説明

レーザー距離計付き撮影装置

【課題】レーザー距離計を簡単な構造の取り付け器具によりアクセサリーシューを有する撮影機材(デジタルカメラ)に一体的に取り付ける。
【解決手段】被写体Hを撮影レンズ12により撮影した被写体像を結像して被写体像のデジタル画像データを出力する撮像素子13を内蔵した撮影機材(デジタルカメラ)10と、デジタルカメラ10から被写体Hまでの距離を測定するレーザー距離計20と、デジタルカメラ10のアクセサリーシュー16に着脱されるシュー着脱部材32が基板31の一面(下面)31aに突出して設けられ且つレーザー距離計20を載置する載置部30b1が一面(下面)31aとは反対側の他面(上面)31bに形成された取り付け器具30と、を備えたレーザー距離計付き撮影装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー距離計を簡単な構造の取り付け器具によりアクセサリーシューを有する撮影機材に一体的に取り付けることで、撮影機材で撮影した被写体の状態を非接触で測定できるレーザー距離計付き撮影装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、デジタルカメラで撮影した被写体像のデジタル画像データと、レーザー距離計によりデジタルカメラから被写体までの距離を測定した測定距離値とを周知のパソコン(パーソナルコンピュータ)に入力して、デジタルカメラで撮影した被写体の状態を非接触で測定できる非接触型画像測定装置は各種の分野で適用されている。
【0003】
この種の非接触型画像測定装置を適用した一例として、クレーン等の重機が送電線に接近したことを検知するレーザー光利用接近検知システムがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、非接触型画像測定装置を適用した他例として、足場を必要とせず、被測定物と離れた位置からの遠隔計測により被測定物の損傷や劣化の状態を定量的に求める遠隔計測方法及び装置がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−201030号公報
【特許文献2】特開2001−280960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1に開示されたレーザー光利用接近検知システムでは、ここでの図示を省略するものの、クレーン等のブーム(重機)に支持された中心軸を中心にして水平方向に回転する設置盤上に、送電線の相対的な動きに追従するCCDカメラと、このCCDカメラに連動して照射方向を変更するレーザー距離計とが送電線に向かって並設されている。そして、CCDカメラで撮影した被写体像のデジタル画像データ及びレーザー距離計で測定した測定距離値をパソコンに入力して、クレーン等の重機が送電線に接近したことを検知する旨が記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたレーザー光利用接近検知システムでは、設置盤を回転させるための回転駆動機構が必要となりレーザー光利用接近検知システムが高価になると共に、設置盤にレーザー距離計とCCDカメラとを設置盤上に並設するものであるから装置が大型になって携帯性に難が生じている。
【0008】
更に、CCDカメラとレーザー距離計とを設置盤に並設するものであるから、両方が振動による影響を受けやすい。このため被写体像のデジタル画像データをパソコンで解析したときに正確な測定結果が得られないという問題も生じてしまう。
【0009】
また、上記した特許文献2に開示された遠隔計測方法及び装置では、デジタルカメラ上にレーザー距離計が一体となっている。しかしながら、それぞれを個別に使用したり、既存のレーザー距離計とデジタルカメラとを組み合わせて使用したい場合もある。ところが、特許文献2は、レーザー距離計とデジタルカメラとを一体化したものである。
【0010】
また、画像の振動が少ない方が解析が容易であるが、特許文献1,2とも周囲から与えられる振動判断については、何等考慮されてはいない。
【0011】
そこで、上記した各課題を解決するために、レーザー距離計をアクセサリーシューを有する撮影機材に容易に一体的に取り付けることが可能で携帯性に優れ、且つ測定周囲の振動などの影響を画像上で判断できるレーザー距離計付き撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、請求項1に記載の発明は、被写体を撮影レンズにより撮影した被写体像を結像して該被写体像のデジタル画像データを出力する撮像素子を内蔵した撮影機材と、
前記撮影機材から前記被写体までの距離を測定するレーザー距離計と、
前記撮影機材のアクセサリーシューに着脱されるシュー着脱部材が基板の一面に突出して設けられ且つ前記レーザー距離計を載置する載置部が前記一面とは反対側の他面に形成された取り付け器具と、
を備えたことを特徴とするレーザー距離計付き撮影装置である。
【0013】
また、請求項2に記載の発明は、上記した請求項1に記載のレーザー距離計付き撮影装置において、
前記取り付け器具は、前記撮影機材の光軸と前記レーザー距離計の光軸とが平行になるように前記基板の一面に前記撮影機材の機材本体に当接するパッドを取り付けたことを特徴とするレーザー距離計付き撮影装置である。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、上記した請求項1又は請求項2に記載のレーザー距離計付き撮影装置において、
前記撮影機材は、機材本体の後面に液晶モニターを備え、且つ、前記液晶モニター内に測定環境状態下における許容誤差範囲を表す目盛りを印刷した透明な専用スケールを貼り付けたことを特徴とするレーザー距離計付き撮影装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る請求項1に記載のレーザー距離計付き撮影装置によれば、どのようなレーザー距離計であっても、また機材本体にアクセサリーシューを有していればどのような撮影機材であっても取り付け器具により容易に一体的に取り付けることができる。さらに、レーザー距離計及び取り付け器具を撮影機材から取り外しが可能であるから携帯性の良いレーザー距離計付き撮影装置を提供できる。
【0016】
また、請求項2に記載のレーザー距離計付き撮影装置によると、取り付け器具は、撮影機材の光軸とレーザー距離計の光軸とが平行になるように基板の一面に撮影機材の機材本体に当接するパッドを取り付けているので、光軸の位置のずれ以上のずれは発生しないので、被写体の状態を正確に測定することができる。
【0017】
更に、請求項3に記載のレーザー距離計付き撮影装置によると、撮影機材は、機材本体の後面に液晶モニターを備え、且つ、液晶モニター内に測定環境状態下における許容誤差範囲を表す目盛りを印刷した透明な専用スケールを貼り付けているので、この透明な専用スケールにより撮影機材自身が受ける振動などの影響や、撮影機材と測定対象物との間にある大気などの影響による測定環境状態を測定前に確認することで、レーザー距離計付き撮影装置による画像測定方法が適用可能であると簡便且つ即座に判断できるので、この結果を踏まえた上でレーザー距離計付き撮影装置を用いて撮影した被写体の状態を正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a),(b)は本発明に係るレーザー距離計付き撮影装置の全体構成を示した上面図,側面図である。
【図2】図1に示した取り付け器具を拡大して示した斜視図である。
【図3】図1及び図2に示したデジタルカメラのアクセサリーシューと、取り付け器具のシュー着脱部材とを拡大して示した斜視図である。
【図4】デジタルカメラの光軸と、レーザー距離計の光軸との関係を模式的に示した図である。
【図5】本発明に係るレーザー距離計付き撮影装置を三脚に取り付けて被写体の状態を測定する状態を模式的に示した斜視図である。
【図6】(a)はデジタルカメラの焦点距離を示した図であり、(b)はデジタルカメラの振動による像ずれを示した図である。
【図7】(a)〜(c)はデジタルカメラのカメラ本体の後面に設けた液晶モニター内に測定環境状態の許容誤差範囲を表す目盛りを印刷した透明な専用スケールを貼り付けた状態を示した図である。
【図8】(a)〜(e)は図7に示した透明な専用スケールの目盛り幅の具体例をそれぞれ示した図である。
【図9】(a)は図7及び図8に示した透明な専用スケールの目盛り幅が5種類の場合を示した図であり、(b)は図7及び図8に示した透明な専用スケールの目盛り幅が1種類の場合を示した図である。
【図10】(a),(b)は透明な専用スケールを使用したときの状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明に係るレーザー距離計付き撮影装置の一実施例について図1〜図10を参照して詳細に説明する。
【0020】
図1に示した如く、本発明に係るレーザー距離計付き撮影装置1は、被写体Hを撮影レンズ12により撮影した被写体像を結像して被写体像のデジタル画像データを出力する撮像素子13を内蔵した撮影機材(以下、デジタルカメラと記す)10と、デジタルカメラ10から被写体Hまでの距離を測定するレーザー距離計20と、デジタルカメラ10のアクセサリーシュー16に着脱されるシュー着脱部材32が基板31の一面(下面)31aに突出して設けられ且つレーザー距離計20を載置する距離計載置部31b1が基板31の一面(下面)31aとは反対側の他面(上面)31bに形成された取り付け器具30と、を備えて構成されている。
【0021】
従って、レーザー距離計20を簡単な構造の取り付け器具30によりアクセサリーシュー16を有するデジタルカメラ10に一体的に取り付けることができるので、携帯性の良いレーザー距離計付き撮影装置1を提供することができ、このレーザー距離計付き撮影装置1を用いて後述するように被写体Hの状態を非接触で正確に測定することが可能になる。
【0022】
ここで、上記したレーザー距離計付き撮影装置1の各構成部材10,20,30について順を追って具体的に説明する。
【0023】
まず、前記したデジタルカメラ(撮影機材)10は、カメラ本体(機材本体)11の上部にアクセサリーシュー16を備え、且つ、撮影した被写体Hのデジタル画像データをデータ解析用のパソコンPC(図5)に提供できるものであれば、図1に示した構造形態のデジタルカメラに限らず、一眼レフタイプのデジタルカメラや、デジタルビデオカメラなど市販されている適宜な機種が適用可能である。
【0024】
このデジタルカメラ10は、カメラ本体11内の前方部位に撮影レンズ12が内蔵されており、この撮影レンズ12は複数のレンズ群と不図示のズーム機構及びフォーカス機構によりズーム調整及びフォーカス調整可能になっている。
【0025】
また、カメラ本体11内の後方部位にCCDを用いた撮像素子(画像センサ)13が撮影レンズ12と光軸K1を一致させて内蔵されている。そして、撮影レンズ12で撮影した被写体像を撮像素子13に結像して、この撮像素子13で光電変換した被写体像のデジタル画像データをカメラ本体11の後面側に設けた液晶モニター14に表示すると共に、カメラ本体11に対して着脱自在なメモリMに格納するようになっている。
【0026】
また、カメラ本体11の上方部位にビューファインダー15が撮影者に向かって設けられていると共に、ビューファインダー15の上部外側にアクセサリーシュー16が上方に突出して設けられている。
【0027】
この際、アクセサリーシュー16は、通常、ストロボ装置や照明器具などを取り付けるためにカメラ本体11に一体的に設けられているが、この実施例では、取り付け金具30の基板31の一面31aに突出して設けたシュー着脱部材32がアクセサリーシュー16に対して着脱可能になっている。
【0028】
次に、前記したレーザー距離計20は、距離計本体21内に、所定の周波数に変調されたパルス状のレーザービームLをデジタルカメラ10の光軸K1と平行な光軸K2に沿いながら被写体Hに向けて射出するレーザー光源部22と、このレーザー光源部22からのレーザービームLが被写体Hで反射された反射光を受光する受光部23と、レーザー光源部22からのレーザービームLと受光部23で受光した反射光との時間差を計測してこの時間差に基いてデジタルカメラ10から被写体Hまでの測定距離値D(図5)を算出し、算出した測定距離値Dを液晶表示パネル26に表示すると共に、測定距離値Dをブルートゥース機能により無線でパソコンPC(図5)側に出力する測定距離値出力部24と、三脚取付け用ネジ孔25とを備えている。
【0029】
この際、実施例では、レーザー距離計20として、例えば、市販されているライカディストD8(登録商標)を適用しており、このライカディストD8(登録商標)によると、測定精度が±1.0mmであり、且つ、測定範囲が0.05〜200mであるが、被測定物に対して反射板を用いない場合には測定範囲が最大100mとなる。そして、レーザー距離計20で測定した測定距離値D(図5)を無線でパソコンPC(図5)に送信可能に構成されている。
【0030】
次に、図2に拡大して示した如く、前記した取り付け器具30は、この実施例の要部の一部となるものであり、軽量なアルミ材などを用いて基板31が略平板状に形成されている。そして、この基板31の一面31aの長手方向の中間部位にデジタルカメラ10のアクセサリーシュー16に着脱自在に嵌合するシュー着脱部材32が一体的に固着されていると共に、基板31の一面31aとは反対側の他面31bが平坦に形成され、この他面31bがレーザー距離計20を載置するための距離計載置部31b1となっている。
【0031】
上記したシュー着脱部材32は、正方形状の台座部32aと、この台座部32aに連接して積層されたシュー嵌合部32bとが軽量なアルミ材などを用いて耐摩耗性処理を施した状態で一体的に形成されている。
【0032】
この際、シュー着脱部材32の台座部32aは4隅をネジ33により基板31の一面31aに固定されていると共に、シュー嵌合部32bは台座部32aよりも外形が小型でアクセサリーシュー16に着脱自在に嵌合できるサイズに形成されており、シュー嵌合部32bのうちで被写体H側とは反対側の後端部位を先頭にして、矢印で示したように、アクセサリーシュー16のうちで被写体H側から着脱するようになっている。
【0033】
また、シュー着脱部材32は、図3に拡大して示した如く、台座部32aの中央部位からシュー嵌合部32b側に向かって略長方形状の有底孔32a1が形成されており、且つ、有底孔32a1の長手方向が被写体H側を向いていると共に、有底孔32a1内に略コ状で左右を半円弧状に突出させた板バネ34が嵌め込まれている。
【0034】
一方、図3に拡大して示した如く、アクセサリーシュー16は、板金材を用いてクロムメッキが施されており、底板16aの図示左右から上方に向かって左右一対のコ字状片16b,16cが互いに間隔を隔てて対向して略コ字状に曲げ加工されることで、左右一対のコ字状片16b,16c間にシュー着脱部材32のシュー嵌合部32bが着脱可能になっていると共に、底板16aのうちで被写体Hとは反対側の後端部位にストッパ片16dが僅かな高さで突出形成されていることで、このストッパ片16dでシュー着脱部材32の後端部位に対して挿入方向の先端位置が規制されている。
【0035】
ここで、アクセサリーシュー16のうちで互いに間隔を隔てて対向した左右一対のコ字状片16b,16c間にシュー着脱部材32のシュー嵌合部32bを嵌め込んだときに、板バネ34の基部34aの左右に半円弧状に突出させた左右一対の押圧片34b,34cでアクセサリーシュー16の左右一対のコ字状片16b,16cの内側面をシュー着脱部材32の着脱方向と直交する方向に押圧することで、シュー着脱部材32をアクセサリーシュー16内に装着したときにしっかりと挟持できる。
【0036】
図1及び図2に戻り、取り付け器具30は、この基板31の一面31aで被写体H側の前方部位に弾性変位可能なパッド35が接着剤などを用いて固着され、このパッド35はシュー着脱部材32の高さよりも高く形成されている。そして、パッド35がデジタルカメラ10のカメラ本体11の上部に設けたビューファインダー15の上部外側に当接することで、取り付け器具30の基板31がデジタルカメラ10の光軸K1と平行な状態を保って安定に支持されると共にデジタルカメラ10が傷つかないようにしている。また、不図示のレーザー発射ボタンがレーザー距離計20の上面にある場合にレーザー発射ボタンを押してもバッド35の反発力によってレーザービームLの平行光を維持できる。
【0037】
これにより、図4に示したように、デジタルカメラ10の光軸K1と、レーザー距離計20の光軸K2とが平行となり、光軸の位置のずれ以上のずれは発生しないので、被写体Hの状態を正確に測定することができる。
【0038】
この際、デジタルカメラ10の光軸K1に対してレーザー距離計20の光軸K2を点線で示した方向にずれを与えると、近い対象物(被写体)を測定する場合は何等の支障がないものの、遠方を測定した場合に大きなずれが発生する危険性がある。
【0039】
再び、図1及び図2に戻り、取り付け器具30は、この基板31の一面31aで被写体H側とは反対側の後方近傍に丸孔31a1(図2のみ図示)が貫通して穿設されており、且つ、基板31の一面31a側からサムスクリュー36のネジ部36a(図2のみ図示)が丸孔31a1を通ってレーザー距離計20の距離計本体21に設けた三脚取付け用ネジ孔25(図1のみ図示)に螺合することで、このサムスクリュー36によりレーザー距離計20が取り付け器具30の基板31の他面31bに形成した距離計載置部31b1上に固定されている。
【0040】
この際、サムスクリュー36の把持部36bの直径は、基板31の横幅の寸法よりも大径に形成されているので、ユーザーは基板31よりも外側に突出した把持部36bの部分を把持しやすくなっていると共に、把持部36bはシュー着脱部材32の高さよりも低く形成されているので、サムスクリュー36をつけたままで基板31の一面30aに設けたシュー着脱部材32がデジタルカメラ10のアクセサリーシュー16に着脱可能になっている。
【0041】
従って、レーザー距離計20が三脚取付け用ネジ孔25を有していれば、レーザー距離計20を取付け器具30を介してアクセサリーシュー16を有するデジタルカメラ10に容易に取付けができると共に、携帯時にはレーザー距離計20及び取付け器具30をデジタルカメラ10から取り外しが可能である。
【0042】
尚、図1及び図2において、取り付け器具30の基板31の外形は、長方形状に簡略して図示しているが、基板31の距離計載置部31b1に載置されるレーザー距離計20がサムスクリュー36による締結時に回転しないように基板31の後端部にL字状の回り止め部(図示せず)を形成してレーザー距離計20の後端部を位置規制すれば良い。
【0043】
そして、図5に示したように、上記のように構成した携帯可能なレーザー距離計付き撮影装置1を周知の三脚Tに取り付けて、デジタルカメラ10とレーザー距離計20とを被写体Hに向け、更に、三脚Tの足元に携帯用のパソコンPCを設置した際に、デジタルカメラ10で撮影した被写体像のデジタル画像データを着脱自在なメモリMに記憶させ、このメモリMをデジタルカメラ10から取り出してパソコンPCに装着すると共に、レーザー距離計20で測定したデジタルカメラ10から被写体Hまでの測定距離値Dを無線によりパソコンPCに入力し、この後、パソコンPC内でデジタル画像データと測定距離値Dとに基づいて被写体Hの状態を測定している。
【0044】
この実施例では、レーザー距離計付き撮影装置1を用いて被写体Hの状態を測定する場合の一例として、被写体Hとなる橋梁上を鉄道車両や自動車などが移動したときに発生する橋梁の撓み量を周知の最小二乗マッチングなどを用いて測定しているが、これに限ることなく、被写体Hの損傷や劣化の状態を定量的に求めることも可能であるが、被写体Hの状態を測定する測定方法についての詳述を省略する。
【0045】
この際、実施例では、被写体Hとなる橋梁に反射板が設けられていないので、レーザー距離計20から射出されたレーザービームLは被写体Hとなる橋梁でそのまま反射されて、反射光がレーザー距離計20に戻る形態となっている。
【0046】
ところで、鉄道車両や自動車などの移動により動的に変動する測定対象物(例えば、橋梁)の変位量(例えば、撓み量)をレーザー距離計付き撮影装置1により測定するためには、デジタルカメラ自身が受ける振動などの影響や、デジタルカメラ10と測定対象物(例えば、橋梁)との間にある大気などの影響による測定環境状態を配慮する必要がある。
【0047】
即ち、図6(a)に示した如く、デジタルカメラ10のカメラ本体11に内蔵した撮影レンズ12と撮像素子13とによる焦点距離をf(mm)としたときに、図6(b)に示した如く、デジタルカメラ10に振動が加わると、この振動により撮像素子13に結像した被写体像のずれが発生する。
【0048】
このために、レーザー距離計付き撮影装置1による画像測定方法が適用可能かどうかの判定を現地で行う仕組みとして、測定前に静止した測定対象物(例えば、橋梁)をモニタリングすることで測定環境状態下における測定誤差を推定し、デジタルカメラ自身が受ける振動などの影響や大気などの影響による測定環境状態下における推定測定誤差が許容範囲内であることを確かめる必要がある。
【0049】
そこで、図7(a)〜(c)に示した如く、デジタルカメラ自身が受ける振動などの影響や大気などの影響による推定測定誤差が許容範囲内であることを測定前に確認するために、デジタルカメラ10のカメラ本体11の後面に設けた液晶モニター14内に測定環境状態下における許容誤差範囲を表す目盛りを透明フイルム上に印刷した透明な専用スケール17を貼り付けることにより、この透明な専用スケール17を用いて測定しようとする測定環境が許容誤差範囲内となる状況であるか否かを簡便且つ即座に判断でき、且つ、定量的に誤差の量を推定できるように対策が施されている。
【0050】
ここで、デジタルカメラ自身が受ける振動などの影響や、大気などの影響による許容される許容誤差範囲は、撮影機材(デジタルカメラ)ごとに定められたパラメータKによって規定されるので、このパラメータKが適用される場合の許容誤差範囲を表す目盛りを専用スケール17に表示している。
【0051】
具体的に説明すると、測定推定誤差の標準偏差(3σ)は、下記の式1で表される。
【0052】
[数1]
測定推定誤差の標準偏差(3σ)=D×0.018×K+(D/f)×S×P…式1
但し、
D:レーザー距離計20で測定したデジタルカメラ10から被写体Hまでの測定距離値(m)、
f:デジタルカメラ10の焦点距離(mm)、
S:撮像素子(画像センサ)13の素子サイズ(μm/画素)、
P:ピクスル係数(通常0.1、コンパクトカメラの動画撮影モードの場合は0.2)、
K:撮影機材安全係数(1.0:大型三脚、1.5:中型三脚、2.0:小型三脚、……)。
【0053】
上記した式1中で、測定距離値Dに起因する環境要因となる誤差を表すのが第1項のD×0.018×Kであり、一方、第2項の(D/f)×S×Pは測定距離値D及び焦点距離fに起因する空間分解能を表しており、第2項よりも第1項の影響が卓越して大きいので、透明な専用スケール17は第1項の影響を判断するために用いられている。
【0054】
さて、デジタルカメラ10の撮像素子13の画素数d分の揺れが及ぼす測定対象物上での誤差の大きさδは、下記の式2で与えられる。
【0055】
[数2]
δ=(D/f)×S×d…式2
よって、D×0.018×Kの誤差に相当する画素数dは下記の式3及び式4から算出できる。
【0056】
[数3]
D×0.018×K=(D/f)×S×d…式3
[数4]
d=0.018×K×f/S…式4。
【0057】
この際、撮影機材安全率係数K及び素子サイズSはデジタルカメラごとに固定した値であり、撮影レンズ12の焦点距離fを最大にすることにしておけば、焦点距離fの概算値も決定される。つまり撮影時の設定を決めておけば、測定誤差に相当する画素数dは測定距離値(撮影距離)Dに関わらず一定の値となる。
【0058】
ところで、撮像素子13の解像度と液晶モニター14の解像度は一致しない。実際、液晶モニター14の素子数は撮像素子13の素子数と比べずっと少ない。そのため、被写体Hの細部を表示するための拡大機能を有している。その方法は大きく分けて2種類あり、多くの一眼レフカメラで採用されているモニターの表示倍率を変える方法、多くのコンパクトカメラで採用されているデジタルズームを用いる方法である。
【0059】
例えば、撮像素子13の画像画素数がW×Hであり、一方、液晶モニター14のドット数がw×hであったとすると、測定対象とする橋梁の撓み量が縦方向の変位なのでH/h以上の倍率で表示できれば良い。最大表示倍率をmとすると、m×h/Hが1画素あたりの表示ドット数である。さらに、液晶モニター14の1ドットの縦方向の幅(mm)をsとすると、下記の式5により許容誤差範囲に相当する液晶モニター14上での変動幅δ(mm)を算出できる。
【0060】
[数5]
δ=0.018×K×(f/S)×m×(h/H)×s…式5。
【0061】
許容される振動幅は±3σであることから、実際の専用スケール17の目盛り幅は下記の式6により2δで作成しておけば良い。
【0062】
[数6]
目盛り幅:2δ=2×0.018×K×(f/S)×m×(h/H)×s…式6。
【0063】
但し、
K:撮影機材安全係数(1.0〜3.0)、f:デジタルカメラ10の焦点距離(mm)、
S:撮像素子(画像センサ)13の素子サイズ(μm/画素)、m:最大表示倍率、
h:液晶モニター14の縦ドット数、H:撮像素子13の画像縦画素数、
s:液晶モニター14のドットサイズ(mm/ドット)。
【0064】
ここで、液晶モニター14に貼り付けた透明な専用スケール17の目盛り幅2δを、上記した式6を用いて算出したいくつかの具体例について、図8(a)〜(e)を用いて説明する。
【0065】
まず、デジタルカメラ10として、EXILIM EX-FC100(薄型コンパクトカメラ:簡易測定用)を適用した場合には、K=3,f=32.1mm,S=1.8μm,m=16,h=240,H=2592,s=0.17mmであるので、2δ=0.485mmとなり、よって、専用スケール17の目盛り幅を図8(a)に示したように0.5mmで対応させている。
【0066】
また、デジタルカメラ10として、EOS 50D(一眼レフカメラ:ハイグレード)に300mm望遠レンズを適用した場合には、K=1,f=300mm,S=4.7μm,m=10,h=480,H=3168,s=0.0875mmであるので、2δ=0.601mmとなり、よって、専用スケール17の目盛り幅を図8(b)に示したように0.6mmで対応させている。
【0067】
また、デジタルカメラ10として、EXILIM EX-F1(高機能型コンパクトカメラ:スタンダード)を適用した場合には、K=2,f=87.6mm,S=2.6μm,m=15,h=240,H=2112,s=0.158mmであるので、2δ=0.67mmとなり、よって、専用スケール17の目盛り幅を図8(c)に示したように0.7mmで対応させている。
【0068】
以下、デジタルカメラ10の機種が異なれば、専用スケール17の目盛り幅は、図8(d)に示したように0.8mmとか、図8(e)に示したように0.9mmになる。
【0069】
この際、図8(a)〜(e)に示した透明な専用スケール17の目盛りは、液晶モニター14の縦方向(垂直方向)に沿ってそれぞれ同じ幅で複数本印刷されており、これら複数本の目盛り幅内に測定対象物が写り込むことができるようになっている。
【0070】
上記のようにして専用スケール17の目盛り幅を算出した場合に、図9(a)に示した如く、0.5mm,0.6mm,0.7mm,0.8mm,0.9mmからなる5種類の目盛り幅を透明な専用スケール17内の横方向に沿って並列させて、各種のカメラ機種に対して共通に印刷された透明な専用スケール17を液晶モニター14内に貼り付けたときに、撮影者は使用した機種と対応する目盛り幅を用いて測定環境状態下における推定測定誤差が許容誤差範囲内に入っているか否かを判断したり、あるいは、撮影者が測定環境状態を感覚的に捉えた結果に基づいて他の目盛り幅を用いることも可能である。
【0071】
一方、図9(b)に示した如く、目盛り幅が例えば0.5mmだけ1種類印刷された透明な専用スケール17を液晶モニター14内に貼り付けたときには、1機種のデジタルカメラ10に対応させて使用することができる。
【0072】
そして、液晶モニター14内に貼り付けた透明な専用スケール17を使用する場合に、図10(a)に示した如く、デジタルカメラ10内で光学ズームとデジタルズーム(電子ズーム)とを合わせて最大表示倍率mにする。
【0073】
更に、図10(b)に示した如く、液晶モニター14の窓枠W内に撮影者が指定した目盛り幅の専用スケール17が入り、且つ、この窓枠W内に測定対象物が写り込むようにデジタルカメラ10の撮影向きを設定したときに、デジタルカメラ自身が受ける振動などの影響や大気などの影響による測定環境状態が指定した目盛り幅(図10中では0.6mm)内にあれば、レーザー距離計付き撮影装置1による画像測定方法が適用可能であると簡便且つ即座に判断できるので、この結果を踏まえた上でレーザー距離計付き撮影装置1を用いて撮影した被写体の状態を正確に測定することができる。
【0074】
なお、上記実施の形態では、レーザービームLとデジタルカメラ10とは平行として説明したが、多少の角度を有していてもよい。
【符号の説明】
【0075】
1…レーザー距離計付き撮影装置、
10…撮影機材(デジタルカメラ)、
11…機材本体(カメラ本体)、12…撮影レンズ、13…撮像素子(画像センサ)、
14…液晶モニター、15…ビューファインダー、
16…アクセサリーシュー、
16a…底板、16b,16c…左右一対のコ字状片、16d…ストッパ片、
17…透明な専用スケール、
20…レーザー距離計、
21…距離計本体、22…レーザー光源部、23…受光部、24…測定距離値出力部、
25…三脚取付け用ネジ孔、26…液晶表示パネル、
30…取り付け器具、
31…基板、31a…一面(下面)、31a1…丸孔、
31b…他面(上面)、31b1…距離計載置部、
32…シュー着脱部材、
32a…台座部、32a1…有底孔、32b…シュー嵌合部、
33…ネジ、34…板バネ、34a…基部、34b,34c…左右一対の押圧片、
35…パッド、36…サムスクリュー、36a…ネジ部、36b…把持部、
D…測定距離値、H…被写体、
K1…デジタルカメラの光軸、K2…レーザー距離計の光軸、
L…レーザービーム、M…メモリ、PC…パソコン、T…三脚。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体を撮影レンズにより撮影した被写体像を結像して該被写体像のデジタル画像データを出力する撮像素子を内蔵した撮影機材と、
前記撮影機材から前記被写体までの距離を測定するレーザー距離計と、
前記撮影機材のアクセサリーシューに着脱されるシュー着脱部材が基板の一面に突出して設けられ且つ前記レーザー距離計を載置する載置部が前記一面とは反対側の他面に形成された取り付け器具と、
を備えたことを特徴とするレーザー距離計付き撮影装置。
【請求項2】
前記取り付け器具は、前記撮影機材の光軸と前記レーザー距離計の光軸とが平行になるように前記基板の一面に前記撮影機材の機材本体に当接するパッドを取り付けたことを特徴とする請求項1に記載のレーザー距離計付き撮影装置。
【請求項3】
前記撮影機材は、機材本体の後面に液晶モニターを備え、且つ、前記液晶モニター内に測定環境状態下における許容誤差範囲を表す目盛りを印刷した透明な専用スケールを貼り付けたことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のレーザー距離計付き撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−242479(P2011−242479A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112567(P2010−112567)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(591074161)アジア航測株式会社 (48)
【出願人】(510134237)株式会社ズームスケープ (2)
【Fターム(参考)】