説明

半導体装置の製造方法及び半導体装置

【課題】素子の信頼性を劣化させることなく、より比誘電率の低い絶縁膜を形成する。
【解決手段】この半導体装置の製造方法は、下地膜101に、環状シロキサンをプラズマ重合させて第一の絶縁膜102を形成する工程と、第一の絶縁膜102を形成する工程の後、連続的に、第一の絶縁膜102上に、環状シロキサンをプラズマ重合させて第二の絶縁膜103を形成する工程と、を含む。第一の絶縁膜102の成膜速度は、第二の絶縁膜103の成膜速度よりも遅い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体の微細化が進むにつれ寄生容量による配線遅延や消費電力の増加が問題となっている。これを回避するため、絶縁膜の低誘電率化が進められている。
【0003】
特許文献1には、不飽和炭化水素とアモルファスカーボンとを含む環状シロキサンをプラズマ重合させて形成したバリア絶縁膜が記載されている。このバリア絶縁膜は、銅の拡散耐性を有し、かつその比誘電率が3.5未満である。そのため、このバリア絶縁膜で銅含有配線を被覆することで、銅含有配線の信頼性を劣化させることなく、配線間容量を低減でき、高速、低消費電力なLSIを実現できるとされている。
【0004】
なお、一般的な低誘電率絶縁膜を成膜する手法として特許文献2〜6に記載のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/078649号パンフレット
【特許文献2】特開2002−25228号公報
【特許文献3】特開平2−222178号公報
【特許文献4】特開平7−58096号公報
【特許文献5】特開2005−223012号公報
【特許文献6】特開2009−27075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの知見によれば、特許文献1に記載の環状シロキサンを用いたプラズマ重合を行うと、成膜初期において異常放電を起こす成膜条件が存在することが明らかとなった。そのため、成膜初期の絶縁膜の膜厚が不均一になり、絶縁膜全体の膜厚の均一性を劣化させることがあった。また、トランジスタ上に絶縁膜を形成すると、この異常放電によりゲート絶縁膜にダメージを与えるということもあった。したがって、成膜条件のマージンを広げ、かつ素子の信頼性を劣化させることなく、絶縁膜を低誘電率化できる技術が求められた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
下地膜に、Si−O環状構造を有する有機シロキサンをプラズマ重合させて第一の絶縁膜を形成する工程と、
前記第一の絶縁膜を形成する前記工程の後、連続的に、前記第一の絶縁膜上に、前記有機シロキサンをプラズマ重合させて第二の絶縁膜を形成する工程と、
を含み、
前記第一の絶縁膜の成膜速度が前記第二の絶縁膜の成膜速度よりも遅い、半導体装置の製造方法
が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、
金属配線と、
上記の方法により形成された第一の絶縁膜と第二の絶縁膜からなる積層構造の層間絶縁膜と、
を備え、前記層間絶縁膜が前記金属配線間に形成されている、半導体装置
が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、
下地膜と、
前記下地膜上に形成された第一の絶縁膜と、
前記第一の絶縁膜上に連続的に形成された第二の絶縁膜と、
を備え、
前記第一、第二の絶縁膜の少なくとも一方が環状シロキサンを有し、
前記第一、第二の絶縁膜がいずれもシリコン、酸素、炭素及び水素を構成元素とし、前記第一、第二の絶縁膜中に含まれる酸素の原子数(O)に対する炭素の原子数(C)の比率をC/O比としたとき、前記第一の絶縁膜及び前記第二の絶縁膜のC/O比が互いに異なる、半導体装置
が提供される。
【0010】
さらに、本発明によれば、
前記下地膜が少なくともシリコン及び炭素を構成元素とし、
前記下地膜中に含まれるシリコンの原子数(Si)に対する炭素の原子数(C)の比率をC/Si比としたとき、前記下地膜と前記第一の絶縁膜との界面における前記下地膜のC/Si比が、下地膜の内部のC/Si比より低い、半導体装置
が提供される。
【0011】
ここで、本発明において「下地膜」とは、膜だけではなく、基板をも含むものである。
【0012】
この発明によれば、下地膜に、Si−O環状構造を有する有機シロキサンをプラズマ重合させて絶縁膜を形成する工程において、成膜開始時の第一の絶縁膜の成膜速度を成膜後期の第二の絶縁膜の成膜速度よりも遅くする。これにより、成膜初期における成膜表面のインピーダンス変化を緩慢にさせることができるため、プラズマが安定化し、成膜初期における異常放電の発生を抑制することができる。したがって、素子の信頼性を劣化させることなく、より比誘電率の低い絶縁膜を形成することができる。同時に下地層との密着強度を上げ、剥離等を減少させることで、CMP(Chemical Mechanical Polishing)などのプロセス耐性や実装耐性が向上する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、素子の信頼性を劣化させることなく、より比誘電率の低い絶縁膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施の形態に係る半導体装置の製法方法を模式的に示した断面図である。
【図2】実施の形態に係る半導体装置の製法方法で用いるプラズマ発生装置を模式的に示した図である。
【図3】第1の実施形態に係る半導体装置の製造方法のタイムチャートである。
【図4】第2の実施形態に係る半導体装置の製造方法のタイムチャートである。
【図5】第3の実施形態に係る半導体装置の製法方法を模式的に示した断面図である。
【図6】(a)は実施例を示す図である。(b)は比較例を示す図である。
【図7】実施例を示す図である。
【図8】(a)は実施例を示す図である。(b)は比較例を示す図である。
【図9】実施例を示す図である。
【図10】(a)は比較例のタイムチャートである。(b)は実施例のタイムチャートである。(c)は比較例を示す図である。(d)は実施例を示す図である。
【図11】実施例を示す図である。
【図12】従来の半導体装置の製造方法を示す図である。(a)は従来の半導体装置を模式的に示した断面図である。(b)は従来の半導体装置の製造方法のタイムチャートである。
【図13】従来の半導体装置の製造方法を説明する図である。
【図14】第4の実施形態に係る半導体装置の製造方法のタイムチャートである。
【図15】酸化性ガス添加量に対する成膜レートの関係を示した図である。
【図16】実施例を示す図である。
【図17】実施例を示す図である。
【図18】比較例のタイムチャートである。
【図19】比較例を示す図である
【図20】密着強度を示した図である。
【図21】実施例を示す図である。
【図22】実施例を示す図である。
【図23】実施例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係る半導体装置の製造方法を説明する図である。図1は、本発明すなわち、下地膜101、第一の絶縁膜102、第二の絶縁膜103の関係をわかりすく説明するために、簡略したものであり、実際の半導体プロセス工程では配線層(図示せず)やバリア膜(図示せず)、キャップ膜(図示せず)などが存在している。本実施形態は、下地膜101に、環状シロキサンをプラズマ重合させて第一の絶縁膜102を形成する工程と(図1(b))、第一の絶縁膜102を形成する工程の後、連続的に、第一の絶縁膜102上に、環状シロキサンをプラズマ重合させて第二の絶縁膜103を形成する工程(図1(c))と、を含む。ここでいう「連続的に」とは、第一の絶縁膜102の形成する工程の後、真空状態を維持し、かつ、環状シロキサンの供給を停止しないで、引き続き、第二の絶縁膜103を形成する工程を実行することをいう。そのため、第一の絶縁膜102と第二の絶縁膜103との間には不連続面が形成されないが、図1では、説明のため、第一の絶縁膜102と第二の絶縁膜103との境界を示している。このようにして、第一の絶縁膜と第二の絶縁膜の積層構造が形成される。第一の絶縁膜102の成膜速度は、第二の絶縁膜103の成膜速度よりも遅い。
【0017】
以下、本実施形態に係る半導体装置の製造方法について詳細に説明する。まず、下地膜101を用意する(図1(a))。下地膜101は、導体、半導体、絶縁膜又は基板のいずれかとする。本実施形態では、シリコン基板とする。
【0018】
ついで、用意した下地膜101をプラズマ発生装置のチャンバー内に投入する。図2は、プラズマ発生装置の一例を示す図である。チャンバー201は、排気配管207、排気バルブ222及び冷却トラップ208を介して真空ポンプ209に接続されている。これにより、真空ポンプ209を運転させることでチャンバー201内を減圧させることができる。また、チャンバー201の真空はチャンバー201と真空ポンプ209の間に設置されるスロットルバルブ(図示せず)で制御することで、チャンバー201内の圧力も制御することができる。チャンバー201の内部には加熱機能を有するステージ203が設けられている。ステージ203上には、シリコン基板10が敷置される。ステージ203は200℃〜400℃の温度範囲に加熱されていることが好ましい。
【0019】
環状シロキサン(液体)は、原料リザーバタンク226から圧送され気化器216内において気化し、バルブ221を介して配管215を通じ、チャンバー201内へ供給される。このとき、環状シロキサンは、バルブ225、224を介して気化器216内に投入され、液体流量コントローラ223によって流量調整がされている。
【0020】
環状シロキサンとして、化学式(1)で示すSi−O環状構造を有する有機シロキサンを用いる。
【0021】
【化1】

化学式(1)において、R1、R2は、水素又は炭素数1〜4の炭化水素基であり、R1及びR2は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。nは、2〜5とする。
【0022】
また、化学式(1)のR1、R2は、炭素数2〜4の直鎖状不飽和炭化水素基又は炭素数3〜4の分枝鎖状飽和炭化水素基を少なくとも1つ有するのが好ましい。具体的には、化学式(1)中、R1、R2は、ビニル基、アリル基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基及びブチル基のいずれかとすると好ましい。また、nは、3又は4とすると好ましい。具体的には、化学式(1)で示す環状シロキサンとして、化学式(2)で示すテトラビニルシクロテトラシロキサン誘導体、化学式(3)で示すトリビニルシクロテトラシロキサン誘導体、化学式(4)、(5)で示すジビニルシクロテトラシロキサン誘導体、化学式(6)で示すビニルシクロテトラシロキサン誘導体、化学式(7)で示すトリビニルシクロトリシロキサン誘導体、化学式(8)で示すジビニルシクロトリシロキサン誘導体、化学式(9)で示すビニルシクロトリシロキサン誘導体が例示される。
【0023】
【化2】

【0024】
【化3】

【0025】
【化4】

【0026】
【化5】

【0027】
【化6】

【0028】
【化7】

【0029】
【化8】

【0030】
【化9】

【0031】
化学式(2)〜(9)において、R1〜R7は、水素又は炭素数1〜4の炭化水素基であり、R1〜7は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。化学式(2)〜(9)中、R1〜R7は、ビニル基、アリル基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基及びブチル基のいずれかであることが好ましい。環状シロキサンとして、より好ましくは、化学式(10)で示すテトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、化学式(11)で示すトリビニルトリイソプロピルシクロトリシロキサンを用いることができる。
【0032】
【化10】

【0033】
【化11】

【0034】
本発明における環状シロキサンとして、化学式(2)〜(9)で示される環状シロキサンの中から一種類の環状シロキサンを選択して用いてもよいし、数種類組み合わせて用いてもよい。二種の環状シロキサンを原料として用いる場合は、気化器216を用いて、上記のように、一の環状シロキサンを気化し、気化器216とは異なる気化器を用いて他の環状シロキサンを気化し、配管215内で二種の環状シロキサンガスを混合し、チャンバー201に供給すれば良い。また、三種類以上の環状シロキサンを用いる場合には、複数の原料タンク(図示しない)、環状シロキサン供給配管(図示しない)、気化供給システム(図示しない)、環状シロキサン供給配管(図示しない)などを同様に設置すれば良い。
【0035】
また、配管215には、ガス流量コントローラ218及びバルブ220を介してキャリアガスが導入可能となっている。キャリアガスとしては、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、キセノン(Xe)、窒素(N)などの不活性ガスを用いることができる。また、添加ガス流量コントローラ228及びバルブ227を介して、酸素(O)、二酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO)及び二酸化窒素(NO)などの酸化性ガスを添加することができる。成膜の際、原料ガス(環状シロキサンガス)と不活性ガス(キャリアガス、励起ガス)のみを使うことで、装置を簡素化することができ、また使用するガスが少なくなることで成膜が単純になり、制御がしやすいという利点がある。
【0036】
配管215は、ヒータと断熱材によって加熱・保温され、気化した環状シロキサンの再液化を防止している。
【0037】
チャンバー201に導入された環状シロキサンガス及びキャリアガスは、複数の貫通孔を具有しチャンバー201内に設置されたシャワーヘッド204で分散される。シャワーヘッド上部には図示しないガス分散板が設けられることもある。
【0038】
シャワーヘッド204には、給電線211とマッチングコントローラ212とを介して高周波電源(RF(Radio−Frequency)電源)213が接続され、接地線206を介して接地されたステージ203との間に高周波電力(RF電力)が供給される。供給するRF電力は、第一の絶縁膜102の成膜工程(図1(b))では、第二の絶縁膜103の成膜工程(図1(c))よりも低く設定することが好ましい。具体的には、第一の絶縁膜102の成膜工程(図1(b))のRF電力は、第二の絶縁膜103の成膜工程のRF電力の80%以下にすることが好ましい。
【0039】
ここで、第一の絶縁膜102の成膜速度は、後述する第二の絶縁膜103の成膜速度を1とした場合、0.75以下とするように、RF電力を設定すると好ましい。第二の絶縁膜103の成膜速度を120nm/分以上とし、第一の絶縁膜の成膜速度が90nm/分以下にすることが好ましい。また、第一の絶縁膜102の成膜工程において、第一の絶縁膜102の膜厚面内均一性が4%以下を保持できるようにすることが好ましい。なお、膜厚面内均一性は、分光エリプソメーターを用いた膜厚の均一性の面内分布測定法により測定することができる。膜厚の測定点は300mmウェハの場合中央に1点、半径49mmの円上に8方位、半径98mmの円上に16方位、半径147mmの円上に24方位の計49点である。膜厚面内均一性は、下記の数式(1)で示すように定義する。
【0040】
膜厚面内均一性(%)={(測定点の最大膜厚−測定点の最小膜厚)/平均膜厚/2}×100・・・・(1)
【0041】
そして、チャンバー201に導入された環状シロキサンガス及びキャリアガスは、シャワーヘッド204とステージ203との間にかかる印加電力によってプラズマ化し、ステージ203上に置かれたシリコン基板10の表面に堆積し、第一の絶縁膜102を形成する。
【0042】
ついで、下地膜101の表面が第一の絶縁膜102で覆われたタイミングで、RF電源213の出力を上げ、供給するRF電力を大きくする。こうすることで、第一の絶縁膜102の表面に第二の絶縁膜103の成膜が開始する。具体的には、第一の絶縁膜102が膜厚10nm以上になったタイミングで、RF電力を上げることが好ましい。このように、本実施形態では、第一の絶縁膜102成膜後、チャンバー201から取り出さずに、続けて、第一の絶縁膜102の表面に第二の絶縁膜103を成膜する。これにより、第一の絶縁膜102の成膜工程後「連続的に」第二の絶縁膜103が形成される。このようにして、第一の絶縁膜と第二の絶縁膜の積層構造が形成される。なお、第二の絶縁膜103の成膜を開始する時点における第一の絶縁膜102の膜厚面内均一性は、4%以下である。
【0043】
図3には、第一の絶縁膜102及び第二の絶縁膜103の成膜工程のタイムチャートを示す。図3のIの領域が第一の絶縁膜102の成膜工程を示し、同IIが第二の絶縁膜103の成膜工程を示す。
【0044】
環状シロキサンのガス流量及びキャリアガスのガス流量は、流量コントローラの制御により、第一の絶縁膜102の成膜工程から第二の絶縁膜103の成膜工程にわたって一定とする。ここで、チャンバー内に導入されるキャリアガス及び環状シロキサンガスは、キャリアガスの流量(b)に対する環状シロキサンのガス流量(a)の比率(a/b)が0.05〜0.6にするとよい。また、チャンバー201内の圧力は、真空ポンプ209等によって、一定に制御する。そして、図3で示すように、RF電力のみが第一の絶縁膜102の成膜工程後、徐々に上げられ、所望の膜厚の第二の絶縁膜103が形成されるまで、一定状態を維持する。RF電力は、第二の絶縁膜103の成膜速度を第一の絶縁膜102の成膜速度よりも30nm/分以上増加させることが好ましい。
【0045】
ここで、第二の絶縁膜103の成膜初期におけるRF電力は、チャンバー201内のプラズマ安定性を考慮すれば、徐々に上げることが望ましい。しかしながら、第二の絶縁膜103の膜組成を均一にするためには、第二の絶縁膜103の成膜速度を一定にすることが好ましい。したがって、第二の絶縁膜103の膜組成を均一にするためには、RF電力の上昇速度をチャンバー201内のプラズマ安定性を損なわない範囲に制御することが好ましい。
【0046】
このように成膜された第一の絶縁膜102のシリコンの原子数(Si)に対する炭素の原子数(C)の比率(C/Si)は、第二の絶縁膜103のC/Siよりも高くなる。
【0047】
また、第一の絶縁膜102のシリコンの原子数(Si)に対する酸素の原子数(O)の比率(O/Si)は、第二の絶縁膜103のO/Siよりも低くなる。
【0048】
以上、説明した方法を半導体装置の低誘電率絶縁膜の成膜工程に導入することで、半導体装置を完成する。これにより、第一の絶縁膜102と、第一の絶縁膜102上に連続的に形成された第二の絶縁膜103とを備えた半導体装置が得られる。第一、第二の絶縁膜102、103は、いずれもシリコン、酸素、炭素及び水素を主な構成元素としている。また、第一、第二の絶縁膜102、103には、環状シロキサンが残存して空孔をなす。また、第一の絶縁膜102上への第二の絶縁膜103形成工程を、真空チャンバーから取り出すことなく連続工程にて行うため、第一、第二の絶縁膜102、103は不連続面を有しない。このため、第一、第二の絶縁膜102、103が一体として多孔質絶縁膜をなす。この多孔質絶縁膜の比誘電率は、2.7以下となる。環状シロキサンを用いたことにより、従来の低誘電率膜と比べて、C/Si比が高い膜となっている。また、第一の絶縁膜102の酸素の原子数(O)に対する炭素の原子数(C)の比率(C/O)が第二の絶縁膜103よりも高くなっている。たとえば、第一の絶縁膜102のC/O比を3.86であり、第二の絶縁膜103のC/O比を3.38とすることができる。
【0049】
第一、第二の絶縁膜102、103内の空孔は、膜材料の化学構造を利用して形成されるため、従来よりも径の小さい多孔質絶縁膜が得られる。たとえば、小角X線散乱法により測定した空孔の最大径を1.5nm以下、より好ましくは、1.0nm以下、平均値を0.5nm以下、半値幅を0.3nm〜0.5nmとすることができる。なお、第一の絶縁膜102と第二の絶縁膜103との界面は連続面となるため、絶縁膜間の密着力の低下の懸念はない。
【0050】
つづいて、本実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果について説明する。この方法によれば、下地膜101に、環状シロキサンをプラズマ重合させて絶縁膜を形成する工程において、成膜開始時の第一の絶縁膜102の成膜速度を成膜後期の第二の絶縁膜103の成膜速度よりも遅くする。これにより、成膜初期における成膜表面のインピーダンス変化を緩慢にさせることができるため、プラズマが安定化し、成膜初期における異常放電の発生を抑制することができる。したがって、素子の信頼性を劣化させることなく、より比誘電率の低い絶縁膜を形成することができる。
【0051】
前記化学式(1)に示すような側鎖に炭化水素基を持つ環状シロキサンによれば、C/Siが高い多孔質絶縁膜を成膜することができる。したがって、従来よりも比誘電率の低い絶縁膜が形成されることが期待される。しかしながら、環状シロキサンを用いた成膜法では、プラズマ中における解離状態が環境の影響を受けやすく多種類の活性種を発生する。これにより、プラズマが不安定になりやすい。特に成膜初期では、下地膜101と成膜される絶縁膜との間でインピーダンスが大きく異なるため、さらにプラズマが不安定化し、異常放電が起きてしまう。このような異常放電は半導体装置のゲート酸化膜絶縁耐圧劣化の要因となっている。そして、その不安定なプラズマ環境は、刻々と変化していくため、成膜初期の膜厚が不均一となりやすいことがあった。その結果、成膜初期の膜厚が不均一となることで、絶縁膜全体の膜厚が不均一となり、素子の性能を低下させていた。
【0052】
しかしながら、本実施形態では、RF電力を成膜初期に低くすることで、成膜初期における活性種の発生を抑制し、プラズマ重合が起こりにくくなるため、環状シロキサンの成膜初期における成膜速度を低くすることができる。これにより成膜表面のインピーダンス変化を緩慢にでき、プラズマの急激な変化を抑制して、さらにプラズマ環境は安定化させることができる。こうすることで、成膜初期において膜厚の均一な絶縁膜を成膜することが可能になる。
【0053】
(第2の実施形態)
本実施形態もまた、半導体装置の製造方法である。本実施形態では、第1の実施形態と異なる点のみを説明し、同一の内容は適宜省略する。本実施形態もまた、図1で示すように、下地膜101に、環状シロキサンをプラズマ重合させて第一の絶縁膜102を形成し、連続的に、第一の絶縁膜102上に、環状シロキサンをプラズマ重合させて第二の絶縁膜103を形成する。このようにして、第一の絶縁膜と第二の絶縁膜の積層構造が形成される。第1の実施形態では、RF電力により成膜速度を制御したが、本実施形態では、第二の絶縁膜103を形成する工程(図1(c))におけるキャリアガスの流量(b)と励起ガスの流量(c)との和(b+c)に対する環状シロキサンのガス流量(a)の比率(a/(b+c))が、第一の絶縁膜102を形成する工程(図1(b))におけるキャリアガスの流量(b)と励起ガスの流量(c)との和(b+c)に対する環状シロキサンのガス流量(a)の比率(a/(b+c))よりも大きくすることで、成膜速度を制御する。
【0054】
具体的には、本実施形態の製造方法は、図4のタイムチャートで示される。図4で示すように、チャンバー201内の圧力、RF電力及び環状シロキサンの流量は、第一の絶縁膜102の成膜工程(I)及び第二の絶縁膜103の成膜工程(II)にわたって一定である。また、本実施形態では、キャリアガスと励起ガスとをチャンバー201内に投入する。キャリアガス及び励起ガスは、いずれも、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、キセノン(Xe)、窒素(N)などの不活性ガスとすることができるが、組成は同一とするほうがより好ましい。キャリアガスの流量は第一の絶縁膜102の成膜工程及び第二の絶縁膜103の成膜工程にわたって一定とするが、励起ガスは、第一の絶縁膜102が10nm以上成膜したところで流量を徐々に減少させ、第二の絶縁膜103の成膜初期において0にする。たとえば、励起ガスの流量は、キャリアガスの流量の2〜3倍程度にすることができる。
【0055】
具体的には、第一の絶縁膜102を形成する工程(I)において、キャリアガスの流量(b)と励起ガスの流量(c)との和(b+c)に対する環状シロキサンのガス流量(a)の比率(a/(b+c))を0.15以下とすると好ましく、0.1以下がより好ましい。bは、励起ガス及びキャリアガスを混合させた流量として算出する。
【0056】
また、第二の絶縁膜103の成膜工程(II)において、キャリアガスの流量(b)と励起ガス流量(c)との和(b+c)に対する環状シロキサンのガス流量(a)の混合比(a/(b+c))は、0.2以上とするとよい。例えば、第二の絶縁膜103の成膜工程の開始後所定の期間、徐々に励起ガスの流量を減少させて励起ガスの流量を0とする。こうすることで、励起ガスの流量とキャリアガスの流量との和(b+c)に対する環状シロキサンのガス流量(a)の混合比(a/(b+c))を0.2以上とすることができる。
【0057】
このように成膜された第一の絶縁膜102のシリコンの原子数(Si)に対する炭素の原子数(C)の比率(C/Si)は、第二の絶縁膜103のC/Siよりも低くなる。これは、環状シロキサンがキャリアガスに衝突して解離しやすくなるためで、それと同時にSiの価数が増える、つまり酸化が進む方向にある。したがって、第一の絶縁膜102は第二の絶縁膜103よりも硬質な膜となる。このため、下地膜101への密着性が向上する。また、第一の絶縁膜102の酸素/シリコン比(O/Si)は、第二の絶縁膜103のO/Siよりも高くなる。したがって、第一の絶縁膜102は、第二の絶縁膜103よりも膜強度が優れる。また、第一の絶縁膜102のC/O比が、第二の絶縁膜103のC/O比よりも低くなる。たとえば、第一の絶縁膜102のC/O比を3.14以上3.29以下の範囲とし、かつ、第二の絶縁膜103のC/O比を3.38以上4.17以下の範囲とすることができる。
【0058】
たとえば、図4のIにおける成膜速度は、図4のIIにおける成膜速度の0.8倍にすることができる。この場合、第一の絶縁膜102は、比誘電率が2.7、最大空孔径が1.0nmであり、XPS(X線光電子分光)測定により求められた膜組成はC/Siが2.2であり、O/Siが0.7であることが確認されている。また、第二の絶縁膜103は、比誘電率が2.55、最大空孔径が0.36nmであり、膜組成はC/Siが2.7であり、O/Siが0.8であることが確認されている。
【0059】
本実施形態の方法でも、低誘電率絶縁膜の成膜初期における成膜速度を低くすることができるため、第1の実施形態と同様な効果を得ることができる。本実施形態では、環状シロキサンガスがキャリアガスと衝突する頻度が向上するため、環状シロキサンが解離しやすくなるが、使用する環状シロキサンの絶対量が少ないため、プラズマを不安定化させる懸念は少ない。また、下地膜に対する密着性がよく、かつ、強度の高い絶縁膜を形成できるため、CMP(Chemical Mechanical Polishing)などの物理的な衝撃に対する耐性が高くなり、歩留まりが向上する。
【0060】
(第3の実施形態)
本実施形態では、第1、第2の実施形態と異なる点のみを説明し、同一の内容は適宜省略する。本実施形態では、第一の絶縁膜102を形成する工程、及び、第二の絶縁膜103を形成する工程のいずれかの工程において、図2で示すチャンバー201内に有機シロキサンとともに酸化性ガスを供給する。本実施形態では、環状シロキサンのガス及び酸化性ガスとともに、キャリアガス、及び、励起ガス用いることができる。酸化性ガスには酸素(O)、二酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO)及び二酸化窒素(NO)などを使うことができる。
【0061】
酸化性ガスの添加により成膜レートは図15に示すように向上させることが可能である。これによりスループット向上や原料使用量の低減といったメリットが発生し、同時に価格低減といった効果も期待できる。
【0062】
本実施形態の製造方法は、図14のタイムチャートで示される。図14で示すように、チャンバー201内の圧力、RF電力、酸化性ガス流量及び環状シロキサンの流量は、第一の絶縁膜102の成膜工程(I)及び第二の絶縁膜103の成膜工程(II)にわたって一定である。また、本実施形態では、キャリアガスと励起ガスとをチャンバー201内に投入する。キャリアガス及び励起ガスは、いずれも、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、ネオン(Ne)、キセノン(Xe)、窒素(N)などの不活性ガスとすることができるが、組成は同一とするほうがより好ましい。キャリアガスの流量は第一の絶縁膜102の成膜工程及び第二の絶縁膜103の成膜工程にわたって一定とするが、励起ガスは、第一の絶縁膜102が10nm以上成膜したところで流量を徐々に減少させ、第二の絶縁膜103の成膜初期において0にする。たとえば、励起ガスの流量は、キャリアガスの流量の2〜3倍程度にすることができる。
【0063】
本実施形態もまた、図1で示すように、下地膜101に、環状シロキサンをプラズマ重合させて第一の絶縁膜102を形成し、連続的に、第一の絶縁膜102上に、環状シロキサンをプラズマ重合させて第二の絶縁膜103を形成する。
具体的には、第一の絶縁膜102を形成する工程(I)において、励起ガス流量とキャリアガス流量との和(b)に対する供給される環状シロキサンのガス流量(a)の比率(a/b)を0.15以下とすると好ましく、0.1以下がより好ましい。bは、励起ガス及びキャリアガスを混合させた流量として算出する。
【0064】
また、チャンバー201内の圧力は、真空ポンプ209等によって、一定に制御した。そして、図14で示すように、励起ガス流量のみが第一の絶縁膜102の成膜工程後、徐々に下げられ、所望の膜厚の第二の絶縁膜103が形成されるまで、一定状態を維持する。励起ガス流量は、第二の絶縁膜103の成膜速度が第一の絶縁膜102の成膜速度よりも30nm/分以上増加させるよう設定することが好ましい。
【0065】
ここで、第二の絶縁膜103の成膜初期における励起ガス流量は、チャンバー201内のプラズマ安定性を考慮すれば、徐々に下げることが望ましい。しかしながら、第二の絶縁膜103の膜組成を均一にするためには、第二の絶縁膜103の成膜速度を一定にすることが好ましい。したがって、第二の絶縁膜103の膜組成を均一にするためには、励起ガスの流量減少レートをチャンバー201内のプラズマ安定性を損なわない範囲に制御することが好ましい。
【0066】
このように成膜された第一の絶縁膜102のシリコンの原子数(Si)に対する炭素の原子数(C)の比率(C/Si)は、第二の絶縁膜103のC/Siよりも低くなる。これは、環状シロキサンがキャリアガスに衝突して解離しやすくなるためで、それと同時にSiの価数が増える、つまり酸化が進む方向にある。したがって、第一の絶縁膜102は第二の絶縁膜103よりも硬質な膜となる。このため、下地膜101への密着性が向上する。また、第一の絶縁膜102の酸素/シリコン比(O/Si)は、第二の絶縁膜103のO/Siよりも高くなる。したがって、第一の絶縁膜102は、第二の絶縁膜103よりも膜強度が優れる。また、第一の絶縁膜102のC/O比が、第二の絶縁膜103のC/O比よりも低くなる。
【0067】
つづいて、本実施形態の半導体装置の製造方法の作用及び効果について説明する。この方法によれば、第一の絶縁膜102の形成時、及び、第二の絶縁膜103の形成時に酸化性ガスを導入することで、成膜速度を向上させることができる。また、励起ガス及びキャリアガスに対する酸化性ガスの流量を制御することで、密着強度を保持したまま、高速成膜を実現することができる。
【0068】
また、本実施形態の方法でも、低誘電率絶縁膜の成膜初期における成膜速度を低くすることができるため、第1の実施形態と同様な効果を得ることができる。本実施形態では、環状シロキサンガスがキャリアガスと衝突する頻度が向上するため、環状シロキサンが解離しやすくなるが、使用する環状シロキサンの絶対量が少ないため、プラズマを不安定化させる懸念は少ない。また、下地膜に対する密着性がよく、かつ、強度の高い絶縁膜を形成できるため、CMP(Chemical Mechanical Polishing)などの物理的な衝撃に対する耐性が高くなり、歩留まりが向上する。
【0069】
(第4の実施形態)
本実施形態は、第1の実施形態を利用した半導体装置の製造方法である。図5を用いて本実施形態を説明する。
【0070】
図5(a)は、この上に上層配線が形成される下層配線を示している。図示するように、下層配線は、層間絶縁膜301と、層間絶縁膜301に埋め込まれた銅(Cu)を主成分とする金属配線302と、金属配線302を覆うように層間絶縁膜301に積層されたバリア絶縁膜304とから構成される。層間絶縁膜301と金属配線302との間には、バリアメタル膜303が形成されている。下層配線部分も下記に示される上層配線と同様のプロセスを用いて形成することができる。
【0071】
次にプラズマCVD法あるいはプラズマ重合反応によって第一の絶縁膜305を形成する(図5(b))。この第一の絶縁膜305の成膜速度は、90nm/分以下とすることが好ましい。なお、第一の絶縁膜305は、第1の実施形態の第一の絶縁膜102に対応する。
【0072】
ここで、第一の絶縁膜305を形成する前にバリア絶縁膜304の表面をプラズマ処理してもよい。このプラズマ処理を行なうガスは不活性ガスを用いることが好ましく、ヘリウム(He)、アルゴン、窒素を用いることができるが、ヘリウムを用いることがより好ましい。バリア絶縁膜304は、少なくともシリコン(Si)及び炭素(C)を構成元素として含むことが好ましく、具体的には、SiCN膜やSiC膜、さらにはこれらの積層膜を用いることができる。バリア絶縁膜304中に含まれるシリコンの原子数(Si)に対する炭素の原子数(C)の比率をC/Si比としたとき、バリア絶縁膜304の組成比C/Si比は、通常0.8以上1.5以下とすることができるが、バリア絶縁膜304の表面をプラズマ処理することで、炭素が離脱するため、バリア絶縁膜304の界面におけるバリア絶縁膜のC/Si比をバリア絶縁膜304の内部のC/Si比より低くすることができる。たとえば、バリア絶縁膜304としてSiCN膜を用いた場合、このSiCN膜表面を、ヘリウムプラズマを用いて処理すると、表面近傍のC/Si比は、0.5以上1.4以下とすることができる。このようなバリア絶縁膜304に第一の絶縁膜305を形成させることで、バリア絶縁膜304と第一の絶縁膜305との界面におけるバリア絶縁膜304は、バリア絶縁膜304の内部(バルク中)よりC/Si比が小さくなる。こうしたバリア絶縁膜304の表面の炭素組成を低減する処理は、バリア絶縁膜304と第一の絶縁膜305との密着性を向上させるのに効果的である。
【0073】
図5(b)に戻り、第一の絶縁膜305の膜厚が10nm以上になったところで、第一の絶縁膜305上に連続的に第二の絶縁膜306を成膜する(図5(c))。第一の絶縁膜305から第二の絶縁膜306への成膜の切り替えには、図3のタイムチャートに示すようにRF出力を上げたり、図4や図14のタイムチャートに示すように励起ガス流量を減少したりすることで行われ、第二の絶縁膜306の成膜速度は、第一の絶縁膜305の成膜速度より速くなる。第一の絶縁膜305及び第二の絶縁膜306には不連続面は形成されないが、図5では、説明のため、境界を示している。第二の絶縁膜306は、第1の実施形態の第二の絶縁膜103に対応する。また第一の絶縁膜305と第二の絶縁膜306をあわせた積層構造も層間絶縁膜と呼ぶことができる。
【0074】
なお、第一の絶縁膜305及び第二の絶縁膜306もまた、図2で示すプラズマ発生装置を用いて成膜することができる。チャンバー201内の圧力、環状シロキサンの流量及びキャリアガスの流量は、第1の実施形態で説明した図3のタイムチャートに従って、一定とする。
【0075】
その後CMPを行う際、第二の絶縁膜306の保護膜となるハードマスク307を成膜する(図5(d))。ハードマスク307としては、例えば、シリコン酸化膜(SiO)、テトラエトキシシラン(TEOS)、又は、比較的硬質な(弾性率10GPa以上)のSiOC膜、若しくは、SiOCH膜が使われる。次にリソグラフィーと異方性エッチングによって、絶縁膜中に配線溝および配線孔を形成する(図5(e))。
【0076】
その後、バリアメタル膜308を形成する(図5(f))。バリアメタル膜とは、配線を構成する金属元素が層間絶縁膜や下層へ拡散することを防止するために、配線の側面および底面を被覆する、バリア性を有する導電性膜を示す。例えば、配線がCuを主成分とする金属元素からなる場合には、タンタル(Ta)、窒化タンタル(TaN)、窒化チタン(TiN)、炭窒化タングステン(WCN)のような高融点金属やその窒化物等、またはそれらの積層膜が使用される。
【0077】
ついで、配線溝および配線孔に金属配線材309aを埋め込む(図5(g))。金属配線材309aは、Cuを主成分とする金属材料である。金属配線材309aの信頼性を向上させるため、Cu以外の金属元素がCuからなる部材に含まれていても良い。また金属配線材309aの上面や側面は、Cu以外の金属元素で形成されていても良い。
【0078】
次に、Cu粒成長のための熱処理を施す。この熱処理の温度は200℃〜400℃、時間は30秒〜1時間に設定する。但し、第一及び第二の絶縁膜の成膜温度以下であることが望ましい。続いて、CMPなどの研磨技術を用い、配線溝および配線孔以外の余剰な金属配線材309aおよびバリアメタル膜308、ハードマスク307を除去する(図5(h))。
【0079】
さらにこの上にバリア絶縁膜310を成膜する(図5(i))。バリア絶縁膜310とは金属配線309の上面に形成され、金属配線309中のCuの酸化や絶縁膜中へのCuの拡散を防ぐ機能、および加工時にエッチングストップ層としての役割を有する。例えば、SiC膜、SiCN膜、SiN膜、CoWP、CoWB、CoSnP、CoSnB、NiB、NiMoBなどが用いられている。図5(a)〜(i)を繰り返すことでより上層の配線層及びビア層を形成できる。また、以上では配線溝と配線孔を同時に形成するデュアルダマシン法を用いて説明したが、シングルダマシン法を用いたときの配線層及びビア層の形成にも本実施例は同様に適用される。なお、本実施形態の層間絶縁膜の形成手段は、配線層又はビア層の少なくとも一方に適用していればよいし、配線層及びビア層のいずれにも適用してもよい。
【0080】
従来は、図12(b)で示すようなタイムチャートに従い、バリア絶縁層などの下地膜901に環状シロキサンをプラズマ重合して絶縁膜902を成膜していた(図12(a))。そうすると、成膜初期において、プラズマが不安定化し、異常放電が発生するということがあった。この異常放電が図13で示すように、ゲート絶縁膜を通りシリコン基板(図13中ウェハ)に電流(あるいは電子)が流れてしまうため、ゲート絶縁膜の絶縁耐性を劣化してしまうということがあった。これにより、素子の信頼性が低下してしまうため、素子信頼性を保持しつつ、環状シロキサンによる絶縁膜の低誘電率化を図ることができなかった。
【0081】
一方、本実施形態の方法では、環状シロキサンを用いた層間絶縁膜の成膜工程において、成膜初期においては成膜速度を90nm/分以下とし、下地膜が絶縁膜で覆われたところで、成膜速度を向上させる。こうすることで、プラズマ環境を安定化し、異常放電の発生を防ぐことができる。したがって、素子信頼性を保持しつつ、環状シロキサンによる絶縁膜の低誘電率化を図ることができ、素子特性を向上させることが可能になる。
【0082】
また、第一の絶縁膜305及び第二の絶縁膜306は、成膜速度を制御することにより、膜組成を変化させることができる。こうすることで、第二の絶縁膜306内に銅配線形成用の溝を形成する場合に、エッチング速度の変化を検知することで、所望の深さの溝を形成することができる。
【0083】
なお、本実施形態における第一の絶縁膜305及び第二の絶縁膜306の成膜手法として、第一の実施形態の方法に換えて第二、あるいは第三の実施形態の方法を用いてもよい。すなわち、RF電力の制御による成膜速度の制御に換えて、キャリアガスと環状シロキサンガスとの混合比を制御することで、成膜速度を制御してもよい。
【0084】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。たとえば、図2で示したプラズマ発生装置では、キャリアガス及び励起ガスは異なる配管を介してそれぞれチャンバー内に導入されるが、キャリアガスと励起ガスを混合させた後、気化器内に導入してもよい。
【実施例】
【0085】
(実施例1)
図1で示す構成を用い、図3に示すタイムチャートにしたがって、第一の絶縁膜102及び第二の絶縁膜103を成膜した。プラズマ発生装置は、図2に示すものを用いた。本実施例では、膜厚均一性の計測をより簡単に行うために下地膜101は、シリコン基板とした。環状シロキサンは、上記化学式(11)で示すトリビニルトリイソプロピルシクロトリシロキサンとし、キャリアガスは、Heガスとした。ガスチャンバー内の圧力は280Paに維持した。図3のIにおいて、90nm/分の成膜速度になるようRF電力を制御し、第一の絶縁膜102を10nm成膜した。このとき、分光エリプソメーターを用いた膜厚の均一性の面内分布測定において、第一の絶縁膜102の膜厚面内均一性は4%であった。その後10秒をかけて成膜速度を120nm/分とし、第二の絶縁膜103の成膜を開始した。つまり、図3のIにおける成膜速度は、図3のIIにおける成膜速度の0.75倍である。また、両者の差は、30nm/分である。膜厚100nmの第二の絶縁膜102を成膜したところで、膜厚の均一性の面内分布を測定したところ、膜厚面内均一性は3%であった。高周波電圧振幅Vpp及びセルフバイアスVdcの経時変化を調べたところ、図6(a)で示すように異常放電は認められなかった。
【0086】
ついで、小角X線散乱装置により、第一の絶縁膜102及び第二の絶縁膜103の空孔径を調べたところ、図7で示す結果となった。平均空孔径が0.25nmであり、半値幅は、0.4nmであり、最大空孔径が1.0nmであった。
【0087】
また、実施例1において、第一の絶縁膜102及び第二の絶縁膜103を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察し、その像の濃淡を確認した。その結果、第一の絶縁膜102が相対的に薄く第一の絶縁膜102と第二の絶縁膜103との界面から徐々に濃くなり第二の絶縁膜103が相対的に濃い像として観察される。これは、第一の絶縁膜102の電子密度が第二の絶縁膜103の電子密度よりも低いことを示す。電子密度と比誘電率には相関があることが一般的に知られているが、確認のため、シリコン基板上に第一の絶縁膜102及び第二の絶縁膜103をそれぞれ単独でシリコン基板上に成膜し、水銀プローバにて比誘電率を測定したところ、第一の絶縁膜102は、第二の絶縁膜103よりも比誘電率が低かった。第一の絶縁膜102の比誘電率が2.5であり、第二の絶縁膜103の比誘電率が2.55であった。
【0088】
また、XPS(X線光電子分光)測定により、各絶縁膜のC/Si、O/Si、C/O(原子比)を測定したところ、第一の絶縁膜102のC/Oは、第二の絶縁膜103のC/Oよりも高かった。また、第一の絶縁膜102のC/Siは、2.7であり、第二の絶縁膜103は、C/Siは2.7であった。また、第一の絶縁膜102のO/Siは、0.7であり、第二の絶縁膜103は、O/Siは0.8であった。
【0089】
(比較例1)
図12(a)で示す構成を用い、図12(b)に示すタイムチャートにしたがって、下地膜901上に絶縁膜902を成膜した。プラズマ発生装置は、図2に示すものを用いた。チャンバー内の圧力は300Paに維持した。下地膜901は、シリコン基板とした。環状シロキサンは、上記化学式(11)で示すトリビニルトリイソプロピルシクロトリシロキサンとし、キャリアガスは、Heガスとした。絶縁膜902の成膜速度は、120nm/分とした。成膜開始10秒後の膜厚の均一性の面内分布測定(装置は、実施例1に同じ)において、膜厚面内均一性は15%であり、膜厚100nmを成膜した時点における膜厚面内均一性は6.5%であった。高周波電圧振幅Vpp及びセルフバイアスVdcの経時変化を調べたところ、図6(b)で示すように、成膜開始20秒間において異常放電が認められた。
【0090】
(実施例2)
実施例1の方法において、成膜する第一の絶縁膜102の膜厚を0、3、7、8、10、15nmにそれぞれ変化させ、異常放電が起こるか否かを調べた。結果を表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
第一の絶縁膜102が10nmより薄いときは、第二の絶縁膜103の成膜初期において、異常放電が認められた。一方、第一の絶縁膜102が10nm、15nmでは、第一、第二の絶縁膜102、103の成膜工程にわたって、異常放電が認められなかった。
【0093】
(実施例3)
成膜時のプラズマダメージを計測するためMOSキャパシタ上にパッドをかねたゲート電極を作製したアンテナTEG(Test Element Group)ウェハを用いた。ゲートの面積に対するゲート電極面積比をアンテナ比と定義する。ウェハサイズは300mm、ゲート絶縁膜の膜厚は、2nmである。このTEGウェハを図1の下地膜101として、図3のタイムチャートに従って、第一、二の絶縁膜102、103を順に成膜した。環状シロキサンは、上記化学式(11)で示すトリビニルトリイソプロピルシクロトリシロキサンとし、キャリアガスは、ヘリウムガスとした。図3のIにおいて、90nm/分の成膜速度になるようRF電力を制御し、膜厚10nmの第一の絶縁膜102を成膜した。その後10秒をかけて成膜速度を120nm/分とし、膜厚190nmの第二の絶縁膜103を成膜した。
【0094】
(比較例2)
実施例3と同じアンテナTEGウェハを用い、図12(b)に示すタイムチャートにしたがって、TEGウェハを図12(a)の下地膜901として絶縁膜902を成膜した。プラズマ発生装置は、図2に示すものを用いた。環状シロキサンは、上記化学式(11)で示すトリビニルトリイソプロピルシクロトリシロキサンとし、キャリアガスは、ヘリウムガスとした。絶縁膜902の成膜速度は、120nm/分とし、膜厚200nmの絶縁膜902を成膜した。
【0095】
[絶縁耐圧試験]
アンテナTEGの絶縁耐圧試験はオートプローバを用いて行った。ゲート酸化膜に電圧を印加しながら、リーク電流をモニタし、規定の電流量を超えた時点を絶縁破壊と判定した。規定の電流量を超えた時点の電界強度が14MV/cm以上であった素子を良品とし、14MV/cm未満の素子を不良品とした。アンテナTEGウェハの全素子に対する良品の百分率を良品率とした。
【0096】
[評価1]
実施例3及び比較例2の絶縁耐圧試験の結果を図8に示す。実施例3の結果が図8(a)であり、良品率は、99%だった。一方、比較例2の結果が図8(b)であり、良品率は、0%だった。
【0097】
[評価2]
実施例3において、第一の絶縁膜102の成膜速度を変化させ、それぞれのTEGウェハについて絶縁耐圧試験を行った。結果を図9に示す。良品率が50%以上であるものをゲート絶縁膜に対するプラズマダメージが許容範囲である(プラズマダメージOK)とし、良品率が50%未満のものをゲート絶縁膜にプラズマダメージがある(プラズマダメージNG)とした。その結果、第一の絶縁膜102の成膜速度を90nm/分以下とすることで、ゲート絶縁膜に対するプラズマダメージが許容範囲となった。
【0098】
(実施例4)
実施例3と同じTEGウェハを用い、図10(b)に示すタイムチャートにしたがって、TEGウェハを図1の下地膜101として第一の絶縁膜102及び第二の絶縁膜103を成膜した。プラズマ発生装置は、図2に示すものを用いた。チャンバー内の圧力は300Paに維持し、RF電力は、300Wとした。環状シロキサンは、上記化学式(11)で示すトリビニルトリイソプロピルシクロトリシロキサンとし、励起ガス及びキャリアガスは、Heガスとした。図10中、Aは、環状シロキサンガスを示し、Bは、キャリアガスを示し、Cは、励起ガスを示す。Bの流量は、300sccmであり、Cの流量は、700sccmである。第一の絶縁膜102の成膜時間(I)を10秒とし、7秒をかけて(IIの期間)、Cの流量を0ccmにした。これにより、第一の絶縁膜102の成膜工程におけるキャリアガスの流量と励起ガスの流量(c)との和(b)に対する環状シロキサンガスの流量(a)の比(a/(b+c)))を0.1とし、第二の絶縁膜102の成膜工程におけるキャリアガスの流量(b)と励起ガスの流量(c)との和(b+c)に対する環状シロキサンガスの流量(a)の比(a/(b+c))を0.3とした。こうすることで、第一の絶縁膜102の成膜速度を第二の絶縁膜103の成膜速度よりも遅くした。
【0099】
(比較例3)
実施例3と同じTEGウェハを用い、図10(a)に示すタイムチャートにしたがって、TEGウェハを図12(a)の下地膜901として絶縁膜902を成膜した。はじめからCの流量を0sccmとした以外は、実施例3と同様にした。これにより、キャリアガスの流量(b)に対する環状シロキサンガスの流量(a)の比(a/b)を0.3とし、第一の絶縁膜102の成膜速度と第二の絶縁膜103の成膜速度とは同じとした。
【0100】
[評価3]
実施例4及び比較例3のそれぞれのTEGウェハについて絶縁耐圧試験を行った。結果を図10に示す。実施例4の結果は、図10(d)であり、良品率は、91%であり、第一の絶縁膜102及び第二の絶縁膜103全体の比誘電率は、2.7であった。比較例3の結果は、図10(c)であり、良品率は、0%であり、絶縁膜902の比誘電率は、2.55であった。
【0101】
[評価4]
実施例4の方法において、(a/(b+c))及び(a/(b+c))を一定としその比を0.05〜0.3の範囲で変化させた。各々のTEGウェハについて絶縁耐圧試験を行った。結果を図11に示す。図11の横軸は、励起ガス(B)の流量とキャリアガス(C)の流量との和に対する環状シロキサンガス(A)の流量の比率を示す。(a/(b+c))及び(a/(b+c))を0.10よりも大きくすると、第一の絶縁膜102の成膜速度と第二の絶縁膜103の成膜速度とが同じとなり、良品率が0%となった。
【0102】
実施例3、4で成膜した、第一の絶縁膜102及び第二の絶縁膜103をTEM(Transmission Electron Microscope)で観察する。実施例3では、第一の絶縁膜102の像が相対的に薄く、第一の絶縁膜102と第二の絶縁膜103との界面から徐々に濃くなり、第二の絶縁膜103の上部の像は、第一の絶縁膜102の像よりも濃くなる。そのため、第一の絶縁膜102は、第二の絶縁膜103よりも比誘電率が低いことが予測される。また、実施例4では、第一の絶縁膜102の像が相対的に濃く、第一の絶縁膜102と第二の絶縁膜103との界面から徐々に薄くなり、第二の絶縁膜103の上部の像は、第一の絶縁膜102の像よりも濃くなる。そのため、第一の絶縁膜102は、第二の絶縁膜103よりも比誘電率が高いことが予測される。
【0103】
なお、アンテナTEGウェハを用いた試験は加速試験であるため、通常のデバイスの絶縁耐圧試験の良品率の結果は、TEGウェハを用いた絶縁耐圧試験の良品率の結果よりも高くなると考えられる。
【0104】
(実施例5)
図1で示す構成を用い、図14に示すタイムチャートにしたがって、第一の絶縁膜102及び第二の絶縁膜103を成膜した。プラズマ発生装置は、図2に示すものを用いた。本実施例では、膜厚均一性の計測をより簡単に行うために下地膜101は、シリコン基板とした。環状シロキサンは、上記化学式(11)で示すトリビニルトリイソプロピルシクロトリシロキサンとし、キャリアガス及び励起ガスは、ヘリウムガスとした。酸化性ガスにはNOガスを用い、ガスチャンバー内の圧力は250Paに維持した。第一の絶縁膜102の成膜時はキャリアガス300sccm、励起ガスは700sccm、NOガスは80sccmとした。また第二の絶縁膜103の成膜時はキャリアガス300sccm、励起ガスは200sccm、NOガスは80sccmとした。
第一の絶縁膜102を10nm成膜し、分光エリプソメーターを用い膜厚の面内分布測定を行なったところ、第一の絶縁膜102の膜厚面内均一性は5%であった。その後励起ガスの流量を低下させながら、第二の絶縁膜103の成膜を開始した。励起ガスの流量は第一の絶縁膜102の成膜時より少なければ良く、0まで減少させても良い。図14のIにおける成膜速度は、図14のIIにおける成膜速度の0.9倍である。第一の絶縁膜102は比誘電率が2.6、最大空孔径が1.5nmであり、XPS(X線光電子分光)測定により求められた膜組はC/Si(原子比)が2.3であり、O/Si(原子比)が0.7であった。一方、第二の絶縁膜は、比誘電率が2.55、最大空孔径が0.83nmであり、膜組成はC/Siが2.5であり、O/Siが0.6であった。空孔の分布を図23に示す。膜厚100nmの第二の絶縁膜102を成膜したところで、膜厚の均一性の面内分布を測定したところ、膜厚面内均一性は4%であった。高周波電圧振幅Vpp及びセルフバイアスVdcの経時変化を調べたところ、図16で示すように異常放電は認められなかった。またアンテナTEGウェハの良品率は90%であり、酸化性ガス添加のプロセスにおいても酸化性ガス添加無しのプロセスと同等の良品率が得られた。またアンテナTEGウェハ上に第一の絶縁膜102を形成する前に、第4の実施形態に示すように、ヘリウムプラズマ処理を行ないその影響を評価したところ、良品率は変わらず90%であった。
次に、下地膜101との密着性評価を行なった。図17に示すような積層構造(400:シリコン基板、401:SiCN膜(バリア絶縁膜)、402:第一の絶縁膜、403:第二の絶縁膜、404:酸化膜)を作製し、m−ELT (modified Edge Liftoff Test)試験により密着強度を測定した。第一の絶縁膜402の成膜前には、SiCN膜401表面をヘリウムプラズマによって処理を行なった。図17の構造上にエポキシ樹脂を20〜200ミクロン塗布し、これを約1cm四方に切断する。このサンプルを液体窒素で冷却し剥離する温度を測定する。冷却が始まると図17の構造と、その上に塗布したエポキシの熱収縮量の違い起因する熱応力によって最も密着性が弱い部分で剥離が発生する。このとき塗布したエポキシ樹脂の厚さと、熱収縮に関する係数、および剥離開始温度によって密着強度を得ることができる。
【0105】
(実施例6)
図1で示す構成を用い、図4に示すタイムチャートにしたがって、第一の絶縁膜102及び第二の絶縁膜103を成膜した。プラズマ発生装置は、図2に示すものを用いた。
このように成膜された第一の絶縁膜102のシリコンの原子数(Si)に対する炭素の原子数(C)の比率(C/Si)は、第二の絶縁膜103のC/Siよりも低くなる。これは、環状シロキサンがキャリアガスに衝突して解離しやすくなるためで、それと同時にSiの価数が増える、つまり酸化が進む方向にある。したがって、第一の絶縁膜102は第二の絶縁膜103よりも硬質な膜となる。このため、下地膜101への密着性が向上する。また、第一の絶縁膜102の酸素/シリコン比(O/Si)は、第二の絶縁膜103のO/Siよりも高くなる。したがって、第一の絶縁膜102は、第二の絶縁膜103よりも膜強度が優れる。また、第一の絶縁膜102のC/O比が、第二の絶縁膜103のC/O比よりも低くなる。第一の絶縁膜102の成膜時、キャリアガス300sccm、励起ガスは700sccm、有機シロキサンガス流量は30〜150sccmとした。また第二の絶縁膜103の成膜時はキャリアガス300sccm、励起ガスは0sccm、有機シロキサンガス流量は60〜130sccmとしXPSを使い膜の組成分析を行なった。その結果、第一の絶縁膜102のC/O比は、3.14以上3.29以下であり、かつ、第二の絶縁膜103のC/O比は、3.38以上4.17以下であった。
【0106】
(実施例7)
図1で示す構成を用い、図14に示すタイムチャートにしたがって、第一の絶縁膜102及び第二の絶縁膜103を成膜した。プラズマ発生装置は、図2に示すものを用いた。本実施例では酸化性ガスに酸素(O)、二酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO)及び二酸化窒素(NO)のいずれかを使用し、成膜速度と膜強度に対する関係を調べた。図21および図22はこれら酸化性ガスを使用して得られた全ての結果を示しており、キャリアガスの流量(b)と励起ガスの流量(c)の和(b+c)に対する酸化性ガスの流量(d)の比率(d/(b+c))と成膜速度および膜強度の関係を示す。
第一の絶縁膜102の成膜時は成膜速度の観点から、d/(b+c)は、0.01以上とするのが好ましく、0.06以上とするとより好ましい。また、膜強度の観点からd/(b+c)は、0.3以下とすると好ましく、0.2以下とするのがより好ましい。
つまり図14に示すタイムチャートのIの部分で第一の絶縁膜102を成膜するとき、チャンバー201内に導入されるキャリアガスの流量(b)と励起ガスの流量(c)との和(b+c)に対する酸化性ガスの流量(d)の比率(d/(b+c))は、0.01以上0.3以下にすることが好ましく、0.06以上0.2以下にするとより好ましい。
また、第二の絶縁膜103の成膜工程(II)において、キャリアガスの流量(b)と励起ガスの流量(c)との和(b+c)に対する環状シロキサンのガス流量(a)の混合比(a/(b+c))は、0.2以上とするとよい。例えば、第二の絶縁膜103の成膜工程の開始後所定の期間、徐々に励起ガスの流量を減少させて励起ガスの流量を0とする。こうすることで、励起ガスの流量とキャリアガスの流量との和(b+c)に対する供給される環状シロキサンのガス流量(a)の混合比(a/(b+c))を0.2以上とすることができる。
また、図14に示すタイムチャートのIIの部分により第二の絶縁膜103を成膜するとき、チャンバー201内に導入されるキャリアガス流量(b)と励起ガス流量(c)との和(b+c)に対する酸化性ガスの流量(d)の比率(d/(b+c))は0.1以上0.4以下にするとよい。第二の絶縁膜103は第一の絶縁膜102と比較し膜厚が厚いため、成膜時間の短縮にはこの部分の成膜レートを高くすることが望ましく、少なくとも第二の絶縁膜103は第一の絶縁膜102の2倍以上の成膜速度が必要と見積もられる。
図21からキャリアガスの流量(b)と励起ガスの流量(c)の和(b+c)に対する酸化性ガスの流量(d)の比率(d/(b+c))は、0.1以上とするのが好ましい。また、キャリアガスを少なくすると原料気化が不安定となる場合があるため、キャリアガスの流量(b)と励起ガスの流量(c)の和(b+c)の比率(d/(b+c))は、0.4以下とすることができる。こうすることで、良好な気化特性を得ることができる。
【0107】
(実施例8)
図1で示す構成を用い、図3に示すタイムチャートにしたがって、第一の絶縁膜102及び第二の絶縁膜103を成膜した。プラズマ発生装置は、図2に示すものを用いた。
また、第一の絶縁膜102の酸素の原子数(O)に対する炭素の原子数(C)の比率(C/O)が第二の絶縁膜103よりも高くなっている。第一の絶縁膜102の成膜時、キャリアガス300sccm、圧力は200Pa、有機シロキサンガス流量は90sccm、RF出力を175Wとした。また第二の絶縁膜103の成膜時はキャリアガス300sccm、圧力は200Pa、有機シロキサンガス流量は90sccm、RF出力を275Wとした。としXPSを使い膜の組成分析を行なった。その結果第一の絶縁膜102のC/O比を3.86であり、第二の絶縁膜103のC/O比を3.38であった。
【0108】
(比較例4)
図18に示すタイムチャートしたがって図19に示すような積層構造を作製し、同様にm−ELT試験により密着強度を測定した。図19の積層構造では、第一の絶縁膜402が形成されていない点のみが図17の積層構造と異なっている。図18のタイムチャートは、図14に示すIIの領域の励起ガスが減少し、その後安定した部分と同一である。
【0109】
比較例4と同時に図4のタイムチャートを使い成膜を行なった実施例4および実施例5の膜の密着性も試験した。この結果を図20に示す。比較例4のように条件を変更せず成膜を行なった場合より、実施例4、5に示すタイムチャートで成膜を行なうほうが、高い密着強度となることが判明した。またヘリウムプラズマ処理を行なった実施例5は、実施例4と比較し、わずかに高い密着強度を示した。
【符号の説明】
【0110】
10 シリコン基板
101 下地膜
102 第一の絶縁膜
103 第二の絶縁膜
201 チャンバー
203 ステージ
204 シャワーヘッド
206 接地線
207 排気配管
208 冷却トラップ
209 真空ポンプ
211 給電線
212 マッチングコントローラ
213 高周波電源
215 配管
216 気化器
218 ガス流量コントローラ
220 バルブ
221 バルブ
222 排気バルブ
223 液体流量コントローラ
224 バルブ
225 バルブ
226 原料リザーバタンク
227 バルブ
228 添加ガス流量コントローラ
301 層間絶縁膜
302 金属配線
303 バリアメタル膜
304 バリア絶縁膜
305 第一の絶縁膜
306 第二の絶縁膜
307 ハードマスク
308 バリアメタル膜
309a 金属配線材
309 金属配線
310 バリア絶縁膜
400 シリコン基板
401 SiCN膜
402 第一の絶縁膜
403 第二の絶縁膜
404 酸化膜
901 下地膜
902 絶縁膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下地膜に、Si−O環状構造を有する有機シロキサンをプラズマ重合させて第一の絶縁膜を形成する工程と、
前記第一の絶縁膜を形成する前記工程の後、連続的に、前記第一の絶縁膜上に、前記有機シロキサンをプラズマ重合させて第二の絶縁膜を形成する工程と、
を含み、
前記第一の絶縁膜の成膜速度が前記第二の絶縁膜の成膜速度よりも遅い、半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記有機シロキサンは、下記化学式(1)に示す有機シロキサンである、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【化1】

化学式(1)中、nは、2〜5、R1、R2は、ビニル基、アリル基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基及びブチル基のいずれかであり、R1及びR2は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【請求項3】
前記有機シロキサンは、炭素数2〜4の直鎖状不飽和炭化水素基又は炭素数3〜4の分枝鎖状飽和炭化水素基を有し、前記直鎖状不飽和炭化水素基又は前記分枝鎖状飽和炭化水素基が前記Si−O環状構造を構成するSi原子に結合している、請求項1又は2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記有機シロキサンは、下記化学式(2)〜(9)のいずれかに示す環状有機シロキサンである、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

化学式(2)〜(9)中、R1〜R7は、ビニル基、アリル基、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基及びブチル基のいずれかであり、R1〜R7は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【請求項5】
前記有機シロキサンは、下記化学式(10)及び(11)いずれかに示す環状有機シロキサンである、請求項1に記載の半導体装置の製造方法。
【化10】

【化11】

【請求項6】
前記第一の絶縁膜を形成する前記工程、及び、前記第二の絶縁膜を形成する前記工程のいずれかの工程において、前記有機シロキサンをプラズマ化するプラズマ発生装置内に前記有機シロキサンとともに酸化性ガスを供給する、請求項1乃至5いずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項7】
前記酸化性ガスが酸素(O)、二酸化炭素(CO)、一酸化窒素(NO)及び二酸化窒素(NO)のいずれか1種類以上含む、請求項6に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項8】
前記第二の絶縁膜の形成を開始する時点における前記第一の絶縁膜の膜厚面内均一性が4%以下である、請求項1乃至7いずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項9】
前記第一の絶縁膜の成膜速度を前記第二の絶縁膜の成膜速度の0.75倍以下とする、請求項1乃至8いずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項10】
前記第一の絶縁膜を形成する工程において、膜厚10nm以上の前記第一の絶縁膜を形成する、請求項1乃至9いずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項11】
前記第一の絶縁膜を形成する工程において、前記第一の絶縁膜の成膜速度を90nm/分以下にする、請求項1乃至10いずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項12】
前記第一、第二の絶縁膜を形成する前記工程において、前記有機シロキサンをプラズマ化するプラズマ発生装置内に前記有機シロキサンを供給しながら高周波電力を印加することで前記第一、第二の絶縁膜をそれぞれ形成し、
前記第一の絶縁膜を形成する前記工程において前記プラズマ発生装置内に印加される前記高周波電力は、前記第二の絶縁膜を形成する前記工程において前記プラズマ発生装置内に印加される前記高周波電力よりも小さい、請求項1乃至11いずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項13】
前記第一、第二の絶縁膜を形成する工程において、前記有機シロキサンをプラズマ化するプラズマ発生装置内に前記有機シロキサンとともに励起ガスとキャリアガスとを供給することで前記第一、第二の絶縁膜をそれぞれ形成し、
前記第二の絶縁膜を形成する前記工程における前記キャリアガスの流量(b)と前記励起ガスの流量(c)との和(b+c)に対する前記有機シロキサンのガス流量(a)の比率(a/(b+c))が、前記第一の絶縁膜を形成する前記工程における前記キャリアガスの流量(b)と前記励起ガスの流量(c)との和(b+c)に対する前記有機シロキサンのガス流量(a)の比率(a/(b+c))よりも大きい、請求項1乃至12いずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項14】
前記第一の絶縁膜を形成する前記工程において、少なくとも前記キャリアガスの流量と前記励起ガスの流量との和に対する前記有機シロキサンのガス流量の比率(a/(b+c))が0.15以下である、請求項13に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項15】
前記第二の絶縁膜を形成する前記工程において、少なくとも前記キャリアガスの流量と前記励起ガスの流量との和に対する前記有機シロキサンのガス流量の前記比率(a/(b+c))が0.2以上である、請求項14に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項16】
前記第一、第二の絶縁膜を形成する工程において、前記有機シロキサンをプラズマ化する前記プラズマ発生装置内に前記有機シロキサンとともに励起ガスとキャリアガスと酸化性ガスとを供給することで前記第一、第二の絶縁膜をそれぞれ形成し、
前記第一の絶縁膜を成膜する前記工程における前記励起ガスの流量と前記キャリアガスの流量との和(b+c)に対する前記酸化性ガスの流量(d)の比率(d/(b+c))が0.06以上0.2以下である、請求項13に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項17】
前記第一、二の絶縁膜を形成する前記工程において、前記有機シロキサンをプラズマ化するプラズマ発生装置内に前記有機シロキサンとともに励起ガスとキャリアガスと酸化性ガスとを供給することで前記第一、第二の絶縁膜をそれぞれ形成し、
前記第二の絶縁膜を成膜する前記工程における前記キャリアガスの流量と前記励起ガスの流量との和(b+c)に対する前記酸化性ガスの流量(d)の比率(d/(b+c))が0.1以上0.4以下である、請求項13に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項18】
前記第二の絶縁膜を形成する前記工程において、第二の絶縁膜の成膜開始から前記励起ガスの流量を減少させる請求項13乃至17いずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項19】
前記第一の絶縁膜を形成する前記工程における前記有機シロキサンをプラズマ化する前記プラズマ発生装置内の圧力と、前記第二の絶縁膜を形成する前記工程における前記プラズマ発生装置内の圧力とが同じである、請求項13乃至18いずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項20】
前記第一の絶縁膜を形成する前記工程を実行する前に、不活性ガスを含むプラズマで前記下地膜の表面を処理する、請求項1乃至19いずれか1項に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項21】
前記不活性ガスが、ヘリウム、アルゴン、窒素のいずれかである、請求項20に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項22】
金属配線と、
請求項1乃至21いずれか1項に記載の方法により形成された第一の絶縁膜と第二の絶縁膜からなる積層構造の層間絶縁膜と、
を備え、前記層間絶縁膜が前記金属配線間に形成されている、半導体装置。
【請求項23】
下地膜と、
前記下地膜上に形成された第一の絶縁膜と、
前記第一の絶縁膜上に連続的に形成された第二の絶縁膜と、
を備え、
前記第一、第二の絶縁膜の少なくとも一方が環状シロキサンを有し、
前記第一、第二の絶縁膜がいずれもシリコン、酸素、炭素及び水素を構成元素とし、前記第一、第二の絶縁膜中に含まれる酸素の原子数(O)に対する炭素の原子数(C)の比率をC/O比としたとき、前記第一の絶縁膜及び前記第二の絶縁膜のC/O比が互いに異なる、半導体装置。
【請求項24】
前記第一の絶縁膜の膜厚が10nm以上である、請求項23に記載の半導体装置。
【請求項25】
前記第一の絶縁膜、及び、前記第二の絶縁膜の比誘電率が互いに異なり、前記比誘電率は、いずれも2.7以下である、請求項23又は24に記載の半導体装置。
【請求項26】
前記第一、第二の絶縁膜に形成される空孔の最大径が1.5nm以下である、請求項23乃至25いずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項27】
前記第一の絶縁膜のC/O比が、前記第二の絶縁膜のC/O比よりも低い、請求項23乃至26いずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項28】
前記第一の絶縁膜のC/O比が3.14以上3.29以下の範囲であり、かつ、前記第二の絶縁膜のC/O比が3.38以上4.17以下の範囲である、請求項27に記載の半導体装置。
【請求項29】
前記第一の絶縁膜のC/O比が、前記第二の絶縁膜のC/O比よりも高い、請求項23乃至26いずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項30】
前記第一の絶縁膜のC/O比が3.86であり、前記第二の絶縁膜のC/O比が3.38である、請求項29に記載の半導体装置。
【請求項31】
前記下地膜が少なくともシリコン及び炭素を構成元素とし、
前記下地膜中に含まれるシリコンの原子数(Si)に対する炭素の原子数(C)の比率をC/Si比としたとき、前記下地膜と前記第一の絶縁膜との界面における前記下地膜のC/Si比が、下地膜の内部のC/Si比より低い、半導体装置。
【請求項32】
前記下地膜と前記第一の絶縁膜との界面における前記下地膜のC/Si比が0.5以上1.4以下である、請求項31に記載の半導体装置。
【請求項33】
前記第一の絶縁膜上に前記第二の絶縁膜を積層した積層構造を層間絶縁膜として備えた多層配線構造を有する、請求項22乃至32いずれか1項に記載の半導体装置。
【請求項34】
配線層とビア層とを備え、前記配線層及び前記ビア層の少なくとも一方に、前記第一の絶縁膜上に前記第二の絶縁膜を積層した積層構造を有する、請求項22乃至32いずれか1項に記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2011−166106(P2011−166106A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−129633(P2010−129633)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(302062931)ルネサスエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】