説明

制御装置一体型回転電機

【課題】ベアリングからグリスが染み出した場合でも、スリップリングとブラシとの摺接部にグリスが流れ込むのを防止し、スリップリングもしくはブラシの異常摩耗の発生を防止する制御装置一体型回転電機を得る。
【解決手段】回転軸12のリア側に、軸端からスリップリング19、リアベアリング11aの順に配置すると共に、スリップリング19とリアベアリング11aとの間に回転センサ110を配置し、スリップリング19とブラシ21との摺接部とリアベアリング11aとの間に、回転軸12と同期して回転すると共に、回転軸12に垂直な方向に最大面積になるように円盤状のスリップリング保護部材27を設置した.

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば車両のエンジンに連結されたベルト式回転電機を制御する制御装置を備えた制御装置一体型回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のエンジンに連結されたベルト式回転電機、例えば界磁巻線式の車両用回転電機においては、界磁電流がブラシからスリップリングを介して回転子の界磁巻線へと供給される。この際ブラシは、ブラシ後方に取り付けられたスプリングでスリップリングに押し付けられた状態で摺動する。スリップリングとブラシは、プラス側とマイナス側で一組ずつ設置されている。これらのブラシとスリップリングは、一般にプラス側とマイナス側との間の電気絶縁性を確保するために、それぞれ絶縁性のモールド樹脂等で覆われて保持されている。
【0003】
このブラシとスリップリングとの摺接部に異物が進入すると、ブラシもしくはスリップリングの摩耗が異常に進む状態である異常摩耗状態になる場合がある。そこで、ブラシが収納されているブラシホルダとスリップリングのモールド樹脂との間には、外部からの異物や水分の進入を防止する構造が設けられている。
【0004】
しかしながら、モータジェネレータのような車両用制御装置一体型回転電機は、オルタネータなどの回転電機と比較して、同等の出力電流を発電したときの回転電機自身の温度上昇が大きく、ベアリングの温度が上昇しやすいと共に、エンジン始動モードを備えるためにベルト張力が大きく、ベアリングが受ける負荷が大きくなる。このため、回転軸をハウジングに固定するベアリングからグリスが染み出す場合があり、この染み出したグリスがブラシとスリップリングとの摺接部へ進入することが懸念される。
【0005】
また、スリップリングとベアリングは、共に回転軸に固定されて隣り合って配置される場合が多い。この場合、スリップリング、ブラシ、ベアリングは、外部からの異物が進入しないように設けられた連通した半閉鎖空間に取付けられる。このため、ベアリングから染み出したグリスは、容易にスリップリングとブラシとの摺接部に進入することができる状態となる。
【0006】
このグリスは、ブラシホルダ外部からの異物と同様に、スリップリングとブラシとの摺接部に入り込むと異常摩耗の原因となる。その結果、スリップリングとブラシの異常摩耗の発生を防止することが難しく、異常摩耗が発生した場合には想定されている寿命よりもはるかに早い段階でブラシもしくはスリップリングの摩耗量が限界値を迎え、回転電機が発電不能になる故障の原因となる。
【0007】
例えば、特開2002−159159公報(特許文献1)に開示された車両用交流発電機においては、回転子のリヤ側端面に通常の冷却ファンと第2の冷却ファンが設けられ、この第2の冷却ファンによりベアリング収容部周辺に冷却風を導いて軸受けの温度を低減できる構造がとられている。
【0008】
また、特開2007−074854公報(特許文献2)に開示された車両用回転電機においては、スリップリングの周囲空間を覆うブラシホルダのスリンガ部に通風路を形成し、冷却空気が回転電機の内部を流れる時に生じるスリンガ部内外の差圧を利用してスリンガ内に冷却空気を流入させ、スリップリング、ブラシ、およびこれに近接して配置される軸受の温度上昇を抑える構造がとられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−159159号公報
【特許文献2】特開2007−074854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記特許文献1あるいは特許文献2に開示された車両用回転電機は、ベアリングのグリスが流出する原因となるベアリングの温度上昇を抑制する効果により、ベアリングからのグリスの流出量防止に一定の効果あると思われる。しかし、ベルトの張力が大きい制御装置一体型回転電機などでは、特許文献1あるいは特許文献2に開示されているように、ベアリングの温度を低減する方式のみで、ベアリングからのグリスの染み出しを防止することは困難である。このため、ベアリングからグリスが染み出した場合、スリップリングとブラシとの摺接部への流入を防止することができず、ブラシおよびスリップリングの異常摩耗の発生を防止できないという問題がある。
【0011】
この発明は、上記のような従来の課題を解消するためになされたもので、ベアリングからグリスが染み出した場合でも、スリップリングとブラシとの摺接部にグリスが流れ込むのを防止し、スリップリングもしくはブラシの異常摩耗の発生を防止する制御装置一体型回転電機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る制御装置一体型回転電機は、ハウジングに回転自在に支持された回転軸と、上記回転軸を上記ハウジングのリア側で固定するリアベアリングとフロント側で固定するフロントベアリングと、上記回転軸に固定されると共に界磁鉄心及び界磁巻線を有する回転子と、上記回転軸のリア側に装着されると共に、上記界磁巻線に界磁電流を供給するスリップリングと、上記スリップリングを介して上記界磁巻線に界磁電流を供給するブラシと、上記ブラシを保持すると共に、上記ブラシに界磁電流を供給するブラシホルダと、を備えた制御装置一体型回転電機において、上記回転軸のリア側に、軸端から上記スリップリング、上記リアベアリングの順に配置すると共に、上記スリップリングと上記リアベアリングとの間に回転センサを配置し、上記スリップリングと上記ブラシとの摺接部と上記リアベアリングとの間に、上記回転軸と同期して回転すると共に、上記回転軸に垂直な方向に最大面積になるように円盤状のスリップリング保護部材を設置したものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明に係る制御装置一体型回転電機は、上記の構成を採用することにより、ベアリングからグリスが染み出した場合でも、スリップリング保護部材がスリップリングへのグリス流入に対する防護壁として作用し、スリップリングとブラシとの摺接部にグリスが流れ込むのを防止できる。従って、スリップリングもしくはブラシの異常摩耗の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1に係る制御装置一体型回転電機の断面図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る制御装置一体型回転電機の回路図である。
【図3】従来の車両用回転電機のスリップリング近傍の断面図である。
【図4】この発明の実施の形態1に係る制御装置一体型回転電機に用いられるスリップリング保護板の一例を示す外観模式図である。
【図5】この発明の実施の形態1に係る制御装置一体型回転電機に用いられるスリップリング保護板の他の例を示す外観模式図である。
【図6】この発明の実施の形態1に係る制御装置一体型回転電機に用いられるスリップリング保護板の更に他の例を示す外観模式図である。
【図7】この発明の実施の形態1に係る制御装置一体型回転電機に用いられるスリップリング保護板の更に他の例を示す外観模式図である。
【図8】この発明の実施の形態1に係る制御装置一体型回転電機に用いられるスリップリング保護板の更に他の例を示す外観模式図である。
【図9】この発明の実施の形態1に係る回転電機に用いられるスリップリング保護板の更に他の例を示す外観模式図である。
【図10】この発明の実施の形態1に係る回転電機に用いられるスリップリング保護板の更に他の例を示す外観模式図である。
【図11】図6に示すスリップリング保護板に回転センサを設置したときの近傍の外観模式図である。
【図12】この発明の実施の形態2に係る回転電機に用いられるスリップリング保護板の外観模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明に係る制御装置一体型回転電機の好適な実施の形態について図面を参照して説明する。
【0016】
実施の形態1.
この発明の実施の形態1に係る制御装置一体型回転電機を図1および図2に基づいて説明する。図1は、実施の形態1に係る制御装置一体型回転電機の断面図で、図2は、その回路図である。この実施の形態1で説明する制御装置一体型回転電機は、車両用の交流発電電動機(モータジェネレータ)を示しているが、他の制御装置一体型回転電機でも適用可能である。
【0017】
図1および図2において、制御装置一体型回転電機(以下、回転電機という。)100は、ハウジングとしてのフロントブラケット10およびリアブラケット11と、フロントブラケット10のベアリング10a、およびリアブラケット11のベアリング11aを介して回転自在に支持される回転軸12と、フロントブラケット10およびリアブラケット11に固定されると共に、電機子巻線13aを有する固定子13と、回転軸12に固定されると共に、界磁鉄心14および界磁巻線14aを有する回転子15と、回転軸12のフロント側の端部に固着されるプーリー16とを備えている。そして、回転電機100は、プーリー16に掛けられたベルト(図示せず)を介してエンジンの回転軸(図示せず)に連結されている。また、回転電機100の駆動の際の発熱により、回転子15や固定子13の温度が上昇するため、回転子15の軸方向両端面には冷却用の遠心ファン17、18が設けられている。
【0018】
また、回転電機100は、回転軸12のリア側に装着された一対のスリップリング19と、回転軸12のリア側外周に位置するようにリアブラケット11に取り付けられたブラシホルダ20と、上記一対のスリップリング19に摺接するようにブラシホルダ20内に配置された一対のブラシ21を備えている。
【0019】
さらに、回転電機100は、図2に示すように、直流電力を交流電力、又は交流電力を直流電力に変換するパワー回路部22と、回転子15の界磁巻線14aに界磁電流を供給する界磁回路部23と、パワー回路部22および界磁回路部23を制御する制御回路部24を備え、外部接続用コネクタおよび電源端子(図示せず)を介して外部に接続される。
【0020】
パワー回路部22は、複数のパワー素子22a、22bと、このパワー素子22a、22bに電気的に接続される電極部材を兼ねるヒートシンク25(図1参照)を備えている。各パワー素子22a、22b間の接続は、モールド樹脂にインサート成形された導電性部材(図示せず)と、ヒートシンク25によって行われ、中継配線部材(図示せず)により制御回路部24に電気的に接続される。
【0021】
ここで、制御回路部24は、制御回路基板(図示せず)と、この制御回路基板を収納する樹脂製のケース(図示せず)を備えている。この樹脂製のケースは、防水カバー(図示せず)等により制御回路基板への塩泥水の浸入を防ぐような構造を有している。界磁回路部23は、上記の制御回路基板と同一基板上に実装することも可能であり、あるいは制御回路基板と分離して構成してもよい。また、図2に示すように、パワー回路部22、界磁回路部23、および制御回路部24によりパワー部26が構成されている。なお、上記外部接続用コネクタは、制御回路部24の近傍に配設され、制御回路部24と電気的に接続されている。
【0022】
前述のように、パワー回路部22を構成するパワー素子22a、22bは、通電時に発熱をともなうため、パワー回路部22にはパワー素子22a、22bの放熱用のヒートシンク25が設置されている。このヒートシンク25は、パワー素子22a、22bの過度の温度上昇を防止するように多数のフィンが設けられている。特にモータジェネレータなどでは、内部に発電電流の整流機能およびインバータ機能を併せ持つパワー回路部22を備える。パワー回路部22を構成するパワー素子22a、22bは、MOS−FETなどのスイッチング可能なパワー半導体を使用し、配線部材もしくは放熱部材などと一括にトランスファー成形されたものや、樹脂性のケースもしくは囲いに覆われシリコーンゲルなどでポッティングされたパワーモジュールとなっている。このパワーモジュールには、ヒートシンク25が接続されており、通電時にパワー素子22a、22bで生じた発熱を冷却空気に放出する機能を有している。
【0023】
また、回転電機100において、界磁回路部23からの界磁電流は、ブラシホルダ20に保持されたブラシ21と回転軸12に取り付けられたスリップリング19を介して供給される。ブラシ21は、スリップリング19と摺動するようにスプリング(図示せず)で加圧されており、回転電機動作時には両者の摩擦により摺接面で発熱が生じる。また、この摺動部では、ブラシ21とスリップリング19は接触状態で保持されるため、接触部の電気抵抗に起因した発熱も生じる。さらに、通電にともなう各部材中のジュール発熱も同時に生じる。
【0024】
スリップリング19の近傍には、回転軸12を固定するリアベアリング11aが備えられており、このリアベアリング11aは、回転軸12をフロントブラケット10、リアブラケット11に固定する2つのベアリングの中で、スリップリング19に近い側のベアリングである。リアベアリング11aは、回転軸12とリアブラケット11の両方に接するが、回転軸12はリアブラケット11と接することが無いように配置されるため、回転軸12とリアブラケット11との間にはクリアランスが生じる。
【0025】
従来の回転電機の場合、このクリアランスとスリップリング19を取り囲むブラシホルダ20内部の空間は、少なくとも一部分が繋がった状態で設けられている。この結果、リアベアリング11aから染み出したグリスがスリップリング19とブラシ21との摺接部に流れ込み、異常摩耗が生じる原因となる場合がある。
【0026】
また、モータジェネレータなどの制御装置一体型回転電機では、動作モードが連続発電モードに加えて、始動モードや回生発電モードなどを備える。特に始動モードを備える車両用回転電機の場合、エンジンの始動に必要な大きな回転トルクを、ベルトを介してエンジンに伝える必要があるため、ベルト張力がオルタネータなどと比較して大きくなる。また、発電モードでもオルタネータと比較して、同等の出力電流を発電した場合には、回転電機の発熱量が大きくなるため、構成部材の温度が高くなる。この結果、制御装置一体型回転電機では、ベアリングのグリスが染み出すことが懸念され、このグリスがスリップリング19とブラシ21との摺接部に進入した場合には異常摩耗が発生する原因になる。
【0027】
そこで、実施の形態1では後述するように、回転軸12のリア側に、軸端からスリップリング19、回転センサ、リアベアリング11aの順に回転電機構成部材が配置される。そして、スリップリング19とブラシ21との摺接部とリアベアリング11aとの間に、回転軸12に固定され回転軸12に垂直になるように円盤状のスリップリング保護部材(以下、スリップリング保護板という。)27を設けている。これにより、リアベアリング11aからグリスが染み出した場合でも、染み出したグリスがスリップリング19とブラシ21との摺接部に付着しないようにしている。
【0028】
ここで、実施の形態1に係る回転電機をより理解し易くするために、従来の回転電機を図面により説明する。
図3は、従来の車両用回転電機のスリップリング近傍の断面図である。スリップリング19は回転軸12に固定されており、回転軸12は2つのベアリングを介してフロントブラケットとリアブラケット11に固定されている。スリップリング19の近くに設置されたリアベアリング11aは、回転軸12に固定された状態でリアブラケット11に差し込まれることで、回転軸12を回転自在に固定する。このとき、回転軸12とリアブラケット11が接する状態にあると回転抵抗が大きくなるため、2つの部材の間にはクリアランス30を設ける。このクリアランス30とスリップリング19を取り囲むブラシホルダ20の内部の空間は、少なくとも一部分が繋がった状態で設けられている。この結果、リアベアリング11aから染み出したグリスは、容易にスリップリング19が設置された部分に流れ込むことができる。このグリスがスリップリング19とブラシ21との摺接部に付着すると、スリップリング19やブラシ21の異常摩耗を引き起こす原因となる。
【0029】
この構造では、ブラシホルダ20、リアブラケット11、リアベアリング11aで囲われた空間は、外気と半遮断状態になる。この空間の内部に配置されたブラシ21とスリップリング19との摺接部や、リアベアリング11aなどは回転電機の動作時に発熱をともなうため、外気と半遮断状態になる空間内部で、リアベアリング11a、ブラシ21、スリップリング19で発生した熱が蓄積され、温度上昇が大きくなるという問題がある。
【0030】
そこで実施の形態1に係る回転電機では、図1に示すように、回転軸12のリア側に軸端からスリップリング19、回転センサ(図示せず)、リアベアリング11aの順に回転電機構成部材が配置され、スリップリング19とリアベアリング11aの間には、回転軸12に固定されたスリップリング保護板27を設ける。この構成による回転電機100は、回転軸12を固定するリアベアリング11aの近くに回転センサを配置することで、回転センサの検出精度を良好にすることができる。
【0031】
また、回転軸12のスリップリング19が取付けられた部分は、回転電機100のハウジングの外部に突出するように設けられているため、回転電機100の動作時に回転子12に固定された遠心ファン18により生じる冷却風が、ブラシホルダ20のブラシ収納部付近に効率よく供給され、ブラシ21の温度上昇を低減できる。
【0032】
更に、スリップリング保護板27がスリップリング19とリアベアリング11aの間にあることにより、リアベアリング11aでグリスが染み出した場合でもスリップリング19の設置部分に流れ込むことを防止する。スリップリング保護板27の位置は、回転センサのリア側でもフロント側でも良い。ここで、スリップリング保護板27が、回転センサのフロント側に配置される場合、フロントベアリング10aから流出したグリスは、回転センサに付着することが無く、グリスが付着することによる回転センサの誤動作も防止できる。
【0033】
また、スリップリング保護板27は、リアブラケット11およびブラシホルダ20との間に一定のクリアランスを有する。これにより、外気と空気が出入り可能となり、外部への熱の排出が促進されリアベアリング11aの温度上昇が低減される結果、グリスの染み出し量も少なくなり、さらに異常摩耗の発生を防止する効果が向上する。また、スリップリング19とブラシ21との摺接部にも冷却風が流入することで、これらの部材の温度上昇が低減され、部材の摩耗速度が小さくなる。
【0034】
図4は、実施の形態1に係る回転電機に用いられるスリップリング保護板の一例を示す外観模式図である。スリップリング保護板27は、回転軸12に固定され、回転軸12の長手方向に垂直に最大面を持つように設置されている。図4は、図1に示すスリップリング19に一体成形された場合のスリップリング保護板27の形状である。なお、スリップリング19の詳細形状は省略されている。このスリップリング保護板27により、スリップリング保護板27よりもフロント側に設置されたリアベアリング11aから染み出したグリスが、スリップリング保護板27よりもリア側に設置されたスリップリング19に進入することを防止できる。また、スリップリング保護板27がスリップリング19と一体成形されていることで、回転軸12への取り付け強度を高くできる。
【0035】
また、スリップリング保護板27は回転軸12に固定されるため、回転電機100の動作時には、回転軸12と同じ回転数で回転する。このとき、スリップリング保護板27の回転軸12に対する垂直度が低い場合には振れが生じ、騒音の発生やスリップリング保護板27自身の信頼性が低下するなどの問題が生じる。しかしながら、スリップリング保護板27がスリップリング19に一体成形されている場合、回転軸12に垂直度良く設置できるため、上記のような問題も回避できる。
【0036】
スリップリング保護板27をスリップリング19とは別の部材で構成し、回転軸12にかしめやスナップフィットなどの取り付け部材で取り付けてもよい。この場合は、回転電機100を組み立てる際、回転軸12にスリップリング19を固定した後に、リアベアリング11aの内周にスリップリング19を通す場合は、スリップリング保護板27を別部材で構成し、取り付ける方法をとることで回転電機100が組立て可能となる。また、スリップリング保護板27をスリップリング19などと別部材で構成することで、成形が容易となり、形状の自由度が向上し製造コストが低減する。スリップリング保護板27がスリップリング19と一体成形されている場合と別部材で構成されている場合の両者において、スリップリング保護板27は、スリップリング構成樹脂、スリップリング構成樹脂以外の樹脂、もしくは金属で構成されている。
【0037】
また、図5は、スリップリング保護板の他の例を示す外観模式図である。図5(a)に示すように、スリップリング保護板27aは、スリップリング19と一体に成形された第1のスリップリング保護板27a1と、これに固定される第2のスリップリング保護板27a2の2つの部材で構成されている。このように、第1のスリップリング保護板27a1をスリップリング19と一体成形することで固定強度を高く保つと共に、回転軸12に対する高い直角度を得ることができる。そして、図5(b)に示すように、第2のスリップリング保護板27a2を第1のスリップリング保護板27a1に取り付けるように設置することで、スリップリング保護板27aの外径をより大きくできると共に、別部材として成形するため複雑な形状を低コストに作り込むことが可能となる。
【0038】
第1のスリップリング保護板27a1と第2のスリップリング保護板27a2の取り付けは、かしめもしくはスナップフィットなどの取り付け部材で行う。これにより、新たに接着材などの結合部材を設ける必要が無く、製造コストを低減できる。また、構造上スリップリング19を回転軸12に取り付けたあとに、リアベアリング11aをスリップリング19の外側を通して取り付ける場合は、スリップリング19に一体成形されている部材の外形がリアベアリング11aの内径よりも小さくする必要がある。図5に示す形態をとることで、第1のスリップリング保護板27a1をリアベアリング11aの内径よりも小さくし、リアベアリング11aを通した後に第2のスリップリング保護板27a2を固定することで、回転電機100が組み立て可能であると共に、高いグリスの流入を防止する効果を期待できる直径の大きいスリップリング保護板27aを設置可能である。
【0039】
図6は、スリップリング保護板の更に他の例を示す外観模式図である。スリップリング保護板27bは、リアブラケット11とブラシホルダ20との間に一定のクリアランスを有して設置され、外気と空気が出入り可能に構成されている。これにより、スリップリング19とブラシ21(図1参照)との摺接部にグリスが付着することを防止すると同時に、スリップリング19とブラシ21との摺接部およびリアベアリング11aに冷却風が流れ、それぞれの部分の温度上昇を低減できる。また、リアベアリング11aから染み出したグリスがスリップリング保護板27bに付着した場合、回転電機100が動作中であれば、グリスに作用する遠心力により外部に排出される。この結果、リアブラケット11とスリップリング保護板27bとの間のクリアランスがグリスで詰まることがなく冷却性の悪化も生じない。
【0040】
図7は、スリップリング保護板の更に他の例を示す外観模式図である。スリップリング保護板27cは、回転軸12のブラシホルダ20側(図1参照)に円周状の突部27c1を設け、ブラシホルダ20に設けられた窪みと、互いの隙間が小さい状態で組み合わされることで、ラビリンス構造を形成している。スリップリング保護板27cとブラシホルダ20の一部がラビリング構造を形成することにより、ブラシ21とスリップリング19との摺接部近傍への外部からの異物の進入を防止できる。また、ブラシ21とスリップリング19との摺接部で発生したブラシ摩耗粉をラビリンス構造の隙間から排出することも可能となる。また、ラビリンス構造の隙間から雰囲気の空気は出入り可能となって、スリップリング19の近傍生じた熱は外部へ排出しやすくなり、摺接部の温度上昇を低減できる。また、スリップリング保護板27cに円周状の突部27c1を設けることで、円周方向の剛性が増加し、構造強度などの変形に対する耐性を向上する。
【0041】
図8は、スリップリング保護板の更に他の例を示す外観模式図である。スリップリング保護板27dは、リアベアリング11a側に円周状の突部27d1を備えている。これにより、リアベアリング11aに直接外部からの異物が侵入するのを防止する。また、スリップリング保護板27dが円周状の突部27d1を備えることで、グリスの流出をより確実に防止することが可能となる。この円周状の突部27d1がスリップリング保護板27dの円周状に設置されていることで、円周方向の剛性が増加し、構造強度などの変形に対する耐性を向上する。なお、図7および図8のスリップリング保護板27c、27dに設けられた円周状の突部27c1、27d1は、回転軸12を中心としている。この2つ突部27c1、27d1の直径は、一致している必要はない。2つの突部27c1、27d1の直径が異なる場合、曲げに対する構造強度をさらに強くすることが出来る。
【0042】
また、図8のスリップリング保護板27dに設けられた円周状の突部27d1の中心と回転軸12の中心とはずれていてもよい。円周状の突部27d1の中心と回転軸12の中心がずれていることで、回転電機100が動作している間、回転軸12の回転に合わせて突部27d1は変心しながら回転する。これにより、リアベアリング11a近傍の雰囲気は、かき回されると共に外部雰囲気との置換が促進される。この結果、リアベアリング11aの温度上昇を低減できる。
【0043】
図9は、スリップリング保護板の更に他の例を示す外観模式図である。スリップリング保護板27eのリアベアリング11a側には、複数の遠心ファン形状の突部27e1が設けられている。スリップリング保護板27eに複数の遠心ファン形状の突部27e1を設けることで、グリスの進入を防ぐと共に、リアベアリング11aの突部27e1により巻き起こされた冷却風をリアベアリング11aに供給し、温度を低減する。また、リアブラケット11とリアベアリング11aで構成される空間中の雰囲気を流動するように促進するため、この雰囲気と外部雰囲気との置換が積極的に行われる。その結果、リアベアリング11aから放出された熱は、回転子15に固定された遠心ファン18により発生した冷却風が流れる部分へ排気される。
【0044】
図10は、スリップリング保護板の更に他の例を示す外観模式図である。スリップリング保護板27fには、リアベアリング11a側に遠心ファン形状の突部27f1を有すると共に、突部27f1の内側にスリップリング保護板27fのリア側とフロント側を通風可能にする貫通穴27f2が設けられている。これにより、回転子15が回転した時に、スリップリング保護板27fの近傍の雰囲気は流動が促進される。また、ブラシホルダ20の内部に取り囲まれた雰囲気も流動が活発化されるため、ブラシ21の温度上昇の低減やブラシ摩耗粉の排出が促進される。また、この貫通穴27f2は、リアベアリング11aから染み出したグリスがスリップリング19側に流出しないように、メッシュ状の形状や、直径3mm以内の大きさの貫通穴27f2を複数個並べるような構造で設定する。なお、図11は、図6に示すスリップリング保護板27bに回転センサ110を設置したときの近傍の外観模式図である。
【0045】
実施の形態2.
次に、この発明の実施の形態2に係る回転電機について説明する。図12は、実施の形態2に係る回転電機に用いられるスリップリング保護板の外観模式図である。なお、その他の構成は実施の形態1と同様であり、図示説明を省略する。
【0046】
スリップリング保護板120は、回転センサ110もしくは回転センサ110の少なくとも一部を備え、回転センサ110には、レゾルバやホールセンサなどのセンサが設置されている。スリップリング保護板120が回転センサ110もしくは回転センサ110の少なくとも一部による位置検出機能を備えることで、回転センサ110とスリップリング保護板120とを別々に取り付ける場合よりも、製造コストおよびスペースの削減(特に、回転電機の回転軸長手方向の全長の低減)などができる。また、回転センサ110をスリップリング保護板120に取り付けると、回転軸12に対する同軸度や垂直度を良好に取り付けることが可能となるため、回転センサ110の検出精度や出力の安定性が向上する。なお、スリップリング保護板120への回転センサ110の取り付けは、スリップリング保護板120へ別途取り付けてもよく、一体成形してもよい。
【0047】
回転センサ110としてレゾルバを使用する場合、スリップリング保護板120の構成部材を電磁鋼板とする。このとき、スリップリング保護板120の外周を取り囲むリアブラケット11に、レゾルバの回転軸12に取り付けた部分以外を配置する。これにより、回転電機の回転速度や位置検出が可能になると共に、スリップリング保護板120自身がレゾルバの構成部材になるため、新たにレゾルバの一部をスリップリング保護板120に固定する場合よりも取り付けスペースと製造コストを低減できる。
【0048】
回転センサ110としてホールセンサを使用する場合、スリップリング保護板120に磁性を持つ部材を取り付けてもよく、もしくはスリップリング保護板120に磁性を持たせたり、磁性をもつ部材を使用してもよい。そして、スリップリング保護板120の外周を取り囲むリアブラケット11に、センサの受信機能を持つ部分を取り付ける。これにより、回転電機の回転速度や位置検出が可能になると共に、スリップリング保護板120自身が回転センサ110の構成部材になるため、新たに回転センサ110の一部をスリップリング保護板120に固定する場合よりも取り付けスペースを低減できる。
【0049】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、これらの実施の形態により発明が限定されるものではなく、その発明の範囲内において、各実施の形態を組み合わせたり、各実施の形態を適宜、変更、省略することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 フロントブラケット
10a、10b ベアリング
11 リアブラケット
12 回転軸
13 固定子
13a 電機子巻線
14 界磁鉄心
14a 界磁巻線
15 回転子
16 プーリー
17、18 遠心ファン
19 スリップリング
20 ブラシホルダ
21 ブラシ
22 パワー回路部
22a、22b パワー素子
23 界磁回路部
24 制御回路部
25 ヒートシンク
26 パワー部
27、27a、27b、27c、 スリップリング保護部材
27d、27e、27f、120 スリップリング保護部材
27c1、27d1、27e1、27f1 突部
27f2 貫通穴
30 クリアランス
100 回転電機
110 回転センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングに回転自在に支持された回転軸と、
上記回転軸を上記ハウジングのリア側で固定するリアベアリングとフロント側で固定するフロントベアリングと、
上記回転軸に固定されると共に界磁鉄心及び界磁巻線を有する回転子と、
上記回転軸のリア側に装着されると共に、上記界磁巻線に界磁電流を供給するスリップリングと、
上記スリップリングを介して上記界磁巻線に界磁電流を供給するブラシと、
上記ブラシを保持すると共に、上記ブラシに界磁電流を供給するブラシホルダと、を備えた制御装置一体型回転電機において、
上記回転軸のリア側に、軸端から上記スリップリング、上記リアベアリングの順に配置すると共に、上記スリップリングと上記リアベアリングとの間に回転センサを配置し、
上記スリップリングと上記ブラシとの摺接部と上記リアベアリングとの間に、上記回転軸と同期して回転すると共に、上記回転軸に垂直な方向に最大面積になるように円盤状のスリップリング保護部材を設置したことを特徴とする制御装置一体型回転電機。
【請求項2】
上記スリップリング保護部材は、スリップリング構成樹脂もしくはスリップリング構成樹脂とは異なる樹脂、もしくは金属から構成され、上記スリップリングと一体に成形されるか、取り付け部材で上記回転軸に固定されることを特徴とする請求項1に記載の制御装置一体型回転電機。
【請求項3】
上記スリップリング保護部材は、上記スリップリングと一体に成形された第1のスリップリング保護部材と、上記第1のスリップリング保護部材に固定される第2のスリップリング保護部材で構成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の制御装置一体型回転電機。
【請求項4】
上記スリップリング保護部材は、上記回転軸に対して垂直な面の上記スリップリング側の面に円周状の突部を備え、上記ブラシホルダに形成された窪みとの組み合わせによりラビリンス構造を形成することを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の制御装置一体型回転電機。
【請求項5】
上記スリップリング保護部材は、上記回転軸に対して垂直な面のリアベアリング側に円周状態の突起を備えることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の制御装置一体型回転電機。
【請求項6】
上記スリップリング保護部材の上記リアベアリング側にファン形状の突起を備えると共に、上記スリップリング保護部材のリア側とフロント側とを通風可能とする貫通穴を備えることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の制御装置一体型回転電機。
【請求項7】
上記スリップリング保護部材は、少なくとも一部分に回転センサもしくは回転センサの少なくとも一部を備えることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の制御装置一体型回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−106361(P2013−106361A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246228(P2011−246228)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】