説明

内燃機関の制御装置

【課題】 急加速・急減速の過渡時に、混合燃料の揮発率の影響を抑えて空燃比の変動を抑制することができ、失火や排ガス性能の悪化を抑制する。
【解決手段】 アルコール濃度が所定の濃度を超えた際にスロットルバルブ12の開閉を遅くするように電動アクチュエータ21の駆動を制限して吸気量の変化を抑制し、蒸発し難いアルコールが含有された混合燃料が使用される場合であっても、吸気ポート5(吸気弁7の傘部)に付着している混合燃料の影響を抑えてアルコールの濃度に拘わらず吸気量に応じた燃料噴射量で運転する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール含有燃料により運転可能な内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両用の内燃機関(エンジン)には、一般に、燃料としてガソリンが使用されている。一方、ガソリンに加えて代替燃料としてのアルコールを任意の割合で(0%〜100%)混合して使用可能なエンジンを搭載した車両(FFV:Flexible Fuel Viehicle)が知られている。
【0003】
FFV用のエンジンに供給される混合燃料のガソリンとアルコールとの割合(アルコール濃度:ブレンド率)は常に一定というわけではない。例えば、アルコール濃度が80%の混合燃料がFFVの燃料タンクに蓄えられた状態で、アルコール濃度0%の燃料(即ち、ガソリン濃度100%の燃料)が給油されたり、アルコール濃度100%の燃料(即ち、ガソリン濃度0%の燃料)が給油されることがある。また、給油量もその時々で異なっているのが通常である。
【0004】
混合燃料を用いるエンジンにおいては、混合燃料におけるアルコール濃度を把握することで、混合燃料の特性に応じた燃料噴射量を適宜調節することができる。このような状況から、例えば、アルコール濃度に応じて、車両減速時の燃料噴射停止時に、目標とするエンジン回転速度を変更する技術が従来から知られている(特許文献1参照)。
【0005】
アルコールはガソリンに比べて低温で蒸発し難い(揮発性が低い)特性を有している。即ち、例えば、ガソリンは沸点が25℃〜210℃であるのに対してアルコール(エタノール)は沸点が78℃である。このため、燃料としてガソリンを使用した場合には、低温から高温の領域でコンスタントに蒸発する特性となるが、燃料としてエタノールを使用した場合には、78℃まではほとんど蒸発せず、沸点を超えると蒸発量が多くなる特性を示す。
【0006】
特許文献1に記載された技術は、アルコールがガソリンに比べて蒸発し難い特性(蒸発率が悪い特性)に着目し、燃料停止の制御を行なう場合に、アルコールの濃度が高い時にはエンジンの回転速度を高くするように調整している。
【0007】
ところで、アルコールは低温で揮発性が低いため、混合燃料を使用した場合には吸気ポートや弁傘部に付着する混合燃料が多くなる。このため、加速・減速時に吸入空気量が変化した時に吸気ポートや弁傘部に付着している混合燃料の影響で、加速時に混合燃料の供給が遅れて加速リーン状態になると共に、減速時においては、付着補正を実施している状態(付着による燃料輸送遅れを推定して燃料噴射量を少なく補償する制御)であっても、余剰の混合燃料が供給されて減速リッチ状態になる場合があった。
【0008】
例えば、吸気ポートや弁傘部に多くの混合燃料が付着している状態での急減速時には、吸入空気量の減少に応じた燃料量に付着補正が加味され燃料噴射量が設定されるため、目標燃料量が0あるいはマイナスに設定されることも考えられる。この事はつまり、燃料噴射弁からの燃料の供給は停止するが、吸気ポートや弁傘部に付着している多くの混合燃料が蒸発し、これらがエンジンの筒内に過剰に送られることを意味する。このため、急減速時には筒内に供給される燃料量が過多となり目標空燃比に対して空燃比がリッチ側に変動する場合があった。
【0009】
また、吸気ポートや弁傘部に多くの混合燃料が付着している状態での急加速時には、吸入空気量の増加に応じた燃料量に付着補正が加味され燃料噴射量が設定されているが、アルコールの揮発性が低いために付着している混合燃料が吸気行程終了までに十分に蒸発されない虞がある。このため、急加速時には筒内に供給される燃料量が減少し目標空燃比に対して空燃比がリーン側に変動する場合があった。
【0010】
このように、FFV用のエンジンでは、急加速・急減速の過渡時に、空燃比の変動が大きくなって失火や排ガス性能の悪化を招く場合があるのが実情であった。このような状況は、特に、冷態時に顕著になっていた。
【0011】
【特許文献1】特開平4−128525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、蒸発し難いアルコールが含有された燃料により運転可能な内燃機関において、急加速・急減速の過渡時に、燃料の揮発率の影響を抑えて空燃比の変動を抑制することができる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための請求項1に係る本発明の内燃機関の制御装置は、アルコール含有燃料により運転可能な内燃機関の制御装置であって、前記アルコール含有燃料のアルコールの濃度を検出するアルコール濃度検出手段と、前記アルコール濃度検出手段で検出された前記アルコールの濃度が所定の濃度よりも高い場合に前記内燃機関の吸気量の変化度合いを抑制する抑制手段とを備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項1に係る本発明では、アルコール含有燃料のアルコールの濃度が所定の濃度よりも高い場合に吸気量の変化度合いを抑制し、蒸発し難いアルコールの濃度に拘わらず吸気量に応じた燃料噴射量で運転が行なえるようにする。このため、蒸発し難いアルコールが含有された燃料により運転可能な内燃機関において、急加速・急減速の過渡時に、揮発率の影響を抑えて空燃比の変動を抑制することができ、失火や排ガス性能の悪化を抑制することが可能になる。
【0015】
尚、アルコール濃度検出手段は、アルコールの濃度を直接検出するものに限らず、例えば、運転状況等に応じてアルコールの濃度を推定する手段を含めたものを検出手段として総称している。また、吸気量の変化度合いを抑制する際に判断されるアルコールの所定の濃度は、絶対値としてのしきい値を設定したり、他のパラメータとの関係で変動する値を設定することが可能である。また、吸気量の変化度合いの抑制は、時間当たりの吸気量を抑制することが好ましく、内燃機関の回転速度を吸気量の抑制状況に加味することも可能である。
【0016】
そして、請求項2に係る本発明の内燃機関の制御装置は、請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、前記内燃機関の温度状態を検出する温度状態検出手段を備え、前記抑制手段は、前記温度状態検出手段により前記内燃機関が冷態にあると検出された場合に前記吸気量の変化度合いを抑制することを特徴とする。
【0017】
請求項2に係る本発明では、アルコール含有燃料が蒸発し難い低温の領域で吸気量の変化度合いを抑制することができる。
【0018】
また、請求項3に係る本発明の内燃機関の制御装置は、請求項1もしくは請求項2に記載の内燃機関の制御装置において、前記抑制手段は、アクセル開度に応じて前記内燃機関の吸気系通路を開閉するスロットルバルブと、前記スロットルバルブの開閉動作を遅くする制限手段とを備えることを特徴とする。
【0019】
請求項3に係る本発明では、スロットルバルブの開閉動作を遅くすることで、吸気量の変化度合いを抑制することができる。
【0020】
また、請求項4に係る本発明の内燃機関の制御装置は、請求項3に記載の内燃機関の制御装置において、前記制限手段は、前記スロットルバルブの開度が所定開度以下の領域で、該スロットルバルブの開閉動作を遅くすることを特徴とする。
【0021】
請求項4に係る本発明では、開度に対して吸気量の変化が大きい所定開度以下の領域でスロットルバルブの開閉動作を遅くすることで、吸気量の変化度合いを確実に抑制することができる。
【0022】
また、請求項5に係る本発明の内燃機関の制御装置は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置において、前記抑制手段は、前記アルコールの濃度が高くなるにしたがって前記吸気量の変化度合いを遅くすることを特徴とする。
【0023】
請求項5に係る本発明では、吸気量の変化度合いの抑制をアルコール濃度に応じて行うことができる。
【0024】
また、請求項6に係る本発明の内燃機関の制御装置は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置において、前記アルコール濃度検出手段は、前記内燃機関の排気空燃比を検出する空燃比検出手段と、前記空燃比検出手段で検出された前記排気空燃比に基づき前記アルコールの濃度を推定する推定手段とからなることを特徴とする。
【0025】
請求項6に係る本発明では、排気空燃比に基づいてアルコールの濃度を推定するので、コストの増大を抑制しながら高い精度でアルコールの濃度を推定することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の内燃機関の制御装置は、アルコール含有燃料により運転可能な内燃機関において、急加速・急減速の過渡時に、空燃比の変動を抑制することができ、失火や排ガス性能の悪化を抑制することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図1には本発明の一実施形態例に係る制御装置を備えた内燃機関の概略構成、図2には制御装置の要部系統、図3には吸気量抑制制御のフローチャート、図4には制限領域を表すグラフ、図5には減速時の吸気量抑制制御のタイミングチャート、図6には加速時の吸気量抑制制御のタイミングチャートを示してある。
【0028】
図1に基づいて内燃機関の制御装置の構成を説明する。
【0029】
図1に示すように、FFVに搭載された内燃機関であるエンジン1のシリンダヘッド2には気筒毎に点火プラグ3が取り付けられ、点火プラグ3には高電圧を出力する点火コイル4が接続されている。シリンダヘッド2には気筒毎に吸気ポート5が形成され、吸気ポート5の燃焼室6側には吸気弁7がそれぞれ設けられている。吸気弁7はエンジン回転速度に応じて回転するカムシャフト8のカムに倣って開閉作動され、吸気ポート5と燃焼室6との連通・遮断を行なう。
【0030】
吸気ポート5には吸気マニホールド9の一端がそれぞれ接続されて連通している。吸気マニホールド9には各気筒に対応して電磁式の燃料噴射弁10が取り付けられ、燃料噴射弁10は燃料パイプ11に接続されている。この燃料パイプ11は図示しない燃料供給装置に接続され、図示しない燃料タンクからアルコール(エタノール)とガソリンとを含む混合燃料が供給される。
【0031】
吸気マニホールド9の上流側の吸気管には、電動アクチュエータ21の駆動により吸気通路(吸気系通路)を開閉するスロットルバルブ12が設けられ、スロットルバルブ12の弁開度(スロットル開度)を検出するスロットルポジションセンサ13が設けられている。また、アクセルペダル27の踏み込み状況(アクセル開度)を検出するアクセルポジションセンサ28が設けられ、アクセルポジションセンサ28の検出情報に応じてスロットルバルブ12が開閉駆動される。
【0032】
スロットルバルブ12の上流側には吸入空気量を計測するエアフローセンサ14が設けられている。エアフローセンサ14としては、例えばカルマン渦流式やホットフィルム式のエアフローセンサが使用される。
【0033】
一方、シリンダヘッド2には気筒毎に排気ポート15が形成され、排気ポート15の燃焼室6側には排気弁17がそれぞれ設けられている。排気弁17はエンジン回転速度に応じて回転するカムシャフト18のカムに倣って開閉作動され、排気ポート15と燃焼室6との連通・遮断を行なう。そして、排気ポート15には排気マニホールド16の一端がそれぞれ接続され、排気ポート15に排気マニホールド16が連通している。尚、このような吸気管噴射型の多気筒ガソリンエンジンは公知のものであるため、構成の詳細については省略してある。
【0034】
排気マニホールド16の他端には排気管(排気通路)20が接続され、排気管20には排気浄化触媒23が設けられている。排気浄化触媒23の上流側の排気管20には空燃比検出手段としての空燃比センサ22が設けられ、空燃比センサ22により排気空燃比が検出される。空燃比センサ22により排気空燃比が検出され、検出された排気空燃比に対する燃料噴射量がフィードバック制御される。また、この時の燃料噴射量に応じて混合燃料のアルコール濃度が推定される(推定手段)。
【0035】
アルコール濃度は常に一定ではなく、アルコール濃度(ブレンド率)により燃料の特性が変わるため、混合燃料を使用する場合には、アルコールの濃度を把握することが必要である。アルコール(エタノール)はエネルギー密度がガソリンの約2/3であるため、ガソリンと同等の空燃比を得るためには、燃料噴射量を約1.5倍に増やす必要がある。このことから、アルコール濃度は、排気空燃比を理論空燃比にフィードバックした時の燃料噴射量により推定することができるので、排気空燃比に基づいてアルコール濃度を把握することができる(アルコール濃度検出手段)。
【0036】
尚、空燃比センサ22としては、Oセンサやリニア空燃比センサ(LAFS)を用いることができる。
【0037】
ECU(電子コントロールユニット)31は、入出力装置、記憶装置(ROM、RAM等)、中央処理装置(CPU)、タイマカウンタ等を備えている。このECU31により、エンジン1を含めた制御装置の総合的な制御が行われる。
【0038】
ECU31の入力側には、上述したスロットルポジションセンサ13、エアフローセンサ14、空燃比センサ22の他、エンジン1のクランク角を検出するクランク角センサ25、エンジン1の冷却水温を検出する(温度状態を検出する)水温センサ26(温度状態検出手段)等の各種センサ類が接続され、これらセンサ類からの検出情報が入力される。クランク角センサ25の情報によりエンジン回転速度が判断されると共に、水温センサ26の情報によりエンジン1の冷態が判断(検出)される。
【0039】
一方、ECU31の出力側には、上述の燃料噴射弁10、点火コイル4、スロットルバルブ12等の各種出力デバイスが接続されている。これら各種出力デバイスには、各種センサ類からの検出情報に基づきECU31で演算された燃料噴射時間、点火時期等がそれぞれ出力される。即ち、各種センサ類からの検出情報に基づき、混合燃料のアルコールの濃度に応じた空燃比が適正な目標空燃比(目標A/F)に設定され、空燃比センサ22からの情報に基づきフィードバック制御される。
【0040】
つまり、目標A/Fに応じた量の混合燃料が適正なタイミングで燃料噴射弁10から噴射され、また、スロットルバルブ12が適正な開度に調整され、点火プラグ3により適正なタイミングで火花点火が実施されるようになっている。混合燃料のアルコール濃度は、空燃比センサ22の情報から得られる排気空燃比を理論空燃比にフィードバックした時の燃料噴射量から推定され把握される。
【0041】
本実施形態例のエンジン1は、アルコール濃度が所定の濃度よりも高い場合にスロットルバルブ12の開閉動作を遅くするように電動アクチュエータ21の駆動を制限し(制限手段)、吸気量の変化を抑制している(抑制手段)。つまり、蒸発し難いアルコールが含有された混合燃料が使用される場合であっても、吸気ポート5(吸気弁7の傘部)に付着している混合燃料の影響を抑えてアルコールの濃度に拘わらず吸気量に応じた燃料噴射量で運転できるようにしている。このため、急加速・急減速の過渡時に、混合燃料の揮発率の影響を抑えて空燃比の変動を抑制することができ、失火や排ガス性能の悪化を抑制することが可能になる。
【0042】
即ち、図2に示すように、ECU31は、アクセルポジションセンサ28の情報が入力されて目標スロットル開度θobj(n)を算出するθobj(n)算出部41、空燃比センサ22及び燃料噴射量の情報が入力されてアルコール濃度を推定するアルコール濃度推定部42、水温センサ26の情報が入力されてエンジン1の冷態を検出する冷態検出部43を有している。
【0043】
また、ECU31は、θobj(n)算出部41で算出された目標スロットル開度θobj(n)の結果、アルコール濃度推定部42で推定されたアルコール濃度の結果、冷態検出部43で検出されたエンジン1の冷態状態の結果から、スロットルバルブ12の開閉動作が遅くなるように電動アクチュエータ21に駆動指令を出力する抑制部(制限部)44を有している。
【0044】
図3〜図5に基づいて上述したエンジン1における吸気量抑制制御の状況を詳細に説明する。
【0045】
図3に示すように、ステップS1で目標スロットル開度θobj(n)が算出され、ステップS2で推定アルコール濃度が所定値を超えているか否か、即ち、吸気量の変化を抑制させる必要がある所定値よりもアルコール濃度が高いか否かが判断される。ステップS2で推定アルコール濃度が所定値を超えていると判断された場合、ステップS3で水温センサ26の検出値WTが所定の水温WTCよりも低いか否か、即ち、冷態での運転であるか否かが判断される。ステップS3で検出値WTが所定の水温WTCよりも低いと判断された場合、ステップS4で前回の目標スロットル開度θobj(n−1)がエンジン回転速度に応じた所定開度よりも低いか否かが判断される。
【0046】
尚、上述した実施形態例では、ステップS3で水温センサ26の検出値WTと所定の水温WTCとを比較してエンジン1(図1参照)の冷態を判断しているが、始動時からの時間を積算する等、他の運転状況により冷態を判断することも可能である。また、冷態の判断を省略することも可能である。
【0047】
図4に示すように、一般的なエンジンでは、スロットル開度全閉から全開までの間で所定の開度Sまでは吸気系の充填効率は高くなるが、所定の開度Sを超えるとスロットル開度が大きくなっても充填効率の増加はほとんど生じない。このため、本実施形態例では、ステップS4で前回の目標スロットル開度θobj(n−1)がエンジン回転速度に応じた所定の開度Sよりも低いか否かを判断し、低い場合にスロットルバルブ12(図1参照)が所定の開度S以下の領域で吸気量の抑制制御を実施するようにしている。
【0048】
ステップS2で推定アルコール濃度が所定値を超えていないと判断された場合、吸気量の変化を抑制させる必要がないアルコール濃度であるためエンド(吸気量抑制制御を実施しない)となる。また、ステップS3で水温センサ26の検出値WTが所定の水温WTCよりも低くないと判断された場合、冷態での運転ではないためエンド(吸気量抑制制御を実施しない)となる。更に、ステップS4で前回の目標スロットル開度θobj(n−1)がエンジン回転速度に応じた所定開度よりも低くないと判断された場合、所定の開度を超えて充填効率の増減がほとんど生じない領域であるのでエンド(吸気量抑制制御を実施しない)となる。
【0049】
ステップS4の処理に戻り、前回の目標スロットル開度θobj(n−1)がエンジン回転速度に応じた所定開度よりも低いと判断された場合、即ち、充填効率の増減が大きい領域であると判断された場合、ステップS5で目標スロットル開度θobj(n)が、前回の目標スロットル開度θobj(n−1)から単位時間当たりの減速制限値を減じた値よりも小さいか否かが判断される。
【0050】
即ち、目標スロットル開度θobj(n)が、前回の目標スロットル開度θobj(n−1)に比べて大きく低下して急減速状態であるか否かが判断される(不感帯を超えて減速された状態)。ステップS5で急減速状態であると判断された場合、前回の目標スロットル開度θobj(n−1)から単位時間当たりの減速制限値を減じた値を、目標スロットル開度θobj(n)として電動アクチュエータ21に駆動指令が出力される(ステップS6)。
【0051】
一方、ステップS5で急減速状態ではないと判断された場合(不感帯域もしくは加速状態)、ステップS7に移行し、目標スロットル開度θobj(n)が、前回の目標スロットル開度θobj(n−1)に単位時間当たりの加速制限値を加算した値よりも大きいか否かが判断される。即ち、目標スロットル開度θobj(n)が、前回の目標スロットル開度θobj(n−1)に比べて大きく増加して急加速状態であるか否かが判断される(不感帯を超えて加速された状態)。ステップS7で急加速状態であると判断された場合、前回の目標スロットル開度θobj(n−1)に単位時間当たりの加速制限値を加算した値を、目標スロットル開度θobj(n)として電動アクチュエータ21に駆動指令が出力される(ステップS8)。
【0052】
尚、減速制限値及び加速制限値は、単位時間当たりで設定されているが、更に、エンジン回転速度に応じて調整することも可能である。
【0053】
つまり、急減速の状態では、図5(a)に示すように、時刻t1からアクセル開度が閉じ側になると、目標スロットル開度θobj(n)と前回の目標スロットル開度θobj(n−1)が比較され、急減速状態の場合には、前回の目標スロットル開度θobj(n−1)から単位時間当たりの減速制限値を減じた値に目標スロットル開度θobj(n)が制限され(時刻t2)、図5(b)に実線で示すように、スロットル開度の変化が抑制され、時刻t3までの間で目標スロットル開度θobj(n)が開き側に制御される。
【0054】
これにより、図5(c)に実線で示すように、吸気量が徐々に減少し、図5(d)に実線で示すように、目標とする燃料噴射量が0を下回らずに低下し、図5(e)に実線で示すように、空燃比A/Fの変動がほとんど生じない。つまり、蒸発し難いアルコールが含有された混合燃料が使用された冷態時であって、急激にアクセル開度が小さくなっても、吸気量の減少を抑えて(変化度合いを抑制して)吸気ポート5(吸気弁7の傘部:いずれも図1参照)に付着している混合燃料が蒸発される状態で目標とする燃料噴射量が設定される。このため、蒸発し難い混合燃料の影響を抑えて吸気量に応じた燃料噴射量で運転できるようになる。
【0055】
従って、冷態時の急減速操作時に、アルコール濃度が高い時でも、混合燃料の揮発率の影響を抑えて空燃比の変動を抑制することができる。
【0056】
急減速操作時に目標スロットル開度θobj(n)を制限しない場合、図5(b)に点線で示すように、スロットル開度がアクセル開度に追従して、時刻t3に至る前に閉じられた状態になる。そして、図5(c)に点線で示すように、吸気量が急に減少し、図5(d)に点線で示すように、目標とする燃料噴射量が0となる。蒸発し難いアルコールが含有された混合燃料が使用された冷態時には、目標とする燃料噴射量が0となっても(燃料噴射を停止しても)、吸気ポート5に付着した燃料が多いために、付着燃料からの蒸発による筒内への燃料輸送が持続し、図5(e)に点線で示すように、空燃比A/Fがリッチ側に変動し、空燃比がリッチの状態を維持してしまう。尚、図5に点線で示した状態は、通常の付着補正を加味した場合の状態である。
【0057】
また、急加速の状態では、図6(a)に示すように、時刻t1からアクセル開度が開き側になると、目標スロットル開度θobj(n)と前回の目標スロットル開度θobj(n−1)が比較され、急加速状態の場合には、前回の目標スロットル開度θobj(n−1)に加速制限値を加算した値に目標スロットル開度θobj(n)が制限され(時刻t2)、図6(b)に実線で示すように、スロットル開度の変化が抑制され、時刻t3までの間で目標スロットル開度θobj(n)が閉じ側に制御される。
【0058】
これにより、図6(c)に実線で示すように、吸気量が徐々に増加し、図6(d)に実線で示すように、目標とする燃料噴射量が減少し、図6(e)に実線で示すように、空燃比A/Fの変動がほとんど生じない。つまり、蒸発し難いアルコールが含有された混合燃料が使用された冷態時であって、急激にアクセル開度が大きくなっても吸気量の急増を抑えて(変化度合いを抑制して)吸気ポート5(吸気弁7の傘部:いずれも図1参照)に付着している混合燃料が蒸発される状態で目標となる燃料噴射量が設定される。このため、吸気量が多くなって目標空燃比に対して空燃比がリーン状態になることがなく、混合燃料が吸気行程の終了までに十分に蒸発されて吸気量に応じた燃料噴射量で運転できるようになる。
【0059】
従って、冷態時の急加速操作時に、アルコール濃度が高い時でも、混合燃料の揮発率の影響を抑えて空燃比の変動を抑制することができる。
【0060】
急加速操作時に目標スロットル開度θobj(n)を制限しない場合、図6(b)に点線で示すように、スロットル開度がアクセル開度に追従して、時刻t3に至る前に開かれた状態になる。そして、図6(c)に点線で示すように、吸気量が急に増加し、図6(d)に点線で示すように、目標とする燃料噴射量が多くなる。このため、図6(d)に斜線で示す領域の分の燃料噴射量(燃料輸送)は、噴射が吸気行程以降となるために、筒内に供給されないことになり、図6(c)に点線で示すように、蒸発し難いアルコールが含有された混合燃料が使用された冷態時には、燃料が吸気の終了までに十分に蒸発されないまま吸気量が多くなり、図6(e)に点線で示すように、空燃比A/Fがリーン側に変動して収束するまでに時間を要してしまう。尚、図6に点線で示した状態は、通常の付着補正を加味した場合の状態である。
【0061】
従って、冷態時の急加速操作時に、アルコール濃度が高いときであっても、混合燃料の揮発率の影響を抑えて空燃比の変動を抑制することができる。
【0062】
上述したエンジン1では、アルコール濃度が所定の濃度より高い場合にスロットルバルブ12の開閉動作を遅くするように電動アクチュエータ21の駆動を制限し、吸気量の変化度合いを抑制しているので、蒸発し難いアルコールが含有された混合燃料が使用される場合であっても、吸気ポート5(吸気弁7の傘部)に付着している混合燃料の影響を抑えてアルコールの濃度に拘わらず吸気量に応じた燃料噴射量で運転できる。このため、急加速・急減速の過渡時に、混合燃料の揮発率の影響を抑えて空燃比の変動を抑制することができ、失火や排ガス性能の悪化を抑制することが可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、アルコール含有燃料により運転可能な内燃機関の制御装置の産業分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態例に係る制御装置を備えた内燃機関の概略構成図である。
【図2】制御装置の要部系統図である。
【図3】吸気量抑制制御のフローチャートである。
【図4】制限領域を表すグラフである。
【図5】減速時の吸気量抑制制御のタイミングチャートである。
【図6】加速時の吸気量抑制制御のタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0065】
1 エンジン
2 シリンダヘッド
3 点火プラグ
4 点火コイル
5 吸気ポート
6 燃焼室
7 吸気弁
8 カムシャフト
9 吸気マニホールド
10 燃料噴射弁
11 燃料パイプ
12 スロットルバルブ
14 エアフローセンサ
15 吸気ポート
16 排気マニホールド
17 排気弁
18 カムシャフト
21 電動アクチュエータ
22 空燃比センサ
23 排気浄化触媒
26 水温センサ
27 アクセルペダル
28 アクセルポジションセンサ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール含有燃料により運転可能な内燃機関の制御装置であって、
前記アルコール含有燃料のアルコールの濃度を検出するアルコール濃度検出手段と、
前記アルコール濃度検出手段で検出された前記アルコールの濃度が所定の濃度よりも高い場合に前記内燃機関の吸気量の変化度合いを抑制する抑制手段と
を備えたことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関の温度状態を検出する温度状態検出手段を備え、
前記抑制手段は、前記温度状態検出手段により前記内燃機関が冷態にあると検出された場合に前記吸気量の変化度合いを抑制する
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1もしくは請求項2に記載の内燃機関の制御装置において、
前記抑制手段は、
アクセル開度に応じて前記内燃機関の吸気系通路を開閉するスロットルバルブと、
前記スロットルバルブの開閉動作を遅くする制限手段と
を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関の制御装置において、
前記制限手段は、前記スロットルバルブの開度が所定開度以下の領域で、該スロットルバルブの開閉動作を遅くする
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記抑制手段は、前記アルコールの濃度が高くなるにしたがって前記吸気量の変化度合いを遅くする
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置において、
前記アルコール濃度検出手段は、
前記内燃機関の排気空燃比を検出する空燃比検出手段と、
前記空燃比検出手段で検出された前記排気空燃比に基づき前記アルコールの濃度を推定する推定手段と
からなることを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−191803(P2009−191803A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−35231(P2008−35231)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(000006286)三菱自動車工業株式会社 (2,892)
【Fターム(参考)】