説明

半導体光集積回路装置及びその製造方法

【課題】 半導体光集積回路装置及びその製造方法に関し、吸収効率の向上と素子抵抗の低減を両立する。
【解決手段】 半導体基板上に形成された少なくともメサ状部を有する導波路コア層からなる導波路部と、前記導波路コア層の延長部上に順次積層された第1導電型スペーサ層、吸収層及び前記第1導電型と反対の第2導電型上部クラッド層を少なくとも有するフォトダイオード部とを少なくとも設け、前記第1導電型スペーサ層の少なくとも一部がメサ状であり、前記メサ状の第1導電型スペーサ層の側面に接するように、前記第1導電型スペーサ層の屈折率より小さな屈折率の第1導電型半導体層を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体光集積回路装置及びその製造方法に関するものであり、例えば、エバネッセント結合型の導波路集積型のフォトダイオードにおける吸収効率向上と高周波帯域向上を両立させるための手段に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、Quadrature PhaseShift Key(QPSK)などの位相変調方式を用いた光コヒーレント通信が開発されている。そのための光受信器として、多モード干渉(MMI)導波路などを用いて位相変調光を強度変調光に変換する光ハイブリッド導波路と、フォトダイオード(PD)を集積した導波路集積型の光受信器が提案されている。
【0003】
図13は、従来の導波路集積型光受信器の概念的平面図であり、同一の基板51上に入力導波路52、2×4MMI導波路53、PD接続導波路54及びフォトダイオード55を集積化している。そのため、各素子或いは導波路の間でレンズなどの光学部品が不要であるため、小型化や組立コストの観点から有望である。
【0004】
図14は、従来のエバネッセント結合型の導波路集積型光受信器の構成説明図であり、ここでは、PD接続導波路及びフォトダイオードのみを示している。図14(a)は概念的斜視図であり、図14(b)は図14(a)におけるA面で切った概念的断面図であり、図14(c)は図14(a)におけるB面で切った概念的断面図である。
【0005】
従来の導波路集積型光受信器は、導波路コア層61からなる導波路部分60と、導波路コア層61の一部領域上にn型スペーサ層62、吸収層63、p型上部クラッド層64及びp型コンタクト層65を堆積させたPD部66とを集積した構造となっている。
【0006】
n型スペーサ層62は、導波路コア層61より屈折率が高い半導体からなり、吸収層63は、信号光を吸収するようにバンドギャップが調整された半導体層であり、一般的にはi型半導体層である。
【0007】
図14(b)に示すように、導波路コア層61を伝播してきた光は、PD部66に光が入射してからある程度の距離伝播した後に、n型スペーサ層62から吸収層63に染み出していき、最終的には吸収層63で吸収される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】IEEE InternationalConference on Indium Phosphide & Related Materials, 1996. IPRM 1996, p203−206
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、図14に示した構造では、n側電極を表面側からとるために、フォトダイオードの両脇にn型スペーサ層を一部残しておく必要があり、その結果、図14(c)に示すように、フォトダイオード部分では導波路コア層がスラブ状に残る形になる。
【0010】
このような形状では、導波路部60からPD部66に入射してきた光を横方向に閉じ込める機構は、導波路コア層61の上部に形成されたn型スペーサ層62の一部および吸収層63からなるメサ形状によるものだけとなる。したがって、光閉じ込め効果が比較的弱くなるため、PD部66に入射した光が横方向に逃げてしまい、十分な吸収効果が得られないという問題がある。
【0011】
十分な吸収効率を得るためには、メサの両脇のn型スペーサ層62の残し厚を薄くすることで、n型スペーサ層62の一部からなるメサ形状を深くし、PD部66に入射した光が横方向へ逃げにくくすることが有効である。
【0012】
しかし、n型スペーサ層62の残し厚が薄くなることによりn型電極層としての抵抗が増加するため、高周波帯域が低減するという問題がある。このように、従来の導波路集積型光受信器では、吸収効率の向上と素子抵抗の低減の両立が困難であるという問題がある。
【0013】
したがって、本発明は、導波路集積型光受信器における吸収効率の向上と素子抵抗の低減を両立することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
開示する一観点からは、半導体基板と、前記半導体基板上に形成された少なくともメサ状部を有する導波路コア層からなる導波路部と、前記導波路コア層の延長部上に順次積層された第1導電型スペーサ層、吸収層及び前記第1導電型と反対の第2導電型上部クラッド層を少なくとも有するフォトダイオード部とを少なくとも有し、前記第1導電型スペーサ層の少なくとも一部がメサ状であり、前記メサ状の第1導電型スペーサ層の側面が、前記第1導電型スペーサ層の屈折率より小さな屈折率の第1導電型半導体層と接していることを特徴とする半導体光集積回路装置が提供される。
【0015】
また、開示する別の観点からは、半導体基板上に少なくとも導波路コア層、第1導電型スペーサ層、吸収層及び第1導電型と反対の第2導電型クラッド層を順次堆積する工程と、前記第2導電型クラッド層乃至第1導電型スペーサ層の一部を除去して導波路部を形成する工程と、第1のマスクを利用して前記導波路部における前記導波路コア層の少なくとも一部を除去してメサ状部を形成する工程と、前記導波路部以外の領域において、第2のマスクを利用して前記第2導電型クラッド層と吸収層と、前記第1導電型スペーサ層の少なくとも一部を除去してメサ状部を備えたフォトダイオード部を形成する工程と、前記第2のマスクを残存させた状態で、前記フォトダイオード部のメサ状部の両脇に露出する前記第1導電型スペーサ層上に、前記第1導電型スペーサ層の屈折率より小さな屈折率の第1導電型半導体層を形成する工程とを有することを特徴とする半導体光集積回路装置の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
開示の半導体光集積回路装置及びその製造方法によれば、吸収効率の向上と素子抵抗の低減の両立が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態の半導体光集積回路装置の概念的構成図である。
【図2】本発明の実施例1の半導体光集積回路装置の途中までの製造工程の説明図である。
【図3】本発明の実施例1の半導体光集積回路装置の図2以降の製造工程の説明図である。
【図4】本発明の実施例1の半導体光集積回路装置の説明図である。
【図5】本発明の実施例1の変形例の説明図である。
【図6】本発明の実施例2の半導体光集積回路装置の途中までの製造工程の説明図である。
【図7】本発明の実施例2の半導体光集積回路装置の図6以降の製造工程の説明図である。
【図8】本発明の実施例2の半導体光集積回路装置の説明図である。
【図9】本発明の実施例3の半導体光集積回路装置の説明図である。
【図10】本発明の実施例3の効果の説明図である。
【図11】本発明の実施例4の半導体光集積回路装置の概念的平面図である。
【図12】本発明の実施例4の半導体光集積回路装置のフォトダイオード部の概略的斜視図である。
【図13】従来の導波路集積型光受信器の概念的平面図である。
【図14】従来のエバネッセント結合型の導波路集積型光受信器の構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ここで、図1を参照して、本発明の実施の形態の半導体光集積回路装置を説明する。図1は、本発明の実施の形態の半導体光集積回路装置の概念的構成図であり、図1(a)は斜視図であり、図1(b)が光軸に垂直な断面図である。図に示すように、半導体基板11上に形成された導波路部14とフォトダイオード部20とからなる。
【0019】
導波路部14は半導体基板11上に形成された少なくともメサ状部13を有する導波路コア層12からなる。この場合の導波路コア層12は全体が完全にメサ状であっても良い。また、メサ状部13の上にクラッド層を設けても良く、フォトダイオード部に入射した光が広がりやすいので、吸収層16における吸収効果を大きくすることができる。
【0020】
フォトダイオード部20は、導波路コア層12の延長部上に順次積層された第1導電型スペーサ層15、吸収層16及び前記第1導電型と反対の第2導電型上部クラッド層17を少なくとも有する。また、第1導電型スペーサ層15の少なくとも一部がメサ状であり、メサ状の第1導電型スペーサ層15の側面が、第1導電型スペーサ層15の屈折率より小さな屈折率の第1導電型半導体層19と接している。なお、通常は第2導電型上部クラッド層17上に第2導電型コンタクト層18を設ける。
【0021】
また、第1導電型スペーサ層15は完全にメサ状であっても良い。また、第1導電型半導体層19の上面は、第1導電型スペーサ層15の上面よりも下にあることが望ましく、それによって、吸収層16の側面においてリーク電流の経路をなくすことができる。
【0022】
また、このような半導体光集積回路装置を2×4MMI等の多モード干渉導波路等の他の光デバイスと集積化する場合には、導波路コア層12の入力端を多モード干渉導波路等の光デバイスとモノリシックに一体化すれば良い。
【0023】
本発明の実施の形態の半導体光集積回路装置では、フォトダイオード部においてストライプ状の第1導電型スペーサ層が屈折率の小さい第1導電型半導体層で挟まれた構造となっている。そのため、フォトダイオード部に入射してきた光の水平方向の広がりが抑制されるため、光が効率良く吸収層へ伝搬し高い受光感度が得られる。即ち、十分な吸収効率を維持したままフォトダイオード長を短くすることができる。
【0024】
また、第1導電型半導体層のドーピング濃度や厚さを適切に設計することにより、第1導電型用の電極側の素子抵抗を低くすることができるため、高周波特性を改善することができる。したがって、フォトダイオード部の接合容量低減に有利な短いフォトダイオード長で、高い吸収効率と低い素子抵抗とを両立することが可能になる。
【実施例1】
【0025】
以上を前提として、次に、図2乃至図5を参照して、本発明の実施例1の半導体光集積回路装置の製造工程を説明する。まず、図2(a)に示すように、有機金属気相成長法(MOVPE法)を用いて、(100)を主面とする半絶縁性InP基板21上に、厚さが0.5μmのi型InGaAsP導波路コア層22を堆積する。引き続いて、厚さが0.7μmのn型InGaAsPスペーサ層23、厚さが0.5μmのi型InGaAs吸収層24、厚さが1.0μmのp型InP上部クラッド層25及び厚さが0.3μmのp型InGaAsコンタクト層26を順次積層する。
【0026】
次いで、図2(b)に示すように、フォトダイオード形成部を除いて、p型InGaAsコンタクト層26乃至n型InGaAsPスペーサ層23をエッチング除去して導波路部27を形成する。次いで、図2(c)に示すように、SiOマスク28を用いてi型InGaAsP導波路コア層22をエッチングしてリブ構造29を形成する。
【0027】
次いで、図3(d)に示すように、新たなSiOマスク30を用いて、p型InGaAsコンタクト層26乃至n型InGaAsPスペーサ層23をストライプ状にエッチングして幅3μm、長さ25μmのフォトダイオード部31を形成する。
【0028】
次いで、図3(e)に示すように、SiOマスク30をそのまま残存させた状態で、有機金属気相成長法を用いて露出するn型InGaAsPスペーサ層23上にドーピング濃度が2×1018cm−3で厚さが0.6μmのn型InP層32を選択成長させる。この時、メサ状のフォトダイオード部31の側面で横方向に堆積するn型InP層32の厚さを薄くするために、メサ側面を(011)面とし、高温・低圧の成長条件で形成する。なお、n型InP層32を形成する際に、原料に塩素系原料を添加することで、横方向に堆積するn型InP層32の厚さをさらに薄くすることができる。
【0029】
次いで、図3(f)に示すように、エッチングにより、フォトダイオード部31のメサ側面で横方向に堆積したn型InP層32を除去する。エッチング量としては、例えば、0.1μmとする。この工程によりi型InGaAs吸収層24の側面においてリーク電流の経路がなくなるので、暗電流が抑制でき素子特性が向上する。
【0030】
以降は、SiOマスク30を除去したのち、SiN等のパッシベーション膜(図4は省略)を形成したのち、コンタクト用開口部を形成し、p型InGaAsコンタクト層26上にAuZn/Auからなるp側電極33を形成する。一方、n型InP層32上にはAuGe/Auからなるn側電極34を形成することにより、半導体光集積回路装置の基本構成が完成する。
【0031】
図4は、完成した本発明の実施例1の半導体光集積回路装置の説明図であり、図4(a)は、概略的斜視図であり、図4(b)は光軸に垂直な概略的断面図である。p側電極33とn側電極34の間に電圧を印加し、i型InGaAsP導波路コア層22を伝搬してきた光をi型InGaAs吸収層によって吸収し、発生したフォトキャリアをp側電極33及びn側電極34から引き出す。
【0032】
図4(c)は、本発明の実施例1の半導体光集積回路装置の効果の説明図であり、従来のn型InGaAsPスペーサ層を薄く残した場合のn側の素子抵抗の変化を示している。上述のように、光閉じ込め効果を高めるために、n型InGaAsPスペーサ層の残し膜厚を薄くするほどn側の素子抵抗が飛躍的に高くなっている。
【0033】
一方、本発明の実施例1では、ストライプ状のInGaAsPスペーサ層が屈折率のより小さなn型InP層32で挟まれた構造となっている。そのため、フォトダイオード部に入射してきた光の水平方向の広がりを抑制しつつ、n型InP層32の厚さを0.5μmと設計することによりn側の素子抵抗を12.5Ωに低減することができる。
【0034】
図5は、本発明の実施例1の変形例であり、図5(a)はi型InGaAsP導波路コア層22をリブ構造ではなく完全なストライプ導波路構造にしたものである。また、図5(b)は、n型InGaAsPスペーサ層をメサの両脇において、光閉じ込め効果を損なわないように薄く残存させたものである。
【実施例2】
【0035】
次に、図6乃至図8を参照して、本発明の実施例2の半導体光集積回路装置を説明する。まず、図6(a)に示すように、有機金属気相成長法(MOVPE法)を用いて、(100)を主面とする半絶縁性InP基板21上に、厚さが0.5μmのi型InGaAsP導波路コア層22を堆積する。引き続いて、厚さが0.7μmのn型InGaAsPスペーサ層23、厚さが0.5μmのi型InGaAs吸収層24、厚さが1.0μmのp型InP上部クラッド層25及び厚さが0.3μmのp型InGaAsコンタクト層26を順次積層する。
【0036】
次いで、図6(b)に示すように、フォトダイオード形成部を除いて、p型InGaAsコンタクト層26乃至n型InGaAsPスペーサ層23をエッチング除去して導波路部27を形成する。次いで、図3(c)に示すように、導波路部27において露出しているi型InGaAsP導波路コア層22上に厚さが1.7μmのi型InPクラッド層35を成長させる。
【0037】
次いで、図7(d)に示すように、SiOマスク36を用いてp型InGaAsコンタクト層26乃至n型InGaAsPスペーサ層23をストライプ状にエッチングして幅3μm、長さ25μmのフォトダイオード部31を形成する。この時、導波路部27においては、i型InPクラッド層35を半絶縁性InP基板21が0.3μm程度掘れるようにエッチングしてストライプ状メサを同時に形成する。
【0038】
次いで、図7(e)に示すように、SiOマスク36をそのまま残存させた状態で、導波路部27を覆うSiOマスク37を形成する。次いで、有機金属気相成長法を用いて露出するn型InGaAsPスペーサ層23上にドーピング濃度が2×1018cm−3で厚さが0.6μmのn型InP層32を選択成長させる。この場合も、メサ状のフォトダイオード部31の側面で横方向に堆積するn型InP層32の厚さを薄くするために、メサ側面を(011)面とし、高温・低圧の成長条件で形成する。なお、n型InP層32を形成する際に、原料に塩素系原料を添加することで、横方向に堆積するn型InP層32の厚さをさらに薄くすることができる。
【0039】
次いで、図7(f)に示すように、エッチングにより、フォトダイオード部31のメサ側面で横方向に堆積したn型InP層32を除去する。エッチング量としては、例えば、0.1μmとする。この工程によりi型InGaAs吸収層24の側面においてリーク電流の経路がなくなるので、暗電流が抑制でき素子特性が向上する。
【0040】
以降は、SiOマスク36,37を除去したのち、SiN等のパッシベーション膜(図4は省略)を形成したのち、コンタクト用開口部を形成し、p型InGaAsコンタクト層26上にAuZn/Auからなるp側電極33を形成する。一方、n型InP層32上にはAuGe/Auからなるn側電極34を形成することにより、本発明の実施例2の半導体光集積回路装置の基本構成が完成する。
【0041】
図8は、完成した本発明の実施例2の半導体光集積回路装置の説明図であり、図8(a)は、概略的斜視図であり、図8(b)及び図8(c)は本発明の効果の説明図である。図8(a)に示すように、導波路部の構造が異なるだけで、フォトダイオード部の構造は上記の実施例1と全く同じである。
【0042】
図8(b)は、本発明の実施例2の吸収効率とのスペーサ膜厚依存性の説明図であり、ここでは、比較のために、n型InP層を設けずにn型InGaAsPスペーサ層を残存させた場合を比較している。本発明の実施例2では、ストライプ状のフォトダイオード部以外のn型スペーサ層を全て除去した構造で、且つ、ストライプ状のn型スペーサ層が屈折率の小さいn型InP層で挟まれた構造となっているため、高い吸収効率82%が得られる。また、n型InP層の厚さを0.5μmと設計することにより第1の実施例と同様にn側の素子抵抗を12.5Ωに低減することができる。
【0043】
図8(c)は、本発明の実施例2の吸収効率のフォトダイオード素子長依存性の説明図であり、ここでは比較構造として、n型InP層を設けずに、n型スペーサ層を0.5μmの厚さだけ残した構造を比較する。図に示すように、吸収効率80%に必要なフォトダイオード素子長を見ると、比較構造では34μmの長さが必要であることに対し、本発明の実施例2では23μmと短いフォトダイオード素子長まで短縮可能である。
【0044】
このことから、本発明の実施例2においては短いフォトダイオード素子長で高い受光感度が得られるためフォトダイオード素子のpin接合部の容量を小さくでき、十分な吸収効率を維持したまま高周波特性を確保すること可能となる。
【0045】
このように、本発明の実施例2においては、実施例1と比較してフォトダイオード素子の吸収効率を大きくする効果がより顕著になり、特に、高周波帯域に有利なメサ幅の狭いフォトダイオード素子でより効果的である。
【実施例3】
【0046】
次に、図9乃至図10を参照して、本発明の実施例3の半導体光集積回路装置を説明する。図9は本発明の実施例3の半導体光集積回路装置の説明図であり、図9(a)は概略的斜視図であり、図9(b)は光軸に沿った概略的断面図である。図に示すように、フォトダイオード部において、導波路コア層の下までメサ形状としている以外は、上記の実施例2と同様である。なお、このような構造を形成する際には、i型InPクラッド層35を厚く、例えば、2.5μm程度成膜して、同時にエッチングすれば良い。
【0047】
本発明の実施例3においては、メサの両脇を深くエッチング除去しているので、n型InP層を厚く形成しても、i型InGaAs吸収層の両側に暗電流のリークパスが形成されないので、素子抵抗をより低減することができる。
【0048】
図10は、本発明の実施例3の効果の説明図であり、図10(a)に示すように、n側の素子抵抗は、n型InP層の膜厚の増大に伴って低減し、素子抵抗の低減によって、高周波帯域が改善される。
【0049】
図10(b)は、吸収効率の導波路コア層残し膜厚依存性の説明図である。フォトダイオード部の導波路コア層も完全にストライプ状となっているため、フォトダイオード部に入射してきた光の水平方向の広がりがさらに抑制されるため、吸収層の受光感度が改善する効果も得られる。
【実施例4】
【0050】
次に、図11及び図12を参照して本発明の実施例4の半導体光集積回路装置を説明する。図11は、本発明の実施例4の半導体光集積回路装置の概念的平面図であり、図12は、本発明の実施例4の半導体光集積回路装置のフォトダイオード部の概略的斜視図である。図11に示すように、本発明の実施例4の半導体光集積回路装置は、QPSK(QuadraturePhase Shift Keying)変調方式の復調用の光コヒーレントレシーバ素子に適用した例である。
【0051】
この場合、入力導波路部41、4×4MMI導波路42及びPD接続導波路43における積層構造は上記の実施例2の導波路部の積層構造と同じであり、フォトダイオード部44も実施例2のフォトダイオード部と同じである。なお、ここでは、入力導波路を2本として4×4MMI導波路42を実効的に2×4MMIとして使用する。
【0052】
ここで、簡単に製造工程を説明するが、基本的には上記の実施例2と同様であるので図示は省略するが、引用する符号は図12の符号を用いる。まず、有機金属気相成長法を用いて、(100)を主面とする半絶縁性InP基板21上に、厚さが0.5μmのi型InGaAsP導波路コア層22を堆積する。引き続いて、厚さが0.7μmのn型InGaAsPスペーサ層23、厚さが0.5μmのi型InGaAs吸収層24、厚さが1.0μmのp型InP上部クラッド層25及び厚さが0.3μmのp型InGaAsコンタクト層26を順次積層する。
【0053】
次いで、フォトダイオード形成部を除いて、p型InGaAsコンタクト層26乃至n型InGaAsPスペーサ層23をエッチング除去して導波路部27を形成する。次いで、導波路部27において露出しているi型InGaAsP導波路コア層22上に厚さが1.7μmのi型InPクラッド層35を成長させる。
【0054】
次いで、SiOマスクを用いてp型InGaAsコンタクト層26乃至n型InGaAsPスペーサ層23をストライプ状にエッチングして幅3μm、長さ25μmのフォトダイオード部44を形成する。この時、導波路部27においては、i型InPクラッド層35を半絶縁性InP基板21が0.3μm程度掘れるようにメサ状にエッチングして2本の入力導波路と、4×4MMI導波路と4本の接続導波路が形成する。
【0055】
次いで、SiOマスクをそのまま残存させた状態で、導波路部27を覆うSiOマスクを形成する。次いで、有機金属気相成長法を用いて露出するn型InGaAsPスペーサ層23上にドーピング濃度が2×1018cm−3で厚さが0.6μmのn型InP層32を選択成長させる。この場合も、メサ状のフォトダイオード部44の側面で横方向に堆積するn型InP層32の厚さを薄くするために、メサ側面を(011)面とし、高温・低圧の成長条件で形成する。なお、n型InP層32を形成する際に、原料に塩素系原料を添加することで、横方向に堆積するn型InP層32の厚さをさらに薄くすることができる。
【0056】
次いで、エッチングにより、フォトダイオード部44のメサ側面で横方向に堆積したn型InP層32を除去する。エッチング量としては、例えば、0.1μmとする。この工程によりi型InGaAs吸収層24の側面においてリーク電流の経路がなくなるので、暗電流が抑制でき素子特性が向上する。
【0057】
次いで、隣接するフォトダイオード間のn型InP層32を選択的に除去して分離溝45を形成する。以降は、マスクを除去したのち、SiN等のパッシベーション膜(図4は省略)を形成したのち、コンタクト用開口部を形成し、p型InGaAsコンタクト層26上にAuZn/Auからなるp側電極33を形成する。一方、n型InP層32上にはAuGe/Auからなるn側電極34を形成することにより、図11及び図12に示す本発明の実施例4の半導体光集積回路装置の基本構成が完成する。
【0058】
図11に示すように、2本の入力導波路41の内の1本は、ハイブリッド導波路となる4×4MMI導波路42の図で上から2番目に接続されており、他の1本は、上から4番目に接続されている。フォトダイオード部44は、4個のフォトダイオードPD、PD、PD、PDからなる。
【0059】
4×4MMI導波路42の4個の出力を上から1,2,3,4とした場合、PDと出力1、PDと出力4、PDと出力2、PDと出力3がPD接続導波路43によって接続されている。また、各フォトダイオードには、メサの直上に信号電極となるp側電極が、n型InP層の表面上にはグランド電極となるn側電極が形成されている。
【0060】
このような構成において、上側の入力導波路にQPSKの変調信号光を、下側の入力導波路にローカルオシレータ(LO)光を入射することによって、QPSK変調方式のいわゆるIチャネル信号をPD、PDから、Qチャネル信号をPD、PDから取り出すことができる。このような構成においても、上記の実施例2の素子構造を採用することによって、高出力、広帯域動作が可能となる。なお、上記の実施例3の構造を採用しても良い。
【0061】
図12は、フォトダイオード部の概略的斜視図であり、4個のフォトダイオードの間で電気的な分離を十分に取るために、分離溝45を形成してn型InP層32が独立して存在した構造としている。なお、図面の簡略のために、2個のフォトダイオード部のみを示し、また、電極は省略している。
【0062】
なお、上記の各実施例では、InGaAsP系の材料で構成したフォトダイオードの例を述べているが、これに限らず適宜、吸収層は入射光の波長帯の光を吸収し、その他の層は入射光を吸収しないような材料系で形成した光受信器においても本発明の構造を適用することができる。
【0063】
また、吸収層などはi型半導体の例を示しているが、例えば吸収層の一部、あるいは、全てがp型あるいはn型の半導体であっても良い。また、上記の各実施例ではフォトダイオード部の導波路構造としてハイメサ構造の場合を示しているが、一部または、全てが埋め込み型導波路になっているような構造でも、本発明の効果を同様に得ることができる。
【0064】
また、上記の各実施例では、導波路集積型の光受信器として光コヒーレントレシーバに関して記載しているが、これに限らず、フォトダイオードと導波路が集積されている各種の半導体光集積回路装置に適用されるものである。
【0065】
ここで、実施例1乃至実施例4を含む本発明の実施の形態に関して、以下の付記を付す。
(付記1)半導体基板と、前記半導体基板上に形成された少なくともメサ状部を有する導波路コア層からなる導波路部と、前記導波路コア層の延長部上に順次積層された第1導電型スペーサ層、吸収層及び前記第1導電型と反対の第2導電型上部クラッド層を少なくとも有するフォトダイオード部とを少なくとも有し、前記第1導電型スペーサ層の少なくとも一部がメサ状であり、前記メサ状の第1導電型スペーサ層の側面が、前記第1導電型スペーサ層の屈折率より小さな屈折率の第1導電型半導体層と接していることを特徴とする半導体光集積回路装置。
(付記2)前記第1導電型半導体層の上面が、前記第1導電型スペーサ層の上面よりも下にあることを特徴とする付記1に記載の半導体光集積回路装置。
(付記3)前記第1導電型スペーサ層が完全にメサ状であるとともに、前記フォトダイオード部における前記導波路コア層の少なくとも一部がメサ状であり、前記メサ状の導波路コア層と第1導電型スペーサ層の側面が、前記第1導電型半導体層と接していることを特徴とする付記1または付記2に記載の半導体光集積回路装置。
(付記4)前記第2導電型クラッド層上に、直接或いはコンタクト用半導体層を介して第2導電型用の電極を有するとともに、前記第1導電型半導体層の表面に第1導電型用の電極を有することを特徴とする付記1乃至付記3のいずれか1に記載の半導体光集積回路装置。
(付記5)前記導波路部における導波路コア層の上にメサストライプ状のクラッド層を有することを特徴とする付記1乃至付記4のいずれか1に記載の半導体光集積回路装置。
(付記6)前記導波路部における導波路コア層がメサストライプ構造であり、前記導波路コア層の入力端が多モード干渉導波路とモノリシックに結合していることを特徴とする付記1乃至付記5のいずれか1に記載の半導体光集積回路装置。
(付記7)半導体基板上に少なくとも導波路コア層、第1導電型スペーサ層、吸収層及び前記第1導電型と反対の第2導電型クラッド層を順次堆積する工程と、前記第2導電型クラッド層乃至第1導電型スペーサ層の一部を除去して導波路部を形成する工程と、第1のマスクを利用して前記導波路部における前記導波路コア層の少なくとも一部を除去してメサ状部を形成する工程と、前記導波路部以外の領域において、第2のマスクを利用して前記第2導電型クラッド層と吸収層と、前記第1導電型スペーサ層の少なくとも一部を除去してメサ状部を備えたフォトダイオード部を形成する工程と、前記第2のマスクを残存させた状態で、前記フォトダイオード部のメサ状部の両脇に露出する前記第1導電型スペーサ層上に、前記第1導電型スペーサ層の屈折率より小さな屈折率の第1導電型半導体層を形成する工程とを有することを特徴とする半導体光集積回路装置の製造方法。
(付記8)前記フォトダイオード部のメサ状部の側面に横方向に堆積した第1導電型半導体層を除去する工程を有することを特徴とする付記7に記載の半導体光集積回路装置の製造方法。
(付記9)前記導波路部を形成したのち、前記導波路部における導波路コア層上にクラッド層を形成する工程を有し、前記第1のマスクを利用して前記導波路部における前記導波路コア層の少なくとも一部を除去してメサ状部を形成する工程と、前記導波路部以外の領域において、第2のマスクを利用して前記第2導電型クラッド層と吸収層と、前記第1導電型スペーサ層の少なくとも一部を除去してメサ状部を備えたフォトダイオード部を形成する工程とが同時に行う単一のエッチング工程であることを特徴とする付記7または付記8に記載の半導体光集積回路装置の製造方法。
【符号の説明】
【0066】
11 半導体基板
12 導波路コア層
13 メサ状部
14 導波路部
15 第1導電型スペーサ層
16 吸収層
17 第2導電型上部クラッド層
18 第2導電型コンタクト層
19 第1導電型半導体層
20 フォトダイオード部
21 半絶縁性InP基板
22 i型InGaAsP導波路コア層
23 n型InGaAsPスペーサ層
24 i型InGaAs吸収層
25 p型InP上部クラッド層
26 p型InGaAsコンタクト層
27 導波路部
28 SiOマスク
29 リブ構造
30 SiOマスク
31 フォトダイオード部
32 n型InP層
33 p側電極
34 n側電極
35 i型InPクラッド層
36 SiOマスク
37 SiOマスク
41 入力導波路
42 4×4MMI導波路
43 PD接続導波路
44 フォトダイオード部
45 分離溝
51 基板
52 入力導波路
53 2×4MMI導波路
54 PD接続導波路
55 フォトダイオード
60 導波路部分
61 導波路コア層
62 n型スペーサ層
63 吸収層
64 p型上部クラッド層
65 p型コンタクト層
66 PD部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、
前記半導体基板上に形成された少なくともメサ状部を有する導波路コア層からなる導波路部と、
前記導波路コア層の延長部上に順次積層された第1導電型スペーサ層、吸収層及び前記第1導電型と反対の第2導電型上部クラッド層を少なくとも有するフォトダイオード部と
を少なくとも有し、
前記第1導電型スペーサ層の少なくとも一部がメサ状であり、
前記メサ状の第1導電型スペーサ層の側面が、前記第1導電型スペーサ層の屈折率より小さな屈折率の第1導電型半導体層と接していることを特徴とする半導体光集積回路装置。
【請求項2】
前記第1導電型スペーサ層が完全にメサ状であるとともに、前記フォトダイオード部における前記導波路コア層の少なくとも一部がメサ状であり、
前記メサ状の導波路コア層と第1導電型スペーサ層の側面が、前記第1導電型半導体層と接していることを特徴とする請求項1に記載の半導体光集積回路装置。
【請求項3】
前記導波路部における導波路コア層の上にメサストライプ状のクラッド層を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の半導体光集積回路装置。
【請求項4】
前記導波路部における導波路コア層がメサストライプ構造であり、
前記導波路コア層の入力端が多モード干渉導波路とモノリシックに結合していることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の半導体光集積回路装置。
【請求項5】
半導体基板上に少なくとも導波路コア層、第1導電型スペーサ層、吸収層及び前記第1導電型と反対の第2導電型クラッド層を順次堆積する工程と、
前記第2導電型クラッド層乃至第1導電型スペーサ層の一部を除去して導波路部を形成する工程と、
第1のマスクを利用して前記導波路部における前記導波路コア層の少なくとも一部を除去してメサ状部を形成する工程と、
前記導波路部以外の領域において、第2のマスクを利用して前記第2導電型クラッド層と吸収層と、前記第1導電型スペーサ層の少なくとも一部を除去してメサ状部を備えたフォトダイオード部を形成する工程と、
前記第2のマスクを残存させた状態で、前記フォトダイオード部のメサ状部の両脇に露出する前記第1導電型スペーサ層上に、前記第1導電型スペーサ層の屈折率より小さな屈折率の第1導電型半導体層を形成する工程と
を有することを特徴とする半導体光集積回路装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−190875(P2012−190875A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51019(P2011−51019)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】