説明

出力低減制御装置

【課題】左右駆動輪間のデファレンシャル装置が差動制限下にあるとき、左右スプリットμ路発進時等でも車両の直進性を維持可能とする。
【解決手段】自動車の左右駆動輪間に介設され左右駆動輪間の差動許容及び差動制限の切り替えが可能なデファレンシャル装置C1と、アクセル開度に応じてエンジンC3の出力を制御しこの出力の立ち上がり度合いを運転者の指示又は自動車の走行環境に応じて緩く切り替えるエンジン出力制御部C5と、リヤ・デファレンシャル装置1がデフ・ロック状態にあって車速が設定車速を下回りエンジン13の出力の立ち上がり度合いが緩くなるように切り替えられているときエンジン13の出力の立ち上がり限界を設定値内とするようにエンジンECU77へ指令して車輪駆動力を抑制するデフ・ロックECU51とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの出力を制御して路面状況によるデファレンシャル装置の差動を抑制する出力低減制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車輪間に介設され車輪間の差動許容及び差動制限の切り替えをデフ・ロックECUにより行わせるデファレンシャル装置を備え、加えてトラクション・コントロールECU等の他のECUを備えたものがある。この他のECUは、自動車の制御状態に応じてデフ・ロックECUとは別にデフ・ロックを解除する制御を行うことができる。
【0003】
かかる車両では、デフ・ロック時に左右駆動輪下の路面摩擦係数μが左右で異なっている路面状況(左右スプリットμ路)であると、急発進などによりエンジンの出力が急に立ち上がると高μ側の車輪駆動力が急激に高まるため、車両が低μ側に向いてしまい、発進時の直進性が損なわれるという問題があった。
【0004】
この場合、トラクション・コントロールなど他のECUの制御に頼らざるを得ないが、フィードバック制御であるため発進初期の横滑りを防止するレスポンスを得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−306273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、左右駆動輪間のデファレンシャル装置が差動制限下にあるとき、左右スプリットμ路発進時に車両の直進性が損なわれる点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、左右駆動輪間のデファレンシャル装置が差動制限下にあるとき、左右スプリットμ路発進時等でも車両の直進性を維持可能とするため、図1のように、自動車の左右駆動輪間に介設され左右駆動輪間の差動許容及び差動制限の切り替えが可能なデファレンシャル装置C1と、アクセル開度に応じてエンジンC3の出力を制御しこの出力の立ち上がり度合いを運転者の指示又は自動車の走行環境に応じて緩く切り替えるエンジン出力制御部C5と、前記デファレンシャル装置C1が差動制限状態にあって車速が設定車速を下回り前記エンジンC3の出力の立ち上がり度合いが緩くなるように切り替えられているとき前記エンジンC3の出力の立ち上がり限界を設定値内とするように前記エンジン出力制御部C5へ指令して車輪駆動力を抑制する出力低減要求制御部C7とを備えたことを主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、自動車の左右駆動輪間に介設され左右駆動輪間の差動許容及び差動制限の切り替えが可能なデファレンシャル装置C1と、アクセル開度に応じてエンジンC3の出力を制御しこの出力の立ち上がり度合いを運転者の指示又は自動車の走行環境に応じて緩く切り替えるエンジン出力制御部C5と、前記デファレンシャル装置C1が差動制限状態にあって車速が設定車速を下回り前記エンジンC3の出力の立ち上がり度合いが緩くなるように切り替えられているとき前記エンジンC3の出力の立ち上がり限界を設定値内とするように前記エンジン出力制御部C5へ指令して車輪駆動力を抑制する出力低減要求制御部C7とを備えた。
【0009】
このため、運転者の指示又は自動車の走行環境に応じてエンジン出力制御部C5によりアクセル開度に応じたエンジンC3の出力の立ち上がり度合いを緩く切り替えることができ、雪道等での走行を円滑に行わせることができる。
【0010】
そして、アクセル開度に応じたエンジンC3の出力の立ち上がり度合いが運転者の指示又は自動車の走行環境に応じて緩くなるように切り替えられていると、左右駆動輪が左右スプリットμ路上にあると推測できる。
【0011】
この推測に基づき、車両がデファレンシャル装置C1の差動制限下で急発進しようとするときでも、出力低減要求制御部C7がエンジン出力制御部C5へ指令することでエンジンC3の出力の立ち上がり限界を設定値内とするように制御することができる。
【0012】
こうして、差動制限下で左右スプリットμ路での急発進アクセル操作でも、相対的に高μ側となる駆動輪の駆動力が設定値を超えて高まることはなく、車両の直進性を維持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】出力低減制御装置のクレーム対応図である。(実施例1)
【図2】4輪駆動車の駆動系を示すスケルトン平面図である。(実施例1)
【図3】出力低減制御装置のブロック図である。(実施例1)
【図4】出力低減制御装置の制御フローチャートである。(実施例1)
【図5】出力低減制御装置を適用しない車両との比較における発進時の車両挙動等のタイムチャートである。(実施例1)
【図6】左右スプリットμ発進での車両挙動を示し、(a)は比較例に係る車両の挙動平面図、(b)は、実施例に係る車両の挙動平面図である。(実施例1)
【図7】左右スプリットμ発進での車両挙動を示し、(a)は比較例に係る車両の挙動平面図、(b)は、実施例に係る車両の挙動平面図である。(実施例1)
【図8】出力低減制御装置の制御フローチャートである。(実施例2)
【図9】出力低減制御装置の制御フローチャートである。(実施例3)
【発明を実施するための形態】
【0014】
左右駆動輪間のデファレンシャル装置が差動制限下にあるとき、左右スプリットμ路発進時でも車両の直進性を維持可能とするという目的を、図1のようにデファレンシャル装置C1が差動制限状態にあり検出された車速が設定車速を下回り前記エンジンC3の立ち上がり度合いが緩くなるように切り替えられているときエンジンC3の出力が設定値を上回るとこの出力を設定値内とする出力低減要求制御部C7により実現した。
【実施例1】
【0015】
[四輪駆動車・出力低減制御装置]
図2は本発明の実施例1に係る出力低減制御装置を適用した自動車である4輪駆動車の駆動系のスケルトン平面図、図3は、出力低減制御装置のブロック図である。
【0016】
図2のように、実施例1に係る4輪駆動車(自動車)は、左右駆動輪である後輪2,3間にリヤ・デファレンシャル装置1(デファレンシャル装置C1)を備え、同様に左右駆動輪である前輪5,7間にフロント・デファレンシャル装置9を備えている。
【0017】
前記リヤ・デファレンシャル装置1には、エンジン13(エンジンC3)からトランス・ミッション15,内部にセンター・デファレンシャル装置が配置されたトランスファ17,プロペラ・シャフト19,ドライブ・ピニオン・シャフト21,ドライブ・ピニオン・ギヤ23を順次介してトルクが入力されるようになっている。リヤ・デファレンシャル装置1からは左右のアクスル・シャフト25,27を介して前記左右の後輪2,3にトルクが伝達される。
【0018】
前記フロント・デファレンシャル装置9には、エンジン13からトランス・ミッション15,トランスファ17,プロペラ・シャフト29を順次介してトルクが入力されるようになっている。フロント・デファレンシャル装置9からは左右のアクスル・シャフト31,33を介して前記左右の前輪5,7にトルクが伝達される。
【0019】
以下、リヤ・デファレンシャル装置1を用いて本発明実施例の出力低減制御装置を説明するが、フロント・デファレンシャル装置9に本発明実施例の出力低減制御装置を適用することもできる。
【0020】
前記リヤ・デファレンシャル装置1は、デフ・キャリヤ34内に収容され、回転自在に支持されている。このリヤ・デファレンシャル装置1は、デフ・ケース35を備え、該デフ・ケース35のリングギヤ36は、前記ドライブ・ピニオン・ギヤ23に噛み合っている。
【0021】
前記デフ・ケース35内には、左右のサイド・ギヤ37,39が回転自在に支持されている。左右のサイド・ギヤ37,39は、前記アクスル・シャフト25,27側に連動連結されている。左右のサイド・ギヤ37,39には、ピニオン・ギヤ41が噛み合い、ピニオン・ギヤ41は、ピニオン・シャフト43によってデフ・ケース35に回転自在に支持されている。
【0022】
前記一方のサイド・ギヤ39の背面側には、移動部材45が配置されている。移動部材45は、デフ・ケース35に対し回転軸芯に沿った方向へ移動自在かつ回転方向に係合している。移動部材45と前記サイド・ギヤ39との対向面には、ドグ・クラッチ47が設けられている。前記移動部材45とサイド・ギヤ39との間には、図示しないリターン・スプリングが介設されている。
【0023】
前記移動部材45は、アクチュエータであるデフロック・ソレノイド49によって回転軸芯に沿った方向へ動作する。デフロック・ソレノイド49は、デフ・ロックECU51の出力信号により通電制御される。
【0024】
前記デフロック・ソレノイド49の通電制御により移動部材45がリターン・スプリングの付勢力に抗して軸方向へ移動すると、ドグ・クラッチ47が係合する。この係合によって、移動部材45を介し、サイド・ギヤ39のデフ・ケース35に対する相対回転がロックされる。従って、ピニオン・ギヤ41を介し、両サイド・ギヤ37,39間の差動回転もロックされ、リヤ・デファレンシャル装置1がデフ・ロックによる差動制限状態となる。
【0025】
したがって、リヤ・デファレンシャル装置1は、後輪2,3間の差動許容及び差動制限の切り替えが可能となっている。
【0026】
デフ・ロックECU51には、後輪2,3の回転数を検出する後輪車輪速センサ53,55及び前輪5,7の回転数を検出する前輪車輪速センサ57,59の検出信号が入力されるようになっている。
【0027】
図2、図3のように、デフ・ロックECU51には、各種センサ、例えば、ブレーキ・センサ61、アクセル開度センサ63、ステアリング操舵センサ65、ヨーレイト・センサ67、デフロック・ポジション・スイッチ69、エンジン・トルク・センサ71、前後Gセンサ72、横Gセンサ74、2輪駆動−4輪駆動切替スイッチ76(以下、2−4切替スイッチ76)等からの信号が入力されるようになっている。このデフ・ロックECU51には、各種操作信号、例えば、モード・スイッチ73、デフ・ロック・スイッチ75などの信号が入力されるようになっている。
【0028】
このデフ・ロックECU51には、エンジン出力制御部C5であるエンジンECU77及び車両挙動制御ECU79が接続されている。
【0029】
エンジンECU77は、アクセル開度に応じてエンジン13の出力を制御し、この出力の立ち上がり度合いを運転者の指示に応じて緩く切り替える。
【0030】
運転者の指示は、モード・スイッチ73により行い、例えばスノー・モードに切り替えてエンジン13の出力の立ち上がり度合いを緩くするように制御する。但し、スノー・モードに代え、通常モードと異なるより発進性を緩化させる他のモード、例えばエコノミー・モード等への切り替えを行わせ、エンジン13の出力の立ち上がり度合いを緩く制御することもできる。
【0031】
車両挙動制御ECU79は、例えばトラクション・コントロール・システムECU、アンチロック・ブレーキシステムECU、エレクトロニックス・スタビリティ・プログラムECU、ビークル・スタビリティ・コントロール・ECU、ビークル・ダイナミック・コントロールECUなどで構成されている。この車両挙動制御ECU79により、各種センサの出力信号によりブレーキ油圧制御、エンジン出力制御等を行い、車両の挙動を制御する。
【0032】
そして、前記リヤ・デファレンシャル装置1がデフ・ロック状態にあり検出された車速が設定車速を下回って例えば停車状態にあり、エンジン13の立ち上がり度合いが緩くなるように切り替えられているとき、急発進などによりエンジン13の出力が急に立ち上がっても、出力低減要求制御部C7として機能するデフ・ロックECU51がエンジンECU77にエンジン出力の低減要求指令を発し、このエンジンECU77の制御によりエンジン13の出力の立ち上がり限界を設定値内とする。
【0033】
なお、デフ・ロックECU51が車両挙動制御ECU79を介してエンジンECU77にエンジン出力の低減要求指令を発することもできる。
[エンジン出力の低減要求指令制御]
図4は、デフ・ロック判断装置の制御フロー・チャートである。
【0034】
図4のフロー・チャートは、例えばアクセサリー・キィのONにより開始され、ステップS1の「車両状態の読み込み」の処理が実行される。この処理では、車輪速センサ53,55,57,59、ブレーキ・センサ61、アクセル開度センサ63、ステアリング操舵センサ65、ヨーレイト・センサ67、前後Gセンサ72、横Gセンサ74、2−4切替スイッチ76の各出力信号、車両挙動制御ECU79からの信号等により車両の現在の状態が読み込まれ、ステップS2へ移行する。
【0035】
ステップS2では、「デフ・ロック(DiffLock)状態の読み込み」の処理が実行される。この処理では、デフ・ロックECU51がデフロック・ソレノイド49の通電制御をしたか否かの読み込み処理が行われ、ステップS3へ移行する。この処理は、移動部材45の移動によるデフ・ロック・ポジション・スイッチ69、デフ・ロック・スイッチ75の出力信号などの読み込みに代えることもできる。
【0036】
ステップS3では、「推定 車体速等の算出」の処理が実行される。この処理では、前後輪車輪速センサ57,59,53,55の検出信号から推定車体速等の算出が行われ、ステップS4へ移行する。
【0037】
ステップS4では、「モードSW=Snow?」の判断処理が実行される。この処理では、例えばモード・スイッチ73がスノー・モードに切り替えられているか否かが判断され、スノー・モードであれば(Yes)、ステップS5へ移行し、スノー・モードでなければ(No)、ステップS6へ移行する。ステップS4の判断がYesのとき、左右スプリットμ路での発進の可能性が高いと推定することになる。
【0038】
ステップS5では、「位置SW=ON?」の判断処理が実行される。この処理では、デフ・ロック・スイッチ75の信号によりデフ・ロック状態であるか否かが確認される。デフ・ロック状態であれば(Yes)、ステップS7へ移行し、デフ・ロック状態でなければ(No)、ステップS8へ移行する。
【0039】
ステップS7では、「アクセル開度≧設定値OR推定車体速≦設定値?」の判断処理が実行される。この処理では、推定車体速が設定値以下の状態でアクセル開度が設定値以上であると、例えば急発進が判断され(Yes)、エンジン出力低減のためにステップS9へ移行する。推定車体速が設定値を上回り、或いはアクセル開度が設定値を下回るときは、急発進ではないと判断され(No)、ステップS6へ移行する。
【0040】
ステップS9では、「エンジントルク≧設定値?」の処理が実行される。この処理では、発進時のエンジントルクが設定値以上となり、車輪駆動力が高μ路側で急激に高まると推定することになる。エンジントルクが設定値以上であれば(Yes)、ステップS10へ移行し、そうでなければ(No)、ステップS6へ移行する。
【0041】
ステップS10では、「エンジントルク出力低減量算出」の処理が実行される。この処理では、エンジントルク信号、ヨーレイト信号、前後G信号、横G信号、路面状況等よりエンジントルク低減量が算出され、ステップS11へ移行する。
【0042】
ステップS11では、「エンジントルク出力低減要求」の処理が実行される。この処理では、デフ・ロックECU51がエンジンECU77にエンジン出力の低減要求指令を発し、エンジンECU77の制御によりエンジン13の前記出力を設定値(ステップS9)内とする。
【0043】
前記ステップS6では、「エンジントルク出力低減要求解除」の処理が実行される。この処理では、既に「エンジントルク出力低減要求」がなされているが、ステップS4にてスプリットμ路発進ではないと判断されたとき、この要求を解除して処理をリターンする。或いは「エンジントルク出力低減要求」が既に解除されていればそのまま処理をリターンする。
【0044】
前記ステップS8では、「DiffLock作動SW=ON?」の判断処理が実行される。この処理では、前記ステップS5に対してデフ・ロック作動スイッチ信号によるデフ・ロック状態の判断が重ねて行われる。デフ・ロック状態であると判断されれば(Yes)、ステップS7へ移行し、デフ・ロック状態でないと判断されれば(No)、ステップS6へ移行する。
[車両挙動の比較]
図5は、出力低減制御装置を適用しない車両との比較における発進時の車両挙動等のタイムチャートである。
【0045】
図5のように、デフ・ロック・スイッチ75はONであり、例えばリヤ・デファレンシャル装置はデフ・ロック状態としてある。
【0046】
急発進によりアクセル開度が設定値以上になると比較対象の車両ではエンジン出力が破線Pのように急激に立ち上がってヨーレイトが破線Qのように大きくなり、車速はRのように設定車速を下回り、発進することができない。
【0047】
これに対し、本願実施例1に係る車両では、急発進によりアクセル開度が設定値以上になってエンジン出力が設定値以上になろうとするとき、上記のようなエンジントルク出力低減要求により出力の立ち上がり限界が実線P1のように設定値を下回るように制御される。この制御により、ヨーレイトを実線Q1のように極めて小さくすることができ、車速が実線R1のように順調に増大して無理なく発進することができる。
【0048】
図6は、左右スプリットμ発進での車両挙動を示し、(a)は比較例に係る車両の挙動平面図、(b)は、実施例に係る車両の挙動平面図である。
【0049】
図6(a)の比較例に係る車両では、リヤ・デファレンシャル装置1Aがデフ・ロック状態で急発進すると、高μ側の駆動力が急激に高まり、車両が低μ側に向いてしまい、直進走行が困難となる。このとき、車両挙動制御ECUの制御は間に合わず、車両挙動制御ECUの制御により車両の向きを戻すことは困難である。
【0050】
図6(b)の実施例に係る車両では、リヤ・デファレンシャル装置1がデフ・ロック状態で急発進しても、上記のようなエンジントルク出力低減要求により高μ側の駆動力が急激に高まることはなく、車両が低μ側に向かずに直進走行を維持することができる。
【0051】
図7は、左右スプリットμ発進での車両挙動を示し、(a)は比較例に係る車両の挙動平面図、(b)は、実施例に係る車両の挙動平面図である。
【0052】
この実施例では、前輪5,7を左右駆動輪とし、前輪5,7間のフロント・デファレンシャル装置1をデファレンシャル装置C1としたものである。
【0053】
この実施例においても、図7(a)の比較例に係る車両の挙動は、図6(a)の比較例に係る車両の挙動と同様に直進性を維持することが困難となり、図7(b)の実施例に係る車両では、図6(b)の実施例に係る車両と同様に直進走行を維持することができる。
[実施例1の効果]
本発明実施例1では、自動車の後輪2,3間(左右駆動輪間)に介設され後輪2,3間の差動許容及び差動制限の切り替えが可能なリヤ・デファレンシャル装置1と、アクセル開度に応じてエンジン13の出力を制御しこの出力の立ち上がり度合いをモード・スイッチ73の切り替えによる運転者の指示に応じて緩く切り替えるエンジンECU77と、前記リヤ・デファレンシャル装置1がデフ・ロック状態にあって車速が設定車速を下回り前記エンジン13の出力の立ち上がり度合いが緩くなるように切り替えられているとき前記エンジン13の出力の立ち上がり限界を設定値内とするように前記エンジンECU77へ指令して車輪駆動力を抑制するデフ・ロックECU51とを備えた。
【0054】
このため、運転者の指示又は自動車の走行環境に応じてエンジンECU77によりアクセル開度に応じたエンジン13の出力の立ち上がり度合いを緩く切り替えることができ、雪道等での走行を円滑に行わせることができる。
【0055】
そして、アクセル開度に応じたエンジン13の出力の立ち上がり度合いが、モード・スイッチ73の切り替えによりスノー・モード或いはエコノミー・モードとなっているとき、左右駆動輪が左右スプリットμ路上にあると推測できる。
【0056】
この推測に基づき、車両がリヤ・デファレンシャル装置1のデフ・ロック下で急発進しようとするときでも、デフ・ロックECU51がエンジECU77へ指令することでエンジン13の出力の立ち上がり限界を設定値内とするように制御することができる。
【0057】
こうして、デフ・ロック下で左右スプリットμ路での急発進アクセル操作でも、相対的に高μ側の駆動力が設定値を超えて高まることはなく、車両の直進性を維持させることができる。
【0058】
自動車の走行環境に応じて車両走行挙動を制御する車両挙動制御ECU79を備えた場合、前記デフ・ロックECU51は、前記車両挙動制御ECU79を介して前記指令を行うこともできる。
【0059】
エンジンECU77は、ヨーレイト信号、前後G、横Gの検出等により判断される路面状況に応じてエンジン13の出力の立ち上がりを緩く切り替えることもできる。
【実施例2】
【0060】
図8は、本発明の実施例2に係り、出力低減制御装置の制御フローチャートである。なお、基本的なステップは、実施例1と同一であるため同符号を付し、重複した説明は省略する。また、ハード構成は、実施例1と同様である。
【0061】
図8のように、本実施例2の出力低減制御装置では、デフ・ロック状態の二重の判断は行わず、ステップS4,S7間にステップS8を介設し、処理を簡素化した。
【実施例3】
【0062】
図9は、本発明の実施例3に係り、出力低減制御装置の制御フローチャートである。なお、基本的なステップは、実施例1と同一であるため同符号を付し、重複した説明は省略する。また、ハード構成は、実施例1と同様である。
【0063】
本実施例3の出力低減制御装置において、エンジンECU77は、アクセル開度に応じてエンジン13の出力を制御し、この出力の立ち上がり度合いを自動車の走行環境に応じてオート・モードで緩く切り替える。自動車の走行環境は、例えば、ヨーレイトの検出、前後G、横Gの検出、ステアリング操舵角の検出等に基づく路面状況により判断される。
【0064】
本実施例のフローチャートでは、実施例1の図4のフローチャートに対し、図4中のステップS4のモードSWの判断処理を図9においてステップS82のオート・モードの判断処理に代え、さらにステップS81,S83,S84を追加した。
【0065】
ステップステップS6においてエンジントルク出力低減要求解除がなされたとき、ステップS84において「エンジントルク低減フラグ=0」の処理が実行され、ステップS81において「エンジントルク低減フラグ=0?」の判断処理が実行される。
【0066】
この判断処理で「エンジントルク低減フラグ=0」(Yes)と判断された時にステップS82へ移行し、「エンジントルク低減フラグ≠0」(No)と判断された時は、エンジントルク出力低減要求が解除されていないとしてステップS82の判断を行わずにステップS5へ移行させる。
【0067】
この移行により、無駄な処理をなくし、迅速な処理を行わせることができる。
【0068】
ステップS82では、「車両挙動判断値と所定値比較?」の判断処理が実行される。この処理では、車両挙動をヨーレイトに基づいて判断する場合、車両の旋回方向によって、ヨーレイトの数値がプラス又はマイナスで検出されることを考慮し、正負の数値が出る式を取りまとめると、一つの判断式を絶対値を用いて下式で表わすことができる。
【0069】
|a.目標ヨーレイト|<|b.実ヨーレイト若しくは推定ヨーレイト|
≧c.設定値
この判断式においては、計算を実行する手順を、a.〜c.を用いて簡略説明すると、
a.とb.の不等式演算処理後に、この結果とc.との不等式演算処理を行う。
【0070】
a.とb.の不等式演算処理と、b.とc.との不等式演算処理をそれぞれ行う。
【0071】
また、ヨーレイトに基づいて判断する場合、他の判断式を絶対値を用いて下式で表わすことも可能である。
【0072】
|実ヨーレイト−目標ヨーレイト|≧設定値
一方、ステップS82において、車両挙動を操舵角に基づいて判断する場合、直進状態の基準角をゼロとし、車両の旋回方向によって正負の数値が出る式をまとめると、一つの判断式を絶対値を用いて下式で表わすことができる。
【0073】
|実操舵角若しくは推定操舵角|≧設定値
ここに、推定ヨーレイトは、車輪速、操舵角、或いは旋回半径より求めることができる。推定操舵角は、車輪速、ヨーレイト、或いは旋回半径より求めることができる。
【0074】
ステップS82において、|目標ヨーレイト|<|実ヨーレイト若しくは推定ヨーレイト|、或いは、|実操舵角若しくは推定操舵角|≧設定値と判断されると(Yes)、ステップS83へ移行し、|目標ヨーレイト|≧|実ヨーレイト若しくは推定ヨーレイト|、或いは、|実操舵角若しくは推定操舵角|<設定値と判断されると(No)、ステップS6へ移行する。
【0075】
ステップS83では、「エンジントルク低減要求フラグ=1」の処理が実行され、ステップS81での判断に用いられる。
[その他]
上記実施例では、4輪駆動車にて説明したが、2輪駆動車にも同様に適用することができる。
【0076】
上記実施例では、車両挙動制御ECU79を備えたが、これを省くこともできる。
【符号の説明】
【0077】
1 リヤ・デファレンシャル装置(デファレンシャル装置C1)
2,3 後輪(左右駆動輪)
13 エンジン(エンジンC3)
51 デフ・ロックECU(出力低減要求制御部C7)
73 モード・スイッチ
77 エンジンECU(エンジン出力制御部C5)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の左右駆動輪間に介設され左右駆動輪間の差動許容及び差動制限の切り替えが可能なデファレンシャル装置と、
アクセル開度に応じてエンジンの出力を制御しこの出力の立ち上がり度合いを運転者の指示又は自動車の走行環境に応じて緩く切り替えるエンジン出力制御部と、
前記デファレンシャル装置が差動制限状態にあって車速が設定車速を下回り前記エンジンの出力の立ち上がり度合いが緩くなるように切り替えられているとき前記エンジンの出力の立ち上がり限界を設定値内とするように前記エンジン出力制御部へ指令して車輪駆動力を抑制する出力低減要求制御部と、
を備えたことを特徴とする出力低減制御装置。
【請求項2】
請求項1記載の出力低減制御装置であって、
前記自動車の走行環境に応じて車両走行挙動を制御する車両挙動制御部を備え、
前記出力低減要求制御部は、前記車両挙動制御部を介して前記指令を行う、
ことを特徴とする出力低減制御装置。
【請求項3】
請求項1又は2記載の出力低減制御装置であって、
前記運転者の指示は、モード・スイッチにより行ない、
前記自動車の走行環境は、ヨーレイト、前後G、横G等の検出に基づく路面状況により判断する、
ことを特徴とする出力低減制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−169159(P2011−169159A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31026(P2010−31026)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000225050)GKNドライブラインジャパン株式会社 (409)
【Fターム(参考)】