説明

内燃機関の制御装置

【課題】自動車等の車両におけるEGR装置の異常判定の際の誤判定を抑制する。
【解決手段】内燃機関の制御装置(1)は、内燃機関(11)、及び該内燃機関から排出される排気を部分的に、内燃機関の排気側から吸気側に再循環可能なEGR手段(14)を備える車両における内燃機関の制御装置である。該内燃機関の制御装置は、EGR手段の異常の有無を判定する異常判定手段(23)と、異常の有無が判定される際に、内燃機関の機関運転状態が所定の機関運転領域内(r)になるように内燃機関を制御する制御手段(23)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EGR(Exhaust Gas Recirculation)機構を備える、例えば自動車のエンジン等の内燃機関の制御装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置では、例えばデポジット(堆積物)等に起因するEGR装置の異常の有無の判定を精度良く行うことが図られる。この異常判定の方法として、例えば車両の走行時に、強制的にEGR弁を開閉し、目標開度と実開度との差(或いは、例えば目標開度から予測される吸気通路の圧力変化と実際の吸気通路の圧力変化との差等)を検出して、異常判定を行うことが多い。
【0003】
例えば特許文献1には、EGR弁の目標開度が第1判定値以上であるときに、実開度が第1判定値より小さい第2判定値以下であることを条件に異常と判定し、第2判定値より大きいことを条件に正常と判定することによって、排気性状の悪化を招く異常の発生を的確に判定する技術が開示されている。
【0004】
尚、特許文献2には、筒内圧力最大時期と目標筒内圧力最大時期との差に応じてEGR率を補正することにより、EGR率を理想EGR率に調整する技術が開示されている。ここでは特に、燃焼が悪化したことを検出することによって、EGR率が理想EGR率を遥かに超えた状態が発生した場合を検出し、EGR率を速やかに減少させる技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2008−19776号公報
【特許文献2】特開平5−215004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された技術によれば、異常判定を実行する際の内燃機関の機関運転状態は考慮されていない。すると、機関運転状態によっては、目標開度を大きく変化させること(即ち、EGR弁の開弁時と閉弁時との差を大きくすること)が困難になる可能性がある。この結果、第1判定値と第2判定値との差が小さくなることによって、誤判定される可能性があるという技術的問題点がある。また、特許文献2に開示された技術を、異常判定に適用することは困難であるという技術的問題点がある。
【0007】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、EGR装置の異常判定の際の誤判定を抑制することができる内燃機関の制御装置を提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の内燃機関の制御装置は、上記課題を解決するために、内燃機関、及び該内燃機関から排出される排気を部分的に、前記内燃機関の排気側から吸気側に再循環可能なEGR手段を備える車両における前記内燃機関の制御装置であって、前記EGR手段の異常の有無を判定する異常判定手段と、前記異常の有無が判定される際に、前記内燃機関の機関運転状態が所定の機関運転領域内になるように前記内燃機関を制御する制御手段とを備える。
【0009】
本発明の内燃機関の制御装置によれば、当該制御装置が搭載される車両は、例えばエンジンである内燃機関と、該内燃機関から排出される排気を部分的に、内燃機関の排気側から吸気側に再循環可能な、例えば外部EGR装置であるEGR手段とを備える。
【0010】
例えばメモリ、プロセッサ、コンパレータ等を備えて構成される異常判定手段は、EGR手段の異常の有無を判定する。ここに、本発明に係る「異常」とは、典型的には、吸気側から排気側に再循環される排気の量を調整可能なEGR弁の目標開度と実開度との間にズレが生じることを意味する。具体的には例えば、異常判定手段は、EGR弁の目標開度と実際の開度とを比較して、異常の有無を判定する。或いは、例えば目標開度から予測される吸気通路の圧力変化と実際の吸気通路の圧力変化とを比較して、異常の有無を判定する。
【0011】
例えばメモリ、プロセッサ等を備えて構成される制御手段は、EGR手段の異常の有無が判定される際に、内燃機関の機関運転状態が所定の機関運転領域内になるように内燃機関を制御する。ここに、「異常の有無が判定される際」とは、典型的には、例えばECU(Electronic Control Unit)から異常判定指令信号が発信された時点から、異常判定手段による異常判定が終了した時点までを意味する。更に、異常判定指令信号が発信された時点から多少時間的に遡った時点から、異常判定が終了した時点から所定の微小時間経過した時点までを含んでもよい。
【0012】
本発明に係る「機関運転状態」とは、典型的には、内燃機関の負荷(トルク)及び回転数に応じて決定される状態を意味する。尚、機関運転状態は、内燃機関の負荷及び回転数に加えて、例えば内燃機関の温度等に応じて決定されてもよい。
【0013】
本発明に係る「所定の機関運転領域」とは、EGR弁の開度を所定値以上変更(即ち、開弁)しても、燃焼状態に対する影響が小さい又は燃焼状態に全く影響を与えない領域を意味する。より具体的には、内燃機関の負荷が比較的小さく、吸気通路の負圧が比較的高く(即ち、吸気通路の圧力と大気圧との差が大きく)なる領域を意味する。尚、「所定値」は、EGR弁を開弁した時の吸気通路の圧力とEGR弁を閉弁した時の吸気通路の圧力との差が、EGR手段の異常の有無を誤判定しない程度に十分大きく(例えば約10kPa)なる値を意味する。
【0014】
本願発明者の研究によれば、EGR手段の異常の有無を判定する際は、比較的容易に異常の有無を判定可能とするために、EGR弁の目標開度は通常よりも大きく設定される。しかしながら、排気を比較的多く再循環させると内燃機関のトルク変動が大きくなったり、失火してしまったりするおそれのある機関運転状態において異常の有無を判定する場合、EGR弁の目標開度を大きく設定することが困難である。すると、EGR弁の開弁時と閉弁時との差(具体的には、EGR弁の開度の差、或いは、開弁時の吸気通路の圧力と閉弁時の吸気通路の圧力との差)が小さくなり、誤判定する可能性がある。
【0015】
また、EGR弁の開弁時及び閉弁時各々の吸気通路の圧力の差によって、EGR手段の異常の有無を判定している場合、内燃機関の機関運転状態が高負荷状態において異常の有無を判定する場合、吸気通路の負圧が低く(即ち、吸気通路の圧力と大気圧との差が小さく)、EGR弁を駆動しても給気通路の圧力変化が小さく、誤判定する可能性があることが判明している。
【0016】
しかるに本発明では、制御手段によって、EGR手段の異常の有無を判定される際に、内燃機関の機関運転状態が所定の機関運転領域内になるように内燃機関が制御される。このため、内燃機関のトルク変動を抑制しつつ、或いは内燃機関の失火を防止しつつ、EGR弁の目標開度を比較的大きく設定することができる。従って、比較的容易にしてEGR手段の異常の有無を判定することができる。
【0017】
以上の結果、本発明の内燃機関の制御装置によれば、EGR手段の異常判定の際の誤判定を抑制することができる。
【0018】
本発明の内燃機関の制御装置の一態様では、前記制御手段は、前記異常が判定される際に、前記内燃機関の負荷を変更させつつ、前記機関運転状態が前記所定の機関運転領域内になるように前記内燃機関を制御する。
【0019】
この態様によれば、内燃機関の負荷が変更される(典型的には、負荷が低減される)ことによって、機関運転状態が所定の機関運転領域内にされるので、吸気通路の負圧を比較的高くすることができる。従って、EGR弁の開弁時及び閉弁時各々の吸気通路の圧力差を比較的大きくすることができ、比較的容易にしてEGR手段の異常の有無を判定することができる。
【0020】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記所定の機関運転領域は、前記異常が判定される際における前記内燃機関に接続された吸気通路の圧力の変化量が、所定圧力変化量より大きい領域である。
【0021】
この態様によれば、内燃機関の機関運転状態が機関運転領域内になるように内燃機関を制御すれば、EGR弁の開弁時及び閉弁時各々の吸気通路の圧力の差を比較的大きくすることができる。ここに、「吸気通路内の圧力の変化量」とは、典型的には、EGR弁の開弁時における圧力と閉弁時における圧力との差を意味する。
【0022】
本発明に係る「所定圧力変化量」は、EGR手段の異常の有無を、誤判定することなく判定可能な値であり、予め固定値として又は何らかのパラメータに応じた可変値として設定される値である。このような所定圧力変化量は、例えば10kPaであり、経験的若しくは実験的に又はシミュレーションによって、例えば、EGR弁の開度と吸気通路の圧力との関係を、内燃機関の機関運転状態毎に求めて、該求められた関係に基づいて、EGR手段の異常の有無が判定される際に設定されるEGR弁の目標開度における吸気通路の圧力と、EGR弁の閉弁時における吸気通路の圧力との差が、誤判定されないと予測される値として(具体的には例えば、計測誤差よりも十分に大きい値として)設定すればよい。
【0023】
この態様では、前記EGR手段は、前記再循環される排気の量を調整可能なEGR弁を有し、前記変化量は、前記EGR弁の開弁時における前記圧力と前記EGR弁の閉弁時における前記圧力との差であってよい。
【0024】
このように構成すれば、変化量を比較的大きくすることができ、実用上非常に有利である。
【0025】
本発明の内燃機関の制御装置の他の態様では、前記車両を駆動するモータと、前記モータに電力を供給するバッテリと、前記バッテリの充電残量を検出する充電残量検出手段とを更に備え、前記異常の有無が判定される際に、前記制御手段は、前記検出された充電残量に応じて、前記機関運転状態が前記所定の機関運転領域内になるように前記内燃機関を制御する。
【0026】
この態様によれば、充電残量検出手段は、バッテリの充電残量を検出する。制御手段は、EGR手段の異常の有無が判定される際に、検出された充電残量に応じて、機関運転状態が所定の機関運転領域内になるように内燃機関を制御する。具体的には例えば、検出された充電残量が、例えば全充電量の80%以上である場合、制御手段は、内燃機関の回転出力(即ち、内燃機関の負荷と内燃機関の回転数との積)が減少するように内燃機関を制御する。これにより、吸気通路の負圧をより高くすることができ、実用上非常に有利である。尚、内燃機関の回転出力が減少することによって、要求出力を満足できない場合、制御手段はモータを制御して、要求出力を満たすようにモータの回転出力を増加させる。
【0027】
或いは、検出された充電残量が、例えば全充電量の50%未満である場合、制御手段は、内燃機関の回転数が増加するように内燃機関を制御する。より具体的には、制御手段は、低負荷且つ高回転となるように内燃機関を制御する。これにより、吸気通路の負圧を高くしつつ、内燃機関の回転出力を増加させることができる。更に、余剰な内燃機関の回転出力を利用してバッテリを充電することができ、実用上非常に有利である。
【0028】
尚、本発明に係る「モータ」は、典型的には、当該車両の駆動用のモータであるが、例えばモータ・ジェネレータ(電動発電機)において実現されるモータであってもよい。即ち、モータとして機能し得る限りにおいて、典型的には、ハイブリッド車両に用いられるモータ・ジェネレータを意味してもかまわない。
【0029】
充電残量検出手段を備える態様では、前記制御手段は、前記検出された充電残量が第1充電残量閾値より大きいことを条件に、前記内燃機関の回転出力を減少させつつ、前記機関運転状態が前記所定の機関運転領域内になるように前記内燃機関を制御してよい。
【0030】
このように構成すれば、吸気通路の負圧をより高くすることができる。この結果、EGR手段の異常の有無が判定される際に、EGR弁の開弁時及び閉弁時各々の吸気通路の圧力差をより大きくすることができ、比較的容易にしてEGR手段の異常の有無を判定することができる。
【0031】
尚、制御手段は、典型的には、内燃機関の回転出力が減少した分だけ、モータの回転出力が増加するようにモータを制御する。これにより、全体として回転出力の変動を防止することができ、実用上非常に有利である。
【0032】
本発明に係る「第1充電残量閾値」とは、内燃機関の回転出力を減少させつつ、機関運転状態が所定の機関運転領域内になるように内燃機関を制御するか否かを決定する値であり、予め固定値として又は何らかのパラメータに応じた可変値として設定される値である。このような第1充電残量閾値は、経験的若しくは実験的に又はシミュレーションによって、例えば、モータの回転出力とバッテリの電力消費量との関係を求めて、該求められた関係に基づいて、EGR手段の異常判定を実行している期間中モータの回転出力を通常より増加させても問題のない充電残量として設定すればよい。
【0033】
この態様では、前記制御手段は、前記検出された充電残量が前記第1充電残量閾値より大きいことを条件に、更に、前記モータの回転出力を増加するように前記モータを制御してよい。
【0034】
このように構成すれば、内燃機関の回転出力が減少することによる全体の回転出力の変動を防止することができ、実用上非常に有利である。
【0035】
充電残量検出手段を備える態様では、前記制御手段は、前記検出された充電残量が第2充電残量閾値より小さいことを条件に、前記内燃機関の回転数を増加させつつ、前記機関運転状態が前記所定の機関運転領域内になるように前記内燃機関を制御してよい。
【0036】
このように構成すれば、吸気通路の負圧を高くしつつ(即ち、内燃機関の負荷を比較的低く保ったまま)、内燃機関の回転出力を増加させることができる。これにより、余剰な内燃機関の回転出力を利用してバッテリを充電することができ、実用上非常に有利である。
【0037】
本発明に係る「第2充電残量閾値」とは、内燃機関の回転数を増加させつつ、機関運転状態が所定の機関運転領域内になるように内燃機関を制御するか否かを決定する値であり、予め固定値として又は何らかのパラメータに応じた可変値として設定される値である。このような第2充電残量閾値は、経験的若しくは実験的に又はシミュレーションによって、例えば、モータの回転出力とバッテリの電力消費量との関係を求めて、該求められた関係に基づいて、EGR手段の異常判定を実行している期間中モータを駆動した場合に電力が不足する充電残量として設定すればよい。
【0038】
本発明の作用及び他の利得は次に説明する実施するための最良の形態から明らかにされよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
以下、本発明の内燃機関の始動制御装置に係る実施形態を図面に基づいて説明する。
【0040】
<第1実施形態>
本発明に係る内燃機関の制御装置に係る第1実施形態を、図1乃至図3を参照して説明する。ここに、図1は、本実施形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【0041】
図1において、本実施形態に係る制御装置1が搭載される車両は、エンジン11、モータ・ジェネレータ(MG)21及びバッテリ22を備えて構成されている。ここに、本実施形態に係る「エンジン11」及び「モータ・ジェネレータ21」は、夫々、本発明に係る「内燃機関」及び「モータ」の一例である。
【0042】
エンジン11には、吸気通路12及び排気通路13が夫々接続されている。EGR通路14は、一端が排気通路13に接続され、他端が吸気通路12に接続されている。EGR通路14には、EGR弁141が設けられており、アクチュエータ(ACT)142によりEGR弁の開度が変更されることによって、エンジン11の排気側から吸気側に再循環される排気の量が調整される。ここに、本実施形態に係る「EGR通路14」、「EGR弁141」及び「アクチュエータ142」は、本発明に係る「EGR手段」の一例である。尚、EGR通路14の一端は、排気通路13に設けられる、例えば三元触媒等の触媒(図示せず)の上流側に接続されてもよいし、下流側に接続されてもよい。
【0043】
制御装置1は、エンジン11の回転数を検出する回転数センサ31と、バッテリ22の充電残量を検出する充電残量センサ32と、吸入される空気量を検出するエアフロメータ33と、EGR弁141の異常の有無を判定可能であると共に、EGR弁141の異常の有無が判定される際に、アクチュエータ142、エンジン11及びモータ・ジェネレータ21を制御するECU23とを備えて構成されている。
【0044】
尚、本実施形態に係る「充電残量センサ32」は、本発明に係る「充電残量検出手段」の一例であり、本実施形態に係る「ECU23」は、本発明に係る「異常判定手段」及び「制御手段」の一例である。本実施形態では、各種電子制御用のECU15の一部を、制御装置1の一部として用いている。
【0045】
次に、制御装置1の動作について、図2を参照して説明する。ここに、図2は、本実施形態係るエンジンの機関動作状態の推移を示す概念図である。尚、図中の実線T、実線a、点線bは、夫々、全負荷トルク、異常判定時動作線及び通常動作線を示している。実線aと点線bとは部分的に重なっている。
【0046】
また、破線で囲まれた領域Rは、排気を再循環可能なEGR領域を示している。領域Rのうち網掛けで示した領域rは、本発明に係る「所定の機関運転領域」の一例としての「EGR限界に余裕のある領域」である。また、一点鎖線は、等出力ラインを示している。出力は、図中の左側ほど低くなっている。
【0047】
EGR弁141の異常判定を行わない場合(典型的には、通常の動作時)、ECU23は、エンジン11の機関動作状態が、点線b上で推移するようにエンジン11を制御する。エンジン11の機関動作状態が領域R内である場合、ECU23は、EGR弁141を駆動して、所定量の排気が吸気通路12に再循環されるようにアクチュエータ142を制御する。
【0048】
他方、EGR弁141の異常判定を行う場合、ECU23は、エンジン11の機関動作状態が、実線a上で推移するようにエンジン11を制御する。ECU23は、回転数センサ31により検出されたエンジン11の回転数、及びエアフロメータ33により検出された吸入される空気量に基づいて、EGR弁141の開弁時及び閉弁時各々の吸気通路12内の圧力を推定する。ECU23は、該推定された圧力の開弁時及び閉弁時の差が、EGR弁141の目標開度から予測される圧力の差と一致しているか否かを判定して、異常判定を行う。
【0049】
仮に、エンジン11の機関動作状態が点線b上を推移している時に、EGR弁141の異常判定を行うと、EGR限界(即ち、領域Rのあるエンジン回転数におけるエンジントルクの上限値)まで余裕が少ないので、異常判定のためにEGR弁141の開度を通常より大きくしてしまうと、例えばエンジン11のトルク変動が大きくなってしまったり、失火してしまったりする。他方、トルク変動や失火を防止するために、EGR弁141の開度を通常と同じにしてしまうと、EGR弁の開弁時及び閉弁時各々の圧力の差が比較的小さくなり、誤判定してしまうおそれがある。
【0050】
しかるに本実施形態では、エンジン11の機関運転状態が、EGR限界まで余裕のある領域r内にある時にEGR弁141の異常判定を行っている。このため、EGR弁141の開度を通常より大きくしても、エンジン11のトルク変動が大きくなってしまったり、失火してしまったりすることを防止することができる。加えて、EGR弁141の開度が比較的大きいので、EGR弁141の開弁時及び閉弁時各々の圧力の差が比較的大きくすることができる。この結果、誤判定してしまうことを防止することができる。
【0051】
次に、以上のように構成された制御装置1を搭載する車両の走行中において、ECU23が実行するEGR弁141の異常判定処理について、図3のフローチャートを参照して説明する。この異常判定処理は、典型的には、エンジン11の機関運転状態が、EGR領域である領域R内に移行する際に実行される。
【0052】
図3において、例えば回転数センサ31により検出された回転数等に基づいて、エンジン11の機関運転状態が領域R内に移行することを予測した、或いは、機関運転状態が領域R内に移行したことを検出した、ECU23は、異常判定時動作線である実線a(図2参照)を算出する(ステップS101)。尚、ステップS101の処理は、エンジン11の機関運転状態が領域R内に移行してから所定時間経過後に実行されてもよい。
【0053】
次に、ECU23は、現在、エンジン11の機関運転状態が、通常動作線である点線bと実線aとのどちらに沿って推移しているかを判定する(ステップS102)。点線b上で推移していると判定された場合(ステップS102:Yes)、ECU23は、エンジン11の機関運転状態が実線a上に移行するようにエンジン11を制御した後に(ステップS103)、EGR弁141の異常判定を実行する。尚、移行の際、ECU23は、典型的には、機関運転状態が等出力ライン上で移行するようにエンジン11を制御する。他方、実線a上で推移していると判定された場合(ステップS102:No)、EGR弁141の異常判定を実行する。
【0054】
次に、ECU23は、異常判定が終了したか否かが判定する(ステップS104)。終了していないと判定された場合(ステップS104:No)、終了したと判定されるまでステップS104の処理を繰り返す。他方、終了したと判定された場合(ステップS104:Yes)、ECU23は、エンジン11の機関運転状態が点線b上に移行するようにエンジン11を制御する(ステップS105)。
【0055】
<第2実施形態>
本発明の内燃機関の制御装置に係る第2実施形態を、図4及び図5を参照して説明する。第2実施形態では、ECUが実行する異常判定処理が一部異なる以外は、第1実施形態の構成と同様である。よって、第2実施形態について、第1実施形態と重複する説明を省略すると共に、図面上における共通箇所には同一符号を付して示し、基本的に異なる点についてのみ、図4及び図5を参照して説明する。ここに、図4は、本実施形態に係るエンジンの機関動作状態の推移を示す概念図である。
【0056】
図4において、本実施形態に係るECU23は、EGR弁141の異常判定を行う際に、充電残量センサ32により検出されたバッテリ22の充電残量が、例えば全充電量の80%である第1充電残量閾値より大きいことを条件に、エンジン11の機関運転状態が、例えば点p0から点p2に移行するようにエンジン11を制御する。更に、ECU23は、減少した出力を補うようにモータ・ジェネレータ21を制御する。
【0057】
図4に示すように、点p2は、点p0から等出力ライン上で移行した点p1よりもエンジントルクが低い。従って、機関運転状態が点p2に移行することによって、吸気通路12の負圧を、機関運転状態が点p1に移行した場合よりも高くすることができる。この結果、EGR弁141の異常の有無が判定される際に、EGR弁141の開弁時及び閉弁時各々の吸気通路の圧力差をより大きくすることができ、比較的容易にしてEGR弁141の異常の有無を判定することができる。
【0058】
他方、ECU23は、検出されたバッテリ22の充電残量が、第1充電残量閾値より小さいことを条件に、エンジン11の機関運転状態が、例えば点p0から点p1に移行するように(即ち、等出力ライン上で移行するように)エンジン11を制御する。尚、検出された充電残量が、第1充電残量閾値と「等しい」場合には、いずれかの場合に含めて扱えばよい。
【0059】
次に、本実施形態に係るECU23が実行するEGR弁141の異常判定処理について、図5のフローチャートを参照して説明する。
【0060】
図5において、ECU23により異常判定時動作線である実線aが算出された後に(ステップS101)、充電残量センサ32は、バッテリ22の充電残量を検出する(ステップS201)。尚、ステップS201の処理は、ステップS101の処理と相前後して実行されてよい。
【0061】
次に、ECU23は、現在、エンジン11の機関運転状態が、通常動作線である点線bと実線aとのどちらに沿って推移しているかを判定する(ステップS202)。点線b上で推移していると判定された場合(ステップS202:Yes)、ECU23は、エンジン11の機関運転状態が実線a上に移行するようにエンジン11を制御することを示すフラグを立てる(ステップS203)。
【0062】
続いて、ECU23は、検出された充電残量が第1充電残量閾値より大きいか否かを判定する(ステップS204)。第1充電残量閾値より大きいと判定された場合(ステップS204:Yes)、ECU23は、点線b上で推移しているエンジン11の機関運転状態が、実線a上、且つ現在エンジン11に対し要求されている出力よりも所定値だけ低い出力となる、機関運転状態に移行するようにエンジン11を制御した後に(ステップS205)、EGR弁141の異常判定が実行される。尚、ECU23は、ステップS205の処理と同時に、減少した出力を補うようにモータ・ジェネレータ21を制御する。
【0063】
他方、第1充電閾値より小さいと判定された場合(ステップS204:No)、ECU23は、点線b上で推移しているエンジン11の機関運転状態が、実線a上、且つ現在エンジン11に対し要求されている出力となる、機関運転状態に移行するようにエンジン11を制御した後に(ステップS206)、EGR弁141の異常判定を実行する。
【0064】
尚、ECU23は、ステップS202の処理において、点線b上で推移していると判定された場合に、先ず、エンジン11の機関運転状態が実線a上に移行するようにエンジン11を制御し、その後、検出された充電残量に応じて、機関運転状態を変更するようにエンジン11を制御してもよい。
【0065】
ステップS202の処理において、実線a上で推移していると判定された場合(ステップS202:Yes)、ECU23は、ステップS204の処理の結果に応じて、エンジン11を制御する。即ち、検出された充電残量が第1充電残量閾値より大きいと判定された場合(ステップS204:Yes)、ECU23は、実線a上で推移しているエンジン11の機関運転状態が、現在エンジン11に対し要求されている出力よりも所定値だけ低い出力となる機関運転状態に移行するようにエンジン11を制御する(ステップS205)。
【0066】
他方、第1充電残量閾値より小さいと判定された場合(ステップS204:No)、ECU23は、実線a上で推移しているエンジン11の機関運転状態が、現在エンジン11に対し要求されている出力となる機関運転状態に移行するように、(或いは、現在の出力と要求されている出力とが等しい場合は、現在の機関運転状態を維持するように)エンジン11を制御する(ステップS206)。
【0067】
次に、ECU23は、異常判定が終了したか否かが判定する(ステップS207)。終了していないと判定された場合(ステップS207:No)、終了したと判定されるまでステップS204乃至S207の処理を繰り返す。他方、終了したと判定された場合(ステップS207:Yes)、ECU23は、エンジン11の機関運転状態が点線b上に移行するようにエンジン11を制御する(ステップS208)。
【0068】
<第3実施形態>
本発明の内燃機関の制御装置に係る第3実施形態を、図6及び図7を参照して説明する。第3実施形態では、ECUが実行する異常判定処理が一部異なる以外は、第2実施形態の構成と同様である。よって、第3実施形態について、第2実施形態と重複する説明を省略すると共に、図面上における共通箇所には同一符号を付して示し、基本的に異なる点についてのみ、図6及び図7を参照して説明する。ここに、図6は、本実施形態に係るエンジンの機関動作状態の推移を示す概念図である。尚、図中の二点鎖線cは、低SOC(Stage Of Charge)時異常判定時動作線を示している。
【0069】
図6において、本実施形態に係るECU23は、EGR弁141の異常判定を行う際に、エンジン11の機関運転状態が、通常動作線である点線b上から、異常判定時動作線である実線a上に移行するように(例えば点p3から点p4に移行するように)エンジン11を制御した後に、バッテリ22の充電残量が、例えば全充電量の50%である第2充電残量閾値より小さいことを条件に、機関運転状態が点p4から低SOC時異常判定時動作線である二点鎖線c上の点p5に移行するようにエンジン11を制御する。
【0070】
図6に示すように、点p5は、点p4よりも出力が高く、且つ同出力を得るために実線a上の点p6に移行した場合に比べて、エンジントルクが低く、エンジン回転数が高い。従って、吸気通路12の負圧を比較的高くしつつ、エンジン11の出力を増加させることができる。この結果、EGR弁141の異常の有無が判定される際に、EGR弁141の開弁時及び閉弁時各々の吸気通路の圧力差を比較的大きくすることができると共に、余剰なエンジン11の出力を利用してバッテリ22を充電することができ、実用上非常に有利である。
【0071】
尚、ECU23は、モータ・ジェネレータ21の回転出力が減少するように、モータ・ジェネレータ21を制御してもよい。これにより、電力消費量を抑制することができ、実用上非常に有利である。
【0072】
他方、ECU23は、検出されたバッテリ22の充電残量が、第2充電残量閾値より大きいことを条件に、典型的には、エンジン11の機関運転状態を維持するようにエンジン11を制御する。尚、検出された充電残量が、第2充電残量閾値と「等しい」場合には、いずれかの場合に含めて扱えばよい。
【0073】
次に、本実施形態に係るECU23が実行するEGR弁141の異常判定処理について、図7のフローチャートを参照して説明する。
【0074】
図7において、EGR弁141の異常判定を行う際に、ステップS204の処理(図5参照)において、ECU23によって充電残量センサ32により検出された充電残量が第1充電残量閾値より小さいと判定され、ステップS206の処理(図5参照)において、ECU23によってエンジン11の機関運転状態が、例えば図6における点p3から点p4に移行するようにエンジン11が制御された後、充電残量センサ32は、バッテリ22の充電残量を検出する(ステップS301)。
【0075】
続いて、ECU23は、検出された充電残量が、第2充電残量閾値より小さいか否かを判定する(ステップS302)。第2充電残量閾値より大きいと判定された場合(ステップS302:No)、ECU23は、EGR弁141の異常判定を実行する。
【0076】
他方、検出された充電残量が第2充電残量閾値より小さいと判定された場合(ステップS302:Yes)、ECU23は、低SOC時異常判定時動作線である二点鎖線cを算出すると共に、エンジン11の機関運転状態が点p4から、二点鎖線c上の点p5に移行するようにエンジン11を制御して(ステップS303)、EGR弁141の異常判定を実行する。
【0077】
尚、本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨、或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う内燃機関の制御装置もまた、本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】第1実施形態に係る制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1実施形態係るエンジンの機関動作状態の推移を示す概念図である。
【図3】第1実施形態に係るECUが実行する異常判定処理を示すフローチャートである。
【図4】第2実施形態係るエンジンの機関動作状態の推移を示す概念図である。
【図5】第2実施形態に係るECUが実行する異常判定処理を示すフローチャートである。
【図6】第3実施形態係るエンジンの機関動作状態の推移を示す概念図である。
【図7】第3実施形態に係るECUが実行する異常判定処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0079】
1…制御装置、11…エンジン、12…吸気通路、13…排気通路、14…EGR通路、21…モータ・ジェネレータ、22…バッテリ、23…ECU、31…回転数センサ、32…充電残量センサ、33…エアフロメータ、141…EGR弁、142…アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関、及び該内燃機関から排出される排気を部分的に、前記内燃機関の排気側から吸気側に再循環可能なEGR手段を備える車両における前記内燃機関の制御装置であって、
前記EGR手段の異常の有無を判定する異常判定手段と、
前記異常の有無が判定される際に、前記内燃機関の機関運転状態が所定の機関運転領域内になるように前記内燃機関を制御する制御手段と
を備える内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記異常が判定される際に、前記内燃機関の負荷を変更させつつ、前記機関運転状態が前記所定の機関運転領域内になるように前記内燃機関を制御することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記所定の機関運転領域は、前記異常が判定される際における前記内燃機関に接続された吸気通路の圧力の変化量が、所定圧力変化量より大きい領域であることを特徴とする請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記EGR手段は、前記再循環される排気の量を調整可能なEGR弁を有し、
前記変化量は、前記EGR弁の開弁時における前記圧力と前記EGR弁の閉弁時における前記圧力との差である
ことを特徴とする請求項3に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記車両を駆動するモータと、
前記モータに電力を供給するバッテリと、
前記バッテリの充電残量を検出する充電残量検出手段と
を更に備え、
前記異常の有無が判定される際に、前記制御手段は、前記検出された充電残量に応じて、前記機関運転状態が前記所定の機関運転領域内になるように前記内燃機関を制御する
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記検出された充電残量が第1充電残量閾値より大きいことを条件に、前記内燃機関の回転出力を減少させつつ、前記機関運転状態が前記所定の機関運転領域内になるように前記内燃機関を制御することを特徴とする請求項5に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記検出された充電残量が前記第1充電残量閾値より大きいことを条件に、更に、前記モータの回転出力を増加するように前記モータを制御することを特徴とする請求項6に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記検出された充電残量が第2充電残量閾値より小さいことを条件に、前記内燃機関の回転数を増加させつつ、前記機関運転状態が前記所定の機関運転領域内になるように前記内燃機関を制御することを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一項に記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−264149(P2009−264149A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112056(P2008−112056)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】