説明

加工装置に搭載される被測定物の計測方法および計測装置

【課題】サブミクロンの精度を有する、加工装置に搭載される被測定物の計測方法および計測装置を提供する。
【解決手段】光源1と、この光源1からの光線を2本の光線に分岐する光分岐/合流部2と、被測定物10を設置するステージ部11と光を集光して照射する対物レンズ6と、前記2本に分岐された光線の他の一方が照射される参照ミラー5とを有し、前記被測定物10または前記参照ミラー5の位置を、それぞれ、前記被測定物10からの反射光Aの光軸方向または前記参照ミラー5からの反射光Bの光軸方向に移動させることにより、前記被測定物10からの反射光Aと前記参照ミラー5からの反射光Bの干渉波形を計測し、同時に移動量を計測可能なリニアスケール8の位置情報も計測して、前記参照ミラー5からの反射光Bの光路長と前記被測定物10からの反射光Aの光路長が同一となる位置を、左右対称性の評価式が最小になる位置を求めることで特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物の精密な位置または高さまたは厚さを計測できる加工装置に搭載される被測定物の計測方法および計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の小型高性能化は著しく、それに伴いその基本材料となる半導体や水晶、セラミックスなどの基板を正確な厚さに薄板加工する必要性が増大している。また、光通信機器、小型カメラなどに搭載される光学部品は、高い形状精度を求められており、サブミクロンの精度と価格を両立させた加工方法が模索されている。
【0003】
一般に、加工機上に被加工物を設置する際、数十μm程度の取り付け誤差が生じる。また、加工による刃物の摩耗、温度変化による熱膨張で加工機のアームや工具の大きさが変化し、加工誤差の要因となる。このため、現状ではこれらの誤差をオフラインでの計測結果と照合して、補正項として加工データに織り込むことが行われている。しかし、そのためには条件出しのための予備加工や経験が必要とされる。
【0004】
もし、加工機上で精密な計測を行うことが可能であれば、加工途中に被加工物の形状を計測し仕上げ加工することで、加工効率及び精度の大幅な向上が期待できる。このため、加工機上で被加工物の形状(位置、厚さ)を正確に計測する手法の確立が待ち望まれている。
【0005】
加工機上での被加工物の形状計測法としては、従来から、機械式のタッチプローブや画像計測が一般的に用いられている。これらの手法は、計測装置が小型かつ安価で、加工機上に容易に取り付けが可能である。一方、光線による三角測量、光波干渉、コンフォーカル(共焦点)法などの光学方式、原子間力およびトンネル電流検出による走査プローブ型顕微鏡方式等が各種研究や特殊用途で用いられている。特に、走査プローブ顕微鏡ではナノメートルオーダの分解能での形状計測が可能となっている。
【0006】
しかしながら、様々な形状を有する一般的な被加工物の計測のためには、十分なワーキングディスタンスが必要である。コンフォーカル系の光学方式および走査プローブ型顕微鏡方式を用いた手法は、焦点距離やセンサの剛性の問題があり、十分なワーキングディスタンスが得られない。また、これらの計測法は、分解能は高いものの合焦点位置やプローブを掃引する必要があり、掃引機構にも分解能に見合った精度が要求される。このために掃引機構の精度の確保や低価格化が難しく、加工機上での計測の妨げとなっている。
【0007】
このため、加工機上での工具や被加工物の計測は、現実にはタッチプローブやカメラによる画像計測などの限られた方法が実用されているに過ぎない。しかしながら、タッチプローブ等を用いた接触方式ではワークに傷が生じ、また、カメラによる計測では十分な精度が得られない。
【0008】
ところで、従来の光波干渉計は、非接触計測法でサブミクロンの精度をもち、超精密加工の計測精度要求に応えることが可能である。しかしながら、移動量や変位など相対的な距離の計測は可能であるものの、段差の大きい被測定物や、一旦被測定物を検出領域外に出して再び計測するなどの絶対距離計測が不可能であるため、加工機上での計測に用いるには制約が多かった。また、従来の光波干渉方式で広い範囲の距離を計測するためには、要求される精度に応じてレーザの光波長を正確に把握・制御する必要があり、そのため装置にコストがかかってしまう。
【0009】
また、複数波長のレーザを用いた光波干渉方式により、ある程度段差がある被測定物の形状を計測することが可能ではあるが、使用している複数のレーザの波長をそれぞれ高い精度で計測・管理する必要があり、絶対距離を広い範囲で計測することは実用上困難である。
【0010】
連続した波長帯域にスペクトル強度を持つ低コヒーレント光源を用いた光波干渉計による計測法においては、断層情報を得る方法が開示されている。低コヒーレント光源を用いた場合、有限長の領域内に干渉波形(波束)が現れるため、絶対位置計測が可能となる(下記特許文献1参照)。また、この方法では、複数の界面をもつ層状試料のそれぞれの層の厚さの計測も可能である。しかし、現在実用化されている干渉波形の包絡線の情報による干渉中心点の計測では、包絡線の半値幅以上の精度を出すことは困難である(下記非特許文献1,2参照)。また、干渉波形をフーリエ変換して波長位相変化から干渉中心点を求める手法(下記非特許文献3参照)や、2次元または3次元の干渉信号を取得することで補完により干渉中心点を求める手法(下記特許文献2参照)などが提案されているが、単純な低コヒーレント光干渉計に実装可能でノイズに強く、計算量が少ない実用的な手法は提案されていない。また、層状試料において、層の厚さが干渉波束幅以下になると、波束同士が重なり合ってしまい、これまでの手法(特許文献1,2、非特許文献1〜3)では、それぞれの干渉波束中心を特定して2つの反射端の距離を求めることは困難であった。ガウシアンなどで近似可能な単純な2つのピークの分別は、これまでの公知の手法で分離が可能である(下記非特許文献4参照)。しかしながら、2つの波束の場合、オーバーラップしている部分は、波束間隔が半波長異なる毎に加算または減算の関係となり複雑な挙動を示すため、2つの波束の分離のための有効な方法の開発が待たれていた。
【0011】
さらに、低コヒーレント光を用いた光波干渉方式で被測定物または参照ミラーの位置を動かして干渉中心を検出するタイムドメイン方式は、高精度な掃引機構が必要となる。サブミクロン精度の送り機構は、リニアスケール(光波干渉計、静電容量変位計、ストレンゲージなど)により微小変位量を検出し、機械駆動部にフィードバックを行う方式となっている。このため、目標値と移動量のずれ(遅れ)やハンチングなどの動的誤差が生じやすい。また、クローズドループの制御系は高価になるという問題があった。
【0012】
掃引機構の精度が悪いと得られた干渉波形が歪んでしまうため、本来ノイズに強い干渉波形全体の情報を用いた干渉中心検出手法の精度が低下してしまう。このため、干渉信号全体の情報を用いる干渉中心計算手法を用いる場合は、掃引機構の精度向上が必要である。
【0013】
このように、1μm以下の不確かさでの絶対距離計測を実現するとともに、加工機上に搭載可能で実用的な価格の計測装置を実現できる手法は確立されていなかった。
【特許文献1】特許第2010042号公報
【特許文献2】特開2004−317238号公報
【非特許文献1】P.J.Caber,“Interferometric profiler for rough surfaces”,Appl.Opt.,32,19,pp.3438−3441 (1993)
【非特許文献2】R.Dandliker,E.Zimmermann,and G.Frosio,“Electronically scanned white−light interferometry:a novel noise−resistant signal processing”,Optics lett.,17,9,pp.679−681 (1992)
【非特許文献3】Peter de Groot and Leslie Deck,“Surface profiling by analysis of white−light interferograms in the spatial frequency domain”,J.of Modern Optics,42,2,389−401 (1995)
【非特許文献4】南茂夫,河田聡「科学計測のためのデータ処理入門 科学技術分野における計測の基礎技術」,CQ出版,2002年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、1 μm以下の不確かさでの計測を実現するとともに、非接触で十分なワーキングディスタンスを持ち、加工機上に搭載可能な小型かつ安価な位置または厚さの被測定物の計測方法および計測装置を提供することを目的とする。また、本発明は、干渉波束が重なり合う薄い試料の厚さ計測も可能とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、マイケルソン干渉計の技術において、光源として低コヒーレント光を含む光源を用いた小型の干渉計を製作して、絶対距離の高精度計測を行い、従来法では着目していなかった干渉波形の対称性を利用し、また送り機構の移動量を検出するリニアスケールの位置信号と干渉信号を同時計測することで、送り機構の精度要求を大幅に緩和しながら正確な掃引を可能とした。また、干渉波束同士が重なり合うような薄い被測定物の計測においても、得られた干渉信号から2つの重なった波束を数値計算により分離する手法を開発した。 すなわち、
〔1〕加工装置に搭載される被測定物の計測方法において、少なくとも低コヒーレント光を含む光源(1)と、この光源(1)からの光線を2本の光線に分岐する光分岐/合流部(2)と、前記2本に分岐された光線の一方の光線が照射される被測定物(10)を設置するステージ部(11)と、前記光分岐/合流部(2)と前記ステージ部(11)との光路の間に設けられ光線を集光して照射する集光部(対物レンズ)(6)と、前記2本に分岐された光線の他の一方の光線が照射される参照ミラー(5)とを有し、前記被測定物(10)からの反射光(A)と前記参照ミラー(5)からの反射光(B)を前記光分岐/合流部(2)により再度合流させて干渉させ、前記被測定物(10)または前記参照ミラー(5)の位置を、それぞれ、前記被測定物(10)からの反射光(A)の光軸方向または前記参照ミラー(5)からの反射光(B)の光軸方向に移動させることにより、前記被測定物(10)からの反射光(A)と前記参照ミラー(5)からの反射光(B)の和を光強度検出器(3)で検出して得られた干渉波形を計測・記録し、低コヒーレント光干渉波形f(x) が前記参照ミラー(5)からの反射光(B)の光路長と前記被測定物(10)からの反射光(A)の光路長が同一となる位置を中心に左右対称になることを利用して、左右対称性の評価式が最小になる位置xを求めることで、光路長が同一になる位置を精度よく特定することを特徴とする。
【0016】
〔2〕上記〔1〕記載の加工装置に搭載される被測定物の計測方法において、前記評価式は
【0017】
【数3】

であることを特徴とする。ここで、xは光路長、f (x) は干渉波形、aは干渉信号の包絡曲線の半値幅程度の有限な値、nは0.5から4までの任意の正数である。
【0018】
〔3〕加工装置に搭載される被測定物の計測方法において、少なくとも低コヒーレント光を含む光源(1)と、この光源(1)からの光線を2本の光線に分岐する光分岐/合流部(2)と、前記2本に分岐された光線の一方の光線が照射される透明で層状の被測定物(10)を設置するステージ部(11)と、前記光分岐/合流部(2)と前記ステージ部(11)との光路の間に設けられ光線を集光して照射する集光部(対物レンズ)(6)と、前記2本に分岐された光線の他の一方の光線が照射される参照ミラー(5)とを有し、前記被測定物(10)からの反射光(A)と前記参照ミラー(5)からの反射光(B)を前記光分岐/合流部(2)により再度合流させて干渉させ、前記被測定物(10)または前記参照ミラー(5)の位置を、それぞれ、前記被測定物(10)からの反射光(A)の光軸方向または前記参照ミラー(5)からの反射光(B)の光軸方向に移動させることにより、前記被測定物(10)からの反射光(A)と前記参照ミラー(5)からの反射光(B)の和を光強度検出器(3)で検出して得られた干渉波形を計測・記録し、反射面の波束をA・g (x)・cos (x) の関数で近似し、2つの面であれば、A1 ・g (x+φ1 ) ・cos(x+φ1 )+A2 ・g (x+φ2 ) ・cos(x+φ2 )と近似し、近似関数と実測波形との誤差が最小となるA1 ,A2 ,φ1 ,φ2 を求めることにより、2つの波束の一部が重なっていても2つの層間の距離を正確に求めることを特徴とする。ここで、Aは干渉波束の強度、φは波束中心の位置を表す。
【0019】
〔4〕上記〔1〕又は〔3〕記載の加工装置に搭載される被測定物の計測方法において、前記被測定物(10)または前記参照ミラー(5)の位置を、それぞれ、前記被測定物(10)からの反射光(A)の光軸方向または前記参照ミラー(5)からの反射光(B)の光軸方向に移動させることにより、前記被測定物(10)からの反射光(A)と前記参照ミラー(5)からの反射光(B)の干渉波形と、前記被測定物(10)または前記参照ミラー(5)の現在位置が検出可能になるように送り機構(7)に配置されたリニアスケール(8)から得られる基準信号とを同時に計測・記録し、干渉信号の位置を正確に記録可能にすることを特徴とする。
【0020】
〔5〕加工装置に搭載される被測定物の計測装置において、少なくとも低コヒーレント光を含む光源(1)と、この光源(1)からの光線を2本の光線に分岐する光分岐/合流部(2)と、前記2本に分岐された光線の一方の光線が照射される被測定物(10)を設置するステージ部(11)と、前記光分岐/合流部(2)と前記ステージ部(11)との光路の間に設けられ光線を集光して照射する集光部(対物レンズ)(6)と、前記2本に分岐された光線の他の一方の光線が照射される参照ミラー(5)と、前記被測定物(10)からの反射光(A)と前記参照ミラー(5)からの反射光(B)を前記光分岐/合流部(2)により再度合流させて干渉させ、前記被測定物(10)または前記参照ミラー(5)の位置を、それぞれ、前記被測定物(10)からの反射光(A)の光軸方向または前記参照ミラー(5)からの反射光(B)の光軸方向に移動させることにより、前記被測定物(10)からの反射光(A)と前記参照ミラー(5)からの反射光(B)の和を検出する光強度検出器(3)と、この光強度検出器(3)で検出して得られた干渉波形を計測・記録し、低コヒーレント光干渉波形f(x) が前記参照ミラー(5)からの反射光(B)の光路長と前記被測定物(10)からの反射光(A)の光路長が同一となる位置を中心に左右対称になることを利用して、左右対称性の評価式が最小になる位置を求め、光路長が同一になる位置を精度よく特定する測定手段とを具備することを特徴とする。
【0021】
〔6〕上記〔5〕記載の加工装置に搭載される被測定物の計測装置において、前記評価式は
【0022】
【数4】

であることを特徴とする。ここで、xは光路長、f (x) は干渉波形、aは干渉信号の包絡曲線の半値幅程度の有限な値、nは0.5から4までの任意の正数である。
【0023】
〔7〕加工装置に搭載される被測定物の計測装置において、少なくとも低コヒーレント光を含む光源(1)と、この光源(1)からの光線を2本の光線に分岐する光分岐/合流部(2)と、前記2本に分岐された光線の一方が照射される透明で層状の被測定物を設置するステージ部(11)と、前記光分岐/合流部(2)と前記ステージ部(11)との光路の間に設けられ光線を集光して照射する集光部(対物レンズ)(6)と、前記2本に分岐された光線の他の一方の光線が照射される参照ミラー(5)と、前記被測定物(10)からの反射光(A)と前記参照ミラー(5)からの反射光(B)を前記光分岐/合流部(2)により再度合流させて干渉させ、前記被測定物(10)または前記参照ミラー(5)の位置を、それぞれ、前記被測定物(10)からの反射光(A)の光軸方向または前記参照ミラー(5)からの反射光(B)の光軸方向に移動させることにより、前記被測定物(10)からの反射光(A)と前記参照ミラー(5)からの反射光(B)の和を検出する光強度検出器(3)と、この光強度検出器(3)で検出して得られた干渉波形を計測・記録し、反射面の波束をA・g (x)・cos (x) の関数で近似し、2つの面であれば、A1 ・g (x+φ1 ) ・cos(x+φ1 )+A2 ・g (x+φ2 ) ・cos(x+φ2 )と近似し、近似関数と実測波形との誤差が最小となるA1 ,A2 ,φ1 ,φ2 を求めることにより、2つの波束の一部が重なっていても2つの層間の距離を正確に求める測定手段とを具備することを特徴とする。ここで、Aは干渉波束の強度、φは波束中心の位置を表す。
【0024】
〔8〕上記〔5〕又は〔7〕記載の加工装置に搭載される被測定物の計測装置において、前記被測定物(10)または前記参照ミラー(5)の位置を、それぞれ、前記被測定物(10)からの反射光(A)の光軸方向または前記参照ミラー(5)からの反射光(B)の光軸方向に移動させることにより、前記被測定物(10)からの反射光(A)と前記参照ミラー(5)からの反射光(B)の干渉波形と、前記被測定物(10)または前記参照ミラー(5)の現在位置が検出可能になるように送り機構(7)に配置されたリニアスケール(8)から得られる基準信号とを同時に計測・記録し、干渉信号の位置を正確に記録する手段とを具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、以下のような効果を奏することができる。
【0026】
(1)微細な被測定物の形状を正確に測定することができる。特に、1 μm以下の不確かさで、被測定物の高さを正確に特定することができる。
【0027】
(2)透明な被測定物において、被測定物の上面と下面からの反射光の光路長差を計測し、干渉信号の位置の差から正確な厚さを計測することができる。また、被測定物が既知の高さのステージ上に設置されている場合、被測定物の高さ及び被測定物の底部からの反射光の光路長を計測することで、被測定物の屈折率を求めることが可能である。
【0028】
(3)干渉波束の一部が重なり合うような薄い被測定物の厚さを計測することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の内容について詳細に説明する。
【0030】
なお、本発明では、光分岐/合流部および集光部(対物レンズ)の屈折率、透過率および反射体の反射強度は、光源の波長帯域内での波長依存性は無視できると仮定して説明している。これは実用的な低コヒーレント光源の波長半値幅が100nm程度であり、この範囲内での通常の光学材料の屈折率や反射率の変化は線形かつ十分小さいからである。
【0031】
図1は本発明の加工装置に搭載される被測定物の計測装置の模式図である。
【0032】
この図において、1は少なくとも低コヒーレント光を含む光源、2は光分岐/合流部、3は光強度検出器、4は分散補償レンズ、5は参照ミラー、6は対物レンズ、7は送り機構、8はリニアスケール、9は記録装置、10は被測定物、11は被測定物ステージ部をそれぞれ示している。
【0033】
ここで、光源1を出た光は光分岐/合流部2で2本の光に分けられ、その一方の光は被測定物ステージ部11に設置された被測定物10へ、他方の光は参照ミラー5へ照射される。そして、それぞれの光は被測定物10および参照ミラー5で反射され、それぞれの反射光A,Bが光分岐/合流部2で再度合流して干渉される。干渉計の光学素子はセンサヘッドSとして小型のケースに搭載される。また、このセンサヘッドSは送り機構7により被測定物10の方向に移動可能となっている。センサヘッドSを小型軽量化することで、安価で低剛性の送り機構の利用が可能となる。
【0034】
そのセンサヘッドSの位置を、被測定物10からの反射光Aの光軸方向に移動させ、被測定物10からの反射光Aの光路長を掃引することにより、被測定物10からの反射光Aと参照ミラー5からの反射光Bの干渉波形を計測・記録する。光の強度は、光強度検出器3で検出することができる。
【0035】
ここで、光路長の掃引は、例えば、参照ミラー5を動かすことでも行うことができる。もちろん、被測定物10を移動してもよい。また、被測定物10を固定して干渉計全体を移動させてもよい。この時、干渉波形と同様に、送り機構7に設置しているリニアスケール8から得られる位置信号も同時に記録する。そして、参照ミラー5からの反射光Bの光路長と被測定物10からの反射光Aの光路長が同一となる位置を、干渉波形が左右対称になる位置を求めることにより特定する。この位置を同時に計測したリニアスケール8の読み値と照合して、正確な干渉位置を確定する。このような構成により、送り機構7の精度要求を大幅に緩和することが可能となる。送り機構7は、干渉計を被測定物10の方向に単調移動すれば良く、厳密な定速送りや繰り返し再現精度は必要でなくなる。
【0036】
また、光分岐/合流部2と被測定物10の光路の間には対物レンズ6が設けられている。被測定物10からの反射光Aの強度は一般的に弱いため、このような集光部(対物レンズ6)により光を集光して焦点を形成し、その焦点位置付近に被測定物10からの反射が生じるように設定している。このような手段を採用することにより、焦点付近に入射光を集中させるとともに、いろいろな角度に散乱反射される被測定物10からの反射光Aを対物レンズ6で集光して干渉計で利用することができるようになる。また、乱反射面や傾いた面からも被測定物10の反射光Aが得られ、干渉信号を得ることが可能となる。さらに、干渉最大点で焦点を結ぶように調整することで、空間的な分解能を高めることができる。また、反射光Aは被測定物10の1点に集中するため、被測定物10の特定の位置を計測できるようになる。
【0037】
さらに、参照ミラー5と光分岐/合流部2の間にも分散補償用レンズ4を設置する。この分散補償用レンズ4は対物レンズ6と同一の形状・特性のものを用い、対物レンズ6の分散に起因する波長による光路長の変化をキャンセルする。また、分散補償用レンズ4を設置することにより、参照ミラー5が多少傾いていても反射光Bが入射光と水平になるため、参照ミラー5の設置角精度要求を大幅に緩和できるようになる。
【0038】
本発明の計測装置により、参照ミラー5または被測定物10との距離を移動(掃引)しながら記録した干渉信号波束は、参照ミラー5からの反射光路長と被計測物10からの反射光路長が等しい点を0として、その点から外れた距離をxとすると、
【0039】
【数5】

となる。ここでλは光波長、λ1 は光源1に含まれる最小波長、λ2 は光源1に含まれる最大波長、g (λ) は光源1の波長強度分布関数である。上記の式(1)から記録される波形は、g (λ) がいかなる関数であっても、2つの光路長が等しい点を中心に左右対称である。従って、例えば、下記の式(2)を用いて左右対称の中心点を求めることで、2つの光路長が等しい点を求めることができる。
【0040】
【数6】


また、上記の式(2)を用いて中心点を求める場合、送り機構7の揺らぎなどで左右の対称性が崩れると、評価関数の値が増加し、大きな誤差要因となる。このため正確な掃引は非常に重要になる。
【0041】
本発明ではリニアスケール8と干渉波形の同時計測により位置補正処理を行うことで、小型軽量で低コストのステッピングモータで駆動されるリニアステージで十分な精度を得ることが可能となる。
【0042】
また、光源1の波長分布がガウシアンである場合は上記の式(1)における波束の包絡線はガウシアンであることが導かれる。すなわち、上記の式(1)は下記の式(3)で良好な近似が可能である。
【0043】
【数7】

ここで、xは光路長、f (x) は干渉波束、Aは干渉波束の振幅、wは光源のパワースペクトルの半値幅、λ0 は光源の中心波長である。
【0044】
被測定物(試料)の厚さまたは層状構造のそれぞれの層の厚さを計測する場合、各層の反射端から生じる干渉波束の中心間距離を求めれば良い。しかし、層が薄くて干渉波束が一部重なり合う場合は、上述した左右対称性を用いた方法は利用できなくなる。そこで、反射面の波束をA・g (x) ・cos (x) の関数で近似する。ここで、Aは干渉波束の強度、φは波束中心の位置を表す。2つの面であれば、A1 ・g (x+φ1 ) ・cos (x+φ1 ) +A2 ・g (x+φ2 ) ・cos (x+φ2 ) と近似し、実測波形と近似関数との誤差が最小となるA1 ,A2 ,φ1 ,φ2 を求めることにより、2つの層間の距離を求めることが可能となる。前述のように、g (x) は、ガウシアンを用いることで良好な近似計算が可能であるが、g (x) は、ガウシアンに限定するものではない。また、A1 ,A2 ,φ1 ,φ2 を求める際、近似曲線と観測された信号の二乗誤差が最小になる値を求めることが、従来から用いられている計算手法とのマッチングが良く好ましい。しかし、誤差の評価は二乗誤差に限定するものではなく、差分の絶対値の合計や差分の三乗の絶対値など、近似関数が一意に求まり実測値と良好に一致するものであれば、既知の誤差評価関数のいずれを用いても良い。また、A1 ,A2 ,φ1 ,φ2 を誤差関数が最小となるように求める手法はニュートン法などの逐次近似法が好適であるが、計算量、精度、収束性などを勘案して既知の手法を適宜選択することが可能である。
【0045】
なお、本発明でいう被測定物10とは、精密な位置を計測したい物質(例えば、被加工物)をいい、主として微細な形状を有し、例えば、1 μm以下の不確かさで精密な位置を計測しようとする物質をいう。具体的には、光学部品(レンズ、ミラー、プリズム、波長板など)、半導体材料(ウェハ)、精密金型等が挙げられる。
【0046】
また、本発明でいう位置とは、被測定物10が他との関係もしくは全体との関係で占める場所のほか、高さ(厚さ)、形状等も含む。
【0047】
上記したように、本発明では、光源1に低コヒーレント光を含む光源を採用している。このため、従来の単一波長光源を用いたマイケルソン光干渉と異なり、干渉波形のピークが繰り返して存在することがないため、絶対位置の計測を容易に行うことができる。本発明でいう低コヒーレント光源とは、特定の幅の波長帯を含む光源で、空間干渉可能距離が短いものをいう。具体的には、SLD(Super Luminescent Diode)、超短パルスレーザ、LED、白熱電球、キセノンランプ、メタルハライドランプが挙げられる。この中でもSLDは低価格であり、良好な平行光線(コリメート光)に変換することが容易である点から好ましい。
【0048】
また、中心波長が1100nm以上の低コヒーレント光源は、シリコン結晶を透過するため、例えば、被測定物10として半導体ウェハの厚さの計測にも利用できる。このように、低コヒーレント光源の中心波長は、被測定物10に応じて適宜選択できる。
【0049】
本発明の光分岐/合流部2は、少なくとも低コヒーレント光を含む光源1からの光線を2本の光線に分岐するものであり、例えば、光ビームスプリッタ、光ファイバーカプラ等が例として挙げられる。光ビームスプリッタは、プレート型またはキューブ型のいずれを用いてもよい。特に、光軸のシフトがなく使用が容易であるという点からはキューブ型が、重量・価格の点からはプレート型が好ましい。光線の分岐する角度は特に定めないが、好ましくは90度である。
【0050】
この光分岐/合流部2で、2本の光線に分岐した光線の一方は、被測定物10に照射される。ここで、被測定物10は被測定物ステージ部11に設置されており、光分岐/合流部2と被測定物ステージ部11との間には、光を集光して照射する集光部としての対物レンズ6が設けられている。この集光部には、レンズ、ミラー等を用いることができる。より具体的には、凸レンズ、凹面鏡等が挙げられる。実際には光学系が簡素化できるため、凸レンズを用いた対物レンズ6が望ましい。対物レンズ6は収差、色収差が小さいものが好ましく、非球面レンズ、アクロマティックレンズ等がさらに好ましい。収差の小さいレンズは光線を細く絞り込むことができ、空間分解能を向上させることが可能であるが、一般には高価になるため、必要な分解能により適宜選択することも可能である。
【0051】
さらに、対物レンズ6は、無反射コーティングされたものがよい。無反射コーティングにより、迷光の影響が低減し、より正確な干渉波形観測が可能となる。
【0052】
この対物レンズ6(集光部)は、その焦点距離を長くすることにより、被測定物10から離れたところからの計測が可能となる。一方、焦点距離を短くすることにより、ビームウエストが広がり焦点径が大きくなるのを防止できる。従って、対物レンズ6の焦点距離は、被測定物10と横方向の分解能要求等に基づいて定めるようにする。例えば、形状が単純で面荒さが小さい光学部品などは焦点を絞る必要性が低いので、操作性を重視して焦点距離の長い対物レンズ6を使用することが好ましい。一方、加工工具や精密金型等、形状が複雑で指定した場所のピンポイントの情報が重要な場合は、焦点距離の短い対物レンズ6を用いて焦点径を絞るのが好ましい。また、焦点距離の短いレンズは一般にNA(Numerical Aperture)が大きいので被測定物10の傾きによる影響が低減される点でも良好な特性をもつ。
【0053】
そして、2本に分岐した光線の他の一方は、参照ミラー5に照射される。ここでいう参照ミラー5は特に定めるものではないが、波長以上の厚さを有する層構造を持たず、高い反射率が得られ、かつ平坦で光線を忠実に反射できるもの(例えば、光学用アルミコートミラー、光学用金コートミラー等)を用いるとよい。また、ミラー表面の酸化や傷などの問題を低減するため、半波長以下程度の厚みをもつ保護コーティング(酸化シリコン膜等)が施されたものがさらに好ましい。
【0054】
また、回折格子も光線反射に利用可能であり、音響光学素子を利用することで光路長の掃引を行うことも可能である。
【0055】
光強度検出器3は、利用する波長や感度、応答速度などを考慮して適宜選定できる。例えば、通常の受光素子であるフォトダイオードやフォトトランジスタを用いることができる。特に高速な応答が得られるPINフォトダイオード、高感度特性を併せ持つアバランシェフォトダイオードなどは、本発明の光強度検出器3に好適である。また、微弱な反射の場合は光電子増倍管も有効である。
【0056】
さらに本発明では、光分岐/合流部2と参照ミラー5の光路の間に、必要に応じて分散補償用レンズ4を設けてもよい。レンズ形状・材質は、上記したように対物レンズ6の形状・材質と同一であることが好ましい。このような手段を採用することにより、対物レンズ6の分散に起因する波長による光路長の変化を補償することができる。
【0057】
干渉波形は、例えば、(1)参照ミラー5を光軸方向に移動させる、(2)干渉計を被測定物10の方向に平行な光軸方向に移動させる、の少なくとも1つの手法を採用することにより計測することができる。ここでいう移動には、計測装置自身を被測定物10に対して光軸方向に移動させることを含む。
【0058】
また、参照ミラー5を高速振動(高速微小振動)させるようにしてもよい。参照ミラー5に高速振動を加えるためには、大きさや周波数帯域などの点でピエゾ素子が好適であるが、ボイスコイル、磁歪素子などその他のアクチュエータを用いてもよい。また、参照ミラー5からの光路長を変えるためには参照ミラー5と光分岐/合流部2間に光路長が変えられる光学素子、例えばポッケルス素子、ファラデー素子、伸縮可能な光ファイバー等を挿入しても良い。このような手段を採用すると、検出信号にその振動周波数で変調を加えることができる。例えば、変調周波数を1kHz以上の高い周波数にし、変調周波数でロックイン検出する方式にすると、低周波で起こる種々のドリフトや1/fノイズの影響を低減できるため、より良好な干渉波形を再現できる。変調波形をロックイン検出した場合、干渉波形の微分波形が得られる。
【0059】
この場合は、左右対称な波形に変換するため、得られた微分波形を積分するか、下記の式(4)により、微分波形が点対称になることを利用して、干渉中心点を求めてもよい。
【0060】
【数8】


本発明の計測装置において、送り機構7は干渉波形全体が観測可能な送り幅を有し、送り方向に平行移動が可能で、単調増加的に目的方向に干渉計全体または参照ミラー5を移動できれば何を用いても良い。一般のリニアステージと呼ばれている送り機構は、回転駆動モータの回転軸にボールネジが接続されており、回転動作によりネジ上をステージが直線的に移動する。駆動用のモータにはステッピングモータが利用されており、駆動パルス数によって所定の距離を移動し、そのパルス間隔により移動速度を制御する。この方式は、構造が単純で安価なため、本発明の計測装置に好適である。更に、高い分解能で位置制御を行う場合にはマイクロステップコントローラと呼ばれる装置をパルスジェネレータとモータの間に挿入し、ステッピングモータの各相への印加電流をアナログ的に分割制御することによりさらに細かい刻みで移動させることができる。また、ステッピングモータにハーモニックドライブ減速機構を付加する方式でも分解能を高めることができる。ステッピングモータを用いたリニアステージは、モータの熱がボールネジに伝わりやすい構造であるため、熱膨張による制御量のドリフトの対策が必要となる。
【0061】
一方、ピエゾ素子を用いた送り機構7は非常に高い分解能を有する。一般にピエゾ素子は印加電圧に対して送り量が非線形であるため、補正のための対策が必要である。
【0062】
本発明の計測装置において送り機構7に搭載するリニアスケール8は、位置(送り量)を高精度に出力できるものであればいかなる原理を用いても良い。特にクオーツガラススケールを用いたフレネル回折干渉方式のリニアスケールは精度が良く、小型、低価格であり好ましい。また、上記したガラススケールは現在位置として2相の正弦波が電気信号としてリアルタイムで出力されており、干渉信号と同時計測・記録するのに好都合である。また、他にレーザ干渉を用いた変位計、磁気検出によるマグネスケール、静電容量センサ、ストレンゲージなども、要求精度・価格などに応じて使い分けることが可能である。
【0063】
本発明の計測装置は、光強度検出器3とリニアスケール8によって出力信号を得て、コンピュータや計測器等の記録装置9に格納し、これを演算することによって干渉信号の中心位置を算出することができる。ここで、コンピュータは波形解析のための数値演算が可能であれば、その種類等を特に定めるものではない。また、DSP、ロジック回路などでも演算は可能である。
【0064】
コンピュータ等でのデジタル演算を可能とするため、光強度検出器3からのアナログ電気信号はA−D変換器によりデジタル信号に変換して用いるとよい。ここで、A−D変換器は、ビット数が多く量子化誤差が少ないものが好ましい。また計測時間を短縮するために、被測定物10または参照ミラー5の移動速度を速める場合は、A−D変換器のサンプリング速度も呼応して速くする必要がある。理論的には1つの干渉波形を観測するために最低2点のサンプルが必要であるが、実用的には干渉波形1サイクルの観察に10点以上のサンプリングが好ましい。
【0065】
本発明ではさらに、被測定物10が透明である場合、被測定物10の上面からの反射光による干渉信号波束と被測定物10の下面からの反射光Aによる干渉信号波束のピーク位置の距離から下記の式(5)により被測定物10の厚さを測定する手法を併せて採用することがより好ましい。
【0066】
【数9】

上記の式(5)中、dは被測定物の上面と下面の間の距離、d’は2つの干渉ピーク位置の距離をそれぞれ示している。nは被測定物の屈折率を表す。
【0067】
ここで、nは既知の屈折率の値を用いる。また、被測定物10の上面とは、例えば、光源1からの光が最初に照射される位置をいい、下面とは、例えば、光源1からの光が最初に照射された位置からさらに光が進行し被測定物ステージ部11に到達する位置をいう。例えば、被測定物(試料)10が板状の場合、上面とは試料の上表面をいい、下面とは試料の下表面をいう。
【0068】
また、透明とは、光源1からの光が下面まで照射され、その光が反射される状態のものをいう。
【0069】
さらに、被測定物ステージ部11の高さ(位置)を予め計測しておき、被測定物10をステージ11上に置いて、被測定物10の上面からの反射による干渉波形から被測定物10の高さを計測し、更に、試料の下面からの反射による干渉波形から下面までの光路長を求めると、上記の式(5)においてdとd’が既知となるので、被測定物10の屈折率nを求めることもできる。ここで得られる屈折率nは群屈折率である。
【0070】
本発明の計測装置を加工装置に用いる場合、光分岐/合流部2、参照ミラー5、分散補償レンズ4、および光強度検出器3は金属ケース内に装填して密閉し、外部に露出する必要がある部位(集光部:対物レンズ6)はカバーの脱着等を行い保護することが望ましい。また、光源1からの光を導入する光ファイバー、光強度検出器3の電源、信号伝達用の電線などは防水コネクタ、防水ケーブルを介して加工装置外に導出する。このような構成とすることにより、加工中の飛散物の影響を受けにくくなり、例えば、本発明の計測装置を加工装置上に搭載しても、加工で必要な研削・切削液、潤滑などで用いられる油脂から生じる油煙、加工で生じる切り子などが干渉操作部を汚染し、距離計測の誤差要因となったり、装置そのものを破損してしまうのをより効果的に抑止できる。
【0071】
さらに、油煙や切削液のミストの影響を受けないようにするため、外部に露出する必要がある部位(集光部)にフィルタを通した圧縮気体(好ましくは、圧縮空気)を吹き付けるようにしてもよい。また、計測の際は、加工工具、被加工物上の切削・研削液、切り子を飛散させて除去する目的でも圧縮気体の吹き付けが有効である。
【0072】
上記の式(2)で用いるnの値は、0.5から4までのいずれの値を用いても左右対称性のずれを評価可能であるが、1より大きな値を用いるとバーストノイズの影響を受けやすくなる。また1より小さい値を用いると評価関数の感度が低下する。またnの値を整数以外にすると指数演算が必要になり、一般にはコンピュータの計算負荷が増す結果となる。従って、nの値は1、または2が好適である。
【0073】
また、上記の式(2)の評価関数は、無信号でも小さな値になってしまう。このため、干渉中心点の検索は、干渉波形の振幅または包絡線が干渉信号の最大値の半分となる範囲で行うことが有効である。左右対称となる点が干渉波形の最大値付近に来ることは明らかであり、検索範囲を狭くすることで、この問題を回避可能となり且つ演算量をさらに少なくすることができる。
【0074】
更に、干渉波形の正の部分または負の部分で左右対称の点が生じることが予め分かるので、干渉波形が正または負になる点では評価関数の計算を行わないことで、演算量が低減できかつ紛らわしいピークが生じることを防ぐことができる。干渉波形の正の部分に左右対称点が来るのか負の部分に中心点が来るのかは、干渉計の構成、増幅回路の極性などで決定するが、被測定物10に光学ミラーを設置して良好なSN比で干渉波形を観測することにより、実験からも容易に判別することができる。
【実施例】
【0075】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容及び処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
(実施例1)
図1に示した計測装置として、低コヒーレント光源1に光ファイバー出力SLD(DL−CS5029、Denselight Semiconductor社製、中心波長1550nm、波長帯域幅90nm)、光分岐/合流部2に広帯域無偏光キューブ型ビームスプリッタ〔S322−10−1550N、駿河精機(株)製、10mm角、1550nm用〕、対物レンズ6及び分散補償レンズ4にアクロマティック凸レンズ(AC060−010−C、Thorlabs社製、直径6mm、バックフォーカス8.5mm)、光強度検出器3にGaInAsPINフォトダイオード〔G8376−05、浜松ホトニクス(株)製〕を用い、マイケルソン干渉計を構築した。これらの光学素子は55×33×22mm3 の小型のケースにセンサヘッドSとして実装した。送り機構7には、ステッピングモータ駆動のリニアステージ〔シグマテック(株)製、クロスローラガイド、移動量20mm、繰り返し位置決め精度±20nm〕を用い、位置補正手段として内蔵のリニアスケール〔シグマテック(株)製、クオーツガラススケール:熱膨張率0.5×10-6/℃、正弦波信号周期4μm〕の位置信号を用いた。リニアスケール8は、8μmで格子ピッチを刻んだガラススケールを用いたフレネル回折干渉方式で、4分割PINフォトダイオードにより4μmピッチで位相が90°異なる二相正弦波を電気信号として得ることができる。リニアステージを動かしながら、光強度検出器3で光電変換されて得られた干渉信号と、リニアスケール8の2相正弦波をA−D変換器〔TUSB−1612ADSM−S、(株)タートル工業製、12ビット〕で同時にデジタル信号に変換し、記録装置9としてのパーソナルコンピュータの主記憶に記録した。リニアスケール8の2相正弦波からtanθの値を計算し、tan-1から位置情報を算出し、得られた干渉信号の位置補正を行った。ステッピングモータのドライブはマイクロステップ方式のモータコントローラ〔MR210A、(株)ノヴァ電子製〕およびモータドライバ〔MC−0514−L、(有)マイクロステップ製〕で行った。モータコントローラはUSB経由でパーソナルコンピュータにより制御した。これらの制御を行うプログラムはマイクロソフト社のオペレーティングシステムWindows(登録商標)XPのもとで、プログラミング言語VisualC++を用いて記述した。
【0076】
図2に、ステッピングモータの制御パルスと同期して計測した時系列計測値による波形(点線)と同時計測したリニアスケールの位置データで補正を行ってプロットした干渉波形(実線)を示した。被測定物10として反射面が安定な金ミラー〔S03−20−1/8、駿河精機(株)製、反射面精度λ/10、平行度5秒以内〕を用いた。干渉波形のピッチ(波長)をグラフ下側にプロットした。一点鎖線で示したプロットが補正を行った干渉波形のピッチのプロットである。時系列で得られた干渉信号の中心付近の25周期分のピッチのばらつき(標準偏差)は70nmであったのに対し、補正を行った干渉波形のピッチのばらつきは42nmであり、ボールネジやステッピングモータの送り量のばらつきを改善していることがわかる。
【0077】
次に、被測定物10に同一試料を用い絶対位置の座標を繰り返し計測する実験を行った。その測定結果を図3に示す。測定条件は、送り速度が8000パルス/秒 (160μm/s) 、送り距離が1000パルス (20μm) 、繰り返し回数1000回である。補正なしの場合の計測位置の標本標準偏差は186nmであるのに対して、補正後の標準偏差は38.5nmと約5倍近く改善されていることが確認された。図3を見ると、測定開始時に初期位相が大きく変化し、その後だらだらと変化を続けており、この影響で補正なしの場合の標準偏差が増大していることが分かる。逆に補正ありの計測データは1100nm付近で小さく揺らいでいる程度となっている。長期的な揺らぎは、主にステッピングモータが加熱してステージが熱膨張することにより生じると考えられる。ガラススケールの補正により、このようなドリフトも大幅に低減されて、精度の向上に寄与することが確認された。
(実施例2)
実施例1で示した計測装置を用い、0.15mm厚の顕微鏡用カバーガラスの表面から得られた干渉波形の中心付近を図4に点線で示した。干渉波形の包絡線の半値幅は約15μmである。この干渉波形に対して上記の式(2)の演算を行った。上記の式(2)でn=2,a=5000nmを用いた。見やすくするため、評価関数の逆数を同図4に実線でプロットした。干渉波形の中心に鋭いピークが生じているのがわかる。このピーク位置は上記の式(2)に示す評価関数が最も小さくなる場所であり、左右対称である干渉波形の中心点である。ここで用いた干渉波形は、実施例1のガラススケール補正による正確な掃引を行って得られたものである。
(実施例3)
実施例1で示した計測装置を用い、被測定物10として標準段差〔段差マスタ、(株)ミツトヨ製、呼び段差:10,5,2,1μm〕の計測を行った。被測定物10を搭載した被測定物ステージ部11を、光路長掃引とは別のリニアステージ〔X軸クロスローラガイドKS101−20HD、駿河精機(株)製、位置決め精度5μm以内〕を用い、横方向に移動させながら段差の形状を計測した。図5に1μmと2μmの段差部分の形状計測結果を示した。通常の単色光波干渉計では計測できない段差の形状が良好に計測されている。呼び段差1μmの検査成績書〔製品に添付、(株)ミツトヨ発行〕の値は1.08μmであり、1μmを僅かに上回る本発明での計測結果と一致している。また呼び段差2μmの検査成績書の値は1.94μmであり、この値も本発明での計測結果と良好な一致を示しており、本発明により1μm以下の不確かさで、段差のような不連続な形状をもつ被測定物10の形状計測が可能なのは明らかである。
(実施例4)
被測定物10として、8μmのスペーサを挟んだカバーガラス2枚を用い、8μmの厚さのエアギャップを実施例1に示した計測装置で計測した。得られた干渉信号を図6の細い実線で示す。図6から明らかなように、8μmを隔てた2つの反射端に由来する干渉波束は重なってしまっている。2つの反射端からの2つの重なった波束を、A1 ・g (x+φ1 ) ・cos (x+φ1 ) +A2 ・g (x+φ2 ) ・cos (x+φ2 ) と近似した。ここでg (x) はガウシアンを用いた。すなわち、g (x+φ) =exp〔−(x+φ)2 /w〕とした。wの値は、予め単一反射端で得られた波束の包絡線の線幅を実測して用いた。実測波形と近似関数との誤差が最小となるA1 ,A2 ,φ1 ,φ2 をマイクロソフト社のExcelのソルバー機能を用いて求めた。得られたA1 ,A2 ,φ1 ,φ2 を基に分離された2つの波束の包絡線を細線の波線と一点鎖線で示した。2つのピークの間隔は、φ1 −φ2 から8.18μmと計算され、スペーサの厚さと良好に一致した。
【0078】
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の加工装置に搭載される被測定物の計測方法および計測装置は、微細な被測定物の形状を正確に測定することができるツールとして利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の加工装置に搭載される被測定物の計測装置の模式図である。
【図2】本発明の実施例1におけるリニアスケールによる位相補正結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例1におけるリニアスケールによるドリフト補正結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例2における評価関数のプロットを示す図である。
【図5】本発明の実施例2における標準段差の測定結果を示す図である。
【図6】本発明の実施例4における近接した2つの波束とその分離結果を示す図である。
【符号の説明】
【0081】
1 光源
2 光分岐/合流部
3 光強度検出器
4 分散補償レンズ
5 参照ミラー
6 対物レンズ(集光部)
7 送り機構
8 リニアスケール
9 記録装置
10 被測定物
11 被測定物ステージ部
A,B 反射光
S センサへッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも低コヒーレント光を含む光源と、該光源からの光線を2本の光線に分岐する光分岐/合流部と、前記2本に分岐された光線の一方の光線が照射される被測定物を設置するステージ部と、前記光分岐/合流部と前記ステージ部との光路の間に設けられ光線を集光して照射する集光部と、前記2本に分岐された光線の他の一方の光線が照射される参照ミラーとを有し、前記被測定物からの反射光(A)と前記参照ミラーからの反射光(B)を前記光分岐/合流部により再度合流させて干渉させ、前記被測定物または前記参照ミラーの位置を、それぞれ、前記被測定物からの反射光(A)の光軸方向または前記参照ミラーからの反射光(B)の光軸方向に移動させることにより、前記被測定物からの反射光(A)と前記参照ミラーからの反射光(B)の和を光強度検出器で検出して得られた干渉波形を計測・記録し、低コヒーレント光干渉波形f(x) が前記参照ミラーからの反射光(B)の光路長と前記被測定物からの反射光(A)の光路長が同一となる位置を中心に左右対称になることを利用して、左右対称性の評価式が最小になる位置を求めることで、光路長が同一になる位置を精度よく特定することを特徴とする加工装置に搭載される被測定物の計測方法。
【請求項2】
請求項1記載の加工装置に搭載される被測定物の計測方法において、前記評価式は
【数1】

であることを特徴とする加工装置に搭載される被測定部の計測方法。ここで、xは光路長、f (x) は干渉波形、aは干渉信号の包絡曲線の半値幅程度の有限な値、nは0.5から4までの任意の正数である。
【請求項3】
少なくとも低コヒーレント光を含む光源と、該光源からの光線を2本の光線に分岐する光分岐/合流部と、前記2本に分岐された光線の一方の光線が照射される透明で層状の被測定物を設置するステージ部と、前記光分岐/合流部と前記ステージ部との光路の間に設けられ光線を集光して照射する集光部と、前記2本に分岐された光線の他の一方の光線が照射される参照ミラーとを有し、前記被測定物からの反射光(A)と前記参照ミラーからの反射光(B)を前記光分岐/合流部により再度合流させて干渉させ、前記被測定物または前記参照ミラーの位置を、それぞれ、前記被測定物からの反射光(A)の光軸方向または前記参照ミラーからの反射光(B)の光軸方向に移動させることにより、前記被測定物からの反射光(A)と前記参照ミラーからの反射光(B)の和を光強度検出器で検出して得られた干渉波形を計測・記録し、反射面の波束をA・g (x)・cos (x) の関数で近似し、2つの面であれば、A1 ・g (x+φ1 ) ・cos(x+φ1 )+A2 ・g (x+φ2 ) ・cos(x+φ2 )と近似し、近似関数と実測波形との誤差が最小となるA1 ,A2 ,φ1 ,φ2 を求めることにより、2つの波束の一部が重なっていても2つの層間の距離を正確に求めることを特徴とする加工装置に搭載される被測定物の計測方法。ここで、Aは干渉波束の強度、φは波束中心の位置を表す。
【請求項4】
前記被測定物または前記参照ミラーの位置を、それぞれ、前記被測定物からの反射光(A)の光軸方向または前記参照ミラーからの反射光(B)の光軸方向に移動させることにより、前記被測定物からの反射光(A)と前記参照ミラーからの反射光(B)の干渉波形と、前記被測定物または前記参照ミラーの現在位置が検出可能になるように送り機構に配置されたリニアスケールから得られる基準信号とを同時に計測・記録し、干渉信号の位置を正確に記録可能にすることを特徴とする請求項1又は3記載の加工装置に搭載される被測定物の計測方法。
【請求項5】
(a)少なくとも低コヒーレント光を含む光源と、
(b)該光源からの光線を2本の光線に分岐する光分岐/合流部と、
(c)前記2本に分岐された光線の一方の光線が照射される被測定物を設置するステージ部と、
(d)前記光分岐/合流部と前記ステージ部との光路の間に設けられ光線を集光して照射する集光部と、
(e)前記2本に分岐された光線の他の一方の光線が照射される参照ミラーと、
(f)前記被測定物からの反射光(A)と前記参照ミラーからの反射光(B)を前記光分岐/合流部により再度合流させて干渉させ、前記被測定物または前記参照ミラーの位置を、それぞれ、前記被測定物からの反射光(A)の光軸方向または前記参照ミラーからの反射光(B)の光軸方向に移動させることにより、前記被測定物からの反射光(A)と前記参照ミラーからの反射光(B)の和を検出する光強度検出器と、
(g)該光強度検出器で検出して得られた干渉波形を計測・記録し、低コヒーレント光干渉波形f(x) が前記参照ミラーからの反射光(B)の光路長と前記被測定物からの反射光(A)の光路長が同一となる位置を中心に左右対称になることを利用して、左右対称性の評価式が最小になる位置を求め、光路長が同一になる位置を精度よく特定する測定手段とを具備することを特徴とする加工装置に搭載される被測定物の計測装置。
【請求項6】
請求項5記載の加工装置に搭載される被測定物の計測装置において、前記評価式は
【数2】

であることを特徴とする加工装置に搭載される被測定物の計測装置。ここで、xは光路長、f (x) は干渉波形、aは干渉信号の包絡曲線の半値幅程度の有限な値、nは0.5から4までの任意の正数である。
【請求項7】
(a)少なくとも低コヒーレント光を含む光源と、
(b)該光源からの光線を2本の光線に分岐する光分岐/合流部と、
(c)前記2本に分岐された光線の一方が照射される透明で層状の被測定物を設置するステージ部と、
(d)前記光分岐/合流部と前記ステージ部との光路の間に設けられ光線を集光して照射する集光部と、
(e)前記2本に分岐された光線の他の一方の光線が照射される参照ミラーと、
(f)前記被測定物からの反射光(A)と前記参照ミラーからの反射光(B)を前記光分岐/合流部により再度合流させて干渉させ、前記被測定物または前記参照ミラーの位置を、それぞれ、前記被測定物からの反射光(A)の光軸方向または前記参照ミラーからの反射光(B)の光軸方向に移動させることにより、前記被測定物からの反射光(A)と前記参照ミラーからの反射光(B)の和を検出する光強度検出器と、
(g)該光強度検出器で検出して得られた干渉波形を計測・記録し、反射面の波束をA・g (x)・cos (x) の関数で近似し、2つの面であれば、A1 ・g (x+φ1 ) ・cos(x+φ1 )+A2 ・g (x+φ2 ) ・cos(x+φ2 )と近似し、近似関数と実測波形との誤差が最小となるA1 ,A2 ,φ1 ,φ2 を求めることにより、2つの波束の一部が重なっていても2つの層間の距離を正確に求める測定手段とを具備することを特徴とする加工装置に搭載される被測定物の計測装置。ここで、Aは干渉波束の強度、φは波束中心の位置を表す。
【請求項8】
前記被測定物または前記参照ミラーの位置を、それぞれ、前記被測定物からの反射光(A)の光軸方向または前記参照ミラーからの反射光(B)の光軸方向に移動させることにより、前記被測定物からの反射光(A)と前記参照ミラーからの反射光(B)の干渉波形と、前記被測定物または前記参照ミラーの現在位置が検出可能になるように送り機構に配置されたリニアスケールから得られる基準信号とを同時に計測・記録し、干渉信号の位置を正確に記録する手段を具備することを特徴とする請求項5又は7記載の加工装置に搭載される被測定物の計測装置。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−14536(P2010−14536A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174588(P2008−174588)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ハーモニックドライブ
【出願人】(593022021)山形県 (34)
【出願人】(000146179)エムテックスマツムラ株式会社 (17)
【Fターム(参考)】