説明

切削物用洗浄剤組成物

【課題】シリコンウエハ製造工程等で要求される、非常に狭い隙間の汚れ除去に対して優れた洗浄性を示し、被洗浄物の持込による洗浄液の劣化が少なく、人体や環境への影響が少ない中性洗浄剤組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で表される(a)エーテル型非イオン界面活性剤0.3〜3重量部および(b)水((a)との合計量100重量部中残部)からなるものとする;
R−O−(AO)n−H ・・・(1)
但し、式(1)中、Rは炭素数8〜24の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1〜100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削物用洗浄剤組成物に関し、詳しくはシリコン、ガラス等のウエハ又は板状物をインゴット又は柱状物からスライス(切削)して製造する工程で必要とされる洗浄剤組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば太陽光発電装置等で用いられるシリコンウエハは、インゴットと呼ばれる珪素の単結晶の塊を砥粒の配合された油性もしくは水性の切削液で切削・研磨され製造される。上記切削工程後、シリコン表面上に切削液中の砥粒や切削液の水性成分または油性成分等が残り、次工程での障害となるため、これらを除去する洗浄工程が必要とされている。
【0003】
上記シリコンウエハ製造工程ではシリコンインゴットをワイヤーソー方式と呼ばれる方法で切断している。本方式は、インゴットをスライスベースと呼ばれる固定台に接着剤を用いて固定し、180μm程度のワイヤーに平均粒径20μm程度の炭化珪素等の微粒子(砥粒)を高粘度の切削液によって絡ませて、それをインゴットにこすりつけることによって切断するものである。切断したインゴットの切りしろは約200μmと非常に狭く、またその隙間には、切削液、砥粒、切削粉が詰まった状態であるため、極めて洗浄の困難な状態となっている。
【0004】
そのような切削物の洗浄には、炭化水素系溶剤、あるいはグリコールエーテル系溶剤、あるいは無機アルカリ剤とエーテル型非イオン界面活性剤を含有した水系洗浄剤などが使用されてきた。
【0005】
例えば、下記特許文献1では、炭化水素系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、非イオン界面活性剤、水を含有した洗浄剤組成物が提案され、特許文献2では、特定のグリコールエーテル系溶剤、界面活性剤、水を含有した洗浄剤組成物が提案され、また、特許文献3では、非イオン界面活性剤を含有する無機アルカリ系洗浄剤が提案されている。
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の炭化水素系溶剤を含有した洗浄剤は、水分が蒸発すると引火性を持つことや、すすぎ後水はじきによりシミ状の残存物が残るという問題点がある。特許文献2に記載のグリコールエーテル系溶剤を含有している洗浄剤は、使用時に水とともにグリコールエーテル系溶剤が揮発するため、洗浄剤の濃度管理が難しい、作業者や環境への負荷が懸念される等の問題があり、アルカリを含有していないという点から、十分な洗浄力が得られないという問題もある。また、特許文献3に記載の洗浄剤は、無機アルカリと非イオン界面活性剤の性能により、本発明で対象になる切削物の洗浄において比較的良好な結果を示すものの、アルカリという性質上、エッチングによる表面への影響、使用環境における安全性に対する懸念は避けられない。また、洗浄効果を高めるために金属イオン封鎖剤を使用する場合が多いが、除去対象汚れが非常に狭い隙間に存在する場合に洗浄効果を阻害する傾向があり、非常に狭い隙間に存在する除去対象汚れを除去するには十分とはいえないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−223679号公報
【特許文献2】特開2000−77380号公報
【特許文献3】特開2009−40828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のような問題点を解決すべくなされたものであり、洗浄性に優れ、被洗浄物の持込等による洗浄液の劣化が少なく、上記のようにシリコンウエハのような非常に狭い隙間の汚れを効果的に洗浄可能で、かつ引火点がなく、人体や環境への影響が少ない切削物用の中性洗浄剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、エーテル型非イオン界面活性剤と水とを特定の比率で組み合わせ、かつ金属封鎖剤(キレート剤)を含有させないことによって、非常に狭い隙間へ浸透し、対象汚れを効果的に除去可能な中性洗浄剤組成物を発明するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の切削物用洗浄剤組成物は、
成分(a)下記一般式(1)で示されるエーテル型非イオン界面活性剤 0.3〜3重量部と、
成分(b)水 成分(a)との合計量100重量部中の残部
とからなるものとする。
【0011】
R−O−(AO)n−H ・・・(1)
但し、式(1)中、Rは炭素数8〜24の直鎖又は分岐の炭化水素基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1〜100である。
【0012】
上記において、(a)成分のエーテル型非イオン界面活性剤は、炭素数8〜24の分岐型1級アルコールを用いて得られ、かつ下記一般式(2)で表される非イオン界面活性剤を含有することが好ましい。
【0013】
−CH(R)−CHO(AO)nH ・・・(2)
但し、式(2)中、Rは炭素数1〜10の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、Rは炭素数1〜12の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1〜100である。
【0014】
本発明の切削物用洗浄剤組成物は、素材がシリコン、水晶、石英、ガラス、又はセラミックのいずれかであり、かつ砥粒及び/または潤滑成分が付着している洗浄対象物に好適に使用することができる。
【0015】
なお、本発明において「切削物」とは、インゴッド又は柱状物からスライスして製造されるウエハ又は板状物をさすものとする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の切削物用洗浄剤組成物は、切削物製造工程での洗浄工程において、除去対象汚れがシリコンウエハのような非常に狭い隙間に存在する場合に非常に高い浸透性能により良好な洗浄性が得られる。
【0017】
特に、洗浄対象物の素材がシリコン、水晶、石英、ガラス、又はセラミックのいずれかであり、洗浄対象物に砥粒及び/又は潤滑成分が付着している場合に高い洗浄効果が得られる。さらに、被洗浄物の洗浄槽への持込による液の劣化を遅延させるので、ランニングコストの低減にも寄与できる。
【0018】
また、本洗浄剤組成物は中性であり、既存のアルカリ系洗浄剤では懸念された洗浄物材質への悪影響の懸念がなく、かつ人体や環境への影響も少ないという特徴を持つ。さらに、引火点がなく、作業環境における危険性が少なく、管理・保管の際の煩わしさもない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の洗浄剤組成物に含有する(a)成分のエーテル型非イオン界面活性剤は、次の一般式(1)で示される。
R−O−(AO)n−H ・・・(1)
式(1)中、Rは炭素数8〜24の直鎖又は分岐の炭化水素基であり、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1〜100である。
【0020】
上記エーテル型非イオン界面活性剤の疎水基に相当する炭化水素基Rは、上記の通り、炭素数8〜24の直鎖または分岐の炭化水素基であるが、炭素数8〜11であることが好ましく、洗浄性などを考慮すると炭素数10が特に好ましい。
【0021】
上記において、(a)成分のエーテル型非イオン界面活性剤は、炭素数8〜24の分岐型1級アルコールを用いて得られ、かつ下記一般式(2)で表される非イオン界面活性剤を含有することが洗浄性を考慮すると特に好ましい。
−CH(R)−CHO(AO)nH ・・・(2)
一般式(2)においてRは炭素数1〜10の直鎖又は分岐のアルキル基又はアルケニル基、Rは炭素数1〜12の直鎖又は分岐のアルキル基又はアルケニル基であるが、洗浄性の点から、Rは炭素数3〜8が好ましく、3〜7がより好ましく、Rは炭素数1〜8が好ましく、1〜5がより好ましい。
【0022】
本発明の主目的である洗浄性を考慮した場合、一般式(2)で表される非イオン界面活性剤の含有量は、一般式(1)で表される界面活性剤中20重量%以上が好ましく、50重量%以上がより好ましい。
【0023】
一般式(2)中のAOは、ランダム付加でもブロック付加でも、又はその混合でも良い。ブロック付加体(式−(XO)n−(YO)m−で表す)の場合は、原料アルコールに対しアルキレンオキサイド(XO)の所定モルを先に付加重合させ、次いで、アルキレンオキサイド(YO)の所定モルを付加重合させることにより得られる。ランダム付加体(式−(XO)n/(YO)m−で表す)は、原料アルコールに対しアルキレンオキサイドXOの所定モルとアルキレンオキサイドYOの所定モルを混合して付加重合させることにより得られる。これらを組み合わせることにより、ランダム付加とブロック付加との混合状態の化合物も得られる。
【0024】
本発明の洗浄剤組成物は、上記(a)成分と(b)水とにより構成される。洗浄剤組成物100重量部中に上記(a)成分が0.3〜3重量部の範囲内で含有され、残部(97〜99.7重量部)を(b)水とする。(a)成分の含有量が0.3重量部未満では洗浄効果が充分に得られない。3重量部を超えると洗浄効果がそれ以上は向上しないため、経済的に不利となる。
【0025】
上記(a)成分は1種を単独で用いてもよいが、上記含有量の範囲内において、疎水基あるいは親水基(アルキレンオキサイドの付加形態)の異なるエーテル型非イオン界面活性剤を2種類以上配合し、混合して使用することにより、相乗効果が得られる場合があり、好ましい。配合する非イオン界面活性剤の種類、量は、洗浄剤組成物中0.3〜3重量部になる範囲で任意である。
【0026】
本発明に使用される(b)成分である水としては、市水、井水、純水(イオン交換樹脂などによって脱塩処理を行った水)、超純水(無機イオンのみではなく、有機物、生菌、微粒子、溶存気体等を除去した水)、近年提案されている各種機能水等が挙げられるが、電子制御部に悪影響を与える金属イオン分の含有量が少ないという点から、純水や超純水等が好ましい。
【0027】
本発明の切削物用洗浄剤組成物は、広く洗浄剤に使用される金属イオン封鎖剤(キレート剤)は含有しないことが望ましい。金属イオン封鎖剤は洗浄効果を高めるために使用される場合が多いが、除去対象汚れが非常に狭い隙間に存在する場合には洗浄効果を阻害する傾向があるためである。しかしながら、シリコンウエハのように、洗浄後にウエハ表面上の残留金属が問題となる場合、必要に応じて公知のキレート剤を含有するものとしてもよい。
【0028】
本発明の洗浄剤組成物には、本発明の目的から外れない範囲内で、公知の消泡剤、防腐剤、防錆剤、酸化防止剤、pH調整剤等を添加して使用してもよい。
【0029】
消泡剤としては、シリコーン系、高級アルコール系、ポリグリコール系、鉱物油系等種々の公知のものを使用することができる。
【0030】
本発明の目的から外れない範囲内であれば、公知の陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤を併用することもできる。
【0031】
また、必要に応じてNaOH等のアルカリ剤を単独で又は複数組み合わせて添加してもよいが、本発明は洗浄剤の液性を中性に保つことを目的とするものであるため、添加量はごく微量とする。
【0032】
本発明の洗浄剤組成物は、洗浄剤組成物が濃縮した状態で使用者に供給され、使用時に希釈して用いられる濃縮タイプも含み、その場合、製品のハンドリング性や製品の安定性の観点から(a)成分のエーテル型非イオン界面活性剤の含有量は10〜40重量%が好ましい。
【0033】
本発明の洗浄剤組成物を用いる洗浄工程においては、例えば、浸漬法、超音波洗浄法、浸漬揺動法、スプレー法、手拭き法等各種の洗浄方法を特に限定なく単独で、又は組み合わせて用いることが可能である。
【0034】
洗浄対象物としては、シリコン、ガリウム、砒素、ガリウム・燐等の半導体・結晶材料、水晶、石英、ガラス、圧電材料等の電子部品関連材料、フェライト、サマリウム・コバルト等の磁性材料、磁気ヘッド等の磁気材料、セラミックス等が挙げられる。
【0035】
シリコンウエハ等の製造工程における砥粒や潤滑成分を除去する洗浄工程において本発明の洗浄剤組成物を用いることにより、除去対象汚れが非常に狭い隙間に存在する場合にも高い浸透性能により良好な洗浄性が得られる。また、そのように洗浄力が優れることにより、被洗浄物の洗浄槽への持込による液の劣化を遅延させることもできる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例]
表1に示した構造を有する界面活性剤を用いて、表2に示す配合割合で純水と混合して洗浄剤組成物を調製した。配合割合は組成物100重量部当たりの含有量(重量部)であり、残部は水である。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
表2の実施例1〜23、比較例1〜8について、以下の試験A及びBを行った。結果を表3に示す。
【0041】
A.新液洗浄性
シリコンウエハ(8インチ)2枚に、砥粒及び水溶性洗浄対象物のモデルとして、ワイヤーソーオイル:PS−N−13(パレス化学株式会社製)と緑色炭化珪素研磨材:GC♯600(株式会社フジミインコーポレーテッド製)を重量比50:50で混合したものを、200μm間隔でセットし、テストピースとした。表2に記載されている洗浄剤組成物を40℃に調温して上記テストピースを浸漬し、28kHz、600Wにて10分間超音波を印加した。その後、イオン交換水を用い、40℃、10分間の浸漬超音波洗浄し、更にイオン交換水を用い、25℃、10分間浸漬超音波洗浄した。上記処理後、2枚のウエハを開け、それぞれウエハの砥粒及び水溶性洗浄対象物の除去面積率(%)を目視にて判定し、その平均値を新液洗浄性(%)とした。
【0042】
B.劣化液洗浄性試験
上記試験Aと同条件にてテストピースを作製した。表2に記載されている洗浄剤組成物に上記砥粒及び水溶性洗浄対象物モデル液を5部添加して劣化洗浄液とした。本劣化洗浄液に対し、試験Aと同条件にて洗浄を行い、ウエハ上の洗浄対象物の除去面積率(%)を目視にて判定し、その平均値を劣化液洗浄性(%)とした。
【0043】
また、各実施例について引火点を測定したが、全ての洗浄剤組成物に対して、引火点は存在しなかった。
【0044】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の切削物用洗浄剤組成物は、シリコン、ガリウム、砒素、ガリウム・燐等の半導体・結晶材料、水晶、石英、ガラス、圧電材料等の電子部品関連材料、フェライト、サマリウム・コバルト等の磁性材料、磁気ヘッド等の磁気材料、セラミックス等の製造工程における洗浄剤として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(a)および(b)からなることを特徴とする切削物用洗浄剤組成物;
(a)下記一般式(1)で表されるエーテル型非イオン界面活性剤 0.3〜3重量部
R−O−(AO)n−H ・・・(1)
但し、式(1)中、Rは炭素数8〜24の直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1〜100である。
(b)水 成分(a)との合計量100重量部中の残部。
【請求項2】
前記(a)成分のエーテル型非イオン界面活性剤が、炭素数8〜24の分岐型1級アルコールを用いて得られ、かつ下記一般式(2)で表される非イオン界面活性剤を含有することを特徴とする、請求項1に記載の切削物用洗浄剤組成物;
−CH(R)−CHO(AO)nH ・・・(2)
但し、式(2)中、Rは炭素数1〜10の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、Rは炭素数1〜12の分岐又は直鎖のアルキル基又はアルケニル基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数を示し、1〜100である。
【請求項3】
素材がシリコン、水晶、石英、ガラス、又はセラミックのいずれかであり、かつ砥粒及び/または潤滑成分が付着している洗浄対象物に使用されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の切削物用洗浄剤組成物。

【公開番号】特開2011−40475(P2011−40475A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−184632(P2009−184632)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】