光ピックアップおよび光記録再生装置
【課題】対物レンズのアクセス範囲を拡大しても良好なトラッキング信号、ベリファイ用信号を得られる光ピックアップ、光記録再生装置を提供する。
【解決手段】光ピックアップ4は、光源6と、特定の方向に偏光した光を回折させる第1の回折素子8aと、回折によって生じた記録用ビーム、再生用ビームを光記録媒体2の同一トラック上に集束させる対物レンズ5と、トラッキング方向における初期位置からのシフト量の上限が0.3mm以上0.6mm以下になるように対物レンズ5をシフトさせるレンズアクチュエータ20と、波長板9と、前記特定の方向に直交する方向に偏光した光を回折させる2つの回折領域において、光記録媒体2で反射された記録用ビームを透過光ビーム、回折光ビームに分離する第2の回折素子8bと、透過光ビーム、回折光ビーム、および光記録媒体で反射された再生用ビームの各々を検出する複数の受光素子を有する光検出器12とを備える。
【解決手段】光ピックアップ4は、光源6と、特定の方向に偏光した光を回折させる第1の回折素子8aと、回折によって生じた記録用ビーム、再生用ビームを光記録媒体2の同一トラック上に集束させる対物レンズ5と、トラッキング方向における初期位置からのシフト量の上限が0.3mm以上0.6mm以下になるように対物レンズ5をシフトさせるレンズアクチュエータ20と、波長板9と、前記特定の方向に直交する方向に偏光した光を回折させる2つの回折領域において、光記録媒体2で反射された記録用ビームを透過光ビーム、回折光ビームに分離する第2の回折素子8bと、透過光ビーム、回折光ビーム、および光記録媒体で反射された再生用ビームの各々を検出する複数の受光素子を有する光検出器12とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光テープ等の光記録媒体に情報の記録を行いながら、記録された情報の再生を行う光ピックアップおよび光記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
保存用ストレージ用途に適した光記録再生装置として、光による高密度記録技術を活かした光テープ媒体に複数の光ピックアップで同時に記録再生をする光テープ装置が提案されている。例えば特許文献1は、そのような光テープ装置の例を開示している。
【0003】
一方、従来の磁気テープ装置では、記録するトラックには記録ヘッドと再生ヘッドとが個別に配置されている。データを記録しながら記録されたデータを再生して正しく記録されたかを検証(ベリファイ)することによって信頼性の確保と高速処理を両立している。
【0004】
光磁気(MO)ディスクや、ブルーレイディスク(BD)、DVD、CDといったディスク媒体へのデータの記録および再生を光ピックアップを用いて行う光記録再生装置においても、ベリファイを行う技術が知られている。そのような技術では、回折格子を用いてレーザ光源から出射した光ビームを分割し、0次光および±1次光の光ビームを記録層上に照射する。0次光の照射により記録が行われ、±1次光を検出することによりベリファイが行われる。このような技術はDRAW(Direct Read After Write)と呼ばれる。記録直後にエラーチェックを行うため、処理速度が速くなり、転送レートの高速化を図ることができる。DRAW技術を用いた記録再生装置は、例えば特許文献2に開示されている。
【0005】
光記録再生装置では、記録および再生動作中のフォーカス制御およびトラッキング制御を適切に行う必要がある。特に光記録媒体として光テープを用いる場合、トラックの特性が一般的な光ディスクとは異なるため、光テープのトラック特性に適したトラッキング制御が必要である。
【0006】
従来の光ディスク装置におけるトラッキング制御方式には、例えばプッシュプル法(PP法)、アドバンストプッシュプル法(APP法)、およびコレクトファーフィールド法(CFF法)が知られている。PP法、APP法、CFF法によるトラッキング制御は、それぞれ特許文献2〜4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−286070号公報
【特許文献2】特開平6−162532号公報
【特許文献3】特開平8−306057号公報
【特許文献4】特開2000−306262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の光記録再生装置では、例えば光テープのように、記録、再生時にトラック位置が大きく変動し得る光記録媒体に適したトラッキング信号を得ることができなかった。
【0009】
本開示は、例えば光テープのように、動作中のトラックの位置変動が比較的大きい光記録媒体に対してもトラッキング性能を安定化できる光記録再生装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示における光ピックアップは、光記録媒体のトラック上にデータを記録しながらトラック上に記録されたデータを読み出すことができる。光ピックアップは、光ビームを出射する光源と、特定の方向に偏光した光を回折させる第1の回折素子であって、光源から出射された光ビームを記録用ビームおよび再生用ビームを含む複数の光ビームに分離する第1の回折素子と、記録用ビームおよび再生用ビームを光記録媒体の同一トラック上に集束させる対物レンズと、フォーカス制御およびトラッキング制御のために対物レンズをシフトさせるレンズアクチュエータであって、トラッキング方向における対物レンズの初期位置からのシフト量の上限が0.3mm以上0.6mm以下になるように対物レンズをシフトさせるレンズアクチュエータと、第1の回折素子および光記録媒体の間に配置された波長板であって、第1の回折素子から波長板に向かう光の偏光方向と波長板から第1の回折素子に向かう光の偏光方向とが直交するように設計された波長板と、トラッキング方向に対応する方向に配列された回折特性の異なる2つの回折領域を有する第2の回折素子であって、各回折領域が、特定の方向に直交する方向に偏光した光を回折させるように構成され、各回折領域において、光記録媒体で反射された記録用ビームを、透過光ビームおよび少なくとも1つの回折光ビームに分離する第2の回折素子と、透過光ビーム、各回折領域から出射した回折光ビーム、および光記録媒体で反射された再生用ビームの各々を検出するように構成された複数の受光素子を有する光検出器とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示における技術によれば、例えば光テープのように、動作中のトラックの位置変動が比較的大きい光記録媒体に対しても、安定したトラッキング制御を実現できる。なお、本開示における技術は、光テープに限らず、光ディスクのような他の光記録媒体においても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態における光テープ装置の構成を示す図
【図2】実施の形態における光テープの一部を拡大して示す模式図
【図3】実施の形態における光テープ装置の回路構成例を示す図
【図4】実施の形態における光ピックアップの光学構成を示す図
【図5】実施の形態における光ピックアップの各部の機能を模式的に示す図
【図6】(a)は偏光ホログラム板8の斜視図、(b)は偏光ホログラム板8の偏光ホログラム素子8bの面を示す平面図
【図7】光テープのトラック上に形成されるメインスポットおよび2つのサブスポットの例を示す模式図
【図8】実施の形態における光検出器と検出回路の例を示す図
【図9】偏光ホログラム素子8bから出射する回折光が受光素子13、14にどのように入射するかを示す模式図
【図10】(a)は光駆動信号の例を示す図、(b)は記録マークの例を示す図、(c)はメインビームの後を走査するサブビームによる信号の例を示す図、(d)はメインビームに先行して走査するサブビームによる信号の例を示す図、(e)は2つの再生信号の差動によって得られる信号の例を示す図
【図11A】溝深さdおよびラジアルRim強度Rを変化させたときのTEバランスの変化についてのシミュレーション結果を示す図
【図11B】TEバランスの絶対値が15%以下に抑えられる溝深さの範囲bとラジアルRim強度Rとの関係を示すグラフ
【図12A】溝深さdおよびラジアルRim強度Rを変化させたときのTE振幅の変化についてのシミュレーション結果を示す図
【図12B】TE振幅が0.5以下に抑えられる溝深さの範囲aとラジアルRim強度Rとの関係を示すグラフ
【図13】スポットサイズ法によるトラッキング信号を得るための光検出器と検出回路を示す図
【図14】TEバランスの定義を示す図
【図15】(a),(b)はPP法においてレンズシフトに対するTEバランスとTE振幅を計算した結果を示す図、(c),(d)はAPP法においてレンズシフトに対するTEバランスとTE振幅を計算した結果を示す図、(e),(f)はCFF法においてレンズシフトに対するTEバランスとTE振幅を計算した結果を示す図
【図16】APP法によるトラッキング制御を行う光ピックアップの構成例を示す図
【図17】APP法によるトラッキング信号を得るための光検出器の構成例を示す図
【図18】CFF法によるトラッキング制御を行う光ピックアップの構成例を示す図
【図19】CFF法によるトラッキング信号を得るための光検出器の構成例を示す図
【図20】対物レンズの開口に入射する再生用ビームが中心からずれている様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成についての重複説明を省略する場合がある。これは、説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0014】
なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0015】
[1−1.全体構成]
図1は、本実施形態の光記録再生装置の構成例を示す図である。本実施形態における光記録再生装置は、光テープ2にデータを記録し、光テープ2からデータを再生することができる光テープ装置1である。光テープ装置1は、例えば、大量のデータのバックアップに使用され得る。光テープ装置1は、転送レートを上げ、短時間でバックアップを行うため、複数の光ピックアップ4を具備している。各光ピックアップ4により、光テープ2にデータを記録しながら、記録されたデータを読み出すDRAW動作が実現される。光ピックアップ4の数および配列は任意であるが、本実施形態では、12個の光ピックアップ4(P.U1〜P.U12)が光テープ2のトラック方向に交差する方向に配列されている。これにより、大容量のデータを複数のトラックに並行して記録、再生することができる。また、光テープ2は、順方向、逆方向のいずれの方向にも走行できるように構成されている。このため、光テープ2の末端まで記録または再生が完了した後、走行方向を逆転させることにより、先頭まで巻き戻すことなく記録または再生を継続することができる。
【0016】
光テープ2には、テープ状のフィルムに予めナノプリント技術によってサブミクロン(1μm未満)のピッチでトラック3が転写されており、その上に記録層や保護層が積層されている。トラック3はテープの走行方向とほぼ平行に形成される。図1では、見易さを考慮し、トラック3についてはその一部のみが描かれているが、実際には光テープ2の記録領域全体にわたってトラック3が形成されている。光テープ2の記録領域の幅Wは、例えば数mmから数cmの範囲内に設定され得る。また、光テープ2の厚さは数μmから数十μm程度に設定され、溝の深さは例えば1μm以下に設定され得る。
【0017】
12個の光ピックアップ4は、光テープ2の記録領域を幅方向に12等分した12個の記録ゾーンの各々に対応して1台ずつ固定されて配置されている。このため、各記録ゾーン内のトラックへのアクセスは、対物レンズ5の移動のみによって実行される。対物レンズ5は、トラックに垂直な方向(トラッキング方向)にシフトできるように、レンズアクチュエータ20によって駆動される。記録領域の幅Wを、例えば4.8mmとすると、各記録ゾーンの幅Tは、4.8mm/12=0.4mmである。この場合、対物レンズ5は、対応する記録ゾーンの中心を初期位置として、±0.2mmの範囲内でシフト可能に構成されていればよいとも考えられる。しかし、本実施形態では、後述するように、光テープ2の製造時の誤差やテープ走行時に発生する蛇行の影響等を考慮し、対物レンズ5は、最大で±0.3〜0.6mmの長い距離をシフトできるように構成されている。以下の説明では、対物レンズ5をトラッキング方向にシフトさせることを、「レンズシフト」と呼ぶことがある。
【0018】
図2は、光テープ2の一部を模式的に拡大して示す斜視図である。光テープ2は、例えばベースフィルム2a、ベースフィルム2aの裏面に張り付けられたバックコート層2b、およびベースフィルム2aに支持されたインプリント層2cを含む。インプリント層2cの上面には、ランド2dおよびグルーブ2eが形成されている。図面には記載されていないが、インプリント層2cの上面を覆うように反射膜および記録材料膜が積層される。光テープ2は、長尺方向Lに沿って延びており、例えば数百mの長さを有している。
【0019】
図2のスケールは、現実の光テープ2のサイズを忠実に反映していない。実際の光テープ2には、数百本またはそれ以上の本数のランド2dおよびグルーブ2eが形成され得る。データはランド2dおよびグルーブ2eの一方または両方に記録され得る。データが記録されるランド2dまたはグルーブ2eを「トラック」と称する。トラックのピッチは、例えば0.2〜0.4μmの範囲に設定され得る。以下の説明では、グルーブ2eにデータが記録されるものとする。このため、トラックのことを「トラック溝」と表現する場合がある。
【0020】
光テープ2には、光ビームの照射によって光学的にマークが形成され得る。より具体的に言えば、このようなマークは記録材料膜に形成される。光ビームの照射は、光源と、この光源から出射された光ビームを光テープ2にフォーカスさせる対物レンズ5とを含む光ピックアップ4によって行われる。光ピックアップ4が光テープ2に光ビームを照射すると、光テープ2上の照射領域と他の領域(非照射領域)との間で、反射率や屈折率などの光学特性が変化する。このようにして光学特性が変化した領域を「記録マーク」と称する。
【0021】
光テープ2に記録されているデータは、比較的弱い一定強度の光ビームを光記録媒体に照射し、光テープ2によって変調された反射光を検出することによって再生される。光テープ2にデータを記録する場合、記録すべきデータに応じて光パワーを変調したパルス状の光ビームを光テープ2に照射し、それによって記録材料膜の特性を局所的に変化させることによってデータの書き込みが行われる。
【0022】
記録材料膜にデータを記録するとき、上述のように光パワーを変調した光ビームを記録材料膜に照射することより、結晶質の記録材料膜に非晶質の記録マークを形成する。この非晶質の記録マークは、記録用光ビームの照射を受けた記録材料膜の一部が融点以上の温度に上昇した後、急速に冷却されることによって形成される。光ビームを記録マークに照射するときの光パワーを低めに設定すると、光ビームが照射された記録マークの温度は融点を超えず、急冷後に結晶質に戻る(記録マークの消去)。このようにして、記録マークの書き換えを何度も行うことが可能になる。データを記録するときの光ビームの光パワーの大きさが不適切であると、記録マークの形状が歪み、データを再生することが難しくなることがある。
【0023】
光テープ2に対してデータの記録または再生を行うとき、光ビームが目標トラック上で常に所定の集束状態となる必要がある。このためには、フォーカス制御およびトラッキング制御が必要となる。フォーカス制御およびトラッキング制御を行うためには、光テープ2から反射される光に基づいて、フォーカスずれやトラックずれを検知し、そのずれを縮小させるように光ビームスポットの位置を調整することが必要である。フォーカスずれおよびトラックずれの大きさは、それぞれ、光テープ2からの反射光に基づいて生成される「フォーカス誤差信号」および「トラッキング誤差信号」によって示される。フォーカス誤差信号およびトラッキング誤差信号は、各光ピックアップ4が備える光検出器から出力される。光テープ装置1が備える制御回路は、各光ピックアップ4の光検出器から出力されるフォーカス誤差信号およびトラッキング誤差信号に基づいて、各光ピックアップ4のフォーカス制御およびトラッキング制御を行う。なお、以下の説明では、フォーカス誤差信号およびトラッキング誤差信号を、それぞれ「フォーカス信号」および「トラッキング信号」と表現することがある。
【0024】
次に、光テープ装置1の回路構成例を説明する。図3は、本実施形態における光テープ装置1の回路構成を示すブロック図である。図示されている光テープ装置1は、複数の光ピックアップ4の集合である光ピックアップアセンブリ40および光テープ2を走行させるためのモータ506、507と、それらに電気的に接続されたフロントエンド信号処理部520、エンコーダ/デコーダ530、サーボ制御部550、ドライバアンプ560、およびCPU(システムコントローラ)540の回路ブロックを含んでいる。
【0025】
各光ピックアップ4の出力は、フロントエンド信号処理部520を介してエンコーダ/デコーダ530に送られる。エンコーダ/デコーダ530は、データ読み出し時には、各光ピックアップ4によって得られる信号に基づいて光テープ2に記録されているデータを復号する。エンコーダ/デコーダ530は、光変調回路531を含んでおり、データ書き込み時には、データを符号化し、光テープ2に書き込むべき信号(光駆動信号)を生成する。光駆動信号は、光変調回路531を介して各光ピックアップ4に入力される。この信号により、所望の記録マークが光テープ2のトラック上に形成されるように各光ピックアップ4の光源から出射される光ビームの強度が変調される。
【0026】
フロントエンド信号処理部520は、各光ピックアップ4の出力に基づいて再生信号を生成する一方、フォーカス誤差信号FEやトラッキング誤差信号TEを生成する。生成された再生信号は、エンコーダ/デコーダ530に送出され、フォーカス誤差信号FEおよびトラッキング誤差信号TEは、サーボ制御部550に送出される。サーボ制御部550は、ドライバアンプ560を介してモータ506、507を制御する一方、各光ピックアップ4内のレンズアクチュエータ20を介して対物レンズ5の位置を制御する。エンコーダ/デコーダ530およびサーボ制御部550などの構成要素は、CPU540によって制御される。図3に示される各回路ブロックは、例えば各部を構成する集積回路素子およびメモリなどの電子部品を回路基板上に搭載して実現することができる。
【0027】
[1−2.課題]
次に、光記録媒体として光テープ2を用いる場合に発生する課題と、これを解決するための光ピックアップ4の構成とを説明する。
【0028】
一般的な光ディスク装置と異なり、光テープ装置1では、各光ピックアップ4は、担当する記録ゾーンに対応する位置に固定されている。このため、対物レンズ5を移動させることによって所望のトラック3にアクセスする必要がある。しかし、以下に述べる光テープ装置固有の問題が生じるため、このことは容易ではない。
【0029】
光テープ2の製造には、長い短冊状のシートに連続してトラック溝を形成する工程が必要である。例えば、光テープ2は以下の工程によって製造され得る。まず、電子ビーム加工によって形成されたトラック溝の形状を有するシートを金属ロールに貼り付けたものを原盤として用意する。続いて、テープの材料であるフィルムをロール状に巻いた原反にUV硬化樹脂を塗布し、原盤である溝転写用の金属ロールを押付けてトラック溝を連続的に転写する。その後、UV硬化をさせることにより、テープにトラック溝が形成される。次に、トラック溝が形成されたテープ上にスパッタリング等の方法によって記録膜を形成し、さらにその上に保護膜を形成することによって光テープの原反が完成する。続いて、ロール状の光テープの原反を、スリッター加工によって例えば1/2インチ幅に連続的に切断することにより、一度に多数の光テープが製造される。
【0030】
以上の光テープの製作工程において、テープ材料の原反と原盤との転写の際の位置合わせ誤差や、原反の回転時に軸方向に揺れが発生することにより、テープ材料とトラック溝との転写位置のずれが発生し得る。また、スリッター加工時にも同様に、原反の回転軸方向に揺れが発生することにより、光テープ完成後、切断面であるテープエッジに対してトラック溝が平行にならず、トラック溝の位置に誤差が生じる場合がある。これらの誤差は、溝を必要としない磁気テープにおいては問題にはならない。また、円盤状のスタンパーで一体成型する光ディスクにおいても、これらの誤差は発生しない。これらは光テープ固有の問題である。
【0031】
また、テープ走行時には、テープガイドによってテープのエッジを基準に各トラックの位置が決まるため、光ピックアップの位置に対するトラック溝の位置変動(光テープの「ランアウト」と呼ぶ。)が発生する。この位置変動は、環境にもよるが、概ね±0.1〜0.3mm程度である。また、各光ピックアップ4が装置に固定されているため、記録ゾーン内の特定のトラックへのアクセスのために±0.2mm程度のレンズシフトが必要である。したがって、光テープの製造時の誤差を無視しても、トラックへの追従のために、合計で±0.3〜0.5mm程度の対物レンズのシフトが要求される。
【0032】
従来の光ディスク装置では、記録用ディスクについては±0.05mm程度、再生用ディスクについては±0.1mm程度の対物レンズの追随が必要とされ、設計としては±0.2mm程度の可動範囲を確保すれば十分であると考えられてきた。しかし、本実施形態のような光テープ装置では、光ディスク装置における可動範囲の1.5倍から2倍以上の極めて広い範囲に亘って対物レンズを移動させる必要がある。そこで、本実施形態では、トラッキング方向における対物レンズ5の初期位置からのシフト量の上限が0.3mm以上0.6mm以下になるようにアクチュエータ20によって対物レンズ5をシフトさせる。このシフト量の上限は、より好ましくは、0.35mm以上0.55mm以下の値に設定され、さらに好ましくは、0.4mm以上0.5mm以下の値に設定される。
【0033】
一方、DRAW機能を有する光ピックアップ4は、光源から出射される光ビームをメインビーム(記録用ビーム)およびサブビーム(再生用ビーム)を含む複数の光ビームに分岐して2つ以上の光スポットを光テープ2の同一トラック上に形成する。このため、光の有効利用の観点、およびスポット位置の調整上の問題を少なくして量産性を確保する観点から、トラッキング検出方法は1ビーム法が採用される。ここで、1ビーム法とは、メインビームのみを用いてトラッキング誤差信号を得る方法である。1ビーム法によるトラッキング検出方法として、例えばプッシュプル法(PP法)、アドバンストプッシュプル法(APP法)、およびコレクトファーフィールド法(CFF法)が知られている。しかし、これらの従来のトラッキング検出方法をそのまま適用した場合、以下の問題が生じる。
【0034】
図13は、PP法における光検出器の構成例を示す図である。光記録媒体で反射されたメインビームおよびサブビームは、光検出器上の受光素子212、213にそれぞれ光スポット214、215を形成する。ここで、対物レンズが移動すると、光検出器上の光スポット214は、例えば図13に示す破線の位置にシフトする。この光検出器上の光スポット位置のずれ量はレンズ移動量に比例する。光スポットの位置がずれると、トラッキング誤差信号の対称性が損なわれ、その非対称性の程度(以下、「TEバランス」と呼ぶ。)に応じてトラッキング誤差信号が本来の値からずれてしまう。ここで、TEバランス(%)は、図14に示すように、トラッキング誤差信号の正の振幅をAとし、負の振幅をBとしたとき、(A−B)/2(A+B)×100で表される量として定義される。
【0035】
図15(a)、(b)は、PP法におけるレンズシフト量に対するTEバランスおよびトラッキング信号振幅(以下、「TE振幅」と呼ぶ。)を計算した結果をそれぞれ示す図である。図15において、TE振幅は、レンズシフト量が0mmのときの値を1として規格化されたTE信号の振幅を表す。ここで、計算条件は、波長:0.405m、対物レンズの開口数(NA):0.85、トラック溝のピッチ:0.32μm、トラックの溝深さ:0.04μm、ラジアルRIM強度:0.6である。なお、ラジアルRim強度は、対物レンズの開口に入射する光の開口中心における強度に対する開口端における強度の比率を示す。すなわち、中心における強度と開口端における強度とが同じであるとき、ラジアルRim強度は1となる。ラジアルRim強度は、絞りの程度を表し、開口の大きさや、コリメートレンズと光源との距離等によって変動する。
【0036】
振動などの外乱を考慮すると、トラッキング制御が安定でトラック飛びが発生しにくいオフトラック量は、トラックピッチの5%程度までであり、TEバランスは15%以下に抑える必要がある。PP法ではレンズシフトが0.05mmのときTEバランスが15%となる。レンズシフトをさらに大きくして±0.5mmにするとTEバランスは200%以上となる。このような状態では、トラッキング制御が全くできないか、あるいはすぐにトラック飛びが発生するなど、実際の装置に適用することはできない。したがって、本実施形態のような光テープ装置1には、PP法は採用できない。
【0037】
次に、レンズシフト時のTEバランスの劣化を改善したAPP法における問題点を説明する。図16は、APP法を適用した光ピックアップの光学構成の例を簡略化して示す模式図である。図16では、光源、コリメートレンズその他の光学系の図示は省略されている。光記録媒体301からの反射光304は対物レンズ302を透過して光検出器303に入射する。
【0038】
図17は、光検出器303およびその検出回路を図16における矢印Aの方向に見た図である。光検出器303は、トラッキング方向に対応する方向に2分割され、さらにトラック方向に対応する方向に3分割されている。すなわち、光検出器303は、6個の受光セルC1〜C6を有している。
【0039】
APP法では、レンズシフトに伴うトラッキング信号のオフセットを軽減するために、トラッキング信号成分が少ない周辺部にあたる受光セルC1、C3、C4、C6の出力をPP法とは逆符号にして差動演算が行われる。すなわち、受光セルC1〜C6から出力される信号をそれぞれc1〜c6とすると、図17に示すように、トラッキング信号は、(c2−c5)+k(c4+c6)−k(c1+c3)で表される。この演算により、レンズシフト時のDC成分のオフセットがキャンセルされ、オフセットの少ないトラッキング信号が得られる。
【0040】
図15(c)、(d)は、上記のPP法におけるシミュレーションと同じ条件で、APP法におけるレンズシフト量に対するTEバランスおよびTE振幅を計算した結果をそれぞれ示す図である。なお、APP法によるトラッキング信号の演算式におけるk値は、TEバランスが最も小さくなる値に設定して計算した。図15(c)に示すように、TEバランスは、レンズシフト±0.4mmまでは安定しているように見え、±0.5mmでも許容範囲内にあると言える。しかし、図15(d)に示すように、TE振幅はレンズシフト量とともに急激に低下する。TE振幅は、レンズシフト0.15mmで約30%低下し、レンズシフト0.5mmでは90%以上も低下する。これは、レンズシフト量に応じて、光ディスクからの反射光が検出用ホログラムに対して位置がずれて入射するため、トラッキング信号成分が検出器に入射する光量が減少するためである。このように、APP法では、TE振幅の変動が大きいため、トラッキング制御のループゲインが大きく変化して不安定となる。このため、APP法も0.5程度のレンズシフト量が要求される光テープ装置に適用することはできない。
【0041】
次に、CFF法を適用した場合のシミュレーション結果を説明する。図18は、CFF法を適用した光ピックアップの光学構成の例を簡略化して示す模式図である。なお、図18でも、光源、ビームスプリッタその他の光学系の図示は省略されている。また、図19は、光検出器405、406および検出回路を図18における矢印Aの方向に見た図である。
【0042】
光記録媒体401からの反射光は、対物レンズ402を透過して、検出ホログラム404に入射する。検出ホログラム404は、トラッキング方向に分割された回折特性の異なる2つの領域を有している。このため、検出ホログラムに入射した光は、各領域でそれぞれ回折され、それらの回折光は光検出器405、406にそれぞれ導かれる。光検出器405、406には、検出ホログラム404によって分離された反射光が導かれるので、PP法のようにレンズシフトによる反射光の強度の増減が少なく、比較的安定した出力が得られる。
【0043】
図15(e)、(f)は、上記のシミュレーションと同じ条件で、CFF法におけるレンズシフト量に対するTEバランスおよびTE振幅を計算した結果をそれぞれ示す図である。図15(f)に示すように、レンズシフト0.5mmにおける振幅変動は−10%以内であり、比較的安定している。しかし、図15(e)に示すように、レンズシフト0.12mm付近まではTEバランスが15%以内に抑えられているが、それ以上ではTEバランスが15%を超え、0.5mmではTEバランスが62%程度に増加する。したがって、この条件下では、CFF法においてもレンズシフト量の増加に伴い、トラッキング信号のオフセットが大きくなるため、0.5mm程度のレンズシフトが要求される光テープ装置に適用することはできない。
【0044】
一方、DRAWのために回折格子を用いて光源から出射された光ビームをメインビームおよびサブビームに分岐させる構成では、サブビームがメインビームに対して斜めに進むことに起因する再生能力の低下の問題が発生する。0次光であるメインビームは光源から直進して対物レンズの開口に入射するが、1次以上の回折光であるサブビームは、メインビームに対して回折角の分だけ斜めに進み、対物レンズの開口に入射する。このため、メインビームは対物レンズの開口全体に入射するが、図20に示すように、サブビーム210は開口207全体には入射せず、開口207にサブビームが入射しない部分が生じる。この状況は、実質的に対物レンズのNAが小さくなったことと等価である。このように、サブビームは、メインビームのようには充分絞れず、再生能力が低下するという問題が生じる。
【0045】
本発明者らは、上記の課題を新たに見出し、光テープ2のようなトラック位置の変動が大きい光記録媒体にも安定して記録および再生を可能にする光ピックアップを完成させた。以下、本実施形態の光テープ装置1における光ピックアップ4の構成および動作をより具体的に説明する。
【0046】
[1−3.光ピックアップの構成]
図4は、光ピックアップ4の光学構成を模式的に示す図である。光ピックアップ4は、光源6、偏光ビームプリッタ11、コリメートレンズ(コリメータ)7、対物レンズユニット18、レンズアクチュエータ20、および光検出器12を備えている。対物レンズユニット18は、対物レンズホルダー10に支持された偏光ホログラム板8、1/4波長板9、および対物レンズ5を備えている。
【0047】
光源6は、半導体レーザ光源であり、図3に示されている光変調回路531から入力される光駆動信号に応答して、強度変調された光ビームを出射するように構成されている。これにより、記録すべきデータに応じて強度が変調された光ビームが光源6から出射される。
【0048】
偏光ビームスプリッタ11は、特定の偏光方向の光のみを反射させ、その他の光を透過させる光学素子であり、光源6から出射された光ビームを光テープ2に導くとともに、光テープ2から反射された光ビームを光検出器12に導く。コリメータ7は、偏光ビームスプリッタ11で反射された光ビームを平行光に変換する。
【0049】
本実施形態では、対物レンズ5、偏光ホログラム板8、波長板9が、対物レンズユニット18として一体化されている。対物レンズユニット18は、レンズアクチュエータ20によって光テープ2の記録面に垂直な方向(フォーカス方向)および記録面に平行かつトラックに垂直な方向(トラッキング方向)に移動可能に構成されている。より具体的には、レンズアクチュエータ20が備えるフォーカスコイル、トラッキングコイル、およびバネまたはワイヤー等の弾性部材により、フォーカスコイルおよびトラッキングコイルに印加された電圧に応じて対物レンズユニット18が移動する。レンズアクチュエータ20によるこのフォーカス制御およびトラッキング制御は、図3に示されているサーボ制御部550によって制御される。
【0050】
図5は、光ピックアップ4の各部の機能を説明するために図4の構成の一部を簡略化して示す模式図である。図5では、図4に示す構成要素のうち、光源6および偏光ビームスプリッタ11の記載は省略されている。また、対物レンズユニット18、コリメータ7、および光検出器12の相互の間隔が図4に示す構成よりも短く表されている。
【0051】
偏光ホログラム板8は、特定の方向に偏光した光を回折させる回折格子8aが設けられた面と、当該方向に垂直な方向に偏光した光を回折させる2つの回折領域を有する偏光ホログラム素子8bが設けられた面とを有している。偏光ホログラム素子8bにおける当該2つの回折領域は、トラッキング方向に偏光ホログラム素子8bを2分するように設けられている。
【0052】
回折格子8aは、光源6から出射された光ビームを回折させ、0次回折光および±1次回折光を含む複数の回折光を発生させる。本実施形態では、0次回折光が記録用のメインビームとして用いられ、±1次回折光が再生用のサブビームとして用いられる。メインビームおよびサブビームは、対物レンズ5によって光テープ2の同一トラック上に集束される。ホログラム領域8bは、光テープ2の記録面から反射された光ビームを回折して0次回折光ビーム(透過光ビーム)および±1次回折光ビームを含む複数の光ビームを発生させる。
【0053】
図6(a)、(b)は、偏光ホログラム板8の構造を模式的に示す図である。図6(a)は、偏光ホログラム板8の斜視図であり、図6(b)は偏光ホログラム板8を図6(a)における矢印の方向に見たときの平面図である。回折格子8aは、往路(光源から光テープに向かう経路)の光ビームに対してのみ回折格子として機能し、復路(光テープから光検出器に向かう経路)の光ビームに対しては透明媒質として機能するように設計されている。一方、偏光ホログラム8bは、往路の光ビームに対しては透明媒質として機能し、復路の光ビームに対しては回折領域A、Bの各々において、入射光を回折させるように設計されている。
【0054】
図4に示すように、光源6の半導体レーザから出射された光ビームは、偏光ビームスプリッタ11で反射され、コリメータ7を透過することによって平行光になる。この平行光は、対物レンズホルダー10に固定された偏光ホログラム板8の一方の面の回折格子8aによってメインビームと2つのサブビームとに分岐する。回折格子8aから出射したメインビームおよび2つのサブビームは直線偏光であるが、1/4波長板9を透過することにより、円偏光または楕円偏光になる。1/4波長板9を透過したメインビームおよび2つのサブビームは、対物レンズ5により集光され、光テープ2のトラック上にメインスポットと2つのサブスポットとを形成する。光テープ2上の各光スポットからの反射光は、対物レンズ5を透過後、1/4波長板9の作用により、往路の光ビームに対して偏波面が90度回転した直線偏光に変換される。このため、図5に示す偏光ホログラム板8の回折格子8aにおいては反射光は回折せずに透過する。一方、回折格子8aの対向面に配置された偏光ホログラム素子8bでは回折が生じ、メインビーム、サブビームの各々について、0次回折光ビームおよび±1次回折光ビームが発生する。これらの回折光のうち、領域A、Bの各々に入射したメインビームから生じた+1次回折光ビームおよび−1次回折光ビームの一方は、トラッキング誤差信号生成のために用いられる。領域A、Bの各々に入射したメインビームから生じた+1次回折光ビームおよび−1次回折光ビームの他方は、フォーカス誤差信号生成のために用いられる。
【0055】
トラッキング方向に2分割されたホログラムパターン(領域A、B)によりメインビームから生じた0次回折光ビームおよび±1次回折光ビーム、ならびに光テープ2によって反射された2つのサブビームは、光検出器12に設けられたそれぞれに対応する受光素子に入射する。これらの受光素子から出力される電気信号に基づいて、トラッキング誤差信号、フォーカス誤差信号、DRAW用の再生信号が得られる。このように、偏光ホログラム板8は、トラック方向に直交する回折格子8aのパターンによってDRAW用のサブビームを生成するとともに、CFF法によるトラッキング誤差信号検出用の回折ビームも生成するという2つの機能を有している。
【0056】
図7は、光テープ2上に形成される光スポットの配置例を示す模式図である。光ピックアップ4の光学系は、回折格子8aから出射したメインビームおよび2つのサブビームによって、メインスポット110および2つのサブスポット120a、120bが、光テープ2の同一トラック上にそれぞれ形成されるように調整されている。メインスポット110における光量が記録パワーに設定されたとき、サブスポット120a、120bは信号再生に適した光量になるように、偏光ホログラム板8の回折格子8aの回折効率が設計されている。矢印aの方向に光テープ2への記録が行われている時には、第1のサブスポット120aにより、記録直後のマークが読み出される。一方、矢印aとは逆の方向に記録が行われている時には、第2のサブスポット120bにより、記録直後のマークが読み出される。このように、本実施形態における光ピックアップ4は、光テープ2がいずれの方向に走行している場合でもDRAWが実行できるように構成されている。
【0057】
本実施形態では、回折格子8aと対物レンズ5とが対物レンズホルダー10によって近接した状態で固定されているため、2つのサブビームは、対物レンズ5の開口の中心からそれほどずれることなく、開口を通過する。このため、従来の構成とは異なり、回折角と距離により対物レンズ5の開口にサブビームが入射しない部分が発生するという問題が発生しない。したがって、本実施形態によれば、メインスポットと同様に2つのサブビームもよく絞れ、その結果、再生能力の高いDRAW用のビームを発生させることができる。
【0058】
図8は、光検出器12の構成例および生成される信号を模式的に示す図である。図8には、光検出器12が光テープ2からの反射光を受光して、各種の信号を検出している状況が示されている。光検出器12は、受光素子13〜17を備えており、それらの出力に基づいて、各種の信号が生成される。図8に示す例では、トラッキング検出方式としてCFF法を、フォーカス検出方式としてスポットサイズ検出法を採用している。
【0059】
光テープ2上に形成される2つのサブスポット120a、120bからの反射光のうち、偏光ホログラム素子8bを透過した光(0次回折光)は、それぞれ受光素子15、16に入射する。受光素子15、16からそれぞれ出力される信号は、DRAW用の再生信号として利用される。受光素子15、16の出力のうち、いずれの出力をDRAW用の再生信号として利用するかは、光テープ2の記録方向に依存する。本実施形態では、光テープ2の記録方向に応じて受光素子15、16の出力のいずれを利用するかを切り換えられるように構成されている。
【0060】
一方、光テープ2のトラック上に形成されたメインスポット110からの反射光のうち、偏光ホログラム素子8bを透過した光(0次回折光)は、受光素子17に入射する。図8には表されていないが、受光素子17の出力は、DRAWを行わない再生モードにおける再生信号として利用され得る。
【0061】
光テープ2のトラック上に形成されたメインスポット110からの反射光のうち、偏光ホログラム素子8bによって回折された+1次光は、中央部と周辺部とに2分割された受光素子14に入射する。受光素子14は、スポットサイズ法によるフォーカス信号を生成するように、中央部の出力と周辺部の出力との間で差動演算が行われる。
【0062】
一方、メインスポット110からの反射光のうち、偏光ホログラム素子8bの領域A、Bによって回折された−1次光は、2分割された受光素子13の領域13a、13bにそれぞれ入射する。これらの領域13a、13bから出力される信号の差動出力により、CFF法によるトラッキング信号が生成される。
【0063】
図9は、偏光ホログラム素子8bの回折領域A、Bの各々から出射する±1次回折光が、受光素子13、14にどのように入射するかをより具体的に示す模式図である。図9において、偏光ホログラム板8および受光素子13、14以外の要素の記載は省略されている。図示されるように、偏光ホログラム素子8bの領域A、Bから出射する+1次回折光は、受光素子14の左側および右側にそれぞれ光スポットを形成する。フォーカス状態に応じてこれらの光スポットのサイズが変化するため、上記の演算によってフォーカス信号が得られる。一方、偏光ホログラム素子8bの領域A、Bから出射する−1次回折光は、受光素子13の左側領域13aおよび右側領域13bにそれぞれ光スポットを形成する。トラックずれが発生すると、これらの光スポットの左右のバランスが変化するため、上記の演算により、トラッキング信号が得られる。なお、この例では+1次回折光が受光素子14に入射し、−1次回折光が受光素子13に入射するように領域A、Bのホログラムパターンが設計されているが、この例に限定されない。すなわち、領域A、Bは、+1次回折光を受光素子13に導き、−1次回折光を受光素子14に導くように構成されていてもよい。また、各受光素子のレイアウトは、偏光ホログラム素子8bのホログラムパターンに応じて適宜変更してもよい。偏光ホログラム素子8bおよび受光素子13は、CFF法によるトラッキング信号が得られれば、どのように構成されていてもよい。
【0064】
次に、受光素子15、16から出力される再生信号を用いてベリファイを行う方法の例を説明する。未記録の光テープ2にデータを記録する場合、受光素子15、16の出力の差動をとり、その差動信号を光駆動信号と比較することによってベリファイが可能である。この点について、図10を参照しながら説明する。
【0065】
図10(a)は、光駆動信号の波形の例を示している。図10(b)は、トラック上に形成される記録マークの形状を模式的に示している。記録マークは、光駆動信号がハイレベルにある期間にメインスポット110が位置していた領域に形成される。
【0066】
図10(c)および(d)は、それぞれ、メインビームに続いて光テープ2を照射するサブビーム(「後のサブビーム」と呼ぶ。)の反射光の信号波形およびメインビームに先行して光テープ2を照射するサブビーム(「先のサブビーム」と呼ぶ。)の反射光の信号波形を示している。図10(c)からわかるように、後のサブビームの反射光の波形は、光駆動信号によって変調された光ビームのスポットが記録マークの存在するトラックを移動したことにより、記録マークの影響を受けている。一方、図10(d)に示されるように、先のサブビームの反射光の波形は、光駆動信号によって変調された光ビームのスポットが記録マークの存在しないトラックを移動したことにより、記録マークの影響を受けていない。
【0067】
図10(e)は、先のサブビームの反射光の信号から、後のサブビームの反射光の信号を差し引いた信号の波形を示している。この波形は、記録マークの位置および形状を反映した情報、即ち記録されたデータの情報を含んでいる。この信号を光駆動信号と比較すれば、データが正しく記録されたか否かが判定できる。この判定処理は、例えば図3に示されるCPU540によって実行され得る。
【0068】
なお、本実施形態では、2つのサブビームからの反射光の検出信号の差動によってベリファイ用の信号を生成しているが、この例に限定されない。例えば、光源6から出射されて光テープ2で反射されるまでの光ビームを検出する光検出器を設けた場合、その光検出器による検出信号を用いてベリファイを行うことが可能である。すなわち、後のサブビームの信号を、当該光検出器から出力される信号またはそれを必要に応じて補正した信号で作動することにより、上記と同様のベリファイ用信号が得られる。そのような光検出器は、例えばビームスプリッタ11に対して光源6の反対側に配置され得る。このような構成では、先のサブビームの信号は利用されない。このため、光テープ2の走行方向が逆転せず、常に一方向にのみ走行するように装置が構成されている場合、先のサブビームが光テープ2のトラック上に集束されなくてもよい。
【0069】
[1−4.安定したトラッキング信号を得るための条件]
本実施形態で用いられるCFF法は、1ビームトラッキング検出法の中では、TEバランスが比較的安定しており、オフセットが発生しにくいとされる。しかし、上記のシミュレーションでは、光テープに要求されるレンズシフト±0.3〜0.6mmでTEバランス15%以内という条件を満たすことができなかった。
【0070】
本発明者らは、トラック溝のパラメータとトラッキング信号のオフセットに影響を与えるパラメータの値を変化させて、レンズシフトした際のトラッキング信号の挙動についてのシミュレーションを行った。そして、レンズシフトしても安定したトラッキング信号が得られる条件を見出した。以下、当該条件を説明する。
【0071】
計算条件は、対物レンズNA:0.85、レンズシフト0.5mm、光源の波長λ、トラックの溝ピッチ:0.8λとして、ラジアルRim強度R、トラックの溝深さdを変化させた際のトラッキング信号について計算した。その計算結果を、図11A〜図12Bに示す。
【0072】
図11Aは、溝深さdを0〜0.5λ、ラジアルRim強度を0.6、0.76、0.85、0.89と変化させた際のレンズシフト−0.5mm時のTEバランス(%)を示す。TEバランスの変化は、溝深さ0.25λを中心に対称に変化している。図示していないが、レンズシフト+0.5mmのTEバランスは、図11AのTEバランス0%軸を基準に対称な曲線で表される。各Rim強度におけるTEバランス曲線とTEバランス−15%の線との2つの交点の間の幅bを、b_1、b_2、b_3、b_4(λ)と表す。この幅bの範囲においては、レンズシフト0.5mmでTEバランス(絶対値)≦15%を維持できる範囲を示している。図11Bは、ラジアルRim強度と幅bとの関係をグラフにプロットしたものである。このグラフから次の近似式が得られる。
b=1.2R2-R+0.395
【0073】
幅bは、溝深さ0.25λを中心とする対称な領域の幅であるため、溝深さd(λ)、ラジアルRim強度R、および波長λが満たすべき条件は、以下の式(1)で表される。
0.25λ−(1.2R2-R+0.395)λ/2≦d≦0.25λ+(1.2R2-R+0.395)λ/2 (1)
【0074】
本式は、レンズシフト0.5mmにおいてもTEバランス(絶対値)≦15%を満たす溝深さd、ラジアルRim強度R、および波長λの条件を示している。
【0075】
次に、図12Aおよび図12Bを参照しながら、TE振幅についてのシミュレーション結果を説明する。図12Aは、図11A、図11Bに示す計算と同様の条件で、溝深さdを0〜0.5λ、ラジアルRim強度を0.6、0.76、0.85、0.89と変化させた際のレンズシフト0.5mm時のTE振幅の変化を表すグラフである。基準はラジアルRim強度が1でレンズシフト0mm時のTE振幅を1としている。TE振幅は、溝深さ0.125λおよび0.375λをピークに溝深さの変化に伴い振幅が減少する。特に振幅0.5を下回るところからは急激に振幅が低下し、0.25λでTE振幅がほぼ0になる。したがって、本実施形態では、TE振幅が充分大きく安定する領域としてTE振幅≧0.5を満たすべき条件に設定した。各Rim強度におけるTE振幅曲線とTE振幅0.5の線との2つの交点の間の幅aを、a_1、a_2、a_3、a_4と表す。この幅aは、レンズシフト0.5mmでTE≧0.5を維持できる範囲の幅を示している。
【0076】
図12Bは、ラジアルRim強度と幅aとをグラフにプロットしたものである。このグラフから次の近似式が得られる。
a=-0.2R2+0.45R-0.085
【0077】
幅aは、溝深さ0.125λを中心とする対称な領域の幅であるため、溝深さd(λ)、ラジアルRim強度R、および波長λが満たすべき条件は、以下の式(2)で表される。
0.125λ−(-0.2R2+0.45R-0.085)λ/2≦d≦0.125λ+(-0.2R2+0.45R-0.085)λ/2 (2)
【0078】
また、TE振幅≧0.5を満たす領域は、溝深さ0.375λを中心とする対称な領域にもあるので、同様に溝深さd(λ)、ラジアルRim強度R、および波長λが満たすべき条件は、以下の式(3)で表される。
0.375λ−(-0.2R2+0.45R-0.085)λ/2≦d≦0.375λ+(-0.2R2+0.45R-0.085)λ/2 (3)
【0079】
式(2)と式(3)は、レンズシフト0.5mmにおいてもTE振幅≧0.5を満足できる溝深さd、ラジアルRim強度R、および波長λの条件を示している。
【0080】
以上より、上記式(1)および式(2)の両式、または上記式(1)および式(3)の両式を満たすように各光ピックアップ4におけるラジアルRim強度Rおよび波長λが設定されていれば、レンズシフト0.5mmにおいてもTEバランス≦15%かつTE振幅≧0.5となる。すなわち、トラッキング信号にオフセットが少なく、安定したトラッキング信号を確保でき、トラッキング制御を安定させることができる。
【0081】
なお、上記のシミュレーションでは、対物レンズのNAを0.85、レンズシフトを0.5mm、トラックの溝ピッチを0.8λとしたが、これらの条件から多少ずれていたとしても、上記の式(1)〜(3)の条件は、概ね成立する。例えば、対物レンズのNAが0.81〜0.89に設定され、レンズシフトの上限が0.3mm〜0.6mmに設定され、トラックの溝ピッチが0.75λ〜0.85λに設定されていたとしても、上記の式(1)〜(3)の条件を適用してもよい。
【0082】
以上のように、本実施形態によれば、CFF法によるトラッキング検出方式を用いてレンズシフトの上限が0.3mm〜0.5mmに設定されていてもオフセットが許容範囲内に納まり、TE振幅を充分に確保できる。これにより、レンズシフト量の大きい光テープ装置においても安定したトラッキング制御を実現できる。
【0083】
[1−5.効果等]
以上のように、本実施の形態における光ピックアップ4は、光記録媒体(光テープ2)のトラック上にデータを記録しながら当該トラック上に記録されたデータを読み出すことができる。光ピックアップ4は、光ビームを出射する光源6と、特定の方向に偏光した光を回折させる第1の回折素子(回折格子8a)と、記録用ビームおよび再生用ビームを光テープ2の同一トラック上に集束させる対物レンズ5と、フォーカス制御およびトラッキング制御のために対物レンズをシフトさせるレンズアクチュエータ20と、回折格子8aおよび光テープ2の間に配置された波長板9と、トラッキング方向に対応する方向に配列された回折特性の異なる2つの回折領域A、Bを有する第2の回折素子(偏光ホログラム素子8b)と、光検出器12とを備えている。レンズアクチュエータ20は、トラッキング方向における対物レンズ5の初期位置からのシフト量の上限が0.3mm以上0.6mm以下になるように対物レンズ5をシフトさせる。回折格子8aは、光源6から出射された光ビームを記録用ビームおよび再生用ビームを含む複数の光ビームに分離する。波長板9は、回折格子8aから波長板9に向かう光の偏光方向と波長板9から回折格子8aに向かう光の偏光方向とが直交するように設計されている。偏光ホログラム素子8bは、回折領域A、Bの各々が、上記特定の方向に直交する方向に偏光した光を回折させるように構成され、各回折領域A、Bにおいて、光テープ2で反射された記録用ビームを、透過光ビームおよび±1次回折光ビームに分離する偏光ホログラム素子8bを有している。光検出器12は、透過光ビーム、各回折領域A、Bから出射した±1次回折光ビーム、および光テープ2で反射された再生用ビームの各々を検出するように構成された複数の受光素子を有している。以上の構成により、記録、再生時にトラック位置が大きく変動し得る光テープに対してDRAWを行い、かつ、安定したトラッキング信号を得ることができるため、記録および再生品質を向上させることができる。
【0084】
また、本実施形態では、第1の回折素子として回折格子8aが用いられ、第2の回折素子として偏光ホログラム素子8bが用いられる。そして、回折格子8aおよび偏光ホログラム素子8bは、偏光ホログラム板8として一体化されている。これにより、DRAWのためのメインビームおよびサブビームを生成する素子と、CFF法によるトラッキング信号を得るための回折光ビームを生成する素子とを一体化でき、装置の小型化が可能となる。
【0085】
さらに、偏光ホログラム板8、波長板9、および対物レンズ5は、1つのレンズユニット18として一体化されている。そして、レンズアクチュエータ20は、レンズユニット18全体をシフトさせることによって対物レンズ5のシフトを行う。これにより、DRAW用のサブビームが対物レンズ5の開口の中心から大きくずれることを防止できる。その結果、DRAWの再生品質を向上させることができる。加えて、レンズシフトの際、対物レンズ5と偏光ホログラム板8とが常に一体的に移動するため、トラッキング信号品質の劣化を抑えることができる。
【0086】
また、光検出器12は、複数の受光素子のうち、偏光ホログラム素子8bにおける2つの回折領域A、Bから出射した+1次回折光ビームまたは-1次回折光ビームを検出する2つの受光素子から出力される信号間の差分演算によってトラッキング信号を生成する。このため、比較的安定したトラッキング信号が得られる。
【0087】
さらに、光テープ2のトラックピッチをa、光源6からの出射光の波長をλとするとき、a/0.85≦λ≦a/0.75を満足し、対物レンズ5の開口数は0.81以上0.89以下であり、対物レンズ5に入射する光のラジアルRim強度をR、光記録媒体のトラックの溝深さをdとするとき、上記の式(1)および式(2)の両式、または上記の式(1)および式(3)の両式を満足する。これにより、レンズシフトを0.3mm〜0.6mmという大きい値に設定してもTEバランス、TE振幅ともに良好な安定したトラッキング信号を得ることができる。
【0088】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記実施の形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
【0089】
上記の実施の形態では、第1の回折素子の一例として回折格子8aを用い、第2の回折素子の一例として偏光ホログラム素子8bを用いたが、この例に限定されない。第1の回折素子は、光源から出射された光ビームを記録用ビームおよび再生用ビームを含む複数の光ビームに分離するように構成されている限り、どのように構成されていてもよい。また、第2の回折素子は、トラッキング方向に対応する方向に配列された回折特性の異なる2つの回折領域を有し、各回折領域が、光記録媒体で反射された記録用ビームを、透過光ビームおよび少なくとも1つの回折光ビームに分離するように構成されている限り、どのように構成されていてもよい。例えば、上記の偏光ホログラム板8の代わりに、上記の回折格子8aおよび偏光ホログラム素子8bと同様の特性を有する2層の積層されたホログラムパターンを用いてもよい。
【0090】
また、上記の実施形態では、第1および第2の回折素子、波長板、および対物レンズは1つのレンズユニットとして一体化されているが、このような例に限定されない。これらの要素が分離して設けられていてもよい。その場合、対物レンズ5と第2の回折素子とをトラッキング方向に一体的にシフトさせる機構を設けてもよい。
【0091】
また、光記録媒体は必ずしも光テープである必要はない。他の種類の光記録媒体にも上記の光ピックアップおよび光記録再生装置の構成を適用することができる。
【0092】
また、上記の実施形態では、光記録再生装置は12個の光ピックアップを備えているが、光ピックアップの数は任意に定めてよい。少なくとも1つの光ピックアップを備える光記録再生装置であれば、上記の技術を適用することができる。
【0093】
以上のように、本開示における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。
【0094】
したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0095】
また、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本開示にかかる光ピックアップは、これを複数個含む大容量情報記憶システムにて光記録媒体の異なる領域、または異なる光記録媒体に同時に情報を正確に記録する用途に用いられ得る。本開示にかかる光記録再生装置は、簡易な構成でコストメリットを有する記録再生装置として有用である。
【符号の説明】
【0097】
1 光記録再生装置(光テープ装置)
2 光記録媒体(光テープ)
2a ベースフィルム
2b バックコート層
2c インプリント層
2d ランド
2e グルーブ
3 トラック
4 光ピックアップ
5 対物レンズ
6 光源
7 コリメータ
8 偏光ホログラム板
8a 回折格子
8b 偏光ホログラム素子
9 1/4波長板
10 対物レンズホルダー
11 ビームスプリッタ
12 光検出部
13〜17 受光素子
20 レンズアクチュエータ
40 光ピックアップアセンブリ
110 メインスポット
120a、120b サブスポット
506、507 モータ
520 フロントエンド信号処理部
530 エンコーダ/デコーダ
531 光変調回路
540 CPU(システムコントローラ)
550 サーボ制御部
560 ドライバアンプ
【技術分野】
【0001】
本開示は、光テープ等の光記録媒体に情報の記録を行いながら、記録された情報の再生を行う光ピックアップおよび光記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
保存用ストレージ用途に適した光記録再生装置として、光による高密度記録技術を活かした光テープ媒体に複数の光ピックアップで同時に記録再生をする光テープ装置が提案されている。例えば特許文献1は、そのような光テープ装置の例を開示している。
【0003】
一方、従来の磁気テープ装置では、記録するトラックには記録ヘッドと再生ヘッドとが個別に配置されている。データを記録しながら記録されたデータを再生して正しく記録されたかを検証(ベリファイ)することによって信頼性の確保と高速処理を両立している。
【0004】
光磁気(MO)ディスクや、ブルーレイディスク(BD)、DVD、CDといったディスク媒体へのデータの記録および再生を光ピックアップを用いて行う光記録再生装置においても、ベリファイを行う技術が知られている。そのような技術では、回折格子を用いてレーザ光源から出射した光ビームを分割し、0次光および±1次光の光ビームを記録層上に照射する。0次光の照射により記録が行われ、±1次光を検出することによりベリファイが行われる。このような技術はDRAW(Direct Read After Write)と呼ばれる。記録直後にエラーチェックを行うため、処理速度が速くなり、転送レートの高速化を図ることができる。DRAW技術を用いた記録再生装置は、例えば特許文献2に開示されている。
【0005】
光記録再生装置では、記録および再生動作中のフォーカス制御およびトラッキング制御を適切に行う必要がある。特に光記録媒体として光テープを用いる場合、トラックの特性が一般的な光ディスクとは異なるため、光テープのトラック特性に適したトラッキング制御が必要である。
【0006】
従来の光ディスク装置におけるトラッキング制御方式には、例えばプッシュプル法(PP法)、アドバンストプッシュプル法(APP法)、およびコレクトファーフィールド法(CFF法)が知られている。PP法、APP法、CFF法によるトラッキング制御は、それぞれ特許文献2〜4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−286070号公報
【特許文献2】特開平6−162532号公報
【特許文献3】特開平8−306057号公報
【特許文献4】特開2000−306262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の光記録再生装置では、例えば光テープのように、記録、再生時にトラック位置が大きく変動し得る光記録媒体に適したトラッキング信号を得ることができなかった。
【0009】
本開示は、例えば光テープのように、動作中のトラックの位置変動が比較的大きい光記録媒体に対してもトラッキング性能を安定化できる光記録再生装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示における光ピックアップは、光記録媒体のトラック上にデータを記録しながらトラック上に記録されたデータを読み出すことができる。光ピックアップは、光ビームを出射する光源と、特定の方向に偏光した光を回折させる第1の回折素子であって、光源から出射された光ビームを記録用ビームおよび再生用ビームを含む複数の光ビームに分離する第1の回折素子と、記録用ビームおよび再生用ビームを光記録媒体の同一トラック上に集束させる対物レンズと、フォーカス制御およびトラッキング制御のために対物レンズをシフトさせるレンズアクチュエータであって、トラッキング方向における対物レンズの初期位置からのシフト量の上限が0.3mm以上0.6mm以下になるように対物レンズをシフトさせるレンズアクチュエータと、第1の回折素子および光記録媒体の間に配置された波長板であって、第1の回折素子から波長板に向かう光の偏光方向と波長板から第1の回折素子に向かう光の偏光方向とが直交するように設計された波長板と、トラッキング方向に対応する方向に配列された回折特性の異なる2つの回折領域を有する第2の回折素子であって、各回折領域が、特定の方向に直交する方向に偏光した光を回折させるように構成され、各回折領域において、光記録媒体で反射された記録用ビームを、透過光ビームおよび少なくとも1つの回折光ビームに分離する第2の回折素子と、透過光ビーム、各回折領域から出射した回折光ビーム、および光記録媒体で反射された再生用ビームの各々を検出するように構成された複数の受光素子を有する光検出器とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示における技術によれば、例えば光テープのように、動作中のトラックの位置変動が比較的大きい光記録媒体に対しても、安定したトラッキング制御を実現できる。なお、本開示における技術は、光テープに限らず、光ディスクのような他の光記録媒体においても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施の形態における光テープ装置の構成を示す図
【図2】実施の形態における光テープの一部を拡大して示す模式図
【図3】実施の形態における光テープ装置の回路構成例を示す図
【図4】実施の形態における光ピックアップの光学構成を示す図
【図5】実施の形態における光ピックアップの各部の機能を模式的に示す図
【図6】(a)は偏光ホログラム板8の斜視図、(b)は偏光ホログラム板8の偏光ホログラム素子8bの面を示す平面図
【図7】光テープのトラック上に形成されるメインスポットおよび2つのサブスポットの例を示す模式図
【図8】実施の形態における光検出器と検出回路の例を示す図
【図9】偏光ホログラム素子8bから出射する回折光が受光素子13、14にどのように入射するかを示す模式図
【図10】(a)は光駆動信号の例を示す図、(b)は記録マークの例を示す図、(c)はメインビームの後を走査するサブビームによる信号の例を示す図、(d)はメインビームに先行して走査するサブビームによる信号の例を示す図、(e)は2つの再生信号の差動によって得られる信号の例を示す図
【図11A】溝深さdおよびラジアルRim強度Rを変化させたときのTEバランスの変化についてのシミュレーション結果を示す図
【図11B】TEバランスの絶対値が15%以下に抑えられる溝深さの範囲bとラジアルRim強度Rとの関係を示すグラフ
【図12A】溝深さdおよびラジアルRim強度Rを変化させたときのTE振幅の変化についてのシミュレーション結果を示す図
【図12B】TE振幅が0.5以下に抑えられる溝深さの範囲aとラジアルRim強度Rとの関係を示すグラフ
【図13】スポットサイズ法によるトラッキング信号を得るための光検出器と検出回路を示す図
【図14】TEバランスの定義を示す図
【図15】(a),(b)はPP法においてレンズシフトに対するTEバランスとTE振幅を計算した結果を示す図、(c),(d)はAPP法においてレンズシフトに対するTEバランスとTE振幅を計算した結果を示す図、(e),(f)はCFF法においてレンズシフトに対するTEバランスとTE振幅を計算した結果を示す図
【図16】APP法によるトラッキング制御を行う光ピックアップの構成例を示す図
【図17】APP法によるトラッキング信号を得るための光検出器の構成例を示す図
【図18】CFF法によるトラッキング制御を行う光ピックアップの構成例を示す図
【図19】CFF法によるトラッキング信号を得るための光検出器の構成例を示す図
【図20】対物レンズの開口に入射する再生用ビームが中心からずれている様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、適宜図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成についての重複説明を省略する場合がある。これは、説明が不必要に冗長になることを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0014】
なお、発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供するのであって、これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図するものではない。
【0015】
[1−1.全体構成]
図1は、本実施形態の光記録再生装置の構成例を示す図である。本実施形態における光記録再生装置は、光テープ2にデータを記録し、光テープ2からデータを再生することができる光テープ装置1である。光テープ装置1は、例えば、大量のデータのバックアップに使用され得る。光テープ装置1は、転送レートを上げ、短時間でバックアップを行うため、複数の光ピックアップ4を具備している。各光ピックアップ4により、光テープ2にデータを記録しながら、記録されたデータを読み出すDRAW動作が実現される。光ピックアップ4の数および配列は任意であるが、本実施形態では、12個の光ピックアップ4(P.U1〜P.U12)が光テープ2のトラック方向に交差する方向に配列されている。これにより、大容量のデータを複数のトラックに並行して記録、再生することができる。また、光テープ2は、順方向、逆方向のいずれの方向にも走行できるように構成されている。このため、光テープ2の末端まで記録または再生が完了した後、走行方向を逆転させることにより、先頭まで巻き戻すことなく記録または再生を継続することができる。
【0016】
光テープ2には、テープ状のフィルムに予めナノプリント技術によってサブミクロン(1μm未満)のピッチでトラック3が転写されており、その上に記録層や保護層が積層されている。トラック3はテープの走行方向とほぼ平行に形成される。図1では、見易さを考慮し、トラック3についてはその一部のみが描かれているが、実際には光テープ2の記録領域全体にわたってトラック3が形成されている。光テープ2の記録領域の幅Wは、例えば数mmから数cmの範囲内に設定され得る。また、光テープ2の厚さは数μmから数十μm程度に設定され、溝の深さは例えば1μm以下に設定され得る。
【0017】
12個の光ピックアップ4は、光テープ2の記録領域を幅方向に12等分した12個の記録ゾーンの各々に対応して1台ずつ固定されて配置されている。このため、各記録ゾーン内のトラックへのアクセスは、対物レンズ5の移動のみによって実行される。対物レンズ5は、トラックに垂直な方向(トラッキング方向)にシフトできるように、レンズアクチュエータ20によって駆動される。記録領域の幅Wを、例えば4.8mmとすると、各記録ゾーンの幅Tは、4.8mm/12=0.4mmである。この場合、対物レンズ5は、対応する記録ゾーンの中心を初期位置として、±0.2mmの範囲内でシフト可能に構成されていればよいとも考えられる。しかし、本実施形態では、後述するように、光テープ2の製造時の誤差やテープ走行時に発生する蛇行の影響等を考慮し、対物レンズ5は、最大で±0.3〜0.6mmの長い距離をシフトできるように構成されている。以下の説明では、対物レンズ5をトラッキング方向にシフトさせることを、「レンズシフト」と呼ぶことがある。
【0018】
図2は、光テープ2の一部を模式的に拡大して示す斜視図である。光テープ2は、例えばベースフィルム2a、ベースフィルム2aの裏面に張り付けられたバックコート層2b、およびベースフィルム2aに支持されたインプリント層2cを含む。インプリント層2cの上面には、ランド2dおよびグルーブ2eが形成されている。図面には記載されていないが、インプリント層2cの上面を覆うように反射膜および記録材料膜が積層される。光テープ2は、長尺方向Lに沿って延びており、例えば数百mの長さを有している。
【0019】
図2のスケールは、現実の光テープ2のサイズを忠実に反映していない。実際の光テープ2には、数百本またはそれ以上の本数のランド2dおよびグルーブ2eが形成され得る。データはランド2dおよびグルーブ2eの一方または両方に記録され得る。データが記録されるランド2dまたはグルーブ2eを「トラック」と称する。トラックのピッチは、例えば0.2〜0.4μmの範囲に設定され得る。以下の説明では、グルーブ2eにデータが記録されるものとする。このため、トラックのことを「トラック溝」と表現する場合がある。
【0020】
光テープ2には、光ビームの照射によって光学的にマークが形成され得る。より具体的に言えば、このようなマークは記録材料膜に形成される。光ビームの照射は、光源と、この光源から出射された光ビームを光テープ2にフォーカスさせる対物レンズ5とを含む光ピックアップ4によって行われる。光ピックアップ4が光テープ2に光ビームを照射すると、光テープ2上の照射領域と他の領域(非照射領域)との間で、反射率や屈折率などの光学特性が変化する。このようにして光学特性が変化した領域を「記録マーク」と称する。
【0021】
光テープ2に記録されているデータは、比較的弱い一定強度の光ビームを光記録媒体に照射し、光テープ2によって変調された反射光を検出することによって再生される。光テープ2にデータを記録する場合、記録すべきデータに応じて光パワーを変調したパルス状の光ビームを光テープ2に照射し、それによって記録材料膜の特性を局所的に変化させることによってデータの書き込みが行われる。
【0022】
記録材料膜にデータを記録するとき、上述のように光パワーを変調した光ビームを記録材料膜に照射することより、結晶質の記録材料膜に非晶質の記録マークを形成する。この非晶質の記録マークは、記録用光ビームの照射を受けた記録材料膜の一部が融点以上の温度に上昇した後、急速に冷却されることによって形成される。光ビームを記録マークに照射するときの光パワーを低めに設定すると、光ビームが照射された記録マークの温度は融点を超えず、急冷後に結晶質に戻る(記録マークの消去)。このようにして、記録マークの書き換えを何度も行うことが可能になる。データを記録するときの光ビームの光パワーの大きさが不適切であると、記録マークの形状が歪み、データを再生することが難しくなることがある。
【0023】
光テープ2に対してデータの記録または再生を行うとき、光ビームが目標トラック上で常に所定の集束状態となる必要がある。このためには、フォーカス制御およびトラッキング制御が必要となる。フォーカス制御およびトラッキング制御を行うためには、光テープ2から反射される光に基づいて、フォーカスずれやトラックずれを検知し、そのずれを縮小させるように光ビームスポットの位置を調整することが必要である。フォーカスずれおよびトラックずれの大きさは、それぞれ、光テープ2からの反射光に基づいて生成される「フォーカス誤差信号」および「トラッキング誤差信号」によって示される。フォーカス誤差信号およびトラッキング誤差信号は、各光ピックアップ4が備える光検出器から出力される。光テープ装置1が備える制御回路は、各光ピックアップ4の光検出器から出力されるフォーカス誤差信号およびトラッキング誤差信号に基づいて、各光ピックアップ4のフォーカス制御およびトラッキング制御を行う。なお、以下の説明では、フォーカス誤差信号およびトラッキング誤差信号を、それぞれ「フォーカス信号」および「トラッキング信号」と表現することがある。
【0024】
次に、光テープ装置1の回路構成例を説明する。図3は、本実施形態における光テープ装置1の回路構成を示すブロック図である。図示されている光テープ装置1は、複数の光ピックアップ4の集合である光ピックアップアセンブリ40および光テープ2を走行させるためのモータ506、507と、それらに電気的に接続されたフロントエンド信号処理部520、エンコーダ/デコーダ530、サーボ制御部550、ドライバアンプ560、およびCPU(システムコントローラ)540の回路ブロックを含んでいる。
【0025】
各光ピックアップ4の出力は、フロントエンド信号処理部520を介してエンコーダ/デコーダ530に送られる。エンコーダ/デコーダ530は、データ読み出し時には、各光ピックアップ4によって得られる信号に基づいて光テープ2に記録されているデータを復号する。エンコーダ/デコーダ530は、光変調回路531を含んでおり、データ書き込み時には、データを符号化し、光テープ2に書き込むべき信号(光駆動信号)を生成する。光駆動信号は、光変調回路531を介して各光ピックアップ4に入力される。この信号により、所望の記録マークが光テープ2のトラック上に形成されるように各光ピックアップ4の光源から出射される光ビームの強度が変調される。
【0026】
フロントエンド信号処理部520は、各光ピックアップ4の出力に基づいて再生信号を生成する一方、フォーカス誤差信号FEやトラッキング誤差信号TEを生成する。生成された再生信号は、エンコーダ/デコーダ530に送出され、フォーカス誤差信号FEおよびトラッキング誤差信号TEは、サーボ制御部550に送出される。サーボ制御部550は、ドライバアンプ560を介してモータ506、507を制御する一方、各光ピックアップ4内のレンズアクチュエータ20を介して対物レンズ5の位置を制御する。エンコーダ/デコーダ530およびサーボ制御部550などの構成要素は、CPU540によって制御される。図3に示される各回路ブロックは、例えば各部を構成する集積回路素子およびメモリなどの電子部品を回路基板上に搭載して実現することができる。
【0027】
[1−2.課題]
次に、光記録媒体として光テープ2を用いる場合に発生する課題と、これを解決するための光ピックアップ4の構成とを説明する。
【0028】
一般的な光ディスク装置と異なり、光テープ装置1では、各光ピックアップ4は、担当する記録ゾーンに対応する位置に固定されている。このため、対物レンズ5を移動させることによって所望のトラック3にアクセスする必要がある。しかし、以下に述べる光テープ装置固有の問題が生じるため、このことは容易ではない。
【0029】
光テープ2の製造には、長い短冊状のシートに連続してトラック溝を形成する工程が必要である。例えば、光テープ2は以下の工程によって製造され得る。まず、電子ビーム加工によって形成されたトラック溝の形状を有するシートを金属ロールに貼り付けたものを原盤として用意する。続いて、テープの材料であるフィルムをロール状に巻いた原反にUV硬化樹脂を塗布し、原盤である溝転写用の金属ロールを押付けてトラック溝を連続的に転写する。その後、UV硬化をさせることにより、テープにトラック溝が形成される。次に、トラック溝が形成されたテープ上にスパッタリング等の方法によって記録膜を形成し、さらにその上に保護膜を形成することによって光テープの原反が完成する。続いて、ロール状の光テープの原反を、スリッター加工によって例えば1/2インチ幅に連続的に切断することにより、一度に多数の光テープが製造される。
【0030】
以上の光テープの製作工程において、テープ材料の原反と原盤との転写の際の位置合わせ誤差や、原反の回転時に軸方向に揺れが発生することにより、テープ材料とトラック溝との転写位置のずれが発生し得る。また、スリッター加工時にも同様に、原反の回転軸方向に揺れが発生することにより、光テープ完成後、切断面であるテープエッジに対してトラック溝が平行にならず、トラック溝の位置に誤差が生じる場合がある。これらの誤差は、溝を必要としない磁気テープにおいては問題にはならない。また、円盤状のスタンパーで一体成型する光ディスクにおいても、これらの誤差は発生しない。これらは光テープ固有の問題である。
【0031】
また、テープ走行時には、テープガイドによってテープのエッジを基準に各トラックの位置が決まるため、光ピックアップの位置に対するトラック溝の位置変動(光テープの「ランアウト」と呼ぶ。)が発生する。この位置変動は、環境にもよるが、概ね±0.1〜0.3mm程度である。また、各光ピックアップ4が装置に固定されているため、記録ゾーン内の特定のトラックへのアクセスのために±0.2mm程度のレンズシフトが必要である。したがって、光テープの製造時の誤差を無視しても、トラックへの追従のために、合計で±0.3〜0.5mm程度の対物レンズのシフトが要求される。
【0032】
従来の光ディスク装置では、記録用ディスクについては±0.05mm程度、再生用ディスクについては±0.1mm程度の対物レンズの追随が必要とされ、設計としては±0.2mm程度の可動範囲を確保すれば十分であると考えられてきた。しかし、本実施形態のような光テープ装置では、光ディスク装置における可動範囲の1.5倍から2倍以上の極めて広い範囲に亘って対物レンズを移動させる必要がある。そこで、本実施形態では、トラッキング方向における対物レンズ5の初期位置からのシフト量の上限が0.3mm以上0.6mm以下になるようにアクチュエータ20によって対物レンズ5をシフトさせる。このシフト量の上限は、より好ましくは、0.35mm以上0.55mm以下の値に設定され、さらに好ましくは、0.4mm以上0.5mm以下の値に設定される。
【0033】
一方、DRAW機能を有する光ピックアップ4は、光源から出射される光ビームをメインビーム(記録用ビーム)およびサブビーム(再生用ビーム)を含む複数の光ビームに分岐して2つ以上の光スポットを光テープ2の同一トラック上に形成する。このため、光の有効利用の観点、およびスポット位置の調整上の問題を少なくして量産性を確保する観点から、トラッキング検出方法は1ビーム法が採用される。ここで、1ビーム法とは、メインビームのみを用いてトラッキング誤差信号を得る方法である。1ビーム法によるトラッキング検出方法として、例えばプッシュプル法(PP法)、アドバンストプッシュプル法(APP法)、およびコレクトファーフィールド法(CFF法)が知られている。しかし、これらの従来のトラッキング検出方法をそのまま適用した場合、以下の問題が生じる。
【0034】
図13は、PP法における光検出器の構成例を示す図である。光記録媒体で反射されたメインビームおよびサブビームは、光検出器上の受光素子212、213にそれぞれ光スポット214、215を形成する。ここで、対物レンズが移動すると、光検出器上の光スポット214は、例えば図13に示す破線の位置にシフトする。この光検出器上の光スポット位置のずれ量はレンズ移動量に比例する。光スポットの位置がずれると、トラッキング誤差信号の対称性が損なわれ、その非対称性の程度(以下、「TEバランス」と呼ぶ。)に応じてトラッキング誤差信号が本来の値からずれてしまう。ここで、TEバランス(%)は、図14に示すように、トラッキング誤差信号の正の振幅をAとし、負の振幅をBとしたとき、(A−B)/2(A+B)×100で表される量として定義される。
【0035】
図15(a)、(b)は、PP法におけるレンズシフト量に対するTEバランスおよびトラッキング信号振幅(以下、「TE振幅」と呼ぶ。)を計算した結果をそれぞれ示す図である。図15において、TE振幅は、レンズシフト量が0mmのときの値を1として規格化されたTE信号の振幅を表す。ここで、計算条件は、波長:0.405m、対物レンズの開口数(NA):0.85、トラック溝のピッチ:0.32μm、トラックの溝深さ:0.04μm、ラジアルRIM強度:0.6である。なお、ラジアルRim強度は、対物レンズの開口に入射する光の開口中心における強度に対する開口端における強度の比率を示す。すなわち、中心における強度と開口端における強度とが同じであるとき、ラジアルRim強度は1となる。ラジアルRim強度は、絞りの程度を表し、開口の大きさや、コリメートレンズと光源との距離等によって変動する。
【0036】
振動などの外乱を考慮すると、トラッキング制御が安定でトラック飛びが発生しにくいオフトラック量は、トラックピッチの5%程度までであり、TEバランスは15%以下に抑える必要がある。PP法ではレンズシフトが0.05mmのときTEバランスが15%となる。レンズシフトをさらに大きくして±0.5mmにするとTEバランスは200%以上となる。このような状態では、トラッキング制御が全くできないか、あるいはすぐにトラック飛びが発生するなど、実際の装置に適用することはできない。したがって、本実施形態のような光テープ装置1には、PP法は採用できない。
【0037】
次に、レンズシフト時のTEバランスの劣化を改善したAPP法における問題点を説明する。図16は、APP法を適用した光ピックアップの光学構成の例を簡略化して示す模式図である。図16では、光源、コリメートレンズその他の光学系の図示は省略されている。光記録媒体301からの反射光304は対物レンズ302を透過して光検出器303に入射する。
【0038】
図17は、光検出器303およびその検出回路を図16における矢印Aの方向に見た図である。光検出器303は、トラッキング方向に対応する方向に2分割され、さらにトラック方向に対応する方向に3分割されている。すなわち、光検出器303は、6個の受光セルC1〜C6を有している。
【0039】
APP法では、レンズシフトに伴うトラッキング信号のオフセットを軽減するために、トラッキング信号成分が少ない周辺部にあたる受光セルC1、C3、C4、C6の出力をPP法とは逆符号にして差動演算が行われる。すなわち、受光セルC1〜C6から出力される信号をそれぞれc1〜c6とすると、図17に示すように、トラッキング信号は、(c2−c5)+k(c4+c6)−k(c1+c3)で表される。この演算により、レンズシフト時のDC成分のオフセットがキャンセルされ、オフセットの少ないトラッキング信号が得られる。
【0040】
図15(c)、(d)は、上記のPP法におけるシミュレーションと同じ条件で、APP法におけるレンズシフト量に対するTEバランスおよびTE振幅を計算した結果をそれぞれ示す図である。なお、APP法によるトラッキング信号の演算式におけるk値は、TEバランスが最も小さくなる値に設定して計算した。図15(c)に示すように、TEバランスは、レンズシフト±0.4mmまでは安定しているように見え、±0.5mmでも許容範囲内にあると言える。しかし、図15(d)に示すように、TE振幅はレンズシフト量とともに急激に低下する。TE振幅は、レンズシフト0.15mmで約30%低下し、レンズシフト0.5mmでは90%以上も低下する。これは、レンズシフト量に応じて、光ディスクからの反射光が検出用ホログラムに対して位置がずれて入射するため、トラッキング信号成分が検出器に入射する光量が減少するためである。このように、APP法では、TE振幅の変動が大きいため、トラッキング制御のループゲインが大きく変化して不安定となる。このため、APP法も0.5程度のレンズシフト量が要求される光テープ装置に適用することはできない。
【0041】
次に、CFF法を適用した場合のシミュレーション結果を説明する。図18は、CFF法を適用した光ピックアップの光学構成の例を簡略化して示す模式図である。なお、図18でも、光源、ビームスプリッタその他の光学系の図示は省略されている。また、図19は、光検出器405、406および検出回路を図18における矢印Aの方向に見た図である。
【0042】
光記録媒体401からの反射光は、対物レンズ402を透過して、検出ホログラム404に入射する。検出ホログラム404は、トラッキング方向に分割された回折特性の異なる2つの領域を有している。このため、検出ホログラムに入射した光は、各領域でそれぞれ回折され、それらの回折光は光検出器405、406にそれぞれ導かれる。光検出器405、406には、検出ホログラム404によって分離された反射光が導かれるので、PP法のようにレンズシフトによる反射光の強度の増減が少なく、比較的安定した出力が得られる。
【0043】
図15(e)、(f)は、上記のシミュレーションと同じ条件で、CFF法におけるレンズシフト量に対するTEバランスおよびTE振幅を計算した結果をそれぞれ示す図である。図15(f)に示すように、レンズシフト0.5mmにおける振幅変動は−10%以内であり、比較的安定している。しかし、図15(e)に示すように、レンズシフト0.12mm付近まではTEバランスが15%以内に抑えられているが、それ以上ではTEバランスが15%を超え、0.5mmではTEバランスが62%程度に増加する。したがって、この条件下では、CFF法においてもレンズシフト量の増加に伴い、トラッキング信号のオフセットが大きくなるため、0.5mm程度のレンズシフトが要求される光テープ装置に適用することはできない。
【0044】
一方、DRAWのために回折格子を用いて光源から出射された光ビームをメインビームおよびサブビームに分岐させる構成では、サブビームがメインビームに対して斜めに進むことに起因する再生能力の低下の問題が発生する。0次光であるメインビームは光源から直進して対物レンズの開口に入射するが、1次以上の回折光であるサブビームは、メインビームに対して回折角の分だけ斜めに進み、対物レンズの開口に入射する。このため、メインビームは対物レンズの開口全体に入射するが、図20に示すように、サブビーム210は開口207全体には入射せず、開口207にサブビームが入射しない部分が生じる。この状況は、実質的に対物レンズのNAが小さくなったことと等価である。このように、サブビームは、メインビームのようには充分絞れず、再生能力が低下するという問題が生じる。
【0045】
本発明者らは、上記の課題を新たに見出し、光テープ2のようなトラック位置の変動が大きい光記録媒体にも安定して記録および再生を可能にする光ピックアップを完成させた。以下、本実施形態の光テープ装置1における光ピックアップ4の構成および動作をより具体的に説明する。
【0046】
[1−3.光ピックアップの構成]
図4は、光ピックアップ4の光学構成を模式的に示す図である。光ピックアップ4は、光源6、偏光ビームプリッタ11、コリメートレンズ(コリメータ)7、対物レンズユニット18、レンズアクチュエータ20、および光検出器12を備えている。対物レンズユニット18は、対物レンズホルダー10に支持された偏光ホログラム板8、1/4波長板9、および対物レンズ5を備えている。
【0047】
光源6は、半導体レーザ光源であり、図3に示されている光変調回路531から入力される光駆動信号に応答して、強度変調された光ビームを出射するように構成されている。これにより、記録すべきデータに応じて強度が変調された光ビームが光源6から出射される。
【0048】
偏光ビームスプリッタ11は、特定の偏光方向の光のみを反射させ、その他の光を透過させる光学素子であり、光源6から出射された光ビームを光テープ2に導くとともに、光テープ2から反射された光ビームを光検出器12に導く。コリメータ7は、偏光ビームスプリッタ11で反射された光ビームを平行光に変換する。
【0049】
本実施形態では、対物レンズ5、偏光ホログラム板8、波長板9が、対物レンズユニット18として一体化されている。対物レンズユニット18は、レンズアクチュエータ20によって光テープ2の記録面に垂直な方向(フォーカス方向)および記録面に平行かつトラックに垂直な方向(トラッキング方向)に移動可能に構成されている。より具体的には、レンズアクチュエータ20が備えるフォーカスコイル、トラッキングコイル、およびバネまたはワイヤー等の弾性部材により、フォーカスコイルおよびトラッキングコイルに印加された電圧に応じて対物レンズユニット18が移動する。レンズアクチュエータ20によるこのフォーカス制御およびトラッキング制御は、図3に示されているサーボ制御部550によって制御される。
【0050】
図5は、光ピックアップ4の各部の機能を説明するために図4の構成の一部を簡略化して示す模式図である。図5では、図4に示す構成要素のうち、光源6および偏光ビームスプリッタ11の記載は省略されている。また、対物レンズユニット18、コリメータ7、および光検出器12の相互の間隔が図4に示す構成よりも短く表されている。
【0051】
偏光ホログラム板8は、特定の方向に偏光した光を回折させる回折格子8aが設けられた面と、当該方向に垂直な方向に偏光した光を回折させる2つの回折領域を有する偏光ホログラム素子8bが設けられた面とを有している。偏光ホログラム素子8bにおける当該2つの回折領域は、トラッキング方向に偏光ホログラム素子8bを2分するように設けられている。
【0052】
回折格子8aは、光源6から出射された光ビームを回折させ、0次回折光および±1次回折光を含む複数の回折光を発生させる。本実施形態では、0次回折光が記録用のメインビームとして用いられ、±1次回折光が再生用のサブビームとして用いられる。メインビームおよびサブビームは、対物レンズ5によって光テープ2の同一トラック上に集束される。ホログラム領域8bは、光テープ2の記録面から反射された光ビームを回折して0次回折光ビーム(透過光ビーム)および±1次回折光ビームを含む複数の光ビームを発生させる。
【0053】
図6(a)、(b)は、偏光ホログラム板8の構造を模式的に示す図である。図6(a)は、偏光ホログラム板8の斜視図であり、図6(b)は偏光ホログラム板8を図6(a)における矢印の方向に見たときの平面図である。回折格子8aは、往路(光源から光テープに向かう経路)の光ビームに対してのみ回折格子として機能し、復路(光テープから光検出器に向かう経路)の光ビームに対しては透明媒質として機能するように設計されている。一方、偏光ホログラム8bは、往路の光ビームに対しては透明媒質として機能し、復路の光ビームに対しては回折領域A、Bの各々において、入射光を回折させるように設計されている。
【0054】
図4に示すように、光源6の半導体レーザから出射された光ビームは、偏光ビームスプリッタ11で反射され、コリメータ7を透過することによって平行光になる。この平行光は、対物レンズホルダー10に固定された偏光ホログラム板8の一方の面の回折格子8aによってメインビームと2つのサブビームとに分岐する。回折格子8aから出射したメインビームおよび2つのサブビームは直線偏光であるが、1/4波長板9を透過することにより、円偏光または楕円偏光になる。1/4波長板9を透過したメインビームおよび2つのサブビームは、対物レンズ5により集光され、光テープ2のトラック上にメインスポットと2つのサブスポットとを形成する。光テープ2上の各光スポットからの反射光は、対物レンズ5を透過後、1/4波長板9の作用により、往路の光ビームに対して偏波面が90度回転した直線偏光に変換される。このため、図5に示す偏光ホログラム板8の回折格子8aにおいては反射光は回折せずに透過する。一方、回折格子8aの対向面に配置された偏光ホログラム素子8bでは回折が生じ、メインビーム、サブビームの各々について、0次回折光ビームおよび±1次回折光ビームが発生する。これらの回折光のうち、領域A、Bの各々に入射したメインビームから生じた+1次回折光ビームおよび−1次回折光ビームの一方は、トラッキング誤差信号生成のために用いられる。領域A、Bの各々に入射したメインビームから生じた+1次回折光ビームおよび−1次回折光ビームの他方は、フォーカス誤差信号生成のために用いられる。
【0055】
トラッキング方向に2分割されたホログラムパターン(領域A、B)によりメインビームから生じた0次回折光ビームおよび±1次回折光ビーム、ならびに光テープ2によって反射された2つのサブビームは、光検出器12に設けられたそれぞれに対応する受光素子に入射する。これらの受光素子から出力される電気信号に基づいて、トラッキング誤差信号、フォーカス誤差信号、DRAW用の再生信号が得られる。このように、偏光ホログラム板8は、トラック方向に直交する回折格子8aのパターンによってDRAW用のサブビームを生成するとともに、CFF法によるトラッキング誤差信号検出用の回折ビームも生成するという2つの機能を有している。
【0056】
図7は、光テープ2上に形成される光スポットの配置例を示す模式図である。光ピックアップ4の光学系は、回折格子8aから出射したメインビームおよび2つのサブビームによって、メインスポット110および2つのサブスポット120a、120bが、光テープ2の同一トラック上にそれぞれ形成されるように調整されている。メインスポット110における光量が記録パワーに設定されたとき、サブスポット120a、120bは信号再生に適した光量になるように、偏光ホログラム板8の回折格子8aの回折効率が設計されている。矢印aの方向に光テープ2への記録が行われている時には、第1のサブスポット120aにより、記録直後のマークが読み出される。一方、矢印aとは逆の方向に記録が行われている時には、第2のサブスポット120bにより、記録直後のマークが読み出される。このように、本実施形態における光ピックアップ4は、光テープ2がいずれの方向に走行している場合でもDRAWが実行できるように構成されている。
【0057】
本実施形態では、回折格子8aと対物レンズ5とが対物レンズホルダー10によって近接した状態で固定されているため、2つのサブビームは、対物レンズ5の開口の中心からそれほどずれることなく、開口を通過する。このため、従来の構成とは異なり、回折角と距離により対物レンズ5の開口にサブビームが入射しない部分が発生するという問題が発生しない。したがって、本実施形態によれば、メインスポットと同様に2つのサブビームもよく絞れ、その結果、再生能力の高いDRAW用のビームを発生させることができる。
【0058】
図8は、光検出器12の構成例および生成される信号を模式的に示す図である。図8には、光検出器12が光テープ2からの反射光を受光して、各種の信号を検出している状況が示されている。光検出器12は、受光素子13〜17を備えており、それらの出力に基づいて、各種の信号が生成される。図8に示す例では、トラッキング検出方式としてCFF法を、フォーカス検出方式としてスポットサイズ検出法を採用している。
【0059】
光テープ2上に形成される2つのサブスポット120a、120bからの反射光のうち、偏光ホログラム素子8bを透過した光(0次回折光)は、それぞれ受光素子15、16に入射する。受光素子15、16からそれぞれ出力される信号は、DRAW用の再生信号として利用される。受光素子15、16の出力のうち、いずれの出力をDRAW用の再生信号として利用するかは、光テープ2の記録方向に依存する。本実施形態では、光テープ2の記録方向に応じて受光素子15、16の出力のいずれを利用するかを切り換えられるように構成されている。
【0060】
一方、光テープ2のトラック上に形成されたメインスポット110からの反射光のうち、偏光ホログラム素子8bを透過した光(0次回折光)は、受光素子17に入射する。図8には表されていないが、受光素子17の出力は、DRAWを行わない再生モードにおける再生信号として利用され得る。
【0061】
光テープ2のトラック上に形成されたメインスポット110からの反射光のうち、偏光ホログラム素子8bによって回折された+1次光は、中央部と周辺部とに2分割された受光素子14に入射する。受光素子14は、スポットサイズ法によるフォーカス信号を生成するように、中央部の出力と周辺部の出力との間で差動演算が行われる。
【0062】
一方、メインスポット110からの反射光のうち、偏光ホログラム素子8bの領域A、Bによって回折された−1次光は、2分割された受光素子13の領域13a、13bにそれぞれ入射する。これらの領域13a、13bから出力される信号の差動出力により、CFF法によるトラッキング信号が生成される。
【0063】
図9は、偏光ホログラム素子8bの回折領域A、Bの各々から出射する±1次回折光が、受光素子13、14にどのように入射するかをより具体的に示す模式図である。図9において、偏光ホログラム板8および受光素子13、14以外の要素の記載は省略されている。図示されるように、偏光ホログラム素子8bの領域A、Bから出射する+1次回折光は、受光素子14の左側および右側にそれぞれ光スポットを形成する。フォーカス状態に応じてこれらの光スポットのサイズが変化するため、上記の演算によってフォーカス信号が得られる。一方、偏光ホログラム素子8bの領域A、Bから出射する−1次回折光は、受光素子13の左側領域13aおよび右側領域13bにそれぞれ光スポットを形成する。トラックずれが発生すると、これらの光スポットの左右のバランスが変化するため、上記の演算により、トラッキング信号が得られる。なお、この例では+1次回折光が受光素子14に入射し、−1次回折光が受光素子13に入射するように領域A、Bのホログラムパターンが設計されているが、この例に限定されない。すなわち、領域A、Bは、+1次回折光を受光素子13に導き、−1次回折光を受光素子14に導くように構成されていてもよい。また、各受光素子のレイアウトは、偏光ホログラム素子8bのホログラムパターンに応じて適宜変更してもよい。偏光ホログラム素子8bおよび受光素子13は、CFF法によるトラッキング信号が得られれば、どのように構成されていてもよい。
【0064】
次に、受光素子15、16から出力される再生信号を用いてベリファイを行う方法の例を説明する。未記録の光テープ2にデータを記録する場合、受光素子15、16の出力の差動をとり、その差動信号を光駆動信号と比較することによってベリファイが可能である。この点について、図10を参照しながら説明する。
【0065】
図10(a)は、光駆動信号の波形の例を示している。図10(b)は、トラック上に形成される記録マークの形状を模式的に示している。記録マークは、光駆動信号がハイレベルにある期間にメインスポット110が位置していた領域に形成される。
【0066】
図10(c)および(d)は、それぞれ、メインビームに続いて光テープ2を照射するサブビーム(「後のサブビーム」と呼ぶ。)の反射光の信号波形およびメインビームに先行して光テープ2を照射するサブビーム(「先のサブビーム」と呼ぶ。)の反射光の信号波形を示している。図10(c)からわかるように、後のサブビームの反射光の波形は、光駆動信号によって変調された光ビームのスポットが記録マークの存在するトラックを移動したことにより、記録マークの影響を受けている。一方、図10(d)に示されるように、先のサブビームの反射光の波形は、光駆動信号によって変調された光ビームのスポットが記録マークの存在しないトラックを移動したことにより、記録マークの影響を受けていない。
【0067】
図10(e)は、先のサブビームの反射光の信号から、後のサブビームの反射光の信号を差し引いた信号の波形を示している。この波形は、記録マークの位置および形状を反映した情報、即ち記録されたデータの情報を含んでいる。この信号を光駆動信号と比較すれば、データが正しく記録されたか否かが判定できる。この判定処理は、例えば図3に示されるCPU540によって実行され得る。
【0068】
なお、本実施形態では、2つのサブビームからの反射光の検出信号の差動によってベリファイ用の信号を生成しているが、この例に限定されない。例えば、光源6から出射されて光テープ2で反射されるまでの光ビームを検出する光検出器を設けた場合、その光検出器による検出信号を用いてベリファイを行うことが可能である。すなわち、後のサブビームの信号を、当該光検出器から出力される信号またはそれを必要に応じて補正した信号で作動することにより、上記と同様のベリファイ用信号が得られる。そのような光検出器は、例えばビームスプリッタ11に対して光源6の反対側に配置され得る。このような構成では、先のサブビームの信号は利用されない。このため、光テープ2の走行方向が逆転せず、常に一方向にのみ走行するように装置が構成されている場合、先のサブビームが光テープ2のトラック上に集束されなくてもよい。
【0069】
[1−4.安定したトラッキング信号を得るための条件]
本実施形態で用いられるCFF法は、1ビームトラッキング検出法の中では、TEバランスが比較的安定しており、オフセットが発生しにくいとされる。しかし、上記のシミュレーションでは、光テープに要求されるレンズシフト±0.3〜0.6mmでTEバランス15%以内という条件を満たすことができなかった。
【0070】
本発明者らは、トラック溝のパラメータとトラッキング信号のオフセットに影響を与えるパラメータの値を変化させて、レンズシフトした際のトラッキング信号の挙動についてのシミュレーションを行った。そして、レンズシフトしても安定したトラッキング信号が得られる条件を見出した。以下、当該条件を説明する。
【0071】
計算条件は、対物レンズNA:0.85、レンズシフト0.5mm、光源の波長λ、トラックの溝ピッチ:0.8λとして、ラジアルRim強度R、トラックの溝深さdを変化させた際のトラッキング信号について計算した。その計算結果を、図11A〜図12Bに示す。
【0072】
図11Aは、溝深さdを0〜0.5λ、ラジアルRim強度を0.6、0.76、0.85、0.89と変化させた際のレンズシフト−0.5mm時のTEバランス(%)を示す。TEバランスの変化は、溝深さ0.25λを中心に対称に変化している。図示していないが、レンズシフト+0.5mmのTEバランスは、図11AのTEバランス0%軸を基準に対称な曲線で表される。各Rim強度におけるTEバランス曲線とTEバランス−15%の線との2つの交点の間の幅bを、b_1、b_2、b_3、b_4(λ)と表す。この幅bの範囲においては、レンズシフト0.5mmでTEバランス(絶対値)≦15%を維持できる範囲を示している。図11Bは、ラジアルRim強度と幅bとの関係をグラフにプロットしたものである。このグラフから次の近似式が得られる。
b=1.2R2-R+0.395
【0073】
幅bは、溝深さ0.25λを中心とする対称な領域の幅であるため、溝深さd(λ)、ラジアルRim強度R、および波長λが満たすべき条件は、以下の式(1)で表される。
0.25λ−(1.2R2-R+0.395)λ/2≦d≦0.25λ+(1.2R2-R+0.395)λ/2 (1)
【0074】
本式は、レンズシフト0.5mmにおいてもTEバランス(絶対値)≦15%を満たす溝深さd、ラジアルRim強度R、および波長λの条件を示している。
【0075】
次に、図12Aおよび図12Bを参照しながら、TE振幅についてのシミュレーション結果を説明する。図12Aは、図11A、図11Bに示す計算と同様の条件で、溝深さdを0〜0.5λ、ラジアルRim強度を0.6、0.76、0.85、0.89と変化させた際のレンズシフト0.5mm時のTE振幅の変化を表すグラフである。基準はラジアルRim強度が1でレンズシフト0mm時のTE振幅を1としている。TE振幅は、溝深さ0.125λおよび0.375λをピークに溝深さの変化に伴い振幅が減少する。特に振幅0.5を下回るところからは急激に振幅が低下し、0.25λでTE振幅がほぼ0になる。したがって、本実施形態では、TE振幅が充分大きく安定する領域としてTE振幅≧0.5を満たすべき条件に設定した。各Rim強度におけるTE振幅曲線とTE振幅0.5の線との2つの交点の間の幅aを、a_1、a_2、a_3、a_4と表す。この幅aは、レンズシフト0.5mmでTE≧0.5を維持できる範囲の幅を示している。
【0076】
図12Bは、ラジアルRim強度と幅aとをグラフにプロットしたものである。このグラフから次の近似式が得られる。
a=-0.2R2+0.45R-0.085
【0077】
幅aは、溝深さ0.125λを中心とする対称な領域の幅であるため、溝深さd(λ)、ラジアルRim強度R、および波長λが満たすべき条件は、以下の式(2)で表される。
0.125λ−(-0.2R2+0.45R-0.085)λ/2≦d≦0.125λ+(-0.2R2+0.45R-0.085)λ/2 (2)
【0078】
また、TE振幅≧0.5を満たす領域は、溝深さ0.375λを中心とする対称な領域にもあるので、同様に溝深さd(λ)、ラジアルRim強度R、および波長λが満たすべき条件は、以下の式(3)で表される。
0.375λ−(-0.2R2+0.45R-0.085)λ/2≦d≦0.375λ+(-0.2R2+0.45R-0.085)λ/2 (3)
【0079】
式(2)と式(3)は、レンズシフト0.5mmにおいてもTE振幅≧0.5を満足できる溝深さd、ラジアルRim強度R、および波長λの条件を示している。
【0080】
以上より、上記式(1)および式(2)の両式、または上記式(1)および式(3)の両式を満たすように各光ピックアップ4におけるラジアルRim強度Rおよび波長λが設定されていれば、レンズシフト0.5mmにおいてもTEバランス≦15%かつTE振幅≧0.5となる。すなわち、トラッキング信号にオフセットが少なく、安定したトラッキング信号を確保でき、トラッキング制御を安定させることができる。
【0081】
なお、上記のシミュレーションでは、対物レンズのNAを0.85、レンズシフトを0.5mm、トラックの溝ピッチを0.8λとしたが、これらの条件から多少ずれていたとしても、上記の式(1)〜(3)の条件は、概ね成立する。例えば、対物レンズのNAが0.81〜0.89に設定され、レンズシフトの上限が0.3mm〜0.6mmに設定され、トラックの溝ピッチが0.75λ〜0.85λに設定されていたとしても、上記の式(1)〜(3)の条件を適用してもよい。
【0082】
以上のように、本実施形態によれば、CFF法によるトラッキング検出方式を用いてレンズシフトの上限が0.3mm〜0.5mmに設定されていてもオフセットが許容範囲内に納まり、TE振幅を充分に確保できる。これにより、レンズシフト量の大きい光テープ装置においても安定したトラッキング制御を実現できる。
【0083】
[1−5.効果等]
以上のように、本実施の形態における光ピックアップ4は、光記録媒体(光テープ2)のトラック上にデータを記録しながら当該トラック上に記録されたデータを読み出すことができる。光ピックアップ4は、光ビームを出射する光源6と、特定の方向に偏光した光を回折させる第1の回折素子(回折格子8a)と、記録用ビームおよび再生用ビームを光テープ2の同一トラック上に集束させる対物レンズ5と、フォーカス制御およびトラッキング制御のために対物レンズをシフトさせるレンズアクチュエータ20と、回折格子8aおよび光テープ2の間に配置された波長板9と、トラッキング方向に対応する方向に配列された回折特性の異なる2つの回折領域A、Bを有する第2の回折素子(偏光ホログラム素子8b)と、光検出器12とを備えている。レンズアクチュエータ20は、トラッキング方向における対物レンズ5の初期位置からのシフト量の上限が0.3mm以上0.6mm以下になるように対物レンズ5をシフトさせる。回折格子8aは、光源6から出射された光ビームを記録用ビームおよび再生用ビームを含む複数の光ビームに分離する。波長板9は、回折格子8aから波長板9に向かう光の偏光方向と波長板9から回折格子8aに向かう光の偏光方向とが直交するように設計されている。偏光ホログラム素子8bは、回折領域A、Bの各々が、上記特定の方向に直交する方向に偏光した光を回折させるように構成され、各回折領域A、Bにおいて、光テープ2で反射された記録用ビームを、透過光ビームおよび±1次回折光ビームに分離する偏光ホログラム素子8bを有している。光検出器12は、透過光ビーム、各回折領域A、Bから出射した±1次回折光ビーム、および光テープ2で反射された再生用ビームの各々を検出するように構成された複数の受光素子を有している。以上の構成により、記録、再生時にトラック位置が大きく変動し得る光テープに対してDRAWを行い、かつ、安定したトラッキング信号を得ることができるため、記録および再生品質を向上させることができる。
【0084】
また、本実施形態では、第1の回折素子として回折格子8aが用いられ、第2の回折素子として偏光ホログラム素子8bが用いられる。そして、回折格子8aおよび偏光ホログラム素子8bは、偏光ホログラム板8として一体化されている。これにより、DRAWのためのメインビームおよびサブビームを生成する素子と、CFF法によるトラッキング信号を得るための回折光ビームを生成する素子とを一体化でき、装置の小型化が可能となる。
【0085】
さらに、偏光ホログラム板8、波長板9、および対物レンズ5は、1つのレンズユニット18として一体化されている。そして、レンズアクチュエータ20は、レンズユニット18全体をシフトさせることによって対物レンズ5のシフトを行う。これにより、DRAW用のサブビームが対物レンズ5の開口の中心から大きくずれることを防止できる。その結果、DRAWの再生品質を向上させることができる。加えて、レンズシフトの際、対物レンズ5と偏光ホログラム板8とが常に一体的に移動するため、トラッキング信号品質の劣化を抑えることができる。
【0086】
また、光検出器12は、複数の受光素子のうち、偏光ホログラム素子8bにおける2つの回折領域A、Bから出射した+1次回折光ビームまたは-1次回折光ビームを検出する2つの受光素子から出力される信号間の差分演算によってトラッキング信号を生成する。このため、比較的安定したトラッキング信号が得られる。
【0087】
さらに、光テープ2のトラックピッチをa、光源6からの出射光の波長をλとするとき、a/0.85≦λ≦a/0.75を満足し、対物レンズ5の開口数は0.81以上0.89以下であり、対物レンズ5に入射する光のラジアルRim強度をR、光記録媒体のトラックの溝深さをdとするとき、上記の式(1)および式(2)の両式、または上記の式(1)および式(3)の両式を満足する。これにより、レンズシフトを0.3mm〜0.6mmという大きい値に設定してもTEバランス、TE振幅ともに良好な安定したトラッキング信号を得ることができる。
【0088】
(他の実施の形態)
以上のように、本出願において開示する技術の例示として、実施の形態を説明した。しかしながら、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記実施の形態で説明した各構成要素を組み合わせて、新たな実施の形態とすることも可能である。そこで、以下、他の実施の形態を例示する。
【0089】
上記の実施の形態では、第1の回折素子の一例として回折格子8aを用い、第2の回折素子の一例として偏光ホログラム素子8bを用いたが、この例に限定されない。第1の回折素子は、光源から出射された光ビームを記録用ビームおよび再生用ビームを含む複数の光ビームに分離するように構成されている限り、どのように構成されていてもよい。また、第2の回折素子は、トラッキング方向に対応する方向に配列された回折特性の異なる2つの回折領域を有し、各回折領域が、光記録媒体で反射された記録用ビームを、透過光ビームおよび少なくとも1つの回折光ビームに分離するように構成されている限り、どのように構成されていてもよい。例えば、上記の偏光ホログラム板8の代わりに、上記の回折格子8aおよび偏光ホログラム素子8bと同様の特性を有する2層の積層されたホログラムパターンを用いてもよい。
【0090】
また、上記の実施形態では、第1および第2の回折素子、波長板、および対物レンズは1つのレンズユニットとして一体化されているが、このような例に限定されない。これらの要素が分離して設けられていてもよい。その場合、対物レンズ5と第2の回折素子とをトラッキング方向に一体的にシフトさせる機構を設けてもよい。
【0091】
また、光記録媒体は必ずしも光テープである必要はない。他の種類の光記録媒体にも上記の光ピックアップおよび光記録再生装置の構成を適用することができる。
【0092】
また、上記の実施形態では、光記録再生装置は12個の光ピックアップを備えているが、光ピックアップの数は任意に定めてよい。少なくとも1つの光ピックアップを備える光記録再生装置であれば、上記の技術を適用することができる。
【0093】
以上のように、本開示における技術の例示として、実施の形態を説明した。そのために、添付図面および詳細な説明を提供した。
【0094】
したがって、添付図面および詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0095】
また、上述の実施の形態は、本開示における技術を例示するためのものであるから、特許請求の範囲またはその均等の範囲において種々の変更、置き換え、付加、省略などを行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本開示にかかる光ピックアップは、これを複数個含む大容量情報記憶システムにて光記録媒体の異なる領域、または異なる光記録媒体に同時に情報を正確に記録する用途に用いられ得る。本開示にかかる光記録再生装置は、簡易な構成でコストメリットを有する記録再生装置として有用である。
【符号の説明】
【0097】
1 光記録再生装置(光テープ装置)
2 光記録媒体(光テープ)
2a ベースフィルム
2b バックコート層
2c インプリント層
2d ランド
2e グルーブ
3 トラック
4 光ピックアップ
5 対物レンズ
6 光源
7 コリメータ
8 偏光ホログラム板
8a 回折格子
8b 偏光ホログラム素子
9 1/4波長板
10 対物レンズホルダー
11 ビームスプリッタ
12 光検出部
13〜17 受光素子
20 レンズアクチュエータ
40 光ピックアップアセンブリ
110 メインスポット
120a、120b サブスポット
506、507 モータ
520 フロントエンド信号処理部
530 エンコーダ/デコーダ
531 光変調回路
540 CPU(システムコントローラ)
550 サーボ制御部
560 ドライバアンプ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光記録媒体のトラック上にデータを記録しながら前記トラック上に記録されたデータを読み出す光ピックアップであって、
光ビームを出射する光源と、
特定の方向に偏光した光を回折させる第1の回折素子であって、前記光源から出射された前記光ビームを記録用ビームおよび再生用ビームを含む複数の光ビームに分離する第1の回折素子と、
前記記録用ビームおよび前記再生用ビームを前記光記録媒体の同一トラック上に集束させる対物レンズと、
フォーカス制御およびトラッキング制御のために前記対物レンズをシフトさせるレンズアクチュエータであって、トラッキング方向における前記対物レンズの初期位置からのシフト量の上限が0.3mm以上0.6mm以下になるように前記対物レンズをシフトさせるレンズアクチュエータと、
前記第1の回折素子および前記光記録媒体の間に配置された波長板であって、前記第1の回折素子から前記波長板に向かう光の偏光方向と前記波長板から前記第1の回折素子に向かう光の偏光方向とが直交するように設計された波長板と、
前記トラッキング方向に対応する方向に配列された回折特性の異なる2つの回折領域を有する第2の回折素子であって、各回折領域が、前記特定の方向に直交する方向に偏光した光を回折させるように構成され、各回折領域において、前記光記録媒体で反射された前記記録用ビームを、透過光ビームおよび少なくとも1つの回折光ビームに分離する第2の回折素子と、
前記透過光ビーム、各回折領域から出射した前記回折光ビーム、および前記光記録媒体で反射された前記再生用ビームの各々を検出するように構成された複数の受光素子を有する光検出器と、
を備える光ピックアップ。
【請求項2】
前記第1の回折素子は回折格子であり、
前記第2の回折素子は偏光ホログラム素子である、
請求項1に記載の光ピックアップ。
【請求項3】
前記第1および第2の回折素子が一体化された偏光ホログラム板を備えている、請求項2に記載の光ピックアップ。
【請求項4】
前記偏光ホログラム板、前記波長板、および前記対物レンズは1つのユニットとして一体化され、
前記レンズアクチュエータは、前記ユニットをシフトさせるように構成されている、
請求項3に記載の光ピックアップ。
【請求項5】
前記光検出器は、前記複数の受光素子のうち、前記2つの回折領域から出射した前記回折光ビームを検出する2つの受光素子から出力される信号間の差分演算によってトラッキング誤差信号を生成する、請求項1に記載の光ピックアップ。
【請求項6】
前記光記録媒体のトラックピッチをa、前記光源からの出射光の波長をλとするとき、a/0.85≦λ≦a/0.75を満足し、前記対物レンズの開口数は0.81以上0.89以下であり、前記対物レンズに入射する光のラジアルRim強度をR、前記光記録媒体のトラックの溝深さをdとするとき、
0.25λ−(1.2R2-R+0.395)λ/2≦d≦0.25λ+(1.2R2-R+0.395)λ/2、および
0.125λ−(-0.2R2+0.45R-0.085)λ/2≦d≦0.125λ+(-0.2R2+0.45R-0.085)λ/2
の両式、または
0.25λ−(1.2R2-R+0.395)λ/2≦d≦0.25λ+(1.2R2-R+0.395)λ/2、および
0.375λ−(-0.2 R2+0.45R-0.085)λ/2≦d≦0.375λ+(-0.2R2+0.45R-0.085)λ/2
の両式を満足する、請求項1に記載の光ピックアップ。
【請求項7】
少なくとも1つの光ピックアップと、
前記光ピックアップから出力される信号を処理する信号処理部と、
前記信号処理部の出力に基づいて前記光ピックアップを制御するコントローラと、
を備える光記録再生装置であって、
前記光ピックアップは、
光ビームを出射する光源と、
特定の方向に偏光した光を回折させる第1の回折素子であって、前記光源から出射された前記光ビームを記録用ビームおよび再生用ビームを含む複数の光ビームに分離する第1の回折素子と、
前記記録用ビームおよび前記再生用ビームを前記光記録媒体の同一トラック上に集束させる対物レンズと、
フォーカス制御およびトラッキング制御のために前記対物レンズをシフトさせるレンズアクチュエータであって、トラッキング方向における前記対物レンズの初期位置からのシフト量の上限が0.3mm以上0.6mm以下になるように前記対物レンズをシフトさせるレンズアクチュエータと、
前記第1の回折素子および前記光記録媒体の間に配置された波長板であって、前記第1の回折素子から前記波長板に向かう光の偏光方向と前記波長板から前記第1の回折素子に向かう光の偏光方向とが直交するように設計された波長板と、
前記トラッキング方向に対応する方向に配列された回折特性の異なる2つの回折領域を有する第2の回折素子であって、各回折領域が、前記特定の方向に直交する方向に偏光した光を回折させるように構成され、各回折領域において、前記光記録媒体で反射された前記記録用ビームを、透過光ビームおよび少なくとも1つの回折光ビームに分離する第2の回折素子と、
前記透過光ビーム、各回折領域から出射した前記回折光ビーム、および前記光記録媒体で反射された前記再生用ビームの各々を検出するように構成された複数の受光素子を有する光検出器と、
を有している、
光記録再生装置。
【請求項1】
光記録媒体のトラック上にデータを記録しながら前記トラック上に記録されたデータを読み出す光ピックアップであって、
光ビームを出射する光源と、
特定の方向に偏光した光を回折させる第1の回折素子であって、前記光源から出射された前記光ビームを記録用ビームおよび再生用ビームを含む複数の光ビームに分離する第1の回折素子と、
前記記録用ビームおよび前記再生用ビームを前記光記録媒体の同一トラック上に集束させる対物レンズと、
フォーカス制御およびトラッキング制御のために前記対物レンズをシフトさせるレンズアクチュエータであって、トラッキング方向における前記対物レンズの初期位置からのシフト量の上限が0.3mm以上0.6mm以下になるように前記対物レンズをシフトさせるレンズアクチュエータと、
前記第1の回折素子および前記光記録媒体の間に配置された波長板であって、前記第1の回折素子から前記波長板に向かう光の偏光方向と前記波長板から前記第1の回折素子に向かう光の偏光方向とが直交するように設計された波長板と、
前記トラッキング方向に対応する方向に配列された回折特性の異なる2つの回折領域を有する第2の回折素子であって、各回折領域が、前記特定の方向に直交する方向に偏光した光を回折させるように構成され、各回折領域において、前記光記録媒体で反射された前記記録用ビームを、透過光ビームおよび少なくとも1つの回折光ビームに分離する第2の回折素子と、
前記透過光ビーム、各回折領域から出射した前記回折光ビーム、および前記光記録媒体で反射された前記再生用ビームの各々を検出するように構成された複数の受光素子を有する光検出器と、
を備える光ピックアップ。
【請求項2】
前記第1の回折素子は回折格子であり、
前記第2の回折素子は偏光ホログラム素子である、
請求項1に記載の光ピックアップ。
【請求項3】
前記第1および第2の回折素子が一体化された偏光ホログラム板を備えている、請求項2に記載の光ピックアップ。
【請求項4】
前記偏光ホログラム板、前記波長板、および前記対物レンズは1つのユニットとして一体化され、
前記レンズアクチュエータは、前記ユニットをシフトさせるように構成されている、
請求項3に記載の光ピックアップ。
【請求項5】
前記光検出器は、前記複数の受光素子のうち、前記2つの回折領域から出射した前記回折光ビームを検出する2つの受光素子から出力される信号間の差分演算によってトラッキング誤差信号を生成する、請求項1に記載の光ピックアップ。
【請求項6】
前記光記録媒体のトラックピッチをa、前記光源からの出射光の波長をλとするとき、a/0.85≦λ≦a/0.75を満足し、前記対物レンズの開口数は0.81以上0.89以下であり、前記対物レンズに入射する光のラジアルRim強度をR、前記光記録媒体のトラックの溝深さをdとするとき、
0.25λ−(1.2R2-R+0.395)λ/2≦d≦0.25λ+(1.2R2-R+0.395)λ/2、および
0.125λ−(-0.2R2+0.45R-0.085)λ/2≦d≦0.125λ+(-0.2R2+0.45R-0.085)λ/2
の両式、または
0.25λ−(1.2R2-R+0.395)λ/2≦d≦0.25λ+(1.2R2-R+0.395)λ/2、および
0.375λ−(-0.2 R2+0.45R-0.085)λ/2≦d≦0.375λ+(-0.2R2+0.45R-0.085)λ/2
の両式を満足する、請求項1に記載の光ピックアップ。
【請求項7】
少なくとも1つの光ピックアップと、
前記光ピックアップから出力される信号を処理する信号処理部と、
前記信号処理部の出力に基づいて前記光ピックアップを制御するコントローラと、
を備える光記録再生装置であって、
前記光ピックアップは、
光ビームを出射する光源と、
特定の方向に偏光した光を回折させる第1の回折素子であって、前記光源から出射された前記光ビームを記録用ビームおよび再生用ビームを含む複数の光ビームに分離する第1の回折素子と、
前記記録用ビームおよび前記再生用ビームを前記光記録媒体の同一トラック上に集束させる対物レンズと、
フォーカス制御およびトラッキング制御のために前記対物レンズをシフトさせるレンズアクチュエータであって、トラッキング方向における前記対物レンズの初期位置からのシフト量の上限が0.3mm以上0.6mm以下になるように前記対物レンズをシフトさせるレンズアクチュエータと、
前記第1の回折素子および前記光記録媒体の間に配置された波長板であって、前記第1の回折素子から前記波長板に向かう光の偏光方向と前記波長板から前記第1の回折素子に向かう光の偏光方向とが直交するように設計された波長板と、
前記トラッキング方向に対応する方向に配列された回折特性の異なる2つの回折領域を有する第2の回折素子であって、各回折領域が、前記特定の方向に直交する方向に偏光した光を回折させるように構成され、各回折領域において、前記光記録媒体で反射された前記記録用ビームを、透過光ビームおよび少なくとも1つの回折光ビームに分離する第2の回折素子と、
前記透過光ビーム、各回折領域から出射した前記回折光ビーム、および前記光記録媒体で反射された前記再生用ビームの各々を検出するように構成された複数の受光素子を有する光検出器と、
を有している、
光記録再生装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11A】
【図11B】
【図12A】
【図12B】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【公開番号】特開2013−101740(P2013−101740A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−171842(P2012−171842)
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】
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