説明

作業車両の原動機制御装置

【課題】燃費の向上を図りつつ掘削作業を効率的に行う。
【解決手段】アクセルペダル12aの操作量に応じて原動機1の回転速度を制御する回転速度制御手段1a,10と、原動機1の回転をトルクコンバータ2およびトランスミッション3を介して車輪6に伝達する走行駆動装置と、トルクコンバータ2の入力軸と出力軸の速度比eを検出する速度比検出手段14,15と、速度比検出手段14,15により検出された速度比eが、トルコン効率ηが所定値η1,η2以下となる制限速度比領域にあるときに、原動機1の最高回転速度を上限値Nmaxよりも低い制限回転速度Nsに制限する速度制限手段1a,10とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホイールローダ等の作業車両の原動機制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの回転をトルクコンバータを介してトランスミッションに入力するようにしたホイールローダ等の作業車両において、エンジン回転数を制限するようにした装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1記載の装置では、最高速度段を例えば2速に設定しているときに、この2速に対応した上限車速を超えないように車速の増加に伴いエンジン回転数を制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−107651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1記載の装置のように車速に応じてエンジン回転数を制限したのでは、効率的に作業を行うことができない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による作業車両の原動機制御装置は、アクセルペダルの操作量に応じて原動機の回転速度を制御する回転速度制御手段と、原動機の回転をトルクコンバータ(トルコン)およびトランスミッションを介して車輪に伝達する走行駆動装置と、トルクコンバータの入力軸と出力軸の速度比を検出する速度比検出手段と、速度比検出手段により検出された速度比が、トルコン効率が所定値以下となる制限速度比領域にあるときに、原動機の最高回転速度を上限値よりも低い制限回転速度に制限する速度制限手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、トルコン効率が低い速度比領域において、原動機の最高回転速度を制限するようにしたので、効率的に作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施の形態に係るホイールローダの側面図。
【図2】本発明の実施の形態に係る原動機制御装置の概略構成を示す図。
【図3】自動変速のタイミングを示す図。
【図4】トルコン効率の特性を示す図。
【図5】ペダル操作量と目標エンジン回転速度との関係を示す図。
【図6】本実施の形態の比較例としてのトルク特性を示す図。
【図7】本実施の形態の原動機制御装置によるトルク特性を示す図。
【図8】図2のコントローラにおける処理の一例を示すフローチャート。
【図9】速度制限オフ時の走行駆動力特性を示す図。
【図10】速度制限オン時の走行駆動力特性を示す図。
【図11】本実施の形態の比較例としての走行駆動力特性を示す図。
【図12】Vサイクルによる積み込み作業の一例を示す図。
【図13】ダンプへの積み込み作業の一例を示す図。
【図14】エンジン最高回転速度の時間変化の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図1〜図14を参照して本発明の実施の形態に係る作業車両の原動機制御装置について説明する。
図1は、本実施の形態に係る原動機制御装置が適用される作業車両の一例であるホイールローダの側面図である。ホイールローダ100は、アーム111,バケット112,タイヤ113等を有する前部車体110と、運転室121,エンジン室122,タイヤ123等を有する後部車体120とで構成される。アーム111はアームシリンダ114の駆動により上下方向に回動(俯仰動)し、バケット112はバケットシリンダ115の駆動により上下方向に回動(ダンプまたはクラウド)する。前部車体110と後部車体120はセンタピン101により互いに回動自在に連結され、ステアリングシリンダ(不図示)の伸縮により後部車体120に対し前部車体110が左右に屈折する。
【0009】
図2は、本実施の形態に係る原動機制御装置の概略構成を示す図である。エンジン1の出力軸にはトルクコンバータ2(以下、トルコン)の入力軸が連結され、トルコン2の出力軸は1速〜4速に変速可能なトランスミッション3に連結されている。トルコン2は周知のインペラ,タービン,ステータからなる流体クラッチであり、エンジン1の回転はトルコン2を介してトランスミッション3に伝達される。トランスミッション3は、その速度段を変速する液圧クラッチを有し、トルコン2の出力軸の回転はトランスミッション3で変速される。変速後の回転は、プロペラシャフト4,アクスル5を介してタイヤ6(図1の113,123)に伝達され、車両が走行する。
【0010】
なお、図示は省略するが、ホイールローダにはエンジン1よって駆動される作業用油圧ポンプが設けられ、油圧ポンプからの圧油がアームシリンダ114やバケットシリンダ115等のアクチュエータに供給されて、作業が行われる。
【0011】
コントローラ10は、CPU,ROM,RAM,その他の周辺回路などを有する演算処理装置を含んで構成される。コントローラ10には、アクセルペダル12aの操作量を検出するアクセル操作量検出器12と、ブレーキペダル13aの操作量を検出するブレーキ操作量検出器13と、トルコン2の入力軸の回転速度Niを検出する回転速度検出器14と、トルコン2の出力軸の回転速度Ntを検出する回転速度検出器15と、トランスミッション3の出力軸の回転速度、つまり車速vを検出する車速検出器16と、マニュアル変速モードと自動変速モードを選択する変速モード選択スイッチ7と、1速〜4速の間で速度段の上限を指令するシフトスイッチ8と、車両の前後進を指令する前後進切換スイッチ9と、エンジン回転速度の制限/非制限を選択する制限選択スイッチ18とが接続されている。
【0012】
トルコン2は入力トルクに対し出力トルクを増大させる機能、つまりトルク比を1以上とする機能を有する。トルク比は、トルコン2の入力軸と出力軸の回転速度の比であるトルコン速度比e(出力回転速度Nt/入力回転速度Ni)の増加に伴い小さくなる。例えばエンジン回転速度が一定状態で走行中に走行負荷が大きくなると、トルコン2の出力回転速度Nt、つまり車速が減少し、トルコン速度比eが小さくなる。このとき、トルク比は増加するため、より大きな駆動力(牽引力)で車両走行が可能となる。すなわち車速が遅いと駆動力は大きく(低速高トルク)、車速が速いと駆動力は小さくなる(高速低トルク)。
【0013】
トランスミッション3は、1速〜4速の各速度段に対応したソレノイド弁を有する自動変速機である。これらソレノイド弁は、コントローラ10からトランスミッション制御部11へ出力される制御信号によって駆動され、変速される。
【0014】
図3は、トランスミッション3による自動変速のタイミングを示す図である。自動変速制御には、図3(a)に示すようにトルコン速度比eが所定値に達すると変速するトルコン速度比基準制御と、図3(b)に示すように車速vが所定値に達すると変速する車速基準制御の2つの方式がある。本実施の形態では、トルコン速度比基準制御によりトランスミッション3の速度段を制御する。
【0015】
図3(a)に示すトルコン速度比基準制御では、走行負荷が小さくなりトルコン速度比eが増加して、トルコン速度比eが所定値e2’以上になると、速度段は1段シフトアップする。反対に、走行負荷が大きくなりトルコン速度比eが低下して、トルコン速度比eが所定値e1’以下になると、速度段は1段シフトダウンする。これによりトランスミッション3の速度段がトルコン速度比eに応じて1速〜4速の間で自動的に変更される。この際、シフトスイッチ8により選択された速度段を上限として自動変速される。例えばシフトスイッチ8により2速が選択されたときは速度段は1速または2速となり、1速が選択されたときは速度段は1速に固定される。
【0016】
なお、トルコン速度比基準制御ではなく車速基準制御によりトランスミッション3の速度段を制御してもよい。この場合、図3(b)に示すように、車速vが増加して所定値vS1,vS2,vS3に達すると、速度段が1段シフトアップし、車速vが減少して所定値vS4,vS5,vS6に達すると、速度段が1段シフトダウンする。
【0017】
コントローラ10には、予め変速の基準となるトルコン速度比e1’およびe2’と、エンジン回転速度制限の基準となるトルコン速度比e1(<e1’)およびe2(>e2’)が記憶されている。
【0018】
図4は、トルコン速度比eに対するトルコン効率ηの特性f1を示す図である。図4に示すように、特性f1は、略上に凸の放物線形状をなし、トルコン速度比eが小さい領域a(トルコン速度比eが0に近い領域)およびトルコン速度比eが大きい領域b(トルコン速度比eが1に近い領域)で効率ηが悪化する。本実施の形態では、速度比eの増加に伴い効率ηが増加する速度比eの小さい範囲、つまり特性f1が右上がりの範囲において、効率ηが所定値η1以下となる速度比を所定値e1に設定する。また、速度比eの増加に伴い効率ηが減少する速度比eの大きい範囲、つまり特性f1が右下がりの範囲において、効率ηが所定値η2以下となる速度比をe2に設定する。なお、η1とη2は互いに等しい値でもよく、異なった値でもよい。
【0019】
コントローラ10は、アクセルペダル12aの操作量に応じた目標エンジン回転速度Naにエンジン回転速度を制御する。図5は、ペダル操作量と目標エンジン回転速度Naの関係を示す図である。なお、図中、実線はエンジン回転速度の非制限、つまり速度制限オフの特性を、点線はエンジン回転速度の制限、つまり速度制限オンの特性をそれぞれ示す。目標エンジン回転速度Naは、エンジン回転速度の上限値Nmaxと下限値Nminの間で変更可能である。
【0020】
図5に示すようにアクセルペダル12aの非操作時には、目標エンジン回転速度Naは下限値Nminであり、ペダル操作量の増加に伴い目標エンジン回転速度Naは増加する。そして、速度制限オフ状態では、ペダル最大踏み込み時の目標エンジン回転速度Naは上限値Nmaxとなる。これに対し、速度制限オン状態では、目標エンジン回転速度Naの最大値が制限され、ペダル最大踏み込み時の目標エンジン回転速度Naは所定値Ns(<Nmax)となる。コントローラ10はこの目標エンジン回転速度Naに対応した制御信号をエンジン制御部1aに出力し、エンジン回転速度を目標エンジン回転速度Naに制御する。なお、目標エンジン回転速度Naの上限値Nmaxと所定値Naとの差である速度制限量ΔNは、例えばNmaxの10%程度に設定される。
【0021】
図6は、アクセルペダル12aを最大に踏み込んだときのエンジン回転速度とトルクの関係を示す走行性能線図(トルク線図)である。図中、特性f2はエンジン出力トルクを示す特性であり、特性f3はトルコン速度比eがそれぞれ0,e1,e1’,e2’,e2のときのトルコン2の入力トルクを示す特性である。なお、図の特性f4(点線)は、エンジン最高回転速度を図5の所定量ΔNだけ一律に制限したときのエンジン出力トルクの特性である。
【0022】
トルコン入力トルクはトルコン入力軸の回転速度Niの2乗に比例して増加し、トルコン速度比eが大きいほどトルコン入力トルクは小さくなる。特性f2と特性f3の交点はマッチング点であり、車両走行時のエンジン出力トルクおよびトルコン入力トルクはこのマッチング点の値となる。図6において、エンジン回転速度を所定量ΔNだけ制限すると、マッチング点が図の左側にずれ、エンジン回転速度を制限しない場合よりもトルコン入力トルクが低下する。ここで、トルコン入力トルク×トルコン入力軸の回転速度は、トルコン2の入力動力であり、エンジン出力に相当する。したがって、エンジン最高回転速度を制限することで、エンジン出力が低減し、燃費が向上する。
【0023】
しかし、エンジン最高回転速度を一律に制限したのでは、トルコン入力トルクが全体的に低下し、走行に使用できる動力(馬力)も低下する。このため、作業時の走行駆動力が不足し、実用上問題がある。この点を考慮して、本実施の形態では、トルコン速度比eに応じてエンジン回転速度を制限する。すなわち、図7に示すように、トルコン速度比eが所定値e1以下(e≦e1)および所定値e2以上(e≧e2)のトルコン効率ηが低い領域では、図の特性f5a(点線)および特性f5b(点線)に示すようにエンジン回転速度を制限し、トルコン速度比eがe1<e<e2のトルコン効率ηの高い実用域では、図の特性f5c(実線)に示すようにエンジン回転速度を制限しない。
【0024】
図8は、コントローラ10のCPUで実行される処理の一例、とくにエンジン回転速度制御に係る処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えばエンジンキースイッチのオンにより開始される。ステップS1では、図2の各種センサ12〜16およびスイッチ7〜9,18からの信号を読み込む。ステップS2では、予め記憶された図5のエンジン回転速度非制限の特性(実線)に基づき、アクセル操作量検出器12により検出されたペダル操作量に対する目標エンジン回転速度Naを演算する。
【0025】
ステップS3では、制限選択スイッチ18によりエンジン回転速度制限が選択されている否か、すなわち速度制限オンが選択されているか否かを判定する。ステップS3が肯定されるとステップS4に進み、否定されるとステップS7に進む。ステップS4では、回転速度検出器14,15からの信号によりトルコン速度比eを演算し、トルコン速度比eが所定値e1以下または所定値e2以上のいずれかであるか否かを判定する。ステップS4が肯定されるとステップS5に進み、否定されるとステップS7に進む。
【0026】
ステップS5では、ステップS2で演算した目標エンジン回転速度Naが予め定めた図5の所定値Ns以上であるか否かを判定する。ステップS5が肯定されるとステップS6に進み、否定されるとステップS7に進む。ステップS6では、目標エンジン回転速度Naとして所定値Nsを設定する。ステップS7では、エンジン制御部1aに制御信号を出力し、エンジン回転速度を目標エンジン回転速度Naに制御する。
【0027】
本実施の形態の動作をまとめると次のようになる。制限選択スイッチ18により速度制限オフが選択されると、エンジン1の最高回転速度は制限されず、ペダル最大踏み込み時のエンジン回転速度は上限値Nmaxに制御される(ステップS2→ステップS3→ステップS7)。この場合の車速vと走行駆動力Fの関係は図9に示すようになる。図中、特性f11〜f14はそれぞれ1速度段〜4速度段の特性であり、各速度段とも車速vの増加に伴い駆動力Fが減少する。特性f11とf12,f12とf13,f13とf14の交点はそれぞれ変速ポイントpa〜pcであり、この変速ポイントpa〜pcにおける速度比eはe1’またはe2’となる。
【0028】
一方、制限選択スイッチ18により速度制限オンが選択されると、速度比eがe≦e1およびe≧e2の範囲においてエンジン回転速度が制限され、ペダル最大踏み込み時のエンジン回転速度は所定値Nsとなる(ステップS6→ステップS7)。この場合の車速vと走行駆動力Fの関係は図10に示すようになる。図中、特性f21〜f24はそれぞれ1速度段〜4速度段の特性であり、特性f21〜f24上の点e11,e12,e13,e14ではそれぞれ速度比がe1、点e21,e22,e23,e24ではそれぞれ速度比がe2となる。なお、点線は図9の特性f11〜f14に相当する。
【0029】
この場合、速度比eがe≦e1およびe≧e2の範囲においては、図示のように走行駆動力Fが低下する。しかし、速度比eがe1<e<e2の範囲ではエンジン回転速度は制限されず(速度制限オフ)、走行駆動力Fの低下はない。したがって、例えばシフトスイッチ8により最高速度段として3速または4速が選択されている場合には、速度比がe1以下およびe2以上になる前にシフトアップまたはシフトダウンするため、走行時の駆動力の低下が抑えられる。その結果、走行加速性能の低下や登板走行時の速度低下を抑えることができ、走行性能を向上できる。
【0030】
なお、図11は本実施の比較例としての走行駆動力の特性を示す図である。図中、特性f11〜f14はエンジン回転速度を制限しない場合の特性であり、特性f31〜f34(点線)はエンジン回転速度を速度比eに拘わらず一律に制限した場合の特性である。図11に示すようにエンジン回転速度を一律に制限した場合には、車速vの全域で走行駆動力Fが低下する。このため加速性能の低下や登坂走行時の速度低下が問題となり、作業性能が悪化してかえって燃費の悪化をもたらす。
【0031】
一方、例えば図12に示すように山積みされた土砂130等に車両100を突っ込んでバケット内に取り込んだ後、車両100を後進して方向転換し、ダンプ140に向けて前進してバケット内の土砂をダンプ140に積み込む、いわゆるVサイクルによる積み込み作業においては、大きな走行駆動力Fが必要となる。したがって、シフトスイッチ8により最高速度段として1速または2速が選択される。この場合、速度比e<e1の範囲で最大駆動力Fは低下するが、駆動力Fの低下の範囲は狭いため、実用上問題はない。最大駆動力Fが低下することによってタイヤ6がスリップしにくくなり、地面が凹凸になりにくく、この点で作業効率の向上も図られる。
【0032】
また、ダンプ140への積み込み作業時には、通常、図13に示すように、作業員が2速状態でアクセルペダル12aをフルに踏み込みながらシリンダ114,115を操作してバケット122を上昇させつつ、ダンプ140に向けて車両100を前進させる。この場合、走行開始直後は走行負荷が高く、トルコン速度比がe1以下となってエンジン最高回転速度は制限されるが、走行開始後すぐに速度比がe1より大きくなり、エンジン最高回転速度の制限は解除されるので、車速vおよびバケット122の駆動速度を速くすることができる。
【0033】
その後、バケット122の位置がダンプ積みに適した位置まで上昇し、車両100がダンプ140に接近すると、作業員はアクセルペダル12aを戻し操作して車両を減速させる。このとき、速度比がe2以上になっていれば、エンジン最高回転速度が制限されるので、アクセルペダル12aを戻し操作しなくても車両を減速することができ、ダンプ140への積み込み作業が容易である。
【0034】
本実施の形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)トルコン速度比eがe1<e<e2範囲ではエンジン最高回転速度を制限せず(速度制限オフ)、トルコン速度比eがe1以下およびe2以上の範囲でエンジン最高回転速度を所定量ΔNだけ低減する(速度制限オン)ようにした。つまり、トルコン効率ηが高い実用域ではエンジン最高回転速度を制限せず、トルコン効率ηが低い領域で制限するようにした。これにより作業性の悪化の割合に比べて燃費の向上が著しく、効率的に作業を行うことができる。
(2)制限選択スイッチ18により速度制限オンが選択されると、速度比eがe1<e<e2範囲でエンジン最高回転速度を制限し、速度制限オフが選択されると、速度比eがe1<e<e2範囲であってもエンジン最高回転速度を制限しなようにした。これにより最大走行駆動力を必要とする作業を容易に行うことができる。
(3)所定値e1をシフトダウンの基準となる速度比e1’よりも小さい値に設定するとともに、所定値e2をシフトアップの基準となる速度比e2’よりも大きい値に設定した。これにより自動変速時にエンジン回転速度は制限されず、走行駆動力Fの低下を最小限に抑えることができる。
【0035】
なお、上記実施の形態では、図14の時点t0でトルコン速度比eがe1以下またはe2以上になると、エンジン最高回転速度をNmaxからNsに低減するようにしたが(実線)、図の点線に示すように時点t0〜t1にかけてエンジン最高回転速度を徐々に低減するようにしてもよい。また、図示は省略するが、トルコン速度比eがe1<e<e2の範囲内に変化した場合には、エンジン最高回転速度をNsからNmaxに徐々に増加するようにしてもよい。これにより走行性能が急激に変化することを防止でき、ショックの発生を防止できる。
【0036】
上記実施の形態では、トルコン速度比がe1(第1の所定値)以下およびe2(第2の所定値)以上の制限速度比領域のときにエンジン最高速度を制限するようにしたが、e1以下のときだけ、またはe2以上のときだけエンジン最高回転速度を制限するようにしてもよい。エンジン最高回転速度を制限するパターンとして、例えばトルコン速度比eがe1以下とe2以上の両方、e1以下のときのみ、e2以上のときのみの3パターンを設定し、選択スイッチによりいずれかのパターンを任意に選択可能としてもよい。
【0037】
トルコン効率ηの特性は図4に示したものに限らず、トルコン効率ηが所定値以下のときにエンジン最高回転速度を上限値Nmaxよりも低い制限回転速度Nsまで制限するのであれば、速度制限手段としてのコントローラ10における処理はいかなるものでもよい。エンジン1の回転をトルコン2およびトランスミッション3を介して車輪6に伝達する走行駆動装置の構成も図2に示したものに限らない。アクセルペダル12aの操作量に応じてエンジン回転速度を制御するのであれば、回転速度制御手段としてのコントローラ10とエンジン制御部1aの構成はいかなるものでもよい。回転速度検出器14,15によりトルコン速度比eを検出したが、速度比検出手段の構成はいかなるものでもよい。
【0038】
以上では、本発明をホイールローダに適用する例について説明したが、トルコン駆動の他の作業車両にも本発明は同様に適用可能である。すなわち、本発明の特徴、機能を実現できる限り、本発明は実施の形態の作業車両の原動機制御装置に限定されない。
【符号の説明】
【0039】
1 エンジン
1a エンジン制御部
2 トルクコンバータ
3 トランスミッション
10 コントローラ
14,15 回転速度検出器
18 制限選択スイッチ
Nmax 上限回転速度
Ns 制限回転速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセルペダルの操作量に応じて原動機の回転速度を制御する回転速度制御手段と、
前記原動機の回転をトルクコンバータ(トルコン)およびトランスミッションを介して車輪に伝達する走行駆動装置と、
前記トルクコンバータの入力軸と出力軸の速度比を検出する速度比検出手段と、
前記速度比検出手段により検出された速度比が、トルコン効率が所定値以下となる制限速度比領域にあるときに、前記原動機の最高回転速度を上限値よりも低い制限回転速度に制限する速度制限手段とを備えることを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の作業車両の原動機制御装置において、
前記エンジンの最高回転速度の制限/非制限を選択する選択手段をさらに備え、
前記速度制限手段は、前記選択手段により最高回転速度の制限が選択されると、検出された速度比が前記制限速度比領域にあるときに前記原動機の最高回転速度を制限し、前記選択手段により最高回転速度の非制限が選択されると、検出された速度比が前記制限速度比領域にあっても前記原動機の最高回転速度を制限しないことを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の作業車両の原動機制御装置において、
前記トルクコンバータは、速度比の小さい第1の領域で速度比の増加に伴いトルコン効率が増加し、速度比の大きい第2の領域で速度比の増加に伴いトルコン効率が減少する特性を有し、
前記速度制限手段は、前記第1の領域で検出された速度比が第1の所定値以下にあるとき、および前記第2の領域で検出された速度比が第2の所定値以上のときに、前記原動機の最高回転速度を制限することを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の作業車両の原動機制御装置において、
前記検出された速度比が前記第1の所定値よりも大きいシフトダウン速度比まで減少すると、前記トランスミッションの速度段をシフトダウンし、前記第2の所定値よりも小さいシフトアップ速度比まで増加すると、前記トランスミッションの速度段をシフトアップする自動変速手段を有することを特徴とする作業車両の原動機制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の作業車両の原動機制御装置において、
前記速度制限手段は、前記検出された速度比が前記制限速度領域に至ると、前記原動機の最高回転速度を前記制限回転速度まで徐々に変化させることを特徴とする作業車両の原動機制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−180848(P2010−180848A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−27275(P2009−27275)
【出願日】平成21年2月9日(2009.2.9)
【出願人】(000003241)TCM株式会社 (319)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)
【Fターム(参考)】