説明

半導体装置

【課題】 パッケージに封止される半導体素子は、使用環境によって湿度の影響を受けて、半導体素子の劣化が起こることがある。パッケージに実装することが容易で、半導体素子周囲の湿度・水分量を測定・記録できる湿度センサを得る。
【解決手段】 半導体基板2上に形成した絶縁膜7の上に、水溶性金属の薄膜8を用いた湿度センサ6を形成し、水溶性金属の薄膜8の抵抗を測定する。水溶性金属とは、電位−pH図において、電位がゼロ、pHが7付近で腐食域にある金属を意味する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、パッケージ内部の湿度を測定する湿度センサを備えた半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車載用MMICなど過酷な環境で用いられる半導体素子は、通常、気密封止できるパッケージに実装して用いられるが、パッケージ内部の残留水分や気密性の低下などにより半導体素子の不良が発生することがある。また、プラスチップ・パッケージやモールド・パッケージなど非気密パッケージに実装される半導体素子は、使用環境によって湿度の影響を受けて、半導体素子の劣化が起こることがある(たとえば、特許文献1参照)。
このため、半導体素子周囲の湿度・水分量を測定・記録する必要がある場合あるが、一般的な湿度センサはパッケージ内に挿入することが難しかった。また、挿入できたとしても、測定時点での湿度は測定できるが、それまでの湿度の履歴を記録保持することが難しく、パッケージを開封すると内部の湿度の状態が不明になった。
そこで、たとえば、特許文献2には、半導体素子の一部にAl配線パターンを形成し、水分によるAl(アルミニウム)の腐食を利用して水分を検出する湿度センサの技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−335636号公報 (段落0007〜0010。)
【0004】
【特許文献2】特開昭61−166045号公報 (特許請求の範囲1〜4。p.220、下段右欄5行目〜9行目)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、このようなAlを用いた湿度センサは、Alの表面が不動態化するとそれ以上腐食が進まなくなるため、途中で湿度測定ができなくなることがあり、水分量が分からないという問題があった。
【0006】
この発明は、上述のような問題を解決するもので、途中でセンサとしての機能が失われることがない信頼性の高い湿度センサを備えた半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の半導体装置においては、半導体基板上に形成した絶縁膜の上に、一対の電極パッドに接続して形成された水溶性金属の薄膜からなる湿度センサを形成し、電極パッドとリード端子を接続する。
【発明の効果】
【0008】
この発明の半導体装置においては、水溶性金属の薄膜からなる湿度センサを用いるので、表面が不動態化して湿度測定ができなくなることがなく、信頼性の高い湿度センサを備えた半導体装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】この発明の実施の形態1における半導体装置の内部の図である。
【図2】この発明の実施の形態1における半導体装置の斜視図である。
【図3】この発明の実施の形態1における水溶性金属を説明する図である。
【図4】この発明の実施の形態3における湿度センサの図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
この発明を実施するための実施の形態1を、図1〜図3を用いて説明する。
図1は、MMICなどの半導体素子を実装した半導体装置の内部を上から見た図であり、1は半導体素子、2はたとえばGaAsからなる半導体基板である。半導体基板2の中央部には電子回路となるチップパターン3が形成され、周辺部にはボンディングパッド4が形成される。21はパッケージ、22は基板となるプレート、24はリード端子(電極端子)であり、半導体素子1がプレート22にハンダを用いてダイボンドされる。
ボンディングパッド4とリード24は、ワイヤボンド5で接続され、外部と電気信号の入出力が行われる。
【0011】
図2は、保護のためのキャップ23を取り付けた後の半導体装置の斜視図である。プレート22はセラミックやCu、CuWなどの金属、キャップ23は表面に金メッキが施されたCu、CuWなどの金属から成り、乾燥空気や窒素雰囲気中で気密封止される。
【0012】
半導体基板2上には、さらに湿度センサ6が形成される。この湿度センサは、半導体基板2の上に、絶縁膜7を介して形成された水溶性(腐食性)のある金属の配線パターン8を有し、配線パターン8の両端は金からなるボンディングパッド4aと4bに接続される。水溶性のある金属としては、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Mg(マグネシウム)、WSi(タングステン・シリコン合金)などを用いることができる。
このような湿度センサ6は、半導体基板2の上にチップパターン3を形成する際に、通常の半導体プロセス技術を用いて、同時に形成することができる。
さらにボンディングパッド4aと4bは、ワイヤボンド5aと5bにより、リード24aと24bにより接続される。ボンディングパッド4aと4bの間の抵抗を、通常の抵抗計(テスタ等)を用いて測定する。
【0013】
次に水溶性のある金属について説明する。
水環境にある金属の状態は、「電位−pH図」または「プルベー図」を用いて表すことができる。電位−pH図は、金属を水溶液中に浸し、pHと金属の電位(電極電位)を変化させたとき、金属とその金属イオンや酸化物との間の熱力学的平衡関係を示した図である。図3は、非特許文献1(M.POURBAIX著、「ATLAS OF ELECTROCHEMICAL EQUILIBRIA IN AQUEOUS SOLUTIONS」、PERGAMON PRESS、1966年)に示されている、Mo、W、Mg、Al、Au、Taの電位−pH図である。図の横軸はpHの値(酸性、中性、アルカリ性)、縦軸は溶液中の金属の電位(単位:V vs. SHE)であり、金属のイオン化が顕著に起こる腐食域、金属のイオン化がほとんど起こらない不感域、表面に安定な酸化物や水酸化物ができる不動態域に分けることができる。
【0014】
たとえばAlは、電位がゼロ、pHが7付近で、不動態ができ安定であるのに対し、Moは溶液への溶解による腐食域にあり、溶解(腐食)が起こることが分かる。この発明において、水溶性(腐食性)のある金属とは、Moのように、電位−pH図において、電位がゼロ、pHが7付近で、腐食域にある金属を意味する。図3では、Mo、W、Mgが水溶性のある金属であり、発明者の知見ではWSiも水溶性のある金属である。
【0015】
以上のように水溶性(腐食性)のある金属を用いて湿度センサを構成したので、残留水分や気密性の低下などによりパッケージ内の水分量(湿気)が増加すると、配線パターンが変性して抵抗値が変化する。Alのように表面が不動態化してそれ以上腐食が進まなくなることが無いので、抵抗値は、水分量に応じて変化する。従って、ボンディングパッド4aと4bの間の抵抗を測定すれば、非破壊でパッケージ内の水分量の変化を知ることができる。このような効果は、従来のAlを用いた湿度センサでは得られない。
【0016】
この発明では、半導体基板上に形成した絶縁膜の上に、水溶性金属の薄膜を用いた湿度センサを形成し、水溶性金属の薄膜の抵抗を測定するようにしたので、湿度センサがない場合と同様にパッケージに実装することができる。
水溶性(腐食性)のある金属を用いたので、Alのように表面が不動態化してそれ以上腐食が進まなくなることが無く、水分量に応じた変化を検出でき、信頼性の高い湿度センサが得られる。
電気的に常時監視することができるので、保守管理指標として用いることができる。
パッケージを開封せずに非破壊で水分の状態を知ることができるので、半導体素子が故障する前に、半導体素子を交換することができる。
半導体素子が故障し不良解析を行うためにパッケージを開封した際にも、配線パターンの状態が記録保持されるので、水分量増加が不良原因であるか否かを判別できる。
【0017】
以上の例では、気密パッケージの例を説明したが、プラスチップ・パッケージやモールド・パッケージなど非気密パッケージに用いてもよい。半導体基板上に湿度センサがあるので、半導体素子自身が受ける水分の影響を知ることができる。
また、配線パターン8は水溶性金属の薄膜であればよい。直線状である必要は無く、抵抗値を調整するため、S字状など任意の形状にしてもよい。絶縁膜との密着性を得るため、Niなどの密着層を間に挟んだ多層構造としてもよい。
【0018】
実施の形態2
実施の形態2では、半導体基板2の電位に対し、リード24aにバイアス電圧を加える。バイアス電圧は、電位−pH図における金属の電位(電極電位)により調整する。より腐食の起こりやすい電位や、逆に起こりにくい電位に設定することにより、水分の影響を調整できる。
また、電位がゼロ、pHが7付近で安定な金属でも、腐食域の電圧を印加することにより、湿度センサとして使用することができるようになり、金属の選択範囲(種類)を広げることができる。たとえば金のように、電位がゼロ、pHが7付近で安定な金属でも、電位を2V vs. SHEとすればよい。
なお、リード24bはリード24aと短絡してもよいし、あるいは、実施例1と同様に、抵抗計を用いてリード24aとリード24bの間の抵抗を測定してもよい。この場合、筐体が接地されていない、フローティング状態にできる抵抗計を用いる必要がある。
これにより実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0019】
実施の形態3
実施の形態3では、図4(a)のように、複数の配線パターンを設置し、配線パターンの幅、長さを変える。あるいは、図4(b)のように、同じ形状の配線パターンを用いて、水溶性金属の種類、または水溶性金属の厚さを変える。
これにより実施の形態1と同様の効果を得ることができるとともに、溶解レートを調整し、測定できる水分量の測定範囲を広げることができる。
【0020】
実施の形態4
実施の形態4では、キャップ23にガラスの窓を設け、目視により配線パターン8の状態を観察する。非破壊で水分の影響を知ることができ、半導体素子が故障する前に、半導体素子を交換することができ、保守管理が容易になる。
【0021】
上記の説明では、MMICなどの半導体素子上に湿度センサを形成したが、独立した基板上に配線パターン8を形成すれば、独立した湿度センサを得ることができる。
【符号の説明】
【0022】
1 半導体素子
2 半導体基板
3 チップパターン
4、4a、4b ボンディングパッド
5、5a、5b ワイヤボンド
6 湿度センサ
7 絶縁膜
8 配線パターン(水溶性金属の薄膜)
21 パッケージ
22 基板
23 キャップ
24、24a、24b リード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リード端子を有するパッケージに半導体素子が封止された半導体装置であって、
前記半導体素子が、
半導体基板と、
前記半導体基板の表面の少なくとも一部に形成された絶縁膜と、
前記絶縁膜上に形成された一対の電極パッドと、
前記電極パッドに接続して前記絶縁膜上に形成された水溶性金属の薄膜とを備え、
前記電極パッドと前記リード端子が接続されている
半導体装置。
【請求項2】
前記水溶性金属が、Mo、W、Mg、からなる群から選択されたひとつの金属、
またはWSi合金である請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記水溶性金属の薄膜に、
電位−pH図における腐食域となる電圧が印加される、
請求項1に記載の半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−142211(P2011−142211A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2035(P2010−2035)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】