説明

モータ制御装置

【課題】モータトルクの変動を緩慢にすることができ、操舵フィーリングを向上させることができるモータ制御装置を提供する。
【解決手段】速度指令値設定部21は、トルクセンサ1によって検出される操舵トルクThおよび車速センサ2によって検出される車速Vsに応じたモータトルク(アシストトルク)をモータ5から発生させるためのq軸電流指令値に対応したロータ回転速度を、速度指令値ωとして設定する。速度偏差演算部22は、速度指令値設定部21によって設定された速度指令値ωと、速度演算部34によって演算されたロータ回転速度ωとの偏差(ω−ω)を演算する。速度制御部23は、速度偏差演算部22によって演算された偏差(ω−ω)に対して比例積分演算(PI演算)を行なうことによって、q軸電流指令値Iを演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動パワーステアリング装置用のブラシレスモータを駆動するためのモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ブラシレスモータの制御方式の1つとして、ベクトル制御方式がある。ベクトル制御方式では、三相固定座標系におけるU相、V相およびW相の電流値を、二相回転座標系における2相の電流に変換し、この2相の電流を用いてモータを制御する。二相回転座標系は、ロータの磁極方向に沿うd軸と、d軸に直交するq軸とによって規定される座標系である。二相回転座標系における2相の電流は、d軸電流成分とq軸電流成分とからなる。
【0003】
図3は、従来のベクトル制御によって電動パワーステアリング装置用のブラシレスモータを制御するモータ制御装置の構成を示すブロック図である。
この従来のモータ制御装置100は、電動パワーステアリング装置(EPC:Electric Power Steering)用のブラシレスモータ5(以下、「モータ5」という)を駆動する。モータ制御装置100は、マイクロコンピュータ111と、モータ5に電力を供給する駆動回路112と、モータ5に流れるU相電流およびV相電流を検出するための電流センサ113,114と、モータ5のロータの回転角を検出するためのレゾルバなどの回転角センサ115を備えている。
【0004】
マイクロコンピュータ111は、q軸電流指令値設定部121と、q軸電流偏差演算部122と、q軸電流制御部123と、d軸電流指令値設定部124と、d軸電流偏差演算部125と、d軸電流制御部126と、座標変換部127と、PWM制御部128と、電流検出部129と、座標変換部130と、回転角演算部131を含んでいる。
回転角演算部131は、回転角センサ115の出力信号に基づいてロータ回転角θを演算する。電流検出部129は、所定の演算周期毎に、電流センサ113,114の出力信号に基づいて、U相、V相およびW相の相電流を求める。座標変換部130は、回転角演算部131によって演算されるロータ回転角を用いて、電流検出部129によって求められた3相の相電流を、二相回転座標系における2相の電流に変換する。二相回転座標系における2相の電流は、d軸電流成分とq軸電流成分とからなる。座標変換部130によって得られる2相の電流のうち、d軸電流成分をd軸電流検出値Iといい、q軸電流成分をq軸電流検出値Iということにする。
【0005】
q軸電流指令値設定部121は、トルクセンサ1によって検出される操舵トルクThおよび車速センサ2によって検出される車速Vsに応じたモータトルク(アシストトルク)をモータ5から発生させるためのq軸電流指令値Iを設定する。より具体的には、操舵トルクおよび車速に対応したq軸電流指令値Iを記憶したマップ(テーブル)を用いてq軸電流指令値Iが設定される。
【0006】
q軸電流偏差演算部122は、q軸電流指令値Iと座標変換部130によって得られるq軸電流検出値Iとの偏差(I−I)を演算する。q軸電流制御部123は、q軸電流偏差演算部122によって得られた偏差(I−I)に対して比例積分演算(PI演算)を行なうことにより、モータ5に供給すべきq軸電圧(以下、「q軸電圧指令値V」という)を演算する。
【0007】
d軸電流指令値設定部124は、d軸電流指令値Iを設定する。d軸電流指令値Iは、たとえば零に設定される。d軸電流偏差演算部125は、d軸電流指令値Iと座標変換部130によって得られるd軸電流検出値Iとの偏差(I−I)を演算する。d軸電流制御部126は、d軸電流偏差演算部125によって得られた偏差(I−I)に対して比例積分演算(PI演算)を行なうことにより、モータ5に供給すべきd軸電圧(以下、「d軸電圧指令値V」という)を演算する。q軸電流指令値設定部121によって設定されるq軸電流指令値Iとd軸電流指令値設定部124によって設定されるd軸電流指令値Iとから電流指令値が構成される。
【0008】
座標変換部127は、回転角演算部131によって演算されるロータ回転角θを用いて、d軸電圧指令値Vおよびq軸電圧指令値Vを、三相固定座標系におけるU相、V相およびW相の電圧指令値V,V,Vに変換する。
PWM制御部128は、U相、V相およびW相の電圧指令値V,V,Vそれぞれに対応するデューティのU相PWM制御信号、V相PWM制御信号およびW相PWM制御信号を生成し、駆動回路112に供給する。
【0009】
駆動回路112は、三相インバータ回路からなる。このインバータ回路を構成するパワー素子がPWM制御部128から与えられるPWM制御信号によって制御されることにより、三相電圧指令値V,V,Vに相当する電圧がモータ5の各相のステータ巻線に印加されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2007/119755号公報
【特許文献2】特開2009-112104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述した従来のモータ制御装置では、トルクセンサ1によって検出される操舵トルクおよび車速センサ2によって検出される車速に応じたモータトルクをモータ5から発生させるためのq軸電流指令値Iを、マップに基づいて設定している。このようなモータ制御装置では、操舵トルクに対するモータの応答(モータトルクの応答)が速く、モータトルクおよび操舵トルクが変動しやすくなる。これにより、例えば、ステアリングホイールに振動が発生したり、操舵トルクが急激に変化したりするおそれがある。このため、良好な操舵フィーリングが得られないという問題がある。
【0012】
この発明の目的は、モータトルクの変動を緩慢にすることができ、操舵フィーリングを向上させることができるモータ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するための請求項1に記載の発明は、電動パワーステアリング装置用のブラシレスモータ(5)を制御するモータ制御装置(6)であって、前記ブラシレスモータに供給されるべき電流指令値を設定するために必要な変動値を検出するための変動値検出手段(1,2)と、前記変動値検出手段によって検出される変動量に応じたトルクを前記ブラシレスモータから発生させるための電流指令値に対応した速度指令値(ω)を設定する速度指令値設定手段(21)と、前記ブラシレスモータに流れる電流を検出する電流検出手段(31)と、前記ブラシレスモータのロータの回転速度(ω)を検出する速度検出手段(34)と、前記速度指令値設定手段によって設定される速度指令値と、前記速度検出手段によって得られる回転速度とに基づいて、フィードバック制御を行なうことにより、電流指令値を演算する電流指令値演算手段(22,23,26)と、前記電流指令値演算手段によって演算される電流指令値(I,I)と、前記電流検出手段によって検出されるモータ電流とに基づいて、前記ブラシレスモータに供給される電流を制御する制御手段(24,25,27,28,29,30)とを含む、モータ制御装置である。なお、括弧内の英数字は、後述の実施形態における対応構成要素等を表すが、むろん、この発明の範囲は当該実施形態に限定されない。以下、この項において同じ。
【0014】
変動値検出手段は、操舵トルクを検出するトルクセンサを含むものであってもよい。また、変動値検出手段は、操舵トルクを検出するトルクセンサと車速を検出する車速センサとを含むものであってもよい。
速度指令値設定手段では、変動値検出手段によって検出される変動量に応じたトルクをブラシレスモータから発生させるための電流指令値に対応した速度指令値が設定される。電流指令値演算手段では、速度指令値設定手段によって設定される速度指令値と、速度検出手段によって得られる回転速度とに基づいて、フィードバック制御を行なうことにより、電流指令値が演算される。これにより、変動値検出手段によって検出される変動量に対するモータの応答を、従来例に比べて遅くすることができる。この結果、モータトルク(アシストトルク)の変動を緩慢にすることができるので、操舵フィーリングを向上させることができる。
【0015】
請求項2記載の発明は、前記速度指令値設定手段は、前記変動値検出手段によって検出される変動量に応じたトルクを前記ブラシレスモータから発生させるための基本電流指令値(Iqo)を設定するための基本電流指令値設定手段(41)と、前記基本電流指令値設定手段によって設定された基本電流指令値を速度指令値(ω)に変換する変換手段(42)とを含む、請求項1に記載のモータ制御装置である。
【0016】
請求項3記載の発明は、前記速度指令値設定手段は、前記変動値検出手段の検出対象である変動量と速度指令値との関係を記憶したマップに基づいて、前記変動値検出手段によって検出される変動量に応じた速度指令値を求めるように構成されている、請求項1に記載のモータ制御装置である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、速度指令値設定部の構成例を示すブロック図である。
【図3】図3は、従来のモータ制御装置の電気的構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下では、この発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、この発明の一実施形態に係るモータ制御装置を適用した電動パワーステアリング装置の電気的構成を示すブロック図である。
この電動パワーステアリング装置は、車両のステアリングホイール10に加えられる操舵トルクを検出するトルクセンサ1と、車両の速度を検出する車速センサ2と、車両の舵取り機構3に減速機構4を介して操舵補助力を与えるモータ5と、モータ5を駆動制御するモータ制御装置6とを備えている。
【0019】
モータ制御装置6は、トルクセンサ1が検出する操舵トルクThおよび車速センサ2が検出する車速Vsに応じてモータ5を駆動することによって、操舵状況および車速に応じた適切な操舵補助を実現する。
モータ5は、この実施形態では、3相ブラシレスモータであり、界磁としてのロータ(図示せず)と、ロータに対向するステータ(図示せず)に配置されたU相、V相、W相のステータ巻線(図示せず)とを備えている。
【0020】
モータ制御装置6は、マイクロコンピュータ11と、マイクロコンピュータ11によって制御され、モータ5に電力を供給する駆動回路(インバータ回路)12と、モータ5に流れるU相電流およびV相電流を検出するための電流センサ13,14と、ロータの回転角を検出するためのレゾルバなどの回転角センサ15を備えている。
マイクロコンピュータ11は、CPUおよびメモリ(ROM,RAMなど)を備えており、所定のプログラムを実行することにより、複数の機能処理部として機能するようになっている。この複数の機能処理部には、速度指令値設定部21と、速度偏差演算部22と、速度制御部23と、q軸電流偏差演算部24と、q軸電流制御部25と、d軸電流指令値設定部26と、d軸電流偏差演算部27と、d軸電流制御部28と、座標変換部29と、PWM制御部30と、電流検出部31と、座標変換部32と、回転角演算部33と、速度演算部34とを含んでいる。
【0021】
回転角演算部33は、所定の演算周期Ts毎に、回転角センサ15の出力信号に基づいてロータ回転角θを演算する。速度演算部(速度検出手段)34は、回転角演算部33によって演算されるロータ回転角θに基づいて、ロータの回転速度ωを演算する。回転角演算部33によって今回演算されたロータ回転角をθとし、前回演算されたロータ回転角をθn-1とすると、ロータの回転速度ωは、例えば次式(1)に基づいて求められる。
【0022】
ω=(θ−θn-1)/Ts …(1)
速度演算部34によって演算されたロータ回転速度ωは、速度検出値として速度偏差演算部22に与えられる。
電流検出部31は、所定の演算周期Ts毎に、電流センサ13,14の出力信号に基づいて、U相、V相およびW相の相電流を求める。座標変換部32は、回転角演算部33によって演算されるロータ回転角θを用いて、電流検出部31によって求められた3相の相電流を、二相回転座標系における2相の電流に変換する。二相回転座標系は、ロータの磁極方向に沿うd軸と、d軸に直交するq軸とによって規定される座標系である。二相回転座標系における2相の電流は、d軸電流成分とq軸電流成分とからなる。座標変換部32によって得られる2相の電流のうち、d軸電流成分をd軸電流検出値Iといい、q軸電流成分をq軸電流検出値Iということにする。
【0023】
速度指令値設定部21は、トルクセンサ1によって検出される操舵トルクThおよび車速センサ2によって検出される車速Vsに応じたモータトルク(アシストトルク)をモータ5から発生させるためのq軸電流指令値に対応したロータ回転速度を、速度指令値ωとして設定する。速度指令値設定部21の詳細については、後述する。
速度偏差演算部22は、速度指令値設定部21によって設定された速度指令値ωと、速度演算部34によって演算されたロータ回転速度ωとの偏差(ω−ω)を演算する。
【0024】
速度制御部23は、速度偏差演算部22によって演算された偏差(ω−ω)に対して比例積分演算(PI演算)を行なうことによって、q軸電流指令値Iを演算する。このq軸電流指令値Iは、操舵トルクThおよび車速Vsに応じたモータトルク(アシストトルク)をモータ5から発生させるためのq軸電流指令値となる。速度制御部23は、操舵トルクThおよび車速Vsに対するモータ5の応答(モータトルクの応答)を遅くして、モータトルク(アシストトルク)の変動を緩慢にするために設けられている。
【0025】
q軸電流偏差演算部24は、q軸電流指令値Iと座標変換部32によって得られるq軸電流検出値Iとの偏差(I−I)を演算する。q軸電流制御部25は、q軸電流偏差演算部24によって得られた偏差(I−I)に対して比例積分演算(PI演算)を行なうことにより、モータ5に供給すべきq軸電圧(以下、「q軸電圧指令値V」という)を演算する。
【0026】
d軸電流指令値設定部26は、d軸電流指令値Iを設定する。d軸電流指令値Iは、たとえば零に設定される。d軸電流偏差演算部27は、d軸電流指令値Iと座標変換部32によって得られるd軸電流検出値Iとの偏差(I−I)を演算する。d軸電流制御部28は、d軸電流偏差演算部27によって得られた偏差(I−I)に対して比例積分演算(PI演算)を行なうことにより、モータ5に供給すべきd軸電圧(以下、「d軸電圧指令値V」という)を演算する。
【0027】
速度偏差演算部22と速度制御部23とd軸電流指令値設定部26とによって、電流指令値演算手段が構成されている。つまり、速度制御部23によって演算されるq軸電流指令値Iとq軸電流指令値設定部26によって設定されるd軸電流指令値Iとから電流指令値が構成される。モータ5から発生するトルクは、モータ電流に対応するから、電流指令値I,Iは、モータ5から発生させるべきトルクを指令するための「トルク指令値」と言い換えることもできる。
【0028】
座標変換部29は、回転角演算部33によって演算されるロータ回転角θを用いて、d軸電圧指令値Vおよびq軸電圧指令値Vを、三相固定座標系におけるU相、V相およびW相の電圧指令値V,V,Vに変換する。
PWM制御部30は、U相、V相およびW相の電圧指令値V,V,Vそれぞれに対応するデューティのU相PWM制御信号、V相PWM制御信号およびW相PWM制御信号を生成し、駆動回路12に供給する。
【0029】
駆動回路12は、U相、V相およびW相に対応した三相インバータ回路からなる。このインバータ回路を構成するパワー素子がPWM制御部30から与えられるPWM制御信号によって制御されることにより、三相電圧指令値V,V,Vに相当する電圧がモータ5の各相のステータ巻線に印加されることになる。
速度偏差演算部22および速度制御部23は、速度フィードバック制御手段を構成している。この速度フィードバック制御手段の働きによって、モータ5の回転速度が速度指令値設定部21によって設定される速度指令値ωに近づくように制御される。また、q軸電流偏差演算部24、q軸電流制御部25、d軸電流偏差演算部27およびd軸電流制御部28は、電流フィードバック制御手段を構成している。この電流フィードバック制御手段の働きによって、モータ5に流れるモータ電流が、電流指令値I,Iに近づくように制御される。これにより、操舵トルクおよび車速に対応した適切なアシストトルク(操舵補助力)を車両の舵取り機構に与えることができる。
【0030】
図2は、速度指令値設定部21の構成例を示すブロック図である。
速度指令値設定部21は、基本q軸電流値指令値設定部41と電流指令値-速度指令値変換部42とを含んでいる。
q軸電流指令値設定部21は、トルクセンサ1によって検出される操舵トルクThおよび車速センサ2によって検出される車速Vsに応じたモータトルク(アシストトルク)をモータ5から発生させるための基本q軸電流指令値Iqoを設定する。より具体的には、操舵トルクおよび車速に対応した基本q軸電流指令値Iqoを記憶したマップ(テーブル)を用いて基本q軸電流指令値Iqoが設定される。
【0031】
電流指令値−速度指令値変換部42は、q軸電流指令値設定部21によって設定された基本q軸電流指令値Iqoを、ロータ回転速度の指令値である速度指令値ωに変換する。この変換方法について説明する。
モータ5の回転速度ωは、次式(2)で表すことができる。
ω=(V−R・I)/Ke …(2)
V:モータ端子間電圧
I:モータ電流
R:モータ抵抗(モータ端子間抵抗)
Ke:逆起電力定数
無負荷時のモータ5の回転速度ωoは、次式(3)で表すことができる。
【0032】
ωo=V/Ke …(3)
ωoとωとの差(ωo−ω)は、次式(4)で表される。
ωo−ω=V/Ke−(V−R・I)/Ke
=R・I/Ke …(4)
前記式(4)を変形すると、回転速度ωとモータ電流Iとの関係を表す式(5)が得られる。
【0033】
ω=ωo−R・I/Ke …(5)
したがって、基本q軸電流指令値Iqoを速度指令値ωに変換するための変換式は、式(6)となる。
ω=ωo−R・Iqo/Ke …(6)
前記式(6)におけるωo、RおよびKeは予め設定されている。電流指令値−速度指令値変換部42は、前記式(6)に基づいて、q軸電流指令値設定部21によって設定された基本q軸電流指令値Iqoを、速度指令値ωに変換する。
【0034】
なお、速度指令値設定部21は、操舵トルクおよび車速に対応した速度指令値ωを記憶したマップ(テーブル)を用いて、トルクセンサ1によって検出される操舵トルクThおよび車速センサ2によって検出される車速Vsに対応した速度指令値ωを求めるものであってもよい。
前記実施形態では、速度指令値設定部21によって、操舵トルクThおよび車速Vsに応じた速度指令値ωが設定される。そして、速度制御部23によって速度指令値ωと速度検出値ωとの偏差(ω−ω)に対して比例積分演算(PI演算)が行なわれることによって、q軸電流指令値Iが演算されている。このため、操舵トルクThおよび車速Vsに応じたq軸電流指令値Iをマップに基づいて設定する従来例に比べて、操舵トルクThおよび車速Vsに対するモータ5の応答(モータトルクの応答)を遅くすることができる。この結果、モータトルク(アシストトルク)の変動を緩慢にすることができるので、操舵フィーリングを向上させることができる。
【0035】
以上、この発明の一実施形態について説明したが、この発明はさらに他の形態で実施することもできる。たとえば、前述の実施形態では、速度制御部23は速度指令値ωと速度検出値ωとの偏差(ω−ω)に対して比例積分演算(PI演算)を行うことによりq軸電流指令値Iを演算しているが、速度制御部23は、偏差(ω−ω)に対して、比例積分微分演算(PID演算)、比例演算(P演算)または比例微分演算(PD演算)を行うことにより、q軸電流指令値Iを演算するものであってもよい。ただし、操舵トルクThの変動に対するモータトルクの応答を遅くする観点からは、速度制御部23は、偏差(ω−ω)に対して比例積分演算(PI演算)を行うことによって、q軸電流指令値Iを演算するものであることが好ましい。
【0036】
また、前記実施形態では、速度指令値設定部21は、操舵トルクThおよび車速Vsに応じたモータトルクに対応するロータ回転速度を速度指令値ωとして設定しているが、操舵トルクThおよび車速Vsに応じたモータトルクに対応するロータ回転速度(この速度を「ωx」で表すことにする)と無負荷速度ωoとの差(ωo−ωx)を速度指令値ωとして設定してもよい。この場合には、速度偏差演算部22に与えられる速度検出値としては、速度演算部34によって演算されたロータ回転角ωと無負荷速度ωoとの差(ωo−ω)が用いられる。
【0037】
以上、この発明の実施形態について説明したが、特許請求の範囲に記載された事項の範囲で種々の設計変更を施すことが可能である。
【符号の説明】
【0038】
1…トルクセンサ、2…車速センサ、5…モータ、6…モータ制御装置、21…速度指令値設定部、22…速度偏差演算部、23…速度制御部、24…q軸電流偏差演算部、25…q軸電流制御部、26…d軸電流指令値設定部、27…d軸電流偏差演算部、28…d軸電流制御部、29,32…座標変換部、30…PWM制御部、31…電流検出部、33…回転角演算部、34…速度演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動パワーステアリング装置用のブラシレスモータを制御するモータ制御装置であって、
前記ブラシレスモータに供給されるべき電流指令値を設定するために必要な変動値を検出するための変動値検出手段と、
前記変動値検出手段によって検出される変動量に応じたトルクを前記ブラシレスモータから発生させるための電流指令値に対応した速度指令値を設定する速度指令値設定手段と、
前記ブラシレスモータに流れる電流を検出する電流検出手段と、
前記ブラシレスモータのロータの回転速度を検出する速度検出手段と、
前記速度指令値設定手段によって設定される速度指令値と、前記速度検出手段によって得られる回転速度とに基づいて、フィードバック制御を行なうことにより、電流指令値を演算する電流指令値演算手段と、
前記電流指令値演算手段によって演算される電流指令値と、前記電流検出手段によって検出されるモータ電流とに基づいて、前記ブラシレスモータに供給される電流を制御する制御手段とを含む、モータ制御装置。
【請求項2】
前記速度指令値設定手段は、前記変動値検出手段によって検出される変動量に応じたトルクを前記ブラシレスモータから発生させるための基本電流指令値を設定するための基本電流指令値設定手段と、
前記基本電流指令値設定手段によって設定された基本電流指令値を速度指令値に変換する変換手段とを含む、請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記速度指令値設定手段は、前記変動値検出手段の検出対象である変動量と速度指令値との関係を記憶したマップに基づいて、前記変動値検出手段によって検出される変動量に応じた速度指令値を求めるように構成されている、請求項1に記載のモータ制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−239281(P2012−239281A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106047(P2011−106047)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】