位置決め制御装置および工作機械
【課題】位置決め制御装置においてスループットを低下させずにモータの発熱を抑える。
【解決手段】位置決め制御装置は、第1の被駆動部材を移動させる第1のモータ54と、第2の被駆動部材を移動させる第2のモータ64と、第1および第2のモータのそれぞれに対して2自由度制御を行い、第1の被駆動部材を第1の目標位置に移動させ、第2の被駆動部材を第2の目標位置に移動させる制御手段51,53,61,63とを有する。制御手段は、第1の被駆動部材を第1の目標位置に移動させるために第1のモータの動作に必要な第1の時間Txと、第2の被駆動部材を第2の目標位置に移動させるために第2のモータの動作に必要な第2の時間Tyとを求め、第1および第2の被駆動部材をそれぞれ第1および第2の目標位置に移動させる際に、第1および第2のモータを、第1および第2の時間のうち長い方の時間で同時に動作させる。
【解決手段】位置決め制御装置は、第1の被駆動部材を移動させる第1のモータ54と、第2の被駆動部材を移動させる第2のモータ64と、第1および第2のモータのそれぞれに対して2自由度制御を行い、第1の被駆動部材を第1の目標位置に移動させ、第2の被駆動部材を第2の目標位置に移動させる制御手段51,53,61,63とを有する。制御手段は、第1の被駆動部材を第1の目標位置に移動させるために第1のモータの動作に必要な第1の時間Txと、第2の被駆動部材を第2の目標位置に移動させるために第2のモータの動作に必要な第2の時間Tyとを求め、第1および第2の被駆動部材をそれぞれ第1および第2の目標位置に移動させる際に、第1および第2のモータを、第1および第2の時間のうち長い方の時間で同時に動作させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種工作機械において用いられる位置決め制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械のうち、例えばレーザ穴あけ加工機、レーザトリマ装置およびレーザリペア装置には、レーザ光を反射させるためのミラーの回転位置決めを行うガルバノモータが用いられている。また、ミラーの位置決め精度を向上させるために、その回転角度を検出する静電容量センサや光学式又は磁気式エンコーダが用いられている。さらに、例えばレーザ穴あけ加工機では、複数のミラーと複数のガルバノモータが使用され、任意の目標位置にレーザ照射点を移動させる際には、各モータを高速動作させ、全てのモータの動作(ミラーの回転位置決め)が完了した後に、レーザ照射を行う。
また、他の工作機械として、半導体露光装置やドリル式穴あけ加工機においては、2軸のリニアモータを用いたXYステージが使用されている。ステージを任意の目標位置に移動させる際には、各リニアモータを高速動作させ、全てのリニアモータの動作(ステージの位置決め)が完了した後に露光や加工を行う。
このような工作機械において各モータを高速で動作させるためには、モータの急加速や急減速を行う必要があり、モータに対して大きな電流を供給する必要がある。そして、大きな電流をモータに供給すると、モータの発熱量が増加し、モータやこれに電流を供給する回路の温度が過度に上昇するおそれがある。そこで、特許文献1には、モータの発熱を抑えるために、移動指令に待ち時間を設けるモータ制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−329960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にて開示されたモータ制御方法のように移動指令に待ち時間を設けると、工作や加工におけるスループットの低下が問題となる。
本発明は、スループットの低下を招くことなく、モータの発熱を抑えることができるようにした位置決め制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面としての位置決め制御装置は、第1の被駆動部材を移動させる第1のモータと、第2の被駆動部材を移動させる第2のモータと、第1および第2のモータのそれぞれに対して2自由度制御を行い、第1の被駆動部材を第1の目標位置に移動させ、第2の被駆動部材を第2の目標位置に移動させる制御手段とを有する。そして、制御手段は、第1の被駆動部材を第1の目標位置に移動させるために第1のモータの動作に必要な第1の時間と、第2の被駆動部材を第2の目標位置に移動させるために第2のモータの動作に必要な第2の時間とを求める。そして、第1および第2の被駆動部材をそれぞれ第1および第2の目標位置に移動させる際に、第1および第2のモータを、第1および第2の時間のうち長い方の時間で同時に動作させることを特徴とする。
【0006】
なお、上記位置決め制御装置を有し、第1および第2の被駆動部材を移動させて被加工物の加工を行う工作機械も本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1および第2のモータの動作に必要な時間のうち長い方の時間で両モータを同時に動作させる。これにより、被駆動部材の移動が完了するまでに要する時間を長くすることなく(スループットを低下させることなく)、動作時間が長くされたモータへの供給電流を小さくすることができ、該モータの発熱を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例1である位置決め制御装置における動作手順を示すフローチャート。
【図2】実施例1の位置決め制御装置における電流アンプの構成を示す図。
【図3】実施例1の位置決め制御装置の構成を示す図。
【図4】実施例1における条件1でのモータ電流波形を示す図。
【図5】実施例1における条件1での整定波形を示す図。
【図6】実施例1における条件1でのモータでの瞬間消費電力および平均消費電力を示す図。
【図7】実施例1における条件1での電流アンプでの瞬間消費電力および平均消費電力を示す図。
【図8】実施例1における条件2でのモータの電流波形を示す図。
【図9】実施例1における条件2での整定波形を示す図。
【図10】実施例1における条件2でのモータでの瞬間消費電力および平均消費電力を示す図。
【図11】実施例1における条件2での電流アンプでの瞬間消費電力および平均消費電力を示す図。
【図12】本発明の実施例2である工作機械としてレーザ加工機を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0010】
図1のフローチャートには、本発明の実施例1である位置決め制御装置の動作を示す。ここでは、2つのモータ(第1のモータおよび第2のモータ)の動作により、不図示の第1の被駆動部材および第2の被駆動部材のX軸方向(第1の方向)およびY軸方向(第2の方向)での位置を制御する場合について示している。第1および第2の被駆動部材は、例えば、レーザ加工機における2つのミラーや半導体露光装置におけるXYステージであり、第1および第2の被駆動部材は互いに異なるものであってもよいし同じものであってもよい。また、以下の説明において、第1の被駆動部材をX軸方向に移動させるモータおよび第2の被駆動部材をY軸方向に移動させるモータをそれぞれ、X軸モータおよびY軸モータともいう。
まず、ステップS1では、X軸方向およびY軸方向での目標位置(第1の目標位置および第2の目標位置)が指令される。
次にステップS2では、第1の被駆動部材をX軸方向での目標位置に移動させるためにX軸モータの動作に必要な位置決め時間(第1の時間)Txが求められる。また、第2の被駆動部材をY軸方向での目標位置に移動させるためにY軸モータの動作に必要な位置決め時間(第2の時間)Tyが求められる。
ステップS3においてTx>Tyであれば、ステップS4において、X軸モータおよびY軸モータの実動作時間が、長い方の位置決め時間Txに合わせるように設定される。すなわち、Y軸モータの実動作時間が、位置決め時間Tyよりも長く設定される。そして、ステップS5において、X軸モータおよびY軸モータは、実動作時間Txで同時に動作される。これにより、第1および第2の被駆動部材のそれぞれの目標位置への移動が同時に完了する。
また、ステップS6においてTy>Txであれば、ステップS7において、X軸モータおよびY軸モータの実動作時間が、長い方の位置決め時間Tyに合わせるように設定される。すなわち、X軸モータの実動作時間が、位置決め時間Txよりも長く設定される。そして、ステップS8において、X軸モータおよびY軸モータは、実動作時間Tyで同時に動作される。これにより、第1および第2の被駆動部材のそれぞれの目標位置への移動が同時に完了する。
ここで、本実施例にいう「同時」は、動作の開始と終了の時刻が完全に一致している場合だけでなく、制御や処理の遅れに起因する、同時とみなせる程度の若干の時間ずれがある場合も含む。
なお、ステップS9ではTx=Tyであるので、X軸モータおよびY軸モータを実動作時間Tx(=Ty)で、同時に動作される。これにより、第1および第2の被駆動部材のそれぞれの目標位置への移動が同時に完了する。
以上の動作によって、X軸モータおよびY軸モータで消費電力を低減し、その結果これらモータの発熱を抑えることができる。このことを以下に具体的に説明する。
本実施例において、X軸およびY軸モータはいずれもガルバノモータ(単相モータ)とする。該モータの抵抗をRM[Ω]とし、インダクタンスをLM[H]とする。
図3には、本実施例の2軸ガルバノモータ位置決め制御装置の構成を示す。50はX軸モータ54の目標角度であり、外部から位置決め制御装置に入力される。X軸モータの目標角度は、第1の被駆動部材をX軸方向の目標位置に移動させるために必要なX軸モータの回転角度である。
51はX軸モータ54をフィードフォワード制御するX軸フィードフォワード制御ブロックである。52はX軸モータ54の参照角度(検出角度)であり、エンコーダ等の検出器によって検出される。53はX軸モータ54をフィードバック制御するX軸フィードバック制御ブロックである。55はX軸モータ54の出力としての回転角度である。56はX軸モータに供給される電流を示している。
60はY軸モータ64の目標角度であり、外部から位置決め制御装置に入力される。Y軸モータの目標角度は、第2の被駆動部材をY軸方向の目標位置に移動させるために必要なY軸モータの回転角度である。
61はY軸モータ64をフィードフォワード制御するY軸フィードフォワード制御ブロックである。62はY軸モータ64の参照角度(検出角度)であり、エンコーダ等の検出器によって検出される。63はY軸モータ64をフィードバック制御するY軸フィードバック制御ブロックである。65はY軸モータ64の出力としての回転角度である。66はY軸モータに供給される電流を示している。
X軸およびY軸フィードフォワード制御ブロック51,61とX軸およびY軸フィードバック制御ブロック53,63により制御手段が構成される。
本実施例では、X軸モータ54としてモータ電流[A]の指令に対するエンコーダでの角度[rad]の応答が1.762e+4/s2なる伝達関数を持つ簡易なモータモデルとしている。モータの出力軸には、移動させる被駆動部材(例えば、レーザ加工機ではミラー)が取り付けられ、これはモータの負荷となる。しかし、ここでは説明を簡易にするため、モータの負荷が無いものとし、モータの出力軸はその回転方向の運動に対してねじれ運動しない剛体とする。また、本実施例の位置決め制御装置は、デジタル制御によって2自由度制御を行う。
2自由度制御系でのX軸フィードフォワード制御の電流加算項の設計は、終端状態制御によるジャーク最小化軌道で設計した。X軸での参照角度はX軸フィードフォワード制御の電流加算項をモータモデルに入力し、その角度応答を求めた値を設定した。したがって、X軸フィードバック制御は、モータモデルとモータ実機が一致しているときは機能しない。ここではモータモデルとモータ実機が一致するものとして検討した。Y軸モータの制御についても同様である。
終端状態制御は、「ナノスケールサーボ制御」(東京電機大学出版局 P174〜178)に詳しく記載されており、制御対象に入力を与えて、システムの初期状態を有限時間で指定した終端状態に持っていく制御手法である。
制御対象であるモータのモデルを可制御なm次の離散時間システムとして下記のように定義する。
x[k+1]=Ax[k]+Bu[k]
ここで終端ステップ数NをN≧mとすると、制御入力u[0],u[1],…u[N−1]により、初期状態x[0]を終端状態x[N]に移動させることができる。
本実施例では、制御対象であるモータのモデルを伝達関数モデルから離散時間システムモデルへ変換して、モータへの電流指令をモータ加速度の1階微分の総和を最小化するいわゆるジャーク最小化軌道にて設計した。また、以下の説明では、X軸モータを単にX軸と、Y軸モータを単にY軸ともいう。
(制御則の条件1)
ここでは、X軸に角度移動量7e−3[rad]、Y軸に角度移動量3.5e−3[rad]の位置決めを行った例について説明する。
X軸の移動は、
初期状態での角度位置をx[0]=0[rad]
終端状態での角度位置をx[N]=7e−3[rad]
サンプリング周波数を150KHz
終端ステップ数Nを80
とした。終端ステップ数とは、終端状態に持っていくサンプリング回数のことである。
Y軸の移動は、
初期状態での角度位置をx[0]=0[rad]
終端状態での角度位置をx[N]=3.5e−3[rad]
サンプリング周波数を150KHz
終端ステップ数Nを57
とした。
モータ電流の時間応答波形を図4に示す。X軸の時間応答波形を点線で、Y軸の時間応答波形を実線で示す。また、X軸およびY軸の移動開始から目標位置までの整定波形を図5(a)に、目標位置付近の拡大した整定波形を図5(b)に示す。X軸の整定波形を点線で、Y軸の整定波形を実線で示す。また、横軸に時間[s]を、縦軸に目標位置と現在位置との差異(偏差)を示す。
X軸およびY軸に必要な位置決め精度をともに20[urad]とすると、図5(b)より、必要な位置決め精度に到達する位置決め時間Tx,Tyは、
Tx=500[usec]
Ty=350[usec]
である。
図6(a)にモータでの瞬間消費電力を示す。各時間でのモータでの瞬間消費電力は、下記の式で求められる。
【0011】
【数1】
【0012】
ただし、IM[A]はモータに供給される電流(モータ電流)である。
図6(b)にモータでの平均消費電力を示す。各時間Tでのモータでの平均消費電力は、時間0から時間Tまでの消費電力の時間平均と定義した。定義式は以下のとおりである。
【0013】
【数2】
【0014】
図7(a)にモータに電流を供給する電流アンプでの瞬間消費電力を示す。また、図7(b)に電流アンプでの平均消費電力を示す。電流アンプでの消費電力は以下のように求めた。
図2には、電流アンプの構成を示す。電流アンプは、モータの両端に1つずつ配置している。図2の上側の電流アンプからモータにモータ電流Imを供給し、図2の下側の電流アンプにモータ電流Imが流れ込む。
上側の電流アンプでの消費電力は、
Pp=Icc×(+Vs−(−Vs))+Im×(+Vs−Vp)
と表される。
また、下側の電流アンプでの消費電力は、
Pm=Icc×(+Vs−(−Vs))+Im×(Vm−(−Vs))
と表される。±Vsは電流アンプの電源電圧、Vpは上側の電流アンプの出力電圧、Vmは下側の電流アンプの出力電圧である。Iccは±Vs間に流れる回路電流である。
また、消費電力の計算において、回路電流Iccが+Vsから−Vsへ流れるが、IccはImに比べて十分小さいので、無視した。
また、Vp−Vmはモータの両端電圧であり、モータ電流にモータのインピーダンスを掛けたものと等しい。よって、
Vp−Vm=Im×(Rm+jwLm)
となる。
これより、2つの電流アンプでの消費電力は、下記の式で求められる。
【0015】
【数3】
【0016】
各時間Tでの電流アンプでの平均消費電力は、時間0から時間Tまでの電流アンプでの消費電力の時間平均と定義した。定義式は以下のとおりである。
【0017】
【数4】
【0018】
次に、上記位置決め動作を連続的に行ったときのモータおよび電流アンプでの消費電力について説明する。ここでは、レーザ加工機や工作機械においてモータを停止させた状態で加工や工作を行うことを想定して、X軸モータおよびY軸モータをその位置決め動作の完了後に100[usec]停止させる動作を連続的に行った場合について説明する。
前述したように、Tx=500[usec]、Ty=350[usec]とすると、X軸およびY軸の実動作時間(位置決め動作の完了までの時間)は、500[usec]である。そして、実動作時間と停止時間を合わせると、600[usec]となる。
この動作を連続的に行う場合、X軸モータおよびY軸モータでの平均消費電力は、図6(b)での時間600[usec]における平均消費電力から、それぞれ27[w]および18[w]となる。同様に、X軸の電流アンプおよびY軸の電流アンプでの平均消費電力は、図7(b)より、それぞれ900[w]および620[w]となる。
制御則の条件1においては、X軸の位置決め時間Txは500[usecc]、Y軸の位置決め時間Tyは350[usecc]であり、Y軸の位置決め時間TyがX軸の位置決め時間Txより30%短い。そこで、以下の条件2に示すようにY軸の制御則を見直し、X軸の位置決め時間以内で必要十分な実動作時間を設定した。
(制御則の条件2)
条件1と同じ移動量であるX軸の角度移動量7e−3[rad]およびY軸の角度移動量3.5e−3[rad]の場合について軸ごとに以下の制御則を適用した。この制御則の組み合わせを条件2とする。
X軸の移動は、
初期状態での角度位置をx[0]=0[rad]
終端状態での角度位置をx[N]=7e−3[rad]
サンプリング周波数を150KHz
終端ステップ数Nを80
とした。
Y軸の移動は、
初期状態での角度位置をx[0]=0[rad]
終端状態での角度位置をx[N]=3.5e−3[rad]
サンプリング周波数を150KHz
終端ステップ数Nを80
とした。
モータ電流の時間応答波形を図8に示す。X軸の時間応答波形を点線で、Y軸の時間応答波形を実線で示す。また、X軸およびY軸の移動開始から目標位置までの整定波形を図9(a)に、目標位置付近の拡大した整定波形を図9(b)に示す。X軸の整定波形を点線で、Y軸の整定波形を実線で示す。また、横軸に時間[s]を、縦軸に目標位置と現在位置との差異(偏差)を示す。
X軸およびY軸に必要な位置決め精度をともに20[urad]とすると、図9(b)より必要な位置決め精度に到達する位置決め時間Tx,Tyは、
Tx=500[usec]
Ty=490[usec]
である。
図10(a)にモータでの瞬間消費電力を示し、図10(b)にモータでの平均消費電力を示す。また、図11(a)に電流アンプでの瞬間消費電力を示し、図11(b)に電流アンプでの平均消費電力を示す。
次に、上記位置決め動作を連続的に行ったときのモータおよび電流アンプでの消費電力について説明する。前述したように、X軸モータおよびY軸モータの位置決め動作の完了後に100[usec]停止させる動作を連続的に行った場合について説明する。
前述したように、Tx=500[usec]、Ty=490[usec]とすると、X軸およびY軸の実動作時間(位置決め動作の完了までの時間)は、500[usec]である。そして、実動作時間と停止時間を合わせると、600[usec]となる。
この動作を連続的に行う場合、X軸モータおよびY軸モータでの平均消費電力は、図10(b)での時間600[usec]における平均消費電力から、それぞれ27[w]および7[w]となる。同様に、X軸の電流アンプおよびY軸の電流アンプでの平均消費電力は、図7(b)より、それぞれ900[w]および450[w]となる。
以上説明したように、
条件1では
X軸モータでの平均消費電力は27[w]
Y軸モータでの平均消費電力は18[w]
X軸電流アンプでの平均消費電力は900[w]
Y軸電流アンプでの平均消費電力は620[w]
となる。これに対し、条件2では
X軸モータでの平均消費電力は27[w]
Y軸モータでの平均消費電力は7[w]
X軸電流アンプでの平均消費電力は900[w]
Y軸電流アンプでの平均消費電力は450[w]
となる。すなわち、条件2の制御則を適用すれば、条件1の制御則を適用する場合と比較して、Y軸モータでの平均消費電力が18[w]から7[w]へと減少し、Y軸電流アンプでの平均消費電力は620[w]から450[w]へと減少する。
このように、本実施例では、X軸とY軸の移動量(目標位置)が互いに異なる場合に、両軸モータの実動作時間(終端状態制御系の設計で用いる終端ステップ数N)を、両軸のうち位置決め時間が長い方(ここではX軸)に合わせて設定する。これにより、両軸での目標位置への移動に要する時間を遅くすることなく、Y軸モータおよびY軸電流アンプの消費電力を低減することができる。この結果、Y軸モータおよびY軸電流アンプでの発熱を抑えることができる。
なお、上記実施例では、X軸とY軸の2軸のモータ(第1および第2のモータ)を用いる場合について説明したが、3軸以上のモータを用いてもよい。この場合、3軸以上のモータのうち位置決め時間が最も長いモータと他の2以上のモータとをそれぞれ、第1のモータおよび第2のモータと考えればよい。
さらに、他の実施例として、X軸モータおよびY軸モータの移動量と位置決め時間との関係を制御則ごとに予め求めて参照テーブルを作成しておく。そして、X軸およびY軸の移動指令に対して参照テーブルを参照することにより制御則を切り替えてもよい。終端状態制御系の設計では、電流指令の波形を生成するための計算時間がかかり、実時間で計算する上で問題となる場合があるが、予め計算しておくことにより、この問題を回避することができる。
また、切り換える制御則(条件)は、上記実施例にて説明したように2つに限らず、3つ以上の制御則を切り換えてもよい。
また、上記実施例では、X軸モータとY軸モータが同じ特性のモータである場合について説明したが、これらモータの特性は互いに異なっていてもよい。
さらに、上記実施例では、X軸モータおよびY軸モータに必要な位置決め精度を互いに同じ20[urad]とした場合について説明したが、互いに異なる位置決め精度を設定してもよい。
【実施例2】
【0019】
図12には、実施例1にて説明した位置決め制御装置を用いた工作機械としてのレーザ加工機を示す。
41はX軸モータ(第1のモータ)である。42はX軸ロータリエンコーダであり、43はX軸ミラー(第1の被駆動部材)である。45はY軸モータ(第2のモータ)である。46はY軸ロータリエンコーダであり、47はY軸ミラー(第2の被駆動部材)である。
30はレーザ加工機のコントローラ部であり、31はX軸およびY軸モータの目標位置(移動量)を指令するXY軸モータ位置指令部である。32はX軸モータおよびY軸モータに必要な位置決め時間を計算する位置決め時間計算部である。33はX軸モータおよびY軸モータの制御則を選択する制御則選択部である。40はX軸モータの制御系であり、44はY軸モータの制御系である。
コントローラ部30、XY軸モータ位置指令部31、位置決め時間計算部32、制御則選択部33および制御系40,44により位置決め制御装置が構成される。
34は加工用レーザ光であり、35は該レーザ光を発する加工用レーザ光ON/OFF部である。36はレーザ光による加工を受ける加工面である。
【0020】
コントローラ部30は、加工面36上におけるレーザ光の照射点の目標座標をXY軸モータ位置指令部31に与える。XY軸モータ位置指令部31は、レーザ光照射点を該目標座標に移動させるためのX軸ミラー43およびY軸ミラー47の目標位置(目標回転位置)に対応するX軸モータ41およびY軸モータ45の目標角度を計算する。そして、計算部32は、X軸およびY軸での位置決め時間Tx,Tyを求める。
制御則選択部33は、位置決め時間Tx,Tyの長短関係から両軸モータの制御則(条件)を選択し、X軸側の制御則および目標角度をX軸モータの制御系40に、Y軸側の制御則および目標角度をY軸モータ制御系44にそれぞれ入力する。
X軸モータ制御系40は、X軸ロータリエンコーダ42により角度を検出しながらX軸モータ41の動作を制御する。X軸ミラー43は、X軸モータ41によって回転され、レーザ光照射点をX軸方向の目標座標に移動させる。Y軸モータ制御系44は、Y軸ロータリエンコーダ46により角度を検出しながらY軸モータ45の動作を制御する。Y軸ミラー47は、Y軸モータ45によって回転され、レーザ光照射点をY軸方向の目標座標に移動させる。X軸モータ41およびY軸モータ45の動作、つまりはX軸方向およびY軸方向のレーザ光照射点の目標座標への移動は、同時に終了(完了)する。
こうしてレーザ光照射点が目標座標に移動された後、コントローラ部30は加工用レーザ光ON/OFF部35をONにして、加工用レーザ光34を出射させる。これにより、加工面36上に載置された被加工物が加工される。
このように実施例1にて説明した位置決め制御装置をレーザ加工機に用いることにより、モータおよび電流アンプの消費電力を低減し、モータおよび電流アンプの温度上昇を抑えつつレーザ加工機の生産性(スループット)を向上させることができる。
なお、本実施例ではレーザ加工機について説明したが、実施例1の位置決め制御装置は、半導体露光装置やドリル式穴あけ加工機等の工作機械において2軸のモータにより駆動されるXYステージの位置決め制御にも適用できる。XYステージのうち、例えばステージ部が第1の被駆動部材に相当し、ステージ部をX軸方向に移動させるX駆動ユニットの駆動源が第1のモータに相当する。また、X駆動ユニットが第2の被駆動部材に相当し、該X駆動ユニットをY軸方向に移動させるY駆動ユニットの駆動源が第2のモータに相当する。
また、上記各実施例では2つの回転式モータを用いた場合について説明したが、モータとしてはリニアモータを用いてもよいし、リニアモータと回転モータを組み合わせて使用してもよい。
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
各種工作機械における被駆動部材の目標位置への位置決め制御を行う位置決め制御装置を提供する。
【符号の説明】
【0022】
43 X軸ミラー
47 Y軸ミラー
41,54 X軸モータ
45,64 Y軸モータ
51 X軸フィードフォワード制御ブロック
53 X軸フィードバック制御ブロック
61 Y軸フィードフォワード制御ブロック
63 Y軸フィードバック制御ブロック
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種工作機械において用いられる位置決め制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械のうち、例えばレーザ穴あけ加工機、レーザトリマ装置およびレーザリペア装置には、レーザ光を反射させるためのミラーの回転位置決めを行うガルバノモータが用いられている。また、ミラーの位置決め精度を向上させるために、その回転角度を検出する静電容量センサや光学式又は磁気式エンコーダが用いられている。さらに、例えばレーザ穴あけ加工機では、複数のミラーと複数のガルバノモータが使用され、任意の目標位置にレーザ照射点を移動させる際には、各モータを高速動作させ、全てのモータの動作(ミラーの回転位置決め)が完了した後に、レーザ照射を行う。
また、他の工作機械として、半導体露光装置やドリル式穴あけ加工機においては、2軸のリニアモータを用いたXYステージが使用されている。ステージを任意の目標位置に移動させる際には、各リニアモータを高速動作させ、全てのリニアモータの動作(ステージの位置決め)が完了した後に露光や加工を行う。
このような工作機械において各モータを高速で動作させるためには、モータの急加速や急減速を行う必要があり、モータに対して大きな電流を供給する必要がある。そして、大きな電流をモータに供給すると、モータの発熱量が増加し、モータやこれに電流を供給する回路の温度が過度に上昇するおそれがある。そこで、特許文献1には、モータの発熱を抑えるために、移動指令に待ち時間を設けるモータ制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−329960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1にて開示されたモータ制御方法のように移動指令に待ち時間を設けると、工作や加工におけるスループットの低下が問題となる。
本発明は、スループットの低下を招くことなく、モータの発熱を抑えることができるようにした位置決め制御装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面としての位置決め制御装置は、第1の被駆動部材を移動させる第1のモータと、第2の被駆動部材を移動させる第2のモータと、第1および第2のモータのそれぞれに対して2自由度制御を行い、第1の被駆動部材を第1の目標位置に移動させ、第2の被駆動部材を第2の目標位置に移動させる制御手段とを有する。そして、制御手段は、第1の被駆動部材を第1の目標位置に移動させるために第1のモータの動作に必要な第1の時間と、第2の被駆動部材を第2の目標位置に移動させるために第2のモータの動作に必要な第2の時間とを求める。そして、第1および第2の被駆動部材をそれぞれ第1および第2の目標位置に移動させる際に、第1および第2のモータを、第1および第2の時間のうち長い方の時間で同時に動作させることを特徴とする。
【0006】
なお、上記位置決め制御装置を有し、第1および第2の被駆動部材を移動させて被加工物の加工を行う工作機械も本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1および第2のモータの動作に必要な時間のうち長い方の時間で両モータを同時に動作させる。これにより、被駆動部材の移動が完了するまでに要する時間を長くすることなく(スループットを低下させることなく)、動作時間が長くされたモータへの供給電流を小さくすることができ、該モータの発熱を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例1である位置決め制御装置における動作手順を示すフローチャート。
【図2】実施例1の位置決め制御装置における電流アンプの構成を示す図。
【図3】実施例1の位置決め制御装置の構成を示す図。
【図4】実施例1における条件1でのモータ電流波形を示す図。
【図5】実施例1における条件1での整定波形を示す図。
【図6】実施例1における条件1でのモータでの瞬間消費電力および平均消費電力を示す図。
【図7】実施例1における条件1での電流アンプでの瞬間消費電力および平均消費電力を示す図。
【図8】実施例1における条件2でのモータの電流波形を示す図。
【図9】実施例1における条件2での整定波形を示す図。
【図10】実施例1における条件2でのモータでの瞬間消費電力および平均消費電力を示す図。
【図11】実施例1における条件2での電流アンプでの瞬間消費電力および平均消費電力を示す図。
【図12】本発明の実施例2である工作機械としてレーザ加工機を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0010】
図1のフローチャートには、本発明の実施例1である位置決め制御装置の動作を示す。ここでは、2つのモータ(第1のモータおよび第2のモータ)の動作により、不図示の第1の被駆動部材および第2の被駆動部材のX軸方向(第1の方向)およびY軸方向(第2の方向)での位置を制御する場合について示している。第1および第2の被駆動部材は、例えば、レーザ加工機における2つのミラーや半導体露光装置におけるXYステージであり、第1および第2の被駆動部材は互いに異なるものであってもよいし同じものであってもよい。また、以下の説明において、第1の被駆動部材をX軸方向に移動させるモータおよび第2の被駆動部材をY軸方向に移動させるモータをそれぞれ、X軸モータおよびY軸モータともいう。
まず、ステップS1では、X軸方向およびY軸方向での目標位置(第1の目標位置および第2の目標位置)が指令される。
次にステップS2では、第1の被駆動部材をX軸方向での目標位置に移動させるためにX軸モータの動作に必要な位置決め時間(第1の時間)Txが求められる。また、第2の被駆動部材をY軸方向での目標位置に移動させるためにY軸モータの動作に必要な位置決め時間(第2の時間)Tyが求められる。
ステップS3においてTx>Tyであれば、ステップS4において、X軸モータおよびY軸モータの実動作時間が、長い方の位置決め時間Txに合わせるように設定される。すなわち、Y軸モータの実動作時間が、位置決め時間Tyよりも長く設定される。そして、ステップS5において、X軸モータおよびY軸モータは、実動作時間Txで同時に動作される。これにより、第1および第2の被駆動部材のそれぞれの目標位置への移動が同時に完了する。
また、ステップS6においてTy>Txであれば、ステップS7において、X軸モータおよびY軸モータの実動作時間が、長い方の位置決め時間Tyに合わせるように設定される。すなわち、X軸モータの実動作時間が、位置決め時間Txよりも長く設定される。そして、ステップS8において、X軸モータおよびY軸モータは、実動作時間Tyで同時に動作される。これにより、第1および第2の被駆動部材のそれぞれの目標位置への移動が同時に完了する。
ここで、本実施例にいう「同時」は、動作の開始と終了の時刻が完全に一致している場合だけでなく、制御や処理の遅れに起因する、同時とみなせる程度の若干の時間ずれがある場合も含む。
なお、ステップS9ではTx=Tyであるので、X軸モータおよびY軸モータを実動作時間Tx(=Ty)で、同時に動作される。これにより、第1および第2の被駆動部材のそれぞれの目標位置への移動が同時に完了する。
以上の動作によって、X軸モータおよびY軸モータで消費電力を低減し、その結果これらモータの発熱を抑えることができる。このことを以下に具体的に説明する。
本実施例において、X軸およびY軸モータはいずれもガルバノモータ(単相モータ)とする。該モータの抵抗をRM[Ω]とし、インダクタンスをLM[H]とする。
図3には、本実施例の2軸ガルバノモータ位置決め制御装置の構成を示す。50はX軸モータ54の目標角度であり、外部から位置決め制御装置に入力される。X軸モータの目標角度は、第1の被駆動部材をX軸方向の目標位置に移動させるために必要なX軸モータの回転角度である。
51はX軸モータ54をフィードフォワード制御するX軸フィードフォワード制御ブロックである。52はX軸モータ54の参照角度(検出角度)であり、エンコーダ等の検出器によって検出される。53はX軸モータ54をフィードバック制御するX軸フィードバック制御ブロックである。55はX軸モータ54の出力としての回転角度である。56はX軸モータに供給される電流を示している。
60はY軸モータ64の目標角度であり、外部から位置決め制御装置に入力される。Y軸モータの目標角度は、第2の被駆動部材をY軸方向の目標位置に移動させるために必要なY軸モータの回転角度である。
61はY軸モータ64をフィードフォワード制御するY軸フィードフォワード制御ブロックである。62はY軸モータ64の参照角度(検出角度)であり、エンコーダ等の検出器によって検出される。63はY軸モータ64をフィードバック制御するY軸フィードバック制御ブロックである。65はY軸モータ64の出力としての回転角度である。66はY軸モータに供給される電流を示している。
X軸およびY軸フィードフォワード制御ブロック51,61とX軸およびY軸フィードバック制御ブロック53,63により制御手段が構成される。
本実施例では、X軸モータ54としてモータ電流[A]の指令に対するエンコーダでの角度[rad]の応答が1.762e+4/s2なる伝達関数を持つ簡易なモータモデルとしている。モータの出力軸には、移動させる被駆動部材(例えば、レーザ加工機ではミラー)が取り付けられ、これはモータの負荷となる。しかし、ここでは説明を簡易にするため、モータの負荷が無いものとし、モータの出力軸はその回転方向の運動に対してねじれ運動しない剛体とする。また、本実施例の位置決め制御装置は、デジタル制御によって2自由度制御を行う。
2自由度制御系でのX軸フィードフォワード制御の電流加算項の設計は、終端状態制御によるジャーク最小化軌道で設計した。X軸での参照角度はX軸フィードフォワード制御の電流加算項をモータモデルに入力し、その角度応答を求めた値を設定した。したがって、X軸フィードバック制御は、モータモデルとモータ実機が一致しているときは機能しない。ここではモータモデルとモータ実機が一致するものとして検討した。Y軸モータの制御についても同様である。
終端状態制御は、「ナノスケールサーボ制御」(東京電機大学出版局 P174〜178)に詳しく記載されており、制御対象に入力を与えて、システムの初期状態を有限時間で指定した終端状態に持っていく制御手法である。
制御対象であるモータのモデルを可制御なm次の離散時間システムとして下記のように定義する。
x[k+1]=Ax[k]+Bu[k]
ここで終端ステップ数NをN≧mとすると、制御入力u[0],u[1],…u[N−1]により、初期状態x[0]を終端状態x[N]に移動させることができる。
本実施例では、制御対象であるモータのモデルを伝達関数モデルから離散時間システムモデルへ変換して、モータへの電流指令をモータ加速度の1階微分の総和を最小化するいわゆるジャーク最小化軌道にて設計した。また、以下の説明では、X軸モータを単にX軸と、Y軸モータを単にY軸ともいう。
(制御則の条件1)
ここでは、X軸に角度移動量7e−3[rad]、Y軸に角度移動量3.5e−3[rad]の位置決めを行った例について説明する。
X軸の移動は、
初期状態での角度位置をx[0]=0[rad]
終端状態での角度位置をx[N]=7e−3[rad]
サンプリング周波数を150KHz
終端ステップ数Nを80
とした。終端ステップ数とは、終端状態に持っていくサンプリング回数のことである。
Y軸の移動は、
初期状態での角度位置をx[0]=0[rad]
終端状態での角度位置をx[N]=3.5e−3[rad]
サンプリング周波数を150KHz
終端ステップ数Nを57
とした。
モータ電流の時間応答波形を図4に示す。X軸の時間応答波形を点線で、Y軸の時間応答波形を実線で示す。また、X軸およびY軸の移動開始から目標位置までの整定波形を図5(a)に、目標位置付近の拡大した整定波形を図5(b)に示す。X軸の整定波形を点線で、Y軸の整定波形を実線で示す。また、横軸に時間[s]を、縦軸に目標位置と現在位置との差異(偏差)を示す。
X軸およびY軸に必要な位置決め精度をともに20[urad]とすると、図5(b)より、必要な位置決め精度に到達する位置決め時間Tx,Tyは、
Tx=500[usec]
Ty=350[usec]
である。
図6(a)にモータでの瞬間消費電力を示す。各時間でのモータでの瞬間消費電力は、下記の式で求められる。
【0011】
【数1】
【0012】
ただし、IM[A]はモータに供給される電流(モータ電流)である。
図6(b)にモータでの平均消費電力を示す。各時間Tでのモータでの平均消費電力は、時間0から時間Tまでの消費電力の時間平均と定義した。定義式は以下のとおりである。
【0013】
【数2】
【0014】
図7(a)にモータに電流を供給する電流アンプでの瞬間消費電力を示す。また、図7(b)に電流アンプでの平均消費電力を示す。電流アンプでの消費電力は以下のように求めた。
図2には、電流アンプの構成を示す。電流アンプは、モータの両端に1つずつ配置している。図2の上側の電流アンプからモータにモータ電流Imを供給し、図2の下側の電流アンプにモータ電流Imが流れ込む。
上側の電流アンプでの消費電力は、
Pp=Icc×(+Vs−(−Vs))+Im×(+Vs−Vp)
と表される。
また、下側の電流アンプでの消費電力は、
Pm=Icc×(+Vs−(−Vs))+Im×(Vm−(−Vs))
と表される。±Vsは電流アンプの電源電圧、Vpは上側の電流アンプの出力電圧、Vmは下側の電流アンプの出力電圧である。Iccは±Vs間に流れる回路電流である。
また、消費電力の計算において、回路電流Iccが+Vsから−Vsへ流れるが、IccはImに比べて十分小さいので、無視した。
また、Vp−Vmはモータの両端電圧であり、モータ電流にモータのインピーダンスを掛けたものと等しい。よって、
Vp−Vm=Im×(Rm+jwLm)
となる。
これより、2つの電流アンプでの消費電力は、下記の式で求められる。
【0015】
【数3】
【0016】
各時間Tでの電流アンプでの平均消費電力は、時間0から時間Tまでの電流アンプでの消費電力の時間平均と定義した。定義式は以下のとおりである。
【0017】
【数4】
【0018】
次に、上記位置決め動作を連続的に行ったときのモータおよび電流アンプでの消費電力について説明する。ここでは、レーザ加工機や工作機械においてモータを停止させた状態で加工や工作を行うことを想定して、X軸モータおよびY軸モータをその位置決め動作の完了後に100[usec]停止させる動作を連続的に行った場合について説明する。
前述したように、Tx=500[usec]、Ty=350[usec]とすると、X軸およびY軸の実動作時間(位置決め動作の完了までの時間)は、500[usec]である。そして、実動作時間と停止時間を合わせると、600[usec]となる。
この動作を連続的に行う場合、X軸モータおよびY軸モータでの平均消費電力は、図6(b)での時間600[usec]における平均消費電力から、それぞれ27[w]および18[w]となる。同様に、X軸の電流アンプおよびY軸の電流アンプでの平均消費電力は、図7(b)より、それぞれ900[w]および620[w]となる。
制御則の条件1においては、X軸の位置決め時間Txは500[usecc]、Y軸の位置決め時間Tyは350[usecc]であり、Y軸の位置決め時間TyがX軸の位置決め時間Txより30%短い。そこで、以下の条件2に示すようにY軸の制御則を見直し、X軸の位置決め時間以内で必要十分な実動作時間を設定した。
(制御則の条件2)
条件1と同じ移動量であるX軸の角度移動量7e−3[rad]およびY軸の角度移動量3.5e−3[rad]の場合について軸ごとに以下の制御則を適用した。この制御則の組み合わせを条件2とする。
X軸の移動は、
初期状態での角度位置をx[0]=0[rad]
終端状態での角度位置をx[N]=7e−3[rad]
サンプリング周波数を150KHz
終端ステップ数Nを80
とした。
Y軸の移動は、
初期状態での角度位置をx[0]=0[rad]
終端状態での角度位置をx[N]=3.5e−3[rad]
サンプリング周波数を150KHz
終端ステップ数Nを80
とした。
モータ電流の時間応答波形を図8に示す。X軸の時間応答波形を点線で、Y軸の時間応答波形を実線で示す。また、X軸およびY軸の移動開始から目標位置までの整定波形を図9(a)に、目標位置付近の拡大した整定波形を図9(b)に示す。X軸の整定波形を点線で、Y軸の整定波形を実線で示す。また、横軸に時間[s]を、縦軸に目標位置と現在位置との差異(偏差)を示す。
X軸およびY軸に必要な位置決め精度をともに20[urad]とすると、図9(b)より必要な位置決め精度に到達する位置決め時間Tx,Tyは、
Tx=500[usec]
Ty=490[usec]
である。
図10(a)にモータでの瞬間消費電力を示し、図10(b)にモータでの平均消費電力を示す。また、図11(a)に電流アンプでの瞬間消費電力を示し、図11(b)に電流アンプでの平均消費電力を示す。
次に、上記位置決め動作を連続的に行ったときのモータおよび電流アンプでの消費電力について説明する。前述したように、X軸モータおよびY軸モータの位置決め動作の完了後に100[usec]停止させる動作を連続的に行った場合について説明する。
前述したように、Tx=500[usec]、Ty=490[usec]とすると、X軸およびY軸の実動作時間(位置決め動作の完了までの時間)は、500[usec]である。そして、実動作時間と停止時間を合わせると、600[usec]となる。
この動作を連続的に行う場合、X軸モータおよびY軸モータでの平均消費電力は、図10(b)での時間600[usec]における平均消費電力から、それぞれ27[w]および7[w]となる。同様に、X軸の電流アンプおよびY軸の電流アンプでの平均消費電力は、図7(b)より、それぞれ900[w]および450[w]となる。
以上説明したように、
条件1では
X軸モータでの平均消費電力は27[w]
Y軸モータでの平均消費電力は18[w]
X軸電流アンプでの平均消費電力は900[w]
Y軸電流アンプでの平均消費電力は620[w]
となる。これに対し、条件2では
X軸モータでの平均消費電力は27[w]
Y軸モータでの平均消費電力は7[w]
X軸電流アンプでの平均消費電力は900[w]
Y軸電流アンプでの平均消費電力は450[w]
となる。すなわち、条件2の制御則を適用すれば、条件1の制御則を適用する場合と比較して、Y軸モータでの平均消費電力が18[w]から7[w]へと減少し、Y軸電流アンプでの平均消費電力は620[w]から450[w]へと減少する。
このように、本実施例では、X軸とY軸の移動量(目標位置)が互いに異なる場合に、両軸モータの実動作時間(終端状態制御系の設計で用いる終端ステップ数N)を、両軸のうち位置決め時間が長い方(ここではX軸)に合わせて設定する。これにより、両軸での目標位置への移動に要する時間を遅くすることなく、Y軸モータおよびY軸電流アンプの消費電力を低減することができる。この結果、Y軸モータおよびY軸電流アンプでの発熱を抑えることができる。
なお、上記実施例では、X軸とY軸の2軸のモータ(第1および第2のモータ)を用いる場合について説明したが、3軸以上のモータを用いてもよい。この場合、3軸以上のモータのうち位置決め時間が最も長いモータと他の2以上のモータとをそれぞれ、第1のモータおよび第2のモータと考えればよい。
さらに、他の実施例として、X軸モータおよびY軸モータの移動量と位置決め時間との関係を制御則ごとに予め求めて参照テーブルを作成しておく。そして、X軸およびY軸の移動指令に対して参照テーブルを参照することにより制御則を切り替えてもよい。終端状態制御系の設計では、電流指令の波形を生成するための計算時間がかかり、実時間で計算する上で問題となる場合があるが、予め計算しておくことにより、この問題を回避することができる。
また、切り換える制御則(条件)は、上記実施例にて説明したように2つに限らず、3つ以上の制御則を切り換えてもよい。
また、上記実施例では、X軸モータとY軸モータが同じ特性のモータである場合について説明したが、これらモータの特性は互いに異なっていてもよい。
さらに、上記実施例では、X軸モータおよびY軸モータに必要な位置決め精度を互いに同じ20[urad]とした場合について説明したが、互いに異なる位置決め精度を設定してもよい。
【実施例2】
【0019】
図12には、実施例1にて説明した位置決め制御装置を用いた工作機械としてのレーザ加工機を示す。
41はX軸モータ(第1のモータ)である。42はX軸ロータリエンコーダであり、43はX軸ミラー(第1の被駆動部材)である。45はY軸モータ(第2のモータ)である。46はY軸ロータリエンコーダであり、47はY軸ミラー(第2の被駆動部材)である。
30はレーザ加工機のコントローラ部であり、31はX軸およびY軸モータの目標位置(移動量)を指令するXY軸モータ位置指令部である。32はX軸モータおよびY軸モータに必要な位置決め時間を計算する位置決め時間計算部である。33はX軸モータおよびY軸モータの制御則を選択する制御則選択部である。40はX軸モータの制御系であり、44はY軸モータの制御系である。
コントローラ部30、XY軸モータ位置指令部31、位置決め時間計算部32、制御則選択部33および制御系40,44により位置決め制御装置が構成される。
34は加工用レーザ光であり、35は該レーザ光を発する加工用レーザ光ON/OFF部である。36はレーザ光による加工を受ける加工面である。
【0020】
コントローラ部30は、加工面36上におけるレーザ光の照射点の目標座標をXY軸モータ位置指令部31に与える。XY軸モータ位置指令部31は、レーザ光照射点を該目標座標に移動させるためのX軸ミラー43およびY軸ミラー47の目標位置(目標回転位置)に対応するX軸モータ41およびY軸モータ45の目標角度を計算する。そして、計算部32は、X軸およびY軸での位置決め時間Tx,Tyを求める。
制御則選択部33は、位置決め時間Tx,Tyの長短関係から両軸モータの制御則(条件)を選択し、X軸側の制御則および目標角度をX軸モータの制御系40に、Y軸側の制御則および目標角度をY軸モータ制御系44にそれぞれ入力する。
X軸モータ制御系40は、X軸ロータリエンコーダ42により角度を検出しながらX軸モータ41の動作を制御する。X軸ミラー43は、X軸モータ41によって回転され、レーザ光照射点をX軸方向の目標座標に移動させる。Y軸モータ制御系44は、Y軸ロータリエンコーダ46により角度を検出しながらY軸モータ45の動作を制御する。Y軸ミラー47は、Y軸モータ45によって回転され、レーザ光照射点をY軸方向の目標座標に移動させる。X軸モータ41およびY軸モータ45の動作、つまりはX軸方向およびY軸方向のレーザ光照射点の目標座標への移動は、同時に終了(完了)する。
こうしてレーザ光照射点が目標座標に移動された後、コントローラ部30は加工用レーザ光ON/OFF部35をONにして、加工用レーザ光34を出射させる。これにより、加工面36上に載置された被加工物が加工される。
このように実施例1にて説明した位置決め制御装置をレーザ加工機に用いることにより、モータおよび電流アンプの消費電力を低減し、モータおよび電流アンプの温度上昇を抑えつつレーザ加工機の生産性(スループット)を向上させることができる。
なお、本実施例ではレーザ加工機について説明したが、実施例1の位置決め制御装置は、半導体露光装置やドリル式穴あけ加工機等の工作機械において2軸のモータにより駆動されるXYステージの位置決め制御にも適用できる。XYステージのうち、例えばステージ部が第1の被駆動部材に相当し、ステージ部をX軸方向に移動させるX駆動ユニットの駆動源が第1のモータに相当する。また、X駆動ユニットが第2の被駆動部材に相当し、該X駆動ユニットをY軸方向に移動させるY駆動ユニットの駆動源が第2のモータに相当する。
また、上記各実施例では2つの回転式モータを用いた場合について説明したが、モータとしてはリニアモータを用いてもよいし、リニアモータと回転モータを組み合わせて使用してもよい。
以上説明した各実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、各実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0021】
各種工作機械における被駆動部材の目標位置への位置決め制御を行う位置決め制御装置を提供する。
【符号の説明】
【0022】
43 X軸ミラー
47 Y軸ミラー
41,54 X軸モータ
45,64 Y軸モータ
51 X軸フィードフォワード制御ブロック
53 X軸フィードバック制御ブロック
61 Y軸フィードフォワード制御ブロック
63 Y軸フィードバック制御ブロック
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の被駆動部材を移動させる第1のモータと、
第2の被駆動部材を移動させる第2のモータと、
前記第1および第2のモータのそれぞれに対して2自由度制御を行い、前記第1の被駆動部材を第1の目標位置に移動させ、前記第2の被駆動部材を第2の目標位置に移動させる制御手段とを有し、
該制御手段は、
前記第1の被駆動部材を前記第1の目標位置に移動させるために前記第1のモータの動作に必要な第1の時間と、前記第2の被駆動部材を前記第2の目標位置に移動させるために前記第2のモータの動作に必要な第2の時間とを求め、
前記第1および第2の被駆動部材をそれぞれ前記第1および第2の目標位置に移動させる際に、前記第1および第2のモータを、前記第1および第2の時間のうち長い方の時間で同時に動作させることを特徴とする位置決め制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の位置決め制御装置と、
前記第1および第2の被駆動部材とを有し、
前記第1および第2の被駆動部材を移動させて被加工物に対する加工を行うことを特徴とする工作機械。
【請求項1】
第1の被駆動部材を移動させる第1のモータと、
第2の被駆動部材を移動させる第2のモータと、
前記第1および第2のモータのそれぞれに対して2自由度制御を行い、前記第1の被駆動部材を第1の目標位置に移動させ、前記第2の被駆動部材を第2の目標位置に移動させる制御手段とを有し、
該制御手段は、
前記第1の被駆動部材を前記第1の目標位置に移動させるために前記第1のモータの動作に必要な第1の時間と、前記第2の被駆動部材を前記第2の目標位置に移動させるために前記第2のモータの動作に必要な第2の時間とを求め、
前記第1および第2の被駆動部材をそれぞれ前記第1および第2の目標位置に移動させる際に、前記第1および第2のモータを、前記第1および第2の時間のうち長い方の時間で同時に動作させることを特徴とする位置決め制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の位置決め制御装置と、
前記第1および第2の被駆動部材とを有し、
前記第1および第2の被駆動部材を移動させて被加工物に対する加工を行うことを特徴とする工作機械。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−123528(P2011−123528A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278179(P2009−278179)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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