半導体装置の製造方法
【課題】本発明の実施形態は、ベース層の幅を狭く形成しエミッタ層の不純物濃度を高くした低雑音特性を有する半導体装置の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】一実施形態に係る半導体装置の製造方法は、第1導電型の第1半導体層の上に第2導電型の第2半導体層を成長する半導体装置の製造方法であって、前記第1半導体層の表面を常圧よりも低い圧力の還元性雰囲気に曝して熱処理する工程(S02〜S04)と、前記第1半導体層の表面上に、前記第2半導体層を常圧の雰囲気でエピタキシャル成長する工程(S05〜S07)と、を備えたことを特徴とする。
【解決手段】一実施形態に係る半導体装置の製造方法は、第1導電型の第1半導体層の上に第2導電型の第2半導体層を成長する半導体装置の製造方法であって、前記第1半導体層の表面を常圧よりも低い圧力の還元性雰囲気に曝して熱処理する工程(S02〜S04)と、前記第1半導体層の表面上に、前記第2半導体層を常圧の雰囲気でエピタキシャル成長する工程(S05〜S07)と、を備えたことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施態様は、半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信の需要拡大にともない、通信用半導体装置の高性能化が望まれている。例えば、バイポーラートランジスター(Bipolar junction transistor:BJT)は、低雑音の高周波増幅器として無線通信装置に多用されているが、通信システムの大容量化のために高周波帯でのさらなる低雑音化が望まれている。BJTの雑音指数を低減するためには、遮断周波数fTを高くすることが効果的であり、そのためにベース層を薄層化できる技術の検討が進められている。
【0003】
例えば、シリコン(Si)を材料とするnpn型のBJTでは、ベース層にドープされるp型ドーパント(ボロン:B)の濃度プロファイルが急峻となるように、すなわち、p領域の厚さが薄く高濃度となるように形成する必要がある。したがって、ベース層の後に形成されるエミッタ層の形成工程では、ベース層の急峻な不純物プロファイルを維持することがポイントになる。
エミッタ層の形成において、Siウェーハに不純物をドープする方法として汎用されているイオン注入法では、注入した不純物を活性化するために高温の熱処理が必要であり、熱処理過程におけるベース層の不純物の拡散を抑制することが難しい。このため、急峻な濃度プロファイルのベース層を有したBJTのエミッタ層を形成するには不向きな技術であった。
【0004】
そこで、一つの解決策として、所望の濃度プロファイルが形成されたベース層上に、エミッタ層をエピタキシャル成長する方法が用いられている。例えば、低温でエピタキシャル成長することにより、ベース層にドープされたp型不純物の拡散を抑制し、p領域の厚さが薄い急峻な濃度プロファイルを実現することができる。
【0005】
一方、雑音指数の低減のためには電流増幅率hFEを高くすることも有効であり、そのためには、エミッタ層にドープされるn型不純物を高濃度化する必要もある。そこで、従来よりも幅の狭いベース層と不純物濃度が高いエミッタ層とを形成できる技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−114190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、ベース層の幅を狭く形成しエミッタ層の不純物濃度を高くした低雑音特性を有する半導体装置の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係る半導体装置の製造方法は、第1導電型の第1半導体層の上に第2導電型の第2半導体層を成長する半導体装置の製造方法であって、前記第1半導体層の表面を常圧よりも低い圧力の還元性雰囲気に曝して熱処理する工程と、前記第1半導体層の表面上に、前記第2半導体層を常圧の雰囲気でエピタキシャル成長する工程と、を備えたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】一実施形態に係る半導体装置の部分断面を示す模式図である。
【図2】一実施形態に係る半導体装置の製造過程を示す部分断面図であり、(a)は、ベースの引き出し電極となる低抵抗のポリシリコン層が形成された状態、(b)は、コレクタ層の上にベース層が形成された状態を示している。
【図3】一実施形態に係る半導体装置の製造過程を示す部分断面図であり、(a)は、ポリシリコン層がパターニングされベースの引き出し電極が形成された状態、(b)は、引き出し電極とエミッタ層との間を絶縁する絶縁膜が形成された状態を示している。
【図4】一実施形態に係る半導体装置の製造過程を示す部分断面図であり、(a)は、ベース層の上に形成された絶縁膜を除去するための開口を有するレジストマスクが形成された状態、(b)は、ベース層上にエミッタ層が形成された状態を示している。
【図5】一実施形態に係る半導体装置の製造過程を示す部分断面図であり、(a)は、エミッタ層がパターニングされた状態、(b)は、エミッタ層、ベース層およびコレクタ層に電気的に接続した配線が形成された状態を示している。
【図6】一実施形態に係る半導体製造装置の構成を示すブロック図である。
【図7】一実施形態に係る製造過程をしめすフローチャートである。
【図8】一実施形態に係る製造過程における処理温度を示すグラフである。
【図9】一実施形態に係る半導体装置のエミッタ層の不純物プロファイルを示すグラフである。
【図10】比較例に係る半導体装置のエミッタ層の不純物プロファイルを示すグラフである。
【図11】比較例に係る半導体装置のエミッタ層の不純物濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態では、図面中の同一部分には同一番号を付してその詳しい説明は適宜省略し、異なる部分について適宜説明する。第1導電型をp型、第2導電型をn型として説明する。
【0011】
図1は、一実施形態として例示する半導体装置100の部分断面を示す模式図である。半導体装置100は、p型ベース層15aにゲルマニウム(Ge)とシリコン(Si)とを含む混晶を用いたSiGe−HBT (Hetero-junction Bipolar Transistor)であり、Si−BJTよりも遮断周波数fTが高く低雑音の半導体装置を実現することができる。
【0012】
半導体装置100は、例えば、p型シリコン基板2の表面に選択的に設けられたn+コレクタ領域4とを備えている。n+コレクタ領域4は、p型シリコン基板2の表面に、例えば、砒素(As)などのn型不純物を選択的にイオン注入することによって形成することができる。
【0013】
n+コレクタ領域4の上には、n型コレクタ層5が設けられている。n型コレクタ層5は、p型シリコン基板2の上にn型のシリコン層をエピタキシャル成長することにより設けることができる。さらに、n型コレクタ層5の表面を選択的に熱酸化することにより、フィールド酸化膜8が形成されている。フィールド酸化膜8は、n型コレクタ層5の表面に設けられたp型ベース層15aとn+コンタクト領域7とを電気的に分離している。
n+コンタクト領域7は、隣り合うフィールド酸化膜8の間に挟まれたn型コレクタ層5の表面からn+コレクタ領域4に達する深さに形成されている。
【0014】
p型ベース層15aには、p型ポリシリコン層13が電気的に接続されている。p型ポリシリコン層13は、絶縁膜12を介してn型コレクタ層5の上に設けられており、n型コレクタ層5から電気的に絶縁されている。
【0015】
さらに、p型ポリシリコン層13の上には、p型SiGe層15bが設けられている。p型SiGe層15bは、n型コレクタ層5の表面にp型ベース層15aを設ける際に、同時にエピタキシャル成長されたSiGeの多結晶であり、p型ポリシリコン層13とともにp型ベース層15aからの引き出し電極14を形成している。
【0016】
p型ベース層15aの上には、絶縁膜17を介してn型エミッタ層9が設けられている。後述するように、n型エミッタ層9は、p型ベース層15aの表面にエピタキシャル成長されたn型シリコン層23がパターニングされたものである。
n型コレクタ層5およびp型ベース層15a、n型エミッタ層9が設けられた素子領域の外周には、素子間分離のためにn型コレクタ層5の表面から基板2に達するp型シリコン領域6が設けられている。
【0017】
さらに、n型エミッタ層9およびp型ベース層15aの引き出し電極14、コレクタコンタクト層11を覆って層間絶縁膜28が設けられている。層間絶縁膜28には、コンタクトホール34が設けられコンタクト配線35が埋め込まれている。
コンタクト配線35は、n型エミッタ層9およびp型ベース層15aの引き出し電極14、コレクタコンタクト層11と、配線36と、の間をそれぞれ電気的に接続している。
【0018】
本実施形態に係る半導体装置100を低雑音の高周波増幅器として機能させるためには、SiGe混晶からなるp型ベース層15aを薄く形成し、さらに、n型エミッタ層9とp型ベース層15aとの間の界面近傍におけるn型エミッタ層9のn型不純物濃度が高いことが望ましい。
【0019】
前述したように、npn型BJTのn型エミッタ層を形成するためにはいくつかの方法が知られている。最も簡便な方法は、p型ベース層15aの上にポリシリコン膜を形成し、n型不純物(例えば、V族元素のPやAsが使われる)をイオン注入してn型エミッタ層9とする方法である。しかしながら、この方法では、イオン注入後の熱処理過程における不純物の拡散を制御することが難しく、急峻なエミッタ・ベース接合を得ることが難しい。すなわち、ポリシリコン膜にイオン注入したn型不純物が拡散してピーク濃度が低下し、さらに、p型ベース層15aにドープされたp型不純物が拡散してベース層の幅が広くなるという問題がある。
【0020】
この問題を解決する技術として、n型エミッタ層9となるn型シリコン層をエピタキシャル成長法により形成する方法がある。この方法では、エピタキシャル成長中にn型不純物をドープすることができるので、イオン注入を用いる方法よりも急峻なエミッタ・ベース接合を形成することができる。
【0021】
次に、半導体装置100の製造方法について、図2〜5を参照して説明する。
図2〜図5は、半導体装置100の製造過程を模式的に示すシリコンウェーハ10の部分断面図である。
【0022】
図2(a)は、p型ベース層15aの引き出し電極となるp型ポリシリコン層13が形成された状態を示している。
p型シリコン基板2の表面に、n+コレクタ領域4が選択的に形成され、さらに、n型コレクタ層5が積層されている。n型コレクタ層5の表面には、選択的に熱酸化されたフィールド酸化膜8が設けられ、さらに、n型コレクタ層5の表面からn+コレクタ領域4に接する深さに形成されたn+コンタクト領域7が設けられている。そして、BJT構造が形成される素子領域の周辺には、素子間分離領域であるp型シリコン領域6が形成されている。
上記の構造は、良く知られたBiCMOS(Bipolar Complementary Metal Oxide Semiconductor)プロセスを用いて形成することができる。
【0023】
さらに、n型コレクタ層5およびフィールド酸化膜8、n+コンタクト領域7の表面に絶縁膜12およびp型ポリシリコン層13を順に形成する。p型ベース層15aが設けられる部分には、絶縁膜12およびp型ポリシリコン層13をエッチングして選択的に除去した開口31を設ける。
【0024】
次に、図2(b)に示すように、シリコンウェーハ10の表面にp型SiGe層15をエピタキシャル成長する。n型コレクタ層5が露出した開口31には、p型ベース層15aとなるSiGe層が形成される。
【0025】
続いて、図3(a)に示すように、p型SiGe層15とp型ポリシリコン層13とがパターニングされ、フィールド酸化膜8の上にp型ベース層15aに接続した引き出し電極14が形成される。同時に、n+コンタクト領域7の表面に形成された絶縁膜12もエッチングされて除去される。
次に、図3(b)に示すように、引き出し電極14とn型エミッタ層9との間を絶縁する絶縁膜17とポリシリコン膜18とが形成される。
【0026】
続いて、図4(a)に示すように、p型ベース層15aおよびn+コンタクト領域7の上に開口32および33を有するレジストマスク41が形成され、絶縁膜17とポリシリコン膜18がエッチングにより除去される。
【0027】
次に、図4(b)に示すように、n型エミッタ層9となるn型シリコン層23が、シリコンウェーハ10の表面にエピタキシャル成長される。この際、絶縁膜17およびポリシリコン膜18が除去されたp型ベース層15aの表面に急峻なエミッタ・ベース接合を形成するために、後述する成長前ベークおよびエピタキシャル成長の条件を用いる。すなわち、p型ベース層15aにドープされたp型不純物の濃度プロファイルの変化を抑制し、p型ベース層15aとn型シリコン層23との界面近傍におけるn型シリコン層23のn型不純物濃度が高くなるようにエピタキシャル成長を実施する。
【0028】
続いて、図5(a)に示すように、レジストマスク42を用いて選択的にn型シリコン層23をエッチングすることにより、n型エミッタ層9およびコレクタコンタクト層11を形成する。
【0029】
さらに、図5(b)に示すように、シリコンウェーハ10の表面に層間絶縁膜28を形成し、n型エミッタ層9およびp型ベース層15a、n型コレクタ層5に電気的に接続したコンタクト配線35と、層間配線36と、を形成して半導体装置100を完成する。
【0030】
次に、n型エミッタ層9となるn型シリコン層23のエピタキシャル成長について、詳細に説明する。
図6は、n型シリコン層23をエピタキシャル成長する半導体製造装置200の構成を例示するブロック図である。
【0031】
半導体製造装置200では、例えば、シリコンウェーハ10は、成長室50の内部に設けられたサセプタ52の上に載置される。サセプタ52に載置されたシリコンウェーハ10は、成長室50の外に設置された温度コントローラ85によって制御されるヒータ53によって所定の温度に加熱される。
【0032】
成長室50の内部は、主配管55〜58と真空ポンプ70とからなる真空排気系により減圧することができる。主配管55〜58には、メインバルブ56および真空ポンプ70、除害ユニット80が接続されている。メインバルブ56には、例えば、バタフライ弁を有し開閉度を制御できるバルブを用いることができる。除害ユニット80は、エピタキシャル成長の原料ガスに含まれる有害物質を除去し、無害化されたガスを外部に排出するために設置されている。
【0033】
さらに、主配管55と主配管57との間に設けられ、メインバルブ56をバイパスする配管60〜62が設けられている。バイパス配管60〜62には、アイソレーションバルブ63および流量制御バルブ(オリフィス)65が接続されている。さらに、真空ポンプ70を経由せずに成長室50から除害ユニット80へガスを排気する常圧配管66が設けられている。常圧配管66には、アイソレーションバルブ64が接続されている。
【0034】
一方、成長室50には、エピタキシャル成長の原料ガスを供給するガス導入管75が設けられている。ガス導入管75には、マスフローコントローラ71〜74を介して4系統のガスラインが接続されている。例えば、原料ガスを成長室50の内部に搬送するためのキャリアガスである水素(H2)、原料ガスであるモノシラン(SiH4)、ゲルマン(GeH4)、および、不純物をドープするためのドーピングガスとしてホスフィン(PH3)を接続することができる。
【0035】
さらに、半導体製造装置200は、コントロールユニット90を備えている。
コントロールユニット90は、メインバルブ56およびアイソレーションバルブ63および64を制御して、成長室50の排気状態を減圧モードまたは常圧モードに制御する。
【0036】
ここで、減圧モードとは、ガス導入管75から成長室50の内部にガスが供給され、同時に、成長室50の内部から真空ポンプ70によりガスが排気される減圧状態を言う。一方、常圧モードとは、ガス導入管75から成長室50の内部にガスが供給され、成長室50の内圧によりガスが自然排気されている状態を言う。
【0037】
コントロールユニット90は、主配管55〜58を介して真空ポンプ70により成長室50の内部からガスを排気し、一旦、高真空に減圧する。続いて、ガス導入管75から成長室50の内部にガスを供給し、メインバルブ56の開閉度を調整して成長室50の内部を減圧状態にし、一定の圧力に制御することができる。例えば、成長室50に取り付けられた圧力ゲージ82が検出する圧力に応じてメインバルブ56の開閉度を制御し、成長室50の内部を一定の圧力に保持することができる。
【0038】
さらに、減圧モードから常圧モードに移行する際は、例えば、メインバルブ56を閉じ、成長室50の内圧が所定の値を超えた時に、アイソレーションバルブ63を開けてバイパス配管60〜62を介した排気に切り替える。バイパス配管60〜62に設けられたオリフィス65により排気量が制限されるため、成長室50の内圧は徐々に上昇する。この際、ガス導入管75から成長室50に供給されるガス流量を変化させて、成長室50の内圧の上昇率を制御しても良い。
【0039】
成長室50の内部が常圧になれば、コントロールユニット90は、アイソレーションバルブ63を閉じ、続いて、アイソレーションバルブ64を開いて常圧配管66を介した排気に切り替えることができる。これにより、成長室50の内部は常圧モードとなり、ガス導入管75から供給されるガスを常圧配管66を介して除害ユニット80に自然排気する状態となる。ここで言う自然排気には、例えば、成長室50の内圧よりも低い除害ユニット80の排出側の背圧に吸引されてガスが排出されるような場合も含まれる。
【0040】
さらに、コントロールユニット90は、マスフローコントローラ71〜74を制御して、成長室50に流入するガスの流量を制御する。また、図示しない温度センサによりサセプタ52の温度を検出し、温度コントローラ85を制御して、サセプタ52に載置されたシリコンウェーハ10の温度を制御することができる。
【0041】
次に、本実施形態に係る半導体装置100の製造方法、すなわち、半導体製造装置200により、p型ベース層15aの上にn型エミッタ層9となるn型シリコン層23をエピタキシャル成長する過程について説明する。
【0042】
本実施形態に係る製造方法は、第1半導体層であるp型ベース層15aの上に第2半導体層であるn型シリコン層23を成長する際に、第1半導体層の表面を常圧よりも低い圧力の還元性雰囲気に曝して熱処理(ベーク)する工程と、第1半導体層の表面上に、第2半導体層を常圧の雰囲気でエピタキシャル成長する工程と、を備えている。
【0043】
図7は、本実施形態に係る製造過程の一例を示すフローチャートである。
本実施形態に係る製造過程は、n型エミッタ層9となるn型シリコン層23の結晶性を向上させるために行われる成長前ベーク工程(S02〜S04)と、n型シリコン層23のエピタキシャル成長工程(S05〜S07)とを有している。さらに、下地となる半導体層にドープされた不純物の拡散を抑制し、より高濃度の不純物を含む半導体層を成長するために、エピタキシャル成長前のベーク工程とエピタキシャル成長工程とを、それぞれに適した条件で実行する。
【0044】
以下、本実施形態に係る製造過程を、図6〜図8を参照して詳細に説明する。
まず、成長室50にシリコンウェーハ10を搬入し、サセプタ52の上に載置する(S01)。
次に、成長室50の内部を減圧し、還元性の雰囲気に置換する(S02)。
【0045】
具体的には、コントロールユニット90は、メインバルブ56を開き、主配管55〜58に接続された真空ポンプ70により成長室50の内部を高真空(例えば、1×10‐5Torr以下の真空度)に排気する。続いて、ガス導入管75より、例えば、還元性のH2ガスをキャリアガスとして成長室50に導入する。さらに、メインバルブ56の開閉度を調整して成長室50の内部を一定の圧力に維持する。
【0046】
これにより、成長室50の内部を還元性のH2ガスに置換された減圧雰囲気にすることができる。キャリアガスとして、例えば、アルゴン(Ar)など、不活性ガスを用いる場合には、H2ガスを添加することにより、成長室50の内部を還元性の雰囲気とすることができる。
【0047】
次に、ヒータ53によりサセプタ52の温度を上昇させてシリコンウェーハ10を加熱する(S03)。例えば、図8は、シリコンウェーハ10の処理温度の時間変化を例示するグラフである。
シリコンウェーハ10は、所定の初期温度T0に保持されたサセプタ52に載置される。初期温度T0は、シリコンウェーハ10に熱衝撃を与えない温度、例えば、400℃以下に設定することができる。
【0048】
続いて、成長室50の内部を還元性の雰囲気に置換した後、サセプタ52の温度を上げてシリコンウェーハ10を加熱する(t1〜t2)。この際、加熱レートを約3℃/秒とすることができる。さらに、サセプタ52の温度が最高温度Taに達したらヒータ53を止めて、冷却を開始する。
【0049】
次に、成長室50の内部を常圧に戻す(S05)。前述したように、メインバルブ56を閉じ、バイパス配管60〜62を介した排気により成長室50の内圧を徐々に上昇させ、さらに、常圧配管66を介した排気に切替えることにより、減圧モードから常圧モードに切り替えることができる。
減圧モードから常圧モードへの切り替えは、サセプタ52の冷却を開始した後、成長温度Tgに達するまでの間(t2〜t3)に実施しても良いし、成長温度Tgに達した後に実施することもできる。
【0050】
次に、サセプタ52が冷却されて成長温度Tgに達し、成長室50の内部が常圧モードに切り替わっていれば、エピタキシャル成長を開始する(S06)。
具体的には、コントロールユニット90が、温度コントローラ85を制御してサセプタ52の温度を成長温度Tgに保持する。さらに、成長室50の内部が常圧に復帰し、ガス排気が自然排気に切り替わった後に、ガス導入管75から原料ガスSiH4およびドーピングガスPH3を成長室50に流入させてn型シリコン層23の成長を開始する。
【0051】
n型シリコン層23が所定の厚さになったら、原料ガスSiH4およびドーピングガスPH3を遮断してエピタキシャル成長を停止させる(S07)。
例えば、予め測定したn型シリコンの成長速度に基づいて成長時間を設定し、その時間の経過後にガスを遮断しても良い。
【0052】
続いて、サセプタ52を冷却した後、成長室50からシリコンウェーハ10を取り出し、エピタキシャル成長を完了する(S08)。
【0053】
上記の半導体装置100の製造過程では、p型ベース層15aにドープされたBの濃度プロファイルを可能な限り変化させないようにする。このため、成長前ベークからn型シリコン層23のエピタキシャル成長の間に、シリコンウェーハ10に与えられる熱量を抑制する。この過程で最も熱量が多く付加されるのは成長前のベーク工程であり、ベーク工程における最高到達温度Taを制限することが望ましい。
【0054】
図8に示す温度プロファイルでは、サセプタ52の温度が最高温度に到達した後、直ぐに冷却が開始される。これにより、ベーク工程(S02〜S04)においてシリコンウェーハ10に与えられる熱量を低減し、p型ベース層15a中のBの拡散を抑制することができる。
さらに、例えば、最高到達温度Taを900℃以下とすることにより、p型ベース層15aのBの拡散を抑制し、実質的なベース層の幅を狭く維持することができる。
【0055】
半導体装置100のp型ベース層15aの主要な部分はSiGe混晶で形成されるため、Si結晶との間に結晶組成の違いによる境界が存在し、これによりp型ベース層15aの幅を規定することができる。一方、HBTとしての動作特性を左右するベース幅は、p型ベース層15aにドープされたp型不純物により形成されるp型領域の幅である。p型ベース層15aにドープされたBがn型コレクタ層5またはn型エミッタ層9に向けて拡散すれば、p型ベース層15aの幅よりもp型領域の幅の方が広くなり両者は一致しない。そこで、ここで言う実質的なベース幅は、p型領域の幅を意味する。
【0056】
ベーク工程(S02〜S04)は、n型シリコン層23を成長するシリコンウェーハ10の表面に形成された自然酸化膜除去を目的として実施される。還元性のH2ガス雰囲気中で熱処理することにより、ウェーハ表面のシリコン原子と結合した酸素を解離させることができる。これにより、エピタキシャル成長直前において、自然酸化膜のない清浄なp型ベース層15aの表面を露出させることができる。その結果、シリコンウェーハ10の表面に形成されるn型シリコン層23に発生する結晶欠陥を低減することができる。
【0057】
例えば、p型ベース層15aの表面に自然酸化膜が残った状態でn型シリコン層23をエピタキシャル成長すると、n型エミッタ層9となる部分に結晶欠陥が導入され結晶性が劣化する。そして、エミッタ・ベース接合界面における結晶性の劣化は、リーク電流を増大させトランジスターの特性を劣化させる。
【0058】
表1は、大気圧下のH2雰囲気において温度を変えてベーク処理を実施した試料1〜3の表面に残留する酸素の面密度を示している。残留酸素の量は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)法を用いて測定されたものである。処理温度は、ベーク工程における最高到達温度Taである。
【表1】
【0059】
シリコンウェーハの表面に形成される自然酸化膜は、還元性雰囲気中において高温で熱処理することにより除去することができる。表1に示す実験結果では、熱処理温度が高い試料ほど表面において検出される酸素の量が減少している。しかしながら、900℃の温度で処理した試料3においても、表面に酸素が残留していることがわかる。すなわち、シリコンウェーハの表面に自然酸化膜が残ることを示している。
【0060】
これに対し、表2は、減圧下のH2雰囲気で温度を変えてベーク処理を実施した試料1〜5の表面に残留する酸素の面密度を示している。ベーク処理時の成長室50の内圧は、約80Torrである。
【表2】
【0061】
表2に示すように、800℃で処理した試料1の表面において残留酸素が検出されている。一方、825℃以上の温度で処理した試料2〜5では、残留酸素の量はSIMSの検出限界以下、N.D.(Not Detected)となっており、試料表面の自然酸化膜は除去されたものと考えられる。
【0062】
なお、ベーク処理時の成長室50の内圧を約20Torrとしても、800℃以上の温度でベーク処理することによりシリコンウェーハ表面の自然酸化膜を除去することができた。したがって、少なくとも20〜80Torrの減圧下において、800℃以上のベーク処理により自然酸化膜を除去することができる。
【0063】
このように、成長前ベーク処理によりシリコンウェーハの自然酸化膜を除去するには、大気圧(常圧)の還元性雰囲気では900℃以上の温度で処理する必要があるのに対し、減圧下の雰囲気では、900℃より低温の処理で自然酸化膜を除去することが可能となる。
【0064】
前述したように、p型ベース層15aにドープされたBの拡散を抑制するためには、900℃以下で熱処理することが望ましい。したがって、常圧下のベークでは、p型ベース層15aにドープされたBを拡散させないで、p型ベース層15aの表面の自然酸化膜を除去することは難しいことが分かる。
【0065】
一方、減圧下では、900℃以下の温度でベークすることにより、p型ベース層15aの表面の自然酸化膜を除去することが可能である。すなわち、p型ベース層15aにドープされたBの拡散を抑制して、p型ベース層15aの表面の自然酸化膜を除去することが可能である。
【0066】
次に、ベーク工程の後に実施されるエピタキシャル成長の条件について説明する。
上述したように、ベーク工程は、減圧下の還元性雰囲気で行われることが好ましい。
ベーク工程を減圧下で実施した場合、続いて実施されるエピタキシャル成長も減圧下で実施される場合が多い。これは、エピタキシャル成長される結晶の品質を向上させるために、下地となるウェーハの表面を清浄化した直後に結晶成長を行うことが好ましいと考えられているからである。すなわち、成長前のベーク処理を減圧下で実施する場合は、エピタキシャル成長にスムーズに移行するために減圧成長が選択されている。
【0067】
しかしながら、減圧下のエピタキシャル成長では、成長速度が遅くスループットが低下すること、また、不純物のドーピング濃度を高くできないことが問題となる。
具体的には、n型エミッタ層9に求められる1×1020cm−3以上の不純物濃度を有するシリコン層を形成することが難しいという問題がある。
【0068】
図10に、比較例に係る半導体装置のエミッタ層の不純物プロファイルを示す。SIMS法を用いて測定されたn型不純物であるリン(P)の濃度プロファイルである。グラフの原点がエミッタ層の表面に該当し、深さ方向の不純物分布を示している。
【0069】
エピタキシャル成長は、減圧下(80Torr)で実施され、成長温度Tgは、680℃および720℃の2条件である。さらに、ドーピングガスであるPH3の流量170SCCMおよび420SCCMの2条件を組み合わせた3つの試料のデータA〜Cが示されている。
グラフの横軸に示す深さ方向において、各プロファイルのP濃度が立ち上がるところが、エミッタ層の成長開始の領域に該当し、エミッタ・ベース界面の近傍の不純物濃度を示している。
【0070】
Tgが680℃のデータA、Bの比較において、PH3の導入量を170SCCMから420SCCMに増加させることにより、エミッタ・ベース界面近傍のP濃度が増加することがわかる。さらに、PH3の導入量を170SCCMとしたデータA、Cの比較から、Tgを720℃から680℃へ下げてもP濃度が増加することがわかる。しかし、いずれのデータにおいても、エミッタ・ベース界面近傍のP濃度は、1×1020cm−3を超えていない。
【0071】
一方、データA〜Cに共通して、グラフ中の原点方向、すなわちエミッタ層の表面に向かう方向においてP濃度は増加し、1×1020cm−3を超える濃度となっている。しかしながら、HBTの高性能化のためには、エミッタ・ベースの接合界面において急峻なpn接合が形成される必要があり、図10に示されたエミッタ・ベース界面近傍のn型不純物(P)濃度では不十分である。
【0072】
図11は、比較例に係る半導体装置のエミッタ層のP濃度を、ドーピングガスPH3の希釈量に対して示したグラフである。縦軸は、エミッタ・ベース界面近傍におけるP濃度を示している。横軸は、成長室50に導入されるPH3に加えられる希釈水素の流量を示している。
【0073】
図11中にプロットしたデータによれば、希釈水素の量を増やすとP濃度は低下する。一方、希釈水素を全く加えない場合でも、P濃度は1×1020cm−3を超えないことがわかる。
したがって、減圧下のエピタキシャル成長では、ドーピングガスPH3の希釈率を下げて導入量を増加させても、また、成膜温度Tgを下げたとしても、1×1020cm−3を超えるエミッタ・ベース界面近傍のP濃度が得られないことがわかる。
【0074】
これに対し、図9は、本実施形態に係る半導体装置100のn型エミッタ層9のP濃度のプロファイルを示す。常圧下において、Tgを720℃、700℃、680℃としてエピタキシャル成長し、さらに、PH3の流量170SCCMおよび420SCCMを組み合わせた4条件に対応するデータA〜Dが示されている。
【0075】
図9に示す濃度プロファイルによれば、データA〜Dに対応するいずれの成長条件においても、エミッタ・ベース界面近傍におけるP濃度は、1×1020cm−3を超えている。データA〜Cの比較において、エミッタ・ベース界面近傍におけるPのピーク濃度は、Tgを下げるほど高くなることがわかる。また、データCおよびDの比較から、PH3の導入量を増やすことによってもP濃度が上昇することがわかる。
【0076】
図9に示す常圧下の成長の結果と、図10に示す減圧下の成長の結果とを比較すると、減圧下のエピタキシャル成長に比べ、常圧下の方がエミッタ・ベースの界面近傍におけるP濃度を著しく上昇させることが分かる。また、エミッタ・ベースの界面近傍におけるP濃度は、成長温度TgおよびPH3の導入量に依存し、成長温度TgおよびPH3の導入量を変えた時のP濃度の変化も、常圧下のエピタキシャル成長の方が大きいことが分かる。
【0077】
さらに、エピタキシャル成長を常圧で実施することにより、n型シリコン層23の成長速度の速くすることができる。例えば、250nmのシリコン層を成長するために、80Torrの減圧条件では28分を要するのに対して、常圧では僅かに8分を要するに過ぎない。したがって、n型エミッタ層9となるn型シリコン層23を常圧でエピタキシャル成長することにより、スループットを大幅に短縮し製造コストを低減することが可能となる。
【0078】
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る半導体装置100の製造方法では、n型エミッタ層9となるn型シリコン層23の形成過程において、減圧下の還元性雰囲気でベーク処理を実施し、その後、成長室50を常圧に切り替えてエピタキシャル成長を実施する。
【0079】
半導体装置100の製造に適した圧力条件は、ベーク処理とエピタキシャル成長との間で異なる。そこで、それぞれに適した条件で実行することにより、ベース層の実質的な幅を狭く維持し、さらに、エミッタ層の濃度を上げてエミッタ・ベース接合を急峻なpn接合とすることができる。これにより、半導体装置100の遮断周波数fTを向上させ、雑音特性を低減することができる。
【0080】
従来のエピタキシャル成長では、成長前ベークを減圧下で実施した場合、エピタキシャル成長も減圧下で実施することが通常であった。すなわち、ベーク処理により清浄化した下地の表面を清浄化した直後にエピタキシャル成長を実施することが望ましいとされてきたからである。
【0081】
これに対し、本実施形態では、減圧下のH2雰囲気でベーク処理を行うことにより、p型ベース層15aの自然酸化膜が十分に除去され清浄な表面を得ることができる。そして、その表面にエピタキシャル成長することにより、シリコン層の結晶性を向上させエミッタ・ベース間のリーク電流を減少させることができる。
【0082】
さらに、エピタキシャル成長を常圧で実施することにより、n型不純物の濃度が1×1020cm−3を超える高濃度のエミッタ層を形成することが可能となり、急峻なエミッタ・ベース接合が得られる。これにより、半導体装置100の雑音特性を向上させることができる。
【0083】
以上、本発明に係る一実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、出願時の技術水準に基づいて、当業者がなし得る設計変更や、材料の変更等、本発明と技術的思想を同じとする実施態様も本発明の技術的範囲に含有される。
【符号の説明】
【0084】
2・・・p型シリコン基板、 4・・・n+コレクタ領域、 5・・・n型コレクタ層、 6・・・p型シリコン領域、 7・・・n+コンタクト領域、 8・・・フィールド酸化膜、 9・・・n型エミッタ層、 10・・・シリコンウェーハ、 11・・・コレクタコンタクト層、 12・・・絶縁膜、 13・・・p型ポリシリコン層、 14・・・引き出し電極、 15、15b・・・p型SiGe層、 15a・・・p型ベース層、 17・・・絶縁膜、 18・・・ポリシリコン膜、 23・・・n型シリコン層、 28・・・層間絶縁膜、 31、32・・・開口、 34・・・コンタクトホール、 35・・・コンタクト配線、 36・・・配線、 41、42・・・レジストマスク、 50・・・成長室、 52・・・サセプタ、 53・・・ヒータ、 55、57、58・・・主配管、 56・・・メインバルブ、 60、61、62・・・バイパス配管、 63、64・・・アイソレーションバルブ、 65・・・オリフィス、 66・・・常圧配管、 70・・・真空ポンプ、 71、72、73、74・・・マスフローコントローラ、 75・・・ガス導入管、 80・・・除害ユニット、 82・・・圧力ゲージ、 85・・・温度コントローラ、 90・・・コントロールユニット、 100・・・半導体装置、 200・・・半導体製造装置
【技術分野】
【0001】
本発明の実施態様は、半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信の需要拡大にともない、通信用半導体装置の高性能化が望まれている。例えば、バイポーラートランジスター(Bipolar junction transistor:BJT)は、低雑音の高周波増幅器として無線通信装置に多用されているが、通信システムの大容量化のために高周波帯でのさらなる低雑音化が望まれている。BJTの雑音指数を低減するためには、遮断周波数fTを高くすることが効果的であり、そのためにベース層を薄層化できる技術の検討が進められている。
【0003】
例えば、シリコン(Si)を材料とするnpn型のBJTでは、ベース層にドープされるp型ドーパント(ボロン:B)の濃度プロファイルが急峻となるように、すなわち、p領域の厚さが薄く高濃度となるように形成する必要がある。したがって、ベース層の後に形成されるエミッタ層の形成工程では、ベース層の急峻な不純物プロファイルを維持することがポイントになる。
エミッタ層の形成において、Siウェーハに不純物をドープする方法として汎用されているイオン注入法では、注入した不純物を活性化するために高温の熱処理が必要であり、熱処理過程におけるベース層の不純物の拡散を抑制することが難しい。このため、急峻な濃度プロファイルのベース層を有したBJTのエミッタ層を形成するには不向きな技術であった。
【0004】
そこで、一つの解決策として、所望の濃度プロファイルが形成されたベース層上に、エミッタ層をエピタキシャル成長する方法が用いられている。例えば、低温でエピタキシャル成長することにより、ベース層にドープされたp型不純物の拡散を抑制し、p領域の厚さが薄い急峻な濃度プロファイルを実現することができる。
【0005】
一方、雑音指数の低減のためには電流増幅率hFEを高くすることも有効であり、そのためには、エミッタ層にドープされるn型不純物を高濃度化する必要もある。そこで、従来よりも幅の狭いベース層と不純物濃度が高いエミッタ層とを形成できる技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−114190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の実施形態は、ベース層の幅を狭く形成しエミッタ層の不純物濃度を高くした低雑音特性を有する半導体装置の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施形態に係る半導体装置の製造方法は、第1導電型の第1半導体層の上に第2導電型の第2半導体層を成長する半導体装置の製造方法であって、前記第1半導体層の表面を常圧よりも低い圧力の還元性雰囲気に曝して熱処理する工程と、前記第1半導体層の表面上に、前記第2半導体層を常圧の雰囲気でエピタキシャル成長する工程と、を備えたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】一実施形態に係る半導体装置の部分断面を示す模式図である。
【図2】一実施形態に係る半導体装置の製造過程を示す部分断面図であり、(a)は、ベースの引き出し電極となる低抵抗のポリシリコン層が形成された状態、(b)は、コレクタ層の上にベース層が形成された状態を示している。
【図3】一実施形態に係る半導体装置の製造過程を示す部分断面図であり、(a)は、ポリシリコン層がパターニングされベースの引き出し電極が形成された状態、(b)は、引き出し電極とエミッタ層との間を絶縁する絶縁膜が形成された状態を示している。
【図4】一実施形態に係る半導体装置の製造過程を示す部分断面図であり、(a)は、ベース層の上に形成された絶縁膜を除去するための開口を有するレジストマスクが形成された状態、(b)は、ベース層上にエミッタ層が形成された状態を示している。
【図5】一実施形態に係る半導体装置の製造過程を示す部分断面図であり、(a)は、エミッタ層がパターニングされた状態、(b)は、エミッタ層、ベース層およびコレクタ層に電気的に接続した配線が形成された状態を示している。
【図6】一実施形態に係る半導体製造装置の構成を示すブロック図である。
【図7】一実施形態に係る製造過程をしめすフローチャートである。
【図8】一実施形態に係る製造過程における処理温度を示すグラフである。
【図9】一実施形態に係る半導体装置のエミッタ層の不純物プロファイルを示すグラフである。
【図10】比較例に係る半導体装置のエミッタ層の不純物プロファイルを示すグラフである。
【図11】比較例に係る半導体装置のエミッタ層の不純物濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施形態では、図面中の同一部分には同一番号を付してその詳しい説明は適宜省略し、異なる部分について適宜説明する。第1導電型をp型、第2導電型をn型として説明する。
【0011】
図1は、一実施形態として例示する半導体装置100の部分断面を示す模式図である。半導体装置100は、p型ベース層15aにゲルマニウム(Ge)とシリコン(Si)とを含む混晶を用いたSiGe−HBT (Hetero-junction Bipolar Transistor)であり、Si−BJTよりも遮断周波数fTが高く低雑音の半導体装置を実現することができる。
【0012】
半導体装置100は、例えば、p型シリコン基板2の表面に選択的に設けられたn+コレクタ領域4とを備えている。n+コレクタ領域4は、p型シリコン基板2の表面に、例えば、砒素(As)などのn型不純物を選択的にイオン注入することによって形成することができる。
【0013】
n+コレクタ領域4の上には、n型コレクタ層5が設けられている。n型コレクタ層5は、p型シリコン基板2の上にn型のシリコン層をエピタキシャル成長することにより設けることができる。さらに、n型コレクタ層5の表面を選択的に熱酸化することにより、フィールド酸化膜8が形成されている。フィールド酸化膜8は、n型コレクタ層5の表面に設けられたp型ベース層15aとn+コンタクト領域7とを電気的に分離している。
n+コンタクト領域7は、隣り合うフィールド酸化膜8の間に挟まれたn型コレクタ層5の表面からn+コレクタ領域4に達する深さに形成されている。
【0014】
p型ベース層15aには、p型ポリシリコン層13が電気的に接続されている。p型ポリシリコン層13は、絶縁膜12を介してn型コレクタ層5の上に設けられており、n型コレクタ層5から電気的に絶縁されている。
【0015】
さらに、p型ポリシリコン層13の上には、p型SiGe層15bが設けられている。p型SiGe層15bは、n型コレクタ層5の表面にp型ベース層15aを設ける際に、同時にエピタキシャル成長されたSiGeの多結晶であり、p型ポリシリコン層13とともにp型ベース層15aからの引き出し電極14を形成している。
【0016】
p型ベース層15aの上には、絶縁膜17を介してn型エミッタ層9が設けられている。後述するように、n型エミッタ層9は、p型ベース層15aの表面にエピタキシャル成長されたn型シリコン層23がパターニングされたものである。
n型コレクタ層5およびp型ベース層15a、n型エミッタ層9が設けられた素子領域の外周には、素子間分離のためにn型コレクタ層5の表面から基板2に達するp型シリコン領域6が設けられている。
【0017】
さらに、n型エミッタ層9およびp型ベース層15aの引き出し電極14、コレクタコンタクト層11を覆って層間絶縁膜28が設けられている。層間絶縁膜28には、コンタクトホール34が設けられコンタクト配線35が埋め込まれている。
コンタクト配線35は、n型エミッタ層9およびp型ベース層15aの引き出し電極14、コレクタコンタクト層11と、配線36と、の間をそれぞれ電気的に接続している。
【0018】
本実施形態に係る半導体装置100を低雑音の高周波増幅器として機能させるためには、SiGe混晶からなるp型ベース層15aを薄く形成し、さらに、n型エミッタ層9とp型ベース層15aとの間の界面近傍におけるn型エミッタ層9のn型不純物濃度が高いことが望ましい。
【0019】
前述したように、npn型BJTのn型エミッタ層を形成するためにはいくつかの方法が知られている。最も簡便な方法は、p型ベース層15aの上にポリシリコン膜を形成し、n型不純物(例えば、V族元素のPやAsが使われる)をイオン注入してn型エミッタ層9とする方法である。しかしながら、この方法では、イオン注入後の熱処理過程における不純物の拡散を制御することが難しく、急峻なエミッタ・ベース接合を得ることが難しい。すなわち、ポリシリコン膜にイオン注入したn型不純物が拡散してピーク濃度が低下し、さらに、p型ベース層15aにドープされたp型不純物が拡散してベース層の幅が広くなるという問題がある。
【0020】
この問題を解決する技術として、n型エミッタ層9となるn型シリコン層をエピタキシャル成長法により形成する方法がある。この方法では、エピタキシャル成長中にn型不純物をドープすることができるので、イオン注入を用いる方法よりも急峻なエミッタ・ベース接合を形成することができる。
【0021】
次に、半導体装置100の製造方法について、図2〜5を参照して説明する。
図2〜図5は、半導体装置100の製造過程を模式的に示すシリコンウェーハ10の部分断面図である。
【0022】
図2(a)は、p型ベース層15aの引き出し電極となるp型ポリシリコン層13が形成された状態を示している。
p型シリコン基板2の表面に、n+コレクタ領域4が選択的に形成され、さらに、n型コレクタ層5が積層されている。n型コレクタ層5の表面には、選択的に熱酸化されたフィールド酸化膜8が設けられ、さらに、n型コレクタ層5の表面からn+コレクタ領域4に接する深さに形成されたn+コンタクト領域7が設けられている。そして、BJT構造が形成される素子領域の周辺には、素子間分離領域であるp型シリコン領域6が形成されている。
上記の構造は、良く知られたBiCMOS(Bipolar Complementary Metal Oxide Semiconductor)プロセスを用いて形成することができる。
【0023】
さらに、n型コレクタ層5およびフィールド酸化膜8、n+コンタクト領域7の表面に絶縁膜12およびp型ポリシリコン層13を順に形成する。p型ベース層15aが設けられる部分には、絶縁膜12およびp型ポリシリコン層13をエッチングして選択的に除去した開口31を設ける。
【0024】
次に、図2(b)に示すように、シリコンウェーハ10の表面にp型SiGe層15をエピタキシャル成長する。n型コレクタ層5が露出した開口31には、p型ベース層15aとなるSiGe層が形成される。
【0025】
続いて、図3(a)に示すように、p型SiGe層15とp型ポリシリコン層13とがパターニングされ、フィールド酸化膜8の上にp型ベース層15aに接続した引き出し電極14が形成される。同時に、n+コンタクト領域7の表面に形成された絶縁膜12もエッチングされて除去される。
次に、図3(b)に示すように、引き出し電極14とn型エミッタ層9との間を絶縁する絶縁膜17とポリシリコン膜18とが形成される。
【0026】
続いて、図4(a)に示すように、p型ベース層15aおよびn+コンタクト領域7の上に開口32および33を有するレジストマスク41が形成され、絶縁膜17とポリシリコン膜18がエッチングにより除去される。
【0027】
次に、図4(b)に示すように、n型エミッタ層9となるn型シリコン層23が、シリコンウェーハ10の表面にエピタキシャル成長される。この際、絶縁膜17およびポリシリコン膜18が除去されたp型ベース層15aの表面に急峻なエミッタ・ベース接合を形成するために、後述する成長前ベークおよびエピタキシャル成長の条件を用いる。すなわち、p型ベース層15aにドープされたp型不純物の濃度プロファイルの変化を抑制し、p型ベース層15aとn型シリコン層23との界面近傍におけるn型シリコン層23のn型不純物濃度が高くなるようにエピタキシャル成長を実施する。
【0028】
続いて、図5(a)に示すように、レジストマスク42を用いて選択的にn型シリコン層23をエッチングすることにより、n型エミッタ層9およびコレクタコンタクト層11を形成する。
【0029】
さらに、図5(b)に示すように、シリコンウェーハ10の表面に層間絶縁膜28を形成し、n型エミッタ層9およびp型ベース層15a、n型コレクタ層5に電気的に接続したコンタクト配線35と、層間配線36と、を形成して半導体装置100を完成する。
【0030】
次に、n型エミッタ層9となるn型シリコン層23のエピタキシャル成長について、詳細に説明する。
図6は、n型シリコン層23をエピタキシャル成長する半導体製造装置200の構成を例示するブロック図である。
【0031】
半導体製造装置200では、例えば、シリコンウェーハ10は、成長室50の内部に設けられたサセプタ52の上に載置される。サセプタ52に載置されたシリコンウェーハ10は、成長室50の外に設置された温度コントローラ85によって制御されるヒータ53によって所定の温度に加熱される。
【0032】
成長室50の内部は、主配管55〜58と真空ポンプ70とからなる真空排気系により減圧することができる。主配管55〜58には、メインバルブ56および真空ポンプ70、除害ユニット80が接続されている。メインバルブ56には、例えば、バタフライ弁を有し開閉度を制御できるバルブを用いることができる。除害ユニット80は、エピタキシャル成長の原料ガスに含まれる有害物質を除去し、無害化されたガスを外部に排出するために設置されている。
【0033】
さらに、主配管55と主配管57との間に設けられ、メインバルブ56をバイパスする配管60〜62が設けられている。バイパス配管60〜62には、アイソレーションバルブ63および流量制御バルブ(オリフィス)65が接続されている。さらに、真空ポンプ70を経由せずに成長室50から除害ユニット80へガスを排気する常圧配管66が設けられている。常圧配管66には、アイソレーションバルブ64が接続されている。
【0034】
一方、成長室50には、エピタキシャル成長の原料ガスを供給するガス導入管75が設けられている。ガス導入管75には、マスフローコントローラ71〜74を介して4系統のガスラインが接続されている。例えば、原料ガスを成長室50の内部に搬送するためのキャリアガスである水素(H2)、原料ガスであるモノシラン(SiH4)、ゲルマン(GeH4)、および、不純物をドープするためのドーピングガスとしてホスフィン(PH3)を接続することができる。
【0035】
さらに、半導体製造装置200は、コントロールユニット90を備えている。
コントロールユニット90は、メインバルブ56およびアイソレーションバルブ63および64を制御して、成長室50の排気状態を減圧モードまたは常圧モードに制御する。
【0036】
ここで、減圧モードとは、ガス導入管75から成長室50の内部にガスが供給され、同時に、成長室50の内部から真空ポンプ70によりガスが排気される減圧状態を言う。一方、常圧モードとは、ガス導入管75から成長室50の内部にガスが供給され、成長室50の内圧によりガスが自然排気されている状態を言う。
【0037】
コントロールユニット90は、主配管55〜58を介して真空ポンプ70により成長室50の内部からガスを排気し、一旦、高真空に減圧する。続いて、ガス導入管75から成長室50の内部にガスを供給し、メインバルブ56の開閉度を調整して成長室50の内部を減圧状態にし、一定の圧力に制御することができる。例えば、成長室50に取り付けられた圧力ゲージ82が検出する圧力に応じてメインバルブ56の開閉度を制御し、成長室50の内部を一定の圧力に保持することができる。
【0038】
さらに、減圧モードから常圧モードに移行する際は、例えば、メインバルブ56を閉じ、成長室50の内圧が所定の値を超えた時に、アイソレーションバルブ63を開けてバイパス配管60〜62を介した排気に切り替える。バイパス配管60〜62に設けられたオリフィス65により排気量が制限されるため、成長室50の内圧は徐々に上昇する。この際、ガス導入管75から成長室50に供給されるガス流量を変化させて、成長室50の内圧の上昇率を制御しても良い。
【0039】
成長室50の内部が常圧になれば、コントロールユニット90は、アイソレーションバルブ63を閉じ、続いて、アイソレーションバルブ64を開いて常圧配管66を介した排気に切り替えることができる。これにより、成長室50の内部は常圧モードとなり、ガス導入管75から供給されるガスを常圧配管66を介して除害ユニット80に自然排気する状態となる。ここで言う自然排気には、例えば、成長室50の内圧よりも低い除害ユニット80の排出側の背圧に吸引されてガスが排出されるような場合も含まれる。
【0040】
さらに、コントロールユニット90は、マスフローコントローラ71〜74を制御して、成長室50に流入するガスの流量を制御する。また、図示しない温度センサによりサセプタ52の温度を検出し、温度コントローラ85を制御して、サセプタ52に載置されたシリコンウェーハ10の温度を制御することができる。
【0041】
次に、本実施形態に係る半導体装置100の製造方法、すなわち、半導体製造装置200により、p型ベース層15aの上にn型エミッタ層9となるn型シリコン層23をエピタキシャル成長する過程について説明する。
【0042】
本実施形態に係る製造方法は、第1半導体層であるp型ベース層15aの上に第2半導体層であるn型シリコン層23を成長する際に、第1半導体層の表面を常圧よりも低い圧力の還元性雰囲気に曝して熱処理(ベーク)する工程と、第1半導体層の表面上に、第2半導体層を常圧の雰囲気でエピタキシャル成長する工程と、を備えている。
【0043】
図7は、本実施形態に係る製造過程の一例を示すフローチャートである。
本実施形態に係る製造過程は、n型エミッタ層9となるn型シリコン層23の結晶性を向上させるために行われる成長前ベーク工程(S02〜S04)と、n型シリコン層23のエピタキシャル成長工程(S05〜S07)とを有している。さらに、下地となる半導体層にドープされた不純物の拡散を抑制し、より高濃度の不純物を含む半導体層を成長するために、エピタキシャル成長前のベーク工程とエピタキシャル成長工程とを、それぞれに適した条件で実行する。
【0044】
以下、本実施形態に係る製造過程を、図6〜図8を参照して詳細に説明する。
まず、成長室50にシリコンウェーハ10を搬入し、サセプタ52の上に載置する(S01)。
次に、成長室50の内部を減圧し、還元性の雰囲気に置換する(S02)。
【0045】
具体的には、コントロールユニット90は、メインバルブ56を開き、主配管55〜58に接続された真空ポンプ70により成長室50の内部を高真空(例えば、1×10‐5Torr以下の真空度)に排気する。続いて、ガス導入管75より、例えば、還元性のH2ガスをキャリアガスとして成長室50に導入する。さらに、メインバルブ56の開閉度を調整して成長室50の内部を一定の圧力に維持する。
【0046】
これにより、成長室50の内部を還元性のH2ガスに置換された減圧雰囲気にすることができる。キャリアガスとして、例えば、アルゴン(Ar)など、不活性ガスを用いる場合には、H2ガスを添加することにより、成長室50の内部を還元性の雰囲気とすることができる。
【0047】
次に、ヒータ53によりサセプタ52の温度を上昇させてシリコンウェーハ10を加熱する(S03)。例えば、図8は、シリコンウェーハ10の処理温度の時間変化を例示するグラフである。
シリコンウェーハ10は、所定の初期温度T0に保持されたサセプタ52に載置される。初期温度T0は、シリコンウェーハ10に熱衝撃を与えない温度、例えば、400℃以下に設定することができる。
【0048】
続いて、成長室50の内部を還元性の雰囲気に置換した後、サセプタ52の温度を上げてシリコンウェーハ10を加熱する(t1〜t2)。この際、加熱レートを約3℃/秒とすることができる。さらに、サセプタ52の温度が最高温度Taに達したらヒータ53を止めて、冷却を開始する。
【0049】
次に、成長室50の内部を常圧に戻す(S05)。前述したように、メインバルブ56を閉じ、バイパス配管60〜62を介した排気により成長室50の内圧を徐々に上昇させ、さらに、常圧配管66を介した排気に切替えることにより、減圧モードから常圧モードに切り替えることができる。
減圧モードから常圧モードへの切り替えは、サセプタ52の冷却を開始した後、成長温度Tgに達するまでの間(t2〜t3)に実施しても良いし、成長温度Tgに達した後に実施することもできる。
【0050】
次に、サセプタ52が冷却されて成長温度Tgに達し、成長室50の内部が常圧モードに切り替わっていれば、エピタキシャル成長を開始する(S06)。
具体的には、コントロールユニット90が、温度コントローラ85を制御してサセプタ52の温度を成長温度Tgに保持する。さらに、成長室50の内部が常圧に復帰し、ガス排気が自然排気に切り替わった後に、ガス導入管75から原料ガスSiH4およびドーピングガスPH3を成長室50に流入させてn型シリコン層23の成長を開始する。
【0051】
n型シリコン層23が所定の厚さになったら、原料ガスSiH4およびドーピングガスPH3を遮断してエピタキシャル成長を停止させる(S07)。
例えば、予め測定したn型シリコンの成長速度に基づいて成長時間を設定し、その時間の経過後にガスを遮断しても良い。
【0052】
続いて、サセプタ52を冷却した後、成長室50からシリコンウェーハ10を取り出し、エピタキシャル成長を完了する(S08)。
【0053】
上記の半導体装置100の製造過程では、p型ベース層15aにドープされたBの濃度プロファイルを可能な限り変化させないようにする。このため、成長前ベークからn型シリコン層23のエピタキシャル成長の間に、シリコンウェーハ10に与えられる熱量を抑制する。この過程で最も熱量が多く付加されるのは成長前のベーク工程であり、ベーク工程における最高到達温度Taを制限することが望ましい。
【0054】
図8に示す温度プロファイルでは、サセプタ52の温度が最高温度に到達した後、直ぐに冷却が開始される。これにより、ベーク工程(S02〜S04)においてシリコンウェーハ10に与えられる熱量を低減し、p型ベース層15a中のBの拡散を抑制することができる。
さらに、例えば、最高到達温度Taを900℃以下とすることにより、p型ベース層15aのBの拡散を抑制し、実質的なベース層の幅を狭く維持することができる。
【0055】
半導体装置100のp型ベース層15aの主要な部分はSiGe混晶で形成されるため、Si結晶との間に結晶組成の違いによる境界が存在し、これによりp型ベース層15aの幅を規定することができる。一方、HBTとしての動作特性を左右するベース幅は、p型ベース層15aにドープされたp型不純物により形成されるp型領域の幅である。p型ベース層15aにドープされたBがn型コレクタ層5またはn型エミッタ層9に向けて拡散すれば、p型ベース層15aの幅よりもp型領域の幅の方が広くなり両者は一致しない。そこで、ここで言う実質的なベース幅は、p型領域の幅を意味する。
【0056】
ベーク工程(S02〜S04)は、n型シリコン層23を成長するシリコンウェーハ10の表面に形成された自然酸化膜除去を目的として実施される。還元性のH2ガス雰囲気中で熱処理することにより、ウェーハ表面のシリコン原子と結合した酸素を解離させることができる。これにより、エピタキシャル成長直前において、自然酸化膜のない清浄なp型ベース層15aの表面を露出させることができる。その結果、シリコンウェーハ10の表面に形成されるn型シリコン層23に発生する結晶欠陥を低減することができる。
【0057】
例えば、p型ベース層15aの表面に自然酸化膜が残った状態でn型シリコン層23をエピタキシャル成長すると、n型エミッタ層9となる部分に結晶欠陥が導入され結晶性が劣化する。そして、エミッタ・ベース接合界面における結晶性の劣化は、リーク電流を増大させトランジスターの特性を劣化させる。
【0058】
表1は、大気圧下のH2雰囲気において温度を変えてベーク処理を実施した試料1〜3の表面に残留する酸素の面密度を示している。残留酸素の量は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)法を用いて測定されたものである。処理温度は、ベーク工程における最高到達温度Taである。
【表1】
【0059】
シリコンウェーハの表面に形成される自然酸化膜は、還元性雰囲気中において高温で熱処理することにより除去することができる。表1に示す実験結果では、熱処理温度が高い試料ほど表面において検出される酸素の量が減少している。しかしながら、900℃の温度で処理した試料3においても、表面に酸素が残留していることがわかる。すなわち、シリコンウェーハの表面に自然酸化膜が残ることを示している。
【0060】
これに対し、表2は、減圧下のH2雰囲気で温度を変えてベーク処理を実施した試料1〜5の表面に残留する酸素の面密度を示している。ベーク処理時の成長室50の内圧は、約80Torrである。
【表2】
【0061】
表2に示すように、800℃で処理した試料1の表面において残留酸素が検出されている。一方、825℃以上の温度で処理した試料2〜5では、残留酸素の量はSIMSの検出限界以下、N.D.(Not Detected)となっており、試料表面の自然酸化膜は除去されたものと考えられる。
【0062】
なお、ベーク処理時の成長室50の内圧を約20Torrとしても、800℃以上の温度でベーク処理することによりシリコンウェーハ表面の自然酸化膜を除去することができた。したがって、少なくとも20〜80Torrの減圧下において、800℃以上のベーク処理により自然酸化膜を除去することができる。
【0063】
このように、成長前ベーク処理によりシリコンウェーハの自然酸化膜を除去するには、大気圧(常圧)の還元性雰囲気では900℃以上の温度で処理する必要があるのに対し、減圧下の雰囲気では、900℃より低温の処理で自然酸化膜を除去することが可能となる。
【0064】
前述したように、p型ベース層15aにドープされたBの拡散を抑制するためには、900℃以下で熱処理することが望ましい。したがって、常圧下のベークでは、p型ベース層15aにドープされたBを拡散させないで、p型ベース層15aの表面の自然酸化膜を除去することは難しいことが分かる。
【0065】
一方、減圧下では、900℃以下の温度でベークすることにより、p型ベース層15aの表面の自然酸化膜を除去することが可能である。すなわち、p型ベース層15aにドープされたBの拡散を抑制して、p型ベース層15aの表面の自然酸化膜を除去することが可能である。
【0066】
次に、ベーク工程の後に実施されるエピタキシャル成長の条件について説明する。
上述したように、ベーク工程は、減圧下の還元性雰囲気で行われることが好ましい。
ベーク工程を減圧下で実施した場合、続いて実施されるエピタキシャル成長も減圧下で実施される場合が多い。これは、エピタキシャル成長される結晶の品質を向上させるために、下地となるウェーハの表面を清浄化した直後に結晶成長を行うことが好ましいと考えられているからである。すなわち、成長前のベーク処理を減圧下で実施する場合は、エピタキシャル成長にスムーズに移行するために減圧成長が選択されている。
【0067】
しかしながら、減圧下のエピタキシャル成長では、成長速度が遅くスループットが低下すること、また、不純物のドーピング濃度を高くできないことが問題となる。
具体的には、n型エミッタ層9に求められる1×1020cm−3以上の不純物濃度を有するシリコン層を形成することが難しいという問題がある。
【0068】
図10に、比較例に係る半導体装置のエミッタ層の不純物プロファイルを示す。SIMS法を用いて測定されたn型不純物であるリン(P)の濃度プロファイルである。グラフの原点がエミッタ層の表面に該当し、深さ方向の不純物分布を示している。
【0069】
エピタキシャル成長は、減圧下(80Torr)で実施され、成長温度Tgは、680℃および720℃の2条件である。さらに、ドーピングガスであるPH3の流量170SCCMおよび420SCCMの2条件を組み合わせた3つの試料のデータA〜Cが示されている。
グラフの横軸に示す深さ方向において、各プロファイルのP濃度が立ち上がるところが、エミッタ層の成長開始の領域に該当し、エミッタ・ベース界面の近傍の不純物濃度を示している。
【0070】
Tgが680℃のデータA、Bの比較において、PH3の導入量を170SCCMから420SCCMに増加させることにより、エミッタ・ベース界面近傍のP濃度が増加することがわかる。さらに、PH3の導入量を170SCCMとしたデータA、Cの比較から、Tgを720℃から680℃へ下げてもP濃度が増加することがわかる。しかし、いずれのデータにおいても、エミッタ・ベース界面近傍のP濃度は、1×1020cm−3を超えていない。
【0071】
一方、データA〜Cに共通して、グラフ中の原点方向、すなわちエミッタ層の表面に向かう方向においてP濃度は増加し、1×1020cm−3を超える濃度となっている。しかしながら、HBTの高性能化のためには、エミッタ・ベースの接合界面において急峻なpn接合が形成される必要があり、図10に示されたエミッタ・ベース界面近傍のn型不純物(P)濃度では不十分である。
【0072】
図11は、比較例に係る半導体装置のエミッタ層のP濃度を、ドーピングガスPH3の希釈量に対して示したグラフである。縦軸は、エミッタ・ベース界面近傍におけるP濃度を示している。横軸は、成長室50に導入されるPH3に加えられる希釈水素の流量を示している。
【0073】
図11中にプロットしたデータによれば、希釈水素の量を増やすとP濃度は低下する。一方、希釈水素を全く加えない場合でも、P濃度は1×1020cm−3を超えないことがわかる。
したがって、減圧下のエピタキシャル成長では、ドーピングガスPH3の希釈率を下げて導入量を増加させても、また、成膜温度Tgを下げたとしても、1×1020cm−3を超えるエミッタ・ベース界面近傍のP濃度が得られないことがわかる。
【0074】
これに対し、図9は、本実施形態に係る半導体装置100のn型エミッタ層9のP濃度のプロファイルを示す。常圧下において、Tgを720℃、700℃、680℃としてエピタキシャル成長し、さらに、PH3の流量170SCCMおよび420SCCMを組み合わせた4条件に対応するデータA〜Dが示されている。
【0075】
図9に示す濃度プロファイルによれば、データA〜Dに対応するいずれの成長条件においても、エミッタ・ベース界面近傍におけるP濃度は、1×1020cm−3を超えている。データA〜Cの比較において、エミッタ・ベース界面近傍におけるPのピーク濃度は、Tgを下げるほど高くなることがわかる。また、データCおよびDの比較から、PH3の導入量を増やすことによってもP濃度が上昇することがわかる。
【0076】
図9に示す常圧下の成長の結果と、図10に示す減圧下の成長の結果とを比較すると、減圧下のエピタキシャル成長に比べ、常圧下の方がエミッタ・ベースの界面近傍におけるP濃度を著しく上昇させることが分かる。また、エミッタ・ベースの界面近傍におけるP濃度は、成長温度TgおよびPH3の導入量に依存し、成長温度TgおよびPH3の導入量を変えた時のP濃度の変化も、常圧下のエピタキシャル成長の方が大きいことが分かる。
【0077】
さらに、エピタキシャル成長を常圧で実施することにより、n型シリコン層23の成長速度の速くすることができる。例えば、250nmのシリコン層を成長するために、80Torrの減圧条件では28分を要するのに対して、常圧では僅かに8分を要するに過ぎない。したがって、n型エミッタ層9となるn型シリコン層23を常圧でエピタキシャル成長することにより、スループットを大幅に短縮し製造コストを低減することが可能となる。
【0078】
以上、詳細に説明したように、本実施形態に係る半導体装置100の製造方法では、n型エミッタ層9となるn型シリコン層23の形成過程において、減圧下の還元性雰囲気でベーク処理を実施し、その後、成長室50を常圧に切り替えてエピタキシャル成長を実施する。
【0079】
半導体装置100の製造に適した圧力条件は、ベーク処理とエピタキシャル成長との間で異なる。そこで、それぞれに適した条件で実行することにより、ベース層の実質的な幅を狭く維持し、さらに、エミッタ層の濃度を上げてエミッタ・ベース接合を急峻なpn接合とすることができる。これにより、半導体装置100の遮断周波数fTを向上させ、雑音特性を低減することができる。
【0080】
従来のエピタキシャル成長では、成長前ベークを減圧下で実施した場合、エピタキシャル成長も減圧下で実施することが通常であった。すなわち、ベーク処理により清浄化した下地の表面を清浄化した直後にエピタキシャル成長を実施することが望ましいとされてきたからである。
【0081】
これに対し、本実施形態では、減圧下のH2雰囲気でベーク処理を行うことにより、p型ベース層15aの自然酸化膜が十分に除去され清浄な表面を得ることができる。そして、その表面にエピタキシャル成長することにより、シリコン層の結晶性を向上させエミッタ・ベース間のリーク電流を減少させることができる。
【0082】
さらに、エピタキシャル成長を常圧で実施することにより、n型不純物の濃度が1×1020cm−3を超える高濃度のエミッタ層を形成することが可能となり、急峻なエミッタ・ベース接合が得られる。これにより、半導体装置100の雑音特性を向上させることができる。
【0083】
以上、本発明に係る一実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。例えば、出願時の技術水準に基づいて、当業者がなし得る設計変更や、材料の変更等、本発明と技術的思想を同じとする実施態様も本発明の技術的範囲に含有される。
【符号の説明】
【0084】
2・・・p型シリコン基板、 4・・・n+コレクタ領域、 5・・・n型コレクタ層、 6・・・p型シリコン領域、 7・・・n+コンタクト領域、 8・・・フィールド酸化膜、 9・・・n型エミッタ層、 10・・・シリコンウェーハ、 11・・・コレクタコンタクト層、 12・・・絶縁膜、 13・・・p型ポリシリコン層、 14・・・引き出し電極、 15、15b・・・p型SiGe層、 15a・・・p型ベース層、 17・・・絶縁膜、 18・・・ポリシリコン膜、 23・・・n型シリコン層、 28・・・層間絶縁膜、 31、32・・・開口、 34・・・コンタクトホール、 35・・・コンタクト配線、 36・・・配線、 41、42・・・レジストマスク、 50・・・成長室、 52・・・サセプタ、 53・・・ヒータ、 55、57、58・・・主配管、 56・・・メインバルブ、 60、61、62・・・バイパス配管、 63、64・・・アイソレーションバルブ、 65・・・オリフィス、 66・・・常圧配管、 70・・・真空ポンプ、 71、72、73、74・・・マスフローコントローラ、 75・・・ガス導入管、 80・・・除害ユニット、 82・・・圧力ゲージ、 85・・・温度コントローラ、 90・・・コントロールユニット、 100・・・半導体装置、 200・・・半導体製造装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の第1半導体層の上に第2導電型の第2半導体層を成長する半導体装置の製造方法であって、
前記第1半導体層の表面を常圧よりも低い圧力の還元性雰囲気に曝して熱処理する工程と、
前記第1半導体層の表面上に、前記第2半導体層を常圧の雰囲気でエピタキシャル成長する工程と、
を備えたことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
第1導電型の第1半導体層が設けられた基板の上に第2導電型の第2半導体層を成長する半導体装置の製造方法であって、
前記基板を載置した成長室の内部に還元性ガスを供給し、前記成長室に接続された真空排気系により前記還元性ガスを排気しながら前記基板を熱処理する工程と、
前記還元性ガスを供給しながら前記真空排気系を遮断し、前記成長室の内部の圧力を上昇させて自然排気に切り替える工程と、
前記第2半導体層の原料ガスと前記第2導電性の不純物元素を含むドーピングガスとを前記成長室の内部に供給し、前記成長室から前記原料ガスと前記ドーピングガスとを自然排気しながら前記第2半導体層をエピタキシャル成長する工程と、
を備えたことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1半導体層は、ゲルマニウム(Ge)とシリコン(Si)とを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記エピタキシャル成長の温度は、前記熱処理における最高到達温度よりも低いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理における最高到達温度は、800℃以上、900℃未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項1】
第1導電型の第1半導体層の上に第2導電型の第2半導体層を成長する半導体装置の製造方法であって、
前記第1半導体層の表面を常圧よりも低い圧力の還元性雰囲気に曝して熱処理する工程と、
前記第1半導体層の表面上に、前記第2半導体層を常圧の雰囲気でエピタキシャル成長する工程と、
を備えたことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
第1導電型の第1半導体層が設けられた基板の上に第2導電型の第2半導体層を成長する半導体装置の製造方法であって、
前記基板を載置した成長室の内部に還元性ガスを供給し、前記成長室に接続された真空排気系により前記還元性ガスを排気しながら前記基板を熱処理する工程と、
前記還元性ガスを供給しながら前記真空排気系を遮断し、前記成長室の内部の圧力を上昇させて自然排気に切り替える工程と、
前記第2半導体層の原料ガスと前記第2導電性の不純物元素を含むドーピングガスとを前記成長室の内部に供給し、前記成長室から前記原料ガスと前記ドーピングガスとを自然排気しながら前記第2半導体層をエピタキシャル成長する工程と、
を備えたことを特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項3】
前記第1半導体層は、ゲルマニウム(Ge)とシリコン(Si)とを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置の製造方法。
【請求項4】
前記エピタキシャル成長の温度は、前記熱処理における最高到達温度よりも低いことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【請求項5】
前記熱処理における最高到達温度は、800℃以上、900℃未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の半導体装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図11】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−249386(P2011−249386A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118129(P2010−118129)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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