説明

半導体加工装置用セラミック被覆部材

【課題】強い腐食性環境下で、プラズマエッチング加工が行われる半導体加工用装置などの容器内配設部材の耐久性の向上を図ること。
【解決手段】金属製または非金属製基材の表面に、直接またはアンダーコート層を介して、周期律表IIIa族酸化物の溶射皮膜からなる多孔質層を有し、その層上には、電子ビームやレーザービームなどの高エネルギーを照射処理によって形成される二次再結晶層が形成されてなるセラミック被覆部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体加工装置用セラミック被覆部材に関し、とくにプラズマエッチング加工などを行うための、半導体処理容器内に配設される部材、部品等の被覆部材として好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
半導体や液晶の分野において用いられるデバイスは、これを加工するとき、腐食性の高いハロゲン系腐食ガスのプラズマエネルギーを使用することが多い。たとえば、半導体加工装置によって、微細な配線パターンを形成する場合、フッ素系や塩素系の腐食性の強いガス雰囲気あるいはこれらのガスと不活性ガスとの混合ガス雰囲気中でプラズマを発生させ、その際に励起されたイオンや電子の強い反応性を利用して半導体素子の微細加工(エッチング)を行い、配線パターンなどを形成する技術がそれである。
【0003】
このような加工技術の場合、反応容器の壁面の少なくとも一部、あるいはその内部に配設された部材や部品類(サセプタ、静電チャック、電極、その他)は、プラズマエネルギーによるエロージョン作用を受けやすく、そのため、耐プラズマエロージョン性に優れた材料を用いることが重要である。このような要求に応えられる材料として、従来、耐食性のよい金属(合金を含む)や石英、アルミナ等の無機材料が用いてきた。例えば、これらの材料を、前記反応容器内部材の表面に、PVD法やCVD法によって被覆したり、周期律表のIIIa族元素の酸化物等からなる緻密質皮膜を形成したり、あるいはY単結晶を被覆する技術が知られている(特許文献1参照)。また、周期律表IIIa族に属する元素の酸化物であるYを、溶射法によって部材表面に被覆することによって、耐プラズマエロージョン性を向上させる技術も知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平10−4083号公報
【特許文献2】特開2001−164354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、IIIa族元素の酸化物等を被覆する方法(特許文献1)は、比較的良好な耐プラズマエロージョン性を示すものの、一段と過酷な腐食性ガス雰囲気中で高い精度の加工と環境の清浄度が求められている近年の半導体加工技術の分野では十分な対策となっていないのが実情である。
【0005】
また、特許文献2に開示されている、Y溶射皮膜を被覆した部材は、耐プラズマエロージョン性の改善には役立っているものの、最近の半導体部材の加工は、一段と高い出力のプラズマエッチング作用に加え、加工雰囲気がフッ素系ガスと炭化水素系ガスとを交互に繰返して使用するという苛酷な条件下にあり、なお一層の改善が求められている。
【0006】
即ち、含Fガス雰囲気では、ハロゲンガス特有の強い腐食反応によって、蒸気圧の高いフッ化物の生成が起こる一方、含CHガス雰囲気では、含Fガス中で生成したフッ素化合物の分解が促進されたり、皮膜成分の一部が炭化物に変化してフッ化物化への反応が一段と高くなる。しかも、プラズマ環境下ではこれらの反応が助長されるので、非常に厳しい腐食環境になる。さらには、このような環境下で生成した腐食生成物のパーティクルが、半導体製品の集積回路表面に落下付着し、これがデバイス損傷原因となることから、従来の部材表面処理技術については、なお一層の改善が求められていた。
【0007】
本発明の主たる目的は、腐食性ガス雰囲気中でプラズマエッチング加工するために使われる半導体処理容器内に配設される部材や部品等として用いられるセラミック被覆部材を提案することにある。
本発明の他の目的は、腐食性ガス雰囲気下でのプラズマエロージョンに対する耐久性に優れる他、汚染物質(パーティクル)の発生が抑制できると共に、装置のメインテナンス負荷が少なくなるような部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現する手段として、本発明は、基材の表面に、周期律表のIIIa族元素の酸化物からなる多孔質層を有し、その多孔質層上には、前記酸化物の二次再結晶層を有することを特徴とする半導体加工装置用セラミック被覆部材を提案する。
【0009】
本発明のより好ましい解決手段は、基材と多孔質層との間に、アンダーコートを有する構成にすることである。本発明において、そのアンダーコートは、Ni、Al、W、MoおよびTiなどの金属、またはこれらの合金、あるいは酸化物、窒化物、硼化物、炭化物などのセラミックスおよびこれらと前記金属・合金からなるサーメットから選ばれた1種以上を、50〜500μmの厚さに形成した各種の皮膜である。また、本発明において、前記多孔質層は、溶射によって形成された気孔率が5〜20%程度の皮膜であり、その層厚は、50〜2000μm程度にしたものである。また、本発明における前記二次再結晶層は、多孔質層に含まれる一次変態した酸化物を高エネルギー照射処理によって、二次変態させて形成したものであり、溶射によって生成した斜方晶系を含む結晶組織からなる多孔質層を、高エネルギー照射処理によって2次変態させて、正方晶系の結晶組織にした層であり、気孔率が約5%未満で、最大粗さ(Ry)が6〜16μm程度の緻密で平滑な層であり、そしてその層厚は100μm以下の厚さを有する層である。なお、本発明において用いる前記高エネルギー照射処理は、電子ビーム照射またはレーザービーム照射のいずれかの処理が好ましい手段である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の半導体加工装置用セラミック被覆部材は、ハロゲン化合物のガスを含む雰囲気および/または炭化水素系ガスを含む雰囲気、とくにこれらの両雰囲気が交互に繰返されるような腐食環境下におけるプラズマエロージョン作用に対して長期間にわたって強い抵抗力を発揮して耐久性に優れたものになる。また、本発明のセラミック被覆部材は、前記腐食環境下でプラズマエッチング加工するときに発生する皮膜の構成成分等からなる微細なパーティクルの発生が少なく、環境汚染を招くことがない。従って、高品質の半導体素子等を効率よく生産することが可能である。さらに、本発明によれば、パーティクルによる汚染が少なくなるため、半導体加工装置等の清浄化作業が軽減され、生産性の向上に寄与する。さらにまた、本発明によれば、上記のような効果が得られることにより、プラズマの出力を上げてエッチング効果および速度を上げることが可能になるため、装置の小型化や軽量化によって半導体生産システム全体の改善が図れるという効果も生まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の半導体加工装置用セラミック被覆部材が最も有効に機能する場合は、半導体素子を腐食性ガス雰囲気下でプラズマエッチング加工する環境に曝される部材、部品等に用いられるときである。このような環境とは、部材等の腐食が激しく、とくに、これらの部材がフッ素またはフッ素化合物を含むガス(以下、これらを「含Fガス」という)雰囲気、例えば、SF、CF、CHF、ClF、HF等のガスを含む雰囲気、もしくはC、CHなどの炭化水素系ガス(以下、これらを「含CHガス」という)雰囲気、あるいはこれらの両雰囲気が交互に繰り返されるような雰囲気を意味している。
【0012】
一般に、前記含Fガス雰囲気は、主にフッ素やフッ素化合物が含まれ、またはさらに酸素(O)を含むことがある。フッ素は、ハロゲン元素の中でも特に反応性に富み(腐食性が強い)、金属はもとより酸化物や炭化物とも反応して蒸気圧の高い腐食生成物をつくるという特徴がある。そのために、この含Fガス雰囲気中にある金属や酸化物、炭化物等は、表面に腐食反応の進行を抑制するための保護膜が生成せず、腐食反応が限りなく進むこととなる。ただし、後でも詳述するが、こうした環境の中でも、周期律表IIIa族に属する元素、即ち、ScやY、原子番号57〜71の元素ならびにこれらの酸化物は、比較的良好な耐食性を示す。
【0013】
一方、含CHガス雰囲気は、そのCH自体に強い腐食性はないが、含Fガス雰囲気で進行する酸化反応と全く逆の還元反応が起こるという特徴がある。そのため、含Fガス雰囲気中では比較的安定な耐食性を示した金属や金属化合物も、その後、含CHガス雰囲気に接すると、化学的結合力が弱くなる。従って、含CHガスに接した部分が、再び含Fガス雰囲気に曝されると、初期の安定な化合物膜が化学的に破壊され、最終的には腐食反応が進むという現象を招く。
【0014】
特に、上記雰囲気ガスの変化に加え、プラズマが発生するような環境では、F、CHとも電離して反応性の強い原子状のF、CHが発生するため、腐食性や還元性は一段と激しくなり、腐食生成物が生成しやすくなる。
このようにして生成した腐食生成物は、プラズマ環境中では蒸気化したり、また微細なパーティクルとなってプラズマ処理容器内を著しく汚染する。したがって、本発明においては特に、含Fガス/含CH雰囲気が交互に繰り返されるような環境下における腐食対策として有効であり、腐食生成物の発生阻止のみならず、パーティクル発生の抑制にも役立つ。
【0015】
次に、発明者らは、まず、含Fガスや含CHガスの雰囲気中でも良好な耐食性や耐環境汚染性を示す材料について検討した。その結果、基材の表面に被覆して用いる材料として、本発明では、周期律表のIIIa族に属する元素の酸化物を用いることが有効であるとの結論を得た。具体的には、Sc、Yあるいは原子番号が57〜71のランタノイド(La、Ce、Pr、Nb、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)の酸化物であり、中でもランタノイドについては、La、Ce、Eu、Dy、Ybの希土類酸化物が好適であることがわかった。本発明では、これらの酸化物を単独、または2種以上の混合物、複酸化物、共晶物となったものを用いることができる。本発明において、前記金属酸化物に着目した理由は、他の酸化物に比べて耐ハロゲン腐食性および耐プラズマエロージョン性に優れているからである。
【0016】
本発明のセラミック被覆部材において、基材には、アルミニウムおよびその合金、チタンおよびその合金、ステンレス鋼、その他の特殊鋼、Ni基合金などの金属(以下、合金を含めて「金属」という)の他、石英、ガラス、酸化物、炭化物、硼化物、珪化物、窒化物およびこれらの混合物からなるセラミック、これらのセラミックと前記金属等とからなるサーメットのような無機材料、プラスチックなどを用いることができる。また、本発明で用いる基材としては、表面に、金属めっき(電気めっき、溶融めっき、化学めっき)したものや金属蒸着膜を形成したものなども用いることができる。
【0017】
上述したところから既に明らかなように、本発明の特徴は、前記基材の表面に、腐食環境中において優れた耐食性、耐環境汚染性等を示す周期律表のIIIa族元素の酸化物を、被覆することにある。その被覆の手段として、本発明では、以下に説明するような方法を採用する。
【0018】
即ち、本発明において、基材の表面に所定の厚さの多孔質層の皮膜を形成する方法としては、好適例として溶射法を用いる。そのために本発明では、IIIa族元素の酸化物を、まず粉砕等により粒径5〜80μmの粉粒体からなる溶射材料粉とし、この溶射材料粉を基材の表面に所定の方法で溶射して、50〜2000μm厚の多孔質な溶射皮膜からなる多孔質層を形成する。
【0019】
なお、酸化物粉末を溶射する方法としては、大気プラズマ溶射法、減圧プラズマ溶射法が好適であるが、水プラズマ溶射法あるいは爆発溶射法なども使用条件によっては適用が可能である。
【0020】
IIIa族元素の酸化物粉末を溶射して得られる溶射皮膜(多孔質層)は、その厚さが50μm未満では、前記腐食環境下の皮膜としての性能が十分でなく、一方、この層の厚さが2000μmを超えると、溶射粒子の相互結合力が弱くなる上、成膜時に発生する応力(粒子が急冷されることによる体積の収縮が主な原因と考えられる)が大きくなって、皮膜が破壊されやすくなる。
【0021】
なお、前記多孔質層(溶射皮膜)は、基材に対して直接、もしくは予めアンダーコートを形成した後、そのアンダーコートの上に該酸化物の溶射皮膜を形成する。
【0022】
前記アンダーコートは、溶射法あるいは蒸着法などによって、Niおよびその合金、Coおよびその合金、Alおよびその合金、Tiおよびその合金、Moおよびその合金、Wおよびその合金、Crおよびその合金等の金属質の皮膜が好ましく、その膜厚は50〜500μm程度とすることが好ましい。
このアンダーコートの役割は、基材表面を腐食性環境から遮断して耐食性を向上させるとともに、基材と多孔質層との密着性の向上を図ることにある。従って、このアンダーコートの膜厚は20μm未満では十分な耐食性が得られないだけでなく均一な成膜が困難である。一方、その膜厚を500μmよりも厚くしても、耐食性の効果が飽和する。
【0023】
IIIa族に属する元素の酸化物からなる溶射皮膜によって形成される前記多孔質層は、平均気孔率が5〜20%程度である。この気孔率は、溶射法の種類、たとえば減圧プラスマ溶射法、大気プラズマ溶射法など、どの溶射法を採用するかによっても異なる。好ましい、平均気孔率の範囲は5〜10%程度である。この気孔率が5%未満では、皮膜に蓄積されている熱応力の緩和作用が弱く耐熱衝撃性が劣り、一方、10%とくに20%を超えると耐食性や耐プラズマエロージョン性が劣る。
【0024】
この多孔質(溶射皮膜)の表面は、大気プラズマ溶射法を適用したときに、平均粗さ(Ra)で3〜6μm程度、最大粗さ(Ry)で16〜32μm程度、10点平均粗さ(Rz)で8〜24μm程度の粗さを有する。
【0025】
本発明において、前記多孔質層を溶射皮膜とした理由は、このような皮膜は、耐熱衝撃性に優れる他、所定の膜厚の被覆層を短時間でしかも安価に得られることがあげられる。さらには、このような皮膜は、上層の緻密質二次再結晶層に加わる熱衝撃を緩和して、皮膜全体にかかるサーマルショックを和わらげる緩衝作用を担う。この意味によって下層に溶射皮膜を配し、上層に二次再結晶層を形成してなる複合皮膜とすることは、両者が相乗的に作用して皮膜としての耐久性を向上させる効果を生じさせる。
【0026】
そして、本発明において最も特徴的な構成は、前記多孔質層、即ち、IIIa族元素の酸化物からなる多孔質溶射皮膜の上に、例えば、この溶射皮膜の最表層の部分を変質させる態様で新たな層、即ち前記IIIa族元素の酸化物からなる多孔質層を二次変態させて二次再結晶層を設けた点にある。
【0027】
一般に、IIIa族元素の金属酸化物、たとえば酸化イットイリウム(イットリア:Y)の場合、結晶構造は正方晶系に属する立方晶である。その酸化イットリウム(以下、「イットイリア」という)の粉末を、プラズマ溶射すると、溶融した粒子が基材に向って高速で飛行する間に超急冷されながら、基材表面に衝突して堆積するときに、その結晶構造が立方晶(Cubic)の他に単斜晶(monoclinic)を含む混晶からなる結晶型に一次変態をする。
即ち、前記多孔質層の結晶型は、溶射の際に超急冷されることによって、一次変態して斜方晶系と正方晶系とを含む混晶からなる結晶型で構成されている。
これに対し、前記二次再結晶層とは、一次変態した前記混晶からなる結晶型が、正方晶系の結晶型に二次変態した層である。
【0028】
このように本発明では、主として一次変態した斜方晶系の結晶を含む混晶構造からなるIIIa族酸化物の前記多孔質層を、高エネルギー照射処理することによって、該多孔質層の堆積溶射粒子を少なくとも融点以上に加熱することによって、この層を再び変態(二次変態)させて、その結晶構造を正方晶系の組織に戻して結晶学的に安定化させることにしたものである。
【0029】
それと同時に、本発明では、溶射による一次変態時に、溶射粒子堆積層に蓄積された熱歪みや機械的歪みを解放して、その性状を物理的化学的に安定させ、かつ溶融に伴なうこの層の緻密化と平滑化をも実現することにしたものである。その結果、このIIIa族の金属酸化物からなる該二次再結晶層は、溶射ままの層と比べて緻密で平滑な層になる。
【0030】
従って、この二次再結晶層は、気孔率が5%未満、好ましくは2%未満の緻密化層となると共に、表面は平均粗さ(Ra)で0.8〜3.0μm、最大粗さ(Ry)で6〜16μm、10点平均粗さ(Rz)で3〜14μm程度になり、多孔質層と比べて著しく異なった層になる。なお、この最大粗さ(Ry)の制御は、耐環境汚染性の観点から決定される。その理由は、エッチング加工雰囲気中で励起されたプラズマイオンや電子によって、容器内部材の表面が削り取られ、パーティクルを発生する場合に、その影響は表面の最大粗さ(Ry)の値によく現われ、この値が大きいと、パーティクルの発生機会が増大するからである。
【0031】
次に、前記二次再結晶層を形成するために行う高エネルギー照射方法について説明する。本発明において採用する方法は、電子ビーム照射処理、COやYAGなどのレーザ照射処理が好適である。
(1)電子ビーム照射処理;この処理の条件としては、空気を排気した照射室内に、Arガスなどの不活性ガスを導入し、例えば次に示すような条件で処理することが推奨される。
照射雰囲気 :10〜0.0005Pa
ビーム照射出力 :0.1〜8kW
処理速度 :1〜30m/s
もちろん、これらの条件は、上記の範囲に限られるものではなく、本発明の所定の効果が得られる限り、これらの条件のみに限定されるものではない。
【0032】
電子ビーム照射処理されたIIIa族元素にかかる酸化物は、表面から温度が上昇して最終的には融点以上に達して溶融状態となる。この溶融現象は、電子ビーム照射出力を大きくしたり、照射回数を増加したり、また照射時間を長くすることによって次第に皮膜内部にも及んで行くので、照射溶融層の深さはこれらの照射条件を変えることによって、制御可能である。100μm以下、実用的には1μm〜50μmの溶融深さがあれば本発明の上記目的に適う二次再結晶層となる。
【0033】
(2)レーザービーム照射としては、YAG結晶を利用したYAGレーザ、また媒質がガスの場合にはCOガスレーザ等を使用することが可能である。このレーザービーム照射処理としては、次に示す条件が推奨される。
レーザ出力 :0.1〜10kW
レーザービーム面積 :0.01〜2500mm
処理速度 :5〜1000mm/s
【0034】
上記の電子ビーム照射処理やレーザービーム照射処理された層は、上述したとおり、高温変態して冷却時に二次再結晶を析出し、物理化学的に安定な結晶型に変化するので、皮膜の改質が結晶レベルの単位で進行する。例えば、大気プラズマ溶射法によって形成したY皮膜では、上述したとおり、溶射状態では斜方晶を含む混晶であるのに対し、電子ビーム照射後にはほとんどが立方晶に変化する。
【0035】
以下、高エネルギー照射処理した周期律表IIIa族元素の酸化物からなる二次再結晶層の特徴をまとめると、以下のとおりである。
a.高エネルギー照射処理されて生成する二次再結晶層は、下層の一次変態層である金属酸化物等からなる多孔質層をさらに二次変態させたもの、あるいはその下層の酸化物粒子は融点以上に加熱されることから、気孔の少なくとも一部が消滅して緻密化する。
【0036】
b.高エネルギー照射処理されて生成する二次再結晶層が、とくに下層の金属酸化物からなる多孔質層をさらに二次変態させて得た層である場合、特にそれが溶射法で形成された溶射皮膜の場合、溶射時の未溶融粒子も完全に溶融しかつ表面が鏡面状態になるから、プラズマエッチングされやすい突起物が消滅することとなる。即ち、前記多孔質層の場合、最大粗さ(Ry)は16〜32μmであるが、この処理を経た二次再結晶層の最大粗さ(Ry)は6〜16μm程度と著しく平滑な層になり、プラズマエッチング加工時の汚染原因であるパーティクルの発生が抑制される。
【0037】
c.上記a、bの効果によって、前記多孔質層は、高エネルギー照射処理によって生成する二次再結晶層のために、貫通気孔が塞がれ、これらの貫通気孔を介して内部(基材)に侵入する腐食性ガスがなくなって基材の耐食性を向上させるとともに、緻密化しているためにプラズマエッチング作用に対して強い抵抗力を発揮し、長時間にわたって優れた耐食性と耐プラズマエロージョン性を発揮する。
【0038】
d.前記二次再結晶層の下に多孔質層を有するので、この多孔質層が、耐熱衝撃性に優れた層として機能すると共に、緩衝域としての作用を担い、上層の緻密化された二次再結晶層に加わる熱衝撃性を緩和する働きを通じて、基材表面に形成した皮膜全体にかかるサーマルショックを和らげる効果を生む。とくに、この多孔質層と二次再結晶層を積層して複合層とした場合、その効果は複合的かつ相乗的なものとなる。
【0039】
なお、高エネルギー照射処理によって生成する前記二次再結晶層は、表面から1μm以上50μm以下の厚さの層にすることが好ましい。その理由は、1μm未満では成膜の効果がなく、一方、50μm超では高エネルギー照射処理の負担が大きくなると共に、成膜の効果が飽和するからである。
【実施例】
【0040】
(試験1)
この試験は、第IIIa族元素の酸化物による溶射の成膜の状態と、得られた皮膜を電子ビーム照射およびレーザービーム照射したときに形成される層の状況を調査したものである。なお、供試用のIIIa族の酸化物としは、Sc、Y、La、CeO、EuおよびYbの7種類の酸化物粉末(平均粒径:10〜50μm)を用いた。そして、これらの粉をアルミニウム製試験片(寸法:幅50mm×長さ60mm×厚さ8mm)の片面に直接、大気プラズマ溶射(APS)および減圧プラズマ溶射(LPPS)することによって、厚さ100μmの溶射皮膜を形成した。その後、これらの皮膜の表面を、電子ビーム照射処理およびレーザービーム照射処理を行った。表1は、この試験の結果をまとめたものである。
【0041】
なお、IIIa族元素の溶射法について試験したのは、これまで、原子番号57〜71のランタノイド系の金属酸化物についての溶射実績は報告されておらず、本発明の目的に適した皮膜の形成と電子ビーム照射の適用効果があるかどうか確認するためである。
【0042】
試験結果によると、供試酸化物は、表1の融点(2300〜2600℃)に示すとおり、ガスプラズマ熱源であっても十分によく溶融し、酸化物溶射皮膜特有の気孔は存在しているものの、比較的良好な皮膜となることがわかった。また、これらの皮膜表面を電子ビーム照射およびレーザビーム照射したものは、いずれの皮膜とも溶融現象によって突起物が消失し、全体に緻密で平滑な表面に変化することが確認できた。
【0043】
【表1】

【0044】
(試験2)
この試験は、前記試験1で作製した高エネルギー照射処理済み試験片の中から、Yの溶射皮膜について、この皮膜の電子ビーム照射処理前後における溶射皮膜断面を光学顕微鏡によって観察し、高エネルギー照射処理による皮膜のミクロ組織的変化を観察したものである。
【0045】
図1は、Y溶射皮膜(多孔質膜)、この皮膜を電子ビーム照射処理した後の皮膜およびアンダーコート層を有する複合皮膜における表面近傍のミクロ組織変化を模式的に示したものである。図1(a)に示す非照射試験片では、皮膜を構成している溶射粒子がそれぞれ独立して存在し、表面の粗さが大きいことがわかる。一方、図1(b)に示す電子ビーム照射処理によって、前記溶射皮膜上にミクロ組織の異なる新たな層が生成している。この層は、前記溶射粒子が相互に融合し、空隙の少ない緻密な層になったものである。なお、図1(c)は、アンダーコートを有する例を示す。
一方、電子ビーム照射によって生成した緻密層の下には、溶射皮膜特有の気孔の多い皮膜が存在し、耐熱衝撃性に優れた層になることが確認できた。
【0046】
(試験3)
この試験は、図1(a)のY溶射皮膜である多孔質層と、下記条件で電子ビーム照射処理によって生成した図1(b)に示す二次再結晶層をXRD測定することにより、それぞれの層の結晶構造を調べるために行ったものである。図2は、その結果を示すものであり、電子ビーム照射処理前のXRDパターンを示している。そして、図3は処理前の縦軸を拡大したX線回折チャートであり、図4は処理後の縦軸を拡大したX線回折チャートである。図3からわかるように、処理前のサンプルには、単斜晶を示すピークが特に30〜35°の範囲で観察され、立方晶と単斜晶が混在している様子がわかる。これに対し、図4に示すように、電子ビーム照射処理した二次再結晶層は、Y粒子を示すピークがシャープになり、単斜晶のピークは減衰し、面指数(202)、(3/0)などは確認できなくなっており、立方晶のみであることが確かめられた。なお、この試験は、理学電機社製RINT1500X線回折装置を用いて測定したものである。
X線回折条件
出力 40kV
走査速度 20/min
【0047】
図1において、符号1は基材、2は多孔質層(溶射粒子堆積層)、3は気孔(空隙)、4は粒子界面、5は貫通気孔、6は電子ビーム照射処理によって生成した二次再結晶層、そして7はアンダーコートである。なお、レーザービーム照射処理によっても、光学顕微鏡を用いて観察した結果、電子ビーム照射面と同様なミクロ組織変化が認められる。
【0048】
(実施例1)
この実施例は、Al基材(寸法:50mm×50mm×5m)の表面に、大気プラズマ溶射法によって80mass%Ni-20mass%Crのアンダーコート(溶射皮膜)を施工し、その上にYとCeOの粉末を用い、それぞれ大気プラズマ溶射法して多孔質皮膜を形成した。その後、これらの溶射皮膜表面を、電子ビーム照射とレーザービーム照射の2種類の高エネルギー照射処理した。次いで、このようにして得られた供試材の表面を下記の条件でプラズマエッチング加工を施した。そして、エッチング処理によって削られて飛散する皮膜成分のパーティクルの粒子数を測定することによって、耐プラズマエロージョン性と環境汚染特性を調査した。パーティクルは、この容器内に静置した直径8インチのシリコンウエハーの表面に付着する粒径0.2μm以上の粒子数が30個に達するまでの時間を測定することによって比較した。
【0049】
(1)雰囲気ガスと流量条件
含Fガスとして CHF/O/Ar=80/100/160(1分間当りの流量cm
含CHガスとして C/Ar=80/100(1分間当りの流量cm
(2)プラズマ照射出力
高周波電力 :1300W
圧力 :4Pa
温度 :60℃
(3)プラズマエッチング試験
a.含Fガス雰囲気での実施
b.含CHガス雰囲気での実施
c.含Fガス雰囲気1h⇔含CHガス雰囲気1hを交互に繰り返す雰囲気中での実施
【0050】
これらの試験結果を表2に示した。この表に示した結果から明らかなように、供試皮膜のエロージョンによるパーティクルの発生量は、含CHガス雰囲気中よりも含Fガス雰囲気中で処理した方が多く、パーティクルの粒子数が30個に達する時間が短い。しかし、両方のガスを交互に繰り返しながらプラズマエッチング環境を構成した場合、パーティクルの発生量が一段と多くなった。この原因は、含Fガス中における皮膜表面粒子のフッ化(酸化)反応と含CHガス雰囲気下における還元反応の繰り返しによって、皮膜表面粒子の化学的安定性が損なわれ、その結果、粒子の相互結合力が低下する一方、比較的安定な皮膜成分のフッ化物もプラズマのエッチング作用によって飛散され易くなったからと考えられる。
【0051】
これに対し、電子ビーム照射またはレーザービーム照射処理して得られる供試皮膜の場合、含Fガスと含CHガスの雰囲気が交互に繰り返されるような条件下であっても、パーティクルの飛散量が非常に少なく、優れた耐プラズマエロージョン性を示すことが確認された。
なお、シリコンウエハー表面に付着したパーティクルの主成分は、溶射成膜のままではY(Ce)、
F、Cであったが、この皮膜を電子ビーム照射またはレーザービーム照射した皮膜(二次再結晶層となったもの)の場合、発生するパーティクル中には、皮膜成分は殆ど認められず、FとCであった。
【0052】
【表2】

【0053】
(実施例2)
この実施例では、50mm×100mm×5mm厚のAl製基材の表面に、表3に示すような成膜材料を溶射して皮膜を形成した。その後、一部については、本発明に適合する二次再結晶層を形成すべく電子ビーム照射処理を行った。次いで、得られた供試材から寸法20mm×20mm×5mmの試験片を切り出したのち、照射処理した皮膜面の10mm×10mmの範囲が露出するように他の部分をマスクし、下記に示す条件にてプラズマ照射し、プラズマエロージョンによる損傷量を電子顕微鏡などによって求めた。
(1)ガス雰囲気と流量条件
CF/Ar/O=100/1000/10ml(1分間当りの流量)
(2)プラズマ照射出力
高周波電力 :1300W
圧力 :133.3Pa
【0054】
表3は、以上の結果をまとめたものである。この表に示す結果から明らかなように、比較例の陽極酸化皮膜(No.8)、BC溶射皮膜(No.9)、石英(無処理No.10))は、いずれもプラズマエロージョンによる損耗量が大きく、実用的でないことがわかった。
【0055】
これに対して、最外層に二次再結晶層を有する皮膜(No.1〜7)は、IIIa族元素を成膜材料に用いたことで、溶射ままの状態でも、ある程度の耐エロージョン性を示しており、とくに、この皮膜をさらに電子ビーム照射処理したときは、抵抗力が一段と向上し、プラズマエロージョン損傷量は10〜30%も低減することがわかった。
【0056】
【表3】

【0057】
(実施例3)
この実施例では、実施例2の方法で皮膜を形成し、電子ビーム照射処理の前後における形成皮膜の耐プラズマエロージョン性を調査した。供試材としては、Al基材上に直接、次に示すような混合酸化物を大気プラズマ溶射法によって200μmの厚さに形成したものを用いた。
(1)95%Y−5%Sc
(2)90%Y−10%Ce
(3)90%Y−10%Eu
なお、成膜後の電子ビーム照射およびガス雰囲気成分、プラズマ溶射条件などは、実施例2と同様である。
【0058】
表4は、以上の結果をプラズマエロージョン損傷量としてまとめたものである。この表に示す結果から明らかなように、本発明に適合する条件の下で周期律表IIIa族にある酸化物の皮膜は、これらの酸化物を混合状態で使用しても、表3に開示した比較例のAl((陽極酸化)、BC皮膜よりも耐プラズマエロージョン性が良好である。とくに、その皮膜を電子ビーム照射処理した場合には、その性能が格段に向上し、優れた耐プラズマエロージョン性を発揮することがわかった。
【0059】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の技術は、一般的な半導体加工装置に使われる部材、部品等はもとより、昨今の一段と精密・高度な加工が要求されているプラズマ処理装置用部材の表面処理技術として用いられる。とくに、本発明は、含Fガスや含CHガスをそれぞれ単独に使用する装置またはこれらのガスを交互に繰り返して使用するような苛酷な雰囲気中においてプラズマ処理する半導体加工装置のデポシールド、バッフルプレート、フォーカスリング、アッパー・ロワーインシュレータリング、シールドリング、ベローズカバー、電極、固体誘電体などの部材、部品等への表面処理技術として好適である。また、本発明は、液晶デバイス製造装置用部材の表面処理技術としての適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】この図は、従来溶射皮膜を有する部材の部分(a)、最外層に二次再結晶層を形成してなる部材(b)、およびアンダーコートを有する部材(c)の部分断面図である。
【図2】この図は、溶射皮膜(多孔質層)を電子ビーム照射処理したときに生成する二次再結晶層のX線回折図である。
【図3】電子ビーム照射処理前のY溶射皮膜のX線回折図である。
【図4】電子ビーム照射処理後の二次再結晶層のX線回折図である。
【符号の説明】
【0062】
1 基材
2 溶射皮膜(多孔質層)
3 気孔(空隙)
4 粒子界面
5 貫通気孔
6 二次再結晶層
7 アンダーコート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に、周期律表のIIIa族元素の酸化物からなる多孔質層を有し、かつその多孔質層上には、前記酸化物の二次再結晶層を有することを特徴とする半導体加工装置用セラミック被覆部材。
【請求項2】
基材と多孔質層との間に、アンダーコートを有することを特徴とする請求項1に記載の半導体加工装置用セラミック被覆部材。
【請求項3】
前記アンダーコートは、Ni、Al、W、Mo、Tiおよびこれらの合金、酸化物、窒化物、硼化物、炭化物などのセラミックスおよびこれらと前記金属・合金とからなるサーメットから選ばれた1種以上を、50〜500μmの厚さに形成した皮膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体加工装置用セラミック被覆部材。
【請求項4】
前記多孔質層は、50〜2000μmの層厚を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体加工装置用セラミック被覆部材。
【請求項5】
前記二次再結晶層は、多孔質層に含まれる一次変態した酸化物を高エネルギー照射処理によって、二次変態させて形成したものであること特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体加工装置用セラミック被覆部材。
【請求項6】
前記二次再結晶層は、斜方晶系の結晶を含む多孔質層が高エネルギー照射処理によって2次変態して正方晶系の組織になった層であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体加工装置用セラミック被覆部材。
【請求項7】
前記二次再結晶層は、最大粗さ(Ry)が6〜16μm程度であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の半導体加工装置用セラミック被覆部材。
【請求項8】
前記二次再結晶層は、100μm以下の層厚を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の半導体加工装置用セラミック被覆部材。
【請求項9】
前記高エネルギー照射処理は、電子ビーム照射またはレーザービーム照射のいずれかの方法であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の半導体加工装置用セラミック被覆部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−247042(P2007−247042A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−76196(P2006−76196)
【出願日】平成18年3月20日(2006.3.20)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【出願人】(000109875)トーカロ株式会社 (127)
【Fターム(参考)】