説明

動圧流体軸受及びそれを備えたスピンドルモータ、ディスク駆動装置

【課題】薄型のスラストプレートを歪むことなく強固に保持することができ、薄型かつ信頼性と耐衝撃性に優れた動圧流体軸受を提供する。
【解決手段】スリーブ1の薄肉部1aとスラストプレート3との間に第1のテーパ部31および第1の接着剤4を、スリーブ1とスラストプレート3との間に第2のテーパ部32および第2の接着剤5を有することにより、接着による応力がスラストプレートに対して均等に加わることにより、薄型のスラストプレートを歪むことなく固定することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動圧流体軸受、特に動圧流体軸受の一端にスラストプレートが固定されている動圧流体軸受、その中でも光・磁気ディスクなどを駆動するモータに用いて好適な動圧流体軸受及び、この動圧流体軸受を用いたスピンドルモータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光・磁気ディスク装置は小型軽量化、高容量化へ進む傾向にある。ノートサイズのパソコンやムービー、携帯電話などのモバイル製品への搭載に伴ってスピンドルモータも小型化、薄型化への対応が避けられず、なおかつ耐衝撃性の向上、高精度化が要望されるようになっている。これらの要望に応えるため動圧流体軸受を利用したスピンドルモータが主流となっている。
【0003】
従来の光・磁気ディスク駆動に用いられる動圧流体軸受は、図11に示すように中空円筒状スリーブ1の内部にシャフト2が配置され、シャフト2端面に対向してスリーブ1の開口部が円盤状のスラストプレート3によって閉塞されている。シャフト2はスリーブ1及びスラストプレート3と微小隙間を有し、これらの微小隙間には動圧発生用の潤滑剤6が充填されている。ラジアル動圧発生溝は、シャフト2の外周面またはスリーブ1の内周面に形成されており、スラスト動圧発生溝は、シャフト2の端面またはスラストプレート3の内方面に形成されている。
【0004】
スラストプレート3の保持には接着剤による方法や、後述するカシメ加工などの塑性変形を利用する方法などがある。接着剤による方法としては、スラストプレート3の側面端部に面取りを設けて、面取りの一部あるいは全部に接着する方法が用いられている(図示省略)。しかしながら、スラストプレート3の薄型化に伴い、十分な大きさの面取りおよび接着部位の確保ができなくなってきており、衝撃時には接着強度が不足し、スラストプレート3の保持ができない恐れがある。(例えば、特許文献1参照。)
【0005】
次に、図11にて、カシメ加工などの塑性変形をスラストプレート3の保持に利用する方法について説明する。スリーブ1の薄肉部1aを塑性変形させることにより、スラストプレート3を強固に保持することができる。さらに潤滑剤6の流出を防ぐために、スリーブ1とスラストプレート3との間を接着剤4によって、封止するようにしている。耐衝撃性の向上には動圧流体軸受の機械的な強度に加えて、動圧流体軸受の剛性を向上させることが必須であり、ラジアル軸受11をより長く設けること、およびスラスト軸受12の外径をより大きくする設計がなされている。一方で、薄型化に応えるために動圧流体軸受の薄型化が進んでいるが、動圧流体軸受の剛性を確保すべく、スラストプレートの薄型化が求められている。(例えば、特許文献2参照。)
【特許文献1】特開2006−200573号公報
【特許文献2】特開平8−275447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前記従来の構成では、スラストプレートの軸方向外方の接着剤と軸方向内方の接着剤との差によって、スラストプレートに加わる力の差が発生するので、スラストプレートの薄型化に伴い、接着後にスラストプレートが歪むという課題を有していた。
【0007】
このスラストプレートの歪みにより、スラスト浮上量の低下、スラスト軸受の剛性の低下が発生するため、従来の動圧流体軸受を用いたスピンドルモータ及び、光・磁気ディスク装置において信頼性および耐衝撃性が悪化する課題を有していた。
【0008】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、スラストプレートが歪むことなく強固に保持することができる薄型かつ信頼性と耐衝撃性に優れた動圧流体軸受、及び、スピンドルモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するために、本発明の動圧流体軸受は、シャフトと、前記シャフトが、間隙を介して回転自在に挿通される軸受孔を有するスリーブと、前記シャフト端面に間隙を介して対向し、前記スリーブの開口部の一方を閉塞するように開口部端部を塑性変形させて、前記スリーブの受け面に固定されたスラストプレートと、前記シャフトと前記スリーブ間の前記間隙と、前記シャフトと前記スラストプレート間の前記間隙に保持される潤滑剤とを有する動圧流体軸受において、前記スラストプレートの軸方向外方で半径方向外周側に、前記スリーブの塑性変形させた端部と第1のテーパ部を形成し、前記スラストプレートの軸方向内方で半径方向外周側に、前記スリーブの前記スラストプレートの受け面の一部に第2のテーパ部を形成し、前記第1のテーパ部と前記第2のテーパ部のそれぞれの一部に接着剤を有することを特徴としたものである。
【0010】
また、本発明は、シャフトと、前記シャフトが、間隙を介して回転自在に挿通される軸受孔を有するスリーブと、前記シャフト端面に間隙を介して対向し、前記スリーブの開口部の一方を閉塞するように開口部端部を塑性変形させて、前記スリーブの受け面に固定されたスラストプレートと、前記シャフトと前記スリーブ間の前記間隙と、前記シャフトと前記スラストプレート間の前記間隙に保持される潤滑剤と、前記シャフト外周と前記スリーブの軸受孔の内周のいずれか一方に動圧発生溝が形成されたラジアル軸受と、前記シャフト端面と前記スラストプレートのいずれか一方に動圧発生溝が形成されたスラスト軸受とを有する動圧流体軸受において、前記ラジアル軸受と前記スラスト軸受の間に、少なくとも一つの大気圧と連通する連通路を設け、前記スラストプレートの軸方向外方で半径方向外周側に、前記スリーブの塑性変形させた端部と第1のテーパ部を形成し、前記スラストプレートの軸方向内方で半径方向外周側に、前記スリーブの前記スラストプレートの受け面の一部に第2のテーパ部を形成し、前記第1のテーパ部と前記第2のテーパ部のそれぞれの一部に接着剤を有することを特徴としたものである。
【0011】
さらにまた、本発明の動圧流体軸受は、シャフトと、前記シャフトが、間隙を介して回転自在に挿通される軸受孔を有するスリーブと、前記スリーブを内部に固定するスリーブホルダと、前記シャフト端面に間隙を介して対向し、前記スリーブホルダの開口部の一方を閉塞するように開口部端部を塑性変形させて、前記スリーブホルダの受け面に固定されたスラストプレートと、前記シャフトと前記スリーブ間の前記間隙と、前記シャフトと前記スラストプレート間の前記間隙に保持される潤滑剤と、前記シャフト外周と前記スリーブの軸受孔の内周のいずれか一方に動圧発生溝が形成されたラジアル軸受と、前記シャフト端面と前記スラストプレートのいずれか一方に動圧発生溝が形成されたスラスト軸受とを有する動圧流体軸受において、前記ラジアル軸受と前記スラスト軸受の間に一方の開口部を配置し、前記スリーブホルダと前記スリーブとの空間に他方の開口部を配置する少なくとも一つの連通路を設け、前記スラストプレートの軸方向外方で半径方向外周側に、前記スリーブホルダの塑性変形させた端部と第1のテーパ部を形成し、前記スラストプレートの軸方向内方で半径方向外周側に、前記スリーブホルダの前記スラストプレートの受け面の一部に第2のテーパ部を形成し、前記第1のテーパ部と前記第2のテーパ部のそれぞれの一部に接着剤を有することを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の動圧流体軸受によれば、スラストプレートの両側に存在する接着剤から受ける応力がほぼ均衡するため、薄型のスラストプレートが歪むことなく強固に保持することができ、また連通路を設けることによってスラスト浮上量のばらつきを抑制でき、スラスト軸受の剛性を高く設定できるため、薄型かつ信頼性と耐衝撃性に優れた動圧流体軸受が得られ、本発明の動圧流体軸受を用いたスピンドルモータ及び、光・磁気ディスク装置の薄型化と、信頼性および耐衝撃性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明の動圧流体軸受の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態における動圧流体軸受の断面図を示す。
【0014】
<動圧流体軸受の構成>
図1において、シャフト2はスリーブ1に回転可能に挿入されている。
スリーブ1の図において右部の開口部には、この開口を閉塞するスラストプレート3 が取り付けられている。スラストプレート3をスリーブ1に取り付けるために、スリーブ1の図において右端部には薄肉部1aが形成されている。薄肉部1aは、スラストプレート3を取り付ける前は、図6の点線で示すように円筒状である。なお、スラストプレート3の取り付け方法については後段にて詳述する。
【0015】
シャフト2及び、シャフト2の右端部のフランジ部2aはスリーブ1及びスラストプレート3との間に微小間隙を有しており、微小間隙は潤滑剤6(図示省略)で満たされている。
【0016】
スリーブ1の内周面には当技術分野では周知であるヘリングボーンパターンのラジアル動圧発生溝(図示省略)が設けられており、シャフト2との間でラジアル軸受11が構成されている。シャフト2の端面とスラストプレート3のそれぞれの対向面のいずれか一方には、周知の図2(a)、(b)に示すスパイラルパターン13あるいはヘリングボーンパターン14のスラスト動圧発生溝が設けられており、スラスト軸受12が構成されている。なお、前記のラジアル動圧発生溝はシャフト2の外周面に形成してもよい。
シャフト2のスリーブ1からの抜け止め構造は、別途モータ側で構成することができる。
【0017】
また、図1ではシャフト2はストレート形状のフランジレスシャフトで説明するが、後述の図7のようなシャフト端面にフランジを有するフランジ付きシャフトであってもよい。この図7のフランジ付きシャフトにおいては、フランジ部2aのスラストプレート3と対向しない面とスリーブ1との間で第2のスラスト軸受(図示省略)を構成してもよい。
【0018】
<動圧流体軸受の動作、作用>
以上のように構成された本実施例の動圧流体軸受の動作を図9を用いて説明する。(図9においてはフランジ付きシャフトを記載しているが、フランジレスシャフトでも同様である。)図9に示したステータコア25に通電すると、マグネット24は駆動力を受け、ハブ23およびシャフト2は例えばハブ23側から見て反時計方向に回転する。図1の動圧流体軸受において、シャフト2が回転すると、シャフト2とスリーブ1の間に存在する潤滑剤6とラジアル動圧発生溝によりラジアル軸受11においてラジアル方向の動圧が発生してシャフト2はスリーブ1と非接触で回転する。
【0019】
また、シャフト2とスラストプレート3との間に設けられたスラスト動圧発生溝によりスラスト軸受12においてスラスト方向の動圧が発生してシャフト2はスラストプレート3と非接触で回転する。
【0020】
ここで、スラスト軸受12において発生したスラスト方向の動圧は、ロータ22およびハブ23に搭載されるディスクやディスクをハブ23に固定する部品など(図示省略)の重量に加えて、マグネット24とステータコア25やブラケット26との間に発生するスラスト方向の磁気力の和と釣り合う位置までシャフト2は浮上し、スラストプレート3との隙間は安定する。なお、スラスト方向の動圧はシャフト2とスラストプレートの隙間に加えて、スラスト軸受12のスラスト動圧発生溝の形状や潤滑剤6の粘度、さらにはシャフト2の回転数によって決定される。
【0021】
この時のシャフト2とスラストプレート3との隙間は当技術分野ではスラスト浮上量と呼ばれ、例えば25℃前後の常温において、回転数が3600〜10000rpm程度の場合は3〜15μm程度に設計される。
【0022】
<スラストプレートの取り付け方法>
スラストプレート3をスリーブ1に取り付けるときは、前記スリーブ1の円筒状の薄肉部1aにスラストプレート3を挿入し、薄肉部1aの下端部を内側に塑性変形の範囲で曲げて保持する。塑性変形の方法としてはカシメ加工が好適である。薄肉部1aを曲げた後、薄肉部1aの端部とスラストプレート3との間で構成される第1のテーパ部31近辺に接着剤を塗布してスラストプレート3とスリーブ1とを接着し、確実な密閉状態が得られるようにするのが望ましい。
【0023】
ここで本実施形態の動圧流体軸受では従来の動圧流体軸受とは異なり、スラストプレート3とスリーブ1との間に第2のテーパ部32が構成されている。第1のテーパ部31の少なくとも一部の範囲に第1の接着剤4と第2のテーパ部32の少なくとも一部の範囲に第2の接着剤5とを兼ね備えるという特徴を有している。
【0024】
スラストプレート3にはステンレスなどの金属が用いられる。薄型の動圧流体軸受においてはラジアル軸受の長さを確保するため、0.3〜0.6mm程度の厚さのものが使用されている。スリーブ1は銅系合金またはそれにニッケルメッキを施したものや鉄系合金が用いられる。また。接着剤としては信頼性、高強度、低アウトガスに優れるエポキシ系接着剤が適している。接着剤については、初めにスリーブ1の第2のテーパ部近辺に塗布した後にスラストプレート3を挿入して、薄肉部1aを曲げた後に、第1のテーパ部近辺に塗布しても構わない。さらにまた、接着剤の塗布と硬化を複数回に分けてもよい。
【0025】
<本発明の作用と効果>
ここで、本実施形態の動圧流体軸受では、従来の動圧流体軸受とは異なり、第1の接着剤4に加えて、スラストプレート3とスリーブ1との間にある第2のテーパ部32と第2の接着剤5を有している。当技術分野で用いられる接着剤で特にエポキシ系接着剤は80℃〜100℃程度で熱硬化をさせる。生産性の観点から高温で短時間に、例えば100℃で1時間程度かけて硬化させることが望ましい。このとき、接着剤によってスラストプレートに対して応力が加わるが、本実施形態の動圧流体軸受ではスラストプレート3に対して第1の接着剤4と第2の接着剤5がほぼ均等に設けられているため、前記応力がスラストプレート3に呈してほぼ均等に加わるという特徴を有している。このため、本実施形態のスラストプレートは歪みを抑制することができる。したがって、フランジ部2aとスラストプレート3との隙間を均一に構成することができる。
【0026】
また、接着剤は塗布時にはある程度の粘度を有する液体であるため、第1の接着剤4と第2の接着剤5は、それぞれ第1のテーパ部31と第2のテーパ部32で気液境界面を形成し、それぞれの気液境界面における表面張力が釣り合うために、接着剤が一方のテーパ部に流れ込むことなく均衡して固化させることができる。
【0027】
従来の動圧流体軸受では、接着剤4はスラストプレート3の片側、すなわち第1のテーパ部31に付いており、接着剤の硬化により、図11において、スラストプレート3は点線で示すように、シャフト側から見て、内周側が外周側に対して凹に歪む。すなわちスラストプレート3の外周側が内周側に対して凸となっている。例えば0.5mm厚のSUS420製のスラストプレートを用いた場合1.5μm程度のスラストプレートの歪みが発生する。なお、歪みの測定については、塑性変形の一種であるカシメ加工前後でのスラストプレート3の歪みは測定誤差範囲程度であるが、微小量の歪みを測定することを考慮して、カシメ加工後と接着後の差を測定している。
【0028】
スラストプレートが上記のように歪んだ場合、外周部に比べて中央部に行くほどスラスト隙間が広がる。従って、外周部ほどフランジ部2aとスラストプレート3との隙間が小さくなるため、さらに実際にはフランジ部2aやスラストプレート3の面粗さの影響があることからスラスト浮上量が3〜5μm程度の場合、接触する恐れが大きくなる。また、スラスト浮上量は高温環境下で潤滑剤6の粘度が低くなると、低下するためさらに接触する危険性が増すため信頼性に重大な影響を及ぼす恐れがあるが、本実施形態の動圧流体軸受ではスラストプレート3を歪みなく保持できるので、薄型で信頼性に優れた動圧流体軸受を得ることができる。
<外乱時の動作、作用、効果>
次に、衝撃などの外乱時の動作について説明する。モバイル用途においては例えば100〜1000G程度の衝撃が加わることがある。このとき浮上している部分に大きなGがかかるためスラスト浮上量は低下するので、接触する恐れが増す。以下、スラスト浮上量と外乱時の動作の関係について詳述する。外乱時のスラスト浮上量はスラスト軸受の剛性により決定される。すなわち剛性が高いと外乱に対するスラスト浮上量の変化量が小さいため動圧流体軸受として安定した性能が得られる。剛性を高くするためには当技術分野では周知であるがスラスト浮上量を低くすることが望ましい。一方で、前述の通りスラスト浮上量は高温環境下で潤滑剤6の粘度が低くなるため、低下することにも注意が必要である。
【0029】
外乱が加わるとスラスト浮上量は、外乱による荷重と釣り合う位置まで低下する。従って、本実施形態の動圧流体軸受では、スラストプレート3が歪みなく固定されており、フランジ部2aとスラストプレート3との隙間は均一に構成されているので、接触しにくい。
【0030】
さらにモバイル用途での外乱は、軸心方向のみに荷重が加わるだけではなく、モーメント荷重(いわば、シャフトを傾ける方向の荷重)がかかることが実状であるため、フランジ部2aは軸心方向にスラストプレート3に近づくのではなく、フランジ部2aの外周側が近づく。従来の動圧流体軸受では、スラストプレート3の外周側が内周側に対して凸となっているため、接触する恐れがある。しかしながら、本実施形態の動圧流体軸受では、スラストプレート3が歪みなく保持されているため、接触しにくい。このため薄型で耐衝撃性に優れた動圧流体軸受を得ることができる。
【0031】
なお、図1においては、ラジアル動圧発生溝とスラスト動圧発生溝の形成箇所を図中点線で例示している。ラジアル動圧発生溝はスリーブ側に上軸受と下軸受に分けて記載しているがこれに限るものではなく、シャフト側に形成してもよい。また、上軸受と下軸受に分かれなくても一つの軸受として形成してもよい。スラスト動圧発生溝はスラストプレート側に記載しているがこれに限るものではなく、シャフト側に形成してもよい。以下の図3、4、5、7についても同様である。
【0032】
(実施の形態2)
図3は、本発明の実施の形態2の動圧流体軸受の断面図を示す。以下実施の形態1と異なる点のみを説明する。図3において、実施の形態1の構成と異なるところは連通路7を設けた点である。連通路7はスリーブ1の軸心にほぼ平行に設けられており、左端部は大気圧に開放され、右端部はスラスト軸受12に連通している。連通路7は例えば直径0.2〜0.6mm程度である。
【0033】
シャフト2が回転すると、ラジアル軸受11においてラジアル方向の動圧が発生するが、
ラジアル軸受を構成しているシャフト2とスリーブ1の隙間のばらつき、例えばスリーブの円筒度のばらつきにより、スラスト方向の動圧が発生する。このスラスト方向の動圧とスラスト軸受12で発生するスラスト方向の動圧の和によって、スラスト浮上量が決定される。従って、ラジアル軸受11の隙間のばらつきが大きいと、スラスト浮上量のばらつきも大きくなる。本実施形態の動圧流体軸受では、連通路7を設けたことにより、ラジアル軸受11で発生したスラスト方向の動圧は、連通路7を通じて大気圧に開放されるために、スラスト軸受12に対して影響を与えることが回避できる。このため、スラスト浮上量のばらつきが抑制でき、さらにスラストプレート3の歪みがないため、従来の動圧流体軸受に比べて、スラスト浮上量を低く安定して保つことができる。本実施形態でのスラスト浮上量は、例えば25℃前後の常温において、回転数が3600〜10000rpm程度の場合は2〜8μm程度に設計される。このため、スラスト軸受の剛性を高く設定することができる。
【0034】
なお、本実施の形態2においては、シャフト2にフランジ部のないフランジレスシャフトで説明しているが、フランジ付きシャフトであっても同様の効果が得られる。また、図3におけるシャフト2の抜け止め構造は別途モータ側に設けることができる。
【0035】
(実施の形態3)
図4は、本発明の実施の形態3の動圧流体軸受の断面図を示す。図4において、シャフト2はスリーブ1に回転可能に挿入されている。さらにスリーブ1はスリーブホルダ8に固定されている。スリーブホルダ8の図4における右部の開口部には、この開口を閉塞するスラストプレート3が取り付けられている。さらにまた、スリーブホルダ8とスリーブ1の間に連通路7を設けた点が実施の形態1および2と異なる点である。スリーブ1のスラストプレート3側の端面には、連通路7とラジアル軸受部やスラスト軸受部との連通を確保するために、例えば環状凸部9が設けられている。
【0036】
実施の形態1および2と同様の効果が得られることに加えて、スリーブホルダに塑性変形に適した材料を選定できるため、スリーブ1の材料を塑性変形によるスラストプレート3の保持に適さない材料にも変更することが可能になり、例えば焼結体をスリーブ1に用いることができる。連通路7はスリーブ1にドリル加工等で穴明けして形成してもよいが、さらにまた連通路7をスリーブ1の外径に例えば溝形状に設けることで、ドリル穴の加工が不要となるために、生産性の向上やコストダウンができる。このとき連通路7はスリーブ1を金型で成型すると生産性やコストダウンの観点から最適である。
【0037】
なお、本実施の形態2においては、シャフト2の抜け止め構造は、スリーブホルダ8の内周に向かって円盤状に形成されたキャップ部10とシャフト2の段部が係合することによって構成されている。
【0038】
また、図4においては、前述したようにラジアル動圧発生溝とスラスト動圧発生溝の形成箇所を図示している。ラジアル動圧発生溝は例えば上軸受と下軸受に分けてあり、上軸受は潤滑剤をシャフト2先端側からスラストプレート3側に移動させる循環力を発生させるように非対称のヘリングボーン形状の動圧溝を形成することもできる。
【0039】
(実施の形態4)
図5は、本発明の実施の形態4の動圧流体軸受の断面図を示す。実施の形態3と異なる点はスラストプレート3をスリーブ1とスリーブホルダ8に固定している点である。すなわち、スリーブホルダ8とスラストプレート3との間に第1のテーパ部31および第1の接着剤4を、スリーブ1とスラストプレート3との間に第2のテーパ部32および第2の接着剤5を有している点である。
【0040】
このときスラストプレート3はスリーブ1に対して直接に固定されるため、スリーブ1のラジアル軸受11に対するスラストプレート3の精度、例えば直角度が向上する。このためフランジ部2aとスラストプレート3との隙間を精度良く構成することができる。
【0041】
なお、以上の実施の形態において、連通路7の本数については1本に限定されるものではない。
【0042】
(実施の形態5)
図6は、本発明の実施の形態5の動圧流体軸受のスラストプレート接着部の拡大図を示す。
図6において、第1のテーパ部の角度θ1と第2のテーパ部の角度θ2について説明する。第1のテーパ部の角度θ1は薄肉部1aの塑性変形量により決定される。ここで、第1のテーパ部の角度θ1はスラストプレート3やスリーブ薄肉部1aの部品ばらつきや塑性変形そのもののばらつきにより、例えば20度±10度程度のばらつきが発生する。一方で第2のテーパ部の角度θ2は例えば、切削や成型などの加工により決定される。カシメ等の塑性変形のばらつきを考慮して、次式の関係を満たすことが望ましい。
【0043】
0.5≦θ2/θ1≦2・・・数式1
3≦θ1≦60 ・・・数式2
θ2<80 ・・・数式3
θ2/θ1が2を超えると、第1の接着剤4の量が第2の接着剤5の量よりも大幅に多くなるため、スラストプレート3の歪みが発生する恐れがある。また、θ2/θ1が0.5よりも小さいと第2の接着剤5の量が多くなり、スラスト軸受12内に流れ込む恐れがある。さらに第1のテーパ部の角度θ1は塑性変形部の薄型化を考慮して3度以上、60度以下を満たすのが望ましい。3度未満になると接着剤のディスペンサ先端が第1のテーパ部開口よりも大きくなるので接着剤の塗布が難しく、手作業となるため生産性が悪化する。60度よりも大きいと塑性変形高さ34が高くなるため動圧流体軸受の薄型化ができない。
【0044】
なお、角度を60度よりも大きくしても、塑性変形長さ33を短くすれば塑性変形高さ34を抑えることは可能だが、塑性変形によるスラストプレート3の固定強度や前述の接着剤の塗布作業性さらには接着剤の量が微量になることから接着剤の剥離の恐れがあり好ましくない。
【0045】
θ2は80度未満とする。これ以上の値であれば前述した固化前の接着剤の気液境界面における表面張力の釣り合いを保つことが難しくなる。
【0046】
以上のように本実施形態の動圧流体軸受では薄型で信頼性に優れた動圧流体軸受を得ることができる。
【0047】
(実施の形態6)
図7は、本発明の実施の形態6の動圧流体軸受の断面図を示す。これまでの実施形態と異なる点はフランジ部2aの外径がシャフト2の外径よりも大きい点である。本実施形態のフランジ部2aは図7(a)のようにシャフトの端部を大きくした構成に加えて、図7(b)のようにフランジ部2aとシャフト1とを別の部品にしても構わない。フランジ部2aの外径を大きくすることにより、スラスト軸受12のスラスト動圧発生溝を大きくできる。これにより、スラスト軸受の剛性を高くできるため、特に耐衝撃性に優れた動圧流体軸受を得ることができる。また、シャフト2の抜け止め構造を形成することができる。
【0048】
なお、以上の実施形態において、スラストプレート3は円盤形状のものを用いた例を挙げて説明してきたが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、図8(a)に示すような外周側に段のついた形状や図8(b)の外周側にテーパのついた形状のスラストプレート3でも本発明を適用することが可能である。
【0049】
(実施の形態7)
図4は、本発明の実施の形態7の動圧流体軸受の断面図を示す。図4において、潤滑剤6をラジアル軸受11の左から右に流し、スリーブ1とスラストプレート3の間を通って、連通路7を右から左に循環させるとよい。潤滑剤6が循環することにより、微小間隙であるラジアル軸受およびスラスト軸受に気泡が残りにくくなり、潤滑剤6の切れによる動圧の低下やNRRO(非繰り返し位置精度:Non−repeatable Run−out)の劣化を抑制することができる。
【0050】
(実施の形態8)
図9は、本発明の実施の形態8のスピンドルモータの断面図を示す。図9において、動圧流体軸受のシャフト2はマグネット24を取り付けたハブ23に固定され、スリーブ1はステータコア25を取り付けたベースに固定されている。本発明の動圧流体軸受を用いることで、薄型で信頼性に優れたスピンドルモータ21が得られる。さらにまた、耐衝撃性に優れたスピンドルモータが得られる。
【0051】
なお、上記実施形態ではシャフト2が回転する動圧流体軸受について説明しているが、シャフト2が固定で、スリーブ1およびスラストプレート3が回転する、当技術分野ではシャフト固定タイプと呼ばれる動圧流体軸受に用いても同様の理由により同様の効果が得られる。
【0052】
また、上記実施形態では、本発明の動圧流体軸受を、スピンドルモータ21に対して搭載した例を挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、スピンドルモータ21以外にも、他のモータ等のような回転駆動装置に搭載される各種動圧流体軸受に対して本発明を適用することが可能である。
【0053】
(実施の形態9)
図10は、本発明の実施の形態9のディスク駆動装置を示す。図10において、ディスク駆動装置41は、ハウジング42の内部は埃などが極少なクリーンな環境に保たれており、スピンドルモータ21に情報を記録するディスク43が搭載されている。さらにディスク43に対して情報を記録、読み出しするヘッド44がアーム45に搭載されており、このヘッド44およびアームをディスク43の所定の位置に移動させるアクチュエータ46から構成されている。
【0054】
本発明のスピンドルモータ21を用いることで、薄型で信頼性に優れたディスク駆動装置41が得られる。さらにまた、耐衝撃性に優れたディスク駆動装置が得られるため、ノートサイズのパソコンやムービー、携帯電話などのモバイル製品への適用に最適である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明にかかる動圧流体軸受は、薄型のスラストプレートを歪みなく固定することで、動圧流体軸受の薄型化および信頼性を向上させることができるとともに、優れた耐衝撃性を有し、光・磁気ディスクなどを駆動するスピンドルモータ等として有用である。
【0056】
本発明にかかる動圧流体軸受は、動圧流体軸受の薄型化および信頼性の向上や優れた耐衝撃性が必要な他の回転駆動装置に搭載される各種動圧流体軸受等の用途にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態1における動圧流体軸受の断面図
【図2】本発明のスラスト軸受の詳細図
【図3】本発明の実施の形態2における動圧流体軸受の断面図
【図4】本発明の実施の形態3および7における動圧流体軸受の断面図
【図5】本発明の実施の形態4における動圧流体軸受の断面図
【図6】本発明の実施の形態5における接着部の拡大図
【図7】本発明の実施の形態6における動圧流体軸受の断面図
【図8】本発明のスラストプレートの例
【図9】本発明の実施の形態8におけるスピンドルモータの断面図
【図10】本発明の実施の形態9におけるディスク駆動装置の模式図
【図11】従来の動圧流体軸受の断面図
【符号の説明】
【0058】
1 スリーブ
1a 薄肉部
2 シャフト
2a フランジ部
3 スラストプレート
4 第1の接着剤
5 第2の接着剤
6 潤滑剤(図示せず)
7 連通路
8 スリーブホルダ
9 環状凸部
10 キャップ部
11 ラジアル軸受
12 スラスト軸受
13 スパイラルパターン
14 へリングボーンパターン
21 スピンドルモータ
22 ロータ
23 ハブ
24 マグネット
25 ステータコア
26 ベース
31 第1のテーパ部
32 第2のテーパ部
33 塑性変形長さ
34 塑性変形高さ
41 ディスク駆動装置
42 ハウジング
43 ディスク
44 ヘッド
45 アーム
46 アクチュエータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャフトと、
前記シャフトが、間隙を介して回転自在に挿通される軸受孔を有するスリーブと、
前記シャフト端面に間隙を介して対向し、前記スリーブの開口部の一方を閉塞するように開口部端部を塑性変形させて、前記スリーブの受け面に固定されたスラストプレートと、
前記シャフトと前記スリーブ間の前記間隙と、前記シャフトと前記スラストプレート間の前記間隙に保持される潤滑剤と、
を有する動圧流体軸受において、
前記スラストプレートの軸方向外方で半径方向外周側に、前記スリーブの塑性変形させた端部と第1のテーパ部を形成し、
前記スラストプレートの軸方向内方で半径方向外周側に、前記スリーブの前記スラストプレートの受け面の一部に第2のテーパ部を形成し、
前記第1のテーパ部と前記第2のテーパ部のそれぞれの一部に接着剤を有する
ことを特徴とする動圧流体軸受。
【請求項2】
シャフトと、
前記シャフトが、間隙を介して回転自在に挿通される軸受孔を有するスリーブと、
前記シャフト端面に間隙を介して対向し、前記スリーブの開口部の一方を閉塞するように開口部端部を塑性変形させて、前記スリーブの受け面に固定されたスラストプレートと、
前記シャフトと前記スリーブ間の前記間隙と、前記シャフトと前記スラストプレート間の前記間隙に保持される潤滑剤と、
前記シャフト外周と前記スリーブの軸受孔の内周のいずれか一方に動圧発生溝が形成されたラジアル軸受と、
前記シャフト端面と前記スラストプレートのいずれか一方に動圧発生溝が形成されたスラスト軸受と、
を有する動圧流体軸受において、
前記ラジアル軸受と前記スラスト軸受の間に、少なくとも一つの大気圧と連通する連通路を設け、
前記スラストプレートの軸方向外方で半径方向外周側に、前記スリーブの塑性変形させた端部と第1のテーパ部を形成し、
前記スラストプレートの軸方向内方で半径方向外周側に、前記スリーブの前記スラストプレートの受け面の一部に第2のテーパ部を形成し、
前記第1のテーパ部と前記第2のテーパ部のそれぞれの一部に接着剤を有する
ことを特徴とする動圧流体軸受。
【請求項3】
シャフトと、
前記シャフトが、間隙を介して回転自在に挿通される軸受孔を有するスリーブと、
前記スリーブを内部に固定するスリーブホルダと、
前記シャフト端面に間隙を介して対向し、前記スリーブホルダの開口部の一方を閉塞するように開口部端部を塑性変形させて、前記スリーブホルダの受け面に固定されたスラストプレートと、
前記シャフトと前記スリーブ間の前記間隙と、前記シャフトと前記スラストプレート間の前記間隙に保持される潤滑剤と、
前記シャフト外周と前記スリーブの軸受孔の内周のいずれか一方に動圧発生溝が形成されたラジアル軸受と、
前記シャフト端面と前記スラストプレートのいずれか一方に動圧発生溝が形成されたスラスト軸受と、
を有する動圧流体軸受において、
前記ラジアル軸受と前記スラスト軸受の間に一方の開口部を配置し、前記スリーブホルダと前記スリーブとの空間に他方の開口部を配置する少なくとも一つの連通路を設け、
前記スラストプレートの軸方向外方で半径方向外周側に、前記スリーブホルダの塑性変形させた端部と第1のテーパ部を形成し、
前記スラストプレートの軸方向内方で半径方向外周側に、前記スリーブホルダの前記スラストプレートの受け面の一部に第2のテーパ部を形成し、
前記第1のテーパ部と前記第2のテーパ部のそれぞれの一部に接着剤を有する
ことを特徴とする動圧流体軸受。
【請求項4】
前記第1のテーパ部の角度θ1と前記第2のテーパ部の角度θ2が次式の関係、
0.5≦(θ2/θ1)≦2、
3≦θ1≦60、
θ2<80
を満足する請求項1から3に記載の動圧流体軸受。
【請求項5】
前記スラストプレートを固定するためのスリーブもしくはスリーブホルダの端部の塑性変形は、カシメ加工によるものである
ことを特徴とする請求項1から3に記載の動圧流体軸受。
【請求項6】
前記シャフトは、前記軸受孔に挿通する本体部と、前記本体部の端部近傍に配置され前記本体部より大きな径のフランジ部を有する
ことを特徴とする請求項1から3に記載の動圧流体軸受。
【請求項7】
前記潤滑剤が、前記ラジアル軸受、前記連通路、前記スリーブホルダと前記スリーブとの空間を循環する
ことを特徴とする請求項3に記載の動圧流体軸受。
【請求項8】
請求項1から7に記載の動圧流体軸受を備えたスピンドルモータ。
【請求項9】
請求項8に記載のスピンドルモータを備えたディスク駆動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−8199(P2009−8199A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171460(P2007−171460)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】