説明

内燃機関の制御装置

【課題】吸入空気のバイパスを利用する際に生じうる弊害を抑制しつつ、吸入空気をバイパスすることによる利点を享受することのできる内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】ECU50は、所定の運転領域D−Bでは調整弁21を開きかつ調整弁22を閉じることにより、タービン9上流に新気の一部をバイパスさせることができる。また、ECU50は、所定の運転領域Bでは調整弁21を閉じかつ調整弁22を開放することにより、スタート触媒14下流に新気を流すことができる。これにより運転領域に応じて複数の新気バイパス通路24、25を適切に使い分けることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特開2007−285242号公報に開示されているように、吸気通路から排気通路に吸入空気の一部をバイパスさせる構成を備えた内燃機関が知られている。上記従来の内燃機関では、より具体的には、過給器を備える内燃機関において、この過給器のコンプレッサ下流と吸気通路におけるスロットル上流との間から、当該過給器のタービンを迂回し、排気と連通させるようなバイパス通路が設けられている。
【0003】
また、特開平7−189720号公報は、過給器を備える内燃機関において、吸気通路における過給器のコンプレッサの直後と、排気通路におけるタービン直前位置とを連通させるバイパス通路の構成を開示している。
【0004】
上記述べたような従来技術によれば、バイパス通路を適宜に開放したり閉鎖したりすることにより、排気系に設けられた触媒に流れ込む空気量および燃料量を調節することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−285242号公報
【特許文献2】特開平7−189720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
過給器を備える内燃機関において前述したような吸入空気のバイパス技術を利用しようとする場合、バイパス通路の構成や内燃機関の運転領域によっては、種々の弊害が生ずるおそれがある。
【0007】
例えば、吸気側から排気側へ新気が導入される場合、内燃機関の燃焼状態によっては、排気管内での未燃燃料と新気(酸素)によるいわゆる後燃え的な状態が生じうる。これにより、排気通路に設けられた触媒を過剰に加熱してしまうおそれがある。また、新気をバイパスした場合、内燃機関から排出される排気ガスの排気エネルギが低下する。例えば低回転領域から高過給が必要となる過給ダウンサイジングエンジンを想定した場合、この排気エネルギ低下の影響が特に問題になりやすい。
【0008】
従って、吸入空気のバイパス技術を活用する場合において、各種弊害を避けつつその利点を享受できるように、吸気系と排気系を連通させるバイパス系の構築やバイパス系の開閉制御を適切に行うことが好ましい。
【0009】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、吸入空気のバイパスを利用する際に生じうる弊害を抑制しつつ、吸入空気をバイパスすることによる利点を享受することのできる内燃機関の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、
内燃機関の吸気通路に設けられたコンプレッサおよび前記内燃機関の排気通路に設けられた排気タービンを備える過給機と、
前記排気タービンの下流に設けられた触媒と、
前記吸気通路における前記コンプレッサ下流と前記排気通路における前記排気タービン上流とを連通させる第1バイパス通路と、前記吸気通路における前記コンプレッサ下流と前記排気通路における前記触媒の下流とを連通させる第2バイパス通路とを含むバイパス系と、
前記バイパス系に設けられ、前記第1バイパス通路および前記第2バイパス通路の連通状態を変更可能な1つまたは複数の弁と、
を有する内燃機関を制御する制御装置であって、
所定の第1運転領域において前記第1バイパス通路を開放し前記第1運転領域に比して高い回転数域に定めた所定の第2運転領域において前記第2バイパス通路を開放するように前記弁を制御する制御手段を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【0011】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記第1運転領域は、低回転数かつ高負荷の領域に定めた所定領域であって、
前記第2運転領域は、前記第1運転領域よりも高負荷側の領域である高負荷側領域と、前記第1運転領域に比して高回転数かつ軽負荷の領域である高回転軽負荷領域と、前記高負荷側領域と前記高回転軽負荷領域との間に定めた中回転数かつ中負荷の領域である中回転中負荷領域とを含むものであることを特徴とする。
【0012】
また、第3の発明は、第1または第2の発明において、
前記制御手段は、前記内燃機関の加速時に前記第1バイパス通路と前記第2バイパス通路の両方が閉鎖されるように前記弁を制御する加速時バイパス禁止手段を含むことを特徴とする。
【0013】
また、第4の発明は、第1乃至3の発明のいずれか1つにおいて、
前記内燃機関のノッキングを検出するためのノッキング検出手段と、
前記第1運転領域において前記ノッキング検出手段でノッキングが検出された場合に、前記第1バイパス通路を介して流れる空気量を増加する第1バイパス量増加手段と、
をさらに備えることを特徴とする。
【0014】
また、第5の発明は、第1乃至第4の発明の何れか1つにおいて、
前記内燃機関の前記過給器がウエストゲートバルブを有しており、
前記内燃機関のノッキングを検出するためのノッキング検出手段と、
前記第2運転領域において前記ノッキング検出手段でノッキングが検出された場合であって前記ウエストゲートバルブが開いているときに、当該ウエストゲートバルブの開度を小さくしかつ前記第2バイパス通路を介して流れる空気量を増加するウエストゲートバルブ開時バイパス量増加手段と、
を備えることを特徴とする。
【0015】
また、第6の発明は、第5の発明において、
前記ウエストゲートバルブ開時バイパス量増加手段が、前記ウエストゲートバルブを閉じ且つ前記第2バイパス通路を介して流れる空気量を増加する手段を含むことを特徴とする。
【0016】
また、第7の発明は、第1乃至第6の発明の何れか1つにおいて、
前記内燃機関の前記過給器がウエストゲートバルブを有しており、
前記第2運転領域において前記ノッキング検出手段でノッキングが検出された場合であって前記ウエストゲートバルブが閉じているときに、前記第2バイパス通路を介して流れる空気量を増加するウエストゲートバルブ閉時バイパス量増加手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1の発明によれば、第1運転領域では第1バイパス通路を使用してタービン上流に吸入空気の一部をバイパスさせることにより、排気エネルギ低下を抑制することができる。その一方で、第1運転領域に比して高い回転数域にある第2運転領域では第2バイパス通路を使用して、タービン下流且つ第2バイパス通路上流に位置する触媒への空気流入を控えることによって、この触媒の過度の高温化を抑制することができる。このように、第1の発明によれば、運転領域に応じて複数のバイパス通路を適切に使い分けることができる。
【0018】
第2の発明によれば、回転数および負荷から定めた各領域に応じて、第1、2バイパス通路を適切に使い分けることができる。
【0019】
第3の発明によれば、過渡感度を向上させることができる。
【0020】
第4の発明によれば、ノッキング発生時にバイパス新気量を増量させることによって、ノッキング時の燃焼安定化を行うことができる。
【0021】
第5の発明によれば、ノッキング発生時におけるウエストゲートバルブの開閉状態に応じて、ノッキング時の燃焼安定化措置を適切に取ることができる。
【0022】
第6の発明によれば、ノッキング発生時におけるウエストゲートバルブの開閉状態に応じて、ノッキング時の燃焼安定化措置を適切に取ることができる。
【0023】
第7の発明によれば、ノッキング発生時におけるウエストゲートバルブの開閉状態に応じて、ノッキング時の燃焼安定化措置を適切に取ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる内燃機関の制御装置の構成を、これが適用される内燃機関とともに示す図である。
【図2】本発明の実施の形態1にかかる内燃機関の制御装置の動作説明のための模式図である。
【図3】本発明の実施の形態1にかかる内燃機関の制御装置の動作説明のための模式図である。
【図4】本発明の実施の形態2にかかる内燃機関の制御装置の動作説明のための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本発明の実施の形態1にかかる内燃機関の制御装置の構成を、これが適用される内燃機関とともに示す図である。車両等の移動体に好適である。図1には便宜上1つの気筒を示すが、多気筒内燃機関であってもよい。
【0026】
図1に示すように、内燃機関本体1は、サージタンク7、スロットルバルブ6、インタークーラ5を備える吸気通路を有している。サージタンク7と内燃機関本体1の吸気ポートは、インテークマニホールドを介して連通している。インタークーラ5の上流には、さらに、ターボチャージャー11のコンプレッサ4、空気計量部3(具体的には、エアフローメータ)、エアクリーナ2が連通している。図示しているように、内燃機関本体1には、燃料噴射弁10、吸気弁、排気弁もそれぞれ備えられている。
【0027】
内燃機関本体1の排気ポートには、エキゾーストマニホールド8が連通し、さらにその下流の排気通路(排気管)には、ターボチャージャー11におけるタービン9、ウエストゲートバルブ12、空燃比センサ13、スタート触媒14、メイン触媒15がそれぞれ設けられている。
【0028】
本実施形態にかかる内燃機関は、吸気通路におけるコンプレッサ4下流位置に、新気バイパス通路23が連通している。新気バイパス通路23は、その途中で、新気バイパス通路24と新気バイパス通路25とに分岐している。新気バイパス通路24は、排気通路におけるタービン9上流位置に連通している。新気バイパス通路25は、排気通路におけるスタート触媒14下流位置に連通している。
【0029】
新気バイパス通路24には、タービン9上流位置へバイパスされる新気の量を調整することのできる調整弁21が備えられている。また、新気バイパス通路25には、スタート触媒14下流側へバイパスされる新気の量を調整することのできる調整弁22が備えられている。調整弁21、22としては、例えば、その開度を連続的あるいは複数段階に変更可能な弁を用いることができる。以下、吸気通路から排気通路側へとバイパスされる新気の量を、便宜上、「バイパス新気量」とも称す。
【0030】
ECU50は、上述した調整弁21、22を始め、空燃比センサ13、空気計量部3、燃料噴射弁10と接続している。その他にも、図示しない各種センサ(例えば、エンジン回転数を検出可能なセンサとして例えばクランク角センサ、エンジン水温センサなど)及び各種機器(例えば、点火プラグ、可変動弁機構)のアクチュエータと接続している。ECU50は、それらとの間で制御信号を送信したりセンサ出力信号を受信したりすることにより、各種運転条件(燃料噴射量、点火時期など)の制御および内燃機関本体1の状態把握(機関回転数、空燃比制御に関するパラメータ取得など)を行うことができる。
【0031】
[実施の形態1の動作]
以下、図2および図3を用いて、実施の形態1の内燃機関の制御装置の動作について説明する。
【0032】
実施の形態1にかかる内燃機関は、三元触媒で排気浄化を図る過給エンジンにおいて下記の動作(1−1)、(1−2)を実現することを念頭において構成されている。
【0033】
(1−1)排気通路への新気バイパス通路
新気の一部を排気通路にバイパスさせるシステム構成とする。このとき、コンプレッサ下流(スロットル上流)とタービン入口とを連通させ、コンプレッサ下流(スロットル上流)とスタート触媒の下流を連通させる。これらの連通を切り換えることができるようにし、必要に応じて両方の連通を遮断できるようにする。
低速高負荷の場合には、燃焼変動が悪化しやすい。これに対しては、燃料密度を高めることによって燃焼を安定化させることができる。燃焼が安定することで未燃燃料の排出が抑制され、後燃えがなくなり、タービン入口ガス音やスタート触媒床温の高温化を抑制できる。このため、低速低負荷の場合には、タービン前に新気をバイパスさせることは問題とならない。
また、タービン前に新気をバイパスさせるため、次のような利点がある。すなわち、タービンを通過する空気量はバイパスがなされない場合と同等である。燃焼室では理論空燃比より濃い混合気となり排気ガス温度が低い場合でも、バイパスされた新気によってタービン入口部では理論空燃比とすることができるため、バイパスがなされないときと同等の排気ガス温度が得られる。
以上から、タービン前に新気をバイパスさせる構成によれば、バイパスが行われない場合と比べても排気エネルギーを同等にすることができ、過給空気量や応答性を確保維持することができる。
【0034】
一方、低速高負荷、中速中負荷以上、高速軽負荷の領域においては、タービン入口ガス温やスタート触媒床温が高くなる傾向にある。これは、排気ガス量が多いことなどに起因している。この領域においては、排気ガス空燃比を理論空燃比よりも濃い状態にして温度上昇を抑制したい。そこで、スタート触媒下流に新気をバイパスさせる。
コンプレッサ下流(スロットル上流)から新気をバイパスさせるのは、高速軽負荷域でもコンプレッサ出口圧>サージタンク圧という状態になるためであり、排気論空燃比域の拡大が図れる。
【0035】
(1−2)加速判定に応じた制御
排気通路への新気バイパス作動中に加速判定(例えばスロットル開度変化を監視するなどによる判定)がなされた場合には、新気のバイパスを停止する。
新気のバイパスを停止することでスロットル前後圧を高めることができ、相対的に燃焼室空気量が増加する。このためエンジン出力が増加し、加速度を高めることができる。また、温度(例えばスタート触媒床温)は瞬時に上昇するわけではないので、過渡時においてはこのような新気バイパス停止は問題とはならない。
【0036】
図1に示した実施の形態1にかかるシステム構成は、上記の動作を行うように構築されている。すなわち、新気バイパス通路23、24、25によって、コンプレッサ4下流とタービン9入口とが連通させられ、コンプレッサ4下流とスタート触媒14下流とが連通させられている。そして、調整弁21、22によって、新気バイパス通路24を介して新気がバイパスされる状態、新気バイパス通路25を介して新気がバイパスされる状態、新気バイパス通路24,25の両方が閉鎖された状態を、切り換えることができる。
【0037】
上述したように、コンプレッサ4下流から新気をバイパスさせるのは高速軽負荷域におけるコンプレッサ4出口圧>サージタンク7圧力の状態を利用するためであり、本システム構成によれば排気理論空燃比域の拡大が図れる。
【0038】
図2は、本発明の実施の形態1にかかる内燃機関の制御装置の動作説明のための模式図である。図2は、エンジン性能例を示す図であり機関回転数とトルクに対する吸気管圧力の関係を示したマップである。図2において破線、二点鎖線により幾つかの領域が区画され、それぞれ領域A,B,C,D,Eが定められている。なお、個々の領域が重複している部分もある。個々の領域は、下記のような特性を有している。
【0039】
領域A:λ1運転(理論空燃比運転)でタービン9の入口ガス温度とスタート触媒14の床温とが所定温度よりも低い領域
領域B:λ1運転の場合にはタービン9の入口ガス温度またはスタート触媒14の床温が所定温度より高くなる領域
領域C:λ1運転の場合にはアンダーフロア触媒(実施の形態1ではメイン触媒15)の床温が許容所定値を超える領域
領域D:λ1運転の場合には燃焼変動が悪化する領域、燃焼変動が大きい領域
領域E:スロットル前(コンプレッサ出口)圧力>タービン出口圧となる領域
【0040】
実施の形態1では、下記の(i)〜(iii)に述べるように、上記の各領域の特性に応じた措置を取ることとした。なお、その前提として、実施の形態1では、ECU50が図2に示したようなマップ(上記のように各領域が定めた状態)を予め記憶しておき、内燃機関本体1の機関回転数および負荷に応じてECU50が当該マップを参照できるようにしておく。ECU50は、現在の運転領域が当該マップ中におけるいずれの領域に該当するかを特定するための処理を記憶しているものとする。
【0041】
(i)領域Dから領域Bを除いた領域(以下、「領域D−B」とも称す)
領域D−Bでは、調整弁21を開き、調整弁22を閉じる。すなわち新気バイパス通路24を介してタービン9上流に新気をバイパスさせる。これにより、燃焼室空燃比をリッチ化し、燃料密度を高め、燃焼を安定させることができる。
燃焼が安定することで未燃燃料が抑制され、後燃えがなくなり、タービン9入口ガス温度やスタート触媒14床温の高温化を抑制することができる。また、前述したように、タービン9の前に新気をバイパスさせる構成によれば、タービン通過空気量や排気ガス温度を確保できる。その結果、過給空気量や応答性を確保維持することができる。
【0042】
(ii)領域B
領域Bでは、調整弁21を閉じて、調整弁22を開放する。これにより、スタート触媒14下流に新気のバイパスを行う。その結果、タービン9入口やスタート触媒14を通過する排気ガスの空燃比を理論空燃比よりも濃い状態にして温度上昇を抑制することができる。メイン触媒15の前に新気をバイパスさせることによりメイン触媒15では理論空燃比とすることができるので、排気浄化性能も良好に維持することができる。
【0043】
(iii)領域A、領域C
領域Aおよび領域Cでは、調整弁21および調整弁22を閉じる。これにより、新気のバイパスは行わない。
【0044】
また、排気通路への新気バイパス作動中に加速判定がなされた場合には、本来ならば新気のバイパスを行うべき運転領域にあったとしても、調整弁21および調整弁22を閉じる。すなわち、ECU50に予め備えられた加速判定処理において加速時であるとの判定が下された場合には、ECU50は調整弁21および調整弁22を閉じる。これにより、新気のバイパスを停止する。
上記(1−2)で述べたように、新気バイパスを停止することでスロットル6の前後圧を高めることができ、相対的に燃焼室空気量が増加する。このため内燃機関本体1のエンジン出力が増加し、加速度を高めることができる。また、新気バイパスを停止してもスタート触媒14の床温は瞬時に上昇するわけではないので、過渡時におけるこのような新気バイパス停止は問題とはならない。
なお、加速判定の具体的手法については、公知の各種技術を適宜に使用すれば良いため詳述はしないが、例えばECU50にスロットル開度変化を監視する処理を実行させたり加速要求の有無を判定したりするなど、種々の加速判定技術を利用することができる。
【0045】
図3は、本発明の実施の形態1にかかる内燃機関の制御装置の動作説明のための模式図である。上述した各種運転領域および加速判定に応じた、調整弁21、22の開閉状態、エアフローメータ通過空気量および燃焼室空気量とバイパス空気量の割合についてそれぞれ模式的に示した図である。
【0046】
以上説明したように、実施の形態1によれば、運転領域に応じて複数の新気バイパス通路24、25を適切に使い分けることができる。
【0047】
すなわち、領域D−Bでは排気エネルギの低下が問題となりやすく、一方、領域Bでは触媒温度上昇が問題となりやすい。そこで、実施の形態1によれば、領域D−Bでは調整弁21を開きかつ調整弁22を閉じることにより、タービン9上流に新気の一部をバイパスさせることができる。これにより、排気エネルギ低下を抑制することができる。その一方で、領域Bでは調整弁21を閉じかつ調整弁22を開放することにより、スタート触媒14下流に新気を流すことができる。これにより、領域Bでは新気バイパス通路25を使用して、タービン9下流且つ新気バイパス通路25上流に位置するスタート触媒14への空気流入を控えることによって、スタート触媒14の過度の高温化を抑制することができる。
【0048】
また、実施の形態1によれば、排気通路への新気バイパス作動中に加速判定がなされた場合には、調整弁21、22を閉じることができる。これにより、新気バイパス停止が問題とならない過渡時において、新気バイパスの停止による加速度向上効果を得ることができる。
【0049】
なお、上述した実施の形態1においては、ターボチャージャー11が、前記第1の発明における「過給器」に、タービン9が、前記第1の発明における「排気タービン」に、コンプレッサ4が、前記第1の発明における「コンプレッサ」に、スタート触媒14が、前記第1の発明における「触媒」に、それぞれ相当している。また、実施の形態1においては、新気バイパス通路23、24が、前記第1の発明における「第1バイパス通路」に、新気バイパス通路23、25が、前記第1の発明における「第2バイパス通路」に、調整弁21、22が、前記第1の発明における「弁」に、それぞれ相当している。そして、実施の形態1においては、前述のようにECU50が領域D−Bと領域Bに応じて調整弁21,22の開閉状態を制御することにより、前記第1の発明における「制御手段」が実現されている。
【0050】
また、上述した実施の形態1においては、領域D−Bが、前記第2の発明における「第1運転領域」に、図2において領域D−Bより高負荷側に位置する領域(領域Bと領域Dが重なっている領域)が、前記第2の発明における「高負荷側領域」に、図2において領域Bから領域Dを除いた領域(図2の紙面上方から紙面右下側に延びる領域)が、前記第2の発明における「高回転軽負荷領域」および「中回転中負荷領域」に相当している。
【0051】
なお、上述した実施の形態1では、新気バイパス通路を、一端が吸気通路に連通しその途中で二股に分岐する形状の通路とした。しかしながら、本発明はこれに限られるものではない。新気バイパス通路24と新気バイパス通路25をそれぞれ一本の独立した通路として構成しても良い。また、実施の形態1で述べた新気バイパス通路24、25以外の他のバイパス通路をも含むようなバイパス系を構築したとしても、弁の開閉状態の組み合わせによって実施の形態1における新気バイパス通路24,25と同じ箇所の連通を必要に応じて実現できるようにしておけばよい。
【0052】
また、実施の形態1では、図2に示したようなマップを規定したが、本発明はこれに限られるものではなく、調整弁21、22の開閉状態を変更する場合における各領域の境界の定め方は実施の形態1と同一の定め方に限られるものではない。
【0053】
実施の形態2.
実施の形態2の内燃機関の制御装置は、図1に示した実施の形態1の構成と同様のハードウェア構成を備える。ただし、実施の形態2では、内燃機関本体1におけるノッキングの発生を検出する構成が備えられているものとする。ノッキング検出用の構成は、具体的にはノッキングセンサを内燃機関本体1のシリンダブロック等に取り付けるなど、各種公知技術を用いて実現すればよく、新規な事項ではないため、詳細な説明は行わない。
【0054】
[実施の形態2の動作]
実施の形態2では、過給エンジンで新気を排気通路にバイパスさせるシステムを有する構成において、過給圧>排気圧となる運転領域で下記のような動作(2−1)〜(2−4)を実現する。
【0055】
(2−1)燃焼変動が悪化する領域(一般には、低回転数から中回転数域)では、燃焼室内の空燃比が理論空燃比から出力空燃比の間になるように、排気通路へのバイパス新気量を制御する。
吸入空気量計測後の新気を燃焼室と排気に分割していることにより、バイパス量に応じて燃焼室内空燃比がリッチ化する。その結果、燃料密度が高まり、燃焼が安定化する。
また、吸入空気量計測値に基づいて排気ガス空燃比が理論空燃比となるように燃料制御されているため、排気浄化性能にも悪影響が無い。
【0056】
(2−2)上記の(2−1)の制御を実行時に、ノッキングを検出した場合には、排気へのバイパス新気量を増加させることとし、点火時期の遅角は行わない。
点火時期の遅角を行うと、本来の燃焼変動抑制効果が低下するとともに後燃えが問題となり、タービンに流入するガス温度や触媒床温の上昇といった問題が発生するからである。
一方、バイパスさせる新気の量を増量することにより、燃焼空気量が減少且つ燃焼室内空燃比がリッチ化する。この分の出力低下は生じるものの、他への影響(燃焼変動、排気浄化への影響)なく、ノッキングの抑制を行うことができる。
【0057】
(2−3)タービン9入口排気ガス温やスタート触媒14の床温が上昇する領域では、メイン触媒15前で排気空燃比が理論空燃比となり、燃焼室〜スタート触媒通過ガスの空燃比がその上限温度に収まる程度に濃くなるようバイパス新気量を調節する。
この領域においてタービン9に流れる排気ガス量を制御するウエストゲートバルブ12が開いている領域(一般には中回転域〜高回転域)でノッキングが検出された場合には、下記のステップSt1、St2、St3に述べる措置とる。
【0058】
ステップSt1:排気へのバイパス新気量を増加させると同時に、ウエストゲートバルブ12の開度を絞り、排気ガス逃がし量を減少させる。
新気のバイパス量増量により燃焼空気量が減少する分に関しては、過給圧を高めることで新気供給量を増加させて燃焼空気量を同等にできる。このため、トルク低下はリッチ化分のみの影響で済む。
【0059】
ステップSt2:ウエストゲートバルブ12の開度を正規の開度に戻し、排気へのバイパス新気量をさらに増加させる制御を行う。
燃焼空気量が減少し、かつ燃焼室内空燃比がリッチ化する。
【0060】
ステップSt3:なお、上記の措置に、点火遅角制御を追加しても良い。
燃料性状等の影響でプレイグニッションが発生するおそれがあると判断されるような異常状態における、有効な回避策となる。
【0061】
(2−4)ウエストゲートバルブ12が閉じている領域(一般には中回転域)でノッキングが検出された場合、排気へのバイパス新気量を増加制御する。
これにより、前述の(2−2)において述べたのと同じ作用効果を得ることができる。すなわち、バイパスさせる新気の量を増量することにより、燃焼空気量が減少且つ燃焼室内空燃比がリッチ化する。この分の出力低下は生じるものの、他への影響(燃焼変動、排気浄化への影響)なく、ノッキングの抑制を行うことができる。
【0062】
[実施の形態2の具体的制御]
実施の形態2では、上記に述べた各動作のうち、上記(2−2)に述べた点と、ウエストゲートバルブ12の開閉状態に応じて上記の(2−3)と(2−4)の制御を切り換える点と、ノッキング抑制状態において(2−3)のステップSt1をステップSt2に切り換えるという点を、ECU50に各運転領域に応じて実行させることにした。
【0063】
先ず、実施の形態2では、実施の形態1にかかる構成において、ノッキング検出前には、下記のように制御が行われているものとする。
領域D−B:燃焼変動抑制のため、新気のバイパスについては、調整弁21を開く調整弁22を閉じるように制御し、燃焼室内空燃比をリッチに、タービン9前排気空燃比を理論空燃比となるようにする。
領域A:調整弁21、22の両方を閉じ、燃焼室内が理論空燃比となるように運転する。
領域B:温度抑制のため、調整弁21を閉じ調整弁22を開くように制御を行い、スタート触媒14を通過する排気ガスの空燃比をリッチ化し、メイン触媒15前において排気ガスの空燃比を理論空燃比とする。
【0064】
なお、上記のリッチ化とは、理論空燃比〜出力空燃比の間の値をいう。これに対し、下記で述べるリッチ化とは、出力空燃比よりもさらに濃い側の値をいう。
【0065】
(ノッキング検出後)
ノッキングが検出されると、ECU50は、下記のように、運転領域に応じてその制御内容を変更する。
【0066】
領域Aから領域Dを除いた領域(以下、「領域A−D」とも称す):通常制御とし、ECU50は点火時期の遅角制御を行う。
【0067】
領域D−B:調整弁21の開度を大きく取り、バイパス新気量を増加させる。これにより、燃焼室の空気量が減ること・燃焼室空燃比が更にリッチとなり燃焼ガス温度が低下することからノッキングを抑制することができる。
【0068】
領域B:領域Bでは、ウエストゲートバルブ12の開閉状態に応じて下記のStb1とStb2のいずれかの制御が実行される。
Stb1:ウエストゲートバルブ12が閉じているときには、調整弁22の開度を増大させるように、ECU50が調整弁22を制御する。燃焼室の空気量が減ること、燃焼室空燃比が更にリッチになることからノッキングを抑制できる。
Stb2:ウエストゲートバルブ12が開いているときには、ウエストゲートバルブ12の開度を絞り、調整弁22の開度を増大させるように、ECU50が調整弁22およびウエストゲートバルブ12を制御する。燃焼室への空気量を保持しつつ空燃比リッチによるノッキング抑制を行う。
また、ノッキング抑制不可時は、次の措置として、ウエストゲートバルブ12の開度を正規の開度に戻し、調整弁22の開度を更に拡大する。これにより燃焼室の空気量低減、空燃比の更なるリッチ化を行うことによって、ノッキングを回避する。
【0069】
図4は、本発明の実施の形態2にかかる内燃機関の制御装置の動作説明のための模式図である。図4は、上述したノッキング回避策について、領域およびウエストゲートバルブ(WGV)開閉に対応させて、エアフローメータ通過空気量、燃焼室空気量とバイパス空気量の割合、当該割合のノッキング判定時における変化、抑制要因(筒内空気量低減、A/F=12.5からA/F=11.0への空燃比のリッチ化)についてそれぞれ模式的に示した図である。ノッキング抑制不可のときの措置についても記載している。
【0070】
以上説明したように、実施の形態2によれば、実施の形態1にかかるシステム構成において、運転領域に応じて、新気バイパス通路を利用して、ノッキング回避策をとることができる。
【0071】
すなわち、実施の形態2によれば、領域D−Bにおいてノッキングを検出した場合には、点火遅角を行わずにバイパス新気量を増大させることにより、燃焼室内をリッチ化して燃焼を安定させることができる。
【0072】
また、実施の形態2によれば、領域Bにおいてノッキングが検出された場合であってウエストゲートバルブ12が開いているときには、ウエストゲートバルブ12の開度を絞りかつ調整弁22の開度を増大させるように、ECU50が調整弁22およびウエストゲートバルブ12を制御することができる。また、実施の形態2によれば、領域Bにおいてノッキングが検出された場合であってウエストゲートバルブ12が閉じているときには、調整弁22の開度を増大させるように、ECU50が調整弁22を制御することができる。しかも、実施の形態2によれば、ウエストゲートバルブ12の開閉状態に応じて、これらの2つの制御を選択的に実行することができる。
【0073】
また、実施の形態2によれば、また、ノッキング抑制不可時は、次の措置として、ウエストゲートバルブ12の開度を正規の開度に戻し、調整弁22の開度を更に拡大する。これにより燃焼室の空気量低減、空燃比の更なるリッチ化を行うことによって、ノッキングを回避する。
【0074】
しかも実施の形態2によれば、ECU50が、各運転領域に応じて適切な措置を選択的に実行することができる。
【0075】
なお、上述した実施の形態2では、上記(2−2)で述べた制御と、ウエストゲートバルブ開度状態に応じて上記の(2−3)と(2−4)の制御を切り換える制御と、ノッキング抑制状態において(2−3)のSt1をSt2に切り換えるという制御とを、実施の形態1にかかる内燃機関の制御装置上で実行することにした。しかしながら、これらの制御は必ずしも同時に用いられなくとも良く、いずれか1つのみを内燃機関の制御に用いても良い。また、各運転領域の定義の仕方も、実施の形態1で述べたのと同様に、図2と全く同一のものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0076】
1 内燃機関本体
2 エアクリーナ
3 空気計量部
4 コンプレッサ
5 インタークーラ
6 スロットルバルブ
7 サージタンク
8 エキゾーストマニホールド
9 タービン
10 燃料噴射弁
11 ターボチャージャー
12 ウエストゲートバルブ
13 空燃比センサ
14 スタート触媒
15 メイン触媒
21、22 調整弁
23、24、25 新気バイパス通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の吸気通路に設けられたコンプレッサおよび前記内燃機関の排気通路に設けられた排気タービンを備える過給機と、
前記排気タービンの下流に設けられた触媒と、
前記吸気通路における前記コンプレッサ下流と前記排気通路における前記排気タービン上流とを連通させる第1バイパス通路と、前記吸気通路における前記コンプレッサ下流と前記排気通路における前記触媒の下流とを連通させる第2バイパス通路とを含むバイパス系と、
前記バイパス系に設けられ、前記第1バイパス通路および前記第2バイパス通路の連通状態を変更可能な1つまたは複数の弁と、
を有する内燃機関を制御する制御装置であって、
所定の第1運転領域において前記第1バイパス通路を開放し前記第1運転領域に比して高い回転数域に定めた所定の第2運転領域において前記第2バイパス通路を開放するように前記弁を制御する制御手段を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記第1運転領域は、低回転数かつ高負荷の領域に定めた所定領域であって、
前記第2運転領域は、前記第1運転領域よりも高負荷側の領域である高負荷側領域と、前記第1運転領域に比して高回転数かつ軽負荷の領域である高回転軽負荷領域と、前記高負荷側領域と前記高回転軽負荷領域との間に定めた中回転数かつ中負荷の領域である中回転中負荷領域とを含むものであることを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記内燃機関の加速時に前記第1バイパス通路と前記第2バイパス通路の両方が閉鎖されるように前記弁を制御する加速時バイパス禁止手段を含むことを特徴とする請求項1または2記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関のノッキングを検出するためのノッキング検出手段と、
前記第1運転領域において前記ノッキング検出手段でノッキングが検出された場合に、前記第1バイパス通路を介して流れる空気量を増加する第1バイパス量増加手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項5】
前記内燃機関の前記過給器がウエストゲートバルブを有しており、
前記内燃機関のノッキングを検出するためのノッキング検出手段と、
前記第2運転領域において前記ノッキング検出手段でノッキングが検出された場合であって前記ウエストゲートバルブが開いているときに、当該ウエストゲートバルブの開度を小さくしかつ前記第2バイパス通路を介して流れる空気量を増加するウエストゲートバルブ開時バイパス量増加手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。
【請求項6】
前記ウエストゲートバルブ開時バイパス量増加手段が、前記ウエストゲートバルブを閉じ且つ前記第2バイパス通路を介して流れる空気量を増加する手段を含むことを特徴とする請求項5に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項7】
前記内燃機関の前記過給器がウエストゲートバルブを有しており、
前記第2運転領域において前記ノッキング検出手段でノッキングが検出された場合であって前記ウエストゲートバルブが閉じているときに、前記第2バイパス通路を介して流れる空気量を増加するウエストゲートバルブ閉時バイパス量増加手段と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項記載の内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−157922(P2011−157922A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22191(P2010−22191)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】