説明

化合物及び該化合物を用いてなる薄膜

【課題】溶媒に対する溶解性が高い化合物を提供する。
【解決手段】第1の2価の構造単位と第2の2価の構造単位とを有し、該第1の2価の構造単位がベンゼン環、シクロヘキサン環及びヘテロ原子を有する5員環あるいはベンゼン環と縮合し、シクロヘキサン環が橋架けされている特定の縮合環構造を有し、ヘテロ原子を有する5員環あるいはベンゼン環で連結する構造単位であり、該第2の2価の構造単位が、上記の構造単位とは異なる構造単位である化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、該化合物を用いてなる薄膜、該薄膜を有する有機半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
例えばπ共役構造を有する化合物を用いた有機半導体素子の製造工程では、シリコン(ウエハ)を用いた無機半導体素子の製造工程で必要な高温プロセス及び真空プロセスを省くことができ、製造に要するエネルギーを低減できる。また、有機半導体素子は、柔軟性を有するフィルム状の素子とすることが可能であり、次世代の素子として注目されている。
【0003】
有機半導体素子に含まれる有機膜の製造工程では、π共役構造を有する化合物の前駆体であって溶媒に対する溶解性を高める可溶性基を含む前駆体を用い、該前駆体を含む液を基体に塗布又は印刷して塗膜を形成し、該塗膜を加熱して該可溶性基を脱離させ、π共役構造を有する化合物からなる薄膜を形成する方法が検討されている。
【0004】
非特許文献1には、ポリアントラセンの前駆体である下記式(A)で表される高分子化合物を用いて膜を形成し、該膜を加熱してポリアントラセンからなる薄膜を製造する方法が記載されている。
【化1】


式(A)中、Meはメチル基を表す。nは2以上の整数を表す。
【0005】
非特許文献2には、下記式(C)で表されるオリゴマーの前駆体である下記式(B)で表される3程度の繰り返し単位(構造単位という場合がある。)を含むオリゴマーを用いて膜を形成し、該膜を加熱して下記式(C)で表される化合物からなる薄膜を製造する方法が記載されている。
【化2】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ケミカル コミュニケーション(Chem. Commun.)、73〜74頁(1997年)
【非特許文献2】テトラヘドロン レターズ(Tetrahedron Letters)、8485〜8488頁(2002年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記π共役構造を有する化合物の前駆体は、溶媒に対する溶解性が十分でないという課題があった。
【0008】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、その目的とするところは、溶媒に対する溶解性が高い、π共役構造を有する化合物を製造しうる化合物(前駆体)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、下記[1]〜[17]が提供される。
[1] 第1の2価の構造単位と第2の2価の構造単位とを有し、該第1の2価の構造単位が下記式(1)で表される構造単位であり、該第2の2価の構造単位が、下記式(1)で表される構造単位とは異なる構造単位である化合物。
【化3】


[式(1)中、R1、R、R、R4、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。nは1以上の整数を表す。mは、0以上の整数を表す。Y及びZは、それぞれ独立に、2価の基を表す。Y、Z、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ複数個ある場合、複数個あるY、Z、R、R、R、R、R及びRそれぞれは、同一であっても相異なっていてもよい。]
[2] 第2の2価の構造単位が、下記式(2)で表される構造単位又は下記式(3)で表される構造単位である[1]に記載の化合物。
【化4】


[式(2)中、Ar1は、−C≡C−で表される基、−C(R)=C(R)−で表される基、−N=N−で表される基、−C(R)=N−で表される基、置換基を有していてもよいアリーレン基又は置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基を表す。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。2個あるRは、同一であっても相異なっていてもよい。]
【化5】


[式(3)中、r及びrrは、それぞれ独立に、0又は1を表す。Ar2、Ar3、Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基又は置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基を表す。Ar6、Ar7及びAr8は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。]
[3] Yで表される2価の基が、下記式(Y−1)〜下記式(Y−8)からなる群から選択されるいずれかの基である[1]又は[2]に記載の化合物。
【化6】


[式(Y−1)〜式(Y−8)中、R10〜R20は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。Xは、水素原子又はハロゲン原子を表す。複数個あるXは、同一であっても相異なってもよい。]
[4] Zで表される2価の基が、下記式(X−1)〜下記式(X−10)からなる群から選択されるいずれかの基である[1]〜[3]のいずれか1つに記載の化合物。
【化7】


[式(X−1)〜式(X−10)中、R30〜R35は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。]
[5] 重量平均分子量が3000以上の高分子化合物である、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の化合物。
[6] 下記式(4)で表される構造単位をさらに有する、[1]〜[5]のいずれか1つに記載の化合物。
【化8】


[式(4)中、nは1以上の整数を表す。mは、0以上の整数を表す。R1、R、R、R4、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。Zは、2価の基を表す。Z、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ複数個ある場合、それらは同一であっても相異なっていてもよい。]
[7] [1]〜[6]のいずれか1つに記載の化合物と溶媒とを含有する溶液。
[8] [1]〜[6]のいずれか1つに記載の化合物を含有する薄膜。
[9] 基体と薄膜とを有する積層体であって、
該薄膜が、[7]に記載の溶液を該基体上に塗布して前記式(1)で表される構造単位を含む化合物を含有する塗膜を形成し、次いで、
該塗膜にエネルギーを加えて、塗膜に含有される化合物に含まれる前記式(1)で表される構造単位の少なくとも一部を前記式(4)で表される構造単位に変換して得られる薄膜である積層体。
[10] 薄膜と基体からなる積層体の製造方法であって、
[7]に記載の溶液を基体上に塗布し、前記式(1)で表される構造単位を含む化合物を含有する塗膜を形成する工程と、
該塗膜にエネルギーを加えて、塗膜に含有される化合物に含まれる前記式(1)で表される構造単位のうちの少なくとも一部を前記式(4)で表される構造単位に変換して薄膜を形成する工程と
を含む積層体の製造方法。
[11] [8]に記載の薄膜、又は[9]に記載の積層体を有する有機半導体素子。
[12] [8]に記載の薄膜、又は[9]に記載の積層体を有する有機トランジスタ。
[13] [12]に記載の有機トランジスタを備える、面状光源。
[14] [12]に記載の有機トランジスタを備える、表示装置。
[15] [8]に記載の薄膜、又は[9]に記載の積層体を有する光電変換素子。
[16] [15]に記載の光電変換素子を含む太陽電池モジュール。
[17] [15]に記載の光電変換素子を含むイメージセンサー。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる化合物は、溶媒に対する溶解性が高いため、π共役構造を有する化合物を含む層を塗布法による簡易な工程で製造しうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、第1実施形態の有機トランジスタの模式的な断面図である。
【図2】図2は、第2実施形態の有機トランジスタの模式的な断面図である。
【図3】図3は、第3実施形態の有機トランジスタの模式的な断面図である。
【図4】図4は、第4実施形態の有機トランジスタの模式的な断面図である。
【図5】図5は、第5実施形態の有機トランジスタの模式的な断面図である。
【図6】図6は、第6実施形態の有機トランジスタの模式的な断面図である。
【図7】図7は、第7実施形態の有機トランジスタの模式的な断面図である。
【図8】図8は、面状光源の模式的な断面図である。
【図9】図9は、光電変換素子の模式的な断面図である。
【図10】図10は、高分子化合物P1のNMRスペクトルを示すグラフである。
【図11】図11は、高分子化合物P1の紫外吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを示すグラフである。
【図12】図12は、高分子化合物P1及び高分子化合物P2の紫外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図13】図13は、高分子化合物P2のサイクリックボルタングラムである。
【図14−1】図14−1は、実施例3で製造された有機電界効果トランジスタの模式的な平面図である。
【図14−2】図14−2は、実施例3で製造された有機電界効果トランジスタの模式的な断面図である。
【図15−1】図15−1は、実施例4で製造された有機薄膜太陽電池の模式的な平面図である。
【図15−2】図15−2は、実施例4で製造された有機薄膜太陽電池の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。以下の説明において、図面を参照して説明する場合があるが本発明はこれに限定されない。なお図面には、発明が理解できる程度に、構成要素の形状、大きさ及び配置が概略的に示されているに過ぎない。各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。以下の説明に用いる各図において、同様の構成要素については同一の符号を付して示し、重複する説明を省略する場合がある。
【0013】
本発明の化合物は、第1の2価の構造単位と第2の2価の構造単位とを有し、該第1の2価の構造単位が式(1)で表される構造単位であり、該第2の2価の構造単位が、式(1)で表される構造単位とは異なる構造単位である。
【0014】
【化9】

【0015】
式(1)中、R1、R、R、R4、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。nは1以上の整数を表す。mは、0以上の整数を表す。Y及びZは、それぞれ独立に、2価の基を表す。Y、Z、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ複数個ある場合、複数個存在するY、Z、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ同一であっても相異なっていてもよい。
【0016】
式(1)中、R1、R、R、R4、R及びRが置換基である場合、置換基としては、ハロゲン原子、炭素原子数が1〜30の基が好ましい。
【0017】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
中でも、フッ素原子、塩素原子が好ましい。
【0018】
炭素原子数が1〜30の基の例としては、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基などのアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基などのアルコキシ基、チエニル基などのヘテロアリール基、フェニル基、ナフチル基などのアリール基、シアノ基が挙げられる。炭素原子数が1〜30の基中の水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよい。炭素原子数1〜30の基中の水素原子がハロゲン原子で置換されている場合、フッ素原子で置換されていることが好ましい。
【0019】
mは、0又は1であることが好ましい。nは、2以上であることが好ましく、2であることがより好ましい。
【0020】
化合物の合成の容易さの観点からは、R及びR4は、ともに水素原子であることが好ましい。
【0021】
Yは、熱、光などのエネルギーを与えることで脱離しうる基が好ましい。Yで表される2価の基の例としては、下記式(Y−1)〜式(Y−8)で表される基が挙げられる。
【0022】
【化10】

【0023】
式(Y−1)〜式(Y−8)中、R10、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17、18、R19、R20は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。Xは、水素原子又はハロゲン原子を表す。複数個あるXは、同一であっても相異なっていてもよい。
【0024】
10〜R20は、水素原子又は炭素原子数が1〜30の基が好ましい。
【0025】
10〜R19が置換基である場合、該置換基の例としては、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基などのアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基などのアルコキシ基、フェニル基、ナフチル基などのアリール基が挙げられる。アルキル基としては、炭素原子数1〜30のアルキル基が好ましく、炭素原子数1〜20のアルキル基がより好ましく、炭素原子数1〜12のアルキル基がさらに好ましく、炭素原子数1〜6のアルキル基が特に好ましい。
【0026】
20が置換基である場合、該置換基の例としては、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基などのアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基などのアルコキシ基、フェニル基、ナフチル基などのアリール基、ビニル基、エステル構造を含む基が挙げられる。
【0027】
で表されるハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。ハロゲン原子の中でも、塩素原子、臭素原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0028】
式(Y−1)〜式(Y−8)で表される基の中でも、式(Y−2)〜式(Y−7)で表される基が好ましく、式(Y−2)〜式(Y−4)で表される基がより好ましい。Yが式(Y−3)又は式(Y−4)で表される基の場合、R16、R17、R18及びR19は、炭素原子数が1〜10のアルコキシ基であることが好ましく、炭素原子数が1〜4のアルコキシ基であることがより好ましい。Yが式(Y−2)で表される基の場合、R12〜R15がともに水素原子であるか、又はR12及びR14が水素原子であって、R13及びR15が炭素原子数が1〜10のアルキル基であることが好ましい。炭素原子数が1〜10のアルキル基の中でも、炭素原子数が1〜4のアルキル基が好ましい。
式(1)中、Zで表される2価の基の例としては、下記式(X−1)〜式(X−10)で表される基が挙げられる。
【0029】
【化11】

【0030】
式(X−1)〜式(X−10)中、R30〜R35は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。
【0031】
式(X−1)〜式(X−10)中、R30〜R35は、水素原子又は炭素原子数が1〜30の基が好ましい。
【0032】
30〜R35が置換基である場合、該置換基の例としては、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基などのアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基などのアルコキシ基、フェニル基、ナフチル基などのアリール基が挙げられる。アルキル基としては、炭素原子数が1〜30のアルキル基が好ましく、炭素原子数が1〜20のアルキル基がより好ましく、炭素原子数が1〜12のアルキル基がさらに好ましく、炭素原子数が1〜6のアルキル基が特に好ましい。
【0033】
式(X−1)〜式(X−10)で表される基の中でも、式(X−1)〜式(X−4)及び式(X−7)で表される基が好ましく、式(X−1)及び式(X−4)で表される基がより好ましい。
【0034】
本発明の化合物が有する第2の2価の構造単位としては、下記式(2)で表される構造単位、下記式(3)で表される構造単位が好ましい。
【0035】
【化12】

【0036】
式(2)中、Ar1は、−C≡C−で表される基、−C(R)=C(R)−で表される基、−N=N−で表される基、−C(R)=N−で表される基、置換基を有していてもよいアリーレン基又は置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基を表す。但し、Ar1は、上記式(1)で表される構造単位とは異なる。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。2個あるRは、同一であっても相異なっていてもよい。
【0037】
【化13】

【0038】
式(3)中、r及びrrは、それぞれ独立に、0又は1を表す。Ar2、Ar3、Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基又は置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基を表す。Ar6、Ar7及びAr8は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。
【0039】
又はRで表される置換基の例としては、R〜Rで表される置換基として説明したと同じ基が挙げられる。
【0040】
アリーレン基としては、単環の芳香族炭化水素化合物から水素原子2個を除いた基、多環の芳香族炭化水素化合物から水素原子2個を除いた基、2個以上の芳香族炭化水素化合物が直接結合するか、又はビニレン基を介して結合した化合物から水素原子2個を除いた基が挙げられる。
【0041】
アリーレン基が、単環の芳香族炭化水素化合物から水素原子2個を除いた基である場合、該アリーレン基の炭素原子数は、6〜60であることが好ましく、6〜48であることがより好ましく、6〜30であることがさらに好ましく、6〜14であることが特に好ましい。なお該炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。アリーレン基が、単環の芳香族炭化水素化合物から水素原子2個を除いた基である場合、置換基を有していてもよいアリーレン基の例としては、下記の基が挙げられる。
【0042】
【化14】

【0043】
アリーレン基が、多環の芳香族炭化水素化合物から水素原子2個を除いた基である場合、該アリーレン基の炭素原子数は、10〜60であることが好ましく、10〜48であることがより好ましく、10〜30であることがさらに好ましく、10〜14であることが特に好ましい。なお該炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。
【0044】
アリーレン基が、多環の芳香族炭化水素化合物から水素原子2個を除いた基である場合、置換基を有していてもよいアリーレン基の例としては、下記の基が挙げられる。
【0045】
【化15】

【0046】
【化16】

【0047】
【化17】

【0048】
【化18】

【0049】
【化19】

【0050】
【化20】

【0051】
上記式1〜式31及び式a〜式c中、Rは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。Rが置換基である場合、該置換基としては、メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基などのアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基などのアルコキシ基、フェニル基、ナフチル基等のアリール基、チエニル基などのヘテロアリール基、ハロゲン原子、シアノ基が挙げられる。Rがアルキル基である場合、炭素原子数が1〜20のアルキル基が好ましく、炭素原子数が1〜12のアルキル基がより好ましく、炭素原子数1〜8のアルキル基がさらに好ましい。Rがアルコキシ基である場合、炭素原子数が1〜20のアルコキシ基が好ましく、炭素原子数が1〜12のアルコキシ基がより好ましく、炭素原子数が1〜8のアルコキシ基がさらに好ましい。
【0052】
アリーレン基が、2個以上の芳香族炭化水素化合物が直接結合するか、又はビニレン基を介して結合した化合物から水素原子2個を除いた基である場合、芳香族炭化水素化合物としてはベンゼンが好ましい。アリーレン基が、2個以上のベンゼンが直接結合するか、又はビニレン基を介して結合した化合物から水素原子2個を除いた基である場合、置換基を有していてもよいアリーレン基の例としては、下記の基が挙げられる。
【0053】
【化21】

【0054】
【化22】

【0055】
【化23】

【0056】
上記式31〜式46中、Rは、前述と同じ意味を表す。
【0057】
ヘテロアリーレン基としては、単環の芳香族複素環式化合物から水素原子2個を除いた基、多環の芳香族複素環式化合物から水素原子2個を除いた基、少なくとも1個の芳香族複素環式化合物を含む2個以上の芳香族化合物が直接結合するか、又はビニレン基を介して結合した化合物から水素原子2個を除いた基が挙げられる。
【0058】
ヘテロアリーレン基が単環の芳香族複素環式化合物から水素原子2個を除いた基又は多環の芳香族複素環式化合物から水素原子2個を除いた基である場合、該ヘテロアリーレン基の炭素原子数は、3〜60であることが好ましく、3〜20であることがより好ましい。なお該炭素原子数に置換基の炭素原子数は含まれない。
【0059】
ヘテロアリーレン基が単環の芳香族複素環式化合物から水素原子2個を除いた基又は多環の芳香族複素環式化合物から水素原子2個を除いた基である場合、置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基の例としては、下記の基が挙げられる。
【0060】
【化24】

【0061】
【化25】

【0062】
【化26】

【0063】
【化27】

【0064】
【化28】

【0065】
【化29】

【0066】
【化30】

【0067】
【化31】

【0068】
【化32】

【0069】
【化33】

【0070】
【化34】

【0071】
【化35】

【0072】
【化36】

【0073】
【化37】

【0074】
上記式47〜式129中、Rは、前述と同じ意味を表す。
【0075】
ヘテロアリーレン基が少なくとも1個の芳香族複素環式化合物を含む2個以上の芳香族化合物が直接結合するか、又はビニレン基を介して結合した化合物から水素原子2個を除いた基である場合、置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基の例としては、下記式130〜式156で表される基が挙げられる。
【0076】
【化38】

【0077】
【化39】

【0078】
【化40】

【0079】
【化41】

【0080】
【化42】

【0081】
【化43】

【0082】
上記式中、Rは、前述と同じ意味を表す。
【0083】
Ar1としては、置換基を有していてもよいアリーレン基又は置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基が好ましい。
【0084】
式(3)中、Ar2、Ar3、Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基又は置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基を表す。アリーレン基、ヘテロアリーレン基の例としては、Arで表されるアリーレン基、ヘテロアリーレン基として説明した基と同じ基が挙げられる。
【0085】
Ar2、Ar3、Ar4及びAr5は、置換基を有していてもよいフェニレン基であることが好ましい。
【0086】
式(3)中、Ar6、Ar7及びAr8は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。
【0087】
アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基が挙げられる。ヘテロアリール基の例としては、チエニル基が挙げられる。
【0088】
Ar6、Ar7及びAr8は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニル基が好ましく、置換基としてアルキル基を有していてもよいフェニル基がより好ましい。
【0089】
式(3)中、Ar5、Ar6、Ar7又はAr8で表される基中の炭素原子は、Ar5、Ar6、Ar7又はAr8で表される基が結合している窒素原子と結合しているAr2、Ar3、Ar4、Ar5、Ar7又はAr8で表される基中の炭素原子と、直接結合するか、又は、−O−で表される基、−S−で表される基、−C(=O)−で表される基、−C(=O)−O−で表される基、−N(R)−で表される基、−C(=O)−N(R)−で表される基若しくは−C(R)2−で表される基を介して結合し、5員環、6員環又は7員環を形成していてもよい。Rは、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基又はアラルキル基を表し、Rが2個ある場合、2個あるRは同一であっても相異なっていてもよい。
【0090】
式(3)で表される構造単位の例としては、下記式157及び式158で表される基が挙げられる。
【0091】
【化44】

【0092】
上記式157及び式158中、Rは前述と同じ意味を表す。
【0093】
本発明の化合物は、上記式(2)で表される構造単位を1種のみ含んでいても2種以上含んでいてもよい。上記式(3)で表される構造単位を1種のみ含んでいても2種以上含んでいてもよい。
【0094】
本発明の化合物は、さらに、下記式(4)で表される構造単位を含んでいてもよい。
【0095】
【化45】

【0096】
式(4)中、m、n、Z、R1、R、R、R、R及びRは、前述と同じ意味を表す。
【0097】
本発明の化合物は、上記式(1)で表される構造単位を2個以上含むことが好ましい。
【0098】
本発明の化合物の分子量には特に制限なく、どのような分子量であっても使用することができる。本発明の化合物は、高分子化合物であることが好ましい。本発明における高分子化合物とは、ポリスチレン換算の重量平均分子量が3×10以上の化合物を意味する。
【0099】
本発明の化合物の中でも、ポリスチレン換算の重量平均分子量が3×10〜1×10である高分子化合物が好ましく用いられる。ポリスチレン換算の重量平均分子量が3×10以上であるとデバイス作製時の膜形成において、欠陥の発生が抑制され、1×10以下であると溶媒への溶解性、素子作製時の塗布性が高くなる。
【0100】
本発明の化合物のポリスチレン換算の重量平均分子量としては、さらに好ましくは8×10〜5×10であり、特に好ましくは1×10〜1×10である。デバイス作製時の膜形成において、欠陥の発生を抑制するためには、本発明の化合物のポリスチレン換算の重量平均分子量が、10000以上であることが好ましい。
【0101】
本発明の化合物は、ポリスチレン換算の数平均分子量が1×103〜1×108であることが好ましく、より好ましくは2×103〜1×107である。ポリスチレン換算の数平均分子量が1×103以上である場合には、強靭な薄膜が得られやすくなる。一方、1×108以下である場合には、高分子化合物の溶解性が高く、薄膜の作製が容易である。
【0102】
本発明において、ポリスチレン換算の重量平均分子量及びポリスチレン換算の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)を用い、ポリスチレンの標準試料を用いて算出した重量平均分子量及び数平均分子量を意味する。
【0103】
本発明の化合物が高分子化合物である場合、該高分子化合物は溶解性が高いため、溶媒中で該高分子化合物の原料であるモノマーを重合して本発明の化合物を得る際に、中間体の析出が抑制される。よって、高分子量の高分子化合物を効率よく製造することができる。
【0104】
本発明の化合物が高分子化合物である場合、溶媒に対する溶解度の観点からは、該高分子化合物が有する全繰り返し単位の合計を100とした場合、繰り返し単位として含む式(1)で表される構造単位の数が、20〜99であることが好ましく、30〜70であることがより好ましい。
【0105】
前記高分子化合物は、分子鎖末端に重合に関与する基が残っていると、得られた高分子化合物を有機半導体素子に用いたときの特性が低下する可能性がある。よって、本発明の化合物は、末端が重合に関与しない安定な基で保護されていることが好ましい。該安定な基としては、水素原子又は、分子鎖主鎖の共役構造と連続した共役結合を有している基が好ましい。具体的には、例えば特開平9-45478号公報において[化10]として記載されている置換基が挙げられる。
【0106】
また、前記高分子化合物は、有機半導体素子に用いる場合、有機半導体素子作製の容易性から、溶媒への溶解度が高いことが望ましい。具体的には、0.01wt%以上の溶液を調製できる溶解性を有することが好ましく、0.1wt%以上の溶液を調製できる溶解性を有することがより好ましく、0.4wt%以上の溶液を調製できる溶解性を有することがさらに好ましい。
【0107】
本発明の化合物が高分子化合物である場合、該化合物の製造方法は、特に制限されるものではない。本発明の化合物の製造方法の例としては、Ni触媒を用いた還元的カップリング反応を用いる方法、Stilleカップリング反応を用いる方法、Suzukiカップリング反応を用いる方法が挙げられる。
【0108】
Stilleカップリング反応を用いる方法としては、例えば、下記式(100):
−E1−Q (100)
(式(100)中、E1は、上記式(1)〜上記式(4)で表される構造単位を表す。Q及びQは、同一又は相異なり、ハロゲン原子、アルキルスルホネート基、アリールスルホネート基又はアリールアルキルスルホネート基を表す。)
で表される1種類以上の化合物と、下記式(200):
1−E2−T2 (200)
(式(200)中、E2は、上記式(2)〜上記式(4)で表される構造単位を表す。T1及びT2は、同一又は相異なり、トリアルキルスズ残基を表す。)
で表される1種類以上の化合物とを、パラジウム触媒の存在下で反応させる工程を有する製造方法が挙げられる。
【0109】
反応に用いる式(200)で表される1種類以上の化合物のモル数の合計が、式(100)で表わされる1種類以上の化合物のモル数の合計に対して、過剰であることが好ましい。反応に用いる式(200)で表される1種類以上の化合物のモル数の合計を1モルとすると、式(100)で表される1種類以上の化合物のモル数の合計が0.6〜0.99モルであることが好ましく、0.7〜0.95モルであることがさらに好ましい。
【0110】
式(100)における、Q1及びQ2で表されるハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。高分子化合物の合成の容易さからは、Q1及びQ2で表されるハロゲン原子は、臭素原子、ヨウ素原子であることが好ましく、ヨウ素原子であることがさらに好ましい。
【0111】
式(100)における、Q1及びQ2で表されるアルキルスルホネート基としては、メタンスルホネート基、エタンスルホネート基、トリフルオロメタンスルホネート基が例示される。アリールスルホネート基としては、ベンゼンスルホネート基、p−トルエンスルホネート基が例示される。アリールスルホネート基としては、ベンジルスルホネート基が例示される。
【0112】
Stilleカップリング反応に用いられるパラジウム触媒の例としては、Pd(0)触媒、Pd(II)触媒等が挙げられる。パラジウム触媒の具体例としては、パラジウム[テトラキス(トリフェニルホスフィン)]、パラジウムアセテート類、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)が挙げられる。パラジウム触媒としては、反応(重合)操作の容易さ、反応(重合)速度の観点から、ジクロロビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、パラジウムアセテート類が好ましい。
【0113】
パラジウム触媒の添加量は、特に限定されず、触媒としての有効量であればよい。パラジウム触媒の添加量は、式(100)で表される化合物1モルに対して、通常、0.0001モル〜0.5モルであり、好ましくは0.0003モル〜0.1モルである。
【0114】
前記パラジウム触媒としてパラジウムアセテート類を用いる場合は、配位子としてリン化合物を添加してもよい。リン化合物の例としては、トリフェニルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン、トリ(o−メトキシフェニル)ホスフィンが挙げられる。リン化合物を添加する場合、その添加量は、パラジウム触媒1モルに対して、通常、0.5モル〜100モルであり、好ましくは0.9モル〜20モルであり、さらに好ましくは1モル〜10モルである。
【0115】
Stilleカップリング反応において、反応は、通常、溶媒中で行われる。溶媒の例としては、N,N−ジメチルホルムアミド、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフランが挙げられる。高分子化合物の溶解性の観点からは、トルエン、キシレン、テトラヒドロフランが好ましい。
【0116】
Stilleカップリング反応の温度は、用いられる前記溶媒に応じて適宜調節すればよい。この温度は、通常、50℃〜160℃程度である。高分子化合物をより高分子量とできるので、この温度は、60℃〜120℃が好ましい。また、この温度を溶媒の沸点近くまで昇温し、還流させてもよい。
【0117】
Stilleカップリング反応を行う時間(反応時間)は、目的の重合度に達したときを終点とすればよい。この反応時間は、通常、0.1時間〜200時間程度であり、1時間〜30時間程度が好ましい。
【0118】
Stilleカップリング反応は、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性雰囲気下であってパラジウム触媒が失活しない反応系で行う。このカップリング反応は、例えば、アルゴンガス、窒素ガス等で、十分脱気された系で行う。具体的には、まず、反応容器(反応系)内を窒素ガスで十分置換し、脱気した後、この重合容器に、式(100)で表される化合物、式(200)で表される化合物、パラジウムアセテート類、配位子類を仕込む。さらに、反応容器を窒素ガスで十分置換し、脱気した後、あらかじめ窒素ガスでバブリングすることにより、脱気した溶媒、例えば、脱気したトルエンを加える。次いで、反応系を加熱、昇温し、例えば、還流温度で8時間、不活性ガス雰囲気を保持しながら重合する。
【0119】
式(4)で表される構造単位を含む本発明の化合物は、式(1)で表される構造単位を含み、かつ、式(4)で表される構造単位を含まない化合物にエネルギーを加え、Yで表される2価の基の一部を脱離させて製造することができる。
【0120】
<本発明の化合物と溶媒を含む溶液>
本発明の溶液は、本発明の化合物と溶媒とを含む。溶媒の例としては、化合物の溶解性の観点からは、芳香族炭化水素溶媒、ハロゲン置換芳香族炭化水素溶媒、脂肪族炭化水素溶媒、ハロゲン置換脂肪族炭化水素溶媒、エーテル溶媒が挙げられる。芳香族炭化水素溶媒の例としては、キシレン、メシチレン、アニソール、シクロヘキシルベンゼンが挙げられる。ハロゲン置換芳香族炭化水素溶媒の例としては、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンが挙げられる。脂肪族炭化水素溶媒の例としては、テトラリンが挙げられる。ハロゲン置換脂肪族炭化水素溶媒の例としては、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、ブロモペンタン、クロロヘキサン、ブロモヘキサン、クロロシクロヘキサン、ブロモシクロヘキサンが挙げられる。エーテル溶媒の例としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピランが挙げられる。
【0121】
溶液を用いて本発明の化合物を含む薄膜を成膜する場合、溶液中の溶媒の沸点が低いと、均一な薄膜を形成するための乾燥工程の制御が困難な場合がある。そのため、溶媒の沸点は150℃以上が好ましく、200℃以上がより好ましい。
【0122】
<本発明の化合物を含む薄膜>
本発明の化合物を含む薄膜の製造方法は、特に制限されるものではない。本発明の化合物を含む薄膜の製造方法は、成膜の容易さから、本発明の化合物と溶媒とを含む溶液を基体(基板)などに塗布することで形成する方法が好ましい。
【0123】
塗布方法の例としては、キャスト法、スピンコート法、バーコート法、インクジェット法、凸版を用いる印刷方法、孔版を用いる印刷方法、第1の版に塗布した後に第2の版に転写し、第2の版を用いて印刷する方法などがあげられる。
【0124】
基体上に薄膜を形成する場合、基体の材料は、特に制限されるものではない。基体の材料の例としては、ガラス、ポリエチレン、ポリスチレン、フッ素樹脂からなるプラスチック、ステンレス、アルミなどの金属、シリコン(ウエハー)などが挙げられる。
【0125】
式(4)で表される構造単位を含む本発明の化合物を含む薄膜は、式(1)で表される構造単位を含み、かつ、式(4)で表される構造単位を含まない化合物からなる薄膜にエネルギーを加え、Yで表される2価の基の一部を脱離させることにより製造することができる。
【0126】
<積層体>
本発明の積層体は、基体と薄膜とを有する積層体であって、本発明の化合物と溶媒とを含む溶液を該基体上に塗布して式(1)で表される構造単位を含む化合物を含有する塗膜を形成し、次いで、該塗膜にエネルギーを加えて、塗膜に含有される化合物に含まれる式(1)で表される構造単位の少なくとも一部を式(4)で表される構造単位に変換して得られる薄膜である積層体である。
【0127】
式(1)で表される構造単位を含む化合物にエネルギーを加えることで、式(1)中のYで表される2価の基が脱離し、式(4)で表される構造単位を含む化合物が生成する。加えられるエネルギーの例としては、熱エネルギー、光エネルギーが挙げられる。
【0128】
熱エネルギーを用いる場合は、Yで表される2価の基が脱離する温度以上、かつ、化合物が分解する温度以下であれば、任意の温度とすることができる。この温度は、通常150℃から400℃の範囲が好ましく、より好ましくは180℃から330℃である。熱処理を行う時間は、工業的な範囲で選定できる。この時間は、通常1分間から50時間であり、好ましくは10分間から24時間である。熱処理の雰囲気の例としては、真空(減圧下)を含む不活性雰囲気が好ましく、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気が挙げられる。雰囲気中に酸素が含まれる場合、体積比で酸素濃度が100ppm以下であることが好ましく、10ppm以下であることがより好ましい。また、真空である場合、酸素分圧が200Pa以下であることが好ましく、より好ましくは50Paである。
【0129】
光によりYで表される2価の基を脱離させる方法の例としては、400nm以下の波長の紫外線を照射する方法が挙げられる。光強度はYで表される2価の基が脱離する強さであれば特に制限はない。光を照射する場合の雰囲気も、不活性雰囲気が好ましく、酸素濃度、酸素分圧の範囲は上記例示の範囲とすることができる。
【0130】
多くの場合、上記の式(1)で表される構造単位を含む化合物にエネルギーを加え、式(4)で表される構造単位を含む化合物が生成する工程で、式(1)で表される構造単位を含む化合物中の式(1)で表される構造単位の全てを、式(4)で表される構造単位に変換するには、Yで表される2価の基の存在量に関して理論上必要なエネルギー量に対して過剰量のエネルギーを加えることが多い。そのため、変換された式(4)で表される構造単位を含む化合物の特性を劣化させることがある。よって、式(1)で表される構造単位を式(4)で表される構造単位に100%までは変換させないことが好ましい。0.0001%から10%の未変換である式(1)で表される構造単位を残しておくことが好ましく、0.001から5%の未変換である式(1)で表される構造単位を残しておくことがより好ましい。
【0131】
本発明の積層体は、有機半導体素子に用いることができる。有機半導体素子としては、例えば、有機トランジスタ、有機薄膜太陽電池、有機エレクトロルミネッセンス素子などが挙げられる。
【0132】
基体は、ガラス、フィルムなどの基板であってもよく、基板と電極とを有していてもよく、基板と電極と有機層とを有していてもよい。
積層体を有機トランジスタに用いる場合、基体は、基板とゲート電極とゲート絶縁層とからなることが好ましい。
積層体を有機薄膜太陽電池に用いる場合、基体は、基板と片側電極層とからなることが好ましい。
積層体を有機エレクトロルミネッセンス素子に用いる場合、基体は、基板と陽極と有機層とからなることが好ましい。
【0133】
本発明の積層体の製造方法は、薄膜と基体とからなる積層体の製造方法であって、本発明の化合物と溶媒とを含む溶液を基体上に塗布し、式(1)で表される構造単位を含む化合物を含有する塗膜を形成する工程と、該塗膜にエネルギーを加えて、塗膜に含有される化合物に含まれる式(1)で表される構造単位の少なくとも一部を式(4)で表される構造単位に変換して薄膜を形成する工程とを有する。
【0134】
<積層体を備える有機トランジスタ>
次に、上記の本発明の積層体を有機半導体層として備えた有機トランジスタの好適な実施形態について説明する。
【0135】
有機トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極、これらの間の電流経路となり上記式(4)で表される構造単位を有する化合物を含有する有機半導体層(活性層)、電流経路を通る電流量を制御するゲート電極を備えるものであり、電界効果型、静電誘導型などの形式が例示される。
【0136】
電界効果型有機トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極、これらの間の電流経路となる有機半導体層(活性層)、この電流経路を通る電流量を制御するゲート電極、並びに、有機半導体層とゲート電極との間に配置される絶縁層を備えることが好ましい。特に、ソース電極及びドレイン電極が、有機半導体層(活性層)に接して設けられており、さらにこの有機半導体層に接した絶縁層を挟んでゲート電極が設けられていることが好ましい。
【0137】
静電誘導型有機トランジスタは、ソース電極及びドレイン電極、これらの間の電流経路となる有機半導体層(活性層)、並びに電流経路を通る電流量を制御するゲート電極を有し、このゲート電極が有機半導体層中に設けられていることが好ましい。特に、ソース電極、ドレイン電極及び有機半導体層中に設けられたゲート電極が、有機半導体層に接して設けられていることが好ましい。ここで、ゲート電極の構造としては、ソース電極からドレイン電極へ流れる電流経路が形成され、且つゲート電極に印加した電圧で電流経路を流れる電流量が制御できる構造であればよく、例えば、くし形電極が挙げられる。
【0138】
図1は、第1実施形態の有機トランジスタ(電界効果型有機トランジスタ)の模式的な断面図である。
図1に示されるように、有機トランジスタ100は、基板1と、基板1上に所定の間隔で離間するように配置されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6を覆うようにして基板1上に設けられた有機半導体層2と、有機半導体層2上に設けられた絶縁層3と、ソース電極5とドレイン電極6との間の絶縁層3の直上の領域を覆い、かつソース電極5の一部及びドレイン電極6の一部それぞれにまたがるように絶縁層3上に設けられたゲート電極4と、を備えるものである。
【0139】
図2は、第2実施形態の有機トランジスタ(電界効果型有機トランジスタ)の模式的な断面図である。
図2に示されるように、有機トランジスタ110は、基板1と、基板1上に形成されたソース電極5と、ソース電極5を覆うようにして基板1上に形成された有機半導体層2と、ソース電極5と所定の間隔で離間するように有機半導体層2上に設けられたドレイン電極6と、ソース電極5の直上の領域を含む有機半導体層2の一部領域及びドレイン電極6の一部にまたがるように設けられた絶縁層3と、ソース電極5とドレイン電極6との間の絶縁層3の直上の領域を含み、ソース電極5の一部とドレイン電極6の一部とにまたがって覆うように絶縁層3上に設けられたゲート電極4と、を備えるものである。
【0140】
図3は、第3実施形態の有機トランジスタ(電界効果型有機トランジスタ)の模式的な断面図である。
図3に示されるように、有機トランジスタ120は、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に設けられた絶縁層3と、絶縁層3上に所定の間隔で離間するように設けられたソース電極5及びドレイン電極6と、ゲート電極4の直上の領域に設けられ、かつソース電極5及びドレイン電極6にまたがって、ソース電極5の一部及びドレイン電極6の一部を覆うように絶縁層3上に設けられた有機半導体層2と、を備えるものである。
【0141】
図4は、第4実施形態の有機トランジスタ(電界効果型有機トランジスタ)の模式的な断面図である。
図4に示されるように、有機トランジスタ130は、基板1と、基板1上に形成されたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うように基板1上に設けられた絶縁層3と、ゲート電極4の直上の領域にまたがるように絶縁層3上に設けられたソース電極5と、ソース電極5を一部覆い、かつゲート電極の直上の領域を覆うように絶縁層3上に設けられた有機半導体層2と、ゲート電極4の直上の有機半導体層2の一部領域を覆うように、かつソース電極5と所定の間隔で離間するように絶縁層3上に設けられたドレイン電極6と、を備えるものである。
【0142】
図5は、第5実施形態の有機トランジスタ(静電誘導型有機トランジスタ)の模式的な断面図である。
図5に示されるように、有機トランジスタ140は、基板1と、基板1上に設けられたソース電極5と、ソース電極5上に設けられた有機半導体層2と、有機半導体層2上に所定の間隔で互いに離間するように設けられた複数のゲート電極4と、複数のゲート電極4の全てを覆うようにして有機半導体層2上に設けられた有機半導体層2aと、有機半導体層2a上に、複数のゲート電極4が設けられている複数の直上の領域にまたがるように設けられたドレイン電極6と、を備えるものである。ここで、有機半導体層2aを構成する材料は、有機半導体層2と同一であっても異なっていてもよい。
【0143】
図6は、第6実施形態の有機トランジスタ(電界効果型有機トランジスタ)の模式的な断面図である。
図6に示されるように、有機トランジスタ150は、基板1と、基板1上に形成された有機半導体層2と、有機半導体層2上に所定の間隔で配置されたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5の一部及びドレイン電極6の一部にまたがるように有機半導体層2上に設けられた絶縁層3と、ソース電極5の直上の領域の一部とドレイン電極6の直上の領域の一部とにまたがるように、絶縁層3上に設けられたゲート電極4と、を備えるものである。
【0144】
図7は、第7実施形態の有機トランジスタ(電界効果型有機トランジスタ)の模式的な断面図である。
図7に示されるように有機トランジスタ160は、基板1と、基板1上に設けられたゲート電極4と、ゲート電極4を覆うようにして基板1上に設けられた絶縁層3と、ゲート電極4の直上の領域を覆うように設けられた有機半導体層2と、ゲート電極4の直上の領域の一部を覆い、有機半導体層2及び絶縁膜3にまたがるように設けられたソース電極5と、ゲート電極4の直上の領域の一部を覆い、有機半導体層2及び絶縁膜3にまたがるように、かつソース電極5と所定の間隔で離間するように設けられたドレイン電極6と、を備えるものである。
【0145】
上述した第1実施形態〜第7実施形態の有機トランジスタにおいては、有機半導体層2及び/又は有機半導体層2aは、上述した本発明の式(4)で表される構造単位を含む化合物を含む薄膜から構成されている。有機半導体層2及び/又は有機半導体層2aは、ソース電極5とドレイン電極6との間の電流通路(チャネル)となる。また、ゲート電極4は、電圧を印加することにより有機半導体層2及び/又は有機半導体層2aにおける電流通路(チャネル)を通る電流量を制御する。
【0146】
上述した有機トランジスタの有機半導体層2以外の部材は、公知の方法で製造することができる。電界効果型有機トランジスタの場合は、例えば、特開平5−110069号公報に記載の方法により製造することができる。また、静電誘導型有機トランジスタの場合は、例えば、特開2004−006476号公報に記載の方法により製造することができる。
【0147】
基板1は、有機トランジスタとしての特性を阻害しないことを条件として任意好適な材料により構成された基板を用いることができる。基板1としては、ガラス基板、フレキシブルなフィルム基板、プラスチック基板等を用いることができる。
【0148】
有機半導体層2は、式(4)で表される構造単位を含む化合物を含む。有機半導体層2は、式(4)で表される構造単位を含む化合物のみから構成されていてよい。半導体層2は、式(4)で表される構造単位を含む化合物以外の材料を含んで構成されていてもよい。また、有機半導体層2は、1種類の式(4)で表される構造単位を含む化合物を含んでいてよく、2種類以上の式(4)で表される構造単位を含む化合物を含んでいてもよい。有機半導体層2は、電子輸送性又はホール輸送性を高めるために、式(4)で表される構造単位を含む化合物以外に、電子輸送性又はホール輸送性を有する低分子化合物又は高分子化合物をさらに含有していてもよい。
【0149】
ホール輸送性材料の例としては、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリアリールジアミン誘導体、オリゴチオフェン及びその誘導体、ポリビニルカルバゾール及びその誘導体、ポリシラン及びその誘導体、側鎖若しくは主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリアリーレンビニレン及びその誘導体、並びに、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体が挙げられる。
【0150】
電子輸送性材料の例としては、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン及びその誘導体、ベンゾキノン及びその誘導体、ナフトキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、テトラシアノアントラキノジメタン及びその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン及びその誘導体、ジフェノキノン誘導体、8−ヒドロキシキノリン及びその誘導体の金属錯体、ポリキノリン及びその誘導体、ポリキノキサリン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、並びに、C60フラーレン(C60とは炭素原子数が60であることを意味する。以下、Cに下付で付された数字は炭素原子数を意味する場合がある。)等のフラーレン類及びその誘導体が挙げられる。
【0151】
また、有機半導体層2は、機械的特性を高めるために、式(4)で表される構造単位を含む化合物とは異なる高分子化合物材料を高分子バインダーとして含んでいてもよい。高分子バインダーとしては、電子輸送性又はホール輸送性を極度に阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が強くないものが好ましく用いられる。
【0152】
このような高分子バインダーの例としては、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)及びその誘導体、ポリ(2,5−チエニレンビニレン)及びその誘導体、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、並びに、ポリシロキサンが挙げられる。
【0153】
有機半導体層2の厚さは、好ましくは1nm〜100μmであり、より好ましくは2nm〜1000nmであり、さらに好ましくは3nm〜500nmであり、特に好ましくは5nm〜200nmである。
【0154】
有機半導体層2中の式(4)で表される構造単位を含む化合物は、特定の方向に配向していてもよい。配向した式(4)で表される構造単位を含む化合物を有する有機半導体層2は、有機膜中の式(1)で表される構造単位を含む化合物を配向させる工程を行い、その後、式(1)で表される構造単位を含む化合物が含有するYで表される2価の基の少なくとも一部を脱離させることで製造することができる。特定の方向に配向させた式(4)で表される構造単位を含む化合物を有する有機半導体層2は、電子移動度又はホール移動度が向上するため好ましい。
【0155】
式(1)で表される構造単位を含む化合物が高分子化合物である場合、式(1)で表される構造単位を含む化合物を配向させる方法としては、液晶の配向手法として知られている方法を用いることができる。中でもラビング法、光配向法、シェアリング法(ずり応力印加法)、引き上げ塗布法が、配向手法として簡便かつ有用で利用しやすいため好ましく、ラビング法、シェアリング法がより好ましい。
【0156】
絶縁層3を構成する材料は、電気的な絶縁性が高い材料であればよく、公知のものを用いることができる。絶縁層3を構成する材料としては、例えば、SiOx、SiNx、Ta、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリビニルフェノール、有機ガラス、フォトレジストが挙げられる。低電圧化の観点からは、絶縁層3には誘電率の高い材料を用いることが好ましい。
【0157】
絶縁層3の上に有機半導体層2を形成する場合は、絶縁層3と有機半導体層2の界面特性を改善するため、シランカップリング剤等の表面処理剤で絶縁層3表面を処理し、表面改質した後に有機半導体層2を形成してもよい。
【0158】
電界効果型有機トランジスタの場合、電子、ホール等のキャリアは、一般に絶縁層3と有機半導体層2の界面付近を通過する。したがって、この界面の状態がトランジスタの移動度に大きな影響を与える。そこで、この界面の状態を改良して特性を向上させる方法として、シランカップリング剤を用いる界面の制御方法が知られている(例えば、表面科学,Vol.28.No.5,pp242−248,2007年)。
【0159】
シランカップリング剤の例としては、オクチルトリクロロシラン(OTS)、オクタデシルトリクロロシラン(ODTS)、フェニルエチルトリクロロシラン等のアルキルクロロシラン類、アルキルアルコキシシラン類、フッ素化アルキルクロロシラン類、フッ素化アルキルアルコキシシラン類、ヘキサメチルジシラザン(HMDS)等のシリルアミン化合物が挙げられる。また、表面処理剤で処理する前には、絶縁層3の表面をオゾン、紫外線(UV)、酸素(O)プラズマで処理をしておくことも可能である。
【0160】
このような表面処理によって、絶縁層3として用いられるシリコン酸化膜などの表面エネルギーを制御することができる。また、表面処理により、有機半導体層2を構成している式(4)で表される構造単位を含む化合物の絶縁層3上での配向性が向上し、これによって高いキャリア輸送性(移動度)が得られる。
【0161】
ゲート電極4の材料の例としては、金、白金、銀、銅、クロム、パラジウム、アルミニウム、インジウム、モリブデン、低抵抗ポリシリコン、低抵抗アモルファスシリコン等の金属、錫酸化物、酸化インジウム、インジウム錫酸化物(ITO)等が挙げられる。これらの材料は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0162】
なお、ゲート電極4として、高濃度に不純物がドープされたシリコン基板を用いることも可能である。高濃度に不純物がドープされたシリコン基板は、ゲート電極としての性質とともに、基板としての性質も併せて有する。このような基板としての性質をも有するゲート電極4を用いる場合には、基板1を省略してもよい。例えば、上述した第3実施形態、第4実施形態、第7実施形態の各有機トランジスタの構成において、ゲート電極4が基板1を兼ねる構成とすることができる。
【0163】
ソース電極5及びドレイン電極6は、抵抗の小さい材料から構成される。抵抗の小さい材料としては、例えば、金、白金、銀、銅、クロム、パラジウム、アルミニウム、インジウム及びモリブデンが挙げられる。これらの材料の中でも、電荷注入性の観点からは、金、白金が好ましく、プロセス容易性の観点から、金がさらに好ましい。これらの材料は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0164】
以上、好適な実施形態の有機トランジスタとして幾つかの例を説明したが、有機トランジスタは上記の実施形態に限定されない。例えば、ソース電極5及びドレイン電極6と、有機半導体層2との間には、式(4)で表される構造単位を含む化合物とは異なる化合物からなる層が介在していてもよい。これにより、ソース電極5及びドレイン電極6と、有機半導体層2との間の接触抵抗が低減され、有機トランジスタのキャリア移動度をさらに高めることができる場合がある。
【0165】
このような層としては、上述したような電子又はホール輸送性を有する低分子化合物;アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、これらの金属と有機化合物との錯体等;ヨウ素、臭素、塩素、塩化ヨウ素等のハロゲン;硫酸、無水硫酸、二酸化硫黄、硫酸塩等の酸化硫黄化合物;硝酸、二酸化窒素、硝酸塩等の酸化窒素化合物;過塩素酸、次亜塩素酸等のハロゲン化化合物;アルキルチオール化合物、芳香族チオール類、フッ素化アルキル芳香族チオール類等の芳香族チオール化合物等からなる層が挙げられる。
【0166】
また、上述したような有機トランジスタを作製した後には、素子を保護するため、有機トランジスタ上に保護膜を形成することが好ましい。これにより、有機トランジスタが大気から遮断され、有機トランジスタの特性の低下を抑制することができる。また、有機トランジスタ上に表示パネルを設けて表示デバイスとする場合、保護膜によって、その製造工程における有機トランジスタへの影響も低減することができる。
【0167】
保護膜は、有機トランジスタを、UV硬化樹脂、熱硬化樹脂、SiONx膜等でカバーする方法等により形成することができる。大気との遮断を効果的に行うため、有機トランジスタを作製後、保護膜を形成するまでの工程は、大気に曝すことなく(例えば、乾燥した窒素雰囲気中、真空中等で)行うことが好ましい。
【0168】
本発明の有機トランジスタの好ましい一態様は、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極及び有機半導体層を有し、該有機半導体層中に式(4)で表される構造単位を含む化合物を含有する有機トランジスタである。
【0169】
有機トランジスタは、ソース電極とドレイン電極との間に有機半導体層を有していてもよい。有機トランジスタがゲート絶縁層を有する場合、ソース電極とドレイン電極との間に有機半導体層を有し、ゲート電極と該有機半導体層との間にゲート絶縁層を有する有機トランジスタでもよく、ゲート電極上にゲート絶縁層を有し、該ゲート絶縁層上に有機半導体層を有し、該有機半導体層上にソース電極及びドレイン電極を有する有機トランジスタであってもよい。
【0170】
本発明の有機トランジスタの好ましい他の態様は、ゲート電極、ソース電極、ドレイン電極及び第1の有機半導体層を有し、第1の有機半導体層上に第2の有機半導体層を有し、該第1の有機半導体層中に式(4)で表される構造単位を含む第2の化合物を含有し、該第2の有機半導体層中に式(4)で表される構造単位を含む化合物であって第2の化合物とは異なる第4の化合物を含有する有機トランジスタである。
【0171】
(面状光源及び表示装置)
ここで、図8を参照して、本発明の化合物が用いられる面状光源及び表示装置の好適な実施態様について説明する。図8は、面状光源の模式的な断面図である。
【0172】
本発明の化合物が用いられる面状光源及び表示装置は、駆動トランジスタ及びスイッチングトランジスタの少なくとも2つの有機トランジスタを備えている。本発明の面状光源及び表示装置は、これらのうち少なくとも1つの有機トランジスタとして、上述した本発明の有機トランジスタを用いている。
【0173】
図8に示されるように、面状光源300は、基板1と、基板1上に設けられているゲート電極4と、ゲート電極4を覆うように基板1上に設けられている絶縁層(ゲート絶縁膜)3と、ゲート電極4が下部に形成されている絶縁層3の一部領域を覆うように、絶縁層3上に所定の間隔で離間するように設けられたソース電極5及びドレイン電極6と、ソース電極5及びドレイン電極6の一部を覆うように絶縁層3上に設けられた有機半導体層2と、有機半導体層2全体を覆うように有機半導体層2上に設けられた保護膜11とにより、有機トランジスタTが構成されている。
【0174】
また、面状光源300においては有機トランジスタT上に、層間絶縁膜12を介して、下部電極(陽極)13、発光素子14及び上部電極(陰極)15が順次積層されており、層間絶縁膜12に設けられているヴィアホールを通じて下部電極13とドレイン電極6とが電気的に接続されている。また、下部電極13及び発光素子14の周囲にはバンク部16が設けられている。さらに上部電極15の上側には基板18が配置され、上部電極15と基板18との間は封止部材17により封止されている。
【0175】
図8に示される面状光源300において、有機トランジスタTは、駆動トランジスタとして機能する。面状光源300において、スイッチングトランジスタは省略されている。
【0176】
面状光源300においては、有機トランジスタTに、上述の本発明にかかる有機トランジスタが用いられる。有機トランジスタT以外の構成については、従来公知の面状光源の構成と同様の構成とすることができる。ここで、上部電極15、封止部材17及び基板18は透明とされる。
【0177】
図8に示される面状光源300は、発光素子14の発光材料として、発光色を白色とすることができる材料を用いることで面状光源とすることができる。また、発光素子14の発光材料として、発光色を赤色とすることができる材料、青色とすることができる材料及び緑色とすることができる材料をそれぞれ用いた複数の発光素子を設け、それぞれの発光色の発光素子の駆動を制御することで、カラー表示装置とすることができる。
【0178】
上述の面状光源及び表示装置において、所定の発光パターンを得るための方法の例としては、面状の発光素子の表面に所定のパターンの開口部を設けたマスクを設ける方法、発光層のうちの非発光とすべき部分のみを実質的に非発光となる程度のより大きな厚さとする方法、陽極若しくは陰極又はこれら両方を所定パターンの形状とする方法が挙げられる。
【0179】
これらのいずれかの方法により所定の発光パターンを得て、さらには電極のいくつかをそれぞれ独立にON/OFFできるように配置することにより、数字、文字、簡単な記号等を表示できるセグメントタイプの表示素子が得られる。ドットマトリックス素子とするためには、ストライプ状の陽極及び陰極それぞれを、互いに直交するように格子状に配置すればよい。発光色の異なる複数種類の高分子蛍光体を発光層上に塗り分けたり、カラーフィルター又は変換フィルターを用いることにより、部分カラー表示、マルチカラー表示が可能となる。ドットマトリックス素子は、パッシブ駆動型としてもよいし、TFT等と組み合わせてアクティブ駆動型としてもよい。このような表示素子は、コンピュータ用、テレビジョン用、携帯端末用、携帯電話用、カーナビゲーション用、ビデオカメラ等のビューファインダー用の表示装置として用いることができる。
【0180】
(光電変換素子)
本発明の化合物は、光電変換素子の有機半導体層に適用する材料としても有用である。
ここで、図9を参照して、本発明の化合物が用いられる光電変換素子の好適な実施態様について説明する。図9は、光電変換素子の模式的な断面図である。
光電変換素子は、有機半導体層(活性層という場合がある。)の構成から、バルクへテロ接合型又はp/nヘテロ接合型の2種類に分けられる。本発明の化合物はいずれの種類にも適用することができる。本発明の化合物は、電子供与性化合物及び電子受容性化合物のうちの少なくとも一方として、これらの有機半導体層中に含まれる。ここではバルクヘテロ接合型の有機半導体層を備える光電変換素子について説明する。
【0181】
光電変換素子は、基本的な構成として、少なくとも一方が透明又は半透明である一対の電極と、電子供与性化合物(p型の有機半導体)と電子受容性化合物(n型の有機半導体等)とを含む有機組成物からなるバルクへテロ型有機半導体層とを備えている。
【0182】
図9に示されるように、光電変換素子200は、基板1と、基板1上に形成された陽極32と、陽極32上に形成された有機薄膜からなる有機半導体層70と、有機半導体層70上に形成された陰極34と、を備えるものである。有機半導体層70は、電子供与性化合物と電子受容性化合物とを含み、これらの少なくとも一方が、上述した本発明の高分子化合物である。
【0183】
以下、光電変換素子200を構成する、陽極32、有機半導体層70及びこの有機半導体層70を構成する電子供与性化合物及び電子受容性化合物、陰極34、及び必要に応じて形成される他の構成要素(層)について詳しく説明する。
【0184】
<基板>
光電変換素子200は、通常、基板1上に上記各層が積層された構成を有する。この基板1は、電極を形成でき、有機物の層を形成する際に化学的に変化しないものであればよい。基板1の材料としては、例えば、ガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン等が挙げられる。不透明な基板1の場合には、この基板側とは反対側の電極(即ち、基板から遠い方の電極)が透明又は半透明であることが好ましい。
【0185】
<電極(陽極及び陰極)>
一対の電極(陽極32及び陰極34)のうちの少なくとも一方は、透明又は半透明の電極材料により構成される。透明又は半透明の電極材料の例としては、導電性の金属酸化物膜、半透明の金属薄膜等が挙げられる。透明又は半透明の電極材料の例としては、具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体であるインジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、NESA等の導電性材料を用いて作製された膜、金、白金、銀、銅等が用いられる膜が挙げられる。なかでも、ITO、IZO、酸化スズの膜が好ましい。
【0186】
一対の電極(陽極32及び陰極34)のうちのいずれか一方が透明又は半透明である場合、他方は不透明な電極であってもよい。不透明な電極の材料としては、金属、導電性高分子等を用いることができる。不透明な電極の材料の例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム等の金属、及びそれらのうち2つ以上の合金、又は、1種以上の前記金属と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン及び錫からなる群から選ばれる1種以上の金属との合金、グラファイト、グラファイト層間化合物、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体が挙げられる。合金の例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金等が挙げられる。
【0187】
これらの電極の作製方法の例としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法等が挙げられる。また、電極材料として、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体等の有機の透明導電膜を用いてもよい。透明又は半透明の電極は、陽極であっても陰極であってもよい。
【0188】
<有機半導体層>
光電変換素子200に含まれる有機半導体層70は、電子供与性化合物及び電子受容性化合物の少なくとも一方として、上述した本発明の化合物を含む。なお、本発明の化合物が電子供与性化合物及び電子受容性化合物のうちのどちらであるかは、HOMO又はLUMOのエネルギーレベルの値から相対的に決定される。
【0189】
電子供与性化合物としては、本発明の化合物、それ以外の低分子化合物、高分子化合物を適用できる。本発明の化合物以外の電子供与性化合物としては、例えば、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、オリゴチオフェン及びその誘導体、ポリビニルカルバゾール及びその誘導体、ポリシラン及びその誘導体、側鎖又は主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、チオフェンを部分骨格として持つ高分子化合物、ポリピロール及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体が挙げられる。電子供与性化合物としては、特に、上述した本発明の化合物が好適である。
【0190】
本発明の化合物以外の電子供与性化合物としては、置換基を有していてもよいポリチオフェン(ポリチオフェン及びその誘導体を含む)、チオフェンの2量体〜5量体を含む構造又はチオフェンの誘導体の2量体〜5量体を含む構造を有する高分子化合物、及びチオフェンを部分骨格として持つ高分子化合物が好ましい。なかでも、ポリチオフェン及びその誘導体がより好ましい。ここで、ポリチオフェン誘導体とは、置換基を有するチオフェンジイル基を有する高分子化合物をいう。
【0191】
ポリチオフェン及びその誘導体は、ホモポリマーであることが好ましい。この場合、ホモポリマーとは、チオフェンジイル基及び置換基を有するチオフェンジイル基からなる群から選ばれる基のみが複数個結合してなるポリマーを意味する。チオフェンジイル基としては、チオフェン−2,5−ジイル基が好ましく、置換基を有するチオフェンジイル基としては、アルキルチオフェン−2、5−ジイル基が好ましい。
【0192】
ホモポリマーであるポリチオフェン及びその誘導体の具体例としては、ポリ(3−ヘキシルチオフェン−2,5−ジイル)(P3HT)、ポリ(3−オクチルチオフェン−2,5−ジイル)、ポリ(3−ドデシルチオフェン−2,5−ジイル)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン−2,5−ジイル)が挙げられる。ホモポリマーであるポリチオフェン及びその誘導体の中では、炭素原子数が6〜30のアルキル基を置換基として有するチオフェンジイル基からなるポリチオフェンホモポリマーが好ましい。
【0193】
また、チオフェンを部分骨格として持つ高分子化合物としては、例えば、下記式(11)で表される高分子化合物が挙げられる。
【0194】
【化46】

【0195】
式(11)中、R111及びR112は、それぞれ同一又は異なり、水素原子又は置換基を表す。複数存在するR111及びR112は、それぞれ同一でも異なってもよい。R111及びR112で表される置換基としては、炭素原子数が1〜20のアルコキシ基、炭素原子数が1〜20のアルキル基が好ましい。n’は繰り返し数を表す。
【0196】
特に、式(11)で表される高分子化合物としては、R111がアルキル基であり、R112が水素原子である高分子化合物が好ましい。このような高分子化合物は、例えば、下記式(11−1)で表される。
【0197】
【化47】

【0198】
式(11−1)中、n’は繰り返し数を表す。
一方、電子受容性化合物としては、上述した本発明の化合物のほかに、例えば、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン及びその誘導体、ベンゾキノン及びその誘導体、ナフトキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、テトラシアノアントラキノジメタン及びその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン及びその誘導体、ジフェノキノン誘導体、8−ヒドロキシキノリン及びその誘導体の金属錯体、ポリキノリン及びその誘導体、ポリキノキサリン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、C60フラーレン等のフラーレン及びその誘導体、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体、酸化チタン等の金属酸化物、カーボンナノチューブが挙げられる。
【0199】
電子受容性化合物としては、好ましくは、本発明の化合物のほか、ベンゾチアジアゾール構造を含む化合物、繰り返し単位にベンゾチアジアゾール構造を含む高分子化合物、キノキサリン構造を含む化合物、繰り返し単位にキノキサリン構造を含む高分子化合物、酸化チタン、カーボンナノチューブ、フラーレン、フラーレン誘導体が挙げられる。
なかでも、より好ましくは、フラーレン、フラーレン誘導体、ベンゾチアジアゾール構造を含む化合物、繰り返し単位にベンゾチアジアゾール構造を含む高分子化合物、キノキサリン構造を含む化合物、繰り返し単位にキノキサリン構造を含む高分子化合物であり、さらに好ましくは、ベンゾチアジアゾール構造を含む化合物、繰り返し単位にベンゾチアジアゾール構造を含む高分子化合物、キノキサリン構造を含む化合物、繰り返し単位にキノキサリン構造を含む高分子化合物であり、特に好ましくは、繰り返し単位にベンゾチアジアゾール構造を含む高分子化合物、繰り返し単位にキノキサリン構造を含む高分子化合物である。
【0200】
繰り返し単位にベンゾチアジアゾール構造を含む高分子化合物の例としては、上記の電子供与性化合物として例示した式(11)で表される高分子化合物が挙げられ、式(11−1)で表される高分子化合物が好適である。すなわち、電子供与性化合物として適用する化合物との組み合わせによっては、式(11)で表される高分子化合物を、電子受容性化合物として適用することもできる。
【0201】
また、電子受容性化合物として好適なn型半導体の例としては、フラーレン及びフラーレン誘導体が挙げられる。ここで、フラーレン誘導体とは、フラーレンの少なくとも一部が修飾された化合物をいう。フラーレンの例としては、C60フラーレン、C70フラーレン、C76フラーレン、C78フラーレン、C84フラーレンが挙げられ、フラーレン誘導体としては、それらのフラーレンの誘導体が挙げられる。
【0202】
60フラーレンの誘導体の具体例としては、以下の式で表される化合物が挙げられる。
【0203】
【化48】

【0204】
70フラーレンの誘導体の例としては、以下の式で表される化合物が挙げられる。
【0205】
【化49】

【0206】
また、その他のフラーレン誘導体の例としては、[6,6]フェニル−C61酪酸メチルエステル(C60PCBM、[6,6]-Phenyl C61 butyric acid methyl ester)、[6,6]フェニル−C71酪酸メチルエステル(C70PCBM、[6,6]-Phenyl C71 butyric acid methyl ester)、[6,6]フェニル−C85酪酸メチルエステル(C84PCBM、[6,6]-Phenyl C85 butyric acid methyl ester)、[6,6]チエニル−C61酪酸メチルエステル([6,6]-Thienyl C61 butyric acid methyl ester)が挙げられる。
【0207】
有機半導体層70において、電子受容性化合物の含有割合は、電子供与性化合物100重量部に対して、10重量部〜1000重量部であることが好ましく、20重量部〜500重量部であることがより好ましい。また、有機半導体層70の厚さは、1nm〜100μmが好ましく、2nm〜1000nmがより好ましく、5nm〜500nmがさらに好ましく、20nm〜200nmが特に好ましい。
【0208】
有機半導体層70に含有される電子供与性化合物と電子受容性化合物との組み合わせとしては、本発明の高分子化合物(電子供与性化合物)とフラーレン誘導体(電子受容性化合物)との組み合わせや、電子供与性化合物及び電子受容性化合物の両方が本発明の高分子化合物である組み合わせが好適である。後者の場合、電子供与性化合物及び電子受容性化合物である各高分子化合物は、それぞれ、電子供与性化合物として好適なHOMO及び電子受容性化合物として好適なLUMOが得られるような組み合わせとする。
【0209】
なお、有機半導体層70は、種々の機能を発現させるために、上記以外の成分を含有させてもよい。上記以外の成分としては、例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、吸収した光により電荷を発生させる機能を増感するための増感剤、紫外線からの安定性を増すための光安定剤が挙げられる。
【0210】
有機半導体層70を構成する電子供与性化合物及び電子受容性化合物以外の成分は、電子供与性化合物及び電子受容性化合物の合計量100重量部に対し、それぞれ5重量部以下、特に、0.01重量部〜3重量部の割合で配合することが、各成分による効果を得ながら、高い電荷の移動度が得られるので有効である。
【0211】
また、有機半導体層70は、機械的特性を高めるため、電子供与性化合物及び電子受容性化合物以外の高分子化合物を高分子バインダーとして含んでいてもよい。高分子バインダーとしては、電子輸送性又はホール輸送性を阻害しないバインダー、及び、可視光に対する吸収が強くないバインダーが好ましく用いられる。
【0212】
高分子バインダーの例としては、ポリ(N−ビニルカルバゾール)、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリ(p−フェニレンビニレン)及びその誘導体、ポリ(2,5−チエニレンビニレン)及びその誘導体、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等が挙げられる。
【0213】
上述した構成を有する有機半導体層70は、例えば、バルクへテロ接合型の場合、電子供与性化合物、電子受容性化合物、及び必要に応じて配合される他の成分を含む溶液を用いた成膜を行うことによって形成することができる。例えば、この溶液を陽極又は陰極上に塗布することで、有機半導体層を形成することができる。
【0214】
溶液を用いた成膜工程に用いられる溶媒は、上述の電子供与性化合物及び電子受容性化合物を溶解させるものであればよく、複数の溶媒を混合してもよい。溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、デカリン、ビシクロヘキシル、n−ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン等の不飽和炭化水素溶媒、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ジクロロプロパン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、ブロモペンタン、クロロヘキサン、ブロモヘキサン、クロロシクロヘキサン、ブロモシクロヘキサン等のハロゲン化飽和炭化水素溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化不飽和炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル溶媒等が挙げられる。有機半導体層70を構成する材料は、例えば、上記の溶媒に0.1重量%以上溶解させることができる。
【0215】
有機半導体層の成膜には、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイアーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法、ノズルコート法、キャピラリーコート法等の塗布法を用いることができる。なかでも、スピンコート法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、インクジェット印刷法、ディスペンサー印刷法が好ましい。
【0216】
<その他の層>
光電変換素子200は、上述した基板1、電極(陽極32及び陰極34)及び有機半導体層70のほかに、光電変換効率を向上させるために、有機半導体層70以外の付加的な中間層(バッファ層、電荷輸送層等)を含んでいてもよい。このような中間層は、例えば、陽極32と有機半導体層70との間、或いは、陰極34と有機半導体層70との間に形成することができる。
【0217】
中間層に用いられる材料の例としては、フッ化リチウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物又は酸化物等が挙げられる。また、中間層の材料には、酸化チタン等の無機半導体の微粒子、PEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))とPSS(ポリ(4−スチレンスルホネート))との混合物(PEDOT:PSS)等を用いてもよい。
【0218】
(光電変換素子を用いたデバイス)
上述したような光電変換素子200は、透明又は半透明の電極(陽極32又は陰極34)の側から太陽光等の光を入射させることにより、これらの電極間に光起電力を発生させ、有機薄膜太陽電池素子として動作させることができる。この有機薄膜太陽電池素子を複数集積することにより、太陽電池モジュールを構成することもできる。
【0219】
また、光電変換素子は、電極(陽極32及び陰極34)間に電圧を印加した状態、あるいは電圧の無印加の状態で、透明又は半透明の電極から光を入射させることにより、光電流が流れることから、有機光センサーとして動作させることもできる。このような有機光センサーを複数集積することにより、有機イメージセンサーとして用いることもできる。
【0220】
<太陽電池モジュール>
本発明の光電変換素子200を用いた有機薄膜太陽電池は、従来の太陽電池モジュールと基本的に同様のモジュール構造をとりうる。すなわち、太陽電池モジュールとしては、金属、セラミック等の支持基板の上にセル(例えば、上記実施形態の光電変換素子)が構成され、その上を充填樹脂や保護ガラス等で覆い、支持基板の反対側から光を取り込む構造を有するものが挙げられる。また、支持基板に強化ガラス等の透明材料を用い、その上にセルを構成することで、透明の支持基板側から光を取り込む構造とすることも可能である。
【0221】
太陽電池モジュールとしては、スーパーストレートタイプ、サブストレートタイプ、ポッティングタイプと呼ばれるモジュール構造、アモルファスシリコン太陽電池等で用いられる基板一体型モジュール構造等が知られている。本発明の光電変換素子を適用した有機薄膜太陽電池も、使用目的や使用場所、使用環境等に応じて、これらのモジュール構造を選択できる。
【0222】
代表的なスーパーストレートタイプあるいはサブストレートタイプのモジュールは、片側又は両側が透明で反射防止処理を施された支持基板の間に一定間隔にセル(光電変換素子)が配置され、隣り合うセル同士が金属リード又はフレキシブル配線等によって接続され、さらに外縁部に集電電極が配置された構成を有することで、発生した電力を外部に取り出す構造となっている。基板とセルとの間には、セルの保護や集電効率向上のため、目的に応じてエチレンビニルアセテート(EVA)等様々な種類のプラスチック材料をフィルム又は充填樹脂の形で用いてもよい。また、外部からの衝撃が少ない場所等、表面を硬い素材で覆う必要のない状況において使用する場合には、表面保護層を透明プラスチックフィルムで構成するか、又は充填樹脂を硬化させることによって保護機能を付与して、片側の支持基板をなくすことも可能である。
【0223】
このような太陽電池モジュールでは、支持基板の周囲は、内部の密封及びモジュールの剛性を確保するため金属製のフレームでサンドイッチ状に固定し、支持基板とフレームとの間は封止材料で密封シールしてもよい。また、セル自体、支持基板、充填材料及び封止材料に可撓性の素材を用いれば、曲面の上に太陽電池モジュールを構成することもできる。
【0224】
例えば、ポリマーフィルム等のフレキシブル支持体を用いた太陽電池の場合、ロール状の支持体を送り出しながら順次セルを形成し、所望のサイズに切断した後、周縁部をフレキシブルで防湿性のある素材でシールすることにより太陽電池の本体を作製できる。また、Solar Energy Materials and Solar Cells, 48, p383-391記載の「SCAF」とよばれるモジュール構造とすることもできる。フレキシブル支持体を用いた太陽電池は曲面ガラス等に接着固定して使用することもできる。
【実施例】
【0225】
以下、本発明をさらに詳細に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
なお、H NMRスペクトルは、NMR測定装置(JEOL社製、JNM-EX400)を用いて測定した。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)は、GPC装置(島津製作所社製、プロミネンス)にカラム(日本分析工業社製、JAIGEL−3HAF)を取り付け、クロロホルムを溶離液として用いて測定した。ポリスチレンを標準試薬として測定値を校正し、ポリスチレン換算の数平均分子量及びポリスチレン換算の重量平均分子量を算出した。
溶液及び薄膜のUV−可視−赤外線スペクトルは、分光光度計(パーキンエルマー社製、ラムダ900UV/vis/NIR)で測定した。
蛍光スペクトルは、蛍光分光測定装置(堀場製作所社製、SPEX Fluoromax−3)を用いて測定した。
サイクリックボルタンメトリー(CV)は、電気化学分析装置(ALS 630A)を用いて、0.1Mのテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロフォスフェートを支持電解質として含むベンゾニトリル中で測定した。ITO(ジオマテック社製)を作用極として用い、Ag/AgNO(0.01Mのアセトニトリル溶液)電極を参照電極として用い、Ptワイヤーを対極として用いた。ポリマーのクロロベンゼン溶液を作用極上に塗布して作用極をポリマーの薄膜でコーティングし、アルゴン雰囲気下、220℃で30分間ホットプレート上で加熱した。
電界効果型有機トランジスタの電流電圧特性は、真空下(2×10−2Pa)、半導体特性評価システム4200−SCS(ケースレー社製)を用いて測定した。
光電流電圧特性は、PEC−L11が付属したPECK2400−Nソーラーシミュレーター(ペクセル・テクノロジーズ社製)を用い、標準2電極条件(100mWcm−2、AM1.5)で測定した。
【0226】
合成例1
(化合物1の合成)
オルガノメタリックス(Organometallics)、1987年、第6巻、1947頁に記載される下記スキームに従って化合物1を得た。
【0227】
【化50】

【0228】
(化合物3の合成)
化合物1を用い、下記スキームに従って、ジメチルチオトリシクロウンデク-8-エン-3-オン(化合物3)を得た。
【0229】
【化51】

【0230】
化合物1(11.9g、119mmol)と化合物2(12.6g、117mmol)とを、100mLのオートクレーブに導入した。その混合物を窒素で30分間バブリングした後、180℃で7日間加熱撹拌した。反応生成物を、ヘキサンと酢酸エチルとの混合溶媒を溶離液として用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製したところ、2種類の立体異性体の混合物である黄色オイル状の化合物3が得られた(13.0g、62.5mmol、収率53%)。化合物3は、立体異性体を分離することなく次のステップに使用した。生成物のNMRデータを下記に示す。
【0231】
1H NMR (CDCl3, 400MHz): δ 6.27 (2H, CH=CH), 3.51 3.40 (1H, CHC=O), 3.25 3.15 (1H, bridge head), 2.95 2.63 (1H), 2.89 (1H), 2.79 2.73 (1H, bridge head), 2.63 2.29 (1H), 1.28 1.16 (2H, CH2), 1.08 1.06 (3H, CH3), 0.88 0.86 (3H, CH3) HRMS (EI): calcd for C12H16OS 208.0922, found 208.092
【0232】
(化合物4の合成)
化合物3を用い、下記スキームに従って、ジメチルフェニルセレノチオトリシクロウンデク-8-エン-3-オン (化合物4)を得た。
【0233】
【化52】

【0234】
アルゴン雰囲気下、50mLのフラスコを用いて、ジフェニルジセレニド(8.36g、26.8mmol)を10mLの無水テトラヒドロフラン(THF)に溶解させた。その後、1.37mLの臭素(4.28g、26.8mmol)を滴下して、30分間激しく撹拌したところ、フェニルセレニルブロミド溶液が得られた。
アルゴン雰囲気下、100mLのフラスコを用いて、化合物3(9.32g、44.7mmol)を50mLの無水THFに溶解させた後、得られた溶液を−78℃に冷却した。その後、化合物3を含む溶液に、2.0Mのリチウムジイソプロピルアミド(LDA)を含むTHFとヘプタンとエチルベンゼンとの混合溶液35.7mL(LDAの量は71.5mmol)を滴下し、混合物を0℃で30分撹拌した。フェニルセレニルブロミド溶液を、トランスファーチューブにて化合物3を含む100mLのフラスコに移送し、撹拌した。1時間後、反応液に30mLの1Mの塩酸(HCl)を加えて反応を停止させ、反応生成物をジエチルエーテルで抽出した。有機層を水及び飽和食塩水で洗浄後、無水硫酸ナトリウム(NaSO)で乾燥し、溶媒を留去した。ヘキサンと酢酸エチルとの混合溶媒を溶離液として用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより反応生成物を精製したところ、2種類の立体異性体の混合物である黄色油状の化合物4(12.3g)が得られた。化合物4は、立体異性体を分離することなく次のステップにそのまま用いた。生成物の高分解能質量分析スペクトルデータを下記に示す。
【0235】
HRMS (EI): calcd for C18H20OSSe 364.0400, found 364.0399.
【0236】
(化合物5の合成)
化合物4を用い、下記のスキームに従って、ジメチルチオトリシクロウンデク-2,8-ジエン-3-オン (化合物5)を得た。
【0237】
【化53】

【0238】
化合物4(12.3g)を90mLのジクロロメタンに溶解させ、−20℃に冷却した。得られた溶液に、3−クロロパーベンゾイックアシッド(m−CPBA)(7.27g、29.5mmol)を添加し、2時間撹拌した。その後、該溶液を室温になるまで放置し、その後、3時間激しく撹拌した。得られた混合物に水を加えて失活させた後、反応生成物をジクロロメタンで抽出した。有機層を飽和炭酸水素ナトリウム(NaHCO)溶液、水及び飽和食塩水で洗浄し、無水NaSOで乾燥した。乾燥後の溶液中の溶媒を留去したところ、黄色の油状の生成物が得られた。ヘキサンと酢酸エチルとの混合溶媒を溶離液として用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより生成物を精製したところ、2種類の立体異性体の混合物である化合物5(4.40g、21.3mmol、収率47%)が薄黄の油状の化合物として得られた。化合物5は、立体異性体を分離せず、そのまま次のステップに使用した。生成物のNMRデータを下記に示す。
【0239】
1H NMR (CDCl3, 400MHz) 10,10-dimethyl-4-thiotricyclo[5.2.2.02,6]undec-2,8-diene-3-one: δ 6.48-6.43 (m, 1H, CH=CH), 6.39-6.35 (m, 1H, CH=CH), 3.99 (s, 1H, CH2S), 3.70 (m, 1H), 3.50 (d, 1H, J = 7.3 Hz), 1.40 (dd, 1H, J = 12, 2.9 Hz), 1.23 (dd, 1H, J = 12, 2.4 Hz), 1.03 (s, 3H) 0.86 (s, 3H), 11,11-dimethyl-4-thiotricyclo[5.2.2.02,6]undec-2,8-diene-3-one: δ 6.42-6.40 (m, 2H, CH=CH), 4.04 (d, 1H, J = 19 Hz, CH2S), 3.91 (m, 1H), 3.90 (s, 1H, J = 19 Hz, CH2S), , 3.27 (d, 1H, J = 6.1 Hz), 1.31 (dd, 1H, J = 12, 2.4 Hz), 1.24 (dd, 1H, J = 12, 2.9 Hz), 1.04 (s, 3H) 0.88 (s, 3H) HRMS (EI): calcd for C12H14OS 206.0765, found 206.0771.
【0240】
(化合物6の合成)
化合物5を用い、下記スキームに従って、ジヒドロジメチルエタンベンゾ[c]チオフェン(化合物6)を得た。
【0241】
【化54】

【0242】
アルゴン雰囲気下、化合物5(2.03g、9.86mmol)を15mLの無水ジクロロメタンに溶解した。得られた溶液を、−10℃に冷却後、1.0Mのジイソブチルアルミニウムハイドライド(DIBAL)を含むn−ヘキサン溶液10.0mL(DIBALの量は10.0mmol)をシリンジで添加し撹拌した。1.5時間後、反応液に10mLの1MのHClを加えて失活させた後、反応生成物をジクロロメタンで抽出した。有機層を1MのHClで洗浄後、無水NaSOで乾燥し、溶媒を留去した。ヘキサン溶媒を溶離液として用いたショートシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより反応生成物を精製したところ、化合物6(1.51g、7.96mmol、収率80%)が薄黄色の液体として得られた。生成物のNMRデータを下記に示す。
【0243】
1H NMR (CDCl3, 400MHz): δ 6.73 (d, 1H, J = 1.4Hz, Ar-H), 6.70 (d, 1H, J = 2.4, Ar-H), 6.51(m, 2H, CH=CH), 3.74 (m, 1H), 3.28 (d, 1H, J = 6.3 Hz), 1.43 (dd, 1H, J = 12, 2.9 Hz), 1.30 (dd, 1H, J = 12, 2.7 Hz), 1.04 (s, 3H) 0.71 (s, 3H). HRMS (EI): calcd for C12H14S 190.0816, found 190.0815.
【0244】
(化合物7の合成)
化合物6を用い、下記のスキームに従って、化合物7を得た。
【0245】
【化55】

【0246】
アルゴン雰囲気下、化合物6(380mg、2.00mmol)を10mLの無水THFに溶解させた。得られた溶液を−78℃に冷却後、0.30mLのN,N,N’,N’−テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)(2.00mmol)と1.65Mのn−ブチルリチウムを含むn−ヘキサン溶液1.20mL(1.98mmol)をシリンジで添加した。−10℃で30分間撹拌後、得られた混合物を再び、−78℃に冷却し、塩化銅(II)(537mg、4.00mmol)を添加した。添加後、−78℃で2時間保持した後、室温で2時間保持した。その後、反応液に10mLの1MのHClを注ぎ、反応生成物をジクロロメタンで抽出した。有機層を1MのHCl、飽和NaHCO溶液、水及び飽和食塩水で洗浄後、無水NaSOで乾燥し、溶媒を留去した。ヘキサン溶媒を溶離液として用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより反応生成物を精製したところ、3種類の立体異性体の混合物である化合物7(108mg、0.28mmol、収率28%)が薄黄色の油状体として得られた。化合物7は、立体異性体を分離せず次のステップにそのまま用いた。生成物のNMRデータを下記に示す。
【0247】
1H NMR (CDCl3, 400MHz): δ 6.70 6.68 (2H, Ar-H), 6.51 (2H, CH=CH), 3.99 3.95 3.70 3.56 3.25 (4H, bridge head), 1.36 (4H, CH2), 1.05 1.02 (3H, CH3) 0.80 0.77 0.73 (3H, CH3). HRMS (APCI): calcd for C24H27S2[M+H] 379.1554, found 379.1539.
【0248】
(化合物8の合成)
化合物7を用い、下記のスキームに従って、ビ(ジヒドロイオドジメチルエタノベンゾ[c]チオフェン)(化合物8)を合成した。
【0249】
【化56】

【0250】
アルゴン雰囲気下、10mLのフラスコを用いて、ヨウ素(181mg、0.71mmol)を2.0mLの無水THFに溶解させ、ヨウ素溶液を調製した。
アルゴン雰囲気下、50mLのフラスコにて、3.0mLの無水THFに化合物7(108mg、0.28mmol)を溶解させ、−78℃に冷却した。その後、化合物7を含む溶液に、2.0Mのリチウムジイソプロピルアミドを含むTHFとヘプタンとエチルベンゼンとの混合溶液0.50mL(LDAの量は1.0mmol)を滴下した。0℃で30分間撹拌した後、再度、得られた混合物を−78℃に冷却し、その後、ヨウ素溶液をトランスファーチューブで50mLフラスコに移送した。ヨウ素溶液を添加後、得られた混合物を、室温で1時間撹拌した。その後、得られた混合物に、5mLの10%チオ硫酸ナトリウム(Na)溶液を加えて失活させ、反応生成物をジエチルエーテルで抽出した。有機層は、水及び飽和食塩水で洗浄後、無水NaSOで乾燥後、溶媒を留去した。ヘキサン溶媒を溶離液として用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより反応生成物を精製したところ3種類の立体異性体の混合物である化合物8(48.7mg、0.076mmol、収率27%)が薄黄の固体として得られた。化合物8は、立体異性体を分離せず次のステップにそのまま用いた。生成物のNMRデータを下記に示す。
【0251】
1H NMR (CDCl3, 400MHz): δ 6.50 (2H, CH=CH), 3.95 3.89 3.60 3.55 3.17 (4H, bridge head), 1.33 (4H, CH2), 1.06 1.02 (3H, CH3) 0.79 0.77 0.75 (3H, CH3). HRMS (APCI): calcd for C24H25I2S2[M+H] 630.9487, found 630.9477.
【0252】
(化合物9の合成)
ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサイエティ(J. Am. Chem. Soc.)、2009年、第131巻、56頁に記載の下記スキームに従って、化合物9を合成した。
【0253】
【化57】

【0254】
実施例1
(高分子化合物P1(P(biMMITN−BDT)))の合成
化合物8及び化合物9を用い、下記スキームに従って、ポリ[(ビ(ジヒドロジメチルエタノベンゾ[c]チオフェン))-alt-(ジオクトキシベンゾジチオフェン)](P(biMMITN-BDT)(高分子化合物P1)を合成した。
【0255】
【化58】

【0256】
P(biMMITN−BDT)は、Stilleカップリングを素反応とする重合工程により合成した。
アルゴン雰囲気下、乾燥したシュレンク管に、化合物8(157mg、0.24mmol)、化合物9(185mg、0.24mmol)、テトラキス(トリフェニルフォスフィン)パラジウム(0)(13mg、0.012mmol)及び4mLの蒸留トルエンを導入した。得られた混合物を、90℃で12時間撹拌した。冷却した混合物をメタノールに注ぎこみ、オレンジ色の析出物をメンブレンフィルター(ADVANTEC社製)で捕集した。得られた生成物をメタノールとヘキサンとで洗浄した。クロロホルムとメタノールとの混合溶液、及び、クロロホルムとヘキサンとの混合溶液を用いた再沈殿による精製で、オレンジ色の固体である高分子化合物P1(P(biMMITN−BDT))が得られた(118mg、収率60%)。高分子化合物P1中の化合物8に由来する構造単位は、立体異性体を含んだままである。移動層がクロロホルムであるGPCで測定した高分子化合物P1のポリスチレン換算の数平均分子量は3.5×10であり、分散(PDI)は2.05であった。
高分子化合物P1は溶解性に優れるため、重合中に高分子化合物P1の中間体が析出することなく重合が進む、よって、分子量が大きい高分子化合物が得られた。
【0257】
高分子化合物P1を重クロロホルムに溶解させた溶液について、400MHzのNMR装置で測定してH NMRスペクトルを得た。図10は、H NMRスペクトルを示すグラフである。
【0258】
高分子化合物P1の紫外吸収スペクトル及び450nmの波長の光で励起した際の蛍光スペクトルを測定した。結果を図11に示す。図11は、紫外吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを示すグラフである。図11中、破線は、高分子化合物P1のクロロホルム溶液の紫外吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを示す。実線は、高分子化合物P1からなる薄膜の紫外吸収スペクトル及び蛍光スペクトルを示す。
【0259】
実施例2
(高分子化合物P2(P(biITN−BDT)))の製造
高分子化合物P1を用い、下記スキームに従って、ポリ[(ビス(イソチオナフテン)-alt-(ジオクトキシベンゾジチオフェン))](P(biITN-BDT)(高分子化合物P2)を得た。
【0260】
【化59】

【0261】
P(biMMITN-BDT)を加熱することにより進行する逆Diels-Alder反応を用いて、P(biITN-BDT)の製造を行なった。
スピンコーターを1000回転(rpm)、1分間の条件で作動させ、10gL−1の高分子化合物P1のクロロホルム溶液をガラス上にスピンコートし、高分子化合物P1の薄膜をガラス上に製膜し、ガラス基板を製造した。アルゴン雰囲気下、高分子化合物P1の薄膜が形成されたガラス基板をホットプレートを用いて220℃で、30分間加熱し、高分子化合物P2(P(biITN−BDT))の薄膜を得た。
【0262】
高分子化合物P1を含む薄膜の紫外吸収スペクトル、及び、高分子化合物P1を含む薄膜を加熱して得られた薄膜、即ち、高分子化合物P2を含む薄膜の紫外吸収スペクトルを測定した。結果を図12に示す。図12は、紫外吸収スペクトルを示す図である。図中、実線で示されるグラフ(1)は、高分子化合物P1を含む薄膜の紫外吸収スペクトルを表す。破線で示されるグラフ(2)は、高分子化合物P2を含む薄膜の紫外吸収スペクトルを表す。
【0263】
高分子化合物P2を含む薄膜のサイクリックボルタングラムを測定した。結果を図13に示す。図13は、高分子化合物P2を含む薄膜のサイクリックボルタングラムである。サイクリックボルタンメトリーの参照極には銀/塩化銀電極を用い、溶媒には0.1Mのテトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスファート(BuPF)を添加したベンゾニトリルを用いた。高分子化合物P2を含む薄膜は作用極であるITO上に形成した。
【0264】
実施例3
(電界効果型有機トランジスタ(OFET)の作製と評価)
シリコンウエハー上に、高分子化合物P2を含む半導体層を有するトップコンタクト、ボトムゲート型の電界効果型有機トランジスタ(OFET)を作製した。
図14−1及び図14−2を参照して、実施例3の電界効果型有機トランジスタの構成及び製造方法について説明する。図14−1は、電界効果型有機トランジスタの模式的な平面図である。図14−2は、図14−1中のI−II破線の位置で切断した断面を示す模式的な断面図である。
図14−1及び図14−2に示されるように、ゲート絶縁膜3である膜厚t3が300nmの熱シリコン酸化膜(SiO)が形成されたn型不純物がドープされたシリコンウエハーを、ゲート電極4を兼ねる基板として用いた。シリコンウエハーに形成されたシリコン酸化膜の表面をエタノール中で超音波洗浄した。スピンコーターを1000回転、1分間の条件で作動させ、10gL−1の高分子化合物P1のクロロベンゼン溶液をシリコン酸化膜の表面にスピンコートし、有機半導体層2をシリコン酸化膜の表面に積層した。有機半導体層2を積層した基板を、アルゴン雰囲気下、220℃で30分間、ホットプレート上で加熱し、膜厚t2が40nmである高分子化合物P2を含む有機半導体層2を得た。その後、ソース電極5及びドレイン電極6として膜厚t1が約25nmの金薄膜を、マスクを用いて蒸着し、OFETを製造した。製造した電界効果型有機トランジスタのチャネル長(w1)は50μmであり、チャネル幅(w2)は1mmであった。
【0265】
半導体特性評価システム4200−SCS(Keithley Instruments社製)を用い、2×10−2Paの真空下、電界効果型有機トランジスタの電流電圧特性を測定した。電界効果移動度(μ)は、飽和領域のゲート電圧及びソース−ドレイン電極のデータから、下記式により計算した。
式:I=μεoxε(W/2Ld)(V−V
式中、Iは飽和領域におけるドレイン電流を表し、μは電界効果移動度を表し、εoxはゲート絶縁膜の誘電率を表し、εは真空の誘電率を表し、dはゲート絶縁膜の厚みを表し、Vはゲート電圧を表し、Vは閾値電圧を表す。
なおVは、飽和領域におけるIの平方根と、I=0で外挿されるVの関係とから求めた。
結果を表1に示す。
【0266】
【表1】

【0267】
比較例1
(電界効果型有機トランジスタの作製と評価)
半導体層を積層した基板を220℃で30分間加熱する工程を実施しない以外は、実施例3と同様に電界効果型有機トランジスタを作製した。得られた電界効果型有機トランジスタの半導体層は高分子化合物P1を含む。電界効果型有機トランジスタの電流電圧特性を、実施例3と同様にして測定したところ、トランジスタ特性は観測されなかった。
【0268】
実施例4
(有機薄膜太陽電池の作製と評価)
高分子化合物P2(P(biITN−BDT))とC60PCBM(アメリカンダイソース社製)とを活性層の材料として用いて、有機薄膜太陽電池を作製し、さらに有機薄膜太陽電池の評価を行った。
図15−1及び図15−2を参照して、実施例4の有機薄膜太陽電池の構成及び製造方法について説明する。図15−1は、有機薄膜太陽電池の模式的な平面図である。図15−2は、図15−1中のI−II破線の位置で切断した断面を示す模式的な断面図である。
高分子化合物P1(P(biMMITN−BDT)とC60PCBMとを1:1の重量比で混合し、高分子化合物P1の濃度が10mg/mLとなるようにクロロベンゼンに溶解させ、クロロベンゼン溶液を調製した。
図15−1及び図15−2に示されるように、有機薄膜太陽電池(セル)の作製には、5Ω/□の酸化インジウムスズ(ITO)膜(陽極32)付きのガラス基板(ジオマテック社製)(基板1)を用いた。このガラス基板に対して、アセトンとエタノールとを用いて、10分間、超音波処理を実施した。次いで、このガラス基板を乾燥させ、UV−オゾン処理を施した後、ITO膜を覆うように、ポリスチレンスルホン酸がドープされたポリ(エチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSS、Baytron P(商品名))を4000回転(rpm)でスピンコートし、200℃で10分間乾燥させて、PEDOT:PSS層(中間層40)を形成した。アルゴン雰囲気下、PEDOT:PSS層上に、前記クロロベンゼン溶液を500回転(rpm)から1000回転(rpm)の回転数でスピンコートし、高分子化合物P1とC60PCBMとの薄膜をPEDOT:PSS層を覆うように形成した。得られた薄膜を220℃で30分間、ホットプレート上で乾燥させ、高分子化合物P2とC60PCBMとを含む活性層(有機化合物層70)を形成した。次いでAl(ニラコ社製)層を、真空下(2×10−6Pa)、加熱蒸着して、互いに平行に離間するように配置された複数の直線状パターンを含む陰極34をパターニングして形成することにより、平面形状が正方形である有機薄膜太陽電池(ITO/PEDOT:PSS/高分子化合物P2;C60PCBM/Al)を作製した。
有機薄膜太陽電池の縦幅(w3)及び横幅(w4)はいずれも25mmであり、陰極34である複数の直線状パターンの延在方向に直交する方向の幅(w5)はいずれも3mmであった。
作製された有機薄膜太陽電池について、短絡電流密度(Jsc)、開放端電圧(Voc)、フィルファクタ−(FF)、及び光電変換効率(η)を求めた。結果を表2に示す。
【0269】
【表2】

【0270】
本発明にかかる化合物は、複数の構造単位を含むため、溶媒に対する溶解性が極めて高い。よって例えばπ共役構造を有する化合物を含む層、ひいてはこの層を機能層として備える有機トランジスタなどの有機半導体素子を塗布法による簡易な工程で製造しうる。
【符号の説明】
【0271】
1 基板
2、70 有機半導体層
3 ゲート絶縁膜
4 ゲート電極
5 ソース電極
6 ドレイン電極
11 保護膜
12 層間絶縁膜
13 下部電極(陽極)
14 発光素子
15 上部電極(陰極)
16 バンク部
17 封止部材
18 基板
22 第1の基板
32 陽極
34 陰極
40 中間層
100、110、120、130、140、150、160 有機トランジスタ
200 光電変換素子
300 面状光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の2価の構造単位と第2の2価の構造単位とを有し、該第1の2価の構造単位が下記式(1)で表される構造単位であり、該第2の2価の構造単位が下記式(1)で表される構造単位とは異なる構造単位である化合物。
【化1】


[式(1)中、R1、R、R、R4、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。nは1以上の整数を表す。mは、0以上の整数を表す。Y及びZは、それぞれ独立に、2価の基を表す。Y、Z、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ複数個ある場合、複数個あるY、Z、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ同一であっても相異なっていてもよい。]
【請求項2】
第2の2価の構造単位が、下記式(2)で表される構造単位又は下記式(3)で表される構造単位である請求項1に記載の化合物。
【化2】


[式(2)中、Ar1は、−C≡C−で表される基、−C(R)=C(R)−で表される基、−N=N−で表される基、−C(R)=N−で表される基、置換基を有していてもよいアリーレン基又は置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基を表す。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。2個あるRは、同一であっても相異なっていてもよい。]
【化3】


[式(3)中、r及びrrは、それぞれ独立に、0又は1を表す。Ar2、Ar3、Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリーレン基又は置換基を有していてもよいヘテロアリーレン基を表す。Ar6、Ar7及びAr8は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいアリール基又は置換基を有していてもよいヘテロアリール基を表す。]
【請求項3】
Yで表される2価の基が、下記式(Y−1)〜下記式(Y−8)からなる群から選択されるいずれかの基である請求項1又は2に記載の化合物。
【化4】


[式(Y−1)〜式(Y−8)中、R10〜R20は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。Xは、水素原子又はハロゲン原子を表す。複数個あるXは、同一であっても相異なってもよい。]
【請求項4】
Zで表される2価の基が、下記式(X−1)〜下記式(X−10)からなる群から選択されるいずれかの基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【化5】


[式(X−1)〜式(X−10)中、R30〜R35は、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。]
【請求項5】
重量平均分子量が3000以上の高分子化合物である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
下記式(4)で表される構造単位をさらに有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物。
【化6】


[式(4)中、nは1以上の整数を表す。mは、0以上の整数を表す。R1、R、R、R4、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は置換基を表す。Zは、2価の基を表す。Z、R、R、R、R、R及びRが、それぞれ複数個ある場合、複数個あるZ、R、R、R、R、R及びRは、それぞれ同一であっても相異なっていてもよい。]
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の化合物と溶媒とを含有する溶液。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の化合物を含有する薄膜。
【請求項9】
基体と薄膜とを有する積層体であって、
該薄膜が、請求項7に記載の溶液を該基体上に塗布して前記式(1)で表される構造単位を含む化合物を含有する塗膜を形成し、次いで、
該塗膜にエネルギーを加えて、塗膜に含有される化合物に含まれる前記式(1)で表される構造単位の少なくとも一部を前記式(4)で表される構造単位に変換して得られる薄膜である積層体。
【請求項10】
薄膜と基体からなる積層体の製造方法であって、
請求項7に記載の溶液を基体上に塗布し、前記式(1)で表される構造単位を含む化合物を含有する塗膜を形成する工程と、
該塗膜にエネルギーを加えて、塗膜に含有される化合物に含まれる前記式(1)で表される構造単位のうちの少なくとも一部を前記式(4)で表される構造単位に変換して薄膜を形成する工程と
を含む、積層体の製造方法。
【請求項11】
請求項8に記載の薄膜、又は請求項9に記載の積層体を有する有機半導体素子。
【請求項12】
請求項8に記載の薄膜、又は請求項9に記載の積層体を有する有機トランジスタ。
【請求項13】
請求項12に記載の有機トランジスタを備える、面状光源。
【請求項14】
請求項12に記載の有機トランジスタを備える、表示装置。
【請求項15】
請求項8に記載の薄膜、又は請求項9に記載の積層体を有する光電変換素子。
【請求項16】
請求項15に記載の光電変換素子を含む太陽電池モジュール。
【請求項17】
請求項15に記載の光電変換素子を含むイメージセンサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図15−1】
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【図15−2】
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【公開番号】特開2012−197437(P2012−197437A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−54914(P2012−54914)
【出願日】平成24年3月12日(2012.3.12)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】