説明

位相比較回路およびそれを用いたPLL周波数シンセサイザ

【課題】高速に周波数切り換えが可能であり、且つ小型でスプリアスを低減することが可能な位相比較回路を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る位相比較回路は、制御回路からの制御信号に基づいて、クロックを分数分周した分数分周信号を生成する分数分周器と、分数分周信号を整数分周した第1の整数分周信号を生成する第1の整数分周器と、基準クロックを整数分周した第2の整数分周信号を生成する第2の整数分周器と、切換信号に基づいて、分数分周信号と第1の整数分周信号とのいずれか一方を選択的に出力する第1の選択回路と、制御回路からの切換信号に基づいて、基準クロックと第2の整数分周信号とのいずれか一方を選択的に出力する第2の選択回路と、第1の選択回路からの出力信号と第2の選択回路からの出力信号との周波数差および位相差を表す比較信号を生成する位相比較器とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相比較回路、および、この位相比較回路を用いたPLL周波数シンセサイザに関するものである。
【背景技術】
【0002】
移動体通信に用いられるPLL周波数シンセサイザが知られている(例えば、特許文献1および2)。携帯電話では、通信方式としてGSMなどのTDMA方式が採用されている。TDMA方式では、複数のデータがガードバンドを介して時系列に配列されており、各データには異なる周波数が割り振られる。したがって、携帯電話基地局に用いられるPLL周波数シンセサイザは、ガードバンド中に、高速に周波数を切り換えられなければならない。
【0003】
高速に周波数を切り換える手法としては、以下の2つの手法が知られている。第1の手法では、複数の整数分周型PLL周波数シンセサイザとスイッチ回路とを備え、スイッチ回路によって周波数を切り換える。第1の手法によれば、周波数切り換え時間はスイッチ回路の切り換え時間に依存し、高速な周波数切り換えが可能である。第2の手法では、分数分周型PLL周波数シンセサイザを備え、整数分周1/Nより高速な分数分周F/Mによって高速な周波数切り換えが可能である。例えば、分数分周型PLL周波数シンセサイザの方式としてはΣΔ変調方式が知られている。
【特許文献1】米国特許第5920233号明細書
【特許文献2】国際公開第02/076009号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、第1の手法では、複数の整数分周型PLL周波数シンセサイザが必要であるので、回路規模が大きくなってしまう。また、第2の手法では、周波数引き込み後も分周動作が行われるので、フラクショナルスプリアスが発生してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、高速に周波数切り換えが可能であり、且つ小型でスプリアスを低減することが可能な位相比較回路およびPLL周波数シンセサイザを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の位相比較回路は、(1)分数分周動作を制御するための第1の制御信号と分数分周動作と整数分周動作とを切り換えるための切換信号とを生成する制御回路と、(2)制御回路から出力された第1の制御信号に基づいて、クロックを分数分周した分数分周信号を生成する分数分周器と、(3)分数分周器から出力された分数分周信号を整数分周した第1の整数分周信号を生成する第1の整数分周器と、(4)基準クロックを整数分周した第2の整数分周信号を生成する第2の整数分周器と、(5)制御回路から出力された切換信号に基づいて、分数分周器から出力された分数分周信号と第1の整数分周器から出力された第1の整数分周信号とのいずれか一方を選択的に出力する第1の選択回路と、(6)制御回路から出力された切換信号に基づいて、基準クロックと第2の整数分周器から出力された第2の整数分周信号とのいずれか一方を選択的に出力する第2の選択回路と、(7)第1の選択回路からの出力信号と第2の選択回路からの出力信号との周波数差および位相差を表す比較信号を生成する位相比較器と、を備えている。
【0007】
この位相比較回路によれば、分数分周器、制御回路、および位相比較器によって分数分周型の位相比較回路が構成され、分数分周器、第1の整数分周器、第2の整数分周器、および位相比較器によって整数分周型の位相比較回路が構成される。制御回路は、第1の選択回路および第2の選択回路によって分数分周動作と整数分周動作とを切り換えることができるので、この位相比較回路によれば、分数分周動作によって高速な周波数引き込みを可能とし、周波数引き込み後には、フラクショナルスプリアスを発生することがない整数分周動作に切り換えることができる。
【0008】
また、この位相比較回路によれば、分数分周型の位相比較回路に加えて、第1および第2の整数分周器と第1および第2の選択回路とを備える小型な回路で、上記した大きな利点を得ることができる。
【0009】
分数分周のための設定値における分母定数は奇数であることが好ましく、制御回路は、第1の選択回路からの出力信号と第2の選択回路からの出力信号との周波数差および位相差がゼロのときに、分数分周動作から整数分周動作へ切り換えることが好ましい。
【0010】
分数分周のための設定値D/Fにおける分母定数Fが奇数であると、分数分周動作において、位相比較器の二つの入力信号の周波数差および位相差がゼロの状態が存在する。この構成によれば、制御回路によって、位相比較器の二つの入力信号の周波数差および位相差がゼロの状態のときに分数分周動作から整数分周動作へ切り換えることができる。したがって、整数分周動作へ切り換えた直後の周波数誤差および位相誤差に対する再引き込みを行う必要がなく、周波数および位相の引き込み時間の遅延を低減することができる。
【0011】
本発明のPLL周波数シンセサイザは、(1)分数分周動作と整数分周動作とを切り替え可能であり、クロックを分周した分周信号と基準クロックとの周波数差および位相差を表す比較信号を生成する、請求項1または2に記載の位相比較回路と、(2)位相比較回路から出力された比較信号を平滑化した第2の制御信号を生成する平滑化回路と、(3)第2の制御信号の電圧レベルに基づいて、生成するクロックの周波数を変更する周波数可変型発振器と、を備えている。
【0012】
このPLL周波数シンセサイザによれば、上記の位相比較回路を用いているので、分数分周動作によって高速に周波数を変更することが可能であり、周波数変更後には、フラクショナルスプリアスを発生することがない整数分周動作に切り換えることができる。また、小型な回路で、上記した大きな利点を得ることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高速に周波数切り換えが可能であり、且つ小型でスプリアスを低減することが可能な位相比較回路およびPLL周波数シンセサイザが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係るPLL周波数シンセサイザを示す回路ブロック図である。図1に示すPLL周波数シンセサイザ1は、温度補償型水晶発振器(Temperature Compensated Xtal(Crystal) Oscillator:以下TCXOという)10、電圧制御発振器(VoltageControlled Oscillator:以下VCOという)20、位相比較部(位相比較回路)30、ローパスフィルタ(以下LPFという)40を備えている。
【0016】
TCXO10は、水晶振動子、発振器、および容量素子を含む水晶発振回路と温度補償回路とを有している。TCXO10は、温度変動に依存することなく、ほぼ一定な周波数を有する基準クロックを生成する。TCXO10の出力端子は、位相比較部30の第1の入力端子に接続されている。
【0017】
VCO20は電圧制御型の発振器である。VCO20は、制御端子に入力される第2の制御信号の電圧レベルに応じた周波数を有するVCOクロックを生成する。VCO20の出力端子は、位相比較部30の第2の入力端子に接続されている。
【0018】
位相比較部30は、TCXO10から出力された基準クロックとVCO20から出力されたVCOクロックを分周した分周信号との周波数差および位相差を表す比較信号を生成する。例えば、位相比較部30は、基準クロックとVCOクロックを分周した分周信号との周波数差および位相差に応じたパルス幅を有する比較信号を生成する。位相比較部30の詳細は後述する。位相比較部30の出力端子は、LPF40の入力端子に接続されている。
【0019】
LPF40は、位相比較部30から出力された比較信号のレベルを平滑化した電圧レベルを有する第2の制御信号を生成する。LPF40の出力端子は、VCOの制御端子に接続されている。
【0020】
このように、VCO20、位相比較部30、およびLPF40から構成された帰還ループによって、VCO20から出力されたVCOクロックの周波数は、TCXOから出力される基準クロックの周波数に比例して変更される。
【0021】
次に、本発明の実施形態に係る位相比較部(位相比較回路)30について詳細に説明する。位相比較部30は、分数分周器31、制御部(制御回路)32、第1の整数分周器33、第2の整数分周器34、第1のスイッチ35、第2のスイッチ36、位相比較器37、およびチャージポンプ回路38を備えている。
【0022】
分数分周器31の入力端子はVCO20の出力端子に接続されており、分数分周器31の制御端子は制御部32に接続されている。分数分周器31は、制御部32から出力された第1の制御信号Sfcに基づいて、VCO20から出力されたVCOクロックを分数分周した分数分周信号Svnを生成する。例えば、分数分周器31は、第1の制御信号Sfcの電圧レベルがLOWレベルである場合にVCOクロックをN分周した分数分周信号Svnを生成し、第1の制御信号Sfcの電圧レベルがHIGHレベルである場合にVCOクロックを(N+1)分周した分数分周信号Svnを生成する。分数分周器31の出力端子は、制御部32の第1の入力端子、第1の整数分周器33の入力端子、および第1のスイッチ35の第1の入力端子に接続されている。
【0023】
制御部32の第2の入力端子は、TCXO10の出力端子に接続されている。制御部32は、分数分周器31から出力された分数分周信号SvnおよびTCXO10から出力された基準クロックCref、並びに外部から入力される分数分周D/Fのための分子定数Dと分母定数Fとに基づいて、第1の制御信号Sfcを第1の出力端子に発生する。制御部32の第1の出力端子は分数分周器31の制御端子に接続されている。
【0024】
制御部32は、基準クロックCrefの周波数をFrefとすると、VCOクロックの周波数Fvcoを下記(1)式のように制御する。
【数1】


ここで、分母定数Fは奇数であることが好ましい。また、例えば、FrefはF×チャンネル間周波数差であり、チャンネル間周波数差が200kHzであるときFの値は65程度が好ましい。また、NはFvco/Fref=800MHz/(65×200kHz)と設定すればよい。これにより、Dを0から1ずつ上昇すれば、Fvcoが800MHzから200kHzずつ上昇する。
【0025】
また、制御部32は、分数分周信号Svnおよび基準クロックCref、並びに分子定数Dと分母定数Fとに基づいて、スタート信号Sstartおよび切換信号Sswを、それぞれ第2の出力端子および第3の出力端子に発生する。制御部32の第2の出力端子は第1の整数分周器33の制御端子および第2の整数分周器34の制御端子に接続されており、制御部32の第3の出力端子は第1のスイッチ35の制御端子および第2のスイッチ36の制御端子に接続されている。制御部32の詳細は後述する。
【0026】
第1の整数分周器33は、制御部32から出力されたスタート信号Sstartに基づいて、分数分周器31から出力された分数分周信号Svnを整数分周した第1の整数分周信号を生成する。例えば、第1の整数分周器33は、スタート信号Sstartの電圧レベルがLOWレベルである場合に整数分周動作を停止し、スタート信号Sstartの電圧レベルがHIGHレベルである場合には分数分周信号SvnをF分周した第1の整数分周信号を生成する。第1の整数分周器33の出力端子は、第1のスイッチ35の第2の入力端子に接続されている。
【0027】
第2の整数分周器34は、制御部32から出力されたスタート信号Sstartに基づいて、TCXO10から出力された基準クロックCrefを整数分周した第2の整数分周信号を生成する。例えば、第2の整数分周器34は、スタート信号Sstartの電圧レベルがLOWレベルである場合に整数分周動作を停止し、スタート信号Sstartの電圧レベルがHIGHレベルである場合には基準クロックCrefをF分周した第2の整数分周信号を生成する。第2の整数分周器34の出力端子は、第2のスイッチ36の第1の入力端子に接続されている。
【0028】
第1のスイッチ35は、制御部32から出力された切換信号Sswに基づいて、分数分周器31から出力された分数分周信号Svnと第1の整数分周器33から出力された第1の整数分周信号とのいずれか一方を選択的に出力する。例えば、第1のスイッチ35は、切換信号Sswの電圧レベルがLOWレベルである場合に分数分周信号Svnを出力し、切換信号Sswの電圧レベルがHIGHレベルである場合には第1の整数分周信号を出力する。すなわち、第1のスイッチ35は、切換信号Sswの電圧レベルがLOWレベルである場合に分数分周動作に切り換え、切換信号Sswの電圧レベルがHIGHレベルである場合に整数分周動作に切り換える。第1のスイッチ35の出力端子は、位相比較器37の第1の入力端子に接続されている。
【0029】
第2のスイッチ36の第2の入力端子には、TCXO10から出力された基準クロックCrefが入力されている。第2のスイッチ36は、制御部32から出力された切換信号Sswに基づいて、第2の整数分周器34から出力された第2の整数分周信号と基準クロックCrefとのいずれか一方を選択的に出力する。例えば、第2のスイッチ36は、切換信号Sswの電圧レベルがLOWレベルである場合に基準クロックCrefを出力し、切換信号Sswの電圧レベルがHIGHレベルである場合には第2の整数分周信号を出力する。すなわち、第2のスイッチ36は、切換信号Sswの電圧レベルがLOWレベルである場合に分数分周動作に切り換え、切換信号Sswの電圧レベルがHIGHレベルである場合に整数分周動作に切り換える。第2のスイッチ36の出力端子は、位相比較器37の第2の入力端子に接続されている。
【0030】
位相比較器37は、第1のスイッチ35からの出力信号と第2のスイッチ36からの出力信号との周波数差および位相差に応じたパルス幅を有する比較パルス信号(電圧パルス)を生成する。例えば、位相比較器37は、分数分周動作のときには、第1のスイッチ35から出力された分数分周信号Svnと第2のスイッチ36から出力された基準クロックCrefとの周波数差および位相差に応じたパルス幅を有する比較パルス信号を生成し、整数分周動作のときには、第1のスイッチ35から出力された第1の整数分周信号と第2のスイッチ36から出力された第2の整数分周信号との周波数差および位相差に応じたパルス幅を有する比較パルス信号を生成する。位相比較器37の出力端子は、チャージポンプ回路38の入力端子に接続されている。
【0031】
チャージポンプ回路38は、位相比較器37から出力された比較パルス信号のパルス幅に応じた電流パルス(上記した比較信号)を生成する。
【0032】
次に、制御部(制御回路)32について詳細に説明する。図2は、制御部を示す回路ブロック図である。図2に示す制御部32は、AND回路321、ラッチ回路322、加算器323、減算器324、第3のスイッチ325、第1のコンパレータ326、第2のコンパレータ327、およびカウンタ328を備えている。
【0033】
AND回路321は、分数分周器31から出力された分数分周信号SvnとTCXO10から出力された基準クロックCrefとを論理和演算したトリガ信号を生成する。AND回路321の出力端子は、ラッチ回路322の制御端子に接続されている。
【0034】
ラッチ回路322は、AND回路から出力されたトリガ信号をクロックとして、第3のスイッチ325から出力された信号の値を保持したラッチ信号を生成する。ラッチ回路322の出力端子は、加算器323の第1の入力端子に接続されている。
【0035】
加算器323の第2の入力端子には、外部から分数分周D/Fのための分子定数Dが入力される。加算器323は、ラッチ回路322から出力されたラッチ信号と分子定数Dとを加算した和信号を生成する。加算器323の出力端子は、減算器324の第1の入力端子および第3のスイッチ325の第1の入力端子に接続されている。
【0036】
減算器324の第2の入力端子には、外部から分数分周のための分母定数Fが入力される。減算器324は、加算器323から出力された和信号から分母定数Fを減算した差信号を第1の出力端子に生成する。また、減算器324は、加算器323から出力された和信号の値が分母定数Fの値以上となる場合に、オーバーフローを表す第1の制御信号Sfcを第2の出力端子に生成する。例えば、減算器324は、和信号の値が分母定数Fの値未満である場合にはLOWレベルの第1の制御信号Sfcを生成し、和信号の値が分母定数Fの値以上となる場合にはHIGHレベルの第1の制御信号Sfcを生成する。減算器324の第1の出力端子は第3のスイッチ325の第2の入力端子に接続されており、減算器324の第2の出力端子は分数分周器31の制御端子に接続されている。
【0037】
第3のスイッチ325は、減算器324から出力された第1の制御信号Sfcに基づいて、加算器323から出力された和信号と減算器324から出力された差信号とのいずれか一方を選択的に出力する。例えば、第3のスイッチ325は、第1の制御信号Sfcの電圧レベルがLOWレベルである場合に和信号を出力し、第1の制御信号Sfcの電圧レベルがHIGHレベルである場合には差信号を出力する。第3のスイッチ325の出力端子は、ラッチ回路322の入力端子、第1のコンパレータ326の入力端子および第2のコンパレータ327の入力端子に接続されている。
【0038】
第1のコンパレータ326は、第3のスイッチ325からの出力信号の値を所定の値と比較して、その比較結果に応じたスタート信号Sstartを出力する。例えば、所定の値は(F−1)/2である。例えば、第1のコンパレータ326は、第3のスイッチ325からの出力信号の値が(F−1)/2未満である場合にLOWレベルのスタート信号Sstartを生成し、第3のスイッチ325からの出力信号の値が(F−1)/2となった場合にはHIGHレベルのスタート信号Sstartを生成する。第1のコンパレータ326の出力端子は、第1の整数分周器33の制御端子および第2の整数分周器34の制御端子に接続されている。
【0039】
第2のコンパレータ327は、第3のスイッチ325からの出力信号の値を所定の値と比較して、その比較結果に応じた切換トリガ信号を出力する。例えば、所定の値はゼロである。例えば、第2のコンパレータ327は、第3のスイッチ325からの出力信号の値がゼロ以外である場合にLOWレベルの切換トリガ信号を生成し、第3のスイッチ325からの出力信号の値がゼロとなった場合にはHIGHレベルの切換トリガ信号を生成する。第2のコンパレータ327の出力端子は、カウンタ328の入力端子に接続されている。
【0040】
カウンタ328は、第2のコンパレータ327から出力された切換トリガ信号をトリガとして、予め記憶された分数分周動作期間Tをカウントした後に、切換信号Sswを出力する。例えば、カウンタ328は、LOWレベルの切換トリガ信号が入力されている間およびHIGHレベルの切換トリガ信号が入力されてから期間Tまでの間ではLOWレベルの切換信号Sswを出力し、HIGHレベルの切換トリガ信号が入力されてから期間T経過するとHIGHレベルの切換信号Sswを出力する。
【0041】
次に、本実施形態のPLL周波数シンセサイザ1および位相比較回路30の動作を説明する。まず、分数分周のための分子定数Dと分母定数Fとが外部から設定される。また、分数分周器31から出力された分数分周信号Svnと基準クロックCrefとがAND回路321によって加算され、トリガ信号が生成される。ラッチ回路322では、このトリガ信号をクロックとして、第3のスイッチ325から出力された信号が保持されたラッチ信号が出力される。このラッチ信号は加算器323によって分子定数Dを加算され、和信号が生成される。
【0042】
(a)和信号の値<(F−1)/2の場合
加算器323から出力された和信号の値が(F−1)/2より小さいと、減算器324によってLOWレベルの第1の制御信号Sfcが出力され、第3のスイッチ325によって和信号がラッチ回路322へ出力される。このように、加算器323から出力された和信号の値が(F−1)/2より小さいときには、加算器323および第3のスイッチ325から出力された和信号の値は、ラッチ回路322から出力されたラッチ信号の値に分子定数Dの値を順次加算した値となる。
【0043】
このとき、第1のコンパレータ326によってLOWレベルのスタート信号Sstartが出力される。また、第3のスイッチ325から出力された和信号の値は分子定数D以上、すなわちゼロでないので、第2のコンパレータ327およびカウンタ328によってLOWレベルの切換信号Sswが出力される。
【0044】
分数分周器31では、制御部32から出力されたLOWレベルの第1の制御信号Sfcに基づいてN分周動作が行われ、N分数分周信号Svnが生成される。第1の整数分周器33および第2の整数分周器34では、制御部32から出力されたLOWレベルのスタート信号Sstartに基づいて分周動作が停止されている。第1のスイッチ35では、制御部32から出力されたLOWレベルの切換信号Sswに基づいてN分数分周信号Svnが選択的に出力される。同様に、第2のスイッチ36では、制御部32から出力されたLOWレベルの切換信号Sswに基づいて基準クロックCrefが選択的に出力される。
【0045】
その結果、位相比較器37によってN分数分周信号Svnと基準クロックCrefとの周波数差および位相差に応じたパルス幅を有する比較パルス信号が生成され、チャージポンプ回路38によって比較パルス信号のパルス幅に応じた電流パルスが生成される。この電流パルスはLPFによって平滑化され、第2の制御信号が生成される。この第2の制御信号に制御されてVCO20から出力されたVCOクロックの周波数が変更される。
【0046】
(b)(F−1)/2≦和信号の値<Fの場合
その後、第3のスイッチ325から出力された信号の値すなわち和信号の値が(F−1)/2になると、第1のコンパレータ326によってHIGHレベルのスタート信号Sstartが出力される。このスタート信号Sstartに応じて、第1の整数分周器33および第2の整数分周器34ではF分周動作が開始される。すなわち、第1の整数分周器33および第2の整数分周器34は整数分周動作に備える。このスタート信号Sstartは、PLL周波数シンセサイザ1が周波数引き込み動作を開始して最初の1回だけ有効となる。
【0047】
和信号の値がFより小さいときには、減算器324によってLOWレベルの第1の制御信号Sfcが出力されるので、上記のように和信号の値はラッチ信号の値に分子定数Dの値を順次加算した値となる。また、分数分周器31、第1のスイッチ35、第2のスイッチ36、位相比較器37、チャージポンプ回路38、LPF40、およびVCO20によって上記の動作が継続される。
【0048】
(c)和信号の値>Fの場合
その後、和信号の値がFより大きくなると、減算器324によってHIGHレベルの第1の制御信号Sfcが出力され、第3のスイッチ325によって減算器324から出力された差信号がラッチ回路322へ出力される。すると、分数分周器31では、制御部32から出力されたHIGHレベルの第1の制御信号Sfcに基づいて(N+1)分周動作が行われ、(N+1)分数分周信号Svnが生成される。
【0049】
このとき、差信号の値はゼロより大きくDより小さい値であるので、AND回路321からの次のトリガ信号によって加算器323から出力された和信号がFより小さくなり、第1の制御信号Sfcは再びLOWレベルに戻る。すなわち、分数分周器31では、(N+1)分周動作が1回だけ行われた後、上記した(a)〜(c)の動作が繰り返される。このように、和信号の値がFとなるまでに、N分周が(F−D)回、(N+1)分周がD回行われる。すなわち、上記(1)式に基づく分数分周動作が行われる。
【0050】
(d)和信号の値=Fの場合
上記した(a)〜(c)の動作が繰り返されると、加算器323から出力された和信号の値がFとなり、減算器324から出力された差信号すなわち第3のスイッチ325から出力された信号がゼロとなる。すると、第2のコンパレータ327によってHIGHレベルの切換トリガ信号が出力され、カウンタ328によってカウントが開始されて、期間T経過後にHIGHレベルの切換信号Sswが出力される。
【0051】
第1のスイッチ35では、制御部32から出力されるHIGHレベルの切換信号Sswに基づいて、分数分周信号Svnに代わり第1の整数分周信号が選択的に出力される。同様に、第2のスイッチ36では、制御部32から出力されるHIGHレベルの切換信号Sswに基づいて、基準クロックCrefに代わり第2の整数分周信号が選択的に出力される。
【0052】
その結果、位相比較器37によって第1の整数分周信号と第2の整数分周信号との周波数差および位相差に応じたパルス幅を有する比較パルス信号が生成され、チャージポンプ回路38によって比較パルス信号のパルス幅に応じた電流パルスが生成される。この電流パルスはLPFによって平滑化され、第2の制御信号が生成される。この第2の制御信号に制御されてVCOから出力されたVCOクロックの周波数が一定に保持される。
【0053】
このように、(a)〜(c)において分数分周動作が行われ、(d)において整数分周動作へ切り換えられる。分数分周動作から整数分周動作への切換のタイミングは、分数分周器31においてN分周動作をF−D回およびN+1分周動作をD回行った直後、すなわち分数分周器31における分数分周動作をF回行った直後となる。
【0054】
次に、位相比較器37の二つの入力信号の位相関係について説明する。図3は、分母定数Fが偶数であり、分子定数Dが奇数である場合の位相比較器の入力信号波形を示す図であり、図4は、分母定数Fおよび分子定数Dが共に偶数である場合の位相比較器の入力信号波形を示す図である。なお、本実施形態ではF=65程度が好ましい旨を上記したが、図3および図4では、本実施形態の特徴を明確にするために、F=8の場合を例示する。
【0055】
図3によれば、分母定数Fが偶数であり、分子定数Dが奇数である場合、分数分周信号Svnは、基準クロックCrefの位相に対して、7t、5t、3t、t進んだ位相および7t、5t、3t、t遅れた位相をとりうる。また、図4によれば、分母定数Fおよび分子定数Dが共に偶数である場合、分数分周信号Svnは、基準クロックCrefの位相に対して、6t、4t、2t進んだ位相および6t、4t、2t遅れた位相をとりうる。すなわち、分母定数Fが偶数である場合、分数分周信号Svnと基準クロックCrefとの周波数が一致しても、位相が一致することがない。
【0056】
このように、分数分周信号Svnは、基準クロックCrefを基準にして、下式(2)によって表される基準時間の倍数を有する複数の位相誤差を取りうる。
【数2】

【0057】
次に、分母定数Fが奇数である本実施形態について説明する。図5は、分母定数Fが奇数である場合の位相比較器の入力信号波形を示す図である。図5では、F=7の場合を例示する。図5によれば、分母定数Fが奇数である場合、分数分周信号Svnは、基準クロックCrefの位相に対して、6t、4t、2t進んだ位相、6t、4t、2t遅れた位相、および一致した位相をとりうる。すなわち、分母定数Fが奇数である場合、分数分周信号Svnと基準クロックCrefとの周波数および位相が一致するタイミングが存在する。この一致するタイミングは位相比較の周期のF回に1回発生し、分子定数Dの値によらず制御回路32における加算器323の出力が(F−1)/2になった直後に発生する。このタイミングで第1および第2の整数分周器33,34の動作を開始する。これにより、第1および第2の整数分周器33,34の出力の位相は常に一致するようになる。この一致するタイミングの繰り返し周波数Fchは、下式(3)によって表される。
【数3】

【0058】
上記(1)式および(3)式より、VCO20から出力されるVCOクロックの周波数Fvcoは、下式(4)によって表すことができる。
【数4】

【0059】
ここで、Fchは、分周数Fを有する第1の整数分周器33から出力された第1の整数分周信号の周波数、および分周数Fを有する第2の整数分周器34から出力された第2の整数分周信号の周波数である。また、上記(4)式は、位相比較周波数Fchで位相比較された整数分周動作を示す。
【0060】
図6は、第2の制御信号波形を示す図である。図6では、分母定数F=7、分子定数D=1の場合を例示する。上述したように、分数分周動作から整数分周動作へ切り換えるためのHIGHレベルの切換信号Sswは、分数分周器31においてF回分周動作が行われた直後に生成される(図6に示すタイミングA)。このとき、分数分周動作から整数分周動作へ切り換えがおこなわれ、図6に示すように、第2の制御信号の電圧レベルは第2の制御信号の平均電圧レベルである。整数分周動作へ切り換え後の位相比較は、制御回路32における加算器323の出力が(F−1)/2になる周期を持つタイミングで行われ(図6に示すタイミングB)、この時の位相比較器37の二つの入力信号の周波数差および位相差は一致する。
【0061】
一般に、図6に示すように、第2の制御信号の電圧レベル変動に起因してフラクショナルスプリアスが発生する。すなわち、フラクショナルスプリアスの周波数は、第2の制御信号の電圧レベル変動の周期に相当する。しかしながら、図6に示すように、整数分周動作に切り換えると、第2の制御信号の電圧レベル変動が生じないので、フラクショナルスプリアスが発生しないことがわかる。
【0062】
このように、本実施形態の位相比較回路30によれば、分数分周動作によって高速な周波数引き込みを可能とし、周波数引き込み後には、スプリアスを発生することがない整数分周動作に切り換えることができる。
【0063】
また、本実施形態の位相比較回路30によれば、分数分周のための設定値D/Fにおける分母定数Fが奇数であるので、分数分周動作において、位相比較器37の二つの入力信号の周波数差および位相差がゼロの状態が存在する。本実施形態の位相比較回路30によれば、制御回路32によって、位相比較器37の二つの入力信号の周波数差および位相差がゼロの状態を保ったまま分数分周動作から整数分周動作へ切り換えることができる。したがって、本実施形態の位相比較回路30によれば、整数分周動作へ切り換えた直後の周波数誤差および位相誤差に対する再引き込みを行う必要がなく、周波数および位相の引き込み時間の遅延を低減することができる。
【0064】
また、本実施形態の位相比較回路30によれば、一般的なチャージポンプ回路の出力段におけるサンプリング回路やΔΣ変調回路を用いずに、分数分周型の位相比較回路に加えて、第1および第2の整数分周器と第1および第2の選択回路とを備える小型な回路で、上記した大きな利点を得ることができる。
【0065】
また、本実施形態のPLL周波数シンセサイザ1によれば、上記の位相比較回路30を用いているので、分数分周動作によって高速に周波数を変更することが可能であり、周波数変更後には、スプリアスを発生することがない整数分周動作に切り換えることができる。また、小型な回路で、上記した大きな利点を得ることができる。
【0066】
なお、本発明は上記した本実施形態に限定されることなく種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の実施形態に係るPLL周波数シンセサイザを示す回路ブロック図である。
【図2】制御部を示す回路ブロック図である。
【図3】分母定数Fが偶数であり、分子定数Dが奇数である場合の位相比較器の入力信号波形を示す図である。
【図4】分母定数Fおよび分子定数Dが共に偶数である場合の位相比較器の入力信号波形を示す図である。
【図5】分母定数Fが奇数である場合の位相比較器の入力信号波形を示す図である。
【図6】第2の制御信号波形を示す図である。
【符号の説明】
【0068】
1…PLL周波数シンセサイザ、10…TCXO(温度補償型水晶発振器)、20…VCO(電圧制御型発振器)、30…位相比較部(位相比較回路)、40…LPF、31…分数分周器、32…制御部(制御回路)、33…第1の整数分周器、34…第2の整数分周器、35…第1のスイッチ(第1の選択回路)、36…第2のスイッチ(第2の選択回路)、37…位相比較器、38…チャージポンプ回路、321…AND回路、322…ラッチ回路、323…加算器、324…減算器、325…第3のスイッチ、326…第1のコンパレータ、327…第2のコンパレータ、328…カウンタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分数分周のための設定値に基づいて分数分周動作を制御するための第1の制御信号と、分数分周動作と整数分周動作とを切り換えるための切換信号とを生成する制御回路と、
前記制御回路から出力された前記第1の制御信号に基づいて、クロックを分数分周した分数分周信号を生成する分数分周器と、
前記分数分周器から出力された前記分数分周信号を整数分周した第1の整数分周信号を生成する第1の整数分周器と、
基準クロックを整数分周した第2の整数分周信号を生成する第2の整数分周器と、
前記制御回路から出力された前記切換信号に基づいて、前記分数分周器から出力された前記分数分周信号と前記第1の整数分周器から出力された第1の整数分周信号とのいずれか一方を選択的に出力する第1の選択回路と、
前記制御回路から出力された前記切換信号に基づいて、前記基準クロックと前記第2の整数分周器から出力された第2の整数分周信号とのいずれか一方を選択的に出力する第2の選択回路と、
前記第1の選択回路からの出力信号と前記第2の選択回路からの出力信号との周波数差および位相差を表す比較信号を生成する位相比較器と、
を備える、
位相比較回路。
【請求項2】
前記分数分周のための設定値における分母定数は奇数であり、
前記制御回路は、前記第1の選択回路からの出力信号と前記第2の選択回路からの出力信号との周波数差および位相差がゼロのときに、前記分数分周動作から前記整数分周動作へ切り換える、
ことを特徴とする、請求項1に記載の位相比較回路。
【請求項3】
分数分周動作と整数分周動作とを切り替え可能であり、クロックを分周した分周信号と基準クロックとの周波数差および位相差を表す比較信号を生成する、請求項1または2に記載の位相比較回路と、
前記位相比較回路から出力された比較信号を平滑化した第2の制御信号を生成する平滑化回路と、
前記第2の制御信号の電圧レベルに基づいて、生成する前記クロックの周波数を変更する周波数可変型発振器と、
を備える、PLL周波数シンセサイザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−189455(P2007−189455A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−5259(P2006−5259)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(399011195)ザインエレクトロニクス株式会社 (61)
【Fターム(参考)】