説明

半導体装置の製造方法

【課題】表面に凹凸部や可動部を有する半導体装置を、この凹凸部や可動部に固着、損傷を生じることなく製造する方法の提供。
【解決手段】半導体装置の凹凸部や可動部を液体処理し、この液体を純水で置換した後、純水を溶剤で置換し、この溶剤中に昇華性物質を含ませ、溶剤を蒸発して半導体装置の表面に昇華性物質を析出せしめ、この昇華性物質を昇華により除去することからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に凹凸部、或いは可動部を有する半導体装置の製造方法に係わり、特に表面の凹凸部、或いは稼働部に固着、損傷を生じることなく半導体装置を乾燥することができる、安価で信頼性の高い半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面に凹凸部や可動部を有する半導体装置においては、その製造工程において使用する純水などの液体の表面張力によって、乾燥時にスティッキングと呼ばれる可動部と固定部との、ないしは可動部と可動部との固着現象が発生し、半導体装置の歩留まりの低下原因となっている。
【0003】
この固着現象は、例えば、図1のステンシルマスクにおいて固着が発生した場合の断面模式図、図2(a)の表面側から見た外観写真及び図2(b)のこの外観写真で観察される固着状部分の模式的拡大図に示すような状態で発生する。図1に示すように、このステンシルマスクは、基板の表面側の単結晶Si(100)層101、中間層としての埋込シリコン酸化膜層102及び基板の裏面側の単結晶Si(100)層103からなり、表面側の単結晶Si(100)層101にはドライエッチングして形成された溝部122が設けられ、裏面側の単結晶Si(100)層103にはエッチングされて形成された開口部142が設けられている。図1に示すように、ステンシルマスクにおいて、粒子ビームの形状を整形するための梁部161が隣接する梁部161と固着している。また、図2(a)から明らかなように、3本ある梁部のうち写真の上から2本目と3本目の梁部が写真の右側で固着している様子が確認できる。この固着の状態を拡大して模式的に示すと、図2(b)に示すように、2本目の梁部161と3本目の梁部161とが固着している。
【0004】
上記のような固着現象の対策ではないが、基板の表面に付着する異物量の低減を目的として、表面に凹凸部又は可動部を有する半導体装置に昇華性物質の溶液をスピンコートし、一時的に保護膜を形成することが知られている(例えば、特許文献1参照)。この場合、製造プロセスにおいて半導体装置に昇華性物質の溶液をスピンコートすると、半導体装置の回転を開始すると共に半導体装置の表面の凹凸部又は可動部に付着している水分が回転による遠心力によって振り切られ、この時点で乾燥してしまう。従って、固着が発生する可能性のある部分に昇華性物質からなる保護膜を塗布・形成する前に半導体装置が乾燥してしまうため、この時点で半導体装置の凹凸部や可動部に固着(スティッキング)が発生する可能性がある。また、スピンコートする場合の回転速度によっては、発生する遠心力によって半導体装置表面の凹凸部や可動部が破損する可能性もある。
【0005】
また、表面に凹凸部、若しくは可動部を有する半導体装置に水又は有機溶媒を塗布し、塗布した液滴を凍結した後、減圧下で凍結した物質を昇華することによるフリーズドライ法により、半導体装置表面の凹凸部や可動部を固着することなく乾燥することが知られている(例えば、非特許文献1参照)。この場合、有機溶媒を凍結した後は、有機溶媒が溶解しないで、かつ昇華することができる条件を維持する必要があるため、温度と圧力を制御するための高価な装置が必要であり、製造コスト上昇の原因となる。
【0006】
さらに、表面に凹凸部や可動部を有する半導体装置を昇華性物質の溶融液に浸漬し、一時的に昇華性物質からなる保護膜を形成し、その後、昇華することにより保護膜を除去し、乾燥することが知られている(例えば、特許文献2参照)。この場合、表面に凹凸部や可動部を有する半導体装置を昇華性物質の溶融液に浸漬する際、短時間ではあるが、大気中で洗浄液槽から昇華性物質の溶融液槽に基板を移動する必要があり、この移動の間に基板が乾燥し、半導体装置の凹凸部や可動部に固着が発生する可能性がある。また、基板の一端が昇華性物質の高温の溶融液に接触すると基板の温度が上昇するため、この時点で昇華性物質に接触していない部分の乾燥が進む。従って、この溶融液に接触していない部分における半導体装置の凹凸部や可動部に固着が発生する可能性がある。
【特許文献1】特開昭63−41855号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献1】ELECTROSTATIC PARALLELOGRAM ACTUATORS Transducers '91 (1991 International Conference on Solid-State Sensors and Actuators Digest of Technical Papers) pp. 63-66
【特許文献2】特開平9−190996号公報(特許請求の範囲、段落0023及び段落0024)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、上述の従来技術の問題点を解決することにあり、表面に凹凸部、或いは可動部を有する半導体装置の製造方法、特に表面の凹凸部又は可動部に固着、損傷を生じることなく半導体装置を乾燥することができる、安価で信頼性の高い半導体装置の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の半導体装置の製造方法は、表面に凹凸部、或いは可動部を有する半導体装置の製造方法において、
【0009】
(1)前記の凹凸部或いは可動部を液体で処理した後、この液体を純水で置換する工程、
【0010】
(2)純水を溶剤によって置換する工程、
【0011】
(3)昇華性物質を前記置換溶剤に混合・溶解する工程、又は昇華性物質を溶解した前記置換溶剤と同じ種類の溶剤若しくは昇華性物質を溶解した前記置換溶剤と混和しうる溶剤を前記置換溶剤に混合する工程、
【0012】
(4)前記置換溶剤、前記置換溶剤と混和しうる溶剤を蒸発することによって前記半導体装置の表面に前記昇華性物質を析出せしめる工程、及び
【0013】
(5)昇華により前記昇華性物質を除去する工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【0014】
上記工程(1)〜(5)を含むことにより、乾燥工程において半導体装置の表面の凹凸部や可動部が液体の表面張力によって固着することを防止することができる。また、昇華性物質の溶液をスピンコートすることもないので、半導体装置を回転する必要もないため、遠心力によって半導体装置の表面の凹凸部や可動部が破損することもなく、かつ回転中に乾燥する恐れもない。さらに、半導体装置を液体で処理した後、大気中に取り出すことなく半導体装置の表面の凹凸部や可動部に昇華性物質を析出せしめるため、大気中で半導体装置の表面の凹凸部や可動部が乾燥して、固着が発生するということもない。
【0015】
前記昇華性物質として、ナフタレン、p−ジクロロベンゼン、テトラクロロジフルオロエタン及び樟脳から選ばれた少なくとも一種を用いることが好ましい。このような昇華性物質を用いることにより、常温、大気圧中で昇華することが可能になる。
【0016】
前記置換溶剤及びこの置換溶剤と混和し得る溶剤として、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、ブタノール、アセトン、ベンゼン、二硫化炭素、四塩化炭素、クロロホルム、ヘキサン、デカリン、テトラリン、酢酸、シクロヘキサノール、トルエン及びエーテルから選ばれた少なくとも一種を用いることが好ましい。このような溶剤を用いることにより、純水を溶剤で置換することが容易になると共に、溶剤中に前記昇華性物質を混合・溶解することが容易になる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の半導体装置の製造方法によれば、水分(純水)を溶剤で置換した後、半導体装置を形成した基板を、大気中に暴露することなく、昇華性物質が溶解されている溶剤中に浸漬することができる。従って、基板を乾燥することなく、表面に凹凸部や可動部を有する半導体装置の表面を昇華性物質で保護することができるため、乾燥時に発生する液体の表面張力による半導体装置の表面の凹凸部や可動部の固着(スティッキング)を防止できるという効果を奏する。また、昇華性物質の溶液をスピンコートしないため、半導体装置を回転することがないので、遠心力によって半導体装置の表面の凹凸部や可動部が破損することもないという効果を奏する。
【0018】
請求項2記載の半導体装置の製造方法によれば、前記昇華性物質として、ナフタレン、p−ジクロロベンゼン、テトラクロロジフルオロエタン及び樟脳といった、常温、大気圧下で固体であり、かつ昇華性を有する物質から選ばれた少なくとも一種を用いることによって、この昇華性物質を半導体装置の表面の凹凸部や可動部に析出した際に、常温、大気圧下で昇華することが可能になるという効果を奏する。
【0019】
請求項3記載の半導体装置の製造方法によれば、前記溶剤として、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、ブタノール、アセトン、ベンゼン、二硫化炭素、四塩化炭素、クロロホルム、ヘキサン、デカリン、テトラリン、酢酸、シクロヘキサノール、トルエン及びエーテルから選ばれた少なくとも一種を用いることによって、純水を溶剤で置換することが容易になると共に、溶剤中に前記昇華性物質を混合・溶解することが可能になるという効果を奏する。また、これらの溶剤は昇華性物質より低い温度で蒸発するため、半導体装置の表面の凹凸部や可動部に昇華性物質を析出せしめることが可能になるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
一般に、表面に凹凸部や可動部を有する半導体装置を製造する場合には、その凹凸部や可動部を形成する際に、エッチング処理やその後の洗浄処理が行われるが、これらのエッチング液や洗浄液(例えば、純水などや、洗剤、レジストの剥離剤(KOH、TMAH(TetraMethyl Ammonium Hydroxide、(CH)NOH))などのアルカリ性液体や有機系薬剤))などからなる液体を除去して乾燥することが必要になる。そのために、本発明では、凹凸部や可動部が前記液体で処理された後、この液体を除去して乾燥するために、この液体を純水で置換する工程、純水を溶剤で置換する工程、常温、常圧下では固体である昇華性物質を前記置換溶剤に混合・溶解する工程、又は常温、常圧下では固体である昇華性物質を溶解した溶剤(前記した溶剤の範囲に入れば良い)、若しくは昇華性物質を溶解した、前記置換溶剤と混合することができる溶剤(前記した溶剤の範囲に入れば良い)を前記置換溶剤に混合する工程、これらの溶剤を蒸発することによって半導体装置の表面に昇華性物質を析出する工程、及び昇華により昇華性物質を除去する工程とを含む半導体装置の製造方法を提供することによって、目的を達成している。すなわち、乾燥工程において半導体装置の表面の凹凸部や可動部が液体の表面張力によって固着することを防止すると共に、半導体装置の表面の凹凸部や可動部を破損せしめることもなく、さらには、大気中で半導体装置の表面の凹凸部や可動部が乾燥して、固着が発生するということもない。
【0021】
本発明の半導体装置の製造方法において使用される基板は、通常半導体装置で用いる基板は全て使用でき、例えば、表面側の単結晶Si(100)層と、中間層としての埋め込みシリコン酸化膜層と、裏面側の単結晶Si(100)層との3層で構成されているSOI(Silicon On Insulator)基板、単結晶Si基板、単結晶Ge基板、単結晶GaAs基板、単結晶InSb基板等を挙げることができる。
【0022】
本発明の半導体装置製造方法の一実施の形態によれば、表面側Si層と、中間層としてのリコン酸化膜層と、裏面側Si層との3層で構成されている基板の表面側及び裏面側のSi層の両面に、それぞれ、シリコン酸化膜を形成し、基板の表面側のシリコン酸化膜上に金属膜を形成し、次いで、フォトリソグラフィー技術を用いて、この金属膜に開口パターンを形成し、この開口パターンをマスクとして、基板の表面側のSi層をエッチングして溝部を形成し、前記金属膜をエッチング除去し、基板の両面と前記溝部の側壁部とにシリコン酸化膜を形成した後、両面露光技術を用いて基板の裏面側のシリコン酸化膜に開口パターンを形成して裏面側のSi層を露出せしめ、次いでアルカリ性エッチング液を用いて、前記露出した基板の裏面側のSi層を結晶異方性エッチングして開口部を形成し、基板の表裏面にそれぞれ形成されているシリコン酸化膜及び前記溝部の側壁に形成されているシリコン酸化膜をエッチング除去し、その後純水で洗浄し、基板が浸漬されている純水を溶媒に置換し、この溶媒置換後、昇華性物質を前記置換溶剤に混合・溶解するか、又は昇華性物質を溶解した前記置換溶剤と同じ種類の溶剤若しくは昇華性物質を溶解した前記置換溶剤と混和しうる溶剤を前記置換溶剤に混合し、前記置換溶剤、前記置換溶剤と混和しうる溶剤を蒸発せしめることによって半導体装置の表面に昇華性物質を析出せしめ、昇華により昇華性物質を除去することにより半導体装置を製造することができ、これにより所期の目的を達成できる。この場合の昇華性物質及び溶剤は、前記した通りである。
【0023】
本発明の半導体装置製造方法の別の実施の形態によれば、基板上に第1シリコン酸化膜、シリコン窒化膜と犠牲層となる第2シリコン酸化膜を順次形成し、フォトリソグラフィー技術を用いて、第2シリコン酸化膜に開口パターンを形成し、この開口パターンを形成した基板上に多結晶シリコン膜を形成し、次いで、フォトリソグラフィー技術を用いて、前記多結晶シリコン膜に可動部、梁部、アンカー部、開口部及び電極部を形成し、その後純水で洗浄し、基板が浸漬されている純水を溶媒に置換し、この溶媒置換後、昇華性物質を前記置換溶剤に混合・溶解するか、又は昇華性物質を溶解した前記置換溶剤と同じ種類の溶剤若しくは昇華性物質を溶解した前記置換溶剤と混和しうる溶剤を前記置換溶剤に混合し、前記置換溶剤、前記置換溶剤と混和しうる溶剤を蒸発せしめることによって半導体装置の表面に昇華性物質を析出せしめ、昇華により昇華性物質を除去することにより半導体装置を製造することができ、これにより所期の目的を達成できる。この場合の昇華性物質及び溶剤は、前記した通りである。
【0024】
また、本発明の半導体装置製造方法を適用することによって、マイクロメカニカルスイッチ、振動ジャイロ、半導体圧力検出素子、MEMS共振器等の洗浄工程後の乾燥工程で純水、IPAなどの液体が乾燥する際にこれらの半導体装置を構成する薄膜構造体などが基板との間で構成する狭いギャップ部で、純水などの液体の表面張力に起因する力によって薄膜構造体と基板が付着するのを防止することができる。
【0025】
例えば、基板と、この基板上に所定ギャップをもって浮いた状態で機械的に変位可能に形成されたビームによって構成されるマイクロメカニカルスイッチの場合、基板とビーム(梁)が乾燥時の液体の表面張力に起因する力によって付着するのを防止することができるため、基板とビームの間隔をより狭めることが可能になるため、基板上に形成された駆動電極に印加するビーム駆動電圧を低減することも可能になる。
【0026】
また、振動ジャイロの場合、基板から所定の狭いギャップで浮いた状態で機械的に変位可能に形成された多結晶シリコン薄膜振動子が、ギャップを形成するための犠牲層エッチング後の乾燥時に基板と多結晶シリコン薄膜振動子の間に存在する液体の表面張力で基板に固着するのを防止することが可能になる。この固着現象は液体の表面張力と共に薄膜構造体の機械的な強度に依存するため、薄膜構造体の面積が大きいほど剛性が低くなり、固着が発生しやすくなるため、従来は多結晶シリコン薄膜振動子の面積を大きくすることにより振動子の質量を大きくして振動ジャイロの角速度検出感度を向上することが難しかったが、本発明を用いることによって基板と多結晶シリコン薄膜振動子の乾燥時の固着を防止することが可能になったことにより、より大きな振動子を利用することも可能になり、したがって、振動ジャイロの角速度検出感度を向上することも可能になった。
【0027】
また、振動型の半導体圧力検出素子の場合も、基板と振動子が犠牲層エッチング後の乾燥時に液体の表面張力によって固着するのを防止することが可能になるため、製造歩留まりを向上することが可能になる。
【0028】
さらに、MEMS共振器の場合も、犠牲層エッチングやそれに伴う乾燥工程で発生する固着を防止することが可能になるため、機械的な剛性の低い大きな振動子を基板に対して近接して形成することができる。すなわち、機械的な剛性の低い大きな振動子を用いることによって、より低周波数の発振が可能になると共に、振動子と基板の間の距離を狭くすることが可能になるため、基板と振動子の間に働く静電気力を強くすることが可能になるため低電圧で共振器を駆動することが可能になる。
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0030】
本実施例では、本発明の製造方法に従ってステンシルマスクを製造した。この製造工程を図3(a)〜(i)に示す。
【0031】
基板としてSOI(Silicon On Insulator)基板3を用いた(図3(a))。このSOI基板3は、表面側の単結晶Si(100)層301と、中間層としての埋め込みシリコン酸化膜層302と、裏面側の単結晶Si(100)層303との3層で構成されている。
【0032】
この多層構造のSOI基板3の表面側及び裏面側の両面に、それぞれ、熱酸化法によりシリコン酸化膜311a及び311bを形成すると共に、SOI基板3の表面側のシリコン酸化膜311a上にスパッタ法、蒸着法等によりCr膜312を形成した(図3(b))。
【0033】
次いで、一般のIC、LSI等の半導体装置の製造に用いられるフォトリソグラフィー技術を用いて、Cr膜312に開口パターン321を形成した(図3(c))。
【0034】
Cr膜312に開口した開口パターン321をマスクとして、SOI基板3の表面側のSi層301をドライエッチングし、溝部322を形成した(図3(d))。
【0035】
Cr膜312をエッチ除去した後、SOI基板3の両面とドライエッチングで形成された溝部322の側壁部とに熱酸化法によりシリコン酸化膜331を形成した(図3(e))。この場合、溝部の側壁部には新たなシリコン酸化膜331が形成され、基板の両面等の予めシリコン酸化膜が形成されていた部分では、シリコン酸化膜が成長し、シリコン酸化膜が厚くなる。なお、Cr膜312のみをエッチ除去する代わりに、Cr膜312及びシリコン酸化膜311a。311bを全てエッチ除去した後、基板3の両面と溝部322の側壁部とに熱酸化法によりシリコン酸化膜331を形成してもよい。
【0036】
次いで、両面露光技術を用いて、SOI基板3の裏面側のシリコン酸化膜311bに開口パターン341を形成し、裏面側の単結晶Si(100)層303を露出せしめた(図3(f))。
【0037】
開口パターン341の形成後、KOH、TMAH等のアルカリ性エッチング液を用いて、で開口パターン341により露出したSOI基板3の裏面側の単結晶Si(100)層303を結晶異方性エッチングした(図3(g))。この場合、SOI基板3の表面側の単結晶Si(100)層301及び溝部322はアルカリ性エッチング液によるエッチング速度の遅いシリコン酸化膜311a、331によって保護されているため、エッチングされない。一方、裏面側の単結晶Si(100)層303のシリコン酸化膜の開口パターン341では単結晶Si(100)層303が露出しているため、アルカリ性エッチング液によりエッチングされて、Si(111)で構成される開口部342が形成された。
【0038】
開口部342の形成後、SOI基板3の表裏面にそれぞれ形成されているシリコン酸化膜311a(331)及び311b(331)、並びにドライエッチングで形成された溝部322の側壁に形成されているシリコン酸化膜331を、緩衝フッ酸、希釈フッ酸などのシリコン酸化膜エッチング液でエッチング除去した。
【0039】
次いで、純水で洗浄した。なお、SOI基板3を純水で洗浄するにあたって、SOI基板3の表面が乾燥しないように、エッチング液槽から純水槽にSOI基板3を速やかに移送することが重要である。この水洗は、SOI基板3をエッチング液槽に浸漬したままエッチング液を純水で希釈することを繰り返すことによって、エッチング液を純水で置換することにより行っても良い。この場合には、SOI基板3を全く大気に暴露することなく、純水で洗浄することが可能となり、従って半導体装置の表面の凹凸部や可動部に固着が発生することもない。
【0040】
純水による洗浄後、SOI基板3が浸漬されている純水をイソプロピルアルコール(IPA)で希釈することを繰り返す等によってIPAで置換した。なお、溶剤として、IPAの代わりに、メタノール、エタノール、ブタノール、アセトン、ベンゼン、二硫化炭素、四塩化炭素、クロロホルム、ヘキサン、デカリン、テトラリン、酢酸、シクロヘキサノール、トルエン又はエーテルも利用することができる。
【0041】
純水のIPA置換後、このIPAに昇華性物質としてのナフタレンを溶解した。この場合、IPAにナフタレンを溶解したIPA溶液を滴下、混合しても良い。勿論、ナフタレンの代わりに、昇華性物質として、p−ジクロロベンゼン、テトラクロロジフルオロエタン、樟脳を利用することも、また、溶剤として、IPAの代わりに上記溶剤を利用することもできる。
【0042】
昇華性物質の添加後、IPAを蒸発せしめ、ナフタレン膜351をSOI基板3の表面に析出せしめた(図3(h))。
【0043】
ナフタレン膜の析出後、大気中でナフタレン膜351を昇華せしめ、梁部361を有するステンシルマスクを製造した(図3(i))。かくして得られたステンシルマスクの梁部361同士の固着は生じなかった。
【実施例2】
【0044】
本実施例では、本発明の製造方法に従って、表面マイクロマシン技術を利用した加速度センサを製造した。この製造工程を図4(a)〜(g)に示し、得られた加速度センサの平面図を図5に示す。
【0045】
基板としてSi基板401を用い、この基板401上に、熱酸化法でシリコン酸化膜402を形成し、次いでCVD法でシリコン窒化膜403と犠牲層となるシリコン酸化膜404とを形成した(図4(a))。
【0046】
次いで、一般のIC、LSI等の半導体装置の製造に用いられるフォトリソグラフィー技術を用いて、シリコン酸化膜404に開口パターン405を形成した(図4(b))。なお、シリコン酸化膜404のエッチング法としては、緩衝フッ酸、希釈フッ酸などのエッチング液を用いるウェットエッチング技術や、CFガスなどのプラズマを用いるドライエッチング技術などを適宜選択して利用することができる。
【0047】
開口パターン405を形成したSi基板401上に多結晶シリコン膜410をCVD法で形成した(図4(c))。
【0048】
次いで、フォトリソグラフィー技術を用いて多結晶シリコン膜410に可動部411、梁部412、アンカー部413a、413b、可動部411の下の犠牲層404をエッチングする時間を短縮するための開口部414、可動電極部415、固定電極部421を形成した(図4(d)及び図5)。なお、多結晶シリコン膜410のエッチング法としては、CFガスなどのプラズマを用いるドライエッチング技術などを適宜用いることができる。
【0049】
犠牲層であるシリコン酸化膜404を緩衝フッ酸、希釈フッ酸などのシリコン酸化膜エッチング液でエッチング除去した。
【0050】
次いで、純水で洗浄した。なお、Si基板401を純水で洗浄するにあたって、Si基板401の表面を乾燥しないように、エッチング液槽から純水槽にSi基板401を速やかに移送することが重要である。この水洗は、Si基板401をエッチング液槽に浸漬したままエッチング液を純水で希釈することを繰り返すことによって、エッチング液を純水で置換することにより行っても良い。この場合には、Si基板401を全く大気に暴露することなく、純水で洗浄することが可能となり、従って半導体装置の表面の凹凸部や可動部に固着が発生することもない。
【0051】
純水による洗浄後、Si基板401が浸漬されている純水をIPAで希釈することを繰り返す等によってIPAで置換した。なお、溶剤として、IPAの代わりに、メタノール、エタノール、ブタノール、アセトン、ベンゼン、二硫化炭素、四塩化炭素、クロロホルム、ヘキサン、デカリン、テトラリン、酢酸、シクロヘキサノール、トルエン又はエーテルも利用することができる。
【0052】
純水のIPA置換後、このIPAに昇華性物質としてのナフタレンを溶解した。この場合、IPAにナフタレンを溶解したIPA溶液を滴下、混合しても良い。勿論、ナフタレンの代わりに、昇華性物質として、p−ジクロロベンゼン、テトラクロロジフルオロエタン、樟脳を利用することも、また、溶剤として、IPAの代わりに上記溶剤を利用することもできる。
【0053】
昇華性物質の添加後、IPAを蒸発せしめ、ナフタレン膜451aをSi基板401の表面に析出せしめた(図4(e))。
【0054】
ナフタレン膜451aの析出後、大気中でナフタレン膜451aを昇華せしめ(図4(f))、加速度センサーを製造した。かくして得られた加速度センサにおいて、表面の凹凸部や可動部の固着は生じていなかった。
【0055】
なお、図4(g)に示したように、IPAを蒸発し、ナフタレン膜を析出せしめる工程において、半導体装置の表面の凹凸部や可動部が機械的に丈夫で、取り扱い時に発生する振動、加速度などによって破損する恐れがない場合は、固着を防止する目的で薄いナフタレン膜451bをSi基板401の表面に析出せしめても良い。この場合、ナフタレン膜451bの厚さは、1分子層以上、好ましくは数分子層以上で、半導体装置の表面の凹凸部や可動部がお互いに直接的に接触しない間隔を保持できる厚さとする。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、乾燥時に発生する液体の表面張力による半導体装置の表面の凹凸部や可動部の固着(スティッキング)を防止でき、また、半導体装置の表面の凹凸部や可動部が破損することもないので、本発明は、表面に凹凸部や可動部を有する半導体装置の分野で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】固着の発生したステンシルマスクの断面の模式図。
【図2】固着の発生を説明するための写真及び断面図であり、(a)は固着の発生したステンシルマスクの表面側から見た外観写真であり、(b)は固着の状態を模式的に示す拡大断面図。
【図3】実施例1の製造工程を基板断面の模式図を用いて説明する製造工程図((a)〜(i))。
【図4】実施例2の製造工程を基板断面の模式図を用いて説明する製造工程図((a)〜(g))。
【図5】実施例2で得られた、加速度センサの模式的平面図。
【符号の説明】
【0058】
101 表面側の単結晶Si(100)層 102 埋込みシリコン酸化物層
103 裏面側の単結晶Si(100)層 121 開口パターン
142 裏面開口部 161 梁部
3 SOI基板 301 表面側の単結晶Si(100)層
302 埋込みシリコン酸化物層 303 裏面側の単結晶Si(100)層
311a、311b シリコン酸化膜 312 Cr膜
321 開口パターン 322 溝部
331 溝部側壁形成シリコン酸化膜 341 裏面シリコン酸化膜開口パターン
342 裏面開口部 351 ナフタレン膜
361 梁部 401 Si基板
402 シリコン酸化膜 403 シリコン窒化膜
404 シリコン酸化膜 405 開口パターン
410 多結晶シリコン膜 411 可動部
412 梁部 413a、413b アンカー部
414 開口部 415 可動電極部
421 固定電極部 451a、451b ナフタレン膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸部、或いは可動部有する半導体装置の製造方法において、
(1)前記の凹凸部或いは可動部を液体で処理した後、この液体を純水で置換する工程、 (2)純水を溶剤によって置換する工程、
(3)昇華性物質を前記置換溶剤に混合・溶解する工程、又は昇華性物質を溶解した、前記置換溶剤と同じ種類の溶剤若しくは昇華性物質を溶解した、前記置換溶剤と混和しうる溶剤を前記置換溶剤に混合する工程、
(4)前記置換溶剤、前記置換溶剤と混和しうる溶剤を蒸発することによって前記半導体装置の表面に前記昇華性物質を析出せしめる工程、及び
(5)昇華により前記昇華性物質を除去する工程を含むことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
前記昇華性物質が、ナフタレン、p−ジクロロベンゼン、テトラクロロジフルオロエタン及び樟脳から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1記載の半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記置換溶剤及びこの置換溶剤と混和し得る溶剤が、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール、ブタノール、アセトン、ベンゼン、二硫化炭素、四塩化炭素、クロロホルム、ヘキサン、デカリン、テトラリン、酢酸、シクロヘキサノール、トルエン及びエーテルから選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は2記載の半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−10638(P2008−10638A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179780(P2006−179780)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000101710)アルバック成膜株式会社 (39)
【Fターム(参考)】