説明

半導体レーザ素子の製造方法

【課題】リッジ部を形成するためのエッチングの際にGaAsキャップ層の側壁にサイドエッチングが進行することを防止できる半導体レーザ素子の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の半導体レーザ素子の製造方法は、半導体基板2上にnクラッド層3と、活性層4と、第1pクラッド層5と、エッチングストップ層6と、第2pクラッド層7と、キャップ層9とを順次積層して形成する工程と、キャップ層9の一部を除去した開口部10AにZnO層11を形成して窓領域を形成する工程と、開口部10Aからキャップ層9上にかけてストライプ状の絶縁膜マスクパターン16を形成し、絶縁膜マスクパターン16から露出したキャップ層9をエッチング除去する工程と、絶縁膜マスクパターン16から露出しているキャップ層9の側壁を酸化する工程と、エッチングストップ層6に達するまでエッチングを行ってリッジを形成する工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ストレージ及び光通信等に用いられるリッジ導波路型の半導体レーザ素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体レーザ素子において所定の半導体層の表面に、ストライプ状のリッジを形成し、このリッジ下方の活性層を導波路領域とした半導体レーザ素子が提案されている。このような半導体レーザ素子の製造方法の一例としては、例えば特許文献1及び特許文献2が開示されている。
【0003】
特許文献1及び特許文献2に開示された半導体レーザ素子の製造方法では、リッジ部を形成する際にGaAsキャップ層を除去して開口部を形成し、この開口部にZnO膜とSiO膜とを順次積層した後に熱処理を行って窓部を形成していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−308456号公報
【特許文献2】特開2007−318077号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に開示された半導体レーザ素子の製造方法では、リッジ部を形成するためのエッチングを行う際に、GaAsキャップ層が除去された窓部とGaAsキャップ層が除去されていない窓部以外の部分との間で段差が生じ、窓部以外の部分のエッチングが完了したときには窓部では過剰にエッチングされてしまうという問題があった。
【0006】
また、特許文献2に開示された半導体レーザ素子の製造方法では、リッジ部を形成するためのエッチングを行う際に、残存しているGaAsキャップ層の側壁にサイドエッチングが進行してGaAsキャップ層の幅が縮小してしまうという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑みて提案されたものであり、リッジ部を形成するためのエッチングの際にGaAsキャップ層の側壁にサイドエッチングが進行することを防止できる半導体レーザ素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、本発明に係る半導体レーザ素子の製造方法は、第1導電型のIII−V族化合物半導体からなる半導体基板上に、少なくとも、第1導電型のIII−V族化合物半導体からなる第1クラッド層と、III−V族化合物半導体からなる活性層と、第2導電型のIII−V族化合物半導体からなる第2クラッド層と、第2導電型のIII−V族化合物半導体からなるエッチングストップ層と、第2導電型のIII−V族化合物半導体からなる第3クラッド層と、第2導電型のIII−V族化合物半導体からなるキャップ層とを順次積層して形成する工程と、前記キャップ層の一部を除去した開口部に、所定の拡散源を含む拡散源層を形成し、熱処理を行って窓領域を形成する工程と、前記拡散源層を除去した後に前記開口部から前記キャップ層上にかけてストライプ状の絶縁膜マスクパターンを形成し、前記絶縁膜マスクパターンから露出した前記キャップ層をエッチング除去する工程と、前記絶縁膜マスクパターンから露出している前記キャップ層の側壁を酸化する工程と、前記エッチングストップ層に達するまでエッチングを行ってリッジを形成する工程とを含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る半導体レーザ素子の製造方法は、所定の拡散源として亜鉛(Zn)を含み、前記キャップ層はガリウムヒ素(GaAs)を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る半導体レーザ素子の製造方法によれば、リッジ部を形成するためのエッチングを行う前にキャップ層の露出している側壁を酸化するので、リッジ部を形成する際にキャップ層の側壁にサイドエッチングが進行することを防止できる。これによりキャップ層の幅が縮小することを防止して所望の設計寸法を確保できるので、素子特性の安定化と歩留まりの向上を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明を適用した一実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法における積層工程から絶縁膜の形成及びZn拡散工程までの断面を示す図である。
【図2】本発明を適用した一実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法における選択的除去工程からリッジ部形成工程までの断面を示す図である。
【図3】本発明を適用した一実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法におけるGaAs酸化工程を説明するための拡大断面図である。
【図4】本発明を適用した一実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法におけるリッジ部形成工程から電極形成工程までの断面を示す図である。
【図5】従来の半導体レーザ素子の製造方法における問題点を説明するための断面図である。
【図6】従来の半導体レーザ素子の製造方法における問題点を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[半導体レーザ素子の製造方法]
以下、本実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法について図1〜図3を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法における積層工程から絶縁膜の形成及びZn拡散工程までの断面を示し、レーザ光が出射する窓部側から見た正面図及び断面図である。
【0013】
(積層工程)
図1(A)に示すように、本実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法における積層工程では、MOVPE(Metal Organic Vapor Phase Epitaxy)法やMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法により、n型のGaAsからなる半導体基板2上に厚さ3μmのn型(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなるnクラッド層(第1クラッド層)3と、厚さ6nmのGa0.5In0.5Pウェルと厚さ4nmの(Al0.5Ga0.50.5In0.5Pバリア層との多重量子井戸からなる活性層4と、厚さ0.4μmのp型(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなる第1pクラッド層(第2クラッド層)5と、厚さ2nm のp型(Al0.2Ga0.80.5In0.5Pと厚さ4nmのp型(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pとの多重量子井戸からなるエッチングストップ層6と、厚さ1.5μmのp型(Al0.7Ga0.30.5In0.5Pからなる第2pクラッド層(第3クラッド層)7と、GaInP等からなるp型の障壁緩和層8と、p型のGaAsからなるキャップ層9とを順次積層する。
【0014】
ここで、エッチングストップ層6は、p型(Al0.7Ga0.30.5In0.5単層のみでもよい。また、上述した組成及び導電型は一例であり、III−V族化合物半導体であれば他の組成であってもよく、導電型もn型とp型を入れ替えてもよい
(フォトレジストパターン形成工程)
図1(B)に示すように、フォトレジストパターン形成工程ではキャップ層9上にフォトレジストを塗布して露光・現像を行う。そして、中央部に開口部10Aを有する共振器長方向に沿ったストライプ状のフォトレジストパターン10を形成する。
【0015】
(ZnO層形成工程)
図1(C)に示すように、ZnO層形成工程ではフォトレジストパターン10の開口部10Aでキャップ層9をエッチング除去して障壁緩和層8を露出させる。この後、フォトレジストパターン10を除去してから、スパッタ等の真空成膜方法によって障壁緩和層8及びキャップ層9の上にZnO層(拡散源層)11を形成し、フォトリソグラフィ法及びエッチング法を用いて共振器端面近傍の障壁緩和層8上のみにZnO層11を残す。
【0016】
(絶縁膜形成及びZn拡散工程)
図1(D)に示すように、絶縁膜の形成及びZn拡散工程ではキャップ層9及びZnO層11の上に酸化珪素、窒化珪素等の絶縁膜12を形成する。この後、熱処理によってZnO層11に含まれるZnを活性層4に達するまで拡散して拡散層13を形成する。これにより共振器端面近傍のみに窓領域Mを形成することができる。
【0017】
次に、本実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法における選択的除去工程からリッジ部形成工程までを説明する。図2は、本実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法における選択的除去工程からリッジ部形成工程までの断面を示し、(A)乃至(D)はレーザ光が出射する窓部側から見た正面図及び断面図である。
【0018】
(選択的除去工程)
選択的除去工程では、まず図1(D)に示したZnO層11及び絶縁膜12を除去すると、図2(A)に示すように障壁緩和層8及びキャップ層9の上に酸化珪素、窒化珪素等の絶縁膜14を形成する。そして、この絶縁膜14上に共振器長方向に沿ったストライプ状のフォトレジストパターン15を形成する。
【0019】
次に、図2(B)に示すように、フォトレジストパターン15から露出した絶縁膜14をエッチングして共振器長方向に沿ったストライプ状の絶縁膜マスクパターン16を形成する。
【0020】
次に、図2(C)に示すように、絶縁膜マスクパターン16で覆われた部分以外のキャップ層9をICP−RIE(Inductively Coupled Plasma - Reactive Ion Etching)等のドライエッチングによってエッチング除去する。このときの条件として、Cl系のガスを用い、基板温度が150℃未満の温度条件で選択的エッチングを行う。上記の条件でドライエッチングを行う理由は、GaがClと反応して塩化物になると常温近傍でも容易に脱離してエッチングが進行するが、Inの塩化物は150℃ 以上に加熱しないと脱離が進まないため、障壁緩和層8との選択性が増すからである。
【0021】
こうして絶縁膜マスクパターン16から露出した窓領域Mのエッチングストップ層6までの厚さと窓領域M以外の部分でのエッチングストップ層6までの厚さは、いずれも障壁緩和層8と第2pクラッド層7との合計の厚さとなって等しくなる。これにより後述するリッジ部17を形成する際に、窓領域Mのエッチングストップ層6が長時間エッチング液に晒されることはなくなり、エッチングストップ層6の過剰なエッチングを防止することができる。
【0022】
(GaAs酸化工程)
次に、GaAs酸化工程では例えば酸素等の酸化性プラズマによって、図2(C)に示す構造の半導体レーザ素子を酸化する。これによって図2(C)のI−I断面の拡大図である図3に示すように、絶縁膜マスクパターン16から露出したキャップ層9の側壁が酸化され、p型のGaAsからなるキャップ層9の側壁には酸化領域9A、9Bが形成される。これにより、この後のリッジ部を形成する工程においてエッチングを行ったとしてもキャップ層9の側壁におけるサイドエッチングの進行を防止することができる。
【0023】
(リッジ部形成工程)
次に、図2(D)に示すように、リッジ部形成工程ではICP−RIE等のドライエッチングにより、絶縁膜マスクパターン16で覆われていない障壁緩和層8から第2pクラッド層7の途中までをエッチングする。
【0024】
次に、本実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法におけるリッジ部形成工程から電極形成工程までを説明する。図4は、本実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法におけるリッジ部形成工程から電極形成工程までの断面を示し、(A)乃至(B)はレーザ光が出射する窓部側から見た正面図及び断面図である。
【0025】
(リッジ部形成工程)
図4(A)に示すように、リッジ部形成工程では選択エッチング液を用いて、残りの第2pクラッド層7をエッチングストップ層6に達するまでエッチングして、第2pクラッド層7、障壁緩和層8及びキャップ層9からなるリッジ部17を形成する。
【0026】
この際、選択エッチング液には、Al組成の低いAlGaInP又はInGaPと比べて、Al組成の高いAlGaInPを比較的速くエッチングする硫酸エッチング液、酒石酸と塩酸の混合液が用いられる。
【0027】
(電極形成工程)
次に、図4(B)に示すように、電極形成工程では絶縁膜マスクパターン16を除去した後に、エッチングストップ層6からキャップ層9までに絶縁層18を形成する。そして、リッジ部17上の絶縁層18のみを除去してリッジ部17上のキャップ層9を露出させ、露出したキャップ層9上にTi/Pt/Au等からなるp型オーミック電極19を形成する。一方、積層方向とは反対側の半導体基板2上にn型オーミック電極20を形成すると、本実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法は終了する。
【0028】
[実施形態の効果]
次に、本実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法による効果を説明する。
【0029】
従来、特許文献1に開示されている半導体レーザ素子の製造方法では、リッジ部を形成するためにエッチングストップ層104までエッチングを行う際には、図5に示すようにキャップ層107が除去されている窓部Nではpクラッド層105と障壁緩和層106の厚さの分だけエッチングすることになる。一方、キャップ層107が除去されていない窓部N以外の部分ではpクラッド層105と障壁緩和層106とキャップ層107の厚さの分だけエッチングしなければならない。
【0030】
これにより、従来では窓部Nのエッチングストップ層104が窓部N以外の部分よりも長時間エッチング液に晒されることになり、窓部N以外の部分のエッチングが完了したときには窓部Nが過剰にエッチングされてしまうという問題があった。
【0031】
これに対して、本実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法によれば、図2(C)に示すように、絶縁膜マスクパターン16で覆われた部分以外のキャップ層9をエッチング除去するので、窓領域Mのエッチングストップ層6までの厚さと窓領域M以外の部分でのエッチングストップ層6までの厚さは等しくなる。これにより窓領域Mのエッチングストップ層6が長時間エッチング液に晒されることはなくなり、エッチングストップ層6の過剰なエッチングを防止することができる。
【0032】
また、特許文献2に開示された半導体レーザ素子の製造方法では、リッジ部を形成するためにエッチングストップ層までエッチングする際に、図6に示すように残存しているキャップ層62の側壁にサイドエッチングが進行してキャップ層62の幅が縮小してしまうという問題点があった。
【0033】
これに対して、本実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法によれば、リッジ部を形成するためのエッチングを行う前に、図3に示すようにキャップ層9の露出している側壁を酸化するので、リッジ部を形成する際にキャップ層9の側壁にサイドエッチングが進行することを防止できる。これによりキャップ層9の幅が縮小してしまうことを防止できるので、所望の設計寸法を確保して素子特性の安定化と歩留まりの向上を実現することができる。
【0034】
なお、上述の実施形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施形態に限定されることはなく、この実施形態以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計などに応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0035】
2 半導体基板
3 nクラッド層(第1クラッド層)
4 活性層
5 第1pクラッド層(第2クラッド層)
6 エッチングストップ層
7 第2pクラッド層(第3クラッド層)
8 障壁緩和層
9 キャップ層
9A、9B 酸化領域
10 フォトレジストパターン
10A 開口部
11 ZnO層
12 絶縁膜
13 拡散層
14 絶縁膜
15 フォトレジストパターン
16 絶縁膜マスクパターン
17 リッジ部
18 絶縁層
19 p型オーミック電極
20 n型オーミック電極
M 窓領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型のIII−V族化合物半導体からなる半導体基板上に、少なくとも、第1導電型のIII−V族化合物半導体からなる第1クラッド層と、III−V族化合物半導体からなる活性層と、第2導電型のIII−V族化合物半導体からなる第2クラッド層と、第2導電型のIII−V族化合物半導体からなるエッチングストップ層と、第2導電型のIII−V族化合物半導体からなる第3クラッド層と、第2導電型のIII−V族化合物半導体からなるキャップ層とを順次積層して形成する工程と、
前記キャップ層の一部を除去した開口部に、所定の拡散源を含む拡散源層を形成し、熱処理を行って窓領域を形成する工程と、
前記拡散源層を除去した後に前記開口部から前記キャップ層上にかけてストライプ状の絶縁膜マスクパターンを形成し、前記絶縁膜マスクパターンから露出した前記キャップ層をエッチング除去する工程と、
前記絶縁膜マスクパターンから露出している前記キャップ層の側壁を酸化する工程と、
前記エッチングストップ層に達するまでエッチングを行ってリッジを形成する工程と
を含むことを特徴とする半導体レーザ素子の製造方法。
【請求項2】
前記所定の拡散源は亜鉛(Zn)を含み、
前記キャップ層はガリウムヒ素(GaAs)を含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−238807(P2012−238807A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108434(P2011−108434)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】