説明

動力取出機構装備車のエンジン制御装置

【課題】動力取出機構を装備した作業車両の制御装置において、半導体記憶素子(ROMやRAM)等の故障に起因するエンジンの制御モードの異常を診断すると共に、異常時における適正な処置を可能とする。
【解決手段】エンジン制御装置において、第1のエリアにおいてエンジン制御モードを選択し、エンジンの制御に供するとともに、第2のエリアにおいては、第1のエリアとは別に、エンジン制御モードを判断し、これを、第1のエリアのエンジン制御モードと比較し、異なる場合にはエンジン制御をリンプホームモードへ移行する等の安全措置を講ずる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のエンジン制御に係り、特に動力取出機構を備えた作業車両におけるエンジンの制御に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、消防車等の特装車において、ポンプなどの架装装置に動力を供するために、車両のエンジンに動力取出機構を接続したものがある。例えば、動力取出機構は車両の走行時には非作動側に切り替えられて、エンジンの動力は車両の駆動系に供され、一方、車両を停車して架装装置で作業を行う場合には、動力取出機構は作動側に切り替えられて、エンジンの動力は架装装置に供されるようになっている。
【0003】
ところで、車両走行時と架装装置の作業時とでは、必要とされる動力特性が異なるので、エンジンの制御パターンを切り替えることが望ましい。
【0004】
例えば、特許文献1には、エンジン回転数と燃料供給量(噴射量)との関係が示された制御パターンを車両走行時と架装装置での作業時とで別に用意し、動力取出機構の作動・非作動の切り替えにあわせて、動力取出機構作動時用制御パターンによる燃料供給制御と、走行時用制御パターンによる燃料供給制御とを切り替える燃料供給量制御装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−80934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の制御装置では、選択されたエンジンの制御モードが制御装置内部の異常により正しく記憶されず、また実行されないという可能性があった。例えば、制御装置内における半導体記憶素子(ROMやRAM)の故障により、車両走行時にも関わらず、動力取出機構作動時用の制御モードが記憶され、それを基にエンジンが制御されたり、また逆に動力取出機構が作動中にも関わらず車両走行用の制御モードが記憶され、それを基にエンジンが制御される可能性があった。このように不適切なエンジン制御モードで制御された場合には、燃費が悪化したり、エンジン騒音が大きくなったり、また走行時の運転性が極度に悪化する可能性があった。また、エンジン制御モードによって、その監視方法が異なるので、正確なエンジン制御の監視ができないという可能性もあった。
【0007】
本発明は、上記可能性に鑑みてなされたもので、動力取出機構を装備した作業車両のエンジン制御装置において、特に、半導体記憶素子(ROMやRAM)の故障に起因するエンジンの制御モードの異常を診断可能とすると共に、異常時における適正な処置を供する動力取出機構装備車用エンジン制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記本発明の目的を達成するために本発明は、車両用エンジンに動力取出機構が接続可能に配置されている動力取出機構装備車両用のエンジンの制御装置であって、動力取出機構装備車両の動作制御のための種々の制御処理が実行される第1のエリアと、前記第1のエリアによる制御における故障の有無の診断を行う第2のエリアが設けられている動力取出機構装備車両用のエンジン制御装置において、前記第1のエリアはエンジン制御モードを選択し、当該選択されたエンジン制御モードに基づいてエンジンの制御を実行可能であり、前記第2のエリアは、前記第1のエリアとは別に、エンジン制御モードを判断し、前記第1のエリアにおいてエンジンの制御に供されているエンジン制御モードと前記第2のエリアにおいて判断されたエンジン制御モードとを比較することで前記故障診断が実行可能となるように構成されたものである。
【0009】
好ましくは、前記第2のエリアは、前記第1のエリアにおいてエンジンの制御に供されているエンジン制御モードと前記第2のエリアにおいて判断されたエンジン制御モードとを比較した結果、これらが異なる場合には、前記第1のエリアにおいてエンジンの制御に供されているエンジン制御モードを異常と判断し、車両を徐行制御に移行させるように構成されたものである。
【0010】
好ましくは、前記第2のエリアは、前記第1のエリアにおいてエンジンの制御に供されているエンジン制御モードと前記第2のエリアにおいて判断されたエンジン制御モードとを比較した結果、これらが異なる場合には、前記第1のエリアにおいてエンジンの制御に供されているエンジン制御モードを異常と判断し、前記第2のエリアにおいて判断されたエンジン制御モードを第1のエリアにおいてエンジンの制御に供するよう変更するように構成されたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によって、動力取出機構を装備した作業車両において、特に、半導体記憶素子(ROMやRAM)の故障に起因するエンジンの制御モードの異常が診断可能になると共に、異常時における適正な処置を供することができるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態における動力取出機構装備車用エンジン制御装置の構成例を示す構成図である。
【図2】図1に示された動力取出機構装備車用エンジン制御装置における第2のエリアで実行されるエンジン制御モードの選択とその診断手順を示すフローチャートである。
【図3】エンジン制御装置において適宜選択されるエンジンの制御モードの一つであるリミットスピード制御モードにおけるエンジン回転数とトルクの特性図である。
【図4】エンジン制御装置において適宜選択されるエンジンの制御モードの一つであるオールスピード制御モードにおけるエンジン回転数とトルクの特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態のエンジン制御装置は、消防車などの特装車両用エンジンを制御するものであり、例えば、ディーゼルエンジンを対象とする。なお、以下に説明する部材、配置等は本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0014】
まず、図1に基づき本実施形態のエンジン制御装置を説明する。
【0015】
図1に示すように、エンジン1は、燃料を供給するための燃料噴射装置2と、その燃料噴射装置2などを制御するエンジン制御装置(以下、ECUという)3とを備える。
【0016】
燃料噴射装置2は、インジェクタ21、コモンレール22、高圧ポンプ23等からなり、各気筒毎に設けられたインジェクタ21はコモンレール22に接続される。コモンレール22には高圧ポンプ23から送られた加圧燃料が貯留され、高圧ポンプ23は、燃料タンク(図示せず)に接続される。
【0017】
本実施形態のエンジン1には、動力を取出して架装装置(図示せず)に伝達するための動力取出機構11が接続されている。
【0018】
本実施形態の動力取出機構11は、変速機12に設けられる。動力取出機構11は、例えば、変速機12の出力側と架装装置の入力側との間に設けられた動力取出機構切り替え装置(図示せず)を有している。その動力取出機構切り替え装置が接続されると、動力取出機構11は作動状態となりエンジン動力は架装装置に伝達されるようになっている。一方、動力取出機構切り替え装置が切断された場合、動力取出機構11は非作動状態となりエンジン動力は車両駆動系に供される。なお、動力取出機構11は、これに限定されず、様々なものが考えられる。
【0019】
作業者が操作し易い場所、例えば運転室内に動力取出機構スイッチ41が取り付けられている。動力取出機構スイッチ41はOnまたはOffのいずれか一方が選択されるようになっており、動力取出機構スイッチ41がOnの場合には動力取出機構切り替え装置が接続され動力取出機構11が作動状態となり、動力取出機構スイッチ41がOffの場合には動力取出機構切り替え装置が切断され動力取出機構11は非作動状態となる。動力取出機構スイッチ41は、ECU3に接続されており、直接的にはECU3からの指示により、動力取出機構切り替え装置の接続・切断がなされる。
【0020】
ECU3は動力取出機構11の作動・非作動状態やその他情報に基づき、エンジンの制御モード(リミットスピード制御モード、オールスピード制御モード、アイソクロナス制御モード)を切り替える機能を有している。例えば、リミットスピード制御モードは一般道を走行するとき、オールスピード制御モードやアイソクロナス制御モードは動力取出機構を作動状態にし、ポンプなどの架装装置で作業を行うときと言ったように選択される。図3および図4にリミットスピード制御モードとオールスピード制御モードにおけるエンジン回転数とトルクの特性図の例を示す。さらにECU3は選択されたエンジンの制御モードを記憶する記憶手段を有している。例えば、選択されたエンジンの制御モードはECU3内における半導体記憶素子であるROMやRAMに記憶される。
【0021】
ECU3には、クーラント温度センサ13、クランク角センサ14、カム角センサ15、燃料温度センサ24およびコモンレール圧力センサ25やアクセル開度センサ42などの各種センサが接続され、それら各種センサ13〜15、24、25、42からの検出信号が入力される。
【0022】
ECU3は、上記燃料噴射装置2に制御信号を出力すべく接続され、車両走行時(動力取出機構11の非作動時)および架装装置の作業時(動力取出機構11の作動時)に、上記エンジン1への燃料噴射量を制御する。
【0023】
ECU3は、動力取出機構11の非作動時(車両走行時)において、基本的には、クランク角センサ14で検出されるエンジン回転数やアクセル開度センサ42で検出されるアクセル開度などからエンジン1の運転状態を読み取り、その運転状態に基づき、燃料噴射装置2から供給すべき燃料噴射量などを算出して、エンジン1を制御する。
【0024】
一方、ECU3は、動力取出機構11の作動時には、エンジン回転数、アクセル開度センサ42のアクセル開度または架装装置の操作レバー(図示せず)のアクセル開度などから信号を読み取り、その運転状態に基づき、燃料噴射装置2から供給すべき燃料噴射量などを算出して、エンジン1を制御する。
【0025】
次に、ECU3内の機能ブロックについて説明する。まず、本発明の実施の形態におけるECU3においては、ソフトウェアが実行されるエリアが、概念的に形成される3つのエリア(第1のエリア31、第2のエリア32及び第3のエリア33)に区分されたものとなっている。
【0026】
第1のエリアでは、ECU3における基本機能である燃料噴射量の制御が行われる。第1のエリアは前述したように、各種センサ信号(クランク角センサ等)に基づいてエンジン1の運転状態を読み取り、その運転状態に基づき、燃料噴射装置2から供給すべき燃料噴射量などを算出して、エンジン1を制御するものである。
【0027】
また、動力取出機構スイッチ41が、ECU3に接続されており、動力取出機構11の作動・非作動状態がECU3により検出されるようになっている。第1のエリア31は動力取出機構11の作動・非作動状態やその他情報に基づき、エンジンの制御モード(リミットスピード制御モード、オールスピード制御モード、アイソクロナス制御モード)を切り替える機能を有している。例えば、リミットスピード制御モードは一般道を走行するとき、オールスピード制御モードやアイソクロナス制御モードは動力取出機構を作動状態にし、ポンプなどの架装装置で作業を行うときと言ったように選択される。さらに第1のエリア31には選択されたエンジンの制御モードを記憶する記憶手段を有している。例えば、選択されたエンジンの制御モードは半導体記憶素子であるROMやRAMに記憶される。これら選択し、記憶されたエンジンの制御モードに基づいて、エンジン1は制御される。
【0028】
第2のエリア32は、第1のエリア31において選択使用されているエンジン制御モードの異常の有無を診断する診断処理が実行されるようになっている。具体的には、第1のエリア31に入力される信号のうち、エンジン制御モードを選択するために必要な信号(動力取出機構スイッチ41の信号等)から、制御モードを判断する判断手段と、第1のエリア31においてエンジンの制御に供されているエンジン制御モードと、当該第2のエリア32で判断されたエンジンの制御モードを比較する比較手段と、比較手段による判断結果により、第1のエリア31における故障を診断する故障診断手段と、診断結果から故障処理を行う故障処理手段を有する。尚、これらの点については別途フローチャート図2を用いて詳細に説明する。
【0029】
第3のエリア33は第2のエリア32におけるコンピュータの基本機能を監視するものとなっている。例えば、第2のエリア32が使用するところの中央演算装置や、マイコンの周辺機器(AD変換機、タイミング生成機、など)を外部の監視ICとの質問と回答のやり取りを通して診断している。したがって、当該第2のエリア32が使用するところの中央演算装置等は、第1のエリア31に比べ、その信頼性が格段に高いものとなっている。エンジン制御モードは、燃料噴射制御を行う上で、最も重要な情報であり、これを定期的に診断することにより、エンジンが不適切な制御モードで運転されることを防ぐことができる。ところで、第2のエリア32によるエンジンの制御モードの選択は、上述のとおり第1のエリア31におけるエンジンの制御モードの選択に比べ信頼性の高いものであるが、第2のエリア32によるエンジンの制御モードの監視は適当な時間間隔で実施されるものであり、第1のエリア31におけるエンジン1の制御に直接使用できるものではない。
【0030】
図2には、第2のエリア32で実行されるエンジン制御モードの選択とその診断手順がフローチャートで示されており、以下、同図を参照しつつ、その内容について説明する。
【0031】
第2のエリア32において、本件発明に該当する処理が開始されると、最初に、エンジンの制御モードが判断される。第2のエリア32におけるこのエンジン制御モードの判断は、第1のエリア32におけるエンジン制御モードの判断と同じ信号、例えば動力取出機構スイッチ41の信号等が入力され行われる(図2のステップS1参照)。
【0032】
そして次に、第2のエリア32によって判断されたエンジン制御モードと第1のエリア31でエンジンの制御に供されているエンジン制御モードを比較し、これらが同じかどうかが判断される(図2のステップS2参照)。同じと判断された場合(YESの場合)には第1のエリア31で使われているエンジン制御モードは適切であり、サブルーチン処理を終了する。
【0033】
ステップS2において異なると判断された場合(NOの場合)にはステップS3に進む。第1のエリア31においてエンジンの制御に供されているエンジン制御モードが不適切であり、その旨を当該車両の運転者や、搭載された架装装置の作業者に知らせるために、エラー表示を点灯させる。このことにより、運転者等はECU3の不具合を察知し、たとえば当該車両を修理工場等へ移動させることができる。
【0034】
次に、動力取出機構11が作動状態(動力取出機構スイッチ41がON)であるかどうかが判断される(図2のステップS4参照)。動力取出機構11が作動状態である場合には、第2のエリア32において判断されたエンジン制御モードを第1のエリア31においてエンジンの制御に供するよう変更する(図2のステップS6参照)。動力取出機構11が作動状態ということは、例えば消防車であれば消火作業中であり、不具合により、エンジンを停止したり、エンジン出力を大幅に下げての作動は消火作業に大きな支障をきたし、ふさわしくない。
【0035】
動力取出機構11が非作動状態である場合(動力取出機構スイッチ41がOff)には、エンジンをリンプホームモード(徐行走行)で制御するように第1のエリア31の制御を切り替える(図2のステップS5参照)。動力取出機構11が非作動状態ということは、走行モードであり、安全に、しかも退避可能にということを考えて、ここではリンプホームモードを選択している。
【0036】
尚、ステップS2において異なると判断された場合(NOの場合)には、即ステッ
プS3に進まず、ステップS1とステップS2を何度か繰り返し、その結果、第1のエリア31で選択し記憶された制御モードが、第2のエリア32で判断された制御モードと異なると最終的に判断された場合にステップS3へ進むこととしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
エンジンの制御装置の故障によるエンジンの制御モード異常を信頼性高く検出でき、動力取出機構装備車両のエンジン制御装置に適用できる。
【符号の説明】
【0038】
1…エンジン2…燃料噴射装置3…エンジン制御装置11…動力取出機構12…変速機13…クーラント温度センサ14…クランク角センサ15…カム角センサ21…インジェクタ22…コモンレール23…高圧ポンプ24…燃料温度センサ25…コモンレール圧力センサ31…第1のエリア32…第2のエリア33…第3のエリア41…動力取出機構スイッチ42…アクセル開度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用エンジンに動力取出機構が接続可能に配置されている動力取出機構装備車両用のエンジンの制御装置であって、動力取出機構装備車両の動作制御のための種々の制御処理が実行される第1のエリアと、前記第1のエリアによる制御における故障の有無の診断を行う第2のエリアが設けられている動力取出機構装備車両用のエンジン制御装置において、前記第1のエリアはエンジン制御モードを選択し、当該選択されたエンジン制御モードに基づいてエンジンの制御を実行可能であり、前記第2のエリアは、前記第1のエリアとは別に、エンジン制御モードを判断し、前記第1のエリアにおいてエンジンの制御に供されているエンジン制御モードと前記第2のエリアにおいて判断されたエンジン制御モードとを比較することで前記故障診断が実行可能となっていることを特徴とする動力取出機構装備車両用のエンジン制御装置
【請求項2】
前記第2のエリアは、前記第1のエリアにおいてエンジンの制御に供されているエンジン制御モードと前記第2のエリアにおいて判断されたエンジン制御モードとを比較し、これらが異なる場合には、前記第1のエリアにおいてエンジンの制御に供されているエンジン制御モードを異常と判断し、車両を徐行走行に移行させることを特徴とする請求項1記載の動力取出機構装備車両用のエンジン制御装置
【請求項3】
前記第2のエリアは、前記第1のエリアにおいてエンジンの制御に供されているエンジン制御モードと第2のエリアにおいて判断されたエンジン制御モードとを比較した結果、これらが異なる場合には、前記第1のエリアにおいてエンジンの制御に供されているエンジン制御モードを異常と判断し、前記第2のエリアにおいて判断されたエンジン制御モードを第1のエリアにおいてエンジンの制御に供するよう変更することを特徴とする請求項1記載の動力取出機構装備車両用のエンジン制御装置

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−102691(P2012−102691A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253327(P2010−253327)
【出願日】平成22年11月12日(2010.11.12)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】