説明

半導体装置の製造方法、半導体製造装置、及び記憶媒体

【課題】静電チャックに載置した基板がずれることなく、プラズマを励起させたときに発生する異常アーク放電を抑制する半導体装置の製造方法、半導体製造装置、及び記憶媒体を提供する。
【解決手段】反応容器内の静電チャック上に被処理基板を載置し、該静電チャックに第1の静電チャック電圧HV1を印加することにより該静電チャック上に該被処理基板を吸着させる第1工程と、前記第1の静電チャック電圧HV1を第2の静電チャック電圧HV2に低減させる第2工程と、前記反応容器内の平行平板電極間に高周波電圧を印加してプラズマを発生させる第3工程と、前記第2の静電チャック電圧HV2を前記第2の静電チャック電圧HV2より大きい第3の静電チャック電圧HV3にする第4工程とを順次有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法、半導体製造装置、及び記憶媒体に関するものであり、特に、静電チャック機構により絶縁基板を装置に固定するための半導体装置の製造方法、半導体製造装置、及び記憶媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種半導体素子等の微細構造を作製するために用いられるプラズマエッチング装置やプラズマCVD装置等のプラズマ処理装置は、被加工基板の加工精度を向上させるために、静電チャック機構を備えているのが一般的である。
【0003】
静電チャック機構は、温度や投入RF電力(プラズマ励起電力)等が高精度で面内均一に制御されたステージ上に基板を載置し、直流高電圧(HV)を印加して静電引力で強固に基板を固定するものである。
【0004】
この静電チャック機構により、基板温度や基板直上のプラズマ状態を高精度に制御して安定・高精度なプロセスを実現しようとするものである。
【0005】
静電チャック機構を構成するHV印加電極は、電圧耐性的に十分な膜厚の絶縁層で覆われており、導電性のあるプラズマとは直に接触することはないものの、HVに起因する気相プラズマ中の異常アーク放電(アーキング)が発生することがある。
【0006】
このアーキングを抑制する観点から、基板を予め弱いプラズマに曝した後にHVを印加して静電チャックし、その後にプロセスプラズマを励起する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、正のHVを印加しプラズマを励起する前に負のHVを印加する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
一方、プラズマを励起した後にHVを印加する方法(例えば、特許文献3、4参照)や、プラズマを励起してHVを印加した後にプラズマを一旦消して、基板を冷却するためのHeガスを導入してから再度プラズマ励起するという方法が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0009】
【特許文献1】特開2007−208302号公報
【特許文献2】特開2001−15581号公報
【特許文献3】特開平6−112160号公報
【特許文献4】特開平10−27780号公報
【特許文献5】特開2007−227604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、基板に蓄積されている電荷を低減することによってアーキングを抑制する効果が記載されているものの、基板の材質によってはこの効果を奏することができない場合がある。例えば、SOS(シリコン オン サファイヤ)等の絶縁性の基板を用いると、低誘電率であるため電荷の移動度が遅く、当該基板に蓄積された電荷を低減することが難しく、アーキングが発生してしまう。
【0011】
特許文献2に記載の方法では、ガス導入時に混入するパーティクルが正の電荷を帯びている観点から、プラズマを励起する前に負のHVを印加することによりアーキングを抑制することができる場合がある。しかしながら、HVを印加しながらプラズマを励起させると、プラズマを励起した瞬間に大きな電位差が生じ、この瞬時の電界集中がアーキングの原因となってしまう。
【0012】
一方、特許文献3〜5に記載の方法では、プラズマ発生時(エッチング開始時)に基板がチャックされていないため、前述のような電界集中が発生することはないが、エッチング均一性に障害をもたらしてしまう。これらの方法の場合も、基板の材質に起因する弊害が生じる。
【0013】
すなわち、シリコン基板と比較して、絶縁基板は熱伝導率が低く基板温度が面内で不均一となってしまう。また、SOS基板は絶縁であるサファイヤ基板とシリコン単結晶層が積層されており、シリコン基板のような同一材質で構成されていないため、各部位における電圧変化が著しくなり、アーキングが発生しやすくなる。
さらに、絶縁基板は低誘電率であるため基板が静電チャックからわずかに浮上していると局部的なRFインピーダンスの増加が生じ、基板面内のRFバイアス投入パワーに分布が発生しまう。これは、特に静電チャック側のバイアスRFの周波数が低いほどこの傾向が顕著である。また、このわずかな浮上は基板が静電チャックからずれてしまう場合があるため、基板を浮上させないためには静電チャックに印加する電圧を増加する必要がある。
【0014】
本発明は、前記問題点に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、静電チャックに載置した基板がずれることなく、プラズマを励起させたときに発生する異常アーク放電を抑制する半導体装置の製造方法、半導体製造装置、及び記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は鋭意検討した結果、上記問題を解決できることを見出し、上記目的を達成するに至った。
即ち、本発明の半導体装置の製造方法は、反応容器内の静電チャック上に被処理基板を載置し、該静電チャックに第1の静電チャック電圧を印加することにより該静電チャック上に該被処理基板を吸着させる第1工程と、前記第1の静電チャック電圧を第2の静電チャック電圧に低減させる第2工程と、前記反応容器内の平行平板電極間に高周波電圧を印加してプラズマを発生させる第3工程と、前記第2の静電チャック電圧を前記第2の静電チャック電圧より大きい第3の静電チャック電圧にする第4工程と、を順次有することを特徴とする。
【0016】
本発明の半導体製造装置は、反応容器と、前記反応容器内に配置された下部電極と、前記下部電極に対向して設けられた上部電極と、前記上部電極に高周波電力を印加するための第1の高周波電源と、前記下部電極に高周波電力を印加するための第2の高周波電源と、被処理基板を静電吸着するための静電チャックと、前記静電チャックに静電チャック電圧を供給するための直流電源と、プラズマを生成させるための反応ガスを供給する反応ガス供給系と、前記請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法を実行するための制御部と、を有することを特徴とする。
【0017】
本発明の記憶媒体は、前記請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法を実行させることができることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、静電チャックに載置した基板がずれることなく、プラズマを励起させたときに発生する異常アーク放電を抑制する半導体装置の製造方法、半導体製造装置、及び記憶媒体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<半導体装置の製造方法>
〔第1の実施形態〕
第1の実施形態では、図1に示すプラズマエッチング装置を用い、図2に示すシーケンスに基づき被処理基板の表面処理を行うものである。以下、図1、図2に沿って説明する。
【0020】
[第1工程]
まず、基板20を静電チャック18に載置する。そして、反応容器15を真空排気した後、直流電源23から第1の静電チャック電圧(以下、適宜、「HV1」と称することもある)を印加する。
【0021】
この状態で基板20は静電引力により静電チャック18の表面に吸着される。この静電チャック電圧は、基板20の材質等により適宜調整することができ、表面処理時に基板20が静電チャック18に吸着され、後述する冷却ガスを基板20の裏面から封入しても当該冷却ガスが漏れることがなければ特に限定されるものではない。
【0022】
この後、基板20及び静電チャック18の表面の熱伝導率を高め面内で均一に温度制御するために、基板20の裏面側ガス導入経路28にて、例えばHeガスを導入し、所定の圧力に裏面Heガスの圧力で定圧制御する(制御機構図は不図示)。
【0023】
この際、裏面Heガスは基板20に加わる静電吸着力により反応容器15中に漏れることがなく基板20の裏面に封入されるため、所定の圧力に達した後はほぼ導入流量は0で制御される。
【0024】
また、プラズマエッチング処理に必要な反応ガス(例えば、C、O、Ar、SF6、CF、CHF、Cl、BCl等)は裏面Heガスと同時に上部電極16側の反応ガス供給系32から一定流量で導入し、反応容器15内が一定圧力になるように排気系34にて真空排気する。
【0025】
[第2工程]
次に、上部電極16に第1の高周波電源21から所定の高周波電力(以下、適宜、「RF出力」と称する)を印加してプラズマ19を励起する第3工程より前に、静電チャック電圧をHV1から第2の静電チャック電圧(以下、適宜、「HV2」と称することもある)まで低減させて極短い時間(図2ではt2)だけ保持する。
この工程では、プラズマ発生の直前に静電チャックのための静電チャック電圧を抑えているので、この高電圧出力に起因するSOI層とポリシリコン層との間に発生する局所的フローティング電圧を低く抑えることが可能となる。したがって、プラズマの発生により瞬時にアースに短絡される時の電圧変化幅を低く抑えることができるため、アーキングを抑制することができる。
また、プラズマ発生の瞬間だけ静電チャックに印加される高電圧出力を下げるため、プラズマプロセスの開始前から終了まで継続的に十分な吸着力で基板を電極上に固定することができる。従って、プラズマエッチングを行う直前の基板の温度や高周波インピーダンスの面内分布が均一になり、より安定なプロセスが可能となり、高品質化が実現できる。
【0026】
第1の実施形態におけるHV2の値はHV1より低いことが必要であり、第3工程でプラズマを励起する際にアーキングが発生しない程度の出力であることが好ましい。このアーキングの発生原因は基板20の材質、プラズマの励起の際に用いる反応ガス等に起因するため、適宜調整してもよい。
【0027】
[第3工程]
そして、図1中の、上部電極16に接続されている第1の高周波電源21から所定のRF出力を印加し、下部電極17側に接続されているRF電極22から所定の印加されるRF出力を印加する。すなわち、上部電極16及び下部電極17からなる平行平板電極間に高周波電圧を印加してプラズマを発生させる。
【0028】
[第4工程]
最後に、前述のt2が経過した後、RF出力を印加した状態で静電チャック電圧をHV2より大きいHV3にする。これは、前述のように、HV2は静電吸着される最低限の電圧であるため、基板20の表面処理時における基板の移動を確実に避けるためである。
このHV3は、基板20の静電吸着力が十分な程度の電圧が必要であるため、第1工程で印加したHV1と同じ電圧であることが好ましい。HV1とHV3を同じ電圧にすることで電圧の制御も容易になる。
【0029】
このような工程を経ることにより、アーキングが生じることがなく所定のエッチング条件にて基板20の表面処理を行うことができる。
【0030】
〔第2の実施形態〕
第2の実施形態は、第1の実施形態において、被処理基板の構造を以下に示す好ましい態様にしたものである。なお、工程は第1の実施形態と同様である。
第2の実施形態における被処理基板は、当該被処理基板の裏面、又は裏面及び側面にポリシリコン層を有する基板であることが好ましい。
このような構造を有する被処理基板は、シリコン基板のように同一材質で構成されていないためにアーキングが発生しやすくなるものの、第2の実施形態では第1の実施形態のようにHV2をアーキングが発生しないような電圧まで低下させている。従って、第2の実施形態のような構造を有する被処理基板であっても、アーキングの発生を抑制することができる。
【0031】
このような基板は、例えば図1に示すような基板20が挙げられ、絶縁基板11とSOI層12を積層してなり、絶縁基板11の裏面、又は裏面及び側面に至るまでポリシリコン層13で覆われている。ここで、SOI層12とは、絶縁膜上に形成された単結晶シリコン層のことを表し、絶縁膜がサファイヤの場合にはSOS基板と称される。
ポリシリコン層13の膜厚は、基板裏面の粗さなどの状態の影響を受けずに連続層を形成し、かつ、膜の応力による影響を可能な限り少なくするという観点から、10nm以上200nm以下であることが好ましい。
【0032】
ポリシリコン層13は、基板20をフローティング状態にするためのものであり、電気抵抗を低減させる観点から、ポリシリコン層13に不純物がドープされていることが好ましい。ドープされる不純物としてはPが挙げられ、ドープ量は0.5×1020ion/cm以上4×1020ion/cm以下であることが好ましい。
【0033】
また、絶縁基板11とポリシリコン層13との間には、単結晶シリコン層とは別にシリコン絶縁膜が存在していてもよい。これは、絶縁基板11がサファイヤである場合には透明であるため、多層膜による光干渉効果により光透過率を格段に減少させる効果がある。
【0034】
この効果を奏するためには、2層以上6層程度以下の膜が積層されていることがより好ましい。この他にも、屈折率の異なる材質での積層膜を形成すればよいので、光反射膜として、Si半導体プロセスでよく用いられるものが挙げられ、例えば、SiN、Al、TaO等からなる膜が形成されていてもよい。
【0035】
基板20に用いられる絶縁基板11の材質としては、セラミックスや耐熱性、高強度を有する有機物が好ましい。
セラミックスとしては、例えば、石英、サファイヤ、アルミナ、TiN、SiC、BN等が挙げられる。
耐熱性、高強度を有する有機物としては、例えば、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリイミド、等が挙げられる。これらは用途に応じて適宜選択することができ、目的とするデバイスの基体として様々なものが選択される可能性がある。
本発明では、これらの中でも、絶縁基板上に半導体素子を形成するための不純物対策、耐熱性の観点から、石英であることが特に好ましい。
【0036】
また、基板20の形状としては、絶縁基板11のSOI層12側の端部に面取り部が設けられていてもよい。この面取り部の形状としては、R面であってもC面であってもよく、シリコン絶縁膜形成時にシリコン絶縁膜が基板表面端部に積層しないような形状であれば特に限定されない。
【0037】
〔第3の実施形態〕
第3の実施形態は、第1の実施形態において、静電チャック電圧や、第1の実施形態における第2工程から第4工程までの所要時間を以下に示す好ましい態様にした以外は第1の実施形態と同様である。
【0038】
図2中のHV2及びt2は、ぞれぞれ、前述のように静電チャック電圧の大きさ及びHV2の保持時間であり、これらは以下の結果に基づいて適宜調整することができる。
例えば、図1のように、絶縁基板11、及びSOI層12からなる基板は、絶縁基板11の裏面、又は裏面及び側面に至るまでリン等の不純物がドープされたポリシリコン層13で覆われている。
【0039】
この基板20を表面処理する際、プラズマが発生する前後において、ポリシリコン層13に印加している静電チャック電圧が瞬時に消失する。すると、SOI層12とポリシリコン層13との間に電位差が生じる。この電位差は1000Vを超えるものであり、当該箇所の電位差による電界集中がアーキングの原因であると考えられる。
【0040】
この電位差は、図3のように、図1中のポリシリコン層13及びSOI層12に、それぞれハイインピーダンスプローブ26、27を接続してデジタルストレージオシロスコープで計測し、各箇所における電圧の時間依存性を評価して測定することができる。この結果を図4に示す。
【0041】
図4(A)は、基板20のポリシリコン層13における電圧の時間依存性を示す図であり、図4(B)は、基板20のSOI層12における電圧の時間依存性を示す図である。
この電圧の値は、図3のように、反応容器15を接地しておき、このアース基準の電位変化を示すものである。
なお、基板20全体は、静電チャック18を構成する絶縁体(誘電体)で覆われている静電チャック18表面に吸着されているため電気的にフローティング状態である。
【0042】
静電チャック18の表面と接している基板20裏面のポリシリコン層13は、図4(A)のように、静電チャック電圧が印加された瞬間に静電チャック電圧で静電チャック18に吸着された後、所定の値で一定となる。
【0043】
一方、SOI層12は、図4(B)のように、静電チャック電圧を印加した瞬間の電磁誘導による数十V程度の電位変化が観測されたものの、基板20の板厚で絶縁されているために電位はほとんど0Vを維持したままである。
【0044】
そして、静電チャック電圧を印加した状態で、プラズマを励起すると図4(A)のように、ポリシリコン層13ではプラズマを励起した瞬間に静電チャック電圧とは逆の電圧にオーバーシュートした後、0Vに戻る。
【0045】
一方、SOI層12は、図4(B)のように、プラズマを励起した瞬間に小さな電位変化が見られるものの0V程度で概ね一定値を示す。
ポリシリコン層13の電位がプラズマを励起した後に0Vを示すのは、図5(A)のように、フローティング状態にあるポリシリコン層13がプラズマ19を介してアースと短絡するためである。
【0046】
このように、図4から、プラズマを励起させる瞬間に発生するポリシリコン層13とSOI層12との間で瞬時に大きな電位差が発生することから、この電位差がアーキングの原因であると推察される。
すなわち、アーキングの原因は、主にプラズマ中に存在する構造物(ポリシリコン層13とSOI層12)間のチャージアップによる電位差が原因であると推察される。
【0047】
これに対し、反応容器15中の浮遊粒子等を核とした微視的なプラズマ不均一性による電位差などによるアーキングが考えられるが、電位がフローティング状態である基板20は電荷の蓄積量が少ないため、大きな電位差が加わっても基板20が破壊されるほどのエネルギーを放出しないことが容易に推察される。
従って、アーキング40はポリシリコン層13とSOI層12との間の領域で発生していることからも、アーキング40の主要な原因は基板20に存在する電荷ではなく、プラズマ中に存在する構造物間のチャージアップが原因と推察される。
【0048】
以上より、アーキングを効果的に抑制するためには、プラズマを励起する前に静電チャック電圧を低く抑えることにより、オーバーシュートする電圧を低減し、アーキングを抑制することができる。
【0049】
アーキングを抑制するためのt2の範囲は、基板20のズレを防止する観点から極力短い方が好ましいが、HV1の動作時間等を考慮して余裕のある範囲を設定する必要がある。このような範囲としては、0.1秒以上10秒以下であることが好ましい。
また、図4(A)において、電圧が急激に変化しはじめるA点からオーバーシュートするB点までの時間をt2の最小値とすることが特に好ましい。一方、t2の最大値としては、A点から電位が0VになるC点までの時間であることが特に好ましい。すなわち、t2は、前述のようにHV1の動作時間等を考慮して、0.5秒以上2.5秒以下の範囲であることが特に好ましいことになる。
【0050】
また、アーキングを抑制するためのHV2の範囲は、前述のアーキングが発生しないような電圧を最大値とし、基板20が静電チャック18から静電吸着し続ける程度の電圧を最小値とすることが好ましい。すなわち、絶対値で|1000|V以上|2000|V以下の範囲である。
【0051】
〔第4の実施形態〕
第4の実施形態における半導体装置の製造方法は、第1の実施形態における半導体装置の製造方法において、冷却ガス及び反応ガスを第3工程より前に導入する工程を有する以外は第1の実施形態における半導体装置の製造方法と同様である。
基板20の温度を面内で均一にする観点から、プラズマを発生させる数秒前に導入することが好ましい。
【0052】
反応ガスや冷却ガスの導入時期については、基板20の材質や板圧により面内温度が均一になるまでの時間が異なる観点から、基板の材質や板圧により適宜調整すればよい。特に、冷却ガスの導入時期については、基板20を冷却するため、プラズマを発生させる第3工程より前であることが好ましい。第3工程の後に冷却ガスを導入すると、プラズマがすでに発生しているため、特にSOS基板のような熱伝導率の低いものを用いた場合に基板の温度が上がってしまう。
また、反応ガス及び冷却ガスの導入時期は、基板温度を瞬時に一定にする観点から、同時に導入することが好ましい。
【0053】
<記憶媒体、半導体製造装置>
図1は、前述の第1〜第4の実施形態で用いることができるプラズマエッチング装置10の構成図である。
図1に示すように、プラズマエッチング装置10は、真空状態に維持することができる反応容器15を有し、その中には上部電極16、下部電極17を備える2周波励起平行平板型反応性イオンエッチング装置である。
【0054】
上部電極16には、例えば27MHzの第1の高周波電源21が接続されており、下部電極17には、例えば800MHzの第2の高周波電源22が接続されている。プラズマは、上部電極16及び下部電極17からなる2つの平行平板電極間に高周波電圧を印加することにより発生する。
【0055】
また、下部電極17には、静電チャック18が装備されており、ローパスフィルタ24を介して直流電源23を有する電源発生回路を備える。直流電源23から発生する静電チャック電圧は、静電チャック18の内部に埋め込まれた電極25に印加され、静電チャック18表面の絶縁膜を介して載置されている基板20を静電吸着する。
【0056】
静電チャック18には、基板20の裏面側ガス導入経路28が設けられており、基板20の温度を制御することができる。
【0057】
反応容器15には、ぞれぞれ、ガス供給系32、排気系34が設けられており、反応容器15内の反応ガス等の導入や、反応容器15内の圧力を一定に保つことが可能となる。
【0058】
プラズマエッチング装置10は、静電チャック電圧、RF出力、及びプラズマを発生させるための反応ガスや冷却ガスの供給タイミングを同期させて制御する制御部(不図示)を備える。
この制御部(不図示)はマイクロコンピューターを有しており、CPU等の演算処理部と、この演算処理部に一連のプロセス動作を行わせるための制御プログラムとを格納した記憶媒体を備えている。
【0059】
この制御プログラムは、反応容器15内にプラズマ発生用の反応ガスを導入するための反応ガス供給系32や排気系34に設けられたバルブ(不図示)を開閉する制御、第1の高周波電源21、第2の高周波電源22から静電チャック電圧の出力をオンオフする制御、基板20の裏面に冷却ガスを導入するためのバルブ(不図示)を開閉する制御、冷却ガスの流量を検出し、冷却ガスが所定値を超えたか否かの判定及びその結果に基づく制御、等を行うための信号を送信させることができる。
【0060】
また、制御プログラムを供給するための記憶媒体としては、例えば、RAM、NV−RAM、フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、MO、CD−R、CD−RW、DVD(DVD−ROM、DVD−RAM、DVD−RW、DVD+RW)、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、他のROM等の上記制御プログラムを記憶できるものであればよい。
或いは、上記制御プログラムは、インターネット、商用ネットワーク、若しくはローカルエリアネットワーク等に接続される不図示の他のコンピュータやデータベース等からダウンロードすることにより供給されてもよい。
【0061】
また、コンピュータが読み出した制御プログラムを実行することにより、上記実施の形態の機能が実現されるだけでなく、その制御プログラムの指示に基づき、コンピュータ上で稼動しているOS(オペレーティングシステム)等が実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって上述した実施の形態の機能が実現されてもよい。
【0062】
更に、記憶媒体から読み出された制御プログラムが、コンピュータに挿入された機能拡張ボードやコンピュータに接続された機能拡張ユニットに備わるメモリに書き込まれた後、その制御プログラムの指示に基づき、その機能拡張ボードや機能拡張ユニットに備わるCPU等が実際の処理の一部または全部を行い、その処理によって上述した実施の形態の機能が実現されてもよい。
【0063】
上記制御プログラムの形態は、オブジェクトコード、インタプリタにより実行される制御プログラム、OS(オペレーティングシステム)に供給されるスクリプトデータ等の形態であってもよい。
【0064】
本発明の半導体製造装置は、前述のようにエッチング装置に用いることや、CVD装置等にも適用することができる。
【実施例】
【0065】
〔実施例1〕
アーキングは、上下に対向するように設けられた一対の平行平版電極に高周波電力を供給してプラズマを発生させるタイプの装置で発生しやすい。本実施例では、このようなアーキングが発生しやすいタイプの装置を用いてもアーキングの発生を抑制することができる前述の方法にて被処理基板を表面処理した。以下に詳述する。
実施例1では、図3に示すプラズマエッチング装置10を用い、図2に示すシーケンスに沿って被処理基板20を表面処理した。
まず、サファイヤ基板11にSOI層12が形成され、サファイヤ基板11の裏面及び側面にポリシリコン層13が形成されたSOS基板20を静電チャック18上に載置した。そして、反応容器15を真空排気した後、直流電源23から+2500Vの静電チャック電圧(第1の静電チャック電圧:HV1)を5秒間印加した。
【0066】
次に、裏面側ガス導入経路28から冷却ガスである裏面Heガスを導入し、40Torrで定圧制御し、SOS基板20の温度を40℃にした。
また、裏面Heガスの導入と同時に、反応ガスであるArガスを、反応ガス供給系32のバルブ(不図示)を開放して反応容器15内に導入した。Arガスの導入量を500sccmの一定流量で導入し、反応容器15内の圧力が30mTorrの一定圧力となるように排気系34のバルブ(不図示)を開放した。
【0067】
その後、静電チャック電圧を+2500V(第1の静電チャック電圧:HV1)から+1500V(第2の静電チャック電圧:HV2)にし、2秒間保持した。そして、静電チャック電圧を+1500Vに低減してから1秒後に、上部電極16にRF電源21からRF出力を1500W印加し、これと同時に、下部電極17に、RF電源22から+800WのRF出力を印加した。
最後に、静電チャック電圧を+1500V(第2の静電チャック電圧:HV2)から+2500V(第3の静電チャック電圧:HV3)にした。そして、SOS基板20のSOI層12を表面処理した後にRF出力及び静電チャック電圧を0にして表面処理を終了した。
この工程を10枚のSOS基板にて表面処理を行い、以下の評価を行った。
【0068】
−SOI層の電位の変化−
図3のように、SOS基板20のSOI層12に100MΩのハイインピーダンスプローブ27を接続してデジタルストレージオシロスコープで計測し、図4(A)のような電圧の時間依存性を評価した。そして、図4(A)のA点及びB点に相当する点の電位差の平均値を求めた。結果を表1に示す。
【0069】
−アーキングの発生−
前述の工程中でのアーキングの発生は、目視観察及び前述と同様のオシロスコープを用いた計測により観察し、以下の基準に基づいてアーキングの程度を評価した。結果を表1に示す。
◎:アーキングが一切観測されなかった。
○:小さなアーキングが観測された、SOS基板にキズ等は見られなかった。
△:大きなアーキングが観測され、1〜3枚のSOS基板に亀裂が発生した
×:大きなアーキングが観測され、10枚のSOS基板すべてに亀裂が発生した。
【0070】
−基板のズレ−
SOS基板を静電チャックに載置した後、表面処理が終わるまでの間にSOS基板が当初の位置から移動したか否かを、以下の基準に基づいて評価した。結果を表1に示す。
◎:基板の移動がみられなかった。
○:基板がわずかに移動していたものの、SOI層を表面処理することに支障をきたさない程度であった。
×:基板が移動しており、SOI層に所望の表面処理を行うことができなかった。
【0071】
〔実施例2〕
実施例1において、HV2を2000Vにした以外は実施例1と同様にしてSOS基板の表面処理を行い、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
〔実施例3〕
実施例1において、第2のHV2を1000Vにした以外は実施例1と同様にしてSOS基板20の表面処理を行い、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
〔比較例1〕
実施例1において、静電チャック電圧を下げることなく−2500Vで一定に保つシーケンスとしたこと以外は、実施例1と同様にしてSOS基板を表面処理し、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0074】
〔比較例2〕
図6のように、反応ガスを導入した後、RF出力にて500Wを印加してプラズマを励起した後、一旦RF出力を0Wにする。そして、静電チャック電圧を+2500V印加し、上部電極16にRF電源21からRF出力を1500W印加し、これと同時に、下部電極17に、RF電源22から+800WのRF出力を印加した。その他の条件は実施例1と同様にしてSOS基板の表面処理を行い、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0075】
〔比較例3〕
図7(A)のように、RF出力を印加した後に静電チャック電圧を印加するシーケンスとしたこと以外は実施例1と同様にしてSOS基板の表面処理を行い、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0076】
〔比較例4〕
図7(B)のように、RF出力を印加した後に静電チャック電圧を印加し、一旦RF出力を0Wにした後に裏面Heガス(冷却ガス)を導入し、再度RF出力を印加するシーケンスとした。この他の条件については実施例1と同様にしてSOS基板の表面処理を行い、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0077】
〔比較例5〕
比較例1において、静電チャック電圧を500Vとした以外は比較例1と同様にしてSOS基板の表面処理を行い、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
このように、本実施例では、RF出力を印加したことによる電位差が低減されているため、アーキングの発生を抑制することができた。また、静電チャック電圧は常時印加されているため、基板の移動もほとんどなく、所望の表面処理を行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の実施形態における半導体製造装置の概略断面図である。
【図2】本発明の実施形態における半導体装置の製造方法のシーケンスである。
【図3】基板のSOI層及びポリシリコン層の電位を測定するための半導体製造装置の概略断面図である。
【図4】(A)が、静電チャック電圧を一定にし、RF出力を印加した従来のシーケンスでの、SOI層における電圧の時間依存性を示す図であり、(B)が、静電チャック電圧を一定にし、RF出力を印加した従来のシーケンスでの、ポリシリコン層における電圧の時間依存性を示す図である。
【図5】アーキングが発生したときの模式図である。
【図6】従来例の半導体装置の製造方法におけるシーケンスである。
【図7】(A)、(B)は、従来例の半導体装置の製造方法におけるシーケンスである。
【符号の説明】
【0081】
10 プラズマエッチング装置
11 絶縁基板(サファイヤ基板)
12 SOI層
13 ポリシリコン層
15 反応容器
16 上部電極
17 下部電極
18 静電チャック
19 プラズマ
20 (SOS)基板
21 第1の高周波電源
22 第2の高周波電源
23 直流電源
24 ローパスフィルタ
25 静電チャックの内部に埋め込まれた電極
26、27 ハイインピーダンスプローブ
28 裏面側ガス導入経路
32 反応ガス供給系
34 排気系
40 アーキング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器内の静電チャック上に被処理基板を載置し、該静電チャックに第1の静電チャック電圧を印加することにより該静電チャック上に該被処理基板を吸着させる第1工程と、
前記第1の静電チャック電圧を第2の静電チャック電圧に低減させる第2工程と、
前記反応容器内の平行平板電極間に高周波電圧を印加してプラズマを発生させる第3工程と、
前記第2の静電チャック電圧を前記第2の静電チャック電圧より大きい第3の静電チャック電圧にする第4工程と、
を順次有することを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記被処理基板の裏面、又は裏面及び側面にポリシリコン層を有することを特徴とする請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記ポリシリコン層がドープポリシリコン層であることを特徴とする請求項2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記第2の静電チャック電圧が、1000V以上2000V以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記第3工程の前に、前記反応容器内に反応ガスを導入し、前記被処理基板の吸着面に冷却ガスを導入する工程を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項6】
反応容器と、
前記反応容器内に配置された下部電極と、
前記下部電極に対向して設けられた上部電極と、
前記上部電極に高周波電力を印加するための第1の高周波電源と、
前記下部電極に高周波電力を印加するための第2の高周波電源と、
被処理基板を静電吸着するための静電チャックと、
前記静電チャックに静電チャック電圧を供給するための直流電源と、
プラズマを生成させるための反応ガスを供給する反応ガス供給系と、
前記請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法を実行するための制御部と、
を有することを特徴とする半導体製造装置。
【請求項7】
前記請求項1〜5のいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法を実行させることができることを特徴とする記憶媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−10214(P2010−10214A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−164731(P2008−164731)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(308033711)OKIセミコンダクタ株式会社 (898)
【Fターム(参考)】