説明

内燃機関の制御装置

【課題】内燃機関の潤滑油貯留部に貯留されている潤滑油の希釈率を正確に認識し、それに応じた適正な制御動作が実行可能な内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】オイルパン内に貯留されているオイルの光透過率に基づいて燃料希釈率を計測し、この燃料希釈率の単位時間当たりの変化量を算出する。燃料希釈率の単位時間当たりの変化量が負の値である場合、オイルからの単位時間当たりの気化燃料量を算出すると共に、この気化燃料量から1sec当たりにおける吸気系への気化燃料導入量を算出し、この気化燃料導入量に基づいて燃料噴射弁からの燃料噴射量を減量補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に搭載される内燃機関の制御装置に係る。特に、本発明は、内燃機関の潤滑油貯留部に貯留されている潤滑油の希釈率(燃料の混入に伴う希釈率)に基づく内燃機関の制御の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記の特許文献1に開示されているように、気筒内に燃料を直接噴射する筒内直接噴射式内燃機関にあっては、特に冷間運転時、気筒内における燃料の霧化が促進され難い。そのため、インジェクタから噴射された燃料が気筒内壁面に比較的多量に付着してしまう可能性がある。
【0003】
通常、筒内直接噴射式内燃機関では、冷間運転時、燃料噴射時期を吸気行程中に設定し(吸気行程噴射を行い)、燃料噴射タイミングから点火タイミングまでの期間を極力長く確保して、気筒内での燃料の霧化を促進するようにしている。
【0004】
しかし、このような吸気行程噴射を行うようにしても、気筒内壁面への燃料付着を完全に解消することは困難であり、一部の燃料については、燃焼に供されることなく気筒内壁面に付着したまま残留することになる。
【0005】
このように気筒内壁面に付着した燃料は、気筒内壁面に付着しているオイル(エンジンオイル)と混合されることになるため、燃料によるオイルの希釈、いわゆるオイル希釈が発生する。
【0006】
このように燃料により希釈された気筒内のオイルは、ピストンの上下運動に伴いピストンリングによって掻き落とされてオイルパンに戻され、このオイルパン内のオイルが、燃料によって希釈されることになる。
【0007】
上述したようなオイル希釈が頻繁に発生すると、オイルパン内に貯留されているオイル全体に混入する燃料の割合が徐々に増大していく。その結果、オイルの粘度が低下するなどして潤滑性能の低下に繋がるおそれがある。また、オイルパン内の油面上昇に伴い、クランクシャフトの回転に対する攪拌抵抗が増加してしまう可能性もある。ちなみに、短時間の冷間運転を繰り返す、いわゆる冷間ショートトリップが繰り返される状況では、上記オイル希釈が進行しやすくなる。
【0008】
オイル希釈の進行に応じて、燃料噴射量を調整したり、オイル交換時期をドライバに警告する技術として、下記の特許文献2が提案されている。この特許文献2には、エンジン回転数、冷却水温度、オイル温度等に基づいてオイル中における燃料の濃度(以下、燃料希釈率と呼ぶ)を推定し、この推定値に基づいて、燃料噴射量を調整したり(この特許文献2ではディーゼルエンジンにおいて燃料希釈率に応じて後噴射の噴射量を減量補正している)、オイル交換時期をドライバに警告することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−197591号公報
【特許文献2】特開2006−9597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところが、上記特許文献2の技術は、上述した如く、エンジン回転数、冷却水温度、オイル温度等に基づいて燃料希釈率を推定するものであるため、高い精度で燃料希釈率を認識することが困難である。つまり、推定した燃料希釈率が実際の燃料希釈率に対して大きな値として求められたり、逆に、小さな値として求められたりするといった比較的大きな誤差を招く可能性が高い。
【0011】
そして、エンジン始動後、所定時間を経過してエンジン各部の温度が上昇した場合には、それに伴って、オイルパン内のオイルに混入していた燃料は徐々に気化されることになるが、この燃料の気化量を、上記エンジン回転数等による燃料希釈率推定動作から正確に認識することも難しいのが現状である。
【0012】
上記オイルパン内で発生した気化燃料はブローバイガスと共にエンジンの吸気系に導入されることになるが、上述した如く認識された気化燃料量に誤差が生じている場合、この吸気系に導入される燃料量を正確に認識することができなくなる。
【0013】
その結果、例えば、認識された気化燃料量が実際の気化燃料量よりも少ない場合には、インジェクタからの燃料噴射量が必要以上に多くなって燃料消費率の悪化を招いたり、気筒内への燃料供給量(インジェクタからの燃料噴射量と上記オイルパン内で気化して吸気系に導入される燃料量との総量)が過剰になって、排気エミッションの悪化やドライバビリティの悪化を招いてしまう可能性がある。
【0014】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、内燃機関の潤滑油貯留部に貯留されている潤滑油の希釈率を正確に認識し、それに応じた適正な内燃機関の制御が可能な内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
−課題の解決原理−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、内燃機関の潤滑油貯留部に貯留されている潤滑油の希釈率の変化量を認識することで、この潤滑油貯留部において気化される、つまり吸気系に導入される燃料量を正確に認識し、その気化燃料量に応じて燃料噴射弁からの燃料噴射量を減量補正する。これにより、燃料噴射弁からの燃料噴射量及び気筒内に供給される燃料量を適正に保ち、燃料消費率や排気エミッション等の改善を図るようにしている。
【0016】
−解決手段−
具体的に、本発明は、内燃機関に備えられた燃料噴射弁から燃焼室に向けて噴射される燃料の噴射量を制御する内燃機関の制御装置を前提とする。この内燃機関の制御装置に対し、希釈率計測手段、希釈率変化算出手段、燃料噴射量補正手段を備えさせている。希釈率計測手段は、上記内燃機関の潤滑油貯留部に貯留されている潤滑油に対する燃料による希釈率を計測する。希釈率変化算出手段は、希釈率計測手段によって計測された希釈率の単位時間当たりの変化量を算出する。燃料噴射量補正手段は、希釈率変化算出手段によって算出された上記希釈率の単位時間当たりの変化量に基づいて上記燃料噴射弁からの燃料噴射量を補正する。
【0017】
この特定事項により、先ず、内燃機関の潤滑油貯留部に貯留されている潤滑油に燃料が混入されている状況で、希釈率計測手段は、この混入されている燃料による潤滑油の希釈率を計測する。例えば、光学的な手段(希釈率に応じて光の透過率が変化する原理を利用した手段等)によって潤滑油の希釈率を計測する。このような希釈率の計測動作を所定時間間隔で行っていき、単位時間当たりの希釈率の変化量を希釈率変化算出手段によって算出する。そして、この算出した単位時間当たりの希釈率の変化量に基づき、燃料噴射弁からの燃料噴射量を燃料噴射量補正手段によって補正する。具体的には、希釈率の変化量として、希釈率が減少していく場合、潤滑油貯留部に貯留されている潤滑油から気化される燃料量が多くなっており、内燃機関の吸気系に導入される気化燃料の量が多くなることに対応して燃料噴射量に対する減量補正量を多くする。つまり、燃料噴射弁からの燃料噴射量を少なく設定する。これにより、潤滑油貯留部から吸気系に導入される気化燃料の量に応じた適切な燃料噴射量が得られ、燃料消費率、排気エミッション、ドライバビリティの改善を図ることができる。
【0018】
上記希釈率計測手段の構成として具体的には、上記潤滑油貯留部に貯留されている潤滑油に対して所定周波数の光を投光する投光素子と、この投光素子から投光されて潤滑油を透過した光を受光する受光素子とを備えさせる。そして、上記投光素子から投光された光の光量と受光素子に受光された光の光量との差に基づいて潤滑油の希釈率を計測する構成としている。
【0019】
このような構成によって潤滑油の希釈率を計測する場合、エンジン回転数、冷却水温度、オイル温度等に基づいて希釈率を推定するといった従来技術のものに比べて、高い精度で希釈率を計測することが可能になる。その結果、上述した燃料噴射量に対する減量補正量も適正に設定することができて、燃料消費率、排気エミッション、ドライバビリティの改善を図ることが可能な適切な空燃比(例えば理論空燃比)の混合気を気筒内に供給することが可能になる。
【0020】
上記燃料噴射量の減量補正量を求めるための具体的な手段としては以下のものが挙げられる。先ず、上記希釈率変化算出手段によって算出された上記希釈率の単位時間当たりの変化量に基づき希釈率が低下していると判定された場合に、潤滑油貯留部に貯留されている潤滑油からの単位時間当たりの気化燃料量を算出する気化燃料量算出手段を備えさせる。そして、この気化燃料量算出手段によって算出された気化燃料量が多いほど、燃料噴射弁からの燃料噴射量に対する減量補正量を多く設定するよう上記燃料噴射量補正手段が構成されている。
【0021】
つまり、上記潤滑油貯留部内での気化燃料量が多い場合、潤滑油貯留部から吸気系に導入される気化燃料の量も多くなるので、それに応じて減量補正量を多く設定することで燃料噴射弁からの燃料噴射量を削減するようにしている。これにより、燃料噴射弁からの燃料噴射量を必要最小限に抑制できて燃料消費量を削減できる。
【0022】
また、潤滑油の交換が必要となる程度まで上記希釈率が上昇した場合に対応する動作を行うための構成として以下のものが挙げられる。つまり、上記希釈率計測手段によって計測された潤滑油の希釈率が所定の潤滑油交換希釈率に達した場合に、潤滑油の交換を促すための警告を発する報知手段を設けるものである。
【0023】
これにより、潤滑油交換時期の適正化が図れ、希釈率の高い潤滑油が継続的に使用されてしまうといった状況が回避される。つまり、潤滑性能の低下した潤滑油が継続使用されることで内燃機関の寿命が短縮化してしまうといった状況を回避でき、内燃機関の長寿命化を図ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、内燃機関の潤滑油貯留部に貯留されている潤滑油の希釈率の変化量を認識し、それに基づいて燃料噴射弁からの燃料噴射量を制御している。これにより、燃料噴射弁からの燃料噴射量及び気筒内に供給される燃料量を適正に保ち、燃料消費率や排気エミッション等の改善を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態に係るエンジンの概略構成を示す図である。
【図2】エンジンECU等の制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】光学式オイル診断装置の概略構成を示す図である。
【図4】燃料希釈率の算出に用いる第1定数データであって、燃料希釈率と第3波長光での透過率差との相関関係を示す図である。
【図5】燃料希釈率の算出に用いる第2定数データであって、燃料希釈の無いオイルの劣化度と第3波長光による透過率との相関関係を示す図である。
【図6】オイルの劣化度(不溶解分濃度)が0%、10%、20%の場合についての各波長域における透過率を示す図である。
【図7】新オイル100%および燃料(ガソリン)100%についての各波長域における透過率を示す図である。
【図8】新オイル中の燃料(ガソリン)希釈率を10%、20%にした場合の各波長域における透過率を示す図である。
【図9】光学式オイル診断装置による燃料希釈率の計測手順を示すフローチャート図である。
【図10】オイル劣化度を計測するための比較基準データであり、第1、第2波長光によるオイル劣化算出値とオイル中の不溶解分濃度との相関関係を予めデータ化した図である。
【図11】燃料噴射量補正制御の手順を示すフローチャート図である。
【図12】エンジンの冷間時から温間時に亘る燃料希釈率の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、自動車用エンジンに本発明を適用した場合について説明する。
【0027】
−エンジンの概略構成−
図1は、本実施形態に係るエンジン(内燃機関)1の概略構成を示している。この図1に示すように本実施形態に係るエンジン1は筒内直接噴射式のガソリンエンジンにより構成されている。
【0028】
エンジン1のシリンダブロック2に一列(図1の紙面に直交する方向)に設けられる各気筒2a内には、ピストン3が上下方向に往復移動可能に収容されている。
【0029】
ピストン3の往復運動は、コネクティングロッド4を介してクランクシャフト5の回転運動に変換される。このピストン3の頂面3aと気筒2aの内周面とシリンダヘッド6とにより燃焼室7が区画形成されている。
【0030】
燃焼室7には、シリンダヘッド6に取り付けられた燃料噴射弁10から燃料が直接噴射供給されるようになっている。また、燃焼室7には、シリンダヘッド6の吸気ポート6aおよび排気ポート6bがそれぞれ接続されている。吸気ポート6aに接続される吸気通路8の途中には、スロットルバルブ11が設けられており、このスロットルバルブ11により燃焼室7に導入される吸入空気量が調量される。
【0031】
吸気バルブ12の開弁時に燃焼室7に導入された吸入空気は、燃料噴射弁10から噴射される燃料と混合されて混合気となる。この混合気は、点火プラグ14の点火によって爆発燃焼した後、排気バルブ13の開弁時に燃焼室7から排気ポート6bに排出される。
【0032】
また、燃料噴射弁10には、デリバリパイプ15が接続されており、このデリバリパイプ15から燃料が所定の圧力をもって供給される。
【0033】
このデリバリパイプ15には、燃料タンク16から燃料ポンプ17により吸い上げられた燃料が供給される。なお、デリバリパイプ15内の燃料圧力、つまり燃料噴射弁10の燃料噴射圧力は、例えば燃料ポンプ17の吐出量を適宜変更することにより調節が可能である。
【0034】
このエンジン1では、ピストン3と気筒2aとの摺接部分、コネクティングロッド4やクランクシャフト5の軸受部分などにオイル(エンジンオイル:潤滑油)を供給することにより、摺動、転動部分のフリクションの低減やエンジン1各部の温度調節(冷却や加温)が行われるようになっている。
【0035】
ここで、エンジン1の潤滑系の概要について説明する。要するに、シリンダブロック2にクランクケース(図示省略)を介して取り付けられる潤滑油貯留部としてのオイルパン9内のオイルをオイルポンプ20で取り出して、図示していないが、例えばメインオイルホールまたはメインギャラリーと呼ばれるシリンダブロック側給油路を介してシリンダブロック2内の被潤滑部位やクランクジャーナル等に供給するとともに、シリンダヘッド側給油路を介してシリンダヘッド6内の被潤滑部位に供給するように構成されている。
【0036】
オイルパン9内のオイルは、図示省略のフィルタを介してオイルポンプ20により吸引される。このオイルポンプ20のオイル吐出側には、オイルパン9にオイルを戻すためのバイパス通路21が設けられており、このバイパス通路21には、必要に応じて開閉されるリリーフバルブ22が設けられている。
【0037】
シリンダブロック2には、オイルジェットノズル23が設けられている。このオイルジェットノズル23には、チェックバルブ(図示省略)が装備されている。このようなオイルジェットノズル23の場合、例えば所定圧以上の油圧が供給されているときには、上記チェックバルブが開弁してオイルをピストン3の内面や気筒2aの内周面にジェット噴射する。一方、供給されている油圧が所定圧未満であるときには、上記チェックバルブが閉弁したままとなり、オイルを噴射しないようになっている。
【0038】
上記した気筒2aとピストン3との摺接部分等を潤滑、冷却したオイルは、ピストン3の往復運動に伴い、図示しないピストンリングによって気筒2aの内周面から掻き落とされて、最終的にオイルパン9に戻される。
【0039】
このオイルパン9内に集められたオイルは、再度、上記潤滑や温調に利用されるために、上述したオイル循環経路に循環される。このようなオイルの循環によって、オイルがエンジン1の各部の熱により徐々に温度上昇されていく。
【0040】
ところで、シリンダブロック2及びシリンダヘッド6には、クランクケース内に存在するブローバイガスをシリンダヘッド6に導くためのブローバイガス連絡通路25が設けられている。また、シリンダヘッド6には、ブローバイガスを吸気通路8に導くためのブローバイガス還流通路26が設けられている。このブローバイガス還流通路26には、ブローバイガスの逆流防止及び流量調整のためのPCVバルブ27が設けられている。
【0041】
このように構成されたエンジン1は、本発明に係る制御装置としてのエンジンECU(Electronic Control Unit)40により制御される。
【0042】
このエンジンECU40は、エンジン1における種々の制御(空燃比制御や燃料噴射制御等)を統括して実行するもので、図2に示すように、一般的なECUと同様の構成であって、中央処理装置(CPU)41、プログラムメモリ(ROM)42、データメモリ(RAM)43、ならびに不揮発性メモリ(バックアップRAM)44等を含んだ構成である。
【0043】
上記ROM42は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU41は、ROM42に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて各種の演算処理を実行する。また、RAM43は、CPU41での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM44は、例えばエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0044】
このエンジンECU40は、適宜のセンサからの入力情報に基づいて、必要な要素を制御することにより、エンジン1の各種動作を管理する。
【0045】
エンジンECU40の入力インターフェース45には、例えば水温センサ51、吸入空気量センサ52、スロットル開度センサ53、クランクポジションセンサ(機関回転速度センサ)54、酸素センサ55(図2のみ記載)等が接続されている。
【0046】
上記水温センサ51は、シリンダブロック2に形成されているウォータジャケット内を流れる冷却水の温度を検出する。吸入空気量センサ52は、エンジン1の吸気ポート6aに接続される吸気通路8においてスロットルバルブ11の上流側に設けられ、吸入空気量を検出する。スロットル開度センサ53は、スロットルバルブ11の開度を検出する。クランクポジションセンサ54は、クランクシャフト5の近傍に配設されており、クランクシャフト5の回転角(クランク角CA)および回転速度(エンジン回転数Ne)を検出するものである。具体的に、このクランクポジションセンサ54は、所定のクランク角(例えば30°)毎にパルス信号を出力するようになっている。
【0047】
酸素センサ55は、エンジン1の排気ポート6bに接続される排気通路(図示省略)において触媒装置(図示省略)の上流側に設けられ、排気中の酸素濃度を検知するものであり、排気中の空燃比が理論空燃比にあるか否かの判定に利用される。
【0048】
エンジンECU40の出力インターフェース46には、例えば燃料噴射弁10、燃料ポンプ17、上記スロットルバルブ11を駆動するためのスロットルモータ18(図2のみ記載)、点火プラグ14の点火動作を行わせるためのイグナイタ19(図2のみ記載)、オイルポンプ20、ならびにリリーフバルブ22等が接続されている。
【0049】
図2において上記各インターフェース45,46に接続している各要素は、本発明の特徴に関連するもののみとし、本発明の特徴に直接的に関連しない要素についての記載や説明は割愛している。
【0050】
次に、上述したエンジン1の運転制御の一例について説明する。
【0051】
例えば、低中負荷運転時にあっては、空燃比(A/F)が理論空燃比(例えば「A/F=14.5」)になるように燃料噴射量等が制御される。
【0052】
また、高負荷運転時には、空燃比(A/F)が例えば出力空燃比近傍(例えば「A/F=12」)になるように燃料噴射量等が制御される。
【0053】
これらの運転時には、実空燃比と目標空燃比との乖離傾向に基づき求められる燃料噴射量のフィードバック制御、つまり空燃比フィードバック制御が行われるようになっている。
【0054】
しかも、この空燃比フィードバック制御において、燃料噴射量の減量側補正量が異常判定閾値未満である場合に、燃料噴射系(燃料噴射弁10等)が正常であると診断する一方、燃料噴射量の減量側補正量が異常判定閾値以上である場合に、燃料噴射系(燃料噴射弁10等)が異常であると診断したうえで、この異常を報知するようにしている。
【0055】
この異常報知の形態としては、例えば燃料噴射系が異常であることを表すMIL(Malfunction Indicator Lamp)を点灯させるようにすることができるが、それ以外の形態とすることも可能である。
【0056】
−燃料希釈率計測−
次に、上記オイルパン9に貯留されているエンジンオイルの希釈率(燃料希釈率)を計測するための構成及び燃料希釈率の計測動作について説明する。
【0057】
従来から公知のように、エンジン1の運転中には、燃料の一部が気筒2aの内壁面に付着し、ピストン3と気筒2aの内壁面との隙間から漏れ出してオイルパン9内のオイルを希釈する現象が発生する。また、オイル温度の上昇に伴いオイル中に混入している燃料(HC成分)が、オイルから蒸発し、上記ブローバイガス連絡通路25、PCVバルブ27、ブローバイガス還流通路26を経て吸気系に吸入される。なお、エンジン1の温度上昇(燃焼室温度の上昇等)に伴い、オイルが燃料で希釈される現象が発生し難くなるとともに、オイル温度の上昇に伴い、オイル中に混入している燃料が蒸発されやすくなるために、運転の経過に伴い燃料希釈率が変化(燃料希釈率が低下)する。
【0058】
本実施形態に係るエンジン1には、オイルパン9に貯留されているエンジンオイルの希釈率を計測するための光学式オイル診断装置60を装備している。本実施形態に係る光学式オイル診断装置60にあっては、エンジンオイルの希釈率の他にエンジンオイルの劣化度についても計測できるようにしている。尚、光学式オイル診断装置60としては、エンジンオイルの希釈率のみを計測する構成としてもよい。
【0059】
光学式オイル診断装置60は、図3に示すように、情報収集部61と、情報処理部62と、報知部63とを含んで構成されている。
【0060】
情報収集部61は、エンジン1のオイルの性状を計測するために必要な情報を取り込むもので、第1〜第3投受光部64,65,66を備えている。
【0061】
第1投受光部64は、第1投光素子64aと第1受光素子64bとを組み合わせた構成である。また、第2投受光部65は、第2投光素子65aと第2受光素子65bとを組み合わせた構成である。さらに、第3投受光部66は、第3投光素子66aと第3受光素子66bとを組み合わせた構成である。第1〜第3投光素子64a,65a,66aは、例えば発光ダイオード(LED)や半導体レーザ(LD)等とされ、また、第1〜第3受光素子64b,65b,66bは、例えばフォトダイオード(PD)等とされる。
【0062】
第1〜第3投光素子64a,65a,66aは、互いに異なる波長の光を発するものである。第1〜第3受光素子64b,65b,66bは、受けた光の強度(光量)に応じた電気信号を情報処理部62へ出力する。
【0063】
そして、情報収集部61は、例えば図1に示すように、エンジン1のオイルパン9の下部に、オイルパン9内のオイル中に浸漬される状態で取り付けられている。詳細に図示していないが、第1〜第3投光素子64a,65a,66aと、第1〜第3受光素子64b,65b,66bとの間には、オイルパン9内のオイルが存在するような対向空間が設けられており、そのため、オイルパン9内に情報収集部61を取り付けた状態では、第1〜第3投光素子64a,65a,66aから発せられる第1〜第3波長光λ1〜λ3がオイルパン9内のオイル中を透過し、この透過した光が第1〜第3受光素子64b,65b,66bで受光される。
【0064】
情報処理部62は、情報収集部61の第1、第2投受光部64,65で取り込んだ情報に基づいてオイルの劣化度を計測するとともに、第3投受光部66で取り込んだ情報に基づいてオイルの燃料希釈率を計測する。
【0065】
この実施形態では、情報処理部62により行う処理をエンジンECU40で行うように構成されている。つまり、この実施形態では、エンジンECU40に、上記情報処理部62としての機能を実現するための手段が組み込まれている。
【0066】
この情報処理部62により行う処理では、比較基準となる定数データを必要とする。この定数データとしては、例えば第1定数データΔαIλ3と、第2定数データIλ3mapとがある。この定数データは、予めエンジンECU40のROM42等に記憶される。
【0067】
第1定数データΔαIλ3は、図4に示すように、オイル中の燃料希釈率と第3波長光λ3に関する透過率差(ガソリン100%に対する第3波長光λ3の透過率からオイル100%に対する第3波長光λ3の透過率を除算した値)との相関関係を、予め実験等により調べてデータ化したものである。
【0068】
第2定数データIλ3mapは、図5に示すように、燃料希釈の無いオイルの劣化度と第3波長光λ3による透過率との相関関係を、予め実験等により調べてデータ化したものである。
【0069】
報知部63は、運転者にオイル交換を促すための報知動作を行うものであり、例えば情報処理部62により計測したオイル劣化度および燃料希釈率の少なくともいずれか一方が所定の限界値を超えた場合に作動される。
【0070】
この報知部63は、例えばLED等のランプ、文字や記号を表示するディスプレイ、あるいは警報音を発する機器等とされ、例えば車室内の運転席近傍等、視認性の良い場所や、エンジンルーム内等の適宜の場所に設置される。
【0071】
ところで、第1投光素子64aは、660nm〜680nmの範囲で定められる第1波長光λ1(可視光)を発光するものとされる。第2投光素子65aは、880nm〜900nmの範囲で定められる第2波長光λ2(近赤外光)を発光するものとされる。第3投光素子66aは、2370nm〜2400nmの範囲あるいは2500nm〜2540nmの範囲で定められる第3波長光λ3(近赤外光)を発光するものとされる。
【0072】
このような波長光を選定した理由について、図6〜図8を参照して説明する。
【0073】
まず、図6は、オイルの劣化度(不溶解分濃度)と光の波長における単位長さ当たりの透過率との相関関係を示している。図における透過率スペクトルは、新オイル100%を実線で、また、新オイル中の不溶解分を2wt%としたものを一点鎖線、4wt%としたものを点線でそれぞれ示している。
【0074】
この図6に示すように、オイル中の不溶解分濃度が多くなる程、つまりオイルの劣化が進む程、透過率が低下することがわかる。しかも、可視光となる波長範囲660nm〜680nmの場合、近赤外光となる波長範囲880nm〜900nmの場合に比べて、透過率の低下度合いが大きいことがわかる。そもそも、オイルに対する近赤外光の透過率が低下する原因は、Mie散乱であると考えられており、また、オイルに対する可視光の透過率が低下する原因は、Mie散乱に加えて、着色性成分(不溶解分)による光の吸収と考えられている。
【0075】
これらのことからすると、上記の2種類の波長光での透過率の差に基づいて、オイル中の着色性成分(不溶解分)を検出することが可能である。したがって、上記2種類の波長光は、オイル劣化度を計測する際の情報収集に用いるうえで適していると考えられる。
【0076】
また、図7および図8は、オイルの燃料希釈率と各波長域(2000nm以上の波長域)における透過率との相関関係を示している。図7における透過率スペクトルは、燃料(ガソリン)100%を実線、新オイル100%を点線でそれぞれ示している。また、図8における透過率スペクトルは、新オイル中の燃料(ガソリン)希釈率を10%としたものを点線、20%としたものを実線でそれぞれ示している。
【0077】
図7に示すように、燃料(ガソリン)100%に関する透過率スペクトルと新オイル100%に関する透過率スペクトルとにおいて、2370nm〜2400nmの範囲と2500nm〜2540nmの範囲とにおいて、新オイル100%での透過率と燃料100%での透過率との差が大きくなる。しかも、2370nm〜2400nmの範囲と2500nm〜2540nmの範囲は、上記した図6に示しているように、オイル中の不溶解分濃度が多くなる程、つまりオイルが劣化する程、透過率が低下する。これらのことから、上記範囲の波長光は、燃料希釈率を計測する際の情報収集に用いるうえで適していると考えられる。
【0078】
ちなみに、図7および図8を整理することにより、図4に示すような相関図が得られる。この図4において、実線は第3波長光λ3を2400nmとした場合を示しており、また、点線は第3波長光λ3を2500nmとした場合を示している。この図4に示しているように、透過率差の増加に比例して燃料希釈率が増加する関係であり、波長ごとに所定の傾きがある。
【0079】
次に、図9に示すフローチャートを参照して、上記した光学式オイル診断装置60の診断手順(燃料希釈率の計測手順)について説明する。
【0080】
まず、ステップST1では、オイルの性状を計測するために必要な情報を収集する。ここでは、情報収集部61の第1〜第3投受光部64〜66を用いる。詳しくは、第1〜第3投光素子64a,65a,66aにより出射されてオイル中を透過した第1〜第3波長光λ1,λ2,λ3が第1〜第3受光素子64b,65b,66bで受光されると、これら第1〜第3受光素子64b,65b,66bが受光した光の強度に応じた電気信号を出力する。情報処理部62は、第1〜第3受光素子64b,65b,66bからの各出力信号に基づいて、光が透過して吸収される単位長さ当たりの透過吸光度(光透過損失)をそれぞれ算出し、オイルに対する第1〜第3波長光λ1,λ2,λ3の透過率Iλ1,Iλ2,Iλ3を求める。
【0081】
ステップST2では、第1、第2投受光部64,65により収集した情報、つまり第1、第2波長光λ1,λ2の各透過率Iλ1,Iλ2に基づいてオイル劣化度を計測する。
【0082】
ここでは、上記ステップST1で測定した第1、第2透過率Iλ1,Iλ2に基づいて、−Ln(Iλ1/Iλ2)を算出し、この算出結果を、図10に示す比較基準データに照合することにより、オイル中の不溶解分濃度、つまりオイル劣化度を求めるのである。図10の比較基準データは、次のような計算式(1)により求められる。
【0083】
C=α×〔−Ln(Iλ1/Iλ2)〕 …(1)
なお、上記の計算式(1)において、Cはスラッジプリカーサ濃度(オイル中の不溶解分濃度)、αは定数である。つまり、第1波長光λ1の透過率Iλ1と第2波長光λ2の透過率Iλ2との比の対数の変化がオイルの劣化度を示す尺度となるパラメータと相関を有するため、第1波長光λ1の透過率Iλ1と第2波長光λ2の透過率Iλ2との比の対数を算出することで、オイルの劣化度を診断できる。
【0084】
ステップST3では、上記ROM42の必要領域に予め記憶してある第1定数データΔαIλ3(図4参照)において上記ステップST1で算出した透過率Iλ3に対応する定数値を読み出すとともに、第2定数データIλ3map(図5参照)において上記ステップST1で算出した透過率Iλ3に対応する定数値を読み出す。
【0085】
ステップST4では、上記ステップST1で算出した第3波長光λ3の透過率Iλ3と、上記ステップST3で読み出した第2定数データIλ3mapにおいて上記ステップST1で算出した透過率Iλ3に対応する定数値との差分ΔIλ3を算出する。
【0086】
ステップST5では、オイル中の燃料希釈率を求める。ここでは、上記ステップST4で算出した差分値ΔIλ3を、上記ステップST3で読み出した第1定数データΔαIλ3において上記ステップST1で算出した透過率Iλ3に対応する定数値で除算する。これにより、燃料希釈率が算出される(希釈率計測手段による希釈率の計測動作)。
【0087】
ところで、上記のように算出したオイル劣化度および燃料希釈率は、バックアップRAM44等のように車両に搭載されるバッテリでバックアップされるメモリに記憶保存するようにできる。
【0088】
このように本実施形態では、オイル中に2種の波長光を透過させることで収集した情報に基づいてオイル劣化度を計測するとともに、エンジン1のオイル中に1種の波長光を透過させることで収集した情報と予め作成してある定数データとに基づいてオイル中の燃料希釈率を計測するようにしている。これにより、比較的簡易な構成でありながら、オイルの劣化度ならびに燃料希釈率を正確に計測することが可能となっている。
【0089】
−燃料噴射量補正制御−
次に、本実施形態において特徴とする制御動作である燃料噴射量補正制御について説明する。この燃料噴射量補正制御は、上述した燃料希釈率の計測動作によって得られた燃料希釈率の単位時間当たりの変化量を算出し、その算出値に基づいて、オイルパン9内においてオイルから気化した燃料量を求める。そして、このようにして求められた気化燃料量に基づいて燃料噴射弁10から噴射される燃料噴射量を減量補正するものである。つまり、上記吸入空気量センサ52により検知される吸入空気量や上記クランクポジションセンサ54により検知されるエンジン回転数等により決定される「基本噴射量」に対して、水温センサ51により検知される冷却水温度等に応じて決定される「補正噴射量」だけ補正された燃料噴射量に対し、更に、上記気化燃料量分だけ、燃料噴射量を減量補正することで、適正な燃料噴射量で燃料噴射弁10からの燃料噴射が行えるようにしている。
【0090】
以下、図11に示すフローチャートに沿って燃料噴射量補正制御の手順について説明する。この図11に示すルーチンはエンジン始動後、後述する所定時間Δt毎(例えば、数sec毎)に実行される。
【0091】
先ず、ステップST11において、燃料希釈率Dを計測する。この燃料希釈率Dの計測動作は、上記図9のフローチャートを用いて説明した燃料希釈率計測動作によって行われる。
【0092】
燃料希釈率Dの計測が行われた後、ステップST12に移り、今回計測された燃料希釈率Dの値が、オイル交換を必要とする希釈率限界値DMaxに達しているか否かを判定する。この希釈率限界値DMaxとしては、オイルの潤滑性能が十分に得られない程度までオイルの粘度が低下する場合の希釈率として設定され、例えば燃料希釈率25%等の値が採用される。この値はこれに限定されるものではなく、任意に設定可能である。
【0093】
そして、今回計測された燃料希釈率Dの値が上記希釈率限界値DMaxに達しており、ステップST12でYES判定された場合には、ステップST13に移り、上記報知部63を作動させる。例えば、車室内の運転席近傍に配設されたオイル交換警告灯を点灯させる。この場合、オイルパン9内での気化燃料量に応じた燃料噴射量の補正動作を実行することなく、上記報知部63を作動させることになる。
【0094】
図12は、エンジン1の冷間時から温間時に亘る燃料希釈率の変化の例を示す図である。上記ステップST12でNO判定される状況としては、図12に破線で示す燃料希釈率の変化の如く、エンジン1の冷間時における単位時間当たりの燃料希釈率の増加量が大きく、エンジン1が温間に達するまでに燃料希釈率Dの値が希釈率限界値DMax(図中に一点鎖線で示すオイル交換閾値)に達した場合である。例えば、短時間の冷間運転を繰り返す、いわゆる冷間ショートトリップが繰り返される状況では、このように単位時間当たりの燃料希釈率の増加量が大きくなり、エンジン1が温間に達するまでに燃料希釈率Dの値が希釈率限界値DMaxに達してしまうことになる。
【0095】
一方、今回計測された燃料希釈率Dの値が上記希釈率限界値DMaxに達しておらず、ステップST12でNO判定された場合には、ステップST14に移り、希釈率の差分を算出する。つまり、前回のルーチンで計測されていた燃料希釈率に対する今回のルーチンで計測された燃料希釈率の変化分を求める(希釈率変化算出手段による希釈率の単位時間当たりの変化量の算出動作)。この算出には以下の希釈率差分演算式(2)が使用される。
【0096】
ΔD(t)=D(t)−D(t−Δt) …(2)
ここで、ΔD(t)は希釈率の差分、D(t)は今回ルーチンにおける燃料希釈率(ステップST11で計測された燃料希釈率)、D(t−Δt)は前回ルーチンにおける燃料希釈率である。
【0097】
この希釈率差分演算式(2)によれば、前回のルーチンでの燃料希釈率に対して今回のルーチンでの燃料希釈率が大きい場合、つまり、オイルからの気化燃料量よりもオイル内に混入される燃料量が多い場合には、算出値は正の値となる。一方、前回のルーチンでの燃料希釈率に対して今回のルーチンでの燃料希釈率が小さい場合、つまり、オイル内に混入される燃料量よりもオイルからの気化燃料量が多い場合には、算出値は負の値となる。
【0098】
例えば、図12に実線で示すような燃料希釈率の変化において、エンジン1の冷間時には燃料希釈率が増加傾向にある。つまり、上記希釈率差分演算式(2)の算出値としては正の値となる。一方、エンジン1が温間時になると燃料希釈率が減少傾向となる。つまり、上記希釈率差分演算式(2)の算出値としては負の値となる。特に、冷間から温間に切り換わった初期時にあっては、所定時間Δtにおける燃料希釈率の減少量ΔD(t)は大きく得られることになる。
【0099】
このようにして希釈率の差分ΔD(t)を算出した後、ステップST15に移り、この算出された希釈率の差分ΔD(t)が負の値であるか否かを判定する。つまり、オイル内に混入される燃料量よりもオイルからの気化燃料量が多い状況にあるか否かを判定する。
【0100】
この希釈率の差分ΔD(t)が「0」または正の値であり、ステップST15でNO判定された場合には、本ルーチンをそのまま終了する。つまり、気化燃料量が殆ど無いか又は少ない状況であるため、この気化燃料を考慮した燃料噴射量の減量補正は必要ないとして本ルーチンを終了する。
【0101】
一方、上記希釈率の差分ΔD(t)が負の値であり、ステップST15でYES判定された場合には、ステップST16に移る。以下のステップST16及びステップST17では、オイルパン9内での気化燃料の量を考慮した燃料噴射量の減量補正を行うための燃料噴射補正量を算出する動作が行われる。
【0102】
先ず、ステップST16では、上記所定時間Δt間における気化燃料量の算出が下記の気化燃料量算出式(3)によって行われる(気化燃料量算出手段による単位時間当たりの気化燃料量の算出動作)。
【0103】
w=ΔD(t)×Voil×d …(3)
ここで、wは所定時間Δt間における気化燃料量(g)、Voilはオイルパン9内のオイル量(L)、dは燃料の密度(g/L)である。
【0104】
このようにして所定時間Δt間における気化燃料量wが求められた後、ステップST17に移り、1sec当たりに吸気系に供給される気化燃料量を、下記の燃料噴射補正量算出式(4)によって算出する。
【0105】
q=(w/Δt×V)×Q …(4)
ここで、qは1sec当たりに吸気系に供給される気化燃料量(g/s)、Vはクランクケース内の容積(L)、Qはブローバイガスの流量(L/s)である。尚、このブローバイガスの流量はエンジン負荷等から推定される。例えばエンジン負荷とブローバイガスの流量との相関を予め実験やシミュレーション等によって求めてマップ化して上記ROM42等に記憶させておくことで、ブローバイガスの流量が求められるようにしておく。
【0106】
このようにして1sec当たりに吸気系に供給される気化燃料量qが求められた後、ステップST18に移り、この気化燃料量分に相当する燃料量を燃料噴射量の減量補正量とし、その補正信号を出力する。
【0107】
これにより、上記「基本噴射量」に対して冷却水温度等に応じて決定される「補正噴射量」だけ補正された燃料噴射量に対し、更に、上記減量補正量(気化燃料量分に相当)だけ、燃料噴射量を減量補正することで得られた燃料噴射量を目標燃料噴射量として燃料噴射弁10から気筒内に向けて燃料噴射が行われることになる(燃料噴射量補正手段による燃料噴射量の補正動作)。
【0108】
以上説明したように、本実施形態によれば、単位時間当たりの燃料希釈率の変化量に基づき、燃料噴射弁10からの燃料噴射量を減量補正するようにしている。つまり、燃料希釈率の変化量として、燃料希釈率が減少していく場合、オイルパン9に貯留されているオイルから気化される燃料量が多くなっており、エンジン1の吸気系に導入される気化燃料の量が多くなることに対応して燃料噴射量に対する減量補正量を多くするようにしている。これにより、オイルパン9から吸気系に導入される気化燃料の量に応じた適切な燃料噴射量が得られ、燃料消費率、排気エミッション、ドライバビリティの改善を図ることが可能になる。
【0109】
また、本実施形態では、光学的な手段(光学式オイル診断装置60)によって燃料希釈率を計測するようにしているため、エンジン回転数、冷却水温度、オイル温度等に基づいて燃料希釈率を推定するといった従来技術のものに比べて、高い精度で燃料希釈率を計測することが可能である。その結果、上述した燃料噴射量に対する減量補正量も適正に設定することが可能である。
【0110】
更に、本実施形態では、上記燃料希釈率Dの値が希釈率限界値(潤滑油交換希釈率)DMaxに達した場合には報知部63を作動させ、オイル交換を促すようにしている。そして、上述した如く、この燃料希釈率Dとしては高い精度で求められている。このため、オイル交換時期の適正化が図れ、燃料希釈率の高いオイルが継続的に使用されてしまうといった状況が回避される。つまり、潤滑性能の低下したオイルが継続使用されることでエンジン1の寿命が短縮化してしまうといった状況を回避でき、エンジン1の長寿命化を図ることができる。
【0111】
−他の実施形態−
以上説明した実施形態は、自動車用エンジン1に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、その他の内燃機関に対しても適用可能である。また、直列型エンジンに限らず、V型エンジンや水平対向型エンジン等に対しても適用可能である。また、気筒数等のエンジンの仕様は特に限定されるものではない。更には、ガソリンエンジンに限らず、ディーゼルエンジンや、ガソリンとエタノール等のアルコールとの混合燃料を用いるフレキシブルフューエルエンジンに対しても本発明は適用可能である。
【0112】
また、上記実施形態では、筒内直接噴射式エンジンに本発明を適用した場合について説明したが、燃料噴射弁が吸気ポートに配設されたポート噴射式エンジンに対しても本発明は適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、自動車用エンジンのオイルパンに貯留されているエンジンオイルの燃料希釈率を計測し、エンジンオイルからの燃料の気化量に応じて燃料噴射量を補正する燃料噴射制御に適用可能である。
【符号の説明】
【0114】
1 エンジン(内燃機関)
7 燃焼室
9 オイルパン(潤滑油貯留部)
10 燃料噴射弁
60 光学式オイル診断装置(燃料希釈率検知手段)
62 報知部(報知手段)
64a〜66a 投光素子
64b〜66b 受光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に備えられた燃料噴射弁から燃焼室に向けて噴射される燃料の噴射量を制御する内燃機関の制御装置において、
上記内燃機関の潤滑油貯留部に貯留されている潤滑油に対する燃料による希釈率を計測する希釈率計測手段と、
この希釈率計測手段によって計測された希釈率の単位時間当たりの変化量を算出する希釈率変化算出手段と、
この希釈率変化算出手段によって算出された上記希釈率の単位時間当たりの変化量に基づいて上記燃料噴射弁からの燃料噴射量を補正する燃料噴射量補正手段とを備えていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の内燃機関の制御装置において、
上記希釈率計測手段は、上記潤滑油貯留部に貯留されている潤滑油に対して所定周波数の光を投光する投光素子と、この投光素子から投光されて潤滑油を透過した光を受光する受光素子とを備えており、上記投光素子から投光された光の光量と受光素子に受光された光の光量との差に基づいて潤滑油の希釈率を計測するよう構成されていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の内燃機関の制御装置において、
上記希釈率変化算出手段によって算出された上記希釈率の単位時間当たりの変化量に基づき希釈率が低下していると判定された場合に、潤滑油貯留部に貯留されている潤滑油からの単位時間当たりの気化燃料量を算出する気化燃料量算出手段を備え、
上記燃料噴射量補正手段は、この気化燃料量算出手段によって算出された気化燃料量が多いほど、燃料噴射弁からの燃料噴射量に対する減量補正量を多く設定するよう構成されていることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項1〜3のうち何れか一つに記載の内燃機関の制御装置において、
上記希釈率計測手段によって計測された潤滑油の希釈率が所定の潤滑油交換希釈率に達した場合に、潤滑油の交換を促すための警告を発する報知手段が設けられていることを特徴とする内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−7084(P2011−7084A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−149740(P2009−149740)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】