説明

加熱素子

【課題】保護層上に抵抗率や硬さが調整された耐食層が形成され、高温・腐食性ガス環境下でも、導電層、特に給電端子部の腐食による劣化を回避でき、しかもチャックパターンを有する場合でも静電チャックとして高い機能を発揮できる長寿命で低製造コストな加熱素子を提供する。
【解決手段】 少なくとも、耐熱性の基材1と、該耐熱性基材上に形成されたヒーターパターン3aを有する導電層3と、該導電層上に形成された絶縁性の保護層4とを有する加熱素子10であって、少なくとも前記保護層4の上に第三の元素が含有された化合物からなる耐食層4pを有するものであることを特徴とする加熱素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも、耐熱性の基材と、該耐熱性基材上に形成されたヒーターパターンを有する導電層と、該導電層上に形成された絶縁性の保護層とを有する加熱素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程における半導体ウェーハの加熱に使用されるヒーターとしては、アルミナ、窒化アルミニウム、ジルコニアなどの焼結セラミックスからなる耐熱性基材にモリブデン、タングステンなどの高融点金属の線や箔を発熱体として巻き付けるか接着したものが用いられてきた。
【0003】
しかし、このようなヒーターでは、発熱体が金属製であるため変形や揮散が起こりやすいこと、短寿命であること、組立が煩雑であるなどの問題点があった(非特許文献1参照)。さらに耐熱性基材に焼結セラミックを使用しているため、これに含まれるバインダーが不純物となるなどの問題点もあった。
【0004】
そこで、このようなヒートサイクルによる熱変形や不純物の飛散を防止するため、機械的強度が大きく高効率の加熱が可能な熱分解窒化ホウ素(PBN:Pyrolitic Boron Nitride)の耐熱性基材と、該耐熱性基材上に熱分解グラファイトの導電層を有するセラミックヒーターが開発されている(例えば、非特許文献1、特許文献1−3等参照)。
【0005】
このようなヒーターの加熱素子は、例えば、図4に示すように、少なくとも、板状の耐熱性基材21にヒーターパターン3aが形成された発熱部20aと、該耐熱性基材21のヒーターパターンと同一面の周辺に給電端子3cが形成された給電端子部20cとを有する加熱素子20であって、ヒーターパターン3aには、絶縁性の保護層4が形成され、給電端子3cには給電部材あるいは電源端子5が接続される。
【0006】
しかし、発熱体である熱分解グラファイトが、酸化消耗に弱いことや、水素によるメタンガス化等、プロセス中に使われる高温ガスと反応性があることから、給電のために露出した給電端子部の熱分解グラファイトが、プロセス内に残存する酸素やプロセス中の高温ガスにより消耗し、寿命が短いという問題があった。
【0007】
そして、この問題解決のために、給電端子部を発熱部より遠ざける試みがなされている。例えば、給電端子が、通電により発熱するヒーターパターンを有する給電部材を介して電源端子部材に接続し、ヒーターパターンを覆う保護層をPBN等の電気絶縁性セラミックスとして、給電端子部の過熱を防いで給電端子の寿命を延ばす(特許文献4参照)等の提案がなされている。
さらに、カーボン製の給電端子部をアセンブリによって組み上げた後に保護層を形成する方法が提案されている(特許文献1、6等参照)。
【0008】
しかし、このようなヒーターの加熱素子は、加熱面側に突起物があるために、被加熱物との間に空間を設ける等の必要があり、コンパクトな設計の障害となる問題があった。また、複数の部品を組み合わせてアセンブリした接続部付近の保護層には、使用によりクラックが入りやすく、クラックから導電層の腐食が始まり、寿命が短くなるという問題があった。
さらに、ハロゲン系エッチングガスを用いる等のホウ化物を腐食する環境で使用される場合、最表層がホウ化物では、耐食性が乏しく、腐食され、短寿命となるという欠点があった。
【0009】
また、最近ではヒーター上に被加熱体である半導体ウェーハを固定するための静電吸着機能を付与し、高機能化したセラミックヒーターが提案されている(特許文献2、3、5参照)が、保護層の抵抗率によってチャック性能が十分に発揮されなかったり、チャックしたウェーハに傷が付いたり割れが生じる事があった。また、ヒーターの耐熱性および耐食性についても上記同様に不十分であった。
【0010】
【非特許文献1】「真空」No.12、(33)、p.53記載のユニオンカーバイドサービセズ社製熱分解グラファイト/熱分解窒化硼素ヒーター
【特許文献1】米国特許第5343022号明細書
【特許文献2】特開平5−129210号公報
【特許文献3】特開平6−61335号公報
【特許文献4】特開平11−354260号公報
【特許文献5】特開平5−109876号公報
【特許文献6】国際公開第WO2004/068541号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、保護層上に抵抗率や硬さが調整された耐食層が形成され、高温・腐食性ガス環境下でも、腐食性ガスが透過し難く、導電層、特に給電端子部の腐食による劣化を回避でき、しかも、チャックパターンを有する場合でも静電チャックとして高い機能を発揮できる長寿命で低製造コストの加熱素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明によれば、少なくとも、耐熱性の基材と、該耐熱性基材上に形成されたヒーターパターンを有する導電層と、該導電層上に形成された絶縁性の保護層とを有する加熱素子であって、少なくとも前記保護層の上に第三の元素が含有された化合物からなる耐食層を発揮できるものであることを特徴とする加熱素子が提供される(請求項1)。
【0013】
このように、ヒーターパターンを有する導電層上に形成された保護層上に、第三の元素が含有された化合物からなる耐食層を有するものであることにより、高温・腐食性ガス環境下でも、導電層、特に給電端子部の腐食による劣化を回避できる長寿命の加熱素子となる。
【0014】
また、最外層に耐食層を施して腐食性ガスを防止したとしても、通常、静電チャックとして用いる場合に、耐食層の抵抗率が高すぎてチャック性能が出せないが、上記のように、前記の第三の元素が含有された化合物からなる耐食層を有する加熱素子を静電チャックとして用いれば、抵抗率および硬さが調整され、抵抗率を低いものとすることができ、高いチャック性能を発揮することができるし、チャックされたウェーハに傷や破損を生じさせないようにすることができる。
【0015】
このとき、前記耐熱性基材のヒーターパターンが形成された面と反対側の面上に、被加熱物を保持する静電チャックパターンが形成され、該静電チャックパターン上に前記保護層および前記耐食層が形成されたものであることができる(請求項2)。
このように、耐熱性基材のヒーターパターンが形成された面と反対側の面上に、被加熱物を保持する静電チャックパターンが形成され、該静電チャックパターン上に保護層と耐食層が形成されたものであれば、より効果的に高いチャック性能を発揮することができるので、被加熱体を保持しつつ効率よく加熱できるとともに高精度で位置を設定することができ、イオンインプラ、プラズマエッチング、スパッタリング等の被加熱体の位置精度が要求される場合に、より正確に所望の加熱プロセスを行うことができる。
【0016】
このような化合物の例としては、前記耐食層の材質を、アルミナ、窒化アルミ、イットリア、フッ化イットリウムのいずれか、またはこれらを組み合わせたものであることが好ましい(請求項3)。
このように、耐食層の材質が、アルミナ、窒化アルミ、イットリア、フッ化イットリウムのいずれか、またはこれらを組み合わせたものであることにより、ハロゲン系エッチングガスや酸素等の腐食環境においても安定して使用することができる。
【0017】
また、前記第三の元素は、ボロン、アルミニウム、ガリウム、カーボン、シリコン、チタン、ゲルマニウム、ジルコニウム、イットリウム、スカンジウム、および、ランタノイド元素のいずれか、またはこれらを組み合わせたものであることが好ましい(請求項4)。さらに、前記第三の元素の含有量が、0.01%〜30%であることが好ましい(請求項5)。
前記第三の元素は、このような第3族元素、第4族元素、第13族元素、第14族元素、希土類元素のいずれか、またはこれらを組み合わせたものとし、その含有量を、0.01%〜30%と少量とすることにより、高温・腐食性ガス環境下で、高い耐食性を有するイットリア等の酸化物セラミックスを材料とした場合であっても、効果的に抵抗率や硬度を調整することができ、高いチャック性能を有するものとできる。
【0018】
また、前記耐食層は、CVD法、反応性スパッタ法、溶射法、ゾルゲル法のいずれか、またはこれらを組み合わせた方法により形成されたものであることが好ましい(請求項6)。
このように、耐食層が、CVD法、反応性スパッタ法、溶射法、ゾルゲル法のいずれか、またはこれらを組み合わせた方法により、形成されたものであることによって、耐食性が高い耐食層を形成することができる。
【0019】
さらに、前記耐食層は、CVD法または反応性スパッタ法により、0.1μm以上20μm以下の厚さの層を形成したものであることが好ましい(請求項7)。
このように、前記耐食層は、CVD法または反応性スパッタ法のいずれかの方法によれば、薄く耐食性の高い耐食層を形成することができるので、これらの方法のいずれかによって比較的薄い0.1μm以上20μm以下の厚さの層となるように形成することにより、低コストで耐食性の高い薄い耐食層を形成することができる。
【0020】
また、前記耐食層は、溶射法またはゾルゲル法により1μm以上100μm以下の厚さの層を形成したものであることが好ましい(請求項8)。
このように、前記耐食層は、溶射法またはゾルゲル法によって1μm以上100μm以下の比較的厚い厚さの層となるように形成することにより、低コストで耐食性の高い耐食層を形成することができる。
【0021】
さらに、前記耐食層は、最表面の表面粗さがRaで1μm以下であることが好ましい(請求項9)。
このように、前記耐食層は、最表面の表面粗さがRaで1μm以下であることにより、最表面の表面粗さが十分に小さいものとなるため、被加熱物との接触面積が大きくなり、被加熱物を傷つけることなく安定に前記耐食層上に吸着保持することができる。
【0022】
また、前記耐食層は、最表面の抵抗率が10〜1013Ω・cm(室温)であることが好ましい(請求項10)。
このように、前記耐食層は、最表面の抵抗率が10〜1013Ω・cm(室温)であることにより、静電チャックとして使用する場合に高いチャック性能を有する加熱素子とできる。
【0023】
さらに、前記耐食層は、最表面のビッカース硬度が1GPa以上8GPa以下であることが好ましい(請求項11)。
このように、前記耐食層は、最表面のビッカース硬度が1GPa以上8GPa以下であることにより、最表面の硬度が十分に小さいため被加熱物を傷つけることなく安定して前記耐食層上に載置あるいは吸着することができる。
【0024】
また、前記保護層の材質が、窒化ホウ素、熱分解窒化ホウ素、窒化珪素、CVD窒化珪素、窒化アルミニウム、CVD窒化アルミニウムのいずれか、またはこれらを組み合せたものであることが好ましい(請求項12)。
このように、保護層の材質が、窒化ホウ素、熱分解窒化ホウ素、窒化珪素、CVD窒化珪素、窒化アルミニウム、CVD窒化アルミニウムのいずれか、またはこれらを組み合せたものとすれば、高い絶縁性で導電層を保護でき、また、高温での使用による剥離や不純物の飛散がなく高純度が要求される加熱プロセスにも低コストで対応できる保護層となる。
【0025】
この場合、前記導電層の材質が、熱分解炭素またはグラッシーカーボンであることが好ましい(請求項13)。
このように、導電層の材質が、熱分解炭素またはグラッシーカーボンであれば、高温まで加熱可能となり、加工も容易なためヒーターパターンを蛇行パターンとして、その幅や厚さ等を変えることにより、任意の温度傾斜をつけたり、熱環境に応じた発熱分布をもたせて均熱化したりすることも容易となる。
【0026】
また、前記耐熱性基材は、少なくとも、ヒーターパターンが形成される板状部と、該板状部の片面から突出する導電路が形成される棒状部と、該棒状部の前記板状部とは反対端に位置し給電端子が形成される先端部とが形成された一体物であり、該耐熱性基材の表面に絶縁性の誘電体層が形成され、前記導電層は、該誘電体層上に形成され、前記保護層は、前記ヒーターパターンと前記導電路の表面を覆う一体的に形成されてなるものであることが好ましい(請求項14)。
【0027】
このように、前記耐熱性基材は、ヒーターパターンが形成される板状部と、該板状部の片面から突出する導電路が形成される棒状部と、該棒状部の前記板状部とは反対端に位置し給電端子が形成される先端部とが形成されたものであることにより、前記板状部に前記ヒーターパターンが形成された加熱部と、前記先端部に前記給電端子が形成された給電端子部とが、前記棒状部に前記導電路が形成された導電部によって隔てられるので、給電端子部が低温化してプロセス中の高温ガスによって消耗し難くなり長寿命となる。
また、前記耐熱性基材は、一体物であって、複数の部品を組み合わせてアセンブリしたものではないので、コンパクトで製造コストが低い上、該耐熱性基材に形成された層は、使用によってクラックが入り難く長寿命である。
さらに、前記導電層は、上記のようにヒーターパターンと導電路と給電端子とが形成され、該ヒーターパターンと該導電路の表面が保護層および耐食層で覆われ、一体的に形成されてなるものであるので、コンパクトで製造コストが低い上、該保護層は、使用によってクラックが入り難くなり長寿命となる。
【0028】
さらに、前記耐熱性基材の材質が、グラファイトであることが好ましい(請求項15)。
このように耐熱性基材の材質がグラファイトであれば、材料が安価で複雑な形状でも加工が容易であるため、製造コストをさらに低くできる上、耐熱性も大きい。
【0029】
また、前記誘電体層の材質が、窒化ホウ素、熱分解窒化ホウ素、窒化珪素、CVD窒化珪素、窒化アルミニウム、CVD窒化アルミニウムのいずれか、またはこれらを組み合せたものであることが好ましい(請求項16)。
このように誘電体層の材質が、窒化ホウ素、熱分解窒化ホウ素、窒化珪素、CVD窒化珪素、窒化アルミニウム、CVD窒化アルミニウムのいずれか、または、これらを組み合せたものであれば、絶縁性が高く、高温での使用による不純物の飛散がなく高純度が要求される加熱プロセスにも対応できる。
【0030】
さらに、前記棒状部の長さが、10〜200mmであることが好ましい(請求項17)。
このように棒状部の長さを、10〜200mmとすることにより、端子部と加熱部が十分な距離をとることができるので、端子部を十分に低温化させることができ、より効果的に端子部の消耗を防ぐことができる。
【0031】
また、前記板状部の前記棒状部が突出する側の面にヒーターパターンが形成され、該板状部の反対側の面に被加熱物を保持する静電チャックパターンが形成されたものであることが好ましい(請求項18)。
このように、前記板状部の前記棒状部が突出する側の面にヒーターパターンが形成され、該板状部の反対側の面に被加熱物を保持する静電チャックパターンが形成されたものであれば、被加熱体を保持しつつ加熱することができるので効率よく加熱できるとともに高精度で位置を設定することができ、イオンインプラ、プラズマエッチング、スパッタリング等の被加熱体の位置精度が要求される場合に、より正確に所望の加熱プロセスを行うことができる。さらに、上記のように端子部の劣化も防止される利点も合わせもつ。
【発明の効果】
【0032】
このように、本発明により、保護層上に抵抗率および硬さが調整された耐食層が形成され、高温・腐食性ガス環境下においても腐食ガスが透過し難く、導電層、特に給電端子部の腐食による劣化を回避できる長寿命で低製造コストの加熱素子が提供される。
また、静電チャックとして用いる場合には、抵抗率を低いものとすることができ、高いチャック性能を発揮することができるとともに、被加熱物に傷を付けにくいものとできる。
さらに、加熱部と給電端子部が、棒状部に導電路が形成された導電部によって隔てられたものとすれば、給電端子部が低温化してプロセス中の高温ガスによって消耗し難くなりより長寿命となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
従来の加熱素子は、ハロゲン系エッチングガスを用いる等のホウ化物を腐食する環境で使用される場合、最表層の保護層がホウ化物では、耐食性が乏しく、最外層が腐食され、短寿命となるという欠点があった。
また、本発明者らの研究によれば、たとえ最外層に耐食性の耐食層を施したとしても、これを静電チャックとして用いる場合、抵抗率が高すぎてチャック性能が出せないという問題があった。
さらに、半導体ウェーハ等の被加熱物を載置してチャックする最表面の硬さが硬すぎると、被加熱物に傷をつけて破損してしまうという問題があった。また、最外面の粗さが粗すぎると、被加熱物に傷をつけ、又は接触面積が小さくチャック力が出ないという問題があった。
【0034】
そこで、本発明者等は、鋭意研究を重ね、少なくとも、耐熱性の基材と、該耐熱性基材上に形成されたヒーターパターンを有する導電層と、該導電層上に形成された絶縁性の保護層とを有する加熱素子であって、少なくとも前記保護層の上に第三の元素が含有された化合物からなる耐食層を有するものとすることにより、高温・腐食性ガス環境下でも、腐食性ガスが透過せず導電層や端子部の腐食による劣化を回避でき、静電チャックとしても高い機能を有する長寿命で低製造コストの加熱素子とすることができることに想到し、本発明を完成させた。
【0035】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。図1および図2は、本発明の加熱素子の概略図である。
【0036】
本発明の加熱素子10は、少なくとも、耐熱性の基材1と、該耐熱性基材上に形成されたヒーターパターン3aを有する導電層3と、該導電層上に形成された絶縁性の保護層4とを有し、少なくとも前記保護層の上に第三の元素が含有された化合物からなる耐食層4pを有するものである。
【0037】
このように、ヒーターパターン3aを有する導電層上に形成された保護層4上に、第三の元素が含有された化合物からなる耐食層4pを有するものであることにより、抵抗率および硬さが調整され、高温・腐食性ガス環境下でも、導電層、特に給電端子部の腐食による劣化を回避でき、長寿命の加熱素子となる。
【0038】
また、従来、最表層がホウ化物では、耐食性が乏しく、最外層が腐食され、短寿命となるという欠点があったので、最外層に耐食層を施したところ、静電チャックとして用いる場合、耐食層としてコートされたイットリア等の酸化物セラミックスは抵抗率が高すぎてチャック性能が発揮できないという問題があった。
しかし、上記のように、前記の第三の元素が含有された耐食層4pを有する加熱素子を静電チャックとして用いる場合には、抵抗率を第三の元素の含有量を調整することにより調整でき、特にドープしない場合にくらべて抵抗率を低いものとすることができ、高いチャック性能を発揮することができる。
【0039】
さらに、図3(A)(C)のように、前記耐熱性基材のヒーターパターン3aが形成された面と反対側の面上に、被加熱物を保持する静電チャックパターン6が形成され、該静電チャックパターン6上に前記耐食層4pが形成されたものであることが好ましい。
【0040】
これにより、効果的に高いチャック性能を発揮することができるので、被加熱体を保持しつつ効率よく加熱できるとともに高精度で位置を設定することができ、イオンインプラ、プラズマエッチング、スパッタリング等の被加熱体の位置精度が要求される場合に、より正確に所望の加熱プロセスを行うことができる。
【0041】
静電チャックのパターン形状には、例えば、櫛歯形状、渦巻き形状、同心円状形状、半円形状、格子形状、クサビ形状等が挙げられる。
【0042】
耐食層4pの材質は、耐熱性があるものであればよいが、アルミナ、窒化アルミ、イットリア、フッ化イットリウムのいずれか、またはこれらを組み合わせたものであることにより、ハロゲン系エッチングガスや酸素等の腐食環境においても安定して使用することができる。また、耐食層4pは、1層のみに限らず、複数層からなるものとすることによって耐食性をさらに高め、少なくとも1層に第三の元素を含有するものとしてもよい。
【0043】
また、前記第三の元素は、ボロン、アルミニウム、ガリウム、カーボン、シリコン、チタン、ゲルマニウム、ジルコニウム、イットリウム、スカンジウム、および、ランタノイド元素、すなわち、第3族元素、第4族元素、第13族元素、第14族元素、希土類元素のいずれか、またはこれらを組み合わせたものであることが好ましい。さらに、前記第三の元素の含有量が、0.01%〜30%と少量であることが好ましい。これにより、高温・腐食性ガス環境下で、高い耐食性を有するイットリア等の酸化物セラミックスを材料とした場合であっても、効果的に抵抗率を所望の値に制御することができ、高いチャック性能を有するものとできる。
【0044】
耐食層4pは、CVD法、反応性スパッタ法、溶射法、ゾルゲル法のいずれか、またはこれらを組み合わせた方法により形成することが好ましい。これによって、耐食性が高い耐食層を形成することができる。
例えば、CVD法または反応性スパッタ法によれば、薄く耐食性の高い耐食層を形成することができるので、これらの方法のいずれかによって比較的薄い0.1μm以上20μm以下の厚さの層となるように形成することができ、低コストで耐食性の高い薄い耐食層を形成することができる。
また、溶射法またはゾルゲル法によって1μm以上100μm以下の比較的厚い厚さの層となるように形成することによっても、低コストで耐食性の高い耐食層を形成することができる。
【0045】
例えば、CVD法によりイットリア層の形成を行う場合には、ガス原料としては、適当な蒸気圧、昇華圧をもつ化合物を用いればよく、例えば、イットリウム2−エチルヘキサノアート、イットリウムジピロバオイルメタナート等をアルゴン、窒素等でキャリアーし、酸素水素火炎を用いて大気下で酸化膜を製膜したり、基板を500℃に加熱して、酸素含有雰囲気下で昇華ガスを吹きつけてもよい。
【0046】
また、ゾルゲル法によりイットリア層を形成する際には、イットリアゾル液を基材上に塗布して乾燥し、焼成すれば、均一なイットリア層を得ることができる。イットリアゾル液としてはイットリアを含有する化合物を有するゾル液であれば制限が無く、公知のゾル液を使うことができる。例えば、所定量のイットリウムを含む化合物を溶媒に溶解させ、さらに、水と酸とを添加して一定の温度にし調整して得られるイットリアゾル液を挙げることができる。化合物の具体的な例としては、塩化イットリウム等のハロゲン化イットリウム、イットリウム亜ハロゲン酸塩イットリウム有機酸、イットリウムアルコキシドおよびイットリウム錯体などのイットリウム化合物を挙げることができる。
【0047】
さらに、保護層4の材質としては、窒化ホウ素、熱分解窒化ホウ素、窒化珪素、CVD窒化珪素、窒化アルミニウム、CVD窒化アルミニウムのいずれか、またはこれらを組み合せたものとするのが好ましい。このように、ショートの原因となる金属を含まないこれらの絶縁性の材質とすることによって、高い絶縁性で導電層を保護でき、また、高温での使用による剥離や不純物の飛散がなく高純度が要求される加熱プロセスにも低コストで対応できる保護層となる。
【0048】
さらに、耐食層4pは、最表面の表面粗さがRaで1μm以下であることが好ましい。これにより、最表面の表面粗さが十分に小さいものとなるため、被加熱物との接触面積が大きくなり、被加熱物を傷つけることなく安定に前記耐食層上に吸着保持することができる。
また、耐食層4pは、最表面の抵抗率が10〜1013Ω・cm(室温)であることが好ましい。これにより、静電チャックとして使用する場合に高いチャック性能を有する加熱素子とできる。
【0049】
さらに、耐食層4pは、最表面のビッカース硬度が1GPa以上8GPa以下であることが好ましい。これにより、最表面の硬度が十分に小さいため被加熱物を傷つけることなく安定に前記耐食層上に載置することができる。
これらの表面粗さ、抵抗率、硬度は、第三の元素のドープ量を調整することにより制御できる。
【0050】
導電層3の材質が、熱分解炭素またはグラッシーカーボンであれば、高温まで加熱可能となり、加工も容易なためヒーターパターンを蛇行パターン等として、その幅や厚さを変えることにより、任意の温度傾斜をつけたり、熱環境に応じた発熱分布をもたせて均熱化したりすることも可能となるので好ましい。特に、熱分解グラファイトであれば、さらに低製造コストであるので好ましいが、通電により発熱する耐熱性の高い材質であれば他の材質であってもよい。ヒーターパターン形状は図1のような蛇行パターン(ジグザグパターン)に限定されるものではなく、例えば同心円状の渦巻パターンであってもよい。
【0051】
ヒーターパターン3aは、板状部1a上において、誘電体層2と保護層4との間に形成され、通電による発熱によって、目的の被加熱物を加熱するための十分な熱を提供するものである。図1、図2のように、導電路3bに接続する電流の導入部が1対であってもよいが、これを2対以上とすることにより、2ゾーン以上の独立したヒーター制御も可能となる。
【0052】
ヒーターパターン3aは、図1(B)や図2(B)のように板状部1aの棒状部1bが突出する面の反対側の面に形成されることが好ましいが、目的に応じて図3(B)のように板状部1aの棒状部1bが突出する側の面に形成されてもよいし、両面に形成されてもよい。
【0053】
耐熱性基材1は、少なくとも、ヒーターパターン3aが形成される板状部1aと、該板状部の片面から突出する導電路3bが形成される棒状部1bと、該棒状部の前記板状部1aとは反対端に位置し給電端子3cが形成される先端部1cとが形成された一体物であり、該耐熱性基材1の表面に絶縁性の誘電体層2が形成され、前記導電層3は、該誘電体層2上に形成され、前記保護層4は、前記ヒーターパターン3aと前記導電路3bの表面を覆う一体的に形成されてなるものであることが好ましい。
【0054】
このように、板状部1aにヒーターパターン3aが形成された加熱部10aと、先端部1cに給電端子3cが形成された給電端子部10cとが、導電路3bが形成された棒状部1bによって隔てられるので、給電端子部10cにおいて露出した給電端子3cが低温化してプロセス中の高温ガスによって消耗し難くなり長寿命となる。
また、前記耐熱性基材1は、一体物であって、複数の部品を組み合わせてアセンブリしたものではないので、コンパクトで製造コストが低い上、該耐熱性基材1に形成された層は、使用によってクラックが入り難く長寿命である。
さらに、前記導電層3は、上記のようにヒーターパターン3aと導電路3bと給電端子3cとが形成され、該ヒーターパターン3aと該導電路3bの表面が保護層4で覆われ、一体的に形成されてなるものであるので、コンパクトで製造コストが低い上、該保護層4は、使用によってクラックが入り難くなり長寿命となる。
【0055】
耐熱性基材1の材質は、グラファイトであれば、材料が安価で複雑な形状でも加工が容易であるため、製造コストをさらに低くできる上、耐熱性も大きいので好ましいが、耐熱性があれば窒化ホウ素焼結体等の他の材質であってもよい。
【0056】
板状部1aは、誘電体層2とヒーターパターン3aと保護層4が形成されて加熱部10aとなるものであればよく、図1,2のような必ずしも円板状である必要はなく、多角形の板状であってもよい。
【0057】
棒状部1bは、板状部1aの片面から突出し、図1(C)に示すように誘電体層2と導電路3bと保護層4およびさらにその上に耐食層4pが形成されて導電部10bとなるものであればよく、図1,2のように必ずしも円柱状である必要はなく、多角柱であってもよい。また、棒状部1bは、図1のように1本であっても、図2のように2本、または、それ以上であってもよい。この図2の加熱素子は、ヒーターパターン3aが板状部1aの両面に形成されたものであり、2本の棒状部1bによって通電され加熱される。
【0058】
棒状部1bの長さを10〜200mmとすることにより、端子部と加熱部が十分な距離をとることができるので、端子部を十分に低温化させることができ、より効果的に端子部の消耗を防ぐことができる。
【0059】
誘電体層2の材質は、窒化ホウ素、熱分解窒化ホウ素、窒化珪素、CVD窒化珪素、窒化アルミニウム、CVD窒化アルミニウムのいずれか、または、これらを組み合せたものであることが好ましい。これにより、絶縁性が高く、高温での使用による不純物の飛散がなく高純度が要求される加熱プロセスにも対応できる。
【0060】
導電層3は、板状部1aではヒーターパターン3aが形成され、前記棒状部1bでは導電路3bが形成され、前記先端部1cでは給電端子3cが形成されており、該ヒーターパターン3aと該導電路3bの表面が保護層4で覆われ、一体的に形成されてなるものとすれば、コンパクトで製造コストが低い加熱素子となる。その上、導電層3が複数の部品を組み合わせたものではないので、剥離し難く、また、保護層4が、使用によって部品の接続部付近にクラックが入ることもなく長寿命である。その上、本発明では、保護層4の上に耐食層4pが形成されているので、腐食ガスが内部に透過して、導電層を劣化させることもない。
【0061】
さらに、図3のように静電気を供給する電極パターンである静電チャックパターン6を設けることにより、被加熱物を保持できるようにするのが好ましい。特に、図3(B)(D)のように、板状部1aの棒状部1bが突出する側の面にヒーターパターン3aが形成され、図3(A)(C)のように、板状部1aの反対側の面に被加熱物を保持する静電チャックパターン6が形成されたものであれば、被加熱体を確実に保持しながら加熱することができるので高精度で加熱位置を設定することができ、イオンインプラ、プラズマエッチング、スパッタリング等の被加熱体の位置精度が要求される場合に、より正確に所望の加熱プロセスを行うことができる。静電チャックのパターン形状6は、例えば、櫛歯形状、渦巻き形状、同心円状形状、半円形状、格子形状、または、クサビ形状にすることができる。
【0062】
以上のような本発明の加熱素子10は、加熱部10a上に被加熱物である半導体ウェーハ等を載置し、電源端子5により電気的に接続して加熱することにより、高温・腐食性ガス環境下においても、導電層、特に給電端子部の腐食による劣化を回避できる長寿命で低製造コストの加熱素子とすることができる。
静電チャックとして用いる場合には、抵抗率を所望の値にすることができ、高いチャック性能を発揮することができる。
さらに、加熱部10aと給電端子部10cとが、棒状部1bに導電路3bが形成された導電部10bによって隔てられるものとすれば、給電端子部10cが低温化してプロセス中の高温ガスによって消耗し難くなり長寿命となる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
図1(D)(E)のような、厚さ10mm外径250mmの板状部1aの片面の中央から、直径30mm長さ100mmの棒状部1bと、該棒状部1bの板状部1aとは反対側に直径60mm厚さ10mmの小さい円板で電源端子5に接続できる4つの直径6mmの穴を形成した先端部1cとが形成された一体物でカーボン製の耐熱性基材1を用意した。
【0064】
この耐熱性基材1を熱CVD炉内に設置してその表面に、反応ガスとしてアンモニアと三塩化硼素を4:1の容量混合比で流し、1900℃、1Torrの条件下で反応させて、この表面に厚さ0.3mmの熱分解窒化硼素からなる誘電体層2を形成した。
【0065】
次に、メタンガスを1800℃、3Torrの条件下で熱分解させて、両面に厚さ0.1mmの熱分解グラファイトからなる導電層を形成した。そして、図3(A)(B)のように、板状部の加熱面の裏側にヒーターパターン3aを形成し、棒状部では導電路3bを形成し、先端部では給電端子3cを形成するように加工した。また、板状部の加熱面側に静電チャックパターン6を機械加工により形成した。
【0066】
給電端子部3cにマスクを施して、再び熱CVD炉内に設置し、反応ガスとしてアンモニアと三塩化硼素とプロパンを4:1:0.4の容量混合比で流し、1900℃、1Torrの条件下、ヒーターパターン3aと導電路3bの表面上に厚さ0.1mmの熱分解窒化硼素からなる絶縁性の保護層4を形成した。この保護層4の抵抗率を常温で測定したところ1x1012Ω・cmであった。
【0067】
さらに、アルミニウムターゲットとし、アンモニアガスと適量のメタンガスを同時に流した反応性スパッタ法によって、耐食層4pとして第三の元素のカーボンを5%含有した窒化アルミ層を20μm形成した。
この層は、同じ条件で黒鉛板に形成したものによって抵抗率を常温で測定したところ1x1013Ω・cmとなり、ビッカース硬度は7.5GPa(ビッカース測定:HV1(荷重9.8N)JISR1610)であり、抵抗率が低く、硬度も低いことが確認できた。
【0068】
以上のように製造した加熱素子を電気的に接続して1x10−4Paの真空中で加熱したところ、1.5kwの電力で加熱部を300℃に加熱できた。その際、給電端子部は150℃となり、加熱部より大幅に低温化することができた。
また、シリコンウエーハを載せて500Vの電圧をかけたところ良好に吸着する事ができた。これを1万回繰り返したが、チャック面の磨耗はわずかに観察される程度で、シリコンウエーハへの傷つけもなかった。これにより、第三の元素を含有する耐食層の抵抗率は低く、硬度は小さくなり、高いチャック性能を発揮できることが確認された。
ここにCFを導入し1x10−2Paとしたが200時間置いても変化無く加熱できた。これにより、高温・腐食性ガス環境下においても、導電層、特に給電端子部の腐食による劣化を回避できることが確認された。
【0069】
(実施例2)
図2(C)(D)のように、厚さ10mm外径250mmの板状部1aの片面の両端部、2箇所に一対の直径20mm長さ50mmの棒状部1bと、該棒状部1bの板状部1aとは反対側にM10の深さ10mmメスネジ穴が形成されて電気的接続をネジにより行えるようにした先端部1cとが形成された一体物でカーボン製の耐熱性基材1を形成した。
【0070】
この耐熱性基材1を熱CVD炉内に設置してその表面に、反応ガスとしてアンモニアと三塩化硼素を4:1の容量混合比で流し、1900℃、1Torrの条件下で反応させて、この表面に厚さ0.3mmの熱分解窒化硼素からなる誘電体層2を形成した。
【0071】
次に、メタンガスを1800℃、3Torrの条件下で熱分解させて、両面に厚さ0.1mmの熱分解グラファイトからなる導電層を形成した。そして、図3(C)(D)のように、板状部の加熱面の裏側にヒーターパターン3aを形成し、棒状部では導電路3bを形成し、先端部では給電端子3cを形成するように加工した。また、板状部の加熱面側に静電チャックパターン6を機械加工により形成した。
【0072】
そして、給電端子部3cにマスクを施して、再び熱CVD炉内に設置し、反応ガスとしてアンモニアと三塩化硼素とプロパンを4:1:0.5の容量混合比で流し、1900℃、1Torrの条件下、ヒーターパターン3aと導電路3bの表面上に厚さ0.1mmの熱分解窒化硼素からなる絶縁性の保護層4を形成した。この膜の抵抗率を常温で測定したところ1x1011Ω・cmであった。
【0073】
その上に、CVD法により、イットリウムアルコキシド化合物及びイットリウム錯体の昇華ガスを用いて、耐食層4pとして、第三の元素であるボロンを含んだ100nmのイットリア層を形成した。ボロンを含ませるために、CVD法を行うときにモル比20分の1の三塩化ホウ素を同時に流すことによって、層中に5%のボロンを含むCVDイットリア層とした。
この層は、同じ条件で黒鉛板に形成したものによって抵抗率を常温で測定したところ1x1012Ω・cmとなり、ビッカース硬度は6.5GPaであり、抵抗率が低く、硬度が低いことが確認できた。表面は、最表面の表面粗さRaが0.5μmと小さくなるように研磨した。
【0074】
以上のように製造した加熱素子を電気的に接続して1x10−4Paの真空中で加熱したところ、1.5kwの電力で加熱部を400℃に加熱できた。その際、給電端子部は150℃となり、加熱部より大幅に低温化することができた。
また、シリコンウエーハを載せて500Vの電圧をかけたところ良好に吸着する事ができた。これを1万回繰り返したが、チャック面の磨耗はわずかに観察される程度で、シリコンウエーハへの傷つけもなかった。これにより、第三の元素を含有する耐食層の抵抗率は低く、硬度は小さくなり、高いチャック性能を発揮できることが確認された。
ここにCFを導入し1x10−2Paとしたが200時間置いても変化無く加熱できた。これにより、高温・腐食性ガス環境下においても、導電層の腐食による劣化を回避できることが確認された。
【0075】
(比較例)
図4(C)(D)のように、厚さ10mm外径250mmの板状の基材21の表面の両端部に、M10の深さ10mmメスネジ穴が形成されて電気的接続をネジにより行えるようにした一体物でカーボン製の耐熱性基材21を形成した。M10のネジ部は0.4mm大き目にしておき、後に電気的接続をネジにより行えるようにした。
【0076】
この耐熱性基材21を熱CVD炉内に設置してその表面に、反応ガスとしてアンモニアと三塩化硼素を4:1の容量混合比で流し、1900℃、1Torrの条件下で反応させて、この表面に厚さ0.3mmの熱分解窒化硼素からなる誘電体層2を形成した。
【0077】
次に、メタンガスを1800℃、3Torrの条件下で熱分解させて、両面に厚さ0.1mmの熱分解グラファイトからなる導電層を形成した。そして、板状部の加熱面の裏側にヒーターパターンを形成し、板状部の加熱面側に静電チャックパターンを機械加工により形成した。ヒーターパターンの両端部では給電端子を形成するように加工した。
【0078】
そして、給電端子部3cにマスクを施して、再び熱CVD炉内に設置し、反応ガスとしてアンモニアと三塩化硼素を4:1の容量混合比で流し、1900℃、1Torrの条件下、ヒーターパターン3aの表面上に厚さ0.1mmの熱分解窒化硼素からなる絶縁性の保護層4を形成した。
【0079】
その上に、耐食層として、ゾルゲル法により、イットリアゾル液を塗布、乾燥、焼成して、厚さが10μmの均一で第三の元素を含まないイットリア層を形成して、加熱素子を完成させた。
この層は、同じ条件で黒鉛板に形成したものによって抵抗率を常温で測定したところ1x1014Ω・cm以上となり、ビッカース硬度は11GPaであり、抵抗率が高く、硬度が大きいことが確認できた。
【0080】
このようにして製造した加熱素子を、電気的に接続して1x10−4Paの真空中で加熱したところ、1.5kwの電力で500℃に加熱できた。その際、給電端子部は400℃とほとんど加熱を防止することができなかった。
また、シリコンウエーハを載せて500Vの電圧をかけたところ吸着不足で位置ずれ不良が時々発生した。これを1万回繰り返したが、チャック面の磨耗はわずかに観察される程度であったが、シリコンウエーハが傷つき破損してしまった。
【0081】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
例えば、上記実施例では、第三の元素としてカーボン、ボロンを含有させた保護層を述べたが、これに限らず、チタン、ゲルマニウム等を含有させた場合であっても同様の効果を生じる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の加熱素子の一例(実施例1)の概略図である。(A)加熱素子の断面図である。(B)加熱素子から保護層を取り除いたものの斜視図である。(C)加熱素子の導電部の部分断面図(図1(A)の点線部分)の拡大図である。(D)耐熱性基材の断面図である。(E)耐熱性基材の斜視図である。
【図2】本発明の加熱素子の他の一例(実施例2)の概略図である。(A)加熱素子の断面図である。(B)加熱素子から保護層を取り除いたものの斜視図である。(C)耐熱性基材の断面図である。(D)耐熱性基材の斜視図である。
【図3】静電チャックパターンを形成した本発明の加熱素子の一例の概略図である。(A)(C)加熱素子の断面図である。(B)(D)加熱素子から耐食層および保護層を取り除いたものの下方からの斜視図である。
【図4】従来の加熱素子の一例(比較例)の概略図である。(A)加熱素子の断面図である。(B)耐熱性基材に導電層が形成された部分の全体の斜視図である。(C)耐熱性基材の断面図である。(D)耐熱性基材の斜視図である。
【符号の説明】
【0083】
1…耐熱性基材、 1a…板状部、 1b…棒状部、 1c…先端部、 2…誘電体層、
3…導電層、 3a…ヒーターパターン、 3b…導電路、 3c…給電端子、
4…保護層、 4p…耐食層、 5…電源端子、 6…静電チャックパターン、
10…加熱素子、 10a…加熱部、 10b…導電部、 10c…給電端子部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、耐熱性の基材と、該耐熱性基材上に形成されたヒーターパターンを有する導電層と、該導電層上に形成された絶縁性の保護層とを有する加熱素子であって、少なくとも前記保護層の上に第三の元素が含有された化合物からなる耐食層を有するものであることを特徴とする加熱素子。
【請求項2】
前記耐熱性基材のヒーターパターンが形成された面と反対側の面上に、被加熱物を保持する静電チャックパターンが形成され、該静電チャックパターン上に前記保護層および前記耐食層が形成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の加熱素子。
【請求項3】
前記耐食層の材質は、アルミナ、窒化アルミ、イットリア、フッ化イットリウムのいずれか、またはこれらを組み合わせたものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の加熱素子。
【請求項4】
前記第三の元素は、ボロン、アルミニウム、ガリウム、カーボン、シリコン、チタン、ゲルマニウム、ジルコニウム、イットリウム、スカンジウム、および、ランタノイド元素のいずれか、またはこれらを組み合わせたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の加熱素子。
【請求項5】
前記第三の元素の含有量が、0.01%〜30%であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の加熱素子。
【請求項6】
前記耐食層は、CVD法、反応性スパッタ法、溶射法、ゾルゲル法のいずれか、またはこれらを組み合わせた方法により形成されたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の加熱素子。
【請求項7】
前記耐食層は、CVD法または反応性スパッタ法により、0.1μm以上20μm以下の厚さの層を形成したものであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の加熱素子。
【請求項8】
前記耐食層は、溶射法またはゾルゲル法により1μm以上100μm以下の厚さの層を形成したものであることを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の加熱素子。
【請求項9】
前記耐食層は、最表面の表面粗さがRaで1μm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の加熱素子。
【請求項10】
前記耐食層は、最表面の抵抗率が10〜1013Ω・cm(室温)であることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の加熱素子。
【請求項11】
前記耐食層は、最表面のビッカース硬度が1GPa以上8GPa以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか一項に記載の加熱素子。
【請求項12】
前記保護層の材質が、窒化ホウ素、熱分解窒化ホウ素、窒化珪素、CVD窒化珪素、窒化アルミニウム、CVD窒化アルミニウムのいずれか、またはこれらを組み合せたものであることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか一項に記載の加熱素子。
【請求項13】
前記導電層の材質が、熱分解炭素またはグラッシーカーボンであることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか一項に記載の加熱素子。
【請求項14】
前記耐熱性基材は、少なくとも、ヒーターパターンが形成される板状部と、該板状部の片面から突出する導電路が形成される棒状部と、該棒状部の前記板状部とは反対端に位置し給電端子が形成される先端部とが形成された一体物であり、該耐熱性基材の表面に絶縁性の誘電体層が形成され、前記導電層は、該誘電体層上に形成され、前記保護層は、前記ヒーターパターンと前記導電路の表面を覆う一体的に形成されてなるものであることを特徴とする請求項1ないし請求項13のいずれか一項に記載の加熱素子。
【請求項15】
前記耐熱性基材の材質が、グラファイトであることを特徴とする請求項14に記載の加熱素子。
【請求項16】
前記誘電体層の材質が、窒化ホウ素、熱分解窒化ホウ素、窒化珪素、CVD窒化珪素、窒化アルミニウム、CVD窒化アルミニウムのいずれか、またはこれらを組み合せたものであることを特徴とする請求項14または請求項15に記載の加熱素子。
【請求項17】
前記棒状部の長さが、10〜200mmであることを特徴とする請求項14ないし請求項16のいずれか一項に記載の加熱素子。
【請求項18】
前記板状部の前記棒状部が突出する側の面にヒーターパターンが形成され、該板状部の反対側の面に被加熱物を保持する静電チャックパターンが形成されたものであることを特徴とする請求項14ないし請求項17のいずれか一項に記載の加熱素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−287378(P2007−287378A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−110700(P2006−110700)
【出願日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】