説明

制御装置

【課題】変速機構の変速段を切り替える際に、回転電機及び内燃機関の双方により、入力部材の回転速度を変化させるためのトルクを出力させることができる制御装置の実現。
【解決手段】回転電機及び内燃機関を有する駆動力源に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、選択された変速段の変速比に応じて入力部材の回転速度を変速して出力部材に伝達する変速機構と、を備えた車両用駆動装置を制御するための制御装置であって、変速段を切り替える際に、入力部材の回転速度を変化させるために駆動力源に出力させるトルクの指令値である回転変化トルク指令値を算出し、回転電機に出力させるトルクの絶対値が所定のしきい値より大きくなると判定した場合は、回転電機及び内燃機関の双方により回転変化トルク指令値に応じたトルクを出力させる制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機及び内燃機関を有する駆動力源に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、切り替え可能に有する複数の変速段の内の選択された変速段の変速比に応じて前記入力部材の回転速度を変速して前記出力部材に伝達する変速機構と、を備えた車両用駆動装置を制御するための制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関及び回転電機を駆動力源として備えるハイブリッド車両用の駆動装置として、例えば、下記の特許文献1に記載された装置が既に知られている。特許文献1の技術は、変速機構の変速段を切り替える際に、入力部材の回転速度を変化させるためのトルクを回転電機に出力させることが可能であれば、回転電機を用いて入力部材の回転速度を変化させて、変速段を切り替えるが、回転電機に出力させることが可能でなければ、内燃機関を用いて入力部材の回転速度を変化させて、変速段を切り替えるように構成されている。
【0003】
ところが、特許文献1の技術は、回転電機及び内燃機関のいずれか一方に、入力部材の回転速度を変化させるためのトルクを出力させる技術であり、回転電機及び内燃機関の双方により、入力部材の回転速度を変化させるためのトルクを出力させることには対応し得ない。よって、特許文献1の技術では、変速段を切り替える際に、回転電機及び内燃機関を協調させて、それぞれの特性を適切に利用して制御したり、回転電機及び内燃機関の双方にトルクを出力させて、入力部材の回転速度の変化を速めたりすることには対応し得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−331602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、変速機構の変速段を切り替える際に、回転電機及び内燃機関の双方により、入力部材の回転速度を変化させるためのトルクを出力させることができる制御装置が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る、回転電機及び内燃機関を有する駆動力源に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、切り替え可能に有する複数の変速段の内の選択された変速段の変速比に応じて前記入力部材の回転速度を変速して前記出力部材に伝達する変速機構と、を備えた車両用駆動装置を制御するための制御装置の特徴構成は、前記変速段を切り替える際に、前記入力部材の回転速度を変化させるために前記駆動力源に出力させるトルクの指令値である回転変化トルク指令値を算出し、前記回転変化トルク指令値に応じて前記回転電機にトルクを出力させると共に、当該回転電機に出力させるトルクの絶対値が所定のしきい値より大きくなると判定した場合は、前記回転電機の出力トルクが前記所定のしきい値以下になるように、前記回転電機及び前記内燃機関の双方により前記回転変化トルク指令値に応じたトルクを出力させる点にある。
【0007】
なお、本願において「回転電機」は、モータ(電動機)、ジェネレータ(発電機)、及び必要に応じてモータ及びジェネレータの双方の機能を果たすモータ・ジェネレータのいずれをも含む概念として用いている。
また、本願において「駆動連結」とは、2つの回転要素が駆動力を伝達可能に連結された状態を指し、当該2つの回転要素が一体的に回転するように連結された状態、或いは当該2つの回転要素が一又は二以上の伝動部材を介して駆動力を伝達可能に連結された状態を含む概念として用いている。このような伝動部材としては、回転を同速で又は変速して伝達する各種の部材が含まれ、例えば、軸、歯車機構、ベルト、チェーン等が含まれる。また、このような伝動部材として、回転及び駆動力を選択的に伝達する係合要素、例えば摩擦クラッチや噛み合い式クラッチ等が含まれていてもよい。
【0008】
上記の特徴構成によれば、変速段を切り替える際に、回転電機に、回転変化トルク指令値に応じたトルクを出力させることができると共に、回転電機に出力させるトルクの絶対値が所定のしきい値より大きくなると判定した場合は、回転電機及び内燃機関の双方により回転変化トルク指令値に応じたトルクを出力させることができる。
よって、内燃機関よりも比較的に応答性及び精度が高い回転電機に、優先的に回転変化トルク指令値に応じたトルクを出力させることができる。従って、変速段を切り替える際に、入力部材の回転速度の変化の制御精度及び応答性を向上することができる。これによって、変速段を切り替える際に、トルクショックが生じることを抑制できると共に、入力部材の回転速度の変化の応答性を向上することできる。
また、回転電機に出力させるトルクの絶対値が所定のしきい値より大きくなると判定した場合には、回転電機に加えて内燃機関にも、回転変化トルク指令値に応じたトルクを出力させるので、変速段を切り替える際に、回転電機と内燃機関との双方のトルクを併せて用いることによって、入力部材の回転速度の変化を速くすることが可能となる。
【0009】
ここで、前記回転変化トルク指令値として、少なくとも、前記入力部材の回転速度が目標回転速度変化に沿うように前記回転変化トルク指令値をフィードバック的に変化させるフィードバック指令値を算出可能であり、前記内燃機関よりも優先させて、前記回転電機に対するフィードバック指令値を算出する構成とすると好適である。
【0010】
この構成によれば、内燃機関よりも優先させて、比較的にトルク出力の応答性及び精度が高い回転電機に対するフィードバック指令値を算出するので、応答性及び精度のよいフィードバック制御を行うことができる。よって、車両用駆動装置の特性変動、又は制御装置の制御誤差などの外乱要因により入力部材の回転速度が目標回転速度変化から変動するような場合でも、回転電機を用いたフィードバック制御により、ロバスト性高く入力部材の回転速度を目標回転速度変化に維持することができる。
【0011】
ここで、前記回転変化トルク指令値として、前記回転変化トルク指令値をフィードフォワード的に変化させるフィードフォワード指令値と、前記入力部材の回転速度が目標回転速度変化に沿うように前記回転変化トルク指令値をフィードバック的に変化させるフィードバック指令値と、を算出可能であり、前記回転変化トルク指令値の絶対値を減少させる際に、前記内燃機関に対するフィードフォワード指令値よりも優先的に、前記回転電機に対するフィードフォワード指令値の絶対値を減少させ、前記回転電機に対するフィードフォワード指令値の絶対値の減少を開始した後に、前記内燃機関よりも優先させて、前記回転電機に対するフィードバック指令値を算出すると好適である。
【0012】
この構成によれば、回転変化トルク指令値の絶対値を減少させる際に、内燃機関に対するフィードフォワード指令値よりも優先的に、回転電機に対するフィードフォワード指令値の絶対値を減少させているので、回転変化トルク指令値の絶対値を減少させ始めてから速やかに、回転電機の出力トルクにおいて、フィードバック指令値に応じたトルクを出力させる余裕を確保することができる。よって、回転変化トルク指令値の絶対値を減少させ始めてから速やかに、回転電機を用いたフィードバック制御により、ロバスト性高く入力部材の回転速度を目標回転速度変化に維持することができる。
また、入力部材の回転速度が変速段の切り替え後の回転速度に近づいた際に、回転変化トルク指令値の絶対値が減少されるように構成されている場合は、回転電機を用いたフィードバック制御により、入力部材に伝達される回転変化トルクを精度良く減少させることができる。よって、入力部材の回転速度が変速段の切り替え後の回転速度に到達したときに、入力部材の回転速度の変化を変速段の切り替え後の回転速度の変化に精度よく近づけることができる。従って、変速段を切り替える際に、トルクショックが生じることを抑制できる。
【0013】
また、前記回転電機に対するフィードフォワード指令値の絶対値をゼロまで減少させた後に、前記内燃機関よりも優先させて、前記回転電機に対するフィードバック指令値を算出する構成とすると好適である。
【0014】
この構成によれば、回転電機に対するフィードバック指令値は、回転電機に対するフィードフォワード指令値の絶対値をゼロまで減少させた後に算出される。よって、フィードバック制御のための、回転電機による回転変化トルク指令値の操作幅を、正方向及び負方向の双方にバランスよく確保することができる。そのため、フィードバック指令値を正方向又は負方向に増加させてフィードバック制御の時間応答を向上させたり、正方向及び負方向の双方の外乱に対してバランスよく適応させたりすることができる。
【0015】
また、前記回転電機に対するフィードフォワード指令値の絶対値をゼロまで減少させた後に、前記回転変化トルク指令値における前記フィードフォワード指令値の全部を前記内燃機関に対するフィードフォワード指令値として算出すると共に、前記回転変化トルク指令値における前記フィードバック指令値の全部を前記回転電機に対するフィードバック指令値として算出する構成とすると好適である。
【0016】
この構成によれば、回転電機に対するフィードフォワード指令値の絶対値をゼロまで減少させた後は、内燃機関にフィードフォワード指令値の全部に応じたトルクを出力させ、回転電機にフィードバック指令値の全部に応じたトルクを出力させる。よって、内燃機関と回転電機とに役割分担をさせて、回転変化トルク指令値に相当するトルクを出力させることができる。すなわち、比較的にトルク出力の応答性及び精度が低い内燃機関により、入力部材の回転速度を目標回転速度変化にフィードフォワード的に大まかに沿わせるためのトルクを出力させ、比較的にトルク出力の応答性及び精度が高い回転電機により、入力部材の回転速度を目標回転速度変化にフィードバック的に精度のよく沿わせるためのトルクを出力させることができる。従って、内燃機関及び回転電機の双方の特性を適切に利用した制御を行うことができる。
【0017】
また、前記回転変化トルク指令値として、少なくとも前記回転変化トルク指令値をフィードフォワード的に変化させるフィードフォワード指令値を算出可能であり、前記回転変化トルク指令値の絶対値の減少を開始する以前は、前記回転電機に対するフィードフォワード指令値の絶対値を、前記回転電機の出力トルクが前記所定のしきい値以下の範囲内で、前記内燃機関に対するフィードフォワード指令値よりも優先的に増加させると好適である。
【0018】
この構成によれば、内燃機関よりも比較的にトルク出力の応答性及び精度が高い回転電機に、優先的にフィードフォワード指令値に応じたトルクを出力させることができる。従って、入力部材の回転速度を変化させる際に、入力部材の回転速度の変化の制御精度及び応答性を向上することができる。
【0019】
また、前記回転変化トルク指令値に応じて前記回転電機に出力させるトルクの絶対値が前記所定のしきい値より大きくなると判定した場合は、前記所定のしきい値を超える分のトルクを、前記内燃機関に出力させる構成とすると好適である。
【0020】
この構成によれば、所定のしきい値を超える分のトルクを、内燃機関に出力させるので、回転電機に出力させるトルクの絶対値が所定のしきい値より大きくなることを抑制できると共に、回転電機及び内燃機関の双方により、回転変化トルク指令値に応じたトルクを出力させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用駆動装置及び制御装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る制御装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る変速中回転速度変化制御部の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の実施形態に係る変速中回転速度変化制御部の詳細構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を示すタイミングチャートである。
【図6】本発明の実施形態とは一部が異なる制御装置の処理を示すタイミングチャートである。
【図7】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を示すタイミングチャートである。
【図8】本発明の実施形態とは一部が異なる制御装置の処理を示すタイミングチャートである。
【図9】本発明の実施形態に係る制御装置の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔第一の実施形態〕
本発明に係る制御装置30の実施形態について、図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る車両用駆動装置1の概略構成を示す模式図である。この図に示すように、車両用駆動装置1を搭載した車両は、車両の駆動力源として内燃機関であるエンジンEと回転電機MGを備えたハイブリッド車両とされている。この図において、実線は駆動力の伝達経路を示し、破線は作動油の供給経路を示し、一点鎖線は信号の伝達経路を示している。本実施形態では、制御装置30は、回転電機MG及びエンジンEを有する駆動力源に駆動連結される入力軸Iと、車輪Wに駆動連結される出力軸Oと、切り替え可能に有する複数の変速段の内の選択された変速段の変速比に応じて入力軸Iの回転速度Niを変速して出力軸Oに伝達する変速機構TMと、を備えた車両用駆動装置1を制御するための装置である。本実施形態では、エンジンEは、エンジン分離クラッチCLを介して、入力軸Iに駆動連結される。なお、入力軸Iが、本発明における「入力部材」であり、出力軸Oが、本発明における「出力部材」である。
【0023】
また、制御装置30は、回転電機MGの制御を行う回転電機制御ユニット32と、変速機構TM及びエンジン分離クラッチCLの制御を行う動力伝達制御ユニット33と、これらの制御装置を統合して車両用駆動装置1の制御を行う車両制御ユニット34と、を有している。また、ハイブリッド車両には、エンジンEの制御を行うエンジン制御装置31も備えられている。
【0024】
このような構成において、本実施形態に係る制御装置30は、図2に示すように、変速中回転速度変化制御部40を備えている。変速中回転速度変化制御部40は、変速機構TMの変速段を切り替える際に入力軸Iの回転速度Niを変化させるために駆動力源に出力させるトルクの指令値である回転変化トルク指令値Taを算出し、回転変化トルク指令値Taに応じて回転電機MGにトルクを出力させると共に、当該回転電機MGに出力させるトルクの絶対値が所定のしきい値より大きくなると判定した場合は、回転電機の出力トルクが所定のしきい値以下になるように、回転電機MG及びエンジンEの双方により回転変化トルク指令値Taに応じたトルクを出力させる変速中回転速度変化制御を実行する。以下、本実施形態に係る車両用駆動装置1及び制御装置30について、詳細に説明する。
【0025】
1.車両用駆動装置の構成
まず、本実施形態に係るハイブリッド車両の車両用駆動装置1の構成について説明する。図1に示すように、ハイブリッド車両は、車両の駆動力源としてエンジンE及び回転電機MGを備え、これらのエンジンEと回転電機MGとが直列に駆動連結されるパラレル方式のハイブリッド車両となっている。ハイブリッド車両は、変速機構TMを備えており、当該変速機構TMにより、入力軸Iに伝達されたエンジンE及び回転電機MGの回転速度を変速すると共にトルクを変換して出力軸Oに伝達する。
【0026】
エンジンEは、燃料の燃焼により駆動される内燃機関であり、例えば、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの公知の各種エンジンを用いることができる。本例では、エンジンEのクランクシャフト等のエンジン出力軸Eoが、エンジン分離クラッチCLを介して、回転電機MGに駆動連結された入力軸Iと選択的に駆動連結される。すなわち、エンジンEは、摩擦係合要素であるエンジン分離クラッチCLを介して回転電機MGに選択的に駆動連結される。また、エンジン出力軸Eoが、不図示のダンパを介してエンジン分離クラッチCLの係合部材に駆動連結されている。
【0027】
回転電機MGは、非回転部材に固定されたステータと、このステータの径方向内側に回転自在に支持されたロータと、を有している。この回転電機MGのロータは、入力軸Iと一体回転するように駆動連結されている。すなわち、本実施形態においては、入力軸IにエンジンE及び回転電機MGの双方が駆動連結される構成となっている。回転電機MGは、直流交流変換を行うインバータを介して蓄電装置としてのバッテリに電気的に接続されている。そして、回転電機MGは、電力の供給を受けて動力を発生するモータ(電動機)としての機能と、動力の供給を受けて電力を発生するジェネレータ(発電機)としての機能と、を果たすことが可能とされている。すなわち、回転電機MGは、インバータを介してバッテリからの電力供給を受けて力行し、或いはエンジンEや車輪Wから伝達される回転駆動力により発電した電力を、インバータを介してバッテリに蓄電する。なお、バッテリは蓄電装置の一例であり、キャパシタなどの他の蓄電装置を用い、或いは複数種類の蓄電装置を併用することも可能である。なお、以下では回転電機MGによる発電を回生と称し、発電中に回転電機MGが出力する負トルクを回生トルクと称する。回転電機MGの目標出力トルクが負トルクの場合には、回転電機MGは、エンジンEや車輪Wから伝達される回転駆動力により発電しつつ回生トルクを出力する状態となる。また、以下では、回転電機MGが電動機として機能する場合に出力する正トルクを電動トルクと称する。
【0028】
回転電機MGが、電動機として機能して、正トルクである電動トルクを出力する場合に、回転電機の出力トルク(電動トルク)には、出力可能な上限値が存在する。一方、回転電機MGが、発電機として機能して、負トルクである回生トルクを出力する場合に、回転電機の出力トルク(回生トルク)には、出力可能な下限値が存在する。なお、この上限値及び下限値は、回転電機MGの回転速度に応じて変化する。また、上限値及び下限値は、蓄電装置の充電量に応じても変化する。
【0029】
駆動力源が駆動連結される入力軸Iには、変速機構TMが駆動連結されている。本実施形態では、変速機構TMは、変速比の異なる複数の変速段を有する有段の自動変速装置である。変速機構TMは、これら複数の変速段を形成するため、遊星歯車機構等の歯車機構と複数の摩擦係合要素B1、C1、・・・とを備えている。この変速機構TMは、各変速段の変速比で、入力軸Iの回転速度Niを変速するとともにトルクを変換して、出力軸Oへ伝達する。変速機構TMから出力軸Oへ伝達されたトルクは、出力用差動歯車装置DFを介して左右二つの車軸AXに分配されて伝達され、各車軸AXに駆動連結された車輪Wに伝達される。ここで、変速比は、変速機構TMにおいて各変速段が形成された場合の、出力軸Oの回転速度に対する入力軸Iの回転速度Niの比であり、本願では入力軸Iの回転速度Niを出力軸Oの回転速度で除算した値である。すなわち、入力軸Iの回転速度Niを変速比で除算した回転速度が、出力軸Oの回転速度になる。また、入力軸Iから変速機構TMに伝達されるトルクに、変速比を乗算したトルクが、変速機構TMから出力軸Oに伝達されるトルクになる。
【0030】
本例では、複数の摩擦係合要素B1、C1、・・・、及びエンジン分離クラッチCLは、それぞれ摩擦材を有して構成されるクラッチやブレーキ等の係合要素である。これらの摩擦係合要素CL、B1、C1、・・・は、供給される油圧を制御することによりその係合圧を制御して伝達トルク容量の増減を連続的に制御することが可能とされている。このような摩擦係合要素としては、例えば湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキ等が好適に用いられる。
【0031】
摩擦係合要素は、その係合部材間の摩擦により、係合部材間でトルクを伝達する。摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がある場合は、動摩擦により回転速度の大きい方の部材から小さい方の部材に伝達トルク容量の大きさのトルク(スリップトルク)が伝達される。摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がない場合は、摩擦係合要素は、伝達トルク容量の大きさを上限として、静摩擦により摩擦係合要素の係合部材間に作用するトルクを伝達する。ここで、伝達トルク容量とは、摩擦係合要素が摩擦により伝達することができる最大のトルクの大きさである。伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合要素の係合圧に比例して変化する。係合圧とは、入力側係合部材(摩擦板)と出力側係合部材(摩擦板)とを相互に押し付け合う圧力である。本実施形態では、係合圧は、供給されている油圧の大きさに比例して変化する。すなわち、本実施形態では、伝達トルク容量の大きさは、摩擦係合要素に供給されている油圧の大きさに概ね比例して変化する。
【0032】
各摩擦係合要素は、リターンばねを備えており、ばねの反力により解放側に付勢されている。そして、各摩擦係合要素の油圧シリンダに供給される油圧により生じる力がばねの反力を上回ると、各摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じ始め、各摩擦係合要素は、解放状態から係合状態に変化する。この伝達トルク容量が生じ始めるときの油圧を、ストロークエンド圧と称す。各摩擦係合要素は、供給される油圧がストロークエンド圧を上回った後、油圧の増加に比例して、その伝達トルク容量が増加するように構成されている。
【0033】
本実施形態において、係合状態とは、摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じている状態であり、解放状態とは、摩擦係合要素に伝達トルク容量が生じていない状態である。また、滑り係合状態とは、摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がある係合状態であり、直結係合状態とは、摩擦係合要素の係合部材間に回転速度差(滑り)がない係合状態である。また、非直結係合状態とは、直結係合状態以外の係合状態であり、解放状態と滑り係合状態とが含まれる。
【0034】
2.油圧制御系の構成
次に、車両用駆動装置1の油圧制御系について説明する。油圧制御系は、機械式や電動式の油圧ポンプから供給される作動油の油圧を所定圧に調整するための油圧制御装置PCを備えている。ここでは詳しい説明を省略するが、油圧制御装置PCは、油圧調整用のリニアソレノイド弁からの信号圧に基づき一又は二以上の調整弁の開度を調整することにより、当該調整弁からドレインする作動油の量を調整して作動油の油圧を一又は二以上の所定圧に調整する。所定圧に調整された作動油は、それぞれ必要とされるレベルの油圧で、変速機構TM、及びエンジン分離クラッチCLの各摩擦係合要素等に供給される。
【0035】
3.制御装置の構成
次に、車両用駆動装置1の制御を行う制御装置30の構成について説明する。本実施形態では、図1、2に示すように、制御装置30は、回転電機MGの制御を行う回転電機制御ユニット32と、変速機構TM及びエンジン分離クラッチCLの制御を行う動力伝達制御ユニット33と、これらの制御装置を統合して車両用駆動装置1の制御を行う車両制御ユニット34と、を有している。また、制御装置30は、エンジンEの制御を行うエンジン制御装置31と、通信可能に接続されている。
【0036】
制御装置30の制御ユニット32〜34及びエンジン制御装置31は、CPU等の演算処理装置を中核部材として備えるとともに、当該演算処理装置からデータを読み出し及び書き込みが可能に構成されたRAM(ランダム・アクセス・メモリ)や、演算処理装置からデータを読み出し可能に構成されたROM(リード・オンリ・メモリ)等の記憶装置等を有して構成されている。そして、制御装置のROM等に記憶されたソフトウェア(プログラム)又は別途設けられた演算回路等のハードウェア、或いはそれらの両方により、制御装置3の各機能部40〜42などが構成されている。また、制御装置3の制御ユニット32〜34及びエンジン制御装置31は、互いに通信を行うように構成されており、センサの検出情報及び制御パラメータ等の各種情報を共有するとともに協調制御を行い、各機能部40〜42の機能が実現される。
【0037】
また、車両用駆動装置1は、センサSe1〜Se4を備えており、各センサから出力される電気信号は制御装置30に入力される。制御装置30は、入力された電気信号に基づき各センサの検出情報を算出する。エンジン回転速度センサSe1は、エンジン出力軸Eo(エンジンE)の回転速度を検出するためのセンサである。制御装置30は、エンジン回転速度センサSe1の入力信号に基づいてエンジンEの回転速度を検出する。入力軸回転速度センサSe2は、入力軸Iの回転速度Niを検出するためのセンサである。入力軸Iには回転電機MGのロータが一体的に駆動連結されているので、制御装置30は、入力軸回転速度センサSe2の入力信号に基づいて入力軸I及び回転電機MGの回転速度を検出する。出力軸回転速度センサSe3は、出力軸Oの回転速度を検出するためのセンサである。制御装置30は、出力軸回転速度センサSe3の入力信号に基づいて出力軸Oの回転速度を検出する。また、出力軸Oの回転速度は車速に比例するため、制御装置30は、出力軸回転速度センサSe3の入力信号に基づいて車速を算出する。また、アクセル開度検出センサSe4は、運転者により操作されるアクセルペダルAPの操作量を検出することによりアクセル開度を検出するためのセンサである。制御装置30は、アクセル開度検出センサSe4の入力信号に基づいてアクセル開度を検出する。
【0038】
3−1.エンジン制御装置
エンジン制御装置31は、エンジン制御部80を備えている。エンジン制御部80は、エンジンEの動作制御を行う機能部である。本実施形態では、エンジン制御部80は、車両制御ユニット34からエンジンEの目標出力トルクが指令されている場合は、車両制御ユニット34から指令された目標出力トルクをトルク指令値に設定し、エンジンEがトルク指令値のトルクを出力するように制御するトルク制御を行う。なお、エンジンEの目標出力トルクが負トルクである場合は、必要に応じて、エンジン制御装置31は、燃料供給を停止したり、スロットル開度を減少させてポンプトルクの大きさを増加させたりすることにより、エンジンの出力トルクを負トルクにも制御できる。
【0039】
3−2.回転電機制御ユニット
回転電機制御ユニット32は、回転電機制御部81を備えている。回転電機制御部81は、回転電機MGの動作制御を行う機能部である。本実施形態では、回転電機制御部81は、車両制御ユニット34から回転電機MGの目標出力トルクが指令されている場合は、回転電機目標出力トルクをトルク指令値に設定し、回転電機MGがトルク指令値のトルクを出力するように制御する。
【0040】
回転電機MGは、基本的に正方向に回転するため、トルク指令値が負に設定されている場合は、回転電機MGは発電を行う。すなわち、回転電機MGは正方向に回転しつつ負方向の回生トルクを出力して発電する。一方、トルク指令値が正に設定されている場合は、回転電機MGは力行する。
【0041】
3−3.動力伝達制御ユニット
動力伝達制御ユニット33は、変速機構TM、及びエンジン分離クラッチCLの制御を行う制御ユニットである。動力伝達制御ユニット33には、入力軸回転速度センサSe2、出力軸回転速度センサSe3等のセンサの検出情報が入力されている。動力伝達制御ユニット33は、変速機構制御部82、及びエンジン分離クラッチ制御部83を備えている。
【0042】
3−3−1.変速機構制御部
変速機構制御部82は、変速機構TMを制御する機能部である。変速機構制御部82は、車速、アクセル開度、及びシフト位置などのセンサ検出情報に基づいて変速機構TMにおける目標変速段を決定する。そして、変速機構制御部82は、図1に示す油圧制御装置PCを介して変速機構TMに備えられた各摩擦係合要素C1、B1、・・・に供給される油圧を制御することにより、各摩擦係合要素を係合又は解放して目標とされた変速段を変速機構TMに形成させる。具体的には、変速機構制御部82は、油圧制御装置PCに各摩擦係合要素B1、C1、・・・の目標油圧(指令圧)を指令し、油圧制御装置PCは、指令された目標油圧(指令圧)の油圧を各摩擦係合要素に供給する。
【0043】
変速機構制御部82は、不図示のメモリに格納された変速マップを参照し、目標変速段を決定する。変速マップは、アクセル開度及び車速と、変速機構TMにおける目標変速段との関係を規定したマップである。変速マップには複数のアップシフト線と複数のダウンシフト線とが設定されており、車速及びアクセル開度が変化して変速マップ上でアップシフト線又はダウンシフト線を跨ぐと、変速機構制御部82は、変速機構TMにおける新たな目標変速段を決定する。また、シフト位置の変更があった場合も、目標変速段が変更される。例えば、セカンドレンジ、又はローレンジに変更されたと検出した場合にも、目標変速段が変更される場合がある。なお、ここでは、アップシフトとは変速比の大きい変速段から変速比の小さい変速段への切り替えを意味し、ダウンシフトとは変速比の小さい変速段から変速比の大きい変速段への切り替えを意味する。
【0044】
変速機構制御部82は、変速段の切り替え制御(変速制御)を行なう場合は、各摩擦係合要素B1、C1、・・・の油圧指令を制御して、各摩擦係合要素の係合又は解放を行い、変速機構TMに形成させる変速段を目標変速段に切り替える。この際、変速機構制御部82は、予め計画された変速制御のシーケンスに従い、変速前において係合している摩擦係合要素のうちの一つ(以下、解放側要素と称す)を解放させると共に、変速前において解放されている摩擦係合要素のうちの一つ(以下、係合側要素と称す)を係合させる、いわゆる架け替え変速を行う。例えば、ダウンシフトが行われる場合には、変速機構制御部82は、変速比が大きい高速段を形成する摩擦係合要素の1つである解放側要素を解放させるとともに、変速比が小さい低速段を形成する摩擦係合要素の1つである係合側要素を係合させるダウンシフト制御を行う。また、アップシフトが行われる場合には、変速機構制御部82は、変速比が小さい低速段を形成する摩擦係合要素の1つである解放側要素を解放させるとともに、変速比が大きい高速段を形成する摩擦係合要素の1つである係合側要素を係合させるアップシフト制御を行う。
【0045】
また、変速段を切り替える際には、後述する変速中回転速度変化制御部40が、入力軸Iの回転速度Niを変速前の同期回転速度から変速後の同期回転速度に変化させるために、回転変化トルク指令値Taを、回転電機MG及びエンジンEの双方により出力させる変速中回転速度変化制御を行う。
【0046】
3−3−2.エンジン分離クラッチ制御部
エンジン分離クラッチ制御部83は、エンジン分離クラッチCLの係合状態を制御する。本実施形態では、エンジン分離クラッチ制御部83は、エンジン分離クラッチCLの伝達トルク容量が、車両制御ユニット34から指令された伝達トルク容量指令に一致するように、油圧制御装置PCを介してエンジン分離クラッチ制御部83に供給される油圧を制御する。具体的には、エンジン分離クラッチ制御部83は、伝達トルク容量指令に基づき設定した目標油圧(指令圧)を、油圧制御装置PCに指令し、油圧制御装置PCは、指令された目標油圧(指令圧)の油圧をエンジン分離クラッチCLに供給する。本実施形態では、エンジン分離クラッチCLは、特に明記しない場合は、直結係合状態に制御されているものとする。
【0047】
3−4.車両制御ユニット
車両制御ユニット34は、エンジンE、回転電機MG、変速機構TM、及びエンジン分離クラッチCL等に対して行われる各種トルク制御、及び各摩擦係合要素の係合制御等を車両用駆動装置1全体として統合する制御を行う機能部を備えている。
【0048】
車両制御ユニット34は、アクセル開度、車速、及びバッテリの充電量等に応じて、入力軸I側から出力軸O側に伝達される目標駆動力である車両要求トルクTrを算出するとともに、エンジンE及び回転電機MGの運転モードを決定する。そして、車両制御ユニット34は、車両要求トルクTr及び運転モードに応じて、エンジンEの目標出力トルク、回転電機MGの目標出力トルク、及びエンジン分離クラッチCLの目標伝達トルク容量を算出し、それらを他の制御ユニット32、33及びエンジン制御装置31に指令して統合制御を行う。
【0049】
3−4−1.変速中回転速度変化制御部
本実施形態では、車両制御ユニット34は、上記したように、変速中回転速度変化制御部40を備えている。変速中回転速度変化制御部40は、変速機構TMの変速段を切り替える際に入力軸Iの回転速度Niを変化させるために駆動力源に出力させるトルクの指令値である回転変化トルク指令値Taを算出し、回転変化トルク指令値Taに応じて回転電機MGにトルクを出力させると共に、回転電機MGに出力させるトルクの絶対値が所定のしきい値より大きくなると判定した場合は、回転電機の出力トルクが所定のしきい値以下になるように、回転電機MG及びエンジンEの双方により回転変化トルク指令値Taに応じたトルクを出力させる変速中回転速度変化制御を実行する。
なお、回転電機MGに出力させるトルクの絶対値が所定のしきい値より大きくなると判定した場合とは、変速中回転速度変化制御中に一度でも回転電機MGに出力させるトルクの絶対値が所定のしきい値より大きくなると判定した場合であり、当該判定が一度でもされた場合には、変速中回転速度変化制御中に回転電機MG及びエンジンEの双方により回転変化トルク指令値Taに応じたトルクを出力させる。
【0050】
本実施形態では、変速中回転速度変化制御部40は、図3に示すように、回転変化トルク指令算出器41、及び回転変化トルク指令割当器42を備えている。
回転変化トルク指令算出器41は、変速段の切り替える際に回転変化トルク指令値Taを算出する。
回転変化トルク指令割当器42は、回転変化トルク指令値Taに応じて回転電機MGにトルクを出力させる。この際、回転変化トルク指令割当器42は、回転電機MGに出力させるトルクの絶対値が所定のしきい値より大きくなると判定した場合は、回転電機の出力トルクが所定のしきい値以下になるように、回転変化トルク指令値Taを回転電機MG及びエンジンEの双方に割り当てて、エンジン回転変化トルク指令値Taeと、回転電機回転変化トルク指令値Tamと、を算出する。
本実施形態では、所定のしきい値は、回転電機MGが出力可能な最大値としての上限値(絶対値)又は下限値(絶対値)に設定されている。すなわち、回転変化トルク指令割当器42は、回転電機MGに出力させるトルクが、正方向に上限値より大きくなると判定した場合は、回転電機の出力トルクが上限値以下になるように、回転電機MG及びエンジンEの双方により回転変化トルク指令値Taに応じたトルクを出力させる。また、回転変化トルク指令割当器42は、回転電機MGに出力させるトルクが、負方向に下限値より小さくなると判定した場合は、回転電機の出力トルクが下限値以上になるように、回転電機MG及びエンジンEの双方により回転変化トルク指令値Taに応じたトルクを出力させる。
なお、所定のしきい値は、回転電機MGが出力可能な最大値としての上限値(絶対値)又は下限値(絶対値)よりも小さい大きさの値に設定されるようにしてもよい。
【0051】
そして、本実施形態では、車両制御ユニット34は、エンジン回転変化トルク指令値Taeを、エンジンEの目標出力トルクに反映させて、エンジンEにエンジン回転変化トルク指令値Taeに応じたトルクを出力させる。また、車両制御ユニット34は、回転電機回転変化トルク指令値Tamを、回転電機MGの目標出力トルクに反映させて、回転電機MGに回転電機回転変化トルク指令値Tamに応じたトルクを出力させる。
【0052】
このように構成すれば、変速段を切り替える際に、回転電機MGに、回転変化トルク指令値Taに応じたトルクを出力させることができると共に、回転電機MGに出力させるトルクの絶対値が所定のしきい値より大きくなると判定した場合は、回転電機MG及びエンジンEの双方により回転変化トルク指令値Taに応じたトルクを出力させることができる。
よって、エンジンEよりも比較的にトルク出力の応答性及び精度が高い回転電機MGに、優先的に回転変化トルク指令値Taに応じたトルクを出力させることができる。従って、変速段を切り替える際に、入力軸Iの回転速度Niの変化の制御精度及び応答性を向上することができる。よって、変速段を切り替える際に、トルクショックが生じることを抑制できると共に、入力軸Iの回転速度Niの変化の応答性を向上することができる。
また、回転電機MGに出力させるトルクの絶対値が所定のしきい値より大きくなると判定した場合には、回転電機MGに加えてエンジンEにも、回転変化トルク指令値Taに応じたトルクを出力させるので、変速段を切り替える際に、入力軸Iの回転速度Niの変化の大きさを大きくすることができる。
【0053】
なお、本実施形態では、変速中回転速度変化制御部40は、変速段を切り替える際に、回転変化トルク指令値Taを変化させて、入力軸Iの回転速度Niを変速前の同期回転速度から変速後の同期回転速度まで変化させる。この入力軸Iの回転速度Niを変化させている期間を、以下ではイナーシャ制御相と称する。
より具体的には、変速中回転速度変化制御部40は、入力軸Iの回転速度Niを変速前の同期回転速度から変化させ始めた後に、回転変化トルク指令値Taの絶対値を増加させ、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に近づいた場合に、回転変化トルク指令値Taの絶対値を減少させる。これにより、入力軸Iの回転速度Niを変速前の同期回転速度から変速後の同期回転速度に変化させることができる。また、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に到達する時の、入力軸Iの回転速度Niの変化である目標加速度と、変速後の同期回転速度の変化である回転加速度とを近づける(同期させる)ことができ、係合側要素の係合時にトルクショックが生じることを抑制できる。
【0054】
ここで、変速前後の各変速段における入力軸Iの同期回転速度は、出力軸Oの回転速度に各変速段の変速比を乗算した回転速度に設定される。すなわち、変速後の同期回転速度は、係合側要素における入力軸側の係合部材の回転速度が、その出力軸側の係合部材の回転速度まで変化して一致(同期)したと仮定した場合における入力軸Iの回転速度Niである。同様に、変速前の同期回転速度は、解放側要素における入力軸側の係合部材の回転速度が、その出力軸側の係合部材の回転速度に一致(同期)していると仮定した場合における入力軸Iの回転速度Niである。
【0055】
また、変速中回転速度変化制御部40は、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に到達する時における入力軸Iの回転速度Niの変化を、変速後の同期回転速度の変化に精度良く近づけるために、フィードフォワード的に回転変化トルク指令値Taを変化させることに加えて、フィードバック的に回転変化トルク指令値Taを変化させる。
【0056】
本実施形態では、回転変化トルク指令算出器41は、回転変化トルク指令値Taとして、少なくとも、入力軸Iの回転速度Niが目標回転速度変化αoに沿うように回転変化トルク指令値Taをフィードバック的に変化させるフィードバック指令値Tafbを算出可能である。そして、回転変化トルク指令割当器42は、エンジンEよりも優先させて、回転電機MGに対するフィードバック指令値である回転電機フィードバック指令値Tafbmを算出する。
【0057】
このように構成すれば、エンジンEよりも優先させて、比較的にトルク出力の応答性及び精度が高い回転電機MGに対するフィードバック指令値Tafbを算出するので、応答性及び精度のよいフィードバック制御を行うことができる。よって、車両用駆動装置1の特性変動、又は制御装置30の制御誤差などの外乱要因により入力軸Iの回転速度Niが目標回転速度変化αoから変動するような場合でも、回転電機MGを用いたフィードバック制御により、ロバスト性高く入力軸Iの回転速度Niを目標回転速度変化αoに維持することができる。
【0058】
また、本実施形態では、回転変化トルク指令算出器41は、回転変化トルク指令値Taとして、回転変化トルク指令値Taをフィードフォワード的に変化させるフィードフォワード指令値Taffと、入力軸Iの回転速度Niが目標回転速度変化αoに沿うように回転変化トルク指令値Taをフィードバック的に変化させるフィードバック指令値Tafbと、を算出可能である。
回転変化トルク指令割当器42は、回転変化トルク指令値Taの絶対値を減少させる際に、エンジンEに対するフィードフォワード指令値であるエンジンフィードフォワード指令値Taffeよりも優先的に、回転電機MGに対するフィードフォワード指令値である回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値を減少させる。また、回転変化トルク指令割当器42は、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値の減少を開始した後に、エンジンEよりも優先させて、回転電機MGに対するフィードバック指令値である回転電機フィードバック指令値Tafbmを算出する。
【0059】
このように構成すれば、回転変化トルク指令値Taの絶対値を減少させる際に、エンジンフィードフォワード指令値Taffeよりも優先的に、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値を減少させているので、回転変化トルク指令値Taの絶対値を減少させ始めてから速やかに、回転電機の出力トルクにおいて、フィードバック指令値Tafbに応じたトルクを出力させる余裕を増加させることができる。よって、回転変化トルク指令値Taの絶対値を減少させ始めてから速やかに、回転電機MGを用いたフィードバック制御により、ロバスト性高く入力軸Iの回転速度Niを目標回転速度変化αoに維持することができる。
また、本実施形態では、後述するように、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に近づいた際に、回転変化トルク指令値Taの絶対値が減少されるように構成されており、回転電機MGを用いたフィードバック制御により、精度良く入力軸Iの回転速度Niの変化を減少させることができる。よって、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に到達するときに、入力軸Iの回転速度Niの変化(回転加速度)を変速後の同期回転速度の変化(回転加速度)に精度よく近づけることができる。従って、変速段を切り替える際に、トルクショックが生じることを精度良く抑制できる。
以下、本実施形態に係わる回転変化トルク指令算出器41及び回転変化トルク指令割当器42について詳細に説明する。
【0060】
3−4−1−1.回転変化トルク指令算出器
本実施形態では、回転変化トルク指令算出器41は、図4に示すように、フィードフォワード指令値Taffを算出するフィードフォワードトルク算出器44と、フィードバック指令値Tafbを算出するフィードバックトルク算出器45と、を備えている。そして、各算出器44、45は、目標回転速度変化αoに基づいて、フィードフォワード指令値Taffと、フィードバック指令値Tafbとを算出する。本実施形態では、目標回転速度変化αoは、入力軸Iの回転加速度の目標値とされている。
【0061】
本実施形態では、フィードフォワードトルク算出器44は、目標回転速度変化αo(回転加速度)に、入力軸Iと一体回転するエンジンE及び回転電機MGなどの各部材の慣性モーメント(イナーシャ)Jを乗算して算出したトルクを、フィードフォワード指令値Taffに設定する。また、フィードバックトルク算出器45は、入力軸Iの回転速度Niに基づいて算出した入力軸Iの回転加速度が、目標回転速度変化αo(目標回転加速度)に一致するように、フィードバック指令値Tafbを増減するフィードバック制御を行う。
【0062】
また、回転変化トルク指令算出器41は、入力軸Iの回転速度Niに基づいて、目標回転速度変化αoを算出する目標回転速度変化算出器43を備えている。本実施形態では、目標回転速度変化αoの絶対値は、入力軸Iの回転速度Niを変速前の同期回転速度から変化させ始めた後に増加され、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に近づくにつれて減少される。これにより、入力軸Iの回転速度Niを変速前の同期回転速度から変速後の同期回転速度に変化させることができる。更に、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に到達したときに、入力軸Iの回転速度Niの変化(回転加速度)と、変速後の同期回転速度の変化(回転加速度)とを近づける(同期させる)ことができ、係合側要素の係合時にトルクショックが生じることを抑制できる。
【0063】
また、目標回転速度変化算出器43は、入力軸Iの回転速度Niに基づいて、入力軸Iの回転速度Niと変速後の同期回転速度との回転速度差W1を算出し、回転速度差W1に応じて目標回転速度変化αoを設定する。ここで、回転速度差W1は、アップシフトの場合は、入力軸Iの回転速度Niから変速後の同期回転速度を減算して算出され、ダウンシフトの場合は、変速後の同期回転速度から入力軸Iの回転速度Niを減算して算出される。すなわち、回転速度差W1は、入力軸Iの回転速度Niと変速後の同期回転速度との回転速度差の絶対値となる。
【0064】
図4に示す例では、回転速度差W1は、変速前の同期回転速度と変速後の同期回転速度との回転速度差(絶対値)により、正規化された後の値とされている。すなわち、回転速度差W1は、実際の回転速度差W1を変速前後の同期回転速度の差により除算した値に、100%を乗算した値とされている。回転速度差W1が100%である場合は、入力軸Iの回転速度Niが変速前の同期回転速度に一致している状態であり、回転速度差W1が0%である場合は、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に一致している状態である。
【0065】
また、目標回転速度変化算出器43は、回転速度差W1に応じて目標回転速度変化αoが設定されている目標変化設定マップを備えており、回転速度差W1と、目標変化設定マップとに基づいて、目標回転速度変化αoを算出する。図4に示す例では、目標回転速度変化算出器43は、アップシフト用の目標変化設定マップと、ダウンシフト用の目標変化設定マップとを備えており、アップシフトを行う場合と、ダウンシフトを行う場合とで、目標変化設定マップが切り替えられるように構成されている。
【0066】
なお、回転変化トルク指令値Taの算出に用いられる目標回転速度変化αoは、上記のように算出した目標回転速度変化αoに、変速後の同期回転速度の加速度を加算した値に設定されるようにしてもよい。このように構成することにより、変速後の同期回転速度の加速度の絶対値が大きい場合でも、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に到達する時の、入力軸Iの回転速度Niの変化(回転加速度)と、変速後の同期回転速度の変化(回転加速度)とを、精度よく一致(同期)させることができ、トルクショックの発生を精度よく抑制することができる。
【0067】
3−4−1−2.回転変化トルク指令割当器
回転変化トルク指令割当器42は、上記したように、回転変化トルク指令値Taに応じて回転電機MGにトルクを出力させると共に、当該回転電機MGに出力させるトルクの絶対値が所定のしきい値より大きくなると判定した場合は、回転電機の出力トルクが所定のしきい値以下になるように、回転電機MG及びエンジンEの双方により回転変化トルク指令値Taに応じたトルクを出力させる。
より具体的には、回転変化トルク指令割当器42は、回転変化トルク指令値Taに応じて回転電機MGに出力させるトルクの絶対値が所定のしきい値より大きくなると判定した場合は、所定のしきい値を超える分のトルクを、エンジンEに出力させる。
本実施形態では、回転変化トルク指令割当器42は、図4に示すように、フィードフォワードトルク割当器46と、フィードバックトルク割当器47と、を備えている。
【0068】
<フィードフォワードトルク割当器>
本実施形態では、フィードフォワードトルク割当器46は、上記したように、回転変化トルク指令値Taとしてのフィードフォワード指令値Taffに応じて回転電機MGにトルクを出力させると共に、当該回転電機MGに出力させるトルクの絶対値が所定のしきい値より大きくなると判定した場合は、回転電機の出力トルクが所定のしきい値以下になるように、回転電機MG及びエンジンEの双方によりフィードフォワード指令値Taffに応じたトルクを出力させる。
【0069】
本実施形態では、フィードフォワードトルク割当器46は、回転変化トルク指令値Taの絶対値の減少を開始する以前は、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値を、回転電機の出力トルクが所定のしきい値以下の範囲内で、エンジンフィードフォワード指令値Taffeよりも優先的に増加させる。
本実施形態では、フィードフォワードトルク割当器46は、フィードフォワード指令値Taffの絶対値を増減させる際に、エンジンフィードフォワード指令値Taffeと回転電機フィードフォワード指令値Taffmとに優先順位をつけて、エンジンフィードフォワード指令値Taffeと回転電機フィードフォワード指令値Taffmとを増減させる。
すなわち、フィードフォワードトルク割当器46は、フィードフォワード指令値Taffの絶対値を増加させる際に、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値を、エンジンフィードフォワード指令値Taffeよりも優先的に、回転電機の出力トルクの絶対値が所定のしきい値に到達するまで増加させる。
本例では、フィードフォワードトルク割当器46は、フィードフォワード指令値Taffの絶対値を増加させる際に、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値を、回転電機の出力トルクの絶対値が所定のしきい値に到達するまで増加させてから、エンジンフィードフォワード指令値Taffeの絶対値を増加させるように構成されている。
なお、本実施形態では、変速中回転速度変化制御部40は、フィードフォワード指令値Taffの絶対値を増加させる際に、回転電機MGに出力させるトルクの絶対値が所定のしきい値より大きくなると判定した場合は、変速中回転速度変化制御中に回転電機MG及びエンジンEの双方により回転変化トルク指令値Taに応じたトルクを出力させる。
【0070】
一方、フィードフォワードトルク割当器46は、フィードフォワード指令値Taffの絶対値を減少させる際に、上記したように、エンジンフィードフォワード指令値Taffeよりも優先的に、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値を減少させる。
本例では、フィードフォワードトルク割当器46は、フィードフォワード指令値Taffの絶対値を減少させる際に、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値をゼロまで減少させた後に、エンジンフィードフォワード指令値Taffeの絶対値を減少させるように構成されている。
【0071】
<フィードバックトルク割当器>
本実施形態では、フィードバックトルク割当器47は、上記したように、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値の減少を開始した後に、エンジンEよりも優先させて、回転電機MGに対するフィードバック指令値である回転電機フィードバック指令値Tafbmを算出する。
本例では、フィードバックトルク割当器47は、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値をゼロまで減少させた後に、回転電機MGに対するフィードバック指令値である回転電機フィードバック指令値Tafbmを算出するように構成されている。
【0072】
また、本例では、フィードフォワードトルク割当器46は、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値をゼロまで減少させた後に、フィードフォワード指令値Taffの全部をエンジンフィードフォワード指令値Taffeとして算出する。そして、フィードバックトルク割当器47は、フィードバック指令値Tafbの全部を回転電機フィードバック指令値Tafbmとして算出する。
【0073】
そして、回転変化トルク指令割当器42は、図4に示すように、エンジンフィードフォワード指令値Taffeを、エンジン回転変化トルク指令値Taeとして算出し、回転電機フィードフォワード指令値Taffmと回転電機フィードバック指令値Tafbmとを加算したトルクを、回転電機回転変化トルク指令値Tamとして算出する。
【0074】
3−4−1−3.アップシフトの場合(フィードバック指令値を回転電機で出力)
次に、変速段の切り替えとしてアップシフトを行う場合の、変速中回転速度変化制御部40及び変速機構制御部82の処理について、図5のタイムチャートに基づいて説明する。
【0075】
変速機構制御部82は、変速段を切り替えると判定した場合に、入力軸Iの回転速度Niを変速前の同期回転速度から変化可能にするために、少なくとも、解放側要素を直結係合状態から滑り係合状態又は解放状態に制御する。
図5に示す例では、変速機構制御部82は、目標変速段が変更されアップシフトを行うと判定した場合(時刻t11)に、解放側要素の目標伝達トルク容量を完全係合容量から次第に減少させていくと共に、係合側要素の目標伝達トルク容量を次第に増加させていく(時刻t11から時刻t12)。ここで、完全係合容量とは、駆動力源から入力軸Iに伝達されるトルクが変動しても滑りのない係合状態を維持できる伝達トルク容量である。
また、係合側要素及び解放側要素の伝達トルク容量が入れ替えられている期間(時刻t11から時刻t12)を、トルク制御相と称する。このトルク制御相では、トルクの関係は、変速前の変速段から変速後の変速段の状態に移行されるが、回転速度の関係は、変化せず変速前の変速段の状態における回転速度のままに維持される。これにより、係合側要素は解放状態から滑り係合状態にされ、解放側要素は直結係合状態から解放状態にされる。つまり、トルク制御相では、回転速度の関係は、変速前の変速段の関係のままで変化しないようにされ、トルク分担だけが変速前の変速段から変速後の変速段の関係に移行される。そして、変速機構制御部82は、トルク分担の移行が完了し、解放側要素が直結係合状態から解放状態になると共に、係合側要素が解放状態から滑り係合状態になった場合(時刻t12)に、制御状態をトルク制御相からイナーシャ制御相に移行させる。
【0076】
変速中回転速度変化制御部40は、少なくとも、解放側要素が直結係合状態から滑り係合状態又は解放状態になった場合に、一連の変速中回転速度変化制御を開始する。
図5に示す例では、変速中回転速度変化制御部40は、トルク制御相からイナーシャ制御相に移行された場合(時刻t12)に、一連の変速中回転速度変化制御を開始する。
また、図5に示す例では、変速機構制御部82は、変速回転速度変化制御中(イナーシャ制御相中)において(時刻t12から時刻t17)、入力軸Iの回転速度Niを変化させることを目的としては、係合側要素の目標伝達トルク容量を変化させないように構成されている。
一方、変速中回転速度変化制御部40は、変速回転速度変化制御中(イナーシャ制御相)において(時刻t12から時刻t17)、入力軸Iの回転速度Niを変速前の同期回転速度から変速後の同期回転速度まで変化させるために、駆動力源に対する回転変化トルク指令値Taを変化させる。なお、変速回転速度変化制御中において、回転変化トルク指令値Taに加えて、係合側要素又は解放側要素の目標伝達トルク容量も、入力軸Iの回転速度Niを変化させるために変化されるようにしてもよい。
【0077】
変速中回転速度変化制御部40は、変速中回転速度変化制御を開始した場合(時刻t12)に、回転変化トルク指令値Taとしてのフィードフォワード指令値Taffの絶対値を増加させる。図5に示すアップシフトの場合は、フィードフォワード指令値Taffがゼロから減少される。また、図5に示す例では、フィードフォワード指令値Taffの絶対値が所定値まで次第に増加されている(時刻t12から時刻t14)。なお、フィードフォワード指令値Taffの絶対値が、所定値までステップ的に増加されるようにしてもよい。また、フィードフォワード指令値Taffの絶対値は、任意の時間変化の波形で増加されるようにしてもよい。
【0078】
変速中回転速度変化制御部40は、フィードフォワード指令値Taffの絶対値を増加させる際に、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値を、回転電機の出力トルク(回転電機MGの目標出力トルク)の絶対値が所定のしきい値に到達するまで増加させてから(時刻t12から時刻t13)、エンジンフィードフォワード指令値Taffeの絶対値を増加させる(時刻t13から時刻t14)ように構成されている。なお、所定のしきい値は、本例では、上記したように、回転電機MGが出力可能な最大値としての上限値(絶対値)又は下限値(絶対値)に設定されている。図5に示すアップシフトの場合は、変速中回転速度変化制御部40は、回転電機MGの目標出力トルクが出力可能な下限値に到達するまで、回転電機フィードフォワード指令値Taffmをゼロから減少させている(時刻t12から時刻t13)。
【0079】
変速中回転速度変化制御部40は、フィードバック指令値Tafbが算出されていない場合は、エンジンフィードフォワード指令値Taffeをエンジン回転変化トルク指令値Taeに設定し、回転電機フィードフォワード指令値Taffmを回転電機回転変化トルク指令値Tamに設定する。車両制御ユニット34は、エンジンEの目標出力トルク(ベース値)にエンジン回転変化トルク指令値Taeを加算した値をエンジンEの目標出力トルクに設定し、エンジンEにエンジン回転変化トルク指令値Taeに応じたトルクを出力させる。また、車両制御ユニット34は、回転電機MGの目標出力トルク(ベース値)に回転電機回転変化トルク指令値Tamを加算した値を回転電機MGの目標出力トルクに設定し、回転電機MGに回転電機回転変化トルク指令値Tamに応じたトルクを出力させる。なお、図5に示す例では、エンジン回転変化トルク指令値Taeを加算する前の回転電機MGの目標出力トルク(ベース値)は、ゼロに設定されているが、ゼロ以外の値に設定されていてもよい。
【0080】
回転変化トルク指令値Taの絶対値が増加されると、入力軸Iの回転速度Niは、変速前の同期回転速度から変速後の同期回転速度に向けて変化し始める(時刻t12以降)。変速中回転速度変化制御部40は、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に近づいた場合に、回転変化トルク指令値Taの絶対値を減少させる。これにより、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に到達する時の、入力軸Iの回転速度Niの変化(目標回転速度)と、変速後の同期回転速度の変化(目標回転速度)とを近づけることができる。図5に示す例では、変速中回転速度変化制御部40は、入力軸Iの回転速度Niと変速後の同期回転速度との回転速度差W1(絶対値)が所定値まで減少した場合(時刻t15)に、回転変化トルク指令値Taとしてのフィードフォワード指令値Taffの絶対値を次第に減少させ始めている。なお、変速中回転速度変化制御部40は、変速中回転速度変化制御の開始後経過時間が所定値に到達した場合に、回転変化トルク指令値Taとしてのフィードフォワード指令値Taffの絶対値を次第に減少させ始めるように構成してもよい。また、フィードフォワード指令値Taffの絶対値は、任意の時間変化の波形で減少されるようにしてもよい。
【0081】
変速中回転速度変化制御部40は、フィードフォワード指令値Taffの絶対値を減少させる際に、エンジンフィードフォワード指令値Taffeよりも優先的に、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値を減少させる。図5に示す例では、変速中回転速度変化制御部40は、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値をゼロまで減少させた後(時刻t16以降)に、エンジンフィードフォワード指令値Taffeの絶対値を減少させている。
【0082】
これにより、回転変化トルク指令値Taの絶対値の減少を開始した後直ちに、回転電機MGの目標出力トルクの絶対値を優先的に減少させて、回転電機MGの目標出力トルクの絶対値が出力可能な最大値に張り付いている状態を解消し、回転電機の出力トルクを正方向及び負方向の双方向に変化可能にしている。よって、回転変化トルク指令値Taの絶対値の減少を開始した後直ちに、回転電機MGに、トルクを正方向及び負方向の双方向に変化させるフィードバック指令値Tafbを出力させることが可能となる。
よって、変速中回転速度変化制御部40は、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値の減少を開始した後に、エンジンEよりも優先させて、回転電機MGに対するフィードバック指令値である回転電機フィードバック指令値Tafbmを算出する。
図5に示す例では、変速中回転速度変化制御部40は、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値をゼロまで減少させた後(時刻t16以降)に、回転電機MGに対するフィードバック指令値である回転電機フィードバック指令値Tafbmを算出している。これにより、フィードバック制御のための、回転電機の出力トルクの操作幅を、正方向又は負方向の双方にバランスよく確保することができ、回転電機の出力トルクの操作量を正方向及び負方向に増加させてフィードバック制御の時間応答を向上させたり、正方向及び負方向の双方の外乱に対してバランスよく適応させたりすることができる。
【0083】
エンジンEは、吸入空気量及び供給燃料量の制御における応答遅れが大きく、また、吸入空気量、供給燃料量、及び点火時期等の制御パラメータと、出力トルクとの間の関係が複雑な非線形性を有しているため、エンジンEの目標出力トルクに対する実出力トルクの応答性及び精度が低い。このため、後述するように、エンジンEにフィードバック指令値Tafbを出力させる場合は、入力軸Iの回転速度Niを目標回転速度変化αoに応答性及び精度良く沿わせることができない。一方、エンジンEは、回転電機MGに比べて大きいトルクを出力可能である場合が多い。
【0084】
これに対して、回転電機MGは、供給電力と出力トルクとの間において、応答遅れが非常に小さく、所定の関係があるため、回転電機MGの目標出力トルクに対する実出力トルクの応答性及び精度が高い。このため、回転電機MGにフィードバック指令値Tafbを出力させる場合は、入力軸Iの回転速度Niを目標回転速度変化αoに応答性及び精度良く沿わせることができる。
よって、本実施形態では、回転変化トルク指令値Taの絶対値の減少を開始した後速やかに、回転電機MGを用いたフィードバック制御を実行させ、入力軸Iの回転速度Niを目標回転速度変化に精度良く沿わせることができる。このため、車両用駆動装置1の特性変動、又は制御装置30の制御誤差などの外乱要因により入力軸Iの回転速度Niが目標回転速度変化αoから変動するような場合でも、回転電機MGを用いたフィードバック制御により、ロバスト性高く、入力軸Iの回転速度Niの変化(回転加速度)と変速後の同期回転速度の変化(回転加速度)とを近づける(同期させる)ことができる。よって、係合側要素の係合時にトルクショックが生じることをロバスト性高く抑制できる。また、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に到達する時点より、十分前もってフィードバック制御を開始することができ、外乱が大きい場合でも、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に到達する時点までには、入力軸Iの回転速度Niの変化(回転加速度)と、変速後の同期回転速度の変化(回転加速度)とを近づける(同期させる)ことができる。
【0085】
変速中回転速度変化制御部40は、回転電機MGの回転速度Niが変速後の同期回転速度に到達した場合(時刻t17)に、回転変化トルク指令値Taの算出を終了して、一連の変速中回転速度変化制御を終了する。すなわち、フィードフォワード指令値Taff及びフィードバック指令値Tafbの算出が終了される。なお、変速中回転速度変化制御の開始後経過時間が所定値に到達した場合に、一連の変速中回転速度変化制御を終了するようにしてもよい。
変速機構制御部82は、変速中回転速度変化制御が終了した場合(時刻t17)に、係合側要素の目標伝達トルク容量を完全係合容量まで増加させて、変速段の切り替え制御を終了する。
【0086】
3−4−1−4.アップシフトの場合(フィードバック指令値をエンジンで出力)
次に、図5と同様にアップシフトを行う場合であって、本実施形態とは異なり、仮に、フィードフォワード指令値Taffの絶対値を減少させる際に、回転電機フィードフォワード指令値Taffmよりも優先的に、エンジンフィードフォワード指令値Taffeの絶対値を減少させるように構成した場合の比較例を図6に示す。
図6に示すように、回転変化トルク指令値Taの絶対値の減少が開始された後(時刻t25以降)に、エンジンフィードフォワード指令値Taffeの絶対値がゼロまで減少された後(時刻t26以降)に、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値が減少されている。よって、図6に示す比較例では、本実施形態とは異なり、回転電機MGの目標出力トルクの絶対値が出力可能な最大値に張り付いている状態が、回転変化トルク指令値Taの絶対値の減少を開始した後も、エンジンフィードフォワード指令値Taffeの絶対値がゼロに減少されるまで比較的長時間継続している(時刻t25から時刻t26)。このため、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に到達する直前まで、回転電機MGに対してフィードバック指令値Tafbを出力させることができない。よって、回転電機MGを用いたフィードバック制御を、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に到達する時点よりも十分前もって行うことができない。このため、外乱が大きい場合に、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に到達する時点までに、入力軸Iの回転速度Niの変化(回転加速度)と、変速後の同期回転速度の変化(回転加速度)とを近づける(同期させる)ことが困難になる恐れがある。よって、係合側要素の係合時にトルクショックが生じる恐れがある。
【0087】
また、図6に示す例では、回転電機MGの目標出力トルクの絶対値が最大値に張り付いている期間に、本実施形態とは異なり、仮に、エンジンEに対してフィードバック指令値が算出されるように構成されている。上記したように、エンジンEにフィードバック指令値Tafbに応じたトルクを出力させる場合は、入力軸Iの回転速度Niを目標回転速度変化αoに応答性良く且つ精度良く沿わせることができない。このため、図6の例に示されているように、入力軸Iの回転速度Niが、目標回転速度変化αoに対して変動しており、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に到達する時の、入力軸Iの回転速度Niの変化(回転加速度)と、変速後の同期回転速度の変化(回転加速度)とを近づける(同期させる)ことが困難になっている。よって、係合側要素の係合時にトルクショックが生じる恐れがある。
【0088】
3−4−1−5.ダウンシフトの場合(フィードバック指令値を回転電機で出力)
次に、図5で示したアップシフトを行う場合とは逆に、変速段の切り替えとしてダウンシフトを行う場合の、変速中回転速度変化制御部40及び変速機構制御部82の処理について、図7のタイムチャートに基づいて説明する。
【0089】
変速機構制御部82は、変速段を切り替えると判定した場合に、入力軸Iの回転速度Niを変速前の同期回転速度から変化可能にするために、少なくとも、解放側要素を直結係合状態から滑り係合状態又は解放状態に制御する。
図7に示す例では、変速機構制御部82は、目標変速段が変更されダウンシフトを行うと判定した場合(時刻t31)に、解放側要素の目標伝達トルク容量を完全係合容量から減少させて、解放側要素を滑り係合状態にする。そして、変速機構制御部82は、解放側要素を滑り係合状態にした場合(時刻t31)に、イナーシャ制御相に移行させる。
【0090】
変速中回転速度変化制御部40は、少なくとも、解放側要素が直結係合状態から滑り係合状態又は解放状態になった場合に、一連の変速中回転速度変化制御を開始する。
図7に示す例では、変速中回転速度変化制御部40は、イナーシャ制御相に移行された場合(時刻t31)に、一連の変速中回転速度変化制御を開始する。
また、図7に示す例では、変速機構制御部82は、変速回転速度変化制御中(イナーシャ制御相中)において(時刻31から時刻t36)、入力軸Iの回転速度Niを変化させることを目的としては、係合側要素の目標伝達トルク容量を変化させないように構成されている。
一方、変速中回転速度変化制御部40は、図5で示したアップシフトの場合と同様に、変速回転速度変化制御中(イナーシャ制御相)において(時刻t31から時刻t36)、入力軸Iの回転速度Niを変速前の同期回転速度から変速後の同期回転速度まで変化させるために、駆動力源に対する回転変化トルク指令値Taを変化させる。なお、変速回転速度変化制御中において、回転変化トルク指令値Taに加えて、解放側要素又は係合側要素の目標伝達トルク容量も、入力軸Iの回転速度Niを変化させるために変化されるようにしてもよい。
【0091】
図7に示すダウンシフトの例では、変速中回転速度変化制御部40は、イナーシャ制御相を開始した場合(時刻t31)に、フィードフォワード指令値Taffをゼロから次第に増加させている(時刻t31から時刻t33)。
また、図7に示すダウンシフトの例では、変速中回転速度変化制御部40は、フィードフォワード指令値Taffを増加させる際に、回転電機MGの目標出力トルクが出力可能な上限値に到達するまで、回転電機フィードフォワード指令値Taffmをゼロから増加させて(時刻t31から時刻t32)から、エンジンフィードフォワード指令値Taffeを増加させている(時刻t32から時刻t33)。
【0092】
図7に示すダウンシフトの例では、回転変化トルク指令値Taが増加されると、入力軸Iの回転速度Niは、変速前の同期回転速度から変速後の同期回転速度に向けて増加し始める(時刻t31以降)。また、変速中回転速度変化制御部40は、入力軸Iの回転速度Niと変速後の同期回転速度との回転速度差W1(絶対値)が所定値まで減少した場合(時刻t34)に、回転変化トルク指令値Taとしてのフィードフォワード指令値Taffを次第に減少させ始めている。
【0093】
図7に示すダウンシフトの例では、変速中回転速度変化制御部40は、フィードフォワード指令値Taffを減少させる際に、回転電機フィードフォワード指令値Taffmをゼロまで減少させた後(時刻t35以降)に、エンジンフィードフォワード指令値Taffeを減少させている。
【0094】
図5で示したアップシフトの場合と同様に、回転変化トルク指令値Taの絶対値の減少を開始した後直ちに、回転電機MGの目標出力トルクが出力可能な上限値に張り付いている状態を解消して、回転電機MGにフィードバック指令値Tafbを出力させることが可能となる。
図7に示すダウンシフトの例では、変速中回転速度変化制御部40は、回転電機フィードフォワード指令値Taffmをゼロまで減少させた後(時刻t35以降)に、回転電機フィードバック指令値Tafbmを算出している。よって、ダウンシフトを行う場合でも、回転変化トルク指令値Taの絶対値の減少を開始した後速やかに、回転電機MGを用いたフィードバック制御を実行させ、入力軸Iの回転速度Niを目標回転速度変化αoに精度良く沿わせることができる。
【0095】
変速中回転速度変化制御部40は、変速中回転速度変化制御が終了した場合(時刻t36)に、回転変化トルク指令値Taの算出を終了して、変速中回転速度変化制御を終了する。すなわち、フィードフォワード指令値Taff及びフィードバック指令値Tafbの算出が終了される。
図7に示すダウンシフトの例では、変速機構制御部82は、回転電機MGの回転速度Niが変速後の同期回転速度に到達した場合(時刻t36)に、トルク制御相からイナーシャ制御相に移行させる。そして、変速機構制御部82は、解放側要素の目標伝達トルク容量を次第に減少させていくと共に、係合側要素の目標伝達トルク容量を次第に増加させていく(時刻t36から時刻t37)。
このダウンシフトにおけるトルク制御相では、回転速度の関係に加えて、トルクの関係も、変速前の変速段から変速後の変速段の状態に移行される。そして、トルクの関係の移行が終了した場合(時刻t37)に、変速機構制御部82は、係合側要素の目標伝達トルク容量を完全係合容量まで増加させて、変速段の切り替え制御を終了する。
【0096】
3−4−1−6.ダウンシフトの場合(フィードバック指令値をエンジンで出力)
次に、図7と同様にダウンシフトを行う場合であって、本実施形態とは異なり、仮に、フィードフォワード指令値Taffの絶対値を減少させる際に、回転電機フィードフォワード指令値Taffmよりも優先的に、エンジンフィードフォワード指令値Taffeの絶対値を減少させるように構成した場合の比較例を図8に示す。
図8に示すように、回転変化トルク指令値Taの減少が開始された後(時刻t44以降)に、エンジンフィードフォワード指令値Taffeがゼロまで減少された後(時刻t45以降)に、回転電機フィードフォワード指令値Taffmが減少されている。よって、図8に示す例では、本実施形態とは異なり、回転電機MGの目標出力トルクが出力可能な上限値に張り付いている状態が、回転変化トルク指令値Taの減少を開始した後も、エンジンフィードフォワード指令値Taffeがゼロに減少されるまで比較的長時間継続している(時刻t44から時刻t45)。このため、図6に示したアップシフトの比較例と同様に、回転電機MGに対してフィードバック指令値Tafbを出力させることができない。従って、係合側要素の係合時にトルクショックが生じる恐れがある。
【0097】
また、図8に示す比較例では、図6に示したアップシフトの比較例と同様に、回転電機MGの目標出力トルクが上限値に張り付いている期間に、本実施形態とは異なり、仮に、エンジンEに対してフィードバック指令値が算出されるように構成されている。このため、図8の例に示されているように、入力軸Iの回転速度Niが、目標回転速度変化αoに対して変動しており、係合側要素の係合時にトルクショックが生じる恐れがある。
【0098】
3−4−1−7.フローチャート
本実施形態に係わる変速中回転速度変化制御部40の処理について、図9のフローチャートに基づき説明する。
まず、変速中回転速度変化制御部40は、変速中回転速度変化制御の開始条件が成立した場合(ステップ♯11:Yes)に、一連の変速中回転速度変化制御を開始する。変速中回転速度変化制御部40は、変速段の切り替え制御の開始後、少なくとも、解放側要素が直結係合状態から滑り係合状態又は解放状態がなった場合に、変速中回転速度変化制御の開始条件が成立したと判定する。そして、変速中回転速度変化制御部40は、変速中回転速度変化制御を開始した場合に、回転変化トルク指令値Taの絶対値の増加を開始する(ステップ♯12)。上記の実施形態では、変速中回転速度変化制御部40は、回転変化トルク指令値Taとしてフィードフォワード指令値Taffの絶対値の増加を開始する。この際、変速中回転速度変化制御部40は、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値を、回転電機の出力トルクの絶対値が所定のしきい値以下の範囲内で、エンジンフィードフォワード指令値Taffeよりも優先的に増加させ始める(ステップ♯13)。
【0099】
変速中回転速度変化制御部40は、回転変化トルク指令値Taの絶対値の減少開始条件が成立した場合(ステップ♯14:Yes)に、回転変化トルク指令値Taの絶対値の減少を開始する。上記の実施形態では、変速中回転速度変化制御部40は、入力軸Iの回転速度Niと変速後の同期回転速度との回転速度差W1(絶対値)が所定値まで減少した場合に、減少開始条件が成立したと判定する。また、上記の実施形態では、変速中回転速度変化制御部40は、回転変化トルク指令値Taとしてフィードフォワード指令値Taffの絶対値の減少を開始する。この際、変速中回転速度変化制御部40は、エンジンフィードフォワード指令値Taffeよりも優先的に、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値を減少させ始める(ステップ♯15)。そして、変速中回転速度変化制御部40は、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値の減少を開始した後に、エンジンEよりも優先させて、回転電機MGに対するフィードバック指令値である回転電機フィードバック指令値Tafbmを算出し始める(ステップ♯16)。
そして、変速中回転速度変化制御部40は、変速中回転速度変化制御の終了条件が成立した場合(ステップ♯17:Yes)に、一連の変速中回転速度変化制御を終了する。上記の実施形態では、変速中回転速度変化制御部40は、入力軸Iの回転速度Niが変速後の同期回転速度に到達した場合に、変速中回転速度変化制御の終了条件が成立したと判定する。
【0100】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明のその他の実施形態について説明する。なお、以下に説明する各実施形態の構成は、それぞれ単独で適用されるものに限られず、矛盾が生じない限り、他の実施形態の構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0101】
(1)上記の実施形態において、制御装置30は、複数の制御ユニット32〜34を備え、これら複数の制御ユニット32〜34が分担して複数の機能部40、81〜83を備える場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、制御装置3は、上述した複数の制御ユニット32〜34を任意の組み合わせで統合又は分離した制御装置として備えるようにしてもよく、複数の機能部40、81〜83の分担も任意に設定することができる。
【0102】
(2)上記の実施形態において、変速機構TMとは別に、回転電機MGと車輪Wとの間の駆動連結を断接する摩擦係合要素、或いはトルクコンバータ及びトルクコンバータの入出力部材間を直結係合状態にする摩擦係合要素が備えられる構成も本発明の好適な実施形態の一つである。
【0103】
(3)上記の実施形態においては、変速機構TMが有段の自動変速装置である場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速機構TMが、連続的に変速比を変更可能な無段の自動変速装置など、有段の自動変速装置以外の変速装置である構成も本発明の好適な実施形態の一つである。この場合は、変速機構TMの変速比の変更が、上記の実施形態における変速段の切り替えに対応する。すなわち、変速中回転速度変化制御部40は、変速機構TMの変速比を変更する際に、変速中回転速度変化制御を実行する。
【0104】
(4)上記の実施形態においては、変速中回転速度変化制御部40が、入力軸Iの回転速度Niを変化させるために、入力軸Iの回転加速度の目標値に基づいて、回転変化トルク指令値Taを算出する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速中回転速度変化制御部40が、入力軸Iの回転速度Niを変化させるために、入力軸Iの回転速度の目標値に基づいて、回転変化トルク指令値Taを算出するように構成してもよい。
この場合、変速中回転速度変化制御部40は、目標回転速度変化αoとして回転速度の目標値を算出して、入力軸Iの回転速度Niが回転速度の目標値に沿うように、フィードフォワード指令値Taff及びフィードバック指令値Tafbを算出する。この際、変速中回転速度変化制御部40は、回転速度の目標値を、変速中回転速度変化制御の開始後経過時間に応じて算出するようにしてもよい。例えば、変速中回転速度変化制御部40は、回転速度の目標値が開始後経過時間の増加に従って変速前の同期回転速度から変速後の同期回転速度に近づくように、且つ回転速度の目標値が変速後の同期回転速度に近づいた場合に回転速度の目標値の変化速度(回転加速度)の絶対値が減少するように、開始後経過時間に応じて回転速度の目標値を算出する。この場合、変速中回転速度変化制御部40は、算出した回転速度の目標値の時間微分値に慣性モーメントJを乗算して、フィードフォワード指令値Taffを算出するようにしてもよい。あるいは、変速中回転速度変化制御部40は、変速中回転速度変化制御の開始後経過時間に応じて、直接、フィードフォワード指令値Taffを算出するようにしてもよい。
【0105】
(5)上記の実施形態においては、変速中回転速度変化制御部40が、フィードフォワード指令値Taffの絶対値を減少させる際に、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値をゼロまで減少させた後に、エンジンフィードフォワード指令値Taffeの絶対値を減少させる場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速中回転速度変化制御部40が、フィードフォワード指令値Taffの絶対値を減少させる際に、エンジンフィードフォワード指令値Taffeよりも優先的に、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値を減少させればよく、例えば、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値をゼロより大きい所定値(絶対値)まで減少させた後に、エンジンフィードフォワード指令値Taffeの絶対値を減少させるように構成することも本発明の好適な実施形態の一つである。
【0106】
(6)上記の実施形態においては、変速中回転速度変化制御部40が、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値をゼロまで減少させた後に、回転電機フィードバック指令値Tafbmを算出する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速中回転速度変化制御部40が、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値の減少を開始した後に、エンジンEよりも優先させて、回転電機MGに対するフィードバック指令値である回転電機フィードバック指令値Tafbmを算出すればよく、例えば、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値がゼロより大きい所定値(絶対値)まで減少した後に、回転電機フィードバック指令値Tafbmを算出するように構成することも本発明の好適な実施形態の一つである。
【0107】
(7)上記の実施形態においては、変速中回転速度変化制御部40が、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値をゼロまで減少させた後に、フィードフォワード指令値Taffの全部をエンジンフィードフォワード指令値Taffeとして算出する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速中回転速度変化制御部40が、回転電機フィードフォワード指令値Taffmの絶対値をゼロより大きい所定値(絶対値)まで減少させた後に、フィードフォワード指令値Taffの残りの全部をエンジンフィードフォワード指令値Taffeとして算出するように構成することも本発明の好適な実施形態の一つである。
【0108】
(8)上記の実施形態においては、変速中回転速度変化制御部40における所定のしきい値が、回転電機MGが出力可能な最大値としての上限値(絶対値)又は下限値(絶対値)に設定されており、変速中回転速度変化制御部40が、回転電機の出力トルクの絶対値が出力可能な最大値に張り付いている状態では、回転電機フィードバック指令値Tafbmを算出しない場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速中回転速度変化制御部40における所定のしきい値が、回転電機MGが出力可能な最大値としての上限値(絶対値)又は下限値(絶対値)よりも小さい大きさの値に設定されており、変速中回転速度変化制御部40が、回転電機の出力トルクの絶対値が所定のしきい値に張り付いている状態でも、回転電機フィードバック指令値Tafbmを算出するように構成してもよい。この場合は、回転電機の出力トルクが、回転電機MGが出力可能な最大値としての上限値(絶対値)又は下限値(絶対値)以下になるように、回転電機フィードバック指令値Tafbmが算出される。
【0109】
(9)上記の実施形態においては、変速中回転速度変化制御部40は、変速段の切り替えとしてアップシフトを実行する場合は、トルク制御相において、解放側要素が直結係合状態から解放状態にされると共に、係合側要素が解放状態から滑り係合状態にされた後に、変速中回転速度変化制御を開始する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速中回転速度変化制御部40は、変速段の切り替えとしてアップシフトを実行する場合は、少なくとも、解放側要素が直結係合状態から滑り係合状態又は解放状態にされた後に、変速中回転速度変化制御を開始するように構成してもよい。あるいは、トルク制御相において、解放側要素が直結係合状態から滑り係合状態にされるようにしてもよい。
【0110】
(10)上記の実施形態においては、変速中回転速度変化制御部40は、変速段の切り替えとしてダウンシフトを実行する場合は、解放側要素が直結係合状態から滑り係合状態にされた後に、変速中回転速度変化制御を開始する場合を例として説明した。しかし、本発明の実施形態はこれに限定されない。すなわち、変速中回転速度変化制御部40は、変速段の切り替えとしてダウンシフトを実行する場合は、解放側要素が直結係合状態から解放状態又は滑り係合状態にされると共に、係合側要素が解放状態から滑り係合状態にされた後に、変速中回転速度変化制御を開始するように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明は、回転電機及び内燃機関を有する駆動力源に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、切り替え可能に有する複数の変速段の内の選択された変速段の変速比に応じて前記入力部材の回転速度を変速して前記出力部材に伝達する変速機構と、を備えた車両用駆動装置を制御するための制御装置に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0112】
1:車両用駆動装置
30:制御装置
31:エンジン制御装置
32:回転電機制御ユニット
33:動力伝達制御ユニット
34:車両制御ユニット
40:変速中回転速度変化制御部
41:回転変化トルク指令算出器
42:回転変化トルク指令割当器
43:目標回転速度変化算出器
44:フィードフォワードトルク算出器
45:フィードバックトルク算出器
46:フィードフォワードトルク割当器
47:フィードバックトルク割当器
80:エンジン制御部
81:回転電機制御部
82:変速機構制御部
83:エンジン分離クラッチ制御部
E:エンジン(内燃機関)
MG:回転電機
I:入力軸(入力部材)
O:出力軸(出力部材)
DF:出力用差動歯車装置
W:車輪
TM:変速機構
PC:油圧制御装置
CL:エンジン分離クラッチ
Se1:入力軸回転速度センサ
Se2:中間軸回転速度センサ
Se3:出力軸回転速度センサ
Se4:アクセル開度検出センサ
Ta:回転変化トルク指令値
Taff:フィードフォワード指令値(回転変化トルク指令値)
Tafb:フィードバック指令値(回転変化トルク指令値)
Tae:エンジン回転変化トルク指令値
Tam:回転電機回転変化トルク指令値
Taffe:エンジンフィードフォワード指令値
Taffm:回転電機フィードフォワード指令値
Tafbm:回転電機フィードバック指令値
Ni:入力軸の回転速度
W1:差回転速度
αo:目標回転速度変化
αr:実回転速度変化

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機及び内燃機関を有する駆動力源に駆動連結される入力部材と、車輪に駆動連結される出力部材と、切り替え可能に有する複数の変速段の内の選択された変速段の変速比に応じて前記入力部材の回転速度を変速して前記出力部材に伝達する変速機構と、を備えた車両用駆動装置を制御するための制御装置であって、
前記変速段を切り替える際に、前記入力部材の回転速度を変化させるために前記駆動力源に出力させるトルクの指令値である回転変化トルク指令値を算出し、前記回転変化トルク指令値に応じて前記回転電機にトルクを出力させると共に、当該回転電機に出力させるトルクの絶対値が所定のしきい値より大きくなると判定した場合は、前記回転電機の出力トルクが前記所定のしきい値以下になるように、前記回転電機及び前記内燃機関の双方により前記回転変化トルク指令値に応じたトルクを出力させる制御装置。
【請求項2】
前記回転変化トルク指令値として、少なくとも、前記入力部材の回転速度が目標回転速度変化に沿うように前記回転変化トルク指令値をフィードバック的に変化させるフィードバック指令値を算出可能であり、
前記内燃機関よりも優先させて、前記回転電機に対するフィードバック指令値を算出する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記回転変化トルク指令値として、前記回転変化トルク指令値をフィードフォワード的に変化させるフィードフォワード指令値と、前記入力部材の回転速度が目標回転速度変化に沿うように前記回転変化トルク指令値をフィードバック的に変化させるフィードバック指令値と、を算出可能であり、
前記回転変化トルク指令値の絶対値を減少させる際に、前記内燃機関に対するフィードフォワード指令値よりも優先的に、前記回転電機に対するフィードフォワード指令値の絶対値を減少させ、
前記回転電機に対するフィードフォワード指令値の絶対値の減少を開始した後に、前記内燃機関よりも優先させて、前記回転電機に対するフィードバック指令値を算出する請求項1又は2に記載の制御装置。
【請求項4】
前記回転電機に対するフィードフォワード指令値の絶対値をゼロまで減少させた後に、前記内燃機関よりも優先させて、前記回転電機に対するフィードバック指令値を算出する請求項2又は3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記回転電機に対するフィードフォワード指令値の絶対値をゼロまで減少させた後に、前記回転変化トルク指令値における前記フィードフォワード指令値の全部を前記内燃機関に対するフィードフォワード指令値として算出すると共に、前記回転変化トルク指令値における前記フィードバック指令値の全部を前記回転電機に対するフィードバック指令値として算出する請求項2から4のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項6】
前記回転変化トルク指令値として、少なくとも前記回転変化トルク指令値をフィードフォワード的に変化させるフィードフォワード指令値を算出可能であり、
前記回転変化トルク指令値の絶対値の減少を開始する以前は、前記回転電機に対するフィードフォワード指令値の絶対値を、前記回転電機の出力トルクが前記所定のしきい値以下の範囲内で、前記内燃機関に対するフィードフォワード指令値よりも優先的に増加させる請求項1から5のいずれか一項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記回転変化トルク指令値に応じて前記回転電機に出力させるトルクの絶対値が前記所定のしきい値より大きくなると判定した場合は、前記所定のしきい値を超える分のトルクを、前記内燃機関に出力させる請求項1から6のいずれか一項に記載の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−189119(P2012−189119A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52012(P2011−52012)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】