説明

内燃機関の制御装置

【課題】吸気ポート噴射エンジンの低温始動時に、ヒータで加熱した燃料を噴射して始動性を確保しながら、ヒータの電力消費量を低減できるようにする。
【解決手段】ヒータON領域(低温領域)での始動時にヒータで加熱した燃料(アルコール又はアルコールを含む燃料)を噴射する際に、各気筒の第1回目の燃料噴射を主に吸気バルブの閉弁期間に実行することで、ヒータで加熱した第1回目の噴射燃料を積極的に吸気バルブに当てて吸気バルブを効率良く暖め、第2回目の燃料噴射を主に吸気バルブの開弁期間に実行することで、ヒータで加熱した第2回目の噴射燃料の吸気バルブによる冷却を抑制して、該噴射燃料の温度をあまり低下させずに筒内へ流入させる。これにより、第2回目の燃料噴射で混合気を燃焼させて低温時の始動性を確保すると共に、従来よりもヒータの発熱量を小さくしてヒータの電力消費量を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射弁と、該燃料噴射弁で噴射する燃料を加熱する加熱手段とを備えた内燃機関の制御装置に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される内燃機関の燃料として、エタノールやメタノール等のアルコール、或はアルコールとガソリンとを混合した混合燃料を使用できるようにしたものがあるが、これらのアルコールを含んだアルコール燃料は、ガソリンに比べて、引火点が高く、気化潜熱が大きい(気化し難い)ため、アルコール燃料を使用した場合に低温時の始動性が悪化する傾向がある。
【0003】
この対策として、特許文献1(特開平5−26087号公報)に記載されているように、内燃機関の低温始動時に燃料噴射弁から噴射された燃料をヒータで加熱して燃料の気化を促進するようにしたものがある。
【0004】
或は、特許文献2(特開平5−26130号公報)に記載されているように、ヒータで加熱した燃料を燃料噴射弁で噴射して燃料の気化を促進するようにしたものがある。
【特許文献1】特開平5−26087号公報(第2頁等)
【特許文献2】特開平5−26130号公報(第2頁等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述したようにヒータで燃料を加熱するシステムでは、内燃機関の低温始動時に燃料の温度を始動性を確保できる温度まで速やかに昇温するためには、ヒータの発熱量(通電量)をかなり大きくする必要があり、ヒータの電力消費量が増大するという問題がある。
【0006】
例えば、吸気ポートに燃料を噴射するシステムでは、噴射した燃料が吸気ポートを開閉する吸気バルブに当たるため、低温始動時に、ヒータで加熱した燃料を噴射しても、その噴射燃料が冷えた吸気バルブに当たって冷やされて、筒内に流入する燃料の温度が低下してしまう。このため、低温始動時には、ヒータで加熱した噴射した燃料が冷えた吸気バルブで冷やされても、その燃料が始動可能な温度(例えば引火点以上の温度)で筒内に流入できるようにヒータの発熱量を設定する必要があり、ヒータの発熱量が大きくなってヒータの電力消費量が増大してしまう。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、従って本発明の目的は、内燃機関の低温始動時に加熱手段で加熱した燃料を噴射して始動性を確保しながら、加熱手段の電力消費量を低減することができ、始動性確保と低消費電力化とを両立させることができる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、内燃機関の吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射弁と、該燃料噴射弁で噴射する燃料を加熱する加熱手段とを備えた内燃機関の制御装置において、内燃機関の低温始動時に加熱手段で加熱した燃料を燃料噴射弁で噴射する際に、始動時制御手段によって各気筒の第1回目の燃料噴射を主に吸気バルブの閉弁期間に実行して第2回目の燃料噴射を主に吸気バルブの開弁期間に実行するようにしたものである。
【0009】
この構成では、第1回目の燃料噴射を主に吸気バルブの閉弁期間に実行することで、加熱手段で加熱した第1回目の噴射燃料を積極的に吸気バルブに当てて吸気バルブを効率良く暖めることができる。このように第1回目の燃料噴射によって吸気バルブを暖めた状態で、第2回目の燃料噴射を主に吸気バルブの開弁期間に実行することで、加熱手段で加熱した第2回目の噴射燃料の吸気バルブによる冷却を抑制して、該噴射燃料の温度をあまり低下させずに筒内へ流入させることができる。これにより、第2回目の燃料噴射で混合気の燃焼を可能にすることができ、低温時の始動性を確保することができる。この場合、温度低下の少ない第2回目の噴射燃料が始動可能な温度(例えば引火点以上の温度)で筒内に流入できるように加熱手段の発熱量を設定すれば良く、加熱手段の発熱量を小さくして加熱手段の電力消費量を低減することができ、始動性確保と低消費電力化とを両立させることができる。
【0010】
本発明は、請求項2のように、燃料としてアルコール又はアルコールを含む燃料を使用するシステムに適用すると良い。このようにすれば、アルコール燃料(アルコール又はアルコールを含む燃料)が、ガソリンに比べて、引火点が高く、気化潜熱が大きい(気化し難い)という事情があっても、低温時の始動性を確保することができる。
【0011】
また、請求項3のように、内燃機関の低温始動時のクランキング中に吸入空気量調整弁(例えばスロットルバルブやアイドルスピードコントロールバルブ)の開度を閉じ側に制御した状態で吸気通路内の圧力が所定値以下に低下する所定期間が経過するまで燃料噴射を禁止するようにしても良い。このようにすれば、吸入空気量調整弁の開度を閉じ側に制御した状態でクランキングによって吸気通路内の圧力を速やかに低下させる(吸気通路内の負圧を大きくする)と共に筒内の空気の圧縮熱で筒内温度を上昇させた状態で、燃料噴射を開始することができ、噴射燃料の気化を効果的に促進することができる。
【0012】
本発明は、第1回目の燃料噴射に対して点火を実行するようにしても良いが、第1回目の燃料噴射を主に吸気バルブの閉弁期間に実行して、第1回目の噴射燃料で吸気バルブを暖めるため、第1回目の燃料噴射時には、筒内に流入する燃料の温度がかなり低下する。このため、第1回目の燃料噴射に対して点火を実行しても、混合気が燃焼する可能性は低いと思われるが、もし、いずれか1つの気筒で混合気が燃焼すると、クランキング中に不快な回転変動が発生する可能性がある。
【0013】
そこで、請求項4のように、第1回目の燃料噴射に対する点火を禁止するようにしても良い。このようにすれば、第1回目の燃料噴射によって混合気が燃焼することを確実に防止して、クランキング中に不快な回転変動が発生することを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を具体化した一実施例を説明する。
まず、図1に基づいてエンジン制御システム全体の概略構成を説明する。
内燃機関であるエンジン11の吸気管12の最上流部には、エアクリーナ13が設けられ、このエアクリーナ13の下流側に、吸入空気量を検出するエアフローメータ14が設けられている。このエアフローメータ14の下流側には、モータ15によって開度調節されるスロットルバルブ16(吸入空気量調整弁)と、このスロットルバルブ16の開度(スロットル開度)を検出するスロットル開度センサ17とが設けられている。
【0015】
更に、スロットルバルブ16の下流側には、サージタンク18が設けられ、このサージタンク18に、エンジン11の各気筒に空気を導入する吸気マニホールド20が設けられている。各気筒の吸気マニホールド20の吸気ポート近傍に、それぞれ燃料を噴射する燃料噴射弁21が取り付けられている。また、エンジン11のシリンダヘッドには、各気筒毎に点火プラグ22が取り付けられ、各点火プラグ22の火花放電によって筒内の混合気に着火される。
【0016】
一方、エンジン11の排気管23には、排出ガスの空燃比又はリッチ/リーン等を検出する排出ガスセンサ24(空燃比センサ、酸素センサ等)が設けられ、この排出ガスセンサ24の下流側に、排出ガスを浄化する三元触媒等の触媒25が設けられている。
【0017】
また、エンジン11のシリンダブロックには、冷却水温を検出する冷却水温センサ26や、ノッキングを検出するノックセンサ29が取り付けられている。また、クランク軸27の外周側には、クランク軸27が所定クランク角回転する毎にパルス信号を出力するクランク角センサ28が取り付けられ、このクランク角センサ28の出力信号に基づいてクランク角やエンジン回転速度が検出される。
【0018】
エンジン11の燃料としては、エタノールやメタノール等のアルコール、或はアルコールとガソリンとを混合した混合燃料等を使用可能であり、これらのアルコールを含んだアルコール燃料をエンジン11に供給するようになっている。燃料を貯溜する燃料タンク30内には、燃料を汲み上げる燃料ポンプ31が設けられ、この燃料ポンプ31に、フィルタ34を介して燃料配管32が接続されている。燃料ポンプ31から吐出される燃料は、燃料配管32を通してデリバリパイプ33に送られ、このデリバリパイプ33から小容量の加熱デリバリ36(図2参照)を介して各気筒の燃料噴射弁21に分配される。
【0019】
図3に示すように、加熱デリバリ36(サブデリバリ)には、内部の燃料を加熱するヒータ37(加熱手段)が設けられている。このヒータ37は、例えばPTCヒータ(自己温度調節型ヒータ)で構成されている。このPTCヒータは、正抵抗温度特性を有し、低温領域では抵抗値が小さいため、通電開始後に比較的大きなヒータ電流が流れてヒータ温度が素早く上昇し、所定温度(キュリー温度)を越えると、抵抗値が急激に増大してヒータ電流(発熱量)が急激に減少することで、ヒータ温度の上昇が抑えられて所定温度(キュリー温度)付近に自動調節される。本実施例では、ヒータ37が加熱デリバリ36を上下両側から挟むように配置されて、加熱デリバリ36の外側から加熱デリバリ36内の燃料を間接的に加熱するようになっている。尚、加熱デリバリ36の内部にヒータを配置して加熱デリバリ36内の燃料を直接加熱するようにしても良い等、ヒータの位置や種類等を適宜変更しても良い。
【0020】
図1に示すように、上述した各種センサの出力は、制御回路(以下「ECU」と表記する)38に入力される。このECU38は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じて燃料噴射弁21の燃料噴射量や点火プラグ22の点火時期を制御する。
【0021】
その際、ECU38は、所定の空燃比F/B(フィードバック)制御実行条件が成立したときに、排出ガスセンサ24の出力に基づいて排出ガスの空燃比を目標空燃比に一致させるように空燃比F/B補正量を算出し、この空燃比F/B補正量を用いて燃料噴射弁21の燃料噴射量を補正する空燃比F/B制御を実行する。
【0022】
また、ECU38は、後述する図8及び図9のヒータ制御用の各ルーチンを実行することで、運転席のドアが開けられてドアセンサ39がONされたとき又はIGスイッチ40(イグニッションスイッチ)がONされたときに、冷却水温が所定値よりも低く且つ燃料のアルコール濃度が所定値よりも高い領域であるか否かによって、ヒータON領域(ヒータ37で燃料を加熱しないと始動が困難な低温領域)であるか否か判定する。
【0023】
ここで、燃料のアルコール濃度は、例えば、前回のエンジン運転中に、空燃比F/B補正量、空燃比のずれ量、燃焼安定性(エンジン回転変動)、エンジントルク等の少なくとも1つに基づいて算出した値を用いれば良い。尚、燃料のアルコール濃度を検出するアルコール濃度センサを備えたシステムの場合には、このアルコール濃度センサで燃料のアルコール濃度を検出するようにしても良い。
【0024】
そして、ヒータON領域であると判定された場合には、ヒータ37の通電をONして加熱デリバリ36内の燃料(燃料噴射弁21で噴射する燃料)を加熱する。その後、ヒータ37のON時間が所定時間を越えたときにヒータ37の通電をOFFする。
【0025】
更に、ECU38は、後述する図10の始動時制御ルーチンを実行することで、次のような始動時制御を行う。ヒータON領域ではない場合には、通常の始動時制御を実行する。この通常の始動時制御では、図4に示すように、各気筒の燃料噴射を主に吸気バルブ41の開弁期間に実行する。この場合、噴射開始タイミングと噴射終了タイミングを両方とも吸気バルブ41の開弁期間内に設定しても良いが、噴射開始タイミングを吸気バルブ41の開弁タイミングよりも少し前(進角側)に設定しても良い。
【0026】
一方、ヒータON領域(冷却水温が所定値よりも低く且つ燃料のアルコール濃度が所定値よりも高い領域)の場合には、ヒータON領域での始動時制御を実行する。このヒータON領域での始動時制御では、図5に示すように、ヒータ37で加熱した燃料を燃料噴射弁21で噴射する際に、各気筒の第1回目の燃料噴射を主に吸気バルブ41の閉弁期間に実行して第2回目以降の燃料噴射を主に吸気バルブ41の開弁期間に実行する。この場合、第1回目の燃料噴射は、噴射開始タイミングと噴射終了タイミングを両方とも吸気バルブ41の閉弁期間内に設定しても良いが、噴射終了タイミングを吸気バルブ41の開弁タイミングよりも少し後(遅角側)に設定しても良い。また、第2回目以降の燃料噴射は、噴射開始タイミングと噴射終了タイミングを両方とも吸気バルブ41の開弁期間内に設定しても良いが、噴射開始タイミングを吸気バルブ41の開弁タイミングよりも少し前(進角側)に設定しても良い。
【0027】
図6に示すように、第1回目の燃料噴射を主に吸気バルブ41の閉弁期間に実行することで、ヒータ37で加熱した第1回目の噴射燃料を積極的に吸気バルブ41に当てて吸気バルブ41を効率良く暖めることができる。このように第1回目の燃料噴射によって吸気バルブ41を暖めた状態で、第2回目の燃料噴射を主に吸気バルブ41の開弁期間に実行することで、ヒータ37で加熱した第2回目の噴射燃料の吸気バルブ41による冷却を抑制して、該噴射燃料の温度をあまり低下させずに筒内へ流入させることができ、第2回目の燃料噴射で混合気の燃焼を可能にすることができる。
【0028】
また、ヒータON領域での始動時制御では、図7に示すように、スタータONによるクランキング中にスロットル開度を全閉付近(全閉位置又はその付近)に制御した状態で所定時間(吸気管圧力が所定値以下に低下するのに必要な時間)が経過するまで燃料噴射を禁止する。これにより、スロットル開度を全閉付近に制御した状態でクランキングによって吸気管圧力を速やかに低下させる(吸気管負圧を大きくする)と共に筒内の空気の圧縮熱で筒内温度を上昇させた状態で、燃料噴射を開始して、噴射燃料の気化を効果的に促進する。
【0029】
ところで、ヒータON領域での始動時制御では、第1回目の燃料噴射を主に吸気バルブ41の閉弁期間に実行して、第1回目の噴射燃料で吸気バルブ41を暖機するため、第1回目の燃料噴射時には、筒内に流入する燃料の温度がかなり低下する。このため、第1回目の燃料噴射に対して点火を実行しても、混合気が燃焼する可能性は低いと思われるが、もし、いずれか1つの気筒で混合気が燃焼すると、クランキング中に不快な回転変動が発生する可能性がある。
【0030】
そこで、ヒータON領域での始動時制御では、第1回目の燃料噴射に対する点火を禁止して、第2回目以降の燃料噴射に対して点火を実行する。これにより、第1回目の燃料噴射によって混合気が燃焼することを確実に防止して、クランキング中に不快な回転変動が発生することを防止する。
【0031】
以下、ECU38が実行する図8乃至図10の各ルーチンの処理内容を説明する。本実施例では、運転席のドアが開けられてドアセンサ39がONされたとき又はIGスイッチ40がONされたときに、ECU38への電源供給が開始されるようになっている。
【0032】
図8に示すヒータオン制御ルーチンは、ECU38の電源オン中(運転席のドアが開けられた後又はIGスイッチ40がONされた後)に所定周期で実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ101で、冷却水温が所定値よりも低く且つ燃料のアルコール濃度が所定値よりも高いか否かによって、ヒータON領域(ヒータ37で燃料を加熱しないと始動が困難な低温領域)であるか否かを判定する。このステップ101で、ヒータON領域であると判定された場合には、ステップ102に進み、ヒータ37の通電をONして加熱デリバリ36内の燃料(燃料噴射弁21で噴射する燃料)を加熱する。
【0033】
図9に示すヒータオフ制御ルーチンは、ECU38の電源オン中に所定周期で実行される。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ201で、ヒータON時間(ヒータONの継続時間)が所定時間を越えたか否かを判定する。ここで、所定時間は、冷却水温と燃料のアルコール濃度とに応じてマップ又は数式等により設定した値である。このステップ201で、ヒータON時間が所定時間を越えたと判定されたときに、ステップ202に進み、ヒータの通電をOFFする。
【0034】
更に、ヒータON時間が所定時間を越えたか否かに拘らず、次のステップ203で、始動後所定時間(始動開始又は始動完了から所定時間)が経過したか否かを判定し、始動後所定時間が経過したときに、ステップ204に進み、ヒータ37の通電をOFFする。
【0035】
図10に示す始動時制御ルーチンは、ECU38の電源オン中に所定周期で実行され、特許請求の範囲でいう始動時制御手段としての役割を果たす。本ルーチンが起動されると、まず、ステップ301で、IGスイッチ40がONであるか否かを判定し、IGスイッチ40がONであると判定されれば、ステップ302に進み、ヒータON領域(始動時の冷却水温が所定値よりも低く且つ燃料のアルコール濃度が所定値よりも高い領域)であるか否かを判定する。
【0036】
このステップ302で、ヒータON領域ではないと判定された場合には、ステップ303に進み、通常の始動時制御を実行する。この通常の始動時制御では、各気筒の燃料噴射を主に吸気バルブ41の開弁期間に実行する。
【0037】
一方、上記ステップ302で、ヒータON領域であると判定された場合には、ヒータON領域での始動時制御を次のようにして実行する。まず、ステップ304で、スタータのON時間(クランキング時間)が所定時間を越えたか否かによって、吸気管圧力が所定圧力以下に低下したか否かを判定する。ここで、所定時間は、スロットル開度を全閉付近に制御した状態でクランキングによって吸気管圧力が所定値以下に低下するのに必要な時間に設定されている。
【0038】
このステップ304で、スタータON時間が所定時間を越えていない判定された場合には、ステップ305に進み、燃料噴射を禁止すると共に、スロットル開度を全閉付近(全閉位置又はその付近)に制御した状態に維持する。これにより、クランキング中にスロットル開度を全閉付近に制御した状態で所定時間が経過するまで燃料噴射を禁止する。
【0039】
その後、上記ステップ304で、スタータON時間が所定時間を越えたと判定されたときに、スロットル開度を全閉付近に制御した状態でクランキングによって吸気管圧力が低下する(吸気管負圧が大きくなる)と共に空気の圧縮熱で筒内温度が上昇したと判断して、燃料噴射を許可し、ステップ306以降の燃料噴射に関する処理を次のようにして実行する。
【0040】
まず、ステップ306で、各気筒の第1回目の燃料噴射であるか否かを判定し、第1回目の燃料噴射であれば、ステップ307に進み、第1回目の燃料噴射タイミングを主に吸気バルブ41の閉弁期間に設定して第1回目の燃料噴射を主に吸気バルブ41の開弁期間に実行し、次のステップ308で、第1回目の燃料噴射に対する点火を禁止する。
【0041】
この後、ステップ309に進み、各気筒の第2回目以降の燃料噴射であるか否かを判定し、第2回目以降の燃料噴射であれば、ステップ310に進み、第2回目以降の燃料噴射タイミングを主に吸気バルブ41の開弁期間に設定して第2回目以降の燃料噴射を主に吸気バルブ41の開弁期間に実行し、次のステップ311で、第2回目以降の燃料噴射に対する点火を許可する。
【0042】
以上説明した本実施例では、ヒータON領域(低温領域)における始動時にヒータ37で加熱した燃料を燃料噴射弁21で噴射する際に、各気筒の第1回目の燃料噴射を主に吸気バルブ41の閉弁期間に実行するようにしたので、ヒータ37で加熱した第1回目の噴射燃料を積極的に吸気バルブ41に当てて吸気バルブ41を効率良く暖めることができ、このように第1回目の燃料噴射によって吸気バルブ41を暖めた状態で、第2回目の燃料噴射を主に吸気バルブ41の開弁期間に実行するようにしたので、ヒータ37で加熱した第2回目の噴射燃料の吸気バルブ41による冷却を抑制して、該噴射燃料の温度をあまり低下させずに筒内へ流入させることができる。これにより、第2回目の燃料噴射で混合気の燃焼を可能にすることができ、低温時の始動性を確保することができる。しかも、温度低下の少ない第2回目の噴射燃料が始動可能な温度(例えば引火点以上の温度)で筒内に流入できるようにヒータ37の発熱量を設定すれば良いため、従来よりもヒータ37の発熱量を小さくしてヒータ37の電力消費量を低減することができ、始動性確保と低消費電力化とを両立させることができる。
【0043】
また、本実施例では、ヒータON領域(低温領域)での始動時のクランキング中にスロットル開度を全閉付近に制御した状態で所定時間(吸気管圧力が所定値以下に低下するのに必要な時間)が経過するまで燃料噴射を禁止するようにしたので、スロットル開度を全閉付近に制御した状態でクランキングによって吸気管圧力を速やかに低下させる(吸気管負圧を大きくする)と共に筒内の空気の圧縮熱で筒内温度を上昇させた状態で、燃料噴射を開始することができ、噴射燃料の気化を効果的に促進することができる。
【0044】
尚、ISCバルブ(アイドルコントロールバルブ)を備えたシステムの場合には、ISCバルブの開度を全閉付近に制御した状態で所定時間が経過するまで燃料噴射を禁止するようにしても良い。また、吸気管圧力センサを備えたシステムの場合には、吸入空気量調整弁(スロットルバルブやISCバルブ)の開度を全閉付近に制御した状態で吸気管圧力センサで検出した吸気管圧力が所定値以下に低下するまで燃料噴射を禁止するようにしても良い。しかしながら、本発明は、低温始動時のクランキング中に所定期間が経過するまで燃料噴射を禁止する構成に限定されず、始動性を確保できるのであれば、低温始動時に速やかに燃料噴射を開始するようにしても良い。
【0045】
更に、本実施例では、第1回目の燃料噴射に対する点火を禁止するようにしたので、第1回目の燃料噴射によって混合気が燃焼することを確実に防止して、クランキング中に不快な回転変動が発生することを防止することができる。しかしながら、本発明は、第1回目の燃料噴射に対して点火を実行するようにしても良い。
【0046】
尚、上記実施例では、燃料としてアルコール燃料(アルコール又はアルコールを含む燃料)を使用するシステムに本発明を適用したが、燃料としてガソリンを使用するシステムに本発明を適用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の一実施例におけるエンジン制御システム全体の概略構成図である。
【図2】加熱デリバリ及びその周辺部の正面図である。
【図3】加熱デリバリの断面図である。
【図4】通常の始動時制御を説明する図である。
【図5】ヒータON領域での始動時制御を説明する図である。
【図6】ヒータON領域での始動時制御を実行した場合の吸気バルブ温度の挙動を示すタイムチャートである。
【図7】ヒータON領域での始動時制御を実行した場合の吸気管圧力や筒内温度等の挙動を示すタイムチャートである。
【図8】ヒータオン制御ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図9】ヒータオフ制御ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【図10】始動時制御ルーチンの処理の流れを説明するフローチャートである。
【符号の説明】
【0048】
11…エンジン(内燃機関)、12…吸気管、16…スロットルバルブ(吸入空気量調整弁)、21…燃料噴射弁、22…点火プラグ、23…排気管、26…冷却水温センサ、33…デリバリパイプ、36…加熱デリバリ、37…ヒータ(加熱手段)、38…ECU(始動時制御手段)、41…吸気バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気ポートに燃料を噴射する燃料噴射弁と、該燃料噴射弁で噴射する燃料を加熱する加熱手段とを備えた内燃機関の制御装置において、
内燃機関の低温始動時に前記加熱手段で加熱した燃料を前記燃料噴射弁で噴射する際に、各気筒の第1回目の燃料噴射を主に吸気バルブの閉弁期間に実行して第2回目の燃料噴射を主に吸気バルブの開弁期間に実行する始動時制御手段を備えていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記燃料は、アルコール又はアルコールを含む燃料であることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記始動時制御手段は、内燃機関の低温始動時のクランキング中に吸入空気量調整弁の開度を閉じ側に制御した状態で吸気通路内の圧力が所定値以下に低下する所定期間が経過するまで燃料噴射を禁止することを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記始動時制御手段は、前記第1回目の燃料噴射に対する点火を禁止することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2009−2211(P2009−2211A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163124(P2007−163124)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】