半導体素子の製造方法
【課題】本発明の実施形態は、ドライエッチングされた基板の表面に、良好な結晶性を有する窒化物半導体を形成することができる半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】実施形態は、ドライエッチングにより処理された基板の表面をハロゲン元素を含む雰囲気中で熱処理し、前記熱処理した前記基板の前記表面に窒化物半導体層を形成することを特徴とする半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】実施形態は、ドライエッチングにより処理された基板の表面をハロゲン元素を含む雰囲気中で熱処理し、前記熱処理した前記基板の前記表面に窒化物半導体層を形成することを特徴とする半導体素子の製造方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を材料とする半導体素子の開発が進められている。窒化物半導体は、サファイアやSiC等の異種基板上に、例えば、MOCVD(Meal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて形成することができる。そして、異種基板上に形成される窒化物半導体層の結晶性の良し悪しは、それを用いて製作される半導体素子の特性を左右する。
【0003】
例えば、窒化物半導体を材料とする発光ダイオード(LED)では、円錐,円柱などの形状を有する凹凸構造を設けたサファイア基板の表面に窒化物半導体層を形成する技術が開発されている。これにより、窒化物半導体結晶およびサファイア基板の内部から発光光を取り出す効率を向上させ、LEDの発光強度を高くすることが可能である。
【0004】
サファイア基板は安定な結晶からなり、その表面を加工するためにドライエッチング法が用いられる。しかし、ドライエッチングにより加工されたサファイア基板の表面にはダメージ層が残り易い。このようなダメージ層が残ったサファイア基板の表面に形成される窒化物半導体の結晶性劣化しやすく、高輝度のLEDを製作することが難しいという問題があった。そこで、ドライエッチングされた基板の表面に、良好な結晶性を有する窒化物半導体を形成する技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−10363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、ドライエッチングされた基板の表面に、良好な結晶性を有する窒化物半導体を形成することができる半導体素子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る半導体素子の製造方法は、ドライエッチングにより処理された基板の表面をハロゲン元素を含む雰囲気中で熱処理し、前記熱処理した前記基板の前記表面に窒化物半導体層を形成することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】一実施形態に係る半導体素子の断面構造を示す模式図である。
【図2】一実施形態に係る半導体素子の製造過程を模式的に示す断面図である。
【図3】図2に続く半導体素子の製造過程を模式的に示す断面図である。
【図4】一実施形態に係る半導体素子の製造装置を模式的に示す断面図である。
【図5】一実施形態に係る窒化物半導体層の成長過程を示す工程図である。
【図6】基板表面に形成された凹凸構造を示すSEM像である。
【図7】窒化物半導体層の表面写真であり、(a)は、一実施形態に係る窒化物半導体層の表面を示し、(b)は、比較例に係る窒化物半導体層の表面を示している。
【図8】窒化物半導体層を形成した基板の断面の一部を示すSEM像であり、(a)は、一実施形態に係る窒化物半導体層を形成した基板の断面を示し、(b)は、比較例に係る窒化物半導体層を形成した断面を示している。
【図9】窒化物半導体層を形成した基板の断面における凸部の近傍を示すSEM像であり、(a)は、一実施形態に係る窒化物半導体層を形成した基板の断面を示し、(b)は、比較例に係る窒化物半導体層を形成した断面を示している。
【図10】一実施形態に係る窒化物半導体層のPLスペクトルを示すグラフである。
【図11】比較例に係る窒化物半導体層のPLスペクトルを示すグラフである。
【図12】一実施形態に係る窒化物半導体層の顕微ラマン散乱スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態では、図面中の同一部分には同一番号を付してその詳しい説明は適宜省略し、異なる部分について適宜説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る半導体素子100の断面構造を示す模式図である。
半導体素子100は、例えば、GaN系の窒化物半導体を材料とするLEDであり、表面に凹凸が設けられたサファイア基板2の上に設けられている。
【0011】
サファイア基板2の表面には、n形GaNバッファ層3、n形GaNコンタクト層4、発光層5およびp形GaN層6が順に積層された窒化物半導体の積層体10が設けられている。発光層5には、例えば、InGaN井戸層とGaN障壁層とが交互に積層された多重量子井戸構造が含まれる。
【0012】
図1に示すように、サファイア基板2の上に設けられた窒化物半導体の積層体10は、発光部以外のp形GaN層6および発光層5がエッチングされたメサ構造に加工されている。p形GaN層6の表面には、p電極7が設けられ、p形GaN層6および発光層5がエッチングされて露出したn形GaNコンタクト層4の表面4aに、n電極8が設けられている。
さらに、メサ構造の側面12、および、n形GaNコンタクト層4の表面4aには、パッシべーション膜9が形成されている。
【0013】
次に、図2および図3を参照して、半導体素子100の製造過程を説明する。
本実施形態に係る半導体素子の製造方法では、ドライエッチングされたサファイア基板2の表面を、ハロゲン元素を含む雰囲気中で熱処理し、その後、サファイア基板2の表面に窒化物半導体層を形成する。
【0014】
図2(a)は、サファイア基板2の断面を模式的に示している。サファイア基板2の表面には、凹部2aが選択的に形成されている。
サファイア基板2には、例えば、C面を主面とするウェーハを用いることができる。凹部2aは、レジストをマスクとして選択的に加工される。例えば、塩素を含有するガスをエッチングガスとし、ICP(Inductively Coupled Plasma)型のRIE(Reactive Ion Etching)装置を用いてドライエッチングすることができる。
【0015】
RIE装置では、プラズマ励起されたイオンを電界により加速し、サファイア基板の表面をスパッタリングし、さらに、塩素による化学反応によりエッチングを促進させる。これにより、化学的に安定なサファイア基板の表面に凹部2aを加工することができる。
【0016】
RIEによるドライエッチングを完了した後には、サファイア基板2の表面に残るエッチング残渣を除去のために、硫酸と過酸化水素水を1:1に混合した溶液にて、約5分間の後処理を行う。
【0017】
例えば、サファイア基板2の全面に円形のレジストマスクを形成し、ドライエッチングすることにより凹部2aを形成する。そして、図6に示すように、底面直径が3μm、側面のテーパ角が65°、高さ1μmの円錐台形状の凸部2bを設けることができる。凸部2bは、例えば、最小ピッチ間隔を約5μmとし、それぞれが六角形の頂点に位置するように配置することができる。さらに、ドライエッチングされたサファイア基板2の表面が粗面化するように加工することもできる。
以下、凸部2bが形成されたサファイア基板2をPSS(Patterned Sapphire Substrate)基板と称する。
【0018】
次に、図2(b)に示すように、PSS基板2の上に、n形GaNバッファ層3および、n形GaNコンタクト層4、発光層5、p形GaN層6を含む窒化物半導体の積層体10を設ける。
【0019】
続いて、図3(a)に示すように、p形GaN層6の表面にp電極7を設け、その後、p形GaN層6および発光層5、n形GaNコンタクト層4の一部を選択的にエッチングして、メサ構造を形成する。
【0020】
そして、図3(b)に示すように、メサ構造の底面に露出したn形GaNコンタクト層4の表面4aにn電極8を形成する。さらに、メサ構造の側面12およびn形GaNコンタクト層4の表面4aにパッシベーション膜9を形成して、図1に示す半導体素子100を完成することができる。
【0021】
半導体素子100では、p電極7からn電極8へ電流を流すことにより、発光層5から発光光が放出される。発光層5から放出された発光光は積層体10の内部を伝播し、一部は積層体の外へ放出される。しかしながら、窒化物半導体と、空気およびサファイア基板と、の間の屈折率差により、発光光の多くは積層体10の内部で反射を繰り返し、発光層5およびp電極7などに吸収され減衰してしまう。
【0022】
そこで、半導体素子100では、サファイア基板2とn形GaNバッファ層3との間の界面に凹凸構造を儲けて反射を抑制し、サファイア基板2の中に発光光が伝播するようにしている。これにより、積層体10の内部で減衰する発光光の量が低減され、積層体10およびサファイア基板2から外へ放出される発光光が多くなり発光強度を向上させることができる。
【0023】
次に、図4および図5を参照して、積層体10に含まれる窒化物半導体層の形成方法について説明する。図4は、窒化物半導体を成長するMOCVD装置200の断面を模式的に示している。図5は、窒化物半導体層を成長する手順を示すフロー図である。
【0024】
図4に示すように、MOCVD装置200は、窒化物半導体を成長する反応室31を備え、反応室31の内部には、ウェーハトレイ33を載置するサセプタ32と、サセプタ32を加熱するランプヒータ35と、原料ガスを供給する配管36と、ウェーハトレイ33の表面全体に対して原料ガスを均一に噴射するシャワーヘッド34と、を備えている。
そして、反応室31の内部に塩素(Cl2)を含むガスを供給するガスポート37を備えている。反応室31の内部に供給されたガスは、真空ポンプ(図示しない)により排気ポート38から排出される。
【0025】
図5に示すMOCVD装置200を用いた窒化物半導体の成長フローでは、最初に、MOCVD装置200の反応室31にPSS基板2を載置する(S01)。
具体的には、反応室31の外部において、複数のPSS基板2をウェーハトレイ33の上に載置する。ウェーハトレイ33は、真空ゲート(図示しない)から反応室31の内部に搬入されサセプタ32の上にセットされる。
【0026】
続いて、反応室31の内部を真空ポンプ(図示しない)で減圧しながら、ランプヒータ35でサセプタ32を加熱する。そして、塩素を含むガスを反応室31に導入する(S02)。
【0027】
例えば、塩素ガスと窒素ガスとを4:1の流量比で反応室31の内部に流入させることができる。PSS基板2は、ウェーハトレイ33を介して約650℃の温度に加熱され、塩素を含む雰囲気で約20分間の熱処理を受ける。以下、この熱処理を塩素前処理と称する。
【0028】
続いて、塩素ガスの供給を止めて、反応室31の内部のガスを窒素ガスで希釈し、徐々に窒素雰囲気に置換する。これにより、PSS基板2の表面における塩化物の昇華を促進することができる。
【0029】
次に、反応室31の内部を水素雰囲気に置換する。例えば、反応室31の内部を減圧し、窒素ガスを排気した後、水素ガスを導入する(S03)。
【0030】
続いて、ランプヒータ35にてサセプタ32を加熱し、PSS基板2の温度を1100℃に上昇させ、約10分間の熱処理を施す(S04)。PSS基板2の保持温度は、例えば、1000℃〜1500℃の範囲の温度に設定することができる。
【0031】
水素雰囲気中でPSS基板2を1000℃以上の温度に加熱し、熱処理を施す過程において、PSS基板2の表面に残留する塩化物を含む反応生成物を除去することができる。
上記の処理では、塩素ガスに変えて、他のハロゲンガスを使用することができる。さらに、窒素ガスの代わりに、例えば、アルゴン(Ar)ガスのような不活性ガスを用いても良い。
【0032】
次に、PSS基板2の上に窒化物半導体層を形成する(S05)。
具体的には、PSS基板2の温度を785℃に降下させ、反応室31をアンモニア雰囲気に置換しPSS基板2の表面を窒化する。続いて、PSS基板2の温度を585℃に降下させ、例えば、トリメチルガリウムとアンモニアガスとを、シャワーヘッド34から供給する。これにより、成長核となる窒化ガリウム(GaN)の微結晶を含む低温バッファ層を約40nm成膜することができる。続いて、PSS基板2の温度を1100℃に加熱し、n形GaNバッファ層3を約5μm成長させる。
【0033】
次に、n形GaNコンタクト層4および発光層5、p形GaN層6を順次成長し、積層体10を形成することができる。各層の成長条件は、それぞれの層に適した条件に設定する。
【0034】
次に、図6〜図12を参照して、本実施形態に係る半導体素子の製造方法よりPSS基板2の上に形成することができる窒化物半導体層の結晶性について説明する。
図6は、PSS基板2の表面に形成された凸部2bを示すSEM(Secondary Electron Microscopy)像である。図6(a)は、塩素前処理を施したPSS基板2の表面を示し、図6(b)は、塩素前処理を施していないPSS基板2の表面を示している。
これらのSEM像からは、塩素前処理の有無による差異は見出せない。すなわち、塩素前処理を施したことによるPSS基板2の表面状態の変化は、外見的には観測されないことがわかる。
【0035】
表1は、塩素前処理前後のPSS基板2の表面、および、凸部2bを形成していないサファイア基板の表面を、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)により評価した結果を示している。表1に示す値は、それぞれの基板表面における元素組成を原子数比(atom%)で示すものであり、各基板に対応するXPSスペクトルから導出した。
【表1】
【0036】
例えば、サファイア基板に凸部2bを形成するドライエッチングおよび塩素前処理の雰囲気に共通して含まれる塩素(Cl)原子に注目してみると、凸部2bを形成する前のサファイア基板、および、塩素前処理を施していないPSS基板2において検出されておらず、ドライエッチングの残渣は無いものと考えられる。
【0037】
一方、塩素前処理を施したPSS基板2の表面には、Cl原子およびGa原子が観測されている。これらは、反応室31の内部に残留している反応生成物に含まれるものが付着したと考えられるが、いずれも微量であり、PSS基板2の上に形成される窒化物半導体層の結晶性に影響を与えるものではない。
【0038】
図7(a)は、PSS基板2の上に形成したn形GaNバッファ層3の表面を示す微分顕微鏡写真である。一方、図7(b)は、塩素前処理を施さずにPSS基板の表面に形成した比較例に係るn形GaN層の表面を示す微分顕微鏡写真である。両者の差は明確であり、図7(a)に示すn形GaNバッファ層3の表面は、図7(b)に示したn形GaN層よりも平坦であることがわかる。
【0039】
表2は、n形GaNバッファ層3(塩素前処理有り)、および、比較例に係るn形GaN層(塩素前処理なし)のXRC(Xray Rocking Curve)の半値幅を示している。同表に示すように、XRCの半値幅は、n形GaNバッファ層3の方が、n形GaN層よりも狭い。例えば、対称面である(002)において約15%、(004)において約20%狭い。そして、非対称面である(101)および(202)でも、n形GaNバッファ層3の方が約40%狭い。
【表2】
【0040】
これらの評価結果は、n形GaNバッファ層3の方が、結晶軸や結晶面の乱れが少ないことを示している。すなわち、塩素前処理は、PSS基板2の上に形成した窒化物半導体の結晶性を向上させることを示している。
【0041】
図8は、窒化物半導体層を形成したPSS基板2の断面の一部を示すSEM像である。図8(a)は、n形GaNバッファ層3を形成した基板の断面を示し、図8(b)は、比較例に係るn形GaN層を形成した断面を示している。
【0042】
図8(b)中に示す矢印は、PSS基板2の表面からn形GaN層の表面に達する貫通転位の密度が高い領域を指し示している。一方、図8(a)に示すn形GaNバッファ層3の断面では、貫通転位の密度の高い領域が見られず、転位密度が低いことがわかる。
【0043】
図9は、PSS基板2に形成された凸部2bの近傍の断面を示すSEM像である。図9(a)は、n形GaNバッファ層3の断面を示し、図9(b)は、比較例に係るn形GaN層の断面を示している。
【0044】
図9(a)および図9(b)に示す断面では、共に凸部2bの側面に異常成長が見られるものの、図9(a)に示すn形GaNバッファ層3の方が、図9(b)のn形GaN層よりも貫通転位が少ないことがわかる。
【0045】
図10および図11は、窒化物半導体層の室温におけるPL(Photoluminescence)スペクトルを示すグラフである。図10は、n形GaNバッファ層3のPLスペクトルを示し、図11は、比較例に係るn形GaN層のPLスペクトルを示している。励起光源として測定に用いたレーザ光の波長は325nmである。
【0046】
図10に示すPLスペクトルでは、半値幅の狭いシャープな発光ピークPEGが波長360nm近傍に見られる。そして、半値幅の広いブロードなピークPDLが波長570nm近傍に観測されている。PEGは、GaN結晶のバンド端発光に起因する発光ピークであり、PDLは、GaN結晶中の欠陥に起因するディープレベル(Deep Level:DL)発光に起因する発光ピークである。
【0047】
図11に示す比較例に係るn形GaN層のPLスペクトルにおいても、波長360nm近傍のシャープな発光ピークPEGと、波長570近傍のブロードな発光ピークPDLと、が観測されている。
【0048】
PDLとPEGとの間の強度比(PDL/PEG)は、図10に示すn形GaNバッファ層3において約0.6であり、図11に示すn形GaN層において、0.8である。すなわち、n形GaNバッファ層3のディープレベルは、比較例に係るn形GaN層のディープレベルよりも少ないことを示しており、n形GaNバッファ層3の結晶性が改善されている。
【0049】
図12は、PSS基板2の顕微ラマン散乱スペクトルを示すグラフである。そして、表3に、凸部2bを形成していないサファイア基板(加工前)、および、塩素前処理を施していないPSS基板2、塩素前処理を施したPSS基板2の顕微ラマン散乱スペクトルのピーク位置(Center)、半値幅(Width)、ラマン散乱強度(Height)をそれぞれ示している。
【表3】
【0050】
各データは、それぞれのウェーハ中心における10mmφのエリア内の3点で測定したスペクトルを、Lorentzカーブによりフィッティングして得られた値の平均値である。表3中に示すC1、C2およびC3は、図12に示したスペクトルの3つの主要なピークにそれぞれ対応する。
【0051】
表3に示す各データによれば、ピーク位置(Center)は、凸部2bを形成するためのドライエッチングおよび塩素前処理を施しても変動していない。これに対し、例えば、半値幅(Width)は、ドライエッチング処理を受けた塩素前処理の無いPSS基板2において、元のサファイア基板よりも広くなり、さらに塩素処理を施すことにより狭くなることがわかる。
【0052】
一方、各ピークのラマン散乱強度(Height)のデータは、サファイア基板にドライエッチングを施すことにより散乱強度が減少し、さらに塩素前処理を施すことにより回復することを示している。
【0053】
顕微ラマン散乱スペクトルでは、ピークのシフトが歪みや応力に対応し、半値幅が結晶性を反映する。表3に示す結果によれば、半値幅の変化から、ドライエッチングにより劣化したPSS基板2の結晶性が、塩素前処理を施すことにより改善することがわかる。さらに、ラマン散乱強度の変化は、ドライエッチングにより生じたPSS基板2の歪みが、塩素前処理により緩和されることを示唆している。
【0054】
ドライエッチングを用いて処理されたPSS基板2の表面には、エネルギー粒子の照射により原子配列が乱されたダメージ層が残留し易い。そして、ドライエッチングで処理されたPSS基板の上に形成される窒化物半導体層の結晶性は、ダメージ層の影響を受ける。このダメージ層は、HFやHClなどの薬液では殆どエッチングされない。このため、ダメージ層を除去することが困難であり、ドライエッチングされたPSS基板の上に良質な窒化物半導体層を形成することが難しかった。
【0055】
これに対し、上記のPSS基板2の評価、および、PSS基板2の上に形成されたn形GaNバッファ層3の評価では、ドライエッチングされたPSS基板2の表面に残留するダメージ層が塩素前処理により除去されること、そして、PSS基板2の上に形成される窒化物半導体層の結晶性の改善が示されている。
【0056】
このように、本実施形態に係る半導体素子の製造方法は、ドライエッチングされた基板の上に結晶性の良い窒化物半導体層を形成する方法を提供し、半導体素子の品質を改善し製造歩留りを向上させる。
【0057】
さらに、本実施形態に係る半導体素子の製造方法では、ハロゲン元素を含む雰囲気における熱処理を、窒化物半導体層を形成する反応室の中で行うことができる。そして、例えば、MOCVD成長の際に反応室31の内部に付着する反応生成物を、塩素前処理により除去することができる。すなわち、反応室31の内部に付着する反応生成物を、成長工程を繰り返す度に除去することが可能であり、反応室31のクリーニングの手間を省くことが可能となる。また、少なくとも、反応室31のクリーニングサイクルを長くすることが可能であり、生産性を向上させることができる。
【0058】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0059】
なお、本願明細書において、「窒化物半導体」とは、BxInyAlzGa(1−x−y−z)N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦x+y+z≦1)のIII−V族化合物半導体を含み、さらに、V族元素としては、N(窒素)に加えてリン(P)や砒素(As)などを含有する混晶も含むものとする。またさらに、導電型などの各種の物性を制御するために添加される各種の元素をさらに含むもの、及び、意図せずに含まれる各種の元素をさらに含むものも、「窒化物半導体」に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0060】
2・・・サファイア基板(PSS基板)、 2a・・・凹部、 2b・・・凸部、 3・・・n形GaNバッファ層、 4・・・n形GaNコンタクト層、 5・・・発光層、 6・・・p形GaN層、 7・・・p電極、 8・・・n電極、 9・・・パッシベーション膜、 10・・・積層体、 12・・・メサ構造の側面、 31・・・反応室、 32・・・サセプタ、 33・・・ウェーハトレイ、 34・・・シャワーヘッド、 35・・・ランプヒータ、 36・・・配管、 37・・・ガスポート、 38・・・排気ポート、 100・・・半導体素子、 200・・・MOCVD装置
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体を材料とする半導体素子の開発が進められている。窒化物半導体は、サファイアやSiC等の異種基板上に、例えば、MOCVD(Meal Organic Chemical Vapor Deposition)法を用いて形成することができる。そして、異種基板上に形成される窒化物半導体層の結晶性の良し悪しは、それを用いて製作される半導体素子の特性を左右する。
【0003】
例えば、窒化物半導体を材料とする発光ダイオード(LED)では、円錐,円柱などの形状を有する凹凸構造を設けたサファイア基板の表面に窒化物半導体層を形成する技術が開発されている。これにより、窒化物半導体結晶およびサファイア基板の内部から発光光を取り出す効率を向上させ、LEDの発光強度を高くすることが可能である。
【0004】
サファイア基板は安定な結晶からなり、その表面を加工するためにドライエッチング法が用いられる。しかし、ドライエッチングにより加工されたサファイア基板の表面にはダメージ層が残り易い。このようなダメージ層が残ったサファイア基板の表面に形成される窒化物半導体の結晶性劣化しやすく、高輝度のLEDを製作することが難しいという問題があった。そこで、ドライエッチングされた基板の表面に、良好な結晶性を有する窒化物半導体を形成する技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−10363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の実施形態は、ドライエッチングされた基板の表面に、良好な結晶性を有する窒化物半導体を形成することができる半導体素子の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る半導体素子の製造方法は、ドライエッチングにより処理された基板の表面をハロゲン元素を含む雰囲気中で熱処理し、前記熱処理した前記基板の前記表面に窒化物半導体層を形成することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】一実施形態に係る半導体素子の断面構造を示す模式図である。
【図2】一実施形態に係る半導体素子の製造過程を模式的に示す断面図である。
【図3】図2に続く半導体素子の製造過程を模式的に示す断面図である。
【図4】一実施形態に係る半導体素子の製造装置を模式的に示す断面図である。
【図5】一実施形態に係る窒化物半導体層の成長過程を示す工程図である。
【図6】基板表面に形成された凹凸構造を示すSEM像である。
【図7】窒化物半導体層の表面写真であり、(a)は、一実施形態に係る窒化物半導体層の表面を示し、(b)は、比較例に係る窒化物半導体層の表面を示している。
【図8】窒化物半導体層を形成した基板の断面の一部を示すSEM像であり、(a)は、一実施形態に係る窒化物半導体層を形成した基板の断面を示し、(b)は、比較例に係る窒化物半導体層を形成した断面を示している。
【図9】窒化物半導体層を形成した基板の断面における凸部の近傍を示すSEM像であり、(a)は、一実施形態に係る窒化物半導体層を形成した基板の断面を示し、(b)は、比較例に係る窒化物半導体層を形成した断面を示している。
【図10】一実施形態に係る窒化物半導体層のPLスペクトルを示すグラフである。
【図11】比較例に係る窒化物半導体層のPLスペクトルを示すグラフである。
【図12】一実施形態に係る窒化物半導体層の顕微ラマン散乱スペクトルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態では、図面中の同一部分には同一番号を付してその詳しい説明は適宜省略し、異なる部分について適宜説明する。
【0010】
図1は、本実施形態に係る半導体素子100の断面構造を示す模式図である。
半導体素子100は、例えば、GaN系の窒化物半導体を材料とするLEDであり、表面に凹凸が設けられたサファイア基板2の上に設けられている。
【0011】
サファイア基板2の表面には、n形GaNバッファ層3、n形GaNコンタクト層4、発光層5およびp形GaN層6が順に積層された窒化物半導体の積層体10が設けられている。発光層5には、例えば、InGaN井戸層とGaN障壁層とが交互に積層された多重量子井戸構造が含まれる。
【0012】
図1に示すように、サファイア基板2の上に設けられた窒化物半導体の積層体10は、発光部以外のp形GaN層6および発光層5がエッチングされたメサ構造に加工されている。p形GaN層6の表面には、p電極7が設けられ、p形GaN層6および発光層5がエッチングされて露出したn形GaNコンタクト層4の表面4aに、n電極8が設けられている。
さらに、メサ構造の側面12、および、n形GaNコンタクト層4の表面4aには、パッシべーション膜9が形成されている。
【0013】
次に、図2および図3を参照して、半導体素子100の製造過程を説明する。
本実施形態に係る半導体素子の製造方法では、ドライエッチングされたサファイア基板2の表面を、ハロゲン元素を含む雰囲気中で熱処理し、その後、サファイア基板2の表面に窒化物半導体層を形成する。
【0014】
図2(a)は、サファイア基板2の断面を模式的に示している。サファイア基板2の表面には、凹部2aが選択的に形成されている。
サファイア基板2には、例えば、C面を主面とするウェーハを用いることができる。凹部2aは、レジストをマスクとして選択的に加工される。例えば、塩素を含有するガスをエッチングガスとし、ICP(Inductively Coupled Plasma)型のRIE(Reactive Ion Etching)装置を用いてドライエッチングすることができる。
【0015】
RIE装置では、プラズマ励起されたイオンを電界により加速し、サファイア基板の表面をスパッタリングし、さらに、塩素による化学反応によりエッチングを促進させる。これにより、化学的に安定なサファイア基板の表面に凹部2aを加工することができる。
【0016】
RIEによるドライエッチングを完了した後には、サファイア基板2の表面に残るエッチング残渣を除去のために、硫酸と過酸化水素水を1:1に混合した溶液にて、約5分間の後処理を行う。
【0017】
例えば、サファイア基板2の全面に円形のレジストマスクを形成し、ドライエッチングすることにより凹部2aを形成する。そして、図6に示すように、底面直径が3μm、側面のテーパ角が65°、高さ1μmの円錐台形状の凸部2bを設けることができる。凸部2bは、例えば、最小ピッチ間隔を約5μmとし、それぞれが六角形の頂点に位置するように配置することができる。さらに、ドライエッチングされたサファイア基板2の表面が粗面化するように加工することもできる。
以下、凸部2bが形成されたサファイア基板2をPSS(Patterned Sapphire Substrate)基板と称する。
【0018】
次に、図2(b)に示すように、PSS基板2の上に、n形GaNバッファ層3および、n形GaNコンタクト層4、発光層5、p形GaN層6を含む窒化物半導体の積層体10を設ける。
【0019】
続いて、図3(a)に示すように、p形GaN層6の表面にp電極7を設け、その後、p形GaN層6および発光層5、n形GaNコンタクト層4の一部を選択的にエッチングして、メサ構造を形成する。
【0020】
そして、図3(b)に示すように、メサ構造の底面に露出したn形GaNコンタクト層4の表面4aにn電極8を形成する。さらに、メサ構造の側面12およびn形GaNコンタクト層4の表面4aにパッシベーション膜9を形成して、図1に示す半導体素子100を完成することができる。
【0021】
半導体素子100では、p電極7からn電極8へ電流を流すことにより、発光層5から発光光が放出される。発光層5から放出された発光光は積層体10の内部を伝播し、一部は積層体の外へ放出される。しかしながら、窒化物半導体と、空気およびサファイア基板と、の間の屈折率差により、発光光の多くは積層体10の内部で反射を繰り返し、発光層5およびp電極7などに吸収され減衰してしまう。
【0022】
そこで、半導体素子100では、サファイア基板2とn形GaNバッファ層3との間の界面に凹凸構造を儲けて反射を抑制し、サファイア基板2の中に発光光が伝播するようにしている。これにより、積層体10の内部で減衰する発光光の量が低減され、積層体10およびサファイア基板2から外へ放出される発光光が多くなり発光強度を向上させることができる。
【0023】
次に、図4および図5を参照して、積層体10に含まれる窒化物半導体層の形成方法について説明する。図4は、窒化物半導体を成長するMOCVD装置200の断面を模式的に示している。図5は、窒化物半導体層を成長する手順を示すフロー図である。
【0024】
図4に示すように、MOCVD装置200は、窒化物半導体を成長する反応室31を備え、反応室31の内部には、ウェーハトレイ33を載置するサセプタ32と、サセプタ32を加熱するランプヒータ35と、原料ガスを供給する配管36と、ウェーハトレイ33の表面全体に対して原料ガスを均一に噴射するシャワーヘッド34と、を備えている。
そして、反応室31の内部に塩素(Cl2)を含むガスを供給するガスポート37を備えている。反応室31の内部に供給されたガスは、真空ポンプ(図示しない)により排気ポート38から排出される。
【0025】
図5に示すMOCVD装置200を用いた窒化物半導体の成長フローでは、最初に、MOCVD装置200の反応室31にPSS基板2を載置する(S01)。
具体的には、反応室31の外部において、複数のPSS基板2をウェーハトレイ33の上に載置する。ウェーハトレイ33は、真空ゲート(図示しない)から反応室31の内部に搬入されサセプタ32の上にセットされる。
【0026】
続いて、反応室31の内部を真空ポンプ(図示しない)で減圧しながら、ランプヒータ35でサセプタ32を加熱する。そして、塩素を含むガスを反応室31に導入する(S02)。
【0027】
例えば、塩素ガスと窒素ガスとを4:1の流量比で反応室31の内部に流入させることができる。PSS基板2は、ウェーハトレイ33を介して約650℃の温度に加熱され、塩素を含む雰囲気で約20分間の熱処理を受ける。以下、この熱処理を塩素前処理と称する。
【0028】
続いて、塩素ガスの供給を止めて、反応室31の内部のガスを窒素ガスで希釈し、徐々に窒素雰囲気に置換する。これにより、PSS基板2の表面における塩化物の昇華を促進することができる。
【0029】
次に、反応室31の内部を水素雰囲気に置換する。例えば、反応室31の内部を減圧し、窒素ガスを排気した後、水素ガスを導入する(S03)。
【0030】
続いて、ランプヒータ35にてサセプタ32を加熱し、PSS基板2の温度を1100℃に上昇させ、約10分間の熱処理を施す(S04)。PSS基板2の保持温度は、例えば、1000℃〜1500℃の範囲の温度に設定することができる。
【0031】
水素雰囲気中でPSS基板2を1000℃以上の温度に加熱し、熱処理を施す過程において、PSS基板2の表面に残留する塩化物を含む反応生成物を除去することができる。
上記の処理では、塩素ガスに変えて、他のハロゲンガスを使用することができる。さらに、窒素ガスの代わりに、例えば、アルゴン(Ar)ガスのような不活性ガスを用いても良い。
【0032】
次に、PSS基板2の上に窒化物半導体層を形成する(S05)。
具体的には、PSS基板2の温度を785℃に降下させ、反応室31をアンモニア雰囲気に置換しPSS基板2の表面を窒化する。続いて、PSS基板2の温度を585℃に降下させ、例えば、トリメチルガリウムとアンモニアガスとを、シャワーヘッド34から供給する。これにより、成長核となる窒化ガリウム(GaN)の微結晶を含む低温バッファ層を約40nm成膜することができる。続いて、PSS基板2の温度を1100℃に加熱し、n形GaNバッファ層3を約5μm成長させる。
【0033】
次に、n形GaNコンタクト層4および発光層5、p形GaN層6を順次成長し、積層体10を形成することができる。各層の成長条件は、それぞれの層に適した条件に設定する。
【0034】
次に、図6〜図12を参照して、本実施形態に係る半導体素子の製造方法よりPSS基板2の上に形成することができる窒化物半導体層の結晶性について説明する。
図6は、PSS基板2の表面に形成された凸部2bを示すSEM(Secondary Electron Microscopy)像である。図6(a)は、塩素前処理を施したPSS基板2の表面を示し、図6(b)は、塩素前処理を施していないPSS基板2の表面を示している。
これらのSEM像からは、塩素前処理の有無による差異は見出せない。すなわち、塩素前処理を施したことによるPSS基板2の表面状態の変化は、外見的には観測されないことがわかる。
【0035】
表1は、塩素前処理前後のPSS基板2の表面、および、凸部2bを形成していないサファイア基板の表面を、XPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)により評価した結果を示している。表1に示す値は、それぞれの基板表面における元素組成を原子数比(atom%)で示すものであり、各基板に対応するXPSスペクトルから導出した。
【表1】
【0036】
例えば、サファイア基板に凸部2bを形成するドライエッチングおよび塩素前処理の雰囲気に共通して含まれる塩素(Cl)原子に注目してみると、凸部2bを形成する前のサファイア基板、および、塩素前処理を施していないPSS基板2において検出されておらず、ドライエッチングの残渣は無いものと考えられる。
【0037】
一方、塩素前処理を施したPSS基板2の表面には、Cl原子およびGa原子が観測されている。これらは、反応室31の内部に残留している反応生成物に含まれるものが付着したと考えられるが、いずれも微量であり、PSS基板2の上に形成される窒化物半導体層の結晶性に影響を与えるものではない。
【0038】
図7(a)は、PSS基板2の上に形成したn形GaNバッファ層3の表面を示す微分顕微鏡写真である。一方、図7(b)は、塩素前処理を施さずにPSS基板の表面に形成した比較例に係るn形GaN層の表面を示す微分顕微鏡写真である。両者の差は明確であり、図7(a)に示すn形GaNバッファ層3の表面は、図7(b)に示したn形GaN層よりも平坦であることがわかる。
【0039】
表2は、n形GaNバッファ層3(塩素前処理有り)、および、比較例に係るn形GaN層(塩素前処理なし)のXRC(Xray Rocking Curve)の半値幅を示している。同表に示すように、XRCの半値幅は、n形GaNバッファ層3の方が、n形GaN層よりも狭い。例えば、対称面である(002)において約15%、(004)において約20%狭い。そして、非対称面である(101)および(202)でも、n形GaNバッファ層3の方が約40%狭い。
【表2】
【0040】
これらの評価結果は、n形GaNバッファ層3の方が、結晶軸や結晶面の乱れが少ないことを示している。すなわち、塩素前処理は、PSS基板2の上に形成した窒化物半導体の結晶性を向上させることを示している。
【0041】
図8は、窒化物半導体層を形成したPSS基板2の断面の一部を示すSEM像である。図8(a)は、n形GaNバッファ層3を形成した基板の断面を示し、図8(b)は、比較例に係るn形GaN層を形成した断面を示している。
【0042】
図8(b)中に示す矢印は、PSS基板2の表面からn形GaN層の表面に達する貫通転位の密度が高い領域を指し示している。一方、図8(a)に示すn形GaNバッファ層3の断面では、貫通転位の密度の高い領域が見られず、転位密度が低いことがわかる。
【0043】
図9は、PSS基板2に形成された凸部2bの近傍の断面を示すSEM像である。図9(a)は、n形GaNバッファ層3の断面を示し、図9(b)は、比較例に係るn形GaN層の断面を示している。
【0044】
図9(a)および図9(b)に示す断面では、共に凸部2bの側面に異常成長が見られるものの、図9(a)に示すn形GaNバッファ層3の方が、図9(b)のn形GaN層よりも貫通転位が少ないことがわかる。
【0045】
図10および図11は、窒化物半導体層の室温におけるPL(Photoluminescence)スペクトルを示すグラフである。図10は、n形GaNバッファ層3のPLスペクトルを示し、図11は、比較例に係るn形GaN層のPLスペクトルを示している。励起光源として測定に用いたレーザ光の波長は325nmである。
【0046】
図10に示すPLスペクトルでは、半値幅の狭いシャープな発光ピークPEGが波長360nm近傍に見られる。そして、半値幅の広いブロードなピークPDLが波長570nm近傍に観測されている。PEGは、GaN結晶のバンド端発光に起因する発光ピークであり、PDLは、GaN結晶中の欠陥に起因するディープレベル(Deep Level:DL)発光に起因する発光ピークである。
【0047】
図11に示す比較例に係るn形GaN層のPLスペクトルにおいても、波長360nm近傍のシャープな発光ピークPEGと、波長570近傍のブロードな発光ピークPDLと、が観測されている。
【0048】
PDLとPEGとの間の強度比(PDL/PEG)は、図10に示すn形GaNバッファ層3において約0.6であり、図11に示すn形GaN層において、0.8である。すなわち、n形GaNバッファ層3のディープレベルは、比較例に係るn形GaN層のディープレベルよりも少ないことを示しており、n形GaNバッファ層3の結晶性が改善されている。
【0049】
図12は、PSS基板2の顕微ラマン散乱スペクトルを示すグラフである。そして、表3に、凸部2bを形成していないサファイア基板(加工前)、および、塩素前処理を施していないPSS基板2、塩素前処理を施したPSS基板2の顕微ラマン散乱スペクトルのピーク位置(Center)、半値幅(Width)、ラマン散乱強度(Height)をそれぞれ示している。
【表3】
【0050】
各データは、それぞれのウェーハ中心における10mmφのエリア内の3点で測定したスペクトルを、Lorentzカーブによりフィッティングして得られた値の平均値である。表3中に示すC1、C2およびC3は、図12に示したスペクトルの3つの主要なピークにそれぞれ対応する。
【0051】
表3に示す各データによれば、ピーク位置(Center)は、凸部2bを形成するためのドライエッチングおよび塩素前処理を施しても変動していない。これに対し、例えば、半値幅(Width)は、ドライエッチング処理を受けた塩素前処理の無いPSS基板2において、元のサファイア基板よりも広くなり、さらに塩素処理を施すことにより狭くなることがわかる。
【0052】
一方、各ピークのラマン散乱強度(Height)のデータは、サファイア基板にドライエッチングを施すことにより散乱強度が減少し、さらに塩素前処理を施すことにより回復することを示している。
【0053】
顕微ラマン散乱スペクトルでは、ピークのシフトが歪みや応力に対応し、半値幅が結晶性を反映する。表3に示す結果によれば、半値幅の変化から、ドライエッチングにより劣化したPSS基板2の結晶性が、塩素前処理を施すことにより改善することがわかる。さらに、ラマン散乱強度の変化は、ドライエッチングにより生じたPSS基板2の歪みが、塩素前処理により緩和されることを示唆している。
【0054】
ドライエッチングを用いて処理されたPSS基板2の表面には、エネルギー粒子の照射により原子配列が乱されたダメージ層が残留し易い。そして、ドライエッチングで処理されたPSS基板の上に形成される窒化物半導体層の結晶性は、ダメージ層の影響を受ける。このダメージ層は、HFやHClなどの薬液では殆どエッチングされない。このため、ダメージ層を除去することが困難であり、ドライエッチングされたPSS基板の上に良質な窒化物半導体層を形成することが難しかった。
【0055】
これに対し、上記のPSS基板2の評価、および、PSS基板2の上に形成されたn形GaNバッファ層3の評価では、ドライエッチングされたPSS基板2の表面に残留するダメージ層が塩素前処理により除去されること、そして、PSS基板2の上に形成される窒化物半導体層の結晶性の改善が示されている。
【0056】
このように、本実施形態に係る半導体素子の製造方法は、ドライエッチングされた基板の上に結晶性の良い窒化物半導体層を形成する方法を提供し、半導体素子の品質を改善し製造歩留りを向上させる。
【0057】
さらに、本実施形態に係る半導体素子の製造方法では、ハロゲン元素を含む雰囲気における熱処理を、窒化物半導体層を形成する反応室の中で行うことができる。そして、例えば、MOCVD成長の際に反応室31の内部に付着する反応生成物を、塩素前処理により除去することができる。すなわち、反応室31の内部に付着する反応生成物を、成長工程を繰り返す度に除去することが可能であり、反応室31のクリーニングの手間を省くことが可能となる。また、少なくとも、反応室31のクリーニングサイクルを長くすることが可能であり、生産性を向上させることができる。
【0058】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0059】
なお、本願明細書において、「窒化物半導体」とは、BxInyAlzGa(1−x−y−z)N(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、0≦x+y+z≦1)のIII−V族化合物半導体を含み、さらに、V族元素としては、N(窒素)に加えてリン(P)や砒素(As)などを含有する混晶も含むものとする。またさらに、導電型などの各種の物性を制御するために添加される各種の元素をさらに含むもの、及び、意図せずに含まれる各種の元素をさらに含むものも、「窒化物半導体」に含まれるものとする。
【符号の説明】
【0060】
2・・・サファイア基板(PSS基板)、 2a・・・凹部、 2b・・・凸部、 3・・・n形GaNバッファ層、 4・・・n形GaNコンタクト層、 5・・・発光層、 6・・・p形GaN層、 7・・・p電極、 8・・・n電極、 9・・・パッシベーション膜、 10・・・積層体、 12・・・メサ構造の側面、 31・・・反応室、 32・・・サセプタ、 33・・・ウェーハトレイ、 34・・・シャワーヘッド、 35・・・ランプヒータ、 36・・・配管、 37・・・ガスポート、 38・・・排気ポート、 100・・・半導体素子、 200・・・MOCVD装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドライエッチングにより処理された基板の表面をハロゲン元素を含む雰囲気中で熱処理し、
前記熱処理した前記基板の前記表面に窒化物半導体層を形成することを特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記基板の前記表面に、前記ドライエッチングにより凹部を選択的に形成することを特徴とする請求項1記載の半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記基板を、650℃以上の温度で前記熱処理することを特徴とする請求項1または2に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記ハロゲン元素は、塩素であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記基板は、サファイア基板であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記基板の前記表面を前記ハロゲン元素を含む雰囲気で熱処理した後、さらに、水素を含む雰囲気で1000℃以上1500℃以下の温度で熱処理し、その後、前記窒化物半導体層を形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記ハロゲン元素を含む雰囲気中での熱処理を、前記窒化物半導体層を形成する反応室の中で行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項1】
ドライエッチングにより処理された基板の表面をハロゲン元素を含む雰囲気中で熱処理し、
前記熱処理した前記基板の前記表面に窒化物半導体層を形成することを特徴とする半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記基板の前記表面に、前記ドライエッチングにより凹部を選択的に形成することを特徴とする請求項1記載の半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記基板を、650℃以上の温度で前記熱処理することを特徴とする請求項1または2に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記ハロゲン元素は、塩素であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記基板は、サファイア基板であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記基板の前記表面を前記ハロゲン元素を含む雰囲気で熱処理した後、さらに、水素を含む雰囲気で1000℃以上1500℃以下の温度で熱処理し、その後、前記窒化物半導体層を形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記ハロゲン元素を含む雰囲気中での熱処理を、前記窒化物半導体層を形成する反応室の中で行うことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つに記載の半導体素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図10】
【図11】
【図12】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図10】
【図11】
【図12】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【公開番号】特開2012−64811(P2012−64811A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208547(P2010−208547)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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