説明

半導体レーザ素子およびその製造方法

【課題】電気的特性が劣化するのを抑制することが可能な半導体レーザ素子を提供する。
【解決手段】この半導体レーザ素子100は、支持基板1と、支持基板1上に形成されたp側オーミック電極15と、p側オーミック電極15上に形成され、活性層12を含む半導体層10aとを備え、p側オーミック電極15は、Agを主成分とし、約0.6質量%のPdと、約0.9質量%のCuとを含有するAg合金材料からなるAg合金層15bを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子およびその製造方法に関し、特に、支持基板を備える半導体レーザ素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、支持基板を備える半導体レーザ素子およびその製造方法が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1の第2実施形態では、Siからなる支持基板上に窒化物系半導体層およびp側オーミック電極が融着層を介して接合されている発光ダイオードが開示されている。この発光ダイオードでは、製造プロセスにおいて、GaN基板上に窒化物系半導体層およびp側オーミック電極を形成したウェハを接合した後、GaN基板側から支持基板に向かってレーザ光を照射することにより窒化物系半導体層からGaN基板を剥離する方法が用いられている。なお、ウェハ状態の発光ダイオードのp側オーミック電極は、活性層を有する窒化物系半導体層側から、Pt層、Pd層、Au層およびNi層を順に積層することによって形成されており、融着層により、p側オーミック電極が支持基板側に接合されている。
【0004】
また、上記特許文献1の第1実施形態では、支持基板上に窒化物系半導体層およびp側電極が融着層を介して接合されている発光ダイオードが開示されている。この発光ダイオードのp側電極は、活性層を有する窒化物系半導体層側から、Ag層、Pt層およびAu層を順に積層することによって形成されており、p側電極が融着層により、支持基板側に接合されている。なお、製造プロセスは、上記特許文献1の第2実施形態と同様である。
【0005】
【特許文献1】特開2007−116110号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の第2実施形態に開示された発光ダイオードでは、p側オーミック電極として、光がある程度吸収されるPt層およびPd層を用いているため、製造プロセスにおいて、GaN基板と窒化物系半導体層とを剥離する際に、p側オーミック電極において光が吸収されやすいという不都合がある。このため、p側オーミック電極において光の吸収による温度上昇が起こりやすい。したがって、p側オーミック電極において発生した熱によって、窒化物系半導体層が変質することにより発光ダイオードの電気的特性が劣化するという問題点があると考えられる。
【0007】
また、上記特許文献1の第1実施形態に開示された発光ダイオードでは、p側電極としてAg層を用いているため、たとえば、Ag層が湿気および印加電圧によってイオン化されて移動する場合がある。この場合、Ag層が本来形成された位置よりも広い範囲に広がることになるため、p側電極と他の電極との間を短絡する現象であるマイグレーションが発生するという不都合があると考えられる。このため、発光ダイオードの電気的特性が劣化する場合があるという問題点がある。
【0008】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、電気的特性が劣化するのを抑制することが可能な半導体レーザ素子を提供することである。
【課題を解決するための手段および発明の効果】
【0009】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面による半導体レーザ素子は、支持基板と、支持基板上に形成された電極層と、電極層上に形成され、活性層を含む半導体層とを備え、電極層は、Agを主成分とするAg合金層を含む。
【0010】
この第1の局面による半導体レーザ素子では、上記のように、電極層を、Agを主成分とするAg合金層を含むように構成することによって、たとえば、半導体層を成長させた成長用基板に光を照射することにより、半導体層から成長用基板を分離する場合に、電極層は、反射率が大きく分離の際に照射される光を略吸収しないAgを主成分とするAg合金層を含むので、電極層がPt層、Pd層またはNi層のみからなる場合と比べて、電極層において光の吸収による温度上昇が起こりにくい。これによって、半導体層が変質するのを抑制することができるので、半導体層の変質に起因する電気的特性の劣化を抑制することができる。また、Ag合金は、Agの単体と比べて電極層が本来形成された位置よりも広い範囲に広がることによって電極同士を短絡する現象であるマイグレーションが発生しにくいので、電気的特性が劣化するのをより抑制することができる。さらに、Ag合金層のAg合金は、一般的にAgの単体と比べて合金化される分耐熱性に優れているので、半導体レーザ素子の製造時における半導体層の形成時や融着層に電極層側を接合する際などにおいて、電極層が熱の影響を受けるのを抑制することができる。
【0011】
上記第1の局面による半導体レーザ素子において、好ましくは、支持基板と電極層との間に形成された融着層をさらに備える。このように構成すれば、たとえば、支持基板に融着層によって接合された電極層上に形成されている半導体層を成長させた成長用基板に光を照射することにより、半導体層から成長用基板を分離する場合に、半導体層が変質するのを抑制することができるので、半導体層の変質に起因する電気的特性の劣化を抑制することができる。
【0012】
上記第1の局面による半導体レーザ素子において、好ましくは、電極層は、電極層の半導体層側に配置され、Pd層、Pt層およびNi層の少なくともいずれか1層からなる島状または層状の金属層をさらに含む。このように構成すれば、この金属層によって、半導体層と電極層とのオーミック接触を良好にすることができるとともに、半導体層と電極層との密着性を向上させることができる。
【0013】
この場合、好ましくは、金属層は、10nm以下の厚みを有する。このように構成すれば、金属層において光を十分に透過させることができるので、より確実にAg合金層において光を反射させることができる。
【0014】
上記第1の局面による半導体レーザ素子において、好ましくは、半導体層は、活性層を挟み込むように形成された第1導電型半導体層と第2導電型半導体層とをさらに含み、電極層は、半導体層の第2導電型半導体層側に配置された電極である。このように構成すれば、活性層での発光効率を高めることができる。
【0015】
この発明の第2の局面による半導体レーザ素子の製造方法は、成長用基板上に、活性層を含む半導体層を成長させる工程と、半導体層上に、Agを主成分とするAg合金層を含む電極層を形成する工程と、支持基板に、半導体層上の電極層側を接合する工程と、半導体層から成長用基板を分離する工程とを備える。
【0016】
この発明の第2の局面による半導体レーザ素子の製造方法では、上記のように、半導体層上に、Agを主成分とするAg合金層を含む電極層を形成する工程と、半導体層から成長用基板を分離する工程とを備えることによって、たとえば、成長用基板側から支持基板側に向かって光を照射する際に、反射率が大きく光を略吸収しないAg合金層において光を反射させることができるので、電極層において光の吸収による温度の上昇を抑制することができる。これによって、半導体層が変質するのを抑制することができるので、半導体層の変質に起因する電気的特性の劣化を抑制することができる。また、Ag合金層のAg合金は、一般的にAgの単体と比べて耐熱性に優れているので、半導体層の形成時や融着層に電極層側を接合する際などにおいて、電極層が熱の影響を受けるのを抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。図2は、図1に示した第1実施形態による半導体レーザ素子のp側オーミック電極近傍を示した拡大断面図である。まず、図1および図2を参照して、本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子100の構造について説明する。
【0019】
本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子100では、図1に示すように、導電性を有するp型Geからなる支持基板1の上面上には、オーミック電極層2が形成されている。また、オーミック電極層2の上面上には、半導体レーザ素子部10が、約3μmの厚みを有するAuSnの半田からなる融着層3を介して接合されている。なお、オーミック電極層2は、Ni、Pt、Pd、Au、Al、Ag、Ti、Cu、Rh、CoおよびFeなどの金属材料またはそれらの金属材料の積層構造からなる。
【0020】
また、半導体レーザ素子部10は、n型半導体層11の下面上に、各々が約10nmの厚みを有するアンドープGaNからなる4層の障壁層と、各々が約5nmの厚みを有するアンドープln0.1Ga0.9Nからなる3層の井戸層とが交互に形成された多重量子井戸(MQW)構造を有する活性層12と、p型半導体層13とがこの順に形成されている。なお、n型半導体層11と活性層12とp型半導体層13とによって、半導体層10aが形成されている。なお、活性層12は、単層または単一量子井戸(SQW)構造からなるように構成してもよい。なお、n型半導体層11およびp型半導体層13は、それぞれ、本発明の「第1導電型半導体層」および「第2導電型半導体層」の一例である。
【0021】
より詳細には、n型半導体層11は、約4μmの厚みを有するSiドープn型In0.05Ga0.95Nからなるn型コンタクト層11aと、n型コンタクト層11aの下面上に形成され、約150nmの厚みを有するSiドープn型Al0.1Ga0.9Nからなるn型クラッド層11bとからなる。ここで、n型コンタクト層11aは、n型クラッド層11bよりもバンドギャップが小さくなるように構成されている。なお、n型クラッド層11bと活性層12との間に、n型クラッド層11bよりもバンドギャップが小さく、活性層12よりもバンドギャップが大きいn型光ガイド層を形成してもよい。
【0022】
また、p型半導体層13は、p型キャップ層13aとp型クラッド層13bとp型コンタクト層13cとからなる。p型キャップ層13aは、活性層12の下面上に形成され、約20nmの厚みを有するMgドープp型Al0.2Ga0.8Nからなる。また、p型クラッド層13bは、p型キャップ層13aの下面上に形成され、約100nmの厚みを有するMgドープp型Al0.1Ga0.9Nからなる。また、p型コンタクト層13cは、p型クラッド層13bのY方向の略中央部の下面上に形成され、約5nmの厚みを有するMgドープp型ln0.05Ga0.95Nからなる。ここで、活性層12は、n型半導体層11およびp型半導体層13よりもバンドギャップが小さくなるように構成されている。なお、p型キャップ層13aと活性層12との間に、p型キャップ層13aよりもバンドギャップが小さく、活性層12よりもバンドギャップが大きいp型光ガイド層を形成してもよい。
【0023】
また、p型クラッド層13bの一部とp型コンタクト層13cと後述するp側オーミック電極15とによって、半導体レーザ素子部10のY方向の略中央部に形成されたストライプ状のリッジ10bが形成されている。また、p型クラッド層13bは、リッジ10bの両側(Y方向)に延びる平坦部を有している。このリッジ10bによって、リッジ10b直上の活性層12の周辺に光導波路が形成される。また、リッジ10bは、共振器方向(紙面に垂直な方向)である[1−100]方向に沿って延びるように形成されているとともに、約1.5μmのY方向の幅を有する。また、リッジ10bは、半導体層10aの劈開面と垂直な方向に延びるように形成することが好ましい。
【0024】
また、p型クラッド層13bの平坦部の下面と、リッジ10bの側面とを覆うように、約200nmの厚みを有するSiO層からなる電流ブロック層14が形成されている。
【0025】
ここで、第1実施形態では、図2に示すように、p型コンタクト層13cの下面上で、かつ、リッジ10bの下端面上には、p側オーミック電極15が形成されている。p側オーミック電極15は、p型コンタクト層13c側から、約2nmの厚みを有するPd層15aと、約200nmの厚みを有するAg合金層15bとがこの順に積層された構造を有している。また、Pd層15aは、p型コンタクト層13cの下面上に島状に分布した状態で形成されている。ここで、Pd層15aが島状に配置されることによって、層状に配置される場合と異なり、島と島との間に、Ag合金層15bとp型コンタクト層13cとが直接接触する部分15cが形成されるので、半導体層10a(n型半導体層11、活性層12およびp型半導体層13)を透過して外部から入射する光を、Ag合金層15bとp型コンタクト層13cとが直接接触する部分15cに位置するAg合金層15bの部分で確実に反射させることが可能である。なお、p側オーミック電極15は、本発明の「電極層」および「電極」の一例であり、Pd層15aは、本発明の「金属層」の一例である。
【0026】
また、第1実施形態では、Ag合金層15bは、Agを主成分とし、約0.6質量%のPdと、約0.9質量%のCuとを含有するAg合金材料からなる。ここで、Ag合金材料は、含有されているPdおよびCuによりAg表面に不動体層を形成することによって、電極層が本来形成された位置よりも広い範囲に広がることによって電極同士を短絡する現象であるマイグレーションが発生しにくいと考えられている。ここで、Ag合金層15bを、Agを主成分とし、約0.5質量%〜約3.0質量%のPdと、約0.1質量%〜約3.0質量%のCuとを含有するAg合金材料からなるように構成してもよい。また、Ag合金層15bを、Agを主成分とし、約0.1質量%〜約3.0質量%のPdを含有するとともに、Al、Au、Pt、Cu、Ta、Cr、Ti、Ni、CoおよびSiの内の複数の元素を合計で約0.1質量%〜約3.0質量%含有するAg合金材料からなるように構成してもよい。また、Ag合金層15bを、Agを主成分とし、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Au、Zn、Al、Ga、In、Si、Ge、Mg、BiおよびSnの内の少なくとも1種類の元素を約0.1質量%以上含有するように構成してもよい。この際、Agは、約92.0質量%以上であることが好ましい。
【0027】
また、図1に示すように、p側オーミック電極15と電流ブロック層14の一部との下面上には、p側オーミック電極15側から、約30nmの厚みを有するTi層と、約150nmの厚みを有するPd層と、約2μmの厚みを有するAu層とがこの順に積層されたp側パッド電極16が形成されている。また、p側パッド電極16の下面上には、融着層3が形成されている。また、融着層3およびオーミック電極層2を介して、p側パッド電極16は支持基板1に接合されている。また、n型コンタクト層11aの上面上には、n型コンタクト層11a側から、約6nmの厚みを有するAl層と、約10nmの厚みを有するPd層と、約600nmの厚みを有するAu層とがこの順に積層されたn側オーミック電極17が形成されている。また、支持基板1の下面上には、裏面電極4が形成されている。
【0028】
また、共振器方向(紙面に垂直な方向)の両端部には、それぞれ、(1−100)面および(−1100)面により構成される一対の共振器端面(図示せず)が形成されている。また、一対の共振器端面の表面上には、それぞれ、誘電体からなる反射側多層膜(図示せず)および出射側多層膜(図示せず)が形成されている。また、出射側多層膜の厚みは、反射側多層膜の厚みよりも小さくなるように構成されるとともに、出射側多層膜のレーザ発振波長に対する反射率は、反射側多層膜のレーザ発振波長に対する反射率よりも小さくなるように構成されている。
【0029】
図3〜図5は、図1に示した第1実施形態による半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための図である。次に、図1〜図5を参照して、第1実施形態による半導体レーザ素子100の製造プロセスについて説明する。
【0030】
第1実施形態による半導体レーザ素子100の製造プロセスでは、まず、図3に示すように、GaNからなる成長用基板20の上面上に、有機金属気相成長(MOCVD)法を用いて、約20nmの厚みを有するアンドープln0.3Ga0.7Nからなる剥離層21を成長させる。その後、MOCVD法を用いて、剥離層21の上面上に、n型半導体層11と、活性層12と、p型半導体層13とを順次成長させた後、熱処理または電子線処理によって、p型半導体層13のp型キャップ層13a、p型クラッド層13bおよびp型コンタクト層13cをp型化する。次に、フォトリソグラフィおよびエッチングを用いて、p型コンタクト層13cに、[1−100]方向に沿って延びるとともに、約1.5μmの幅を有するストライプ状のリッジ10bを形成する。その後、プラズマCVDとフォトリソグラフィとを用いて、リッジ10b(p型コンタクト層13c)の上面と、リッジ10bの側面と、リッジ10bの両側に延びる平坦部とを覆うように、SiO層からなる電流ブロック層14を形成する。
【0031】
また、第1実施形態の製造プロセスでは、真空蒸着法を用いて、リッジ10b(p型コンタクト層13c)の上面上に、約2nmの厚みを有するPd層15a(図2参照)を形成する。この際、Pd層15aは、p型コンタクト層13cの上面で島状(図2参照)になるように形成される。そして、スパッタリング法を用いて、Pd層15aの上面上に、約200nmの厚みを有するAg合金層15b(図2参照)を形成する。これにより、Pd層15aとAg合金層15bとからなるp側オーミック電極15が形成される。この際、Ag合金層15bの一部は、Pd層15aの島と島との間の部分15c(図2参照)で、p型コンタクト層13cと直接に接触する。なお、Pd層15aとAg合金層15bとは、スパッタリング法を用いて連続的に形成してもよい。
【0032】
その後、真空蒸着法を用いて、p側オーミック電極15と電流ブロック層14の一部との上面上に、p側パッド電極16(図1参照)を形成する。そして、p側パッド電極16の上面上に、融着層を形成する。
【0033】
次に、図4に示すように、真空蒸着法を用いて、支持基板1の上面上に、オーミック電極層2を形成するとともに、オーミック電極層2の上面上の一部の領域に、融着層を形成する。そして、成長用基板20の融着層側と支持基板1の融着層側とを、それぞれ対向させながら熱圧着する。これによって、融着層3が形成されるとともに、融着層3によって、支持基板1およびオーミック電極層2と成長用基板20のp側パッド電極16とが接合される。
【0034】
ここで、第1実施形態の製造プロセスでは、レーザ光照射処理によって、成長用基板20上の剥離層21を分解する。具体的には、成長用基板20側から支持基板1側に向かって、約532nmの波長を有するNd:YAGレーザ光の第2高調波を約200mJ/cm〜約1000mJ/cmのエネルギ密度で照射することによって、剥離層21にレーザ光を吸収させる。ここで、レーザ光のフォトンエネルギは、半導体層10aのバンドギャップよりも小さくなるように構成されている。これによって、剥離層21が、In、GaおよびNなどに分解される。この際、一部のレーザ光は、半導体層10aを透過してp側オーミック電極15まで到達するが、約97%の反射率を有するとともに光を略吸収しないp側オーミック電極15のAg合金層15bの部分で、レーザ光は反射される。また、一部のレーザ光は、電流ブロック層14に到達するものの、電流ブロック層14はSiOからなるので、レーザ光は吸収されずに透過する。
【0035】
次に、支持基板1に接合されたウェハを200℃に加熱する(熱処理)ことによって、変質した剥離層21のInおよびGaなどを溶融状態にする。そして、図5に示すように、半導体層10aから成長用基板20を剥離する。その後、研磨やエッチングなどにより、清浄化されたn型コンタクト層11aの表面を露出させる。
【0036】
その後、真空蒸着法を用いて、n型コンタクト層11aの上面上に、n側オーミック電極17(図1参照)を形成するとともに、支持基板1の下面上に、裏面電極4(図1参照)を形成する。
【0037】
そして、所定の位置をスクライブして、Y方向に劈開(バー状劈開)する。これにより、共振器方向(紙面に垂直な方向)の両端部に、図示しない一対の共振器端面が形成される。なお、一対の共振器端面を、ドライエッチングにより形成してもよい。その後、端面コート処理によって、一対の共振器端面の表面上に、反射側多層膜および出射側多層膜をそれぞれ形成する。そして、紙面に垂直な方向に素子分割(チップ化)を行う。これにより、図1に示す半導体レーザ素子100が多数形成される。
【0038】
第1実施形態では、上記のように、p側オーミック電極15を、Agを主成分とし、約0.6質量%のPdと、約0.9質量%のCuとを含有するAg合金材料からなるAg合金層15bを含むように構成することによって、半導体層10aを成長させた成長用基板20に約532nmの波長を有するNd:YAGレーザ光を照射することにより、半導体層10aから成長用基板20を分離する際に、p側オーミック電極15は、反射率(約97%)が大きくNd:YAGレーザ光を略吸収しないAgを主成分とするAg合金層15bを含むので、p側オーミック電極15がPt層、Pd層またはNi層のみからなる場合と比べて、p側オーミック電極15においてレーザ光の吸収による温度上昇が起こりにくい。これによって、半導体層10aが変質するのを抑制することができるので、半導体層10aの変質に起因する電気的特性の劣化を抑制することができる。また、Ag合金材料は、Agの単体と比べてマイグレーションが発生しにくいので、電気的特性が劣化するのをより抑制することができる。
【0039】
また、第1実施形態では、p側オーミック電極15に、p側オーミック電極15の半導体層10a(p型コンタクト層13c)側に配置された島状のPd層15aを設けることによって、このPd層15aによって、半導体層10aとp側オーミック電極15とのオーミック接触を良好にすることができるとともに、半導体層10aとp側オーミック電極15との密着性を向上させることができる。
【0040】
また、第1実施形態では、Pd層15aの厚みを約2nmにすることによって、Pd層15aにおいて光を十分に透過させることができるので、より確実にAg合金層15bにおいて光を反射させることができる。
【0041】
また、第1実施形態では、半導体層10a上に、Agを主成分とし、約0.6質量%のPdと、約0.9質量%のCuとを含有するAg合金材料からなるAg合金層15bを含むp側オーミック電極15を形成する工程と、成長用基板20側から支持基板1側に向かってNd:YAGレーザ光を照射することによって、半導体層10aから成長用基板20を分離する工程とを備えることによって、成長用基板20側から支持基板1側に向かって光を照射する際に、反射率が大きくNd:YAGレーザ光を略吸収しないAg合金層15bにおいてレーザ光を反射させることができるので、p側オーミック電極15においてレーザ光の吸収による温度の上昇を抑制することができる。これによって、半導体層10aが変質するのを抑制することができるので、半導体層10aの変質に起因する電気的特性の劣化を抑制することができる。さらに、Ag合金材料は、Agの単体と比べて耐熱性に優れているので、半導体層10aの形成時や融着層3にp側オーミック電極15側を接合する際などにおいて、p側オーミック電極15が熱の影響を受けるのを抑制することができる。
【0042】
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態による半導体レーザ素子のp側オーミック電極近傍を示した拡大断面図である。図6を参照して、この第2実施形態による半導体レーザ素子200では、上記第1実施形態のp側オーミック電極15のPd層15aに代えて、Pt層215aを用いた場合について説明する。なお、Pt層215aは、本発明の「金属層」の一例である。
【0043】
本発明の第2実施形態による半導体レーザ素子200では、図6に示すように、半導体レーザ素子部210のp側オーミック電極215は、p型コンタクト層13c側から、約2nmの厚みを有するPt層215aと、約200nmの厚みを有するAg合金層15bとが順に積層された構造を有している。また、Pt層215aは、Ag合金層15bとp型コンタクト層13cとの間で島状になるように形成されている。なお、第2実施形態による半導体レーザ素子200のその他の構造および製造プロセスは、上記第1実施形態と同様である。
【0044】
第2実施形態では、上記のように、Pt層215aを設けることによって、上記第1実施形態のPd層15a(図2参照)を設ける場合と比べて、Pt層215aにおける光の吸収が若干大きくなることに起因して、p側オーミック電極215での温度上昇は若干起こりやすい。しかしながら、Ag合金層15bと半導体層10a(p型コンタクト層13c)との密着性をより向上させることができるので、半導体層10aとp側オーミック電極215との間での剥がれの発生を抑制することができる。なお、第2実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0045】
(第3実施形態)
図7は、本発明の第3実施形態による半導体レーザ素子のp側オーミック電極近傍を示した拡大断面図である。図7を参照して、この第3実施形態による半導体レーザ素子300では、上記第1実施形態のp側オーミック電極15のPd層15aに代えて、Ni層315aを用いた場合について説明する。なお、Ni層315aは、本発明の「金属層」の一例である。
【0046】
本発明の第3実施形態による半導体レーザ素子300では、図7に示すように、半導体レーザ素子部310のp側オーミック電極315は、p型コンタクト層13c側から、約2nmの厚みを有するNi層315aと、約200nmの厚みを有するAg合金層15bと、約100nmの厚みを有するNiからなるバリアメタル層315dとが順に積層された構造を有している。また、Ni層315aは、Ag合金層15bとp型コンタクト層13cとの間で島状になるように形成されている。また、バリアメタル層315dは、p側オーミック電極315のマイグレーションを抑制する機能を有する。なお、第3実施形態による半導体レーザ素子300のその他の構造、製造プロセスおよび効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0047】
[実施例]
以下、上記した第1〜第3実施形態の効果を確認するために行った反射率測定について説明する。
【0048】
まず、上記した第1実施形態に対応する実施例1、第2実施形態に対応する実施例2および第3実施形態に対応する実施例3のそれぞれにおける試料の作製について説明する。
【0049】
実施例1の試料は、それぞれ、ガラスの上面上に厚みの異なるPd層を形成した後に、約200nmの厚みを有するAg合金層を形成することによって作製した。また、実施例2の試料は、それぞれ、ガラスの上面上に厚みの異なるPt層を形成した後に、約200nmの厚みを有するAg合金層を形成することによって作製した。また、実施例3の試料は、それぞれ、ガラスの上面上に厚みの異なるNi層を形成した後に、約200nmの厚みを有するAg合金層を形成することによって作製した。
【0050】
図8は、本発明の第1〜第3実施形態に対応する実施例1〜3による半導体レーザ素子の金属層の厚みに対するp側オーミック電極での光の反射率を示したグラフである。次に、図8を参照して、上記実施例1〜3による光の反射率の測定について説明する。
【0051】
上記実施例1〜3による光の反射率の測定では、それぞれの試料のガラスの下面から532nmの波長を有するある強度のレーザ光を照射させた際の反射された光の強度を測定することにより、光の強度の比から反射率のデータを取得した。
【0052】
図8では、縦軸に532nmの光に対する反射率(%)をとるとともに、横軸に金属層(Pd層、Pt層およびNi層)の厚み(nm)をとっている。図8に示すように、実施例1では、Pd層が10nmよりも大きい厚みを有する場合には、p側オーミック電極での光の反射率は、約58%〜約60%であり、反射率があまり高くないことが確認できた。これは、Pd層の厚みが大きいため、Pd層において光が吸収されるために生じると考えられる。
【0053】
これに対して、Pd層が10nm以下の厚みを有する場合には、p側オーミック電極での光の反射率は、約60%〜約97%であり、Pd層の厚みが小さくなるに従って反射率が高くなることが確認できた。これは、Pd層の厚みが小さくなるにしたがって、Pd層が層状から島状に変化したことにより、Pd層において光が十分に透過されているために生じると考えられる。
【0054】
同様に、実施例2では、Pt層が10nmよりも大きい厚みを有する場合には、p側オーミック電極での光の反射率は、約55%〜約58%であり、反射率があまり高くないことが確認できた。これは、Pt層の厚みが大きいため、Pt層において光が吸収されるために生じると考えられる。これに対して、Pt層が10nm以下の厚みを有する場合には、p側オーミック電極での光の反射率は、約58%〜約97%であり、Pt層の厚みが小さくなるに従って反射率が高くなることが確認できた。これは、Pt層の厚みが小さくなるにしたがって、Pt層が層状から島状に変化したことにより、Pt層において光が十分に透過されているために生じると考えられる。
【0055】
同様に、実施例3では、Ni層が10nmよりも大きい厚みを有する場合には、p側オーミック電極での光の反射率は、約52%〜約55%であり、反射率があまり高くないことが確認できた。これは、Ni層の厚みが大きいため、Ni層において光が吸収されるために生じると考えられる。これに対して、Ni層が10nm以下の厚みを有する場合には、p側オーミック電極での光の反射率は、約55%〜約97%であり、Ni層の厚みが小さくなるに従って反射率が高くなることが確認できた。これは、Ni層の厚みが小さくなるにしたがって、Ni層が層状から島状に変化したことにより、Ni層において光が十分に透過されているために生じると考えられる。
【0056】
これらの結果から、Pd層15a、Pt層215aおよびNi層315aの厚みを10nm以下にすることによって、p側オーミック電極15、215および315(Ag合金層15b)においてより光を反射させることができることが確認できた。
【0057】
(第4実施形態)
図9は、本発明の第4実施形態による半導体レーザ素子のp側オーミック電極近傍を示した拡大断面図である。図9を参照して、この第4実施形態による半導体レーザ素子400では、上記第1実施形態のp側オーミック電極15のPd層15aに代えて、Pt層415eとPd層415fとの2層を用いる場合について説明する。なお、Pt層415eおよびPd層415fは、それぞれ、本発明の「金属層」の一例である。
【0058】
本発明の第4実施形態による半導体レーザ素子400では、図9に示すように、半導体レーザ素子部410のp側オーミック電極415は、p型コンタクト層13c側から、約1nmの厚みを有するPt層415eおよび約1nmの厚みを有するPd層415fと、約200nmの厚みを有するAg合金層15bとが順に積層された構造を有している。この際、Ag合金層15bとp型コンタクト層13cとの間で島状に形成されたPt層415eの間に、Pd層415fが島状に配置されるような構造になると考えられる。また、一部では、Pt層415eの上に、Pd層415fが積層した構造になると考えられる。なお、第4実施形態による半導体レーザ素子400のその他の構造および製造プロセスは、上記第1実施形態と同様である。
【0059】
第4実施形態では、上記のように、Pt層415eおよびPd層415fとを順に積層することによって、第2実施形態と同様に、p型コンタクト層13c側のPt層415eによって、Ag合金層15bと半導体層10a(p型コンタクト層13c)との密着性をより向上させることができるとともに、Pt層が1層のみの場合よりも、Pd層415fによって光の吸収が大きくなるのを抑制することができる。なお、第4実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0060】
(第5実施形態)
図10は、本発明の第5実施形態による半導体レーザ素子のp側オーミック電極近傍を示した拡大断面図である。図8および図10を参照して、この第5実施形態による半導体レーザ素子500では、上記第1実施形態と異なり、半導体レーザ素子部510のp側オーミック電極515が、Ag合金材料のみからなる場合について説明する。
【0061】
本発明の第5実施形態による半導体レーザ素子500では、図10に示すように、半導体レーザ素子部510のp側オーミック電極515は、約200nmの厚みを有するとともに、Agを主成分とし、約0.6質量%のPdと、約0.9質量%のCuとを含有するAg合金材料からなる。なお、第5実施形態による半導体レーザ素子500のその他の構造および製造プロセスは、上記第1実施形態と同様である。
【0062】
第5実施形態では、上記のように、p側オーミック電極515をAg合金材料のみからなるように構成することによって、上記第1〜第4実施形態の金属層を設ける場合と比べて、p側オーミック電極515と半導体層10a(p型コンタクト層13c)との密着性およびオーミック接触性は低下するものの、p側オーミック電極515において光をより多く反射させることができる。この効果は、図8のグラフ(金属層の厚み0nm)からも明らかである。なお、第5実施形態のその他の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0063】
(第6実施形態)
図11は、本発明の第6実施形態による半導体レーザ装置の構造を示した断面図である。図1、図2および図11を参照して、この第6実施形態による半導体レーザ装置600では、上記第1実施形態と異なり、赤色半導体レーザ素子部630と赤外半導体レーザ素子部640とが上面に形成されているn型GaAs基板601の上面に、第1実施形態の半導体レーザ素子部10と同様の構造を有する青紫色半導体レーザ素子部610が接合されている場合について説明する。
【0064】
本発明の第6実施形態による半導体レーザ装置600では、図11に示すように、導電性を有するn型GaAs基板601の上面に、AlInGaP系の赤色半導体レーザ素子部630およびAlGaAs系の赤外半導体レーザ素子部640が形成されており、モノリシックの赤色・赤外2波長半導体レーザ素子として構成されている。また、n型GaAs基板601の上、赤色半導体レーザ素子部630の一部および赤外半導体レーザ素子部640の一部には、第1絶縁膜605が形成されている。また、赤色半導体レーザ素子部630と赤外半導体レーザ素子部640との間には、p側電極604が形成されており、p側電極604の上面には、青紫色半導体レーザ素子部610が融着層603を介して接合されている。なお、n型GaAs基板601は、本発明の「支持基板」の一例である。
【0065】
また、青紫色半導体レーザ素子部610は、第1実施形態の半導体レーザ素子部10(図1および図2参照)と同様の構造を有しており、n型半導体層611の下面上に、活性層612と、p型半導体層613とがこの順に形成されている。なお、n型半導体層611と活性層612とp型半導体層613とによって、半導体層610aが形成されている。
【0066】
また、p型半導体層613によって、青紫色半導体レーザ素子部610のY方向の略中央部にストライプ状のリッジ610bが形成されている。また、p型半導体層613の平坦部の下面と、リッジ610bの側面とを覆うように、電流ブロック層614が形成されている。
【0067】
ここで、第6実施形態では、p型半導体層613のp型コンタクト層613cの下面上で、かつ、リッジ610bの下端面上には、p側オーミック電極615が形成されている。p側オーミック電極615は、図2に示すように、p型コンタクト層613c(図11参照)側から、約2nmの厚みを有するPd層15aと、約200nmの厚みを有するAg合金層15bとがこの順に積層された構造を有している。また、Pd層15aは、p型コンタクト層613cの下面上に島状に分布した状態で形成されている。
【0068】
また、図11に示すように、p側オーミック電極615と電流ブロック層614の下面上には、p側パッド電極616が形成されている。また、p側パッド電極16の下面上には、融着層603が形成されている。また、融着層603を介して、p側パッド電極616はn型GaAs基板601の上のp側電極604に接合されている。また、n型半導体層611の上面上には、n側オーミック電極617が形成されている。
【0069】
また、青紫色半導体レーザ素子部610の側面、赤色半導体レーザ素子部630の上およびn型GaAs基板601の一部の上面上には、第2絶縁膜606が形成されている。また、第2絶縁膜606およびn側オーミック電極617の上面上には、導電膜607が形成されている。また、n型GaAs基板601の一部の上面上に形成された第2絶縁膜606には、孔が形成されており、第2絶縁膜606の孔に導電部材が埋め込まれることによって、導電膜607とn型GaAs基板601とを電気的に接続するための導電部608が形成されている。また、n型GaAs基板601の下面上には、n側電極609が形成されている。これにより、青紫色半導体レーザ素子部610のn側オーミック電極617は、導電膜607、導電部608およびn型GaAs基板601を介して、n側電極609と接続されるので、赤色半導体レーザ素子部630と赤外半導体レーザ素子部640と青紫色半導体レーザ素子部610とのn側電極609を共通化(カソードコモン)することが可能である。
【0070】
なお、第6実施形態による半導体レーザ装置600の製造方法においては、青紫色半導体レーザ素子部610を、赤色半導体レーザ素子部630と赤外半導体レーザ素子部640との間のn型GaAs基板601の上面上に接合した後に、n型GaAs基板601の下面を研磨するなどによってn型GaAs基板601の厚みを約100μmにする。そして、n型GaAs基板601の下面上にn側電極609を形成した後に、電極形成時の金属層の合金化工程である熱処理工程を行ってもよい。この際、青紫色半導体レーザ素子部610のp側オーミック電極615のAg合金層15b(図2参照)は、Agの単体と比べて耐熱性に優れているAg合金材料からなるので、p側オーミック電極615が熱の影響を受けるのを抑制することが可能である。
【0071】
なお、第6実施形態による半導体レーザ装置600のその他の構造および効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0072】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0073】
たとえば、上記第1〜第6実施形態では、p側オーミック電極に本発明の「電極層」を用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、たとえば、n型半導体層側に形成されるn側オーミック電極に本発明の「電極層」を用いてもよい。
【0074】
また、上記第1〜第6実施形態では、半導体レーザ素子を、リッジ導波型の半導体レーザ素子であるように構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、埋め込みヘテロ構造を有する半導体レーザ素子や、インナーストライプ構造を有する半導体レーザ素子であってもよい。
【0075】
また、上記第1〜第4および第6実施形態では、p側オーミック電極の金属層を島状に配置した例を示したが、本発明はこれに限らず、図12に示すように、p側オーミック電極の金属層は層状に形成されてもよい。
【0076】
また、上記第1〜第4および第6実施形態では、p側オーミック電極の金属層(Pd層、Pt層、Ni層、または、Pt層およびPd層の積層構造)を、約2nmの厚みを有するように構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、p側オーミック電極の金属層の厚みは、10nm以下であればよい。ここで、p側オーミック電極の金属層は、10nm以下で10nm近傍の厚みを有する場合には、層状に形成されやすいと考えられる一方、2nm程度の厚みを有する場合には、島状に形成されやすいと考えられる。また、実施例1〜3から確認できるように、p側オーミック電極の金属層の厚みを小さくする方がp側オーミック電極での光の反射率を高くするのに好ましい。しかしながら、金属層の厚みが0.5nm未満ではオーミック接触性が低下するので、金属層の厚みは、0.5nm以上5nm以下が好ましい。
【0077】
また、上記第1〜第6実施形態では、レーザ光照射処理および熱処理によって、半導体層から成長用基板を分離した例を示したが、本発明はこれに限らず、ウェットエッチングや研磨によって、半導体層から成長用基板を分離してもよい。この際、Ag合金は、一般的にAgの単体と比べてマイグレーションが発生しにくいので、ウェットエッチングや研磨によって電気的特性が劣化するのを抑制することが可能である。
【0078】
また、上記第1〜第5実施形態では、支持基板がp型Geからなる例について示したが、本発明はこれに限らず、支持基板を、Cu−W、AlおよびFe−Niなどの金属基板や、単結晶のGe、Si、SiC、GaAsおよびZnOなどの半導体基板からなるように構成してもよい。また、支持基板を、金属などの導電性の微粒子を分散させた導電性樹脂フィルムや、金属および金属酸化物の複合材料や、金属を含浸された黒鉛粒子焼結体によって構成される炭素および金属の複合材料などからなるように構成してもよい。
【0079】
また、上記第1〜第6実施形態では、融着層がAuSnの半田からなる例について示したが、本発明はこれに限らず、融着層を、他の半田や導電性ペーストなどからなるように構成してもよい。たとえば、融着層を、AuGe、InSn、SnAgCu、SnAgBi、SnAgCuBi、SnAgBiIn、SnZn、SnCu、SnBiおよびSnZnBiなどの半田またはそれらの半田の積層構造からなるように構成してもよい。
【0080】
また、上記第1〜第6実施形態では、電流ブロック層がSiO層からなる例について示したが、本発明はこれに限らず、電流ブロック層を、Al、ZrO、TiO、Ta、La、Si、AlNおよびSiNなどの材料またはそれらの材料の積層構造からなるように構成してもよい。
【0081】
また、上記第1〜第5実施形態および第6実施形態の青紫色半導体レーザ素子部では、半導体層をAlGaN、InGaNおよびGaNの窒化物系半導体によって形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、半導体層を、AlGaAs系、InGaAs系、AlInGaP系、AlInGaNAs系、AlGaSb系、InGaAsP系、MgZnSSe系およびZnO系などによって形成してもよい。また、窒化物系半導体として、上記以外にAlN、InN、BN、TlNおよびこれらの混晶を用いて半導体層を形成してもよい。
【0082】
また、上記第1〜第6実施形態では、成長用基板上および支持基板上にそれぞれ融着層を設けた例について示したが、本発明はこれに限らず、成長用基板上および支持基板上のいずれか一方のみに融着層を形成してもよい。
【0083】
また、上記第1〜第4および第6実施形態では、p側オーミック電極の金属層をPd、PtおよびNiによって形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、p側オーミック電極の金属層をAuによって形成してもよい。
【0084】
また、上記第3実施形態では、バリアメタル層をNiによって形成した例について示したが、本発明はこれに限らず、バリアメタル層をHf、Mo、W、Ptなどの高融点を有する金属によって形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の第1実施形態による半導体レーザ素子の構造を示した断面図である。
【図2】図1に示した第1実施形態による半導体レーザ素子のp側オーミック電極近傍を示した拡大断面図である。
【図3】図1に示した第1実施形態による半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための図である。
【図4】図1に示した第1実施形態による半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための図である。
【図5】図1に示した第1実施形態による半導体レーザ素子の製造プロセスを説明するための図である。
【図6】本発明の第2実施形態による半導体レーザ素子のp側オーミック電極近傍を示した拡大断面図である。
【図7】本発明の第3実施形態による半導体レーザ素子のp側オーミック電極近傍を示した拡大断面図である。
【図8】本発明の第1〜第3実施形態に対応する実施例1〜3による半導体レーザ素子の金属層の厚みに対するp側オーミック電極での光の反射率を示したグラフである。
【図9】本発明の第4実施形態による半導体レーザ素子のp側オーミック電極近傍を示した拡大断面図である。
【図10】本発明の第5実施形態による半導体レーザ素子のp側オーミック電極近傍を示した拡大断面図である。
【図11】本発明の第6実施形態による半導体レーザ素子を示した断面図である。
【図12】本発明の変形例による半導体レーザ素子のp側オーミック電極近傍を示した拡大断面図である。
【符号の説明】
【0086】
1 支持基板
3 融着層
10a 半導体層
11 n型半導体層(第1導電型半導体層)
12 活性層
13 p型半導体層(第2導電型半導体層)
15、215、315、415、515、615 p側オーミック電極(電極層、電極)
15a Pd層(金属層)
15b Ag合金層
20 成長用基板
100、200、300、400、500、600 半導体レーザ素子
215a Pt層(金属層)
315a Ni層(金属層)
415e Pt層(金属層)
415f Pd層(金属層)
601 n型GaAs基板(支持基板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板と、
前記支持基板上に形成された電極層と、
前記電極層上に形成され、活性層を含む半導体層とを備え、
前記電極層は、Agを主成分とするAg合金層を含む、半導体レーザ素子。
【請求項2】
前記支持基板と前記電極層との間に形成された融着層をさらに備える、請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記電極層は、前記電極層の前記半導体層側に配置され、Pd層、Pt層およびNi層の少なくともいずれか1層からなる島状または層状の金属層をさらに含む、請求項1または2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記金属層は、10nm以下の厚みを有する、請求項3に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記半導体層は、前記活性層を挟み込むように形成された第1導電型半導体層と第2導電型半導体層とをさらに含み、
前記電極層は、前記半導体層の前記第2導電型半導体層側に配置された電極である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
成長用基板上に、活性層を含む半導体層を成長させる工程と、
前記半導体層上に、Agを主成分とするAg合金層を含む電極層を形成する工程と、
支持基板に、前記半導体層上の前記電極層側を接合する工程と、
前記半導体層から前記成長用基板を分離する工程とを備える、半導体レーザ素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−109013(P2010−109013A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277283(P2008−277283)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】