説明

半導体封止用樹脂組成物、および半導体装置

【課題】良好な耐燃性、耐半田性および連続成形性を有するとともに、低コストで製造できる、半導体封止用樹脂組成物を提供する。
【解決手段】一般式(1)


(R1およびR3は炭素数1〜10の炭化水素基、R2は炭素数1〜10の炭化水素基、水酸基、aは0〜3の整数、bおよびcは0〜4の整数、mは0〜10の整数でありm≦1の成分を含み、nは0〜10の整数。ただし、n=0のみの場合、及びm=0のみの場合を除く)で表される構造を含むフェノール樹脂と、エポキシ樹脂と、無機充填剤と、硬化促進剤と、グリセリントリ脂肪酸エステルと、を含む半導体封止用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体封止用樹脂組成物、および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、集積回路(IC)、大規模集積回路(LSI)、超大規模集積回路(VLSI)などの電子部品や半導体装置の高密度化、高集積化に伴い、それらの実装方式は、挿入実装から表面実装に移り変わりつつある。また、半導体装置の小型化、軽量化、リードフレーム多ピン化という要求から、表面実装型QFP(Quad Flat Package)などに代表される半導体装置が実用化されている。これらの半導体装置は、生産性、コスト、信頼性などのバランスに優れることからエポキシ樹脂組成物を用いた金型成形(封止)が主流となっている。
従来、封止用エポキシ樹脂組成物には、半導体装置に難燃性を付与する目的から、臭素含有エポキシ樹脂、酸化アンチモンが難燃剤として一般的に使用されてきたが、近年、環境保護の観点からダイオキシン類似化合物を発生する危惧のある含ハロゲン化合物や毒性の高いアンチモン化合物の使用を規制する動きが高まっている。
こうした中、ブロム化エポキシ樹脂やアンチモン化合物の代替の難燃剤として、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物が提案されているが、溶融樹脂粘度の増加による流動性の低下、耐半田性の低下を引き起こしやすく、成形性や信頼性の面で十分でない場合がある。
また、従来の実装に用いられた半田に含有されている鉛が有害であるため、無鉛半田への代替も進められている。無鉛半田の融点は従来の鉛/スズ半田に比べて高く、赤外線リフロー、半田浸漬などの半田実装時の温度も従来の220℃〜240℃から、240℃〜260℃へと高くなる。このような実装温度の上昇により、実装時に樹脂部にクラックが生じる可能性が高くなる。
更にリードフレームについても、外装半田メッキを脱鉛する必要があることから、外装半田メッキに代わり、予めニッケル・パラジウムメッキを施したリードフレームの適用が進められている。このニッケル・パラジウムメッキは従来の封止材料では十分な密着性が確保できず、実装時にリードフレームとの剥離が生じやすいという問題を抱えている。
半導体装置には、上述のような環境対応と信頼性を両立させることが求められ、特にTSOP(薄型スモール・アウトライン・パッケージ)、LQFP(ロー・プロファイル・クワッド・フラット・パッケージ)などの薄型の表面実装パッケージにおいては重要な課題となっている。
【0003】
上記のような状況から、難燃性付与剤を添加しなくても良好な難燃性が得られる半導体封止用エポキシ樹脂組成物として、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル型硬化剤を用いたエポキシ樹脂組成物が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
これらのエポキシ樹脂組成物は、低吸水性、熱時低弾性率、高接着性で、難燃性に優れ、信頼性の高い半導体装置を得ることができるという利点を有するものの、硬化後の成形物は軟らかく、かつ親油性が高いために、半導体装置の封止工程で連続成形性に不具合が生じ、生産性が低下する場合がある。
このような問題に対して、硬化剤の分子量分布を調整する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。しかしながら、上述の分子量分布の調整には、例えばフェノール樹脂を合成した後に、蒸留や分別カラムなどを用いた分子量分級、または合成に先立ち、予めモノマー原料を精製する工程が必要となり、工業化にあたっては大規模な精製設備および溶剤処理設備を必要とする上、回収ロスなどによっても、生産コストが上昇するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−140277号公報
【特許文献2】特許第3627736号公報
【特許文献3】国際公開第2005/087833号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、良好な耐燃性および耐半田性を有するとともに、連続成形性に優れ、低コストで製造できる、半導体封止用樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、一般式(1)
【化1】

(一般式(1)において、R1およびR3は、互いに独立して、炭素数1〜10の炭化水素基であり、R2は、互いに独立して、炭素数1〜10の炭化水素基、または水酸基であり、aは0〜3の整数、bおよびcは0〜4の整数、mは0〜10の整数でありm≦1の成分を含み、nは0〜10の整数である。ただし、n=0のみの場合、及びm=0のみの場合を除く。)
で表される構造を含むフェノール樹脂と、
エポキシ樹脂と、
無機充填剤と、
硬化促進剤と、
グリセリントリ脂肪酸エステルと、
を含むことを特徴とする。
【0007】
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、上記一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂を含むことを特徴とする。
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、硬化促進剤として、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、およびホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする。
本発明の半導体装置は、半導体素子を、半導体封止用樹脂組成物で封止して得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、良好な耐燃性および耐半田性を有するとともに、流動性と硬化性に優れ、さらに連続成形性に優れ、低コストで製造できる、半導体封止用樹脂組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る半導体封止用樹脂組成物を用いた半導体装置の一例について、断面構造を示した図である。
【図2】フェノール樹脂1のGPCチャートである。
【図3】フェノール樹脂1のFD−MSチャートである。
【図4】フェノール樹脂2のGPCチャートである。
【図5】フェノール樹脂3のGPCチャートである。
【図6】フェノール樹脂4のGPCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を用いて、本発明による半導体封止用樹脂組成物および半導体装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、上記一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂と、エポキシ樹脂と、無機充填剤と、硬化促進剤と、グリセリントリ脂肪酸エステルと、を含むものである。
本発明は、上記一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂を用いる。上記フェノール樹脂の、繰り返し数nで表される構造単位は、ビフェニレンアラルキル骨格を有することにより、樹脂組成物の耐燃性向上、吸水率低減、耐半田性向上などの効果がある。さらに、繰り返し数mで表される構造単位を有することにより、フェノール性水酸基の密度を局所的に高め、エポキシ基と良好な反応性を示すことが出来、結果として、上記フェノール樹脂は、低コストで耐燃性、耐半田性、反応性、連続成形性を兼ね備えるという特徴を有する。
【0012】
一般式(1)中のR1およびR3は、炭素数1〜10の炭化水素基であり、互いに同じであっても異なっていても良く、芳香族基を含む炭化水素基であることが好ましい。これによりビフェニレン骨格に加え、さらに芳香族環が多くなり、これを用いた樹脂組成物の硬化物の耐燃性をより優れたものとすることができる。R1およびR3は、ベンゼン環のいずれの位置に結合していてもよい。aは0〜3の整数であり、cは0〜4の整数である。
一般式(1)中のR2は、炭素数1〜6の炭化水素基、または水酸基であり、互いに同じであっても異なっていても良い。R2は、ベンゼン環のいずれの位置に結合していてもよい。bは0〜4の整数である。
【0013】
また、一般式(1)中のnは、0〜10の整数であり、流動性の観点から、n=1および2である化合物が主成分であることが望ましい。n=1および2である成分の含有割合の下限値としては、特に限定されないが、一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂に対して30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。n=1および2である成分の含有割合の下限値が上記範囲内であると、樹脂組成物は良好な流動性を発現することができる。n=1および2である成分の含有割合を前述の好ましい範囲とするためには、後述する方法[1]により調整することができる。
【0014】
また、一般式(1)中のmは、0〜10の整数でありm≦1の成分を含み、平均値が0よりも大きければ特に制限はない。一般式(1)においてm=0の成分は、ビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂であり、耐燃性、低吸水性、耐半田クラック性に優れるものの、反応性は十分ではなく、高い親油性を示すために連続成形性が十分でない場合がある。一方、m≧1、かつn≧1の成分はビフェニレン骨格と高密度のフェノール性水酸基部位と兼ね備えることで、m=0成分と良好な相溶性を保ちながら、エポキシ樹脂と良好な反応性と硬化性を示し、結果として樹脂組成物は良好な連続成形性を発現するものと考えられる。
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、上記一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂が、1≦m≦10のフェノール樹脂とm=0のフェノール樹脂とを含むことが好ましい。
【0015】
また、上記一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂は、mの値が大きいほど、すなわち高密度フェノール性水酸基部位が増えるほど、フェノール樹脂自体の粘度は高く、樹脂組成物の流動性が損なわれる。上記一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂は、連続成形性と流動性の両立させる観点から、m=0および1の成分が主成分であることが好ましい。
一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂の全質量中に含まれる「1≦m≦10」成分の含有割合を(A)質量%、「m=0」成分の含有割合を(B)質量%とした場合、成分比A/Bが0.05以上1.5以下であることが好ましく、0.1以上1以下であることがより好ましい。成分比A/Bの下限値が上記範囲内であると、樹脂組成物は良好な硬化性と連続成形性を発現することができる。成分比A/Bの上限値が上記範囲内であると、樹脂組成物は良好な流動性を発現することができる。成分比A/Bを前述の好ましい範囲とするためには、後述する方法[2]により調整することができる。
特に、一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂の全質量中に含まれる「1≦m≦10かつn=1〜3」成分の含有割合を(a)質量%、「m=0かつn=1〜3」成分の含有割合を(b)質量%とした場合、成分比a/bが0.05以上0.55以下であることが好ましく、0.1以上0.4以下であることがより好ましい。成分比a/bの下限値が上記範囲内であると、樹脂組成物は良好な硬化性と連続成形性を発現することができる。成分比a/bの上限値が上記範囲内であると、樹脂組成物は良好な流動性を発現することができる。成分比a/bを前述の好ましい範囲とするためには、後述する方法[2]により調整することができる。
【0016】
上記フェノール樹脂の合成反応の際に、得られるフェノール樹脂中には、一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂のほかに、一般式(1)においてn=0成分が含まれる場合があり、その含有量は特に制限はないが、一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂に対して30質量%以下、より好ましくは25%質量以下であることが好ましい。上限値が上記範囲内であると、得られる樹脂組成物は良好な耐半田性と耐燃性を有する。n=0成分の含有割合を前述の好ましい範囲とするためには、後述する方法[3]により調整することができる。
【0017】
一般式(1)中のm=0成分、1≦m≦10成分の含有割合は、次のようにして算出することができる。上記フェノール樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定を行って、検出されたピークに対応する各成分のポリスチレン換算分子量を求め、検出されたピーク面積の比から検出されたピークに対応する各成分の含有割合(質量%)を算出する。
本発明におけるゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定は、次のように行われる。GPC装置は、ポンプ、インジェクター、ガードカラム、カラムおよび検出器から構成され、溶媒にはテトラヒドロフラン(THF)を用いる。ポンプの流速は0.5ml/分にて測定を行う。これよりも高い流速では目的の分子量の検出精度が低くなるため好ましくない。上記の流速で精度よく測定を行うためには流量精度の良いポンプを使用することが必要であり、流量精度は0.10%以下が好ましい。ガードカラムには市販のガードカラム(例えば、東ソー(株)製TSK GUARDCOLUMN HHR−L:径6.0mm、管長40mm)、カラムには市販のポリスチレンジェルカラム(東ソー(株)製TSK−GEL GMHHR−L:径7.8mm、管長30mm)を複数本直列接続させる。検出器には示差屈折率計(RI検出器。例えば、WATERS社製示差屈折率(RI)検出器W2414)を用いる。測定に先立ち、ガードカラム、カラムおよび検出器内部は40℃に安定させておく。試料には、濃度3〜4mg/mlに調整した上記フェノール樹脂のTHF溶液を用意し、これを約50〜150μlインジェクターより注入して測定を行う。試料の解析にあたっては、単分散ポリスチレン(以下PS)標準試料により作成した検量線を用いる。検量線はPSの分子量の対数値とPSのピーク検出時間(保持時間)をプロットし、3次式に回帰したものを用いる。検量線作成用の標準PS試料としては、昭和電工(株)製ShodexスタンダードSL−105シリーズの品番S−1.0(ピーク分子量1060)、S−1.3(ピーク分子量1310)、S−2.0(ピーク分子量1990)、S−3.0(ピーク分子量2970)、S−4.5(ピーク分子量4490)、S−5.0(ピーク分子量5030)、S−6.9(ピーク分子量6930)、S−11(ピーク分子量10700)、S−20(ピーク分子量19900)を使用する。なお、m=0成分のピーク位置の同定には市販のビフェニレン骨格含有フェノールアラルキル樹脂(例えば、明和化成(株)製、MEH−7851など)を、n=0成分のピーク位置同定には市販のトリフェニルプロパン型フェノール樹脂(例えば、明和化成(株)製、MEH−7500など)の測定を行う。
【0018】
上記フェノール樹脂は、一般式(1)で表される構造以外の構造を含んでいてもよく、水酸基を有する芳香族炭化水素に、二価の炭化水素基が結合した構造であれば、特に限定されるものではない。例えば、水酸基を有する芳香族炭化水素として、フェノール、ジヒドロキシベンゼン、トリヒドロキシベンゼン、ヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシナフタレン、トリヒドロキシナフタレン、ヒドロキシアントラセン、ジヒドロキシアントラセンなどの構造を挙げることができ、二価の炭化水素基として、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、ベンジリデン基、フェニルエチリデン基、フェニレンビスメチレン(キシリレン)基、フェニレンビスエチリデン基、ビフェニレンビスメチレン基、ビフェニレンビスエチリデン基、ナフチレンビスメチレン基、ナフチレンビスエチリデン基などを挙げることができる。
【0019】
本発明の半導体封止用樹脂組成物で用いられる一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂は、例えば、下記一般式(2)で表されるビフェニレン化合物、下記一般式(3)で表されるヒドロキシベンズアルデヒド化合物、フェノール化合物、とを酸性触媒下で反応することにより得ることができる。
【0020】
【化2】

(一般式(2)において、Xは、水酸基、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。R3は、互いに独立して、炭素数1〜10の炭化水素基であり、cは0〜4の整数である。)
【0021】
【化3】

(一般式(3)において、R2は、互いに独立して、炭素数1〜10の炭化水素基、または水酸基であり、bは0〜4の整数である。)
【0022】
一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂の原料に用いられるビフェニレン化合物としては、上記一般式(2)で表される化学構造であれば特に限定されない。
例えば4,4’−ビスクロロメチルビフェニル、4,4’−ビスブロモメチルビフェニル、4,4’−ビスヨードメチルビフェニル、4,4’−ビスヒドロキシメチルビフェニル、4,4’−ビスメトキシメチルビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビスクロロメチルビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビスブロモメチルビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビスヨードメチルビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビスヒドロキシメチルビフェニル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビスメトキシメチルビフェニルなどが挙げられる。
なお、Xがハロゲン原子である場合には、反応時に副生するハロゲン化水素が酸性触媒として作用することから、反応系中に酸性触媒を添加する必要は無く、少量の水を添加することで速やかに反応を開始することが出来る。これらの中でも、入手容易性という観点からは4,4’−ビスメトキシメチルビフェニル、4,4’−ビスクロロメチルビフェニルが比較的安価に入手することが出来る。これらは、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0023】
一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂の原料に用いられるヒドロキシベンズアルデヒド類としては、一般式(3)で表される化学構造であれば特に限定されない。具体的には、o−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、2,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド、2,5−ジヒドロキシベンズアルデヒド、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンズアルデヒド、2−ヒドロキシ−5−メチルベンズアルデヒドなどが挙げられる。これらの中でも工業的に入手が容易であるという点でo−ヒドロキシベンズアルデヒドが好ましい。これらは、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0024】
一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂の製造に用いられるフェノール化合物としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、p−クレゾール、m−クレゾール、フェニルフェノール、エチルフェノール、n−プロピルフェノール、iso−プロピルフェノール、t−ブチルフェノール、キシレノール、メチルプロピルフェノール、メチルブチルフェノール、ジプロピルフェノール、ジブチルフェノール、ノニルフェノール、メシトール、2,3,5−トリメチルフェノール、2,3,6−トリメチルフェノールなどが挙げられるが、これらに限定されない。
これらの中でも、コスト面からはフェノール、o−クレゾールが好ましく、更にフェノールが、エポキシ樹脂との反応性という観点からより好ましい。これらは、1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
本発明で用いられるフェノール樹脂の合成方法については特に限定しないが、例えば、上記のフェノール化合物1モルに対して、ビフェニレン化合物類、ヒドロキシベンズアルデヒド類とを合計0.1〜0.8モル、ビフェニレン化合物類/ヒドロキシベンズアルデヒド類比(質量比)を1〜10、蟻酸、シュウ酸、p−トルエンスルホン酸、塩酸、硫酸、燐酸、酢酸、ルイス酸などの酸性触媒0.01〜0.05モルを50〜180℃の温度で、窒素フローにより発生ガスおよび水分を系外へ排出しながら、2〜20時間反応させ、反応終了後に残留する未反応フェノール、反応副生物(例えばハロゲン化水素やメタノール)、触媒(例えば塩酸)を減圧蒸留、水蒸気蒸留などの方法で留去することによって得ることができる。
【0026】
ここで、上記フェノール樹脂を前述の好ましい範囲とする方法として、例えば下記の方法などが挙げられる。
[1]n=1〜2の成分の含有割合を前述の好ましい範囲とするために、酸触媒の配合量を減らす、フェノール化合物/ビフェニレン化合物の仕込み比率を高くする、反応温度を下げる、などの方法により、n=1〜2の成分の含有割合を高くすることができる。
[2]上述の成分比A/Bを前述の好ましい範囲とするために、ビフェニレン化合物/ヒドロキシベンズアルデヒド比を高くする、または、別途合成したm=0成分を上述の合成前後に添加するなどの方法により、成分比A/Bを低減することができる。
[3]n=0成分の含有割合を前述の好ましい範囲とするために、フェノール化合物とビフェニレン化合物とを酸性触媒を用いて縮合反応させながら、反応の中盤から終盤にかけてヒドロキシベンズアルデヒドを反応系に徐々に添加する方法をとってもよい。この場合、反応の進行はビフェニレン化合物とフェノールとの反応で副生成する水、ハロゲン化水素、アルコールのガスの発生状況や、または反応途中の生成物をサンプリングしてゲルパーミエーションクロマトグラフ法により分子量で確認することができる。
【0027】
本発明の半導体封止用樹脂組成物では、上記フェノール樹脂を用いることによる効果が損なわれない範囲で、他の硬化剤を併用することができる。
併用できる硬化剤としては、例えば重付加型の硬化剤、触媒型の硬化剤、縮合型の硬化剤などを挙げることができる。
重付加型の硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、メタキシレリレンジアミンなどの脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族ポリアミンのほか、ジシアンジアミド、有機酸ジヒドララジドなどを含むポリアミン化合物;ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などの脂環族酸無水物、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸などの芳香族酸無水物などを含む酸無水物;ノボラック型フェノール樹脂、フェノールポリマーなどのポリフェノール化合物;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテルなどのポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネートなどのイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂などの有機酸類などが挙げられる。
【0028】
触媒型の硬化剤としては、例えば、ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリスジメチルアミノメチルフェノールなどの3級アミン化合物;2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール化合物;BF錯体などのルイス酸などが挙げられる。
縮合型の硬化剤としては、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂などのフェノール樹脂系硬化剤;メチロール基含有尿素樹脂のような尿素樹脂;メチロール基含有メラミン樹脂のようなメラミン樹脂などが挙げられる。
【0029】
これらの中でも、耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、保存安定性などのバランスの点からフェノール樹脂系硬化剤が好ましい。フェノール樹脂系硬化剤は、一分子内にフェノール性水酸基を2個以上有するモノマー、オリゴマー、ポリマー全般であり、その分子量、分子構造を特に限定するものではないが、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、ナフトールノボラック樹脂などのノボラック型樹脂;トリフェノールメタン型フェノール樹脂などの多官能型フェノール樹脂;テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂などの変性フェノール樹脂;フェニレン骨格および/またはビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂などのアラルキル型樹脂;ビスフェノールA、ビスフェノールFなどのビスフェノール化合物などが挙げられ、これらは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。これらのうち、硬化性の点から水酸基当量は90g/eq以上、250g/eq以下のものが好ましい。
【0030】
このような他の硬化剤を併用する場合において、一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂の配合割合としては、全硬化剤に対して、15質量%以上であることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、35質量%以上であることが特に好ましい。配合割合が上記範囲内であると、良好な流動性と硬化性を保持しつつ、耐燃性、耐半田性を向上させる効果を得ることができる。
硬化剤全体の配合割合の下限値については、特に限定されないが、全樹脂組成物中に、0.8質量%以上であることが好ましく1.5質量%以上であることがより好ましい。配合割合の下限値が上記範囲内であると、充分な流動性を得ることができる。また、硬化剤全体の配合割合の上限値についても、特に限定されないが、全樹脂組成物中に、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましい。配合割合の上限値が上記範囲内であると、良好な耐半田性を得ることができる。
【0031】
本発明の半導体封止用樹脂組成物に用いられるエポキシ樹脂としては、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂などの結晶性エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂などの多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂などのアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂などのナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレートなどのトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂などの有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂が挙げられるが、これらに限定されない。
フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂などのアラルキル型エポキシ樹脂およびこれらのエポキシ樹脂は、耐半田性、耐燃性および連続成形性のバランスに優れる点で好ましく、結晶性エポキシ樹脂は、さらに流動性に優れる点で好ましい。また、得られる半導体封止用樹脂組成物の耐湿信頼性の観点から、イオン性不純物であるNaイオンやClイオンを極力含まないことが好ましく、半導体樹脂組成物の硬化性の観点から、エポキシ樹脂のエポキシ当量は、100g/eq以上、500g/eq以下であることが好ましい。
【0032】
半導体封止用樹脂組成物中のエポキシ樹脂の配合量は、半導体封止用樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは2質量%以上であり、より好ましくは4質量%以上である。下限値が上記範囲内であると、得られる樹脂組成物は良好な流動性を有する。また、半導体封止用樹脂組成物中のエポキシ樹脂の配合量は、半導体封止用樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは13質量%以下である。上限値が上記範囲内であると、得られる樹脂組成物は良好な耐半田性を有する。
なお、フェノール樹脂とエポキシ樹脂とは、全エポキシ樹脂のエポキシ基数(EP)と、全フェノール樹脂のフェノール性水酸基数(OH)との当量比(EP)/(OH)が、0.8以上、1.3以下となるように配合することが好ましい。当量比が上記範囲内であると、得られる樹脂組成物を成形する際、十分な硬化特性を得ることができる。
【0033】
本発明の半導体封止用樹脂組成物に用いられる無機充填剤としては、当該分野で一般的に用いられる無機充填剤を使用することができる。
例えば、溶融シリカ、球状シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素、窒化アルミなどが挙げられる。無機充填剤の粒径は、金型キャビティへの充填性の観点から、0.01μm以上、150μm以下であることが望ましい。
半導体封止用樹脂組成物中の無機充填剤の量は、半導体封止用樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは80質量%以上であり、より好ましくは83質量%以上であり、さらに好ましくは86質量%以上である。下限値が上記範囲内であると、得られる樹脂組成物の硬化に伴う吸湿量の増加や、強度の低下が低減でき、したがって良好な耐半田クラック性を有する硬化物を得ることができる。
また、半導体封止用樹脂組成物中の無機充填剤の量は、半導体封止用樹脂組成物の全質量に対して、好ましくは93質量%以下であり、寄り好ましくは91質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。上限値が上記範囲内であると、得られる樹脂組成物は良好な流動性を有するとともに、良好な成形性を備える。
なお、後述する、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物や、硼酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、三酸化アンチモンなどの無機系難燃剤を用いる場合には、これらの無機系難燃剤と上記無機充填剤の合計量を上記範囲内とすることが望ましい。
【0034】
本発明に用いる硬化促進剤は、エポキシ樹脂のエポキシ基とフェノール性水酸基を2個以上含む化合物のフェノール性水酸基との反応を促進するものであればよく、一般の半導体封止用エポキシ樹脂組成物に使用されているものを利用することができる。
具体例としては、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物などのリン原子含有硬化促進剤;1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、ベンジルジメチルアミン、2−メチルイミダゾールなどの窒素原子含有硬化促進剤が挙げられ、これらのうち、リン原子含有硬化促進剤が好ましい硬化性を得ることができる。流動性と硬化性のバランスの観点から、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物などの潜伏性を有するリン原子含有硬化促進剤がより好ましい。 流動性という点を重視する場合には、テトラ置換ホスホニウム化合物が特に好ましく、また半導体封止用樹脂組成物の硬化物熱時低弾性率という点を重視する場合にはホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物が特に好ましく、また潜伏的硬化性という点を重視する場合にはホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が特に好ましい。
本発明の半導体封止用樹脂組成物で用いることができる有機ホスフィンとしては、例えばエチルホスフィン、フェニルホスフィンなどの第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィンなどの第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィンなどの第3ホスフィンが挙げられる。
【0035】
本発明の半導体封止用樹脂組成物で用いることができるテトラ置換ホスホニウム化合物としては、例えば下記一般式(4)で表される化合物などが挙げられる。
【化4】

(ただし、上記一般式(4)において、Pはリン原子を表す。R4、R5、R6およびR7は芳香族基またはアルキル基を表す。Aはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸のアニオンを表す。AHはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸を表す。x、yは1〜3の整数、zは0〜3の整数であり、かつx=yである。)
一般式(4)で表される化合物は、例えば以下のようにして得られるがこれに限定されるものではない。まず、テトラ置換ホスホニウムハライドと芳香族有機酸と塩基を有機溶剤に混ぜ均一に混合し、その溶液系内に芳香族有機酸アニオンを発生させる。次いで水を加えると、一般式(4)で表される化合物を沈殿させることができる。一般式(4)で表される化合物において、リン原子に結合するR4、R5、R6およびR7がフェニル基であり、かつAHはヒドロキシル基を芳香環に有する化合物、すなわちフェノール類であり、かつAは上記フェノール類のアニオンであるのが好ましい。
【0036】
本発明の半導体封止用樹脂組成物で用いることができるホスホベタイン化合物としては、例えば下記一般式(5)で表される化合物などが挙げられる。
【化5】

(ただし、上記一般式(5)において、X1は炭素数1〜3のアルキル基、Y1はヒドロキシル基を表す。fは0〜5の整数であり、gは0〜4の整数である。)
一般式(5)で表される化合物は、例えば以下のようにして得られる。
まず、第三ホスフィンであるトリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩とを接触させ、トリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩が有するジアゾニウム基とを置換させる工程を経て得られる。しかしこれに限定されるものではない。
【0037】
本発明の半導体封止用樹脂組成物で用いることができるホスフィン化合物とキノン化合物との付加物としては、例えば下記一般式(6)で表される化合物などが挙げられる。
【化6】

(ただし、上記一般式(6)において、Pはリン原子を表す。R8、R9およびR10は炭素数1〜12のアルキル基または炭素数6〜12のアリール基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。R11、R12およびR13は水素原子または炭素数1〜12の炭化水素基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよく、R11とR12が結合して環状構造となっていてもよい。)
【0038】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリス(ベンジル)ホスフィンなどの芳香環に無置換またはアルキル基、アルコキシル基などの置換基が存在するものが好ましく、アルキル基、アルコキシル基などの置換基としては1〜6の炭素数を有するものが挙げられる。入手しやすさの観点からはトリフェニルホスフィンが好ましい。
またホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるキノン化合物としては、o−ベンゾキノン、p−ベンゾキノン、アントラキノン類が挙げられ、中でもp−ベンゾキノンが保存安定性の点から好ましい。
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物の製造方法としては、有機第三ホスフィンとベンゾキノン類の両者が溶解することができる溶媒中で接触、混合させることにより付加物を得ることができる。溶媒としてはアセトンやメチルエチルケトンなどのケトン類で付加物への溶解性が低いものがよい。しかしこれに限定されるものではない。
一般式(6)で表される化合物において、リン原子に結合するR8、R9およびR10がフェニル基であり、かつR11、R12およびR13が水素原子である化合物、すなわち1,4−ベンゾキノンとトリフェニルホスフィンを付加させた化合物が半導体封止用樹脂組成物の硬化物の熱時弾性率を低下させる点で好ましい。
【0039】
本発明の半導体封止用樹脂組成物で用いることができるホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物としては、例えば下記一般式(7)で表される化合物などが挙げられる。
【化7】

(ただし、上記一般式(7)において、Pはリン原子を表し、Siは珪素原子を表す。R14、R15、R16およびR17は、それぞれ、芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基を表し、互いに同一であっても異なっていてもよい。式中X2は、基Y2およびY3と結合する有機基である。式中X3は、基Y4およびY5と結合する有機基である。Y2およびY3は、プロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y2およびY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。Y4およびY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y4およびY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。X2、およびX3は互いに同一であっても異なっていてもよく、Y2、Y3、Y4、およびY5は互いに同一であっても異なっていてもよい。Z1は芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基である。)
一般式(7)において、R14、R15、R16およびR17としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ベンジル基、メチル基、エチル基、n−ブチル基、n−オクチル基およびシクロヘキシル基などが挙げられ、これらの中でも、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基などの置換基を有する芳香族基もしくは無置換の芳香族基がより好ましい。
【0040】
また、一般式(7)において、X2は、Y2およびY3と結合する有機基である。同様に、X3は、基Y4およびY5と結合する有機基である。Y2およびY3はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y2およびY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。同様にY4およびY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y4およびY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。基X2およびX3は互いに同一であっても異なっていてもよく、基Y2、Y3、Y4、およびY5は互いに同一であっても異なっていてもよい。このような一般式(7)中の−Y2−X2−Y3−、および−Y4−X3−Y5−で表される基は、プロトン供与体が、プロトンを2個放出してなる基で構成されるものであり、プロトン供与体としては、例えば、カテコール、ピロガロール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,2’−ビフェノール、1,1’−ビ−2−ナフトール、サリチル酸、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、クロラニル酸、タンニン酸、2−ヒドロキシベンジルアルコール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,2−プロパンジオールおよびグリセリンなどが挙げられるが、これらの中でも、カテコール、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。
また、一般式(7)中のZ1は、芳香環または複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基を表し、これらの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基およびオクチル基などの脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基およびビフェニル基などの芳香族炭化水素基、グリシジルオキシプロピル基、メルカプトプロピル基、アミノプロピル基およびビニル基などの反応性置換基などが挙げられるが、これらの中でも、メチル基、エチル基、フェニル基、ナフチル基およびビフェニル基が熱安定性の面から、より好ましい。
【0041】
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物の製造方法としては、メタノールを入れたフラスコに、フェニルトリメトキシシランなどのシラン化合物、2,3−ジヒドロキシナフタレンなどのプロトン供与体を加えて溶かし、次に室温攪拌下ナトリウムメトキシド−メタノール溶液を滴下する。さらにそこへ予め用意したテトラフェニルホスホニウムブロマイドなどのテトラ置換ホスホニウムハライドをメタノールに溶かした溶液を室温攪拌下滴下すると結晶が析出する。析出した結晶を濾過、水洗、真空乾燥すると、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が得られる。しかし、これに限定されるものではない。
【0042】
本発明の半導体封止用樹脂組成物に用いることができる硬化促進剤の配合割合は、全樹脂組成物中0.1質量%以上、1質量%以下であることがより好ましい。硬化促進剤の配合量が上記範囲内であると、充分な硬化性を得ることができる。また、硬化促進剤の配合量が上記範囲内であると、充分な流動性を得ることができる。
【0043】
本発明で用いられるグリセリントリ脂肪酸エステル(E)は、グリセリンと飽和脂肪酸より得られるトリエステルであり、離型剤として作用する。本発明で用いられるグリセリントリ脂肪酸エステル(E)としては、特に限定するものではないが、例えば、グリセリントリカプロン酸エステル、グリセリントリカプリル酸エステル、グリセリントリカプリン酸エステル、グリセリントリラウリン酸エステル、グリセリントリミリスチン酸エステル、グリセリントリパルミチン酸エステル、グリセリントリステアリン酸エステル、グリセリントリアラキン酸エステル、グリセリントリベヘン酸エステル、グリセリントリリグノセリン酸エステル、グリセリントリセロチン酸エステル、グリセリントリモンタン酸エステル、グリセリントリメリシン酸エステル等が挙げられる。中でも炭素数22以上、36以下の飽和脂肪酸とのグリセリントリ脂肪酸エステルが好ましい。さらにグリセリントリモンタン酸エステルがより好ましい。これらのグリセリントリ脂肪酸エステルは1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。尚、本発明中の飽和脂肪酸の炭素数とは飽和脂肪酸中のアルキル基とカルボキシル基の炭素数を合計したものを指す。
【0044】
本発明で用いられるグリセリントリ脂肪酸エステル(E)の滴点は、70℃以上、120℃以下が好ましく、より好ましくは80℃以上、110℃以下である。滴点は、ASTM D127に準拠した方法により測定することができる。具体的には、金属ニップルを用いて、溶融したワックスが金属ニップルから最初に滴下するときの温度として測定される。以下の例においても、同様の方法により測定することができる。グリセリントリ脂肪酸エステル(E)の滴点が上記範囲内であると、グリセリントリ脂肪酸エステル(E)は熱安定性に優れ、連続成形時にグリセリントリ脂肪酸エステル(E)が焼き付きにくい。そのため、金型からの樹脂硬化物の離型性に優れるとともに、連続成形性にも優れる。さらに、上記範囲内であると、樹脂組成物を硬化させる際、グリセリントリ脂肪酸エステル(E)が十分に溶融する。これにより、樹脂硬化物中にグリセリントリ脂肪酸エステル(E)が略均一に分散する。そのため、グリセリントリ脂肪酸エステル(E)の樹脂硬化物表面への偏析が抑制され、金型汚れや樹脂硬化物外観の悪化を低減することができる。
【0045】
本発明で用いられるグリセリントリ脂肪酸エステル(E)の酸価は、10mgKOH/g以上、50mgKOH/g以下が好ましく、より好ましくは15mgKOH/g以上、40mgKOH/g以下である。酸価は樹脂硬化物との相溶性に影響を及ぼす。酸価は、JIS K 3504に準拠した方法により測定することができる。具体的には、ワックス類1g中に含有する遊離脂肪酸を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数として測定される。以下の例においても、同様の方法により測定することができる。酸価が上記範囲内にあると、グリセリントリ脂肪酸エステル(E)は、樹脂硬化物中において、エポキシ樹脂マトリックスと好ましい相溶状態となる。これにより、グリセリントリ脂肪酸エステル(E)と、エポキシ樹脂マトリックスとが、相分離を起こすことがない。そのため、樹脂硬化物表面におけるグリセリントリ脂肪酸エステル(E)の偏析が抑制され、金型の汚れや樹脂硬化物の外観の悪化を低減することができる。さらに、グリセリントリ脂肪酸エステル(E)が樹脂硬化物表面に存在するため、金型からの樹脂硬化物の離型性に優れる。一方、エポキシ樹脂マトリックスとの相溶性が高すぎると、グリセリントリ脂肪酸エステル(E)が樹脂硬化物表面に染み出すことができず、十分な離型性を確保することができない場合がある。
【0046】
本発明で用いられるグリセリントリ脂肪酸エステル(E)の配合割合は、樹脂組成物中に、0.01質量%以上、1質量%以下が好ましく、より好ましくは0.03質量%以上0.5質量%以下である。上記範囲内であると、金型からの樹脂硬化物の離型性に優れる。また、上記範囲内であると、樹脂硬化物とリードフレーム部材との密着性が損なわれることがなく、半田処理時における樹脂硬化物とリードフレーム部材との剥離を抑制することができる。また、上記範囲内であると、金型汚れや樹脂硬化物外観の悪化を抑制することもできる。
【0047】
本発明で用いられるグリセリントリ脂肪酸エステル(E)の製法については、特に限定するものではないが、例えば、原料化合物としてグリセリン、脂肪酸を用い、公知の方法に従ってエステル反応させる方法などにより得ることができる。また、本発明で用いられるグリセリントリ脂肪酸エステル(E)は、クラリアントジャパン(株)製、リコルブWE4等、市販のものを入手し、必要により回転円板型ミル(ピンミル)、スクリーンミル(ハンマーミル)、遠心分離型ミル(ターボミル)、ジェットミル等の粉砕機を用い、粉砕し粒度調整して使用することができる。
【0048】
本発明で用いられるグリセリントリ脂肪酸エステル(E)を用いることによる効果を損なわない範囲で他の離型剤を併用することもできる。併用できる離型剤としては、例えばカルナバワックス等の天然ワックス、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸の金属塩類等が挙げられる。
【0049】
本発明では、さらに芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物を用いることができる。芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物(F)(以下、「化合物(F)」とも称する。)は、これを用いることにより、一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂とエポキシ樹脂との架橋反応を促進させる硬化促進剤として、潜伏性を有しないリン原子含有硬化促進剤を用いた場合であっても、樹脂配合物の溶融混練中での反応を抑えることができ、安定して半導体封止用樹脂組成物を得ることができる。
また、化合物(F)は、半導体封止用樹脂組成物の溶融粘度を下げ、流動性を向上させる効果も有するものである。化合物(F)としては、下記一般式(8)で表される単環式化合物または下記一般式(9)で表される多環式化合物などを用いることができ、これらの化合物は水酸基以外の置換基を有していてもよい。
【0050】
【化8】

(ただし、上記一般式(8)において、R18、R22はどちらか一方が水酸基であり、片方が水酸基のとき他方は水素原子、水酸基または水酸基以外の置換基である。R19、R20、およびR21は水素原子、水酸基または水酸基以外の置換基である。)
【0051】
【化9】

(ただし、上記一般式(9)において、R23、R29はどちらか一方が水酸基であり、片方が水酸基のとき他方は水素原子、水酸基または水酸基以外の置換基である。R24、R25、R26、R27およびR28は水素原子、水酸基または水酸基以外の置換基である。)
【0052】
一般式(8)で表される単環式化合物の具体例としては、例えば、カテコール、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステルまたはこれらの誘導体が挙げられる。また、一般式(9)で表される多環式化合物の具体例としては、例えば、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンおよびこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、流動性と硬化性の制御のしやすさから、芳香環を構成する2個の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物が好ましい。また、混練工程での揮発を考慮した場合、母核は低揮発性で秤量安定性の高いナフタレン環である化合物とすることがより好ましい。この場合、化合物(F)を、具体的には、例えば、1,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンおよびその誘導体などのナフタレン環を有する化合物とすることができる。これらの化合物(F)は1種類を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0053】
化合物(F)の配合量は、全半導体封止用樹脂組成物中に0.01質量%以上、1質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.03質量%以上、0.8質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以上、0.5質量%以下である。化合物(F)の配合量の下限値が上記範囲内であると、半導体封止用樹脂組成物の充分な低粘度化と流動性向上効果を得ることができる。また、化合物(F)の配合量の上限値が上記範囲内であると、半導体封止用樹脂組成物の硬化性の低下や硬化物物性の低下を引き起こす恐れが少ない。
【0054】
本発明の半導体封止用樹脂組成物においては、エポキシ樹脂と無機充填剤との密着性を向上させるため、シランカップリング剤などの密着助剤を添加することができる。
その例としては特に限定されないが、エポキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、メルカプトシランなどが挙げられ、エポキシ樹脂と無機充填剤との間で反応し、エポキシ樹脂と無機充填剤の界面強度を向上させるものであればよい。また、シランカップリング剤は、前述の化合物(F)と併用することで、樹脂組成物の溶融粘度を下げ、流動性を向上させるという化合物(F)の効果を高めることもできるものである。
エポキシシランとしては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどなどが挙げられる。
また、アミノシランとしては、例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−フェニルγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニルγ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−6−(アミノヘキシル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(3−(トリメトキシシリルプロピル)−1,3−ベンゼンジメタナンなどが挙げられる。また、ウレイドシランとしては、例えば、γ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどが挙げられる。
また、メルカプトシランとしては、例えば、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらのシランカップリング剤は1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0055】
本発明の半導体封止用樹脂組成物に用いることができるカップリング剤の配合割合の下限値としては、全樹脂組成物中0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上である。カップリング剤の配合割合の下限値が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂と無機充填剤との界面強度が低下することがなく、半導体装置における良好な耐半田クラック性を得ることができる。また、カップリング剤の上限値としては、全樹脂組成物中1質量%以下が好ましく、より好ましくは0.8質量%以下、特に好ましくは0.6質量%以下である。カップリング剤の配合割合の上限値が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂と無機充填剤との界面強度が低下することがなく、半導体装置における良好な耐半田クラック性を得ることができる。また、カップリング剤の配合割合が上記範囲内であれば、樹脂組成物の硬化物の吸水性が増大することがなく、半導体装置における良好な耐半田クラック性を得ることができる。
【0056】
本発明の半導体封止用樹脂組成物では、前述した成分以外に、カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタンなどの着色剤;シリコーンオイル、シリコーンゴムなどの低応力添加剤;酸化ビスマス水和物などの無機イオン交換体;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物や、硼酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、フォスファゼン、三酸化アンチモンなどの難燃剤などの添加剤を適宜配合してもよい。
【0057】
本発明の半導体封止用樹脂組成物は、一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂、エポキシ樹脂および無機充填剤、ならびに上記のその他の成分などを、例えば、ミキサーなどを用いて常温で均一に混合し、その後、必要に応じて、加熱ロール、ニーダーまたは押出機などの混練機を用いて溶融混練し、続いて必要に応じて冷却、粉砕することにより、所望の分散度や流動性などに調整することができる。
【0058】
次に、本発明の半導体装置について説明する。
本発明の半導体封止用樹脂組成物を用いて半導体装置を製造する方法としては、例えば、半導体素子を搭載したリードフレームまたは回路基板などを金型キャビティ内に設置した後、半導体封止用樹脂組成物をトランスファーモールド、コンプレッションモールド、インジェクションモールドなどの成形方法で成形、硬化させることにより、この半導体素子を封止する方法が挙げられる。
封止される半導体素子としては、例えば、集積回路、大規模集積回路、トランジスタ、サイリスタ、ダイオード、固体撮像素子などが挙げられるが、これらに限定されない。
得られる半導体装置の形態としては、例えば、デュアル・インライン・パッケージ(DIP)、プラスチック・リード付きチップ・キャリヤ(PLCC)、クワッド・フラット・パッケージ(QFP)、ロー・プロファイル・クワッド・フラット・パッケージ(LQFP)、スモール・アウトライン・パッケージ(SOP)、スモール・アウトライン・Jリード・パッケージ(SOJ)、薄型スモール・アウトライン・パッケージ(TSOP)、薄型クワッド・フラット・パッケージ(TQFP)、テープ・キャリア・パッケージ(TCP)、ボール・グリッド・アレイ(BGA)、チップ・サイズ・パッケージ(CSP)などが挙げられるが、これらに限定されない。
半導体封止用樹脂組成物のトランスファーモールドなどの成形方法により半導体素子が封止された半導体装置は、そのまま、あるいは80℃から200℃程度の温度で、10分から10時間程度の時間をかけてこの樹脂組成物を完全硬化させた後、電子機器などに搭載される。
図1は、本発明に係る半導体封止用樹脂組成物を用いた半導体装置の一例について、断面構造を示した図である。ダイパッド3上に、ダイボンド材硬化体2を介して半導体素子1が固定されている。半導体素子1の電極パッドとリードフレーム5との間は金線4によって接続されている。半導体素子1は、半導体封止用樹脂組成物の硬化体6によって封止されている。
【実施例】
【0059】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。以下に記載の各成分の配合量は、特に記載しない限り、質量部とする。
【0060】
一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂は、以下のフェノール樹脂1、2を使用した。
フェノール樹脂1:フェノール(関東化学(株)製特級試薬、フェノール、融点40.9℃、分子量94、純度99.3%)100質量部、4,4’−ビスクロロメチルビフェニル(和光純薬工業(株)製、ビスクロロメチルビフェニル、純度96%、分子量251)44.69質量部、純水0.5質量部、をセパラブルフラスコに秤量し、窒素置換しながら加熱し、溶融の開始に併せて攪拌を開始した。系内の温度を75℃から85℃の範囲に維持しながら1時間反応させた後、サリチルアルデヒド(東京化成工業(株)製サリチルアルデヒド、沸点196℃、分子量122、純度98%)8.56質量部を2時間かけて徐々に系内に添加し、さらに150℃まで昇温し、系内温度を145℃から155℃の範囲に維持しながら1時間反応させた。上記の反応の間、反応によって系内に発生する塩酸および水分は、窒素気流によって系外へ排出した。反応終了後、150℃、2mmHgの減圧条件で未反応成分を留去し、下記式(10)で表される構造を含むフェノール樹脂1(水酸基当量161、軟化点85℃、150℃におけるICI粘度2.1dPa・s)を得た。GPCチャートを図2に、FD−MSチャートを図3に示す。
フェノール樹脂2:フェノール樹脂1の合成において、サリチルアルデヒド(東京化成工業(株)製サリチルアルデヒド、沸点196℃、分子量122、純度98%)を14.37質量部、4,4’−ビスクロロメチルビフェニル(和光純薬工業(株)製ビスクロロメチルビフェニル、純度96%、分子量251)を32.17質量部、としてフェノール樹脂1と同様の操作を行い、下記式(10)で表される構造を含むフェノール樹脂2(水酸基当量139、軟化点92℃、150℃におけるICI粘度2.7dPa・s)を得た。GPCチャートを図4に示す。
【0061】
【化10】

【0062】
一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂以外のフェノール樹脂として、m=0であるフェノール樹脂3、n=0であるフェノール樹脂4使用した。
フェノール樹脂3:ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂(明和化成(株)製、MEH−7851SS。水酸基当量203、軟化点67℃、150℃におけるICI粘度0.7dPa・s)GPCチャートを図5に示す。
フェノール樹脂4:トリフェニルプロパン型フェノール樹脂(明和化成(株)製、MEH−7500。水酸基当量97、軟化点110℃、150℃におけるICI粘度5.8dPa・s)GPCチャートを図6に示す。
【0063】
フェノール樹脂1〜4のGPC測定は、次の条件で行った。フェノール樹脂1の試料20mgに溶剤テトラヒドロフラン(THF)を6ml加えて十分溶解しGPC測定に供した。GPCシステムは、WATERS社製モジュールW2695、東ソー(株)製のTSK GUARDCOLUMN HHR−L(径6.0mm、管長40mm、ガードカラム)、東ソー(株)製のTSK−GEL GMHHR−L(径7.8mm、管長30mm、ポリスチレンジェルカラム)2本、WATERS社製示差屈折率(RI)検出器W2414を直列に接続したものを用いた。ポンプの流速は0.5ml/分、カラムおよび示差屈折率計内温度を40℃とし、測定溶液を100μlインジェクターより注入して測定を行った。
フェノール樹脂1のFD−MS測定は次の条件で行った。フェノール樹脂1の試料10mgに溶剤ジメチルスルホキシド1gを加えて十分溶解したのち、FDエミッターに塗布の後、測定に供した。FD−MSシステムは、イオン化部に日本電子(株)製のMS−FD15Aを、検出器に日本電子(株)製のMS−700機種名二重収束型質量分析装置とを接続して用い、検出質量範囲(m/z)50〜2000にて測定した。
【0064】
GPCの面積法による測定で得られる上記一般式(1)の「1≦m≦10」成分(A)と上記一般式(1)の「m=0」の成分(B)との成分比A/Bについては、下記の手順により算出した。
(1)フェノール樹脂1〜4のGPC測定を行う。
(2)フェノール樹脂3のチャート(図5)からm=0成分のピーク位置を確認する。
(3)フェノール樹脂4のチャート(図6)からn=0成分のピーク位置を確認する。
(4)フェノール樹脂1および2のGPCチャート上で、フェノール樹脂3または4に帰属されるピークと帰属されえないピークまたはショルダーを確認する。
(5)図3のFD/MSの分析結果から得られた分子量(M/Z)と(4)の各ピークまたはショルダーのポリスチレン換算分子量とを比較することにより、各ピーク・ショルダーの(n,m)を同定し、チャートの面積比から質量%を求める。
フェノール樹脂1〜3の成分比A/Bの結果を表1に示した。
なお、フェノール樹脂1および2のGPC測定において、分子量(m/z)が1108よりも大きい成分についてはピークの分離、詳細の解析が困難であった。そこで、ピーク面積の分離・同定が可能な「1≦m≦10かつn=1〜3」成分(a)と「m=0かつn=1〜3」の成分(b)の値から成分比a/bを計算し、これを表1〜3のa/b比の値として記載した。
【0065】
【表1】

【0066】
エポキシ樹脂は、以下のエポキシ樹脂1〜6を使用した。
エポキシ樹脂1:ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬(株)製、NC3000P。エポキシ当量275、軟化点60℃、150℃におけるICI粘度1.11dPa・s)
エポキシ樹脂2:ビフェニル型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、YX−4000HK、エポキシ当量191、融点105℃、150℃におけるICI粘度0.03dPa・s)
エポキシ樹脂3:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、YL6810、エポキシ当量172、軟化点45℃、軟化点107℃、150℃におけるICI粘度0.03dPa・s)
エポキシ樹脂4:ビスフェノールF型エポキシ樹脂(東都化成(株)製、YSLV−80XY、エポキシ当量190、軟化点80℃、150℃におけるICI粘度0.03dPa・s。)
エポキシ樹脂5:フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(三井化学(株)製、E−XLC−3L、エポキシ当量238、軟化点52℃、150℃におけるICI粘度1.20dPa・s。)。
エポキシ樹脂6:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC(株)製、N660。エポキシ当量210、軟化点62℃、150℃におけるICI粘度2.34dPa・s。
【0067】
無機充填剤としては、電気化学工業(株)製溶融球状シリカFB560(平均粒径30μm)80質量部、(株)アドマテックス製合成球状シリカSO−C2(平均粒径0.5μm)10質量部、(株)アドマテックス製合成球状シリカSO−C5(平均粒径1.5μm)10質量部のブレンドを使用した。
【0068】
硬化促進剤は、以下の硬化促進剤1〜4を使用した。
硬化促進剤1:下記式(11)で表される硬化促進剤
【化11】

【0069】
硬化促進剤2:下記式(12)で表される硬化促進剤
【化12】

【0070】
硬化促進剤3:下記式(13)で表される硬化促進剤
【化13】

【0071】
硬化促進剤4:下記式(14)で表される硬化促進剤
【化14】

【0072】
離型剤1:グリセリントリモンタン酸エステル(クラリアントジャパン(株)製、リコルブ(登録商標)WE4、滴点82℃、酸価25mgKOH/g。)
離型剤2:前述の方法により作成したグリセリントリメリシン酸エステル(滴点95℃、酸価30mgKOH/g。)
離型剤3:前述の方法により作成したグリセリントリベヘン酸エステル(滴点80℃、酸価15mgKOH/g。)
離型剤4:グリセリンモノステアリン酸エステル(理研ビタミン(株)製、リケマール(登録商標)S−100、滴点65℃、酸価2mgKOH/g。)
離型剤5:カルナバワックス(日興ファイン(株)製、ニッコウカルナバ、融点83℃、酸価7mgKOH/g。)
【0073】
化合物(F)は、下記式(15)で表される化合物(東京化成工業(株)製、2,3−ナフタレンジオール、純度98%)を使用した。
【化15】

【0074】
シランカップリング剤は、以下のシランカップリング剤1〜3を使用した。
シランカップリング剤1:γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−803)
シランカップリング剤2:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−403)
シランカップリング剤3:N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM−573)
着色剤は、三菱化学(株)製のカーボンブラック(MA600)を使用した。
【0075】
(実施例1)
以下の成分をミキサーにて常温で混合し、80℃〜100℃の加熱ロールで溶融混練し、その後冷却し、次いで粉砕して、半導体封止用樹脂組成物を得た。
フェノール樹脂2 4.38質量部
エポキシ樹脂1 8.62質量部
無機充填剤 86.00質量部
硬化促進剤1 0.40質量部
離型剤1 0.20質量部
シランカップリング剤1 0.05質量部
シランカップリング剤2 0.05質量部
シランカップリング剤3 0.10質量部
着色剤 0.20質量部
得られた半導体封止用樹脂組成物を、以下の項目について評価した。評価結果を表2に示す。
【0076】
スパイラルフロー:低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製、KTS−15)を用いて、EMMI−1−66に準じたスパイラルフロー測定用金型に、175℃、注入圧力6.9MPa、保圧時間120秒の条件にて上記で得られた半導体封止用樹脂組成物を注入し、流動長を測定した。スパイラルフローは、流動性のパラメータであり、数値が大きい方が、流動性が良好である。単位はcmである。
耐燃性:低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製、KTS−30)を用いて、金型温度175℃、注入時間15秒、硬化時間120秒、注入圧力9.8MPaの条件で、半導体封止用樹脂組成物を注入成形して、3.2mm厚の耐燃試験片を作製した。得られた試験片について、UL94垂直法の規格に則り耐燃試験を行った。表には、耐燃ランクを示した。
【0077】
連続成形性:低圧トランスファー自動成形機(第一精工(株)製、GP−ELF)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間70秒の条件で、エポキシ樹脂組成物によりシリコンチップ等を封止成形して、80ピンQFP(プリプレーティングフレーム:ニッケル/パラジウム合金に金メッキしたもの、パッケージ外寸:14mm×20mm×2mm厚、パッドサイズ:6.5mm×6.5mm、チップサイズ6.0mm×6.0mm×350μm厚)を得る成形を、連続で500ショットまで行った。判定基準は未充填、離型不良等の問題が全く発生せずに500ショットまで連続成形できたものを◎、300ショットまで連続成形できたものを○、それ以外を×とした。
【0078】
パッケージ外観及び金型汚れ性:上記連続成形性の評価において、300ショット経過後及び500ショット経過後のパッケージ及び金型について、目視で汚れを評価した。パッケージ外観及び金型汚れ性の判定基準は、300ショットまでに汚れが発生したものを×、300ショットまで汚れていないものを○、500ショットまで汚れていないものを◎で表す。また、上記連続成形性において、500ショットまで問題なく成形できなかったものについては、連続成形を断念した時点でのパッケージ外観及び金型汚れ状況で判断した。
【0079】
耐半田性:上記連続成形性の評価において成形したパッケージを175℃、8時間で後硬化し、得られたパッケージを85℃、相対湿度60%で168時間加湿処理後、260℃のIRリフロー処理をした。パッケージ20個について、半導体素子とエポキシ樹脂組成物の硬化物との界面の密着状態を超音波探傷装置により観察し、剥離発生率[(剥離発生パッケージ数)/(全パッケージ数)×100]を算出した。単位は%。耐半田性の判断基準は、剥離が発生しなかったものは○、剥離発生率が20%未満のものは△、剥離発生率が20%以上のものは×とした。
【0080】
実施例2〜14、比較例1〜4
表2の配合に従い、実施例1と同様にして半導体封止用樹脂組成物を製造し、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表2に示す。
【0081】
【表2】

【0082】
実施例1〜14は、一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂と、エポキシ樹脂と、無機充填剤とを含む半導体封止用樹脂組成物であり、一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂の種類を変更したもの、離型剤の種類を変更したもの、エポキシ樹脂の種類を変更したもの、硬化促進剤の種類を変更したもの、または化合物(F)を配合したものを含むものである。
いずれにおいても、流動性(スパイラルフロー)、耐燃性、耐半田性、および連続成形性のバランスに優れた結果が得られた。一方、一般式(1)で表される構造を含むフェノール樹脂及び/又はグリセリントリ脂肪酸エステルを含まない比較例1〜5においては、耐燃性、耐半田性、又は連続成形性のいずれかが劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明に従うと、良好な耐燃性および耐半田性を有するとともに、流動性と連続成形性に優れ、低コストで製造できる、半導体封止用樹脂組成物を得ることができるため、半導体装置封止用として好適である。
【符号の説明】
【0084】
1 半導体素子
2 ダイボンド材硬化体
3 ダイパッド
4 金線
5 リードフレーム
6 半導体封止用樹脂組成物の硬化体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】

(一般式(1)において、R1およびR3は、互いに独立して、炭素数1〜10の炭化水素基であり、R2は、互いに独立して、炭素数1〜10の炭化水素基、水酸基であり、aは0〜3の整数、bおよびcは0〜4の整数、mは0〜10の整数でありm≦1の成分を含み、nは0〜10の整数である。ただし、n=0のみの場合、及びm=0のみの場合を除く。)
で表される構造を含むフェノール樹脂と、
エポキシ樹脂と、
無機充填剤と、
硬化促進剤と、
グリセリントリ脂肪酸エステルと、
を含む、ことを特徴とする半導体封止用樹脂組成物。
【請求項2】
前記硬化促進剤が、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、およびホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物から選択される少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1に記載の半導体封止用樹脂組成物。
【請求項3】
半導体素子を、請求項1又は請求項2に記載の半導体封止用樹脂組成物で封止して得られる、ことを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−84718(P2011−84718A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−109823(P2010−109823)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】