説明

光半導体素子

【課題】小型化が可能であり容易に作製できる多波長の光半導体素子を提供する。
【解決手段】半導体レーザ素子1Aは、主面10aが第1の面方位を有するGaN基板10と、主面10aの第1の領域上に成長しており、活性層24を含むレーザ構造部20と、主面10aの第1の領域とは異なる第2の領域に対し接合層41を介して接合されており、表面40aが第1の面方位とは異なる第2の面方位を有するGaN薄膜40と、GaN薄膜40の表面40a上に成長しており、活性層34を含むレーザ構造部30とを備える。活性層24,34は、Inを含む井戸層をそれぞれ有し、これらの井戸層の発光波長は互いに異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光半導体素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、複数の波長の光を出射する発光素子の開発が行われている。例えば、特許文献1には、650nm及び780nmの二波長のレーザ光を出射する半導体レーザアレイが開示されている。この半導体レーザアレイは、GaAs基板と、650nmのレーザ光を出射するレーザ素子部と、780nmの波長のレーザ光を出射するレーザ素子部とを備え、この二個のレーザ素子部は、GaAs基板上に設けられている。
【0003】
特許文献2には、発振波長が互いに異なる少なくとも三個のレーザダイオードが一枚のプレート上に設けられた構成を備える多波長レーザダイオードが開示されている。三個のレーザダイオードは、一枚のプレート上において、プレート表面に沿って並列に設けられている。そして、三個のレーザダイオードのうち一部はGaN基板上において結晶成長されたものであり、残りはGaAs基板上において結晶成長されたものである。
【0004】
特許文献3には、発振波長が互いに異なる少なくとも三個のレーザダイオードが一枚のプレート上に接合された構成を備える多波長レーザダイオードが開示されている。三個のレーザダイオードは、一枚のプレート上に積層されて設けられている。そして、三個のレーザダイオードのうち、一部はGaN基板上において結晶成長されたものであり、残りはGaAs基板上において結晶成長されたものである。
【0005】
特許文献4には、発振波長が互いに異なる三個のレーザダイオードが一枚のプレート上に接合された構成を備える多波長レーザが開示されている。三個のレーザダイオードは、GaN基板上において、GaN基板表面に沿って並列に設けられている。三個のレーザダイオードのうち、一部はGaN基板上において結晶成長されたものであり、残りはGaAs基板上において結晶成長されたものである。
【0006】
非特許文献1には、GaN基体に設けられた三つの異なるファセットと、それぞれのファセット上に結晶成長されたLEDとを有する発光素子が開示されている。それぞれのLEDは、ファセットが異なることによってInの含有率も異なっており、このため、発光波長も異なっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−011417号公報
【特許文献2】特開2006−135306号公報
【特許文献3】特開2006−135323号公報
【特許文献4】特開2008−294322号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】M.Funato et al., ‘Tailored emission color synthesis using microfacet quantum wellsconsisting of nitride semiconductors without phosphors’ Applied Physics Letters 88, 261920 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
例えばGaNなどのIII族窒化物は、広範囲の発光波長を実現できる材料である。一枚のIII族窒化物半導体基板上に、波長が互いに大きく異なる複数の発光部を作製することも可能である。しかしながら、特許文献2〜4に記載されているように一枚のプレート上に発光素子を接合するような構成では、デバイスの小型化が困難である。また、複数のレーザダイオード同士で一定のアライメント精度を得るためには、組み立てのコストが大きくなってしまう。
【0010】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、小型化が可能であり容易に作製できる多波長の光半導体素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するために、本発明による光半導体素子は、主面が第1の面方位を有するIII族窒化物半導体基板と、主面の第1の領域上に成長しており、第1の活性層を含む第1のIII族窒化物半導体積層部と、主面の第1の領域とは異なる第2の領域に対し接合層を介して接合されており、表面が第1の面方位とは異なる第2の面方位を有するIII族窒化物半導体薄膜と、III族窒化物半導体薄膜の表面上に成長しており、第2の活性層を含む第2のIII族窒化物半導体積層部とを備え、第1及び第2の活性層は、Inを含む第1及び第2の井戸層をそれぞれ有し、第1及び第2の井戸層の発光波長が互いに異なることを特徴とする。
【0012】
この光半導体素子においては、第1のIII族窒化物半導体基板の主面の面方位と、III族窒化物半導体薄膜の表面の面方位とが互いに異なっている。そして、第1のIII族窒化物半導体積層部はIII族窒化物半導体基板上に成長しており、第2のIII族窒化物半導体積層部はIII族窒化物半導体薄膜上に成長している。このような場合、例えば第1及び第2の井戸層の成長条件が同じであっても、Inの取り込み度合いの違いにより、第1及び第2の井戸層の発光波長を互いに異ならせることができる。従って、この光半導体素子によれば、波長が異なる複数の発光部(第1及び第2のIII族窒化物半導体積層部)を容易に作製できる。また、第1及び第2のIII族窒化物半導体積層部が共通の基板(III族窒化物半導体基板)上に成長しているので、プレート上に発光素子を接合するような構成と比較して、小型化を可能にできる。
【0013】
また、光半導体素子は、第1の井戸層のIn組成と、第2の井戸層のIn組成とが互いに異なることを特徴としてもよい。上述した光半導体素子によれば、第1のIII族窒化物半導体基板の主面の面方位と、III族窒化物半導体薄膜の表面の面方位とが互いに異なっているので、このようにIn組成が互いに異なる第1及び第2の井戸層を容易に実現できる。そして、例えばこのような構成によって、第1及び第2の井戸層の発光波長を互いに異ならせることができる。
【0014】
また、光半導体素子は、第1のIII族窒化物半導体積層部が、第1の活性層に沿って設けられた第1の光ガイド層を更に含み、第2のIII族窒化物半導体積層部が、第2の活性層に沿って設けられた第2の光ガイド層を更に含み、第1及び第2の光ガイド層がInを含み、第1及び第2の光ガイド層のIn組成が互いに異なることを特徴としてもよい。
【0015】
また、光半導体素子は、第1及び第2の井戸層のうち一方の発光波長が430nm以上480nm以下の範囲に含まれることを特徴としてもよい。
【0016】
また、光半導体素子は、第1及び第2の井戸層のうち一方の発光波長が500nm以上550nm以下の範囲に含まれることを特徴としてもよい。
【0017】
また、光半導体素子は、第1の井戸層の発光波長が500nm以上550nm以下の範囲に含まれ、第2の井戸層の発光波長が430nm以上480nm以下の範囲に含まれることを特徴としてもよい。
【0018】
また、光半導体素子は、第1のIII族窒化物半導体積層部が、レーザ発振のための光導波路構造を有しており、III族窒化物半導体基板の主面における法線ベクトルが、当該III族窒化物半導体のc軸に対して傾斜しており、III族窒化物半導体基板のc軸の傾斜方向が、第1のIII族窒化物半導体積層部の光導波路構造の長手方向と垂直であることを特徴としてもよい。このように、第1のIII族窒化物半導体積層部がレーザ素子構造を有する場合、III族窒化物半導体基板のc軸に対する主面の傾斜方向が光導波路に垂直であることによって、レーザ素子構造の共振端面を劈開面とすることができるので、良好なレーザ発振特性を得ることができる。
【0019】
また、光半導体素子は、III族窒化物半導体基板の主面が、当該III族窒化物半導体の半極性面または無極性面を含むことを特徴としてもよい。これにより、第1の井戸層におけるInの組成比を高め、500nm以上550nm以下といった緑色領域の発光波長を実現することができる。
【0020】
また、光半導体素子は、III族窒化物半導体基板の主面における法線ベクトルと、III族窒化物半導体基板のc軸との成す傾斜角が、10度以上80度以下、又は100度以上170度以下の範囲に含まれることが好ましい。或いは、光半導体素子は、III族窒化物半導体基板の主面における法線ベクトルと、III族窒化物半導体基板のc軸との成す傾斜角が、63度以上80度以下、又は100度以上117度以下の範囲に含まれることが尚好ましい。
【0021】
また、光半導体素子は、接合層が導電性を有する材料からなることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、小型化が可能であり容易に作製できる多波長の光半導体素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明による光半導体素子の第1実施形態として、半導体レーザ素子の外観を示す斜視図である。
【図2】図2は、図1のII−II線に沿った半導体レーザ素子の側断面図である。
【図3】図3は、半導体レーザ素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図4】図4(a),(b)は、半導体レーザ素子の製造工程を示す断面図であり、半導体レーザ素子の光導波方向に垂直な切断面を示している。
【図5】図5(a),(b)は、半導体レーザ素子の製造工程を示す断面図であり、半導体レーザ素子の光導波方向に垂直な切断面を示している。
【図6】図6(a),(b)は、半導体レーザ素子の製造工程を示す断面図であり、半導体レーザ素子の光導波方向に垂直な切断面を示している。
【図7】図7は、半導体レーザ素子の製造工程を示す断面図であり、半導体レーザ素子の光導波方向に垂直な切断面を示している。
【図8】図8は、単一の半導体発光素子が緑色光及び青色光を発光することの利点を説明するためのグラフである。
【図9】図9は、基板主面の傾斜方向に対して偏向方向が平行である光成分と、基板主面の傾斜方向に対して偏向方向が垂直である光成分とを示す図である。
【図10】図10は、一変形例に係る半導体レーザ素子の製造方法を示すフローチャートである。
【図11】図11(a),(b)は、変形例に係る半導体レーザ素子の製造工程を示す断面図であり、半導体レーザ素子の光導波方向に垂直な切断面を示している。
【図12】図12は、変形例に係る半導体レーザ素子の製造工程を示す断面図であり、半導体レーザ素子の光導波方向に垂直な切断面を示している。
【図13】図13は、第2実施形態の光半導体素子としての発光ダイオード(LED)の平面図である。
【図14】図14は、図13のXIV−XIV線に沿った発光ダイオードの側断面図である。
【図15】図15は、発光ダイオードの製造方法を示すフローチャートである。
【図16】図16(a),(b)は、発光ダイオードの製造工程を示す側断面図である。
【図17】図17(a),(b)は、発光ダイオードの製造工程を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照しながら本発明による光半導体素子の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0025】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明による光半導体素子の第1実施形態として、半導体レーザ素子1Aの外観を示す斜視図である。また、図2は、図1のII−II線に沿った半導体レーザ素子1Aの側断面図である。図1及び図2に示されるように、本実施形態の半導体レーザ素子1Aは、III族窒化物半導体基板としてのGaN基板10と、第1のIII族窒化物半導体積層部としてのレーザ構造部20と、第2のIII族窒化物半導体積層部としてのレーザ構造部30と、III族窒化物半導体薄膜としてのGaN薄膜40とを備える。
【0026】
GaN基板10は、第1導電型(例えばn型)のGaN単結晶からなる基板であり、主面10a及び裏面10bを有する。主面10aは、第1の面方位を有する。ここで、第1の面方位とは、例えば当該GaN結晶のc軸から所定の方向に所定の角度だけ傾斜した面方位である。換言すれば、GaN基板10を構成するGaN結晶のc軸は、主面10aに対して傾斜している。すなわち、主面10aは、半極性面または無極性面を含む。
【0027】
GaN基板10の主面10aの傾斜角は、主面10aの法線ベクトルとc軸との成す角度によって規定される。この角度は、10度以上80度以下の範囲にあることができ、或いは100度以上170度以下の範囲にあることができる。GaN基板10において、この角度範囲によればGaN結晶の半極性の性質を提供できる。さらに、傾斜角は63度以上80度以下の範囲にあることが好ましく、或いは100度以上117度以下の範囲にあることが好ましい。この角度範囲によれば、500nm以上550nm以下の発光のための井戸層(後述)に好適なIn組成のInGaN層を提供できる。一実施例では、主面10aの傾斜角は75度であり、その傾斜方向はm軸方向である。
【0028】
GaN基板10の裏面10b上の全面には、カソード電極52が設けられている。カソード電極52は、例えばTi/Al膜からなり、GaN基板10とオーミック接触を成している。
【0029】
レーザ構造部20は、レーザダイオードとしての構造を有しており、主面10aの第1の領域10c上に結晶成長されて成る。第1の領域10cの横幅(レーザ光の導波方向に垂直な方向の幅)は、例えば1mmである。本実施形態のレーザ構造部20は、主面10a上において順に成長した、バッファ層21、下部クラッド層22、下部光ガイド層23、活性層24、上部光ガイド層25、電子ブロック層26、上部クラッド層27、及びコンタクト層28を含む。
【0030】
バッファ層21は、主面10aと接しており、例えばn型GaNからなる。バッファ層21の厚さは、例えば500nmである。下部クラッド層22は、バッファ層21上に設けられており、例えばn型In0.02Al0.09Ga0.89Nからなる。下部クラッド層22の厚さは、例えば1.5μmである。下部光ガイド層23及び上部光ガイド層25は、本実施形態における第1の光ガイド層である。下部光ガイド層23は、下部クラッド層22上において活性層24に沿って設けられており、上部光ガイド層25は、下部光ガイド層23上において活性層24に沿って設けられている。下部光ガイド層23及び上部光ガイド層25は、例えばアンドープIn0.03Ga0.97Nからなり、これらの好適な厚さは例えば200nmである。電子ブロック層26は、上部光ガイド層25上に設けられており、例えばp型Al0.12Ga0.88Nからなる。電子ブロック層26の厚さは、例えば20nmである。上部クラッド層27は、電子ブロック層26上に設けられており、例えばp型In0.02Al0.09Ga0.89Nからなる。上部クラッド層27の厚さは、例えば400nmである。コンタクト層28は、上部クラッド層27上に設けられており、例えばp型GaNからなる。コンタクト層28の厚さは、例えば50nmである。
【0031】
活性層24は、本実施形態における第1の活性層である。活性層24は、下部光ガイド層23と上部光ガイド層25との間に設けられている。活性層24は、量子井戸構造を有することができ、この量子井戸構造は、交互に配列された井戸層(第1の井戸層)及び障壁層を必要に応じて含むことができる。井戸層はInを含むIII−V族化合物半導体、例えばInGaN等からなることができ、障壁層は井戸層よりバンドギャップエネルギーの大きいInGaN又はGaN等からなることができる。一実施例では、井戸層(InGaN)の厚さは例えば3nmであり、障壁層(GaN)の厚さは例えば15nmである。活性層24の発光波長は、井戸層のバンドギャップやIn組成、その厚さ等によって制御される。活性層24は、波長500nm以上550nm以下の範囲のピーク波長を有する緑色光を発生するようなIn組成とされることができ、この場合、井戸層の組成は例えばIn0.3Ga0.7Nである。
【0032】
上部光ガイド層25、電子ブロック層26、上部クラッド層27、及びコンタクト層28は、光導波方向を長手方向とするリッジ状に成形されている。このリッジ形状の直下には、レーザ発振のための光導波路構造が形成される。この光導波路構造の長手方向は、GaN基板10の主面10aの法線ベクトルに対するGaN基板10のc軸の傾斜方向と交差している(好ましくは、垂直である)ことが好ましい。これにより、光導波路の共振端面を、傾斜角度によらず劈開面とすることができるので、良好なレーザ発振特性が得られるからである。
【0033】
リッジ状の各半導体層25〜28の側面は絶縁膜29によって覆われており、コンタクト層28上には、絶縁膜29の開口を通じてアノード電極51が設けられている。アノード電極51は、光導波方向に沿ったストライプ状の平面形状を有している。アノード電極51は、例えばNi/Au膜からなり、コンタクト層28とオーミック接触を成している。
【0034】
GaN薄膜40は、第1導電型(例えばn型)のGaN単結晶からなる薄膜である。GaN薄膜40の厚さは、例えば0.5μmである。GaN薄膜40は、GaN基板10の主面10a上において、第1の領域10cとは異なる第2の領域10dに対して接合層41を介して接合されている。第2の領域10dの横幅(レーザ光の導波方向に垂直な方向の幅)は、例えば1mmである。なお、本実施形態では、第1の領域10c及び第2の領域10dは、光導波方向と交差する方向に並んで設定されている。このようなGaN薄膜40は、例えば次のような方法によって作製される。すなわち、GaN基板10の主面10aにおいて接合層41を第2の領域10d上に選択的に配置し、イオン注入等によって表面が剥離し易くされたGaN結晶の表面にこの接合層41を介してGaN基板10の主面10aを接合し、その後、GaN結晶の表面を剥離させる。
【0035】
また、GaN薄膜40の表面40a(ここで、GaN薄膜40の表面とは、接合層41に接合している面とは反対側の面をいう)は、第2の面方位を有する。ここで、第2の面方位とは、GaN基板10の第1の面方位とは異なる面方位であり、例えばGaN薄膜40のc軸から僅かに傾斜した面方位である。すなわち、表面40aは、実質的にC面、またはC面に対して僅かにオフ角(例えばa軸方向に2度)を有する面を含む。
【0036】
レーザ構造部30は、レーザダイオードとしての構造を有しており、GaN薄膜40上に結晶成長されて成る。本実施形態のレーザ構造部30は、表面40a上において順に成長した、バッファ層31、下部クラッド層32、下部光ガイド層33、活性層34、上部光ガイド層35、電子ブロック層36、上部クラッド層37、及びコンタクト層38を含む。
【0037】
バッファ層31は、表面40aと接しており、例えばn型GaNからなる。バッファ層31の厚さは、例えば500nmである。下部クラッド層32は、バッファ層31上に設けられており、例えばn型In0.02Al0.09Ga0.89Nからなる。下部クラッド層32の厚さは、例えば1.5μmである。下部光ガイド層33及び上部光ガイド層35は、本実施形態における第2の光ガイド層である。下部光ガイド層33は、下部クラッド層32上において活性層34に沿って設けられており、上部光ガイド層35は、下部光ガイド層33上において活性層34に沿って設けられている。下部光ガイド層33及び上部光ガイド層35は、例えばアンドープIn0.02Ga0.98Nからなり、これらの好適な厚さは例えば200nmである。このように、レーザ構造部30の下部光ガイド層33及び上部光ガイド層35のIn組成(0.02)は、前述したレーザ構造部20の下部光ガイド層23及び上部光ガイド層25のIn組成(0.03)と異なっている。これは、GaN基板10の主面10aと、GaN薄膜40の表面40aとで面方向が相違することに起因する。
【0038】
電子ブロック層36は、上部光ガイド層35上に設けられており、例えばp型Al0.12Ga0.88Nからなる。電子ブロック層36の厚さは、例えば20nmである。上部クラッド層37は、電子ブロック層36上に設けられており、例えばp型In0.02Al0.09Ga0.89Nからなる。上部クラッド層37の厚さは、例えば400nmである。コンタクト層38は、上部クラッド層37上に設けられており、例えばp型GaNからなる。コンタクト層38の厚さは、例えば50nmである。
【0039】
活性層34は、本実施形態における第2の活性層である。活性層34は、下部光ガイド層33と上部光ガイド層35との間に設けられている。活性層34の構造は、前述した活性層24の構造と同様であるが、次の点のみ異なる。すなわち、活性層34の井戸層(第2の井戸層)のIn組成は、活性層24の井戸層のIn組成と異なっており、例えば活性層34の井戸層の組成はIn0.2Ga0.8Nである。このような井戸層のIn組成の相違は、光ガイド層と同様、GaN基板10の主面10aと、GaN薄膜40の表面40aとで面方向が相違することに起因する。そして、本実施形態では、このような井戸層のIn組成の相違によって、活性層24の井戸層における発光波長と、活性層34の井戸層における発光波長とが互いに異なる。上述したように、活性層24の井戸層は、波長500nm以上550nm以下の範囲のピーク波長を有する緑色光を発生する。これに対し、活性層34の井戸層は、波長430nm以上480nm以下の範囲のピーク波長を有する青色光を発生する。
【0040】
上部光ガイド層35、電子ブロック層36、上部クラッド層37、及びコンタクト層38は、光導波方向を長手方向とするリッジ状に成形されている。このリッジ形状の直下には、レーザ発振のための光導波路構造が形成される。リッジ状の各半導体層35〜38の側面は絶縁膜39によって覆われており、コンタクト層38上には、絶縁膜39の開口を通じてアノード電極53が設けられている。アノード電極53は、光導波方向に沿ったストライプ状の平面形状を有している。アノード電極53は、例えばNi/Au膜からなり、コンタクト層38とオーミック接触を成している。
【0041】
以上の構成を備える半導体レーザ素子1Aは、例えば以下のような製造方法によって好適に製造される。図3は、半導体レーザ素子1Aの製造方法を示すフローチャートである。また、図4〜図7は、半導体レーザ素子1Aの製造工程を示す断面図であり、半導体レーザ素子1Aの光導波方向に垂直な切断面を示している。
【0042】
まず、図4(a)に示されるように、GaN基板10と、GaN薄膜40のためのGaN単結晶インゴット60とを準備する。GaN単結晶インゴット60の主面60aは、前述した第2の面方位を有する。そして、GaN基板10の主面10a上と、GaN単結晶インゴット60の主面60a上とに、接合層41を形成する(接合層形成工程S1)。接合層41の材料としては、導電性を有し且つ接合強度に優れた材料、例えばATO、ZnO、TiO、STO、Ga、GZO、SnO、InO、SbO、TiN等が好適である。
【0043】
次に、図4(b)に示されるように、GaN単結晶インゴット60の主面60aに対して、接合層41を介して水素イオンHを注入する(イオン注入工程S2)。このとき、GaN単結晶インゴット60の内部におけるドーズ量のピークが、主面60aから所定の深さ、すなわちGaN薄膜40に望まれる厚さとほぼ等しい深さに位置するように、水素イオンHを注入するとよい。この工程により、後の工程におけるGaN薄膜40の剥離が容易になる。
【0044】
続いて、図5(a)に示されるように、接合層41のうちGaN基板10の第1の領域10c上に位置する部分に傷を付けて凹凸を生じさせることにより、不接合領域41aを形成する(不接合領域形成工程S3)。なお、この工程では、当該部分に傷を付ける方法の他、当該部分をエッチング等によって除去することによって不接合領域41aを形成してもよい。傷を付ける方法は、スクライバ等の一般的な加工手段によって容易に行うことができる利点がある。また、エッチング等による方法は、不接合領域41aの深さや幅の制御が容易であり、また、汎用されているエッチング装置を用いて行うことができるという利点がある。図5(a)ではGaN基板10上に設けられた接合層41に対してのみ不接合領域41aを形成しているが、これと同様の不接合領域を、GaN単結晶インゴット60上に設けられた接合層41に対して形成してもよい。
【0045】
続いて、図5(b)に示されるように、GaN基板10の主面10aと、GaN単結晶インゴット60の主面60aとを対向させ、GaN基板10上の接合層41と、GaN単結晶インゴット60上の接合層41とを互いに接合する(接合工程S4)。この工程では、例えば各接合層41の表面にプラズマやイオンを照射することにより各接合層41の表面を活性化させ、その活性化された表面同士を接合するとよい。或いは、各接合層41の表面同士を接触させた状態で、GaN基板10及びGaN単結晶インゴット60の温度を700度ないし1000度に昇温してもよい。或いは、各接合層41の表面に金属膜を形成し、これらの金属膜同士を接触させた状態で昇温することにより、これらの金属膜同士を合金化させてもよい。この接合工程によって、不接合領域41aを除くGaN基板10上の接合層41とGaN単結晶インゴット60上の接合層41とが、互いに強く接合する。
【0046】
続いて、図6(a)に示されるように、GaN基板10をGaN単結晶インゴット60から分離させる(分離工程S5)。このとき、不接合領域41aを除く接合層41によって、GaN単結晶インゴット60の表層の一部、すなわちGaN薄膜40がGaN基板10に付随してGaN単結晶インゴット60から剥離する。このとき、GaN薄膜40の厚さは、先のイオン注入工程において注入された水素イオンのドーズ量がピークとなる深さとほぼ等しくなる。
【0047】
続いて、図6(b)に示されるように、GaN基板10の主面10a上の各構造物にエッチングを施す(エッチング工程S6)。この工程では、例えばCFガスを用いたドライエッチングを行うとよい。この工程によって、GaN基板10上における接合層41の不接合領域41aが除去され、且つ、露出したGaN基板10の主面10aが平滑化され、後の結晶成長のための良好な主面10aが得られる。また、これと同時に、GaN薄膜40の表面40aが平滑化され、後の結晶成長のために良好な表面40aが得られる。
【0048】
続いて、図7に示されるように、GaN基板10の主面10aの第1の領域10c上に、レーザ構造部20の各半導体層(バッファ層21、下部クラッド層22、下部光ガイド層23、活性層24、上部光ガイド層25、電子ブロック層26、上部クラッド層27、及びコンタクト層28)を成長させ、同時に、GaN薄膜40の表面40a上に、レーザ構造部30の各半導体層(バッファ層31、下部クラッド層32、下部光ガイド層33、活性層34、上部光ガイド層35、電子ブロック層36、上部クラッド層37、及びコンタクト層38)を成長させる(半導体層成長工程S7)。これらの半導体層の成長は、GaN基板10上において同時に且つ同一の成長条件下で行われる。例えば、活性層24及び34それぞれの井戸層は、共通の成長条件に設定された成長炉内において、供給された共通の材料を取り込むことによって同時に成長する。バッファ層21及び31、下部クラッド層22及び32、下部光ガイド層23及び33、上部光ガイド層25及び35、電子ブロック層26及び36、上部クラッド層27及び37、並びにコンタクト層28及び38の各ペアについても同様である。
【0049】
以上の工程を経たのち、エッチングによりリッジ形状を形成し、GaN基板10の裏面10b上にカソード電極52(図2を参照)を形成し、コンタクト層28及び38それぞれの上にアノード電極51及び53それぞれを形成する。そして、光導波方向と垂直な方向に沿ってGaN基板10を棒状に劈開することにより共振端面を形成したのち、一つの第1の領域10c、及び一つの第2の領域10dからなる領域毎に、この棒状部材を切断する。こうして、図1及び図2に示された半導体レーザ素子1Aを得ることができる。
【0050】
本実施形態の半導体レーザ素子1Aによって得られる効果について説明する。前述したように、この半導体レーザ素子1Aにおいては、GaN基板10の主面10aの法線ベクトルが、GaN結晶のc軸に対して大きく傾斜している。一方、GaN薄膜40のC面に対する表面40aのオフ角は2度程度と小さく、GaN薄膜40の表面40aは実質的にGaN結晶のC面としての性質を有する。このように、本実施形態では、GaN基板10の主面10aの面方位と、GaN薄膜40の表面40aの面方位とが互いに大きく異なっている。
【0051】
そして、レーザ構造部20はGaN基板10の主面10a上に成長しており、レーザ構造部30はGaN薄膜40の表面40a上に成長している。このような場合、例えばレーザ構造部20の活性層24の井戸層の成長条件と、レーザ構造部30の活性層34の井戸層の成長条件とが互いに同じであっても、例えばInの取り込み度合いの違い等により、これらの井戸層の発光波長を互いに異ならせることができる。従って、この半導体レーザ素子1Aによれば、出力波長が異なるレーザ構造部20及び30を、一枚のGaN基板10上に容易に作製できる。また、レーザ構造部20及び30がGaN基板10上に成長しているので、プレート上に発光素子を接合するような構成と比較して、小型化を可能にできる。
【0052】
また、本実施形態のように、活性層24の井戸層のIn組成と、活性層34の井戸層のIn組成とは、互いに異なることが好ましい。本実施形態の半導体レーザ素子1Aによれば、GaN基板10の主面10aの面方位と、GaN薄膜40の表面40aの面方位とが互いに大きく異なっているので、このようにIn組成が互いに異なる井戸層を容易に実現できる。そして、例えばこのような構成によって、活性層24の井戸層の発光波長と、活性層34の井戸層の発光波長とを互いに異ならせることができる。
【0053】
また、本実施形態においては、GaN基板10の主面10aの面方位と、GaN薄膜40の表面40aの面方位とが互いに大きく異なっているので、下部光ガイド層23及び上部光ガイド層25のIn組成と、下部光ガイド層33及び上部光ガイド層35のIn組成とを互いに異ならせることが容易にできる。
【0054】
また、本実施形態のように、活性層24の井戸層の発光波長が500nm以上550nm以下の範囲(緑色領域)に含まれ、活性層34の井戸層の発光波長が430nm以上480nm以下の範囲(青色領域)に含まれることが好ましい。ここで、図8は、単一の半導体発光素子が緑色光及び青色光を発光することの利点を説明するためのグラフである。図8(a)は、従来の半導体発光素子において、青色光と、この青色光の一部によって励起された蛍光体から放出される黄色光との混合光のスペクトルの例を示している。図中のλは青色光のピーク波長を示し、λは黄色光のピーク波長を示す。また、図8(b)は、青色光、緑色光、及び青色光の一部によって励起された蛍光体から放出される黄色光の混合光のスペクトルの例を示している。図中のλは緑色光のピーク波長を示す。図8(a)のようなスペクトルの光を物体に照らすと、その物体は青白く見えてしまう。一方、図8(b)のようなスペクトルの光を物体に照らすと、その物体はより自然な色合いに見える。すなわち、単一の半導体発光素子が緑色光及び青色光を発光することによって、演色性を高めることができる。
【0055】
また、本実施形態のように、GaN基板10の主面10aは、当該GaN結晶の半極性面または無極性面を含むことが好ましい。これにより、活性層24の井戸層におけるInの組成比を高め、500nm以上550nm以下といった緑色領域の発光波長を実現することができる。
【0056】
また、本実施形態のように、接合層41が導電性を有する材料からなることが好ましい。これにより、GaN基板10の裏面10b上にカソード電極52を有する半導体レーザ素子1Aを好適に実現することができる。但し、接合層41は、絶縁性を有していてもよい。この場合、例えばレーザ構造部30の一部を下部クラッド層32に達するまでエッチングし、露出した下部クラッド層32上にカソード電極を形成するとよい。絶縁性の接合層41のための材料としては、例えば、半導体層を成長させる際の高温やアンモニア雰囲気に耐性を有するSiOが好適である。
【0057】
なお、本実施形態では、前述したように、ストライプ状のアノード電極51によって形成される、レーザ構造部20の光導波路構造の長手方向が、GaN基板10の主面10aの法線ベクトルに対するGaN基板10のc軸の傾斜方向に対して垂直とされている。これにより、レーザ構造部20の光導波路の共振端面を、c軸の傾斜角度によらず劈開面(A面)とすることができるからである。しかしながら、光導波路構造の長手方向とc軸の傾斜方向との関係は、必要に応じて変更されてもよい。例えば、レーザ構造部20の光導波路構造の長手方向は、c軸の傾斜方向に沿っている(好ましくは平行である)ことも有効である。これにより、緑色レーザ光の共振端面として有利な面(例えば{−1017}面)を、レーザ構造部20の共振端面とすることができるからである。すなわち、本実施形態のように、主面10aがm軸方向に傾斜したGaN基板10上にレーザ構造部20を作製した場合、レーザ光は正の偏向度を有する。従って、図9に示されるように、主面10aの傾斜方向に対して偏向方向が平行である光成分L1よりも、主面10aの傾斜方向に対して偏向方向が垂直である光成分L2の方が強度が大きくなる。そして、レーザ発振にはTEモードが寄与することから、偏向方向が垂直となる方向と、このTEモードとが相互に一致するように光導波路構造の長手方向を設定することにより、レーザ発振効率を更に高めることができる。そして、このような光導波路構造は、その長手方向がc軸の傾斜方向に沿うことによって好適に実現される。なお、この場合、GaN基板10を十分に厚くすることにより、レーザ構造部20の共振端面におけるすべり面欠陥を低減することが可能である。
【0058】
また、例えば、GaN基板10の主面10aがC面を含む(或いは、C面に対して僅かなオフ角を有する)ような場合には、レーザ構造部30の光導波路構造の長手方向が、c軸の傾斜方向に沿っている(好ましくは平行である)ことが好ましい。これにより、緑色レーザ光の共振端面として有利な面(例えば{−1017}面)を、レーザ構造部30の共振端面とすることができる。また、GaN基板10の主面10aがC面を含むことから、GaN基板10を例えばM面といった劈開面に沿って劈開する際に、レーザ構造部30の共振端面も、この劈開に従って好適な割断面となり、良好な共振端面を得ることができる。
【0059】
(変形例)
上記第1実施形態の変形例として、半導体レーザ素子1Aの他の製造方法について説明する。図10は、本変形例に係る半導体レーザ素子1Aの製造方法を示すフローチャートである。また、図11及び図12は、本変形例に係る半導体レーザ素子1Aの製造工程を示す断面図であり、半導体レーザ素子1Aの光導波方向に垂直な切断面を示している。
【0060】
まず、第1実施形態と同様に、GaN基板10と、GaN薄膜40のためのGaN単結晶インゴット60とを準備し、GaN基板10の主面10a上と、GaN単結晶インゴット60の主面60a上とに、接合層41を形成する(接合層形成工程S11、図4(a)を参照)。次に、GaN単結晶インゴット60の主面60aに対して、接合層41を介して水素イオンを注入する(イオン注入工程S12、図4(b)を参照)。
【0061】
続いて、図11(a)に示されるように、GaN基板10の主面10aと、GaN単結晶インゴット60の主面60aとを対向させ、GaN基板10上の接合層41と、GaN単結晶インゴット60上の接合層41とを互いに接合する(接合工程S13)。なお、この接合工程においては、接合層41同士を接合させるために、第1実施形態と同様の種々の方法を用いることができる。
【0062】
続いて、図11(b)に示されるように、GaN基板10をGaN単結晶インゴット60から分離させる(分離工程S14)。このとき、接合層41によって、GaN単結晶インゴット60の表層の一部、すなわちGaN薄膜40がGaN基板10に付随してGaN単結晶インゴット60から剥離する。このとき、GaN薄膜40の厚さは、先のイオン注入工程において注入された水素イオンのドーズ量がピークとなる深さとほぼ等しくなる。
【0063】
続いて、図12に示されるように、GaN薄膜40のうちGaN基板10の第1の領域10c上に位置する部分を除去する(除去工程S15)。この工程では、GaN薄膜40の当該部分を、例えばClを用いた反応性イオンエッチング(RIE)等によって除去するとよい。
【0064】
続いて、GaN基板10の主面10a上の各構造物にエッチングを施す(エッチング工程S16、図6(b)を参照)。この工程では、例えばCFガスを用いたドライエッチングを行うとよい。この工程によって、接合層41のうち第1の領域10c上に位置する部分が除去され、且つ、露出したGaN基板10の主面10aが平滑化され、後の結晶成長のための良好な主面10aが得られる。また、これと同時に、GaN薄膜40の表面40aが平滑化され、後の結晶成長のために良好な表面40aが得られる。
【0065】
こののち、GaN基板10の主面10aの第1の領域10c上に、レーザ構造部20の各半導体層を成長させ、同時に、GaN薄膜40の表面40a上に、レーザ構造部30の各半導体層を成長させる(半導体層成長工程S17、図7を参照)。そして、GaN基板10の裏面10b上にカソード電極52(図2を参照)を形成し、コンタクト層28及び38それぞれの上にアノード電極51及び53それぞれを形成する。そして、光導波方向と垂直な方向に沿ってGaN基板10を棒状に劈開することにより共振端面を形成したのち、一つの第1の領域10c、及び一つの第2の領域10dからなる領域毎に、この棒状部材を切断する。こうして、半導体レーザ素子1Aを得ることができる。
【0066】
(第2の実施の形態)
続いて、本発明による光半導体素子の第2実施形態について説明する。図13は、本実施形態の光半導体素子としての発光ダイオード(LED)1Bの平面図である。また、図14は、図13のXIV−XIV線に沿った発光ダイオード1Bの側断面図である。図13及び図14に示されるように、本実施形態の発光ダイオード1Bは、III族窒化物半導体基板としてのGaN基板10と、第1のIII族窒化物半導体積層部としてのLED構造部80と、第2のIII族窒化物半導体積層部としてのLED構造部90と、III族窒化物半導体薄膜としてのGaN薄膜40とを備える。なお、GaN基板10の構成については、既述した第1実施形態と同様なので、詳細な説明を省略する。
【0067】
LED構造部80は、発光ダイオードとしての構造を有しており、主面10aの第1の領域10c上に結晶成長されて成る。本実施形態のLED構造部80は、主面10a上において順に成長した、下部クラッド層81、活性層82、及び上部クラッド層83を含む。下部クラッド層81は、主面10aと接しており、例えばn型GaNからなる。下部クラッド層81の厚さは、例えば1.5μmである。上部クラッド層83は、下部クラッド層81上に設けられており、例えばp型GaNからなる。上部クラッド層83の厚さは、例えば400nmである。
【0068】
活性層82は、本実施形態における第1の活性層である。活性層82は、下部クラッド層81と上部クラッド層83との間に設けられている。活性層82は、量子井戸構造を有することができ、この量子井戸構造は、交互に配列された井戸層(第1の井戸層)及び障壁層を必要に応じて含むことができる。井戸層はInを含むIII−V族化合物半導体、例えばInGaN等からなることができ、障壁層は井戸層よりバンドギャップエネルギーの大きいInGaN又はGaN等からなることができる。一実施例では、井戸層(InGaN)の厚さは例えば3nmであり、障壁層(GaN)の厚さは例えば15nmである。活性層82の発光波長は、井戸層のバンドギャップやIn組成、その厚さ等によって制御される。活性層82は、波長500nm以上550nm以下の範囲のピーク波長を有する緑色光を発生するようなIn組成とされることができ、この場合、井戸層の組成は例えばIn0.3Ga0.7Nである。
【0069】
上部クラッド層83上には、アノード電極111及び電極パッド112が設けられている。アノード電極111は、上部クラッド層83上の全面に形成されている。アノード電極111は、例えばNi/Au膜からなり、上部クラッド層83とオーミック接触を成している。
【0070】
本実施形態のGaN薄膜40は、第1実施形態とは異なり、アンドープGaN単結晶からなる。GaN薄膜40は、GaN基板10の主面10a上において、第1の領域10cとは異なる第2の領域10dに対して接合層41を介して接合されている。このようなGaN薄膜40は、第1実施形態と同様の方法によって好適に作製される。また、GaN薄膜40は、第1実施形態と同じ面方位の表面40aを有する。
【0071】
LED構造部90は、発光ダイオードとしての構造を有しており、GaN薄膜40の表面40a上に結晶成長されて成る。本実施形態のLED構造部90は、主面10a上において順に成長した、下部クラッド層91、活性層92、及び上部クラッド層93を含む。下部クラッド層91は、表面40aと接しており、例えばn型GaNからなる。下部クラッド層91の厚さは、例えば1.5μmである。上部クラッド層93は、下部クラッド層91上に設けられており、例えばp型GaNからなる。上部クラッド層93の厚さは、例えば400nmである。
【0072】
活性層92は、本実施形態における第2の活性層である。活性層92は、下部クラッド層91と上部クラッド層93との間に設けられている。活性層92の構造は、前述した活性層82の構造と同様であるが、次の点のみ異なる。すなわち、活性層92の井戸層(第2の井戸層)のIn組成は、活性層24の井戸層のIn組成と異なっており、例えば活性層92の井戸層の組成はIn0.2Ga0.8Nである。このような井戸層のIn組成の相違は、GaN基板10の主面10aと、GaN薄膜40の表面40aとで面方向が相違することに起因する。そして、本実施形態では、このような井戸層のIn組成の相違によって、活性層82の井戸層における発光波長と、活性層92の井戸層における発光波長とが互いに異なる。上述したように、活性層82の井戸層は、波長500nm以上550nm以下の範囲のピーク波長を有する緑色光を発生する。これに対し、活性層92の井戸層は、波長490nm以上480nm以下の範囲のピーク波長を有する青色光を発生する。
【0073】
上部クラッド層93上には、アノード電極113及び電極パッド114が設けられている。アノード電極113は、上部クラッド層93上の全面にわたって形成されている。アノード電極113は、例えばNi/Au膜からなり、上部クラッド層93とオーミック接触を成している。
【0074】
また、GaN薄膜40の表面40a上の一部の領域上に成長した活性層92及び上部クラッド層93はエッチングにより除去されており、この領域上では下部クラッド層91が露出している。そして、下部クラッド層91の該露出部分上には、カソード電極115が設けられている。カソード電極115は、例えばTi/Al膜からなり、下部クラッド層91とオーミック接触を成している。
【0075】
以上の構成を備える発光ダイオード1Bは、例えば以下のような製造方法によって好適に製造される。図15は、発光ダイオード1Bの製造方法を示すフローチャートである。また、図16及び図17は、発光ダイオード1Bの製造工程を示す側断面図である。
【0076】
まず、第1実施形態と同様にして、接合層形成工程S1、イオン注入工程S2、不接合領域形成工程S3、接合工程S4、分離工程S5、及びエッチング工程S6を実施する(図4〜図6を参照)。なお、本実施形態の接合層41は、絶縁性の材料(SiO等)を用いて形成するとよい。その後、図16(a)に示されるように、GaN基板10の主面10aの第1の領域10c上に、LED構造部80の各半導体層(具体的には、図14に示された下部クラッド層81、活性層82、上部クラッド層83)を成長させ、同時に、GaN薄膜40の表面40a上に、LED構造部90の各半導体層(具体的には、図14に示された下部クラッド層91、活性層92、上部クラッド層93)を成長させる(半導体層成長工程S21)。これらの半導体層の成長は、GaN基板10上において同時に且つ同一の成長条件下で行われる。例えば、活性層82及び92それぞれの井戸層は、共通の成長条件に設定された成長炉内において、供給された共通の材料を取り込むことによって同時に成長する。下部クラッド層81及び91、上部クラッド層83及び93の各ペアについても同様である。
【0077】
以上の工程を経たのち、発光ダイオード1Bの各電極を形成する(電極形成工程S22)。すなわち、図16(b)に示されるように、GaN基板10の裏面10b上にカソード電極52を形成し、上部クラッド層83及び93それぞれの上にアノード電極111及び113それぞれを形成する。そして、図17(a)に示されるように、LED構造部90の一部を下部クラッド層91に達するまでエッチングし、その露出した下部クラッド層91の表面上に、カソード電極115を形成する(図17(b))。最後に、アノード電極111及び113それぞれの上に電極パッド112及び114それぞれを形成することにより、図13及び図14に示された発光ダイオード1Bを得ることができる。
【0078】
本実施形態の発光ダイオード1Bによれば、第1実施形態の半導体レーザ素子1Aと同様に、GaN基板10の主面10aの面方位と、GaN薄膜40の表面40aの面方位とが互いに大きく異なっているので、LED構造部80の活性層82の井戸層の発光波長と、LED構造部90の活性層92の井戸層の発光波長とを互いに異ならせることができる。従って、この発光ダイオード1Bによれば、発光波長が異なるLED構造部80及び90を、一枚のGaN基板10上に容易に作製できる。また、LED構造部80及び90がGaN基板10上に成長しているので、プレート上に発光素子を接合するような構成と比較して、小型化を可能にできる。
【0079】
なお、本実施形態では、GaN基板10のc軸に対して主面10aがm軸方向に傾斜しており、且つ、GaN薄膜40のc軸に対して表面40aがa軸方向に傾斜していることが好ましい。好適な実施例では、GaN基板10のc軸に対して主面10aがm軸方向に75度傾斜しており、GaN薄膜40のc軸に対して表面40aがa軸方向に18度傾斜しているとよい。c軸に対する主面10a及び表面40aの傾斜方向がこれらのように設定されることによって、LED構造部80及び90それぞれから出射される光の偏光方向が揃うので、液晶ディスプレイ等の用途に好適な発光ダイオードを実現できる。なお、c軸に対する主面10a及び表面40aの傾斜方向は、上記以外にも必要に応じて任意に設定できる。
【0080】
(実施例)
ここで、上述した接合層形成工程S1及びイオン注入工程S2に関する実施例について説明する。本実施例では、まず、GaN薄膜40の母材として、HVPE法により成長させた直径2インチ(5.08cm)、厚さ500μmのGaN単結晶インゴット60を準備した。このGaN単結晶インゴット60は、一方の主面が(0001)面(すなわちGa原子表面)であり、他方の主面が(000−1)面(すなわちN原子表面)であり、両主面が鏡面加工されたものである。
【0081】
次に、GaN単結晶インゴット60のN原子表面に、プラズマCVD法により、接合層としての厚さ100nmのSiO層を堆積させた。このSiO層の堆積におけるプラズマCVDの条件は、高周波(RF)電力が50W、SiH4ガス(Arガスにより8体積パーセントに希釈されたもの)の流量が50sccm(標準立方センチメートル毎分)、N2Oガス流量が460sccm、チャンバ圧力が80Pa、ステージ温度が250℃であった。
【0082】
そして、GaN単結晶インゴット60のN原子表面に、SiO層を介して水素イオンを注入した。水素イオンの注入条件は、加速電圧が50keV、ドーズ量が7×1017cm-2であった。水素イオンが注入されたGaN単結晶インゴット60では、そのN原子表面から深さ約200nmの面にドーズ量のピークが観測された。なお、このドーズ量の測定は、上述したGaN単結晶インゴット60と共にイオン注入を行った別のGaN単結晶インゴットについて、二次イオン質量分析法(SIMS)による分析を、そのイオン注入側の面から深さ方向に対して実施することにより行った。
【0083】
本発明による光半導体素子は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した各実施形態では、III族窒化物半導体基板およびIII族窒化物半導体薄膜としてGaN基板およびGaN薄膜を例示しているが、本発明は、他のIII族窒化物半導体からなる基板および薄膜にも適用可能である。
【符号の説明】
【0084】
1A…半導体レーザ素子、1B…発光ダイオード、10…GaN基板、10a…主面、10b…裏面、10c…第1の領域、10d…第2の領域、20,30…レーザ構造部、21,31…バッファ層、22,32…下部クラッド層、23,33…下部光ガイド層、24,34…活性層、25,35…上部光ガイド層、26,36…電子ブロック層、27,37…上部クラッド層、28,38…コンタクト層、29,39…絶縁膜、40…GaN薄膜、40a…表面、41…接合層、41a…不接合領域、51,53…アノード電極、52…カソード電極、60…単結晶インゴット、80,90…LED構造部、81,91…下部クラッド層、82,92…活性層、83,93…上部クラッド層、111,113…アノード電極、112,114…電極パッド、115…カソード電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主面が第1の面方位を有するIII族窒化物半導体基板と、
前記主面の第1の領域上に成長しており、第1の活性層を含む第1のIII族窒化物半導体積層部と、
前記主面の前記第1の領域とは異なる第2の領域に対し接合層を介して接合されており、表面が前記第1の面方位とは異なる第2の面方位を有するIII族窒化物半導体薄膜と、
前記III族窒化物半導体薄膜の前記表面上に成長しており、第2の活性層を含む第2のIII族窒化物半導体積層部と、
を備え、
前記第1及び第2の活性層は、Inを含む第1及び第2の井戸層をそれぞれ有し、
前記第1及び第2の井戸層の発光波長が互いに異なる
ことを特徴とする、光半導体素子。
【請求項2】
前記第1の井戸層のIn組成と、前記第2の井戸層のIn組成とが互いに異なることを特徴とする、請求項1に記載の光半導体素子。
【請求項3】
第1のIII族窒化物半導体積層部が、前記第1の活性層に沿って設けられた第1の光ガイド層を更に含み、
第2のIII族窒化物半導体積層部が、前記第2の活性層に沿って設けられた第2の光ガイド層を更に含み、
前記第1及び第2の光ガイド層がInを含み、
前記第1及び第2の光ガイド層のIn組成が互いに異なる
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の光半導体素子。
【請求項4】
前記第1及び第2の井戸層のうち一方の発光波長が430nm以上480nm以下の範囲に含まれることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光半導体素子。
【請求項5】
前記第1及び第2の井戸層のうち一方の発光波長が500nm以上550nm以下の範囲に含まれることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光半導体素子。
【請求項6】
前記第1の井戸層の発光波長が500nm以上550nm以下の範囲に含まれ、前記第2の井戸層の発光波長が430nm以上480nm以下の範囲に含まれることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の光半導体素子。
【請求項7】
前記第1のIII族窒化物半導体積層部が、レーザ発振のための光導波路構造を有しており、
前記III族窒化物半導体基板の前記主面における法線ベクトルが、当該III族窒化物半導体のc軸に対して傾斜しており、前記III族窒化物半導体基板のc軸の傾斜方向が、前記第1のIII族窒化物半導体積層部の前記光導波路構造の長手方向と垂直である
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の光半導体素子。
【請求項8】
前記III族窒化物半導体基板の前記主面が、当該III族窒化物半導体の半極性面または無極性面を含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の光半導体素子。
【請求項9】
前記III族窒化物半導体基板の前記主面における法線ベクトルと、前記III族窒化物半導体基板のc軸との成す傾斜角が、10度以上80度以下、又は100度以上170度以下の範囲に含まれることを特徴とする、請求項8に記載の光半導体素子。
【請求項10】
前記III族窒化物半導体基板の前記主面における法線ベクトルと、前記III族窒化物半導体基板のc軸との成す傾斜角が、63度以上80度以下、又は100度以上117度以下の範囲に含まれることを特徴とする、請求項9に記載の光半導体素子。
【請求項11】
前記接合層が導電性を有する材料からなることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の光半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−209352(P2012−209352A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72540(P2011−72540)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】