説明

半導体装置の製造方法、半導体装置、および電子機器

【課題】配線層の露出面において、ダイシングの工程等で水が接触することにより生じ、配線層の露出面における接合強度の低下や外観不良等の原因となる腐食の発生を抑制する。
【解決手段】半導体基板の一方の面側にて、標準電極電位が互いに異なる2種以上の金属を含む合金により形成された配線層を露出させる工程(パッドを開口する工程(S10))と、前記配線層の露出面を含む範囲に、N/Arプラズマを照射するプラズマ処理を行う工程(N/Arプラズマ処理を行う工程(S30))と、を含む方法を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法、半導体装置、および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
CCD(Charge Coupled Device)型やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)型のイメージ・センサ(固体撮像素子)等の半導体装置は、配線層の一部として、電極パッドを有する。半導体装置の電極パッドは、例えばリード線を取り出すリードフレーム等に電気的に接続される。こうしたリードフレーム等に対する電極パッドの電気的な接続を行うため、電極パッドには、ワイヤボンディングにより金属線が接続されたり、はんだ等を材料とする突起部分であるバンプが形成されたりする。
【0003】
半導体装置の電極パッドは、半導体装置の製造過程において、ウエーハプロセスと呼ばれる前工程にて形成される。電極パッドは、例えば、シリコン(Si)により構成される半導体基板(ウエーハ)上に、電極パッドと、この電極パッドを覆うように保護用のパシベーション膜や平坦化膜等からなる積層膜とが形成された状態から、電極パッド上の積層膜が除去されることにより外部に露出する。電極パッド上の積層膜は、例えばエッチングガスを用いたドライエッチング処理等により除去され、積層膜の除去された部分として、電極パッドを露出させる開口部が形成される。
【0004】
そして、電極パッドを形成する工程を含む前工程の後、後工程にて、ワイヤボンディング等、電極パッドに対する電気的な接続処理が行われる。なお、後工程では、ワイヤボンディング等の電気的な接続処理の前に、プローブ針を用いた検査測定(プロービング)等によるウエーハの検査や、ウエーハを切断して複数のチップに分離するダイシングが行われる。ダイシングの工程では、ウエーハが、例えば高速に回転する円盤状のダイヤモンドブレードにより、冷却水をかけられながら切断される。
【0005】
このような工程により製造される半導体装置においては、電極パッドにおける電気的・機械的な接続についての信頼性を向上させるため、電極パッドでの接合強度を確保することが重要である。電極パッドでの接合強度を確保するため、従来、種々の観点から対策が講じられている。例えば、特許文献1には、電極パッドの膜厚が薄くなることで電極パッドの機械的な強度が不足して接合強度が低下するという観点から、電極パッドを積層膜で形成することで、接合強度を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−253422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、半導体装置において、電極パッドでの接合強度を低下させる原因の一つに、電極パッドに水が接触することにより電極パッドに腐食が生じるということがある。電極パッドは、上記のとおり後工程で行われるダイシング時において、冷却水として用いられる水(純水)を浴びることで、水に接触する。電極パッドに水が接触すると、水の電気分解によって、電極パッドを構成する金属のイオン化が生じる。このような現象は、ガルバニック腐食と呼ばれる。
【0008】
具体的には、例えば、電極パッドが、アルミニウム(Al)と銅(Cu)の合金(AlCu)である場合、電極パッドに水が接触することで、Alがイオン化し、Alイオンが溶出する。溶出したAlイオンは、水と反応するとともに、例えばダイシングにより生じたウエーハの切削屑(シリコンの屑)等と結合することで、電極パッドの表面に対する付着物となる。この付着物は、Alイオンが水と反応することで生成される水酸化アルミニウムにより覆われ、電極パッドの表面に強固に付着する。こうした電極パッドの表面の付着物により、電極パッドの表面において、ガルバニック腐食による腐食部分の周りに付着物が付着した腐食異常が発生する。
【0009】
このように、電極パッドの表面には、ガルバニック腐食を起点とする腐食が生じる。電極パッドの表面に発生する腐食は、電極パッドとこの電極パッドに接続される金属線等の配線との接合面としての実効的な接触面積を減少させるため、機械的な接合強度の低下や電気的な接触不良等の接続不良の原因となる。また、電極パッドの表面に発生する腐食は、外観不良の原因ともなる。そして、電極パッドにおける接続不良は、信頼性の面から、顧客クレームの要因ともなる。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、配線層の露出面において、ダイシングの工程等で水が接触することにより生じ、配線層の露出面における接合強度の低下や外観不良等の原因となる腐食の発生を抑制することができる半導体装置の製造方法、半導体装置、および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の半導体装置の製造方法は、半導体基板の一方の面側にて、標準電極電位が互いに異なる2種以上の金属を含む合金により形成された配線層を露出させる工程と、前記配線層の露出面を含む範囲に、窒素を含むガスと不活性ガスとの混合ガスにより生成されたプラズマ、または窒素を含むガスにより生成されたプラズマを照射するプラズマ処理を行う工程と、を含むものである。
【0012】
また、本発明の半導体装置の製造方法は、前記配線層を露出させる工程は、前記露出面に形成される不動態層の生成をともなうものであり、前記配線層を露出させる工程と、前記プラズマ処理を行う工程との間に、前記不動態層を除去する工程をさらに含むものである。
【0013】
また、本発明の半導体装置の製造方法においては、前記窒素を含むガスは、窒素、アンモニア、および3フッ化窒素のうちの少なくとも1種を含み、前記不活性ガスは、アルゴン、キセノン、ヘリウム、およびネオンのうちの少なくとも1種を含むものである。
【0014】
また、本発明の半導体装置の製造方法においては、前記配線層は、前記露出面として電気的な接続処理を受ける接続面を有する電極パッドを含むものである。
【0015】
また、本発明の半導体装置の製造方法は、前記プラズマ処理を行う工程の後に、前記半導体基板を切断して複数のチップに分離するダイシングを行う工程をさらに含むものである。
【0016】
本発明の半導体装置の製造方法は、半導体基板の一方の面側にて、標準電極電位が互いに異なる2種以上の金属が互いに接触する接触部が生成される所定の処理を行う工程と、前記接触部を含む範囲に、窒素を含むガスと不活性ガスとの混合ガスにより生成されたプラズマ、または窒素を含むガスにより生成されたプラズマを照射するプラズマ処理を行う工程と、を含むものである。
【0017】
本発明の半導体装置は、半導体基板と、半導体基板の一方の面側にて、標準電極電位が互いに異なる2種以上の金属を含む合金により形成された配線層と、前記配線層が窒素を含むガスと不活性ガスとの混合ガスにより生成されたプラズマ、または窒素を含むガスにより生成されたプラズマの照射を受けることにより、前記配線層の前記プラズマの照射を受けた面の表層に形成される窒化層と、を備えるものである。
【0018】
また、本発明の半導体装置は、前記窒化層は、前記2種以上の金属のうち標準電極電位が比較的高い金属の部分の表層に形成されるものであり、前記配線層の表層が不動態化されることにより形成される不動態層をさらに備えるものである。
【0019】
本発明の電子機器は、前記半導体装置と、前記半導体装置を駆動するための駆動信号を生成する駆動手段と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、配線層の露出面において、ダイシングの工程等で配線層の露出面に水が接触することにより生じ、配線層の露出面における接合強度の低下や外観不良等の原因となる腐食の発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態に係る固体撮像素子の構成を示す断面図。
【図2】腐食発生のメカニズムについての説明図。
【図3】本発明の一実施形態に係る製造方法を示すフロー図。
【図4】本発明の一実施形態に係る製造方法についての説明図。
【図5】本発明の一実施形態に係る製造方法についての説明図。
【図6】本発明の一実施形態に係る製造方法についての説明図。
【図7】本発明の一実施形態に係る製造方法についての説明図。
【図8】本発明の一実施形態に係る固体撮像素子の製造過程の状態を示す部分拡大断面図。
【図9】本発明の一実施形態に係る固体撮像素子の構成を示す部分拡大断面図。
【図10】本発明の一実施形態と従来例との腐食発生についての比較を示す図。
【図11】本発明の一実施形態に係るワイヤボンディングによる接合強度の測定についての説明図。
【図12】本発明の一実施形態および従来例の接合強度の測定結果の一例を示す図。
【図13】本発明の一実施形態に係る製造方法を示すフロー図。
【図14】本発明の一実施形態に係る製造方法についての説明図。
【図15】本発明の一実施形態に係る固体撮像素子の構成を示す部分拡大断面図。
【図16】本発明の一実施形態に係る製造方法を示すフロー図。
【図17】本発明の一実施形態に係る固体撮像素子の構成を示す部分拡大断面図。
【図18】本発明の一実施形態に係る製造方法についての説明図。
【図19】本発明の一実施形態に係る電子機器の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、例えば電極バッド等の配線層が、AlCu等の、標準電極電位が互いに異なる2種以上の金属を含む合金を材料として形成される構成において、ダイシング時等に、露出した状態の配線層に水が接触することによるガルバニック効果に起因して、配線層の表面に腐食が生じることに着目したものである。
【0023】
ここで、ガルバニック効果とは、異種の金属が合金の状態や接触している状態で導電性の液内で共存した場合、標準電極電位の違いにより、一方が電子を放出してイオンとなって溶液中に溶解し、その電子が溶液を通して、他方に供給される現象である。例えば、上記のとおり配線層が水に接触する場合、標準電極電位の低い方の金属(比較的「卑」な金属)は酸化されて水中に溶解し、溶解時に生じる電子は導電性の液中の水素イオンと結合(還元)し、水素を発生させる。具体的には、標準電極電位の低い方の金属がAlの場合、次のような反応が生じる。
Al→Al3++3e (酸化)
O+CO→H+HCO (導電性溶液の電離)
2H+2e→H (還元)
【0024】
本発明は、上述のとおりガルバニック効果に起因して配線層の表面に発生する腐食を抑制するため、半導体の製造過程において、電極パッド等として配線層を露出させる工程の後、配線層の露出面を含む範囲に、所定の混合ガスにより生成されたプラズマを照射する工程を行う。
【0025】
本発明では、プラズマを構成する混合ガスとして、窒素を含むガスと不活性ガスとの混合ガス、または窒素を含むガスを用いる。ここで、窒素を含むガスとしては、窒素(N)、アンモニア(NH)、および3フッ化窒素(NF)等が挙げられる。また、不活性ガスとしては、アルゴン(Ar)、キセノン(Xe)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)等が挙げられる。したがって、本発明において用いられるプラズマは、例えば、窒素とアルゴンとの混合ガスにより生成されたN/Arプラズマ、あるいは窒素ガスにより生成されたNプラズマである。
【0026】
このように、電極バッド等の配線層の露出面を含む範囲に上記のようなプラズマを照射することで、プラズマによる窒化作用等により、配線層の露出面におけるガルバニック効果を防止することができ、配線層の表面に発生する腐食を抑制することができる。また、ガルバニック効果は、上記のとおり異種の金属が接触している部分においても生じる。このため、本発明において、プラズマの照射対象には、標準電極電位が互いに異なる金属からなる合金のほか、標準電極電位が互いに異なる金属の接触部分も含む。
【0027】
以下、本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する本発明の実施の形態では、半導体装置として、CMOSイメージ・センサを例に説明する。ただし、本発明は、CCDイメージ・センサ等の他の固体撮像素子はもちろんのこと、半導体集積回路等の他の半導体装置一般に広く適用することができる。
【0028】
[固体撮像素子の構成]
本実施形態に係る固体撮像素子1について、図1を用いて説明する。図1に示すように、固体撮像素子1は、シリコン等の半導体により構成されるウエーハとしての半導体基板2を有する。固体撮像素子1は、半導体基板2の平面視において、撮像領域3と、周辺回路領域4と、外部接続領域5とを有する。
【0029】
撮像領域3は、矩形状の領域であり、平面的に行列状に配置される複数の単位画素6を有する。つまり、複数の単位画素6は、矩形状の撮像領域3に沿って、縦方向(垂直方向)・横方向(水平方向)に2次元行列状に配置される。単位画素6は、半導体基板2に形成される。
【0030】
各単位画素6は、光電変換機能を有する受光素子としてのフォト・ダイオードと、複数のMOSトランジスタとにより構成される。単位画素6を構成するフォト・ダイオードは、受光面を有し、その受光面に入射した光の光量(強度)に応じた量の信号電荷を生成する。単位画素6は、複数のMOSトランジスタとして、フォト・ダイオードにより生成された信号電荷の増幅、選択、およびリセットをそれぞれ受け持つトランジスタを有する。
【0031】
周辺回路領域4は、撮像領域3の周囲に形成される。周辺回路領域4には、図示は省略するが、垂直方向および水平方向の各方向で画素を選択するための垂直走査回路および水平走査回路等が配置される。
【0032】
半導体基板2上には、積層配線層7が形成されている。積層配線層7は、複数の層間絶縁膜8と複数の配線層9とにより構成される。層間絶縁膜8は、例えば、二酸化ケイ素(SiO2)により形成されるシリコン酸化膜により構成される。複数の配線層9は、例えば異なる金属により形成され、層間に形成されるプラグ等を介して互いに接続される。
【0033】
また、撮像領域3においては、積層配線層7上に、保護用のパシベーション膜10が形成される。パシベーション膜10は、平坦化された膜であり、光透過性を有する。パシベーション膜10上には、カラーフィルタ層11が形成される。カラーフィルタ層11上には、複数のマイクロレンズ12が形成される。
【0034】
カラーフィルタ層11は、単位画素6を構成するフォト・ダイオード毎に複数のカラーフィルタ13に区分される。各カラーフィルタ13は、例えば赤色、緑色、および青色のいずれかの色のフィルタ部分であり、各色の成分の光を透過させる。各色のカラーフィルタ13は、いわゆるベイヤ(Bayer)配列等の所定の配列にしたがって形成される。
【0035】
マイクロレンズ12は、単位画素6を構成するフォト・ダイオードに対応して、単位画素6毎に形成される。したがって、複数のマイクロレンズ12は、単位画素6と同様に平面的に行列状に配置される。マイクロレンズ12は、外部からの入射光を、対応する単位画素6のフォト・ダイオードに集光する。
【0036】
外部接続領域5は、周辺回路領域4のさらに外側に形成される。外部接続領域5には、電極パッド14が形成される。電極パッド14は、積層配線層7を構成する配線層9の一部として形成される部分であり、外部接続領域5において外部に露出する。電極パッド14は、電気的な接続処理を受ける接続面14aを有し、この接続面14a側から外部に露出する。接続面14aは、電極パッド14の上側の面(表面)として形成される。本実施形態では、電極パッド14は、最上層の配線層9aの一部として形成される。
【0037】
電極パッド14は、撮像領域3等における配線層9の部分に対しては、積層配線層7内に形成される引出し配線等を介して接続される。電極パッド14は、例えば平面視で半導体基板2の外縁に沿って複数配置される。
【0038】
本実施形態では、電極パッド14は、アルミニウム(Al)と銅(Cu)の合金(AlCu)を材料として形成される。したがって、積層配線層7を構成する配線層9のうち、少なくとも電極パッド14を形成する最上層の配線層9aは、AlCuにより形成される。
【0039】
外部接続領域5には、電極パッド14を外部に露出させるための開口部15が設けられている。つまり、開口部15は、電極パッド14の接続面14aを、外部に臨ませるように形成される。したがって、本実施形態では、開口部15は、電極パッド14上において、パシベーション膜10、および積層配線層7を構成する層間絶縁膜8の一部を貫通させるように形成される。開口部15は、例えば平面視で矩形状に開口する。
【0040】
電極パッド14には、ワイヤボンディングによって金属線16が接続される。金属線16は、電極パッド14の接続面14aに対して接続される。これにより、電極パッド14が、例えばリード線を取り出すリードフレーム等に電気的に接続される。なお、本実施形態の固体撮像素子1は、一般的な表面照射型のCMOSイメージ・センサであるが、半導体基板2と積層配線層7とが入れ替わったいわゆる裏面照射型のCMOSイメージ・センサであってもよい。
【0041】
以上のような構成を備える本実施形態の固体撮像素子1においては、電極パッド14は、固体撮像素子1の製造過程において、前工程にて形成される。電極パッド14は、半導体基板2上に、電極パッド14と、この電極パッド14を覆う積層配線層7およびパシベーション膜10等の積層膜が形成された状態から、電極パッド14上の積層膜が除去されることにより外部に露出する。電極パッド14上の積層膜は、エッチングガスを用いたドライエッチング処理により除去され、積層膜の除去された部分として、電極パッド14を露出させる開口部15が形成される。
【0042】
そして、電極パッド14を形成する工程を含む前工程の後、後工程にて、電極パッド14に対する電気的な接続処理として、電極パッド14に金属線16を接続するワイヤボンディングが行われる。なお、後工程では、ワイヤボンディングが行われる工程の前に、プローブ針を用いた検査測定(プロービング)によるウエーハの検査や、ウエーハを切断して複数のチップに分離するダイシングや、ダイシングを容易に行うための裏面研削等が行われる。ダイシングの工程では、ウエーハが、例えば高速に回転する円盤状のダイヤモンドブレードにより、冷却水をかけられながら切断される。
【0043】
以上のようにして製造される固体撮像素子1においては、上記のとおり後工程で行われるダイシング時において、接続面14aを露出させた状態の電極パッド14が、冷却水として用いられる水(純水)を浴びて水に接触することで、電極パッド14の接続面14aにおいて、まだら状の模様となる腐食(ガルバニックコロージョン)を生じさせる。ここで、電極パッド14の接続面14aにおける腐食(以下「パッド腐食」という。)の発生メカニズムについて、図2を用いて説明する。
【0044】
[パッド腐食の発生メカニズム]
図2には、上記のとおりAlCuにより構成される電極パッド14の表層部分が拡大して示されている。図2に示すように、ダイシング時において、冷却水としての純水が、AlCuである電極パッド14の表面に接触することにより、標準電極電位の低いAlはイオン化され、Alイオン(Al3+)21として溶出する(矢印A1参照)。このことは、異種金属であるAlとCuが電極パッド14の表面にある状態において、水が導電性を有することに基づく。Alのイオン化にともなって生じる電子は、水中の水素イオン(H)と結合し、水素(H)を発生させる(Alの酸化、水素の還元)。 このように、AlCuである電極パッド14に水が接触することで、ガルバニック効果により、標準電極電位の低い方の金属であるAlが酸化されて水中に溶解するという現象が生じる。
【0045】
言い換えると、電極パッド14の表面に生じるパッド腐食は、標準電極電位の違いから、Al−Cu間には電位差が存在し、電極パッド14の表面には、無数の局所電池が存在する。このため、電極パッド14の表面で上述のようなガルバニック効果が生じ、Alイオン21が溶出する。
【0046】
溶出したAlイオン21は、水と反応することで、水酸化アルミニウム(Al(OH))22となる(矢印A2参照)。このAlイオン21の水との反応生成物である水酸化アルミニウム22が、ダイシングにより生じたウエーハの切削屑であるシリコン(Si)屑23と接触することにより(矢印A3参照)、水酸化アルミニウム22がシリコン屑23の表面を覆った結合生成物24が生じる。
【0047】
結合生成物24は、その表面を覆う水酸化アルミニウムにより、電極パッド14の表面(接続面14a)に強固に付着する。このように、電極パッド14の表面に、水酸化アルミニウム22とシリコン屑23とからなる結合生成物24が付着することにより、電極パッド14の表面において、パッド腐食の周りに結合生成物24が付着したパッド異常が発生する(図10(a)参照)。
【0048】
なお、図2に示す例では、結合生成物24が付着することとなる電極パッド14の表面に、酸化アルミニウム(Al)により形成される不動態層18が存在する。不動態層18は、上述したように電極パッド14の接続面14aがドライエッチング処理によって露出される工程と、その後に行われるレジスト剥離の工程とが行われた後、放置しておくと大気中の酸素と反応して形成されるもの、すなわち、自然酸化膜である。
【0049】
なお、電極パッド14の接続面14aを露出させるための工程では、電極パッド14の接続面14aを露出させるためのドライエッチング処理において、フッ素(F)を含むガスがエッチングガスとして用いられる。これにより、AlCuである電極パッド14の表面には、フッ素が打ち込まれ、フッ化アルミニウム(AlF)等の化合物が生成される。フッ化アルミニウム等の存在により、電極パッド14の表面にはFコロージョンと呼ばれる成長異物が生成する場合がある。そのため、電極パッド14の表面に生じたフッ化アルミニウム等を除去する工程を入れることが望ましい。そのフッ化アルミニウム等を除去する工程としては、現像液などを用いたアルカリ処理などが挙げられる。アルカリ処理等によりフッ化アルミニウムが除去された電極パッド14の表面も純粋なアルミニウム(Al)であるため、大気中の酸素と容易に結合することから、電極パッド14の表面には、自然に酸化アルミニウム(Al)が生成される。このようにして生成される酸化アルミニウムにより、不動態層18が形成される。
【0050】
また、図2に示すように、上述したように電極パッド14からAlイオンが溶出することにより、電極パッド14において偏在していた銅部分14bが析出される。
【0051】
以上のように電極パッド14の表面に発生するパッド腐食は、パッド腐食にともなって生成する結合生成物24により、電極パッド14とこの電極パッド14に接続される金属線16(図1参照)との接合面としての実効的な接触面積を減少させるため、機械的な接合強度の低下や電気的な接触不良等の接続不良の原因となる。また、電極パッド14の表面に発生するパッド腐食は、外観不良の原因ともなる。そして、電極パッド14における接続不良は、信頼性の面から、顧客クレームの要因ともなる。
【0052】
そこで、本実施形態の固体撮像素子1の製造方法においては、電極パッド14の表面に発生するパッド腐食を抑制するため、以下に説明するような工程を行う。
【0053】
[固体撮像素子の製造方法の第1実施形態]
固体撮像素子1の製造方法(以下単に「製法」という。)の第1実施形態について、図3に示すフロー図に沿って説明する。図3に示すように、本実施形態の製法は、パッドを開口する工程を有する(S10)。すなわち、この工程では、電極パッド14を覆う積層配線層7の一部およびパシベーション膜10等の積層膜が、エッチングガスを用いたドライエッチング処理により除去され、電極パッド14を露出させる開口部15が形成される。
【0054】
具体的には、本実施形態の製法においては、まず、半導体基板2上に、積層配線層7およびパシベーション膜10が順次形成される。その後、図4に示すように、パッドを開口する工程に際して、フォトマスク等を用いた露光が行われることで、パシベーション膜10上に、レジスト膜19が形成される。レジスト膜19は、電極パッド14に対応する部分を除いた領域に形成される。
【0055】
そして、図5に示すように、パッドを開口する工程(S10)において、エッチングガスを用いたドライエッチングが行われることで、レジスト膜19によって電極パッド14の上側の部分の積層膜が選択的にエッチング除去される。これにより、電極パッド14の大きさに対応した開口部15が形成され、電極パッド14の接続面14aが露出した状態となる。
【0056】
ドライエッチングを行うためのエッチングガスとしては、例えば、フルオロカーボン系ガスであるテトラフルオロメタン(CF)ガスが用いられる。ただし、エッチングガスとしては、CFガスのほか、トルフルオロメタン(CHF)ガス、フルオロメタン(CHF)ガス、ヘキサフルオロエタン(C)ガス、パーフルオロプロパン(C)ガス、オクタフルオロシクロブタン(C)ガス、ヘキサフルオロ−1,3−ブタジエン(C)ガス、ジフルオロメタン(CH)ガス、あるいはこれらの混合ガスが用いられる。
【0057】
図3に示すように、パッドを開口する工程(S10)が行われた後、レジストを除去する工程が行われる(S20)。すなわち、図6に示すように、上述したようにパッドを開口する工程に際してパシベーション膜10上に形成されたレジスト膜19(図5参照)が除去される。
【0058】
具体的には、シンナー等の有機溶剤等が用いられることで、パシベーション膜10上に残っているレジスト膜19が剥離される。
【0059】
次に、N/Arプラズマ処理が行われる(S30)。すなわち、図7に示すように、配線層9(9a)の露出面としての電極パッド14の接続面14aを含む範囲に、窒素(N)とアルゴン(Ar)との混合ガスにより生成されたN/Arプラズマを照射するプラズマ処理が行われる。
【0060】
本実施形態のプラズマ処理条件としては、例えば、窒素ガスとアルゴンガスの総流量が10〜1000sccm、ガスの総流量のうち窒素ガスが占める割合が1〜99%、処理雰囲気の圧力が0.1〜2Pa、処理雰囲気の温度が−30〜50deg.C、Plasma Source Powerが100〜2000W、ウエーハ側に印加するバイアス電力が0〜2000Wとされる。ここで、単位「sccm」は、標準状態におけるガスの流量(cm/min)を表わす。なお、プラズマ処理条件についての最適な条件は、プラズマの放電方式等によって異なってくる。
【0061】
また、本実施形態では、N/Arプラズマを生成するためのプラズマ源として、高密度プラズマの一つであるECR(Electron Cyclotron Resonance)プラズマが用いられる。なお、本実施形態に係るプラズマ処理は、上述したパッドを開口する工程において行われるエッチング処理を行った処理室と同一の処理室内において行われてもよく、エッチング処理を行った処理室とは異なる処理室内で行われてもよい。言い換えると、本実施形態に係るプラズマ処理は、エッチング処理を行った処理室と同一の処理室内で行う必要はなく、エッチング処理後、処理対象物が大気中に晒されても良い。
【0062】
続いて、固体撮像素子1の動作確認を行うための測定が行われる(S40)。この工程では、プローブ針を用いたウエーハの検査測定(プロービング)が行われる。
【0063】
次に、裏面研削が行われる(S50)。この工程では、固体撮像素子1を構成する半導体基板2の裏面が研削され、固体撮像素子1の厚さが一定となるように仕上げる作業が行われる。具体的には、例えば、回転チャック等と呼ばれる台の上に吸着保持された状態のウエーハに対して、上方に設けられた砥石が下降移動することにより、ウエーハと砥石とが相対的に回転している状態で、ウエーハの研削面に砥石が所定の力で接触させられる。これにより、ウエーハの研削面が砥石によって研削され、ウエーハが所定の厚さに削られる。
【0064】
そして、ダイシングが行われる(S60)。この工程では、ウエーハが、例えば高速に回転する円盤状のダイヤモンドブレードにより、冷却水をかけられながら切断される。これにより、ウエーハは、複数の半導体チップに分離される。
【0065】
ダイシングの工程(S60)により個片化された固体撮像素子1は、例えばデジタルカメラ等の電子機器に組み込むために、パッケージ化(パッケージング)される(S70)。パッケージング工程では、外部集光レンズの搭載や、固体撮像素子1のパッケージへの搭載等が行われる。この工程において、固体撮像素子1の電極パッド14と、パッケージのリードフレームとを電気的に接続するワイヤボンディングが行われる。
【0066】
以上のような本実施形態の製法においては、パッドを開口する工程(S10)が、半導体基板2の一方の面側にて、標準電極電位が互いに異なる2種以上の金属を含む合金により形成された配線層9(9a)を露出させる工程に相当する。また、本実施形態では、配線層9(9a)は、露出面として電気的な接続処理を受ける接続面14aを有する電極パッド14を含む。
【0067】
また、本実施形態の製法においては、N/Arプラズマ処理を行う工程(S30)が、配線層9(9a)の露出面、つまり電極パッド14の接続面14aを含む範囲に、窒素を含むガスと不活性ガスとの混合ガスにより生成されたプラズマを照射するプラズマ処理を行う工程に相当する。すなわち、本実施形態では、プラズマを生成する混合ガスについて、窒素を含むガスとして、Nガスが採用され、不活性ガスとして、Arガスが採用されている。
【0068】
なお、本実施形態の製法では、N/Arプラズマ処理を行う工程は、レジストを除去する工程(S20)の後、測定を行う工程(S40)の前に行われているが、これに限定されない。本実施形態の製法において、N/Arプラズマ処理は、露出した状態の電極パッド14の表面を含む範囲に対して行われるものであり、また、基本的にダイシング時に電極パッド14の表面が水に接触することにより生じるパッド腐食を抑制するためのものである。
【0069】
このため、本実施形態の製法は、N/Arプラズマ処理を行う工程(S30)の後に、半導体基板2を切断して複数のチップに分離するダイシングを行う工程(S60)を含む。したがって、N/Arプラズマ処理を行う工程は、パッドを開口する工程(S10)の後であり、ダイシングを行う工程(S60)の前であれば、どのタイミングで行われてもよい。
【0070】
つまり、本実施形態の製法においては、N/Arプラズマ処理を行う工程は、パッドを開口する工程(S10)とレジストを除去する工程(S20)との間に行われてもよい。また、N/Arプラズマ処理を行う工程は、測定を行う工程(S40)と裏面研削を行う工程(S50)との間に行われてもよい。さらに、N/Arプラズマ処理を行う工程は、裏面研削を行う工程(S50)とダイシングを行う工程(S60)との間に行われてもよい。
【0071】
ただし、パッドを開口する工程(S10)とレジストを除去する工程(S20)との間にN/Arプラズマ処理を行う場合には、注意が必要である。パシベーション膜10上にレジスト膜19が多く残っている場合等、プラズマ処理条件やウエーハの状態等によっては、レジスト膜19が硬化し、レジストの除去が困難となる場合がある。したがって、レジストを除去する工程(S20)の前にN/Arプラズマ処理を行う場合には、レジストの硬化が生じないように、プラズマ処理条件の設定が行われる。
【0072】
以上のような本実施形態の製法によれば、配線層9(9a)の露出面である電極パッド14の接続面14aにおいて、ダイシングの工程等で電極パッド14の接続面14aに水が接触することにより生じ、電極パッド14の接続面14aにおける接合強度の低下や外観不良等の原因となるパッド腐食の発生を抑制することができる。ここで、このような効果が得られることについての推定メカニズムを説明する。
【0073】
[推定メカニズム]
本実施形態の固体撮像素子1においては、上述したようなN/Arプラズマ処理が行われることにより、電極パッド14の表面において、AlCuの部分と、Cuの部分とで、異なる反応が生じる。すなわち、図8に示すように、AlCuである電極パッド14においては、偏在する銅部分14bが存在するため、N/Arプラズマの照射を受ける電極パッド14の表面としては、主な部分を占めるAlCuの表面部分であるAlCu表面部31と、局所的に存在する銅部分14bの表面部分であるCu表面部32とが存在する。そして、これらAlCu表面部31とCu表面部32とで、N/Arプラズマ処理によって異なる作用が得られる。
【0074】
具体的には、AlCu表面部31の部分には、上述したように、電極パッド14の接続面14aが露出した状態となった後、大気中に放置されることにより、不動態層18が形成される。不動態層18は、一般的に酸化アルミニウム(Al)である。このように不動態層18が形成された状態のAlCu表面部31の部分は、N/Arプラズマの照射を受けることで、Arイオンの照射により不動態層18がエッチングされながら、窒化(N化)される。
【0075】
不動態層18は、安定性の高い層であり、電極パッド14を構成する材料に依存して、0.1〜25nm程度の膜厚で形成される。このように不動態層18が形成されるAlCu表面部31の部分は、不動態層18によって覆われることで、何らかの方法によって不動態層18が除去されることにより、純粋なAlの表面を露出させる。N/Arプラズマを構成するArは、比較的重い元素であるため、イオン化されて照射されると、プラズマの照射を受けた側では、スパッタリング現象が起こる。
【0076】
したがって、N/Arプラズマ処理が行われることで、AlCu表面部31では、最初の段階では、安定性の高い不動態層18は、窒化されず、Arイオンによるスパッタリングによってエッチングされていく。そして、不動態層18がスパッタリングによって除去されると、純粋なAlが表面に露出する。純粋なAlが表面に露出すると、プラズマで活性化された窒素(ラジカル、イオン)がAlと結合し、Alの窒化が始まる。
【0077】
図9に示すように、Alが窒化されることにより、窒化アルミニウム(AlN)層34が形成される。AlNは、化学的に安定な組成であり、窒化アルミニウム層34は、ダイシング時の純水に対してブロッキング層として機能する。このようにして、AlCu表面部31は、N/Arプラズマの照射を受けることによって窒化される。この点、X線光電子分光分析(XPS)によっても、AlCu表面部31の部分には、窒素が検知されるという結果が得られている。
【0078】
一方、Cu表面部32の部分は、N/Arプラズマの照射を受けることで窒化し、Cu−N層33が形成される。Cu−Nは、化学的に安定な組成であり、Cu−N層33は、ダイシング時の純水に対してブロッキング層として機能する。つまり、Cu表面部32の部分がN/Arプラズマの照射を受けることにより、Cu表面部32にはCu−N層33が形成され、このCu−N層33により、電極パッド14におけるAlCuの部分および銅部分14bが純水に直接接触することがブロックされる。これにより、電極パッド14の表面においてガルバニック効果が発生せず、Alが溶出することが防止される。結果として、電極パッド14の表面においてパッド腐食の発生を防止することができる。
【0079】
すなわち、本実施形態の製法では、プラズマを生成するためにNとArの混合ガスを用いていることから、Arのスパッタリング作用による不動態層18の除去と、不動態層18の除去にともなうAlの表面の窒化と、析出したCuの表面の窒化とが同時進行で行われ、電極パッド14の表面が全面的に窒化される。これにより、電極パッド14の表面に、水に対するブロッキング層が形成されて、パッド腐食の発生が抑制される。
【0080】
このように、本実施形態の製法においては、電極パッド14を構成する金属のうち、標準電極電位が高い方の金属、つまり本実施形態の場合、Cuの表面(Cu表面部32の部分)を窒化させると同時に、AlCu表面部31のAlの部分も窒化させることが可能となる。これにより、ガルバニック効果によるパッド腐食が防止されるので、電極パッド14の表面を平滑な状態に保持することができ、ワイヤボンディングの接合強度の劣化を防止することができる。
【0081】
以上のように、本実施形態の製法によれば、パッド腐食のない電極パッド14を形成することができるので、電極パッド14の接続面14aとワイヤボンディングにより接続される金属線16との接触面積が増加し、接合強度が大きくなり、電気的な接合も良好となる。これにより、ワイヤボンディングの信頼性を向上することができる。
【0082】
また、同じく電極パッド14の接続面14aと金属線16との接触面積が増加することから、接続面14aにおいてマージンが増え、近年の趨勢である電極パッド14の縮小化に対して容易に対応することができる。また、電極パッド14において、パッド腐食がなくなり、ワイヤボンディングの信頼性が向上することから、顧客からのクレームがなくなり、顧客対応の工数を大幅に削減することができる。
【0083】
また、本実施形態の製法によれば、電極パッド14の表面において、F(フッ素)によるAl腐食としてのコロージョンを抑制することができる。具体的には、N/Arプラズマの照射は、上述したようにスパッタリング現象を起こす。このN/Arプラズマによるスパッタリングの作用により、電極パッド14の表層が数nmエッチングされる。これにより、電極パッド14の表面近傍に存在するFが除去され、AlCu表面部31のFの量を低減させることができ、Fによるコロージョンを抑制することができる。この点、X線光電子分光分析(XPS)によっても、N/Arプラズマの照射により、AlCu表面部31の部分のFの量が低減されるという結果が得られている。
【0084】
本実施形態の製法により製造された固体撮像素子1は、以下のような構成を備えるといえる。すなわち、本実施形態の固体撮像素子1は、半導体基板2と(図1参照)、半導体基板2の一方の面側にて、標準電極電位が互いに異なる2種以上の金属を含む合金であるAlCuにより形成された配線層9である電極パッド14と、電極パッド14がN/Arプラズマの照射を受けることにより、電極パッド14のN/Arプラズマの照射を受けた面の表層に形成される窒化層とを備える。この窒化層は、電極パッド14の表面を構成するAlおよびCuの両方の金属に形成される。本実施形態の固体撮像素子1は、窒化層として、AlとCuのうち標準電極電位が比較的高いCuの部分の表層に形成される窒化層であるCu−N層33と、Alの部分の表層に形成される窒化層である窒化アルミニウム層34とを備える(図9参照)。
【0085】
以上のような構成を備える本実施形態の固体撮像素子1によれば、上述したように、パッド腐食を抑制することができ、ワイヤボンディングの接合強度を改善することができる。
【0086】
図10に、従来の製造方法により製造された場合と、本実施形態の製法を採用した場合との電極パッドの表面の写真を示す。図10(a)は、従来の製造方法により製造された場合、つまりN/Arプラズマ処理が行われなかった場合における、ダイシング処理(図3、S60)後の電極パッドの表面の写真を示す。図10(a)の写真からわかるように、従来の製造方法により製造された場合、電極パッドの表面に、パッド腐食として、まだら状の模様が発生している。このパッド腐食は、上述したように、ダイシング時において、電極パッドの表面に純水が接触することによるガルバニック効果によって生じたものである。
【0087】
一方、図10(b)は、本実施形態の製法を採用した場合、つまりN/Arプラズマ処理が行われた場合における、ダイシング処理(図3、S60)後の電極パッドの表面の写真を示す。図10(b)の写真からわかるように、本実施形態の製法によれば、電極パッドの表面においてパッド腐食が抑制されている。このように、図10(a)、(b)の比較から、本実施形態の製法を採用することで、電極パッドの表面におけるパッド腐食が大幅に改善されていることがわかる。
【0088】
次に、従来の製造方法により製造された場合と、本実施形態の製法を採用した場合との、ワイヤボンディングによる接合強度の測定結果の一例を示す。図11に示すように、本測定は、ワイヤボンディングにより電極パッド14の接続面14aに接続された金属線16の接合部16aに所定の方向および所定の大きさの応力(矢印F1参照)を作用させることにより、ワイヤボンディングの接合強度としてのシェア強度を測定したものである。
【0089】
図12に、測定結果例を示す。図12に示すグラフにおいて、接合強度を示す縦軸は、任意単位(Arbitrary Unit)である。図12に示すように、本測定結果例では、本実施形態の製法を採用した場合、従来の製造方法により製造された場合との比較において、1.5倍以上の接合強度が得られている。このように、N/Arプラズマ処理を行う本実施形態の製法については、ワイヤボンディングの接合強度の面からも、その効果が実証されている。
【0090】
[固体撮像素子の製造方法の第2実施形態]
製法の第2実施形態について説明する。本実施形態の製法は、第1実施形態の製法との比較において、パッドを開口する工程と、プラズマ処理を行う工程との間に、不動態層18を除去する工程を有する点で異なる。このため、第1実施形態の製法と共通する部分については、同一の符号を用いる等して適宜説明を省略する。
【0091】
本実施形態の製法について、図13に示すフロー図に沿って説明する。図13に示すように、本実施形態の製法は、第1実施形態と同様に、パッドを開口する工程(S110)が行われた後、レジストを除去する工程が行われる(S120)。そして、本実施形態の製法では、レジストを除去する工程(S120)が行われた後、アルゴンガスを用いたArスパッタリングが行われる(S130)。
【0092】
Arスパッタリングは、電極パッド14の表面に形成された不動態層18を除去するために行われる。上述したように、電極パッド14の接続面14aが露出した状態となった後、大気中に放置されることにより、電極パッド14の表面に不動態層18が形成される。不動態層18は、電極パッド14の表面において、主にAlCu表面部31において生成する。
【0093】
そこで、図14(a)に示すように、Arスパッタリングとして、電極パッド14の表面に、アルゴンガスにより生成されたArプラズマが照射される。これにより、図14(b)に示すように、電極パッド14の表面に形成された不動態層18が除去される。なお、電極パッド14の表面に形成された不動態層18を除去するための処理としては、Arスパッタリングの他、例えば、塩素系のガスにより生成されたプラズマの照射によるエッチング、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)を代表とするアルカリ系の薬品を用いるウエットエッチング等が挙げられる。
【0094】
次に、Nプラズマ処理またはN/Arプラズマ処理が行われる(S140)。本実施形態の製法においては、N(またはN/Ar)プラズマ処理に際し、あらかじめ不動態層18が除去されていることから、図15に示すように、N(またはN/Ar)プラズマは、電極パッド14の表面に対して全面的に照射される。
【0095】
本実施形態の製法では、プラズマ処理を行う工程(S140)の前に、あらかじめ不動態層18が除去されていることから、プラズマ処理を行う工程(S140)において、Ar等の不活性ガスを含まずに窒素を含むガスにより生成されたプラズマが用いられてもよい。このため、本実施形態の製法では、プラズマ処理を行う工程(S140)におけるプラズマ処理は、Nプラズマ処理であってもよい。
【0096】
すなわち、上述したようにArは比較的重い元素であることから、イオン化されてプラズマとして照射を受けた側ではスパッタリング現象が起こる一方で、窒素(N)は比較的軽い元素であるため、プラズマ処理条件等による違いはあるものの、Nプラズマ処理によればArの場合のようなスパッタリング現象が発現しにくい。この点、例えばプラズマ処理条件としてのバイアス電力が上がると電界強度が上がるため、イオン化された窒素はエネルギーが大きくなり、スパッタリング現象が発現する場合はある。
【0097】
プラズマ処理を行う工程において、Nプラズマ処理が行われる場合は、N/Arプラズマ処理と同様に、配線層9(9a)の露出面としての電極パッド14の接続面14aを含む範囲に、窒素(N)により生成されたNプラズマを照射するプラズマ処理が行われる。
【0098】
そして、固体撮像素子1の動作確認を行うための測定(S150)、裏面研削(S160)、ダイシング(S170)、およびパッケージング(ワイヤボンディング)(S180)が順に行われる。
【0099】
以上のような本実施形態の製法においては、第1実施形態の製法と同様に、パッドを開口する工程(S110)は、露出面としての電極パッド14の接続面14aに形成される不動態層18の生成をともなうものである。そして、パッドを開口する工程(S110)と、N/Arプラズマ処理を行う工程(S140)との間に、不動態層18を除去する工程が行われる。つまり、本実施形態の製法では、Arスパッタリングを行う工程(S130)が、不動態層18を除去する工程に相当する。
【0100】
また、本実施形態の製法においては、Nプラズマ処理またはN/Arプラズマ処理を行う工程(S140)が、配線層9(9a)の露出面、つまり電極パッド14の接続面14aを含む範囲に、窒素を含むガスと不活性ガスとの混合ガスにより生成されたプラズマ、または窒素を含むガスにより生成されたプラズマを照射するプラズマ処理を行う工程に相当する。すなわち、本実施形態では、プラズマを生成するガスについて、窒素を含むガスとして、Nガスが採用され、不活性ガスとして、Arガスが採用されている。
【0101】
なお、本実施形態の製法では、Arスパッタリングを行う工程は、レジストを除去する工程(S120)の後、N(またはN/Ar)プラズマ処理を行う工程(S140)の前に行われているが、パッドを開口する工程(S110)と、レジストを除去する工程(S120)との間に行われてもよい。
【0102】
また、本実施形態の製法においては、N(またはN/Ar)プラズマ処理を行う工程は、Arスパッタリングを行う工程の後であり、ダイシングを行う工程(S60)の前であれば、どのタイミングで行われてもよい。ただし、上述した実施形態の製法と同様に、パッドを開口する工程(S110)とレジストを除去する工程(S120)との間にN(またはN/Ar)プラズマ処理を行う場合には、プラズマ処理条件やウエーハの状態等によってレジスト膜19が硬化することがある点について注意が必要である。
【0103】
以上のような本実施形態の製法によれば、第1実施形態の製法と同様に、電極パッド14の接続面14aにおける接合強度の低下や外観不良等の原因となるパッド腐食の発生を抑制することができる。本実施形態の場合、次のような推定メカニズムにより、上記のような効果が得られる。
【0104】
[推定メカニズム]
本実施形態の製法では、N(またはN/Ar)プラズマ処理に際して不動態層18が除去されていることから、図15に示すように、N(またはN/Ar)プラズマは、電極パッド14の表面において、AlCu表面部31とCu表面部32とで一律に照射される。このため、Cu表面部32の部分は、第1実施形態の場合と同様に、N(またはN/Ar)プラズマの照射を受けることで窒化し、Cu−N層35が形成される。
【0105】
一方、AlCu表面部31の部分は、Cu表面部32の部分と同様にN(またはN/Ar)プラズマの照射を受けることで窒化し、窒化アルミニウム(AlN)層36が形成される。AlNは、化学的に安定な組成であり、窒化アルミニウム層36は、ダイシング時の純水に対してブロッキング層として機能する。
【0106】
つまり、窒化アルミニウム層36およびCu−N層35により、電極パッド14におけるAlCuの部分および銅部分14bがそれぞれ純水に直接接触することがブロックされる。これにより、電極パッド14の表面においてガルバニック効果が発生せず、Alが溶出することが防止される。結果として、電極パッド14の表面においてパッド腐食の発生を防止することができる。
【0107】
このように、第1実施形態の製法が不動態層18の除去とAlおよびCuの表面の窒化を同時進行で行うのに対し、本実施形態の製法は、Arスパッタリング(Arプラズマの照射)による不動態層18の除去と、N(またはN/Ar)プラズマによるAlおよびCuの表面の窒化とが別々に行われ、Cu表面部32およびAlCu表面部31を含む電極パッド14の表面が全面的に窒化される。これにより、電極パッド14の表面に、水に対するブロッキング層が形成されて、パッド腐食の発生が抑制される。つまり、ガルバニック効果によるパッド腐食が防止されるので、電極パッド14の表面を平滑な状態に保持することができ、ワイヤボンディングの接合強度の劣化を防止することができる。
【0108】
本実施形態の製法により製造された固体撮像素子は、以下のような構成を備えるといえる。すなわち、本実施形態の固体撮像素子は、半導体基板2と(図1参照)、半導体基板2の一方の面側にて、標準電極電位が互いに異なる2種以上の金属を含む合金であるAlCuにより形成された配線層9である電極パッド14と、電極パッド14がN(またはN/Ar)プラズマの照射を受けることにより、電極パッド14のN(またはN/Ar)プラズマの照射を受けた面の表層に形成される窒化層とを備える。本実施形態の固体撮像素子1は、窒化層として、AlCu表面部31の部分が窒化された窒化アルミニウム層36と、Cu表面部32の部分が窒化されたCu−N層35とを有する(図15参照)。
【0109】
以上のような構成を備える本実施形態の固体撮像素子によれば、上述したように、パッド腐食を抑制することができ、ワイヤボンディングの接合強度を改善することができる。
【0110】
[固体撮像素子の製造方法の第3実施形態]
製法の第3実施形態について説明する。本実施形態の製法は、第1実施形態の製法との比較において、プラズマ処理を行う工程でのプラズマ処理としてNプラズマ処理を行う点で異なる。このため、第1実施形態の製法と共通する部分については、同一の符号を用いる等して適宜説明を省略する。
【0111】
本実施形態の製法について、図16に示すフロー図に沿って説明する。図16に示すように、本実施形態の製法は、第1実施形態と同様に、パッドを開口する工程(S210)が行われた後、レジストを除去する工程が行われる(S220)。そして、本実施形態の製法では、レジストを除去する工程(S220)が行われた後、Nプラズマ処理が行われる(S230)。Nプラズマ処理(S230)が行われた後は、第1実施形態の製法と同様に、固体撮像素子1の動作確認を行うための測定(S240)、裏面研削(S250)、ダイシング(S260)、およびパッケージング(ワイヤボンディング)(S270)が順に行われる。
【0112】
以上のような本実施形態の製法においては、第1実施形態の製法と同様に、パッドを開口する工程(S210)、露出面としての電極パッド14の接続面14aに形成される不動態層18の生成をともなうものである。
【0113】
また、本実施形態の製法においては、Nプラズマ処理を行う工程(S230)が、配線層9(9a)の露出面、つまり電極パッド14の接続面14aを含む範囲に、窒素を含むガスにより生成されたプラズマを照射するプラズマ処理を行う工程に相当する。すなわち、本実施形態では、プラズマを生成するガスについて、窒素を含むガスとして、Nガスが採用されている。
【0114】
なお、本実施形態の製法では、第1実施形態の製法と同様に、Nプラズマ処理を行う工程は、パッドを開口する工程(S210)の後であり、ダイシングを行う工程(S260)の前であれば、どのタイミングで行われてもよい。ただし、上述した実施形態の製法と同様に、パッドを開口する工程(S210)とレジストを除去する工程(S220)との間にNプラズマ処理を行う場合には、プラズマ処理条件やウエーハの状態等によってレジスト膜19が硬化することがある点について注意が必要である。
【0115】
以上のような本実施形態の製法によれば、第1実施形態の製法と同様に、電極パッド14の接続面14aにおける接合強度の低下や外観不良等の原因となるパッド腐食の発生を抑制することができる。本実施形態の場合、次のような推定メカニズムにより、上記のような効果が得られる。
【0116】
[推定メカニズム]
本実施形態の固体撮像素子1においては、電極パッド14の表面におけるAlCu表面部31とCu表面部32とで、Nプラズマ処理によって異なる作用が得られる。
【0117】
具体的には、AlCu表面部31の部分は、Nプラズマの照射を受けることで、窒化(N化)しない。このことは、電極パッド14の表面におけるAlCu表面部31の部分には、酸化アルミニウム(Al)により形成される不動態層18が存在することに基づく。
【0118】
すなわち、上記のとおり安定性の高い層である不動態層18が形成されるAlCu表面部31の部分は、不動態層18によって覆われることで、Nプラズマの照射を受けることによっても窒化しない。この点、X線光電子分光分析(XPS)によっても、AlCu表面部31の部分には、窒素が検知されないという結果が得られている。
【0119】
つまり、AlCu表面部31の部分においては、Alが主に酸素(O)と結合することで、酸化アルミニウムの不動態層18が形成され、Alは、Nプラズマで窒化されるわけではない。
【0120】
一方、図17に示すように、Cu表面部32の部分は、Nプラズマの照射を受けることで窒化し、Cu−N層37が形成される。Cu−Nは、化学的に安定な組成であり、Cu−N層37は、ダイシング時の純水に対してブロッキング層として機能する。つまり、Cu表面部32の部分がNプラズマの照射を受けることにより、Cu表面部32にはCu−N層37が形成され、このCu−N層37により、電極パッド14におけるAlCuの部分および銅部分14bが純水に直接接触することがブロックされる。これにより、電極パッド14の表面においてガルバニック効果が発生せず、Alが溶出することが防止される。結果として、電極パッド14の表面においてパッド腐食の発生を防止することができる。
【0121】
つまり、本実施形態の製法においては、電極パッド14を構成する金属のうち、標準電極電位が高い方の金属、つまり本実施形態の場合、Cuの表面(Cu表面部32の部分)のみを選択的に窒化することが可能となる。これにより、ガルバニック効果によるパッド腐食を防止されるので、パッド表面は平滑な状態を保持することができ、ワイヤボンディングの接合強度の劣化を防止することができる。
【0122】
このように、本実施形態の製法は、第1実施形態および第2実施形態の製法がCu表面部32およびAlCu表面部31を含む電極パッド14の表面を全面的に窒化するのに対し、不動態層18が形成されないCu表面部32の部分を部分的に窒化する。つまり、本実施形態の製法は、上述したようにNプラズマ処理によればスパッタリング現象が発現しにくいという作用を利用し、AlCu表面部31の部分については不動態層18を残すことにより、Cu表面部32の部分についてはCu−N層37を形成することにより、電極パッド14の表面におけるガルバニック効果を防止している。これにより、ガルバニック効果によるパッド腐食が防止されるので、電極パッド14の表面を平滑な状態に保持することができ、ワイヤボンディングの接合強度の劣化を防止することができる。
【0123】
本実施形態の製法により製造された固体撮像素子は、以下のような構成を備えるといえる。すなわち、本実施形態の固体撮像素子は、半導体基板2と(図1参照)、半導体基板2の一方の面側にて、標準電極電位が互いに異なる2種以上の金属を含む合金であるAlCuにより形成された配線層9である電極パッド14と、電極パッド14がNプラズマの照射を受けることにより、電極パッド14のNプラズマの照射を受けた面の表層に形成される窒化層と、電極パッド14の表層が不動態化されることにより形成される不動態層18とを備える。図17に示すように、本実施形態の固体撮像素子は、窒化層として、AlとCuのうち標準電極電位が比較的高いCuの部分の表層に形成される窒化層であるCu−N層37を備える。
【0124】
以上のような構成を備える本実施形態の固体撮像素子によれば、上述したように、パッド腐食を抑制することができ、ワイヤボンディングの接合強度を改善することができる。
【0125】
以上説明した本発明の実施形態では、N/ArプラズマまたはNプラズマの照射を受ける配線層9の露出面として、電極パッド14の接続面14aが対象とされているが、配線層9の露出面としては、ダイシング時等において、水に接触する可能性がある部分であればよい。
【0126】
また、上述した実施形態では、N/ArプラズマまたはNプラズマの照射を受ける配線層9(9a)(電極パッド14)が、AlCuであるが、標準電極電位が互いに異なる2種以上の金属を含む合金であれば特に限定されない。したがって、本発明において、プラズマの照射を受ける配線層としては、例えば、標準電極電位が高い方から、ストロンチウム(Sr)、マグネシウム(Mg)、スカンジウム(Sc)、トリウム(Th)、ベリリウム(Be)、アルミニウム(Al、)チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、タンタル(Ta)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、鉄(Fe)、カドミウム(Cd)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、錫(Sn)、鉛(Pb)、ルテニウム(Ru)、銅(Cu)、銀(Ag)、パラジウム(Pd)、金(Au)等、半導体装置において配線層の材料として用いられる金属から選択される2種以上の金属を含む合金であればよい。
【0127】
本実施形態では、N/ArプラズマまたはNプラズマの照射を受ける配線層9を構成する金属として、上記の金属の中から、アルミニウムと、アルミニウムよりも貴な(標準電極電位が高い)金属である銅とを含む合金(AlCu)が採用されている。このようにアルミニウムの主配線に対して、異種金属を混入する目的は、配線の信頼性を向上させることである。 したがって、汎用性等の面からは、N/ArプラズマまたはNプラズマの照射を受ける配線層9は、アルミニウムと、アルミニウムよりも貴な金属とを含むAl合金であることが好ましい。
【0128】
また、上述した実施形態では、窒素を含むガスと不活性ガスとの混合ガスにより生成されたプラズマとして、N/Arプラズマが採用され、窒素を含むガスにより生成されたプラズマとしてNプラズマが採用されているが、これに限定されない。窒素を含むガスは、窒素、アンモニア、および3フッ化窒素のうちの少なくとも1種を含み、不活性ガスは、アルゴン、キセノン、ヘリウム、およびネオンのうちの少なくとも1種を含む。ただし、上述した実施形態で用いられたN/ArプラズマまたはNプラズマは、ウエーハプロセスで一般的に使用されているプラズマであるため、導入の容易さやランニングコストの面から好ましい。
【0129】
また、上述した実施形態では、プラズマを生成するためのプラズマ源として、ECRプラズマが用いられているが、ECRプラズマのほか、誘導結合型プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)や、容量結合型(平行平板型)(CCP:Capacitively Coupled Plasma)等の高密度プラズマが用いられてもよい。上述したような効果を得るためには、好ましくは、電離状態が10cm−3以上である高密度プラズマが用いられる。
【0130】
また、上述した実施形態において行われるプラズマ処理においては、次のような処理条件が適宜用いられる。プラズマの照射時において、ウエーハ側に印加するバイアス電力は、0〜2000Wであることが好ましい。また、処理雰囲気の圧力は、0.1〜2Paであることが好ましい。また、処理雰囲気の温度は、−30〜50℃であることが好ましい。
【0131】
以上のように、本発明は、所定の合金としての電極パッド14等の配線層が水に接触することによって生じるガルバニック効果に起因してパッド腐食が発生することに着目し、配線層が水に接触する前段階で、配線層にN/Arプラズマ等のプラズマを照射するものである。ガルバニック効果は、異種の金属が接触している部分においても生じるため、本発明において、プラズマの照射対象には、電極パッド14等の標準電極電位が互いに異なる金属からなる合金のほか、標準電極電位が互いに異なる金属の接触部分も含む。
【0132】
したがって、本発明としては、半導体基板2の一方の面側にて、標準電極電位が互いに異なる2種以上の金属が互いに接触する接触部(以下「異種金属接触部」という。)が生成される所定の処理を行う工程と、異種金属接触部を含む範囲に、窒素を含むガスと不活性ガスとの混合ガスにより生成されたプラズマを照射するプラズマ処理を行う工程とを含む製法であってもよい、
【0133】
異種金属接触部が生成される所定の処理としては、例えば、固体撮像素子1において、配線層9の信頼性を向上させる等の目的で設けられるバリアメタルを形成するための処理がある。バリアメタル38は、配線層9上、つまり配線層9と層間絶縁膜8との間において層状に形成される。このため、固体撮像素子の製法の過程における、パッドを開口する工程の前段階の状態では、最上層の配線層9a(図1参照)の一部として形成される電極パッド14の表面に、バリアメタル38が存在する。
【0134】
そして、図18に示すように、上述したようにパッドを開口する工程(例えば図5、S10)において、電極パッド14の接続面14aを露出させるためのドライエッチングにより、接続面14a上のバリアメタル38が除去される。つまり、電極パッド14の接続面14aにおける電気的な接合性を得るために、接続面14a上のバリアメタル38が取り除かれる。
【0135】
図18に示すように、電極パッド14の接続面14a上のバリアメタル38が除去されることにより、ドライエッチングにより形成された開口部15おいて、開口部15の側壁部にバリアメタル38が露出した状態となる。言い換えると、エッチング除去された後に残存するバリアメタル38の側面が、開口部15を形成する内壁面の一部として、開口部15に臨んだ状態となる。
【0136】
バリアメタル38は、いわゆるエレクトロマイグレーションを抑制したり、配線材料が他の材料と反応することに対するバリア機能を発揮したりする。バリアメタル38は、例えば、チタン(Ti)、窒化チタン(TiN)、タンタル(Ta)、窒化タンタル(TaN)、タングステン(W)、窒化タングステン(WN)、チタンタングステン(TiW)等の高融点金属により形成される。
【0137】
バリアメタル38は、例えば、スパッタリング法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、ALD(Atomic Layer Deposition)法等により形成される。したがって、電極パッド14上にバリアメタル38が形成される場合、バリアメタル38を形成するための処理であるスパッタリング法等を用いた処理が、異種金属接触部が生成される所定の処理に相当する。
【0138】
このように、電極パッド14上にバリアメタル38が形成されることで、電極パッド14とバリアメタル38との接触部分は、異種金属接触部39となる。異種金属接触部39は、開口部15によって露出した状態となる。このような異種金属接触部39についても、ダイシング時等に水が接触することにより、ガルバニック効果によって金属イオンが溶出し、上述したようなメカニズムにより、パッド腐食が発生する。
【0139】
すなわち、開口部15において異種金属接触部39が露出した状態にて、異種金属接触部39が水に接触する作業、例えばダイシングが行われると、異種金属接触部39において、ガルバニック効果が発現する。これにより、バリアメタル38を形成する金属に対して卑な金属である電極パッド14(配線層9)が溶解し、前述したようなAlとCuとの関係の場合と同様に、パッド腐食現象が生じることになる。
【0140】
具体的には、例えば、バリアメタル38が、Taで形成されているとする。Taは、Cuと同様に、Alよりも標準電極電位が高い金属である。このため、ダイシング時等に、電極パッド14とバリアメタル38との異種金属接触部39に純水が接触することにより、ガルバニック効果によって、標準電極電位の高い方の金属であるTaと標準電極電位の低い方の金属であるAlとの間に電位差が存在することにより、標準電極電位の低い方の金属であるAlは、電子を奪われることによりAlイオンとして純水中に溶解するという現象が生じる。溶出したAlイオン21は、水と反応することで、水酸化アルミニウム22となり、ダイシングにより生じたシリコン屑23と接触することにより、水酸化アルミニウム22がシリコン屑23の表面を覆った結合生成物24を生成させる(図2参照)。これにより、電極パッド14の表面にパッド腐食が生じる。
【0141】
そこで、図18に示すように、電極パッド14とバリアメタル38との接触部分である異種金属接触部39に対しても、上述した実施形態と同様に、NプラズマやN/Arプラズマ等のプラズマを照射することで、プラズマによる窒化作用等により、異種金属接触部39におけるガルバニック効果を防止することができ、配線層の表面に発生するパッド腐食を抑制することができる。
【0142】
以上のように、N/Arプラズマ等のプラズマの照射対象としては、配線層9の露出面としての電極パッド14の接続面14a等の合金部分のほか、例えば電極パッド14とバリアメタル38との接触部分等の、ガルバニック効果が生じる異種金属接触部も含まれる。このように、合金部分に加えて異種金属接触部についても、N/Arプラズマ等によるプラズマ処理が施されることにより、上述した実施形態の製法と同様に、電極パッド14の接続面14aにおける接合強度の低下や外観不良等の原因となる、電極パッド14の表面に発生するパッド腐食を抑制することができる。
【0143】
[電子機器の構成例]
上述した実施形態に係る固体撮像素子は、例えば、いわゆるデジタルカメラと称されるデジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、撮像機能を有する携帯電話器その他の機器等、各種の電子機器に適用される。以下では、上述した実施形態に係る固体撮像素子を備える電子機器の一例であるビデオカメラ50について、図19を用いて説明する。
【0144】
ビデオカメラ50は、静止画像または動画の撮影を行うものである。ビデオカメラ50は、上述した実施形態に係る固体撮像素子51と、光学系52と、シャッタ装置53と、駆動回路54と、信号処理回路55とを備える。
【0145】
光学系52は、例えば一または複数の光学レンズを有する光学レンズ系として構成されるものであり、固体撮像素子51の受光センサ部に入射光を導く。光学系52は、被写体からの像光(入射光)を固体撮像素子51の撮像面上に結像させる。これにより、固体撮像素子51内に、一定期間信号電荷が蓄積される。シャッタ装置53は、固体撮像素子51への光照射期間および遮光期間を制御するための構成である。
【0146】
駆動回路54は、固体撮像素子51を駆動させる。駆動回路54は、固体撮像素子51を所定のタイミングで駆動させるための駆動信号(タイミング信号)を生成し、固体撮像素子51に供給する。駆動回路54から固体撮像素子51に供給される駆動信号により、固体撮像素子51の信号電極の転送動作等が制御される。つまり、固体撮像素子51は、駆動回路54から供給される駆動信号により、信号電荷の転送動作等を行う。
【0147】
駆動回路54は、固体撮像素子51を駆動するための駆動信号として各種のパルス信号を生成する機能と、生成したパルス信号を、固体撮像素子51を駆動するためのドライブパルスに変換するドライバとしての機能とを有する。駆動回路54は、シャッタ装置53の動作を制御するための駆動信号の生成・供給も行う。
【0148】
信号処理回路55は、各種の信号処理を行う機能を有し、固体撮像素子51の出力信号を処理する。信号処理回路55は、入力された信号を処理することで、映像信号を出力する。信号処理回路55から出力された映像信号は、メモリ等の記憶媒体に記憶されたり、モニタに出力されたりする。なお、ビデオカメラ50は、駆動回路54等に電源を供給するバッテリ等の電源部、撮像により生成した映像信号等を記憶する記憶部、装置全体を制御する制御部等を有する。
【0149】
以上のような構成を備えるビデオカメラ50においては、駆動回路54が、固体撮像素子51を駆動するための駆動信号を生成する駆動手段として機能する。そして、本実施形態の固体撮像素子51を備えるビデオカメラ50によれば、上述したように固体撮像素子51の配線層の露出面において、ダイシングの工程等で配線層の露出面に水が接触することにより生じ、配線層の露出面における接合強度の低下や外観不良等の原因となるパッド腐食の発生を抑制することができる。
【符号の説明】
【0150】
1 固体撮像素子(半導体装置)
2 半導体基板
9 配線層
14 電極パッド
14a 接続面
18 不動態層
31 AlCu表面部
32 Cu表面部
33 Cu−N層(窒化層)
34 窒化アルミニウム層(窒化層)
35 Cu−N層(窒化層)
36 窒化アルミニウム層(窒化層)
37 Cu−N層37(窒化層)
38 バリアメタル
39 異種金属接触部
50 ビデオカメラ(電子機器)
51 固体撮像素子(半導体装置)
54 駆動回路(駆動手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板の一方の面側にて、標準電極電位が互いに異なる2種以上の金属を含む合金により形成された配線層を露出させる工程と、
前記配線層の露出面を含む範囲に、窒素を含むガスと不活性ガスとの混合ガスにより生成されたプラズマ、または窒素を含むガスにより生成されたプラズマを照射するプラズマ処理を行う工程と、を含む、
半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記配線層を露出させる工程は、前記露出面に形成される不動態層の生成をともなうものであり、
前記配線層を露出させる工程と、前記プラズマ処理を行う工程との間に、前記不動態層を除去する工程をさらに含む、
請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記窒素を含むガスは、窒素、アンモニア、および3フッ化窒素のうちの少なくとも1種を含み、
前記不活性ガスは、アルゴン、キセノン、ヘリウム、およびネオンのうちの少なくとも1種を含む、
請求項1または請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記配線層は、前記露出面として電気的な接続処理を受ける接続面を有する電極パッドを含む、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記プラズマ処理を行う工程の後に、前記半導体基板を切断して複数のチップに分離するダイシングを行う工程をさらに含む、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
半導体基板の一方の面側にて、標準電極電位が互いに異なる2種以上の金属が互いに接触する接触部が生成される所定の処理を行う工程と、
前記接触部を含む範囲に、窒素を含むガスと不活性ガスとの混合ガスにより生成されたプラズマ、または窒素を含むガスにより生成されたプラズマを照射するプラズマ処理を行う工程と、を含む、
半導体装置の製造方法。
【請求項7】
半導体基板と、
半導体基板の一方の面側にて、標準電極電位が互いに異なる2種以上の金属を含む合金により形成された配線層と、
前記配線層が窒素を含むガスと不活性ガスとの混合ガスにより生成されたプラズマ、または窒素を含むガスにより生成されたプラズマの照射を受けることにより、前記配線層の前記プラズマの照射を受けた面の表層に形成される窒化層と、を備える、
半導体装置。
【請求項8】
前記窒化層は、前記2種以上の金属のうち標準電極電位が比較的高い金属の部分の表層に形成されるものであり、
前記配線層の表層が不動態化されることにより形成される不動態層をさらに備える、
請求項7に記載の半導体装置。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の半導体装置と、
前記半導体装置を駆動するための駆動信号を生成する駆動手段と、を備える、
電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−174951(P2012−174951A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36638(P2011−36638)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】