説明

半導体素子と半導体装置

【課題】 負性微分抵抗特性を発現するトンネル効果素子の動作を発現することができ、且つピーク電流値の増大をはかる。
【解決手段】 チャネル領域を構成する第1の半導体領域11と、領域11上にゲート絶縁膜12を介して形成されたゲート電極13と、ゲート電極13に対応して領域11の両側に形成されたソース電極14及びドレイン電極15と、領域11とソース電極14との間に形成された、領域11よりも不純物濃度の高いn+ 型の第2の半導体領域16と、領域11とドレイン電極15との間に形成された、領域11よりも不純物濃度の高いp+ 型の第3の半導体領域17とを具備し、半導体領域16,17のチャネル領域に接する部分は、電圧無印加の状態においてチャネル長方向の全体にわたって空乏化され、チャネル領域と半導体領域16,17との間にトンネルダイオードが形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負性微分抵抗特性を発現するトンネル効果素子等の半導体素子に係わり、特にソース・ドレインの改良をはかった半導体素子に関する。また、この半導体素子を用いて構成される半導体記憶装置や半導体論理回路装置等の半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンLSIは、CMOS素子の微細化により性能を向上させてきた。ところが、0.1μmを境にして、CMOS動作が非常に困難になる。原因は、パンチ・スルーに代表される短チャネル効果である。このようなCMOS素子の限界を克服するために、新しい動作原理に基づいた素子、例えば表面接合トンネル素子が提案されている(例えば、特許文献1参照)。表面接合トンネル素子の構造は通常のMOSFETと類似しており、違いは、ソース・ドレインの不純物タイプが互いに逆になっている点である。つまり、ゲート電極を挟んで一方をn++領域のソース、他方をp++領域のドレインという構造になっている。
【0003】
表面接合トンネル素子においては、ゲートに電圧を与えないと、ソース・ドレイン間には通常のp−n接合特性が現れ、一定のドレイン電圧を与えると電流が流れ出す。一方、ゲートに電圧を加えていくと、ドレイン近傍にn+−p++接合、いわゆるエサキ・ダイオードが形成される。エサキ・ダイオードはトンネル効果により負性微分抵抗特性を示す。同様の効果で、表面接合トンネル素子も負性微分抵抗機能を持っている。従って、表面接合トンネル素子は、ゲートによる電流変調機能(スイッチング機能)とエサキ・ダイオード機能を兼ね備えていることになり、エサキ・ダイオード回路の短所を克服できる。
【0004】
このように、表面接合トンネル素子には空乏層領域が一つしか存在しないため、原理的にパンチ・スルーの問題が発生しない。また、トンネル効果というミクロな現象を利用しているため、超微細領域でも正常に動作する。また、機能性を持った素子であるので、容易に機能回路を構成できる利点がある。
【特許文献1】特開平9−260690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述したシリコントンネル効果素子(表面接合トンネル素子)においては、電流値が小さいという問題点があった。実際の回路設計のためには大きな電流値が必要であるが、従来技術では、シリコン素子におけるトンネル電流の電流密度は1A/cm2 であり、化合物半導体素子でのトンネル電流の電流密度が103 A/cm2 であるのに比べて見劣りする電流値であるのが現状である。表面接合トンネル素子に関して、LSIへの組み込みという観点からシリコン素子が望ましく、ゲート電圧による電流変調機能を用いた回路設計のためには、負性微分抵抗特性を示すピーク電流値の改善が問題となる。
【0006】
このように、従来のトンネル効果素子においては、回路性能はトンネル電流のピーク電流によって決まるが、シリコン素子では有効質量が大きいためピーク電流値が低いという問題点があった。
【0007】
本発明は、上記事情を考慮してなされたもので、その目的とするところは、負性微分抵抗特性を発現するトンネル効果素子の動作を発現することができ、且つピーク電流値の増大をはかり得る半導体素子を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、上記の半導体素子を用いて半導体記憶装置や半導体論理回路装置等を実現できる半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、次のような構成を採用している。
【0010】
即ち、本発明の一態様は、チャネル領域を構成する第1の半導体領域と、前記第1の半導体領域上にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、前記ゲート電極に対応して前記第1の半導体領域の両側に形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記第1の半導体領域と前記ソース電極との間に形成された、前記第1の半導体領域よりも不純物濃度の高いn+ 型の第2の半導体領域と、前記第1の半導体領域と前記ドレイン電極との間に形成された、前記第1の半導体領域よりも不純物濃度の高いp+ 型の第3の半導体領域とを具備してなる半導体素子であって、前記第2及び第3の半導体領域の前記チャネル領域に接する部分は、電圧無印加の状態においてチャネル長方向の全体にわたって空乏化され、前記チャネル領域と前記第2及び第3の半導体領域との間にトンネルダイオードが形成されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様は、チャネル領域を構成する第1の半導体領域と、前記第1の半導体領域上にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、前記ゲート電極に対応して前記第1の半導体領域の両側に形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記第1の半導体領域と前記ソース電極との間に形成された、前記第1の半導体領域よりも不純物濃度の高いn+ 型の第2の半導体領域と、前記第1の半導体領域と前記ドレイン電極との間に形成された、前記第1の半導体領域よりも不純物濃度の高いp+ 型の第3の半導体領域とを具備してなる半導体素子であって、前記第2及び第3の半導体領域の不純物濃度は1×1019cm-3以上であり、前記第2及び第3の半導体領域の前記チャネル領域に接する部分のチャネル長方向の厚さは10nm以下に形成され、且つ前記不純物濃度で決まる空乏層幅よりも薄く形成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様は、チャネル領域を構成する第1の半導体領域と、前記第1の半導体領域上にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、前記ゲート電極に対応して前記第1の半導体領域の両側に形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記第1の半導体領域と前記ソース電極との間に形成された、前記第1の半導体領域よりも不純物濃度の高いn+ 型の第2の半導体領域と、前記第1の半導体領域と前記ドレイン電極との間に形成された、前記第1の半導体領域よりも不純物濃度の高いp+ 型の第3の半導体領域とを具備してなる半導体素子であって、前記第2及び第3の半導体領域の不純物プロファイルの急峻性が4nm/decade以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様は、チャネル領域を構成する第1の半導体領域と、前記第1の半導体領域の上下にそれぞれゲート絶縁膜を介して形成された第1及び第2のゲート電極と、前記各ゲート電極に対応して前記第1の半導体領域の両側に形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記第1の半導体領域と前記ソース電極との間に形成された、前記第1の半導体領域よりも不純物濃度の高いn+ 型の第2の半導体領域と、前記第1の半導体領域と前記ドレイン電極との間に形成された、前記第1の半導体領域よりも不純物濃度の高いp+ 型の第3の半導体領域とを具備してなる半導体素子であって、前記第2及び第3の半導体領域の前記チャネル領域に接する部分は、電圧無印加の状態においてチャネル長方向の全体にわたって空乏化され、前記チャネル領域と前記第2及び第3の半導体領域との間にトンネルダイオードが形成されることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の一態様は、上記構成の半導体素子と、一端が前記半導体装置のドレイン電極に接続され、他端が電源に接続された負荷素子と、ソースが前記半導体装置のドレイン電極に接続され、ドレインがビット線に接続され、ゲートがワード線に接続されたMOSトランジスタと、を具備してなる記憶信号蓄積部を有することを特徴とする半導体装置である。
【0015】
また、本発明の一態様は、上記構成の半導体素子と、この半導体装置と電源との間に挿入された、抵抗とインダクタンス素子の直列回路と、を具備してなる電圧制御発振回路を有することを特徴とする半導体装置である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、チャネル領域とソース電極及びドレイン電極との間に形成する第2及び第3の半導体領域を前述したように構成することにより、半導体領域からなるソース・ドレイン不純物領域の厚みが極めて薄く高濃度である上に、その領域が完全に空乏化したトンネル効果素子と見なすことができる。半導体領域の濃度勾配は、従来技術では5〜7nm/decadeであり、本発明によれば4nm/decade以下である。これからトンネル距離を見積もり、トンネル電流値を計算すると、従来技術と比較して3桁以上の改善となる。
【0017】
従って本発明によれば、ゲート制御によるトンネル電流のピーク電流値の高い負性抵抗特性を示すトンネル効果素子がシリコンで実現可能となり、化合物半導体並みの性能が達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の詳細を図示の実施形態によって説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の第1の実施形態に係わるシリコントンネル効果素子の概略構成を示す断面図である。
【0020】
シリコン基板(第1の半導体領域)11上にゲート絶縁膜12を介してゲート電極13が形成され、ゲート電極13を挟んで基板11の表面部にはソース電極14及びドレイン電極15が形成されている。そして、ソース電極14と基板11との間にn+ 領域(第2の半導体領域)16が形成され、ドレイン電極15と基板11との間にp+ 領域(第3の半導体領域)17が形成されている。
【0021】
第1の半導体領域11は、例えばB(ボロン)をドープしたp型層であり、チャネル領域を形成するものである。第2の半導体領域16は、例えばAsを高濃度にドープしたn+ 型層であり、第3の半導体領域17は、例えばBを高濃度のドープしたp+ 型層である。第2及び第3の半導体領域16,17は、第1の半導体領域11をチャネル長方向から挟んで極めて薄く形成されている。ソース・ドレイン電極14,15は、CoやNi等の金属又はそのシリサイドからなり、第1及び第2の半導体領域16,17とショットキー接合を形成している。
【0022】
本実施形態では、ソース・ドレイン領域となる第2及び第3の半導体領域16,17の不純物濃度を極めて高く、且つ厚みを薄くすることによって、第2及び第3の半導体領域16,17がほぼ完全に空乏化していることを特徴としている。即ち、第2及び第3の半導体領域16,17は、電圧無印加の状態においてチャネル長方向の全体が空乏化される厚さに形成されている。本実施形態では、第2及び第3の半導体領域16,17の厚さを10nm以下に設定し、不純物濃度を1×1020cm-3に設定することにより、第2及び第3の半導体領域16,17の完全空乏化を行っている。
【0023】
本実施形態のゲート電極13に正の電圧を印加するとシリコン基板11の表面には反転層(n+ 型)が形成され、p+ 型の第3半導体領域17の周囲にトンネルダイオードが形成される。また、ゲート電極13に負の電圧を印加するとシリコン基板11の表面には蓄積層(p+ 型)が形成され、n+ 型の第2半導体領域16の周囲にトンネルダイオードが形成される。
【0024】
その結果、図2(a)(b)に示されるように、いずれの方向のゲート電圧に対しても負性微分抵抗特性を示し、その特性はゲート電圧に応じて変化する。
【0025】
本実施形態でのトンネル電流を見積もる。チャンネルに反転層が形成された場合を考える。蓄積層の場合も結果は同様である。第3の半導体領域17(p+ )とチャネル反転層(n+ )で形成されるp−n接合の空乏層厚みWは、
【数1】

【0026】
である。
【0027】
但し、εs はシリコンの誘電率、Vbiはビルトインポテンシャル、qは素電荷、aは不純物濃度の勾配である。第3の半導体領域17の不純物プロファイルの急峻性をD[nm/decade]、不純物濃度をNとすると、a=N/Dと近似できる。従って、(1)式は次のように表される。
【数2】

【0028】
また、WKB近似により、トンネル電流はトンネル確率に比例した形で以下のように与えられる。
【数3】

【0029】
但し、m* はシリコンの有効質量、Eg はシリコンのエネルギーギャップ、hはプランク定数である。また、Eはトンネル接合部にかかる電界であり、E=Eg /Wとする。従って、(3)式は第3の半導体領域17の不純物プロファイルの急峻性Dで表すことができ、
【数4】

【0030】
図3に(4)式をプロットした図を示す。
【0031】
従来技術による第3の半導体領域の不純物プロファイルの急峻性(D1)はD1=5〜7nm/decadeであり、本実施形態によると、第3半導体領域の不純物プロファイルの急峻性(D2)はD2=4nm/decade以下である。式(4)により、トンネル電流値としては従来技術に比べて2桁以上の改善を見積もることができる。
【0032】
下記の偏析接合技術を用いて得られた実験結果と従来技術による実験結果も併せて図示してある。本実施形態素子に関して、実験によりトンネル電流値が約2桁改善しているという結果が得られた。
【0033】
なお、第2及び第3の半導体領域16,17の完全空乏化は、例えば接合容量の測定やEDXによる濃度測定などから確認することが可能である。ここでは具体的にSIMS測定によるプロファイルを示す。図4は、本実施形態によるソース・ドレイン電極部のAs及びCoのSIMSプロファイルである。シリサイド化前のCoスパッタ膜厚は12nmである。SIMSプロファイルでは、界面のミクロな凹凸がプロファイルをブロードに見せてしまうため、これを考慮して不純物プロファイルを見積もると2.5nm/decadeとなる。なお、製造プロセスを最適化することによってさらに急峻な不純物プロファイルを達成することができる。またピーク不純物濃度に関しては、バンド間トンネリングの発現には1×1019cm-3以上の濃度が必要である。
【0034】
上述のように、薄い領域に極めて高濃度の不純物を導入しようとすると、濃度や深さの制御が極めて困難となる。しかし、例えばここで述べる偏析接合形成法を用いればこれを極めて容易に実現することができる。
【0035】
図5は、偏析接合形成法の原理を説明するための工程断面図である。不純物が含まれた半導体基板をシリサイド化する際、イオン注入した深さよりも深い領域をシリサイド化することにより、偏析現象を利用して極めて高濃度の不純物を薄い領域内に導入することができる。図中の21はシリコン基板、22はマスク絶縁膜、23は不純物イオン注入領域、24はシリサイド膜、26は高濃度不純物領域を示している。
【0036】
具体的には、加速電圧30keV,ドーズ量2×1015cm-2において、例えばAsのイオン注入を行い、図5(a)に示すように、不純物イオン注入領域23を形成する。続いて、例えばニッケル(Ni)などの金属をスパッタ法などによって10nm程度の厚さに成膜し、例えば300〜500℃で30〜200秒程度アニールし、シリサイド化後、未反応のNiを除去することでメタル電極(シリサイド膜)24を形成する。このメタル電極24の形成に伴い、不純物イオン注入領域23は基板21側に押し出され、これによってメタル電極24とチャネル領域との間に極めて薄い高濃度の第2の半導体領域26が形成されることになる。具体的には、第2の半導体領域26のチャネル方向の膜厚は10nm、不純物濃度は1×1020cm-3であった。
【0037】
即ち、図5(a)に示すように、シリコン基板21の表面近傍に浅く不純物をイオン注入した後に、注入深さ(不純物濃度がピークを持つ深さ)よりも深い位置までシリサイド化を行うと、図5(b)に示すように、シリサイド膜24の端部から極めて狭い範囲に高濃度の不純物領域26を形成することができる。これは、シリサイド化を行う温度では、不純物の拡散は起こらず、シリサイド化に伴う偏析現象によって、接合の深さと不純物の濃度を制御できるためである。そして、最初のイオン注入で不純物濃度や深さのばらつきがあっても、その影響を最小限に止めることが可能となる。こうして、従来技術では得ることのできない非常に急峻な(Dの値が非常に小さい)不純物プロファイルが実現できる。
【0038】
このように、本実施形態によるトンネル効果素子の構造は、第2及び第3の半導体領域16,17からなるソース・ドレイン領域の厚みが極めて薄く高濃度である上に、その領域が完全に空乏化したトンネル素子と見なすことができる。これは、急峻な不純物プロファイルを作ることを可能にし、実効的なトンネル電流を増加させるという利点を持つ。従って、良好な負性微分抵抗特性が実現でき、さらにトンネル電流量を増やすことができる。これは、実際に回路設計を行う際に極めて重要である。
【0039】
なお、本実施形態では通常のシリコン基板を用いているが、SOI基板を利用することも可能である。図6はSOI基板を用いた例であり、図中の31はシリコン層(第1の半導体領域)、33はゲート電極、34はソース電極、35はドレイン電極、36はn+ 領域(第2の半導体領域)、37はp+ 領域(第3の半導体領域)、38はシリコン基板、39は埋め込み絶縁膜を示している。
【0040】
素子形成基板をSOI基板にすることで寄生的なp−n接合が排除できるので、負性微分抵抗特性はより一層良好になる。このように、状況に応じて種々変形して用いることができる。
【0041】
(第2の実施形態)
図7及び図8は、本発明の第2の実施形態に係わるトンネル効果素子の概略構成を説明するためのもので、図7は平面図、図8は図7の矢視A−A’断面図である。なお、図中の41はシリコン層(第1の半導体領域)、42はゲート絶縁膜、43はゲート電極、44はソース電極、45はドレイン電極、46はn+ 領域(第2の半導体領域)、47はp+ 領域(第3の半導体領域)、51は素子分離用絶縁膜、52は層間絶縁膜、53は配線を示している。
【0042】
図7に示すように、シリコン基板41の素子領域を囲むように素子分離領域51が形成されている。ゲート電極43はドレイン電極45を囲むように形成され、ドレイン電極45は素子分離領域51から離れて形成されている。ソース電極44はドレイン電極45と共にゲート電極43を両脇から挟むように素子領域内に形成されている。ゲートコンタクトは容量による遅延を防ぐため、素子分離領域51上でゲート電極と接続させている。
【0043】
基本的な素子構造は第1の実施形態と同様であり、シリコン基板(第1の半導体領域)41上にゲート絶縁膜42を介してゲート電極44が形成され、ゲート電極43に対応して第2及び第3の半導体領域46,47とソース・ドレイン電極44,45が形成されている。但し、ゲート電極43は上記に説明したように、ドレイン電極45及びドレイン領域46のまわりを囲むように形成されている。
【0044】
第1〜第3の半導体領域41,46,47の導電型や不純物は第1の実施形態と同様である。また、ソース・ドレイン電極44,45は、金属又はシリサイドからなり、第2及び第3の半導体領域44,47とショットキー接合を形成している。
【0045】
第1の実施形態と同様、ソース・ドレイン領域となる第2及び第3の半導体領域46,47の不純物濃度を極めて高く、且つ厚みを薄くすることによって、第2及び第3の半導体領域46,47は、電圧無印加の状態においてチャネル長方向の全体が空乏化される厚さに形成されている。
【0046】
本実施形態による表面接合トンネル素子の構造においては、急峻な不純物プロファイルを作ることを可能にし、実効的なトンネル電流を増加させるという利点と、素子分離端に接してエサキ・ダイオードが形成されないので、素子分離端に起因するリーク電流を排除できるという表面接合トンネル素子の利点の両方を持つ。従って、良好な負性微分抵抗特性が実現でき、さらにトンネル電流量を増やすことができる。
【0047】
シリコン表面に蓄積層を形成して素子を動作させる時には、図7とは逆に、ソース電極43及びn+ 領域46をゲート電極43で囲うようにすればよい。また、双方の領域をゲート電極43で囲うようにもできる。さらに、本実施形態では通常のシリコン基板を用いているが、SOI基板を利用することも、もちろん可能である。
【0048】
(第3の実施形態)
図9は、本発明の第3の実施形態に係わるダブルゲート型トンネル効果素子の概略構成を示す断面図である。図示しない半導体基板上に、第1、第2及び第3の半導体領域61,66,67とソース電極64及びドレイン電極65が形成されている。そして、第1、第2及び第3半導体領域上下にゲート絶縁膜を介して第1及び第2ゲート電極63,69が形成されている。
【0049】
第1の半導体領域61は、例えばB(ボロン)をドープしたp型層であり、チャネル領域を形成するものである。第2の半導体領域64は、例えばAsを高濃度にドープしたn+ 型層であり、第3の半導体領域65は、例えばBを高濃度のドープしたp+ 型層であり、第1の半導体領域61をチャネル長方向から挟んで極めて薄く形成されている。ソース・ドレイン電極64,65は、金属又はシリサイドからなり、第1、第2及び第3の半導体領域61,66,67をチャネル長方向から挟んで形成され、半導体領域66,67とはショットキー接合を形成している。
【0050】
本実施形態の第1及び第2ゲート電極63,69に電圧を印加すると“volume inversion”効果(F. Balestra, et al.,“Double-gate silicon-0n-insulator transistor with volume inversion: A new device with greatly enhanced performance,”IEEE Electron Device Lett., vol. EDL-8, no. 9, pp. 410-412, 1987))により、第1の半導体領域61の内部に反転層(n+ 型)が形成され、p+ 型の第3の半導体領域65であるドレイン領域の周囲にトンネルダイオードが形成される。
【0051】
トンネル効果素子においては、トンネル接合界面の欠陥がリーク電流の大きな原因になる。リーク電流が大きいとトンネル電流はリーク電流成分に隠れてしまうため、トンネル接合における欠陥制御によるリーク電流の低減は大きな課題となる。本実施形態の構造を用いることにより、トンネル接合は絶縁膜との共通の接点をもたなくなり、シリコン・絶縁膜界面の欠陥の影響は受けない。
【0052】
従って、本実施形態によりリーク電流の低減をはかることができ、ピーク電流・バレー電流比は大きく改善でき、良好な負性抵抗特性を得ることができる。
【0053】
(第4の実施形態)
図10は、本発明の第4の実施形態に係わるSRAMセルを示す等価回路図である。このSRAMセルは、例えば第1の実施形態のトンネル効果素子71及び負荷素子72から成る記憶信号蓄積部と、MOSトランジスタ73とにより構成されている。
【0054】
トンネル効果素子71及び負荷素子72は電源端と接地端間に直列に接続されている。MOSトランジスタ73のソースはトンネル効果素子71と負荷素子72との接続点に接続され、ドレインはビット線BLに接続され、ゲートはワード線WLに接続されている。
【0055】
図11に、このように構成されたSRAMセルにおける本実施形態素子の電流・電圧特性を示す。本実施形態素子における特性曲線と負荷素子による特性曲線の交点において2つの安定した状態をとり、これらの安定した状態を記憶信号に利用する。蓄積電荷の書き込み、読み出しは、MOSトランジスタにより行う。素子数が3個と少ないために、高集積化に適している。
【0056】
ところで、この種の構成のSRAMセルにおいては、従来のエサキ・ダイオードでは常に一定レベルの駆動電流(トンネル電流)I0が流れるために、待機時の消費電力及び記憶信号の読み出し速度を同時に改善することが困難であった。何故なら、待機時の消費電力を抑えるためには駆動電流I0を小さくする必要があるのに対して、読み出し速度を早くするためには駆動電流I0を大きくする必要があるからである。
【0057】
本実施形態によれば、第1の実施形態のトンネル効果素子を用いることにより、トンネル電流はゲート電圧によって制御できる。さらに、従来のトンネル素子に比べて大きなトンネル電流値を得ることができる。これにより本実施形態によれば、トンネル電流を大きくすることができ、記憶信号を高速に読み出すことができる。また、本実施形態によれば、ゲート電圧を調整することでトンネル電流を小さくすることができ、待機時の消費電力を小さくすることができる。
【0058】
このように本実施形態素子によれば、高集積化、低消費電力及び高速動作に有効なSRAMセルを実現できるようになる。
【0059】
(第5の実施形態)
図12は、本発明の第5の実施形態に係わる、電圧制御発振回路(VCO)を示す等価回路図である。この電圧制御発振回路は、例えば第1の実施形態のトンネル効果素子とRL回路より構成されている。
【0060】
トンネル効果素子81の一端は電源82のマイナス端に接続され、トンネル効果素子81の他端は、抵抗83(R)とインダクタ84(L)の直列回路を介して電源82のプラス単に接続されている。そして、トンネル効果素子81の両端から出力電圧Vout が取り出されるようになっている。
【0061】
図13に、本実施形態における発振特性を示す。本実施形態では、トンネル効果素子81の負性微分抵抗特性により、出力電圧が時間とともに振動する発振特性を得ることができる。また、トンネル効果素子81のゲート電圧を調整することで発振特性の周波数を変調できる。本実施形態の構造をとることにより、アナログ回路で必要となるVCO機能を持たせることができ、オンチップ化を実現することができる。
【0062】
ところで、この種の構成の電圧制御発振回路においては、発振周波数はピーク電流に依存しているため、トンネル効果素子を用いる場合にはトンネル電流量の改善が必要であった。この場合に第1のようなトンネル効果素子を用いることにより、大きなトンネル電流量を得ることができ、より高周波(高速)のVCO回路を実現することができる。
【0063】
(変形例)
なお、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではない。第2及び第3の半導体領域の不純物濃度や厚さは、電圧無印加の状態においてチャネル長方向の全体にわたって空乏化され、チャネル領域との間にトンネルダイオードが形成される範囲で、適宜変更可能である。別の言い方をすると、第2及び第3の半導体領域の不純物プロファイルの急峻性が4nm/decade以下となる範囲で、適宜変更可能である。また、より具体的には、不純物濃度としては、バンド間トンネリングの発現に必要な1×1019cm-3以上であればよい。さらに、チャネル方向の膜厚としては、トンネル電流が流れる10nm以下であればよい。
【0064】
また、第2及び第3の半導体領域を形成する方法は必ずしも偏析接合形成法に限るものではなく、高濃度の不純物層を十分薄く形成できる方法であればよい。半導体材料、ソース・ドレイン電極形成のためのメタル材料はNiやCoに限るものではなく、仕様に応じて適宜変更可能である。また、本発明の半導体素子は、半導体記憶装置や半導体論理回路装置に限定されるものではなく、負性微分抵抗特性を有するトンネル効果素子を利用した各種の半導体装置に適用することが可能である。
【0065】
その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】第1の実施形態に係わるシリコントンネル効果素子の概略構成を示す断面図。
【図2】第1の実施形態におけるVd−Id特性を示す図。
【図3】(4)式をプロットして示す図。
【図4】ソース・ドレイン電極部のAs及びCoのSIMSプロファイルを示す図。
【図5】偏析接合形成法の原理を説明するための工程断面図。
【図6】SOI基板を用いた例を示す断面図。
【図7】第2の実施形態に係わるトンネル効果素子の概略構成を示す平面図。
【図8】第2の実施形態に係わるトンネル効果素子の概略構成を示す断面図。
【図9】第3の実施形態に係わるダブルゲート型トンネル効果素子の概略構成を示す断面図。
【図10】第4の実施形態に係わるSRAMセルを示す等価回路図。
【図11】第4の実施形態に係わるSRAMの電流・電圧特性を示す図。
【図12】第5の実施形態に係わる電圧制御発振回路(VCO)を示す等価回路図。
【図13】第5の実施形態に係わる電圧制御発振回路(VCO)の発振特性を示す図。
【符号の説明】
【0067】
11,21…シリコン基板(第1の半導体領域)
12,42…ゲート絶縁膜
13,33,43…ゲート電極
14,34,44,64…ソース電極
15,35,45,65…ドレイン電極
16,36,46,66…n+ ソース領域(第2の半導体領域)
17,37,47,67…p+ ドレイン領域(第3の半導体領域)
22…マスク絶縁膜
23…不純物イオン注入領域
24…シリサイド膜
26…高濃度不純物領域
31,41,61…シリコン層(第1の半導体領域)
38…シリコン基板
39…埋め込み絶縁膜
51…素子分離用絶縁膜
52…層間絶縁膜
53…配線
63…第1のゲート電極
69…第2のゲート電極
71,81…トンネル効果素子
72…負荷素子
73…MOSトランジスタ73
82…電源
83…抵抗(R)
84…インダクタ(L)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャネル領域を構成する第1の半導体領域と、前記第1の半導体領域上にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、前記ゲート電極に対応して前記第1の半導体領域の両側に形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記第1の半導体領域と前記ソース電極との間に形成された、前記第1の半導体領域よりも不純物濃度の高いn+ 型の第2の半導体領域と、前記第1の半導体領域と前記ドレイン電極との間に形成された、前記第1の半導体領域よりも不純物濃度の高いp+ 型の第3の半導体領域とを具備し、
前記第2及び第3の半導体領域の前記チャネル領域に接する部分は、電圧無印加の状態においてチャネル長方向の全体にわたって空乏化され、前記チャネル領域と前記第2及び第3の半導体領域との間にトンネルダイオードが形成されることを特徴とする半導体素子。
【請求項2】
チャネル領域を構成する第1の半導体領域と、前記第1の半導体領域上にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、前記ゲート電極に対応して前記第1の半導体領域の両側に形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記第1の半導体領域と前記ソース電極との間に形成された、前記第1の半導体領域よりも不純物濃度の高いn+ 型の第2の半導体領域と、前記第1の半導体領域と前記ドレイン電極との間に形成された、前記第1の半導体領域よりも不純物濃度の高いp+ 型の第3の半導体領域とを具備し、
前記第2及び第3の半導体領域の不純物濃度は1×1019cm-3以上であり、前記第2及び第3の半導体領域の前記チャネル領域に接する部分のチャネル長方向の厚さは10nm以下に形成され、且つ前記不純物濃度で決まる空乏層幅よりも薄く形成されていることを特徴とする半導体素子。
【請求項3】
チャネル領域を構成する第1の半導体領域と、前記第1の半導体領域上にゲート絶縁膜を介して形成されたゲート電極と、前記ゲート電極に対応して前記第1の半導体領域の両側に形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記第1の半導体領域と前記ソース電極との間に形成された、前記第1の半導体領域よりも不純物濃度の高いn+ 型の第2の半導体領域と、前記第1の半導体領域と前記ドレイン電極との間に形成された、前記第1の半導体領域よりも不純物濃度の高いp+ 型の第3の半導体領域とを具備し、
前記第2及び第3の半導体領域の不純物プロファイルの急峻性が4nm/decade以下であることを特徴とする半導体素子。
【請求項4】
前記第1の半導体領域は、絶縁膜上に形成されたものであることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の半導体素子。
【請求項5】
第1乃至第3の半導体領域はシリコンであり、前記ソース電極及びドレイン電極は金属又はシリサイドであることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の半導体素子。
【請求項6】
チャネル領域を構成する第1の半導体領域と、前記第1の半導体領域の上下にそれぞれゲート絶縁膜を介して形成された第1及び第2のゲート電極と、前記各ゲート電極に対応して前記第1の半導体領域の両側に形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記第1の半導体領域と前記ソース電極との間に形成された、前記第1の半導体領域よりも不純物濃度の高いn+ 型の第2の半導体領域と、前記第1の半導体領域と前記ドレイン電極との間に形成された、前記第1の半導体領域よりも不純物濃度の高いp+ 型の第3の半導体領域とを具備し、
前記第2及び第3の半導体領域の前記チャネル領域に接する部分は、電圧無印加の状態においてチャネル長方向の全体にわたって空乏化され、前記チャネル領域と前記第2及び第3の半導体領域との間にトンネルダイオードが形成されることを特徴とする半導体素子。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の半導体素子と、一端が前記半導体装置のドレイン電極に接続され、他端が電源に接続された負荷素子と、ソースが前記半導体装置のドレイン電極に接続され、ドレインがビット線に接続され、ゲートがワード線に接続されたMOSトランジスタと、を具備してなる記憶信号蓄積部を有することを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
請求項1〜6の何れかに記載の半導体素子と、この半導体装置と電源との間に挿入された、抵抗とインダクタンス素子の直列回路と、を具備してなる電圧制御発振回路を有することを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−147861(P2006−147861A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−336048(P2004−336048)
【出願日】平成16年11月19日(2004.11.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】