説明

ルテニウム錯体混合物、その製造方法、成膜用組成物、ルテニウム含有膜及びその製造方法

【課題】CVD法を用いて良質なルテニウム薄膜を形成させるためには、低温で薄膜を形成させることが必要であり、熱に対して高い反応性を有するルテニウム化合物が望まれていた。
【解決手段】(2,4−ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム及び(2,4−ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムに対して0.1〜100重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを含有するルテニウム錯体混合物を原料として用い、CVD法等によりルテニウム含有膜を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造等に有用な有機金属化合物の混合物とその製造方法、成膜用組成物、金属含有薄膜及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体メモリー素子の高集積化に伴いメモリーセルの微細化が進んでおり、メモリー素子の電極材料として、ルテニウム、イリジウム、白金などの貴金属が検討されている。メモリー素子のうち、DRAM素子では、酸化物も電気伝導性を有する点、微細化加工性に優れる点からルテニウムが電極材料として有力視されている。高集積化したメモリー素子におけるルテニウム含有薄膜の製造方法としては段差被覆性に優れる点から化学気相蒸着法(Chemical Vapor Deposition 以下、CVD法)が最適である。このCVD法、原子層蒸着法(Atomic Layer Deposition 以下、ALD法)を用いて薄膜を形成させるための原料物質としては、金属化合物の中でも取り扱い性が容易である有機金属化合物が適していると考えられる。現在、ルテニウム薄膜またはルテニウム酸化物薄膜を形成させるための有機金属化合物としては、常温で液体であり取扱い性にすぐれることから、また安定性、蒸気圧の観点から、安定供給が可能な(2,4−ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(以下DERと記載)が優れている(特許文献1)。
【0003】
CVD法を用いて良質なルテニウム薄膜を形成させるためには、低温での薄膜形成が有利であることが一般に知られており、従来品であるDERよりも低温で高い反応性を有するルテニウム化合物が望まれている。非特許文献1はDERよりも低温で高い反応性を有するビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを報告している。しかしながら、この錯体は融点が89℃と高いため、昇華によりガス化して供給する必要があり、昇華によるガス化ではキャリアガスへの飽和速度が遅いだけでなく、固体の表面積変化により原料ガス濃度に変化が生じるため安定な供給ができないという問題がある。この問題に対し、錯体を有機溶媒に溶解して使用する方法が提案されている(特許文献2)。しかし、これを用いたバブリングによる原料供給では、溶媒と錯体の揮発性の差により溶媒のみが揮発し、固体が析出するといった問題があるため、必ずしも安定な原料供給方法とは言えない。さらに、溶媒によって希釈することで原料であるルテニウム錯体の濃度が減少するため、成膜速度の低下を招くため好ましくない。
【0004】
一方、CVD法を用いてルテニウム薄膜を形成させる際の別の問題点として、原料供給開始から基板上で薄膜形成が開始されるまでの遅延時間(インキュベーション時間)が生じることが知られている。インキュベーション時間が長い場合、薄膜の生産効率が低下することや膜厚の制御が困難になるという問題がある。DERは、それ以前に検討された原料と比べてインキュベーション時間が短いことが報告されているが(非特許文献2)、依然としてインキュベーション時間は存在している。DERよりもインキュベーション時間の短いルテニウム化合物が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−342286号公報
【特許文献2】特開平5−132776号公報
【特許文献3】特開2006−36780号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kazuhisa Kawano et al.,Electrochemical and Solid−State Letters,Vol.10, Issue6, P.D60−D62 (2007)
【非特許文献2】Tetsuo Shibutami et al.,Electrochemical and Solid−State Letters,Vol.6, Issue9, P.C117−C119 (2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
CVD法を用いて良質なルテニウム薄膜を形成させるためには、低温で薄膜を形成させることが必要であり、従来品であるDERよりさらに低温での薄膜形成が可能なルテニウム化合物が望まれている。また、DERよりインキュベーション時間の短いルテニウム化合物が望まれている。本発明は、DERよりさらに低温での薄膜形成が可能で、かつDERよりインキュベーション時間の短いルテニウム錯体混合物、その製造方法、成膜用組成物、及びルテニウム含有薄膜とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは先の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、DERとビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムの混合物を原料として用いることにより、従来品であるDERよりもさらに低温でルテニウム含有膜を形成できることを見出した。さらに、上述のルテニウム錯体混合物を用いて作製したルテニウム含有膜は、DERから作製したルテニウム含有膜よりも良好な電気特性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、DER及びDERに対して0.1〜100重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを含有することを特徴とする、ルテニウム錯体混合物である。また本発明は、上述のルテニウム錯体混合物から成ることを特徴とするルテニウム含有膜成膜用組成物である。また本発明は、DER及びDERに対して0.1〜100重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを混合することを特徴とする、上述のルテニウム錯体混合物の製造方法である。さらに本発明は、亜鉛及び溶媒の存在下、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム1モルに対して、エチルシクロペンタジエンを0.5〜1.0モル反応させることを特徴とする、上述のルテニウム錯体混合物の製造方法である。また本発明は、上述のルテニウム錯体混合物を原料として用いることを特徴とするルテニウム含有膜の製造方法である。さらに本発明は、上述の方法により製造されることを特徴するルテニウム含有膜である。以下、本発明について詳細に説明する。
【0010】
本発明に係わるルテニウム錯体混合物は、前述のようにDER及びDERに対して0.1〜100重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを含有するものである。ルテニウム錯体としては、これら2成分のみを含有するものであってもよく、また他のルテニウム錯体を含有するものであってもよい。他のルテニウム錯体としてはDER類縁構造化合物があげられる。DER類縁構造化合物とは、DERおよびビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム以外のビスジエニルルテニウム化合物であり、例えばビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、ビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム等をあげることができる。その量は特に限定されるものではないが、ルテニウム含有膜製造用の原料として用いることを考慮すると、成膜に悪影響を与えない範囲であることが好ましい。具体的には、前述のビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、ビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウム等のルテニウム錯体の場合は、その合計量がDERに対して5重量%以下であることが好ましい。一方、成膜に悪影響を与えないルテニウム錯体の場合は、およそ5重量%程度あるいはそれ以上含有していても差し支えない。成膜に悪影響を与えないルテニウム錯体として(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムがあげられるが、この限りではない。
【0011】
また本発明のルテニウム錯体混合物は、溶媒や安定化剤等を含有していてもよい。
【0012】
前記ルテニウム錯体混合物は均一な溶液状態でもよく、またDER及び/又はビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムが析出し固体として混在してもよい。固体が混在する場合は、使用時に均一な溶液となるように加熱して用いることができる。あるいは適当な溶媒で希釈して均一な溶液にしてもよい。
【0013】
ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムの含有量は、DERに対して0.1〜100重量%である。0.1重量%より低いと、成膜原料として用いた場合、低温での成膜初期段階における核生成量が少なくなり低温で成膜を可能にする効果が得られない。一方、100重量%を超える場合、成膜原料として用いた場合に、均一な溶液とするためには80℃以上に保持しなければならず、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムの熱による分解が顕著となる。ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムの熱による分解を考慮すると、DERに対して0.1〜30重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを含有するものが好ましい。またDERに対して0.1〜15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを含有するものは、室温で均一な溶液となるため、取り扱いの観点から好ましい。DERに対して1〜15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを含有するものは、インキュベーション時間の短縮効果の点からさらに好ましい。
【0014】
本発明のルテニウム錯体混合物は、DERとDERに対して0.1〜100重量%の、好ましくは0.1〜30重量%の、更に好ましくは0.1〜15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを直接混合することで製造することができる(製造方法1)。
【0015】
DERとビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを混合する際の温度は、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムの分解温度が210℃であるため、210℃未満であることが必須である。またビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムの融点は89℃であるため、89℃以上でDERとビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムは任意の割合で混ざり合うが、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムの熱による分解が顕著となるため、80℃以下で混合することが好ましい。
【0016】
また混合時に適当な溶媒を共存させてもよく、それにより加熱しなくとも本発明のルテニウム錯体混合物を均一な溶液として製造することができ、DER及び/又はビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムの熱による分解を抑制することができる。
【0017】
このときの溶媒として例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミルなどのエステル類、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールエーテル類、ジエチルエーテル、ターシャリブチルメチルエーテル、グライム、ジグライム、トリグライム、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ターシャリブチルメチルケトン、イソブチルメチルケトン、エチルブチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、アセトン等のケトン類、ヘキサン、シクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素類を挙げることが出来るが、特に限定するものではない。
【0018】
DERは特許文献1に記載の方法で、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムは特許文献3に記載の方法でそれぞれ製造することができる。
【0019】
また本発明のルテニウム錯体混合物は、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムとエチルシクロペンタジエンを亜鉛及び溶媒の存在下反応させることにより得ることができる(製造方法2)。このときの反応温度は−20〜100℃が好ましい。更に好ましくは−20〜80℃である。
【0020】
ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムとエチルシクロペンタジエンを反応させる際、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム1モルに対して、エチルシクロペンタジエンを0.5〜1.0モル反応させる。エチルシクロペンタジエンが0.5モル未満では、未反応で残るビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムが多くなり、1.0モルを超えて用いると副生成物としてビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムが生成するためである。
【0021】
このとき用いられる亜鉛の量は特に限定されないが、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム1モルに対して1.0モル以上が好ましく、1.5モル以上用いることが更に好ましい。大過剰量用いても経済的に不利になるため1.5〜100モル用いるのが有利である。
【0022】
またこのとき反応溶媒は特に限定されないが、アルコールを一部または全部の溶媒として用いることが好ましい。アルコールのうち、特にメタノールを用いる場合、反応終了後にろ過して過剰の亜鉛を取り除いた後、メタノールと任意に交じり合わない溶媒を用いてビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム及びDERを抽出し、濃縮して得られる油状物又は懸濁液を精製することにより、工業的に有利な工程を得て目的物を得ることができる。この際に用いるメタノールと任意に交わらない溶媒としては、たとえばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等、脂肪族炭化水素を挙げることができる。この中でも特にペンタン、ヘキサンは安価に入手可能であり、工業的に有利であるため好ましい。
【0023】
生成物の回収・精製方法は特に限定されるものではないが、蒸留やカラムクロマトグラフィーを用いることができる。カラムクロマトグラフィーの担体としてはジビニルベンゼン共重合体、スチレンジビニルベンゼン共重合体等のポーラスポリマー、アルミナなどが挙げられるが特に限定されるものではない。これらの充填剤を使用する際、一種類の充填剤のみを使用しても良いし、二種類以上の充填剤を混合して使用してもよい。溶離液としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、キシレン等の炭化水素類が挙げられる。これらの分離溶媒を使用する際、一種類の分離溶媒のみを使用しても良いし、互いに混合する二種類以上の溶媒を混合して使用しても良い。これら溶媒の中で、分離溶媒の極性の面から、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン等の炭化水素が好ましく、製造費用の面からヘキサンが最も好ましい。
【0024】
反応に用いるビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムは、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエンと一般式[1]
RuX・nHO [1]
[式中Xはハロゲンを表し、nは0〜10を示す。]
で表されるハロゲン化ルテニウムを溶媒及び亜鉛存在下で反応させて得ることができる。
【0025】
一般式[1]において、Xはハロゲンを表すが、ハロゲンとしては例えばフッ素、塩素、臭素、またはヨウ素があげられ、好ましくは臭素または塩素である。また一般式[1]においてnは0〜10を示すが、n=0のときは無水物を表し、それ以外のときは水和物を示す。
【0026】
反応に用いる亜鉛の量は特に限定されないが、一般式[1]で表されるハロゲン化ルテニウム1モルに対して1.0モル以上が好ましく、1.5モル以上用いることが更に好ましい。大過剰量用いても経済的に不利になるため1.5〜100モル用いるのが有利である。
【0027】
2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエンと一般式[1]で表されるハロゲン化ルテニウムを反応させる際、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエンを一般式[1]1モルに対して2モルあるいは過剰モル用いて反応させるのが好ましい。大過剰量用いても経済的に不利になるため2〜20モル用いるのが有利である。
【0028】
2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエンと一般式[1]で表されるハロゲン化ルテニウムを反応させる際、反応温度は−20〜100℃で反応させるのが好ましい。更に好ましくは−20〜80℃である。
【0029】
本発明において、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエンと一般式[1]で表されるハロゲン化ルテニウムとを反応させて、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを製造した場合は、得られたビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを単離することなくそのまま1ポットでエチルシクロペンタジエンと反応させることにより、本発明のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムとDERの混合物を製造することができる。
【0030】
本発明における製造方法1での操作、及び製造方法2における反応は、窒素または不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。不活性ガスとしては例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンを挙げることができる。これらのうち安価に入手でき、工業的に有利であるという点から窒素、アルゴンが更に好ましい。
【0031】
本発明のルテニウム錯体混合物を原料として用いて、ルテニウム含有膜を製造することができる。ルテニウム含有膜の製造方法は特に限定されないが、例えば、CVD法、ALD法、スピンコート法、ディップコート法、噴霧法などが挙げられる。本発明のルテニウム錯体混合物を原料として、CVD法又はALD法により基板上にルテニウム含有膜を製造する場合、ルテニウム錯体混合物をガス化して基板上に供給する。
【0032】
CVD,ALD各成膜チャンバーへの原料の供給方法としてバブリング、液体気化供給システム等があげられ、特に限定されるものではない。しかしながら、溶液でのバブリングは、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムとDERとの蒸気圧の違いから、長い期間に渡り使用する場合には原料の組成を一定に保つことが困難であるため、液体気化供給システムによる気化、供給が好ましい。
【0033】
ALD,CVD成膜の際のキャリアガスとしては希ガスまたは窒素が好ましく、経済的な理由から窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴンが好ましい。
【0034】
ALD,CVD成膜の反応ガスとして水素、酸素、笑気ガス、アンモニア、塩化水素、硝酸ガス、蟻酸、酢酸等を挙げることが出来る。分解は熱だけでも可能であるが光やプラズマなどを併用してもよい。
【0035】
本発明により、ルテニウム含有膜としては、例えば、本発明のルテニウム錯体混合物を単独で用いた場合は金属ルテニウム膜やルテニウム酸化物膜などが得られ、また他の金属原料と組み合わせて用いた場合は、ルテニウム含有複合膜が得られる。例えば、ストロンチウム原料と組み合わせて用いればSrRuO膜が得られるが、これに限定されるものではない。ストロンチウム原料としては、例えば、ビス(ジピバロイルメタナト)ストロンチウム、ジエトキシストロンチウム、ビス(1,1,1,5,5,5−ヘキサフルオロ−2,4−ペンタンジオナト)ストロンチウム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また他の金属原料と組み合わせて用いる際、それぞれの原料を別々に供給しても、混合してから供給してもよい。
【発明の効果】
【0036】
本発明によるルテニウム錯体混合物は、ルテニウム含有膜成膜用組成物として用いることができる。また当該混合物を成膜原料として用いることにより、原料の安定供給が可能となり、かつDERを原料として用いた場合よりもさらに低温でルテニウム含有膜を製造することが可能になる。得られたルテニウム含有膜は、DERから製造したルテニウム含有膜よりも良好な電気特性を有する。また、DERを原料として用いた場合よりも短い時間でルテニウム含有膜を製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施例14〜23、28、比較例1、3、4で用いたCVD装置を示す図である。
【図2】実施例24で測定した原子間力顕微鏡像(以下、AFM像)を示す図である。
【図3】実施例25で得られた膜のAFM像を示す図である。
【図4】実施例26で得られた膜のAFM像を示す図である。
【図5】比較例2で得られた膜のAFM像を示す図である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、実施例により詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
アルゴン置換したシュレンク管にDER10.0gを秤量し、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム0.1g(DERに対して1重量%)を加えて27℃で60分間攪拌し、均一な黄色溶液10.1gを得た。ガスクロマトグラフィーにて組成を確認したところ、DERとDERに対して1重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを含有するものであった。
【0040】
(実施例2)
アルゴン置換したシュレンク管にDER10.0gを秤量し、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム0.5g(DERに対して5重量%)を加えて27℃で60分間攪拌し、均一な黄色溶液10.5gを得た。ガスクロマトグラフィーにて組成を確認したところ、DERとDERに対して5重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを含有するものであった。
【0041】
(実施例3)
アルゴン置換したシュレンク管にDER10.0gを秤量し、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム1.5g(DERに対して15重量%)を加えて27℃で60分間攪拌し、均一な黄色溶液11.5gを得た。ガスクロマトグラフィーにて組成を確認したところ、DERとDERに対して15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを含有するものであった。
【0042】
(実施例4)
アルゴン置換したシュレンク管にDER1.0gを秤量し、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム1.0g(DERに対して100重量%)を加えて80℃で60分間攪拌し、均一な黄色溶液2.0gを得た。ガスクロマトグラフィーにて組成を確認したところ、DERとDERに対して100重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを含有するものであった。
【0043】
(実施例5)
アルゴン置換したシュレンク管にDER10.0gを秤量し、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム1.5g(DERに対して15重量%)とビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム0.4g(DERに対して4.0重量%)を加えて27℃で60分間攪拌し、均一な黄色溶液11.9gを得た。ガスクロマトグラフィーにて組成を確認したところ、DERとDERに対して15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して4.0重量%のビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを含有するものであった。
【0044】
(実施例6)
アルゴン置換したシュレンク管にDER10.0gを秤量し、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム1.5g(DERに対して15重量%)と(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム0.4g(DERに対して4.0重量%)を加えて27℃で60分間攪拌し、均一な黄色溶液11.9gを得た。ガスクロマトグラフィーにて組成を確認したところ、DERとDERに対して15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して4.0重量%の(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを含有するものであった。
【0045】
(実施例7)
アルゴン置換したシュレンク管にDER10.0gを秤量し、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム1.5g(DERに対して15重量%)とビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウム0.4g(DERに対して4.0重量%)を加えて27℃で60分間攪拌し、均一な黄色溶液11.9gを得た。ガスクロマトグラフィーにて組成を確認したところ、DERとDERに対して15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して4.0重量%のビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを含有するものであった。
【0046】
(実施例8)
アルゴン置換したシュレンク管にDER10.0gを秤量し、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム1.5g(DERに対して15重量%)とビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム0.2g(DERに対して2.0重量%)と(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム0.2g(DERに対して2.0重量%)を加えて27℃で60分間攪拌し、均一な黄色溶液11.9gを得た。ガスクロマトグラフィーにて組成を確認したところ、DERとDERに対して15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して2.0重量%のビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して2.0重量%の(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを含有するものであった。
【0047】
(実施例9)
アルゴン置換したシュレンク管にDER10.0gを秤量し、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム1.5g(DERに対して15重量%)とビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム0.2g(DERに対して2.0重量%)とビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウム0.2g(DERに対して2.0重量%)を加えて27℃で60分間攪拌し、均一な黄色溶液11.9gを得た。ガスクロマトグラフィーにて組成を確認したところ、DERとDERに対して15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して2.0重量%のビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して2.0重量%のビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを含有するものであった。
【0048】
(実施例10)
アルゴン置換したシュレンク管にDER10.0gを秤量し、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム1.5g(DERに対して15重量%)と(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム0.2g(DERに対して2.0重量%)とビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウム0.2g(DERに対して2.0重量%)を加えて27℃で60分間攪拌し、均一な黄色溶液11.9gを得た。ガスクロマトグラフィーにて組成を確認したところ、DERとDERに対して15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して2.0重量%の(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して2.0重量%のビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを含有するものであった。
【0049】
(実施例11)
アルゴン置換したシュレンク管にDER10.0gを秤量し、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム1.5g(DERに対して15重量%)とビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム0.1g(DERに対して1.0重量%)と(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム0.1g(DERに対して1.0重量%)とビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウム0.1g(DERに対して1.0重量%)を加えて27℃で60分間攪拌し、均一な黄色溶液11.8gを得た。ガスクロマトグラフィーにて組成を確認したところ、DERとDERに対して15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して1.0重量%のビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して1.0重量%の(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して1.0重量%のビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを含有するものであった。
【0050】
(実施例12)
三つ口フラスコに亜鉛1.36gを秤量し、容器をアルゴン置換して、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン4.32gおよびメタノール12mlを加えて懸濁液とした。3塩化ルテニウムn水和物(n=約3)2.52gをメタノール40mlに溶かした溶液を40分かけて氷冷下で懸濁液に滴下した。滴下終了後氷冷下で120分間攪拌した後、60℃に昇温して1時間攪拌した。一旦放冷した後、エチルシクロペンタジエン0.96gを投入しそのまま室温で1時間攪拌、60℃に昇温して30分間攪拌した。反応終了後室温まで冷却し、グラスフィルターを用いて未反応の亜鉛を取り除いた後、ヘキサン30ml×1回、20ml×4回抽出した。抽出溶液を減圧下濃縮し、得られた油状物について減圧蒸留を行い、目的物であるDERとビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムの混合物を2.18g得た。ガスクロマトグラフィーにて組成を確認したところ、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムの含有量はDERに対して14重量%であり、収率は69.5%であった。
【0051】
(実施例13)
三つ口フラスコに亜鉛1.36gを秤量し、容器をアルゴン置換して、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン4.32gおよびメタノール12mlを加えて懸濁液とした。3塩化ルテニウムn水和物(n=約3)2.53gをメタノール40mlに溶かした溶液を40分かけて氷冷下で懸濁液に滴下した。滴下終了後氷冷下で120分間攪拌した後、60℃に昇温して1時間攪拌した。一旦放冷した後、エチルシクロペンタジエン0.52gを投入しそのまま室温で1時間攪拌、60℃に昇温して30分間攪拌した。反応終了後室温まで冷却し、グラスフィルターを用いて未反応の亜鉛を取り除いた後、ヘキサン30ml×1回、20ml×4回抽出した。抽出溶液を減圧下濃縮し、得られた懸濁液について、アルミナを担体、ヘキサンを溶離液としてカラムクロマトグラフィーを行い、目的物であるDERとビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムの混合物を2.98g得た。ガスクロマトグラフィーにて組成を確認したところ、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムの含有量はDERに対して98重量%であり、収率は82.5%であった。
【0052】
(実施例14)
実施例1に記載の方法で作製したルテニウム錯体混合物(DERとDERに対して1重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを含有する)を原料として、図1の装置を用いて、原料温度66℃、キャリアガス(Ar)流量30sccm、原料圧力150Torr、希釈ガス(Ar)流量169sccm、反応ガス(O)流量0.16sccm、基板温度240℃、反応室内圧力10Torrの条件で、CVD法によりSiO/Si基板上に1時間成膜を行った。作製した薄膜を蛍光X線にて確認したところルテニウムに帰属する特性X線が観測された。膜厚を走査型電子顕微鏡(以下、SEM)により確認したところ20nmであった。
【0053】
(実施例15)
実施例2に記載の方法で作製したルテニウム錯体混合物(DERとDERに対して5重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを含有する)を原料として、図1の装置を用いて、実施例14と同様の条件で成膜を行った。作製した薄膜を蛍光X線にて確認したところルテニウムに帰属する特性X線が観測された。膜厚をSEMにより確認したところ25nmであった。
【0054】
(実施例16)
実施例3に記載の方法で作製したルテニウム錯体混合物(DERとDERに対して15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを含有する)を原料として、図1の装置を用いて、実施例14と同様の条件で成膜を行った。作製した薄膜を蛍光X線にて確認したところルテニウムに帰属する特性X線が観測された。膜厚をSEMにより確認したところ30nmであった。
【0055】
(実施例17)
実施例5に記載の方法で作製したルテニウム錯体混合物(DERとDERに対して15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して4.0重量%のビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを含有する)を原料として、図1の装置を用いて、実施例14と同様の条件で成膜を行った。作製した薄膜を蛍光X線にて確認したところルテニウムに帰属する特性X線が観測された。膜厚をSEMにより確認したところ25nmであった。
【0056】
(実施例18)
実施例6に記載の方法で作製したルテニウム錯体混合物(DERとDERに対して15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して4.0重量%の(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを含有する)を原料として、図1の装置を用いて、実施例14と同様の条件で成膜を行った。作製した薄膜を蛍光X線にて確認したところルテニウムに帰属する特性X線が観測された。膜厚をSEMにより確認したところ25nmであった。
【0057】
(実施例19)
実施例7に記載の方法で作製したルテニウム錯体混合物(DERとDERに対して15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して4.0重量%のビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを含有する)を原料として、図1の装置を用いて、実施例14と同様の条件で成膜を行った。作製した薄膜を蛍光X線にて確認したところルテニウムに帰属する特性X線が観測された。膜厚をSEMにより確認したところ25nmであった。
【0058】
(実施例20)
実施例8に記載の方法で作製したルテニウム錯体混合物(DERとDERに対して15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して2.0重量%のビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して2.0重量%の(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを含有する)を原料として、図1の装置を用いて、実施例14と同様の条件で成膜を行った。作製した薄膜を蛍光X線にて確認したところルテニウムに帰属する特性X線が観測された。膜厚をSEMにより確認したところ25nmであった。
【0059】
(実施例21)
実施例9に記載の方法で作製したルテニウム錯体混合物(DERとDERに対して15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して2.0重量%のビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して2.0重量%のビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを含有する)を原料として、図1の装置を用いて、実施例14と同様の条件で成膜を行った。作製した薄膜を蛍光X線にて確認したところルテニウムに帰属する特性X線が観測された。膜厚をSEMにより確認したところ25nmであった。
【0060】
(実施例22)
実施例10に記載の方法で作製したルテニウム錯体混合物(DERとDERに対して15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して2.0重量%の(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して2.0重量%のビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを含有する)を原料として、図1の装置を用いて、実施例14と同様の条件で成膜を行った。作製した薄膜を蛍光X線にて確認したところルテニウムに帰属する特性X線が観測された。膜厚をSEMにより確認したところ25nmであった。
【0061】
(実施例23)
実施例11に記載の方法で作製したルテニウム錯体混合物(DERとDERに対して15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して1.0重量%のビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して1.0重量%の(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して1.0重量%のビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを含有する)を原料として、図1の装置を用いて、実施例14と同様の条件で成膜を行った。作製した薄膜を蛍光X線にて確認したところルテニウムに帰属する特性X線が観測された。膜厚をSEMにより確認したところ27nmであった。
【0062】
(実施例24)
実施例14に記載の方法で作製したルテニウム含有膜の電気特性を四探針法で測定したところ、抵抗率は260μΩ・cmであった。膜の表面平滑性をAFMで評価したところ(図2)、算術平均粗さは6nmであった。
【0063】
(実施例25)
実施例15に記載の方法で作製したルテニウム含有膜の電気特性を四探針法で測定したところ、抵抗率は60μΩ・cmであった。膜の表面平滑性をAFMで評価したところ(図3)、算術平均粗さは4nmであった。
【0064】
(実施例26)
実施例16に記載の方法で作製したルテニウム含有膜の電気特性を四探針法で測定したところ、抵抗率は50μΩ・cmであった。膜の表面平滑性をAFMで評価したところ(図4)、算術平均粗さは3nmであった。
【0065】
(実施例27)
実施例23に記載の方法で作製したルテニウム含有膜の電気特性を四探針法で測定したところ、抵抗率は55μΩ・cmであった。
【0066】
(実施例28)
実施例11に記載の方法で作製したルテニウム錯体混合物(DERとDERに対して15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して1.0重量%のビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して1.0重量%の(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムと、DERに対して1.0重量%のビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウムを含有する)を原料として、図1の装置を用いて、実施例14と同様の条件で0.5時間成膜を行った。作製した薄膜を蛍光X線にて確認したところルテニウムに帰属する特性X線が観測された。膜厚をSEMにより確認したところ5nmであった。実施例23の結果と併せてインキュベーション時間を算出したところ、23分であった。
【0067】
(比較例1)
DERを原料として、図1の装置を用いて、実施例14と同様の条件で成膜を行った。作製した薄膜を蛍光X線にて確認したところルテニウムに帰属する特性X線が観測された。膜厚をSEMにより確認したところ5nmであった。
【0068】
(比較例2)
比較例1に記載の方法で作製したルテニウム含有膜の電気特性を四探針法で測定したところ、絶縁膜であった。表面をAFMで評価したところ(図5)、算術平均粗さは9nmであった。
【0069】
(比較例3)
DERを原料として、図1の装置を用いて、実施例14と同様の条件で、但し基板温度255℃で成膜を行った。作製した薄膜を蛍光X線にて確認したところルテニウムに帰属する特性X線が観測された。膜厚をSEMにより確認したところ20nmであった。作製した膜の抵抗率を四探針法により測定したところ2340μΩ・cmであった。
【0070】
(比較例4)
DERを原料として、図1の装置を用いて、実施例14と同様の条件で2時間成膜を行った。作製した薄膜を蛍光X線にて確認したところルテニウムに帰属する特性X線が観測された。膜厚をSEMにより確認したところ30nmであった。比較例1の結果と併せてインキュベーション時間を算出したところ、48分であった。
【0071】
以上の実施例及び比較例から以下のことが理解できる。即ち、
比較例1と実施例14の比較、比較例1と実施例15の比較、比較例1と実施例16の比較、比較例1と実施例17〜23との比較から、基板温度240℃における成膜速度は、本発明のルテニウム錯体混合物を用いた場合は、DERを用いた場合よりも大きいことがわかる。
【0072】
さらに、実施例17〜23と比較例1との比較から、DER類縁構造化合物[ビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、ビス(1,3−ジメチルシクロペンタジエニル)ルテニウム]をDERに対して合計で5重量%以下含有しても、本発明のルテニウム錯体混合物は、DERに比べて成膜速度がはるかに大きいことがわかる。
【0073】
また、比較例2と実施例24の比較(図5と図2の比較)、比較例2と実施例25の比較(図5と図3の比較)、及び比較例2と実施例26の比較(図5と図4の比較)から、本発明のルテニウム錯体混合物から作製した膜の表面平滑性は、DERから作製した膜の表面平滑性よりも良好であることがわかる。
【0074】
さらに、比較例2と実施例24の比較、比較例2と実施例25の比較、及び比較例2と実施例26の比較から、本発明のルテニウム錯体混合物を用いて製造した膜は、DERから作製した膜よりも膜の算術平均粗さが小さいことがわかる。
【0075】
さらに、比較例3と実施例24の比較、比較例3と実施例25の比較、比較例3と実施例26の比較、及び比較例3と実施例27の比較から、本発明のルテニウム錯体混合物を用いて基板温度240℃で作製した膜の抵抗率は、DERを用いて基板温度255℃で作製した膜の抵抗率よりも低いことがわかる。
【0076】
また、比較例1、4と実施例23、28との比較から、本発明のルテニウム錯体混合物を用いた場合は、DERを用いた場合よりもインキュベーション時間が短いことがわかる。
即ち、本発明のルテニウム錯体混合物を用いれば、より低温でより抵抗率の低い膜を製造することができる。さらに、DERを原料として用いた場合よりも短い時間でルテニウム含有膜を製造することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 原料容器
2 恒温槽
3 反応室
4 基板
5 反応ガス
6 希釈ガス
7 キャリアガス
8 マスフローコントローラー
9 マスフローコントローラー
10 マスフローコントローラー
11 真空ポンプ
12 排気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(2,4−ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム及び(2,4−ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムに対して0.1〜100重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを含有することを特徴とする、ルテニウム錯体混合物。
【請求項2】
(2,4−ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムに対し、0.1〜30重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを含有することを特徴とする、請求項1に記載のルテニウム錯体混合物。
【請求項3】
(2,4−ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムに対し、0.1〜15重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載のルテニウム錯体混合物。
【請求項4】
(2,4−ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムに対し、5重量%以下の(2,4−ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム類縁構造化合物を含有することを特徴とする、請求項1〜3いずれかに記載のルテニウム錯体混合物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の混合物から成ることを特徴とする、ルテニウム含有膜成膜用組成物。
【請求項6】
(2,4−ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム及び(2,4−ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムに対して0.1〜100重量%のビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムを混合することを特徴とする、請求項1〜4いずれかに記載のルテニウム錯体混合物の製造方法。
【請求項7】
亜鉛及び溶媒の存在下、ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム1モルに対して、エチルシクロペンタジエンを0.5〜1.0モル反応させることを特徴とする、請求項1〜4いずれかに記載のルテニウム錯体混合物の製造方法。
【請求項8】
ビス(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウムが、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエンと一般式[1]
RuX・nHO [1]
[式中Xはハロゲンを表し、nは0〜10を示す。]で表されるハロゲン化ルテニウムを溶媒及び亜鉛存在下で反応させることにより得られたものである、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4いずれかに記載のルテニウム錯体混合物を原料として用いることを特徴とするルテニウム含有膜の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法により製造されることを特徴するルテニウム含有膜。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−153124(P2011−153124A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−178697(P2010−178697)
【出願日】平成22年8月9日(2010.8.9)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】