説明

ヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液

【課題】 できるだけ簡単な構成で、経時変化を受けることなく長期間安定に保存できるヨウ素配合輸液製剤および該ヨウ素配合輸液製剤を含有する輸液入り容器を提供すること。
【解決手段】ビタミンA、ビタミンD、ビタミンEおよびビタミンKから選ばれる少なくとも1種である脂溶性ビタミンを含有し、かつ可溶化剤および安定剤を含有する溶液が、さらにヨウ素イオンを含有しかつ銅不含であるヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液によって解決される。また、連通可能な隔壁によって仕切られた複数の室を有する容器の第1室に上記ヨウ素配合脂溶性ビタミン液を充填し、第2室に糖含有溶液を充填し、第3室にアミノ酸含有溶液を充填し、第4室に銅含有溶液を充填してある輸液入り容器によっても解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヨウ素配合輸液製剤に関し、さらに詳しくは、安定でかつ構造が簡単なヨウ素配合輸液製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
経口・経腸管栄養補給が不能または不十分な患者には、経静脈からの高カロリー輸液の投与が行われている。このときに使用される輸液製剤としては、糖製剤、アミノ酸製剤、電解質製剤、混合ビタミン製剤、脂肪乳剤などが市販されており、病態などに応じて用時に病院で適宜混合して使用されていた。しかし、病院におけるこのような混注操作は煩雑なうえに、かかる混合操作時に細菌汚染の可能性が高く不衛生であるという問題がある。このため連通可能な隔壁手段で区画された複数の室を有する輸液容器が開発され病院で使用されるようになった。
【0003】
一方、輸液中には、通常、微量金属元素(鉄、銅、亜鉛、マンガン、ヨウ素など)が含まれていないことから輸液の投与が長期になると、患者の唇がひび割れたり、造血機能が低下したりする、いわゆる微量金属元素欠乏症を発症する。微量金属元素は輸液と混合した状態で保存すると、化学反応によって品質劣化の原因となる。このため病院では、細菌汚染の問題をかかえながらも依然として輸液を投与する直前に注射器を用いて微量金属元素製剤が混合されているのが現状である。
【0004】
本発明者らは、かかる現状に鑑み、輸液容器の一室に微量金属元素をも収容した輸液製剤の研究を開始した。しかしながら酸素の非存在下において、ビタミン配合輸液と微量金属元素を組み合わせた場合など微量金属(特に銅)とヨウ素イオンを同じ一室に収容すると、微量金属(特に銅イオン)とヨウ素イオンが反応し、ヨウ化銅(I)の沈殿を生じることは周知の事項であり(特許文献1および非特許文献1)、輸液容器として酸透過性を有するものを用いた輸液製剤を脱酸素剤とともに酸素非透過性外装材に収納し外装材内部を脱酸素状態にしてある輸液剤包装体の場合、これらの成分は隔離して収容しなければならない。しかし、既存の輸液製剤は、アミノ酸溶液、糖溶液、および脂溶性ビタミン含有溶液をそれぞれ別の室に収納するものであるため、少なくとも3つの室を有し、さらに微量元素金属元素をも収容するとなると、ヨウ素イオン含有溶液をさらに独立して収納するものでは5つの室を有し、輸液製剤の構成が複雑になるという難点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−158061号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】化学大辞典編集委員会、化学大辞典6、共立出版、1987年2月15日、縮刷版第30刷、p.311、どうイオンのぶんせきほう
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、用時、複数の溶液を混合するに際し、細菌による汚染がない、保存安定性に優れたヨウ素配合輸液製剤を提供するものである。本発明の他の目的は、経時変化を受けることなく保存できるヨウ素配合輸液製剤を提供するものである。本発明のさらに他の目的は、できるだけ簡単な構成であるヨウ素配合輸液製剤を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記目的を達成すべく鋭意い検討を重ねた結果、ヨウ素は化学物質中のC=C結合に容易に付加反応するため、脂溶性ビタミンを含有し且つ可溶化剤および安定剤を含有する溶液中では不安定であるとされてきたが、意外にも長期にわたって安定であること、しかもその際にヨウ素以外の脂溶性ビタミンも安定であることを見出した。
そして本発明者らは、連通可能な隔壁によって仕切られた複数の室を有する容器の第1室にヨウ素配合脂溶性ビタミン液を充填し、第2室に糖含有溶液を充填し、第3室にアミノ酸含有溶液を充填し、第4室に銅含有溶液を充填すると、それにより得られる輸液入り容器は、内容物の変質や分解を伴うことなく室温で長期にわたって安定に保存でき、しかも高カロリー輸液療法にそのまま直接便利に使用できることを見出して本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(5)に示されるものである。
(1)脂溶性ビタミンを含有し且つ可溶化剤および安定剤を含有する溶液が、さらにヨウ素イオンを含有しかつ銅不含であることを特徴とするヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液。
(2)脂溶性ビタミンが、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンEおよびビタミンKから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液。
(3)可溶化剤がポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである請求項1または2に記載のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液。
(4)安定剤が糖アルコールである請求項1〜3のいずれか1項に記載のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液。
(5)連通可能な隔壁によって仕切られた複数の室を有する容器の第1室に請求項1〜4のいずれか1項のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液を充填し、第2室に糖含有溶液を充填し、第3室にアミノ酸含有溶液を充填し、第4室に銅含有溶液を充填してあることを特徴とする輸液入り容器。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡単な構成でありながら、用時、複数の溶液を混合するに際し、細菌による汚染がない、ヨウ素配合輸液製剤が提供される。また、本発明によれば、経時変化を受けることなく保存できるヨウ素配合輸液製剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の輸液入り容器の一実施例の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液中に含まれるヨウ素イオン供給源としては、例えばヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウムなどが挙げられ、好ましくはヨウ化カリウムが用いられる。
【0013】
本発明のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液中に含まれる脂溶性ビタミンの種類および数は特に制限されず、脂溶性ビタミンであればいずれでもよく、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKおよび前記したビタミン活性を示す物質などを挙げることができる。本発明のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液は、前記した脂溶性ビタミンの1種または2種以上を含有することができる。本発明のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液を静脈栄養療法に用いる場合は、ビタミンA、ビタミンDおよびビタミンEの3種を少なくとも含有するか、或いはビタミンA、ビタミンD、ビタミンEおよびビタミンKの4種を少なくとも含有することが望ましい。ビタミンAとしてはビタミンA(レチノール)活性を有するものであればいずれでもよく、具体例としてはパルミチン酸レチノール、酢酸レチノールなどを挙げることができる。ビタミンDとしてはビタミンD活性を有するものであればいずれでもよく、具体例としてはビタミンD2(エルゴカルシフェロール)、ビタミンD3(コレカルシフェロール)、これらの活性型などを挙げることができる。ビタミンEとしてはビタミンE活性を有するものであればいずれでもよく、具体例としては酢酸トコフェロール、琥珀酸トコフェロール、dl−α−トコフェロールなどを挙げることができる。また、ビタミンKとしてはビタミンK活性を有するものであればいずれでもよく、具体例としてはフィトナジオン、メナテトレノン、メナジオン、これらの誘導体などを挙げることができる。
ヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液中での脂溶性ビタミンの含有量は特に制限されず、脂溶性ビタミン可溶化液の使用目的、使用形態、給与対象の年齢や状態などに応じて決めることができる。一般に、成人が1日に必要なビタミン摂取量は、ビタミンAが2000〜5000IU、ビタミンDが200〜1000IU、ビタミンEが2〜20mg、ビタミンKが0.2〜10mgとされているので、前記量を考慮して決めればよい。
【0014】
本発明のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液では、界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類を用いることが好ましい。非経口投与してもアナフィラキシー型のショック症状をもたらすおそれがないため、本発明の脂溶性ビタミン可溶化液には適当である。本発明の脂溶性ビタミン可溶化液では、脂溶性ビタミンの可溶化液で従来から用いられているポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類のいずれもが使用でき、特に制限されない。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類の具体例としては、日光ケミカルズ株式会社製「ポリソルベート80」(商品名:TO−10M)、「ポリソルベート20」(商品名:TL−10)などを挙げることができ、これらは単独で用いても併用してもよい。
ヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液におけるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類の配合量は、液中に含まれる脂溶性ビタミンの重量(2種以上の脂溶性ビタミンを含有する場合はその合計重量)1重量部に対して、2〜12重量部であることが、脂溶性ビタミンの可溶化が良好になり、且つ保存安定性に優れることから好ましく、2.5〜10重量部であることがより好ましい。ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類の配合量が2重量部未満では、可溶化が不充分になる恐れがあり、一方12重量部よりも多くても、可溶化に関し、その配合量に見合うだけの効果が期待できなくなる。
【0015】
本発明のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液は、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類等の界面活性剤と共に、糖アルコール等の安定剤を含有することが必要である。特に糖アルコールを安定剤として含有することによって、脂溶性ビタミン可溶化液の調製時に系の状態が変わらず、脂溶性ビタミンを極めて安定に且つ良好に系中に可溶化することができる。安定剤として用いる糖アルコールの具体例としては、ソルビトール、マルチトール、パラチニット、エリスリトール、マンニトールなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。本発明のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液は、安定剤として、ソルビトールを含有することが好ましい。
できる。
ヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液における糖アルコールの配合量(2種以上を含有する場合はその合計配合量)は、脂溶性ビタミン可溶化液の全重量に基づいて、6〜30重量%であることが、脂溶性ビタミンの可溶化が良好になり好ましく、8〜25重量%であることがより好ましい。
【0016】
本発明のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液で用いる液体媒体としては、一般に、ビタミンの溶解または分散に従来から用いられている注射用水、蒸留水などのような水性媒体が用いられる。本発明のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液のpHは5.0〜7.0、特に5.5〜6.5であることが、人体に対する安全性、液中での脂溶性ビタミンの可溶化性および安定性などの点から好ましい。ヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液のpHを前記した範囲に調節するに当たっては、医薬品添加物として使用できる化合物であればいずれも使用でき、例えば、クエン酸、酢酸、酒石酸、乳酸、フマル酸、プロピオン酸、アジピン酸、グルコン酸、コハク酸、マレイン酸、リンゴ酸などの有機酸、炭酸、硼酸、リン酸、硫酸、塩酸などの無機酸;水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ性化合物などを用いてpH調節を行うことができる。
【0017】
本発明のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液は、上記した成分と共に、必要に応じて水溶性ビタミン類、糖類、アミノ酸類、電解質成分などの他の成分の1種または2種以上を含有してもよい。
【0018】
本発明のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液は、微量元素(特に銅)不含であることが必要である。
【0019】
さらに、本発明は、隔壁によって仕切られた複数の室を有し、その第1室にヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液を充填し、第2室に糖含有溶液を充填し、第3室にアミノ酸含有液を充填し、第4室に銅含有溶液を充填してなる輸液入り容器を本発明の範囲に包含しており、かかる輸液入り容器は、室温下で長期間保存でき、しかも高カロリー輸液療法などにおいて簡単に且つ衛生的に用いることができる。
【0020】
輸液入り容器における容器の材質は特に制限されないが、容器本体を、ある程度の耐熱性のある可撓性のプラスチックおよび/またはエラストマーから形成することが好ましい。容器本体の形成に用いるプラスチックおよび/またはエラストマーの例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、エチレン−プロピレン共重合体、ポリプロピレンとポリエチレンおよび/またはポリブテンとの混合物などのようなポリオレフィン類或いはそれらの部分架橋物;エチレン−酢酸ビニル共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル;軟質塩化ビニル樹脂などを挙げることができる。また、容器本体は、前記したプラスチックおよび/またはエラストマーの1種よりなる単層構造であっても、前記したポリマーからなる複数のポリマー層を有する積層構造であっても、或いはそれらに更にポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデンなどのガスバリア性の層を積層したものであってもよい。好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレンあるいは環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系樹脂を主成分とし必要に応じて各種エラストマー等を添加することにより軟質化した樹脂組成物が使用される。
【0021】
ビタミン・微量元素配合総合輸液入り容器の形状および構造は、隔壁によって仕切られた4つ以上、しかし必要最小限の室を有し、容器に充填されている薬液を容器外に取り出すための取出口を有するものであればいずれでもよいが、各室を仕切っている隔壁の全体または一部が弱シール部を形成してなるバッグ状の構造とすることが好ましい。そのような輸液入り容器としては、何ら限定されるものではないが、例えば図1に示すものを挙げることができる。図1上端に懸垂孔を有し、容器内が弱シール性の隔壁で例えば第1室〜第4室の4室などに区画された複数の室を有する輸液入り容器は、薬液を充填してある容器に外部から押圧などの応力をかけることによって、隔壁を形成している弱シール部でシールが解除して各室間の連通がなされて、容器内に充填されている前記した複数の薬液を容器内で簡単に且つ衛生的に混合することができる。容器内で混合された薬液は、図1下端の取出口から取り出されて、例えば患者への注入のための輸液セット、シリンジなどへと導かれる。
【0022】
輸液入り容器における前記した取出口の形状および材質は特に制限されず、輸液入り容器において従来から採用されている構造および材質とすることができ、何ら制限されるものではないが、取出口をポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリスチレンなどの半硬質材料からなる筒状部材から形成し、該筒状部材内またはその端部に針刺可能な弾性材料(例えば、天然ゴム、イソプレンゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料(特に加硫したもの);ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系などの各種熱可塑性エラストマー;それらの混合物など)からなる密封部材を配置した構造などとすることができる。また、輸液入り容器における前記した弱シール部は、輸液バッグなどにおいて弱シール部(イージーピール部)の形成に従来から採用されているいずれの方式によって形成してもよく、例えば強シールが必要とされるバッグ周縁よりも弱めに弱シール部形成領域をヒートシールする方法、シート内面の弱シール部形成領域をバッグ周縁に比べて剥離し易い(イージーピール性)材料から形成する方法などを採用することができる。
【0023】
先に例示した4室に区画された室を有する輸液入り容器における第1室に充填されたヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液、第2室に充填された糖含有溶液、第3室に充填されたアミノ酸含有溶液および第4室に充填された銅含有溶液の各々を充填した室の位置関係は特に制限されない。例えば、ヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液を充填した室と糖含有溶液を充填した室は隣合わせに設けてもまたは離して設けてもよく、ヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液を充填した室が糖含有溶液を充填した室に収納されていてもよい。また、糖含有溶液を充填した室とアミノ酸含有溶液を充填した室は隣り合わせに設けてもまたは離して設けてもよく、糖含有溶液とアミノ酸含有溶液は隣合わせに設けるのが輸液入り容器の作製の容易性、容器内でのそれらの液の混合の容易性などの点から好ましい。
【0024】
輸液入り容器の第2室に充填する糖含有溶液は、ブドウ糖、フルクトース、マルトースなどの還元糖の1種または2種以上を含有する液であり、血糖管理などの点からブドウ糖を含有する液が好ましく用いられる。また、第3室に充填するアミノ酸含有溶液は、必須アミノ酸および/または非必須アミノ酸を含有する液であり、その場合のアミノ酸としては、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リジン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−バリン、L−システイン、L−チロシン、L−ヒスチジン、L−アラニン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、L−プロリン、L−セリン、グリシンなどを挙げることができる。また、第4室に充填する銅含有溶液は、微量金属を含有する液であり、銅、鉄、マンガン、亜鉛などが挙げられる。
糖含有溶液、アミノ酸含有溶液および/または銅含有溶液は、必要に応じて、各種電解質(例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リン、亜鉛、硫酸イオン、酢酸イオン、塩素イオンなど)、pH調整剤、緩衝剤などを含有していてもよい。
【0025】
また、輸液入り容器の第1室に充填するヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液を収容してなる容器と酸素非透過性の外装材との間に脱酸素剤を入れておいてもよく、その場合には、ヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液の酸化を一層良好に防止することができる。脱酸素剤としては、公知の各種のものを使用でき、例えば、水酸化鉄、酸化鉄、炭化鉄などの鉄化合物を有効成分とするものを挙げることができる。市販品としては、例えば、三菱ガス化学株式会社製「エージレス」、日本化薬株式会社製「モジュラン」、日本曹達株式会社製「セキュール」などを挙げることができる。なお、本発明はこのヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液が充填された第1室のみから構成されるものを包含するものであることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、連通可能な隔壁によって仕切られた複数の室を有する容器の第1室にヨウ素配合脂溶性ビタミン液を充填し、第2室に糖含有溶液を充填し、第3室にアミノ酸含有溶液を充填し、第4室に銅含有溶液を充填すると、それにより得られる輸液入り容器は、内容物の変質や分解を伴うことなく室温で長期にわたって安定に保存でき、しかも高カロリー輸液療法にそのまま直接便利に使用できる容器を提供できる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0028】
(実施例1)
(1) ビタミンA(レチノールパルミチン酸エステル)、ビタミンD(エルゴカルシフェロール)、ビタミンE(トコフェロール酢酸エステル)、ビタミンK(フィトナジオン)およびポリソルベート80とポリソルベート20を、最終的に得られるヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液中でのこれらの成分の含有量が下記の表1の割合になる量で混合して、脂溶性ビタミン/界面活性剤混合液を調製した。
(2) 上記(1)とは別に、ヨウ化カリウム、シアノコバラミン、葉酸、ビオチンおよびソルビトールを、最終的に得られるヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液中でのこれらの成分の含有量が下記の表1の割合になる量で注射用水に溶解して水性液を調製した。
(3) 上記(1)で調製した脂溶性ビタミン/界面活性剤混合液と、上記(2)で調製した水性液を混合し、20分間室温下に撹拌した後、クエン酸と水酸化ナトリウムを適量添加してpH6.0に調整し、注射用水によりメスアップして下記の表1に示す成分組成を有するヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液を調製した。
(4) 上記(3)で得られたヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液をポリプロピレン製の容器に3mLずつ充填し密封した。
(5) 上記(4)で得られたヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液入り容器を、常法に従い高圧蒸気滅菌した。
(6) 上記(5)で得られたヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液入り容器を、脱酸素材と共に酸素非透過性の外包材で包装した。
【0029】
【表1】

【0030】
(実施例2)
(1)700mL中、下記の表2に示す成分組成を有するブドウ糖含有溶液を調製した。なお、ブドウ糖含有溶液はpH4.5となるように希塩酸とコハク酸を適量添加して調整した。
(2)300mL中、下記の表3に示す成分組成を有するアミノ酸含有溶液を調製した。なお、アミノ酸含有溶液はpH6.5となるようにクエン酸とコハク酸を適量添加して調整した。
(3)コンドロイチン硫酸ナトリウムの注射用蒸留水溶液に、塩化第二鉄水溶液と水酸化ナトリウム溶液を交互に加え、鉄コロイド液を調製した。この鉄コロイド液に塩化マンガンと硫酸銅を加え、1mL中、下記の表4に示す成分組成を有する銅含有溶液を調製した。なお、銅含有溶液はpH5.2となるように水酸化ナトリウムを適量添加して調整した。
(4)隔壁によって4つの室に仕切られたポリプロピレン製の容器を準備し、その一室である第1室に実施例1の(3)で得られたヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液を3mL充填し、その一室である第2室に上記(1)で調製したブドウ糖含有溶液を700mL充填し、その一室である第3室に上記(2)で調製したアミノ酸含有溶液を300mL充填し、その一室である第4室に上記(3)で調製した銅含有溶液を1mL充填して、図1に示す高カロリー輸液入りバッグAを製造した。
(5) 上記(4)で得られた高カロリー輸液入りバッグAを、常法に従い高圧蒸気滅菌した。
(6) 上記(5)で得られた高カロリー輸液入りバッグAを、脱酸素材と共に酸素非透過性の外包材で包装した。
【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
実施例1で製した製剤について、製造直後品および40℃/75%RHで2箇月間保存し、ヨウ素および配合した全てのビタミンの含有量を測定した。結果を表5に示す。実施例1において、ヨウ素および全てのビタミンの安定性に問題はなかった。
【0035】
【表5】

【0036】
実施例2で製した製剤について、配合した全てのビタミン及び微量元素成分の安定性を確認した結果、全てのビタミン及び微量元素成分の安定性に問題はなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂溶性ビタミンを含有しかつ可溶化剤および安定剤を含有する溶液が、さらにヨウ素イオンを含有しかつ銅不含であることを特徴とするヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液。
【請求項2】
脂溶性ビタミンが、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンEおよびビタミンKから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液。
【請求項3】
可溶化剤がポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである請求項1または2に記載のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液。
【請求項4】
安定剤が糖アルコールである請求項1〜3のいずれか1項に記載のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液。
【請求項5】
連通可能な隔壁によって仕切られた複数の室を有する容器の第1室に請求項1〜4のいずれか1項のヨウ素配合脂溶性ビタミン含有液を充填し、第2室に糖含有溶液を充填し、第3室にアミノ酸含有溶液を充填し、第4室に銅含有溶液を充填してあることを特徴とする輸液入り容器。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−73995(P2011−73995A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225448(P2009−225448)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】