説明

モータ制御装置、モータ制御方法

【課題】モータを精度良く制御することを可能にするモータ制御装置、及びモータ制御方法を提供する。
【解決手段】電流指令値から、電圧指令値を生成し、モータに流れる検出電流によりフィードバック制御するモータ制御装置であって、前記モータを一定速度で回転させ、一定電流量のd軸電流を流す速度指令値に基づいてモータの速度制御を行う速度PI制御部303と、モータが一定速度で回転し、一定電流量のd軸電流が流れているときの速度制御部の出力に基づく電流指令値を測定する電流測定部402と、測定された電流指令値に基づき、モータの回転位置に対する補正値を算出するオフセット算出部403と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置、モータ制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3相ブラシレスモータを制御する際には、UVWの3相にて制御するのではなく、UVWの3相をd軸q軸の2軸座標へと座標変換し、d軸q軸の2相にて制御するのが一般的である。
ここで、d軸とq軸の2軸座標へ座標変換したdqベクトル制御の概略を説明する。dqベクトル制御は、回転子の界磁方向をd軸、これと直交する方向をq軸とするdq座標系上の等価回路でモータの制御処理を行う。このようなモータを制御するモータ制御装置は、例えば、PI(Proportional Integral;比例積分)制御を用いてd軸の検出電流Id及びq軸の検出電流Iqが、d軸指令電流Id及びq軸指令電流Iqに追従するように、フィードバック制御によりd軸指令電圧Vd及びq軸指令電圧Vqを制御している。
【0003】
このようなモータが有するロータの回転角度位置を検出する角度検出器として、レゾルバと角度検出回路とを組み合わせて回転角度を検出する角度検出器が用いられている。レゾルバは、ロータコイルとステータコイルとの位相差によりロータの回転角度を検出する回転検出装置である。レゾルバは、ロータコイルに正弦波信号(Esin(ωt)(Eは正弦波の振幅、ωは励磁周波数))を印加することで、磁界を生じる。この磁界中に、互いに直角に置かれた2つのステータコイルに、それぞれのコイルに位相差のある電圧(KEsin(ωt)×sin(θ)、KEsin(ωt)×cos(θ))が発生する。レゾルバは、このステータコイルの出力を用いて回転角度θを検出している。そして、モータ制御装置は、検出した回転角度θに基づいて、モータの電流を制御している。
【0004】
しかしながら、このような角度検出器が組み付けられたモータでは、角度検出器と同期モータの回転位置との間にレゾルバの製造精度により誤差、及びレゾルバの組み付けによる誤差などが生じることがある。
このため、特許文献1に記載のモータ制御装置は、d軸及びq軸の各電流指令値を0にして、外部からモータを回転させる。この場合、モータには、誘起電圧が発生するが、モータ制御装置が、電流が0になるようにモータを制御している。このため、モータ制御装置は、d軸電流Id、q軸電流Iqを0にするように制御することになり、角度検出器と同期モータの回転位置との間の位相がずれていない場合、q軸電圧Vqのみが発生し、d軸電圧Vdは0となる。
しかしながら、角度検出器と同期モータの回転位置との間の位相がずれている場合、d軸電圧Vdが発生する。特許文献1に記載のモータ制御装置は、d軸電流Id及びq軸電流Iqを0にするd軸指令電圧Vdとq軸指令電圧Vqとを求め、求めたd軸指令電圧Vdが0になるオフセット量Δθを算出している。そして、特許文献1に記載のモータ制御装置では、算出したオフセット量を用いて、角度検出器と同期モータの回転位置との間に生じるずれを補正していた。
【0005】
また、特許文献2に記載のモータ制御装置は、q軸電流Iqを0に制御し、d軸電流Idを流してモータを回転させる。この場合、q軸電流Iqは、トルクを発生する電流であり、d軸電流Idは、励磁電流である。このため、角度検出器と同期モータの回転位置との間にずれが生じていない場合、q軸電流Iqを0にして、d軸電流Idを流しても、トルクは発生しない。しかしながら、角度検出器と同期モータの回転位置との間にずれが生じている場合、q軸電流Iqを0にして、d軸電流Idを流すと、トルクが発生する。このため、特許文献2に記載のモータ制御装置では、q軸電流Iqを0に制御し、d軸電流Idを流してモータを回転させたとき、トルクが0になるように調整することで、角度検出器と同期モータの回転位置との組み込みの位置ズレや製造誤差等により発生するずれを補正していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3789895号公報
【特許文献2】特開2002−374692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1に記載の技術では、検出信号を2相から3相への変換器を用いてd軸とq軸の2軸座標へ座標変換を行っている。一方、特許文献1に記載の技術では、生成された指令値に基づいて、モータを駆動するPWM(パルス幅変調)変換器においても、遅れが生じる。このため、角度検出器とPWM出力との間に遅れが生じる場合がある。この結果、特許文献1に記載の技術では、これらの遅れ分がオフセット調整の精度に影響を与えるため、モータを精度良く制御できないという問題点があった。また、特許文献1に記載の技術では、オフセット調整量を、指令電圧値から算出しているが、指令電圧がノイズや高周波の影響を受けやすいため、モータを精度良く制御できないという問題点があった。
【0008】
また、特許文献2に記載の技術では、トルクを利用して補正しているので、モータ及びモータに接続されている負荷に摩擦があると、この摩擦がトルクに影響して補正値に誤差が生じ、モータを精度良く制御できないという問題点があった。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであって、モータを精度良く制御することを可能にするモータ制御装置、及びモータ制御方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明のモータ制御装置は、電流指令値から、電圧指令値を生成し、モータに流れる検出電流によりフィードバック制御するモータ制御装置であって、前記モータを一定速度で回転させ、一定電流量のd軸電流を流す速度指令値に基づいて前記モータの速度制御を行う速度制御部と、前記モータが一定速度で回転し、前記一定電流量のd軸電流が流れているときの前記速度制御部の出力に基づく前記電流指令値を測定する電流測定部と、前記測定された電流指令値に基づき、前記モータの回転位置に対する補正値を算出する補正値算出部と、を備えることを特徴としている。
【0011】
また、本発明において、前記補正値算出部は、前記算出した補正値を前記モータの回転位置に対応した検出値に加算して回転位置を示す値を生成し、前記速度制御部は、前記生成された回転位置を示す値に基づき前記モータを制御するようにしてもよい。
【0012】
また、本発明において、前記速度制御部は、前記電流測定部が前記電流指令値を測定するとき、弱め界磁制御領域で、前記モータに前記一定電流量のd軸電流を流す速度指令値に基づいて前記モータの速度制御を行うようにしてもよい。
【0013】
また、本発明において、前記速度制御部は、前記電流測定部が前記電流指令値を測定するとき、前記モータの速度が弱め界磁領域に属していない制御領域で、前記電流指令値に前記一定電流量のd軸電流を加算した電流指令値に基づいて前記モータの速度制御を行うようにしてもよい。
【0014】
また、本発明において、前記電流指令値は、d軸電流指令値及びq軸電流指令値であり、前記電流測定部は、前記モータが前記速度指令値に基づいて回転しているとき、前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値を測定し、前記補正値算出部は、前記モータが正回転しているときの前記測定された前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との位相に基づいて第1補正値を前記補正値として算出するようにしてもよい。
【0015】
また、本発明において、前記補正値算出部は、前記モータが負回転しているときの前記測定された前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との位相に基づいて算出した第2補正値を前記補正値として算出するようにしてもよい。
【0016】
また、本発明において、前記速度制御部は、前記モータの正回転における前記速度指令値と、前記モータの負回転における前記速度指令値の絶対値とが等しくなるように制御し、前記補正値算出部は、前記算出した第1補正値と第2補正値の平均を算出して前記補正値を算出するようにしてもよい。
【0017】
また、本発明において、前記補正値算出部は、前記補正値、前記第1補正値、及び前記第2補正値を、下式を用いて算出するようにしてもよい。
【数1】

【0018】
また、本発明において、前記電流測定部は、前記モータが前記速度指令値に基づいて回転しているときのq軸電流指令値を測定し、前記補正値算出部は、前記測定されたq軸電流指令値を零にするように比例積分制御して前記補正値を繰り返し算出し、前記算出した複数の補正値に基づいて前記モータの回転位置に対する検出値と加算するようにしてもよい。
【0019】
上記目的を達成するため、本発明は、電流指令値から、電圧指令値を生成し、モータに流れる検出電流によりフィードバック制御するモータ制御装置のモータ制御方法であって、速度制御部が、前記モータを一定速度で回転させ、一定電流量のd軸電流を流す速度指令値に基づいて前記モータの速度制御を行う速度制御手順と、電流測定部が、前記モータが一定速度で回転し、前記一定電流量のd軸電流が流れているときの前記速度制御手段の出力に基づく前記電流指令値を測定する電流測定手順と、補正値算出部が、前記測定された電流指令値に基づき、前記モータの回転位置に対する補正値を算出する補正値算出手順と、を含むことを特徴としている。
【0020】
また、本発明のモータ制御方法において、前記電流測定手順は、前記モータが前記速度指令値に基づいて回転しているときの前記q軸電流指令値を測定し、前記補正値算出手順は、前記測定されたq軸電流指令値を零にするように比例積分制御して前記補正値を繰り返し算出し、前記算出した補正値に基づいて前記モータの回転位置に対する検出値と加算するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、モータを一定電流量のd軸電流を流して一定速度で回転させているときの電流指令値を測定し、測定した電流指令値に基づいてモータの回転位置に対する補正値を算出し、算出した補正値を用いてモータの回転を制御するようにした。この結果、検出された回転位置にずれがあっても、モータを精度良く制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態のモータ制御装置を示す制御ブロック図である。
【図2】第1実施形態に係るレゾルバの概略構成を示す図である。
【図3】弱め界磁制御領域について説明する図である。
【図4】第1実施形態に係るdq座標系と制御系d座標系とによる制御ブロック図である。
【図5】dq座標系における電流と電圧のベクトル図である。
【図6】第1実施形態に係る角速度が正の場合の実座標における電圧ベクトルの関係の一例を説明する図である。
【図7】第1実施形態に係る角速度が正の場合の電圧ベクトルの関係の一例を説明する図である。
【図8】第1実施形態に係る角速度が正の場合の電流ベクトルの関係の一例を説明する図である。
【図9】第1実施形態に係る角速度が負の場合の電圧ベクトルの関係の一例を説明する図である。
【図10】第1実施形態に係る角速度が負の場合の電流ベクトルの関係の一例を説明する図である。
【図11】第1実施形態に係る弱め界磁制御領域でモータを回転させている場合のオフセット誤差補正値の算出方法を説明する図である。
【図12】第1実施形態に係るオフセット誤差補正値の算出手順のフローチャートである。
【図13】第2実施形態に係るdq座標系と制御系d座標系とによる制御ブロック図である。
【図14】第2実施形態に係る実機を用いてオフセット誤差を算出した結果の一例を説明する図である。
【図15】第3実施形態に係るモータ制御装置を示す制御ブロック図である。
【図16】第3実施形態に係るオフセット誤差補正値の調整手順のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は係る実施形態に限定されず、その技術思想の範囲内で種々の変更が可能である。
【0024】
まず、モータ制御装置の概略動作について説明する。
モータ制御装置は、例えば産業車両や電気自動車、ハイブリッド自動車、電車、船舶、飛行機、発電システム等において、電池セルから電力の供給を受けてモータを制御する装置である。
電気モータを動力とする電気自動車や、内燃機関と電気モータを併用して動力とするハイブリッド自動車(以下、「電気自動車等」という)では、電力利用効率を高めるため、モータ制御装置が、3相の駆動電流を制御する際にパルス幅を変調させるパルス幅変調制御(PWM(Pulse Width Modulation)制御)を用いている。
電気自動車等では主に永久磁石同期モータが用いられ、そのモータには、回転に同期した3相電流が流される。その3相電流をPWM制御するために、キャリア信号と呼ばれる一定の周波数の電気パルスが用いられる。この場合、駆動電流は、キャリア信号のタイミングに合わせてパルス幅が変調された矩形波としてモータに供給され、モータのインダクタンスによって正弦波の3相電流となる。
そして、このようなモータ制御装置では、モータに流れる電流が、入力されたトルク指令のトルクになるようにフィードバックを用いたPI(Proportional Integral;比例積分)制御により制御している。また、PI制御では、モータへ供給するuvwの3相をd軸q軸の2軸座標へと座標変換し、d軸q軸の2相にて制御する。また、このようなモータ制御装置では、モータの回転角度を検出する角度検出装置であるレゾルバが組み付けられている。そして、電流のPI制御では、検出したモータの回転角度と、入力されたトルク指令に基づいて電流指令値を生成し、生成した電流の指令値と、モータに流れる電流の測定値とを合わせるように制御することで、モータを制御している。
【0025】
d軸q軸の2軸座標(以下、dq座標系という)は、回転座標系であり、回転子を構成する永久磁石が作る磁束の方向のd軸、d軸から位相が90度進んだq軸からなるdq座標系で表される。なお、dq座標系は回転しており、その回転速度が、角速度ωである。このdq座標系において、モータの電圧Vのd軸成分をVdで表し、q軸成分をVqで表す。また、dq座標系において、モータの電流Iのd軸成分をIdで表し、q軸成分をIqで表す。
【0026】
次に、本発明の概要を説明する。
モータ制御システムでは、レゾルバの組み付け精度による誤差や、レゾルバの製造による誤差、レゾルバによる検出信号の処理の遅れによる誤差などが生じる(以下、レゾルバによる誤差という)。このような誤差を補正するために、本発明のモータ制御システムでは、無負荷状態のモータを、一定の電流指令値により速度制御して定速回転させる。
そして、本発明のモータ制御システムは、モータを定速回転させている場合、一定のd軸電流指令値を与えることで、d軸電流を流す。モータが無負荷で一定回転している状態では、実動作におけるq軸電流はわずかしか流れていない。しかしながら、レゾルバによる誤差が生じ、実動作における座標とモータ制御装置内の座標とでdq座標系の角度ずれが発生する。このように実動作とモータ制御装置内とでdq座標系の角度がずれている場合、モータ制御装置内では、見かけ上、多くのq軸電流が流れている。
このような原理に基づき、本発明のモータ制御システムでは、無負荷状態のモータを、一定の電流指令値により速度制御して定速回転させているとき、d軸及びq軸の各電流指令値を測定する。そして、本発明のモータ制御システムでは、測定したd軸及びq軸の各電流指令値からオフセット誤差(補正値)を算出し、算出したオフセット誤差補正値をレゾルバによる検出信号に加算してモータ制御を行う。
【0027】
[第1実施形態]
第1実施形態では、弱め界磁制御領域(弱め界磁領域ともいう)で、モータを無負荷状態で回転させる。モータを弱め界磁制御領域において、高速で回転させると誘起電圧が増えるため、モータに電流が流れなくなる。本実施形態のモータ制御装置は、モータを弱め界磁制御領域において高速で定速回転させることで、一定電流量のd軸電流を流し、このときのd軸電流指令値とq軸電流指令値を測定して、オフセット誤差補正値を算出する。以下、第1実施形態について、詳細に説明する。
【0028】
図1は、本実施形態のモータ制御装置を示す制御ブロック図である。
図1に示すように、本実施形態に係るモータ制御システム1は、レゾルバ20、モータ制御装置30、及びオフセット補正装置40を備えている。
モータ制御装置30は、速度計算部(速度制御部)302、速度PI(比例積分)制御部(速度制御部)303、電流指令部(速度制御部)304、電流検出器305、3相/2相変換部306、電流PI制御部307、2相/3相変換部308、デューティ計算部309、及び電力変換部310を備えている。
オフセット補正装置40は、制御部401、電流測定部402及びオフセット算出部(補正値算出部)403を備えている。
また、モータ制御装置30は、モータ10及びオフセット補正装置40と接続されている。
【0029】
モータ10は、3相モータであり、電力変換部310から出力される駆動電流により駆動される。モータ10には、レゾルバ20が組み付けられている。
【0030】
レゾルバ20は、モータ10に組み付けられている。レゾルバ20は、各瞬間におけるモータ10の回転角度をサンプリング時刻毎に検出し(以下、検出した回転角度を検出角度という)、検出した検出角度を速度計算部302、3相/2相変換部306、及び2相/3相変換部308に出力する。なお、サンプリング周波数は、例えば、5[KHz]である。
【0031】
速度計算部302は、レゾルバ20が検出した検出角度θから、モータ10の回転子の角速度ωを計算し、計算した角速度ωを速度PI制御部303、電流指令部304、及びオフセット補正装置40に出力する。
【0032】
速度PI制御部303は、モータ10の回転速度が外部から入力された速度指令値になるように、モータ10に対する回転速度を制御する。速度PI制御部303は、外部から入力された速度指令ωと、速度計算部302が出力する角速度ωとの偏差基づいて、モータ10の回転速度が速度指令値ωになるトルク指令値τを算出し、算出したトルク指令値τを電流指令部304に出力する。トルク指令値τは、モータ10に発生させるトルクを指令するものである。なお、本明細書では、指令値や指令信号には「*」を右上に付した変数によって表す。
また、速度PI制御部303は、オフセット補正装置40の制御部401が出力する電流指令値ωに基づきモータ10に対するトルク指令値τを算出し、算出したトルク指令値τを電流指令部304に出力する。
【0033】
電流指令部304には、速度計算部302から出力される角速度ωと、速度PI制御部303が出力するトルク指令値τとが入力される。電流指令部304は、このトルク指令値τと角速度ωから、d軸成分およびq軸成分を持つ2相の指令電流であるd軸の電流指令値Id、及びq軸の電流指令値Iq(以下、d軸電流指令値、q軸電流指令値という)を生成する。電流指令部304は、生成したd軸電流指令値Idおよびq軸電流指令値Iqを、電流PI制御部307に出力する。
【0034】
電流検出器305は、モータ10に対する3相の電流Iu、Iv、Iwを検出し、検出した3相の電流Iu、Iv、Iwを3相/2相変換部306に出力する。
【0035】
3相/2相変換部306は、電流検出器305が出力する3相の電流Iu、IvおよびIwを、2相のd軸成分Idおよびq軸成分Iq(以下、検出電流という)に変換する。3相/2相変換部306は、変換した検出電流IdおよびIqを電流PI制御部307に出力する。なお、d軸成分の電流(d軸電流)とは、d軸を磁束の向きにとった場合、流れている電流のうち、モータ10に磁束を発生させるのに使われている成分(励磁電流成分)である。また、q軸成分の電流(q軸電流)とは、流れている電流のうち負荷のトルクに対応した成分である。
【0036】
電流PI制御部307には、電流指令部304が出力するd軸電流指令値Idおよびq軸電流指令値Iqと、3相/2相変換部306が出力する検出電流IdおよびIqとが入力される。電流PI制御部307は、制御変数である検出電流IdおよびIqが、d軸電流指令値Idおよびq軸電流指令値Iqに応じた値になるように、モータ10に流れる電流Iu、IvおよびIwを制御する。
電流PI制御部307は、入力されたd軸電流指令値Idおよびq軸電流指令値Iqから、それぞれ検出電流IdおよびIqを減算して、偏差ΔIdおよびΔIqを算出する。電流PI制御部307は、算出した偏差ΔIdおよびΔIq用いて、次式(1)及び(2)により、指令電圧であるd軸の電圧指令値Vd、q軸の電圧指令値Vq(以下、d軸電圧指令値、q軸電圧指令値という)を算出する。なお、本実施形態では、電流PI制御しているため、d軸電圧指令値Vdは、電圧Vdに等しく、q軸電圧指令値Vqは、電圧Vqに等しい。このため、本実施形態では、d軸電圧指令値Vdをd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqをq軸電圧指令値Vqとして表す。
電流PI制御部307は、算出したd軸電圧指令値Vdおよびq軸電圧指令値Vqを、2相/3相変換部308に出力する。
【0037】
Vd=Kp×ΔId+Ki×∫(ΔId)dt ・・・(1)
【0038】
Vq=Kp×ΔIq+Ki×∫(ΔIq)dt ・・・(2)
【0039】
なお、式(1)、(2)において、係数Kp、Kiは、予め設定されている係数である。
【0040】
2相/3相変換部308は、レゾルバ20が検出した検出角度θを用いて、電流PI制御部307が出力するd軸電圧指令値Vdおよびq軸電圧指令値Vqを座標変換し、3相の電圧指令値Vu、Vv、Vwを算出する。電流PI制御部307と同様に、電流PI制御されているため、電圧指令値Vu、Vv、Vwは、各々電圧Vu、Vv、Vwに等しいため、各電圧指令値を各々Vu、Vv、Vwとして表す。
2相/3相変換部308は、算出した3相の電圧指令値Vu、Vv、Vwをデューティ計算部309に出力する。
【0041】
デューティ計算部309には、2相/3相変換部308が出力する3相の電圧指令値Vu、Vv、Vwが入力される。デューティ計算部309は、キャリア周波数fcによって定まるタイミングで、3相の電圧指令値Vu、Vv、Vwから、モータに与える駆動電流信号を表すデューティ信号Du、Dv、Dwを計算する。デューティ計算部309は、計算したデューティ信号Du、Dv、Dwを電力変換部310に出力する。
【0042】
電力変換部310には、デューティ信号Du、Dv、Dwから駆動電流を生成するためのスイッチングを行う例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)素子などの電力制御素子(パワー素子)が備えられている。電力変換部310は、デューティ計算部309が出力するデューティ信号Du、Dv、Dwに対応する3相の駆動電流を生成し、生成した3相の駆動電流をモータ10にそれぞれ供給する。
【0043】
オフセット補正装置40の制御部401は、モータ10が無負荷状態で回転するように、例えば、モータ制御システム1が車両に取り付けられている場合、車両のクラッチを制御する。制御部401は、無負荷状態のモータ10を、高速域で回転させることで磁界を減少させる弱め界磁制御領域で回転させる速度指令値ωを速度PI制御部303に出力する。
【0044】
電流測定部402は、電流指令部304が出力するd軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqを測定する。電流測定部402は、速度計算部302が出力する角速度ωを取得し、取得した角速度ωに基づきモータ10の回転方向を検出する。電流測定部402は、測定したd軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iq、検出した回転方向をオフセット算出部403に出力する。
【0045】
オフセット算出部403には、電流測定部402が出力するd軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iq、回転方向が入力される。
また、オフセット算出部403には、モータ10の各相の巻線抵抗値Ra、各相におけるd軸のインダクタンス成分Ld、q軸のインダクタンス成分Lq、モータ10の鎖交磁束Φaが予め記憶されている。
オフセット算出部403は、記憶されている各値、電流測定部402が出力する回転方向、d軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqに基づき、後述するようにオフセット誤差補正値Δθ’を算出する。
なお、算出されたオフセット誤差補正値Δθ’は、モータ制御装置30またはオフセット補正装置40の記憶部(不図示)に記憶させておいてもよい。
【0046】
図2は、本実施形態に係るレゾルバ20の概略構成を示す図である。
図2に示すように、レゾルバ20は、モータ10の貫通シャフトにマウントされ、ブラシレスモータのロータ磁界に合わせて調整されている。レゾルバ20は、レゾルバ・ロータ22、1次側コイル(ロータ)24、1次側コイル24と互いに90度離れたふたつの2次側コイル(ステータ)26とで構成されている。1次側に交流電圧を加えると2次側コイルにも電圧が発生する。2次側に出力される電圧の振幅は、θをロータ角度とするとsinθとcosθになる。
レゾルバ20は、これらの2次側コイル26の信号に基づき、モータ10の検出角度を算出する。この算出された検出角度は、モータ10の電気角の回転基準角度(0度)から1回転(360度)の間、電気自動車などでは慣性が大きく、サンプリングタイムに比べて加速度が無視されるので、単調に且つほぼ線形に増加する値となる。したがって、モータ10の複数の回転にわたる算出値は、例えば、のこぎりの歯状の波形となる。レゾルバ20は、この算出値によりモータ10の電気角の検出角度を検出できる。
【0047】
図3は、弱め界磁制御領域について説明する図である。
図3において、横軸は速度を表し、縦軸は電圧、界磁、出力及びトルクを表している。また、図3において、Nbは基底速度であり、Ntは最高速度である。なお、基底速度Nbとは、電圧制御領域における最高速度である。また、最高速度Ntとは、最弱界磁における最高速度である。
曲線g101は、電圧対速度の関係を表し、曲線g102は、出力対速度の関係を表している。曲線g103は、界磁対速度の関係を表し、曲線g104は、トルク対速度の関係を表している。
【0048】
図3に示すように、所定の回転速度(例えば基底速度Nb)まで、曲線g103のように界磁を一定に保ちながら、例えばモータに対して電圧制御を行う。このように、界磁を一定に保ちながら電圧制御される領域が電圧制御領域である。また、図3に示した電圧制御領域では、d軸電流はほとんど流れない。
そして、所定の回転速度以上の領域では、曲線g101のように電圧を一定に保ちながら界磁を曲線g103のように弱めることで、回転速度を上昇させる。このような制御が弱め界磁制御であり、このように電圧が一定且つ回転速度が速くなる領域が弱め界磁制御領域(界磁制御領域)である。
【0049】
図4は、本実施形態に係るdq座標系と制御系d座標系とによる制御ブロック図である。
制御系d座標系とは、モータ制御装置30a内のd軸をd軸、q軸をq軸に置き換えて表した座標系である。
図4に示すように、モータ制御装置30aは、速度計算部302、速度PI制御部303、電流指令部304a、電流PI制御部307aから構成される。モータ10とレゾルバ20を実座標のd軸q軸で表した制御対象60は、第1位相変換部600、第2位相変換部601、モータ電圧方程式部602、トルク方程式部603、(1/Js)604、(1/s)605、加算部70から構成される。
オフセット補正装置40aは、制御部401、電流測定部402a及びオフセット算出部403aを備えている。
図1と同じ動作部は、同じ符号を用いて説明を省略する。
【0050】
モータ制御装置30aの電流指令部304aは、速度計算部302から出力される角速度ωと、速度PI制御部303が出力するトルク指令値τとが入力される。電流指令部304aは、このトルク指令値τと角速度ωから、d軸電流指令値Id及びq軸電流指令値Iqを生成する。電流指令部304aは、生成したd軸電流指令値Idおよびq軸電流指令値Iqを、電流PI制御部307aに出力する。
【0051】
電流PI制御部307aは、入力されたd軸電流指令値Idおよびq軸電流指令値Iqから、それぞれd軸電流Idおよびq軸電流Iqに基づき、d軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqを算出する。
【0052】
制御対象60の第1位相変換部600は、d軸q軸の電流からd軸q軸の電流への変換部である。第1位相変換部600は、実際のオフセット誤差Δθ分、座標変換され、d軸電流Id、q軸電流Iqから、各々d軸電流Id、q軸電流Iqに変換する。第1位相変換部600は、変換したd軸電流Id、q軸電流Iqを電流PI制御部307aに出力する。
ここで、遅れ分|ω|Δtを省略すると、第1位相変換部600は、次式(3)のように表される。
【0053】
【数2】

【0054】
第2位相変換部601は、d軸q軸の電圧からd軸q軸の電圧への変換部である。第2位相変換部601は、オフセット誤差Δθ分、座標変換され、d軸電圧Vd、q軸電圧Vqから、各々d軸電圧Vd、q軸電圧Vqに変換する。第2位相変換部601は、変換したd軸電圧Vd、q軸電圧Vqをモータ電圧方程式部602に出力する。
ここで、遅れ分|ω|Δtを省略すると、第2位相変換部601は、式(3)の逆行列で次式(4)のように表される。
【0055】
【数3】

【0056】
モータ電圧方程式部602には、第2位相変換部601が出力するd軸電圧Vd、q軸電圧Vq、トルク方程式部603及び(1/Js)604により算出された角速度ωが入力される。
【0057】
モータ電圧方程式部602が有するモータ10の電圧方程式は、次式(5)のように表される(例えば、参考文献1 新中新二、永久磁石同期モータのベクトル制御技術 上巻、電波新聞社、2008年、p98参照)。
【0058】
【数4】

【0059】
式(5)において、ωは、角速度、Φaは、モータ10の鎖交磁束、ωΦaは、誘起電圧である。Ldは、d軸のインダクタンス、Lqは、q軸のインダクタンスである。Raは、モータ10の巻線1相あたりの抵抗である。
また、式(5)において、pは微分演算子である。このため、定常状態において、式(5)は、次式(6)のように表される。
【0060】
【数5】

【0061】
モータ電圧方程式部602は、式(5)または(6)を用いて、d軸電流Id及びq軸電流Iqを算出し、算出したd軸電流Id及びq軸電流Iqを第1位相変換部600及びトルク方程式部603に出力する。
【0062】
トルク方程式部603は、トルク方程式部603が有する次式(7)のトルク方程式(参考文献2 森本、武田、PMモータの出力範囲に関する一般的な解析と定出力運転に適した機器定数の検討、電学論D,Vol.117,No.6 pp.751-757 (1997-6)参照)、モータ電圧方程式部602が出力するd軸電流Id及びq軸電流Iqを用いて、トルクを算出し、算出したトルク値を(1/Js)604に出力する。また、トルク方程式部603には、d軸及びq軸の各インダクタンス成分Ld及びLq、鎖交磁束Φaが記憶されている。
【0063】
【数6】

【0064】
式(7)において、Pnは、モータ10もしくはステータのマグネットの磁極の対の数である極対数である
【0065】
(1/Js)604は、トルク方程式部603が算出したトルクから、角速度ωを出力し、出力した角速度ωをモータ電圧方程式部602及び(1/s)605に出力する。なお、Jは、無負荷時のモータ10のイナーシャ(慣性モーメント)である。
【0066】
(1/s)605は、(1/Js)604が出力する角速度ωから実角度θを加算部70に出力する。加算部70は、(1/s)605が出力した実角度θにオフセット誤差Δθを加算し、加算した検出信号θをモータ制御装置30aの速度計算部302に出力する。
【0067】
オフセット補正装置40aの電流測定部402aは、電流指令部304aが出力するd軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqを測定する。電流測定部402aは、速度計算部302が出力する角速度ωを取得し、取得した角速度ωに基づきモータ10の回転方向を検出する。電流測定部402aは、測定したd軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iq、検出したモータ10の回転方向を示す情報をオフセット算出部403aに出力する。
【0068】
オフセット算出部403aには、電流測定部402aが出力するd軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iq、モータ10の回転方向を示す情報が入力される。
オフセット算出部403aは、記憶されている各値、電流測定部402aが出力するモータ10の回転方向を示す情報、d軸電流指令値Id、q軸電流指令値Iqに基づき、オフセット誤差補正値Δθ’を算出する。
【0069】
次に、dq座標系における電流と電圧とのベクトルの関係を説明する。
d軸電圧及びq軸電圧は、式(6)より、次式(8)及び次式(9)のように表される。
【0070】
Vd=RaId−ωLqIq ・・・(8)
【0071】
Vq=ωLdId+RaIq+ωΦa ・・・(9)
【0072】
図5は、dq座標系における電流と電圧のベクトル図である。
図5において、角度δは、内部相差角(負荷角)であり、q軸と電圧Vのベクトル(以下、電圧ベクトルVという)とのなす角である。図5において、反時計回りが正回転方向であり、d軸に対してq軸が90度進んでいる。
図5に示すように、モータ10に印加される電圧ベクトルVは、d軸電圧Vd(=−Vsinδ)のベクトル(以下、ベクトルVdという)とq軸電圧Vq(=Vcosδ)のベクトル(以下、ベクトルVqという)とに分解できる。
モータ10に流れる電流ベクトルIは、d軸電流Idのベクトル(以下、ベクトルIdという)とq軸電流Iqのベクトル(以下、ベクトルIqという)とに分解できる。
【0073】
式(8)に示したベクトルVd(=−Vsinδ)は、図5に示すように、ベクトルRaIdとベクトル(−ωLqIq)との和で表される。また、式(9)に示したベクトルVq(=Vcosδ)は、ベクトルωLdId、ベクトルRaIq、及びベクトルωΦaの和で表される。
レゾルバ20の組み付けによる誤差、製造による誤差、モータ制御装置30aの遅れにより発生する誤差等が無い場合、図5に示したd軸及びq軸は、モータ制御装置30aのd軸及びq軸と一致している。
【0074】
図5では、レゾルバ20にオフセット誤差が無く、d軸及びq軸と制御系座標のd軸及びq軸とが一致している場合におけるベクトルの関係を説明した。
次に、レゾルバ20にオフセット誤差が有り、d軸及びq軸と制御系座標のd軸及びq軸とが一致していない場合におけるベクトルの関係を、図6〜図10を用いて説明する。
図6は、本実施形態に係る角速度が正の場合の実座標における電圧ベクトルの関係の一例を説明する図である。図7は、本実施形態に係る角速度が正の場合の電圧ベクトルの関係の一例を説明する図である。図8は、本実施形態に係る角速度が正の場合の電流ベクトルの関係の一例を説明する図である。
図9は、本実施形態に係る角速度が負の場合の電圧ベクトルの関係の一例を説明する図である。図10は、本実施形態に係る角速度が負の場合の電流ベクトルの関係の一例を説明する図である。
【0075】
図6〜図10において、d−q座標は回転子の実際の界磁方向をd軸とするdq座標(以下、実座標d−qという)を示し、d−q座標はレゾルバ20により検出される磁極位置(以下、レゾルバ検出位置という)により定まるdq座標(以下、制御系座標d−qといい、また制御系座標d−qにおけるd軸及びq軸をd軸及びq軸という)を示している。また、角速度ωが正の場合(正回転)の制御系座標d−qを制御系座標dc1−qc1、角速度ωが負の場合(負回転)の制御系座標d−qを制御系座標dc2−qc2として示している。
【0076】
まず、角速度ωが正の場合、すなわちモータ10を正回転させた場合について、図6〜図8を用いて説明する。
図6〜図8に示す状態は、弱め界磁制御領域で、無負荷状態としたモータ10を、角速度が正になるように、図4のモータ制御装置30aによりモータ10を回転させている状態である。
図6に示すように、実座標d−qにおいて、無負荷状態のモータ10が弱め界磁制御領域で高速で正回転している場合、誘起電圧ベクトルωΦaがq軸の正方向に発生する。また、d軸電流Id及びq軸電流Iqによる電圧成分は、弱め界磁制御で負のd軸電流Idが指令として生成されているので、誘起電圧ベクトルωΦaを抑えるように電圧ベクトル(ωLdId+RaIq)がq軸の負方向に発生する。このため、q軸電圧ベクトルVqは、電圧ベクトル(ωLdId+RaIq)と誘起電圧ベクトルωΦaとの合成ベクトルである。また、d軸電圧ベクトルVd(=−ωLqIq+RaId)は、d軸の負方向に発生している。また、図6において、電圧ベクトルV1は、モータ10の電圧である。
図6に示したように、弱め界磁制御領域で、無負荷状態としたモータ10を、角速度を正回転させている場合、実座標d−qにおいては、d軸電圧は、微小しか発生していない。
【0077】
一方、図7に示す例では、実座標d−qと制御系座標dc1−qc1とがオフセット誤差Δθに加え遅れ分|ω|Δt進んでいるとして説明する。
図7に示したように、(V1−ωΦa)ベクトルは、実座標d−qと制御系座標dc1−qc1とで、異なる成分となる。実座標d−qでのd軸成分の−ωLqIq+RaIdは、制御系座標dc1−qc1でのdc1軸成分の−ωLqIqc1+RaIdc1になり、実座標d−qでのq軸成分のωLdId+RaIqは、制御系座標dc1−qc1でのdc1軸成分のωLdIdc1+RaIqc1になる。
【0078】
図8では、図7の制御系座標dc1−qc1における電圧ベクトル(V1−ωΦa)において、各相の巻線抵抗値Raが、ωLd及びωLqに比べて十分に小さく、d軸のインダクタンスLdとq軸のインダクタンスLqとがほぼ同じ場合の電流ベクトルを示している。
図8に示すように、制御系座標dc1−qc1においては、実座標のd軸に対して角度α遅れている電流ベクトルI1が流れる。このαは、無負荷運転の摩擦などの微小トルクに対応するq軸電流による遅れである。この電流ベクトルI1は、dc1軸の正方向の電流ベクトルIdc1と、dc1軸の負方向の電流ベクトルIdc1とに分解できる。
また、図8に示すように、電流ベクトルI1と電流ベクトルIdc1とのなす角は、(オフセット誤差Δθ+遅れ分|ω|Δt)と(実座標d−qのd軸と電流ベクトルI1とのなす角α)との和である。
【0079】
次に、角速度ωが負の場合、すなわちモータ10を負回転(逆回転)させた場合について、図9及び図10を用いて説明する。
図9及び図10に示す状態は、弱め界磁制御領域で、無負荷状態としたモータ10を、角速度が負になるように、図4のモータ制御装置30aによりモータ10を回転させている状態である。
図9に示すように、実座標d−qにおいて、無負荷状態のモータ10が弱め界磁制御領域で高速で負回転している場合、誘起電圧ベクトルωΦaがq軸の負方向に発生する。また、d軸電流Id及びq軸電流Iqによる電圧成分は、弱め界磁制御で負のd軸電流Idが指令として生成されているので、誘起電圧ベクトルωΦaを抑えるように電圧ベクトル(ωLdId+RaIq)がq軸の正方向に発生する。このため、q軸電圧ベクトルVqは、電圧ベクトル(ωLdId+RaIq)と誘起電圧ベクトルωΦaとの合成ベクトルである。また、d軸電圧Vdベクトル(=−ωLqIq+RaId)は、d軸の負方向に発生している。また、図9において、電圧ベクトルV2は、モータ10の電圧である。
図9に示したように、弱め界磁制御領域で、無負荷状態としたモータ10を負回転させている場合、実座標d−qにおいては、d軸電圧は、モータ10の正回転時と同様に微小しか発生していない。
【0080】
次に、制御系座標dc2−qc2の電圧ベクトルについて説明する。実座標d−qと制御系座標dc2−qc2とがオフセット誤差Δθから遅れ分|ω|Δtを減じた分、進んでいるとして説明する。
(V2−ωΦa)ベクトルは、実座標d−qと制御系座標dc2−qc2とで、異なる成分となる。実座標d−qでのd軸成分の−ωLqIq+RaIdは、制御系座標dc2−qc2でのdc2軸成分の−ωLqIqc2+RaIdc2になる。また、実座標d−qでのq軸成分のωLdId+RaIqは、制御系座標dc2−qc2でのdc2軸成分のωLdIdc2+RaIqc2になる。
【0081】
図10では、図9の制御系座標dc2−qc2における電圧ベクトル(V2−ωΦa)において、各相の巻線抵抗値Raが、ωLd及びωLqに比べて十分に小さく、d軸のインダクタンスLdとq軸のインダクタンスLqとがほぼ同じ場合の電流ベクトルを示している。
図10に示すように、制御系座標dc2−qc2においては、実座標のd軸に対して角度α進んでいる電流ベクトルI2が流れる。この電流ベクトルI2は、dc2軸の正方向の電流ベクトルIdc2と、dc2軸の負方向の電流ベクトルIdc2とに分解できる。
また、図10に示すように、電流ベクトルI2と電流ベクトルIdc2とのなす角は、(オフセット誤差Δθ−遅れ分|ω|Δt)と(実座標d−qのd軸と電流ベクトルI2とのなす角α)との差である。
【0082】
次に、図8及び図10に示したモータ10の正回転及び負回転時の電流ベクトルから、オフセット誤差補正値Δθ’を算出する方法について、図11を用いて説明する。
図11は、本実施形態に係る弱め界磁制御領域でモータを回転させている場合のオフセット誤差補正値の算出方法を説明する図である。
【0083】
図11に示すように、モータ10が正回転(ω>0)の場合、dc1軸電流ベクトルIdc1とqc1軸電流ベクトルIqc1とのなす角は、図8で説明したように(オフセット誤差Δθ+遅れ分|ω|Δt)と(実座標d−qのd軸と電流ベクトルI1とのなす角α)との和である。このため、このなす角とdc1軸電流ベクトルIdc1とqc1軸電流ベクトルIqc1との関係は、次式(10)及び次式(11)のように表される。
【0084】
tan(Δθ+|ω|Δt+α)=Iqc1/(−Idc1) ・・・(10)
【0085】
Δθ+|ω|Δt+α=tan−1(Iqc1/(−Idc1)) ・・・(11)
【0086】
一方、図11に示すように、モータ10が負回転(ω<0)の場合、dc2軸電流ベクトルIdc2とqc2軸電流ベクトルIqc2とのなす角は、図10で説明したように(オフセット誤差Δθ−遅れ分|ω|Δt)と(実座標d−qのd軸と電流ベクトルI2とのなす角α)との差である。このため、このなす角とdc2軸電流ベクトルIdc2とqc2軸電流ベクトルIqc2との関係は、次式(12)及び次式(13)のように表される。
【0087】
tan(Δθ−|ω|Δt−α)=Iqc2/(−Idc2) ・・・(12)
【0088】
Δθ−|ω|Δt−α=tan−1(Iqc2/(−Idc2)) ・・・(13)
【0089】
式(11)及び式(13)より、オフセット誤差Δθの補正値Δθ’は、次式(14)により算出できる。
【0090】
【数7】

【0091】
式(14)は、モータ10を正回転させたときの電流指令値、負回転させたときの電流指令を測定すれば、オフセット誤差補正値Δθ’を算出することを表している。
すなわち、オフセット算出部403aは、無負荷状態としたモータ10を、正回転させた場合のdc1軸電流指令値Idc1、qc1軸電流指令値Iqc1を測定する。次に、オフセット算出部403aは、無負荷状態としたモータ10を、負回転させた場合のdc2軸電流指令値Idc2、qc2軸電流指令値Iqc2を測定する。次に、オフセット算出部403aは、式(14)に各測定した電流指令値を代入して、オフセット誤差補正値Δθ’を算出する。
なお、式(14)を用いて、遅れ分|ω|Δt及び角度αの影響を除去するために、本実施形態では、モータ10の正回転及び負回転において、例えば速度指令値の絶対値を等しくして、各電圧指令値を測定する。
【0092】
なお、式(14)では、各相の巻線抵抗値Raが、ωLd及びωLqに比べて十分に小さく、d軸のインダクタンスLdとq軸のインダクタンスLqとがほぼ同じ場合を説明したが、抵抗値Ra、d軸のインダクタンスLd及びq軸のインダクタンスLqを考慮した場合、オフセット誤差補正値Δθ’は、次式(15)のように表される。
【0093】
【数8】

【0094】
次に、オフセット誤差補正値Δθ’の算出手順について、図4、図8、図10及び図12を用いて説明する。
なお、以下のようなオフセット誤差補正値Δθ’の算出は、モータ制御システム1が車両に搭載されている場合、例えば車両の組み立て時、車両の点検時、モータ10もしくはモータ制御装置30の交換時等に行うようにしてもよい。
図12は、本実施形態に係るオフセット誤差補正値の算出手順のフローチャートである。
【0095】
(ステップS1)制御部401は、モータ10を正回転させ、弱め界磁制御領域でd軸電流Idが流れるように速度指令値を生成し、生成した速度指令値をモータ制御装置30aに出力する。ステップS1終了後、ステップS2に進む。
(ステップS2)電流測定部402aは、dc1軸電流指令値Idc1及びqc1軸電流指令値Iqc1を測定し、測定したdc1軸電流指令値Idc1及びqc1軸電流指令値Iqc1をオフセット算出部403aに出力する。
次に、電流測定部402aは、速度計算部302が出力する角速度ωを取得し、取得した角速度ωに基づいて回転方向を検出する。ステップS2において、電流測定部402aは、回転方向を正方向(正回転)であると検出する。次に、電流測定部402aは、検出した回転方向をオフセット算出部403aに出力する。ステップS2終了後、ステップS3に進む。
【0096】
(ステップS3)制御部401は、モータ10を負回転させ、弱め界磁制御領域でd軸電流Idが流れるように速度指令値を生成し、生成した速度指令値をモータ制御装置30aに出力する。ステップS3終了後、ステップS4に進む。
(ステップS4)電流測定部402aは、dc2軸電流指令値Idc2及びqc2軸電流指令値Iqc2を測定し、測定したdc2軸電流指令値Idc2及びqc2軸電流指令値Iqc2をオフセット算出部403aに出力する。
次に、電流測定部402aは、速度計算部302が出力する角速度ωを取得し、取得した角速度ωに基づいて回転方向を検出する。ステップS4において、電流測定部402aは、回転方向を負方向(負回転)であると検出する。次に、電流測定部402aは、検出した回転方向をオフセット算出部403aに出力する。ステップS4終了後、ステップS5に進む。
【0097】
(ステップS5)オフセット算出部403aは、測定した各電流指令値、検出した回転方向に基づき、式(14)または式(15)を用いて、オフセット誤差補正値Δθ’を算出する。
以上で、オフセット誤差補正値算出処理を終了する。
【0098】
なお、式(14)及び式(15)においては、モータ10の正回転のときと負回転のときのd軸電圧及びq軸電圧の大きさが異なる例を説明したが、これに限られない。実座標d−qにおけるq軸電流Iq=0とみなせて、レゾルバ20による検出信号から電力変換部310までの信号遅れが十分に補正されている場合、α=0、|ω|Δt=0とみなせるため、例えば、オフセット算出部403aは、モータ10を正回転させた場合のdc1軸電流指令値Idc1及びqc1軸電流指令値Iqc1のみを測定し、オフセット誤差補正値Δθ’(第1補正値)を次式(16)により算出するようにしてもよい。
【0099】
【数9】

【0100】
または、オフセット算出部403aは、モータ10を負回転させた場合のdc2軸電流指令値Idc2及びqc2軸電流指令値Iqc2のみを測定し、オフセット誤差補正値Δθ’(第2補正値)を算出するようにしてもよい。
【0101】
以上のように、オフセット算出部403aは、無負荷状態のモータ10を弱め界磁制御領域において、一定速度で高速に正回転及び負回転させてd軸電流を流すようにする。そして、オフセット算出部403aは、このような高速回転時の電流指令値を測定する。そして、オフセット算出部403aは、測定した電流指令値を式(14)または式(15)を用いて各回転方向について−tan−1(Iq/Id)の平均を取ることで、オフセット誤差を含む電流ベクトルのなす角から遅れ要素である|ω|Δtや無負荷モータの摩擦等のトルクの影響をキャンセルしてオフセット誤差補正値を算出するようにした。
この結果、本実施形態のモータ制御システム1では、無負荷状態のモータ10を、正方向及び逆方向に回転させているので、正方向しか回転させていない従来技術と比較して精度良くオフセット誤差を補正することができる。本実施形態のモータ制御システム1では、オフセット補正装置40の速度指令値により、モータ10の回転を制御しているため、例えばガソリンと電気を用いるハイブリッドカーでなく電気のみでモータ10を駆動する場合においても、モータ10を正回転及び負回転させて、電流指令値を測定してオフセット制御値を算出することができる。
従来技術では、電圧指令値からオフセット誤差補正値を算出していたため、電圧への電力変換部310によるPWM駆動等による高周波ノイズの影響が大きかった。一方、本実施形態のモータ制御システム1では、オフセット誤差補正値を算出するために電流指令値を用いたため、このような高周波ノイズの影響を受けにくいため、高精度にオフセット誤差の制御を行える。
【0102】
[第2実施形態]
第2実施形態では、モータをd軸電流が発生せず、弱め界磁制御領域に属していない制御領域、例えば界磁一定で制御されている電圧制御領域(図3)で低速回転させているとき、d軸電流指令値を加算することで、d軸電流を流す。
以下、第2実施形態について、詳細に説明する。
【0103】
図13は、本実施形態に係るdq座標系と制御系d座標系とによる制御ブロック図である。
図13に示したように、モータ制御装置30bは、速度計算部302、速度PI制御部303、電流指令部304a、電流PI制御部307b、加算部331から構成される。制御対象60は、第1位相変換部600、第2位相変換部601、モータ電圧方程式部602、トルク方程式部603、(1/Js)604、(1/s)605から構成される。
オフセット補正装置40bは、制御部401b、電流測定部402a、オフセット算出部403a、及び加算部70を備えている。
図1及び図3と同じ動作部は、同じ符号を用いて説明を省略する。
【0104】
モータ制御装置30bの加算部331は、電流指令部304aが出力するd軸への加算前の電流指令値Id’’にオフセット補正装置40bの制御部401bが出力するd軸への加算電流指令値Id’を加算し、加算した電流指令値Idを電流PI制御部307bに出力する。
オフセット補正装置40bの制御部401bは、モータ10をd軸電流が流れない回転数で、一定速度で回転するように速度指令値を生成し、生成した速度指令値を速度PI制御部303に出力する。また、制御部401bは、モータ10が低速領域で回転している場合、d軸電流を流すようにd軸への加算電流指令値Id’を生成し、生成した電流指令値Id’を加算部331に出力する。
【0105】
第2実施形態において、オフセット補正装置40bは、モータ10をd軸電流が流れない範囲の回転数で回転させるように制御する。この場合、モータ10にはd軸電流Idが流れていない。
次に、制御部401bは、強制的にd軸電流を流すために、一定のd軸への加算電流指令値Id’を加算部331に出力する。モータ10の回転数が低い場合、このようにd軸へ加算電流を流してもトルクに対する影響はほとんど無い。
モータ10がd軸電流の流れない低速回転しているときに、強制的に加算電流指令値d’によりd軸電流を流し、第1実施形態と同様に、モータ10を正回転及び負回転させたときのd軸の各電流指令値Idc1及びIdc2、q軸電流指令値Iqc1及び電流指令値Iqc2を測定することで、オフセット誤差補正値を式(14)及び(15)を用いて算出できる。なお、正回転及び負回転における速度指令値の大きさの絶対値は等しいことが望ましい。
【0106】
次に、実測結果について図14を用いて説明する。
図14は、本実施形態に係る実機を用いてオフセット誤差を算出した結果の一例を説明する図である。
≪実測方法≫
手順1 無負荷状態のモータに対して、+1000[rpm]の速度指令値で回転させ、d軸電流を加算した時のモータ制御装置30bの内部データを測定する。
手順2 無負荷状態のモータに対して、−1000[rpm]の速度指令値で回転させ、d軸電流を加算した時のモータ制御装置30bの内部データを測定する。
手順3 手順1及び手順2で測定したd軸電流指令値とq軸電流指令値からオフセット誤差補正値を算出する
手順4 手順1〜3について、オフセット誤差に+30[deg]を追加して測定する。
手順5 手順1〜3について、オフセット誤差に−30[deg]を追加して測定する。
【0107】
図14(a)及び図14(b)は、手順1〜3の実測結果である。すなわち、実機が有しているオフセット誤差に対して、本実施形態の効果を測定した結果である。測定の結果、実機のオフセット誤差は、+1.7[deg]であった。
図14(c)及び図14(d)は、手順4の実測結果である。すなわち、実機が有しているオフセット誤差に加えて、オフセット誤差を+30[deg]加算した場合の効果を測定した結果である。
【0108】
図14(a)及び図14(c)において、第1行目は測定項目を示し、第2行目は回転数が+1000[rpm]の場合のモータ制御装置30bの内部データの実測値を示し、第3行目は回転数が−1000[rpm]の場合のモータ制御装置30bの内部データの実測値を示している。
図14(b)及び図14(d)において、第1行目は項目を示し、第2行目は回転数が+1000[rpm]の場合のオフセット誤差補正値の計算値を示し、第3行目は回転数が−1000[rpm]の場合のモータ制御装置30bのオフセット誤差補正値の計算値を示している。なお、図14(a)及び図14(c)の計算値は、図14(a)及び図14(c)に示した測定値を、−tan−1(Iq/Id)に代入して算出した値である。
【0109】
図14(b)に示したように、オフセット誤差を1.7[deg]有する場合、正回転のみによるオフセット誤差補正値は+5.2[deg]であり、負回転のみによるオフセット誤差補正値は−2.1[deg]であった。次に、式(14)で説明したように、正回転と負回転とのオフセット誤差補正値の平均を算出すると、図14(b)に示したように+1.5[deg]である。すなわち、実機にオフセット誤差が合計+1.7[deg]あっても、本実施形態によれば、(オフセット誤差−オフセット誤差補正値)の補正精度を+0.2[deg]に抑えることができる。
図14(d)に示したように、オフセット誤差を1.7[deg]に+30[deg]を加算した場合、正回転のみによるオフセット誤差補正値は+34.5[deg]であり、負回転のみによるオフセット誤差補正値は+28.1[deg]であった。次に、正回転と負回転とのオフセット誤差補正値の平均を算出すると、図14(d)に示したように+31.3[deg]である。すなわち、実機にオフセット誤差が合計+31.7(=1.7+30)[deg]あっても、本実施形態によれば、(オフセット誤差−オフセット誤差補正値)の補正精度を+0.4[deg]に抑えることができる。
【0110】
同様に、実機が有しているオフセット誤差に加えて、オフセット誤差を−30[deg]加算した場合(手順5)、正回転のみによるオフセット誤差補正値は−24.9[deg]であり、負回転のみによるオフセット誤差補正値は−31.4[deg]であり、平均値は−28.1[deg]であった。すなわち、実機にオフセット誤差が合計−28.3(=1.7−30)[deg]あっても、本実施形態によれば、(オフセット誤差−オフセット誤差補正値)の補正精度を+0.4[deg]に抑えることができる。
正回転または負回転のみの場合と比較して、オフセット誤差の補正精度が抑えられている理由は、正回転と負回転とのオフセット誤差補正値の平均を算出することで、モータ制御装置30bの遅れ要素や無負荷モータの摩擦トルクなどによる影響がキャンセルされているためである。このように、本実施形態によれば、オフセット誤差の補正精度を高精度に抑えることができる。
【0111】
以上のように、第2実施形態では、モータ10をd軸電流が流れない領域で低速回転させて、このとき加算電流指令値d’によりd軸電流を流して、d軸電流指令値Id及びq軸電流指令値Iqを測定してオフセット誤差補正値を算出するようにした。このため、第1実施形態のようにモータ10を高速で回転させずにオフセット誤差補正値を求めることができる。この結果、オフセット誤差補正値を算出している期間、第1実施形態より省電力化及び静音化できる。
【0112】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態では、算出したオフセット誤差補正値を自動的に調整する例について説明する。
まず、本実施形態の概要について説明する。
無負荷状態のモータが回転している場合、レゾルバの組み付け誤差やモータ制御装置による信号処理の遅れ要素や、摩擦などの外部トルクが無視できれば、q軸電流Iqは流れていないので、d軸電流指令値Iqは0である。しかしながら、レゾルバの組み付け誤差やモータ制御装置による信号処理の遅れ要素があると、q軸電流が流れているため、q軸電流指令値Iqは0ではない。
このため、本実施形態では、無負荷状態のモータが回転している場合のq軸電流指令値を測定し、測定したq軸電流指令値が0になるようにPI制御を行って生成した補正値をモータ制御装置にフィードバックする。そして、モータ制御装置は、生成された補正値をレゾルバが検出した回転角度θに補正してモータ制御を行う。
【0113】
図15は、本実施形態に係るモータ制御装置1cを示す制御ブロック図である。図1と同じ機能部は、同じ符号を用いて説明を省略する。
【0114】
第1実施形態及び第2実施形態との差異は、オフセット補正装置40cである。オフセット補正装置40cは、制御部411、電流測定部412、PI制御部413、加算部414を備えている。
制御部411は、弱め界磁制御領域でd軸電流が流れる速度指令値を生成し、生成した速度指令値をモータ制御装置30cに出力する。また、制御部411は、モータ10を無負荷状態で回転するように制御する。
電流測定部412は、無負荷状態のモータ10が、弱め界磁制御領域で回転しているとき、q軸電流指令値Iqを測定し、測定したq軸電流指令値IqをPI制御部413に出力する。
PI制御部413は、電流測定部412が出力したq軸電流指令値Iqと0との偏差に比例積分制御を行って補正値であるオフセット誤差補正値Δθ’を生成し、生成したオフセット誤差補正値Δθ’を加算部414に出力する。
加算部414は、レゾルバ20が出力する検出信号θに、PI制御部413が出力するオフセット誤差補正値Δθ’を補正し、補正した信号を角度測定信号θ’として速度計算部302、3相/2相変換部306、及び2相/3相変換部308に出力する。
【0115】
次に、調整手順について、図16を用いて説明する。
図16は、本実施形態に係るオフセット誤差補正値の調整手順のフローチャートである。
≪調整手順≫
(ステップS101)制御部411は、弱め界磁制御領域でd軸電流が流れる速度指令値を生成し、生成した速度指令値をモータ制御装置30cに出力する。ステップS101終了後、ステップS102に進む。
(ステップS102)無負荷状態のモータ10が回転しているとき、電流測定部412は、q軸電流指令値Iqを測定し、測定したq軸電流指令値IqをPI制御部413に出力する。ステップS102終了後、ステップS103に進む。
(ステップS103)PI制御部413は、電流測定部412が出力したq軸電流指令値Iqと0との偏差に比例積分制御を行って補正値であるオフセット誤差補正値Δθ’を生成し、生成したオフセット誤差補正値Δθ’をレゾルバ20が検出した回転角度θに補正した角度測定信号θ’をモータ制御装置30cに出力する。ステップS103終了後、ステップS104に進む。
(ステップS104)モータ制御装置30cは、オフセット補正装置40cが出力する角度測定信号θ’でモータ制御を行う。ステップS104終了後、ステップS105に進む。
(ステップS105)オフセット補正装置40cは、角度測定信号θ’により補正された後のq軸電流指令値Iqを測定し、q軸電流指令値Iqと0との偏差に比例積分制御を行って補正値であるオフセット誤差補正値Δθ’を生成し、検出信号θに補正した角度測定信号θ’をモータ制御装置30cに出力する。
以後、ステップS104及びS105を繰り返して行うことで、オフセット補正装置40c及びモータ制御装置30cは、オフセット誤差補正値を自動的に調整する。または、オフセット補正装置40cは、例えば、繰り返し算出したオフセット誤差補正値の変化が予め定められている値より小さくなった場合、すなわち収束したときのオフセット誤差補正値を固定してPI制御を中止するようにしてもよい。
【0116】
以上のように、本実施形態のモータ制御システム1cは、モータ10を無負荷状態で回転させて、弱め界磁制御領域またはモータの速度が弱め界磁制御領域に属していない制御領域においてd軸電流が流れるように制御する。そして、本実施形態のモータ制御システム1cは、このように無負荷状態でモータ10が回転しているときに、q軸電流指令値を測定し、測定したq軸電流指令値と0との偏差に基づいてPI制御することでオフセット誤差補正値を生成し、生成したオフセット誤差補正値を用いてモータ制御を行う。この結果、オフセット誤差補正値を自動調整することができる。
【0117】
なお、本実施形態では、第1実施形態と同様に、弱め界磁制御領域において、d軸電流を与える例を説明したが、第2実施形態と同様に、d軸電流が発生しない電圧制御領域において、制御部411がd軸電流を加算するように制御するようにしてもよい。この場合においても、オフセット補正装置40cは、q軸電流指令を測定し、測定したd軸電流指令値と0との偏差に基づいてPI制御することでオフセット誤差補正値を生成し、生成したオフセット誤差補正値を用いてモータ制御を行う。この結果、オフセット誤差補正値を自動調整することができる。ただし、q軸電流指令値をフィードバックするため、加算するd軸電流は負である必要がある。
【0118】
または、正回転と負回転の速度指令で上記ステップを繰り返した後、オフセット補正装置40cは、例えば、正回転と負回転の速度指令で算出したオフセット誤差補正値の平均を算出して補正値であるオフセット誤差補正値を算出するようにしてもよい。また、第1〜第3実施形態で生成したオフセット誤差補正値を、モータ制御装置30(30a,30b,30c)またはオフセット補正装置40(40a,40b,40c)の記憶部(不図示)に記憶させておくようにしてもよい。
【0119】
また、オフセット誤差が大きい場合、モータ制御装置における制御系が不安定になる。このようにオフセット誤差が大きい場合は、レゾルバの組み付け不良や配線ミス等もある。このため、第1実施形態〜第3実施形態において、オフセット誤差が予め定められている値より大きい(例えば30度)か否かを公知の技術で検出して、このようなモータ及びレゾルバを事前に検出して除去するようにしてもよい。
また、第1実施形態〜第3実施形態において、オフセット補正装置40(40a,40b,40c)の入力を、d軸電流指令値Id及びq軸電流指令値Iqでなく、d軸電流Id及びq軸電流Iqを用いるようにしてもよい。
なお、本実施形態においては、モータ10を無負荷状態で定速回転させてオフセット誤差を算出して、算出したオフセット誤差補正値をレゾルバによる検出信号に加算してモータ制御を行う例を説明したが、これに限られない。モータ10を無負荷状態でなく、正負で逆の一定の負荷トルクがある状態で回転させることで、モータ制御システム1は、図8、図10で説明した角度αをキャンセルすることができる。
【0120】
なお、実施形態の図1、図4、図14及び図16の各部の機能を実現するため、コンピュータシステムのCPUに接続されたROM、HDDも等に保存されているプログラムにより実行することも可能である。あるいは、PLD(プログラマブルロジックデバイス)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)や回路でハードウェアにより実現することも可能である。
【符号の説明】
【0121】
1、1c・・・モータ制御装置、10・・・モータ、20・・・レゾルバ、30,30a,30b,30c・・・モータ制御装置、40,40a,40b,40c・・・オフセット補正装置、60・・・制御対象、70・・・加算部、301・・・加算部、302・・・速度計算部、303・・・速度PI制御部、304・・・電流指令部、305・・・電流検出器、306・・・3相/2相変換部、307、307a、307b・・・電流PI制御部、308・・・2相/3相変換部、309・・・デューティ計算部、310・・・電力変換部、331・・・加算部、401、411・・・制御部、402、402a、412・・・電流測定部、403、403a、413・・・オフセット算出部、414・・・加算部、600・・・第1位相変換部、601・・・第2位相変換部、602・・・モータ電圧方程式部、603・・・トルク方程式部、604・・・(1/Js)、605・・・(1/s)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電流指令値から、電圧指令値を生成し、モータに流れる検出電流によりフィードバック制御するモータ制御装置であって、
前記モータを一定速度で回転させ、一定電流量のd軸電流を流す速度指令値に基づいて前記モータの速度制御を行う速度制御部と、
前記モータが一定速度で回転し、前記一定電流量のd軸電流が流れているときの前記速度制御部の出力に基づく前記電流指令値を測定する電流測定部と、
前記測定された電流指令値に基づき、前記モータの回転位置に対する補正値を算出する補正値算出部と、
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記補正値算出部は、
前記算出した補正値を前記モータの回転位置に対応した検出値に加算して回転位置を示す値を生成し、
前記速度制御部は、
前記生成された回転位置を示す値に基づき前記モータを制御する
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記速度制御部は、
前記電流測定部が前記電流指令値を測定するとき、弱め界磁制御領域で、前記モータに前記一定電流量のd軸電流を流す速度指令値に基づいて前記モータの速度制御を行う
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記速度制御部は、
前記電流測定部が前記電流指令値を測定するとき、前記モータの速度が弱め界磁領域に属していない制御領域で、前記電流指令値に前記一定電流量のd軸電流を加算した電流指令値に基づいて前記モータの速度制御を行う
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記電流指令値は、
d軸電流指令値及びq軸電流指令値であり、
前記電流測定部は、
前記モータが前記速度指令値に基づいて回転しているとき、前記d軸電流指令値及び前記q軸電流指令値を測定し、
前記補正値算出部は、
前記モータが正回転しているときの前記測定された前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との位相に基づいて第1補正値を前記補正値として算出する
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記補正値算出部は、
前記モータが負回転しているときの前記測定された前記d軸電流指令値と前記q軸電流指令値との位相に基づいて算出した第2補正値を前記補正値として算出する
ことを特徴とする請求項5に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記速度制御部は、
前記モータの正回転における前記速度指令値と、前記モータの負回転における前記速度指令値の絶対値とが等しくなるように制御し、
前記補正値算出部は、
前記算出した第1補正値と第2補正値の平均を算出して前記補正値を算出する
ことを特徴とする請求項6に記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記補正値算出部は、
前記補正値、前記第1補正値、及び前記第2補正値を、下式を用いて算出する
【数1】

ことを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項9】
前記電流測定部は、
前記モータが前記速度指令値に基づいて回転しているときのq軸電流指令値を測定し、
前記補正値算出部は、
前記測定されたq軸電流指令値を零にするように比例積分制御して前記補正値を繰り返し算出し、前記算出した補正値に基づいて前記モータの回転位置に対する検出値と加算する
ことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【請求項10】
電流指令値から、電圧指令値を生成し、モータに流れる検出電流によりフィードバック制御するモータ制御装置のモータ制御方法であって、
速度制御部が、前記モータを一定速度で回転させ、一定電流量のd軸電流を流す速度指令値に基づいて前記モータの速度制御を行う速度制御手順と、
電流測定部が、前記モータが一定速度で回転し、前記一定電流量のd軸電流が流れているときの前記速度制御手段の出力に基づく前記電流指令値を測定する電流測定手順と、
補正値算出部が、前記測定された電流指令値に基づき、前記モータの回転位置に対する補正値を算出する補正値算出手順と、
を含むことを特徴とするモータ制御方法。
【請求項11】
前記電流測定手順は、
前記モータが前記速度指令値に基づいて回転しているときの前記q軸電流指令値を測定し、
前記補正値算出手順は、
前記測定されたq軸電流指令値を零にするように比例積分制御して前記補正値を繰り返し算出し、前記算出した補正値に基づいて前記モータの回転位置に対する検出値と加算する
ことを特徴とする請求項10に記載のモータ制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−90545(P2013−90545A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231882(P2011−231882)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】