説明

化学気相成長用組成物

【課題】炭窒化ケイ素膜形成用前駆体の化学気相成長により基材上に炭窒化ケイ素膜を形成するための方法を提供する。
【解決手段】以下の式によって表されるアミノシラン及びそれらの混合物からなる群より選択される前駆体を用いることを含む、炭窒化ケイ素膜を形成するための方法とする:

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
半導体デバイスの製作においては、窒化ケイ素(Si)又は炭窒化ケイ素(Si)のような化学的に不活性な誘電材料の薄い不動態層が必須である。窒化ケイ素の薄層は、拡散マスク、酸化バリアー、トレンチアイソレーション、高絶縁破壊電圧を備えた金属間誘電材料及びパッシベーション層として機能する。半導体デバイスの製作における窒化ケイ素被膜について数多くの応用が他で報告されており、非特許文献1及び2が参照される。
【0002】
最近の半導体デバイスの多くは、非常に低いエッチ速度若しくは非常に高い膜応力、又はその両方を有する誘電膜を必要とする。さらには、良好な電気特性を維持しながら、600℃未満の温度で膜が形成されることが好ましく必要な場合がある。膜の硬さは電気部品の設計の際に考慮すべき別の因子であり、窒化ケイ素膜は実に極めて硬い膜を提供する。
【0003】
窒化ケイ素被膜を形成するための商業的な方法の1つは、前駆体反応体としてジクロロシランとアンモニアを用いる。ジクロロシラン及びアンモニアのような前駆体を使用する低圧化学気相成長(LPCVD)は、最良の膜特性を獲得するために高い堆積温度を必要とする。例えば、750℃よりも高い温度が、適度な成長速度と均一性を得るために必要とされる場合がある。他の処理の問題は、塩素及び塩素副生成物の危険な側面を包含している。
【0004】
以下の論文及び特許は、エレクトロニクス産業において用いられるオルガノシランの合成及び堆積プロセスに関して当技術分野の代表的なものとして引用される。
【0005】
非特許文献3は、LPCVDによるジエチルシランとアンモニア及び一酸化窒素と用いた窒化ケイ素及びオキシ窒化ケイ素の形成を開示している。堆積は、650℃〜700℃の温度範囲において実施される。より低い温度では堆積速度が4Å/分未満に低下するので、堆積は一般に650℃の温度に制限される。
【0006】
非特許文献4は、LPCVD法によるジクロロシランとアンモニアを用いた窒化ケイ素の堆積を記載している。塩化アンモニウムの形成は、チューブの後端、並びに配管ライン及びポンピングシステムにおける塩化アンモニウムの粒子形成及び堆積を招く。
【0007】
非特許文献5は、ヨードシランと各ジアルキルアミンの反応によるジメチルアミノ及びジエチルアミノシランの調製を開示している。
【0008】
非特許文献6は、式NR(SiHのジシリルアミン、例えばイソプロピルジシリルアミン及びジシリル−t−ブチルアミンの合成を開示しており、対応するメチルジシリルアミンとの分光学的な比較を与えている。
【0009】
特許文献1は、アンモニア又は窒素の存在下でのプラズマ化学気相成長又は熱化学気相成長による、一般式(RN)SiH4−n(式中、R及びRはH−、CH−、C−、C−、C−のいずれか)のオルガノシランを用いた窒化ケイ素膜の形成を記載している。
【0010】
特許文献2は、反応体ガスとしてSi(N(CHとアンモニアを用いたCVDによる窒化ケイ素膜の形成を開示している。700℃のチャンバー温度と0.5Torrの圧力を、堆積のために用いている。アンモニア又は窒素と組み合わせたSiH(N(CH、SiH(N(CH及びSiH(N(CH)からなる群より選択された他の反応体も反応体として提案されている。ガスに紫外線ビームを照射することで生成するプラズマにより、温度を300℃に低下させることも開示されている。
【0011】
特許文献3は、前駆体としてビス(三級ブチルアミノ)シランを使用して、500℃〜800℃の温度範囲で低圧化学気相成長により窒化ケイ素を堆積させることを教示している。
【0012】
特許文献3及び4は、ケイ素反応体ガスとしてビス(三級ブチルアミノ)シランを用いた窒化ケイ素膜の形成を開示している。ここでは、膜を生成するのにLPCVDを用いている。
【0013】
特許文献5は、第1反応体として式Si(N(CH、SiH(N(CH、SiH(N(CH、SiH(N(CH)のシラン、好ましくはトリスジメチルアミノシランを用いた原子層堆積によるケイ素含有薄膜の形成を開示している。第1反応体の第1の部分は基材上に化学吸着され、第2の部分が基材上に物理吸着される。反応体はパージされ、第2反応体、即ちNHが導入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平6−132284号公報
【特許文献2】米国特許第5,234,869号明細書
【特許文献3】米国特許第5,874,368号明細書
【特許文献4】米国特許第6,153,261号明細書
【特許文献5】米国特許第6,391,803号明細書
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】Semiconductor and Process technology handbook,Gary E.McGuire編,Noyes Publication,New Jersey(1988),pp289〜301
【非特許文献2】Silicon Processing for the VLSI ERA,Wolf,Stanley及びTalbert,Richard N.,Lattice Press,Sunset Beach,Calif.(1990),pp20〜22,327〜330
【非特許文献3】A.K.Hochberg及びD.L.O’MearaによるDiethylsilane as a Silicon Source for the Deposition of Silicon Nitride and Silicon Oxynitride Films By LPCVD,Mat.Res.Soc.Symp.Proc.,204巻(1991),pp509〜514
【非特許文献4】SoritaらによるMass Spectrometric and Kinetic Study of Low−Pressure Chemical Vapor Deposition of Si3N4 Thin Films From SiH2Cl2 and NH3,J.Electro.Chem.Soc.,141巻,No.12(1994),pp3505〜3511
【非特許文献5】Aylett及びEmsleyによるThe Preparation and Properties of Dimethylamino and Diethylamino Silane,J.Chem.Soc.(A),p652〜655,1967
【非特許文献6】Anderson及びRankinによるIsopropyldisilylamino and Disilyl−t−butylamine:Preparation,Spectroscopic Properties,and Molecular Structure in the Gas Phase,Determined by Electron Diffraction,J.Chem.Soc.Dalton Trans.,p779〜783,1989
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
CVD法による一般式Siの炭窒化ケイ素膜の生成を可能にする液体アミノシランのクラスが見出された。これらのアミノシランは、これまで用いられている幾つかの前駆体とは対照的に、室温及び室圧において液体であり、好都合な取扱いを可能にする。加えて、本発明は、このような膜を生成させるための堆積方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0017】
これらのクラスの化合物は、一般に以下の式及びそれらの混合物によって表される:
【0018】
【化1】

(式中、
Rは、直鎖、分枝若しくは環状の飽和若しくは不飽和C〜C10アルキル基、芳香族、複素環、又は式Cにおいてシリルから選択され、
は、直鎖、分枝又は環状の飽和又は不飽和のC〜C10アルキル基、芳香族、複素環、水素、シリル基から選択され、置換基を有していても又は有していなくてもよく、
式AにおいてRとRを結合して環状基(CH(式中、nは1〜6、好ましくは4及び5である)にすることも可能であり、かつ
は、単結合、(CH鎖、環、SiR又はSiHを表す)。
【0019】
好ましい化合物は、RとRの両方が少なくとも2個の炭素原子を有するようなものである。
【0020】
CVD法において用いられる前駆体は、数多くの利点を達成することができ、これらの利点としては、下記の点が挙げられる:
プラズマ堆積の問題を招くことなく、低い熱条件において誘電膜の形成を促進できること;
Si−C結合のSi−N結合に対する比を制御すること、及びそれにより得られる膜の特性を制御することを可能にするために、種々の化学量論量において、アミノシランを、他の前駆体、例えばアンモニアと混合できること;
高い屈折率及び膜応力を有する膜を生成できること;
低い酸エッチ速度を有する膜を生成できること;
高密度の膜を生成できること;
塩素汚染を避けながら、膜を生成できること;
製造可能なバッチ炉(100個以上のウェハ)において、低い圧力(20mTorr〜2Torr)で操作できること;並びに
低温、例えば550℃以下の低い温度で、Si膜を生成できること。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】堆積プロセスにおけるNH対前駆体のモル比の関数として、ジエチルアミノシラン及びビス(三級ブチルアミノ)シランの堆積によって形成された膜に関する応力値のプロットである。
【図2】堆積プロセスにおける温度の関数として、ジエチルアミノシラン及びビス(三級ブチルアミノ)シランの堆積によって形成された膜の硬さの、標準のSiOに対するプロットである。
【図3】ジエチルアミノシラン(無希釈)、NHを伴うジエチルアミノシラン、及びビス(三級ブチルアミノ)シランの堆積によって生成された膜の赤外スペクトルイオンのプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
分子構造における重要な特徴としてN−SiH基を有する液体オルガノアミノシランのクラスが、エレクトロニクス産業においてCVDにより炭窒化ケイ素膜を生成するための前駆体として好適であることが見出された。これらの化合物は、種々の条件下におけるSi膜の生成に役立つ。
【0023】
本発明の化合物は、大気圧、及び室温、即ち25℃において液体であり、したがってトリメチル置換のアミノシランについて報告されている使用よりも有意な利点を提供する。これらの化合物は、アミノ基の鎖中に少なくとも2個の炭素原子を有する有機基で置換されており、従来の取扱い及び処理条件下において安定性を提供する。
【0024】
アミノシランの1つのクラスは、以下のように式Aによって表される。
【0025】
【化2】

【0026】
このクラスの化合物において、Rは、直鎖、分枝又は環状の飽和又は不飽和C〜C10アルキル基、芳香族、複素環から選択される。Rは、直鎖、分枝又は環状の飽和又は不飽和C〜C10アルキル基、芳香族、複素環、水素、シリル基から選択され、置換基を有していても又は有していなくてもよく、RとRを結合して環状基にすることも可能である。代表的な置換基は、アルキル基、特にはC〜Cアルキル基、例えばエチル、プロピル及びブチル(それらの異性体を含む)、並びに環状基、例えばシクロプロピル、シクロペンチル及びシクロヘキシルである。
【0027】
このクラスに含まれる幾つかの好ましい化合物の例示的なものは、以下の式によって表される(nは1〜6、好ましくは4又は5である):
【0028】
【化3】

【0029】
アミノシランの第2のクラスは、式Bによって表されるように、1つの窒素原子からぶら下がった2個のシリル基を有する:
【0030】
【化4】

【0031】
クラスAの化合物のR基の場合と同様に、Rは、直鎖、分枝又は環状の飽和又は不飽和C〜C10アルキル基、芳香族、複素環から選択される。特定のR基は、メチル、エチル、プロピル、アリル及びブチル、並びに環状基、例えばシクロプロピル、シクロペンチル及びシクロヘキシルを含む。
【0032】
例示的な化合物は、以下の式によって表される:
【0033】
【化5】

【0034】
アミノシラン化合物の第3のクラスは、式Cによって表される。これらの化合物は、一般にジアミノジシリル化合物であり、ここでは、Rが、式AにおけるR及びRと同じであり、R基が、窒素原子を架橋している。R基は、窒素原子間の単結合にすぎない場合があり、又は架橋基、例えばSiR、SiH、鎖又は環であることができる。式は以下のとおりである。
【0035】
【化6】

【0036】
特定の例は、以下の式によって表されるものを含む:
【0037】
【化7】

【0038】
これらの化合物は、一般に以下の反応によって合成され、これらの反応はまた、例1、2、3及び4によって示される。
【0039】
【化8】

【0040】
上記の一連の反応は、記載されるアミノシランへの経路を示すものであるが、シラン前駆体の他の供給源を使用することもできる。この経路は、反応化学量論及び種々のアミンの使用によってモノ及びジシリル化合物が生成されるか否かについて、むしろ簡単な制御を可能にする。
【0041】
これらの化合物の幾つかは、The Preparation and Properties of Dimethylamino and Diethylamino Silane[Aylett及びEmsley,J.Chem.Soc.(A),p652〜655,1967]において記載されているように、モノハロシランと対応するアミンの反応によって合成することもできる。
【0042】
【化9】

【0043】
この反応に十分適した代表的なアミンは、アルキル、環状及び複素環のものである。好ましいアミンは、低級アルキルアミン、例えばエチル、イソプロピル、t−ブチル及びシクロヘキシルである。さらには、アミンは、所望の生成物に応じて、第1級又は第2級であることができる。
【0044】
炭窒化ケイ素膜の形成においては、モノ又はジアミノシランは、任意選択でアンモニア又は窒素源とともに、堆積チャンバーにおいて通常の堆積温度で反応させることができる。このような膜は、化学気相成長(CVD)、低圧化学気相成長(LPCVD)、プラズマCVD(PECVD)、原子層堆積(ALD)などのために設計された堆積チャンバーにおいて形成することができる。本明細書で用いられるCVDという用語は、半導体の堆積において用いられるこれらプロセスのそれぞれを包含するものである。
【0045】
利点において記載したように、本明細書に記載される液体アミノシランにより、多くの場合において、製造業者が比較的低温でCVDによって炭窒化ケイ素膜を形成できるようになる。ただし、一般的な温度範囲は500〜700℃である。意外にも、Si膜の堆積は、おそらくは1つ又は複数のSiH基の高い活性によって、に達成することができる。ケイ素中心におけるアンモニアアミノ基転移反応に関する低い立体障害により、比較的低温でこれらの化合物がアンモニアと反応し、かつ窒素濃度が増加した膜を堆積させることが可能になると考えられる。
【0046】
アミノシラン前駆体の堆積は、活性窒素源、例えばヒドラジン、ジメチルヒドラジン又はアンモニアの存在下又は不存在下において実施することができる。窒素源:アミノシランのモル比は、一般に広く、0:1〜10超:1の範囲内にある。上限は、前駆体に対する希釈効果によって制限され、この希釈効果は、堆積速度を相当に減少させる。好ましい範囲は0.1:1〜4:1である。堆積による膜の形成はまた、不活性ガス、例えば窒素及びヘリウムを含む他のガスの有無に関係なく、実施することができる。前駆体の対応する希釈を達成するための製造業者によるガスの使用は、堆積の一致性を改善すること、又は化学気相浸透に関する浸透を改善することができる。
【0047】
低圧化学気相成長法(LPCVD)は、種々の基材、例えばシリコン上で20mTorr〜20Torrの圧力範囲内で起こる化学反応を伴う。高圧のCVDでは、所望の基材に達する前に、気相核形成又は予備堆積が生じる場合がある。アミノシラン前駆体の希釈が、このような高圧反応のために必要とされる場合がある。幾つかのアミノシラン前駆体に関する低圧堆積は、商業的には利用できないレベルの堆積速度を示す場合がある。しかしながら、このようなアミノシランは、原子層堆積に適している場合がある。
【0048】
堆積プロセスの実施においては、本明細書に記載されるアミノシランは、他のシリル前駆体と混合して、膜の特性を変更することができる。他の前駆体の例は、ビス−tert−ブチルアミノシラン、トリス−イソ−プロピルアミノシラン、ビス−ジエチルアミノシラン、トリス−ジメチルアミノシラン、及びビス−イソ−プロピルアミノシランを含む。
【0049】
以下の例は、種々のシランの合成及び炭窒化ケイ素膜形成用前駆体のLPCVDを含む本発明の種々の実施態様を説明するものである。
【実施例】
【0050】
[例1]
[ジエチルアミノシランの合成]
トリフルオロメタンスルホン酸50g(0.33mol)とトルエン100mlを、250mlのフラスコに添加した。窒素の保護下でフラスコを−40℃に冷却した。トリルシラン40.6g(0.33mol)をゆっくりと添加した。次いで、フラスコを−60℃に冷却した。トリエチルアミン33.5gをゆっくりと添加し、次いでジエチルアミン24gを添加した。添加後、フラスコの温度を室温まで徐々に温めた。2つの液層が形成された。分液漏斗を用いて上層を分離した。減圧蒸留により、ジエチルアミノシラン25gを得た。ジエチルアミノシランの沸点は、210mmHgにおいて40〜42℃であった。
【0051】
[例2]
[ジ−イソ−プロピルアミノシランの合成]
トリフルオロメタンスルホン酸50g(0.33mol)とペンタン80mlを、250mlのフラスコに添加した。窒素の保護下でフラスコを−40℃に冷却した。フェニルシラン35.6g(0.33mol)をゆっくりと添加した。次いで、フラスコを−60℃に冷却した。トリエチルアミン33.3g(0.33mol)をゆっくりと添加し、次いでペンタン15ml中ジ−イソ−プロピルアミン33.3g(0.33mol)の溶液を添加した。添加後、フラスコの温度を室温まで徐々に温めた。2つの液層が形成された。分液漏斗を用いて上層を分離した。蒸留により、溶媒と副生成物のベンゼンを除去した。減圧蒸留によりジ−イソ−プロピルアミノシラン30gを得た。ジ−イソ−プロピルアミノシランの沸点は、106mmHgにおいて55℃であった。
【0052】
[例3]
[シクロヘキシルジシリルアミン及び2,4−ジシクロヘキシル−2,4−ジアザ−1,3,5−トリシラペンタンの合成]
トリフルオロメタンスルホン酸62.5gとペンタン100mlを、500mlのフラスコに添加した。窒素の保護下でフラスコを−40℃に冷却した。フェニルシラン45gをゆっくりと添加した。次いで、フラスコを−60℃に冷却した。トリエチルアミン42gをゆっくりと添加し、次いでペンタン15ml中のシクロヘキシルアミン20.6gの溶液を添加した。添加後、フラスコの温度を室温まで徐々に温めた。2つの液層が形成された。分液漏斗を用いて上層を分離した。蒸留により溶媒と副生成物のベンゼンを除去した。減圧蒸留により、シクロヘキシルジシリルアミン15gを得た。シクロヘキシルジシリルアミンの沸点は、17mmHgにおいて54〜55℃であった。残りの高沸点部分は、96.6%の2,4−ジシクロヘキシル−2,4−ジアザ−1,3,5−トリシラペンタンを含有している。
【0053】
[例4]
[シクロヘキシルジシリルアミン及び2,4−ジ−tert−ブチル−2,4−ジアザ−1,3,5−トリシラペンタンの合成]
トリフルオロメタンスルホン酸50.0g(0.33mol)とペンタン100mlを、500mlのフラスコに添加した。窒素の保護下でフラスコを−40℃に冷却した。フェニルシラン35.6g(0.33mol)をゆっくりと添加した。次いで、フラスコを−60℃に冷却した。トリエチルアミン33.3gをゆっくりと添加し、次いでペンタン15ml中ビス−t−ブチルアミノシラン28.7g(0.165mol)の溶液を添加した。添加後、フラスコの温度を室温まで徐々に温めた。2つの液層が形成された。分液漏斗を用いて上層を分離した。蒸留により、溶媒と副生成物のベンゼンを除去した。減圧蒸留により、2,4−ジ−tert−ブチル−2,4−ジアザ−1,3,5−トリシラペンタン21gを得た。
【0054】
[例5]
[ジエチルアミノシラン前駆体を用いた炭窒化ケイ素膜の形成]
[一般的手順]
炭窒化ケイ素堆積物のための実験用前駆体を資格認定するのに用いられるLPCVD反応器においてアミノシラン前駆体を試験する。前駆体を脱ガスし、必要に応じて低圧マスフローコントローラ(MFC)を通じて反応器に計量供給する。化学物質の質量損失対流れ時間に対してMFC流量を較正する。明記されている場合には、アンモニアなどの追加の反応体、並びに窒素及びヘリウムなどの希釈剤も同様に、必要に応じて、較正されたMFCを通じて反応器に計量供給する。反応器を10−4Torr(0.013Pa)未満に排気することができるルーツブロワー/ドライポンプの組み合わせに連結する。堆積中においては、シリコンウェハの装填物を横切る温度は設定点の1℃以内にする。
【0055】
シリコンウェハを石英ボート上に装填して反応器に挿入する。反応器をポンプにより基準圧にして漏れをチェックする。系をガス流によってプロセス温度まで上げる。このガス流は、反応器が温まった時にシリコンウェハが酸化するのを防ぐために残留する酸素又は水分を希釈する。次いで、反応器を所定の時間安定化させ、すべてのウェハ表面を(付属の熱電対を用いてウェハに関する先の測定により決定されたのと)等しい温度にする。
【0056】
ガス及び蒸気を制御された圧力で所定の堆積時間にわたって反応器に注入する。次に、ガスを遮断し、反応器をポンプで基準圧にする。次いで、反応器が冷却された時に反応性のガス又は蒸気を除去するため、反応器をポンプでパージし、ポンプを弱めそしてポンプでパージする。反応器を大気圧に戻し、ウェハを取り出して室温に冷却する。次いで、堆積膜を、膜厚、膜の屈折率、膜応力(図1)、赤外線吸光度(図3に示される)、誘電率及び酸エッチ速度(表1)について測定する。
【0057】
堆積膜を形成する際、ジエチルアミノシラン(DEAS)10sccmを、NH20sccm及びN20sccmとともに、1.3Torr(173.3Pa)で以って60分の堆積時間にわたり570℃で反応器に流した。
【0058】
平均の膜厚は69nmであり、屈折率は2.045であった。膜応力は、1.07×1010ダイン/cm(1.07GPa)であることが測定された。
【0059】
赤外スペクトルはSi−C及びSi−Nの吸収が顕著であった。C−H又はC−Nの吸収はノイズ中にあり、図3に示されるように、膜の組成は主として所望のSiの形態であることを示した。
【0060】
[例6]
[NHなしでNを用いたジエチルアミノシラン前駆体による炭窒化ケイ素膜の形成]
プロセス条件を除いて例4の手順に従った。NHの代わりに窒素を用いた。本例においては、ジエチルアミノシラン(DEAS)10sccmを、N40sccmとともに、1.0Torr(133Pa)で以って、40分の堆積時間にわたり600℃で、反応器に流した。
【0061】
平均の膜厚は42nmであり、屈折率は2.288であった。膜応力は、1.34×1010ダイン/cmであることが測定された。これらの膜は、アンモニアを用いて得られたものと比較して、非常に高い応力及び低いエッチ速度を有する(エッチ速度については表1を参照)。このような膜の一致性は、分離構造体に関して100%であるとわかった。
【0062】
[例7]
[NHなしでNを用いたジイソプロピルアミノシラン前駆体による炭窒化ケイ素膜の形成]
前駆体を除いて例5の手順に従った。ジイソプロピルアミノシラン(DIPAS)10sccmを、He20sccm及びN20sccmとともに、1.0Torr(133Pa)で以って、70分の堆積時間にわたり570℃で反応器に流した。
【0063】
平均の膜厚は46nmであり、屈折率は2.056であった。膜応力は、1.07×1010ダイン/cmであることが測定された。驚くべきことに、ジイソプロピルアミノシランに関する屈折率及び応力は、例6の前駆体と同様であった。これらの結果は、このクラスの物質内で優れた応力値が達成され得ることを示している。
【0064】
[例8]
[NHなしでNを用いた対照標準としてのビス(三級ブチルアミノ)シラン前駆体による炭窒化ケイ素膜の形成]
前駆体を除いて例5の手順に従い、それを対照標準として用いた。BTBASは生成プロセスにおいて世界中で用いられている前駆体であり、性能特性が十分に一般に認められているので、代表的な比較用アミノシランとして選択した。
【0065】
ビス(三級ブチルアミノシラン)(BTBAS)10sccmを、He20sccm及びN20sccmとともに、1.0Torr(133Pa)で以って70分の堆積時間にわたり、570℃で反応器に流した。これらの膜は、モノ−アミノシランと比較して、わずか20%の応力と10%未満のエッチ抵抗性とを有する(表1を参照)。
【0066】
ビス(三級ブチルアミノシラン)とジエチルアミノシランに関する応力データを用いて図1を作成した。それはFSMシステムを用いた応力測定の結果を示している。ジエチルアミノシランに関する結果は予想外であった。即ち、適度なNH:DEAS比で高い応力を維持していることを含め、低NH:DEAS比での高い応力を達成した。
【0067】
ビス(三級ブチルアミノ)シラン及びジクロロシランなどの前駆体では、アンモニアのこの前駆体に対する比が減少するにつれ、生成される膜の応力が低下する。低NH:BTBAS比では、応力の結果は十分でない。これらの前駆体についてアンモニアを低減すると、ケイ素リッチな膜が生成し、これはシリコン基材に関してこれらの膜の熱膨張係数を低下させる。理論によって縛られることを意図するものではないが、堆積プロセスにおいてDEASに対するアンモニアの比を低減させると、Nに対するSiの原子比が増加し、それによってSiに対するCの原子比が増加する。明らかに、その場合には、Si−C結合によるSi−N結合の置換が幾つかあり、これらの結合により、同様の応力を有する膜が生成することになる。
【0068】
この例の第2の構成要素は膜硬さの測定であった。Hysitronシステムを用いた押込みによってそれを測定した。図2は堆積膜の硬さを示すプロットである。ジエチルアミノシランが前駆体として用いられた場合、BTBAS堆積及び熱成長二酸化ケイ素と比較して、より硬い膜が得られた。より硬い膜は、化学機械研磨(CMP)操作において下地の層及びそれ自体を一層保護する。この性質もまた驚くべきことであった。
【0069】
[例9]
[窒化ケイ素及び炭窒化ケイ素膜のエッチ抵抗性]
本例においては、種々の窒化ケイ素及び炭窒化ケイ素膜のエッチング結果が、表1に示される。表1は、1%の(49%)HFにおける幾つかの前駆体からの膜のエッチング結果を示している。エッチ速度は、同時にエッチングされた熱成長二酸化ケイ素のエッチ速度に対して与えられている。膜のエッチ速度が低いほど、望ましくない二酸化ケイ素を除去するときに、幾何学的形状を維持し及び下地の層を保護するのに良好である。
【0070】
【表1】

【0071】
上記の表1から、DEASは、0:1〜2:1のNH:前駆体比において、優れた低エッチ速度を有することが示される。一方で、0:1のNH:BTBAS比でさえ、2:1のNH:DEASよりも高いエッチ速度を得た。優れた低エッチ速度が低NH:BTBAS比において示されるが、BTBASの応力レベルが、低NH:BTBASレベルでは十分でないことが思い起こされる。
【0072】
要約すると、式Siの炭窒化ケイ素誘電膜は、CVD及び他の堆積プロセスにより、記載されるクラスのアミノシランから生成することができる。SiH基の高い活性は、550℃程度の低い温度においてSi膜堆積物の生成を可能にするのに対し、Si膜を形成するための前駆体の多くが十分には機能しないと考えられる。
【0073】
また、ケイ素中心におけるアンモニアアミノ基転移反応に関する低い立体障害により、比較的低温で、これらの化合物がアンモニアと反応し、かつ窒素濃度が増加した膜を形成することが可能になると考えられる。エチル、イソプロピル、ブチルなどの配位子は、それらがβ−水素化物の脱離により揮発性副生成物になるので、優れた脱離基として作用する。後に残された炭素は、ケイ素と結合する。対照的に、これまでに報告されたメチル基を有するアミノシラン前駆体は、この解離経路を有していない。それらは窒素と結合したままであり、成長する膜中に組み込まれ、捕捉され得る。このような捕捉されたメチル基の存在は、赤外スペクトルにおいて容易に見分けられる(図3を参照)。しかしながら、ここで、図3においてC−Hピークが存在しないことは、膜中に捕捉された炭化水素が非常に低いレベルにすぎないかもしれないということを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式によって表されるアミノシラン及びそれらの混合物からなる群より選択される前駆体を用いることを含む、炭窒化ケイ素膜形成用前駆体の化学気相成長により基材上に炭窒化ケイ素膜を形成するための方法:
【化1】

(式中、Rが、直鎖、分枝若しくは環状の飽和若しくは不飽和C〜C10アルキル基、芳香族、複素環、又は式Cのシリルから選択され、Rが、直鎖、分枝又は環状の飽和又は不飽和C〜C10アルキル基、芳香族、複素環、水素、シリル基から選択され、置換基を有していても又は有していなくてもよく、式A中のRとRを結合して環状基(CH(式中、nは1〜6)にすることも可能であり、Rが、単結合、(CH鎖、環、SiR又はSiH)。
【請求項2】
前記前駆体が式Aによって表され、R及びRのそれぞれが少なくとも2個の炭素原子を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
R及びRが2〜4個の炭素を有するアルキル基である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
R及びRが環状である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
RとRが(CH(式中、nは4又は5)の形態の環に結合される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
R及びRがエチル又はイソプロピルである、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
アンモニア、窒素及びヒドラジンからなる群より選択された窒素源が用いられる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
化学気相成長の際の前記基材の温度が約500〜700℃の範囲にある、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
化学気相成長の際の圧力が約20mTorr〜20Torrの範囲にある、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記窒素源がアンモニア又は窒素であり、前記窒素源が0.1〜4:1の窒素源:前駆体の範囲において存在する、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記前駆体のアミノシランが、以下の式を有し、式中、nが4又は5であるアミノシランから選択される、請求項2に記載の方法:
【化2】

【請求項12】
前記前駆体が式Bによって表され、このクラス内で前記前駆体が、以下の式を有する群から選択される、請求項1に記載の方法:
【化3】

【請求項13】
アンモニア又は窒素からなる群より選択される窒素源が前駆体として含まれ、前記窒素源が0.1〜4:1の窒素源:前駆体の範囲において存在する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記前駆体が式Cによって表され、このクラス内で前記前駆体が、以下の式を有する群から選択される、請求項1に記載の方法:
【化4】

【請求項15】
シラン前駆体の化学気相成長により形成される炭窒化ケイ素膜を形成するための方法であって、以下の式によって表されるアミノシランをシラン前駆体として用いることを含む、一般組成構造Siを有する膜を形成するための改良された方法:
【化5】

(式中、Rが、直鎖、分枝又は環状の飽和又は不飽和のC〜C10アルキル基、芳香族、複素環から選択され、Rが、直鎖、分枝又は環状のC〜C10アルキル基、複素環、水素、シリル基から選択され、RとRを結合して環状基(CH(式中、nは1〜6)にすることも可能である)。
【請求項16】
R及びRがエチル又はイソプロピルである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
アンモニア又は窒素からなる群より選択される窒素源が、0.1〜4:1の窒素源:シラン前駆体比において用いられる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
基材の温度が500〜700℃の範囲で維持され、圧力が20mTorr〜20Torrである、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−40741(P2011−40741A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−174006(P2010−174006)
【出願日】平成22年8月2日(2010.8.2)
【分割の表示】特願2006−135313(P2006−135313)の分割
【原出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(591035368)エア プロダクツ アンド ケミカルズ インコーポレイテッド (452)
【氏名又は名称原語表記】AIR PRODUCTS AND CHEMICALS INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】7201 Hamilton Boulevard, Allentown, Pennsylvania 18195−1501, USA
【Fターム(参考)】