁膜として使用する際に、リーク電流が発生したり、誘電率等の絶縁膜としての特性が低下したりしない観点から、好ましくはボラジン系樹脂組成物(C)中30ppm以下が好ましく、10ppm以下がより好ましく、5ppm以下が更に好ましい。
【0070】
ところで、不純物濃度の低減を図る他の方法として、不純物濃度が極めて小さい溶媒でボラジン系樹脂組成物(C)を希釈するといった方法も想定される。しかし、この方法では、絶縁被膜の製造装置に与える損傷を軽減することができるが、ボラジン系樹脂組成物(C)中の固形物濃度も同時に低下させてしまうといった不都合があり、また、実質的に固形物濃度に対する不純物濃度の割合を低減することにはならない。
(絶縁皮膜の形成方法、絶縁皮膜及び電子部品)
【0071】
次に、本発明にかかる絶縁皮膜の形成方法、絶縁皮膜及び電子部品について、これらの好適な実施形態について説明する。
【0072】
前述のボラジン系樹脂組成物(C)を用いて、例えば、以下に述べる方法により、本発明による絶縁被膜を形成することができる。すなわち、浸漬法、スプレー法、スクリーン印刷法、回転塗布法等によってシリコンウェハ、金属基板、セラミック基板等の基体上にボラジン系樹脂組成物(C)を塗布して、先ず、塗膜を形成する。次いで、60〜500℃、10秒〜2時間程度、空気中又は窒素等の不活性ガス中でその塗膜を加熱乾燥して溶剤を除去する。これにより、ベタツキのない薄膜から成る絶縁被膜を得ることができる。この絶縁被膜の膜厚は特に制限されないものの、耐熱性等の観点から、好ましくは0.05〜50μm、より好ましくは0.1〜10μm、特に好ましくは0.2〜5μmとされる。
【0073】
また、このように形成される絶縁被膜を用いた本発明による電子部品としては、半導体素子、液晶素子、多層配線板等の絶縁被膜を有するもの等が挙げられる。本発明の絶縁被膜は、半導体素子においては、表面保護膜、バッファーコート膜、層間絶縁膜といった絶縁膜等として、液晶素子においては表面保護膜、絶縁膜等として、多層配線基板においては、層間絶縁膜として好ましく用いることができる。
【0074】
具体的には、半導体素子としては、ダイオード、トランジスタ、キャパシタ、化合物半導体素子、サーミスタ、バリスタ、サイリスタ等の個別半導体素子、DRAM(ダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ)、SRAM(スタティック・ランダム・アクセス・メモリ)、EPROM(イレイザブル・プログラマブル・リード・オンリー・メモリー)、マスクROM(マスク・リード・オンリー・メモリ)、EEPROM(エレクトリカル・イレイザブル・プログラマブル・リード・オンリー・メモリー)、フラッシュメモリー等の記憶(メモリ)素子、マイクロプロセッサー、DSP、ASIC等の理論(回路)素子、MMIC(モノリシック・マイクロウェーブ集積回路)に代表される化合物半導体等の集積回路素子、混成集積回路(ハイブリッドIC)、発光ダイオード、電荷結合素子等の光電変換素子、発光素子、半導体レーザ素子等が挙げられる。また、多層配線基板としては、MCM等の高密度配線基板等が挙げられる。
【0075】
ここで、図4は、本発明による電子部品の好適な一実施形態を示す模式断面図である。メモリキャパシタセル8(電子部品)は、拡散領域1A,1Bが形成されたシリコンウェハ1(基体)上に酸化膜から成るゲート絶縁膜2Bを介して設けられたゲート電極3(ワード線として機能する。)と、その上方に設けられた対向電極8Cとの間に二層構造の層間絶縁膜5,7(絶縁被膜)が形成されたものである。ゲート電極3の側壁には、側壁酸化膜4A、4Bが形成されており、また、ゲート電極の側方における拡散領域1Bにはフィールド酸化膜2Aが形成され、素子分離がなされている。
【0076】
層間絶縁膜5は、これらのゲート電極3及びフィールド酸化膜2A上に被着されており、本発明のボラジン系樹脂組成物(C)をスピンコートして形成されたものである。層間絶縁膜5におけるゲート電極3近傍にはビット線として機能する電極6が埋め込まれたコンタクトホール5Aが形成されている。さらに、平坦化された層間絶縁膜5上には平坦化された層間絶縁膜7が被着されており、両者を貫通するように形成されたコンタクトホール7Aには蓄積電極8Aが埋め込まれている。層間絶縁膜7は、層間絶縁膜5と同様に本発明のボラジン系樹脂組成物(C)をスピンコートして形成されたものである。そして、蓄積電極8A上に高誘電体から成るキャパシタ絶縁膜8Bを介して対向電極8Cが設けられている。なお、層間絶縁膜5,7は同一の組成を有していても異なる組成を有していてもよい。
【0077】
このように構成された本発明の絶縁被膜が形成されたメモリキャパシタセル8等の電子部品によれば、絶縁被膜の比誘電率が従来に比して十分に低減されるので、信号伝搬における配線遅延時間を十分に短縮できると共に、リーク電流の発生を有効に防止できる。その結果、素子の高性能化を達成できると同時に高信頼性をも実現できる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0079】
〈実施例1〉
(ボラジン系樹脂組成物1の製造)
B,B’,B’’−トリエチニル−N,N’,N’’−トリメチルボラジン0.1g(0.50mmol)、p−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン0.1g(0.50mmol)をエチルベンゼン4mlに溶解し、化合物系担体に触媒を担持させた担持触媒である5%白金/アルミナ0.4g(白金換算で0.1mmol)を加え、窒素下50℃で7日間撹拌した。反応液の一部を取り出し、ガスクロマトグラフィー(GC)分析を行ったところ、モノマーであるB,B’,B’’−トリエチニル−N,N’,N’’−トリメチルボラジンとp−ビス(ジメチルシリル)ベンゼンのピークがほぼ消失していることを確認された。
【0080】
図1は、この重合開始直後の反応液のガスクロマトグラムを示すグラフであり、図2は、重合開始から3日間攪拌後の反応液のガスクロマトグラムを示すグラフである。図1における「a」は、p−ビス(ジメチルシリル)ベンゼンに対応するピークであり、図1及び2における「b」は、B,B’,B’’−トリエチニル−N,N’,N’’−トリメチルボラジンに対応するピークである。
【0081】
また、GPC分析から生成物の分子量(標準ポリスチレン基準)は、Mn=2500(Mw/Mn=2.0)であった。図3は、得られた重合体のGPCチャートを示すグラフである。白金/アルミナ触媒を含む反応液をADVANTEC社製ディスポーザブルメンブランフィルターユニット(フィルターの平均孔径:0.5μm)で濾過し、ボラジン系樹脂組成物1を得た。
【0082】
〈実施例2〉
(ボラジン系樹脂組成物2の製造)
B,B’,B’’−トリエチニル−N,N’,N’’−トリメチルボラジン0.1g(0.50mmol)、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン0.12g(0.50mmol)をエチルベンゼン4mlに溶解し、化合物系担体に触媒を担持させた担持触媒である5%白金/アルミナ0.4g(白金換算で0.1mmol)を加え、窒素下50℃で7日間撹拌した。反応液の一部を取り出し、ガスクロマトグラフィー(GC)分析を行ったところ、モノマーであるB,B’,B’’−トリエチニル−N,N’,N’’−トリメチルボラジンのピークがほぼ消失していることを確認した。また、GPC分析から生成物の分子量(標準ポリスチレン基準)は、Mn=3000(Mw/Mn=2.2)であった。白金/アルミナ触媒を含む反応液をADVANTEC社製ディスポーザブルメンブランフィルターユニット(フィルターの平均孔径:0.5μm)で濾過し、ボラジン系樹脂組成物2を得た。
【0083】
〈実施例3〉
(ボラジン系樹脂組成物3の製造)
化合物系担体に触媒を担持させた担持触媒として、Polymer Journal、34、97−102(2002)に記載のポリマー担持白金触媒(Polym−CH2SH/H2PtCl6)(白金換算で0.01mmol)を用いた以外は実施例1と同様の方法でボラジン系樹脂組成物3を得た。
【0084】
〈実施例4〉
固体触媒として、炭素系担体に触媒を担持させた触媒である白金炭素触媒を用いた以外は実施例1と同様の方法でボラジン系樹脂組成物を得たが、ADVANTEC社製ディスポーザブルメンブランフィルターユニット(フィルターの平均孔径:0.5μm)による濾過では、濾液に白金炭素触媒の残留が認められたので、フィルターの平均孔径を0.2μmとして上記ユニットにより再濾過を行い、ボラジン系樹脂組成物4を得た。
【0085】
〈比較例1〉
(ボラジン系樹脂組成物5の製造)
B,B’,B’’−トリエチニル−N,N’,N’’−トリメチルボラジン0.50mmol、p−ビス(ジメチルシリル)ベンゼン0.50mmolをエチルベンゼン8mlに溶解し、均一系金属触媒の白金ジビニルテトラメチルジシロキサンのキシレン溶液(白金2%含有)10μlを加え、窒素下室温で3日間撹拌した。反応液の一部を取り出し、ガスクロマトグラフィー(GC)分析を行なったところ、モノマーであるB,B’,B’’−トリエチニル−N,N’,N’’−トリメチルボラジンとp−ビス(ジメチルシリル)ベンゼンのピークは消失していることを確認した。また、GPC分析から生成物の分子量(標準ポリスチレン基準)は、Mn=4300(Mw/Mn=2.5)であった。この反応液をボラジン系樹脂組成物5とした。
【0086】
〈実施例5〉
(絶縁被膜1の製造)
実施例1で得たボラジン系樹脂組成物1をフィルター濾過し、濾液を低抵抗率シリコンウェハ(基体;抵抗率<10Ωcm)上に滴下してスピンコートした。次いで、このシリコンウェハを窒素雰囲気中ホットプレートで200℃で1時間加熱した後、300℃で30分、400℃で30分間ベークして、本発明の絶縁被膜1を得た。
【0087】
〈実施例6〉
(絶縁被膜2の製造)
ボラジン系樹脂組成物1の代わりに実施例2で得たボラジン系樹脂組成物2を用いたこと以外は実施例5と同様にして本発明の絶縁被膜2を得た。
【0088】
〈実施例7〉
(絶縁被膜3の製造)
ボラジン系樹脂組成物1の代わりに実施例3で得たボラジン系樹脂組成物3を用いたこと以外は実施例5と同様にして本発明の絶縁被膜3を得た。
【0089】
〈実施例8〉
(絶縁被膜4の製造)
【0090】
ボラジン系樹脂組成物1の代わりに実施例4で得たボラジン系樹脂組成物4を用いたこと以外は実施例5と同様にして本発明の絶縁被膜4を得た。
【0091】
〈比較例2〉
(絶縁被膜5の製造)
ボラジン系樹脂組成物1の代わりに比較例1で得たボラジン系樹脂組成物5を用いたこと以外は実施例5と同様にして絶縁被膜5を得た。
【0092】
〈実施例9〉
(ボラジン系樹脂組成物6の製造)
B,B’,B’’−トリス(1’−プロピニル)−N,N’,N’’−トリメチルボラジン0.1g(0.50mmol)、1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサン0.12g(0.50mmol)をエチルベンゼン4mlに溶解し、化合物系担体に触媒を担持させた担持触媒である5%白金/アルミナ0.4g(白金換算で0.1mmol)を加え、窒素下50℃で7日間撹拌した。反応液の一部を取り出し、ガスクロマトグラフィー(GC)分析を行ったところ、モノマーであるB,B’,B’’−トリス(1’−プロピニル)−N,N’,N’’−トリメチルボラジンおよび1,3,5,7−テトラメチルシクロテトラシロキサンのピークがほぼ消失していることを確認した。また、GPC分析から生成物の分子量(標準ポリスチレン基準)は、Mn=7000(Mw/Mn=5.0)であった。白金/アルミナ触媒を含む反応液をADVANTEC社製ディスポーザブルメンブランフィルターユニット(フィルターの平均孔径:0.5μm)で濾過し、ボラジン系樹脂組成物6を得た。
【0093】
〈実施例10〉
(絶縁被膜6の製造)
ボラジン系樹脂組成物1の代わりに実施例9で得たボラジン系樹脂組成物6を用いたこと以外は実施例5と同様にして本発明の絶縁被膜6を得た。
【0094】
〈比誘電率測定〉
各実施例及び各比較例で得た各絶縁被膜の比誘電率を測定した。ここで、本発明における絶縁被膜の「比誘電率」とは、23℃±2℃、湿度40±10%の雰囲気下で測定された値をいい、Al金属とN型低抵抗率基板(Siウエハ)間の電荷容量の測定から求められる。
【0095】
具体的には、各実施例及び各比較例で絶縁被膜を形成した後、絶縁被膜上に、真空蒸着装置でAl金属を直径2mmの円で、厚さ約0.1μmになるように真空蒸着する。これにより、絶縁被膜がAl金属と低抵抗率基板との間に配置された構造が形成される。次に、この構造体の電荷容量を、LFインピーダンスアナライザー(横河電機社製:HP4192A)に誘電体テスト・フィクスチャー(横河電機製:HP16451B)を接続した装置を用い、使用周波数1MHzにて測定した。
【0096】
そして、電荷容量の測定値を下記式;
絶縁被膜の比誘電率=3.597×10-2×電荷容量(pF)×絶縁被膜の膜厚(μm)、に代入し、絶縁被膜の比誘電率を算出した。なお、絶縁被膜の膜厚としては、ガートナー製のエリプソメーターL116Bで測定した値を用いた。
【0097】
表1にボラジン系樹脂組成物1〜3及び5、6の白金含有量を示す。この白金含有量は、一定量試料を酸分解し、セイコーインスツルメンツ製SPQ9000型ICP−MSにより測定した。また、表2に、絶縁被膜1〜3及び5、6の比誘電率、及びリーク電流値の測定結果を示す。
【表1】


【表2】

【0098】
表1より、重合触媒として担持触媒を用いたボラジン系樹脂組成物1〜3及び6の金属不純物(白金)含有量は、未処理のもの(比較例で得たボラジン系樹脂組成物5)に比して格段に低減されていることが確認された。また、表2より、金属性不純物含有量が低いボラジン系樹脂組成物1〜3及び6でそれぞれ形成した絶縁被膜被膜1〜3及び6の比誘電率及びリーク電流は、ボラジン系樹脂組成物5で形成した絶縁被膜5に比して十分に低減されていることが判明した。
【符号の説明】
【0099】
1…シリコンウェハ(基体)、1A,1B…拡散領域、2A…フィールド酸化膜、2B…ゲート絶縁膜、3…ゲート電極、4A,4B…側壁酸化膜、5,7…層間絶縁膜(絶縁被膜)、5A,7A…コンタクトホール、6…ビット線、8…メモリセルキャパシタ(電子部品)、8A…蓄積電極、8B…キャパシタ絶縁膜、8C…対向電極、a…p−ビス(ジメチルシリル)ベンゼンに対応するピーク、b…B,B’,B’’−トリエチニル−N,N’,N’’−トリメチルボラジンに対応するピーク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
B,B’,B’’−トリアルキニルボラジン類とヒドロシラン類とを、固体触媒の存在下に重合させる第1の工程と、
前記第1の工程を実施した後に、前記固体触媒を除去する第2の工程と、
を備え、
前記固体触媒が、白金アルミナ、白金シリカ、パラジウムアルミナ、パラジウムシリカ、ロジウムアルミナ及びロジウムシリカから選ばれる金属酸化物担持触媒、ポリマー担持ロジウム触媒、ポリマー担持白金触媒、表面官能基化シリカゲル担持白金触媒、又はこれらの組み合わせであり、
前記ヒドロシラン類が、下記式(2);
【化1】


(式中、R及びRはアルキル基、アリール基、アラルキル基及び水素原子の中から選ばれる同一又は異なる1価の基を示し、Rは置換若しくは未置換の芳香族の2価の基、オキシポリ(ジメチルシロキシ)基、又は酸素原子を示す)、又は下記式(3);
【化2】


(式中、Rはアルキル基、アリール基、アラルキル基又は水素原子を示し、nは2以上の整数を示す。)、
で表されるものである方法により、主鎖又は側鎖にボラジン骨格を有する重合体を製造し、
前記重合体と、該重合体を溶解可能な溶剤とを含むボラジン系樹脂組成物を得る、
ボラジン系樹脂組成物を製造する方法。
【請求項2】
基体上に絶縁被膜を形成する方法であって、
請求項1記載の方法によりボラジン系樹脂組成物を製造し、前記ボラジン系樹脂組成物を基体上に塗布して塗布膜を形成し、該塗布膜を乾燥せしめる、絶縁被膜の形成方法。
【請求項3】
基体上に設けられており、請求項2記載の絶縁被膜の形成方法により形成されて成る絶縁被膜。
【請求項4】
前記絶縁被膜は、前記基体上に設けられた複数の導電性層のうち互いに隣設された導電性層の間に形成されたものである、請求項3記載の絶縁被膜。
【請求項5】
請求項2に記載の方法により基体上に絶縁被膜を形成する、前記絶縁被膜が形成されて成る電子部品を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−137161(P2011−137161A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−20167(P2011−20167)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【分割の表示】特願2003−317573(P2003−317573)の分割
【原出願日】平成15年9月9日(2003.9.9)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】