説明

ポリイミド樹脂、ならびにそれを用いたドライフィルム、金属積層体および接着シート

【課題】低温接着能を有し、かつ硬化後には高い半田耐熱性、寸法安定性を有するポリイミド樹脂組成物を提供する。
【解決手段】一般式(1)で表される構成単位を有することを特徴とするポリイミド樹脂を提供する。ここで式(1)におけるAは、架橋性官能基を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミド樹脂、および該樹脂を用いたドライフィルム、金属積層体や接着シートなどに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドは、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、電気特性等に優れていることから、航空機の構造材やケーブル被覆材料などに用いられている。ポリイミドは、さらに、フレキシブルプリント基板や半導体パッケージ等の電子分野における耐熱性接着剤としても多く用いられている。
【0003】
このようなポリイミド系耐熱性接着剤には、加工上、耐熱性に加えて、低温接着性が要求されている。低温接着性に優れた樹脂組成物として、シロキサンユニットを有するポリイミド樹脂とエポキシ樹脂とリン酸エステル系可塑剤とからなる樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。しかしながら、ポリイミド樹脂とエポキシ樹脂と可塑剤等の成分が脂肪族ユニットを含むため、熱分解温度が低いという問題があった。
【0004】
一方、十分な接着強度と耐熱性を有する樹脂組成物として、特定のポリアミド酸とビスマレイミド化合物とを含有する組成物が提案されている(例えば、特許文献2〜4を参照)。しかしながら、接着性を得るには300℃以上の温度を要することがあり、十分な低温接着性を有していない。
【0005】
一方、マレイミド基などの架橋性基を分子鎖中に複数有するイミド化合物として、ベンゼン環同士がメチレン基にて結合された骨格を有する化合物が提案されている(例えば、特許文献5,6を参照)。しかしながら、これらの架橋性基含有イミド化合物は、金属と金属との接着用途、もしくは金属と樹脂との接着用途として用いられるが、他のポリイミド樹脂と組み合わせて用いられていない。
【0006】
低温接着性を改善するポリイミド樹脂として、特定のビスマレイミド化合物とポリアミド酸から構成される樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献7を参照)。しかしながら、ポリアミド酸とビスマレイミド化合物から構成されるポリイミド樹脂組成物では、ビスマレイミド化合物は架橋して熱硬化するが、ポリイミド自体は架橋しないため、熱硬化後の弾性率の上昇や線膨張係数(CTE)の低下が十分ではなかった。一方で、近年、金属積層体の樹脂層は、さらに高い半田耐熱性、寸法安定性を有することが求められている。
【0007】
すなわち、近年、電子部品実装においては、従来よりも高融点の鉛フリー半田が用いられている。このため、基板は、高い半田耐熱性を有することが求められている。特に、リジットフレックスやフレキシブル多層基板等は、従来の半田耐熱温度では信頼性が不十分であることから、より高温での半田耐熱性が求められている。
【0008】
また、フレキシブル基板をチップ・オン・フィルム(COF)に用いる場合、インナーリードボンダまたはフリップチップボンダを用いて、チップと金属配線とを、300℃以上の高温でAu−Au接合またはAu−Sn接合する。このため、COFに用いられるフレキシブル基板は、高温でも変形を生じない、高い半田耐熱性を有することが求められる。また、フレキシブル基板の薄型化に加えて、配線の高密度化が進んでおり、金属配線間距離が小さくなっている。このため、フレキシブル基板が高温で加工(接合等)される際に、樹脂層の変形等により金属配線同士が接触する等の不具合が生じ易い。このため、フレキシブル基板は、高い寸法安定性を有することが求められる。
【0009】
また、このようなフレキシブル基板の樹脂層は、接着性や寸法精度など多機能を持たせるために積層構造となっているが、そのために煩雑な製造プロセスが必要であり、基材構成の簡略化が可能なポリイミド樹脂が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平10−212468号公報
【特許文献2】特開平1−289862号公報
【特許文献3】特開平6−145638号公報
【特許文献4】特開平6−192639号公報
【特許文献5】特開昭62−131030号公報
【特許文献6】特開昭63−88178号公報
【特許文献7】特開2004−209962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、低温接着性を有しつつ、前述の要求を満足するような半田耐熱性や寸法安定性を有し、さらに基材構成の簡略化を達成できる樹脂組成物は、未だ提案されていない。本発明は、このような事情を鑑みてなされたものであり、比較的低温の熱圧着条件での接着性を保持しつつ(低温接着性を有し)、かつ高い半田耐熱性、寸法安定性を有するポリイミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一は、以下のポリイミド樹脂に関する。
[1] 下記一般式(1)で表される構成単位を有するポリイミド樹脂。
【化1】

〔式(1)におけるAは、
【化2】

(R1〜4は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基から選ばれ;Rは、−O−、−S−、−CH−、−C(CH−、−CO−から選ばれ;Rは水素原子、フェニル基から選ばれる)のいずれかで表され;
式(1)におけるX、X、Xは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、直結、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−C(CH−、−C(CF−、−SO−、−NHCO−から選ばれ;
式(1)におけるBは、
【化3】

(Y1〜6は、同一であっても異なっていてもよく、直結、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−C(CH−、−C(CF−、−SO−、−NHCO−から選ばれる)のいずれかで表される〕
【0013】
[2] 前記構成単位は、下記一般式(2)で表される構成単位である、[1]に記載のポリイミド樹脂。
【化4】

(式(2)におけるAは、
【化5】

から選ばれ;
式(2)におけるBは、式(1)におけるBと同様に定義される)

【0014】
[3] 前記構成単位は、下記一般式(3)で表される構成単位である、[2]に記載のポリイミド樹脂。
【化6】

(式(3)におけるAは、式(2)におけるAと同様に定義され;
式(3)におけるBは、
【化7】

から選ばれる)
【0015】
[4]ガラス転移温度が、100℃以上300℃以下の範囲である[1]〜[3]のいずれかに記載のポリイミド樹脂。
【0016】
本発明の第2は、以下に示すポリアミド酸に関する。
[5]下記一般式(4)で表される構成単位を有するポリアミド酸。
【化8】

〔式(4)におけるAは、
【化9】

(R1〜4は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基から選ばれ;Rは、−O−、−S−、−CH−、−C(CH−、−CO−から選ばれ;Rは水素原子、フェニル基から選ばれる)のいずれかで表され;
式(4)におけるX、X、Xは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、直結、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−C(CH−、−C(CF−、−SO−、−NHCO−から選ばれ;
式(4)におけるBは、
【化10】

(Y1〜6は、同一であっても異なっていてもよく、直結、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−C(CH−、−C(CF−、−SO−、−NHCO−から選ばれる)のいずれかで表される〕
【0017】
[6] 前記構成単位は、下記一般式(5)で表される構成単位である、[5]に記載のポリアミド酸。
【化11】

(式(5)におけるAは、
【化12】

から選ばれ;
式(5)におけるBは、式(1)におけるBと同様に定義される)
【0018】
[7] 前記構成単位は、下記一般式(6)で表される構成単位である、[6]に記載のポリアミド酸。
【化13】

(式(6)におけるAは、式(2)におけるAと同様に定義され;
式(6)におけるBは、
【化14】

から選ばれる)
【0019】
本発明の第3は、以下に示すドライフィルム、金属積層体または接着シートに関する。
[8] 前記[1]〜[4]いずれか一項に記載のポリイミド樹脂から得られるドライフィルム。
[9] 金属層と樹脂層とを有する金属積層体であって:前記樹脂層は、[1]〜[4]のいずれかに記載のポリイミド樹脂の硬化物を含む層を少なくとも一層有する、金属積層体。
[10] 前記金属積層体の樹脂層は、[1]〜[4]のいずれかに記載のポリイミド樹脂の硬化物を含む単層である。[9]に記載の金属積層体。
[11] 前記金属積層体が、ポリイミドフィルムと、前記ポリイミドフィルムの片面もしくは両面に形成されたポリイミド層と、前記片面または両面に形成されたポリイミド層に積層された金属層を有し:前記金属層に接するポリイミド層が、[1]〜[4]のいずれかに記載のポリイミド樹脂の硬化物を含む層である、[9]に記載の金属積層体。
[12] 前記金属積層体の樹脂層が、ガラスクロスに含浸させた[1]〜[4]のいずれかに記載のポリイミド樹脂の硬化物を含む層を有する、[9]〜[11]に記載の金属積層体。
[13] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリイミド樹脂を含む接着層を少なくとも一層有する接着シート。
[14] 前記[1]〜[4]のいずれかに記載のポリイミド樹脂を含む単層からなる、[13]に記載の接着シート。
[15] ガラスクロスに含浸させた[1]〜[4]のいずれかに記載のポリイミド樹脂を含む接着層を有する、[13]または[14]に記載の接着シート。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、比較的低温の熱圧着条件で接着でき(低温接着能を有し)、かつ硬化後には高い半田耐熱性、寸法安定性を有するポリイミド樹脂組成物を提供できる。このため、ポリイミド樹脂組成物を、例えば、フレキシブルプリント基板用接着剤として好ましく適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.ポリイミド樹脂
本発明のポリイミド樹脂は、比較的低温の接着温度領域では、低い弾性率を有することで良好な接着性を発現するとともに;高温領域で硬化した後には高い弾性率を有することで、優れた半田耐熱性、寸法安定性を発現する。
【0022】
本発明のポリイミド樹脂は、少なくとも一般式(1)で表される構成単位(繰り返し単位)を有する。
【化15】

【0023】
一般式(1)で表される繰り返し単位は、一般式(7)で表されるジアミンと一般式(8)で表されるテトラカルボン酸二無水物から誘導される基で構成されている。
【化16】

【0024】
一般式(1)および(7)におけるX〜Xは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、直結、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−C(CH−、−C(CF−、−SO−、または−NHCO−を示し;得られるポリイミドに低温接着性を付与する点などから、−O−、−S−、−CO−であることが好ましい。非対称な連結基である−COO−や−NHCO−は、−C(=O)O−および−OC(=O)−、ならびに−NHC(=O)−および−C(=O)NH−を意味する。
【0025】
一般式(1)および(7)におけるAを含むイミド基は、フェニル環のいずれの炭素に結合していてもよいが;好ましくは、Xの結合位置に対して、パラ位またはメタ位に結合している。
【0026】
一般式(1)で表される繰り返し単位のBを含むイミド基は、フェニル環のいずれの炭素に結合していてもよいが;好ましくは、XまたはXの結合位置に対して、メタ位またはパラ位に結合している。
【0027】
例えば、一般式(1)で表される繰り返し単位は、一般式(9)で示されるジアミンから合成される単位であることが好ましい。
【化17】

【0028】
一般式(1)、(7)および(9)におけるAは、下記式で表される2価の基でありうる。
【化18】

【0029】
ここで、R1〜4は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく;水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基から選ばれる。Rは、−O−、−S−、−CH−、−C(CH−、−CO−から選ばれる。Rは、水素原子、フェニル基から選ばれる。式(1−1)で示される基は、好ましくはRおよびRが水素原子である式(1−4)で表され;式(1−2)で示される基は、好ましくはRおよびRが水素原子であり、かつRがメチレンである式(1−5)で表され;式(1−3)で示される基は、好ましくはRが水素原子またはフェニル基である式(1−6)または式(1−7)で表される。
【化19】

【0030】
このように、一般式(1)におけるAには、熱架橋性基が含まれることを特徴とする。一般式(1)におけるAは、本発明のポリイミドに求められる物性によって、適宜選択されうる。例えば本発明のポリイミド樹脂には、溶媒への溶解性や、樹脂の加工条件に適した架橋性能が求められることがある。特に、樹脂の加工条件に合わせて適切な温度で架橋する基を選択する必要がある。例えば、式(1−4)で示される基の場合には、低温条件で架橋するポリイミドとなるため、低温加工しやすく;式(1−7)で示される基の場合には、高温条件で架橋するポリイミドとなるため、高温加工しやすい。
【0031】
一方、一般式(1)および(8)におけるBは、下記式で表される4価の基から選ばれる。下記式におけるY〜Yはそれぞれ、単結合、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−C(CH−、−C(CF−、−SO−または−NHCO−である。非対称な連結基である−COO−や−NHCO−は、−C(=O)O−および−OC(=O)−、ならびに−NHC(=O)−および−C(=O)NH−を意味する。
【化20】

【0032】
一般式(1)におけるBは、一般式(8)で表されるテトラカルボン酸二無水物から誘導される4価の基でありうる。一般式(8)で表されるテトラカルボン酸二無水物の例には、ピロメリット酸二無水物、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン二無水物、1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2-ビス〔(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物などが含まれる。なかでも、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物などであることが好ましい。
【0033】
ポリイミド樹脂における一般式(1)で表される構成単位のうちの一部の構成単位におけるテトラカルボン酸ユニットは、一般式(8)で表されるテトラカルボン酸二無水物以外の他のテトラカルボン酸二無水物から誘導されるユニットであってもよい。ポリイミド樹脂には、他のテトラカルボン酸二無水物から誘導されるユニットが、一種以上または二種以上含まれていてもよい。それにより、ポリイミド樹脂の性能の改良や改質をすることができる。
【0034】
他のテトラカルボン酸二無水物の例には、エチレンテトラカルボン酸二無水物、ブタンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,4,9,10-ペリレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、1,2,7,8-フェナントレンテトラカルボン酸二無水物等が含まれる。これらの他のテトラカルボン酸二無水物は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらの他のテトラカルボン酸二無水物の芳香環上の水素原子の一部または全てを、フルオロ基またはトリフルオロメチル基からなる群から選ばれる基で置換したテトラカルボン酸二無水物であってもよい。
【0035】
また、一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドには、所望の物理的性質等を損なわない範囲で、一般式(1)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位が一種以上含まれていてもよい。それにより、ポリイミド樹脂の性能の改良や改質をすることができる。他のポリイミド単位は、共重合成分として含まれていてもよく、ブレンドされた他のポリイミドとして含まれていてもよい。
【0036】
ポリイミド樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、ポリイミド以外の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を含んでもよい。
【0037】
熱可塑性樹脂の例には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリブタジエン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ABS樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフェニレンオキシド、ポリカーボネート、PTFE、セルロイド、ポリアリレート、ポリエーテルニトリル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、変性ポリフェニレンオキシドおよびポリイミドなどが含まれる。熱硬化性樹脂の例には、熱硬化性ポリブタジエン、ホルムアルデヒド樹脂、アミノ樹脂、ポリウレタン、シリコン樹脂、SBR、NBR、不飽和ポリエステル、エポキシ樹脂、ポリシアネート、フェノール樹脂およびポリビスマレイミドなどが含まれる。これらの樹脂を、目的に応じて単独または二種以上をブレンドまたはアロイ化して用いてもよい。複数種の樹脂をブレンドまたはアロイ化する方法は、特に限定されず、公知の方法を適用できる。
【0038】
ポリイミド樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに他の成分を含んでもよい。たとえば、熱処理により進行するポリイミド樹脂の架橋反応速度を制御する(促進または抑制する)ため、ガリウム、ゲルマニウム、インジウムまたは鉛を含有する金属触媒;モリブデン、マンガン、ニッケル、カドミウム、コバルト、クロム、鉄、銅、錫または白金等を含む遷移金属触媒;リン化合物、珪素化合物、窒素化合物、硫黄化合物などを含んでもよい。また、架橋反応速度を制御するため、ポリイミド樹脂に、赤外線や紫外線、α、βおよびγ線等の放射線、電子線またはX線等を照射したり、プラズマ処理、ドーピング処理等を施したりしてもよい。
【0039】
ポリイミド樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに充填剤や添加剤を含んでもよい。充填剤または添加剤の例には、グラファイト、カーボランダム、ケイ石粉、二硫化モリブデン、フッ素系樹脂などの耐摩耗性向上剤;三酸化アンチモン、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等の難燃性向上剤;クレー、マイカ等の電気的特性向上剤;アスベスト、シリカ、グラファイト等の耐トラッキング向上剤;硫酸バリウム、シリカ、メタケイ酸カルシウム等の耐酸性向上剤;鉄粉、亜鉛粉、アルミニウム粉、銅粉等の熱伝導度向上剤;その他ガラスビーズ、ガラス球、タルク、ケイ藻土、アルミナ、シラスバルン、水和アルミナ、金属酸化物、着色料及び顔料等が含まれる。これらの充填剤または添加剤は、単独または二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
ポリイミド樹脂組成物を、フレキシブル回路基板用の積層体の接着層として、または接着シートの接着樹脂層として用いる場合には、ポリイミド樹脂組成物のガラス転移温度を100℃以上300℃以下とすることが好ましい。特に、低温接着性を高めるには、ポリイミド樹脂組成物のガラス転移温度を、100℃以上240℃以下とすることがより好ましく、100℃以上200℃以下とすることがさらに好ましい。
【0041】
ポリイミド樹脂組成物の可塑化時弾性率は、1×10Pa以上1×10Pa以下であることが好ましく;さらには、被着体に対する埋め込み性を高めて、良好な接着性を得るために、1×10Pa以上1×10Pa以下であることがより好ましい。
【0042】
可塑化時弾性率は、例えば以下のように測定される。ポリイミド樹脂組成物の前駆体ワニスをフィルムキャスト後、240℃で30分焼成することにより未架橋フィルムを得る。得られた未架橋フィルムの弾性率を、ティー・エイ・インスツルメント社製RSA−IIIを用いて、窒素雰囲気下、引張モード、1Hzにて、400℃まで測定する。この温度範囲で観測した弾性率の最低値を、可塑化時弾性率(E’min)とする。
【0043】
従来のポリイミド樹脂組成物、例えばポリイミドとビスマレイミド化合物とを含む樹脂組成物では、比較的低温の温度領域において低弾性率を示すとともに、加熱されて架橋することである程度の弾性率の向上が達成されていた。しかしながら、ビスマレイミド化合物を組み合わせた場合には、ビスマレイミド化合物同士が架橋し、ポリイミド自体は架橋しない。これに対して、本発明のポリイミド樹脂では、ポリイミド同士が架橋構造を形成するために、効率的に弾性率やCTE、架橋後のガラス転移温度などの物性が変化しうる。
【0044】
また、本発明のポリイミド樹脂のポリイミドは、繰り返し単位に熱架橋性基を含むので、分子末端だけに架橋性基を導入した場合に比べて、導入された架橋性基の数が多い。よって、非常に高い架橋密度を達成しうる。
【0045】
さらには、ビスマレイミド化合物のような低分子化合物を含まないために、高温での製造プロセスにおける低分子化合物の揮発による製造ラインの汚染が生じない。
【0046】
これらの結果、本発明のポリイミド樹脂を金属積層体の金属層と接する樹脂層に適用すると、樹脂層と金属層とを比較的低温で良好に接着でき;かつ高温で接着させて硬化した後の樹脂層の変形や寸法変化が、効果的に抑制される。
【0047】
2.ポリアミド酸ワニス
本発明のポリアミド酸ワニスは、前記ポリイミド樹脂の前駆体を含むワニスである。ポリアミド酸ワニスは、一般式(4)で表される構成単位(繰り返し単位)を含むポリアミド酸と、必要に応じて溶媒とを含む。
【化21】

【0048】
一般式(4)におけるA、B及びX〜Xは、一般式(1)におけるA、B及びX〜Xと同様に定義される。
【0049】
0.5g/dlの濃度のポリアミド酸を含むN,N-ジメチルアセトアミド溶液の対数粘度ηinhは、0.2〜2.0dl/gであることが好ましく;0.3〜1.0dl/gであることがより好ましく;0.4〜0.9dl/gであることがさらに好ましい。対数粘度ηinhは、例えば、ウベローデ粘度管を用いて測定できる。
【0050】
ポリアミド酸の対数粘度が上記範囲内であると、フィルムや金属積層体の製造する際のポリアミド酸ワニスの塗布工程において、塗膜厚みを均一にし易くなる。また、ポリアミド酸ワニスの塗膜をイミド化して得られる樹脂組成物の強度を高めることができ、フィルムや金属積層体として成形し易くなる。
【0051】
ポリアミド酸ワニスは、ポリアミド酸と他の成分とを均一に混合したり、適切な粘度に調整したりするため、溶媒を含むことが好ましい場合がある。溶媒は、特に制限されないが、非プロトン性極性溶媒であることが好ましく、非プロトン性アミド系溶媒であることがより好ましい。非プロトン性アミド系溶媒の例には、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルメトキシアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンなどが含まれる。
【0052】
ポリアミド酸ワニスは、必要に応じて、さらに他の溶媒を含んでもよい。このような他の溶媒の例には、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、o-クロロトルエン、m-クロロトルエン、p-クロロトルエン、o-ブロモトルエン、m-ブロモトルエン、p-ブロモトルエン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン等が含まれる。これらの他の溶媒は、単独で含まれてもよいし、2種以上含まれてもよい。
【0053】
本発明のポリアミド酸ワニスの、E型粘度計により測定された25℃での粘度は、特に制限されないが、塗布厚みを制御し易い等の点から、100〜20000mPa・Sの範囲であることが好ましい。
【0054】
ポリアミド酸ワニスは、前記ポリイミド樹脂と同様に、必要に応じて、他の任意成分を含んでもよい。
【0055】
3.ポリイミド樹脂組成物の製造方法
ポリイミド樹脂組成物の製造方法は、一般式(4)で表される繰り返し単位を含むポリアミド酸を加熱してイミド化して得られうる。一般式(4)で表される繰り返し単位を含むポリアミド酸は、例えば上記一般式(7)で表されるジアミンと、上記一般式(8)で表されるテトラカルボン酸二無水物とを、重縮合反応させることにより得られる。重縮合反応におけるジアミンとテトラカルボン酸二無水物との仕込み比は、下記式(A)を満たすことが好ましい。
M1:M2=0.900〜1.00:1.00 …式(A)
(M1:テトラカルボン酸二無水物のモル数、M2:ジアミンのモル数)
【0056】
M1:M2は、0.92〜1.00:1.00であることが好ましく;0.95〜1.00:1.00であることがより好ましく;0.97〜1.00:1.00であることがさらに好ましい。前記仕込み比を、このような範囲にすることで分子量を調整し、ポリイミドの特性を十分に引き出すことができ、また取扱いも容易になる。
【0057】
また、M1:M2=1の場合を除いて、仕込み比を上記範囲に設定すると、酸無水物基が完全に消費されて、ポリイミドの分子末端がアミノ基となる。この分子末端のアミノ基は、一般式(10)で示される化合物との反応により、末端封止されていることが好ましい。
【化22】

【0058】
一般式(10)におけるDは、特に制限されないが、下記式で表される基から選ばれることが好ましい。
【化23】

【0059】
ここで、R1〜4は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基から選ばれる。Rは、−O−、−S−、−CH−、−C(CH−、−CO−から選ばれる。Rは水素原子、フェニル基から選ばれる。
【0060】
ポリアミド酸の分子末端が封止されていると、脱水閉環して得られるポリイミドの末端基(特に、末端アミノ基)とポリイミド分子構造中のカルボニル基との反応を抑制することができる。当該反応を抑制することで、ポリイミド樹脂を加熱して可塑化するとき(つまり、低温時)の樹脂の弾性率を、十分に下げることができる。そのため例えば、ポリイミド樹脂組成物を金属箔に積層して金属積層板を得るために加熱すると、加熱されたポリイミド樹脂組成物が金属箔の凹凸に効率よく埋め込まれ、高い接着性を得ることができる。また、上記の末端基は架橋反応性も有している。そのため、ポリイミド樹脂組成物の硬化物の弾性率を高めて、かつ線膨張係数を低減させることもできる。
【0061】
ポリアミド酸を加熱してイミド化するには、まず、一般式(4)で表される構成単位(繰り返し単位)に含まれる熱架橋性基の架橋反応が生じない程度の温度で溶媒を除去し;さらに、ポリアミド酸をイミド化(閉環)させる。イミド化のための加熱温度は、例えば100〜300℃程度であり、加熱時間は、例えば3分〜12時間程度である。イミド化は、通常、大気圧で十分で行うが、加圧下で行なってもよい。イミド化させるときの雰囲気は、特に制限されないが、通常、空気、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等であり、不活性気体である窒素やアルゴンであることが好ましい。
【0062】
4.ポリイミド樹脂の用途
本発明のポリイミド樹脂は、種々の用途に用いられるが、低温接着性や高温加工時の寸法安定性が求められる用途、例えばドライフィルム、接着シート、金属積層体等に好適に適用されうる。
【0063】
1)ドライフィルム
本発明のドライフィルムは、本発明のポリイミド樹脂を含む。ドライフィルムは、例えば基板上に前記ポリアミド酸ワニスを塗布し、脱溶媒およびイミド化した後、得られたフィルムを基板から剥離することにより得られる。ポリアミド酸ワニスの脱溶媒およびイミド化は、特に制限はないが、減圧下あるいは窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0064】
加熱温度は、前述の通り、ポリアミド酸の繰り返し単位に含まれる熱架橋性基が架橋反応しない温度であって、溶媒の沸点以上かつイミド化反応が進行する温度であればよい。例えば、非プロトン系アミド溶媒中で合成されたポリアミド酸である場合、脱溶媒およびイミド化させる際の加熱温度は、100〜300℃程度であればよく、加熱時間は、特に制限はないが、通常3分〜12時間程度であればよい。
【0065】
ポリアミド酸ワニスを塗布する基板の例には、金属箔、ガラス等の無機基板;各種樹脂フィルムなどが含まれる。ポリアミド酸ワニスの塗膜の厚みは、ポリアミド酸ワニスの固形分濃度にもよるが、脱溶媒、イミド化後のフィルム厚みが1mm以下となるように調整されることが好ましい。
【0066】
ポリアミド酸ワニスの塗布手段の例には、ロールコーター、ダイコーター、グラビアコーター、ディップコーター、スプレーコーター、コンマコーター、カーテンコーター、バーコーター等の一般的な塗布手段が含まれる。これらの塗布手段は、ポリアミド酸ワニスの粘度や塗膜厚さに応じて、適宜選択される。
【0067】
ポリアミド酸ワニスの乾燥手段の例には、電気加熱あるいはオイル加熱した熱風、赤外線等を熱源としたロールサポート、エアーフロート方式の乾燥炉などが含まれる。ポリイミド樹脂の変質や、金属箔の酸化による変色などを防止するため、乾燥雰囲気を空気以外の窒素、アルゴン、水素等のガスで置換してもよい。
【0068】
2)接着シート
本発明の接着シートは、本発明のポリイミド樹脂を含む接着層を有する。さらに、接着シートは、基材樹脂フィルムと、その片面または両面に形成された接着層とを有し、接着層に本発明のポリイミド樹脂が含まれることが好ましい。
【0069】
基材樹脂フィルムは特に制限されないが、ポリイミドフィルムであることが好ましい。ポリイミドフィルムの例には、非熱可塑性ポリイミドの前駆体ワニスを塗布、乾燥して得られるフィルム、市販の非熱可塑性ポリイミドフィルムなどが含まれる。具体的には、ユーピレックスS、ユーピレックスSGA、ユーピレックスSN(宇部興産株式会社製、登録商標/商品名)、カプトンH、カプトンV、カプトンEN(東レ・デュポン株式会社製、登録商標/商品名)、アピカルAH、アピカルNPI、アピカルHP((株)カネカ製、登録商標/商品名)などが含まれる。
【0070】
接着シートは、例えば、基材樹脂フィルム上に、ポリアミド酸ワニスを塗布・乾燥および必要に応じてイミド化することにより得られる。塗布、乾燥の手法は、ドライフィルムの場合と同様にして行うことができる。接着層の厚みは、1mm以下であることが好ましい。
【0071】
本発明の接着シートは、本発明のポリイミド樹脂を含む単層からなるドライフィルムをであってもよい。単層の接着シートは、製造コストが低減されうる。
【0072】
本発明の接着シートは、ガラスクロスに含浸されたポリイミド樹脂を含む層を有していてもよい。ガラスクロスにポリイミド樹脂を含浸させることで、より高い弾性率やより低いCTEが得られる。
【0073】
3)金属積層体
本発明の金属積層体は、金属層と樹脂層とを有し;樹脂層の少なくとも一層が、本発明のポリイミド樹脂の硬化物を含む層である。
【0074】
金属積層体の金属層は、特に限定されないが、銅、銅合金、ステンレス鋼、ステンレス鋼の合金、ニッケル、ニッケル合金(42合金も含む)、アルミニウムおよびアルミニウム合金等から選ばれる金属であることが好ましい。なかでも、金属層は、銅、銅合金、またはステンレス箔であることがより好ましい。金属層は、金属箔であってもよいし、スパッタ法等により樹脂層上に形成されたものであってもよい。
【0075】
金属積層体の金属層の厚みは、リール状で使用できる厚みであれば特に制限はないが、0.1μm以上150μm以下であることが好ましく;2μm以上150μm以下であることがより好ましく;3μm以上50μm以下であることがさらに好ましく;3μm以上35μm以下であることがよりさらに好ましく;3μm以上12μm以下であることが最も好ましい。
【0076】
金属積層体の樹脂層は、ポリイミド層であることが好ましい。樹脂層は、単層であってもよいし、多層であってもよい。樹脂層が多層のポリイミド層である場合、隣接するポリイミド層の成分は、互いに異なることが好ましい。隣接するポリイミド層の成分が互いに異なるとは、具体的には、モノマーの成分や組成が異なることをいう。また、単層のポリイミド層、または多層のポリイミド層のうちの少なくとも一層は、2種以上の異なるポリイミドからなる樹脂組成物(混合物)を含んでもよい。
【0077】
金属積層体の樹脂層が多層のポリイミド層である場合には、例えば、ポリイミドフィルムと、該ポリイミドフィルムの片面または両面に形成されたポリイミド層とを有する。このうち金属層と接するポリイミド層が、本発明のポリイミド樹脂の硬化物を含む層であることが好ましい。本発明のポリイミド樹脂の硬化物とは、具体的には、ポリイミド樹脂の一般式(1)で表される構成単位に含まれる熱架橋性基を架橋反応させて得られる硬化物であることが好ましい。本発明のポリイミド樹脂の硬化物を含む層は、金属層との密着性に優れる。
【0078】
金属層に接するポリイミド層の厚さは、0.1μm以上20μm以下であることが好ましく;0.1μm以上10μm以下であることがより好ましく;0.1μm以上5μm以下であることがさらに好ましい。ポリイミド層の総厚みが大きくなりすぎると、剛性が高くなるため、耐折性などが要求される用途には適さず;一方、薄すぎると絶縁性やハンドリング性が低下する。このため、金属積層体の樹脂層の総厚みは、3μm以上75μm以下であることが好ましく、10μm以上45μm以下であることがより好ましい。ポリイミド層の厚みが上記範囲内にあると、金属積層体は、絶縁性、柔軟性、作業性に優れ、かつ低コストである傾向がある。
【0079】
金属積層体の樹脂層におけるポリイミドフィルムは、前述のポリイミドフィルムと同様のものが用いられる。ポリイミドフィルムとして、市販の非熱可塑性ポリイミドフィルムを用いる場合、フィルム厚さは通常3μm以上75μm以下であり、好ましくは7.5μm以上40μm以下である。ポリイミドフィルムとして、非熱可塑性ポリイミドの前駆体ワニスを塗布乾燥させて得られるフィルムを用いる場合には、フィルム厚さは0.1μm以上40μm以下;好ましくは0.5μm以上25μm以下;さらに好ましくは0.5μm以上16μm以下である。これらのポリイミドフィルムの表面には、プラズマ処理、コロナ放電処理等を施してもよい。
【0080】
金属積層体の樹脂層は、本発明のポリイミド樹脂からなる単層であってもよい。樹脂層が単層であれば、製造コストが大幅に低減される。また、金属積層体の樹脂層は、ガラスクロスに含浸させた本発明のポリイミド樹脂の硬化物を含む層を有していてもよい。
【0081】
本発明のポリイミド金属積層体は、特に制限されないが、例えば以下の方法により製造されうる。
(1)本発明のポリイミド樹脂を含むドライフィルムと金属箔とを加熱圧着する方法。
(2)本発明のポリアミド酸ワニス(ポリイミド前駆体ワニス)を金属箔上に塗布・乾燥し、さらにイミド化する方法。
【0082】
(1)で用いられるドライフィルムは、単層のポリイミド層を有していても、多層のポリイミド層を有していてもよい。ドライフィルムが多層のポリイミド層を有する場合、少なくとも金属箔と接するポリイミド層が、本発明のポリイミド樹脂を含んでいればよい。
【0083】
(1)の方法における、加熱圧着の方法の例には、オイル等を熱媒とした加熱または誘電加熱により熱せられた金属ロール、またはその金属ロール表面をゴム等でライニングしたロール同士の間で、ラミネートする方法;熱プレスする方法などが含まれる。ラミネートする方法は、連続したロール品の製造に適しており;熱プレスする方法は、カットシート状の枚葉品の製造に適しており、用途に応じて適宜選択されうる。
【0084】
加熱圧着時の雰囲気ガスは、例えば、空気、窒素、アルゴン等である。加熱温度は、熱可塑ポリイミドの、主にガラス転移温度に応じた温度であり、通常100〜400℃であり、150〜300℃であることが好ましい。加熱時間は、例えば0.01秒〜15時間である。加熱圧力は、例えば0.1〜30MPaであればよく、0.5〜10MPaであることが好ましい。
【0085】
金属箔とポリイミド層との密着力をさらに高めるため、オートクレーブなどを用いて後処理してもよい。後処理温度は、通常150〜400℃、好ましくは200〜350℃であり;後処理時間は1分〜50時間であり;処理圧力は常圧〜3MPaである。金属箔の酸化を防止する上で、オートクレーブ装置内を、真空、または窒素、アルゴンなどの不活性ガスで置換しておくことが好ましい。
【0086】
(2)の方法における、ポリアミド酸ワニスの塗膜の乾燥温度は、60〜600℃の温度範囲であればよいが、段階的に昇温することが好ましい。塗膜温度を段階的に昇温して乾燥することで、発泡やユズ肌の形成などの不具合を生じることなく、膜厚が均一で、かつ寸法安定性にも優れるポリイミド層を得ることができる。乾燥時間は、0.05〜500分の範囲で、適宜設定されればよい。ポリアミド酸ワニスの塗布・乾燥手段は、前述と同様のものを用いることができる。
【0087】
樹脂層の両面に金属箔が積層された両面金属積層体は、(1)または(2)のいずれの方法によっても製造され、(1)と(2)を組み合わせた方法によっても製造されうる。たとえば、(1)の方法に準じてドライフィルムと金属箔とを加熱圧着して得られる片面金属積層体(i)を用意し;(2)の方法に準じてポリアミド酸ワニスを金属箔に塗布、乾燥およびイミド化して得られる片面金属積層体(ii)を用意する。そして、片面金属積層体(i)のドライフィルム面と、片面金属積層体(ii)のポリイミド面とを加熱圧着して積層することで、両面金属積層体を得ることができる。
【0088】
このように、金属積層体における金属層に接するポリイミド層を、本発明のポリイミド樹脂を含む層にすることで、比較的低温で金属層とポリイミド層とを良好に接着させることができる。このため、高い加工温度にしなくても金属層とポリイミド層との界面にボイドが残存することなく、高い接着強度を有する積層板を得ることができる。
【0089】
さらに、本発明のポリイミド樹脂の硬化物の弾性率が高い。したがって、本発明のポリイミド樹脂の硬化物を含む層を有する金属積層体は、使用温度条件が厳しいLSIチップや部品実装工程、それらリペア工程等において電気配線板として使用されても、半田膨れなどが抑制される。さらに、前記ポリイミド樹脂の硬化物を含む層を有する金属積層体は、高温時の変形や寸法変化が少ないので、電気配線板の基板の薄型化や、配線の高密度化に伴って発生する配線ショート等を抑制することができる。
【実施例】
【0090】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これにより何ら限定されるものではない。実施例および比較例で用いた化合物の略称は、以下の通りである。
【0091】
[溶媒]
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DMAc:N,N-ジメチルアセトアミド
[ジアミン]
TrisAPB:1,3,5-トリ(3-アミノフェノキシ)ベンゼン
APB:1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン
[テトラカルボン酸二無水物]
BTDA:3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
PEPA:4-フェニルエチニル無水フタル酸
【0092】
(合成例1)
熱架橋性基導入ジアミンの合成
撹拌機、ディーンスタークトラップおよび窒素導入管を備えた容器に、溶媒としてNMP150gを入れ、続いてTrisAPB30.0gを装入し、室温で撹拌して溶解させた。この溶液に、PEPA18.6gを装入し、室温で1時間撹拌した。続いて、キシレン150gを加え、180℃のオイルバスで加熱して共沸脱水しながらさらに6時間反応した。その後、キシレンを加熱除去し、得られたNMP溶液を水に投入した。析出物をろ別し、アセトンに溶解して再度水に投入し洗浄した。析出物をろ別、減圧乾燥して、目的物を含む混合物を得た。得られた粗生成物をアセトニトリルに溶解し、不溶部を除去後、カラムクロマトグラフィー(溶離液:クロロホルム⇒クロロホルム/酢酸エチル)により精製を行い、下記式に示す構造の目的物(TrisAPB−mPEPI)を収率29%(対TrisAPB換算)で得た。HPLCにより単一化合物であることを確認し、H−NMRにより、構造確認を行った。
【化24】

【0093】
H−NMR(DMSO):δ= 5.23(s, 4H)、6.14−6.95(m, 9H)、6.98(t, 2H)、7.10−7.29(m, 3H)、7.38−7.73(m, 6H)、7.93−8.10(m, 3H)
【0094】
(合成例2)
ポリアミド酸の合成
撹拌機および窒素導入管を備えた容器に、合成例1で得られたTrisAPB−mPEPIを5.92g入れ、溶媒としてDMAcを16.6g加えて室温にて攪拌し溶解させた。この溶液に、BTDA3.03gを装入し、室温で12時間反応することによりポリアミド酸を合成した。続いて、DMAc8.22gを更に加えてしばらく攪拌し、ポリアミド酸固形分の含有率が25重量%のポリアミド酸ワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの対数粘度は0.51dl/gであり、25℃でのE型粘度は1100mPa・Sであった。
【0095】
(実施例1)
合成例2で得たポリアミド酸ワニスをガラス板にキャストし、キャスト膜を焼成して得られた未架橋フィルム(ドライフィルム)または架橋後フィルムについて、以下の試験を行い、未架橋ガラス転移温度(Tg1)、可塑化時弾性率(E’min)、線膨張係数(CTE)、架橋後ガラス転移温度(Tg2)、および架橋後弾性率(E’@300℃)をそれぞれ測定した。これらの結果を表1に示す。
【0096】
1)未架橋ガラス転移温度(Tg1)
上記ポリアミド酸ワニスのキャスト膜を、窒素雰囲気下、240℃で30分焼成し、未架橋ポリイミドフィルム(ドライフィルム)(50μm)を作製した。このドライフィルムを、ティー・エイ・インスツルメント社製RSA−IIIを用いて、窒素雰囲気下、引張モード、1Hzにて400℃まで弾性率を測定し、この温度範囲において損失弾性率(E’’)がピークトップを示す温度を未架橋ガラス転移温度(Tg1)とした。
【0097】
2)可塑化時弾性率(E’min)
1)で得られたドライフィルムを、ティー・エイ・インスツルメント社製RSA−IIIを用い、窒素雰囲気下、引張モード、1Hzにて400℃まで弾性率を測定した。そして、この範囲で測定した貯蔵弾性率の最低値を、可塑化時弾性率(E’min)とした。
【0098】
3)線膨張係数(CTE)
上記ポリアミド酸ワニスのキャスト膜を、窒素雰囲気下、350℃で2時間焼成し、架橋後フィルム(厚み50μm)を作製した。この架橋後フィルムを、島津製作所(株)社製熱分析装置TMA50シリーズを用いて、乾燥空気雰囲気下、100℃〜200℃の範囲の線膨張係数を測定した。
【0099】
4)架橋後ガラス転移温度(Tg2)
3)で得られた架橋後フィルムを、ティー・エイ・インスツルメント社製RSA−IIIを用いて、窒素雰囲気下、引張モード、1Hzにて400℃まで弾性率を測定し、この温度範囲において損失弾性率(E’’)がピークトップを示す温度を架橋後ガラス転移温度(Tg2)とした。
【0100】
5)弾性率(E’@300℃)
上記と同様にして測定した固体粘弾性測定において、350℃での貯蔵弾性率を架橋後弾性率(E’@300℃)とした。
【0101】
市販のポリイミドフィルム(東レ・デュポン(株)製、商品名:カプトン80EN)の両面に、上記ポリアミド酸ワニス(ポリイミド樹脂組成物の前駆体ワニス)を、グラビアコーターにより乾燥後の厚さが2.5μmになるように塗工した。この塗膜を、70℃で5分、100℃で2分、140℃で2分、180℃で2分、220℃で10分乾燥することにより、ポリイミドフィルムの両面に未架橋の熱可塑性ポリイミド層を有するポリイミド絶縁フィルム(樹脂層)を得た。
【0102】
上記ポリイミド絶縁フィルムと、市販の銅箔(古河サーキットフォイル(株)製、商品名:F1−WS、厚さ18μm)とを、ハンドプレスを用いて、以下の条件で加熱圧着した。ポリイミド絶縁フィルムの熱可塑性ポリイミド層と、銅箔とをそれぞれはり合わせて、8MPaで圧着しながら、2℃/分の速度で360℃まで昇温し、そのまま4時間保持して接着させた。これにより、ポリイミド金属積層体(両面金属積層板)を得た。得られたポリイミド金属積層体の接着性および寸法精度を評価した。これらの結果を、表1に示す。
【0103】
6) 接着性
上記両面金属積層板サンプル(10cm×10cm)を作製し、このサンプルの断面を透過型電子顕微鏡により観察した。銅箔の接着面は粗面になっており、ポリイミド層がこの粗面に隙間無く埋め込まれている場合を○、銅箔との間に隙間が存在する場合を×として、接着性(密着性)の評価とした。
【0104】
7)寸法変化率
上記の両面金属積層板サンプル(10cm×10cm)を用意し、この基材の四方に孔を空けた後、両面の銅箔をエッチング除去した。この両面金属積層板サンプルを、湿度50%、23℃の雰囲気にて24時間放置した。その後、形成した孔の孔間距離変化率を測定した。銅箔の搬送方向およびそれに対して垂直方向の平均値から、寸法変化を算出した。算出結果を表1に示す。
【0105】
(比較例1)
PEPA末端ポリアミド酸
撹拌機および窒素導入管を備えた容器に、溶媒としてDMAc 1375gを装入後、これにAPB 351gを装入、溶解するまで室温にて撹拌した。次に、BTDA 381g、PEPA8.94gを装入、室温において12時間撹拌して、ポリアミド酸を合成した。続いて、DMAc848gを更に加えてしばらく攪拌し、ポリアミド酸固形分の含有率が25重量%のポリアミド酸ワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの対数粘度は0.64dl/g、25℃でのE型粘度は3000mPa・Sであった。
【0106】
得られたポリアミド酸ワニスをガラス板にキャスト後、焼成して得られる未架橋フィルム(ドライフィルム)または架橋後フィルムについて、実施例1と同様に試験を行った。これらの結果を表1に示す。
【0107】
(比較例2)
特許文献7の記載を参考にして、従来のポリイミド樹脂組成物を調整した。撹拌機および窒素導入管を備えた容器に、溶媒としてDMAc793gを装入した後、APB205gを装入し、室温で撹拌して溶解させた。この溶液に、BTDA222gを装入し、室温で12時間撹拌することによりポリアミド酸ワニスを得た。得られたポリアミド酸ワニスの対数粘度は0.76dl/gであった。
【0108】
得られたポリアミド酸ワニスと、下記式で表されるAPB−BMIを、混練機用ボトルに装入した。このとき、ポリアミド酸ワニス中のポリアミド酸固形分100重量部に対して、APB−BMIが18重量部となるように調製した。
【化25】

【0109】
得られた溶液を、混練機にて混合および溶解させ、全固形分の濃度が25wt%になるようにDMAcを加えることにより、淡褐色透明なポリアミド酸ワニス(ポリイミド樹脂組成物の前駆体ワニス)を得た。得られたポリアミド酸ワニスのE型粘度は1160mPa・Sであった。
【0110】
得られたポリアミド酸ワニスをガラス板にキャスト後、焼成して得られる未架橋フィルム(ドライフィルム)または架橋後フィルムについて、実施例1と同様に試験を行った。これらの結果を、表1に示す。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のポリイミド樹脂を接着剤として用いれば、低温による接着が実現でき、かつ接着物の変形が抑制される。よって、特に好ましくは、フレキシブル電気配線版用の金属積層体の製造に適用される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構成単位を有するポリイミド樹脂。
【化1】

〔式(1)におけるAは、
【化2】

(R1〜4は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基から選ばれ;Rは、−O−、−S−、−CH−、−C(CH−、−CO−から選ばれ;Rは水素原子、フェニル基から選ばれる)のいずれかで表され;
式(1)におけるX、X、Xは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、直結、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−C(CH−、−C(CF−、−SO−、−NHCO−から選ばれ;
式(1)におけるBは、
【化3】

(Y1〜6は、同一であっても異なっていてもよく、直結、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−C(CH−、−C(CF−、−SO−、−NHCO−から選ばれる)のいずれかで表される〕
【請求項2】
前記構成単位は、下記一般式(2)で表される構成単位である、請求項1に記載のポリイミド樹脂。
【化4】

(式(2)におけるAは、
【化5】

から選ばれ;
式(2)におけるBは、一般式(1)におけるBと同様に定義される)
【請求項3】
前記構成単位は、下記一般式(3)で表される構成単位である、請求項2に記載のポリイミド樹脂。
【化6】

(式(3)におけるAは、一般式(2)におけるAと同様に定義され;
式(3)におけるBは、
【化7】

から選ばれる)
【請求項4】
ガラス転移温度が100℃以上300℃以下の範囲である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂。
【請求項5】
下記一般式(4)で表される構成単位を有するポリアミド酸。
【化8】

〔式(4)におけるAは、
【化9】

(R1〜4は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜3のアルキル基から選ばれ;Rは、−O−、−S−、−CH−、−C(CH−、−CO−から選ばれ;Rは水素原子、フェニル基から選ばれる)のいずれかで表され;
式(4)におけるX、X、Xは、それぞれ同一であっても異なっていてもよく、直結、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−C(CH−、−C(CF−、−SO−、−NHCO−から選ばれ;
式(4)におけるBは、
【化10】

(Y1〜6は、同一であっても異なっていてもよく、直結、−O−、−S−、−CO−、−COO−、−C(CH−、−C(CF−、−SO−、−NHCO−から選ばれる)のいずれかで表される〕
【請求項6】
前記構成単位は、下記一般式(5)で表される構成単位である、請求項5に記載のポリアミド酸。
【化11】

(式(5)におけるAは、
【化12】

から選ばれ;
式(5)におけるBは、一般式(4)におけるBと同様に定義される)
【請求項7】
前記構成単位は、下記一般式(6)で表される構成単位である、請求項6に記載のポリアミド酸。
【化13】

(式(6)におけるAは、一般式(5)におけるAと同様に定義され;
式(6)におけるBは、
【化14】

から選ばれる)
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂から得られるドライフィルム。
【請求項9】
金属層と樹脂層とを有する金属積層体であって、
前記樹脂層は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂の硬化物を含む層を少なくとも一層有する、金属積層体。
【請求項10】
前記金属積層体の樹脂層は、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂の硬化物を含む単層である、請求項9記載の金属積層体。
【請求項11】
前記金属積層体が、ポリイミドフィルムと、前記ポリイミドフィルムの片面もしくは両面に形成されたポリイミド層と、前記片面または両面に形成されたポリイミド層に積層された金属層を有し、
前記金属層に接するポリイミド層が、請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂の硬化物を含む層である、請求項9記載の金属積層体。
【請求項12】
前記金属積層体の樹脂層が、ガラスクロスに含浸させた請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂の硬化物を含む層を有する、請求項9〜11記載の金属積層体。
【請求項13】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂を含む接着層を少なくとも一層有する接着シート。
【請求項14】
請求項1〜4いずれか一項に記載のポリイミド樹脂を含む単層からなる、請求項13に記載の接着シート。
【請求項15】
ガラスクロスに含浸させた請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリイミド樹脂を含む接着層を有する、請求項13または請求項14に記載の接着シート。


【公開番号】特開2011−102349(P2011−102349A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257467(P2009−257467)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】