単層カーボンナノチューブ類から形成された炭素繊維類
【課題】安価な炭素原料を使用して、適度の温度で単層(single-wall)カーボンナノチューブ類から多量の連続した巨視的炭素繊維を高収率、単一工程で製造する方法を提供することである。
【解決手段】単層カーボンナノチューブおよび無定形炭素汚染物質を含む混合物の精製法が開示される。該方法は、無定形炭素を除くのに十分な酸化条件下で該混合物を加熱した後、少なくとも約80重量%の単層カーボンナノチューブを含む生成物を回収する工程を包含する。長さが約5ないし500nmの管状炭素分子の製造法も開示される。該方法は、単層ナノチューブ含有材料を切断して長さが5−500nmの範囲の管状炭素分子混合物を作り、そして実質的に等しい長さの分子の一部を単離する工程を包含する。このナノチューブは、単数又は複数で送電ケーブル、太陽電池、電池に、アンテナ、モレキュラーエレクトロニクス、プローブおよびマニプレーターとして、ならびに複合材料に用いることができる。
【解決手段】単層カーボンナノチューブおよび無定形炭素汚染物質を含む混合物の精製法が開示される。該方法は、無定形炭素を除くのに十分な酸化条件下で該混合物を加熱した後、少なくとも約80重量%の単層カーボンナノチューブを含む生成物を回収する工程を包含する。長さが約5ないし500nmの管状炭素分子の製造法も開示される。該方法は、単層ナノチューブ含有材料を切断して長さが5−500nmの範囲の管状炭素分子混合物を作り、そして実質的に等しい長さの分子の一部を単離する工程を包含する。このナノチューブは、単数又は複数で送電ケーブル、太陽電池、電池に、アンテナ、モレキュラーエレクトロニクス、プローブおよびマニプレーターとして、ならびに複合材料に用いることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
【背景技術】
【0002】
フラーレン類は、六角形及び五角形で配置されたsp2混成炭素のみから成る閉じたかご形分子である。フラーレン類(例えば、C60)は、蒸気化した炭素から凝縮により産出された閉じた球状のかご類として最初に同定された。
【0003】
フラーレンチューブ類は、蒸気化した炭素から球状のフラーレン類を製造する炭素アーク法における陽極上の炭素堆積物中に産出される。エッベセン(Ebbe
sen)ら[エッベセンI(Ebbesen I)]、「カーボンナノチューブの大規模合成(Large-Scale Synthesis Of Carbon Nanotubes)」、ネイチャー(Nature)、第358巻、第220頁(1992年7月16日)及びエッべセン(Ebbesen)ら[エッべセンII(Ebbesen II)]、「カーボンナノチューブ(Carbon Nanotubes)」、材料科学の年間レヴュー(Annual Review of Materials Science)、第24巻、第235頁(1994年)。かかるチューブ類は、本明明細書においてカーボンナノチューブ類として言及される。これらの方法により製造したカーボンナノチューブ類の多くは、多層(multi-wall)ナノチューブであった。即ち、カーボンナノチューブ類は共軸円筒に類似していた。七層迄を有するカーボンナノチューブ類が先行技術、エベッセンII;飯島ら、「グラファイト炭素の螺旋マクロ細管(Helical Microtubules of Graphitic Carbon)」、ネイチャー(Nature)、第354巻、第56頁(1991年11月7日)に記載されている。
【0004】
単層カーボンナノチューブ類は、フラーレンの製造に使用される種類の直流アーク放電装置中で、炭素と少量パーセントのVIII族遷移金属を同時にアーク放電装置の陽極から蒸発させて製造された。飯島ら、「1ナノメートル直径の単殻カーボンナノチューブ」(Shingle-Shell Carbon Nanotubes of 1nm Diameter)、ネイチャー(Nature)、第363巻、第603頁(1993年);ベチューン(Bethune)ら、「単一原子層壁を有するカーボンナノチューブのコバルト触媒による成長(Cobalt Catalyzed Growth of Carbon Nanotubes with Single Atomic Layer Walls)」、ネイチャー(Nature)、第63巻、第605頁(1993年);アジャヤン(Ajayan)ら、「コバルト触媒による単殻カーボンナノチューブの合成中の成長形態(Growth Morphologies During Cobalt Catalyzed Single-Shell Carbon Nanotube Synthesis)、ケム・フィジ・レット(Chem. Phys. Lett.)、第215巻、第509頁(1993年);ズー(Zhou)ら、「YC2粒子からラジカルにより成長する単壁カーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon Nanotubes Growing Radically From YC2 Particles)」、アプル・フィジ・レット(Appl. Phys. Lett)、第65巻、第1593頁(1994年);セラフィン(Seraphin)ら、「単壁チューブ及びナノ結晶の炭素クラスターへの封入(Single-Walled Tubes and Encapsulation of Nanocrystals Into Carbon Clusters)、エレクトロケム・ソック(Electrochem. Soc.)、第142巻、第290頁(1995年);斉藤ら、「金属及び炭化物を閉じ込めるカーボンナノカプセル(Carbon Nanocapsules Encaging Metals and Carbides)」、ジェイ・フィジ・ケム・ソリッズ(J. Phys. Chem. Solids)、第54巻、第1849頁(1993年);及び斉藤ら、「蒸発源近くで凝縮した小粒子の形成を経る単層カーボンナノチューブの押出し」(Extrusion of Single-Wall Carbon Nanotubes Via Formation of Small Particles Condensed Near an Evaporation Source)、ケム・フィジ・レット(Chem. Phys. Lett.)、第236巻、第419頁(1995年)を参照。かかる遷移金属の混合物を使用するアーク放電装置での単層カーボンナノチューブの収率を有意に高めることができることも知られている。ランベール(Lambert)ら、「単殻カーボンナノチューブ単離方向への改良条件(Improving Conditions Towards Isolating Single-Shell Carbon Nanotubes)、ケム・フィズ・レット(Chem. Phys. Lett.)、第226巻、第364頁(1994年)参照。
【0005】
このアーク放電方法は単層ナノチューブ類を産出することができるが、ナノチューブ類の収率は低く、また該チューブ類は、混合物中の個々のチューブ間で構造及び大きさの注目に値する変動を示す。個々のカーボンナノチューブは他の反応生成物から分離し精製することが困難である。
【0006】
単層ナノチューブ類の改良製造法は、ここにに参照例としてそのまま包含される米国合衆国特許出願第08/687,665号名称「単層カーボンナノチューブ類よりなるロープ類(Ropes of Single-Walled Carbon Nanotubes)」に記載されている。この方法は、とりわけ遷移金属、好ましくはニッケル、コバルト又はその混合でドープしたグラファイト基質のレーザー蒸気化を使用して凝縮した炭素の少なくとも50%の収率で単層カーボンナノチューブ類を産出するものである。この方法にり産出された単層ナノチューブ類は、平行に配列し、ファンデルワールス力で結合して三角格子中に緊密に充填された10乃至1,000の単層カーボンナノチューブ類から成る「ロープ」と名づけられるクラスターとなる傾向がある。この方法により産出されたナノチューブ類は、一つの構造が優勢となる傾向はあるが構造が変動する。
【0007】
レーザー蒸気化方法は改良単層ナノチューブ配合物を産出するが、生成物は未だ不均一であり、またナノチューブ類は余りにも絡んでいるため、その可能な用途は多くは望めない。更に、炭素蒸気化は高エネルギープロセスであり、本来高価につく。そのため、より高い純度及び均一性の単層カーボンナノチューブ類を製造する改良方法の必要が残されている。更に、もし単層カーボンナノチューブが巨視的成分として入手可能でさえあれば、多くの実用的材料はその物性を利用することができるであろう。しかし、かかる成分は現在迄製造されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、安価な炭素原料を使用して、適度の温度で単層(single-wall)カーボンナノチューブ類から多量の連続した巨視的炭素繊維を高収率、単一工程で製造する方法を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、かかる方法により製造された巨視的炭素繊維を提供することである。
本発明の目的はまた、巨視的炭素繊維の連続的成長における鋳型として使用するための精製した単層カーボンナノチューブ類の分子配列を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、(例えば、炭素の蒸発による)単層カーボンナノチューブ類の製造法で形成した非晶質炭素及び他の反応生成物から単層カーボンナノチューブ類を精製する方法を提供することである。
【0011】
本発明の目的はまた、実質的に非晶質炭素を含まず、一種以上の官能基で任意に誘導体化した新しい部類の管状炭素分子を提供することである。
本発明の目的はまた、本発明の炭素繊維類、ナノチューブ分子配列類及び管状炭素分子類を使用する多くのデバイスを提供することである。
【0012】
本発明の目的は、カーボンナノチューブ類を含む複合材料を提供することである。
本発明の別の目的は、離層抵抗を有する複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
単層カーボンナノチューブ類及び非晶質炭素汚染物を含む混合物の精製方法が開示されている。本方法は非晶質炭素を除去するに十分な酸化条件下で該混合物を加熱する工程及びそれに続く、少なくとも約80重量%の単層カーボンナノチューブ類を含む生成物を回収する工程を含む。
【0014】
別の実施態様において、長さ約5乃至500ナノメートルの管状炭素分子を製造する方法が開示されている。本方法は、単層カーボンナノチューブを含有する物質を切断して長さが5乃至500ナノメートルの範囲を有する管状炭素混合物を形成する工程及び実質的に等しい長さの分子画分を単離する工程を含む。開示したナノチューブ類は単独でまたは複数で、電力伝送ケーブル、太陽電池、電池に、アンテナ、分子エレクトロニクス、探針及びマニプレーターとして或いは複合物中に使用することができる。
【0015】
別の実施態様において、管状炭素分子類の巨視的分子配列を形成する方法が開示されている。本方法は、50乃至500ナノメートルの範囲にある実質的に同種の長さの少なくとも約106の管状炭素分子類を用意する工程;該管状炭素分子類の少なくとも一端部に結合部分を導入する工程;該結合部分が付着する物質で被覆した支持体を用意する工程;及び結合部分を含有する該管状炭素分子類と該支持体とを接触させる工程を含む。
【0016】
別の実施態様において、管状炭素分子類の巨視的分子配列を形成する別の方法が開示されている。先ず、マイクロウエル(micowell)のノナスケール配列を支持体上に準備する。次に、金属触媒を各マイクロウエルに蒸着させる。次に、炭化水素又は一酸化炭素の原料ガスの流れを、各マイクロウエルから単層カーボンナノチューブ類を成長させる条件下で該支持体に向ける。
【0017】
別の実施態様において、管状炭素分子類の巨視的分子配列を形成する更に別の方法が開示されている。この方法は、精製されてはいるが絡まった比較的無端の単層カーボンナノチューブ物質を含む表面を準備する工程;短い長さの壊れたナノチューブ類を該表面から突出させるに十分な酸化条件に該表面を付す工程;及び電界を該表面に与え、表面から該ナノチューブを突出させ、通常は表面に対して垂直に配向して整列させ、ファンデルワールス相互作用力により凝集させて配列とする工程を含む。
【0018】
別の実施態様において、一般的には平行に配列した少なくとも106の単層ナノチューブを含有する巨視的炭素繊維を連続的に成長させる方法が開示されている。本方法によると、一般的には平行に配向し且つ約50乃至500ナノメートルの範囲の実質的に同種の長さを有する少なくとも106の管状炭素分子の巨視的分子配列が提供される。半球状のフラーレンキャップが該配列の管状炭素分子類の上方端部から取り除かれている。該配列の管状炭素分子類の上方端部を次に触媒の金属と接触させる。該配列の端部を約500℃乃至1,300℃の範囲に加熱するために、局限したエネルギーを端部へ与えながらガス状の炭素源を該端部へ供給する。成長する炭素繊維は連続的に回収される。
【0019】
別の実施態様において、一般的には平行に配向し、約5乃至約500ナノメートルの範囲の実質的な同種の長さを有する少なくとも106の単層カーボンナノチューブを含有する巨視的分子配列が開示されている。
【0020】
別の実施態様において、少なくとも約80重量%の単層カーボンナノチューブ類を含有する組成物が開示されている。
更に別の実施態様において、一般的には平行に配向した少なくとも106の単層カーボンナノチューブ類を含有する巨視的炭素繊維が開示されれいる。
【0021】
別の実施態様において、単層カーボンナノチューブ類の開放端部に蒸着した触媒金属を有する少なくとも106の単層カーボンナノチューブ類を含有する巨視的分子鋳型から連続巨視的炭素繊維を形成する装置が開示されている。本装置は、成長且つアニール域において鋳型中のナノチューブ類の開放端部のみを局限的に約500℃乃至1,300℃の範囲の温度に加熱する手段を含む。本装置はまた、鋳型中のナノチューブ類の加熱された開放端部に直接隣接する成長兼アニール域へ炭素含有原料ガスを供給するための手段を含む。更に本装置はまた、成長兼アニール域の繊維の成長端部を維持しながら、成長兼アニール域から成長炭素繊維を連続的に取り出す手段を含む。
【0022】
別の実施態様において、ナノチューブ類を含有する複合材料が開示されている。本複合材料はマトリックスと該マトリックス中に埋封されたカーボンナノチューブを含む。
別の実施態様において、カーボンナノチューブ物質を含む複合材料を製造する方法が開示されている。本方法は繊維状材料の集合体を準備する工程;ナノチューブ物質を該繊維状材料へ添加する工程;及びマトリックス材料の前駆体を該カーボンナノチューブ材料及び繊維状材料へ添加する工程を含有する。
【0023】
別の実施態様において、自然に形成する誘導体化した単層ナノチューブ分子の三次元構造体が開示されている。本構造体は一つに集合して三次元構造体となる多数の誘導体を有するいくつかの成分分子を含む。
前記目的及び当業者に明らかな他の目的は、本明細書及び請求項に記載した本発明により達成される。
【発明の実施するための最良の形態】
【0024】
炭素は、正にその本質により、高温蒸気から自己集合して完全な球状の閉鎖かご体(C60がその原型である)を形成する傾向を有するのみならず(遷移金属触媒の助けにより)集合して両端部を半フラーレンドームで完全に封鎖し得る完全な単層円筒状チューブとなる傾向を有する。炭素の一元的単結晶として考えられるこれらのチューブ類は垂れ下がる結合を有しない真のフラーレン分子である。
【0025】
本発明の単層カーボンナノチューブ類は多層(multi-wall)カーボンナノチューブ類よりはるかに欠陥のないものとなるらしい。単層カーボンナノチューブは不飽和炭素原子価間に橋を形成することにより欠陥を償うための隣接層(neighboring walls)を有しないが、単層カーボンチューブにおける欠点は、多層カーボンナノチューブが時折欠陥を復活させ得るため、多層カーボンナノチューブに於ける欠陥よりもより少ないものであるらしい。単層カーボンナノチューブは欠陥が殆どないため、より強力で、より導電性であり、従って類似の直径を有する多層カーボンナノチューブより一層有用である。
【0026】
カーボンナノチューブ類、特に本発明の単層カーボンナノチューブ類は、該カーボンナノチューブの導電性率及び大きさが小さいため集積回路等のマイクロデバイスの、或いはコンピューターに使用される半導体チップの電気コネクターの製造に有用である。該カーボンチューブ類は光周波数アンテナとして、走査型トンネル顕微鏡法(STM)及びAFMに使用されている走査型探針顕微鏡法の探針として有用である。該カーボンナノチューブ類は、自動車用タイヤのカーボンブラックの代わりに、或いはそれとともに使用してもよい。該カーボンナノチューブ類はまた、水素添加、改質及び分解触媒等の産業及び化学プロセスで使用される触媒の支持体として有用である。
【0027】
本発明により製造された単層カーボンナノチューブより成るロープ類は金属性である。即ち、本ロープは比較的低抵抗で電荷を伝導する。ロープは、例えば、導電性塗料また重合体塗料の添加剤として、或いはSTMの探針先端としての用途を含む電気導体を必要とする任意の用途に有用である。
【0028】
カーボンナノチューブ類を定義する場合、認められている命名法系を使用することが助けとなる。本明細書において、エム・エス・ドレッセルハウス(M. S. Dresselhaus)、ジイー・ドレッセルハウス(G. Dresselhaus)及びピー・シイー・エクルント(P. C. Eklund)著、「フラーレン類及びカーボンナノチューブ類の科学」(Science of Fullerenes and Carbon Nanotubes)、第19章、特に第756頁乃至第760頁(1996)、アカデミックプレス(Academic Press)、525Bストリート、シュート1900、サンディエゴ、カリフォルニア92101、米国合衆国又はシーハーバードライブ、オルランド、フロリダ32877、米国合衆国(ISBN 0−12−221820−5)に記載され、参照例としてここに包含されるカーボンナノチューブ命名法を使用する。単層円筒状フラーレン類は、二重指数(double index)(n, m)により互いに区別される。このn及びmは、六角形「亀甲型」グラファイトの単一ストリップを円筒表面に巻き付け両端部を封鎖したとき完全な円筒となるような切断方法を記載する整数である。この二つの指数が同一(m = n)であるとき、得られるチューブは、チューブ軸に対して垂直にチューブを切断すると、六角形に側辺のみが露出してチューブ端部の周囲をかこむ型がn回繰り返されたアームチェアのアームと座席に類似しているため、「アームチェア」(又はn,n)型を呈していると言われている。アームチェア型チューブは単層カーボンナノチューブが金属性であるため、単層カーボンナノチューブの好ましい形であり、また非常に高い電気及び熱導伝性を有する。更に、単層カーボンナノチューブは全て非常に高い引張り強度を有する。
【0029】
ここに記載した二重レーザーパルスの特徴は、(10, 10)型単層カーボンナノチューブを豊富に産出する。該(10, 10)型単層カーボンナノチューブは13.8オングストローム±0.3オングストローム或いは13.8オングストローム±0.2オングストロームの近似チューブ直径を有する。
【0030】
本発明は、炭素及び一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含有する、或いはそれらから本質的になる、或いはそれらよりなるターゲット物質をレーザービームが蒸発化する単層カーボンナノチューブ類の製造方法を提供する。該ターゲットからの該蒸気が、主たる成分である単層カーボンナノチューブでありしかもそのうち、(10, 10)型チューブ類が優勢なカーボンナノチューブを形成する。本方法はまた、ロープ類として配列した、即ち、単層カーボンナノチューブが互いに平行に並ぶものとして配列した単層カーボンナノチューブを有意量で産出する。該(10, 10)型チューブが、また各ロープに於いて見られる優勢なチューブである。本レーザー蒸発法はカーボンチューブ類の製造法であるアーク放電法に対していくつかの利点を有する。即ち、レーザー蒸発法は、単層カーボンナノチューブの成長を助ける条件の制御をはるかに高程度に行うことを可能とし、また連続操作を可能とし、更に単層カーボンナノチューブをより良い収率でより良い品質のものを産出する。ここに記載したごとく、該蒸発法はまた、より長いカーボンナノチューブ類及びより長いロープ類を産出するために使用することができる。
【0031】
カーボンナノチューブ類は、単一単層カーボンナノチューブに関しては約0.6ナノメートル乃至3ナノメートル、5ナノメートル、10ナノメートル、30ナノメートル、60ナノメートル迄の、また単層又は多層カーボンナノチューブ類に関しては100ナノメートル迄の範囲の直径を有する。該カーボンナノチューブは、長さが50ナノメートル乃至1ミリメートル、1センチメートル、3センチメートル、5センチメートル以上の範囲にある。本発明により産出した生成物中の単層カーボンナノチューブ類の収率は異常に高い。蒸発物質の10重量%を超える、30重量%を超える、更に50重量%を超える単層カーボンナノチューブの収率も本発明に関しては可能である。
【0032】
更に記載されるごとく、一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属は、カーボンナノチューブ及び又はロープ類の長さの成長を触媒する。該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属はまた、単層カーボンナノチューブ類及び単層カーボンナノチューブのロープ類を高収率で産出する。カーボンナノチューブ及び又はロープの成長が達成される機構は完全には解明されていない。しかし、該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属がカーボンナノチューブの端部に存在すると、炭素蒸気からの炭素がカーボンナノチューブを形成する固体構造へ付加するのを容易なものとするらしい。発明者等は、この機構が生成物中におけるカーボンナノチューブ及び/又はロープの高収率で高選択性の主因であると信じており、単に本発明の結果の説明の道具としてこの機構を用いて本発明を記載する。たとえこの機構が部分的に或いは全体として正しくないことが証明されたとしても、これらの結果を達成する本発明はここにまだ充分に記載されている。
【0033】
本発明の一面は、アニール域においてカーボンナノチューブの活性端部を維持しながら炭素蒸気をカーボンナノチューブ活性端部へ供給することを含むカーボンナノチューブ類及び又はカーボンナノチューブから成るロープ類を製造する方法を含有する。加熱域に維持された炭素を含むターゲットにレーザービームを当てる装置により本発明に従って炭素を蒸発させる。類似の装置は文献、例えば、参照例として本明細書に包含される米国合衆国特許第5,300,203号及びチャイ(Chai)等の「金属を内部に有するフラーレン類」(Fullerenes with Metals Inside)、ジェイ・フィジ・ケンム(J. Phys. Chem.)、第95号、第20号、第7564頁(1991年)に記載されている。
【0034】
少なくとも一つの活性端部を有するカーボンナノチューブはまた、ターゲットがVI族またはVIII族の遷移金属又は二種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含有するとき形成される。本明細書において、カーボンナノチューブの「活性端部(live end)」なる用語は、一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属の原子が位置するカーボンナノチューブの末端を意味する。カーボンナノチューブの一方又は両方の端部が活性端部であり得る。活性端部を有するカーボンナノチューブは、最初に炭素及び一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含有するターゲットからの物質を蒸発させるためにレーザービームを使用することにより、次に該炭素/VI族又はVIII族の遷移金属蒸気をアニール域に供給することにより、
本発明のレーザー蒸発装置中で産出される。任意的に第二レーザービームを使用してターゲットからの炭素の蒸発を助ける。活性端部を有するカーボンナノチューブは該アニール域で形成され、蒸気中の炭素をカーボンナノチューブの活性端部へ触媒付加することにより長さが成長する。付加用の炭素蒸気を次いでカーボンナノチューブの活性端に供給しカーボンナノチューブの長さを増加させる。
【0035】
形成されるカーボンナノチューブは、必ずしも単層カーボンナノチューブとは限らず、二層、五層或いは十層以上のいくらでも大きな数の層(walls)を有する多層(multi-wall)カーボンナノチューブ(共軸カーボンナノチューブ類)であり得る。しかし、好ましくはカーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブであり、本発明は、多層カーボンナノチューブよりも更に豊富に、時には遥かに豊富に(10, 10)型単層カーボンナノチューブ類を選択的に産出する方法を提供する。
【0036】
カーボンナノチューブの活性端部が最初に形成されるアニール域は、500℃乃至1,500℃、より好ましくは1,000℃乃至1,400℃、最も好ましくは1,100℃乃至1,300℃に維持されるべきである。活性端部を有するカーボンナノチューブ類がアニール域で捕捉維持され、(VI族又はVIII族の遷移金属蒸気を更に加える必要なく)更に炭素の付加により長さを成長させる本発明の実施態様において、該アニール域は、より低い温度、即ち400℃乃至1,500℃、好ましくは400℃乃至1,200℃、最も好ましくは、500℃乃至700℃でよい。該アニール域の圧力は、50乃至2,000トル、より好ましくは100乃至800トル、最も好ましくは300乃至600トルに維持されるべきである。該アニール域の雰囲気は炭素を含有する。通常、該アニール域の雰囲気はまた、炭素蒸気をアニール帯から清掃して収集域へ送るガスを含有する。カーボンナノチューブの形成を妨げない任意のガスが清掃ガスとして働くが、好ましくは清掃ガスは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン或いはこれらのガスの二種以上の混合物等の不活性ガスである。ヘリウムとアルゴンが最も好ましい。流動不活性ガスを使用すると、温度制御ができそして更に重要なことであるが、ナノカーボンの活性端部へ炭素を運ぶことができる。本発明のいくつかの実施態様において、他の物質、例えば、一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を炭素とともに蒸発させると、これらの化合物及びその蒸気もアニール帯の雰囲気中に存在する。純料な金属を使用する場合、得られる蒸気はその金属を含有する。金属酸化物を使用する場合、得られる蒸気はその金属及びイオン類或いは酸素の分子を含有する。
【0037】
カーボンナノチューブの活性端部での該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属の触媒活性を殺すか或いは著しく減少させ物質をあまり多く存在させることを避けるのが重要である。水(H2O)及び又は酸素(O2)があまり多く存在すると、該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属の触媒活性が殺されるか或いは著しく減少することが知られている。従って、好ましくは水及び酸素はアニール域から排除される。普通5重量%未満、より好ましくは1重量%未満の水及び酸素を有する清掃ガスを使用すれば十分である。最も好ましくは、水及び酸素は0.1重量%未満である。
【0038】
好ましくは、活性端部を有するカーボンナノチューブの形成及びそれに続く炭素蒸気のカーボンナノチューブへの付加は同一装置内で全て達成される。好ましくは、該装置は炭素及び一種以上のVI族またはVIII族の遷移金属を含有するターゲットに照射するレーザーを含有し、該ターゲット及びアニール域は適切な温度に、例えば、該アニール域を炉中に保持することにより維持する。レーザービームは炭素及び一種以上のVI族及びVIII族の遷移金属を含有するターゲットに突き当たるように照射され、該ターゲットは適切な温度に維持された炉中に保持されている石英チューブの内部に搭載されている。上に注記したごとく、該炉温度は最も好ましくは1,100℃乃至1,300℃の範囲である。チューブは必ずしも石英チューブである必要はなく、温度(1,000℃乃至1,500℃)に耐える任意の材料でできていてもよい。石英に加えアルミナ及びタングステンがチューブの作製のために使用できるであろう。
【0039】
第二のレーザーをまたターゲットに照射する場合、改良された結果が得られ、また両方のレーザーは、時間を調節し、時間を分離してレーザーエネルギーのパルスを送出する。例えば、第一のレーザーはターゲットの表面から物質を蒸発させるに十分なパルス強度を送出する。典型的には、第一レーザーからのパルスは約10ナノ秒(ns)続く。第一のパルスを停止後、第二のレーザーからのパルスがターゲットまたは第一のパルスにより発生した炭素蒸気又はプラズマに突き当たり、ターゲット表面から物質をより均一に且つ連続して蒸発させる。第二レーザーのパルスは強度が第一レーザーのパルスと同一であっても或いはより弱いものであってもよいが、第二レーザーからパルスは典型的には第一レーザーからのパルスよりも強力であり、典型的には第一パルスの終了後約20乃至60ナノ秒、好ましくは40乃至55ナノ秒遅れて送出される。
【0040】
該第一及び第二レーザーの典型的な仕様例を実施例1及び3にそれぞれ示す。概略の手引としては、該第一のレーザーは、波長が11乃至0.1マイクロメートル、エネルギーが0.05乃至1ジュール、繰返し周波数が0.01乃至1,000ヘルツ(Hz)と変化し得る。該第一レーザーのパルス時間は10−13乃至10−6秒と変化し得る。該第二のレーザーは、波長が11乃至0.1マイクロメートル、エネルギーが0.05乃至1ジュール、繰返し周波数が0.01乃至1,000ヘルツと変化し得る。該第二レーザーパルスの継続時間は10−13秒乃至10−6秒と変化し得る。該第二レーザーパルスの開始は該第一レーザーパルスの終了から約10乃至100ナノ秒隔てられるべきである。該第二パルスの供給レーザーが紫外線(UV)レーザー(例えば、エキシマーレーザー)の場合は、時間遅延はより長く、1乃至10ミリ秒である。しかし該第二パルスが可視又は赤外(IR)レーザーより発せられる場合は、該第一パルスにより発生したプラズマ中の電子への吸収が好ましい。この場合、パルス間の最適時間遅延は約20乃至60ナノ秒、より好ましくは40乃至55ナノ秒、最も好ましくは40乃至50ナノ秒である。該第一及び第二のレーザーについてのこれらの範囲は、約0.3乃至10ナノメートルのターゲット複合棒のスポットに集束するビームに対するものである。該第一及び第二レーザーのパルス間の時間遅延は、パルスレーザーを使用する分野で知られているコンピューター制御により達成される。発明者等は、11メリーランドドライブ、ロックポート、イリノイ60441、米国合衆国(11 Maryland Drive, Lockport, IL 60441, U.S.A.)のカイネテックス システムズ コーポレーション(Kinetics Systems Corporation)社製の調時パルス発生機及び700チェスナットリッジ ロード、チェスナット リッジ ロード、ニューヨーク10977−6499、米国合衆国(700 Chesnut Ridge Road, Chestnut Ridge, New York 10977-6499, U.S.A.)のルコイ リサーチ システムズ(LeCoy Research Systems)社製のナノパルサー(nanopulser)とともにルコイ リサーチシステムズ社製カマック クレート(CAMAC crate)を使用した。より大きなターゲットへスケールアップするには多重第一レーザー類及び多重第二レーザー類が必要となるか或いはより強力なレーザーが使用される。多重レーザー類の主たる特徴は、第一レーザーがターゲット表面からの物質を等しく融蝕して蒸気又はプラズマとし、第二レーザーが第一パルスにより発生した蒸気またはプラズマプルーム(plume)中の融蝕された物質へ十分なエネルギーを堆積させ、該物質が原子又は小さな分子(一分子につき十個の炭素原子未満)へと蒸発することを確実にするというものである。該第二レーザーパルスが該第一パルス後あまりにも早く到達すると、第一パルスにより発生したプラズマがあまりにも濃厚であるため第二パルスが該プラズマにより反射する。第二レーザーパルスが第一パルス後あまりにも遅く到達すると、第一パルスにより発生したプラズマ及び又は融蝕された物質がターゲットの表面に突き当たる。しかし第二レーザーパルスがプラズマ及び又は融蝕された物質が形成された直後、調時して到達すると、ここに記載したごとく、該プラズマ及び又は融蝕された物質は第二レーザーパルスからエネルギーを吸収する。一連の第一レーザーパルスから第二レーザーパルスへの連続は、第一及び第二レーザーパルスと同じ繰返し周波数、即ち0.01乃至1,000ヘルツで繰り返されることにも留意すべきである。
【0041】
実施例記載のレーザーに加えて、本発明に於いて有用な他のレーザーの例として、XeF(波長365ナノメートル)レーザー、XeCl(波長308ナノメートル)レーザー、KrF(波長248ナノメートル)及びArF(波長193ナノメートル)レーザーが含まれる。
【0042】
任意的ではあるが好ましくは、清掃ガスをターゲットの上流のチューブに導入し、該ガスはターゲットからの蒸気を運びながらターゲットを通過して下流へ流れる。石英チューブは、炭素及び一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属が炭素ターゲットの下流の点であるが石英チューブの加熱されている部分でカーボンナノチューブを形成する条件に保たれているべきである。アニール域で生成するカーボンナノチューブの収集は、石英チューブの先の下流端部の内部に冷却した捕集器を維持することにより容易なものとなる。例えば、カーボンナノチューブを、石英チューブの中央に搭載された水冷金属構造体上で収集することができる。カーボンナノチューブは条件さえ適切であれば、好ましくは水冷捕集器上に集積する。
【0043】
VI族又はVIII族の遷移金属はいかなるものでも本発明の該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属として使用し得る。VI族の遷移金属は、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)である。VIII族の遷移金属は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)及びプラチナ(Pt)である。好ましくは、該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属は、鉄、コバルト、ルテニウム、ニッケル及びプラチナよりなる群から選択される。より好ましくは、コバルトとニッケルの混合物又はコバルトとプラチナの混合が使用される。本発明に有用な該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属は、純金属、金属酸化物、金属炭化物、金属の硝酸塩或いは他のVI族又はVIII族の遷移金属を含有する化合物として使用することができる。好ましくは、該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属は、純金属、金属酸化物又は金属の硝酸塩として使用される。炭素と組み合わされ、活性端部を有するカーボンナノチューブの産出を容易なものとする該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属の量は、0.1乃至10原子%(atom per cent)、より好ましくは0.5乃至5原子%、最も好ましくは、0.5乃至1.5原子%である。本明細書において、「原子%(atom per cent)」なる用語は存在する原子の総数に基づく特定化した原子の100分率を意味する。例えば、ニッケルと炭素の1原子%混合物とは、ニッケルと炭素原子の総数中、1%がニッケルである(残りの99%が炭素である)ことを意味する。二種以上のVI族又はVIII族の遷移金属の混合物を使用する場合、各金属は金属混合物の1乃至99原子%、好ましくは金属混合物の10乃至90原子%、最も好ましくは金属混合物の20乃至80原子%である。二種のVI族又はVIII族の遷移金属を使用する場合、各金属は最も好ましくは金属混合物の30乃至70原子%である。 三種のVI族又はVIII族の遷移金属を使用する場合、各金属は最も好ましくは金属混合物の20乃至40原子%である
本明細書に記載したごとく、該一種以上VI族又はVIII族の遷移金属はレーザーにより蒸発用のターゲットを形成するために炭素と組合わされる。ターゲットの残りの部分は炭素であり、グラファイト型、フラーレン型の炭素、ダイヤモンド型の炭素或いは重合体又は炭化水素、これらの二種以上の混合物等の化合物として炭素を含むことができる。
【0044】
炭素は該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属と特定の比率で混合され、次いでレーザー蒸発法において結合され炭素及び該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含有するターゲットを形成する。ターゲットは炭素及び該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属をカーボンセメントと室温で均一に混合し、次いで混合物を型に入れる。型中の該混合物を圧縮し約130℃で約4乃至5時間加熱する。その間カーボンセメントのエポキシ樹脂は硬化する。使用される圧縮圧は、グラファイト、一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属及びカーボンセメントの混合物を圧縮して、構造的一体性を維持するよう空隙を有しない成形体とするに十分なものであるべきである。次いで成形体をアルゴン流の雰囲気下でゆっくりと810℃迄約8時間加熱することにより炭化する。引き続き、成形炭化したターゲットを、炭素及び該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含有する蒸気を発生させるためにターゲットとして使用する前に、アルゴン流下で約1,200℃へ約12時間加熱する。
【0045】
本発明は、炉中蒸発の断面図である図1を参照することにより更に理解される。ターゲット10は、チューブ12中に位置する。ターゲット10は炭素を含有し、また一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含有し得る。チューブ12は絶縁体16及び加熱要素域18を含有する炉14中に位置する。炉中の対応部分は、絶縁体16’及び加熱要素域18’により示される。チューブ12は、ターゲット10が加熱要素域18中に存在するよう位置する。
【0046】
図1はまた、チューブ12の下流端部24でチューブ12中に搭載された水冷捕集器20を示す。アルゴン又はヘリューム等の不活性ガスは、その流れがチューブ12の上流端部22から下流端部24へ向かうように、チューブ12の上流端部22へ導入される。レーザービーム26はターゲット10に集束する(図示されていない)レーザーにより送出される。運転の際は、炉14は所望の温度、好ましくは1100℃乃至1300℃、通常約1200℃に加熱される。アルゴンは清掃ガスとして上流端部22に導入される。該アルゴンは、任意に所望の温度、即ち、炉14の温度とほぼ同じ温度に予備加熱してもよい。レーザービーム26はターゲット10に突き当りターゲット10中の物質を蒸発させる。ターゲット10からの蒸気は流動アルゴン流により下流端部24へと運ばれる。ターゲットが炭素のみよりなる場合、形成された蒸気は炭素蒸気である。ターゲットの一部として一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属が含まれる場合、蒸気は炭素及び一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含むものとなる。
【0047】
炉から熱及び流動アルゴンは、チューブ中にアニール域として一つの領域を維持する。図1中28で記された部分のチューブ中の体積がアニール域であって、そこでは炭素蒸気が凝縮し始め、次いで実際に凝縮してカーボンナノチューブを形成する。水冷捕集器20は、700℃以下の温度、好ましくは500℃以下の温度にその表面が維持されアニール域で形成したカーボンナノチューブを捕集する。
【0048】
本発明の一実施態様において、活性端部を有するカーボンナノチューブをチューブ12のアニール域部に設けられたタングステンワイヤ上に捕捉または載架することができる。本実施態様において、一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を有する蒸気を産出し続けることは必ずしも必要ではない。この場合、ターゲット10を炭素は含有するがVI族又はVIII族の遷移金属は含有しないターゲットへ変換することもでき、炭素がカーボンナノチューブの活性端部へ付加される。
【0049】
本発明の他の実施態様において、該ターゲットが一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含有する場合、レーザービーム26により形成された蒸気は炭素及び該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含有する。その蒸気はカーボンナノチューブをアニール域で形成し、次いでそのカーボンナノチューブは水冷捕集器26上、好ましくは水冷捕集器26の先端30で堆積する。蒸気中に炭素とともに蒸気中に一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属が存在すると、ある種のフラーレン類及びグラファイトもまた通常は形成するが、フラーレン類に代わってカーボンナノチューブ類が優先的に形成する。アニール域において蒸気中の炭素は、カーボンナノチューブの活性端部に存在する該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属の触媒効果により、選択的に該カーボンナノチューブの活性端部に付加する。
【0050】
図2はカーボンナノチューブをより長くするために使用することのできる本発明の任意の実施態様を示すもので、ターゲット10の下流ではあるがアニール域中に、チューブ12の直径方向に亙りタングステンワイヤ32を張ってある。レーザービームのパルスが炭素/VI族又はVIII族遷移金属蒸気を形成するターゲット10に突き当った後に、活性端部を有するカーボンナノチューブが蒸気中に形成する。そのいくつかのカーボンナノチューブがタングステンワイヤ上に捕捉され、活性端部はチューブ12の下流端部24へと向けられる。追加の炭素蒸気が該カーボンナノチューブを成長させる。装置のアニール域長のカーボンナノチューブを本実施態様において製造することができる。本態様において、活性端部を有するカーボンナノチューブの初期形成後、その時点で蒸気が炭素のみを含む必要があるため、炭素のみのターゲットに交換することも可能である。
【0051】
図2はまた、第二のレーザービーム34がターゲット10に当るときのその部分を示す。実際に、レーザービーム26及び第二レーザービーム34は、ターゲット10の同一表面に向けられるものであるが、ここに記載されるごとく異なる時間に該表面に当る。
【0052】
該レーザーまたはそれと第二レーザーとを停止することも可能である。活性端部を有する単層カーボンナノチューブが一度形成すると、該活性端部はより低い温度で且つ他の炭素源で単層カーボンナノチューブの成長を触媒する。該炭素源はフラーレン類に切り換えられ、清掃ガスの流れにより活性端部へ運ぶことができる。該炭素源は、清掃ガスにより運ばれるグラファイト粒子でもよい。該炭素源は、チューブ12に導入され、清掃ガスにより活性端部へ運ばれ活性端部を通り過ぎる炭化水素、炭化水素ガス又はその混合物であってもよい。有用な炭化水素類には、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、ベンゼン、トルエン、或いは他のパラフィン系、オレフィン系、環状または芳香族炭化水素、或いは他の炭化水素が含まれる。
【0053】
本実施態様におけるアニール域の温度は、活性端部を有する単層カーボンナノチューブを最初に形成するために必要なアニール域の温度よりは低くすることができる。アニール域の温度は、400ないし1,500℃、好ましくは400乃至1,200℃、最も好ましくは500乃至700℃の範囲である。VI族又はVIII族の遷移金属がこれらのより低い温度でナノチューブへの炭素の付加を触媒するために、これらの低温が実行可能となる。
【0054】
ロープ中の単層カーボンナノチューブは13.8オングストローム±0.2オングストロームの直径を有することが測定により示されている。(10, 10)型単層カーボンナノチューブは約13.6オングストロームの計算値直径を有し、ロープ中の単層カーボンナノチューブは測定により主に(10, 10)型チューブであることが証明されている。各ロープ中の単層カーボンナノチューブの数は約5乃至5,000、好ましくは約10乃至1,000或いは約50乃至1,000、最も好ましくは約100乃至500と変化する。ロープ類の直径は、約20乃至200オングストローム、より好ましくは約50乃至200オングストロームの範囲である。本発明により製造されるロープ類において(10, 10)単層カーボンナノチューブがチューブの主たる部分を占める。10%を超える、30%を超える、50%を超える、75%を超える、更に90%を超える(10, 10)型単層カーボンナノチューブを有するロープ類が製造されている。50%を超える、75%を超える、更に90%を超えるアームチェア型(n,n)単層カーボンナノチューブもまた本発明により製造され、本発明の一部をなしている。各ロープ中の単層カーボンナノチューブは配列して格子定数が約17オングストロームの2−D三角格子を有するロープを形成している。長さ0.1乃至10或いは100或いは1,000ミクロンのロープ類が本発明により製造された。本発明により製造されたロープ類の抵抗率はロープが金属性であることを証明する27℃で0.34乃至1マイクロオーム/メートルと測定された。
【0055】
上記ロープ類から成るフェルトも製造することができる。生成物質は、ここに於いて「フェルト」として言及されているロープ類のもつれた収集体が一つに固まってマット状になって収集される。発明方法により収集されたフェルト物質は取り扱いに耐える充分な強度を有し、導電性であることが測定されている。10ミリメートル平方、100ミリメートル平方或いは1,000ミリメートル平方以上のフェルト類が発明方法により形成される。
【0056】
炉中レーザー蒸発法により製造された単層カーボンナノチューブ類の一つの利点はその清浄度にある。典型的なアーク放電法により製造された単層カーボンナノチューブ類は、非晶質炭素の厚い層で覆われており、そのためレーザー蒸発法により製造された単層カーボンナノチューブの清浄な束と比較して有用性には多分限界があろう。本発明の他の利点及び特徴はその開示により明らかである。本発明はまた、グオウ(Guo)等の「レーザー蒸発法による単層カーボンナノチューブの触媒成長(Catalytic Growth Of Single-Walled Nanotubes By Laser Vaporization)」、ケム・フィジ・レット(Chem. Phys. Lett.)第243巻、第49乃至第54頁(1995年)を参照することにより理解される。
【0057】
二重パルスレーザーにより達成される利点は、炭素及び金属を確実に最適アニール条件を経過させることである。該二重レーザーパルス法は、時間を使用して融蝕された物質の更に完全な蒸発から融蝕を分離することによりこれを達成する。これらの同一最適条件は、ここに参考例とし組み入れられる1995年7月7日付米国合衆国特許出願第08/483,045号に記載された炭素及び金属を蒸発させる太陽エネルギーの使用により達成される。該出願第08/483,045号に記載された金属の代わりに任意のVI族またはVIII族遷移金属を組み合わせることにより本願の単層カーボンナノチューブ類及びロープ類が製造される。
単層ナノチューブの精製
前記方法のいずれかにより得た物質中のカーボンナノチューブは本発明の方法に従って精製することができる。少なくとも単層ナノチューブ(SWNT)の一部分を含む混合物は、例えば、飯島ら或いはベチュン(Bethune)らにより記載されているごとく製造することができるかもしれない。しかし、相対的に高い収率で単層カーボンナノチューブを産出する製造方法が好ましい。特に、米国合衆国特許出願第08/687,665号に開示されているごときレーザー産出法は70%まで或いはそれ以上の単層ナノチューブを産出することができ、該単層ナノチューブはアームチェア構造が主たるものである。
【0058】
単層カーボンナノチューブを含む混合物を作製する典型的な製造法の生成物は、非晶質炭素の堆積物、グラファイト、金属化合物(例えば、酸化物)、球状フラーレン類、触媒粒子(しばしば炭素又はフラーレン類で被覆されている)及び多分多層カーボンナノチューブを含む絡み合ったフェルトである。該単層カーボンナノチューブは本質的に平行なナノチューブからなる「ロープ(ropes)」又は束となって凝集している。
【0059】
単層カーボンナノチューブを高い比率で有する物質をここに記載したごとく精製すると、産出された配合物は単層ナノチューブが豊富になり、その結果該単層ナノチューブは実質的に他の物質を含まない。特に、単層ナノチューブは、精製配合物中の物質の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、そして最も好ましくは99%を超える。
【0060】
本発明の精製方法は非晶質炭素堆積物及び他の汚染物質を除去するために酸化条件下で単層ナノチューブ含有フェルトを加熱することを含む。本精製方法の好ましい態様において、フェルトを硝酸、過酸化水素と硫酸の混合物或いは過マンガン酸カリ等の無機酸化剤の水溶液中で加熱する。好ましくは、単層ナノチューブ含有フェルトを、実際的な時間枠内で非晶質炭素堆積物を溶蝕し去るに充分な濃度ではあるが単層カーボンナノチューブを有意な程度に溶蝕する程高くはない濃度の酸化酸溶液中で還流する。2.0乃至2.6モル濃度の硝酸がよいことが判明した。大気圧下では、かかる酸水溶液の還流温度は約120℃である。
【0061】
好ましい方法において、ナノチューブ含有フェルトを2.6モル濃度の硝酸溶液中24時間還流することができる。精製したナノチューブは、例えば、ミリポアタイプ エルエス(Millipore Type LS)のごとき5ミクロン孔径のテフロン(登録商標)フィルターで濾過することにより該酸化酸から回収することができる。好ましくは、前記濾過に次いで同一濃度の新しい硝酸溶液中で第二の24時間還流を行う。
【0062】
酸性酸化条件下で還流を行うと、ナノチューブのいくつかはエステル化反応、言い換えればナノチューブの汚染を起こす結果となる。この汚染エステル物質は、鹸化により、例えば、室温エタノール中での飽和水酸化ナトリウム溶液を使用することにより除去することができる。酸化酸処理で産出される任意のエステル結合重合体の鹸化に適した他の条件は当業者であれば容易に明らかであろう。典型的には、ナノチューブ配合物は鹸化工程後中和される。6モル濃度の塩酸水溶液中で12時間ナノチューブの還流を行うことが中和に適していることが判明したが、他の適切な条件は当業者には明らかであろう。
【0063】
酸化及び任意の鹸化及び中和後、精製したナノチューブは、沈降又は濾過により、単層ナノチューブのロープ又は束から成る精製した繊維の薄いマット、以下「バッキーペーパー(bucky paper)」として言及される形で回収することができる。典型的な例において、5ミクロンの孔径を有するテフロン(登録商標)膜で精製中和したナノチューブを濾過して、約100ミクロン厚の精製ナノチューブの黒いマットを得た。「バッキーペーパー」のナノチューブは種々の長さから成り、個々のナノチューブ或いは103迄の単層ナノチューブの束又はロープ、或いは個々の単層ナノチューブと種々の厚さから成るロープの混合物で構成されている。代わりに、「バッキーペーパー」は、以下に記載されるごとく分別により長さ又は直径及び又は分子構造が均一なナノチューブから成っていてもよい。
【0064】
精製したナノチューブ又は「バッキーペーパー」は、例えば、水素ガス雰囲気中850℃で焼き固ベーキングすることにより最終的に乾燥し、乾燥精製ナノチューブ配合物を産出する。
【0065】
米国合衆国特許出願第08/687,665号のニ重レーザー方法により製造したレーザー産出単層ナノチューブ物質を、2.6モル濃度の硝酸水溶液中で、一度溶媒を交換して還流し、次いでエタノール中の飽和水酸化ナトリウム中、室温で12時間超音波による分解を行い、更に6モル濃度の塩酸水溶液で12時間中和し、該水性媒体を除去して850℃の水素ガス雰囲気中下1気圧の水素ガス(1インチの石英チューブ中流速1ないし10センチメートル/秒)中で2時間ベーキングを行ったとき、詳明なTEM、SEM及びラマンスペクトルによる分析の結果、純度は99%を超えており、主な不純物はわずかな炭素封入ニッケル/コバルト粒子であった。(図3A、3B及び3C参照)。
【0066】
別の実施態様において、わずかに塩基性(例えば、pHが約8ないし12)の溶液を鹸化工程で使用することもできる。2.6モル濃度の硝酸中での最初の洗浄で粗物質中の非晶質炭素を、周縁に種々の官能基、特にカルボン酸基を有するより大きな多環芳香族炭化水素と同様にフルボ酸やフミン酸のごとき種々の大きさの結合多環化合物に変換する。該塩基溶液は殆どの多環化合物をイオン化し、水溶液により溶解しやすくする。好ましい方法において、ナノチューブ含有フェルトを2乃至5モル濃度の硝酸中約110℃乃至125℃で6乃至15時間還流する。精製したナノチューブは濾過し、3ミクロン孔径を有するティーエス ティー ピー イソポア(TSTP Isopore)フィルター上で10ミリモル濃度の水酸化ナトリウム溶液で洗浄する。次に、濾過したナノチューブを硫酸/硝酸溶液中60℃で30分攪拌することにより磨いた。好ましい実施態様において、該溶液は容量比3対1の濃硫酸と硝酸の混合物である。この工程において、硝酸処理中産出された全ての残存物質をチューブ類から本質的に除去する。
【0067】
磨きが完了すると、四倍水希釈し、ナノチューブを再び3ミクロン孔径のTSTP Isoporeフィルター上で濾過する。再びナノチューブを10ミリモル濃度の水酸化ナトリウム溶液で洗浄する。ナノチューブが乾燥すると再び懸濁するのが困難であるため、最後にナノチューブは水中に保存する。
【0068】
特別の用途に対しては更に条件を最適化することができるが、酸化酸中での還流によるこの基本的対処法が成功したことが示されている。本方法の精製により、触媒用、複合材料の成分用、或いは円筒状炭素分子及び単層ナノチューブ分子の連続巨視的炭素繊維の製造における出発物質用の単層ナノチューブが産出される。
単層カーボンナノチューブ分子
先行技術の方法により製造された単層ナノチューブはあまりに長く且つ絡みあっているためそれを精製又は操作することが大変困難である。しかし本発明は、単層ナノチューブをもはや絡み合うことのない程度の短い長さに切断し、アニールして開放端部を閉じることに備えるものである。短い閉じた円筒状のカーボンナノチューブはDNAの区分又は重合体の大きさによる分類のために使用される技法に類似した技法を用いて非常に容易に精製することができる。従って、本発明は真の新しい部類の円筒状カーボンナノチューブを効果的に提供するものである。
【0069】
短いカーボンナノチューブの均一な集合物の調製は、ナノチューブを切断し、アニールし(再び閉じ)、続いて分別することにより達成される。切断及びアニール工程は、精製したナノチューブの「バッキーペーパー」、ナノチューブの精製前のフェルト或いは単層ナノチューブを含有する任意の物質に対して行われる。切断及びアニールをフェルトについて行う場合、好ましくは、非晶質炭素を除去するための酸化精製及び任意の鹸化に続いて行う。好ましくは、切断工程用の出発物質は実質的に他の物質を含有しない精製した単層ナノチューブである。
【0070】
短いナノチューブの切断は、意図する使用を容易にする一定の長さに切断するか、或いは一定の範囲の長さのものを選択するかのいずれも可能である。個々の円筒状分子自体に関係する用途(例えば、誘導体、量子デバイス中のナノスケールの導体、即ち分子配線)には、長さは正にチューブの直径より大きく、チューブの直径の約1,000倍迄である。典型的な円筒状分子は約5乃至1,000ナノメートル又はそれより長い範囲にある。以下に記載されるごとく、単層ナノチューブの炭素繊維の成長に有用な鋳型を作成するためには、約50乃至500ナノメートルの長さが好ましい。
【0071】
残存断片の構造に実質的に影響を与えないで所望のナノチューブの分子の長さを達成する任意の切断方法が採用可能である。好ましい切断方法は高度の質量イオン(mass ions)の照射を採用する。この方法において、試料に、例えばサイクロトロンからの高速イオンビームを約0.1乃至10ギガ電子ボルトのエネルギーで照射する。好ましい高質量イオンは、ビスマス、金、ウラン等の約150原子質量単位を超えるものを含む。
【0072】
好ましくは、均一の長さを有する個々の単層ナノチューブの集団の調製は、不均一な「バッキーペーパー」を出発物とし、該「ペーパー」中のナノチューブを金(Au+33)高速イオンビームを使用して切断を行う。この代表的な手順において、「バッキーペーパー」(厚さ約100ミクロン)に約1012までの高速イオン/センチメートル平方を照射し、ナノチューブの長さに沿って平均100ナノメートル毎に、「ペーパー」中のナノチューブに激しい損傷を供える。高速イオン、試料を貫通する10乃至100ナノメートルの「弾丸貫通孔」に類似する方法で「バッキーペーパー」に損傷を創出する。次いで損傷したナノチューブを、イオン損傷が発生した点でチューブの熱溶封によりアニールし(閉じ)、多数のより短いナノチューブを産出することができる。これらの束のレベルで産出されたより短い円筒状の分子は、約100ナノメートル付近の長さのピークを有する不規則な切断サイズの分布を持つ。適切なアニール条件はフラーレン技術分野ではよく知られており、例えば、真空又は不活性ガス中1200℃で1時間チューブをベーキングするものである
単層ナノチューブはまた、製造中故意に該単層ナノチューブの構造中に欠陥生生原子を含有させることにより切断してより短い円筒状の分子とすることができる。これらの欠陥は化学的に創出して(例えば、酸化的に攻撃して)ナノチューブを切断し、より小さな切断とすることができる。例えば、初めの炭素蒸発源中に炭素原子1000当り1硼素を含有させることにより化学的攻撃に対しては内臓の弱点を有する単層ナノチューブを製造することができる。
【0073】
切断はまた、液体又は溶融炭化水素等の適当な媒体中の単層ナノチューブ懸濁液を超音波により分解することによって達成することができる。適切な音響エネルギーを生じる任意の装置が使用できる。この種の一つの好ましい液体は1,2−ジクロロエタンである。この種の一つの装置は、コウルーパーマー社(Cole-Parmer, Inc.)製コンパクトクリーナー(ワンパイント)[Compact Cleaner(One Pint)]である。この型は40キロヘルツで作動し、20ワットの出力を有する。超音波分解切断法は、充分なエネルギー入力で且つ初めの懸濁液中に存在するチューブ、ロープ又はケーブルの長さを実質的に減少させるに十分な時間連続的に行うべきである。出発物質の性質及び求める長さの減少度により典型的には約10分乃至約24時間が用いられる。
【0074】
別の実施態様において、気泡崩壊[(bubble collapse)(5,000℃以下で且つ約1,000atm以下)]で創出される高温高圧によるか或いは超音波化学により産出される遊離基の攻撃によりロープ長に沿って欠陥を発生させるために、超音波分解を使用することができる。これらの欠陥は、硫酸/硝酸溶液により攻撃され、ナノチューブを汚れなく切断し、更に下に横たわる損傷及び切断用のチューブを露出する。酸がチューブを攻撃すると、チューブは完全に切り開かれ、徐々に溶蝕し返し始め、開口端部は温和な温度で再び閉じることができなくなる。好ましい方法において、ナノチューブを、40乃至45℃の硫酸/硝酸溶液中24時間攪拌しながら、浴超音波分解を行う。次いで、該硫酸/硝酸溶液中40乃至45℃で2時間超音波分解なしで攪拌する。これは超音波分解により発生した全ての欠陥を、それ以上の欠陥を発生することなく該硫酸/硝酸溶液で攻撃するものである。次いで、ナノチューブを水で4倍希釈し、0.1ミクロン孔径のブイシーティーピー(VCTP)フィルターを使用して濾過する。次に、ナノチューブを濾過し、該VCTPフィルター上で10ミリモル濃度の水酸化ナトリウム溶液で洗浄する。ナノチューブは、硫酸/硝酸溶液中で70℃で30分攪拌することにより磨かれる。磨かれたナノチューブは水で4倍希釈し、0.1ミクロン孔径のVCTPフィルターを使用して濾過し、次いで濾過し、0.1ミクロン孔径のVCTPフィルター上で10ミリモル濃度の水酸化ナトリウムで洗浄後、水中に保存する。
【0075】
例えば、高濃度の硝酸を使用する酸化溶蝕方法はまた、単層ナノチューブを切断してより短い長さにすることに使用できる。例えば、濃硝酸中数時間乃至1日又は2日間単層ナノチューブを還流すると有意に短い単層ナノチューブとなる。この機構による切断速度は、チューブの螺旋度(helicity)に依存する。この事実を利用すると、型による、即ち(n, m)型から(n, n)型のチューブの分離が容易となる。
【0076】
長さ分布は、酸への露出時間に従って系統的に短くなる。例えば、容量比3対1の濃硫酸/硝酸溶液中70℃でのナノチューブの平均切断は約100ナノメートル/時の速度で短くなる。容量比4対1の硫酸/30%水性過酸化水素(「ピラニア」)混合物中70℃で、短縮速度はほぼ200ナノメートル/時である。溶蝕速度は、ナノチューブのカイラル指数(n, m)、即ちジグザグ(zigzag)型チューブ(m=o)から化学的に区別される全てのアームチェア(arm-chair)型チューブ(m=x)に対して鋭敏であり、中間螺旋角(n1m)のナノチューブに対してはさほど鋭敏はない。
【0077】
本工程により、清浄したナノチューブは50乃至500ナノメートル、好ましくは100乃至300ナノメートルの長さに切断される。得られた断片はトリトンエックス−100(Triton X-100a)[アルドリッチ社製、ミルウオーキー、ウィスコンシン、米国合衆国(Aldrich, Milwaukee, WI, U.S.A.)]等の界面活性剤と混合すると、水中コロイド懸濁液を形成する。この黒色の懸濁液は、電界流動分別を使用した長さによる選別等種々の操作及びグラファイト上への電着とそれに続くAFM画像化が可能である。
【0078】
別の実施態様において、単層ナノチューブは電子ビーム切断装置を使用して公知の方法で切断することができる。
前記切断技法を組合わせて用いることもできる。
【0079】
単層ナノチューブの均一集団は、アニール後の不均一ナノチューブ集団の分別により調製することができる。アニールしたナノチューブは、分別用の水性洗剤溶液又は有機溶媒中に分散させることができる。好ましくは、該チューブをベンゼン、トルエン、キシレン又は溶融ナフタレン中で超音波分解により分散させる。この手順の主要な機能は、ファンデルワールス力によりロープ又はマット状に結合したナノチューブを分離することである。個々のナノチューブへの分離に続き、ナノチューブは、DNA分別又は重合体分別用手順等の公知の分別手順を使用して大きさにより分別することができる。分別はまた、アニール前のチューブに対して、特に開放端部が置換基(カルボキシ基、水酸基等)を有する場合、行うこともでき、大きさ又は種類のいずれかによる分別が容易になる。代わりに、閉じたチューブを開き、誘導体としてかかる置換基を導入することができる。閉じたチューブはまた、例えば、可溶部分を端部のキャップに付加することにより誘導体化し分別を容易にすることが出来る。
【0080】
電気泳動は、かかる一つの技法であり単層ナノチューブ分子が容易に陰電荷化されるのでその分別により適している。異なる構造の種類(例えば、アームチェア型及びジグザグ型)を有する単層ナノチューブの異なる分極化及び電気的特性を利用して種類によるナノチューブを分離することも可能である。種類による分離はまた、一種類の構造に優先して結合する部分を用いて分子の混合物を誘導体化することにより容易となり得る。
【0081】
代表的な一例に於いて、硝酸中48時間還流して精製したナノチューブから成る黒色「バッキーペーパー」の100ミクロン厚のマットに、テキサスエイ アンド エム スーパーコンダクティング サイクロトロン ファシリティ(Texas A&M Superconducting Cyclotron Facility)で(1012までのイオン/センチメートル平方の正味フラックスの)金(Au+33)イオンの2ギガ電子ボルトのビームを100分間照射した。照射した「ペーパー」は真空中1,200℃で一時間ベーキングし、チューブを「弾丸貫通孔」で封止し、次いで超音波を行いながらトルエン中に分散した。得られた円筒状の分子をSEM、AFM及びTEMにより検査した。
【0082】
ここに記載した手順により、円筒部が、巻いて長軸に平行な両端部で結合したグラフェン[graphene(六角形の結合した炭素)]の実質的に無欠陥シートから形成されている単層ナノチューブである円筒状分子が製造される。該ナノチューブはフラーレンキャップ(例えば、半球状のもの)を円筒の一方の端部に、他方の端部に類似のフラーレンキャップを有することができる。一方又は両方の端部はまた開いてもよい。ここに記載した方法により調製したこれらの単層ナノチューブは実質的に非晶質炭素を含まない。これらの精製ナノチューブは実際に真の新しい部類の円筒状の分子である。
【0083】
一般に、これらの分子の長さ、直径及び螺旋度(helicity)は、制御して所望の任意に値することができる。好ましい長さは106六角形までであり、好ましい直径は、約5乃至50六角形周長であり、その好ましい螺旋角は0度乃至30度である。
【0084】
好ましくは、該円筒分子は、先に検討した方法により製造された物質を精製することにより得られる主たるアームチェア(n, n)型配置から成るナノチューブを切断及びアニールすることにより製造される。これら(n, n)型炭素分子類はここに記載したごとく精製すると、最初の真の「金属性分子(metallic molecules)」である。これらの分子は、炭素分子が高い導電性で且つ大きさが小さいため、コンピューターに使用される集積回路や半導体チップのごときデバイス用の電気コネクターの製造に有用である。単層ナノチューブ分子はまた、例えば、共鳴トンネルダイオードのごとき室温で量子効果が支配する電気デバイスの部品としても有用である。該金属性炭素分子は、光学的周波数のアンテナ及びSTM及びAFMに使用されるごとき走査型深針(probe)顕微鏡法の深針として有用である。(m, n)型チューブでm1nの場合の半導体単層ナノチューブ構造体類は、適切にドーピングすると、トランジスターのごときナノスケールの半導体デバイスとして使用することができる。
【0085】
本発明の円筒状炭素分子はまた、例えば、マイクロウェーブ吸収材料を作成するための高周波遮蔽用途においても使用することができる。
単層ナノチューブ分子は、フラーレン類として触媒されることが知られている任意の反応において、その分子の線状配置が提供する付加的利点を有する触媒として役立ちうる。炭素ナノチューブはまた、水素添加、改質及び分解触媒等の工業的、化学的方法に使用される触媒の支持体として有用である。単層ナノチューブ分子を含む物質はまた、電池及び燃料電池の水素貯蔵デバイスとして有用である。
【0086】
本発明により製造した円筒状炭素分子は、端部が開かれるか或いは半球状フラーレンドーム(hemi-fullerene dome)で封止さるその端部で化学的に誘導体化することができる。フラーレンキャップ構造体類の誘導体化はその構造の公知の反応性により容易なものとなっている。「フラーレン類の化学(The Chemistry of Fullerenes)」、アール・テイラー(R. Taylor)編、フラーレン類の上級シリーズ(The Advance Series in Fullerenes)第4巻、ワールドサイエンス(World Science)出版社、シンガポール(1995年)及びエイ・ヒルシュ(A. Hirsch)著「フラーレン類の化学(The Chemistry of the Fullerenes)」、ティーメ(Thieme)(1994年)を参照。代わりに、単層ナノチューブのフラーレンキャップは、チューブは開くには十分であるが溶蝕し返ししすぎない程度の酸化条件(例えば、硝酸または酸素/一酸化炭素)に短時間さらすことによりその一方或いは両方の端部で除去することができ、得られる開いたチューブの端部を、グラフェンシート端の反応性部位に対する公知の反応機構を使用して誘導体化することができる。
【0087】
一般的に、かかる分子の構造は以下のごとく示される。
【0088】
【化1】
【0089】
この構造において
【0090】
【化2】
【0091】
は、約102乃至約106の炭素原子を有し、また約5乃至1,000ナノメートル、好ましくは約5乃至500ナノメートルの長さを有する(任意的に非炭素原子によりドープされていてもよい)実質的に欠陥不含の円筒状グラフェンシートであり;
【0092】
【化3】
【0093】
は、該円筒状グラフェンシートに完全に嵌合し、少なくとも5個の五角形と残部の六角形を有し、典型的には少なくとも約30個の炭素原子を有し;
nは0乃至30、好ましくは0乃至12であり;そして
R、R1、R2、R3、R4及びR5は各々独立して、水素;アルキル、アシル、アリール、アラルキル、ハロゲン;置換又は無置換チオール;置換又は無置換のアミノ;ヒドロキシル及びOR’(式中R’は水素、アルキル、アシル、アリール、アラルキル、置換又は無置換のアミノ;置換又は無置換のチオール;ハロゲン;及び任意に一つ以上のヘテロ原子により中断されているか或いは任意に一つ以上の=O又は=S、ヒドロキシル、アミノアルキル基、アミノ酸又は2乃至8個のアミノ酸のペプチドで置換されている線状又は環状炭素鎖からなる群より選択される)からなる群より選択される。
【0094】
下記の定義を本明細書及び請求項において使用する。
本明細書及び請求項において(以下「ここにおいて」と言う。)使用される「アルキル」なる用語は、線状及び分岐した鎖状基の両方を含み、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第三級ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、4,4−ジメチルペンチル、オクチル、2,2,4−トリメチルペンチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル及びそれらの種々の分岐した鎖状異性体を含む。該鎖は線状であっても環状であっても、また飽和であっても不飽和であっても、例えば、二重結合及び三重結合を含んでもいてもよい。該アルキル基は、例えば、ハロゲン、酸素、シリル、アミノ又は他の許容しうる置換基で中断又は置換されていてもよい。
【0095】
ここにおいて使用される「アシル」なる用語は、式−COR(式中Rは任意の置換基で、例えば、アルキル、アリール、アラルキル、ハロゲン;置換又は無置換のチオール;置換又は無置換のアミノ、置換又は無置換の酸素、ヒドロキシ又は水素)のカルボニル基を指す。
【0096】
ここにおいて使用される「アリール」なる用語は、環の部分に6乃至14の炭素原子を含む単環状、ニ環状或いは三環状芳香族基を指し、例えば、フェニル、ナフチル、置換フェニル又は置換ナフチルがあり、フェニル又はナフチルの置換基は、例えば、炭素数1乃至4のアルキル基、ハロゲン、炭素数1乃至4のアルコキシ、ヒドロキシ又はニトロである。
【0097】
ここに於いて使用される「アラルキル」なる用語は、例えば、ベンジル、パラニトロベンジル、フェニルエチル、ジフェニルメチル及びトリフェニルメチル等のアリール置換基を有する上記アルキル基を指す。
【0098】
ここにおいて使用する「芳香環又は非芳香環」なる用語は一種以上のヘテロ原子、例えば、O、S、SO2及びNで中断された又は中断されていない5乃至8員環の芳香又は非芳香環を含むか、或いは該環は、例えば、ハロゲン、アルキル、アシル、ヒドロキシル、アリール及びアミノで置換されていてもよく、また前記へテロ原子及び置換基もまた、例えば、アルキル、アシル、アリール又はアラルキルで置換されていてもよい。
【0099】
ここにおいて使用される「線状又は環状」なる用語は、例えば、芳香又は非芳香環により任意に中断されていてもより線状鎖を含む。環状鎖は、例えば、環に先行又は後行する炭素に結合してもよい芳香又は非芳香環を含む。
【0100】
ここに於いて使用される「置換アミノ」なる用語は一種以上の置換基、例えば、アルキル、アシル、アリール、アラルキル、ヒドロキシ及び水素で置換されていてもよいアミノ基を指す。
【0101】
ここにおいて使用する「置換チオール」なる用語は、一種以上の置換基、例えば、アルキル、アシル、アリール、アラルキル、ヒドロキシ及び水素で置換されていてもよいチオールを指す。
【0102】
典型的には、開いた端部は約20までの置換基を含むことができ、閉じた端部は約30までの置換基を含んでいてもよい。立体障害のため、一端当り約12までの置換基を使用することが好ましい。
【0103】
上記外部誘導体化に加えて、本発明の単層ナノチューブ分子は内包的に、即ち、内包フラーレン技術分野で知られているごとく、構造内に一種以上の金属原子を含有させることにより改変することができる。構造体、例えば、C60に結合しない一種以上のより小さい分子を単層ナノチューブ分子に「装填(load)」し、外部磁場又は外力の影響下で単層ナノ分子内をC60「バッキーボール(bucky ball)」が前後頻繁に往復するがことく、分子切り換えを行うこともまた可能である。
【0104】
内包円筒状カーボンナノチューブを製造するためには、内部種(例えば、金属原子又は「バッキーボール」分子)を単層ナノチューブの形成工程中に導入するか或いは円筒状分子の調製後に付加することができる。単層ナノチューブ物質を形成するために蒸発させる炭素源中への金属類の組み入れは、内包金属フラーレン類を製造するための先行技術に記載されている方法で達成される。「バッキーボール」即ち、球状フラーレン分子は、前記した酸化溶蝕法を用いてチューブの一方の端部又は両方の端部のキャップを除去し、C60又はC70含有蒸気の存在下、混合物を(例えば、約500℃乃至約700℃に)平衡時間中加熱することにより過剰量の「バッキーボール」分子(例えば、C60又はC70)を付加することにより本発明の円筒状の炭素分子に積み込むことが好ましい。有意な(例えば、1%の数10分の1乃至約50%まで或いはそれより多い)割合のチューブが本処理中「バッキーボール」分子を捕らえる。チューブ及び「ボール」の相対的配置を選択すると、本方法は容易なものとなり得る。例えば、C60及びC70は(10, 10)型単層ナノチューブ(内径約1ナノメートル)から切り出した円筒状炭素分子に非常にうまく嵌合する。積込み工程後、「バッキーボール」分子を含むチューブは真空下約1,000℃で加熱することにより閉じる(アニールで閉鎖する)。「バッキーボール」の封入は顕微鏡による検査、例えば、TEMにより確認できる。
【0105】
内包的に積み込められた円筒状炭素分子は、次いで空のチューブ及び任意の残存積込め物質から、積込められた円筒状分子に導入された新しい物性、例えば、金属原子が磁性又は常磁性をチューブに付与する場合、或いは「バッキーボール」が過剰の質量をチューブに付与する場合、その物性を利用して分離することができる。これらの物性及び他の物性に基づく分離及び精製は当業者には容易に明らかであろう。
【0106】
C60又はC70のようなフラーレン分子は、電子的観点より(例えば、ファンデルワールス相互作用により)チューブ外で得られるよりもより安定なエネルギー配置を環境に与えるために、適切に選択された円筒分子[例えば、(10, 10)型単層ナノチューブに基づくもの]の内部に留まる。
単層カーボンナノチューブの分子配列
単層ナノチューブ分子の均一集団に対する特に興味ある一つの応用は、個々のナノチューブ配向に対し実質的に垂直な方向に延びる単層を形成すべく、実質的に平衡に配向して(例えば、ファンデルワールス力により)凝縮する単層ナノチューブより成る実質的に二次元的な配列を産出することである。かかる単層配列は、「自己集合単層[self-assembled monolayers (SAM)]又はラングミュアーブロジェット膜という[Langmuir-Blodgett film(以下「LB膜」という)] [ヒルシュ(Hirsch)、第75頁乃至第76頁参照]を用いる従来技法により形成することができる。かかる単層配列を図式的に図4に示す。この図において、ナノチューブ1は反応性被覆3(例えば、金)を有する基質2に結合している。
【0107】
典型的に、自己集合単層は[金、水銀又はITO(インジウム−錫−酸化物)等の]金属である基質上に創出される。興味の対象である分子は、ここにおいては単層ナノチューブ分子であるが、−S−, −S−(CH2)n−NH−, −SiO3(CH2)3NH−等のリンカー(linker)部分を通して(通常は共有的に)基質に結合している。該結合部分は最初に基質に、或いは最初に単層ナノチューブ分子(の開いた又は閉じた端部)に結合して反応性自己集合を提供する。LB膜はニ相(例えば、ベンゼン、トルエン等の)炭化水素と水の界面に形成する。膜の配向は親水部分と親油部分をそれぞれ対向端部に有する分子又はリンカーを用いることにより達成される。
【0108】
単層ナノチューブ分子の配列の配置は、その供される用途により均一又は不均一であり得る。同じ型及び構造の単層ナノチューブ分子を使用すれば図4に示す種類の均一配列が得られる。異なる単層ナノチューブ分子を使用すれば、ランダム又は規則不均一構造が産出される。規則不均一配列の一例を図5に示す。ここではチューブ4は(n, n)型、即ち構造において金属性であり、チューブ5は(m, n)型、即ち絶縁性である。この配置は、前もって遮蔽しておいた反応性基質の領域を除去した後、逐次反応を用いることにより達成される。
【0109】
実質的に平行関係にある103乃至1010又はそれ以上の単層ナノチューブ分子を含む配列はそれ自体ナノ多孔性(nanoporous)導電性分子膜として、例えば、リチウムイオン電池等の電池に使用することができる。この膜はまた、(シス−[ビスチアシアナート ビス(4,4'−ジカルボキシ−2,2'−ビピリジンRu(II))]のごとき光活性分子を付加し或いは付加せずして)米国合衆国特許出願第5,084,365号に示される種類の高度に効率的な電光セルを製造するために使用することができる。
【0110】
本発明の単層ナノチューブ分子配列の一つの好ましい用途は、以下に記載するごとく単層カーボンナノチューブの巨視的炭素繊維の成長用「種(seed)」或いは鋳型を提供することである。この鋳型における巨視的断面の使用は、繊維の成長中、ナノチューブの活性(開いた)端部を原料にさらし続けさせるために特に有用である。本発明の鋳型配列は、最初の鋳型上に形成されたまま、或いはその最初の鋳型から切り離して、或いは(ファンデルワールス力が結合させているため)基質なしで使用することができ、また繊維形成の条件により適した第二の基質に移して使用することもできる。
【0111】
単層ナノチューブ分子配列が下記のごとく巨視的炭素繊維を成長させる種または鋳型として使用される場合、配列は実質的に二次元的配列として形成する必要はない。その上方の表面で二次元的配列を与える任意の配列が使用できる。その好ましい実施態様において、鋳型分子配列は、以下において産出された如く操作可能な長さの巨視的炭素である。
【0112】
好ましい鋳型分子配列を形成する任意の方法は、出発物質として精製した「バッキーペーパー」を用いることを含む。「バッキーペーパー」の表面を(例えば、酸素/一酸化炭素により約500℃で)酸化処理すると、単層ナノチューブの端部と同様に側面が攻撃され、多くのチューブ及び又はロープの端部が該「ペーパー」の表面から突出する。得られた「バッキーペーパー」を電界中(例えば、100ボルト/センチメートル平方)に配置すると、突出するチューブ及び又はロープは「ペーパー」表面に対し実質的に垂直な方向に配列する。これらのチューブはファンデルワールス力により凝集して分子配列を形成する傾向がある。
【0113】
代わりに、単層ナノチューブの分子配列は、精製した「バッキーペーパー」出発物質を「梳り(combing)」により製造することができる。「梳り」は走査型力顕微鏡[scanning force microscope (SFM)]の片持ばり上の珪素プラミッドのような鋭い巨視的先端を用いてナノチューブを配列させることを含む。詳しくは、「梳り」とは、SFMの先端を系統的に「バッキーペーパー」へ突込み、引きずって行き、そして「バッキーペーパー」から引き上げる工程である。「バッキーペーパー」の断片全体は、例えば、(1)系統的にSFMの先端を「バッキーペーパー」の断片に突込み、引きずりそしてそれに沿って前進させ、(2)一列が完了するまで(1)の事象を繰返し、そして(3)別の列に沿って該先端の位置替えをして(1)および(2)を繰り返すことにより梳ることができる。 好ましい梳り方法において、興味の対象とする「バッキーペーパー」の断片は、或る深さにおいて上記(1)ないし(3)の工程を行い、次いで別の深さにおいて、その全工程を繰返すことに梳りが完了する。例えば、10ミクロンメートル平方の「バッキーペーパー」に0.5ミクロンメートルの間隔で20本の線を引くことができるリソグラフィーによる行動計画を書き込みそれを従って実施するものである。この行動計画は、深さを0.5ミクロンメートルづつ増加させてゼロから3ミクロンメートルまで7回実施することができる。
【0114】
大きな配列(即ち、106を超えるナノチューブ)は、より小さい配列を一つにすることにより、或いはチューブ及び又はロープの線状の集まりを折りたたむことにより(即ち、nチューブの集まりを一度折りたたむと2nチューブの束となる)ナノプローブ(nanoprobes)を用いて集合させる。
【0115】
巨視的配列はまた、ナノスケールのマイクロウェル(microwell)構造体(例えば、電子ビームリソグラフィー技法で表面に形成された巾10ナノメートル、深さ10ナノメートルの106を超える長方形の窪み[ウェル(well)]を有する二酸化珪素被覆シリコンウェハー)を提供することにより形成することもできる。好ましくは触媒金属クラスター(又は前駆体)を各ウェルに蒸着させ、炭素含有原料を、ウェルから単層ナノチューブ繊維の成長を開始させるため、以下に記載する条件下で配列に向ける。予備形成したナノ粒子(nanoparticles)[即ち、ダイ(Dai)らの「一酸化炭素の金属触媒不均一化反応により製造された単層ナノチューブ(Single-Wall Nanotubes Produced by Metal Catalyzed Disproportionation of Carbon Monoxide)」、ケム・フィズ・レット(Chem. Phys. Lett.)第260巻(1996年)、第471頁乃至第475頁(以下「ダイ」という)に記載されている直径数ナノメートルのもの]の形態の触媒もまたウェルに使用できる。ウェハー表面に対して実質的に垂直な方向に繊維を配向させるために、電場をかけることができる
単層ナノチューブ分子配列からの連続炭素繊維の成長
本発明は単層ナノチューブ分子配列から連続炭素繊維を任意の所望の長さへ成長させる方法を提供する。実質的に平行な炭素ナノチューブの凝集体を含有する炭素繊維は、適切な種分子配列の成長(伸長)により本発明方法に従って製造することができる。好ましい単層ナノチューブ分子配列は、実質的に均一的な長さの単層ナノチューブの自己集合単層から上記のごとくして製造される。ここに於いて使用される「巨視的炭素繊維」なる用語は、物理的に操作し得るに十分な大きさの直径、典型的には約1ミクロンを超え、好ましくは約10ミクロンを超える直径を有する繊維を指す。
【0116】
成長方法における第一工程は、分子配列中の単層ナノチューブの成長端部を開くものである。これは上記のごとく酸化処理でもって達成される。次に、遷移金属触媒を開いた端部の種配列に付加する。該遷移金属触媒は、下記の炭素含有原料を成長端部で好ましい六角形構造に転移し得る高度に移動性の炭素遊離基へ転換させる任意の遷移金属である。好ましい物質として遷移金属が含まれ、特にVI族又はVIII族の遷移金属、即ちクロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、及びプラチナ(Pt)が含まれる。ランタノイド及びアクチノイドの金属もまた使用することができる。好ましいものは鉄、ニッケル、コバルト及びそれらの混合物である。最も好ましいものは、ニッケルとコバルトの50/50比(重量)の混合物である。
【0117】
該触媒は、(単層ナノチューブ分子の直径によるが)約10金属原子乃至約200金属原子を含有する金属クラスターとして開いた単層ナノチューブ端部に存在すべきである。典型的には、該触媒金属クラスターが開いたチューブの頂上に座し、一またはニを超えるチューブに亙って橋かけをしない場合、反応は最も効率よく進行する。チューブの直径の約0.5乃至約1.0倍(例えば、0.5乃至約1.5ナノメートル)に等しい断面を有する金属クラスターがより好ましい。
【0118】
該好ましい方法に於いて、触媒は、真空蒸着法により分子配列の開いたチューブの端部上で、その場で形成される。分子線エピタキシー(MBE)蒸着において用いられる装置等の任意の好ましい装置が使用される。かかる一つの装置としてクユドセン噴散源蒸発器(Kudsen Effusion Source Evaporator)がある。チューブの端部の近傍で線材(例えば、ニッケル/一酸化炭素線材或いはニッケルと一酸化炭素の別々の線材)を、一本の線材表面から十分な原子が蒸発する融点より低い温度(例えば、約900℃乃至1,300℃)に単に加熱するだけで金属の十分な蒸着を行うこともできる。該蒸着は、好ましくは真空中、前もってガス放出をして行う。約10−6 トル乃至10−8 トルの真空が適している。蒸発温度は該金属触媒を蒸発させるに十分な高い温度にすべきである。典型的には、好ましい実施態様であるニッケル/一酸化炭素触媒に対しては1,500℃乃至2,000℃の範囲の温度が適している。該蒸発方法において、金属は典型的には金属原子の単層として蒸着される。約1乃至10の単層が一般的には触媒の必要な量となる。開いたチューブ頂点への遷移金属クラスターの蒸着はまた、触媒蒸着域の金属ターゲットのレーザー蒸発によって行うことができる。
【0119】
開いたチューブ端部での実際の触媒クラスター形成は、チューブ端部を、金属原子が開いた端部を探し出し集合してクラスターとなることができるような十分な種の移動を提供ために十分高い温度であるが、チューブの端部を閉じる程には高くない温度へ加熱することにより行う。典型的には、約500℃までの温度が適している。一つの好ましい実施態様であるニッケル/一酸化炭素触媒系に対しては約400℃乃至500℃の範囲の温度が好ましい。
【0120】
好ましい実施態様において、触媒金属クラスターは、次に続く成長反応の最良の場所を確保する結合過程(docking process)により開いたナノチューブ上に蒸着する。本方法に於いて、金属原子は上記のごとく供給されるが条件は還元条件、例えば、800℃、水素10ミリトルで1乃至10分を提供するように改変する。これらの条件は、金属原子クラスターが反応部位を求めて系中を移動させるものである。還元加熱中、触媒物質は最終的には開いた端部を見出しそこへ定着し、チューブを溶蝕し返し(etch back)始める。還元時間は、触媒粒子がナノチューブを見出し溶蝕し返し始めるには十分長くすべきであるが、チューブを実質的に溶蝕してしまう程には長くすべきではない。前記成長条件への切り換えにより、溶蝕し返し工程は反転する。この時点において、触媒粒子は、チューブの端部で(逆方向工程ではあったが)触媒的に活性であったので、該チューブ端部に関して最適の場所を占めている。
【0121】
触媒はまた、成長条件で活性な形に転換する触媒前駆体、例えば、酸化物、他の塩又はリガンドで安定した金属錯体の形態で供給することができる。例として、遷移金属の(第一級、第二級又は第三級)アルキルアミン類錯体を使用することができる。同様の、遷移金属酸化物のアルキルアミン錯体も使用することができる。
【0122】
代わりの実施態様において、触媒は、ダイ(Dai)に記載されているごとく前以て形成したナノ粒子(即ち、直径が数ナノメートルの粒子)として供給してもよい。
本発明の方法の次の工程に於いて、開いたチューブ端部に蒸着した触媒を有する単層ナノチューブ分子配列をチューブの成長(伸長)条件に付す。これは、触媒を蒸着した同一の装置で行っても、或いはそれと異なる装置で行ってもよい。本方法を行う装置は、最低限、炭素含有原料源及び連続糸の成長端部が成長するように維持し且つ蒸気からの炭素が該遷移金属触媒の指示のもとに個々のナノチューブ成長端部へ付加することのできるアニール温度を維持する手段を必要とする。典型的には、該装置はまた、連続的に炭素繊維を収集するための手段を有する。本方法は、例示の目的でのみ図6及び図7に示される装置に引き当てて記載する。
【0123】
単層ナノチューブ配列を成長させ連続糸にするために必要な炭素供給は、ガス状で入口11より反応器10へ行われる。該ガス流は成長配列12の前面の方へ向けられるべきである。ガス状炭素含有原料は、上記のごとく、アルキル類、アシル類、アリール類、アラルキル類等を含む任意の炭化水素又は炭化水素の混合物でありうる。約1乃至7の炭素原子を有する炭化水素が好ましい。特に好ましいのは、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、アセトン、プロパン、プロピレン等である。最も好ましいのはエチレンである。一酸化炭素も使用することができ、いくつかの反応では好ましい。前以て調製したモリブデンを基礎とするナノ触媒(nano-catalyst)を一酸化炭素原料とともに使用すると、現場形成触媒クラスターに対して提案され反応機構とは違なる反応機構に従うと信じられている。参照ダイ(Dai)。
【0124】
原料濃度は、好ましくは反応速度を最大にするように選択され、炭化水素の濃度が高ければ高い程成長速度は速くなる。一般に、原料物質(例えば、エチレン)の分圧は0.001乃至1,000.0トルの範囲、好ましくは約1.0乃至10トルの範囲にありうる。成長速度は、以下に記載するごとく、成長配列の先端の温度の凾数であり、結果として、成長温度と原料濃度は釣合い所望の成長速度を提供する。
【0125】
反応器壁での不必要の熱分解を最小限にすることができるので、炭素原料ガスを予備加熱することは必要ではないが好ましい。成長反応のために供給される唯一の熱は繊維の成長先端12へ集中されるべきである。繊維の残部及び反応装置は室温に保つことができる。熱は任意の好ましい手段により局限して供給することができる。小さい繊維(直径1ミリメートル未満)に対しては成長端部に集束したレーザー13(例えば、514ナノメートルのアルゴンイオンレーザーのごときCWレーザー)が好ましい。より大きい繊維に対しては、熱はまた成長繊維先端に局限したマイクロ波エネルギー又は高周波エネルギーにより供給することができる。成長先端に集束させることができる他の任意の形の濃縮電磁エネルギー(例えば、太陽エネルギー)が使用できる。しかし、原料ガスにより感知されて吸収される電磁放射は避けるように注意が払われるべきである。
【0126】
単層ナノチューブ配列の先端は、成長を引き起こし且つ成長する繊維の欠陥を効率的にアニールしてその結果成長兼アニール域を該先端で形成するための十分な温度に加熱すべきである。一般に、この温度の上限は、原料の熱分解及び反応器の汚れ又は蒸着した金属触媒の蒸発を避ける必要性により支配される。大抵の原料に対しては、この温度は約1,300℃未満である。許容し得る温度範囲の下限は典型的には約500℃であり、原料及び触媒効率による。約500℃乃至約1,200℃の範囲の温度が好ましい。約700℃乃至約1,200℃の範囲の温度がより好ましい。約900℃乃至約1,100℃の範囲の温度が最も好ましい。何故なら、これらの温度で欠陥の最良のアニーリンが起こるからである。ケーブルの成長端部での温度は、好ましくは生じた白熱を測定する光高温計により監視されそしてそれに応答して制御される。可能な汚染の問題のため好ましくはないが、ある状況下ではアルゴン又はヘリウム等の不活性清掃ガスの使用が可能である。
【0127】
一般に、成長室の圧力は1ミリメートル乃至1気圧の範囲にある。全圧は炭素原料の分圧の1乃至2倍に維持すべきである。真空ポンプ15を図示されているごとく備えることができる。原料混合物は成長室へ再循環するのが望ましい。成長すると繊維は、駆動ロール17及び遊びロール18のごとき適当な輸送機構により成長室16から取り出すことができる。成長室16は真空水平送り域(vacuum feed lock zone)19と直接通じている。
【0128】
成長室の圧力は、一連の室20を使用することにより、もし必要ならば該真空水平送りにおいて大気圧までもっていくことができる。これらの室の各々は、移動する繊維を囲むゆるいテフロン(登録商標)のOリングシール21により分離されている。ポンプ22は差圧の均圧化を行う。巻き取りロール23は連続的に室温の炭素繊維ケーブルを収集する。本方法の生成物産出量は毎分10−3乃至101フィート以上の範囲にあり得る。本方法により、単層ナノチューブ分子から成る連続炭素繊維を毎日トンの割合で産出することができる。
【0129】
繊維の成長は、任意の段階で(特定の繊維長の製造を容易にするためか或いはあまりに多くの欠陥が発生したとき)停止することができる。成長を再開させるためには、端部を(化学的又は電気化学的)酸化溶蝕により清浄すること(再び開く)ことができる。触媒粒子は次に開いたチューブ端部で再び形成され成長が続けられる。
【0130】
分子配列(鋳型)は成長前又は成長後に、巨視的物理的分離手段、例えば、所望の長さに繊維をはさみで切断することにより、繊維から取り除いてもよい。繊維の任意の断片は、同種類の繊維の生産を開始するために、鋳型として使用することができる。
【0131】
本発明の連続炭素繊維はまた、一種以上の別々に調製された分子配列又は鋳型から成長させることもできる。多配列は単層ナノチューブの種類又は配列の幾何学的配置に関して同一であっても、或いは異なっていてもよい。引張特性の増進した大きなケーブル様構造体は、図8に示す多数のより小さな分離した配列から成長させることができる。前記の遮蔽及び被覆技法に加えて、例えば、図9に示すごとく、中央の金属性単層ナノチューブの心配列を、心配列の回りを環の配置で一連のより小さい円形非金属性単層ナノチューブで囲むことにより複合構造体を調製することも可能である。
【0132】
本発明により考慮される全ての構造体は、必ずしも二次元的断面が円いか或いは対称的でさえある必要はない。多分子配列種鋳型を、複合繊維のいくつかの部分で単層ナノチューブの非平行な成長を引き起こさせその結果、例えば、捻じれた螺旋状のロープを産出するように整列させることさえも可能である。鋳型配列の形成に関連して上記したごとく、繊維中の単層ナノチューブの整列を助けるために、電場の存在下で巨視的炭素繊維を接触的に成長させることも可能である。
単層ナノチューブからの炭素繊維の不規則成長
上記した単層ナノチューブの規則的な束の連続的成長は多くの用途に望ましいが、個々のチューブ、ロープ及び又はケーブルを含む単層ナノチューブの不規則に配向した素材を含有する有用な組成物を製造することも可能である。不規則成長方法は多量の、即ちトン/日の単層ナノチューブ材料を製造する能力を有する。
【0133】
一般に不規則成長方法は、前記したごとき適当な遷移原子触媒とともに供給される複数の単層ナノチューブ種分子を用意すること及び該単層ナノチューブ種分子を数次数の大きさ、例えば、その初めの長さの102乃至1010倍以上に延長させる条件下に付すことを含有する。
【0134】
該種単層ナノチューブは、例えば、連続繊維又は精製した「バッキーペーパー」を切断することにより、好ましくは比較的短い長さで前記のごとく製造する。好ましい実施態様において、種分子は本不規則成長方法により(例えば、切断により)製造した単層ナノチューブフェルトから最初の一走行後に得ることができる。長さは均一である必要はなく一般的には約5ナノメートル長乃至10ミクロンメートル長の範囲にある。
【0135】
これらの単層ナノチューブ分子は、成長反応に参加しない巨視的スケール(macroscale)又はナノスケールの支持体上に形成される。別の実施態様において、複数又は単数の単層ナノチューブ構造体は支持体物質兼種として用いることができる。例えば、以下に記載する自己集合技法は三次元単層ナノチューブナノ構造体(nanostructure)を形成するために使用することができる。これらの技法により製造されるナノスケールの粉体は、支持体物質が不規則成長方法に参加できる利点を有する。
【0136】
支持または未支持の単層ナノチューブ種物質は、単層ナノチューブ分子の端部を開きそして金属原子クラスターを蒸着させることにより前記したごとき適当な成長触媒と一つにすることができる。代わりに、成長触媒は、可溶性の、或いは懸濁した触媒前駆体を含む適当な液体中の種の懸濁液を蒸発させることにより開いた種分子の一方又は両方の端部に供給することができる。例えば、該液体が水である場合、硝酸第二鉄、硝酸ニッケル、硝酸コバルト等の可溶性金属塩が触媒前駆体として用いられる。触媒物質が単層ナノチューブ種分子の開いた端部上に正しく位置するのを確実にするために、該単層ナノチューブ端部を、触媒ナノ粒子、或いはより好ましくはリガンドで安定化した触媒ナノ粒子を結合する部分で以って誘導体化することがいくつかの状況下では必要となる。
【0137】
不規則成長方法の第一の工程に於いて、付着した触媒を含むか、或いは溶解した触媒前駆体と会合した種粒子の懸濁液を、混合物が清掃ガス流と接触する蒸発域中へ注入し、250℃乃至500℃の範囲の温度へ加熱して該液をフラッシュ蒸発させて連行反応性ナノ粒(即ち、種/触媒)を提供する。任意的に、この連行粒流を還元工程に付し、更に触媒を(例えば、水素中300℃乃至500℃で加熱して)活性化する。次に、前記連続成長法で用いた種類の炭素質原料ガスを清掃ガス/活性ナノ粒流中に導入し、そして清掃ガスにより該混合物を成長域へ運び更に成長域を通過させる。
【0138】
該成長域の反応条件は前記したものであり、即ち、500℃乃至1,000℃で約1気圧の全圧である。原料ガス(例えば、エチレン又は一酸化炭素)の分圧は約1乃至100トルの範囲にある。反応は好ましくは管状反応器で実施し、その中を清掃ガス(例えば、アルゴン)が流れる。
【0139】
成長域は、(1)原料ガスを予備加熱し、(2)清掃ガスを予備加熱し、(3)成長域を外部より加熱し、(4)例えば、レーザー又は誘導コイル或いはそれらの組合わせにより成長域で局限加熱を与えることにより、適切な成長温度に保つことができる。
【0140】
本方法で製造した生成物の下流での回収は濾過、遠心分離機による分離等の公知の手段で行うことができる。精製も前記のごとくして達成することができる。本不規則方法により作製したフェルトは複合体類、例えば、重合体、エポキシ、金属、炭素(即ち、炭素/炭素物質)及び磁束ピン止め用の高いTζ超伝導体を製造するために使用することができる。
巨視的炭素繊維
ここに記載したごとくに製造した巨視的炭素繊維は、好ましくは一般的には平行配向した多くの単層ナノチューブの凝集体から成っている。個々のナノチューブは、特に非常に近い距離においては他の個々のナノチューブに対して平行配向から逸脱しているかもしれないが、巨視的距離に亙り、すべてのナノチューブの平均配向は、一般的には集合体中の全ての他のナノチューブ配向に対して平行である(ここに記載した巨視的距離は一般的には1ミクロンを越えるものと考えられる)。好ましい一形態において、単層ナノチューブ類は正三角格子状に、即ち最密充填関係で配列している。
【0141】
本発明の炭素繊維は個々の円筒状の分子より成っており、構造においては全体又は部分が結晶性であるか、或いは非晶質である。繊維の秩序度は分子配列におけるチューブの幾何学的関係と成長及びアニール条件の両方に依存している。繊維は収集前又は収集後に配向又は他の二次処理に付すことができる。この方法により製造した繊維は、例えば、更に紡糸又は編組してより大きな糸又はケーブルにすることができる。製造したままの繊維は多くの用途に対して十分な大きさの直径であるとも考えられる。
【0142】
一般的には、本発明により製造した巨視的炭素繊維は十分な数の実質的に平行な単層のナノチューブから成り、個々の繊維として実際に取り扱われるには、そして或いはより大きい連続生成物へ加工するには直径は十分大きい。ナノチューブの集団の巨視的性質はこれらのナノチューブでの電流の伝送等の最終用途に対しても重要である。本発明による巨視的炭素繊維は、好ましくは少なくとも106の単層カーボンナノチューブ、より好ましくは少なくとも109の単層カーボンナノチューブを含んでいる。集合したナノチューブの数は、炭素アーク又はレーザー蒸発装置において縮合する炭素蒸気中で単層ナノチューブを形成する間に自然整列する数(103未満)より遥かに大きい。多くの用途に対して、本発明の巨視的炭素繊維の好ましい直径は約1乃至約10ミクロンの範囲にある。いくつかの用途、例えば、電力伝送ケーブルには数センチメートルまでの繊維直径が要求される。ドーパント、例えば、繊維のチューブ間に物理的に閉じ込められる例えば、金属類、ハロゲン類、塩化第二鉄等を含有することも可能である。
【0143】
本発明の巨視的炭素繊維は一般的には少なくとも長さが1ミリメートルであり、正確な長さは繊維が使用される特定の用途に依存する。例えば、本繊維でもって強化用の従来のグラファイト炭素繊維を代えるよう設計する場合、本発明による繊維長は従来の炭素繊維長に類似している。本発明による巨視的炭素繊維を電導度用に使用する場合、繊維長は好ましくは電導度が要求される距離に対応する。典型的には、かかる距離は1乃至100ミクロン以上或いは1乃至10ミリメートル以上である。巨視的距離に亙る電導度が必要な場合、本発明による巨視的炭素繊維はメートル以上の位数の長さを有することが好ましい。
【0144】
本発明の連続炭素繊維がかかる改良された物理的性質を有する一つの理由は、高い次数の積層体の、即ち109以上の多くの個々の円筒状分子がともに積層されているその構造である。本構造は、遥かに高い屈曲強度、高い耐薬品腐蝕破損性、より良好な耐摩耗性、より高い弾性及び同類の一体式素材と完全に異なる引張り破損機構を提供する。本発明の単層炭素ナノチューブ繊維は、低重量で極度に高い引張り強度(重量は6分の1にすぎないが鋼より100倍迄も強力)を提供する。本繊維は銅と類似の導電率を有する。更に繊維の熱伝導率は近似的にダイヤモンドの熱伝導率である。本発明の炭素繊維はまた、(C60乃至C70のごとき球状フラーレン類よりもよい)高い耐薬品性を有する。一般的に、本発明の欠陥を有しない連続炭素繊維は、巨視的距離に亙って伸びるほぼ完全な多六角形構造のために、従来の炭素繊維を超える改良された物性を示す。
【0145】
特別の実施態様において、本発明による巨視的炭素繊維は、アームチェア型配向の単層ナノチューブを実質的に含有する領域を有し且つ該領域が少なくとも1ミクロン、好ましくは少なくとも100ミクロンの直径を有する自己集合単層を含有する分子配列から成長したものである。単層が集合する表面に遮蔽膜を使用することにより、アームチェア構造の単層ナノチューブを含む領域は、カイラル型又はジグザグ型構造を有するチューブの同軸領域により全側面が完全に囲まれる。この鋳型からの延長は、半導性又は絶縁性のさやで囲まれた導電性の心を産出し、各層は本質的に不定長の単分子から成り立っている。同様の方法で、数層を有する共軸伝送ケーブルを製造することができる。
【0146】
これらの炭素繊維の応用は、現在グラファイト繊維類及び高強度繊維類が使われている応用を含み、例えば、電池及び燃料電池用膜類;化学的フィルター類;触媒支持体類;水素蓄蔵(吸収材料としてまた高圧容器製造に使用される);リチウムイオン電池類;及びコンデンサー膜類があげられる。これらの繊維は(ナノチューブの曲げ又は捻れのいずれかに感応する)ナノひずみ(nanostrain)ゲージのごとき電気化学デバイスにも使用することができる。本発明の繊維はそのまま製品として、或いは公知の繊維技法を使用して加工糸(threads)に紡糸して又は糸(yarns)に成形して使用することができる。
【0147】
本発明の炭素繊維技術はまた、ヘキサボロン窒化物格子を用いて新しい複合体類の部類の製造を容易とする。この物質は硼素及び窒素原子から成る(例えば、B3N2又はC2BN3)六角形を有するグラフェン様シートを形成する。窒化硼素先駆体(例えば、トリクロロボラジン、アンモニアと三塩化硼素との混合物又はジボラン)を窒化硼素シートの蒸着用マンドレルとして働く該繊維へ供給することにより、成長炭素繊維への外被覆を提供することも可能である。この外側の窒化硼素層は本発明の金属性炭素繊維に対して高められた絶縁特性を提供する。熱分解炭素ポリマー又はポリマーブレンドの外層付与に用いてもよい。本発明の上記方法に於いて原料を炭化水素から窒化硼素へまた再びそれから炭化水素へと変換することにより、全ての炭素格子の領域と窒化硼素格子の領域が交互する個々のナノチューブで成る繊維を成長させることが可能である。本発明の別の実施態様において、全窒化硼素繊維の成長は、適当な触媒を頂点に付けた単層ナノチューブ鋳型配列と供給された窒化硼素とで以って開始することができる。これらのグラフェン及び窒化硼素系は、大きさがその二つの六形の単位の構造と非常に緊密に合致するために混合することができる。更に熱膨張係数と引張り特性が緊密に合致するためそれらは高められた物性を示す。窒化硼素繊維は強化増強剤として複合体及び炭素繊維の上記した他の多くの用途に使用することができる。
本発明の生産物により可能となったデバイス技術
本発明の円筒状炭素分子、分子配列及び巨視的炭素繊維のユニークな物性は刺激的なデバイスの製作機会を提供するものである。
1.電力伝送ケーブル
電力伝送線の設計は一般的にはアルミ導体を使用し、それはしばしば補強のための鋼ストランド心を有するものである(即ち、いわゆる「ASCR導体」)。この導体は銅導体より大きな損失を有し、一般的には遮蔽されておらずコロナ放電問題につながっている。単層ナノチューブ類の大きな(106を超える)凝集体から形成された連続炭素繊維は、ユニークな設計と特性の電力伝送ケーブルを製作するために使用することができる。かかる一つの設計を図10に示す。この設計は、特別高ボルト[extra high voltage (EHV)](即ち、500キロワットを超える、好ましくは106ボルトを超える)電力伝送が可能で、これまでに得られなかった重量に対する強度(strength-to-weight)特性を有し且つコロナ放電問題が殆どないか或いは皆無であり、本質的には遮蔽された同軸ケーブルである。
【0148】
図示した設計は、上記のごとく[例えば、(n, n)型金属性単層ナノチューブ類から]製作した単層ナノチューブを基礎とする炭素繊維導体の使用を例示するものであり、中心導体30と絶縁層32により分離された同軸外方導体31から成るものである。中心導体は電力伝送を行い、その外方層導体は大地にバイヤスが掛けられている。中心導体は固体金属性炭素でありうる。代わりに、中心導体は、ACSR導体において普通な螺旋状に凝集してもよい金属性炭素繊維ストランドを含有することができる。
【0149】
該内部導体はまた、上記のごとき金属性炭素繊維で織られた又は編組され、露出した心空間を囲む環状チューブを含有することができる。該絶縁層は任意の軽量絶縁物質であり得る。好ましい実施態様のうちで、窒化硼素のストランド束又は織布層は上記のごとくして製作され、(絶縁性間座を用いて形成した)環状の空気空間が使用される。
【0150】
該外方導体層はまた、好ましくは上記したごとく金属性炭素繊維の螺旋状に巻いたストランドで製作されている。このアース接続した層は本質的にコロナ放電問題、或いはその放出を減少さすための従来の措置を講じる必要性を除去するものである。
【0151】
得られた同軸構造体は、極度に高い重量に対する強度特性を所有し、従来の電力水準に比較して、より少ない損失でより大きな距離をより高い電力水準を伝送するために使用することができる。
【0152】
上記電力ケーブル組立体の一つは、従来の電力伝送システムにおける分離した位相に対して使用された各導体を置き換えるために使用することができる。金属性炭素繊維導体と絶縁層を交互に有する多層環状ケーブルを製作することにより、三位相以上を搬送する単一電力伝送ケーブル提供し、電力線の設置及び維持を大きく簡素化することも可能である。
2.太陽電池
米国合衆国特許第5,084,365号に記載されている(参照例としてそのままここに包含される)種類のグレーチェル(Gratzel)電池は、上記したごとき短い炭素ナノチューブ分子の単層分子配列でもって取り換えられたナノ結晶性(nanocrystalline)二酸化チタンを用いて製作することができる。チューブに突き当たる光エネルギーはチューブ長に沿って進行する振動電子流へ転換されるため、光活性染料を用いる必要はない。大きな電荷分離を与える能力(配列チューブの長さ)は高度に効率的な電池を創出する。電池の効率を更に高めるために、配列中の各ナノチューブの端部に付着させた光活性染料(例えば、シス−[ビスチアシアナート ビス(4,4'−ジカルボキシ−2,2'−ビピリジン Ru(II) )]を使用することもまた本発明により意図されている。本発明の別の実施態様において、グレーチェルにより記載されている該ニ酸化チタンナノ構造体は、単層ナノチューブの配列を集める下に横たわる支持体として役立つことができる。この実施態様において、単層ナノチューブ類は直接該ニ酸化チタンに(吸収力により)付着しているか、或いは先ず誘導体化して結合部分を与え、次に該ニ酸化チタン表面に結合する。上記のごとく光活性染料を用い、或いは用いずして使用することができる。
3.メモリ・デバイス
以上に説明したチューブ状炭素分子の内部に装填物を封入した構造は、ナノスケールの双安定不揮発性メモリ・デバイスのビット構造を形成するために利用することができる。この種のビット構造の1つの実施形態は、チューブ状炭素分子の中に適当な分子を1個封入してそのチューブ状炭素分子の端部を閉じ、チューブ状炭素分子の外部から制御影響力を及ぼすことによって、封入した1個の分子をチューブ状炭素分子の内部で前後移動させることができるようにしたものである。また、もう1つの実施の形態は、比較的長さの短いチューブ状炭素分子の中に磁性ナノ粒子(例えばNi/Co)を複数個封入するというものであり、これによって、磁性メモリ・デバイスに用いるナノビットを形成することができる。
【0153】
図11に、この種のビット構造の1つの好適な実施形態を示した。このビット構造において、チューブ状炭素分子40の物理的寸法は、その中に封入する内部移動体41が滑らかに移動できるような大きさであり、即ち、細すぎて内部移動体41の移動を妨げることがないような大きさにしてある。内部移動体の選択基準は、(1)ビットに対する読み書きを行うために用いる読み書きシステムにとって好都合なものであること、それに(2)チューブ状炭素分子の電子構造に適合したものであること、以上2つがある。
【0154】
かかるナノビット構造の1つの好適な構成例は、先に説明したプロセスに従って (10,10) SWNTから形成した短尺の(例えば、長さ約10 〜 50 nmの)チューブ状炭素分子の中にC60またはC70球状フラーレン分子を入れ、そのチューブ状炭素分子の端部を閉じて球状フラーレン分子を封入したものである。また、この場合に、封入しようとするC60またはC70分子(バッキー・ボール)の内面または外面に適当なドーピングを施しておくのもよい。(10,10) ナノチューブの中にC60バッキー・ボールを入れた場合には、両者の大きさが、略々完全に適合する。この組合せについては、もう1つ重要なことがあり、それは、そのナノチューブの内側の電子環境が、そのバッキー・ボールの電子環境と高度に適合するということである。特に、そのナノチューブの閉じた端部の内側の電子環境が、そのバッキー・ボールの電子環境とよく適合し、これは、(10,10) ナノチューブのエンド・キャップ部分の内面の曲率が、C60バッキー・ボールの外面の曲率に対応してからである。この構成によれば、ファン・デル・ワールス力による両者間の相互作用が最適なものとなる。図12に示すように、ナノチューブのエンド・キャップ部分にはまり込んでいるバッキー・ボールを、そこから中間の筒状部分へ取出すために必要なエネルギの大きさ(バッキー・ボールがエンド・キャップにはまり込んでいる状態は、電子的に最も安定した状態である)が閾値となることで、このビット構造は双安定ビット構造になる。
【0155】
上述のメモリ・ビットに対する読み書きを行うのに適した、好適な読み書き構造の一例を図11に示した。メモリ・ビットへ書込みを行うには、そのメモリ・ビットへ、ナノ回路素子42(このナノ回路素子42はSWNT分子で形成することが好ましい)を介して、然るべき極性の電圧パルスを印加する。正の電圧パルスを印加するとバッキー・ボールに対して引力が働き、負の電圧パルスを印加するとバッキー・ボールに対して斥力が働く。メモリ・ビットが双安定性を備えているため、その電圧パルスを消滅させた後も、バッキー・ボールは、ナノチューブの両端のうちの、そのとき位置していた側の端部に留まる。これは、ナノチューブの両端部分が、エネルギが最低の位置だからである。メモリ・ビットからの読出しを行うには、別のナノ回路素子43(このナノ回路素子43もSWNT分子で形成することが好ましい)に、バイアス電圧VREADを印加する。もし、そのときバッキー・ボールが、ナノチューブの両端のうちの検出側端部に位置していたならば、このバイアス電圧の印加によって付与されるエネルギ・レベルのために、電流が共鳴トンネル効果により接合部を通過して接地電位44へ流れる(この電流の流れは、共鳴トンネル・ダイオードにおける電流の流れと同様にして発生する)。これによって、そのメモリ・ビットが第1安定状態にあるということが読取られる。一方、そのときバッキー・ボールが、検出側端部に位置していなかったならば、バイアス電圧の印加によって付与されるエネルギ・レベルは共鳴点からずれているため、電流がトンネル効果によって接合部を通過して流れることはなく、それによって、そのメモリ・ビットが、第2安定状態にあるということが読取られる。尚、当業者には容易に理解されるように、以上に説明したもの以外の、その他の形態の読み書き構造(例えばマイクロアクチュエータ)を用いることも可能である。
【0156】
図12に示したビット素子を、2次元アレイまたは3次元アレイを成すように配列することによって、メモリ・デバイスを構成することができる。このようなメモリ・アレイは、各ビット素子が非常に小さい(例えば、約5 nm×25 nmとすることができる)ため、そのビット密度を非常な高密度にすることができ、例えば1.0テラビット/cm2以上にすることができる(これは、ビット間隔を、例えば7.5 nmにした場合である)。メモリ・デバイスの動作に際してバッキー・ボールが移動せねばならない距離は僅か数nmである上に、バッキー・ボールの質量は極めて小さいため、上述のメモリ・デバイスの書込み時間は、約10-10秒程度になる。
4.リチウム・イオン電池
本発明は更に、リチウム・イオン二次電池にも関係しており、このリチウム・イオン二次電子は、多数のSWNT分子を上述した方法で(例えばSAM技法を用いて)配列してSWNTアレイとしたものを、負極(アノード)材料として使用するものである。この負極材料は、例えば、多数の(例えば103個以上の)比較的短尺のナノチューブ分子を、基板上に埴設した構成とすることができる。また別法として、先に説明した微細カーボン・ファイバの端部を、負極の微細多孔性表面として利用する構成とすることもできる。
【0157】
このナノチューブ分子アレイは、端部の開いた開放形チューブ状炭素分子で構成した分子アレイとすることもでき、また、端部の閉じた閉塞形チューブ状炭素分子で構成した分子アレイとすることもできる。いずれの場合も、個々のチューブ状炭素分子によって、リチウム・イオンをインターカレートする(層間化合物の形で取り込む)ための構造的に安定した微細孔が提供される。即ち、開放形チューブ状炭素分子を使用した分子アレイでは、リチウム・イオンはそのチューブ状炭素分子の中へ入り込んでインターカレートされ、また、閉塞形チューブ状炭素分子を使用した分子アレイでは、リチウム・イオンはそのチューブ状炭素分子のエンド・キャップに形成されている三角形の細孔へ入り込んでインターカレートされる。このインターカレーションによって形成されるフラーレン層間化合物(fullerene intercalation compound: FIC)を、例えば、リチウム・イオンを含有する非プロトン性の有機溶媒電解液、及びLiCoO2製の正極(カソード)と組合せることで、優れたリチウム・イオン二次電池を構成し得る。尚、このリチウム・イオン二次電池は、1996年度、IEEE、VLSI回路シンポジウムにおいて「The Development of Lithium Ion Secondary Batteries」という演題でなされた西氏の講演で説明されたタイプの二次電池であり、これを図13に示した。同図において、負極50は、多数のSWNT51を整列させた分子アレイで構成されている。この二次電池のその他の構成要素は、正極52、電解液53、リチウム・イオン54、及び電子55である。
【0158】
本発明にかかる分子アレイのFICから成るリチウム収容媒体は、充電容量が大きく(例えば600 mA h/g以上)、充電中の安定性に優れ、しかも優れたサイクル特性を有するものである。そのため、このリチウム収容媒体を使用することによって、高い安全性を有する優れた蓄電池を構成することができる。
【0159】
上述の負極は、最大電流が大きく、充電容量が大きく、抵抗が小さく、優れた可逆性を有するものであり、ナノエンジニアリングによって、分子構造上の完全性を備えた炭素分子で形成される電極である。この負極は、金属材料的特性を有するフラーレン・ナノチューブ分子を、ネイル・ベッド形のアレイを成すように整列させて形成したメンブレン(膜体)を備えており、隣り合うナノチューブどうしの間の空間や、各ナノチューブの内部空間である細孔の奥に、リチウム・イオンが収容されるようにしたものである。また、端部が開いたナノチューブを使用する場合には、その開いた端部に対して施す化学的修飾処理を最適化することで、負極と電解液との間の界面の特性を良好なものにすることができる。この修飾処理によって付加する修飾体は、酸化還元反応が発生する界面を、安定した界面として提供することのできる有機体とすることが好ましい。また一般的に、修飾体として使用する有機体は、その構造が、使用している電界液に類似したものであることが好ましい。この修飾処理に使用するエージェントの好適例はポリ酸化エチレンであり、また特に、ポリ酸化エチレンのオリゴマーとすることが好ましい。
【0160】
電極としての用途には、ナノエンジニアリングを用いて形成したナノチューブ・メンブレンの電気化学反応が利用される。これに関して重要な点は、ナノチューブ分子の端部や側面部分に対して修飾処理を施すことによって、リチウム・イオン二次電池に使用する電解液に適合する最適の界面が形成されるようにしていることである。これによって電池の電極にリチウム・イオンが取り付き易くなるため、エネルギ密度を増大させることができる。更に、同様に重要な点として、これによって、これまで常に悩まされていた、いわゆるSEI(固体−電解液中間相)問題を克服できるということがある。このSEI問題が発生すると、電極の容量が著しく低下し、また電極の可逆性が著しく悪化する。
【0161】
Li+ は、蓄電池に用いるイオンとして、優れた特性を有するものである。軽量のカウンター・イオンとしてLi+ を凌ぐ特性を有するイオンは、プロトン以外にはなく、またLi+ には、使用する電解質を、非常に多くの種類の固体及び液体の電解質のうちから選択できるという利点、並びに、正極材料を、これも非常に多くの種類の材料のうちから選択できるという利点がある。正極材料として使用可能な材料のうちの主なものは、インターカレーション・サイトが3次元の網状構造を成している様々な金属酸化物であり、このインターカレーション・サイトとは、電池が放電した状態にあるときにLi+が入り込んでいる場所のことをいう。初期の再充電可能なリチウム電池では、負極材料として金属リチウムを使用していたが、そのような電池には、以下に列挙する短所が付随していた。
【0162】
−再充電の際にデンドライトが成長するため、電極を構成しているリチウムが次第に失われて行く。
−有機溶剤を使用しているため、リチウムの激しい反応性が安全上の問題となる。
【0163】
−上述したようにリチウムのデンドライトが成長するため、セパレータが突き破られて正極と負極とが短絡することがある。
これら問題のうち、安全上の問題に対する解決法の1つとして見出された方法が、負極材料を、金属リチウムから、リチウム−炭素層間化合物に代えるというものであり、これによって、いわゆる「ロッキングチェア」電池が開発された。ロッキングチェア電池では、Li+ が還元されてLi0 になるということがなく、電池が充電と放電とを反復する際に、炭素材料を用いて形成した負極のインターカレーション・サイトと、金属材料を用いて形成した正極との間を、単にLi+ が往復するだけである。第1世代のリチウム・イオン二次電池では、その炭素材料として黒鉛が使用されていたが、黒鉛が選択された主な理由は、当時既に、リチウムと黒鉛との間の固相化学反応について十分に解明されていたからである。また、好都合なことに、黒鉛中のLi+ のポテンシャルは、Li0 のポテンシャルのMVの数十倍以内であるため、金属リチウムの代わりに黒煙を用いても、それによる重量及び体積の増大は僅かでしかなく、電池電圧も大して低下しないということも理由となっていた。
【0164】
しかしながら、黒煙を使用するようにしたという、まさにそのことによって、以下に示す新たな技術上の問題が発生した。
−常温下でのLi+ を移動させる輸送特性に優れた電解液(例えば、プロピレンカーボネートにLiClO4を溶解した溶液)は、Li+ に対して溶媒和を生じることから、Li+と共に黒鉛層間化合物を形成する。そのため、黒鉛の剥離状裂壊を発生させ、寸法安定性を損ない、早期故障を誘発する。
【0165】
−常温下での黒鉛中のLi+ の拡散性は比較的低い。これは、黒鉛格子の中である1つの六角構造に囲まれた位置からそれに隣接する六角構造に囲まれた位置へジャンプして拡散する際の障壁が(類似した構造の格子と比べて)比較的大きいために、拡散が抑制されているからである。
【0166】
これら2つの問題のうち第1の問題は、Li+ と共に黒鉛層間化合物を形成することのない新たな電解液(例えば、ジメチルカーボネートとエチレンカーボネートとを混合した混合液にLiPF6を溶解した電解液)を開発することで克服されたが、しかしながらこのような電解液は、イオンを移動させる輸送能力が劣っているということがあった。また、第2の問題を克服するためには、微細に分割された形態の(即ち、粉末、破砕片、繊維状、多孔質等の)黒鉛を使用する必要があるが、そのようにすると表面積が著しく増大するため、それによって、新たな一連の問題が発生してしまう。それら問題のうちには、例えば、最初の充電半サイクルで負極に黒鉛層間化合物を形成する際に、表面薄層(いわゆる「固体−電解液中間相: SEI」)が形成されてしまうために、容量低下が生じるという問題がある。この問題を克服するためには、電池を製造する際に、正極のリチウム含有材料の使用量を、理論量よりも、SEIの形成によって消費されるリチウム量だけ多くしておかねばならないが、そのようにしてもやはり容量が低下する。このSEIについては余り多くのことは分かっていないが、ただし(電解液の分解によって生じる)炭酸塩が、SEIの重要な成分となっていることだけは一般に認められている。また、SEIに関して産業界で広く採用されている基準は、SEIの形成による容量低下が、全てのリチウムが利用されたときの容量の10 %を超えないようにするというものである。
【0167】
更にその後の研究によって、その他の様々な形態の炭素(ナノ結晶炭素)が利用できることが発見された。それらのうちには、カーボン・ブラック、石炭の焼成物、石油ピッチの焼成物、ポリマーの焼成物、天然原料(砂糖、堅果の果皮、等々)の焼成物、炭素とその他の元素(ホウ素、ケイ素、酸素、水素)との「合金」等がある。更には、酸化スズ等の全く新しい系も、利用可能であることが分かった。これら材料のうちの幾つかは、そのリチウム収容能力が黒鉛よりも大きいが、その「収容能力の増大分」の微視的発生原因については殆ど何も解明されていない。概して、これら材料は、そのサイクル特性が黒鉛よりもはるかに劣っており、また、これら材料のうち、水素を含有している材料はいずれも、電池電圧とリチウム濃度との関係が、充電半サイクルと放電半サイクルとで大きく異なっており、即ち顕著なヒステリシス特性を示している。これは、電池の特性としては、極めて不都合な特性である。そして、このヒステリシス特性の発生原因についても、殆ど何も解明されていない。これら材料の主たる利点は、これら材料が本来的に細粒ないし細片の形状であるため、これら材料の内部におけるリチウム・イオンの移動が速やかに行われるということにある。これは、リチウム・イオン二次電池が大電流の用途(例えば、電気自動車等)に使用されていて、電池性能がその用途における重要な要因である場合に、絶対的に必要とされる条件である。
【0168】
本発明にかかる負極は、最初から最後までナノエンジニアリングを用いて、分子レベルの精度をもって製造されるものである。この負極は、金属リチウムの電気化学的ポテンシャルと同程度の電気化学的ポテンシャルをもって、リチウムを収容するものであり、体積あたりのリチウム収容容量が大きく、デンドライトが成長するという問題を生じることがなく、金属リチウムだけで形成した負極に付随している安全上の問題も生じることがない。この負極においては、充放電の際のリチウム・イオンの移動が高速で行われ、しかも、充電状態ないし放電状態がいかなるレベルにあるときでも、構造的及び化学的な完全性が維持される。更に加えて、この負極と電解液との間の界面が、所望の状態となるように設計することができるため、Li0 ⇔ Li+で表される酸化還元の化学反応を、高度の可逆性をもって行わせることができ、また、非常に小さな実効抵抗をもって行わせることができる。
【0169】
このような負極の具体的な設計例を上げるならば、例えば、金メッキ銅板等の金属製支持電極に、多数のフラーレン・ナノチューブを、ネイル・ベッドのような六方格子のアレイを形成するように整列させて付着させたものである。図14から明らかなように、この構造によれば、還元状態のリチウムであるLi0 が、ナノチューブどうしの間に画成されている空間の奥や、ナノチューブそれ自体の内部の中空の空間の奥に収容され、このことがこの構造の利点となっている。即ち、リチウムの酸化還元の化学反応が行われる領域が、主として、電極の表面に露出しているナノチューブの先端部分だけに限局され、しかも、このナノチューブの先端部分に修飾処理が施されているため、その酸化還元反応を、高度の可逆性を有するものとすることができる。
5.3次元の自己整列SWNT構造
本発明にかかる自己整列構造(SAM)のうちに、その構造の構成要素とするSWNT分子に修飾処理を施した上で、多数のそのようなSWNT分子を一緒にしておくことにより、自然発生的にその構造が構成されるようにした、3次元の自己整列構造がある。その1つの可能な実施の形態は、先に説明したSAM、即ち2次元単層構造を、その3次元の自己整列構造を形成するための出発材料、即ちテンプレートとして使用するというものである。この自己整列構造の構成要素とするSWNT分子のエンド・キャップに単機能の修飾体を付加すると、それら分子が同一方向に延在して、それら分子の端部どうしが突き合わされたように整列して3次元構造を構成する傾向が生じる。これに対して、SWNT分子に多機能の修飾体を付加した場合や、各SWNT分子上の離れた複数の位置に夫々に修飾体を付加した場合には、対称性を持った構造が構成されることもあれば、対称性を持たない真の意味で3次元的な構造が構成されることもある。
【0170】
先に説明した方法で製造した試料中のカーボン・ナノチューブに対して修飾処理を施す際に、各ナノチューブに、複数の特定機能エージェント(functionally-specific agents: FSA)を結合させるようにしてもよく、その結合の形態は、イオン結合と共有結合とのどちらとすることも可能である。また、それら複数のFSAの結合位置については、各ナノチューブ上の任意の1箇所にそれらをまとめて結合させる場合と、各ナノチューブ上の任意の一連の箇所にそれらを個別に結合させる場合とがあり得る。FSAを付加することで、ナノチューブ群の自己整列によって、幾何学的な構造が構成されるようにすることができる。複数通りの長さのナノチューブを組合せて1つの構造を構成させることも可能であり、また、互いに異なった種類のFSAを付加したナノチューブを組合せて1つの構造を構成させることも可能である。更に、FSAの働きにによって自己整列させるばかりでなく、ファン・デル・ワールス力によって自己整列させることも可能であり、ファン・デル・ワールス力は、修飾処理を施したフラーレン分子どうしの間、修飾処理を施していないフラーレン分子どうしの間、それに、修飾処理を施したフラーレン分子と修飾処理を施していないフラーレン分子との間の、いずれにも作用して自己整列させることができる。また、FSAの選択結合性を利用することによって、特定のサイズないし特定の種類のナノチューブ(対象ナノチューブ)だけを整列させ、対象外ナノチューブは、たとえ存在していても整列構造から排除するということも可能である。従って、1つの実施の形態として、特定の長さのナノチューブを整列させるようなFSAを選択するという方法がある。また、このような選択性を有する複数のFSAを組合せることによって、2通り以上の異なったサイズないし種類のカーボン・ナノチューブを、一定の方向に延在するように整列させることも可能である。
【0171】
FSAは、修飾処理を施していないカーボン・ナノチューブと、修飾処理を施したカーボン・ナノチューブとの、いずれにも作用を及ぼし得るものであり、このFSAの作用を利用して、整列して1つの構造を構成しようとするカーボン・ナノチューブの延在方向及びサイズを制御することによって、カーボン・ナノチューブ群から特定の3次元構造を構築することができる。このようにFSAの作用を利用した、自己整列ナノチューブ構造の3次元的な幾何学的構造の制御によって、機械的特性、電気的特性、化学的特性、ないし光学的特性に優れた、これまでにない独自の3次元ナノチューブ材料を合成し得る可能性が得られる。そのような3次元ナノチューブ材料の特性は、どのようなFSAを使用するかによって、また、複数のFSAを使用する場合には、それらFSAの間にどのような相互作用が生じるかによって、様々なものとなり得る。
【0172】
更に、自己整列フラーレン構造が完成した後に、その構造の一部を化学的ないし物理的に改変したり、或いは、その構造に対して、物理的処理、化学的処理、電気的処理、光学的処理、及び/または生物学的処理を施すことによって、その自己整列フラーレン構造の特性を変化させることができる。そのための方法としては、例えば、その自己整列フラーレン構造に、別の分子をイオン結合または共有結合によって結合させるという方法や、その構造が完成したために不要となったFSAをその構造からという方法、それに、生物学的処理や光学的処理によってその構造の配列の一部を改変するという方法がある。このような構造改変、及び/または、修飾処理によって、その自己整列フラーレン構造の、電気的機能、物理的機能、電磁気的機能、ないし化学的機能を変化させ、或いは、その自己整列フラーレン構造にそれら機能を付与することができ、また更に、その自己整列フラーレン構造とその他のデバイスとの間の相互作用を、変化させ、或いは新たに付与することができる。
【0173】
この幾何学的な自己整列構造は、様々な優れた電気的特性を提供し得るものであり、その具体例を挙げるならば、例えば、電気回路としての動作特性、特定の導電テンソル特性、電磁放射に対する特定の応答特性、ダイオード接合部特性、電流制御用の3端子デバイスとしての特性、メモリ素子を構成するキャパシタとしての特性、通常のキャパシタとしての特性、インダクタとしての特性、導通素子としての特性、それにスイッチとしての特性等がある。
【0174】
この幾何学的な自己整列構造は、更に、様々な電磁気的特性を提供し得るものであり、それら電磁気的特性には、例えば、電磁気エネルギを電流に変換する変換素子としての特性、アンテナとしての特性、アンテナ・アレイとしての特性、電磁波のコヒーレントな干渉を発生させて様々な波長の電磁波に分解するアレイとしての特性、電磁波の伝播状態を選択的に変化させるアレイとしての特性、ないしは、光ファイバとの間で相互作用を生じる素子としての特性などがある。これら電磁気的特性は、使用するFSAによって異なったものとなり、また、複数のFSAを使用する場合には、それらFSAの間の相互作用によって様々な特性となる。例えば、分子アレイを構成している個々の分子の長さ、位置、及び配向方向を、FSAを利用して適当に定めることによって、それら分子の近傍の電磁場によってそれら分子の内部に夫々に誘起される誘導電流どうしの位相関係が、所定の位相関係になるようにすることができる。またこの場合、それら分子の内部に夫々に誘起される電誘導流は、その電磁場の位相角及び周波数の空間分布に応じた挙動を示すものとなる。また、それら分子の内部に夫々に誘起される誘導電流どうしの位相関係は、その分子アレイの構造にも影響される。更に加えて、FSAを利用して、個々のナノチューブまたはナノチューブ群と、外部に存在するものとの間の、様々な相互作用を強化することも可能であり、ここでいう相互作用は、例えば、応力、歪み、電気信号、電流、ないしは電磁気相互作用を何らかの形で伝達させる作用である。このような相互作用によって、この自己整列ナノ構造と、その他の既知の有用なデバイスとの間の「インターフェース」が提供される。
【0175】
更に、FSAを適当に選択することによって、優れた化学的特性ないし電気化学的特性を有する幾何学的構造を、自己整列によって構成させることができ、そのような化学的特性ないし電気化学的特性には、例えば、化学反応ないし電気化学反応における触媒として作用する場合の特性、特定の化学物質の吸収特性、特定の化学物からのアタックに対する耐性、エネルギ収容特性、それに耐腐蝕性などがある。
【0176】
FSAを利用して自己整列によって構成させた構造の、有用な生物学的特性の具体例としては、生化学反応の触媒として作用する場合の特性、特定の生化学物質やエージェントないしは構造の吸収サイトないし反応サイトに関する特性、薬剤ないし治療剤としての効果に関する特性、生体組織との間に特定の相互作用を生じることまたは特定の相互作用を生じないことに関する特性、生物学的系をある形態で成長させるためのエージェントとしての特性、それに、既知の生物学的系の電気的機能、化学的機能、物理的機能、または光学的機能との間で相互作用を生じるエージェントとしての特性などがある。
【0177】
更に、FSAを利用して自己整列によって構成させる構造は、有用な物理的特性を備えたものとすることができる。その具体例としては、比重に対する弾性の比である弾性応力テンソルを大きな値とし得ることがあり、また、これに限られず、更にその他の有用な物理的特性を備えたものとすることもできる。更に、この自己整列構造は、有用な光学的特性を備えたものとすることができ、有用な光学的特性のうちには、例えば、光吸収スペクトル特性、光透過スペクトル特性、それに偏光状態を変化させる特性などがある。
【0178】
この自己整列構造や前述のフラーレン分子を、各々単独で、または両者を組合せて利用することによって(自己整列構造、フラーレン分子、または両者の組合せの種々の形態を総称して「分子/構造」と呼ぶことにする)、有用な特性を有する様々なデバイスを製作することができる。例えば、ある1つの分子/構造を物理的手段、化学的手段、静電気的手段、または磁気的手段を介して別の構造に結合することによって、その1つの分子/構造と、その分子/構造に結合した別の構造との間の、或いは、その1つの分子/構造と、その分子/構造の近傍に存在しているものとの間で、物理的手段、化学的手段、電気的手段、光学的手段、または生物学的手段を介した情報伝達を可能にすることができる。そのような情報伝達の具体例としては、磁気相互作用による物理的情報伝達、電解質の反応または溶液中の化学エージェントの移動による化学的情報伝達、電子の電荷の移動による電気的情報伝達、それに、生物学的エージェントとの相互作用または生物学的エージェントの受渡による光学的情報伝達などがあり、エージェントを介した情報伝達は、分子/構造と、そのエージェントが反応するものとの間で行われることになる。
6.SWNTアンテナ
フラーレン・ナノチューブは、従来の導体製アンテナ素子の代わりに使用することができる。例えば、(n,n) ナノチューブを、その他の材料と組合せて使用することで、ライト・ハーベスティング・アンテナとして機能するショットキー・バリアを形成することができる。その1つの実施の形態は、 (10,10) ナノチューブの一端に金を、他端にリチウムを、いずれもイオウ架橋を介して結合することによって、ナチュラル・ショットキー・バリアを形成するというものである。これによって、光導電性によって電流が発生させることができる。 (10,10) ナノチューブは、アンテナと同様に機能して、ポンプ作用によって電子を電極に注入するように機能し、またその際に、そのナノチューブと金属との接触部が整流ダイオードとしての性質を有するために電子の逆流が阻止される。
【0179】
アンテナを形成するには、ナノチューブ分子の長さを調節して、その最終的な電気的長さが所望の長さになるようにする。この場合、ナノチューブ分子の電気的長さの選択は、そのナノチューブ分子の内部を流れる電流がそのナノチューブ分子の近傍領域の電磁場と相互作用を持つことにより、その電磁場のエネルギがそのナノチューブ分子の内部電流に変換され、また逆に、そのナノチューブ分子の内部電流がその電磁場のエネルギに変換されるようにする。更に、ナノチューブ分子の電気的長さを選択する際には、アンテナ回路に誘起される様々な周波数の電流のうち、所望の周波数領域に含まれる周波数の電流が最大になるように選択するか、または、アンテナ回路に発生する様々な周波数の電圧のうち、所望の周波数領域に含まれる周波数の電圧が最大になるように選択し更に、電流と電圧のどちらも程々に大きくなるように、適当な折り合いをつけるような設計とすることもある。
【0180】
フラーレン・ナノチューブ分子アンテナは更に、ある種の回路の負荷として利用することもできる。その場合には、このアンテナに流れ込んだ電流が、所望の電場及び磁場に変換されるようにすればよい。ナノチューブの長さを調節することによって、所望の伝播特性を有するものとすることができる。更に、幾本ものナノチューブを束にして使用することによって、アンテナ素子の直径を調節することも可能である。
【0181】
更に、以上のようにナノチューブ分子で形成したアンテナ素子を、多数組合せて、アンテナ・アレイを構成することも可能である。そのためには、ナノチューブ分子の長さ、位置、及び配向方向を適切に選択することによって、複数のナノチューブ分子の夫々の内部を流れる電流が、所定の位相関係をもってコヒーレントに作用するようにし、それによって、それらナノチューブ分子の近傍領域に電磁場を発生させ、或いは近傍領域の電磁場を変化させるようにすればよい。この場合、複数のナノチューブ分子の夫々の内部を流れる電流のコヒーレントな作用によって、それら電流によって発生する電磁場の空間分布、角度分布、及び周波数分布が、決定され、変化させられ、制御され、ないしは選定される。また、別の実施の形態として、複数のナノチューブ分子の内部に誘起される電流が、そのアンテナ・アレイの形態によって決まる所定の位相関係を持つようにすることによって、それら電流によって発生する二次的電磁場が、適当な空間分布、角度分布、及び周波数分布を持ってそのアンテナ・アレイから放射されるような形態とすることもでき、この場合に、放射される電磁場の空間分布、角度分布、及び周波数分布は、アンテナ・アレイ及びアンテナ素子の形態によって決定されるものである。このようなアンテナ・アレイを形成するための方法としては、例えば、前述の自己整列単層形成法などを用いればよい。
7.フラーレン分子エレクトロニクス
フラーレン分子には、従来の導電素子の替わりに用いるという用途もある。例えば、フラーレン分子または自己整列させたフラーレン分子群を用いて電気回路を構成し、その電子回路内の電荷の搬送をフラーレン分子に行わせるようにすることができる。この場合、フラーレン分子には、その電気回路内の、電荷の流れを変化させ或いは制御する機能素子どうしの間の電荷の搬送や、その電気回路内の、オブジェクトどうしの間の電荷の搬送を行わせる。ここでいうオブジェクトとは、その内部の電流の流れが何らかの有用な機能を果たすものであり、有用な機能とは、例えば、そのオブジェクトの周囲の電場の分布を変化させる機能、スイッチの電気接点としての機能、それに、電磁波に対してそのオブジェクトが反応することによって実現される機能などである。
【0182】
具体的な構成例としては、例えば、ナノチューブ分子を自己整列させて、全波整流用のブリッジ回路を形成することができる。このようなデバイスは、各々が正方形の1つの辺を成す4個のナノチューブ分子と、各々がその正方形の1つずつの角に配置される4個のバッキー・ボールとで構成することができる。先ず、それらバッキー・ボール及びナノチューブ分子に修飾処理を施して、夫々に特定機能エージェントを付加する。付加した特定機能エージェントの働きによって、バッキー・ボールをナノチューブ分子に結合する架橋が形成され、またブリッジが所要の形態に構成される。
【0183】
また、前述の自己整列法を用いて、フラーレン・ダイオードを構成することができる。このダイオードは、例えば、2個のバッキー・チューブと1個のバッキー・カプセルとで構成することができる。その場合に、先ず、バッキー・カプセルに修飾処理を施して、これを双極性イオンにする。具体的には、バッキー・カプセルに、トリエチルアミン陽イオン等の陽性基を2個、及び、CO2-陰イオン等の陰性基を2個付加することによって、双極性イオンにすることができる。更に、1つの実施の形態では、そのバッキー・カプセルの両端の各々に、ジスルフィド架橋を介して (10,10) バッキー・チューブを1個ずつ結合する。この構成では、イオウが特定機能エージェントとしての役割を果たすことになる。
8.プローブ及びマニピュレータ
更に、本発明にかかるSWNT分子を使用して、ナノスケールのプローブやマニピュレータも製作することができる。その具体例としては、例えば、AFM装置及びSTM装置のプローブ・チップや、AFM装置のカンチレバーなどを挙げることができる。また、そのようなプローブに前述の修飾処理を施しておけば、選択的に基板に固着する性質を有するセンサないしセンサ・アレイとして機能させることができる。このようなデバイスは、医薬品等の生物的活性物質の効力検定を分子レベルで実行する高速のスクリーニング効力検定などに利用することができる。更に、本発明にかかる導電性SWNT分子は、電気化学的プローブとしても利用することができる。
【0184】
同様に、SWNT分子で構成したプローブ状のアセンブリを、修飾処理を施したものも、またそうでないものも、例えばナノ鉗子等のナノデバイスの材料取扱い及び製造に効果を有するツールとして利用することができる。更に、この種の分子ツールは、MEMS(マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム)を製造するためや、NANO-MEMSの構成部品ないし回路部品を接続するために利用することもできる。
9.カーボン・ナノチューブを含有する複合材料
複合材料とは、2種類以上の異種成分材料で構成された材料であり、様々なものが公知となっている。一般的に、複合材料は、その複合材料の全体形状を画成する母材と、その複合材料の内部構造を決定する耐力材とで構成されている。複合材料に応力が作用したならば、母材が変形することによって、その応力が耐力材に分散して伝達される。
【0185】
複合材料は通常、非常に大きな強度を有するが、大抵の場合、その強度は等方的なものではなく、複合材料の平面に平行な方向の応力に対しては大きな強度を発揮するのに対して、その平面に垂直な方向の応力に対する強度はそれよりはるかに小さい。このような特性があるため、多層構造の複合材料は、層間剥離を発生し易い。層間剥離を発生するのは、多層構造の複合材料の少なくとも1つの層が、それまで接合していた層から剥がれることによるものであり、その結果、その複合材料の内部に空隙が発生する。この空隙は検出することが極めて困難であり、応力が反復して印加されているうちに、何の前触れもなく突然に、壊滅的な破壊に至ることになる。
【0186】
カーボン・ナノチューブは、複合材料における耐力材として利用することができる。上に説明したように、複合材料は一般的に、2種類以上の異種成分材料で構成された材料であり、通常、その複合材料の全体形状を画成する母材と、その複合材料の内部構造を決定する少なくとも1つの耐力材とを含んでいる。これまで母材の材料として使用されてきた種々の公知の材料は、いずれも、本発明の複合材料の母材の材料として用いることができる(その種の材料については、例えば、Mel M. Schwartz著「Composite Materials Handbook(第2版、1992年刊)」を参照されたい)。公知の母材の材料のうちの幾つかを具体的に示すならば、熱硬化性または熱可塑性の種々の樹脂(ポリマー)、様々な金属材料、セラミック材料、サーメット材料などを挙げることができる。
【0187】
母材の材料として有用な熱硬化性樹脂には、フタル酸系ポリエステル樹脂、マレイン酸系ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ビスマルイミド樹脂(bismaleimide)、ナディック・エンド・キャップト・ポリイミド樹脂(nadic end-capped polyimide)(例えばPMR−15)がある。また、有用な熱可塑性樹脂には、ポリスルホン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ酸化エチレン樹脂、ポリスルフィド樹脂、ポリエーテル−エーテル−ケトン樹脂、ポリエーテル−スルホン樹脂、ポリアミド−イミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、それに液晶ポリエステル樹脂がある。1つの好適な実施例では、母材の材料としてエポキシ樹脂を使用している。
【0188】
母材の材料として有用な金属材料には、種々のアルミニウム合金があり、例えば「アルミニウム6061」、「アルミニウム2024」、それに「アルミニウム713」等のアルミニウム・ブレーズがある。母材の材料として有用なセラミック材料には、アルミノ珪酸リチウム等のガラスセラミック、アルミナやムライト等の酸化物セラミック、窒化ケイ素等の窒化物セラミック、それに、炭化ケイ素等の炭化物セラミックがある。母材の材料として有用なサーミック材料には、炭化物系サーミック(炭化タングステン、炭化クロム、炭化チタン等)、耐火性サーミック(タングステン−トリア、バリウム−カーボネート−ニッケル等)、クロム−アルミナ、ニッケル−マグネシア、それに、鉄−炭化ジルコニウムがある。
【0189】
本発明にかかるカーボン・ナノチューブから成る耐力材の形態は、本明細書に説明した様々な形態、並びに公知の様々な形態のうちの、任意の形態のものとすることができる。ただし好ましいのは、フラーレン・ナノチューブ(即ち、分子構造上の完全性を備えたカーボン・ナノチューブ)を用いることである。フラーレン・ナノチューブのうちには、単層の連続した六方グラーフィンのシートが欠陥を持つことなく接合して構成されたチューブの端部に半球状のフラーレン・キャップが結合した形状のものがある。この場合、両端に夫々半球状キャップを備えたものを、真性シングル・ウォール・フラーレン・ナノチューブと呼ぶことがあり、また、そのような両端を閉塞したナノチューブに対して切断処理や侵蝕処理を施して端部を除去したものも、シングル・ウォール・フラーレン・ナノチューブと呼ぶことがある。また更に、複数のシングル・ウォール・フラーレン・ナノチューブを入れ子式に重ね合わせた形態のものを、マルチ・ウォール・フラーレン・ナノチューブと呼び、そのようなフラーレン・ナノチューブも存在する。アーク法で成長させたマルチ・ウォール・ナノチューブ(MWNT)も、徐々にフラーレンと呼び得る理想的なものに近付いてきてはいるが、その分子構造は、なお不完全である。アーク法で成長させたMWNTは、その多層構造の側壁部分にかなりの構造欠陥が存在しており、それら構造欠陥の密度は、100 nmごとに1個以上の多数に及んでいる。これに対して、先に説明したレーザ/オーブン法で生成したシングル・ウォール・カーボン・ナノチューブは、分子構造上の完全性を備えていると認められる。従って、レーザ/オーブン法で生成したシングル・ウォール・カーボン・ナノチューブは、フラーレン・ナノチューブとなり、そのようなカーボン・ナノチューブから形成したカーボン・ファイバは、真性のフラーレン・ファイバとなる。
【0190】
単層フラーレン・ナノチューブのうちには、金属材料的特性を備えたもの(アームチェア形、即ち(n,n) 形の形態のもの)もあれば、金属材料的特性を備えていない螺旋構造のものもある。これらのいずれも、適当な長さに切断して、短尺のチューブ形分子の形態にして利用することができる。切断して形成された短尺のナノチューブ(切断ナノチューブ)は、分子スケールでの強化、補強という、在来の技術では得られない利点を提供するものである。これに対して、ナノチューブの長さがミクロン・スケールに近付くと、分子スケールでは剛性を有するチューブ状分子の特性を持ちながらも、可撓性が大きくなってくる。
【0191】
複数本のカーボン・ナノチューブが束になった構造を本明細書ではロープと呼んでいるが、約103本程度までのカーボン・ナノチューブから成るロープも、複合材料の耐力材として有用である。前述した方法で製作したカーボン・ナノチューブのロープは、互いに絡まり合ってミクロン・スケールのループを多く形成する物理的形状となるため、ロープどうしの間で、またロープと母材の材料との間で、あたかもマジックテープ(登録商標)のような相互作用が働き、しかも分子レベルでは、剛性の高いチューブが束になったバンドルとしての構造が維持されている。
【0192】
巨大カーボン・ナノチューブ・ファイバ(106本以上の多数のナノチューブから成るファイバ)も、本発明にかかる複合材料の耐力材として有用である。耐力材として用いる巨大ファイバとしては、先に説明した一様連続形のファイバと、ランダム形のファイバとのいずれも使用可能である。更に、ロープやファイバを耐力材として使用する場合に、先に説明した方法でそれらを切断して、所望の長さのロープないしファイバにしたものを使用するようにしてもよく、或いは、ロープないしファイバが絡まり合ってループを多数形成したフェルト状の形態のものを使用するようにしてもよい。
【0193】
本発明によれば更に、以上に説明した様々な形態のカーボン・ナノチューブ材料のうちの2種類以上のものを、組合せて使用することも考えられる。その場合に、それら材料を混合して、母材中の同一領域に配合するようにしてもよく、また、それら材料を母材中の別々の領域に夫々に配合するようにしてもよい。使用するカーボン・ナノチューブ材料の形態は、その複合材料がいかなる性質のものであるかに応じて、またその複合材料を最終的にいかなる特性を有するものにしたいかに応じて、選択することになる。また、使用するカーボン・ナノチューブ材料は、先に説明した方法で洗浄処理及び精製処理を施したものであることが好ましい。
【0194】
複合材料に使用するナノチューブ、ロープ、ないしファイバには、先に説明した方法で修飾処理を施したものとしてもよい。カーボン・ナノチューブのエンド・キャップに修飾処理を施すことによって、カーボン・ナノチューブどうしの結合状態、ないしはカーボン・ナノチューブと母材の材料との間の結合状態を強化することができる。一般的に、真性カーボン・ナノチューブの側壁部分は、完全に均一な構造となっており(即ち、黒鉛の格子構造に類似した六方格子構造を成す炭素のアレイで構成されている)、そのため、側壁部分に欠陥を導入して結合サイトを形成することによって、母材の材料に対する結合付着特性を改善することができる。その具体例を挙げるならば、側壁部分にホウ素原子等を不純物として導入するようにすればよい。こうして形成した壁部の欠陥が結合サイトとなって、ナノチューブと母材の材料との間に働く物理力ないし化学力による相互作用が強化される。更に、このようにして形成した欠陥即ち結合サイトは、ナノチューブと母材の材料との間の化学反応を促進することによって、最終的に形成される複合材料の特性に影響を及ぼすこともあり得る。また、ホウ素原子を導入する他に、先に説明したように、カーボン・ナノチューブの格子の一部を、窒化ホウ素で置換するという方法もある。
【0195】
本発明にかかるカーボン・ナノチューブと、その他の有機材料または無機材料から成るファイバ状の耐力材とを組合せて、複合材料における耐力材として用いるようにしてもよい。この用途に使用することのできる有機材料としては、例えばセルロースがある。また無機材料としては、例えば、カーボン、ガラス(Dタイプ、Eタイプ、及びSタイプのガラスがある)、黒鉛、酸化ケイ素、炭素鋼、酸化アルミニウム、ベリリウム、酸化ベリリウム、ホウ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、クロム、銅、鉄、ニッケル、炭化ケイ素、窒化ケイ素、デュポン社が製造している「FP」という商品名のアルミナ糸、3M社が製造している「Nextel」という商品名のアルミナ−ボリア−シリカ及びジルコニア−シリカ、ICI社が製造している「Saffil HT」という商品名のジルコニア及びアルミナ、石英、モリブデン、「Rene41」、ステンレス鋼、ホウ化チタン、タングステン、それに、酸化ジルコニウムなどがある。
【0196】
本発明にかかる複合材料を製造するための方法としては、母材の材料と耐力材とを組合せるための公知の様々な材料のうちの、任意の方法を採用することができる。カーボン・ナノチューブ材料は、カーボン・ナノチューブの1本1本がばらばらに分離した形態のものも、また、複数のカーボン・ナノチューブが束になってロープを構成している形態のものも、水や有機溶剤等の液体担体に分散させることによって、母材の材料への配合を容易にすることができる。巨大カーボン・ナノチューブ・ファイバを配合する際の取扱い方は、カーボン・ファイバやグラファイト・ファイバを配合する際の従来の一般的な取扱い方と同様にすることができる。
【0197】
カーボン・ナノチューブから成る耐力材を、母材の材料の前駆物質(ポリマー溶液、焼成前のセラミック粒子、等々)と均一に混合した上で、在来の技法を用いてそれを複合材料として完成させるようにしてもよい。また、カーボン・ナノチューブ材料から、耐力層ないし耐力構成材(例えば、フェルト状材料や、バッキー・ペーパー等)を一旦形成し、その形成したものに、プレポリマー溶液を含浸させて、複合材料を形成するという方法もある。
【0198】
カーボン・ナノチューブから成る耐力材を用いて、在来の複合材料の特性を改善することも可能である。その1つの具体例は、ファイバ材料層に母材ポリマー材料を含浸させることで、それらファイバ材料と母材材料とを一体化した複合材料である。この種の複合材料でよく知られたものには、例えば、黒鉛ファイバの織物の層を、母材のエポキシ系材料と一体化して形成した複合材料がある。この複合材料において、そのエポキシ系材料と黒鉛材料との境界面だけに、3次元的に絡まり合って多数のループを形成しているカーボン・ナノチューブのロープないしファイバを配合するという方法があり、それによって、エポキシ系材料と黒鉛材料とから成る層状複合材料の層間剥離に対する耐性を大幅に向上させることができる。また、エポキシ系材料にカーボン・ナノチューブ材料を分散させた後に、そのエポキシ系材料を含浸させるようにしてもよい(或いは、エポキシ系材料の反応成分のうちの1つに、予めカーボン・ナノチューブ材料を混合しておくようにしてもよい)。更に、カーボン・ナノチューブ材料を液体担体中に分散させたものを、噴霧等の塗布法によって、黒鉛ファイバ層を積層するごとに、その層に塗布するようにしてもよい。
【0199】
例えば (10,10) ナノチューブ等の、単層フラーレン・ナノチューブは、複合材料の成分としてはこれまで使用されていなかった独自のものである。見ようによっては、単層フラーレン・ナノチューブという材料は、ポリプロピレン、ナイロン、ケブラー、それにDNA等と同様の巨大分子ポリマーであって、単に新規な材料であるだけと思われるかもしれない。しかしながら、単層フラーレン・ナノチューブは、その直径がDNAの二重螺旋の直径と同程度でありながら、曲げに対する剛性も、引張に対する強度も、比べものにならないほど大きい。長鎖を成すポリマーの特性を表す性質の1つに、持続距離(通常のブラウン運動をする条件下において、鎖の方向が実質的に変化するために要する移動距離)がある。ポロプロピレンでは、この持続距離は約1 nmに過ぎず、DNAの二重螺旋では約50 nmである。これらに対して、孤立して存在している1本の (10,10) フラーレン・ナノチューブでは、持続距離が1000 nm以上になる。従って、複合材料の連続相を形成するために用いられる通常のポリマー分子の持続距離を基準として判断するならば、フラーレン・ナノチューブは、十分な剛性を有するパイプであるといえる。
【0200】
更に、孤立して存在している1本の (10,10) フラーレン・ナノチューブは、その長さがミクロン単位で表されるほどの長さになると、大きな可撓性を示すようになり、容易に他のナノチューブと絡まり合って多くのループを形成するようになる。このようにナノチューブどうしが絡まり合い、多数のループを形成することによって、複合材料の内部構造に関する、2つの新たな可能性が得られている。即ち、(1)連続相を形成している母材材料がそれらループの中に入り込むことにより、サブミクロン単位の長さのスケールで、ナノチューブが連続相の母材材料に緊密に「結合」することができる。また、(2)ナノチューブと連続相の母材材料とを混合したものを、母材材料が硬化する前に流動させて剪断変形させることにより、ループどうしを更に複雑に絡まり合わせ、ナノチューブに引張力が加わった状態にすることができる。これによって、絡まり合ったフラーレン・ナノチューブを含有する複合材料の、靱性、強度、及び層間剥離に対する耐性を向上させることができる。
【0201】
C60やC70などのフラーレンは、フリー・ラジカルを良好に吸着する効果的な吸着物質であることが知られている。同様に、 (10,10) ナノチューブ等のフラーレン・ナノチューブも、その壁部にフリー・ラジカルを化学吸着する性質が有り、化学吸着することのできるフリー・ラジカルには、例えば、メチル基、フェニル基、メトキシル基、フェノキシル基、水酸基、等々がある。分子量の小さなフラーレンの場合と同様に、フラーレン・ナノチューブにおいても、フリー・ラジカルを化学吸着することによって、網構造の強度が低下するということは殆どない(加熱によってラジカルは解離されるが、その際には、フラーレンの表面に吸着されていたラジカルが放出されるだけであり、フラーレンの構造自体は無傷のまま維持される)。従って、フラーレン・ナノチューブを含有した複合材料を形成する際には、その複合材料の連続相を形成するポリマー材料に、加熱されることによって、ないしは紫外線照射による光分解によって、フリー・ラジカルを生成する基を付加しておけば、フラーレン・ナノチューブとポリマー材料とを共有結合させることができる。例えば、アゾ・ビス・イソブチロニトリルに含まれているようなアゾ架橋は、光照射によって活性化されてフリー・ラジカルを生成するラジカル源として、非常に効果的なものである。
【0202】
本発明が提供するカーボン・ファイバは、これまでにない独特の特性を有するものであり、その特性ゆえに、複合材料のための新規な強化材として利用し得るものとなっている。例えば、ファイバ材料とポリマー材料とを複合した異方性を有する複合材料を形成することができる。そのためには、例えば、金属材料的特性を有するカーボン・ナノチューブ・ファイバ(例えば (n,n) SWNTで形成したファイバ)を、プレポリマー溶液(例えば、ポリメタクリル酸メチル)中に分散させ、外部から電界を印加してそれらナノチューブ・ファイバを整列させた後に、プレポリマーを重合させるようにすればよい。更に、このように金属材料的特性を有するカーボン・ナノチューブを使用することによって、導電性材料を形成することも可能となっている。
【0203】
以上に説明した、カーボン・ナノチューブを含有した複合材料の用途は多岐にわたり、全てを列挙することはできないが、それらのうちの幾つかを具体的に述べるならば、先ず、これまで黒鉛ファイバやケブラー等の高強度繊維が使用されていた様々な用途は、それらの全てが、カーボン・ナノチューブを含有した複合材料の用途となり得るものである。更に具体的に述べるならば、乗用車、トラック、鉄道車両等をはじめとする様々な車両の構造材や車体用板材としての用途がある。また、タイヤにも適用することができる。また、航空機の部品としての用途もあり、例えば、機体フレーム、スタビライザ、翼表面材、ラダー、フラップ等に使用することができ、更にヘリコプタに関しては、そのロータ・ブレード、ラダー、エレベータ、エルロン、スポイラ、乗降ドア、エンジン・ポッド、それに胴体の構成部材等に適用することができる。また、宇宙飛行体に関しては、ロケット、宇宙船、人工衛星等に適用することができる。ロケット・ノズルにも適用することができる。海洋関係の用途としては、船舶の船体、ホバークラフト、水中翼船、ソナー・ドーム、アンテナ、フロート、ブイ、マスト、スパー、甲板室、フェアリング、タンク等の用途がある。また、スポーツ用品関係の用途としては、ゴルフカート、ゴルフクラブのシャフト、サーフボード、ハングライダーのフレーム、槍投げ競技用の槍、ホッケーのスティック、セイルプレーン、セイルボード、スキーのポール、遊具、釣り竿、スキー及び水上スキー、弓、矢、ラケット、棒高跳びの棒、スケートボード、バット、ヘルメット、自転車のフレーム、カヌー、カタマラン、オール、パドル、及びその他の様々な物品に適用することができる。また、家具関係の用途としては、椅子、ランプ、テーブル、及びその他の様々な現代家具に適用することができる。更にその他の用途としては、例えば、弦楽器の共鳴板、身体防護用、車両防護用、ないし物品防護用の種々の軽量防護用品、ハンマの握り棒や梯子等の工具類、生体適合性インプラント、人工骨、各種補綴物、電気回路板、それにあらゆる種類のパイプ等に適用することができる。
【0204】
具体例
本発明を更によく理解できるように、幾つかの具体例を以下に示す。ただし、本発明の範囲は、以下に具体例として開示する特定の実施の形態に限定されるものではなく、それらはあくまでも、説明のための具体例である。
具体例1.オーブン/レーザ気化工程
この具体例の気化工程で使用した装置は、図1を参照して説明したオーブン/レーザ気化装置であり、この装置については、Haufler et al.著、"Carbon Arc Generation of C60" Mat. Res. Soc. Symp. Porc., Vol. 206, p. 627 (1991) にも、また、米国特許第5,300,203号にも記載されている。走査レーザ・ビームを発生させるレーザとしては、Nd:YAGレーザを使用した。このレーザ・ビームをモータ駆動式の全反射板によって制御し、石英管の中に配置した金属−黒鉛複合材料のターゲットの表面に合焦させて、その照射スポットの直径が6 〜 7 nmになるように設定した。レーザ・ビームによるターゲットの表面の走査を、コンピュータで制御して、ターゲットの表面が常に、凹凸のない滑らかな面に保たれるようにした。レーザ装置は、波長が0.532μmのパルス・ビームを射出するように、また、1個のパルスのエネルギが300 mJになるように設定した。また、パルス射出速度は10 Hzになるように設定し、パルス持続時間は10ナノ秒(ns)になるように設定した。
【0205】
ターゲットは、直径1インチ(約25.4 mm)の石英管の中に、黒鉛棒で支持して配設し、この石英管の内部を、最初にその圧力が10 mTorrに低下するまで抜気した後に、アルゴンを注入して、それ以後、アルゴンの圧力を500 Torrに維持するようにした。また、アルゴンの体積流量を、50標準立方センチメートル毎秒(sccm)に設定した。石英管の直径が1インチであるため、体積流量がこの値のときに、その石英管の中を流れるアルゴンの流速は、0.5〜10 cm/secの範囲内の値を取り、従ってその流れは層流になる。石英管を高温加熱炉の中に配設し、この高温加熱炉は、その最高温度を1200℃に設定した。この高温加熱炉は、長さ12インチのリンドバーグ炉であり、この具体例1における幾つかの実験を行う間、その温度を1000〜1200℃に維持した。レーザを照射して気化させたターゲットの材料は、それが気化したターゲットの近傍領域から、流動するアルゴンに乗って運ばれ、水冷コレクタの表面に蒸着する。この水冷コレクタは銅製であり、ターゲットの下流側の、加熱炉の出口のすぐ外側に配設した。
【0206】
ターゲットは、複数の成分材料を均一に混合した複合材料を、ロッド状の形状に成形したものであり、以下の3工程に従って製作した。(1)高純度の金属材料ないし金属酸化物材料を、室温下で、下記の割合で、Carbone of America社製の粉末黒鉛及びDylon社製のカーボン・セメントと混合して調整したペーストを、直径0.5インチの円筒形の成形用鋳型の中に充填し、(2)ペーストを充填した成型用鋳型を、加熱板を備えたCarvey社製の静圧プレスに装着して、それに一定の圧力を印加した状態で、130℃で、4〜5時間に亘って焼成処理を行い、(3)焼成したロッド(成形用鋳型が円筒形状であるためロッド状になる)を、更に流動アルゴン雰囲気中で、810℃で、8時間に亘って焼き固めた。試験を実行するごとに、新しいターゲットを用意して、先ずそのターゲットを、流動アルゴン雰囲気中で、1200℃で、加熱状態に維持するようにした。この加熱状態に維持する時間は一定ではなかったが、多くの場合、12時間とした。このように加熱状態に維持した後に、試験作業を開始し、同一のターゲットに対する試験動作を複数回反復して行った。試験動作を反復する際には、各試験動作の開始直前に、その都度、更に2時間に亘ってターゲットを1200℃に加熱した状態に維持するようにした。
【0207】
この具体例においては、ターゲットを形成する混合材料中の金属材料成分の種類及び濃度を、以下のように様々に設定した。コバルト(1.0原子%)、銅(0.6原子%)、ニオブ(0.6原子%)、ニッケル(0.6原子%)、プラチナ(0.2原子%)、コバルトとニッケルの組合せ(夫々、0.6原子%/0.6原子%)、コバルトとプラチナの組合せ(夫々、0.6原子%/0.2原子%)、コバルトと銅の組合せ(夫々、0.6原子%/0.5原子%)、そしてニッケルとプラチナの組合せ(夫々、0.6原子%/0.2原子%)。混合材料の残余成分はその殆どが黒鉛であり、カーボン・セメントを僅かに含有している。これらターゲット材料で形成した夫々のターゲットを、レーザで気化させ、その都度、水冷コレクタの表面に付着した煤を回収して、その煤に対して超音波処理を施した。この超音波処理は、煤をメタノール溶媒中に分散させて、常温、常圧下で、1時間に亘って実行した(メタノール以外の、その他の良好な溶媒としては、1,2−ジクロロエタンや、1−ブロモ,1、2−ジクロロエタンや、N,N−ジメチルホルムアミドなどがある)。回収した生成物に対して、夫々にメタノール中で30〜60分に亘って超音波処理を施したところ、ただ1つの例外を除いて、いずれも均一な懸濁液が得られた。その例外とは、コバルト、ニッケル、及び黒鉛から成る混合材料を、気化及び蒸着させて得たサンプルであり、このサンプルの蒸着物はゴム状であって、メタノール中で2時間に亘って超音波処理を施した後にも、その僅かな部分が十分に分散せずに残った。以上のようにして得られた煤を、続いて、ビーム・エネルギが100keVの透過型電子顕微鏡(JEOL 2010型)を用いて調べた。
【0208】
上に列挙したターゲット材料には、金属成分としてVIII族遷移金属を1種類だけ含有する材料と、2種類のVIII族遷移金属の組合せを含有する材料とがあるが、それら材料の各々について、その材料をロッド状に成形して製作したターゲット(直径0.5インチ)を評価するための実験を、前述した試験装置を用いて行い、生成された単層・カーボン・ナノチューブの収率及び品質を調べた。どの材料で製作したターゲットを使用した場合も、その反応生成物中に、マルチ・ウォール・カーボン・ナノチューブの存在は認められなかった。収率は、オーブンの温度が高いほど上昇する傾向が認められ、この傾向は、使用したオーブンの上限温度(1200℃)に至るまで変わらなかった。オーブン温度を1200℃に設定したときには、金属成分として1種類の金属だけを含有する材料のうちでは、ニッケルを含有するものが、単層・カーボン・ナノチューブの収率が最大であり、コバルトを含有するものがそれに続いた。プラチナを含有するものは、僅かな個数の単層・カーボン・ナノチューブしか生成せず、更に、黒鉛に銅だけを混入した混合材料や、黒鉛にニオブだけを混入した混合材料では、単層・カーボン・ナノチューブの生成は認められなかった。一方、触媒金属成分として2種類のVIII族遷移金属を組合せたものを黒鉛に混合した材料のうちでは、単層・カーボン・ナノチューブの収率に関しては、コバルト/ニッケルの組合せと、コバルト/プラチナの組合せの、2通りの組合せが略々肩を並べており、その他の触媒金属の組合せから抜きん出た成績であった。金属成分を組合せるこれら2通りの組合せは、そのいずれもが、金属成分としてVIII族遷移金属を1種類しか使用していない材料の場合と比べて、単層・カーボン・ナノチューブの収率が10〜100倍になることが分かった。更に、ニッケル/プラチナの組合せを黒鉛に混入した混合材料も、1種類の金属成分しか含有していない混合材料と比べれば、単層・カーボン・ナノチューブの収率が大きくなることが分かった。コバルト/銅の組合せを黒鉛に混入した混合材料は、単層・カーボン・ナノチューブの生成量が僅かであった。
【0209】
コバルト/ニッケルの組合せを黒鉛に混入した混合材料を使用した場合、並びに、コバルト/プラチナの組合せを黒鉛に混入した混合材料を使用した場合にはいずれも、水冷コレクタの表面に蒸着した生成物が、ゴム状物質のシートのような外観を呈していた。この蒸着物を、損傷させないように慎重に、水冷コレクタの表面から除去して回収した。コバルト/プラチナの組合せを混入した混合材料から成るターゲットを使用した場合には、生成される単層・カーボン・ナノチューブの収率が、そのターゲットから気化した炭素成分の全体に対して15重量%になるとの評価値が得られた。また、コバルト/ニッケルの組合せを混入した混合材料から成るターゲットを使用した場合には、生成される単層・カーボン・ナノチューブの収率が、気化した炭素成分に対して50重量%以上になることが分かった。
【0210】
図15A〜図15Eに示した画像は、黒鉛にコバルト及びニッケルを混入(夫々、0.6原子%/0.6原子%)したターゲット材料を、オーブン温度を1200℃に設定して気化させて生成した、単層・カーボン・ナノチューブの透過電子顕微鏡写真の画像である。図15Aに示したのは、中倍率画像(スケール・バーは100 nmを示している)であり、殆ど至る所に、複数本の単層・カーボン・ナノチューブが束になったバンドルが形成されており、また、それらバンドルが更に別の単層・カーボン・ナノチューブと絡み合っているのが見て取れる。図15Bに示したのは、複数本の単層・カーボン・ナノチューブが束になった1本のバンドルの高倍率画像であり、この1本のバンドルを構成している複数本の単層・カーボン・ナノチューブは、その全てが互いに略々平行に延在している。それら単層・カーボン・ナノチューブは、その直径がいずれも約1 nmであり、隣り合う単層・カーボン・ナノチューブの間の間隔もこれと略々同じ値となっている。それら単層・カーボン・ナノチューブどうしは、ファン・デル・ワールス力によって互いにくっつき合っている。
【0211】
図15Cに示した画像では、単層・カーボン・ナノチューブのバンドルどうしが幾本も重なりあっており、この画像からも、同一のバンドルを構成している複数本の単層・カーボン・ナノチューブが、互いに略々平行に延在しているという性質が見て取れる。また更に、この画像からは、単層・カーボン・ナノチューブのバンドルどうしが互いに重なり合う性質や、バンドルが屈曲する性質も見て取れる。図15Dは、様々な形態の単層・カーボン・ナノチューブのバンドルを示しており、それらバンドルは、様々な角度で、また様々な円弧を描いて屈曲している。また、それらバンドルの屈曲部のうちに、比較的鋭い角度で屈曲したものがあることから、単層・カーボン・ナノチューブのバンドルが、大きな強度及び可撓性を有するものであることが分かる。図15Eは、バンドルの断面を示しており、このバンドルは、互いに略々平行に延在する7本の単層・カーボン・ナノチューブで構成されている。アーク放電法によって単層・カーボン・ナノチューブをはじめとする種々のカーボン・ナノチューブを成長させた場合には、一般的に、成長させたナノチューブの表面が無定形炭素によって覆われていることが観察されるが、図15A〜図15Eの透過型電子顕微鏡画像からは、カーボン・ナノチューブがそのような無定形炭素によって覆われていないことが分かる。図15A〜図15Eの画像からは更に、蒸着物の圧倒的大部分が単層・カーボン・ナノチューブであることも見て取れる。単層・カーボン・ナノチューブの収率は、気化した炭素成分の約50 %であると推定される。残りの50 %は、主として、マルチ・レイヤ・フラーレン(いわゆるフラーレン・オニオン)等の種々のフラーレン、及び/または、無定形炭素になっていると推定される。
【0212】
図15A〜図15Eに示した透過型電子顕微鏡画像は、コバルト/ニッケルの組合せを触媒金属として混入したターゲットを使用して、図1に示したレーザ気化装置の水冷コレクタの表面に蒸着させた生成物であるカーボン・ナノチューブ試料画像である。一般的に、単層・カーボン・ナノチューブは、複数本がまとまってバンドルを形成して存在しており、1本のバンドルを構成している単層・カーボン・ナノチューブどうしは、それらの略々全長に亘ってファン・デル・ワールス力によって互いにくっつき合い、互いに略々平行に延在している。単層・カーボン・ナノチューブがまとまってバンドルを形成している姿は、「高速道路」の構造に似たところがあり、単層・カーボン・ナノチューブのバンドルどうしは、高速道路の十字交叉接続部のような形でランダムに交わり、相互に接続している。図15A〜図15Eに示した画像から判断すると、低温の水冷コレクタの表面に着地した時点で既に、多くの単層・カーボン・ナノチューブが、それら画像に示されたように互いに寄り添って延在しているものと思われ、そうであるからには、気相中に非常な高密度で単層・カーボン・ナノチューブが存在している可能性が高いと考えられる。また更に、単層・カーボン・ナノチューブどうしが、それら画像に示されたようにきれいに揃っているということは、それらカーボン・ナノチューブが水冷コレクタの表面に着地する以前には、それらカーボン・ナノチューブの周囲に、それらカーボン・ナノチューブの表面を覆うようなその他の形態の炭素は殆ど存在していなかったと考えられる。単層・カーボン・ナノチューブの成長が、石英管の内壁の表面等で行われるのではなく、気相中で行われていることの証拠は、同じ方法を用いて生成したマルチ・ウォール・カーボン・ナノチューブに関する従来の研究論文において既に明示されている。これについては、Guo et al., "Self-Assembly of Tubular Fullerens," J. Phys. Chem., Vol. 99, p. 10694 (1995)、並びに、Saito et al., "Extension of Single-Wall Carbon Nanotubes via Formation of Small Particles Condensed Near An Evaporation Source," Chem. Phys. Lett., Vol. 236, p. 419 (1995) を参照されたい。以上に説明した実験において、単層・カーボン・ナノチューブの収率が高い値を示したことは、特に注目すべき点であり、なぜならば、溶媒中に分散させることのできたフラーレンの収率が、約10%もあったからである。尚、煤状生成物中のその他の炭素の大部分は、種々のジャイアント・フラーレン並びに種々のマルチ・レイヤ・フラーレンであった。
具体例2.長尺の単層・カーボン・ナノチューブを生成するためのレーザ気化工程
この具体例では、図1を参照して説明したレーザ気化装置と同様のレーザ気化装置を使用して、長尺の単層・カーボン・ナノチューブを生成した。使用したこのレーザ気化装置は、オーブン内に配設した石英管に、その内径を横断するようにタングステン・ワイヤを張設した点が、図1のレーザ気化装置と異なっている。タングステン・ワイヤを張設した位置は、ターゲットの下流側の端部から更に1 cmないし3 cm下流に下った位置とした(ターゲットの気化表面を画成している側の端部からは、13〜15 cm下った位置になる)。石英管の中を流すアルゴンは、圧力を500 Torrとし、その流量を、石英管の内部における流速が1 cm/sec. になるような流量に設定した。オーブンの温度は1200℃に維持した。ターゲットの材料は、炭素材料にVIII族遷移元素を1〜3原子%混入した材料とした。
【0213】
レーザの出力設定は具体例1の場合と同じとし、10〜20分間に亘ってレーザ照射を行った。その結果、タングステン・ワイヤに、涙滴形状の蒸着物が形成され、その蒸着物は、部分によって、3〜5 mmの大きさにまで成長した。この蒸着物が成長する様子は、あたかも、タングステン・ワイヤに睫毛が生えて行くようであった。この蒸着物を調べたところ、数百万本の単層・カーボン・ナノチューブから成るバンドルが形成されていた。
具体例3.2本のレーザ・ビームを使用する気化工程
具体例1に関して説明したのと同じ方法で、黒鉛を主成分とするロッド状のターゲットを形成した。その材料は、黒鉛と、黒鉛セメントと、1.2原子%の金属混合粉末とを混合したものであり、金属混合粉末の組成は、50原子%のコバルト粉末と50原子%のニッケル粉末とから成るものであった。この材料をプレスで成形して、ターゲットに仕上げ、これらは具体例1に関して説明したのと同じ方法で行った。このように黒鉛ロッドとして製作したターゲットを、図2に示した装置と同様の構成で、ただしタングステン・ワイヤ32を装備していない装置に装着した。黒鉛ロッドとして製作したターゲットを装着した石英管をオーブンの中に配置し、オーブンを1200℃に加熱した。石英管の中に、触媒を使用した不純物除去を行って水蒸気及び酸素を除去したアルゴン・ガスを流し、その圧力は約500 Torrとし、その流量は約50 sccm(標準立方センチメートル毎分)とした。ただし、アルゴン・ガスの流量は必ずしもこの値にしなければならない訳ではなく、直径1インチの石英管を使用するのであれば、1〜500 sccmの範囲内の流量とすることができ、また、10〜100 sccmの範囲内の流量とすることが好ましい。第1レーザ装置は、波長が0.532μmのパルス・ビームを出力するように設定し、そのパルス1個あたりのエネルギを250 mJに設定した。また、そのパルス出射速度を10Hzとし、パルス持続時間を5〜10 nsとした。第2レーザ装置は、第1レーザ装置から出射されたパルスが停止してから50 nsが経過した時点で、ターゲットへパルスを出射するように設定した。更に、この第2レーザ装置は、波長が1.064μmのパルス・ビームを射出するように設定し、そのパルス1個あたりのエネルギを300 mJに設定した。また、そのパルス出射速度を10Hzとし、パルス持続時間を5〜10 nsとした。第1レーザ装置は、ターゲットの表面に直径 5 mmの照射スポットが形成されるように合焦状態を設定し、第2レーザ装置は、ターゲットの表面にその光強度分布がガウス分布をなす直径7 mmの照射スポットが形成されるように合焦状態を設定した。更に、ターゲットの表面において、第1レーザ装置の照射スポットの中心と第2レーザ装置の照射スポットの中心とが一致するようにした。第2レーザ装置がターゲットを照射してから、約10分の1秒が経過したならば、再び第1レーザ装置からの出射と第2レーザ装置からの出射とを続けざまに行わせるようにし、以上のプロセスを気化工程の終了時まで反復して実行した。
【0214】
こうしてターゲットの表面をレーザ照射によって気化させて試料を生成させ、生成した試料をターゲットの下流で回収した。この試料の生成速度は、回収したばかりの未処理の状態(生試料の状態)の重量で、約30 mg/hrであった。生試料の状態の生成物は、様々な方向に延在する単層・カーボン・ナノチューブが集合した固まりから成るものであった。また、この生試料の状態の生成物の固まりは、その大部分が、直径10〜20 nm、長さ10〜1000μmのカーボン・ファイバから成るものであった。
【0215】
この生試料の状態の生成物を約2 mg取り、それを5 mlのメタノール中に投入して、室温下で、約0.5時間に亘って超音波処理を施した。こうして超音波処理を施した生成物の透過型電子顕微鏡(TEM)解析を行ったところ、その大部分は、単層・カーボン・ナノチューブのロープであった。それらロープは、10〜1000本の単層・カーボン・ナノチューブが寄り添って延在する(ただし所々に枝が出ている)バンドルであり、どのロープも、その全長に亘って直径が略々一定していた。また、それらロープは100μm以上の長さであり、同一直径の複数本の単層・カーボン・ナノチューブで構成されていた。更に、超音波処理後の生成物のうちの約70〜90重量%が、ロープの形態を呈していた。1本のロープを構成している複数本の単層・カーボン・ナノチューブの夫々の端部は、全て、そのロープの末端部分の100 nmの範囲内に先端が位置していた。1本のロープを構成している複数本の単層・カーボン・ナノチューブの99%以上が、そのロープの一端から他端までの全長において、一様に連続して延在し、その炭素格子に欠陥を含まないものであるように見えた。
具体例4.単層・カーボン・ナノチューブ試料を99%以上の純度にまで精製する精製工程
米国特許出願第08/687,665号に記載されているレーザ生成法により生成した試料を、以下の方法で精製することで、ナノチューブの濃度を高めた製品が得られた。レーザ生成法によって生成した単層・ナノチューブの生試料(推定収率は70%であった)を、2.6 Mの硝酸水溶液に投入し、24時間に亘って還流を行った。この還流は、圧力を1気圧、温度を1200℃にして行った。続いてその溶液を、ポア・サイズが5ミクロンのテフロン(登録商標)濾紙を用いて濾過し(Millipore社製の Type LS濾紙を使用した)、この濾過によって回収した単層・ナノチューブを、新しい硝酸水溶液(2.6 M)に投入し、24時間に亘って還流を行った。続いてその溶液を、再び濾過して、単層・ナノチューブ試料を回収し、この濾過工程によって回収した試料を、エタノールにNaOHを飽和させた溶液中に投入し、室温下で、12時間に亘って超音波処理を施した。続いて、そのエタノール溶液を濾過して、単層・ナノチューブ試料を回収し、その回収した試料を、6 MのHCl水溶液に投入し、12時間に亘って還流を行って中和した。更に、その酸溶液を濾過してナノチューブ試料を回収し、回収した試料を、1気圧のH2ガス中で、850℃で、2時間に亘って焼成した(直径1インチの石英管の中にH2ガスを流し、その流量は1〜10 sccmとした)。以上によって、70 mgの精製試料が得られた。TEM解析、SEM解析、及びラマン分光解析を行って詳しく調べたところ、この精製試料は99%以上の純度を有することが判明した。また、僅かに含まれる不純物の大部分は、カーボン・カプセルに閉じ込められたニッケルないしコバルトの粒子であった。
具体例5.SWNTを切断して短尺のチューブ状炭素分子を得る工程
濾過工程及び焼成工程を実行することで、具体例1で説明したSWNT試料を精製して、バッキー・ペーパーを得た(厚さは約100μmであった)。このバッキー・ペーパーに、Texas A&Mの超伝導サイクロトロン装置を用いて2 GeVのAu+33イオン・ビームを100分間に亘って照射した。照射を終了したバッキー・ペーパーには、10〜100 nmの大きさの弾痕穴が無数に空いており、それら弾痕穴の平均密度は、ナノチューブの長さ100 nmにつき1個存在する程度の密度であった。こうしてイオン・ビームを照射したバッキー・ペーパーを、2.6 Mの硝酸水溶液に投入し、24時間に亘って還流を行うことで、高速イオン照射によって生成された無定形炭素を除去した。続いて、濾過を行ってナノチューブを回収し、それをエタノールに水酸化カリウムを溶解した溶液中に投入し、12時間に亘って超音波処理を施した。更に、再び濾過を行って回収したナノチューブに対して、真空中で、温度1100℃で、焼成処理を施すことによって、切断されたナノチューブの両端を閉塞させた。
【0216】
続いてその試料をトルエン中に分散させて、超音波処理を施した。こうして得られたチューブ状分子をSEM及びTEMを用いて調べたところ、その平均長さは約50〜60 nmであることが判明した。
具体例6.SWNTアレイを形成するアレイ形成工程
以上に説明した方法を用いて、長さが50〜60 nmの (10,10) ナノチューブ分子を約106個生成した。それら分子に修飾処理を施して、各分子の一端に -SH基を付加することによって、金メッキ基板上にSWNT分子から成るSAM分子アレイが形成されるようにした。このSAM分子アレイにおいては、チューブ状のSWNT分子の長手方向軸心が互いに平行に揃っており、また、それら分子の先端によって、それら分子の長手軸の方向に垂直な平面が形成されていた。
具体例7.一様連続形の巨大カーボン・ファイバの成長工程
具体例6に説明したアレイを使用することで、図6及び図7に示した装置において、一様連続形の巨大カーボン・ファイバを成長させることができる。先ず、そのアレイを構成している複数本のナノチューブの先端(それら先端は、それらナノチューブの長手方向軸心に対して垂直な平面を形成している)を開く。金メッキ基板の表面にナノチューブの2次元アレイが形成されている場合には、その2次元アレイを正極として、0.1 MのKOH水溶液中で電解侵蝕処理を行うことによって、それらナノチューブの先端を開くことができる。
【0217】
続いて、真空蒸着法を用いて、Ni/Coの金属クラスタを、そのSAMナノチューブ・アレイを構成している夫々のナノチューブの開いた端部に載るように形成した。この場合、その金属クラスタを、直径が1 nmになるように形成することが好ましく、そのようにすれば、ナノチューブ・アレイを構成している夫々のナノチューブの開いた端部に、1本のナノチューブに1個ずつのNi/Coクラスタのナノ粒子を載せることができる。
【0218】
続いて、Ni/Coナノ粒子で上端の開口を閉塞したそれらナノチューブから成るナノチューブ・アレイを、真空中で、600℃に加熱する高温処理を行い、この高温処理によって、カーボン・ナノチューブ及びNi/Coナノ粒子以外の、その他全てのものを消滅させる。この高温処理を完了した後に、エチレン・ガスを流し始めると、それらナノチューブが、それらの整列した長手軸心方向に伸び始め、巨大な直径のカーボン・ファイバが形成される。Ni/Co触媒粒子の殆どが不活性化したならば、電気化学的エッチング処理によって、夫々のナノチューブの上端を開き、それらナノチューブと基板とから成るアセンブリの全体を再度洗浄し、そして、上述の蒸着工程を再度実行してNi/Co触媒粒子をナノチューブの上端に載せた上で、アレイの成長工程を再開すればよい。以上の方法により、直径が約1μmの一様連続形のカーボン・ファイバが得られ、これを、室温下で、連続的に巻取ローラに巻取って回収すればよい。
具体例8.フラーレン・パイプ及びフラーレン・カプセルの生成工程
先ず、直径が2.5 cmで、長さが5 cmの円筒形のターゲットを装置に装着して、単層フラーレン・ナノチューブを調製した。このターゲットは、炭素材料を主成分とする材料(コバルト及びニッケルを1:1の割合で混合した混合金属材料を2原子%含有している)で製作したものであり、このターゲットを、直径10 cmの溶融シリカ管の中に配設した。溶融シリカ管の中にアルゴンを流し(圧力は500 Torr、流速は2 cm sec-1とした)、溶融シリカ管を1100℃に加熱し、その中でターゲットを、その円筒形の主軸を中心として回転させるようにした。2本のパルス・レーザ・ビーム(Nd:YAG、1064 nm、パルス1個あたりエネルギ1 J、パルス射出速度30回/秒、遅延時間40 ns)を、回転しているドラム形ターゲットの外周面に、直径が7 mmの照射スポットが形成されるように合焦状態を設定して、コンピュータ制御によって左右に偏向させることで、ドラム形ターゲットの長手方向に走査させるようにし、ターゲット表面への入射角が変化するようにすることで、ターゲットの表面に深いくぼみが形成されるのを回避するようにした。この方法によって、2日間の連続運転で20 gもの試料が得られた。高収量であることが、この方法の利点である。
【0219】
以上の装置によって生成した生試料に対して、続いて精製処理を施した。この精製処理は、生試料を硝酸水溶液に投入し、還流を行った後に、Triton X-100界面活性剤を溶解したpH = 10の水溶液で洗浄するという方法で行った。この方法で精製して得られる精製フラーレン・ファイバの正味収率は、生試料の段階での初期品質に左右されるが、通常は、10〜20重量%の範囲内の値となる。フラーレン・ファイバは、その側壁が分子レベルでの完全性を備えているという特質を有するため、還流処理によって破壊されてしまうということがない。
【0220】
以上によって得られたフラーレン・ロープは、互いに高度に絡まり合ったものであった。それら絡まり合ったフラーレン・ロープによって、至る所にフラーレン・トロイド(これは「クロップ・サークル(ミステリー・サークル)」とも呼ばれている)が形成されているのが認められた。これは、フラーレン・ロープどうしが連なってエンドレスになっていることを示唆している。フラーレン・ロープどうしが連なるのは、レーザ/オーブン生成法でフラーレン・ナノチューブを生成する際に、高収率の成長プロセスがアルゴン雰囲気中で進行し、その成長プロセスの進行中に、あるフラーレン・ロープの「成長中」の先端と、別のフラーレン・ロープの側面との間に、ファン・デル・ワールス力が働くからである。成長するフラーレン・ロープは、既存のフラーレン・ロープ(案内ロープ)の側面に寄り添って成長しようとするため、同一の案内ロープの側面に沿って、互いに逆方向から2本のフラーレン・ロープが成長してくると、それらロープの成長中の先端どうしが衝突し、それらが接続することによって先端が消滅する。ロープの成長が一次元的であるため、この先端どうしの衝突は避けようがない。
【0221】
このように互いに絡まり合って略々エンドレスになっているフラーレン・ロープ群に端部を形成した。端部を形成するための技法には、鋏でロープを切断するという方法から、相対論的速度を有する高速の金イオンをロープ群に打ち込むという方法まで、数多くの方法があるが、この具体例では、例えばH2SO4/HNO3等の、強い酸化性を有する酸の存在下で超音波処理を行うことによってロープを切断する方法を採用した。超音波により発生するキャビテーションによって、ロープの表面に位置するナノチューブに局部的損傷が発生し、その局部的損傷によって活性化されたナノチューブが、強い酸化性を有する酸から化学的アタックを受けるようになる。酸がそのナノチューブをアタックしているうちに、そのナノチューブは完全に切断され、切断されたならば、その切断によって形成された開いた端部から侵蝕されて徐々に短くなって行く。このとき、温度はそれほど高温にしていないため、ナノチューブの開いた端部は閉じることができない。更に、ロープの表面に位置するナノチューブが切断されたならば、その下に位置していたナノチューブが露出し、その露出したナノチューブがキャビテーションによって損傷を受けるということが繰り返され、ついにはロープ全体が切断される。以上の方法でロープを切断した。また、このようにロープを切断することによって切断されたナノチューブの切片(切断ナノチューブ)を、更に、強い酸化性を有する酸に暴露することによって、分子レベルでの完全性を備えた切断ナノチューブだけを残すと共に、それら切断ナノチューブを化学的に清浄な状態にした。
【0222】
端部が開いた切断ナノチューブの長さ分布は、その酸に暴露する時間を長くするほど短い側へと移動する。切断ナノチューブを、温度70℃の、濃硫酸と濃硝酸を3:1の割合で混合した溶液中に投入して調べたところ、切断ナノチューブの平均短縮速度は約130 nm hr-1であった。また、温度70℃の、濃硫酸と過酸化水素30%水溶液とを4:1の割合で混合した溶液(いわゆる「ピラニア」)中での平均短縮速度は約200 nm hr-1であった。この侵蝕速度は、ナノチューブのキラル・インデックス (n,m) によって異なり、それは、「アームチェア形」ナノチューブ (n = m) はいずれも、その化学的特性が「ジグザグ形」ナノチューブ (m = 0) の化学的特性とは明らかに相違しており、また、それほど顕著な相違ではないにしても、中間螺旋角のナノチューブ (n≠m) の化学的特性も、それらの化学的特性とは相違しているからである。
【0223】
以上のようにして得られた切断フラーレン・ナノチューブの試料を、硫酸ドデシルナトリウム等の界面活性剤、またはTriton X-100等の非イオン系界面活性剤を加えた水に投入すると、その界面活性剤の働きによって安定コロイド懸濁液が得られる。このようにして得られた懸濁液中のフラーレン・ナノチューブを、その長さに従って分離した。
【0224】
分離して得られた切断ナノチューブを、黒鉛の表面に付着させて、そのAFM画像解析を行ったところ、個々に独立して存在しているナノチューブも少なくはないものの、大部分のナノチューブはファン・デル・ワールス力によってくっつき合っていることが判明した。長さが100 nm以上のナノチューブは、その端部を半球状フラーレン・エンド・キャップで閉塞することができる。そして、真空中で、温度1000〜1200℃で、アニール処理を施すことで、閉じたフラーレン・カプセルを形成することができる。
具体例9.フラーレン・パイプ及びフラーレン・カプセルの生成工程及び精製工程
図16A〜図16Cについて説明すると、図16Aは生試料の状態のSWNTフェルト試料のSEM画像であり、図16B及び図16Cは、同じSWNTフェルト試料を精製試料にしたもののSEM画像である。生試料は精製工程の出発物質であり、この生試料が余りにも低品質であることがそれらの図から見て取れるが、このことは、以下に説明する精製工程の有効性を裏付けるものである。この精製工程では、先ず、生試料のサンプル(8.5 mg)を、2.6 Mの硝酸水溶液1.2リットルの中に投入し、45時間に亘って還流を行った。この水溶液をPTFE遠心装置の試験管に移し、2400 Gの加速度が加わるように設定して2時間に亘って遠心装置を回転させた。上澄みの酸を捨てて脱イオン水を加え、強く振盪して固形成分を再び懸濁させ、再び遠心分離にかけて液体成分を捨て去り、固形成分を回収した。続いて、1.8リットルの水に20 mlのTriton X-100界面活性剤を加え、水酸化ナトリウムでpH調整を行ってpH 10にした水溶液に、その固体成分を投入して再び懸濁させた。この懸濁液を接線方向流濾過システム(米国、カリフォルニア州、Laguna Hillsに所在のSpectrum社製のMiniKros Lab Systemを使用した)のリザーバへ移した。このとき使用したフィルタ・カートリッジ(Spectrum社製のM22M 600 0.1Nフィルタ・カートリッジ)は、混成セルロース・エステルの中空ファイバを用いたものであり、中空ファイバの直径は0.6 mm、その細孔の直径は200 nm、その全表面積は5600 cm2であった。緩衝液として0.2重量%のTriton X-100水溶液を44リットル用意し、そのうちの初期に使用する34リットルは水酸化ナトリウムで塩基性(pH 10)に調整し、終期に使用する10リットルはpH 7に調整しておいた。フィルタ・カートリッジへの流入圧は6 psiに維持するようにした。また、その流出口に装備した制御弁によって、流出速度を70 ml min-1までに制限するようにした。以上の設定で濾過を行った結果、精製SWNTの安定懸濁液が得られた。この精製SWNTのSEM画像は、通常、図16Bに示したようなものとなる。この懸濁液を濾過して固形成分を回収し、それによって、絡まり合ったSWNTから成るペーパー状物質が得られた。このペーパー状物質は、その外観も手触りも、カーボン・ペーパーによく似ていた。図16CのSEM画像は、この「バッキー・ペーパー」を破いたときの破れ目を示したものであり、この画像からは、バッキー・ペーパーを破る過程で、SWNTロープを形成しているファイバの方向がかなりの程度まで揃うことが分かる。出発物質である余りにも低品質の粗製SWNTに対する、この精製SWNTの総合収率は、9重量%であった。
【0225】
図17は、安定コロイド懸濁液中の切断フラーレン・ナノチューブ(パイプ)を電着法を用いて高配向熱分解黒鉛(HOPG)の表面に付着させたものの、テーピング・モードAFM画像である。この画像中の切断フラーレン・ナノチューブは、その延在方向が互いに120℃の角度を成す傾向を示している。これは、それら切断ナノチューブが、それらの下に存在している黒鉛格子の向きに沿って延在しているからである。それら切断ナノチューブの高さを、AFM測定したところ、それらは直径が1〜2 nmのナノチューブであり、約半数は単独で存在しているが、残りの半数はファン・デル・ワールス力によってくっつき合い、集団を形成して存在していることが分かった。かかる切断ナノチューブは、2段階の工程を経て調製したものであり、2段階の工程とは、切断工程及びポリッシュ工程である。典型的な具体例は次の通りである。先ず、容量100 mlの試験管に、濃硫酸と濃硝酸を3:1の割合で混合した混合酸を40 ml入れ、その中に10 mgの精製SWNTから成る「バッキー・ペーパー」(図16Bに示したもの)を投入し、35〜40℃の温度で、24時間に亘って、水浴中で超音波処理を施して(この処理はCole Palmer社製のB3-R型超音波処理装置を、55 kHzに設定して行った)懸濁させた。こうして得られた懸濁液を200 mlの水で希釈し、ポア・サイズが100 nmのフィルタ・メンブレン(米国、マサチューセッツ州、Bedfordに所在のMilLipore 社製のVCTP型メンブレン)を用いて濾過することにより、切断SWNTナノチューブのうちの比較的長いものを、そのフィルタ・メンブレン上に捕捉した。更に、捕捉したナノチューブを10 mMのNaOH水溶液で洗浄した。続いて、こうして得られた切断ナノチューブに対して、ポリッシュ処理(化学的洗浄処理)を施した。このポリッシュ処理においては、先ず、濃硫酸と過酸化水素30%水溶液を4:1の割合で混合した溶液中に、切断ナノチューブを投入し、70℃で、30分間に亘って攪拌して懸濁させた。続いて、ポア・サイズが100 nmのフィルタ・メンブレンを用いて再び濾過を行い、洗浄を行い、0.5重量%のTriton X-100界面活性剤を加えた水中に分散させて、0.1 mg/mlの濃度の切断ナノチューブの懸濁液を調製した。新たに開裂させたHOPG基板上に(米国、オハイオ州、Clevelandに所在のAdvanced Ceramics社製の基板を使用した)、このナノチューブ懸濁液を20μl滴下し、その液滴をVitronのOリング(外径4 mm、厚さ1.7 mm)で囲み、更に、そのOリング上にステンレス鋼製の電極をかぶせてその懸濁液を封止し、1.1 Vの安定電圧を6分間に亘って印加した。ナノチューブは、水中に分散して懸濁しているときには負に帯電しているため、印加された電界によってHOPGの表面へ移動させられる。こうして電着が完了した後に、HOPGの表面にナノチューブが付着したものを、スピン式コーティング装置に装着し、その表面をメタノールで洗浄することによって、水及びTriton X-100界面活性剤を除去した。
【0226】
図18は、切断フラーレン・ナノチューブである「パイプ」を水中に分散させた懸濁液の、フィールド・フロー・フラクショネーション(FFF)の結果を示したグラフである。Triton X-100の0.5 % 水溶液中に、切断ナノチューブを0.07 mg/mgの濃度で分散させた懸濁液を調製し、十字流型FFF装置(米国、ユタ州、Salt Lake Cityに所在のLLC社製のF-1000-FO型FFフラクショネーション装置を使用した)に、この懸濁液を20μl注入した。このFFF装置の運転条件は、Triton X-100の0.007 %水溶液を移動相とし、その流量を2 ml min-1に設定し、また、十字流の流量を0.5 ml min-1に設定した。図18A中の、実線の曲線(左側縦軸)は、溶出するナノチューブの量を、光の散乱度、即ち、混濁度(光の波長は632.8 nmとした)で表し、その値を溶出開始時からその時点までに注入した溶離液の総注入体積量に対して示した曲線である。また、白抜きの丸印(右側縦軸)は、ナノチューブの回転運動半径の測定値をプロットしたものであり、それら測定値は、角度16段階切換式の光散乱装置を用いて測定した(米国、カリフォルニア州、Santa Barbaraに所在のWyatt Technology社製のDAWN DSPを使用した)。図18B、図18C、及び図18Dは、夫々、FFF溶出液の、第1分画、第3分画、及び第4分画のナノチューブ長さ分布を示したグラフであり、それら分布は、図17に示したような、懸濁液中のフラーレン・ナノチューブを電着によってHOPGの表面に付着させたもののAFM画像を利用して求めたものである。
【0227】
図19はAFM画像であり、1本のフラーレン・ナノチューブの「パイプ」の両端に1個ずつ、直径が10 nmの球形の金粒子を連結鎖によって結合したものを示している。この画像に示したナノチューブは、ナノチューブとコロイド状金粒子(Sigma Chemical社製のものを使用した)とを混合した懸濁液から、電着法を用いて、HOPG黒鉛の表面に付着させたものである。この画像中に不規則な形状の模様として現れているのは、懸濁液を安定化するために用いたTriton X-100界面活性剤の残滓の付着痕である。ナノチューブと金粒子との間の連結鎖は、ナノチューブの開いた両端の各々に共有結合したアルキルチオール鎖によって構成されている。ナノチューブの開いた両端は、前段階の処理工程で酸による侵蝕が施されているため、多くのカルボキシル基が結合していると考えられ、それらカルボキシル基を、SOCl2と反応させて、夫々のカルボキシル基に対応したカルボン酸塩化物に転換させるようにした。この修飾処理を施したナノチューブを、続いて、トルエン中に溶解したNH2-(CH2)16-SHに暴露することで、好適な連結鎖を形成することができた。この連結鎖は、その中のチオール基が、金粒子と強力に共有結合する結合サイトとなっている。入念なAFM画像解析の結果、この修飾処理を施したナノチューブの大部分は、その両端の少なくとも一方に、1個の金粒子が結合されていることが確認された。
具体例10.カーボン・ナノチューブを配合した複合材料
1リットルのジクロロエタンに「Epon」という商品名のエポキシ材料を10 g溶解したものに、1 gの精製単層フラーレン・ナノチューブを分散させて、懸濁液を調製した。この懸濁液に硬化剤を投入し、溶剤分を真空ロータリ・エバポレータで除去した。こうして得られたフラーレン・ナノチューブとエポキシ材料とから成る複合材料を、24時間に亘って100℃に維持することで硬化させた。
【0228】
別法として、カーボン・ファイバ及びフラーレン・ナノチューブを共に配合した複合材料を製作することも可能である。この場合には、上述の、ジクロロエタン、エポキシ材料、及びナノチューブから成る懸濁液を大型容器に入れておき、1本ないし複数本の一様連続形カーボン・ファイバ、またはカーボン・ファイバを織って製作した1本ないし複数本のカーボン・ファイバ・テープを、その懸濁液にくぐらせて、懸濁液を含浸させる。続いて、懸濁液を含浸させたカーボン・ファイバないしカーボン・ファイバ・テープを、所望の形状の型枠に巻き付け、更にそれを、カーボン・ファイバ−エポキシ複合材料の業界では公知の方法(これについては例えば、D.L. Chung著、Carbon Fiber Composites (1994) を参照されたい)に従って、オートクレーブの中で硬化させることによって、層間剥離に対する優れた耐性を有する複合材料が得られる。この複合材料中のフラーレン・ナノチューブは、多層のカーボン・ファイバ層の、層間のエポキシ材料の強度を高める役割を果たしている。また、カーボン・ファイバを、織物テープ層の材料として使用するばかりでなく、エポキシ材料相の中に絡み合った状態で配合するナノチューブの強化材もカーボン・ファイバ製のものとすれば、それによっても優れた複合材料が得られる。
【0229】
当業者であれば、以上の詳細な説明から、本明細書中に開示した方法、装置、組成物、及び製造物の変更実施形態ないし改変実施形態にも、容易に想到し得ることはいうまでもなく、請求項の範囲は、そのような変更実施形態や改変実施形態をも包含するように記載したものである。
【図面の簡単な説明】
【0230】
【図1】本発明を実施するための装置の略図である。
【図2】複合棒材ターゲを蒸気化するための二つの異なるレーザーパルスを使用する本発明を実施するための装置の略図である。
【図3A】本発明による精製した単層カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡法(TEM)のスペクトルであり;
【図3B】本発明による精製した単層カーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡法(SEM)のスペクトルであり;
【図3C】本発明による精製した単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルであり;
【図4】本発明による均一な単層カーボンナノチューブ分子配列の一部を模式的に表すものであり;
【図5】本発明による不均一な単層カーボンナノチューブ分子配列の一部を模式的に表すものであり;
【図6】本発明による繊維成長室装置を模式的に表すものであり;
【図7】本発明による繊維圧力均等化兼収集域を模式的に表すものであり;
【図8】本発明による複合配列であり;
【図9】本発明による複合配列であり;
【図10】本発明による電力伝送ケーブルであり;
【図11】本発明による双安定性の非揮発性ナノスケール記憶デバイスを模式的に表すものであり;
【図12】図11のメモリービットの各双安定状態に対応するエネルギーウエル(well)を表わすグラフであり;
【図13】本発明によるリチウムイオン二次電池を模式的に表わすものであり;
【図14】本発明によるリチウムイオン電池の陽極であり;
【図15A】単層カーボンナノチューブ類の中倍率透過型電子顕微鏡画像であり;
【図15B】隣接単層カーボンナノチューブ類の高倍率画像であり;
【図15C】隣接単層カーボンナノチューブ類の高倍率画像であり;
【図15D】隣接単層カーボンナノチューブ類の高倍率画像であり;
【図15E】7本の隣接単層カーボンナノチューブの断面の高倍率画像であり;
【図16A】粗単層フラーレンナノチューブフェルトの走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり;
【図16B】精製後の図16の単層フラーレンナノチューブフェルト物質のSEM画像であり;
【図16C】単層フラーレンナノチューブフェルトの引き裂き後に得られた単層ナノチューブロープ繊維類の実質的な整列のSEM画像であり;
【図17】高度に配向した熱分解グラファイト上に堆積した切断フラーレンナノチューブの原子間力顕微鏡(AFM)画像であり;
【図18A】切断ナノチューブ懸濁液の電界流れ分別[field flow fractionation (FFF)]のグラフであり;
【図18B】三つの収集物についてAFMで測定したフラーレンナノチューブ長の分布を表わし;そして
【図18C】FFF溶出液の、第1分画、第3分画、及び第4分画のナノチューブ長さ分布を示したグラフであり;
【図18D】FFF溶出液の、第1分画、第3分画、及び第4分画のナノチューブ長さ分布を示したグラフであり;そして
【図19】二つの10ナノメートルの金球につながれたフラーレンナノチューブ「パイプ」のAFM画像を示す。
【技術分野】
【0001】
【背景技術】
【0002】
フラーレン類は、六角形及び五角形で配置されたsp2混成炭素のみから成る閉じたかご形分子である。フラーレン類(例えば、C60)は、蒸気化した炭素から凝縮により産出された閉じた球状のかご類として最初に同定された。
【0003】
フラーレンチューブ類は、蒸気化した炭素から球状のフラーレン類を製造する炭素アーク法における陽極上の炭素堆積物中に産出される。エッベセン(Ebbe
sen)ら[エッベセンI(Ebbesen I)]、「カーボンナノチューブの大規模合成(Large-Scale Synthesis Of Carbon Nanotubes)」、ネイチャー(Nature)、第358巻、第220頁(1992年7月16日)及びエッべセン(Ebbesen)ら[エッべセンII(Ebbesen II)]、「カーボンナノチューブ(Carbon Nanotubes)」、材料科学の年間レヴュー(Annual Review of Materials Science)、第24巻、第235頁(1994年)。かかるチューブ類は、本明明細書においてカーボンナノチューブ類として言及される。これらの方法により製造したカーボンナノチューブ類の多くは、多層(multi-wall)ナノチューブであった。即ち、カーボンナノチューブ類は共軸円筒に類似していた。七層迄を有するカーボンナノチューブ類が先行技術、エベッセンII;飯島ら、「グラファイト炭素の螺旋マクロ細管(Helical Microtubules of Graphitic Carbon)」、ネイチャー(Nature)、第354巻、第56頁(1991年11月7日)に記載されている。
【0004】
単層カーボンナノチューブ類は、フラーレンの製造に使用される種類の直流アーク放電装置中で、炭素と少量パーセントのVIII族遷移金属を同時にアーク放電装置の陽極から蒸発させて製造された。飯島ら、「1ナノメートル直径の単殻カーボンナノチューブ」(Shingle-Shell Carbon Nanotubes of 1nm Diameter)、ネイチャー(Nature)、第363巻、第603頁(1993年);ベチューン(Bethune)ら、「単一原子層壁を有するカーボンナノチューブのコバルト触媒による成長(Cobalt Catalyzed Growth of Carbon Nanotubes with Single Atomic Layer Walls)」、ネイチャー(Nature)、第63巻、第605頁(1993年);アジャヤン(Ajayan)ら、「コバルト触媒による単殻カーボンナノチューブの合成中の成長形態(Growth Morphologies During Cobalt Catalyzed Single-Shell Carbon Nanotube Synthesis)、ケム・フィジ・レット(Chem. Phys. Lett.)、第215巻、第509頁(1993年);ズー(Zhou)ら、「YC2粒子からラジカルにより成長する単壁カーボンナノチューブ(Single-Walled Carbon Nanotubes Growing Radically From YC2 Particles)」、アプル・フィジ・レット(Appl. Phys. Lett)、第65巻、第1593頁(1994年);セラフィン(Seraphin)ら、「単壁チューブ及びナノ結晶の炭素クラスターへの封入(Single-Walled Tubes and Encapsulation of Nanocrystals Into Carbon Clusters)、エレクトロケム・ソック(Electrochem. Soc.)、第142巻、第290頁(1995年);斉藤ら、「金属及び炭化物を閉じ込めるカーボンナノカプセル(Carbon Nanocapsules Encaging Metals and Carbides)」、ジェイ・フィジ・ケム・ソリッズ(J. Phys. Chem. Solids)、第54巻、第1849頁(1993年);及び斉藤ら、「蒸発源近くで凝縮した小粒子の形成を経る単層カーボンナノチューブの押出し」(Extrusion of Single-Wall Carbon Nanotubes Via Formation of Small Particles Condensed Near an Evaporation Source)、ケム・フィジ・レット(Chem. Phys. Lett.)、第236巻、第419頁(1995年)を参照。かかる遷移金属の混合物を使用するアーク放電装置での単層カーボンナノチューブの収率を有意に高めることができることも知られている。ランベール(Lambert)ら、「単殻カーボンナノチューブ単離方向への改良条件(Improving Conditions Towards Isolating Single-Shell Carbon Nanotubes)、ケム・フィズ・レット(Chem. Phys. Lett.)、第226巻、第364頁(1994年)参照。
【0005】
このアーク放電方法は単層ナノチューブ類を産出することができるが、ナノチューブ類の収率は低く、また該チューブ類は、混合物中の個々のチューブ間で構造及び大きさの注目に値する変動を示す。個々のカーボンナノチューブは他の反応生成物から分離し精製することが困難である。
【0006】
単層ナノチューブ類の改良製造法は、ここにに参照例としてそのまま包含される米国合衆国特許出願第08/687,665号名称「単層カーボンナノチューブ類よりなるロープ類(Ropes of Single-Walled Carbon Nanotubes)」に記載されている。この方法は、とりわけ遷移金属、好ましくはニッケル、コバルト又はその混合でドープしたグラファイト基質のレーザー蒸気化を使用して凝縮した炭素の少なくとも50%の収率で単層カーボンナノチューブ類を産出するものである。この方法にり産出された単層ナノチューブ類は、平行に配列し、ファンデルワールス力で結合して三角格子中に緊密に充填された10乃至1,000の単層カーボンナノチューブ類から成る「ロープ」と名づけられるクラスターとなる傾向がある。この方法により産出されたナノチューブ類は、一つの構造が優勢となる傾向はあるが構造が変動する。
【0007】
レーザー蒸気化方法は改良単層ナノチューブ配合物を産出するが、生成物は未だ不均一であり、またナノチューブ類は余りにも絡んでいるため、その可能な用途は多くは望めない。更に、炭素蒸気化は高エネルギープロセスであり、本来高価につく。そのため、より高い純度及び均一性の単層カーボンナノチューブ類を製造する改良方法の必要が残されている。更に、もし単層カーボンナノチューブが巨視的成分として入手可能でさえあれば、多くの実用的材料はその物性を利用することができるであろう。しかし、かかる成分は現在迄製造されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、安価な炭素原料を使用して、適度の温度で単層(single-wall)カーボンナノチューブ類から多量の連続した巨視的炭素繊維を高収率、単一工程で製造する方法を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、かかる方法により製造された巨視的炭素繊維を提供することである。
本発明の目的はまた、巨視的炭素繊維の連続的成長における鋳型として使用するための精製した単層カーボンナノチューブ類の分子配列を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、(例えば、炭素の蒸発による)単層カーボンナノチューブ類の製造法で形成した非晶質炭素及び他の反応生成物から単層カーボンナノチューブ類を精製する方法を提供することである。
【0011】
本発明の目的はまた、実質的に非晶質炭素を含まず、一種以上の官能基で任意に誘導体化した新しい部類の管状炭素分子を提供することである。
本発明の目的はまた、本発明の炭素繊維類、ナノチューブ分子配列類及び管状炭素分子類を使用する多くのデバイスを提供することである。
【0012】
本発明の目的は、カーボンナノチューブ類を含む複合材料を提供することである。
本発明の別の目的は、離層抵抗を有する複合材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
単層カーボンナノチューブ類及び非晶質炭素汚染物を含む混合物の精製方法が開示されている。本方法は非晶質炭素を除去するに十分な酸化条件下で該混合物を加熱する工程及びそれに続く、少なくとも約80重量%の単層カーボンナノチューブ類を含む生成物を回収する工程を含む。
【0014】
別の実施態様において、長さ約5乃至500ナノメートルの管状炭素分子を製造する方法が開示されている。本方法は、単層カーボンナノチューブを含有する物質を切断して長さが5乃至500ナノメートルの範囲を有する管状炭素混合物を形成する工程及び実質的に等しい長さの分子画分を単離する工程を含む。開示したナノチューブ類は単独でまたは複数で、電力伝送ケーブル、太陽電池、電池に、アンテナ、分子エレクトロニクス、探針及びマニプレーターとして或いは複合物中に使用することができる。
【0015】
別の実施態様において、管状炭素分子類の巨視的分子配列を形成する方法が開示されている。本方法は、50乃至500ナノメートルの範囲にある実質的に同種の長さの少なくとも約106の管状炭素分子類を用意する工程;該管状炭素分子類の少なくとも一端部に結合部分を導入する工程;該結合部分が付着する物質で被覆した支持体を用意する工程;及び結合部分を含有する該管状炭素分子類と該支持体とを接触させる工程を含む。
【0016】
別の実施態様において、管状炭素分子類の巨視的分子配列を形成する別の方法が開示されている。先ず、マイクロウエル(micowell)のノナスケール配列を支持体上に準備する。次に、金属触媒を各マイクロウエルに蒸着させる。次に、炭化水素又は一酸化炭素の原料ガスの流れを、各マイクロウエルから単層カーボンナノチューブ類を成長させる条件下で該支持体に向ける。
【0017】
別の実施態様において、管状炭素分子類の巨視的分子配列を形成する更に別の方法が開示されている。この方法は、精製されてはいるが絡まった比較的無端の単層カーボンナノチューブ物質を含む表面を準備する工程;短い長さの壊れたナノチューブ類を該表面から突出させるに十分な酸化条件に該表面を付す工程;及び電界を該表面に与え、表面から該ナノチューブを突出させ、通常は表面に対して垂直に配向して整列させ、ファンデルワールス相互作用力により凝集させて配列とする工程を含む。
【0018】
別の実施態様において、一般的には平行に配列した少なくとも106の単層ナノチューブを含有する巨視的炭素繊維を連続的に成長させる方法が開示されている。本方法によると、一般的には平行に配向し且つ約50乃至500ナノメートルの範囲の実質的に同種の長さを有する少なくとも106の管状炭素分子の巨視的分子配列が提供される。半球状のフラーレンキャップが該配列の管状炭素分子類の上方端部から取り除かれている。該配列の管状炭素分子類の上方端部を次に触媒の金属と接触させる。該配列の端部を約500℃乃至1,300℃の範囲に加熱するために、局限したエネルギーを端部へ与えながらガス状の炭素源を該端部へ供給する。成長する炭素繊維は連続的に回収される。
【0019】
別の実施態様において、一般的には平行に配向し、約5乃至約500ナノメートルの範囲の実質的な同種の長さを有する少なくとも106の単層カーボンナノチューブを含有する巨視的分子配列が開示されている。
【0020】
別の実施態様において、少なくとも約80重量%の単層カーボンナノチューブ類を含有する組成物が開示されている。
更に別の実施態様において、一般的には平行に配向した少なくとも106の単層カーボンナノチューブ類を含有する巨視的炭素繊維が開示されれいる。
【0021】
別の実施態様において、単層カーボンナノチューブ類の開放端部に蒸着した触媒金属を有する少なくとも106の単層カーボンナノチューブ類を含有する巨視的分子鋳型から連続巨視的炭素繊維を形成する装置が開示されている。本装置は、成長且つアニール域において鋳型中のナノチューブ類の開放端部のみを局限的に約500℃乃至1,300℃の範囲の温度に加熱する手段を含む。本装置はまた、鋳型中のナノチューブ類の加熱された開放端部に直接隣接する成長兼アニール域へ炭素含有原料ガスを供給するための手段を含む。更に本装置はまた、成長兼アニール域の繊維の成長端部を維持しながら、成長兼アニール域から成長炭素繊維を連続的に取り出す手段を含む。
【0022】
別の実施態様において、ナノチューブ類を含有する複合材料が開示されている。本複合材料はマトリックスと該マトリックス中に埋封されたカーボンナノチューブを含む。
別の実施態様において、カーボンナノチューブ物質を含む複合材料を製造する方法が開示されている。本方法は繊維状材料の集合体を準備する工程;ナノチューブ物質を該繊維状材料へ添加する工程;及びマトリックス材料の前駆体を該カーボンナノチューブ材料及び繊維状材料へ添加する工程を含有する。
【0023】
別の実施態様において、自然に形成する誘導体化した単層ナノチューブ分子の三次元構造体が開示されている。本構造体は一つに集合して三次元構造体となる多数の誘導体を有するいくつかの成分分子を含む。
前記目的及び当業者に明らかな他の目的は、本明細書及び請求項に記載した本発明により達成される。
【発明の実施するための最良の形態】
【0024】
炭素は、正にその本質により、高温蒸気から自己集合して完全な球状の閉鎖かご体(C60がその原型である)を形成する傾向を有するのみならず(遷移金属触媒の助けにより)集合して両端部を半フラーレンドームで完全に封鎖し得る完全な単層円筒状チューブとなる傾向を有する。炭素の一元的単結晶として考えられるこれらのチューブ類は垂れ下がる結合を有しない真のフラーレン分子である。
【0025】
本発明の単層カーボンナノチューブ類は多層(multi-wall)カーボンナノチューブ類よりはるかに欠陥のないものとなるらしい。単層カーボンナノチューブは不飽和炭素原子価間に橋を形成することにより欠陥を償うための隣接層(neighboring walls)を有しないが、単層カーボンチューブにおける欠点は、多層カーボンナノチューブが時折欠陥を復活させ得るため、多層カーボンナノチューブに於ける欠陥よりもより少ないものであるらしい。単層カーボンナノチューブは欠陥が殆どないため、より強力で、より導電性であり、従って類似の直径を有する多層カーボンナノチューブより一層有用である。
【0026】
カーボンナノチューブ類、特に本発明の単層カーボンナノチューブ類は、該カーボンナノチューブの導電性率及び大きさが小さいため集積回路等のマイクロデバイスの、或いはコンピューターに使用される半導体チップの電気コネクターの製造に有用である。該カーボンチューブ類は光周波数アンテナとして、走査型トンネル顕微鏡法(STM)及びAFMに使用されている走査型探針顕微鏡法の探針として有用である。該カーボンナノチューブ類は、自動車用タイヤのカーボンブラックの代わりに、或いはそれとともに使用してもよい。該カーボンナノチューブ類はまた、水素添加、改質及び分解触媒等の産業及び化学プロセスで使用される触媒の支持体として有用である。
【0027】
本発明により製造された単層カーボンナノチューブより成るロープ類は金属性である。即ち、本ロープは比較的低抵抗で電荷を伝導する。ロープは、例えば、導電性塗料また重合体塗料の添加剤として、或いはSTMの探針先端としての用途を含む電気導体を必要とする任意の用途に有用である。
【0028】
カーボンナノチューブ類を定義する場合、認められている命名法系を使用することが助けとなる。本明細書において、エム・エス・ドレッセルハウス(M. S. Dresselhaus)、ジイー・ドレッセルハウス(G. Dresselhaus)及びピー・シイー・エクルント(P. C. Eklund)著、「フラーレン類及びカーボンナノチューブ類の科学」(Science of Fullerenes and Carbon Nanotubes)、第19章、特に第756頁乃至第760頁(1996)、アカデミックプレス(Academic Press)、525Bストリート、シュート1900、サンディエゴ、カリフォルニア92101、米国合衆国又はシーハーバードライブ、オルランド、フロリダ32877、米国合衆国(ISBN 0−12−221820−5)に記載され、参照例としてここに包含されるカーボンナノチューブ命名法を使用する。単層円筒状フラーレン類は、二重指数(double index)(n, m)により互いに区別される。このn及びmは、六角形「亀甲型」グラファイトの単一ストリップを円筒表面に巻き付け両端部を封鎖したとき完全な円筒となるような切断方法を記載する整数である。この二つの指数が同一(m = n)であるとき、得られるチューブは、チューブ軸に対して垂直にチューブを切断すると、六角形に側辺のみが露出してチューブ端部の周囲をかこむ型がn回繰り返されたアームチェアのアームと座席に類似しているため、「アームチェア」(又はn,n)型を呈していると言われている。アームチェア型チューブは単層カーボンナノチューブが金属性であるため、単層カーボンナノチューブの好ましい形であり、また非常に高い電気及び熱導伝性を有する。更に、単層カーボンナノチューブは全て非常に高い引張り強度を有する。
【0029】
ここに記載した二重レーザーパルスの特徴は、(10, 10)型単層カーボンナノチューブを豊富に産出する。該(10, 10)型単層カーボンナノチューブは13.8オングストローム±0.3オングストローム或いは13.8オングストローム±0.2オングストロームの近似チューブ直径を有する。
【0030】
本発明は、炭素及び一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含有する、或いはそれらから本質的になる、或いはそれらよりなるターゲット物質をレーザービームが蒸発化する単層カーボンナノチューブ類の製造方法を提供する。該ターゲットからの該蒸気が、主たる成分である単層カーボンナノチューブでありしかもそのうち、(10, 10)型チューブ類が優勢なカーボンナノチューブを形成する。本方法はまた、ロープ類として配列した、即ち、単層カーボンナノチューブが互いに平行に並ぶものとして配列した単層カーボンナノチューブを有意量で産出する。該(10, 10)型チューブが、また各ロープに於いて見られる優勢なチューブである。本レーザー蒸発法はカーボンチューブ類の製造法であるアーク放電法に対していくつかの利点を有する。即ち、レーザー蒸発法は、単層カーボンナノチューブの成長を助ける条件の制御をはるかに高程度に行うことを可能とし、また連続操作を可能とし、更に単層カーボンナノチューブをより良い収率でより良い品質のものを産出する。ここに記載したごとく、該蒸発法はまた、より長いカーボンナノチューブ類及びより長いロープ類を産出するために使用することができる。
【0031】
カーボンナノチューブ類は、単一単層カーボンナノチューブに関しては約0.6ナノメートル乃至3ナノメートル、5ナノメートル、10ナノメートル、30ナノメートル、60ナノメートル迄の、また単層又は多層カーボンナノチューブ類に関しては100ナノメートル迄の範囲の直径を有する。該カーボンナノチューブは、長さが50ナノメートル乃至1ミリメートル、1センチメートル、3センチメートル、5センチメートル以上の範囲にある。本発明により産出した生成物中の単層カーボンナノチューブ類の収率は異常に高い。蒸発物質の10重量%を超える、30重量%を超える、更に50重量%を超える単層カーボンナノチューブの収率も本発明に関しては可能である。
【0032】
更に記載されるごとく、一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属は、カーボンナノチューブ及び又はロープ類の長さの成長を触媒する。該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属はまた、単層カーボンナノチューブ類及び単層カーボンナノチューブのロープ類を高収率で産出する。カーボンナノチューブ及び又はロープの成長が達成される機構は完全には解明されていない。しかし、該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属がカーボンナノチューブの端部に存在すると、炭素蒸気からの炭素がカーボンナノチューブを形成する固体構造へ付加するのを容易なものとするらしい。発明者等は、この機構が生成物中におけるカーボンナノチューブ及び/又はロープの高収率で高選択性の主因であると信じており、単に本発明の結果の説明の道具としてこの機構を用いて本発明を記載する。たとえこの機構が部分的に或いは全体として正しくないことが証明されたとしても、これらの結果を達成する本発明はここにまだ充分に記載されている。
【0033】
本発明の一面は、アニール域においてカーボンナノチューブの活性端部を維持しながら炭素蒸気をカーボンナノチューブ活性端部へ供給することを含むカーボンナノチューブ類及び又はカーボンナノチューブから成るロープ類を製造する方法を含有する。加熱域に維持された炭素を含むターゲットにレーザービームを当てる装置により本発明に従って炭素を蒸発させる。類似の装置は文献、例えば、参照例として本明細書に包含される米国合衆国特許第5,300,203号及びチャイ(Chai)等の「金属を内部に有するフラーレン類」(Fullerenes with Metals Inside)、ジェイ・フィジ・ケンム(J. Phys. Chem.)、第95号、第20号、第7564頁(1991年)に記載されている。
【0034】
少なくとも一つの活性端部を有するカーボンナノチューブはまた、ターゲットがVI族またはVIII族の遷移金属又は二種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含有するとき形成される。本明細書において、カーボンナノチューブの「活性端部(live end)」なる用語は、一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属の原子が位置するカーボンナノチューブの末端を意味する。カーボンナノチューブの一方又は両方の端部が活性端部であり得る。活性端部を有するカーボンナノチューブは、最初に炭素及び一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含有するターゲットからの物質を蒸発させるためにレーザービームを使用することにより、次に該炭素/VI族又はVIII族の遷移金属蒸気をアニール域に供給することにより、
本発明のレーザー蒸発装置中で産出される。任意的に第二レーザービームを使用してターゲットからの炭素の蒸発を助ける。活性端部を有するカーボンナノチューブは該アニール域で形成され、蒸気中の炭素をカーボンナノチューブの活性端部へ触媒付加することにより長さが成長する。付加用の炭素蒸気を次いでカーボンナノチューブの活性端に供給しカーボンナノチューブの長さを増加させる。
【0035】
形成されるカーボンナノチューブは、必ずしも単層カーボンナノチューブとは限らず、二層、五層或いは十層以上のいくらでも大きな数の層(walls)を有する多層(multi-wall)カーボンナノチューブ(共軸カーボンナノチューブ類)であり得る。しかし、好ましくはカーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブであり、本発明は、多層カーボンナノチューブよりも更に豊富に、時には遥かに豊富に(10, 10)型単層カーボンナノチューブ類を選択的に産出する方法を提供する。
【0036】
カーボンナノチューブの活性端部が最初に形成されるアニール域は、500℃乃至1,500℃、より好ましくは1,000℃乃至1,400℃、最も好ましくは1,100℃乃至1,300℃に維持されるべきである。活性端部を有するカーボンナノチューブ類がアニール域で捕捉維持され、(VI族又はVIII族の遷移金属蒸気を更に加える必要なく)更に炭素の付加により長さを成長させる本発明の実施態様において、該アニール域は、より低い温度、即ち400℃乃至1,500℃、好ましくは400℃乃至1,200℃、最も好ましくは、500℃乃至700℃でよい。該アニール域の圧力は、50乃至2,000トル、より好ましくは100乃至800トル、最も好ましくは300乃至600トルに維持されるべきである。該アニール域の雰囲気は炭素を含有する。通常、該アニール域の雰囲気はまた、炭素蒸気をアニール帯から清掃して収集域へ送るガスを含有する。カーボンナノチューブの形成を妨げない任意のガスが清掃ガスとして働くが、好ましくは清掃ガスは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン或いはこれらのガスの二種以上の混合物等の不活性ガスである。ヘリウムとアルゴンが最も好ましい。流動不活性ガスを使用すると、温度制御ができそして更に重要なことであるが、ナノカーボンの活性端部へ炭素を運ぶことができる。本発明のいくつかの実施態様において、他の物質、例えば、一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を炭素とともに蒸発させると、これらの化合物及びその蒸気もアニール帯の雰囲気中に存在する。純料な金属を使用する場合、得られる蒸気はその金属を含有する。金属酸化物を使用する場合、得られる蒸気はその金属及びイオン類或いは酸素の分子を含有する。
【0037】
カーボンナノチューブの活性端部での該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属の触媒活性を殺すか或いは著しく減少させ物質をあまり多く存在させることを避けるのが重要である。水(H2O)及び又は酸素(O2)があまり多く存在すると、該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属の触媒活性が殺されるか或いは著しく減少することが知られている。従って、好ましくは水及び酸素はアニール域から排除される。普通5重量%未満、より好ましくは1重量%未満の水及び酸素を有する清掃ガスを使用すれば十分である。最も好ましくは、水及び酸素は0.1重量%未満である。
【0038】
好ましくは、活性端部を有するカーボンナノチューブの形成及びそれに続く炭素蒸気のカーボンナノチューブへの付加は同一装置内で全て達成される。好ましくは、該装置は炭素及び一種以上のVI族またはVIII族の遷移金属を含有するターゲットに照射するレーザーを含有し、該ターゲット及びアニール域は適切な温度に、例えば、該アニール域を炉中に保持することにより維持する。レーザービームは炭素及び一種以上のVI族及びVIII族の遷移金属を含有するターゲットに突き当たるように照射され、該ターゲットは適切な温度に維持された炉中に保持されている石英チューブの内部に搭載されている。上に注記したごとく、該炉温度は最も好ましくは1,100℃乃至1,300℃の範囲である。チューブは必ずしも石英チューブである必要はなく、温度(1,000℃乃至1,500℃)に耐える任意の材料でできていてもよい。石英に加えアルミナ及びタングステンがチューブの作製のために使用できるであろう。
【0039】
第二のレーザーをまたターゲットに照射する場合、改良された結果が得られ、また両方のレーザーは、時間を調節し、時間を分離してレーザーエネルギーのパルスを送出する。例えば、第一のレーザーはターゲットの表面から物質を蒸発させるに十分なパルス強度を送出する。典型的には、第一レーザーからのパルスは約10ナノ秒(ns)続く。第一のパルスを停止後、第二のレーザーからのパルスがターゲットまたは第一のパルスにより発生した炭素蒸気又はプラズマに突き当たり、ターゲット表面から物質をより均一に且つ連続して蒸発させる。第二レーザーのパルスは強度が第一レーザーのパルスと同一であっても或いはより弱いものであってもよいが、第二レーザーからパルスは典型的には第一レーザーからのパルスよりも強力であり、典型的には第一パルスの終了後約20乃至60ナノ秒、好ましくは40乃至55ナノ秒遅れて送出される。
【0040】
該第一及び第二レーザーの典型的な仕様例を実施例1及び3にそれぞれ示す。概略の手引としては、該第一のレーザーは、波長が11乃至0.1マイクロメートル、エネルギーが0.05乃至1ジュール、繰返し周波数が0.01乃至1,000ヘルツ(Hz)と変化し得る。該第一レーザーのパルス時間は10−13乃至10−6秒と変化し得る。該第二のレーザーは、波長が11乃至0.1マイクロメートル、エネルギーが0.05乃至1ジュール、繰返し周波数が0.01乃至1,000ヘルツと変化し得る。該第二レーザーパルスの継続時間は10−13秒乃至10−6秒と変化し得る。該第二レーザーパルスの開始は該第一レーザーパルスの終了から約10乃至100ナノ秒隔てられるべきである。該第二パルスの供給レーザーが紫外線(UV)レーザー(例えば、エキシマーレーザー)の場合は、時間遅延はより長く、1乃至10ミリ秒である。しかし該第二パルスが可視又は赤外(IR)レーザーより発せられる場合は、該第一パルスにより発生したプラズマ中の電子への吸収が好ましい。この場合、パルス間の最適時間遅延は約20乃至60ナノ秒、より好ましくは40乃至55ナノ秒、最も好ましくは40乃至50ナノ秒である。該第一及び第二のレーザーについてのこれらの範囲は、約0.3乃至10ナノメートルのターゲット複合棒のスポットに集束するビームに対するものである。該第一及び第二レーザーのパルス間の時間遅延は、パルスレーザーを使用する分野で知られているコンピューター制御により達成される。発明者等は、11メリーランドドライブ、ロックポート、イリノイ60441、米国合衆国(11 Maryland Drive, Lockport, IL 60441, U.S.A.)のカイネテックス システムズ コーポレーション(Kinetics Systems Corporation)社製の調時パルス発生機及び700チェスナットリッジ ロード、チェスナット リッジ ロード、ニューヨーク10977−6499、米国合衆国(700 Chesnut Ridge Road, Chestnut Ridge, New York 10977-6499, U.S.A.)のルコイ リサーチ システムズ(LeCoy Research Systems)社製のナノパルサー(nanopulser)とともにルコイ リサーチシステムズ社製カマック クレート(CAMAC crate)を使用した。より大きなターゲットへスケールアップするには多重第一レーザー類及び多重第二レーザー類が必要となるか或いはより強力なレーザーが使用される。多重レーザー類の主たる特徴は、第一レーザーがターゲット表面からの物質を等しく融蝕して蒸気又はプラズマとし、第二レーザーが第一パルスにより発生した蒸気またはプラズマプルーム(plume)中の融蝕された物質へ十分なエネルギーを堆積させ、該物質が原子又は小さな分子(一分子につき十個の炭素原子未満)へと蒸発することを確実にするというものである。該第二レーザーパルスが該第一パルス後あまりにも早く到達すると、第一パルスにより発生したプラズマがあまりにも濃厚であるため第二パルスが該プラズマにより反射する。第二レーザーパルスが第一パルス後あまりにも遅く到達すると、第一パルスにより発生したプラズマ及び又は融蝕された物質がターゲットの表面に突き当たる。しかし第二レーザーパルスがプラズマ及び又は融蝕された物質が形成された直後、調時して到達すると、ここに記載したごとく、該プラズマ及び又は融蝕された物質は第二レーザーパルスからエネルギーを吸収する。一連の第一レーザーパルスから第二レーザーパルスへの連続は、第一及び第二レーザーパルスと同じ繰返し周波数、即ち0.01乃至1,000ヘルツで繰り返されることにも留意すべきである。
【0041】
実施例記載のレーザーに加えて、本発明に於いて有用な他のレーザーの例として、XeF(波長365ナノメートル)レーザー、XeCl(波長308ナノメートル)レーザー、KrF(波長248ナノメートル)及びArF(波長193ナノメートル)レーザーが含まれる。
【0042】
任意的ではあるが好ましくは、清掃ガスをターゲットの上流のチューブに導入し、該ガスはターゲットからの蒸気を運びながらターゲットを通過して下流へ流れる。石英チューブは、炭素及び一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属が炭素ターゲットの下流の点であるが石英チューブの加熱されている部分でカーボンナノチューブを形成する条件に保たれているべきである。アニール域で生成するカーボンナノチューブの収集は、石英チューブの先の下流端部の内部に冷却した捕集器を維持することにより容易なものとなる。例えば、カーボンナノチューブを、石英チューブの中央に搭載された水冷金属構造体上で収集することができる。カーボンナノチューブは条件さえ適切であれば、好ましくは水冷捕集器上に集積する。
【0043】
VI族又はVIII族の遷移金属はいかなるものでも本発明の該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属として使用し得る。VI族の遷移金属は、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)及びタングステン(W)である。VIII族の遷移金属は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)及びプラチナ(Pt)である。好ましくは、該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属は、鉄、コバルト、ルテニウム、ニッケル及びプラチナよりなる群から選択される。より好ましくは、コバルトとニッケルの混合物又はコバルトとプラチナの混合が使用される。本発明に有用な該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属は、純金属、金属酸化物、金属炭化物、金属の硝酸塩或いは他のVI族又はVIII族の遷移金属を含有する化合物として使用することができる。好ましくは、該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属は、純金属、金属酸化物又は金属の硝酸塩として使用される。炭素と組み合わされ、活性端部を有するカーボンナノチューブの産出を容易なものとする該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属の量は、0.1乃至10原子%(atom per cent)、より好ましくは0.5乃至5原子%、最も好ましくは、0.5乃至1.5原子%である。本明細書において、「原子%(atom per cent)」なる用語は存在する原子の総数に基づく特定化した原子の100分率を意味する。例えば、ニッケルと炭素の1原子%混合物とは、ニッケルと炭素原子の総数中、1%がニッケルである(残りの99%が炭素である)ことを意味する。二種以上のVI族又はVIII族の遷移金属の混合物を使用する場合、各金属は金属混合物の1乃至99原子%、好ましくは金属混合物の10乃至90原子%、最も好ましくは金属混合物の20乃至80原子%である。二種のVI族又はVIII族の遷移金属を使用する場合、各金属は最も好ましくは金属混合物の30乃至70原子%である。 三種のVI族又はVIII族の遷移金属を使用する場合、各金属は最も好ましくは金属混合物の20乃至40原子%である
本明細書に記載したごとく、該一種以上VI族又はVIII族の遷移金属はレーザーにより蒸発用のターゲットを形成するために炭素と組合わされる。ターゲットの残りの部分は炭素であり、グラファイト型、フラーレン型の炭素、ダイヤモンド型の炭素或いは重合体又は炭化水素、これらの二種以上の混合物等の化合物として炭素を含むことができる。
【0044】
炭素は該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属と特定の比率で混合され、次いでレーザー蒸発法において結合され炭素及び該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含有するターゲットを形成する。ターゲットは炭素及び該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属をカーボンセメントと室温で均一に混合し、次いで混合物を型に入れる。型中の該混合物を圧縮し約130℃で約4乃至5時間加熱する。その間カーボンセメントのエポキシ樹脂は硬化する。使用される圧縮圧は、グラファイト、一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属及びカーボンセメントの混合物を圧縮して、構造的一体性を維持するよう空隙を有しない成形体とするに十分なものであるべきである。次いで成形体をアルゴン流の雰囲気下でゆっくりと810℃迄約8時間加熱することにより炭化する。引き続き、成形炭化したターゲットを、炭素及び該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含有する蒸気を発生させるためにターゲットとして使用する前に、アルゴン流下で約1,200℃へ約12時間加熱する。
【0045】
本発明は、炉中蒸発の断面図である図1を参照することにより更に理解される。ターゲット10は、チューブ12中に位置する。ターゲット10は炭素を含有し、また一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含有し得る。チューブ12は絶縁体16及び加熱要素域18を含有する炉14中に位置する。炉中の対応部分は、絶縁体16’及び加熱要素域18’により示される。チューブ12は、ターゲット10が加熱要素域18中に存在するよう位置する。
【0046】
図1はまた、チューブ12の下流端部24でチューブ12中に搭載された水冷捕集器20を示す。アルゴン又はヘリューム等の不活性ガスは、その流れがチューブ12の上流端部22から下流端部24へ向かうように、チューブ12の上流端部22へ導入される。レーザービーム26はターゲット10に集束する(図示されていない)レーザーにより送出される。運転の際は、炉14は所望の温度、好ましくは1100℃乃至1300℃、通常約1200℃に加熱される。アルゴンは清掃ガスとして上流端部22に導入される。該アルゴンは、任意に所望の温度、即ち、炉14の温度とほぼ同じ温度に予備加熱してもよい。レーザービーム26はターゲット10に突き当りターゲット10中の物質を蒸発させる。ターゲット10からの蒸気は流動アルゴン流により下流端部24へと運ばれる。ターゲットが炭素のみよりなる場合、形成された蒸気は炭素蒸気である。ターゲットの一部として一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属が含まれる場合、蒸気は炭素及び一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含むものとなる。
【0047】
炉から熱及び流動アルゴンは、チューブ中にアニール域として一つの領域を維持する。図1中28で記された部分のチューブ中の体積がアニール域であって、そこでは炭素蒸気が凝縮し始め、次いで実際に凝縮してカーボンナノチューブを形成する。水冷捕集器20は、700℃以下の温度、好ましくは500℃以下の温度にその表面が維持されアニール域で形成したカーボンナノチューブを捕集する。
【0048】
本発明の一実施態様において、活性端部を有するカーボンナノチューブをチューブ12のアニール域部に設けられたタングステンワイヤ上に捕捉または載架することができる。本実施態様において、一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を有する蒸気を産出し続けることは必ずしも必要ではない。この場合、ターゲット10を炭素は含有するがVI族又はVIII族の遷移金属は含有しないターゲットへ変換することもでき、炭素がカーボンナノチューブの活性端部へ付加される。
【0049】
本発明の他の実施態様において、該ターゲットが一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含有する場合、レーザービーム26により形成された蒸気は炭素及び該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属を含有する。その蒸気はカーボンナノチューブをアニール域で形成し、次いでそのカーボンナノチューブは水冷捕集器26上、好ましくは水冷捕集器26の先端30で堆積する。蒸気中に炭素とともに蒸気中に一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属が存在すると、ある種のフラーレン類及びグラファイトもまた通常は形成するが、フラーレン類に代わってカーボンナノチューブ類が優先的に形成する。アニール域において蒸気中の炭素は、カーボンナノチューブの活性端部に存在する該一種以上のVI族又はVIII族の遷移金属の触媒効果により、選択的に該カーボンナノチューブの活性端部に付加する。
【0050】
図2はカーボンナノチューブをより長くするために使用することのできる本発明の任意の実施態様を示すもので、ターゲット10の下流ではあるがアニール域中に、チューブ12の直径方向に亙りタングステンワイヤ32を張ってある。レーザービームのパルスが炭素/VI族又はVIII族遷移金属蒸気を形成するターゲット10に突き当った後に、活性端部を有するカーボンナノチューブが蒸気中に形成する。そのいくつかのカーボンナノチューブがタングステンワイヤ上に捕捉され、活性端部はチューブ12の下流端部24へと向けられる。追加の炭素蒸気が該カーボンナノチューブを成長させる。装置のアニール域長のカーボンナノチューブを本実施態様において製造することができる。本態様において、活性端部を有するカーボンナノチューブの初期形成後、その時点で蒸気が炭素のみを含む必要があるため、炭素のみのターゲットに交換することも可能である。
【0051】
図2はまた、第二のレーザービーム34がターゲット10に当るときのその部分を示す。実際に、レーザービーム26及び第二レーザービーム34は、ターゲット10の同一表面に向けられるものであるが、ここに記載されるごとく異なる時間に該表面に当る。
【0052】
該レーザーまたはそれと第二レーザーとを停止することも可能である。活性端部を有する単層カーボンナノチューブが一度形成すると、該活性端部はより低い温度で且つ他の炭素源で単層カーボンナノチューブの成長を触媒する。該炭素源はフラーレン類に切り換えられ、清掃ガスの流れにより活性端部へ運ぶことができる。該炭素源は、清掃ガスにより運ばれるグラファイト粒子でもよい。該炭素源は、チューブ12に導入され、清掃ガスにより活性端部へ運ばれ活性端部を通り過ぎる炭化水素、炭化水素ガス又はその混合物であってもよい。有用な炭化水素類には、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、ベンゼン、トルエン、或いは他のパラフィン系、オレフィン系、環状または芳香族炭化水素、或いは他の炭化水素が含まれる。
【0053】
本実施態様におけるアニール域の温度は、活性端部を有する単層カーボンナノチューブを最初に形成するために必要なアニール域の温度よりは低くすることができる。アニール域の温度は、400ないし1,500℃、好ましくは400乃至1,200℃、最も好ましくは500乃至700℃の範囲である。VI族又はVIII族の遷移金属がこれらのより低い温度でナノチューブへの炭素の付加を触媒するために、これらの低温が実行可能となる。
【0054】
ロープ中の単層カーボンナノチューブは13.8オングストローム±0.2オングストロームの直径を有することが測定により示されている。(10, 10)型単層カーボンナノチューブは約13.6オングストロームの計算値直径を有し、ロープ中の単層カーボンナノチューブは測定により主に(10, 10)型チューブであることが証明されている。各ロープ中の単層カーボンナノチューブの数は約5乃至5,000、好ましくは約10乃至1,000或いは約50乃至1,000、最も好ましくは約100乃至500と変化する。ロープ類の直径は、約20乃至200オングストローム、より好ましくは約50乃至200オングストロームの範囲である。本発明により製造されるロープ類において(10, 10)単層カーボンナノチューブがチューブの主たる部分を占める。10%を超える、30%を超える、50%を超える、75%を超える、更に90%を超える(10, 10)型単層カーボンナノチューブを有するロープ類が製造されている。50%を超える、75%を超える、更に90%を超えるアームチェア型(n,n)単層カーボンナノチューブもまた本発明により製造され、本発明の一部をなしている。各ロープ中の単層カーボンナノチューブは配列して格子定数が約17オングストロームの2−D三角格子を有するロープを形成している。長さ0.1乃至10或いは100或いは1,000ミクロンのロープ類が本発明により製造された。本発明により製造されたロープ類の抵抗率はロープが金属性であることを証明する27℃で0.34乃至1マイクロオーム/メートルと測定された。
【0055】
上記ロープ類から成るフェルトも製造することができる。生成物質は、ここに於いて「フェルト」として言及されているロープ類のもつれた収集体が一つに固まってマット状になって収集される。発明方法により収集されたフェルト物質は取り扱いに耐える充分な強度を有し、導電性であることが測定されている。10ミリメートル平方、100ミリメートル平方或いは1,000ミリメートル平方以上のフェルト類が発明方法により形成される。
【0056】
炉中レーザー蒸発法により製造された単層カーボンナノチューブ類の一つの利点はその清浄度にある。典型的なアーク放電法により製造された単層カーボンナノチューブ類は、非晶質炭素の厚い層で覆われており、そのためレーザー蒸発法により製造された単層カーボンナノチューブの清浄な束と比較して有用性には多分限界があろう。本発明の他の利点及び特徴はその開示により明らかである。本発明はまた、グオウ(Guo)等の「レーザー蒸発法による単層カーボンナノチューブの触媒成長(Catalytic Growth Of Single-Walled Nanotubes By Laser Vaporization)」、ケム・フィジ・レット(Chem. Phys. Lett.)第243巻、第49乃至第54頁(1995年)を参照することにより理解される。
【0057】
二重パルスレーザーにより達成される利点は、炭素及び金属を確実に最適アニール条件を経過させることである。該二重レーザーパルス法は、時間を使用して融蝕された物質の更に完全な蒸発から融蝕を分離することによりこれを達成する。これらの同一最適条件は、ここに参考例とし組み入れられる1995年7月7日付米国合衆国特許出願第08/483,045号に記載された炭素及び金属を蒸発させる太陽エネルギーの使用により達成される。該出願第08/483,045号に記載された金属の代わりに任意のVI族またはVIII族遷移金属を組み合わせることにより本願の単層カーボンナノチューブ類及びロープ類が製造される。
単層ナノチューブの精製
前記方法のいずれかにより得た物質中のカーボンナノチューブは本発明の方法に従って精製することができる。少なくとも単層ナノチューブ(SWNT)の一部分を含む混合物は、例えば、飯島ら或いはベチュン(Bethune)らにより記載されているごとく製造することができるかもしれない。しかし、相対的に高い収率で単層カーボンナノチューブを産出する製造方法が好ましい。特に、米国合衆国特許出願第08/687,665号に開示されているごときレーザー産出法は70%まで或いはそれ以上の単層ナノチューブを産出することができ、該単層ナノチューブはアームチェア構造が主たるものである。
【0058】
単層カーボンナノチューブを含む混合物を作製する典型的な製造法の生成物は、非晶質炭素の堆積物、グラファイト、金属化合物(例えば、酸化物)、球状フラーレン類、触媒粒子(しばしば炭素又はフラーレン類で被覆されている)及び多分多層カーボンナノチューブを含む絡み合ったフェルトである。該単層カーボンナノチューブは本質的に平行なナノチューブからなる「ロープ(ropes)」又は束となって凝集している。
【0059】
単層カーボンナノチューブを高い比率で有する物質をここに記載したごとく精製すると、産出された配合物は単層ナノチューブが豊富になり、その結果該単層ナノチューブは実質的に他の物質を含まない。特に、単層ナノチューブは、精製配合物中の物質の少なくとも80%、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%、そして最も好ましくは99%を超える。
【0060】
本発明の精製方法は非晶質炭素堆積物及び他の汚染物質を除去するために酸化条件下で単層ナノチューブ含有フェルトを加熱することを含む。本精製方法の好ましい態様において、フェルトを硝酸、過酸化水素と硫酸の混合物或いは過マンガン酸カリ等の無機酸化剤の水溶液中で加熱する。好ましくは、単層ナノチューブ含有フェルトを、実際的な時間枠内で非晶質炭素堆積物を溶蝕し去るに充分な濃度ではあるが単層カーボンナノチューブを有意な程度に溶蝕する程高くはない濃度の酸化酸溶液中で還流する。2.0乃至2.6モル濃度の硝酸がよいことが判明した。大気圧下では、かかる酸水溶液の還流温度は約120℃である。
【0061】
好ましい方法において、ナノチューブ含有フェルトを2.6モル濃度の硝酸溶液中24時間還流することができる。精製したナノチューブは、例えば、ミリポアタイプ エルエス(Millipore Type LS)のごとき5ミクロン孔径のテフロン(登録商標)フィルターで濾過することにより該酸化酸から回収することができる。好ましくは、前記濾過に次いで同一濃度の新しい硝酸溶液中で第二の24時間還流を行う。
【0062】
酸性酸化条件下で還流を行うと、ナノチューブのいくつかはエステル化反応、言い換えればナノチューブの汚染を起こす結果となる。この汚染エステル物質は、鹸化により、例えば、室温エタノール中での飽和水酸化ナトリウム溶液を使用することにより除去することができる。酸化酸処理で産出される任意のエステル結合重合体の鹸化に適した他の条件は当業者であれば容易に明らかであろう。典型的には、ナノチューブ配合物は鹸化工程後中和される。6モル濃度の塩酸水溶液中で12時間ナノチューブの還流を行うことが中和に適していることが判明したが、他の適切な条件は当業者には明らかであろう。
【0063】
酸化及び任意の鹸化及び中和後、精製したナノチューブは、沈降又は濾過により、単層ナノチューブのロープ又は束から成る精製した繊維の薄いマット、以下「バッキーペーパー(bucky paper)」として言及される形で回収することができる。典型的な例において、5ミクロンの孔径を有するテフロン(登録商標)膜で精製中和したナノチューブを濾過して、約100ミクロン厚の精製ナノチューブの黒いマットを得た。「バッキーペーパー」のナノチューブは種々の長さから成り、個々のナノチューブ或いは103迄の単層ナノチューブの束又はロープ、或いは個々の単層ナノチューブと種々の厚さから成るロープの混合物で構成されている。代わりに、「バッキーペーパー」は、以下に記載されるごとく分別により長さ又は直径及び又は分子構造が均一なナノチューブから成っていてもよい。
【0064】
精製したナノチューブ又は「バッキーペーパー」は、例えば、水素ガス雰囲気中850℃で焼き固ベーキングすることにより最終的に乾燥し、乾燥精製ナノチューブ配合物を産出する。
【0065】
米国合衆国特許出願第08/687,665号のニ重レーザー方法により製造したレーザー産出単層ナノチューブ物質を、2.6モル濃度の硝酸水溶液中で、一度溶媒を交換して還流し、次いでエタノール中の飽和水酸化ナトリウム中、室温で12時間超音波による分解を行い、更に6モル濃度の塩酸水溶液で12時間中和し、該水性媒体を除去して850℃の水素ガス雰囲気中下1気圧の水素ガス(1インチの石英チューブ中流速1ないし10センチメートル/秒)中で2時間ベーキングを行ったとき、詳明なTEM、SEM及びラマンスペクトルによる分析の結果、純度は99%を超えており、主な不純物はわずかな炭素封入ニッケル/コバルト粒子であった。(図3A、3B及び3C参照)。
【0066】
別の実施態様において、わずかに塩基性(例えば、pHが約8ないし12)の溶液を鹸化工程で使用することもできる。2.6モル濃度の硝酸中での最初の洗浄で粗物質中の非晶質炭素を、周縁に種々の官能基、特にカルボン酸基を有するより大きな多環芳香族炭化水素と同様にフルボ酸やフミン酸のごとき種々の大きさの結合多環化合物に変換する。該塩基溶液は殆どの多環化合物をイオン化し、水溶液により溶解しやすくする。好ましい方法において、ナノチューブ含有フェルトを2乃至5モル濃度の硝酸中約110℃乃至125℃で6乃至15時間還流する。精製したナノチューブは濾過し、3ミクロン孔径を有するティーエス ティー ピー イソポア(TSTP Isopore)フィルター上で10ミリモル濃度の水酸化ナトリウム溶液で洗浄する。次に、濾過したナノチューブを硫酸/硝酸溶液中60℃で30分攪拌することにより磨いた。好ましい実施態様において、該溶液は容量比3対1の濃硫酸と硝酸の混合物である。この工程において、硝酸処理中産出された全ての残存物質をチューブ類から本質的に除去する。
【0067】
磨きが完了すると、四倍水希釈し、ナノチューブを再び3ミクロン孔径のTSTP Isoporeフィルター上で濾過する。再びナノチューブを10ミリモル濃度の水酸化ナトリウム溶液で洗浄する。ナノチューブが乾燥すると再び懸濁するのが困難であるため、最後にナノチューブは水中に保存する。
【0068】
特別の用途に対しては更に条件を最適化することができるが、酸化酸中での還流によるこの基本的対処法が成功したことが示されている。本方法の精製により、触媒用、複合材料の成分用、或いは円筒状炭素分子及び単層ナノチューブ分子の連続巨視的炭素繊維の製造における出発物質用の単層ナノチューブが産出される。
単層カーボンナノチューブ分子
先行技術の方法により製造された単層ナノチューブはあまりに長く且つ絡みあっているためそれを精製又は操作することが大変困難である。しかし本発明は、単層ナノチューブをもはや絡み合うことのない程度の短い長さに切断し、アニールして開放端部を閉じることに備えるものである。短い閉じた円筒状のカーボンナノチューブはDNAの区分又は重合体の大きさによる分類のために使用される技法に類似した技法を用いて非常に容易に精製することができる。従って、本発明は真の新しい部類の円筒状カーボンナノチューブを効果的に提供するものである。
【0069】
短いカーボンナノチューブの均一な集合物の調製は、ナノチューブを切断し、アニールし(再び閉じ)、続いて分別することにより達成される。切断及びアニール工程は、精製したナノチューブの「バッキーペーパー」、ナノチューブの精製前のフェルト或いは単層ナノチューブを含有する任意の物質に対して行われる。切断及びアニールをフェルトについて行う場合、好ましくは、非晶質炭素を除去するための酸化精製及び任意の鹸化に続いて行う。好ましくは、切断工程用の出発物質は実質的に他の物質を含有しない精製した単層ナノチューブである。
【0070】
短いナノチューブの切断は、意図する使用を容易にする一定の長さに切断するか、或いは一定の範囲の長さのものを選択するかのいずれも可能である。個々の円筒状分子自体に関係する用途(例えば、誘導体、量子デバイス中のナノスケールの導体、即ち分子配線)には、長さは正にチューブの直径より大きく、チューブの直径の約1,000倍迄である。典型的な円筒状分子は約5乃至1,000ナノメートル又はそれより長い範囲にある。以下に記載されるごとく、単層ナノチューブの炭素繊維の成長に有用な鋳型を作成するためには、約50乃至500ナノメートルの長さが好ましい。
【0071】
残存断片の構造に実質的に影響を与えないで所望のナノチューブの分子の長さを達成する任意の切断方法が採用可能である。好ましい切断方法は高度の質量イオン(mass ions)の照射を採用する。この方法において、試料に、例えばサイクロトロンからの高速イオンビームを約0.1乃至10ギガ電子ボルトのエネルギーで照射する。好ましい高質量イオンは、ビスマス、金、ウラン等の約150原子質量単位を超えるものを含む。
【0072】
好ましくは、均一の長さを有する個々の単層ナノチューブの集団の調製は、不均一な「バッキーペーパー」を出発物とし、該「ペーパー」中のナノチューブを金(Au+33)高速イオンビームを使用して切断を行う。この代表的な手順において、「バッキーペーパー」(厚さ約100ミクロン)に約1012までの高速イオン/センチメートル平方を照射し、ナノチューブの長さに沿って平均100ナノメートル毎に、「ペーパー」中のナノチューブに激しい損傷を供える。高速イオン、試料を貫通する10乃至100ナノメートルの「弾丸貫通孔」に類似する方法で「バッキーペーパー」に損傷を創出する。次いで損傷したナノチューブを、イオン損傷が発生した点でチューブの熱溶封によりアニールし(閉じ)、多数のより短いナノチューブを産出することができる。これらの束のレベルで産出されたより短い円筒状の分子は、約100ナノメートル付近の長さのピークを有する不規則な切断サイズの分布を持つ。適切なアニール条件はフラーレン技術分野ではよく知られており、例えば、真空又は不活性ガス中1200℃で1時間チューブをベーキングするものである
単層ナノチューブはまた、製造中故意に該単層ナノチューブの構造中に欠陥生生原子を含有させることにより切断してより短い円筒状の分子とすることができる。これらの欠陥は化学的に創出して(例えば、酸化的に攻撃して)ナノチューブを切断し、より小さな切断とすることができる。例えば、初めの炭素蒸発源中に炭素原子1000当り1硼素を含有させることにより化学的攻撃に対しては内臓の弱点を有する単層ナノチューブを製造することができる。
【0073】
切断はまた、液体又は溶融炭化水素等の適当な媒体中の単層ナノチューブ懸濁液を超音波により分解することによって達成することができる。適切な音響エネルギーを生じる任意の装置が使用できる。この種の一つの好ましい液体は1,2−ジクロロエタンである。この種の一つの装置は、コウルーパーマー社(Cole-Parmer, Inc.)製コンパクトクリーナー(ワンパイント)[Compact Cleaner(One Pint)]である。この型は40キロヘルツで作動し、20ワットの出力を有する。超音波分解切断法は、充分なエネルギー入力で且つ初めの懸濁液中に存在するチューブ、ロープ又はケーブルの長さを実質的に減少させるに十分な時間連続的に行うべきである。出発物質の性質及び求める長さの減少度により典型的には約10分乃至約24時間が用いられる。
【0074】
別の実施態様において、気泡崩壊[(bubble collapse)(5,000℃以下で且つ約1,000atm以下)]で創出される高温高圧によるか或いは超音波化学により産出される遊離基の攻撃によりロープ長に沿って欠陥を発生させるために、超音波分解を使用することができる。これらの欠陥は、硫酸/硝酸溶液により攻撃され、ナノチューブを汚れなく切断し、更に下に横たわる損傷及び切断用のチューブを露出する。酸がチューブを攻撃すると、チューブは完全に切り開かれ、徐々に溶蝕し返し始め、開口端部は温和な温度で再び閉じることができなくなる。好ましい方法において、ナノチューブを、40乃至45℃の硫酸/硝酸溶液中24時間攪拌しながら、浴超音波分解を行う。次いで、該硫酸/硝酸溶液中40乃至45℃で2時間超音波分解なしで攪拌する。これは超音波分解により発生した全ての欠陥を、それ以上の欠陥を発生することなく該硫酸/硝酸溶液で攻撃するものである。次いで、ナノチューブを水で4倍希釈し、0.1ミクロン孔径のブイシーティーピー(VCTP)フィルターを使用して濾過する。次に、ナノチューブを濾過し、該VCTPフィルター上で10ミリモル濃度の水酸化ナトリウム溶液で洗浄する。ナノチューブは、硫酸/硝酸溶液中で70℃で30分攪拌することにより磨かれる。磨かれたナノチューブは水で4倍希釈し、0.1ミクロン孔径のVCTPフィルターを使用して濾過し、次いで濾過し、0.1ミクロン孔径のVCTPフィルター上で10ミリモル濃度の水酸化ナトリウムで洗浄後、水中に保存する。
【0075】
例えば、高濃度の硝酸を使用する酸化溶蝕方法はまた、単層ナノチューブを切断してより短い長さにすることに使用できる。例えば、濃硝酸中数時間乃至1日又は2日間単層ナノチューブを還流すると有意に短い単層ナノチューブとなる。この機構による切断速度は、チューブの螺旋度(helicity)に依存する。この事実を利用すると、型による、即ち(n, m)型から(n, n)型のチューブの分離が容易となる。
【0076】
長さ分布は、酸への露出時間に従って系統的に短くなる。例えば、容量比3対1の濃硫酸/硝酸溶液中70℃でのナノチューブの平均切断は約100ナノメートル/時の速度で短くなる。容量比4対1の硫酸/30%水性過酸化水素(「ピラニア」)混合物中70℃で、短縮速度はほぼ200ナノメートル/時である。溶蝕速度は、ナノチューブのカイラル指数(n, m)、即ちジグザグ(zigzag)型チューブ(m=o)から化学的に区別される全てのアームチェア(arm-chair)型チューブ(m=x)に対して鋭敏であり、中間螺旋角(n1m)のナノチューブに対してはさほど鋭敏はない。
【0077】
本工程により、清浄したナノチューブは50乃至500ナノメートル、好ましくは100乃至300ナノメートルの長さに切断される。得られた断片はトリトンエックス−100(Triton X-100a)[アルドリッチ社製、ミルウオーキー、ウィスコンシン、米国合衆国(Aldrich, Milwaukee, WI, U.S.A.)]等の界面活性剤と混合すると、水中コロイド懸濁液を形成する。この黒色の懸濁液は、電界流動分別を使用した長さによる選別等種々の操作及びグラファイト上への電着とそれに続くAFM画像化が可能である。
【0078】
別の実施態様において、単層ナノチューブは電子ビーム切断装置を使用して公知の方法で切断することができる。
前記切断技法を組合わせて用いることもできる。
【0079】
単層ナノチューブの均一集団は、アニール後の不均一ナノチューブ集団の分別により調製することができる。アニールしたナノチューブは、分別用の水性洗剤溶液又は有機溶媒中に分散させることができる。好ましくは、該チューブをベンゼン、トルエン、キシレン又は溶融ナフタレン中で超音波分解により分散させる。この手順の主要な機能は、ファンデルワールス力によりロープ又はマット状に結合したナノチューブを分離することである。個々のナノチューブへの分離に続き、ナノチューブは、DNA分別又は重合体分別用手順等の公知の分別手順を使用して大きさにより分別することができる。分別はまた、アニール前のチューブに対して、特に開放端部が置換基(カルボキシ基、水酸基等)を有する場合、行うこともでき、大きさ又は種類のいずれかによる分別が容易になる。代わりに、閉じたチューブを開き、誘導体としてかかる置換基を導入することができる。閉じたチューブはまた、例えば、可溶部分を端部のキャップに付加することにより誘導体化し分別を容易にすることが出来る。
【0080】
電気泳動は、かかる一つの技法であり単層ナノチューブ分子が容易に陰電荷化されるのでその分別により適している。異なる構造の種類(例えば、アームチェア型及びジグザグ型)を有する単層ナノチューブの異なる分極化及び電気的特性を利用して種類によるナノチューブを分離することも可能である。種類による分離はまた、一種類の構造に優先して結合する部分を用いて分子の混合物を誘導体化することにより容易となり得る。
【0081】
代表的な一例に於いて、硝酸中48時間還流して精製したナノチューブから成る黒色「バッキーペーパー」の100ミクロン厚のマットに、テキサスエイ アンド エム スーパーコンダクティング サイクロトロン ファシリティ(Texas A&M Superconducting Cyclotron Facility)で(1012までのイオン/センチメートル平方の正味フラックスの)金(Au+33)イオンの2ギガ電子ボルトのビームを100分間照射した。照射した「ペーパー」は真空中1,200℃で一時間ベーキングし、チューブを「弾丸貫通孔」で封止し、次いで超音波を行いながらトルエン中に分散した。得られた円筒状の分子をSEM、AFM及びTEMにより検査した。
【0082】
ここに記載した手順により、円筒部が、巻いて長軸に平行な両端部で結合したグラフェン[graphene(六角形の結合した炭素)]の実質的に無欠陥シートから形成されている単層ナノチューブである円筒状分子が製造される。該ナノチューブはフラーレンキャップ(例えば、半球状のもの)を円筒の一方の端部に、他方の端部に類似のフラーレンキャップを有することができる。一方又は両方の端部はまた開いてもよい。ここに記載した方法により調製したこれらの単層ナノチューブは実質的に非晶質炭素を含まない。これらの精製ナノチューブは実際に真の新しい部類の円筒状の分子である。
【0083】
一般に、これらの分子の長さ、直径及び螺旋度(helicity)は、制御して所望の任意に値することができる。好ましい長さは106六角形までであり、好ましい直径は、約5乃至50六角形周長であり、その好ましい螺旋角は0度乃至30度である。
【0084】
好ましくは、該円筒分子は、先に検討した方法により製造された物質を精製することにより得られる主たるアームチェア(n, n)型配置から成るナノチューブを切断及びアニールすることにより製造される。これら(n, n)型炭素分子類はここに記載したごとく精製すると、最初の真の「金属性分子(metallic molecules)」である。これらの分子は、炭素分子が高い導電性で且つ大きさが小さいため、コンピューターに使用される集積回路や半導体チップのごときデバイス用の電気コネクターの製造に有用である。単層ナノチューブ分子はまた、例えば、共鳴トンネルダイオードのごとき室温で量子効果が支配する電気デバイスの部品としても有用である。該金属性炭素分子は、光学的周波数のアンテナ及びSTM及びAFMに使用されるごとき走査型深針(probe)顕微鏡法の深針として有用である。(m, n)型チューブでm1nの場合の半導体単層ナノチューブ構造体類は、適切にドーピングすると、トランジスターのごときナノスケールの半導体デバイスとして使用することができる。
【0085】
本発明の円筒状炭素分子はまた、例えば、マイクロウェーブ吸収材料を作成するための高周波遮蔽用途においても使用することができる。
単層ナノチューブ分子は、フラーレン類として触媒されることが知られている任意の反応において、その分子の線状配置が提供する付加的利点を有する触媒として役立ちうる。炭素ナノチューブはまた、水素添加、改質及び分解触媒等の工業的、化学的方法に使用される触媒の支持体として有用である。単層ナノチューブ分子を含む物質はまた、電池及び燃料電池の水素貯蔵デバイスとして有用である。
【0086】
本発明により製造した円筒状炭素分子は、端部が開かれるか或いは半球状フラーレンドーム(hemi-fullerene dome)で封止さるその端部で化学的に誘導体化することができる。フラーレンキャップ構造体類の誘導体化はその構造の公知の反応性により容易なものとなっている。「フラーレン類の化学(The Chemistry of Fullerenes)」、アール・テイラー(R. Taylor)編、フラーレン類の上級シリーズ(The Advance Series in Fullerenes)第4巻、ワールドサイエンス(World Science)出版社、シンガポール(1995年)及びエイ・ヒルシュ(A. Hirsch)著「フラーレン類の化学(The Chemistry of the Fullerenes)」、ティーメ(Thieme)(1994年)を参照。代わりに、単層ナノチューブのフラーレンキャップは、チューブは開くには十分であるが溶蝕し返ししすぎない程度の酸化条件(例えば、硝酸または酸素/一酸化炭素)に短時間さらすことによりその一方或いは両方の端部で除去することができ、得られる開いたチューブの端部を、グラフェンシート端の反応性部位に対する公知の反応機構を使用して誘導体化することができる。
【0087】
一般的に、かかる分子の構造は以下のごとく示される。
【0088】
【化1】
【0089】
この構造において
【0090】
【化2】
【0091】
は、約102乃至約106の炭素原子を有し、また約5乃至1,000ナノメートル、好ましくは約5乃至500ナノメートルの長さを有する(任意的に非炭素原子によりドープされていてもよい)実質的に欠陥不含の円筒状グラフェンシートであり;
【0092】
【化3】
【0093】
は、該円筒状グラフェンシートに完全に嵌合し、少なくとも5個の五角形と残部の六角形を有し、典型的には少なくとも約30個の炭素原子を有し;
nは0乃至30、好ましくは0乃至12であり;そして
R、R1、R2、R3、R4及びR5は各々独立して、水素;アルキル、アシル、アリール、アラルキル、ハロゲン;置換又は無置換チオール;置換又は無置換のアミノ;ヒドロキシル及びOR’(式中R’は水素、アルキル、アシル、アリール、アラルキル、置換又は無置換のアミノ;置換又は無置換のチオール;ハロゲン;及び任意に一つ以上のヘテロ原子により中断されているか或いは任意に一つ以上の=O又は=S、ヒドロキシル、アミノアルキル基、アミノ酸又は2乃至8個のアミノ酸のペプチドで置換されている線状又は環状炭素鎖からなる群より選択される)からなる群より選択される。
【0094】
下記の定義を本明細書及び請求項において使用する。
本明細書及び請求項において(以下「ここにおいて」と言う。)使用される「アルキル」なる用語は、線状及び分岐した鎖状基の両方を含み、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第三級ブチル、イソブチル、ペンチル、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、4,4−ジメチルペンチル、オクチル、2,2,4−トリメチルペンチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル及びそれらの種々の分岐した鎖状異性体を含む。該鎖は線状であっても環状であっても、また飽和であっても不飽和であっても、例えば、二重結合及び三重結合を含んでもいてもよい。該アルキル基は、例えば、ハロゲン、酸素、シリル、アミノ又は他の許容しうる置換基で中断又は置換されていてもよい。
【0095】
ここにおいて使用される「アシル」なる用語は、式−COR(式中Rは任意の置換基で、例えば、アルキル、アリール、アラルキル、ハロゲン;置換又は無置換のチオール;置換又は無置換のアミノ、置換又は無置換の酸素、ヒドロキシ又は水素)のカルボニル基を指す。
【0096】
ここにおいて使用される「アリール」なる用語は、環の部分に6乃至14の炭素原子を含む単環状、ニ環状或いは三環状芳香族基を指し、例えば、フェニル、ナフチル、置換フェニル又は置換ナフチルがあり、フェニル又はナフチルの置換基は、例えば、炭素数1乃至4のアルキル基、ハロゲン、炭素数1乃至4のアルコキシ、ヒドロキシ又はニトロである。
【0097】
ここに於いて使用される「アラルキル」なる用語は、例えば、ベンジル、パラニトロベンジル、フェニルエチル、ジフェニルメチル及びトリフェニルメチル等のアリール置換基を有する上記アルキル基を指す。
【0098】
ここにおいて使用する「芳香環又は非芳香環」なる用語は一種以上のヘテロ原子、例えば、O、S、SO2及びNで中断された又は中断されていない5乃至8員環の芳香又は非芳香環を含むか、或いは該環は、例えば、ハロゲン、アルキル、アシル、ヒドロキシル、アリール及びアミノで置換されていてもよく、また前記へテロ原子及び置換基もまた、例えば、アルキル、アシル、アリール又はアラルキルで置換されていてもよい。
【0099】
ここにおいて使用される「線状又は環状」なる用語は、例えば、芳香又は非芳香環により任意に中断されていてもより線状鎖を含む。環状鎖は、例えば、環に先行又は後行する炭素に結合してもよい芳香又は非芳香環を含む。
【0100】
ここに於いて使用される「置換アミノ」なる用語は一種以上の置換基、例えば、アルキル、アシル、アリール、アラルキル、ヒドロキシ及び水素で置換されていてもよいアミノ基を指す。
【0101】
ここにおいて使用する「置換チオール」なる用語は、一種以上の置換基、例えば、アルキル、アシル、アリール、アラルキル、ヒドロキシ及び水素で置換されていてもよいチオールを指す。
【0102】
典型的には、開いた端部は約20までの置換基を含むことができ、閉じた端部は約30までの置換基を含んでいてもよい。立体障害のため、一端当り約12までの置換基を使用することが好ましい。
【0103】
上記外部誘導体化に加えて、本発明の単層ナノチューブ分子は内包的に、即ち、内包フラーレン技術分野で知られているごとく、構造内に一種以上の金属原子を含有させることにより改変することができる。構造体、例えば、C60に結合しない一種以上のより小さい分子を単層ナノチューブ分子に「装填(load)」し、外部磁場又は外力の影響下で単層ナノ分子内をC60「バッキーボール(bucky ball)」が前後頻繁に往復するがことく、分子切り換えを行うこともまた可能である。
【0104】
内包円筒状カーボンナノチューブを製造するためには、内部種(例えば、金属原子又は「バッキーボール」分子)を単層ナノチューブの形成工程中に導入するか或いは円筒状分子の調製後に付加することができる。単層ナノチューブ物質を形成するために蒸発させる炭素源中への金属類の組み入れは、内包金属フラーレン類を製造するための先行技術に記載されている方法で達成される。「バッキーボール」即ち、球状フラーレン分子は、前記した酸化溶蝕法を用いてチューブの一方の端部又は両方の端部のキャップを除去し、C60又はC70含有蒸気の存在下、混合物を(例えば、約500℃乃至約700℃に)平衡時間中加熱することにより過剰量の「バッキーボール」分子(例えば、C60又はC70)を付加することにより本発明の円筒状の炭素分子に積み込むことが好ましい。有意な(例えば、1%の数10分の1乃至約50%まで或いはそれより多い)割合のチューブが本処理中「バッキーボール」分子を捕らえる。チューブ及び「ボール」の相対的配置を選択すると、本方法は容易なものとなり得る。例えば、C60及びC70は(10, 10)型単層ナノチューブ(内径約1ナノメートル)から切り出した円筒状炭素分子に非常にうまく嵌合する。積込み工程後、「バッキーボール」分子を含むチューブは真空下約1,000℃で加熱することにより閉じる(アニールで閉鎖する)。「バッキーボール」の封入は顕微鏡による検査、例えば、TEMにより確認できる。
【0105】
内包的に積み込められた円筒状炭素分子は、次いで空のチューブ及び任意の残存積込め物質から、積込められた円筒状分子に導入された新しい物性、例えば、金属原子が磁性又は常磁性をチューブに付与する場合、或いは「バッキーボール」が過剰の質量をチューブに付与する場合、その物性を利用して分離することができる。これらの物性及び他の物性に基づく分離及び精製は当業者には容易に明らかであろう。
【0106】
C60又はC70のようなフラーレン分子は、電子的観点より(例えば、ファンデルワールス相互作用により)チューブ外で得られるよりもより安定なエネルギー配置を環境に与えるために、適切に選択された円筒分子[例えば、(10, 10)型単層ナノチューブに基づくもの]の内部に留まる。
単層カーボンナノチューブの分子配列
単層ナノチューブ分子の均一集団に対する特に興味ある一つの応用は、個々のナノチューブ配向に対し実質的に垂直な方向に延びる単層を形成すべく、実質的に平衡に配向して(例えば、ファンデルワールス力により)凝縮する単層ナノチューブより成る実質的に二次元的な配列を産出することである。かかる単層配列は、「自己集合単層[self-assembled monolayers (SAM)]又はラングミュアーブロジェット膜という[Langmuir-Blodgett film(以下「LB膜」という)] [ヒルシュ(Hirsch)、第75頁乃至第76頁参照]を用いる従来技法により形成することができる。かかる単層配列を図式的に図4に示す。この図において、ナノチューブ1は反応性被覆3(例えば、金)を有する基質2に結合している。
【0107】
典型的に、自己集合単層は[金、水銀又はITO(インジウム−錫−酸化物)等の]金属である基質上に創出される。興味の対象である分子は、ここにおいては単層ナノチューブ分子であるが、−S−, −S−(CH2)n−NH−, −SiO3(CH2)3NH−等のリンカー(linker)部分を通して(通常は共有的に)基質に結合している。該結合部分は最初に基質に、或いは最初に単層ナノチューブ分子(の開いた又は閉じた端部)に結合して反応性自己集合を提供する。LB膜はニ相(例えば、ベンゼン、トルエン等の)炭化水素と水の界面に形成する。膜の配向は親水部分と親油部分をそれぞれ対向端部に有する分子又はリンカーを用いることにより達成される。
【0108】
単層ナノチューブ分子の配列の配置は、その供される用途により均一又は不均一であり得る。同じ型及び構造の単層ナノチューブ分子を使用すれば図4に示す種類の均一配列が得られる。異なる単層ナノチューブ分子を使用すれば、ランダム又は規則不均一構造が産出される。規則不均一配列の一例を図5に示す。ここではチューブ4は(n, n)型、即ち構造において金属性であり、チューブ5は(m, n)型、即ち絶縁性である。この配置は、前もって遮蔽しておいた反応性基質の領域を除去した後、逐次反応を用いることにより達成される。
【0109】
実質的に平行関係にある103乃至1010又はそれ以上の単層ナノチューブ分子を含む配列はそれ自体ナノ多孔性(nanoporous)導電性分子膜として、例えば、リチウムイオン電池等の電池に使用することができる。この膜はまた、(シス−[ビスチアシアナート ビス(4,4'−ジカルボキシ−2,2'−ビピリジンRu(II))]のごとき光活性分子を付加し或いは付加せずして)米国合衆国特許出願第5,084,365号に示される種類の高度に効率的な電光セルを製造するために使用することができる。
【0110】
本発明の単層ナノチューブ分子配列の一つの好ましい用途は、以下に記載するごとく単層カーボンナノチューブの巨視的炭素繊維の成長用「種(seed)」或いは鋳型を提供することである。この鋳型における巨視的断面の使用は、繊維の成長中、ナノチューブの活性(開いた)端部を原料にさらし続けさせるために特に有用である。本発明の鋳型配列は、最初の鋳型上に形成されたまま、或いはその最初の鋳型から切り離して、或いは(ファンデルワールス力が結合させているため)基質なしで使用することができ、また繊維形成の条件により適した第二の基質に移して使用することもできる。
【0111】
単層ナノチューブ分子配列が下記のごとく巨視的炭素繊維を成長させる種または鋳型として使用される場合、配列は実質的に二次元的配列として形成する必要はない。その上方の表面で二次元的配列を与える任意の配列が使用できる。その好ましい実施態様において、鋳型分子配列は、以下において産出された如く操作可能な長さの巨視的炭素である。
【0112】
好ましい鋳型分子配列を形成する任意の方法は、出発物質として精製した「バッキーペーパー」を用いることを含む。「バッキーペーパー」の表面を(例えば、酸素/一酸化炭素により約500℃で)酸化処理すると、単層ナノチューブの端部と同様に側面が攻撃され、多くのチューブ及び又はロープの端部が該「ペーパー」の表面から突出する。得られた「バッキーペーパー」を電界中(例えば、100ボルト/センチメートル平方)に配置すると、突出するチューブ及び又はロープは「ペーパー」表面に対し実質的に垂直な方向に配列する。これらのチューブはファンデルワールス力により凝集して分子配列を形成する傾向がある。
【0113】
代わりに、単層ナノチューブの分子配列は、精製した「バッキーペーパー」出発物質を「梳り(combing)」により製造することができる。「梳り」は走査型力顕微鏡[scanning force microscope (SFM)]の片持ばり上の珪素プラミッドのような鋭い巨視的先端を用いてナノチューブを配列させることを含む。詳しくは、「梳り」とは、SFMの先端を系統的に「バッキーペーパー」へ突込み、引きずって行き、そして「バッキーペーパー」から引き上げる工程である。「バッキーペーパー」の断片全体は、例えば、(1)系統的にSFMの先端を「バッキーペーパー」の断片に突込み、引きずりそしてそれに沿って前進させ、(2)一列が完了するまで(1)の事象を繰返し、そして(3)別の列に沿って該先端の位置替えをして(1)および(2)を繰り返すことにより梳ることができる。 好ましい梳り方法において、興味の対象とする「バッキーペーパー」の断片は、或る深さにおいて上記(1)ないし(3)の工程を行い、次いで別の深さにおいて、その全工程を繰返すことに梳りが完了する。例えば、10ミクロンメートル平方の「バッキーペーパー」に0.5ミクロンメートルの間隔で20本の線を引くことができるリソグラフィーによる行動計画を書き込みそれを従って実施するものである。この行動計画は、深さを0.5ミクロンメートルづつ増加させてゼロから3ミクロンメートルまで7回実施することができる。
【0114】
大きな配列(即ち、106を超えるナノチューブ)は、より小さい配列を一つにすることにより、或いはチューブ及び又はロープの線状の集まりを折りたたむことにより(即ち、nチューブの集まりを一度折りたたむと2nチューブの束となる)ナノプローブ(nanoprobes)を用いて集合させる。
【0115】
巨視的配列はまた、ナノスケールのマイクロウェル(microwell)構造体(例えば、電子ビームリソグラフィー技法で表面に形成された巾10ナノメートル、深さ10ナノメートルの106を超える長方形の窪み[ウェル(well)]を有する二酸化珪素被覆シリコンウェハー)を提供することにより形成することもできる。好ましくは触媒金属クラスター(又は前駆体)を各ウェルに蒸着させ、炭素含有原料を、ウェルから単層ナノチューブ繊維の成長を開始させるため、以下に記載する条件下で配列に向ける。予備形成したナノ粒子(nanoparticles)[即ち、ダイ(Dai)らの「一酸化炭素の金属触媒不均一化反応により製造された単層ナノチューブ(Single-Wall Nanotubes Produced by Metal Catalyzed Disproportionation of Carbon Monoxide)」、ケム・フィズ・レット(Chem. Phys. Lett.)第260巻(1996年)、第471頁乃至第475頁(以下「ダイ」という)に記載されている直径数ナノメートルのもの]の形態の触媒もまたウェルに使用できる。ウェハー表面に対して実質的に垂直な方向に繊維を配向させるために、電場をかけることができる
単層ナノチューブ分子配列からの連続炭素繊維の成長
本発明は単層ナノチューブ分子配列から連続炭素繊維を任意の所望の長さへ成長させる方法を提供する。実質的に平行な炭素ナノチューブの凝集体を含有する炭素繊維は、適切な種分子配列の成長(伸長)により本発明方法に従って製造することができる。好ましい単層ナノチューブ分子配列は、実質的に均一的な長さの単層ナノチューブの自己集合単層から上記のごとくして製造される。ここに於いて使用される「巨視的炭素繊維」なる用語は、物理的に操作し得るに十分な大きさの直径、典型的には約1ミクロンを超え、好ましくは約10ミクロンを超える直径を有する繊維を指す。
【0116】
成長方法における第一工程は、分子配列中の単層ナノチューブの成長端部を開くものである。これは上記のごとく酸化処理でもって達成される。次に、遷移金属触媒を開いた端部の種配列に付加する。該遷移金属触媒は、下記の炭素含有原料を成長端部で好ましい六角形構造に転移し得る高度に移動性の炭素遊離基へ転換させる任意の遷移金属である。好ましい物質として遷移金属が含まれ、特にVI族又はVIII族の遷移金属、即ちクロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、及びプラチナ(Pt)が含まれる。ランタノイド及びアクチノイドの金属もまた使用することができる。好ましいものは鉄、ニッケル、コバルト及びそれらの混合物である。最も好ましいものは、ニッケルとコバルトの50/50比(重量)の混合物である。
【0117】
該触媒は、(単層ナノチューブ分子の直径によるが)約10金属原子乃至約200金属原子を含有する金属クラスターとして開いた単層ナノチューブ端部に存在すべきである。典型的には、該触媒金属クラスターが開いたチューブの頂上に座し、一またはニを超えるチューブに亙って橋かけをしない場合、反応は最も効率よく進行する。チューブの直径の約0.5乃至約1.0倍(例えば、0.5乃至約1.5ナノメートル)に等しい断面を有する金属クラスターがより好ましい。
【0118】
該好ましい方法に於いて、触媒は、真空蒸着法により分子配列の開いたチューブの端部上で、その場で形成される。分子線エピタキシー(MBE)蒸着において用いられる装置等の任意の好ましい装置が使用される。かかる一つの装置としてクユドセン噴散源蒸発器(Kudsen Effusion Source Evaporator)がある。チューブの端部の近傍で線材(例えば、ニッケル/一酸化炭素線材或いはニッケルと一酸化炭素の別々の線材)を、一本の線材表面から十分な原子が蒸発する融点より低い温度(例えば、約900℃乃至1,300℃)に単に加熱するだけで金属の十分な蒸着を行うこともできる。該蒸着は、好ましくは真空中、前もってガス放出をして行う。約10−6 トル乃至10−8 トルの真空が適している。蒸発温度は該金属触媒を蒸発させるに十分な高い温度にすべきである。典型的には、好ましい実施態様であるニッケル/一酸化炭素触媒に対しては1,500℃乃至2,000℃の範囲の温度が適している。該蒸発方法において、金属は典型的には金属原子の単層として蒸着される。約1乃至10の単層が一般的には触媒の必要な量となる。開いたチューブ頂点への遷移金属クラスターの蒸着はまた、触媒蒸着域の金属ターゲットのレーザー蒸発によって行うことができる。
【0119】
開いたチューブ端部での実際の触媒クラスター形成は、チューブ端部を、金属原子が開いた端部を探し出し集合してクラスターとなることができるような十分な種の移動を提供ために十分高い温度であるが、チューブの端部を閉じる程には高くない温度へ加熱することにより行う。典型的には、約500℃までの温度が適している。一つの好ましい実施態様であるニッケル/一酸化炭素触媒系に対しては約400℃乃至500℃の範囲の温度が好ましい。
【0120】
好ましい実施態様において、触媒金属クラスターは、次に続く成長反応の最良の場所を確保する結合過程(docking process)により開いたナノチューブ上に蒸着する。本方法に於いて、金属原子は上記のごとく供給されるが条件は還元条件、例えば、800℃、水素10ミリトルで1乃至10分を提供するように改変する。これらの条件は、金属原子クラスターが反応部位を求めて系中を移動させるものである。還元加熱中、触媒物質は最終的には開いた端部を見出しそこへ定着し、チューブを溶蝕し返し(etch back)始める。還元時間は、触媒粒子がナノチューブを見出し溶蝕し返し始めるには十分長くすべきであるが、チューブを実質的に溶蝕してしまう程には長くすべきではない。前記成長条件への切り換えにより、溶蝕し返し工程は反転する。この時点において、触媒粒子は、チューブの端部で(逆方向工程ではあったが)触媒的に活性であったので、該チューブ端部に関して最適の場所を占めている。
【0121】
触媒はまた、成長条件で活性な形に転換する触媒前駆体、例えば、酸化物、他の塩又はリガンドで安定した金属錯体の形態で供給することができる。例として、遷移金属の(第一級、第二級又は第三級)アルキルアミン類錯体を使用することができる。同様の、遷移金属酸化物のアルキルアミン錯体も使用することができる。
【0122】
代わりの実施態様において、触媒は、ダイ(Dai)に記載されているごとく前以て形成したナノ粒子(即ち、直径が数ナノメートルの粒子)として供給してもよい。
本発明の方法の次の工程に於いて、開いたチューブ端部に蒸着した触媒を有する単層ナノチューブ分子配列をチューブの成長(伸長)条件に付す。これは、触媒を蒸着した同一の装置で行っても、或いはそれと異なる装置で行ってもよい。本方法を行う装置は、最低限、炭素含有原料源及び連続糸の成長端部が成長するように維持し且つ蒸気からの炭素が該遷移金属触媒の指示のもとに個々のナノチューブ成長端部へ付加することのできるアニール温度を維持する手段を必要とする。典型的には、該装置はまた、連続的に炭素繊維を収集するための手段を有する。本方法は、例示の目的でのみ図6及び図7に示される装置に引き当てて記載する。
【0123】
単層ナノチューブ配列を成長させ連続糸にするために必要な炭素供給は、ガス状で入口11より反応器10へ行われる。該ガス流は成長配列12の前面の方へ向けられるべきである。ガス状炭素含有原料は、上記のごとく、アルキル類、アシル類、アリール類、アラルキル類等を含む任意の炭化水素又は炭化水素の混合物でありうる。約1乃至7の炭素原子を有する炭化水素が好ましい。特に好ましいのは、メタン、エタン、エチレン、アセチレン、アセトン、プロパン、プロピレン等である。最も好ましいのはエチレンである。一酸化炭素も使用することができ、いくつかの反応では好ましい。前以て調製したモリブデンを基礎とするナノ触媒(nano-catalyst)を一酸化炭素原料とともに使用すると、現場形成触媒クラスターに対して提案され反応機構とは違なる反応機構に従うと信じられている。参照ダイ(Dai)。
【0124】
原料濃度は、好ましくは反応速度を最大にするように選択され、炭化水素の濃度が高ければ高い程成長速度は速くなる。一般に、原料物質(例えば、エチレン)の分圧は0.001乃至1,000.0トルの範囲、好ましくは約1.0乃至10トルの範囲にありうる。成長速度は、以下に記載するごとく、成長配列の先端の温度の凾数であり、結果として、成長温度と原料濃度は釣合い所望の成長速度を提供する。
【0125】
反応器壁での不必要の熱分解を最小限にすることができるので、炭素原料ガスを予備加熱することは必要ではないが好ましい。成長反応のために供給される唯一の熱は繊維の成長先端12へ集中されるべきである。繊維の残部及び反応装置は室温に保つことができる。熱は任意の好ましい手段により局限して供給することができる。小さい繊維(直径1ミリメートル未満)に対しては成長端部に集束したレーザー13(例えば、514ナノメートルのアルゴンイオンレーザーのごときCWレーザー)が好ましい。より大きい繊維に対しては、熱はまた成長繊維先端に局限したマイクロ波エネルギー又は高周波エネルギーにより供給することができる。成長先端に集束させることができる他の任意の形の濃縮電磁エネルギー(例えば、太陽エネルギー)が使用できる。しかし、原料ガスにより感知されて吸収される電磁放射は避けるように注意が払われるべきである。
【0126】
単層ナノチューブ配列の先端は、成長を引き起こし且つ成長する繊維の欠陥を効率的にアニールしてその結果成長兼アニール域を該先端で形成するための十分な温度に加熱すべきである。一般に、この温度の上限は、原料の熱分解及び反応器の汚れ又は蒸着した金属触媒の蒸発を避ける必要性により支配される。大抵の原料に対しては、この温度は約1,300℃未満である。許容し得る温度範囲の下限は典型的には約500℃であり、原料及び触媒効率による。約500℃乃至約1,200℃の範囲の温度が好ましい。約700℃乃至約1,200℃の範囲の温度がより好ましい。約900℃乃至約1,100℃の範囲の温度が最も好ましい。何故なら、これらの温度で欠陥の最良のアニーリンが起こるからである。ケーブルの成長端部での温度は、好ましくは生じた白熱を測定する光高温計により監視されそしてそれに応答して制御される。可能な汚染の問題のため好ましくはないが、ある状況下ではアルゴン又はヘリウム等の不活性清掃ガスの使用が可能である。
【0127】
一般に、成長室の圧力は1ミリメートル乃至1気圧の範囲にある。全圧は炭素原料の分圧の1乃至2倍に維持すべきである。真空ポンプ15を図示されているごとく備えることができる。原料混合物は成長室へ再循環するのが望ましい。成長すると繊維は、駆動ロール17及び遊びロール18のごとき適当な輸送機構により成長室16から取り出すことができる。成長室16は真空水平送り域(vacuum feed lock zone)19と直接通じている。
【0128】
成長室の圧力は、一連の室20を使用することにより、もし必要ならば該真空水平送りにおいて大気圧までもっていくことができる。これらの室の各々は、移動する繊維を囲むゆるいテフロン(登録商標)のOリングシール21により分離されている。ポンプ22は差圧の均圧化を行う。巻き取りロール23は連続的に室温の炭素繊維ケーブルを収集する。本方法の生成物産出量は毎分10−3乃至101フィート以上の範囲にあり得る。本方法により、単層ナノチューブ分子から成る連続炭素繊維を毎日トンの割合で産出することができる。
【0129】
繊維の成長は、任意の段階で(特定の繊維長の製造を容易にするためか或いはあまりに多くの欠陥が発生したとき)停止することができる。成長を再開させるためには、端部を(化学的又は電気化学的)酸化溶蝕により清浄すること(再び開く)ことができる。触媒粒子は次に開いたチューブ端部で再び形成され成長が続けられる。
【0130】
分子配列(鋳型)は成長前又は成長後に、巨視的物理的分離手段、例えば、所望の長さに繊維をはさみで切断することにより、繊維から取り除いてもよい。繊維の任意の断片は、同種類の繊維の生産を開始するために、鋳型として使用することができる。
【0131】
本発明の連続炭素繊維はまた、一種以上の別々に調製された分子配列又は鋳型から成長させることもできる。多配列は単層ナノチューブの種類又は配列の幾何学的配置に関して同一であっても、或いは異なっていてもよい。引張特性の増進した大きなケーブル様構造体は、図8に示す多数のより小さな分離した配列から成長させることができる。前記の遮蔽及び被覆技法に加えて、例えば、図9に示すごとく、中央の金属性単層ナノチューブの心配列を、心配列の回りを環の配置で一連のより小さい円形非金属性単層ナノチューブで囲むことにより複合構造体を調製することも可能である。
【0132】
本発明により考慮される全ての構造体は、必ずしも二次元的断面が円いか或いは対称的でさえある必要はない。多分子配列種鋳型を、複合繊維のいくつかの部分で単層ナノチューブの非平行な成長を引き起こさせその結果、例えば、捻じれた螺旋状のロープを産出するように整列させることさえも可能である。鋳型配列の形成に関連して上記したごとく、繊維中の単層ナノチューブの整列を助けるために、電場の存在下で巨視的炭素繊維を接触的に成長させることも可能である。
単層ナノチューブからの炭素繊維の不規則成長
上記した単層ナノチューブの規則的な束の連続的成長は多くの用途に望ましいが、個々のチューブ、ロープ及び又はケーブルを含む単層ナノチューブの不規則に配向した素材を含有する有用な組成物を製造することも可能である。不規則成長方法は多量の、即ちトン/日の単層ナノチューブ材料を製造する能力を有する。
【0133】
一般に不規則成長方法は、前記したごとき適当な遷移原子触媒とともに供給される複数の単層ナノチューブ種分子を用意すること及び該単層ナノチューブ種分子を数次数の大きさ、例えば、その初めの長さの102乃至1010倍以上に延長させる条件下に付すことを含有する。
【0134】
該種単層ナノチューブは、例えば、連続繊維又は精製した「バッキーペーパー」を切断することにより、好ましくは比較的短い長さで前記のごとく製造する。好ましい実施態様において、種分子は本不規則成長方法により(例えば、切断により)製造した単層ナノチューブフェルトから最初の一走行後に得ることができる。長さは均一である必要はなく一般的には約5ナノメートル長乃至10ミクロンメートル長の範囲にある。
【0135】
これらの単層ナノチューブ分子は、成長反応に参加しない巨視的スケール(macroscale)又はナノスケールの支持体上に形成される。別の実施態様において、複数又は単数の単層ナノチューブ構造体は支持体物質兼種として用いることができる。例えば、以下に記載する自己集合技法は三次元単層ナノチューブナノ構造体(nanostructure)を形成するために使用することができる。これらの技法により製造されるナノスケールの粉体は、支持体物質が不規則成長方法に参加できる利点を有する。
【0136】
支持または未支持の単層ナノチューブ種物質は、単層ナノチューブ分子の端部を開きそして金属原子クラスターを蒸着させることにより前記したごとき適当な成長触媒と一つにすることができる。代わりに、成長触媒は、可溶性の、或いは懸濁した触媒前駆体を含む適当な液体中の種の懸濁液を蒸発させることにより開いた種分子の一方又は両方の端部に供給することができる。例えば、該液体が水である場合、硝酸第二鉄、硝酸ニッケル、硝酸コバルト等の可溶性金属塩が触媒前駆体として用いられる。触媒物質が単層ナノチューブ種分子の開いた端部上に正しく位置するのを確実にするために、該単層ナノチューブ端部を、触媒ナノ粒子、或いはより好ましくはリガンドで安定化した触媒ナノ粒子を結合する部分で以って誘導体化することがいくつかの状況下では必要となる。
【0137】
不規則成長方法の第一の工程に於いて、付着した触媒を含むか、或いは溶解した触媒前駆体と会合した種粒子の懸濁液を、混合物が清掃ガス流と接触する蒸発域中へ注入し、250℃乃至500℃の範囲の温度へ加熱して該液をフラッシュ蒸発させて連行反応性ナノ粒(即ち、種/触媒)を提供する。任意的に、この連行粒流を還元工程に付し、更に触媒を(例えば、水素中300℃乃至500℃で加熱して)活性化する。次に、前記連続成長法で用いた種類の炭素質原料ガスを清掃ガス/活性ナノ粒流中に導入し、そして清掃ガスにより該混合物を成長域へ運び更に成長域を通過させる。
【0138】
該成長域の反応条件は前記したものであり、即ち、500℃乃至1,000℃で約1気圧の全圧である。原料ガス(例えば、エチレン又は一酸化炭素)の分圧は約1乃至100トルの範囲にある。反応は好ましくは管状反応器で実施し、その中を清掃ガス(例えば、アルゴン)が流れる。
【0139】
成長域は、(1)原料ガスを予備加熱し、(2)清掃ガスを予備加熱し、(3)成長域を外部より加熱し、(4)例えば、レーザー又は誘導コイル或いはそれらの組合わせにより成長域で局限加熱を与えることにより、適切な成長温度に保つことができる。
【0140】
本方法で製造した生成物の下流での回収は濾過、遠心分離機による分離等の公知の手段で行うことができる。精製も前記のごとくして達成することができる。本不規則方法により作製したフェルトは複合体類、例えば、重合体、エポキシ、金属、炭素(即ち、炭素/炭素物質)及び磁束ピン止め用の高いTζ超伝導体を製造するために使用することができる。
巨視的炭素繊維
ここに記載したごとくに製造した巨視的炭素繊維は、好ましくは一般的には平行配向した多くの単層ナノチューブの凝集体から成っている。個々のナノチューブは、特に非常に近い距離においては他の個々のナノチューブに対して平行配向から逸脱しているかもしれないが、巨視的距離に亙り、すべてのナノチューブの平均配向は、一般的には集合体中の全ての他のナノチューブ配向に対して平行である(ここに記載した巨視的距離は一般的には1ミクロンを越えるものと考えられる)。好ましい一形態において、単層ナノチューブ類は正三角格子状に、即ち最密充填関係で配列している。
【0141】
本発明の炭素繊維は個々の円筒状の分子より成っており、構造においては全体又は部分が結晶性であるか、或いは非晶質である。繊維の秩序度は分子配列におけるチューブの幾何学的関係と成長及びアニール条件の両方に依存している。繊維は収集前又は収集後に配向又は他の二次処理に付すことができる。この方法により製造した繊維は、例えば、更に紡糸又は編組してより大きな糸又はケーブルにすることができる。製造したままの繊維は多くの用途に対して十分な大きさの直径であるとも考えられる。
【0142】
一般的には、本発明により製造した巨視的炭素繊維は十分な数の実質的に平行な単層のナノチューブから成り、個々の繊維として実際に取り扱われるには、そして或いはより大きい連続生成物へ加工するには直径は十分大きい。ナノチューブの集団の巨視的性質はこれらのナノチューブでの電流の伝送等の最終用途に対しても重要である。本発明による巨視的炭素繊維は、好ましくは少なくとも106の単層カーボンナノチューブ、より好ましくは少なくとも109の単層カーボンナノチューブを含んでいる。集合したナノチューブの数は、炭素アーク又はレーザー蒸発装置において縮合する炭素蒸気中で単層ナノチューブを形成する間に自然整列する数(103未満)より遥かに大きい。多くの用途に対して、本発明の巨視的炭素繊維の好ましい直径は約1乃至約10ミクロンの範囲にある。いくつかの用途、例えば、電力伝送ケーブルには数センチメートルまでの繊維直径が要求される。ドーパント、例えば、繊維のチューブ間に物理的に閉じ込められる例えば、金属類、ハロゲン類、塩化第二鉄等を含有することも可能である。
【0143】
本発明の巨視的炭素繊維は一般的には少なくとも長さが1ミリメートルであり、正確な長さは繊維が使用される特定の用途に依存する。例えば、本繊維でもって強化用の従来のグラファイト炭素繊維を代えるよう設計する場合、本発明による繊維長は従来の炭素繊維長に類似している。本発明による巨視的炭素繊維を電導度用に使用する場合、繊維長は好ましくは電導度が要求される距離に対応する。典型的には、かかる距離は1乃至100ミクロン以上或いは1乃至10ミリメートル以上である。巨視的距離に亙る電導度が必要な場合、本発明による巨視的炭素繊維はメートル以上の位数の長さを有することが好ましい。
【0144】
本発明の連続炭素繊維がかかる改良された物理的性質を有する一つの理由は、高い次数の積層体の、即ち109以上の多くの個々の円筒状分子がともに積層されているその構造である。本構造は、遥かに高い屈曲強度、高い耐薬品腐蝕破損性、より良好な耐摩耗性、より高い弾性及び同類の一体式素材と完全に異なる引張り破損機構を提供する。本発明の単層炭素ナノチューブ繊維は、低重量で極度に高い引張り強度(重量は6分の1にすぎないが鋼より100倍迄も強力)を提供する。本繊維は銅と類似の導電率を有する。更に繊維の熱伝導率は近似的にダイヤモンドの熱伝導率である。本発明の炭素繊維はまた、(C60乃至C70のごとき球状フラーレン類よりもよい)高い耐薬品性を有する。一般的に、本発明の欠陥を有しない連続炭素繊維は、巨視的距離に亙って伸びるほぼ完全な多六角形構造のために、従来の炭素繊維を超える改良された物性を示す。
【0145】
特別の実施態様において、本発明による巨視的炭素繊維は、アームチェア型配向の単層ナノチューブを実質的に含有する領域を有し且つ該領域が少なくとも1ミクロン、好ましくは少なくとも100ミクロンの直径を有する自己集合単層を含有する分子配列から成長したものである。単層が集合する表面に遮蔽膜を使用することにより、アームチェア構造の単層ナノチューブを含む領域は、カイラル型又はジグザグ型構造を有するチューブの同軸領域により全側面が完全に囲まれる。この鋳型からの延長は、半導性又は絶縁性のさやで囲まれた導電性の心を産出し、各層は本質的に不定長の単分子から成り立っている。同様の方法で、数層を有する共軸伝送ケーブルを製造することができる。
【0146】
これらの炭素繊維の応用は、現在グラファイト繊維類及び高強度繊維類が使われている応用を含み、例えば、電池及び燃料電池用膜類;化学的フィルター類;触媒支持体類;水素蓄蔵(吸収材料としてまた高圧容器製造に使用される);リチウムイオン電池類;及びコンデンサー膜類があげられる。これらの繊維は(ナノチューブの曲げ又は捻れのいずれかに感応する)ナノひずみ(nanostrain)ゲージのごとき電気化学デバイスにも使用することができる。本発明の繊維はそのまま製品として、或いは公知の繊維技法を使用して加工糸(threads)に紡糸して又は糸(yarns)に成形して使用することができる。
【0147】
本発明の炭素繊維技術はまた、ヘキサボロン窒化物格子を用いて新しい複合体類の部類の製造を容易とする。この物質は硼素及び窒素原子から成る(例えば、B3N2又はC2BN3)六角形を有するグラフェン様シートを形成する。窒化硼素先駆体(例えば、トリクロロボラジン、アンモニアと三塩化硼素との混合物又はジボラン)を窒化硼素シートの蒸着用マンドレルとして働く該繊維へ供給することにより、成長炭素繊維への外被覆を提供することも可能である。この外側の窒化硼素層は本発明の金属性炭素繊維に対して高められた絶縁特性を提供する。熱分解炭素ポリマー又はポリマーブレンドの外層付与に用いてもよい。本発明の上記方法に於いて原料を炭化水素から窒化硼素へまた再びそれから炭化水素へと変換することにより、全ての炭素格子の領域と窒化硼素格子の領域が交互する個々のナノチューブで成る繊維を成長させることが可能である。本発明の別の実施態様において、全窒化硼素繊維の成長は、適当な触媒を頂点に付けた単層ナノチューブ鋳型配列と供給された窒化硼素とで以って開始することができる。これらのグラフェン及び窒化硼素系は、大きさがその二つの六形の単位の構造と非常に緊密に合致するために混合することができる。更に熱膨張係数と引張り特性が緊密に合致するためそれらは高められた物性を示す。窒化硼素繊維は強化増強剤として複合体及び炭素繊維の上記した他の多くの用途に使用することができる。
本発明の生産物により可能となったデバイス技術
本発明の円筒状炭素分子、分子配列及び巨視的炭素繊維のユニークな物性は刺激的なデバイスの製作機会を提供するものである。
1.電力伝送ケーブル
電力伝送線の設計は一般的にはアルミ導体を使用し、それはしばしば補強のための鋼ストランド心を有するものである(即ち、いわゆる「ASCR導体」)。この導体は銅導体より大きな損失を有し、一般的には遮蔽されておらずコロナ放電問題につながっている。単層ナノチューブ類の大きな(106を超える)凝集体から形成された連続炭素繊維は、ユニークな設計と特性の電力伝送ケーブルを製作するために使用することができる。かかる一つの設計を図10に示す。この設計は、特別高ボルト[extra high voltage (EHV)](即ち、500キロワットを超える、好ましくは106ボルトを超える)電力伝送が可能で、これまでに得られなかった重量に対する強度(strength-to-weight)特性を有し且つコロナ放電問題が殆どないか或いは皆無であり、本質的には遮蔽された同軸ケーブルである。
【0148】
図示した設計は、上記のごとく[例えば、(n, n)型金属性単層ナノチューブ類から]製作した単層ナノチューブを基礎とする炭素繊維導体の使用を例示するものであり、中心導体30と絶縁層32により分離された同軸外方導体31から成るものである。中心導体は電力伝送を行い、その外方層導体は大地にバイヤスが掛けられている。中心導体は固体金属性炭素でありうる。代わりに、中心導体は、ACSR導体において普通な螺旋状に凝集してもよい金属性炭素繊維ストランドを含有することができる。
【0149】
該内部導体はまた、上記のごとき金属性炭素繊維で織られた又は編組され、露出した心空間を囲む環状チューブを含有することができる。該絶縁層は任意の軽量絶縁物質であり得る。好ましい実施態様のうちで、窒化硼素のストランド束又は織布層は上記のごとくして製作され、(絶縁性間座を用いて形成した)環状の空気空間が使用される。
【0150】
該外方導体層はまた、好ましくは上記したごとく金属性炭素繊維の螺旋状に巻いたストランドで製作されている。このアース接続した層は本質的にコロナ放電問題、或いはその放出を減少さすための従来の措置を講じる必要性を除去するものである。
【0151】
得られた同軸構造体は、極度に高い重量に対する強度特性を所有し、従来の電力水準に比較して、より少ない損失でより大きな距離をより高い電力水準を伝送するために使用することができる。
【0152】
上記電力ケーブル組立体の一つは、従来の電力伝送システムにおける分離した位相に対して使用された各導体を置き換えるために使用することができる。金属性炭素繊維導体と絶縁層を交互に有する多層環状ケーブルを製作することにより、三位相以上を搬送する単一電力伝送ケーブル提供し、電力線の設置及び維持を大きく簡素化することも可能である。
2.太陽電池
米国合衆国特許第5,084,365号に記載されている(参照例としてそのままここに包含される)種類のグレーチェル(Gratzel)電池は、上記したごとき短い炭素ナノチューブ分子の単層分子配列でもって取り換えられたナノ結晶性(nanocrystalline)二酸化チタンを用いて製作することができる。チューブに突き当たる光エネルギーはチューブ長に沿って進行する振動電子流へ転換されるため、光活性染料を用いる必要はない。大きな電荷分離を与える能力(配列チューブの長さ)は高度に効率的な電池を創出する。電池の効率を更に高めるために、配列中の各ナノチューブの端部に付着させた光活性染料(例えば、シス−[ビスチアシアナート ビス(4,4'−ジカルボキシ−2,2'−ビピリジン Ru(II) )]を使用することもまた本発明により意図されている。本発明の別の実施態様において、グレーチェルにより記載されている該ニ酸化チタンナノ構造体は、単層ナノチューブの配列を集める下に横たわる支持体として役立つことができる。この実施態様において、単層ナノチューブ類は直接該ニ酸化チタンに(吸収力により)付着しているか、或いは先ず誘導体化して結合部分を与え、次に該ニ酸化チタン表面に結合する。上記のごとく光活性染料を用い、或いは用いずして使用することができる。
3.メモリ・デバイス
以上に説明したチューブ状炭素分子の内部に装填物を封入した構造は、ナノスケールの双安定不揮発性メモリ・デバイスのビット構造を形成するために利用することができる。この種のビット構造の1つの実施形態は、チューブ状炭素分子の中に適当な分子を1個封入してそのチューブ状炭素分子の端部を閉じ、チューブ状炭素分子の外部から制御影響力を及ぼすことによって、封入した1個の分子をチューブ状炭素分子の内部で前後移動させることができるようにしたものである。また、もう1つの実施の形態は、比較的長さの短いチューブ状炭素分子の中に磁性ナノ粒子(例えばNi/Co)を複数個封入するというものであり、これによって、磁性メモリ・デバイスに用いるナノビットを形成することができる。
【0153】
図11に、この種のビット構造の1つの好適な実施形態を示した。このビット構造において、チューブ状炭素分子40の物理的寸法は、その中に封入する内部移動体41が滑らかに移動できるような大きさであり、即ち、細すぎて内部移動体41の移動を妨げることがないような大きさにしてある。内部移動体の選択基準は、(1)ビットに対する読み書きを行うために用いる読み書きシステムにとって好都合なものであること、それに(2)チューブ状炭素分子の電子構造に適合したものであること、以上2つがある。
【0154】
かかるナノビット構造の1つの好適な構成例は、先に説明したプロセスに従って (10,10) SWNTから形成した短尺の(例えば、長さ約10 〜 50 nmの)チューブ状炭素分子の中にC60またはC70球状フラーレン分子を入れ、そのチューブ状炭素分子の端部を閉じて球状フラーレン分子を封入したものである。また、この場合に、封入しようとするC60またはC70分子(バッキー・ボール)の内面または外面に適当なドーピングを施しておくのもよい。(10,10) ナノチューブの中にC60バッキー・ボールを入れた場合には、両者の大きさが、略々完全に適合する。この組合せについては、もう1つ重要なことがあり、それは、そのナノチューブの内側の電子環境が、そのバッキー・ボールの電子環境と高度に適合するということである。特に、そのナノチューブの閉じた端部の内側の電子環境が、そのバッキー・ボールの電子環境とよく適合し、これは、(10,10) ナノチューブのエンド・キャップ部分の内面の曲率が、C60バッキー・ボールの外面の曲率に対応してからである。この構成によれば、ファン・デル・ワールス力による両者間の相互作用が最適なものとなる。図12に示すように、ナノチューブのエンド・キャップ部分にはまり込んでいるバッキー・ボールを、そこから中間の筒状部分へ取出すために必要なエネルギの大きさ(バッキー・ボールがエンド・キャップにはまり込んでいる状態は、電子的に最も安定した状態である)が閾値となることで、このビット構造は双安定ビット構造になる。
【0155】
上述のメモリ・ビットに対する読み書きを行うのに適した、好適な読み書き構造の一例を図11に示した。メモリ・ビットへ書込みを行うには、そのメモリ・ビットへ、ナノ回路素子42(このナノ回路素子42はSWNT分子で形成することが好ましい)を介して、然るべき極性の電圧パルスを印加する。正の電圧パルスを印加するとバッキー・ボールに対して引力が働き、負の電圧パルスを印加するとバッキー・ボールに対して斥力が働く。メモリ・ビットが双安定性を備えているため、その電圧パルスを消滅させた後も、バッキー・ボールは、ナノチューブの両端のうちの、そのとき位置していた側の端部に留まる。これは、ナノチューブの両端部分が、エネルギが最低の位置だからである。メモリ・ビットからの読出しを行うには、別のナノ回路素子43(このナノ回路素子43もSWNT分子で形成することが好ましい)に、バイアス電圧VREADを印加する。もし、そのときバッキー・ボールが、ナノチューブの両端のうちの検出側端部に位置していたならば、このバイアス電圧の印加によって付与されるエネルギ・レベルのために、電流が共鳴トンネル効果により接合部を通過して接地電位44へ流れる(この電流の流れは、共鳴トンネル・ダイオードにおける電流の流れと同様にして発生する)。これによって、そのメモリ・ビットが第1安定状態にあるということが読取られる。一方、そのときバッキー・ボールが、検出側端部に位置していなかったならば、バイアス電圧の印加によって付与されるエネルギ・レベルは共鳴点からずれているため、電流がトンネル効果によって接合部を通過して流れることはなく、それによって、そのメモリ・ビットが、第2安定状態にあるということが読取られる。尚、当業者には容易に理解されるように、以上に説明したもの以外の、その他の形態の読み書き構造(例えばマイクロアクチュエータ)を用いることも可能である。
【0156】
図12に示したビット素子を、2次元アレイまたは3次元アレイを成すように配列することによって、メモリ・デバイスを構成することができる。このようなメモリ・アレイは、各ビット素子が非常に小さい(例えば、約5 nm×25 nmとすることができる)ため、そのビット密度を非常な高密度にすることができ、例えば1.0テラビット/cm2以上にすることができる(これは、ビット間隔を、例えば7.5 nmにした場合である)。メモリ・デバイスの動作に際してバッキー・ボールが移動せねばならない距離は僅か数nmである上に、バッキー・ボールの質量は極めて小さいため、上述のメモリ・デバイスの書込み時間は、約10-10秒程度になる。
4.リチウム・イオン電池
本発明は更に、リチウム・イオン二次電池にも関係しており、このリチウム・イオン二次電子は、多数のSWNT分子を上述した方法で(例えばSAM技法を用いて)配列してSWNTアレイとしたものを、負極(アノード)材料として使用するものである。この負極材料は、例えば、多数の(例えば103個以上の)比較的短尺のナノチューブ分子を、基板上に埴設した構成とすることができる。また別法として、先に説明した微細カーボン・ファイバの端部を、負極の微細多孔性表面として利用する構成とすることもできる。
【0157】
このナノチューブ分子アレイは、端部の開いた開放形チューブ状炭素分子で構成した分子アレイとすることもでき、また、端部の閉じた閉塞形チューブ状炭素分子で構成した分子アレイとすることもできる。いずれの場合も、個々のチューブ状炭素分子によって、リチウム・イオンをインターカレートする(層間化合物の形で取り込む)ための構造的に安定した微細孔が提供される。即ち、開放形チューブ状炭素分子を使用した分子アレイでは、リチウム・イオンはそのチューブ状炭素分子の中へ入り込んでインターカレートされ、また、閉塞形チューブ状炭素分子を使用した分子アレイでは、リチウム・イオンはそのチューブ状炭素分子のエンド・キャップに形成されている三角形の細孔へ入り込んでインターカレートされる。このインターカレーションによって形成されるフラーレン層間化合物(fullerene intercalation compound: FIC)を、例えば、リチウム・イオンを含有する非プロトン性の有機溶媒電解液、及びLiCoO2製の正極(カソード)と組合せることで、優れたリチウム・イオン二次電池を構成し得る。尚、このリチウム・イオン二次電池は、1996年度、IEEE、VLSI回路シンポジウムにおいて「The Development of Lithium Ion Secondary Batteries」という演題でなされた西氏の講演で説明されたタイプの二次電池であり、これを図13に示した。同図において、負極50は、多数のSWNT51を整列させた分子アレイで構成されている。この二次電池のその他の構成要素は、正極52、電解液53、リチウム・イオン54、及び電子55である。
【0158】
本発明にかかる分子アレイのFICから成るリチウム収容媒体は、充電容量が大きく(例えば600 mA h/g以上)、充電中の安定性に優れ、しかも優れたサイクル特性を有するものである。そのため、このリチウム収容媒体を使用することによって、高い安全性を有する優れた蓄電池を構成することができる。
【0159】
上述の負極は、最大電流が大きく、充電容量が大きく、抵抗が小さく、優れた可逆性を有するものであり、ナノエンジニアリングによって、分子構造上の完全性を備えた炭素分子で形成される電極である。この負極は、金属材料的特性を有するフラーレン・ナノチューブ分子を、ネイル・ベッド形のアレイを成すように整列させて形成したメンブレン(膜体)を備えており、隣り合うナノチューブどうしの間の空間や、各ナノチューブの内部空間である細孔の奥に、リチウム・イオンが収容されるようにしたものである。また、端部が開いたナノチューブを使用する場合には、その開いた端部に対して施す化学的修飾処理を最適化することで、負極と電解液との間の界面の特性を良好なものにすることができる。この修飾処理によって付加する修飾体は、酸化還元反応が発生する界面を、安定した界面として提供することのできる有機体とすることが好ましい。また一般的に、修飾体として使用する有機体は、その構造が、使用している電界液に類似したものであることが好ましい。この修飾処理に使用するエージェントの好適例はポリ酸化エチレンであり、また特に、ポリ酸化エチレンのオリゴマーとすることが好ましい。
【0160】
電極としての用途には、ナノエンジニアリングを用いて形成したナノチューブ・メンブレンの電気化学反応が利用される。これに関して重要な点は、ナノチューブ分子の端部や側面部分に対して修飾処理を施すことによって、リチウム・イオン二次電池に使用する電解液に適合する最適の界面が形成されるようにしていることである。これによって電池の電極にリチウム・イオンが取り付き易くなるため、エネルギ密度を増大させることができる。更に、同様に重要な点として、これによって、これまで常に悩まされていた、いわゆるSEI(固体−電解液中間相)問題を克服できるということがある。このSEI問題が発生すると、電極の容量が著しく低下し、また電極の可逆性が著しく悪化する。
【0161】
Li+ は、蓄電池に用いるイオンとして、優れた特性を有するものである。軽量のカウンター・イオンとしてLi+ を凌ぐ特性を有するイオンは、プロトン以外にはなく、またLi+ には、使用する電解質を、非常に多くの種類の固体及び液体の電解質のうちから選択できるという利点、並びに、正極材料を、これも非常に多くの種類の材料のうちから選択できるという利点がある。正極材料として使用可能な材料のうちの主なものは、インターカレーション・サイトが3次元の網状構造を成している様々な金属酸化物であり、このインターカレーション・サイトとは、電池が放電した状態にあるときにLi+が入り込んでいる場所のことをいう。初期の再充電可能なリチウム電池では、負極材料として金属リチウムを使用していたが、そのような電池には、以下に列挙する短所が付随していた。
【0162】
−再充電の際にデンドライトが成長するため、電極を構成しているリチウムが次第に失われて行く。
−有機溶剤を使用しているため、リチウムの激しい反応性が安全上の問題となる。
【0163】
−上述したようにリチウムのデンドライトが成長するため、セパレータが突き破られて正極と負極とが短絡することがある。
これら問題のうち、安全上の問題に対する解決法の1つとして見出された方法が、負極材料を、金属リチウムから、リチウム−炭素層間化合物に代えるというものであり、これによって、いわゆる「ロッキングチェア」電池が開発された。ロッキングチェア電池では、Li+ が還元されてLi0 になるということがなく、電池が充電と放電とを反復する際に、炭素材料を用いて形成した負極のインターカレーション・サイトと、金属材料を用いて形成した正極との間を、単にLi+ が往復するだけである。第1世代のリチウム・イオン二次電池では、その炭素材料として黒鉛が使用されていたが、黒鉛が選択された主な理由は、当時既に、リチウムと黒鉛との間の固相化学反応について十分に解明されていたからである。また、好都合なことに、黒鉛中のLi+ のポテンシャルは、Li0 のポテンシャルのMVの数十倍以内であるため、金属リチウムの代わりに黒煙を用いても、それによる重量及び体積の増大は僅かでしかなく、電池電圧も大して低下しないということも理由となっていた。
【0164】
しかしながら、黒煙を使用するようにしたという、まさにそのことによって、以下に示す新たな技術上の問題が発生した。
−常温下でのLi+ を移動させる輸送特性に優れた電解液(例えば、プロピレンカーボネートにLiClO4を溶解した溶液)は、Li+ に対して溶媒和を生じることから、Li+と共に黒鉛層間化合物を形成する。そのため、黒鉛の剥離状裂壊を発生させ、寸法安定性を損ない、早期故障を誘発する。
【0165】
−常温下での黒鉛中のLi+ の拡散性は比較的低い。これは、黒鉛格子の中である1つの六角構造に囲まれた位置からそれに隣接する六角構造に囲まれた位置へジャンプして拡散する際の障壁が(類似した構造の格子と比べて)比較的大きいために、拡散が抑制されているからである。
【0166】
これら2つの問題のうち第1の問題は、Li+ と共に黒鉛層間化合物を形成することのない新たな電解液(例えば、ジメチルカーボネートとエチレンカーボネートとを混合した混合液にLiPF6を溶解した電解液)を開発することで克服されたが、しかしながらこのような電解液は、イオンを移動させる輸送能力が劣っているということがあった。また、第2の問題を克服するためには、微細に分割された形態の(即ち、粉末、破砕片、繊維状、多孔質等の)黒鉛を使用する必要があるが、そのようにすると表面積が著しく増大するため、それによって、新たな一連の問題が発生してしまう。それら問題のうちには、例えば、最初の充電半サイクルで負極に黒鉛層間化合物を形成する際に、表面薄層(いわゆる「固体−電解液中間相: SEI」)が形成されてしまうために、容量低下が生じるという問題がある。この問題を克服するためには、電池を製造する際に、正極のリチウム含有材料の使用量を、理論量よりも、SEIの形成によって消費されるリチウム量だけ多くしておかねばならないが、そのようにしてもやはり容量が低下する。このSEIについては余り多くのことは分かっていないが、ただし(電解液の分解によって生じる)炭酸塩が、SEIの重要な成分となっていることだけは一般に認められている。また、SEIに関して産業界で広く採用されている基準は、SEIの形成による容量低下が、全てのリチウムが利用されたときの容量の10 %を超えないようにするというものである。
【0167】
更にその後の研究によって、その他の様々な形態の炭素(ナノ結晶炭素)が利用できることが発見された。それらのうちには、カーボン・ブラック、石炭の焼成物、石油ピッチの焼成物、ポリマーの焼成物、天然原料(砂糖、堅果の果皮、等々)の焼成物、炭素とその他の元素(ホウ素、ケイ素、酸素、水素)との「合金」等がある。更には、酸化スズ等の全く新しい系も、利用可能であることが分かった。これら材料のうちの幾つかは、そのリチウム収容能力が黒鉛よりも大きいが、その「収容能力の増大分」の微視的発生原因については殆ど何も解明されていない。概して、これら材料は、そのサイクル特性が黒鉛よりもはるかに劣っており、また、これら材料のうち、水素を含有している材料はいずれも、電池電圧とリチウム濃度との関係が、充電半サイクルと放電半サイクルとで大きく異なっており、即ち顕著なヒステリシス特性を示している。これは、電池の特性としては、極めて不都合な特性である。そして、このヒステリシス特性の発生原因についても、殆ど何も解明されていない。これら材料の主たる利点は、これら材料が本来的に細粒ないし細片の形状であるため、これら材料の内部におけるリチウム・イオンの移動が速やかに行われるということにある。これは、リチウム・イオン二次電池が大電流の用途(例えば、電気自動車等)に使用されていて、電池性能がその用途における重要な要因である場合に、絶対的に必要とされる条件である。
【0168】
本発明にかかる負極は、最初から最後までナノエンジニアリングを用いて、分子レベルの精度をもって製造されるものである。この負極は、金属リチウムの電気化学的ポテンシャルと同程度の電気化学的ポテンシャルをもって、リチウムを収容するものであり、体積あたりのリチウム収容容量が大きく、デンドライトが成長するという問題を生じることがなく、金属リチウムだけで形成した負極に付随している安全上の問題も生じることがない。この負極においては、充放電の際のリチウム・イオンの移動が高速で行われ、しかも、充電状態ないし放電状態がいかなるレベルにあるときでも、構造的及び化学的な完全性が維持される。更に加えて、この負極と電解液との間の界面が、所望の状態となるように設計することができるため、Li0 ⇔ Li+で表される酸化還元の化学反応を、高度の可逆性をもって行わせることができ、また、非常に小さな実効抵抗をもって行わせることができる。
【0169】
このような負極の具体的な設計例を上げるならば、例えば、金メッキ銅板等の金属製支持電極に、多数のフラーレン・ナノチューブを、ネイル・ベッドのような六方格子のアレイを形成するように整列させて付着させたものである。図14から明らかなように、この構造によれば、還元状態のリチウムであるLi0 が、ナノチューブどうしの間に画成されている空間の奥や、ナノチューブそれ自体の内部の中空の空間の奥に収容され、このことがこの構造の利点となっている。即ち、リチウムの酸化還元の化学反応が行われる領域が、主として、電極の表面に露出しているナノチューブの先端部分だけに限局され、しかも、このナノチューブの先端部分に修飾処理が施されているため、その酸化還元反応を、高度の可逆性を有するものとすることができる。
5.3次元の自己整列SWNT構造
本発明にかかる自己整列構造(SAM)のうちに、その構造の構成要素とするSWNT分子に修飾処理を施した上で、多数のそのようなSWNT分子を一緒にしておくことにより、自然発生的にその構造が構成されるようにした、3次元の自己整列構造がある。その1つの可能な実施の形態は、先に説明したSAM、即ち2次元単層構造を、その3次元の自己整列構造を形成するための出発材料、即ちテンプレートとして使用するというものである。この自己整列構造の構成要素とするSWNT分子のエンド・キャップに単機能の修飾体を付加すると、それら分子が同一方向に延在して、それら分子の端部どうしが突き合わされたように整列して3次元構造を構成する傾向が生じる。これに対して、SWNT分子に多機能の修飾体を付加した場合や、各SWNT分子上の離れた複数の位置に夫々に修飾体を付加した場合には、対称性を持った構造が構成されることもあれば、対称性を持たない真の意味で3次元的な構造が構成されることもある。
【0170】
先に説明した方法で製造した試料中のカーボン・ナノチューブに対して修飾処理を施す際に、各ナノチューブに、複数の特定機能エージェント(functionally-specific agents: FSA)を結合させるようにしてもよく、その結合の形態は、イオン結合と共有結合とのどちらとすることも可能である。また、それら複数のFSAの結合位置については、各ナノチューブ上の任意の1箇所にそれらをまとめて結合させる場合と、各ナノチューブ上の任意の一連の箇所にそれらを個別に結合させる場合とがあり得る。FSAを付加することで、ナノチューブ群の自己整列によって、幾何学的な構造が構成されるようにすることができる。複数通りの長さのナノチューブを組合せて1つの構造を構成させることも可能であり、また、互いに異なった種類のFSAを付加したナノチューブを組合せて1つの構造を構成させることも可能である。更に、FSAの働きにによって自己整列させるばかりでなく、ファン・デル・ワールス力によって自己整列させることも可能であり、ファン・デル・ワールス力は、修飾処理を施したフラーレン分子どうしの間、修飾処理を施していないフラーレン分子どうしの間、それに、修飾処理を施したフラーレン分子と修飾処理を施していないフラーレン分子との間の、いずれにも作用して自己整列させることができる。また、FSAの選択結合性を利用することによって、特定のサイズないし特定の種類のナノチューブ(対象ナノチューブ)だけを整列させ、対象外ナノチューブは、たとえ存在していても整列構造から排除するということも可能である。従って、1つの実施の形態として、特定の長さのナノチューブを整列させるようなFSAを選択するという方法がある。また、このような選択性を有する複数のFSAを組合せることによって、2通り以上の異なったサイズないし種類のカーボン・ナノチューブを、一定の方向に延在するように整列させることも可能である。
【0171】
FSAは、修飾処理を施していないカーボン・ナノチューブと、修飾処理を施したカーボン・ナノチューブとの、いずれにも作用を及ぼし得るものであり、このFSAの作用を利用して、整列して1つの構造を構成しようとするカーボン・ナノチューブの延在方向及びサイズを制御することによって、カーボン・ナノチューブ群から特定の3次元構造を構築することができる。このようにFSAの作用を利用した、自己整列ナノチューブ構造の3次元的な幾何学的構造の制御によって、機械的特性、電気的特性、化学的特性、ないし光学的特性に優れた、これまでにない独自の3次元ナノチューブ材料を合成し得る可能性が得られる。そのような3次元ナノチューブ材料の特性は、どのようなFSAを使用するかによって、また、複数のFSAを使用する場合には、それらFSAの間にどのような相互作用が生じるかによって、様々なものとなり得る。
【0172】
更に、自己整列フラーレン構造が完成した後に、その構造の一部を化学的ないし物理的に改変したり、或いは、その構造に対して、物理的処理、化学的処理、電気的処理、光学的処理、及び/または生物学的処理を施すことによって、その自己整列フラーレン構造の特性を変化させることができる。そのための方法としては、例えば、その自己整列フラーレン構造に、別の分子をイオン結合または共有結合によって結合させるという方法や、その構造が完成したために不要となったFSAをその構造からという方法、それに、生物学的処理や光学的処理によってその構造の配列の一部を改変するという方法がある。このような構造改変、及び/または、修飾処理によって、その自己整列フラーレン構造の、電気的機能、物理的機能、電磁気的機能、ないし化学的機能を変化させ、或いは、その自己整列フラーレン構造にそれら機能を付与することができ、また更に、その自己整列フラーレン構造とその他のデバイスとの間の相互作用を、変化させ、或いは新たに付与することができる。
【0173】
この幾何学的な自己整列構造は、様々な優れた電気的特性を提供し得るものであり、その具体例を挙げるならば、例えば、電気回路としての動作特性、特定の導電テンソル特性、電磁放射に対する特定の応答特性、ダイオード接合部特性、電流制御用の3端子デバイスとしての特性、メモリ素子を構成するキャパシタとしての特性、通常のキャパシタとしての特性、インダクタとしての特性、導通素子としての特性、それにスイッチとしての特性等がある。
【0174】
この幾何学的な自己整列構造は、更に、様々な電磁気的特性を提供し得るものであり、それら電磁気的特性には、例えば、電磁気エネルギを電流に変換する変換素子としての特性、アンテナとしての特性、アンテナ・アレイとしての特性、電磁波のコヒーレントな干渉を発生させて様々な波長の電磁波に分解するアレイとしての特性、電磁波の伝播状態を選択的に変化させるアレイとしての特性、ないしは、光ファイバとの間で相互作用を生じる素子としての特性などがある。これら電磁気的特性は、使用するFSAによって異なったものとなり、また、複数のFSAを使用する場合には、それらFSAの間の相互作用によって様々な特性となる。例えば、分子アレイを構成している個々の分子の長さ、位置、及び配向方向を、FSAを利用して適当に定めることによって、それら分子の近傍の電磁場によってそれら分子の内部に夫々に誘起される誘導電流どうしの位相関係が、所定の位相関係になるようにすることができる。またこの場合、それら分子の内部に夫々に誘起される電誘導流は、その電磁場の位相角及び周波数の空間分布に応じた挙動を示すものとなる。また、それら分子の内部に夫々に誘起される誘導電流どうしの位相関係は、その分子アレイの構造にも影響される。更に加えて、FSAを利用して、個々のナノチューブまたはナノチューブ群と、外部に存在するものとの間の、様々な相互作用を強化することも可能であり、ここでいう相互作用は、例えば、応力、歪み、電気信号、電流、ないしは電磁気相互作用を何らかの形で伝達させる作用である。このような相互作用によって、この自己整列ナノ構造と、その他の既知の有用なデバイスとの間の「インターフェース」が提供される。
【0175】
更に、FSAを適当に選択することによって、優れた化学的特性ないし電気化学的特性を有する幾何学的構造を、自己整列によって構成させることができ、そのような化学的特性ないし電気化学的特性には、例えば、化学反応ないし電気化学反応における触媒として作用する場合の特性、特定の化学物質の吸収特性、特定の化学物からのアタックに対する耐性、エネルギ収容特性、それに耐腐蝕性などがある。
【0176】
FSAを利用して自己整列によって構成させた構造の、有用な生物学的特性の具体例としては、生化学反応の触媒として作用する場合の特性、特定の生化学物質やエージェントないしは構造の吸収サイトないし反応サイトに関する特性、薬剤ないし治療剤としての効果に関する特性、生体組織との間に特定の相互作用を生じることまたは特定の相互作用を生じないことに関する特性、生物学的系をある形態で成長させるためのエージェントとしての特性、それに、既知の生物学的系の電気的機能、化学的機能、物理的機能、または光学的機能との間で相互作用を生じるエージェントとしての特性などがある。
【0177】
更に、FSAを利用して自己整列によって構成させる構造は、有用な物理的特性を備えたものとすることができる。その具体例としては、比重に対する弾性の比である弾性応力テンソルを大きな値とし得ることがあり、また、これに限られず、更にその他の有用な物理的特性を備えたものとすることもできる。更に、この自己整列構造は、有用な光学的特性を備えたものとすることができ、有用な光学的特性のうちには、例えば、光吸収スペクトル特性、光透過スペクトル特性、それに偏光状態を変化させる特性などがある。
【0178】
この自己整列構造や前述のフラーレン分子を、各々単独で、または両者を組合せて利用することによって(自己整列構造、フラーレン分子、または両者の組合せの種々の形態を総称して「分子/構造」と呼ぶことにする)、有用な特性を有する様々なデバイスを製作することができる。例えば、ある1つの分子/構造を物理的手段、化学的手段、静電気的手段、または磁気的手段を介して別の構造に結合することによって、その1つの分子/構造と、その分子/構造に結合した別の構造との間の、或いは、その1つの分子/構造と、その分子/構造の近傍に存在しているものとの間で、物理的手段、化学的手段、電気的手段、光学的手段、または生物学的手段を介した情報伝達を可能にすることができる。そのような情報伝達の具体例としては、磁気相互作用による物理的情報伝達、電解質の反応または溶液中の化学エージェントの移動による化学的情報伝達、電子の電荷の移動による電気的情報伝達、それに、生物学的エージェントとの相互作用または生物学的エージェントの受渡による光学的情報伝達などがあり、エージェントを介した情報伝達は、分子/構造と、そのエージェントが反応するものとの間で行われることになる。
6.SWNTアンテナ
フラーレン・ナノチューブは、従来の導体製アンテナ素子の代わりに使用することができる。例えば、(n,n) ナノチューブを、その他の材料と組合せて使用することで、ライト・ハーベスティング・アンテナとして機能するショットキー・バリアを形成することができる。その1つの実施の形態は、 (10,10) ナノチューブの一端に金を、他端にリチウムを、いずれもイオウ架橋を介して結合することによって、ナチュラル・ショットキー・バリアを形成するというものである。これによって、光導電性によって電流が発生させることができる。 (10,10) ナノチューブは、アンテナと同様に機能して、ポンプ作用によって電子を電極に注入するように機能し、またその際に、そのナノチューブと金属との接触部が整流ダイオードとしての性質を有するために電子の逆流が阻止される。
【0179】
アンテナを形成するには、ナノチューブ分子の長さを調節して、その最終的な電気的長さが所望の長さになるようにする。この場合、ナノチューブ分子の電気的長さの選択は、そのナノチューブ分子の内部を流れる電流がそのナノチューブ分子の近傍領域の電磁場と相互作用を持つことにより、その電磁場のエネルギがそのナノチューブ分子の内部電流に変換され、また逆に、そのナノチューブ分子の内部電流がその電磁場のエネルギに変換されるようにする。更に、ナノチューブ分子の電気的長さを選択する際には、アンテナ回路に誘起される様々な周波数の電流のうち、所望の周波数領域に含まれる周波数の電流が最大になるように選択するか、または、アンテナ回路に発生する様々な周波数の電圧のうち、所望の周波数領域に含まれる周波数の電圧が最大になるように選択し更に、電流と電圧のどちらも程々に大きくなるように、適当な折り合いをつけるような設計とすることもある。
【0180】
フラーレン・ナノチューブ分子アンテナは更に、ある種の回路の負荷として利用することもできる。その場合には、このアンテナに流れ込んだ電流が、所望の電場及び磁場に変換されるようにすればよい。ナノチューブの長さを調節することによって、所望の伝播特性を有するものとすることができる。更に、幾本ものナノチューブを束にして使用することによって、アンテナ素子の直径を調節することも可能である。
【0181】
更に、以上のようにナノチューブ分子で形成したアンテナ素子を、多数組合せて、アンテナ・アレイを構成することも可能である。そのためには、ナノチューブ分子の長さ、位置、及び配向方向を適切に選択することによって、複数のナノチューブ分子の夫々の内部を流れる電流が、所定の位相関係をもってコヒーレントに作用するようにし、それによって、それらナノチューブ分子の近傍領域に電磁場を発生させ、或いは近傍領域の電磁場を変化させるようにすればよい。この場合、複数のナノチューブ分子の夫々の内部を流れる電流のコヒーレントな作用によって、それら電流によって発生する電磁場の空間分布、角度分布、及び周波数分布が、決定され、変化させられ、制御され、ないしは選定される。また、別の実施の形態として、複数のナノチューブ分子の内部に誘起される電流が、そのアンテナ・アレイの形態によって決まる所定の位相関係を持つようにすることによって、それら電流によって発生する二次的電磁場が、適当な空間分布、角度分布、及び周波数分布を持ってそのアンテナ・アレイから放射されるような形態とすることもでき、この場合に、放射される電磁場の空間分布、角度分布、及び周波数分布は、アンテナ・アレイ及びアンテナ素子の形態によって決定されるものである。このようなアンテナ・アレイを形成するための方法としては、例えば、前述の自己整列単層形成法などを用いればよい。
7.フラーレン分子エレクトロニクス
フラーレン分子には、従来の導電素子の替わりに用いるという用途もある。例えば、フラーレン分子または自己整列させたフラーレン分子群を用いて電気回路を構成し、その電子回路内の電荷の搬送をフラーレン分子に行わせるようにすることができる。この場合、フラーレン分子には、その電気回路内の、電荷の流れを変化させ或いは制御する機能素子どうしの間の電荷の搬送や、その電気回路内の、オブジェクトどうしの間の電荷の搬送を行わせる。ここでいうオブジェクトとは、その内部の電流の流れが何らかの有用な機能を果たすものであり、有用な機能とは、例えば、そのオブジェクトの周囲の電場の分布を変化させる機能、スイッチの電気接点としての機能、それに、電磁波に対してそのオブジェクトが反応することによって実現される機能などである。
【0182】
具体的な構成例としては、例えば、ナノチューブ分子を自己整列させて、全波整流用のブリッジ回路を形成することができる。このようなデバイスは、各々が正方形の1つの辺を成す4個のナノチューブ分子と、各々がその正方形の1つずつの角に配置される4個のバッキー・ボールとで構成することができる。先ず、それらバッキー・ボール及びナノチューブ分子に修飾処理を施して、夫々に特定機能エージェントを付加する。付加した特定機能エージェントの働きによって、バッキー・ボールをナノチューブ分子に結合する架橋が形成され、またブリッジが所要の形態に構成される。
【0183】
また、前述の自己整列法を用いて、フラーレン・ダイオードを構成することができる。このダイオードは、例えば、2個のバッキー・チューブと1個のバッキー・カプセルとで構成することができる。その場合に、先ず、バッキー・カプセルに修飾処理を施して、これを双極性イオンにする。具体的には、バッキー・カプセルに、トリエチルアミン陽イオン等の陽性基を2個、及び、CO2-陰イオン等の陰性基を2個付加することによって、双極性イオンにすることができる。更に、1つの実施の形態では、そのバッキー・カプセルの両端の各々に、ジスルフィド架橋を介して (10,10) バッキー・チューブを1個ずつ結合する。この構成では、イオウが特定機能エージェントとしての役割を果たすことになる。
8.プローブ及びマニピュレータ
更に、本発明にかかるSWNT分子を使用して、ナノスケールのプローブやマニピュレータも製作することができる。その具体例としては、例えば、AFM装置及びSTM装置のプローブ・チップや、AFM装置のカンチレバーなどを挙げることができる。また、そのようなプローブに前述の修飾処理を施しておけば、選択的に基板に固着する性質を有するセンサないしセンサ・アレイとして機能させることができる。このようなデバイスは、医薬品等の生物的活性物質の効力検定を分子レベルで実行する高速のスクリーニング効力検定などに利用することができる。更に、本発明にかかる導電性SWNT分子は、電気化学的プローブとしても利用することができる。
【0184】
同様に、SWNT分子で構成したプローブ状のアセンブリを、修飾処理を施したものも、またそうでないものも、例えばナノ鉗子等のナノデバイスの材料取扱い及び製造に効果を有するツールとして利用することができる。更に、この種の分子ツールは、MEMS(マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム)を製造するためや、NANO-MEMSの構成部品ないし回路部品を接続するために利用することもできる。
9.カーボン・ナノチューブを含有する複合材料
複合材料とは、2種類以上の異種成分材料で構成された材料であり、様々なものが公知となっている。一般的に、複合材料は、その複合材料の全体形状を画成する母材と、その複合材料の内部構造を決定する耐力材とで構成されている。複合材料に応力が作用したならば、母材が変形することによって、その応力が耐力材に分散して伝達される。
【0185】
複合材料は通常、非常に大きな強度を有するが、大抵の場合、その強度は等方的なものではなく、複合材料の平面に平行な方向の応力に対しては大きな強度を発揮するのに対して、その平面に垂直な方向の応力に対する強度はそれよりはるかに小さい。このような特性があるため、多層構造の複合材料は、層間剥離を発生し易い。層間剥離を発生するのは、多層構造の複合材料の少なくとも1つの層が、それまで接合していた層から剥がれることによるものであり、その結果、その複合材料の内部に空隙が発生する。この空隙は検出することが極めて困難であり、応力が反復して印加されているうちに、何の前触れもなく突然に、壊滅的な破壊に至ることになる。
【0186】
カーボン・ナノチューブは、複合材料における耐力材として利用することができる。上に説明したように、複合材料は一般的に、2種類以上の異種成分材料で構成された材料であり、通常、その複合材料の全体形状を画成する母材と、その複合材料の内部構造を決定する少なくとも1つの耐力材とを含んでいる。これまで母材の材料として使用されてきた種々の公知の材料は、いずれも、本発明の複合材料の母材の材料として用いることができる(その種の材料については、例えば、Mel M. Schwartz著「Composite Materials Handbook(第2版、1992年刊)」を参照されたい)。公知の母材の材料のうちの幾つかを具体的に示すならば、熱硬化性または熱可塑性の種々の樹脂(ポリマー)、様々な金属材料、セラミック材料、サーメット材料などを挙げることができる。
【0187】
母材の材料として有用な熱硬化性樹脂には、フタル酸系ポリエステル樹脂、マレイン酸系ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シアネート樹脂、ビスマルイミド樹脂(bismaleimide)、ナディック・エンド・キャップト・ポリイミド樹脂(nadic end-capped polyimide)(例えばPMR−15)がある。また、有用な熱可塑性樹脂には、ポリスルホン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ酸化エチレン樹脂、ポリスルフィド樹脂、ポリエーテル−エーテル−ケトン樹脂、ポリエーテル−スルホン樹脂、ポリアミド−イミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂、それに液晶ポリエステル樹脂がある。1つの好適な実施例では、母材の材料としてエポキシ樹脂を使用している。
【0188】
母材の材料として有用な金属材料には、種々のアルミニウム合金があり、例えば「アルミニウム6061」、「アルミニウム2024」、それに「アルミニウム713」等のアルミニウム・ブレーズがある。母材の材料として有用なセラミック材料には、アルミノ珪酸リチウム等のガラスセラミック、アルミナやムライト等の酸化物セラミック、窒化ケイ素等の窒化物セラミック、それに、炭化ケイ素等の炭化物セラミックがある。母材の材料として有用なサーミック材料には、炭化物系サーミック(炭化タングステン、炭化クロム、炭化チタン等)、耐火性サーミック(タングステン−トリア、バリウム−カーボネート−ニッケル等)、クロム−アルミナ、ニッケル−マグネシア、それに、鉄−炭化ジルコニウムがある。
【0189】
本発明にかかるカーボン・ナノチューブから成る耐力材の形態は、本明細書に説明した様々な形態、並びに公知の様々な形態のうちの、任意の形態のものとすることができる。ただし好ましいのは、フラーレン・ナノチューブ(即ち、分子構造上の完全性を備えたカーボン・ナノチューブ)を用いることである。フラーレン・ナノチューブのうちには、単層の連続した六方グラーフィンのシートが欠陥を持つことなく接合して構成されたチューブの端部に半球状のフラーレン・キャップが結合した形状のものがある。この場合、両端に夫々半球状キャップを備えたものを、真性シングル・ウォール・フラーレン・ナノチューブと呼ぶことがあり、また、そのような両端を閉塞したナノチューブに対して切断処理や侵蝕処理を施して端部を除去したものも、シングル・ウォール・フラーレン・ナノチューブと呼ぶことがある。また更に、複数のシングル・ウォール・フラーレン・ナノチューブを入れ子式に重ね合わせた形態のものを、マルチ・ウォール・フラーレン・ナノチューブと呼び、そのようなフラーレン・ナノチューブも存在する。アーク法で成長させたマルチ・ウォール・ナノチューブ(MWNT)も、徐々にフラーレンと呼び得る理想的なものに近付いてきてはいるが、その分子構造は、なお不完全である。アーク法で成長させたMWNTは、その多層構造の側壁部分にかなりの構造欠陥が存在しており、それら構造欠陥の密度は、100 nmごとに1個以上の多数に及んでいる。これに対して、先に説明したレーザ/オーブン法で生成したシングル・ウォール・カーボン・ナノチューブは、分子構造上の完全性を備えていると認められる。従って、レーザ/オーブン法で生成したシングル・ウォール・カーボン・ナノチューブは、フラーレン・ナノチューブとなり、そのようなカーボン・ナノチューブから形成したカーボン・ファイバは、真性のフラーレン・ファイバとなる。
【0190】
単層フラーレン・ナノチューブのうちには、金属材料的特性を備えたもの(アームチェア形、即ち(n,n) 形の形態のもの)もあれば、金属材料的特性を備えていない螺旋構造のものもある。これらのいずれも、適当な長さに切断して、短尺のチューブ形分子の形態にして利用することができる。切断して形成された短尺のナノチューブ(切断ナノチューブ)は、分子スケールでの強化、補強という、在来の技術では得られない利点を提供するものである。これに対して、ナノチューブの長さがミクロン・スケールに近付くと、分子スケールでは剛性を有するチューブ状分子の特性を持ちながらも、可撓性が大きくなってくる。
【0191】
複数本のカーボン・ナノチューブが束になった構造を本明細書ではロープと呼んでいるが、約103本程度までのカーボン・ナノチューブから成るロープも、複合材料の耐力材として有用である。前述した方法で製作したカーボン・ナノチューブのロープは、互いに絡まり合ってミクロン・スケールのループを多く形成する物理的形状となるため、ロープどうしの間で、またロープと母材の材料との間で、あたかもマジックテープ(登録商標)のような相互作用が働き、しかも分子レベルでは、剛性の高いチューブが束になったバンドルとしての構造が維持されている。
【0192】
巨大カーボン・ナノチューブ・ファイバ(106本以上の多数のナノチューブから成るファイバ)も、本発明にかかる複合材料の耐力材として有用である。耐力材として用いる巨大ファイバとしては、先に説明した一様連続形のファイバと、ランダム形のファイバとのいずれも使用可能である。更に、ロープやファイバを耐力材として使用する場合に、先に説明した方法でそれらを切断して、所望の長さのロープないしファイバにしたものを使用するようにしてもよく、或いは、ロープないしファイバが絡まり合ってループを多数形成したフェルト状の形態のものを使用するようにしてもよい。
【0193】
本発明によれば更に、以上に説明した様々な形態のカーボン・ナノチューブ材料のうちの2種類以上のものを、組合せて使用することも考えられる。その場合に、それら材料を混合して、母材中の同一領域に配合するようにしてもよく、また、それら材料を母材中の別々の領域に夫々に配合するようにしてもよい。使用するカーボン・ナノチューブ材料の形態は、その複合材料がいかなる性質のものであるかに応じて、またその複合材料を最終的にいかなる特性を有するものにしたいかに応じて、選択することになる。また、使用するカーボン・ナノチューブ材料は、先に説明した方法で洗浄処理及び精製処理を施したものであることが好ましい。
【0194】
複合材料に使用するナノチューブ、ロープ、ないしファイバには、先に説明した方法で修飾処理を施したものとしてもよい。カーボン・ナノチューブのエンド・キャップに修飾処理を施すことによって、カーボン・ナノチューブどうしの結合状態、ないしはカーボン・ナノチューブと母材の材料との間の結合状態を強化することができる。一般的に、真性カーボン・ナノチューブの側壁部分は、完全に均一な構造となっており(即ち、黒鉛の格子構造に類似した六方格子構造を成す炭素のアレイで構成されている)、そのため、側壁部分に欠陥を導入して結合サイトを形成することによって、母材の材料に対する結合付着特性を改善することができる。その具体例を挙げるならば、側壁部分にホウ素原子等を不純物として導入するようにすればよい。こうして形成した壁部の欠陥が結合サイトとなって、ナノチューブと母材の材料との間に働く物理力ないし化学力による相互作用が強化される。更に、このようにして形成した欠陥即ち結合サイトは、ナノチューブと母材の材料との間の化学反応を促進することによって、最終的に形成される複合材料の特性に影響を及ぼすこともあり得る。また、ホウ素原子を導入する他に、先に説明したように、カーボン・ナノチューブの格子の一部を、窒化ホウ素で置換するという方法もある。
【0195】
本発明にかかるカーボン・ナノチューブと、その他の有機材料または無機材料から成るファイバ状の耐力材とを組合せて、複合材料における耐力材として用いるようにしてもよい。この用途に使用することのできる有機材料としては、例えばセルロースがある。また無機材料としては、例えば、カーボン、ガラス(Dタイプ、Eタイプ、及びSタイプのガラスがある)、黒鉛、酸化ケイ素、炭素鋼、酸化アルミニウム、ベリリウム、酸化ベリリウム、ホウ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、クロム、銅、鉄、ニッケル、炭化ケイ素、窒化ケイ素、デュポン社が製造している「FP」という商品名のアルミナ糸、3M社が製造している「Nextel」という商品名のアルミナ−ボリア−シリカ及びジルコニア−シリカ、ICI社が製造している「Saffil HT」という商品名のジルコニア及びアルミナ、石英、モリブデン、「Rene41」、ステンレス鋼、ホウ化チタン、タングステン、それに、酸化ジルコニウムなどがある。
【0196】
本発明にかかる複合材料を製造するための方法としては、母材の材料と耐力材とを組合せるための公知の様々な材料のうちの、任意の方法を採用することができる。カーボン・ナノチューブ材料は、カーボン・ナノチューブの1本1本がばらばらに分離した形態のものも、また、複数のカーボン・ナノチューブが束になってロープを構成している形態のものも、水や有機溶剤等の液体担体に分散させることによって、母材の材料への配合を容易にすることができる。巨大カーボン・ナノチューブ・ファイバを配合する際の取扱い方は、カーボン・ファイバやグラファイト・ファイバを配合する際の従来の一般的な取扱い方と同様にすることができる。
【0197】
カーボン・ナノチューブから成る耐力材を、母材の材料の前駆物質(ポリマー溶液、焼成前のセラミック粒子、等々)と均一に混合した上で、在来の技法を用いてそれを複合材料として完成させるようにしてもよい。また、カーボン・ナノチューブ材料から、耐力層ないし耐力構成材(例えば、フェルト状材料や、バッキー・ペーパー等)を一旦形成し、その形成したものに、プレポリマー溶液を含浸させて、複合材料を形成するという方法もある。
【0198】
カーボン・ナノチューブから成る耐力材を用いて、在来の複合材料の特性を改善することも可能である。その1つの具体例は、ファイバ材料層に母材ポリマー材料を含浸させることで、それらファイバ材料と母材材料とを一体化した複合材料である。この種の複合材料でよく知られたものには、例えば、黒鉛ファイバの織物の層を、母材のエポキシ系材料と一体化して形成した複合材料がある。この複合材料において、そのエポキシ系材料と黒鉛材料との境界面だけに、3次元的に絡まり合って多数のループを形成しているカーボン・ナノチューブのロープないしファイバを配合するという方法があり、それによって、エポキシ系材料と黒鉛材料とから成る層状複合材料の層間剥離に対する耐性を大幅に向上させることができる。また、エポキシ系材料にカーボン・ナノチューブ材料を分散させた後に、そのエポキシ系材料を含浸させるようにしてもよい(或いは、エポキシ系材料の反応成分のうちの1つに、予めカーボン・ナノチューブ材料を混合しておくようにしてもよい)。更に、カーボン・ナノチューブ材料を液体担体中に分散させたものを、噴霧等の塗布法によって、黒鉛ファイバ層を積層するごとに、その層に塗布するようにしてもよい。
【0199】
例えば (10,10) ナノチューブ等の、単層フラーレン・ナノチューブは、複合材料の成分としてはこれまで使用されていなかった独自のものである。見ようによっては、単層フラーレン・ナノチューブという材料は、ポリプロピレン、ナイロン、ケブラー、それにDNA等と同様の巨大分子ポリマーであって、単に新規な材料であるだけと思われるかもしれない。しかしながら、単層フラーレン・ナノチューブは、その直径がDNAの二重螺旋の直径と同程度でありながら、曲げに対する剛性も、引張に対する強度も、比べものにならないほど大きい。長鎖を成すポリマーの特性を表す性質の1つに、持続距離(通常のブラウン運動をする条件下において、鎖の方向が実質的に変化するために要する移動距離)がある。ポロプロピレンでは、この持続距離は約1 nmに過ぎず、DNAの二重螺旋では約50 nmである。これらに対して、孤立して存在している1本の (10,10) フラーレン・ナノチューブでは、持続距離が1000 nm以上になる。従って、複合材料の連続相を形成するために用いられる通常のポリマー分子の持続距離を基準として判断するならば、フラーレン・ナノチューブは、十分な剛性を有するパイプであるといえる。
【0200】
更に、孤立して存在している1本の (10,10) フラーレン・ナノチューブは、その長さがミクロン単位で表されるほどの長さになると、大きな可撓性を示すようになり、容易に他のナノチューブと絡まり合って多くのループを形成するようになる。このようにナノチューブどうしが絡まり合い、多数のループを形成することによって、複合材料の内部構造に関する、2つの新たな可能性が得られている。即ち、(1)連続相を形成している母材材料がそれらループの中に入り込むことにより、サブミクロン単位の長さのスケールで、ナノチューブが連続相の母材材料に緊密に「結合」することができる。また、(2)ナノチューブと連続相の母材材料とを混合したものを、母材材料が硬化する前に流動させて剪断変形させることにより、ループどうしを更に複雑に絡まり合わせ、ナノチューブに引張力が加わった状態にすることができる。これによって、絡まり合ったフラーレン・ナノチューブを含有する複合材料の、靱性、強度、及び層間剥離に対する耐性を向上させることができる。
【0201】
C60やC70などのフラーレンは、フリー・ラジカルを良好に吸着する効果的な吸着物質であることが知られている。同様に、 (10,10) ナノチューブ等のフラーレン・ナノチューブも、その壁部にフリー・ラジカルを化学吸着する性質が有り、化学吸着することのできるフリー・ラジカルには、例えば、メチル基、フェニル基、メトキシル基、フェノキシル基、水酸基、等々がある。分子量の小さなフラーレンの場合と同様に、フラーレン・ナノチューブにおいても、フリー・ラジカルを化学吸着することによって、網構造の強度が低下するということは殆どない(加熱によってラジカルは解離されるが、その際には、フラーレンの表面に吸着されていたラジカルが放出されるだけであり、フラーレンの構造自体は無傷のまま維持される)。従って、フラーレン・ナノチューブを含有した複合材料を形成する際には、その複合材料の連続相を形成するポリマー材料に、加熱されることによって、ないしは紫外線照射による光分解によって、フリー・ラジカルを生成する基を付加しておけば、フラーレン・ナノチューブとポリマー材料とを共有結合させることができる。例えば、アゾ・ビス・イソブチロニトリルに含まれているようなアゾ架橋は、光照射によって活性化されてフリー・ラジカルを生成するラジカル源として、非常に効果的なものである。
【0202】
本発明が提供するカーボン・ファイバは、これまでにない独特の特性を有するものであり、その特性ゆえに、複合材料のための新規な強化材として利用し得るものとなっている。例えば、ファイバ材料とポリマー材料とを複合した異方性を有する複合材料を形成することができる。そのためには、例えば、金属材料的特性を有するカーボン・ナノチューブ・ファイバ(例えば (n,n) SWNTで形成したファイバ)を、プレポリマー溶液(例えば、ポリメタクリル酸メチル)中に分散させ、外部から電界を印加してそれらナノチューブ・ファイバを整列させた後に、プレポリマーを重合させるようにすればよい。更に、このように金属材料的特性を有するカーボン・ナノチューブを使用することによって、導電性材料を形成することも可能となっている。
【0203】
以上に説明した、カーボン・ナノチューブを含有した複合材料の用途は多岐にわたり、全てを列挙することはできないが、それらのうちの幾つかを具体的に述べるならば、先ず、これまで黒鉛ファイバやケブラー等の高強度繊維が使用されていた様々な用途は、それらの全てが、カーボン・ナノチューブを含有した複合材料の用途となり得るものである。更に具体的に述べるならば、乗用車、トラック、鉄道車両等をはじめとする様々な車両の構造材や車体用板材としての用途がある。また、タイヤにも適用することができる。また、航空機の部品としての用途もあり、例えば、機体フレーム、スタビライザ、翼表面材、ラダー、フラップ等に使用することができ、更にヘリコプタに関しては、そのロータ・ブレード、ラダー、エレベータ、エルロン、スポイラ、乗降ドア、エンジン・ポッド、それに胴体の構成部材等に適用することができる。また、宇宙飛行体に関しては、ロケット、宇宙船、人工衛星等に適用することができる。ロケット・ノズルにも適用することができる。海洋関係の用途としては、船舶の船体、ホバークラフト、水中翼船、ソナー・ドーム、アンテナ、フロート、ブイ、マスト、スパー、甲板室、フェアリング、タンク等の用途がある。また、スポーツ用品関係の用途としては、ゴルフカート、ゴルフクラブのシャフト、サーフボード、ハングライダーのフレーム、槍投げ競技用の槍、ホッケーのスティック、セイルプレーン、セイルボード、スキーのポール、遊具、釣り竿、スキー及び水上スキー、弓、矢、ラケット、棒高跳びの棒、スケートボード、バット、ヘルメット、自転車のフレーム、カヌー、カタマラン、オール、パドル、及びその他の様々な物品に適用することができる。また、家具関係の用途としては、椅子、ランプ、テーブル、及びその他の様々な現代家具に適用することができる。更にその他の用途としては、例えば、弦楽器の共鳴板、身体防護用、車両防護用、ないし物品防護用の種々の軽量防護用品、ハンマの握り棒や梯子等の工具類、生体適合性インプラント、人工骨、各種補綴物、電気回路板、それにあらゆる種類のパイプ等に適用することができる。
【0204】
具体例
本発明を更によく理解できるように、幾つかの具体例を以下に示す。ただし、本発明の範囲は、以下に具体例として開示する特定の実施の形態に限定されるものではなく、それらはあくまでも、説明のための具体例である。
具体例1.オーブン/レーザ気化工程
この具体例の気化工程で使用した装置は、図1を参照して説明したオーブン/レーザ気化装置であり、この装置については、Haufler et al.著、"Carbon Arc Generation of C60" Mat. Res. Soc. Symp. Porc., Vol. 206, p. 627 (1991) にも、また、米国特許第5,300,203号にも記載されている。走査レーザ・ビームを発生させるレーザとしては、Nd:YAGレーザを使用した。このレーザ・ビームをモータ駆動式の全反射板によって制御し、石英管の中に配置した金属−黒鉛複合材料のターゲットの表面に合焦させて、その照射スポットの直径が6 〜 7 nmになるように設定した。レーザ・ビームによるターゲットの表面の走査を、コンピュータで制御して、ターゲットの表面が常に、凹凸のない滑らかな面に保たれるようにした。レーザ装置は、波長が0.532μmのパルス・ビームを射出するように、また、1個のパルスのエネルギが300 mJになるように設定した。また、パルス射出速度は10 Hzになるように設定し、パルス持続時間は10ナノ秒(ns)になるように設定した。
【0205】
ターゲットは、直径1インチ(約25.4 mm)の石英管の中に、黒鉛棒で支持して配設し、この石英管の内部を、最初にその圧力が10 mTorrに低下するまで抜気した後に、アルゴンを注入して、それ以後、アルゴンの圧力を500 Torrに維持するようにした。また、アルゴンの体積流量を、50標準立方センチメートル毎秒(sccm)に設定した。石英管の直径が1インチであるため、体積流量がこの値のときに、その石英管の中を流れるアルゴンの流速は、0.5〜10 cm/secの範囲内の値を取り、従ってその流れは層流になる。石英管を高温加熱炉の中に配設し、この高温加熱炉は、その最高温度を1200℃に設定した。この高温加熱炉は、長さ12インチのリンドバーグ炉であり、この具体例1における幾つかの実験を行う間、その温度を1000〜1200℃に維持した。レーザを照射して気化させたターゲットの材料は、それが気化したターゲットの近傍領域から、流動するアルゴンに乗って運ばれ、水冷コレクタの表面に蒸着する。この水冷コレクタは銅製であり、ターゲットの下流側の、加熱炉の出口のすぐ外側に配設した。
【0206】
ターゲットは、複数の成分材料を均一に混合した複合材料を、ロッド状の形状に成形したものであり、以下の3工程に従って製作した。(1)高純度の金属材料ないし金属酸化物材料を、室温下で、下記の割合で、Carbone of America社製の粉末黒鉛及びDylon社製のカーボン・セメントと混合して調整したペーストを、直径0.5インチの円筒形の成形用鋳型の中に充填し、(2)ペーストを充填した成型用鋳型を、加熱板を備えたCarvey社製の静圧プレスに装着して、それに一定の圧力を印加した状態で、130℃で、4〜5時間に亘って焼成処理を行い、(3)焼成したロッド(成形用鋳型が円筒形状であるためロッド状になる)を、更に流動アルゴン雰囲気中で、810℃で、8時間に亘って焼き固めた。試験を実行するごとに、新しいターゲットを用意して、先ずそのターゲットを、流動アルゴン雰囲気中で、1200℃で、加熱状態に維持するようにした。この加熱状態に維持する時間は一定ではなかったが、多くの場合、12時間とした。このように加熱状態に維持した後に、試験作業を開始し、同一のターゲットに対する試験動作を複数回反復して行った。試験動作を反復する際には、各試験動作の開始直前に、その都度、更に2時間に亘ってターゲットを1200℃に加熱した状態に維持するようにした。
【0207】
この具体例においては、ターゲットを形成する混合材料中の金属材料成分の種類及び濃度を、以下のように様々に設定した。コバルト(1.0原子%)、銅(0.6原子%)、ニオブ(0.6原子%)、ニッケル(0.6原子%)、プラチナ(0.2原子%)、コバルトとニッケルの組合せ(夫々、0.6原子%/0.6原子%)、コバルトとプラチナの組合せ(夫々、0.6原子%/0.2原子%)、コバルトと銅の組合せ(夫々、0.6原子%/0.5原子%)、そしてニッケルとプラチナの組合せ(夫々、0.6原子%/0.2原子%)。混合材料の残余成分はその殆どが黒鉛であり、カーボン・セメントを僅かに含有している。これらターゲット材料で形成した夫々のターゲットを、レーザで気化させ、その都度、水冷コレクタの表面に付着した煤を回収して、その煤に対して超音波処理を施した。この超音波処理は、煤をメタノール溶媒中に分散させて、常温、常圧下で、1時間に亘って実行した(メタノール以外の、その他の良好な溶媒としては、1,2−ジクロロエタンや、1−ブロモ,1、2−ジクロロエタンや、N,N−ジメチルホルムアミドなどがある)。回収した生成物に対して、夫々にメタノール中で30〜60分に亘って超音波処理を施したところ、ただ1つの例外を除いて、いずれも均一な懸濁液が得られた。その例外とは、コバルト、ニッケル、及び黒鉛から成る混合材料を、気化及び蒸着させて得たサンプルであり、このサンプルの蒸着物はゴム状であって、メタノール中で2時間に亘って超音波処理を施した後にも、その僅かな部分が十分に分散せずに残った。以上のようにして得られた煤を、続いて、ビーム・エネルギが100keVの透過型電子顕微鏡(JEOL 2010型)を用いて調べた。
【0208】
上に列挙したターゲット材料には、金属成分としてVIII族遷移金属を1種類だけ含有する材料と、2種類のVIII族遷移金属の組合せを含有する材料とがあるが、それら材料の各々について、その材料をロッド状に成形して製作したターゲット(直径0.5インチ)を評価するための実験を、前述した試験装置を用いて行い、生成された単層・カーボン・ナノチューブの収率及び品質を調べた。どの材料で製作したターゲットを使用した場合も、その反応生成物中に、マルチ・ウォール・カーボン・ナノチューブの存在は認められなかった。収率は、オーブンの温度が高いほど上昇する傾向が認められ、この傾向は、使用したオーブンの上限温度(1200℃)に至るまで変わらなかった。オーブン温度を1200℃に設定したときには、金属成分として1種類の金属だけを含有する材料のうちでは、ニッケルを含有するものが、単層・カーボン・ナノチューブの収率が最大であり、コバルトを含有するものがそれに続いた。プラチナを含有するものは、僅かな個数の単層・カーボン・ナノチューブしか生成せず、更に、黒鉛に銅だけを混入した混合材料や、黒鉛にニオブだけを混入した混合材料では、単層・カーボン・ナノチューブの生成は認められなかった。一方、触媒金属成分として2種類のVIII族遷移金属を組合せたものを黒鉛に混合した材料のうちでは、単層・カーボン・ナノチューブの収率に関しては、コバルト/ニッケルの組合せと、コバルト/プラチナの組合せの、2通りの組合せが略々肩を並べており、その他の触媒金属の組合せから抜きん出た成績であった。金属成分を組合せるこれら2通りの組合せは、そのいずれもが、金属成分としてVIII族遷移金属を1種類しか使用していない材料の場合と比べて、単層・カーボン・ナノチューブの収率が10〜100倍になることが分かった。更に、ニッケル/プラチナの組合せを黒鉛に混入した混合材料も、1種類の金属成分しか含有していない混合材料と比べれば、単層・カーボン・ナノチューブの収率が大きくなることが分かった。コバルト/銅の組合せを黒鉛に混入した混合材料は、単層・カーボン・ナノチューブの生成量が僅かであった。
【0209】
コバルト/ニッケルの組合せを黒鉛に混入した混合材料を使用した場合、並びに、コバルト/プラチナの組合せを黒鉛に混入した混合材料を使用した場合にはいずれも、水冷コレクタの表面に蒸着した生成物が、ゴム状物質のシートのような外観を呈していた。この蒸着物を、損傷させないように慎重に、水冷コレクタの表面から除去して回収した。コバルト/プラチナの組合せを混入した混合材料から成るターゲットを使用した場合には、生成される単層・カーボン・ナノチューブの収率が、そのターゲットから気化した炭素成分の全体に対して15重量%になるとの評価値が得られた。また、コバルト/ニッケルの組合せを混入した混合材料から成るターゲットを使用した場合には、生成される単層・カーボン・ナノチューブの収率が、気化した炭素成分に対して50重量%以上になることが分かった。
【0210】
図15A〜図15Eに示した画像は、黒鉛にコバルト及びニッケルを混入(夫々、0.6原子%/0.6原子%)したターゲット材料を、オーブン温度を1200℃に設定して気化させて生成した、単層・カーボン・ナノチューブの透過電子顕微鏡写真の画像である。図15Aに示したのは、中倍率画像(スケール・バーは100 nmを示している)であり、殆ど至る所に、複数本の単層・カーボン・ナノチューブが束になったバンドルが形成されており、また、それらバンドルが更に別の単層・カーボン・ナノチューブと絡み合っているのが見て取れる。図15Bに示したのは、複数本の単層・カーボン・ナノチューブが束になった1本のバンドルの高倍率画像であり、この1本のバンドルを構成している複数本の単層・カーボン・ナノチューブは、その全てが互いに略々平行に延在している。それら単層・カーボン・ナノチューブは、その直径がいずれも約1 nmであり、隣り合う単層・カーボン・ナノチューブの間の間隔もこれと略々同じ値となっている。それら単層・カーボン・ナノチューブどうしは、ファン・デル・ワールス力によって互いにくっつき合っている。
【0211】
図15Cに示した画像では、単層・カーボン・ナノチューブのバンドルどうしが幾本も重なりあっており、この画像からも、同一のバンドルを構成している複数本の単層・カーボン・ナノチューブが、互いに略々平行に延在しているという性質が見て取れる。また更に、この画像からは、単層・カーボン・ナノチューブのバンドルどうしが互いに重なり合う性質や、バンドルが屈曲する性質も見て取れる。図15Dは、様々な形態の単層・カーボン・ナノチューブのバンドルを示しており、それらバンドルは、様々な角度で、また様々な円弧を描いて屈曲している。また、それらバンドルの屈曲部のうちに、比較的鋭い角度で屈曲したものがあることから、単層・カーボン・ナノチューブのバンドルが、大きな強度及び可撓性を有するものであることが分かる。図15Eは、バンドルの断面を示しており、このバンドルは、互いに略々平行に延在する7本の単層・カーボン・ナノチューブで構成されている。アーク放電法によって単層・カーボン・ナノチューブをはじめとする種々のカーボン・ナノチューブを成長させた場合には、一般的に、成長させたナノチューブの表面が無定形炭素によって覆われていることが観察されるが、図15A〜図15Eの透過型電子顕微鏡画像からは、カーボン・ナノチューブがそのような無定形炭素によって覆われていないことが分かる。図15A〜図15Eの画像からは更に、蒸着物の圧倒的大部分が単層・カーボン・ナノチューブであることも見て取れる。単層・カーボン・ナノチューブの収率は、気化した炭素成分の約50 %であると推定される。残りの50 %は、主として、マルチ・レイヤ・フラーレン(いわゆるフラーレン・オニオン)等の種々のフラーレン、及び/または、無定形炭素になっていると推定される。
【0212】
図15A〜図15Eに示した透過型電子顕微鏡画像は、コバルト/ニッケルの組合せを触媒金属として混入したターゲットを使用して、図1に示したレーザ気化装置の水冷コレクタの表面に蒸着させた生成物であるカーボン・ナノチューブ試料画像である。一般的に、単層・カーボン・ナノチューブは、複数本がまとまってバンドルを形成して存在しており、1本のバンドルを構成している単層・カーボン・ナノチューブどうしは、それらの略々全長に亘ってファン・デル・ワールス力によって互いにくっつき合い、互いに略々平行に延在している。単層・カーボン・ナノチューブがまとまってバンドルを形成している姿は、「高速道路」の構造に似たところがあり、単層・カーボン・ナノチューブのバンドルどうしは、高速道路の十字交叉接続部のような形でランダムに交わり、相互に接続している。図15A〜図15Eに示した画像から判断すると、低温の水冷コレクタの表面に着地した時点で既に、多くの単層・カーボン・ナノチューブが、それら画像に示されたように互いに寄り添って延在しているものと思われ、そうであるからには、気相中に非常な高密度で単層・カーボン・ナノチューブが存在している可能性が高いと考えられる。また更に、単層・カーボン・ナノチューブどうしが、それら画像に示されたようにきれいに揃っているということは、それらカーボン・ナノチューブが水冷コレクタの表面に着地する以前には、それらカーボン・ナノチューブの周囲に、それらカーボン・ナノチューブの表面を覆うようなその他の形態の炭素は殆ど存在していなかったと考えられる。単層・カーボン・ナノチューブの成長が、石英管の内壁の表面等で行われるのではなく、気相中で行われていることの証拠は、同じ方法を用いて生成したマルチ・ウォール・カーボン・ナノチューブに関する従来の研究論文において既に明示されている。これについては、Guo et al., "Self-Assembly of Tubular Fullerens," J. Phys. Chem., Vol. 99, p. 10694 (1995)、並びに、Saito et al., "Extension of Single-Wall Carbon Nanotubes via Formation of Small Particles Condensed Near An Evaporation Source," Chem. Phys. Lett., Vol. 236, p. 419 (1995) を参照されたい。以上に説明した実験において、単層・カーボン・ナノチューブの収率が高い値を示したことは、特に注目すべき点であり、なぜならば、溶媒中に分散させることのできたフラーレンの収率が、約10%もあったからである。尚、煤状生成物中のその他の炭素の大部分は、種々のジャイアント・フラーレン並びに種々のマルチ・レイヤ・フラーレンであった。
具体例2.長尺の単層・カーボン・ナノチューブを生成するためのレーザ気化工程
この具体例では、図1を参照して説明したレーザ気化装置と同様のレーザ気化装置を使用して、長尺の単層・カーボン・ナノチューブを生成した。使用したこのレーザ気化装置は、オーブン内に配設した石英管に、その内径を横断するようにタングステン・ワイヤを張設した点が、図1のレーザ気化装置と異なっている。タングステン・ワイヤを張設した位置は、ターゲットの下流側の端部から更に1 cmないし3 cm下流に下った位置とした(ターゲットの気化表面を画成している側の端部からは、13〜15 cm下った位置になる)。石英管の中を流すアルゴンは、圧力を500 Torrとし、その流量を、石英管の内部における流速が1 cm/sec. になるような流量に設定した。オーブンの温度は1200℃に維持した。ターゲットの材料は、炭素材料にVIII族遷移元素を1〜3原子%混入した材料とした。
【0213】
レーザの出力設定は具体例1の場合と同じとし、10〜20分間に亘ってレーザ照射を行った。その結果、タングステン・ワイヤに、涙滴形状の蒸着物が形成され、その蒸着物は、部分によって、3〜5 mmの大きさにまで成長した。この蒸着物が成長する様子は、あたかも、タングステン・ワイヤに睫毛が生えて行くようであった。この蒸着物を調べたところ、数百万本の単層・カーボン・ナノチューブから成るバンドルが形成されていた。
具体例3.2本のレーザ・ビームを使用する気化工程
具体例1に関して説明したのと同じ方法で、黒鉛を主成分とするロッド状のターゲットを形成した。その材料は、黒鉛と、黒鉛セメントと、1.2原子%の金属混合粉末とを混合したものであり、金属混合粉末の組成は、50原子%のコバルト粉末と50原子%のニッケル粉末とから成るものであった。この材料をプレスで成形して、ターゲットに仕上げ、これらは具体例1に関して説明したのと同じ方法で行った。このように黒鉛ロッドとして製作したターゲットを、図2に示した装置と同様の構成で、ただしタングステン・ワイヤ32を装備していない装置に装着した。黒鉛ロッドとして製作したターゲットを装着した石英管をオーブンの中に配置し、オーブンを1200℃に加熱した。石英管の中に、触媒を使用した不純物除去を行って水蒸気及び酸素を除去したアルゴン・ガスを流し、その圧力は約500 Torrとし、その流量は約50 sccm(標準立方センチメートル毎分)とした。ただし、アルゴン・ガスの流量は必ずしもこの値にしなければならない訳ではなく、直径1インチの石英管を使用するのであれば、1〜500 sccmの範囲内の流量とすることができ、また、10〜100 sccmの範囲内の流量とすることが好ましい。第1レーザ装置は、波長が0.532μmのパルス・ビームを出力するように設定し、そのパルス1個あたりのエネルギを250 mJに設定した。また、そのパルス出射速度を10Hzとし、パルス持続時間を5〜10 nsとした。第2レーザ装置は、第1レーザ装置から出射されたパルスが停止してから50 nsが経過した時点で、ターゲットへパルスを出射するように設定した。更に、この第2レーザ装置は、波長が1.064μmのパルス・ビームを射出するように設定し、そのパルス1個あたりのエネルギを300 mJに設定した。また、そのパルス出射速度を10Hzとし、パルス持続時間を5〜10 nsとした。第1レーザ装置は、ターゲットの表面に直径 5 mmの照射スポットが形成されるように合焦状態を設定し、第2レーザ装置は、ターゲットの表面にその光強度分布がガウス分布をなす直径7 mmの照射スポットが形成されるように合焦状態を設定した。更に、ターゲットの表面において、第1レーザ装置の照射スポットの中心と第2レーザ装置の照射スポットの中心とが一致するようにした。第2レーザ装置がターゲットを照射してから、約10分の1秒が経過したならば、再び第1レーザ装置からの出射と第2レーザ装置からの出射とを続けざまに行わせるようにし、以上のプロセスを気化工程の終了時まで反復して実行した。
【0214】
こうしてターゲットの表面をレーザ照射によって気化させて試料を生成させ、生成した試料をターゲットの下流で回収した。この試料の生成速度は、回収したばかりの未処理の状態(生試料の状態)の重量で、約30 mg/hrであった。生試料の状態の生成物は、様々な方向に延在する単層・カーボン・ナノチューブが集合した固まりから成るものであった。また、この生試料の状態の生成物の固まりは、その大部分が、直径10〜20 nm、長さ10〜1000μmのカーボン・ファイバから成るものであった。
【0215】
この生試料の状態の生成物を約2 mg取り、それを5 mlのメタノール中に投入して、室温下で、約0.5時間に亘って超音波処理を施した。こうして超音波処理を施した生成物の透過型電子顕微鏡(TEM)解析を行ったところ、その大部分は、単層・カーボン・ナノチューブのロープであった。それらロープは、10〜1000本の単層・カーボン・ナノチューブが寄り添って延在する(ただし所々に枝が出ている)バンドルであり、どのロープも、その全長に亘って直径が略々一定していた。また、それらロープは100μm以上の長さであり、同一直径の複数本の単層・カーボン・ナノチューブで構成されていた。更に、超音波処理後の生成物のうちの約70〜90重量%が、ロープの形態を呈していた。1本のロープを構成している複数本の単層・カーボン・ナノチューブの夫々の端部は、全て、そのロープの末端部分の100 nmの範囲内に先端が位置していた。1本のロープを構成している複数本の単層・カーボン・ナノチューブの99%以上が、そのロープの一端から他端までの全長において、一様に連続して延在し、その炭素格子に欠陥を含まないものであるように見えた。
具体例4.単層・カーボン・ナノチューブ試料を99%以上の純度にまで精製する精製工程
米国特許出願第08/687,665号に記載されているレーザ生成法により生成した試料を、以下の方法で精製することで、ナノチューブの濃度を高めた製品が得られた。レーザ生成法によって生成した単層・ナノチューブの生試料(推定収率は70%であった)を、2.6 Mの硝酸水溶液に投入し、24時間に亘って還流を行った。この還流は、圧力を1気圧、温度を1200℃にして行った。続いてその溶液を、ポア・サイズが5ミクロンのテフロン(登録商標)濾紙を用いて濾過し(Millipore社製の Type LS濾紙を使用した)、この濾過によって回収した単層・ナノチューブを、新しい硝酸水溶液(2.6 M)に投入し、24時間に亘って還流を行った。続いてその溶液を、再び濾過して、単層・ナノチューブ試料を回収し、この濾過工程によって回収した試料を、エタノールにNaOHを飽和させた溶液中に投入し、室温下で、12時間に亘って超音波処理を施した。続いて、そのエタノール溶液を濾過して、単層・ナノチューブ試料を回収し、その回収した試料を、6 MのHCl水溶液に投入し、12時間に亘って還流を行って中和した。更に、その酸溶液を濾過してナノチューブ試料を回収し、回収した試料を、1気圧のH2ガス中で、850℃で、2時間に亘って焼成した(直径1インチの石英管の中にH2ガスを流し、その流量は1〜10 sccmとした)。以上によって、70 mgの精製試料が得られた。TEM解析、SEM解析、及びラマン分光解析を行って詳しく調べたところ、この精製試料は99%以上の純度を有することが判明した。また、僅かに含まれる不純物の大部分は、カーボン・カプセルに閉じ込められたニッケルないしコバルトの粒子であった。
具体例5.SWNTを切断して短尺のチューブ状炭素分子を得る工程
濾過工程及び焼成工程を実行することで、具体例1で説明したSWNT試料を精製して、バッキー・ペーパーを得た(厚さは約100μmであった)。このバッキー・ペーパーに、Texas A&Mの超伝導サイクロトロン装置を用いて2 GeVのAu+33イオン・ビームを100分間に亘って照射した。照射を終了したバッキー・ペーパーには、10〜100 nmの大きさの弾痕穴が無数に空いており、それら弾痕穴の平均密度は、ナノチューブの長さ100 nmにつき1個存在する程度の密度であった。こうしてイオン・ビームを照射したバッキー・ペーパーを、2.6 Mの硝酸水溶液に投入し、24時間に亘って還流を行うことで、高速イオン照射によって生成された無定形炭素を除去した。続いて、濾過を行ってナノチューブを回収し、それをエタノールに水酸化カリウムを溶解した溶液中に投入し、12時間に亘って超音波処理を施した。更に、再び濾過を行って回収したナノチューブに対して、真空中で、温度1100℃で、焼成処理を施すことによって、切断されたナノチューブの両端を閉塞させた。
【0216】
続いてその試料をトルエン中に分散させて、超音波処理を施した。こうして得られたチューブ状分子をSEM及びTEMを用いて調べたところ、その平均長さは約50〜60 nmであることが判明した。
具体例6.SWNTアレイを形成するアレイ形成工程
以上に説明した方法を用いて、長さが50〜60 nmの (10,10) ナノチューブ分子を約106個生成した。それら分子に修飾処理を施して、各分子の一端に -SH基を付加することによって、金メッキ基板上にSWNT分子から成るSAM分子アレイが形成されるようにした。このSAM分子アレイにおいては、チューブ状のSWNT分子の長手方向軸心が互いに平行に揃っており、また、それら分子の先端によって、それら分子の長手軸の方向に垂直な平面が形成されていた。
具体例7.一様連続形の巨大カーボン・ファイバの成長工程
具体例6に説明したアレイを使用することで、図6及び図7に示した装置において、一様連続形の巨大カーボン・ファイバを成長させることができる。先ず、そのアレイを構成している複数本のナノチューブの先端(それら先端は、それらナノチューブの長手方向軸心に対して垂直な平面を形成している)を開く。金メッキ基板の表面にナノチューブの2次元アレイが形成されている場合には、その2次元アレイを正極として、0.1 MのKOH水溶液中で電解侵蝕処理を行うことによって、それらナノチューブの先端を開くことができる。
【0217】
続いて、真空蒸着法を用いて、Ni/Coの金属クラスタを、そのSAMナノチューブ・アレイを構成している夫々のナノチューブの開いた端部に載るように形成した。この場合、その金属クラスタを、直径が1 nmになるように形成することが好ましく、そのようにすれば、ナノチューブ・アレイを構成している夫々のナノチューブの開いた端部に、1本のナノチューブに1個ずつのNi/Coクラスタのナノ粒子を載せることができる。
【0218】
続いて、Ni/Coナノ粒子で上端の開口を閉塞したそれらナノチューブから成るナノチューブ・アレイを、真空中で、600℃に加熱する高温処理を行い、この高温処理によって、カーボン・ナノチューブ及びNi/Coナノ粒子以外の、その他全てのものを消滅させる。この高温処理を完了した後に、エチレン・ガスを流し始めると、それらナノチューブが、それらの整列した長手軸心方向に伸び始め、巨大な直径のカーボン・ファイバが形成される。Ni/Co触媒粒子の殆どが不活性化したならば、電気化学的エッチング処理によって、夫々のナノチューブの上端を開き、それらナノチューブと基板とから成るアセンブリの全体を再度洗浄し、そして、上述の蒸着工程を再度実行してNi/Co触媒粒子をナノチューブの上端に載せた上で、アレイの成長工程を再開すればよい。以上の方法により、直径が約1μmの一様連続形のカーボン・ファイバが得られ、これを、室温下で、連続的に巻取ローラに巻取って回収すればよい。
具体例8.フラーレン・パイプ及びフラーレン・カプセルの生成工程
先ず、直径が2.5 cmで、長さが5 cmの円筒形のターゲットを装置に装着して、単層フラーレン・ナノチューブを調製した。このターゲットは、炭素材料を主成分とする材料(コバルト及びニッケルを1:1の割合で混合した混合金属材料を2原子%含有している)で製作したものであり、このターゲットを、直径10 cmの溶融シリカ管の中に配設した。溶融シリカ管の中にアルゴンを流し(圧力は500 Torr、流速は2 cm sec-1とした)、溶融シリカ管を1100℃に加熱し、その中でターゲットを、その円筒形の主軸を中心として回転させるようにした。2本のパルス・レーザ・ビーム(Nd:YAG、1064 nm、パルス1個あたりエネルギ1 J、パルス射出速度30回/秒、遅延時間40 ns)を、回転しているドラム形ターゲットの外周面に、直径が7 mmの照射スポットが形成されるように合焦状態を設定して、コンピュータ制御によって左右に偏向させることで、ドラム形ターゲットの長手方向に走査させるようにし、ターゲット表面への入射角が変化するようにすることで、ターゲットの表面に深いくぼみが形成されるのを回避するようにした。この方法によって、2日間の連続運転で20 gもの試料が得られた。高収量であることが、この方法の利点である。
【0219】
以上の装置によって生成した生試料に対して、続いて精製処理を施した。この精製処理は、生試料を硝酸水溶液に投入し、還流を行った後に、Triton X-100界面活性剤を溶解したpH = 10の水溶液で洗浄するという方法で行った。この方法で精製して得られる精製フラーレン・ファイバの正味収率は、生試料の段階での初期品質に左右されるが、通常は、10〜20重量%の範囲内の値となる。フラーレン・ファイバは、その側壁が分子レベルでの完全性を備えているという特質を有するため、還流処理によって破壊されてしまうということがない。
【0220】
以上によって得られたフラーレン・ロープは、互いに高度に絡まり合ったものであった。それら絡まり合ったフラーレン・ロープによって、至る所にフラーレン・トロイド(これは「クロップ・サークル(ミステリー・サークル)」とも呼ばれている)が形成されているのが認められた。これは、フラーレン・ロープどうしが連なってエンドレスになっていることを示唆している。フラーレン・ロープどうしが連なるのは、レーザ/オーブン生成法でフラーレン・ナノチューブを生成する際に、高収率の成長プロセスがアルゴン雰囲気中で進行し、その成長プロセスの進行中に、あるフラーレン・ロープの「成長中」の先端と、別のフラーレン・ロープの側面との間に、ファン・デル・ワールス力が働くからである。成長するフラーレン・ロープは、既存のフラーレン・ロープ(案内ロープ)の側面に寄り添って成長しようとするため、同一の案内ロープの側面に沿って、互いに逆方向から2本のフラーレン・ロープが成長してくると、それらロープの成長中の先端どうしが衝突し、それらが接続することによって先端が消滅する。ロープの成長が一次元的であるため、この先端どうしの衝突は避けようがない。
【0221】
このように互いに絡まり合って略々エンドレスになっているフラーレン・ロープ群に端部を形成した。端部を形成するための技法には、鋏でロープを切断するという方法から、相対論的速度を有する高速の金イオンをロープ群に打ち込むという方法まで、数多くの方法があるが、この具体例では、例えばH2SO4/HNO3等の、強い酸化性を有する酸の存在下で超音波処理を行うことによってロープを切断する方法を採用した。超音波により発生するキャビテーションによって、ロープの表面に位置するナノチューブに局部的損傷が発生し、その局部的損傷によって活性化されたナノチューブが、強い酸化性を有する酸から化学的アタックを受けるようになる。酸がそのナノチューブをアタックしているうちに、そのナノチューブは完全に切断され、切断されたならば、その切断によって形成された開いた端部から侵蝕されて徐々に短くなって行く。このとき、温度はそれほど高温にしていないため、ナノチューブの開いた端部は閉じることができない。更に、ロープの表面に位置するナノチューブが切断されたならば、その下に位置していたナノチューブが露出し、その露出したナノチューブがキャビテーションによって損傷を受けるということが繰り返され、ついにはロープ全体が切断される。以上の方法でロープを切断した。また、このようにロープを切断することによって切断されたナノチューブの切片(切断ナノチューブ)を、更に、強い酸化性を有する酸に暴露することによって、分子レベルでの完全性を備えた切断ナノチューブだけを残すと共に、それら切断ナノチューブを化学的に清浄な状態にした。
【0222】
端部が開いた切断ナノチューブの長さ分布は、その酸に暴露する時間を長くするほど短い側へと移動する。切断ナノチューブを、温度70℃の、濃硫酸と濃硝酸を3:1の割合で混合した溶液中に投入して調べたところ、切断ナノチューブの平均短縮速度は約130 nm hr-1であった。また、温度70℃の、濃硫酸と過酸化水素30%水溶液とを4:1の割合で混合した溶液(いわゆる「ピラニア」)中での平均短縮速度は約200 nm hr-1であった。この侵蝕速度は、ナノチューブのキラル・インデックス (n,m) によって異なり、それは、「アームチェア形」ナノチューブ (n = m) はいずれも、その化学的特性が「ジグザグ形」ナノチューブ (m = 0) の化学的特性とは明らかに相違しており、また、それほど顕著な相違ではないにしても、中間螺旋角のナノチューブ (n≠m) の化学的特性も、それらの化学的特性とは相違しているからである。
【0223】
以上のようにして得られた切断フラーレン・ナノチューブの試料を、硫酸ドデシルナトリウム等の界面活性剤、またはTriton X-100等の非イオン系界面活性剤を加えた水に投入すると、その界面活性剤の働きによって安定コロイド懸濁液が得られる。このようにして得られた懸濁液中のフラーレン・ナノチューブを、その長さに従って分離した。
【0224】
分離して得られた切断ナノチューブを、黒鉛の表面に付着させて、そのAFM画像解析を行ったところ、個々に独立して存在しているナノチューブも少なくはないものの、大部分のナノチューブはファン・デル・ワールス力によってくっつき合っていることが判明した。長さが100 nm以上のナノチューブは、その端部を半球状フラーレン・エンド・キャップで閉塞することができる。そして、真空中で、温度1000〜1200℃で、アニール処理を施すことで、閉じたフラーレン・カプセルを形成することができる。
具体例9.フラーレン・パイプ及びフラーレン・カプセルの生成工程及び精製工程
図16A〜図16Cについて説明すると、図16Aは生試料の状態のSWNTフェルト試料のSEM画像であり、図16B及び図16Cは、同じSWNTフェルト試料を精製試料にしたもののSEM画像である。生試料は精製工程の出発物質であり、この生試料が余りにも低品質であることがそれらの図から見て取れるが、このことは、以下に説明する精製工程の有効性を裏付けるものである。この精製工程では、先ず、生試料のサンプル(8.5 mg)を、2.6 Mの硝酸水溶液1.2リットルの中に投入し、45時間に亘って還流を行った。この水溶液をPTFE遠心装置の試験管に移し、2400 Gの加速度が加わるように設定して2時間に亘って遠心装置を回転させた。上澄みの酸を捨てて脱イオン水を加え、強く振盪して固形成分を再び懸濁させ、再び遠心分離にかけて液体成分を捨て去り、固形成分を回収した。続いて、1.8リットルの水に20 mlのTriton X-100界面活性剤を加え、水酸化ナトリウムでpH調整を行ってpH 10にした水溶液に、その固体成分を投入して再び懸濁させた。この懸濁液を接線方向流濾過システム(米国、カリフォルニア州、Laguna Hillsに所在のSpectrum社製のMiniKros Lab Systemを使用した)のリザーバへ移した。このとき使用したフィルタ・カートリッジ(Spectrum社製のM22M 600 0.1Nフィルタ・カートリッジ)は、混成セルロース・エステルの中空ファイバを用いたものであり、中空ファイバの直径は0.6 mm、その細孔の直径は200 nm、その全表面積は5600 cm2であった。緩衝液として0.2重量%のTriton X-100水溶液を44リットル用意し、そのうちの初期に使用する34リットルは水酸化ナトリウムで塩基性(pH 10)に調整し、終期に使用する10リットルはpH 7に調整しておいた。フィルタ・カートリッジへの流入圧は6 psiに維持するようにした。また、その流出口に装備した制御弁によって、流出速度を70 ml min-1までに制限するようにした。以上の設定で濾過を行った結果、精製SWNTの安定懸濁液が得られた。この精製SWNTのSEM画像は、通常、図16Bに示したようなものとなる。この懸濁液を濾過して固形成分を回収し、それによって、絡まり合ったSWNTから成るペーパー状物質が得られた。このペーパー状物質は、その外観も手触りも、カーボン・ペーパーによく似ていた。図16CのSEM画像は、この「バッキー・ペーパー」を破いたときの破れ目を示したものであり、この画像からは、バッキー・ペーパーを破る過程で、SWNTロープを形成しているファイバの方向がかなりの程度まで揃うことが分かる。出発物質である余りにも低品質の粗製SWNTに対する、この精製SWNTの総合収率は、9重量%であった。
【0225】
図17は、安定コロイド懸濁液中の切断フラーレン・ナノチューブ(パイプ)を電着法を用いて高配向熱分解黒鉛(HOPG)の表面に付着させたものの、テーピング・モードAFM画像である。この画像中の切断フラーレン・ナノチューブは、その延在方向が互いに120℃の角度を成す傾向を示している。これは、それら切断ナノチューブが、それらの下に存在している黒鉛格子の向きに沿って延在しているからである。それら切断ナノチューブの高さを、AFM測定したところ、それらは直径が1〜2 nmのナノチューブであり、約半数は単独で存在しているが、残りの半数はファン・デル・ワールス力によってくっつき合い、集団を形成して存在していることが分かった。かかる切断ナノチューブは、2段階の工程を経て調製したものであり、2段階の工程とは、切断工程及びポリッシュ工程である。典型的な具体例は次の通りである。先ず、容量100 mlの試験管に、濃硫酸と濃硝酸を3:1の割合で混合した混合酸を40 ml入れ、その中に10 mgの精製SWNTから成る「バッキー・ペーパー」(図16Bに示したもの)を投入し、35〜40℃の温度で、24時間に亘って、水浴中で超音波処理を施して(この処理はCole Palmer社製のB3-R型超音波処理装置を、55 kHzに設定して行った)懸濁させた。こうして得られた懸濁液を200 mlの水で希釈し、ポア・サイズが100 nmのフィルタ・メンブレン(米国、マサチューセッツ州、Bedfordに所在のMilLipore 社製のVCTP型メンブレン)を用いて濾過することにより、切断SWNTナノチューブのうちの比較的長いものを、そのフィルタ・メンブレン上に捕捉した。更に、捕捉したナノチューブを10 mMのNaOH水溶液で洗浄した。続いて、こうして得られた切断ナノチューブに対して、ポリッシュ処理(化学的洗浄処理)を施した。このポリッシュ処理においては、先ず、濃硫酸と過酸化水素30%水溶液を4:1の割合で混合した溶液中に、切断ナノチューブを投入し、70℃で、30分間に亘って攪拌して懸濁させた。続いて、ポア・サイズが100 nmのフィルタ・メンブレンを用いて再び濾過を行い、洗浄を行い、0.5重量%のTriton X-100界面活性剤を加えた水中に分散させて、0.1 mg/mlの濃度の切断ナノチューブの懸濁液を調製した。新たに開裂させたHOPG基板上に(米国、オハイオ州、Clevelandに所在のAdvanced Ceramics社製の基板を使用した)、このナノチューブ懸濁液を20μl滴下し、その液滴をVitronのOリング(外径4 mm、厚さ1.7 mm)で囲み、更に、そのOリング上にステンレス鋼製の電極をかぶせてその懸濁液を封止し、1.1 Vの安定電圧を6分間に亘って印加した。ナノチューブは、水中に分散して懸濁しているときには負に帯電しているため、印加された電界によってHOPGの表面へ移動させられる。こうして電着が完了した後に、HOPGの表面にナノチューブが付着したものを、スピン式コーティング装置に装着し、その表面をメタノールで洗浄することによって、水及びTriton X-100界面活性剤を除去した。
【0226】
図18は、切断フラーレン・ナノチューブである「パイプ」を水中に分散させた懸濁液の、フィールド・フロー・フラクショネーション(FFF)の結果を示したグラフである。Triton X-100の0.5 % 水溶液中に、切断ナノチューブを0.07 mg/mgの濃度で分散させた懸濁液を調製し、十字流型FFF装置(米国、ユタ州、Salt Lake Cityに所在のLLC社製のF-1000-FO型FFフラクショネーション装置を使用した)に、この懸濁液を20μl注入した。このFFF装置の運転条件は、Triton X-100の0.007 %水溶液を移動相とし、その流量を2 ml min-1に設定し、また、十字流の流量を0.5 ml min-1に設定した。図18A中の、実線の曲線(左側縦軸)は、溶出するナノチューブの量を、光の散乱度、即ち、混濁度(光の波長は632.8 nmとした)で表し、その値を溶出開始時からその時点までに注入した溶離液の総注入体積量に対して示した曲線である。また、白抜きの丸印(右側縦軸)は、ナノチューブの回転運動半径の測定値をプロットしたものであり、それら測定値は、角度16段階切換式の光散乱装置を用いて測定した(米国、カリフォルニア州、Santa Barbaraに所在のWyatt Technology社製のDAWN DSPを使用した)。図18B、図18C、及び図18Dは、夫々、FFF溶出液の、第1分画、第3分画、及び第4分画のナノチューブ長さ分布を示したグラフであり、それら分布は、図17に示したような、懸濁液中のフラーレン・ナノチューブを電着によってHOPGの表面に付着させたもののAFM画像を利用して求めたものである。
【0227】
図19はAFM画像であり、1本のフラーレン・ナノチューブの「パイプ」の両端に1個ずつ、直径が10 nmの球形の金粒子を連結鎖によって結合したものを示している。この画像に示したナノチューブは、ナノチューブとコロイド状金粒子(Sigma Chemical社製のものを使用した)とを混合した懸濁液から、電着法を用いて、HOPG黒鉛の表面に付着させたものである。この画像中に不規則な形状の模様として現れているのは、懸濁液を安定化するために用いたTriton X-100界面活性剤の残滓の付着痕である。ナノチューブと金粒子との間の連結鎖は、ナノチューブの開いた両端の各々に共有結合したアルキルチオール鎖によって構成されている。ナノチューブの開いた両端は、前段階の処理工程で酸による侵蝕が施されているため、多くのカルボキシル基が結合していると考えられ、それらカルボキシル基を、SOCl2と反応させて、夫々のカルボキシル基に対応したカルボン酸塩化物に転換させるようにした。この修飾処理を施したナノチューブを、続いて、トルエン中に溶解したNH2-(CH2)16-SHに暴露することで、好適な連結鎖を形成することができた。この連結鎖は、その中のチオール基が、金粒子と強力に共有結合する結合サイトとなっている。入念なAFM画像解析の結果、この修飾処理を施したナノチューブの大部分は、その両端の少なくとも一方に、1個の金粒子が結合されていることが確認された。
具体例10.カーボン・ナノチューブを配合した複合材料
1リットルのジクロロエタンに「Epon」という商品名のエポキシ材料を10 g溶解したものに、1 gの精製単層フラーレン・ナノチューブを分散させて、懸濁液を調製した。この懸濁液に硬化剤を投入し、溶剤分を真空ロータリ・エバポレータで除去した。こうして得られたフラーレン・ナノチューブとエポキシ材料とから成る複合材料を、24時間に亘って100℃に維持することで硬化させた。
【0228】
別法として、カーボン・ファイバ及びフラーレン・ナノチューブを共に配合した複合材料を製作することも可能である。この場合には、上述の、ジクロロエタン、エポキシ材料、及びナノチューブから成る懸濁液を大型容器に入れておき、1本ないし複数本の一様連続形カーボン・ファイバ、またはカーボン・ファイバを織って製作した1本ないし複数本のカーボン・ファイバ・テープを、その懸濁液にくぐらせて、懸濁液を含浸させる。続いて、懸濁液を含浸させたカーボン・ファイバないしカーボン・ファイバ・テープを、所望の形状の型枠に巻き付け、更にそれを、カーボン・ファイバ−エポキシ複合材料の業界では公知の方法(これについては例えば、D.L. Chung著、Carbon Fiber Composites (1994) を参照されたい)に従って、オートクレーブの中で硬化させることによって、層間剥離に対する優れた耐性を有する複合材料が得られる。この複合材料中のフラーレン・ナノチューブは、多層のカーボン・ファイバ層の、層間のエポキシ材料の強度を高める役割を果たしている。また、カーボン・ファイバを、織物テープ層の材料として使用するばかりでなく、エポキシ材料相の中に絡み合った状態で配合するナノチューブの強化材もカーボン・ファイバ製のものとすれば、それによっても優れた複合材料が得られる。
【0229】
当業者であれば、以上の詳細な説明から、本明細書中に開示した方法、装置、組成物、及び製造物の変更実施形態ないし改変実施形態にも、容易に想到し得ることはいうまでもなく、請求項の範囲は、そのような変更実施形態や改変実施形態をも包含するように記載したものである。
【図面の簡単な説明】
【0230】
【図1】本発明を実施するための装置の略図である。
【図2】複合棒材ターゲを蒸気化するための二つの異なるレーザーパルスを使用する本発明を実施するための装置の略図である。
【図3A】本発明による精製した単層カーボンナノチューブの透過型電子顕微鏡法(TEM)のスペクトルであり;
【図3B】本発明による精製した単層カーボンナノチューブの走査型電子顕微鏡法(SEM)のスペクトルであり;
【図3C】本発明による精製した単層カーボンナノチューブのラマンスペクトルであり;
【図4】本発明による均一な単層カーボンナノチューブ分子配列の一部を模式的に表すものであり;
【図5】本発明による不均一な単層カーボンナノチューブ分子配列の一部を模式的に表すものであり;
【図6】本発明による繊維成長室装置を模式的に表すものであり;
【図7】本発明による繊維圧力均等化兼収集域を模式的に表すものであり;
【図8】本発明による複合配列であり;
【図9】本発明による複合配列であり;
【図10】本発明による電力伝送ケーブルであり;
【図11】本発明による双安定性の非揮発性ナノスケール記憶デバイスを模式的に表すものであり;
【図12】図11のメモリービットの各双安定状態に対応するエネルギーウエル(well)を表わすグラフであり;
【図13】本発明によるリチウムイオン二次電池を模式的に表わすものであり;
【図14】本発明によるリチウムイオン電池の陽極であり;
【図15A】単層カーボンナノチューブ類の中倍率透過型電子顕微鏡画像であり;
【図15B】隣接単層カーボンナノチューブ類の高倍率画像であり;
【図15C】隣接単層カーボンナノチューブ類の高倍率画像であり;
【図15D】隣接単層カーボンナノチューブ類の高倍率画像であり;
【図15E】7本の隣接単層カーボンナノチューブの断面の高倍率画像であり;
【図16A】粗単層フラーレンナノチューブフェルトの走査型電子顕微鏡(SEM)画像であり;
【図16B】精製後の図16の単層フラーレンナノチューブフェルト物質のSEM画像であり;
【図16C】単層フラーレンナノチューブフェルトの引き裂き後に得られた単層ナノチューブロープ繊維類の実質的な整列のSEM画像であり;
【図17】高度に配向した熱分解グラファイト上に堆積した切断フラーレンナノチューブの原子間力顕微鏡(AFM)画像であり;
【図18A】切断ナノチューブ懸濁液の電界流れ分別[field flow fractionation (FFF)]のグラフであり;
【図18B】三つの収集物についてAFMで測定したフラーレンナノチューブ長の分布を表わし;そして
【図18C】FFF溶出液の、第1分画、第3分画、及び第4分画のナノチューブ長さ分布を示したグラフであり;
【図18D】FFF溶出液の、第1分画、第3分画、及び第4分画のナノチューブ長さ分布を示したグラフであり;そして
【図19】二つの10ナノメートルの金球につながれたフラーレンナノチューブ「パイプ」のAFM画像を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層カーボンナノチューブおよび無定形炭素汚染物質を含む混合物を精製する方法であって、前記方法が
(a)前記無定形炭素を除くのに十分な酸化条件下で、前記混合物を加熱し、そして
(b)少なくとも約80重量%の単層カーボンナノチューブを含む生成物を回収する、
工程を含む方法。
【請求項2】
前記酸化条件が無機オキシダントの水溶液を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記無機オキシダントが硝酸、硫酸と過酸化水素との混合物、過マンガン酸カリウムおよびそれらの混合物からなる群から選ばれる請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記水溶液を還流下に加熱する請求項2記載の方法。
【請求項5】
工程(b)の該酸化生成物をけん化処理に付する工程をさらに含む請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記けん化処理が、前記生成物を塩基性溶液と接触させることを含む請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記塩基性溶液が水酸化ナトリウムを含む請求項6記載の方法。
【請求項8】
該けん化物を酸で中和する工程をさらに含む請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記酸が塩酸である請求項8記載の方法。
【請求項10】
該けん化、中和生成物から固体生成物を回収する工程をさらに含む請求項8記載の方法。
【請求項11】
濾過、重力沈降、化学凝集法、および液体サイクロン分離からなる群から選ばれる方法によって前記生成物を回収する請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記生成物が紙のような二次元生成物である請求項10記載の方法。
【請求項13】
該生成物を乾燥する工程をさらに含む請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記生成物を水素ガス雰囲気中で約850℃において乾燥する請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記生成物が少なくとも約90重量%の単層カーボンナノチューブを含む請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記生成物が少なくとも約95重量%の単層カーボンナノチューブを含む請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記生成物が少なくとも約99重量%の単層カーボンナノチューブを含む請求項1記載の方法。
【請求項18】
長さが約5ないし500nmの管状炭素分子の製造法であって、前記方法が
(a)単層ナノチューブ含有材料を切断して、長さが5−500nmの範囲に ある管状炭素分子の混合物を作り;
(b)前記管状炭素分子混合物から、長さが実質的に等しい前記分子の一部を 単離する
工程を含む方法。
【請求項19】
管状炭素分子への前記単層ナノチューブ切断が、
(a)長さが最大約1ミクロン以上の単層ナノチューブを含有する実質的に二 次元のタ−ゲット(target)を形成し、そして
(b)前記ターゲットに高質量イオンの高エネルギービームを照射する
工程を含む請求項18記載の方法。
【請求項20】
高エネルギービームがサイクロトロンで生成され、かつ約0.1ないし約10GeVのエネルギーを有する請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記高質量イオンが約150AMUを上回る質量を有する請求項19記載の方法。
【請求項22】
前記高質量イオンが金、ビスマスおよびウランからなる群から選ばれる請求項21記載の方法。
【請求項23】
該高質量イオンがAu+33である請求項22記載の方法。
【請求項24】
管状炭素分子への前記単層ナノチューブ切断が、
(a)媒質中に単層ナノチューブの懸濁液を生成させ;
(b)前記懸濁液を音響エネルギーで超音波処理する
工程を含む請求項18記載の方法。
【請求項25】
40KHzで操作し、そして20Wの出力を有する装置によって前記音響エネルギーを生成させる請求項24記載の方法。
【請求項26】
管状炭素分子への前記単層ナノチューブ切断が濃HNO3中で単層ナノチューブ材料を還流させることを含む請求項18記載の方法。
【請求項27】
該管状炭素分子を加熱して少なくともその1つの底面に半球状フラーレンキャップを形成させる工程をさらに含む請求項19記載の方法。
【請求項28】
前記管状炭素分子を、該反応条件において、前記管状炭素分子の前記底面の少なくとも1つに少なくとも1つの置換基をもたらす材料と反応させる工程をさらに含む請求項18記載の方法。
【請求項29】
前記管状炭素分子を、該反応条件において、前記管状炭素分子の前記底面の少なくとも1つに少なくとも1つの置換基をもたらす材料と反応させる工程をさらに含む請求項26記載の方法。
【請求項30】
前記置換基が、それぞれ独立して水素;アルキル、アシル、アリール、アラールキル、ハロゲン;置換または無置換チオール;無置換または置換アミノ;ヒドロキシ;およびOR′(式中R′は水素、アルキル、アシル、アリール、アラールキル、無置換または置換アミノ;置換または無置換チオール;およびハロゲンからなる群から選ばれる);ならびに任意に1個以上のヘテロ原子で遮断され、そして任意に1個以上の=O、もしくは=S、ヒドロキシ、アミノアルキル基、アミノ酸、またはアミノ酸が2−8個のペプチドで置換される線状または環状炭素鎖からなる群から選ばれる請求項28または29記載の方法。
【請求項31】
管状炭素分子の巨視的分子配列を形成させる方法であって、前記方法が、 (a)50ないし500nmの範囲の実質的に同じ長さの少なくとも約106 個の管状炭素分子をもたらし;
(b)前記管状炭素分子の少なくとも1つの底面に結合部分を導入し;
(c)前記結合部分が結合する材料を塗布した基質をもたらし;そして
(d)結合部分を含有する前記管状炭素分子を前記基質と接触させる
工程を含む方法。
【請求項32】
前記基質が金、水銀およびインジウム−スズ−酸化物からなる群から選ばれる請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記結合部分が−S−、−S−(CH2)n−NH−、および−SiO3(CH2)3NH3からなる群から選ばれる請求項32記載の方法。
【請求項34】
管状炭素分子の巨視的分子配列を形成させる方法であって、前記方法が、 (a)基質上にナノスケール配列のミクロウェル(microwell)をも たらし;
(b)前記ミクロウェルのそれぞれに金属触媒を載置し;そして
(c)各ミクロウェルから単層カーボンナノチューブの成長を行わせる条件で 炭化水素またはCO原料ガス流を前記基質に給送する
工程を含む方法。
【請求項35】
前記ミクロウェルから成長する前記ナノチューブの整列を助けるために前記基質の近傍に電界を付与する工程をさらに含む請求項34記載の方法。
【請求項36】
管状炭素分子の巨視的分子配列を形成させる方法であって、前記方法が、 (a)精製されてはいるが、もつれて比較的輪になっている単層カーボンナノ チューブ材料を含有する表面を生じさせ;
(b)破損した短い長さのナノチューブを前記表面から突出させるのに十分な 酸化条件下に前記表面をおき;そして
(c)前記表面から突出する前記ナノチューブを前記表面に概ね垂直の方向に 整列させ、そしてファンデルワールス相互作用力によって配列中に融合 を生じさせるように前記表面に電界を付与する
工程を含む方法。
【請求項37】
前記酸化条件が、酸素およびCO2の雰囲気中で前記表面を約500℃に加熱することを含む請求項36記載の方法。
【請求項38】
管状炭素分子の巨視的分子配列を形成させる方法であって、前記方法が、最大106個の単層カーボンナノチューブのサブ配列を複合材料配列に集成する工程を含む方法。
【請求項39】
すべての該サブ配列が同種のナノチューブを有する請求項38記載の方法。
【請求項40】
該サブ配列が異種のナノチューブを有する請求項38記載の方法。
【請求項41】
請求項31、34または36記載のいずれか1つの方法によって該サブ配列を作る請求項38記載の方法。
【請求項42】
概ね平行方向にある少なくとも約106個の単層ナノチューブを含む巨視的炭素繊維を絶えず成長させる方法であって、前記方法が、
(a)概して平行方向にあって、約50ないし約500ナノメートルの範囲の 実質的に同じ長さを有する少なくとも約106個の管状炭素分子の巨視 的分子配列を生じさせ;
(b)前記配列中の該管状炭素分子の該上端から該半球状フラーレンキャップ を除去し;
(c)前記配列中の該管状炭素分子の前記上端を少なくとも1つの触媒金属と 接触させ;
(d)前記配列の端部に局部エナネルギーを加えて前記端部を約500℃ない し約1300℃の範囲の温度に加熱する間中、前記配列の端部に炭素の ガス源を供給し;そして
(e)成長しつつある炭素繊維を連続的に回収する
工程を含む方法。
【請求項43】
酸化性雰囲気中で加熱することによって前記フラーレンキャップを取り除く請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記酸化性雰囲気が、酸素およびCO2の雰囲気中で約500℃の温度において硝酸による水性エッチングまたは気相エッチングを含む請求項43記載の方法。
【請求項45】
前記触媒金属が第VIII族遷移金属、第VI族遷移金属、ランタニド系列金属、アクチニド系列金属、およびそれらの混合物からなる群から選ばれる請求項42記載の方法。
【請求項46】
前記触媒金属がFe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPtからなる群から選ばれる請求項45記載の方法。
【請求項47】
前記触媒金属がFe、NiおよびCoならびにそれらの混合物からなる群から選ばれる請求項46記載の方法。
【請求項48】
前記触媒金属がCr、Mo、およびWからなる群から選ばれる請求項45記載の方法。
【請求項49】
前記触媒金属を金属原子クラスターとして現場で各ナノチューブ上に載置する請求項42記載の方法。
【請求項50】
前記金属原子クラスターが約10ないし約200個の金属原子を有する請求項49記載の方法。
【請求項51】
前記触媒金属を予備成形ナノ粒子として載置する請求項42記載の方法。
【請求項52】
前記触媒金属がMoである請求項51記載の方法。
【請求項53】
前記触媒金属を前記金属の塩類、酸化物および錯体からなる群から選ばれる金属前駆物質の形で載置する請求項42記載の方法。
【請求項54】
金属原子を蒸発させ、そしてそれを前記ナノチューブ開放端部に凝縮させ融合させることによって前記触媒金属を載置する請求項42記載の方法。
【請求項55】
前記触媒金属を含有するワイヤ(単数および複数)を加熱することによって前記蒸発を行う請求項54記載の方法。
【請求項56】
前記蒸発を分子線蒸発によって行う請求項54記載の方法。
【請求項57】
炭素のガス源が炭化水素および一酸化水素からなる群から選ばれる請求項42記載の方法。
【請求項58】
前記炭化水素が1ないし7個の炭素原子を有するアルキル、アシル、アリールおよびアラールキルからなる群から選ばれる請求項57記載の方法。
【請求項59】
前記炭化水素がメタン、エタン、エチレン、アセチレン、アセトン、プロパン、プロピレンおよびそれらの混合物である請求項58記載の方法。
【請求項60】
前記局部エネルギーがレーザー光線によって与えられる請求項42記載の方法。
【請求項61】
前記局部エネルギーがマイクロ波発生機、R−Fコイルおよび太陽熱集中装置からなる群から選ばれる源によって与えられる請求項42記載の方法。
【請求項62】
前記端部を約900℃から約1100℃の範囲の温度に加熱する請求項42記載の方法。
【請求項63】
少なくとも約80重量%の単層カーボンナノチューブを含む材料組成物。
【請求項64】
少なくとも約90重量%の単層カーボンナノチューブを含む請求項63記載の組成物。
【請求項65】
少なくとも約95重量%の単層カーボンナノチューブを含む請求項63記載の組成物。
【請求項66】
少なくとも約99重量%の単層カーボンナノチューブを含む請求項63記載の組成物。
【請求項67】
少なくとも約80重量%の単層カーボンナノチューブを含む実質的に二次元の物品。
【請求項68】
少なくとも約90重量%の単層ナノチューブを含む請求項67記載の物品。
【請求項69】
少なくとも約95重量%の単層ナノチューブを含む請求項67記載の物品。
【請求項70】
少なくとも約99重量%の単層ナノチューブを含む請求項67記載の物品。
【請求項71】
紙のような材料の形をなす請求項67記載の物品。
【請求項72】
下記の構造を有する管状炭素分子:
【化1】
ここに、
【化2】
は約102ないし106個の炭素原子を有する実質的に無欠陥の管状グラフェン(gra phen)シート(任意に非炭素原子でドープされる)であり;
ここに、
【化3】
は少なくとも6個の五角形および残りの六角形を有する半球形フラーレンキャップであり;
nは、0から30の数であり;そして
R,R1、R2、R3、R4およびR5はそれぞれ独立して水素;アルキル、アシル、アリール、アラールキル、ハロゲン、置換または無置換チオール、無置換または置換アミノ、ヒドロキシ、およびOR′(式中R′は、水素、アルキル、アシル、アリール、アラールキル、無置換または置換アミノ、置換または無置換チオール;およびハロゲンからなる群から選ばれる);ならびに任意に1個以上のヘテロ原子で遮断され、そして任意に1個以上の=O、もしくは=S、ヒドロキシ、アミノアルキル基、アミノ酸、またはアミノ酸が2−8個のペプチドで置換される線状または環状炭素鎖からなる群から選ぶことができる。
【請求項73】
前記グラフェンシートが(n,n)単層カーボンナノチューブに対応する構造を有する請求項72記載の分子。
【請求項74】
前記分子が約5ないし約1000nmの長さを有する請求項72記載の分子。
【請求項75】
前記分子が約5ないし約500nmの長さを有する請求項74記載の分子。
【請求項76】
nが0ないし12である請求項72記載の分子。
【請求項77】
少なくとも1個のエンドヘドラル(endohedral)種をさらに含む請求項72記載の分子。
【請求項78】
前記エンドヘドラル種が金属原子、フラ−レン分子、他の小分子およびそれらの混合物からなる群から選ばれる請求項77記載の分子。
【請求項79】
C60、C70またはそれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のエンドヘドラル種を含有する(10,10)単層ナノチューブを含む請求項78記載の分子。
【請求項80】
前記C60またはC70が、金属原子および金属化合物からなる群から選ばれるエンドヘドラル置換基をさらに含有する請求項79記載の分子。
【請求項81】
概ね平行状態にあって約5から約500ナノメートルの範囲の実質的に同じ長さを有する少なくとも約106個の単層カーボンナノチューブを含む巨視的分子配列。
【請求項82】
前記ナノチューブが同じ種類である請求項81記載の配列。
【請求項83】
前記ナノチューブが(n,n)タイプである請求項82記載の配列。
【請求項84】
前記ナノチューブが(10,10)タイプである請求項83記載の配列。
【請求項85】
前記ナノチューブが(m,n)タイプである請求項83記載の配列。
【請求項86】
前記ナノチューブが種々のタイプを有する請求項81記載の配列。
【請求項87】
前記配列の一端に結合させそして前記配列中の該ナノチューブに対して実質的に直角に向けた基質をさらに含む請求項81記載の配列。
【請求項88】
前記基質がバッキーペーパー(bucky paper)表面である請求項87記載の配列。
【請求項89】
前記基質が金、水銀およびインジウム−スズ−酸化物からなる群から選ばれる金属層である請求項87記載の配列。
【請求項90】
ナノチューブの中心部分が(n,n)タイプでナノチューブの外側部分が(m,n)タイプである請求項86記載の配列。
【請求項91】
概ね平行状態の少なくとも約106個の単層カーボンナノチュ−ブを含む巨視的炭素繊維。
【請求項92】
少なくとも約109個の単層カーボンナノチューブを含む請求項91記載の繊維。
【請求項93】
多数の請求項91記載の該繊維を含む複合繊維。
【請求項94】
請求項91記載の該繊維のセグメントを含む成長しつつある連続長(continuous length)炭素繊維の分子テンプレート(template)配列。
【請求項95】
少なくとも1ミリメートルの長さを有する請求項91記載の繊維。
【請求項96】
前記ナノチューブの大部分が(n,n)タイプである請求項91記載の繊維。
【請求項97】
前記ナノチューブのすべてが同種のものではない請求項91記載の繊維
【請求項98】
金属、ポリマー、セラミックおよびサーメットからなる群から選ばれるマトリックス材料を含み、前記マトリックスが少なくともその一部に性質を高める量の請求項91記載の該炭素繊維を埋封している製造複合物品。
【請求項99】
前記性質が構造的、機械的電気的、化学的、光学的、または生物学的である請求項98記載の複合物品。
【請求項100】
少なくとも1つの導体が請求項96記載の連続炭素繊維を含む高圧送電ケーブル。
【請求項101】
中心導体および同軸配設外側導体がいずれも炭素繊維で構成され、その間に絶縁層が配設されている請求項100記載の送電ケーブル。
【請求項102】
前記絶縁層が空隙である請求項101記載の送電ケーブル。
【請求項103】
前記絶縁層が、(m,n)タイプのカーボンナノチューブから作った絶縁炭素繊維および窒化六ホウ素ナノチューブから作った絶縁BN繊維ならびにそれらの混合物からなる群から選ばれる材料を含む請求項101記載の送電ケーブル。
【請求項104】
光子コレクター(photon collector)として請求項81記載の分子配列を含む、広域スペクトルの光エネルギーを電流に変えるための太陽電池。
【請求項105】
前記配列中の該ナノチューブの該上端にカップルされた光活性染料をさらに含む請求項104記載の太陽電池。
【請求項106】
請求項77記載の該エンドヘドラル装荷管状炭素分子を含む二安定性不揮発メモリビット(memory bit)。
【請求項107】
該管状炭素分子が(10,10)タイプのナノチューブで構成され、そして該エンドヘドラル種がC60またはC70フラーレン分子である請求項106記載のメモリビット。
【請求項108】
請求項106記載の該メモリビット、前記ビットを書き込む手段および前記ビットを読み取る手段を含む二安定性不揮発メモリデバイス。
【請求項109】
前記書き取る手段が、前記エンドヘドラル種を前記ビットの第1端から第2端に移行させるために前記ビットに正または負極性の電圧パルスを指向するように用いられるナノ回路素子を含む請求項108記載のメモリデバイス。
【請求項110】
前記ビットを読み取る前記手段が、
(a)第1の電圧(VRead)に対してバイアスさせ、そして前記ビットの読み取り端から離間させてその間に第1のギャップを形成させるように用いられる第1のナノ回路素子;および
(b)大地電圧(VG)に対してバイアスさせ、そして前記ビットの前記読み取り端から離間させて第2のギャップを形成させるように用いられる第2のナノ回路素子
を含み、そしてそれにより前記第1および第2のギャップを貫通する電流の存在によって前記エンドヘドラル種の存在が明に認められる請求項108記載のメモリデバイス。
【請求項111】
請求項81記載の分子配列を含む電気化学電池用微孔質アノード。
【請求項112】
請求項111記載のアノード、LiCoO2を含むカソードおよび非プロトン性有機電解質を含み、充電条件下で該アノードにリチウムのフラーレン挿入化合物(FIC)が生じるリチウムイオン二次電池。
【請求項113】
少なくとも約106個の単層カーボンナノチューブを含み前記ナノチューブの開放端に触媒金属を載置させている巨視的分子テンプレート配列から連続巨視的炭素繊維を生成させる装置であって、前記装置が、
(a)成長およびアニール帯域内で前記テンプレート配列中の前記ナノチューブの前記開放端のみを約500℃から約1300℃の範囲の温度に局部加熱する手段;
(b)前記テンプレート配列中の前記ナノチューブの前記加熱開放端に直に接する成長およびアニール帯域へ炭素含有原料ガスを供給する手段;および
(c)前記繊維の成長しつつある開放端を前記成長およびアニール帯域内に保ちながら、成長しつつある炭素繊維を前記成長およびアニール帯域から連続的に取出す手段
を含む装置。
【請求項114】
前記局部加熱手段がレーザーを含む請求項113記載の装置。
【請求項115】
排気手段によって真空に保たれる成長チャンバー内に密閉されている請求項113記載の装置。
【請求項116】
大気圧下において、前記連続的に製造される炭素繊維を通す真空供給固定帯域(vacuum feed lock zone)および巻取ロールをさらに含む請求項115記載の装置。
【請求項117】
(a)マトリックス;および
(b)前記マトリックス中に包埋されたカーボンナノチューブ材料
を含む複合材料。
【請求項118】
前記マトリックスがポリマーを含む請求項117記載の複合材料。
【請求項119】
前記ポリマーが熱硬化性ポリマーを含む請求項118記載の複合材料。
【請求項120】
前記熱硬化性ポリマーがフタル酸/マレイン酸系ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール樹脂、シアネート、ビスマレイミド、およびナド末端封鎖ポリイミドからなる群から選ばれる請求項119記載の複合材料。
【請求項121】
前記ポリマーが熱可塑性ポリマーを含む請求項118記載の複合材料。
【請求項122】
前記熱可塑性ポリマーがポリスルホン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリーレート、および液晶ポリエステルからなる群から選ばれる請求項121記載の複合材料。
【請求項123】
前記マトリックスが金属を含む請求項117記載の複合材料。
【請求項124】
前記マトリックスがセラミックを含む請求項117記載の複合材料。
【請求項125】
前記マトリックスがサーメットを含む請求項117記載の複合材料。
【請求項126】
前記カーボンナノチューブ材料が管状カーボンナノチューブ分子を含む請求項117記載の複合材料。
【請求項127】
前記カーボンナノチューブ材料が最大約103個のSWNTのロープ(rope)を含む請求項117記載の複合材料。
【請求項128】
前記カーボンナノチューブ材料が106個を上回るSWNTの繊維を含む請求項117記載の複合材料。
【請求項129】
補助的繊維材料をさらに含む請求項126、127、または128記載の複合材料。
【請求項130】
前記カーボンナノチューブ材料を変性して、前記マトリックス材料と相互作用させる請求項126、127、または128記載の複合材料。
【請求項131】
(a)マトリックス材料前駆物質を調製し;
(b)カーボンナノチューブ材料を前記マトリックス材料前駆物質と結合させ;そして
(c)前記複合材料を形成させる
ことを含むカーボンナノチューブ含有複合材料の製造法。
【請求項132】
前記形成工程以前に前記カーボンナノチューブ材料を前記マトリック材料前駆物質と結合させる請求項131記載の方法。
【請求項133】
前記形成工程中に前記カーボンナノチューブ材料を前記マトリックス材料前駆物質と結合させる請求項131記載の方法。
【請求項134】
前記形成工程の直後に前記カーボンナノチューブ材料を前記マトリックス材料前駆物質と結合させる請求項131記載の方法。
【請求項135】
前記マトリックス材料前駆物質を前記カーボンナノチューブ材料の予備成形装置の回りに流す請求項131記載の方法。
【請求項136】
(a)繊維材料の集成体を調製し;
(b)前記カーボンナノチューブ材料を前記繊維材料に加え;そして
(c)マトリックス材料前駆物質を前記カーボンナノチューブ材料および前記繊維材料に加える
ことを含むカーボンナノチューブ材料含有複合材料の製造法。
【請求項137】
前記繊維材料を二次元のシートに配列させ、そして前記カーボンナノチューブ材料の一部を前記シートに対して平行以外の方向に配向させる請求項136記載の方法。
【請求項138】
前記カーボンナノチューブ材料が管状カーボンナノチューブ分子を含む請求項131または136記載の方法。
【請求項139】
前記カーボンナノチューブ材料が最大約103個のSWNTのロープを含む請求項131または136記載の方法。
【請求項140】
前記カーボンナノチューブ材料が106個を上回るSWNTの繊維を含む請求項131または136記載の方法。
【請求項141】
誘導された単層カーボンナノチューブ分子から自己集合を行う三次元構造物であって、前記三次元構造物に集成された多数の多機能性単層カーボンナノチューブを含む三次元構造物。
【請求項142】
前記単層カーボンナノチューブがその端面キャップ上に多機能性誘導体を有する請求項141記載の三次元構造物。
【請求項143】
前記単層カーボンナノチューブが前記単層カーボンナノチューブ上の多くの位置に多機能性誘導体を有する請求項141記載の三次元構造物。
【請求項144】
ファンデルワールス吸引力の結果として前記単層カーボンナノチューブが集成される請求項141記載の三次元構造物。
【請求項145】
電磁気的性質を有する請求項141記載の三次元構造物。
【請求項146】
前記電磁気的性質が機能的に特定の薬剤によって測定される請求項141記載の三次元構造物。
【請求項147】
対称的である請求項141記載の三次元構造物。
【請求項148】
対称的ではない請求項141記載の三次元構造物。
【請求項149】
生物学的性質を有する請求項141記載の三次元構造物。
【請求項150】
生化学反応の触媒として作用する請求項149記載の三次元構造物。
【請求項151】
生体組織と相互作用する請求項149記載の三次元構造物。
【請求項152】
生体系の機能と相互作用させるための薬剤として働く請求項149記載の三次元構造物。
【請求項153】
少なくとも1つの単層カーボンナノチューブ導電素子を含み、前記少なくとも1つのナノチューブが所望の電流レベルおよび所望の電圧レベルに対して選ばれた長さを有する光捕集アンテナ(light harvesting antenna)。
【請求項154】
前記少なくとも1つの単層カーボンナノチューブがショットキー障壁(Schottky barrier)を形成する請求項153記載の光捕集アンテナ。
【請求項155】
請求項153記載の光捕集アンテナ配列。
【請求項156】
前記配列が自己集合によって形成される請求項155記載の光捕集アンテナ配列。
【請求項157】
少なくとも1つの単層カーボンナノチューブを含むモレキュラーエレクトロニクス成分(molecular electronic component)。
【請求項158】
前記モレキュラーエレクトロニクス成分が全波整流をもたらすためのブリッジ回路であり、前記ブリッジ回路が、
4個の単層カーボンナノチューブを含み、前記4個の単層カーボンナノチューブがそれぞれ正方形の一辺を形成して4個のバキーボール(buckyball)中の2個に結合され、前記4個のバキーボールがそれぞれ前記正方形の角に配設される
請求項157記載のモレキュラーエレクトロニクス成分。
【請求項159】
前記バキーボールおよび単層カーボンナノチューブが機能的に特定の結合剤を包含するように誘導される請求項158記載のブリッジ回路。
【請求項160】
フラーレンダイオードである請求項157記載のモレキュラ−エレクトロニクス成分。
【請求項161】
少なくとも1個の単層カーボンナノチューブを含むナノスケールマニプレータ−(nanoscale manipulator)。
【請求項162】
ナノホーセプツ(nanoforcepts)である請求項161記載のナノスケールマニプレータ−。
【請求項1】
単層カーボンナノチューブおよび無定形炭素汚染物質を含む混合物を精製する方法であって、前記方法が
(a)前記無定形炭素を除くのに十分な酸化条件下で、前記混合物を加熱し、そして
(b)少なくとも約80重量%の単層カーボンナノチューブを含む生成物を回収する、
工程を含む方法。
【請求項2】
前記酸化条件が無機オキシダントの水溶液を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記無機オキシダントが硝酸、硫酸と過酸化水素との混合物、過マンガン酸カリウムおよびそれらの混合物からなる群から選ばれる請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記水溶液を還流下に加熱する請求項2記載の方法。
【請求項5】
工程(b)の該酸化生成物をけん化処理に付する工程をさらに含む請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記けん化処理が、前記生成物を塩基性溶液と接触させることを含む請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記塩基性溶液が水酸化ナトリウムを含む請求項6記載の方法。
【請求項8】
該けん化物を酸で中和する工程をさらに含む請求項6記載の方法。
【請求項9】
前記酸が塩酸である請求項8記載の方法。
【請求項10】
該けん化、中和生成物から固体生成物を回収する工程をさらに含む請求項8記載の方法。
【請求項11】
濾過、重力沈降、化学凝集法、および液体サイクロン分離からなる群から選ばれる方法によって前記生成物を回収する請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記生成物が紙のような二次元生成物である請求項10記載の方法。
【請求項13】
該生成物を乾燥する工程をさらに含む請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記生成物を水素ガス雰囲気中で約850℃において乾燥する請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記生成物が少なくとも約90重量%の単層カーボンナノチューブを含む請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記生成物が少なくとも約95重量%の単層カーボンナノチューブを含む請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記生成物が少なくとも約99重量%の単層カーボンナノチューブを含む請求項1記載の方法。
【請求項18】
長さが約5ないし500nmの管状炭素分子の製造法であって、前記方法が
(a)単層ナノチューブ含有材料を切断して、長さが5−500nmの範囲に ある管状炭素分子の混合物を作り;
(b)前記管状炭素分子混合物から、長さが実質的に等しい前記分子の一部を 単離する
工程を含む方法。
【請求項19】
管状炭素分子への前記単層ナノチューブ切断が、
(a)長さが最大約1ミクロン以上の単層ナノチューブを含有する実質的に二 次元のタ−ゲット(target)を形成し、そして
(b)前記ターゲットに高質量イオンの高エネルギービームを照射する
工程を含む請求項18記載の方法。
【請求項20】
高エネルギービームがサイクロトロンで生成され、かつ約0.1ないし約10GeVのエネルギーを有する請求項19記載の方法。
【請求項21】
前記高質量イオンが約150AMUを上回る質量を有する請求項19記載の方法。
【請求項22】
前記高質量イオンが金、ビスマスおよびウランからなる群から選ばれる請求項21記載の方法。
【請求項23】
該高質量イオンがAu+33である請求項22記載の方法。
【請求項24】
管状炭素分子への前記単層ナノチューブ切断が、
(a)媒質中に単層ナノチューブの懸濁液を生成させ;
(b)前記懸濁液を音響エネルギーで超音波処理する
工程を含む請求項18記載の方法。
【請求項25】
40KHzで操作し、そして20Wの出力を有する装置によって前記音響エネルギーを生成させる請求項24記載の方法。
【請求項26】
管状炭素分子への前記単層ナノチューブ切断が濃HNO3中で単層ナノチューブ材料を還流させることを含む請求項18記載の方法。
【請求項27】
該管状炭素分子を加熱して少なくともその1つの底面に半球状フラーレンキャップを形成させる工程をさらに含む請求項19記載の方法。
【請求項28】
前記管状炭素分子を、該反応条件において、前記管状炭素分子の前記底面の少なくとも1つに少なくとも1つの置換基をもたらす材料と反応させる工程をさらに含む請求項18記載の方法。
【請求項29】
前記管状炭素分子を、該反応条件において、前記管状炭素分子の前記底面の少なくとも1つに少なくとも1つの置換基をもたらす材料と反応させる工程をさらに含む請求項26記載の方法。
【請求項30】
前記置換基が、それぞれ独立して水素;アルキル、アシル、アリール、アラールキル、ハロゲン;置換または無置換チオール;無置換または置換アミノ;ヒドロキシ;およびOR′(式中R′は水素、アルキル、アシル、アリール、アラールキル、無置換または置換アミノ;置換または無置換チオール;およびハロゲンからなる群から選ばれる);ならびに任意に1個以上のヘテロ原子で遮断され、そして任意に1個以上の=O、もしくは=S、ヒドロキシ、アミノアルキル基、アミノ酸、またはアミノ酸が2−8個のペプチドで置換される線状または環状炭素鎖からなる群から選ばれる請求項28または29記載の方法。
【請求項31】
管状炭素分子の巨視的分子配列を形成させる方法であって、前記方法が、 (a)50ないし500nmの範囲の実質的に同じ長さの少なくとも約106 個の管状炭素分子をもたらし;
(b)前記管状炭素分子の少なくとも1つの底面に結合部分を導入し;
(c)前記結合部分が結合する材料を塗布した基質をもたらし;そして
(d)結合部分を含有する前記管状炭素分子を前記基質と接触させる
工程を含む方法。
【請求項32】
前記基質が金、水銀およびインジウム−スズ−酸化物からなる群から選ばれる請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記結合部分が−S−、−S−(CH2)n−NH−、および−SiO3(CH2)3NH3からなる群から選ばれる請求項32記載の方法。
【請求項34】
管状炭素分子の巨視的分子配列を形成させる方法であって、前記方法が、 (a)基質上にナノスケール配列のミクロウェル(microwell)をも たらし;
(b)前記ミクロウェルのそれぞれに金属触媒を載置し;そして
(c)各ミクロウェルから単層カーボンナノチューブの成長を行わせる条件で 炭化水素またはCO原料ガス流を前記基質に給送する
工程を含む方法。
【請求項35】
前記ミクロウェルから成長する前記ナノチューブの整列を助けるために前記基質の近傍に電界を付与する工程をさらに含む請求項34記載の方法。
【請求項36】
管状炭素分子の巨視的分子配列を形成させる方法であって、前記方法が、 (a)精製されてはいるが、もつれて比較的輪になっている単層カーボンナノ チューブ材料を含有する表面を生じさせ;
(b)破損した短い長さのナノチューブを前記表面から突出させるのに十分な 酸化条件下に前記表面をおき;そして
(c)前記表面から突出する前記ナノチューブを前記表面に概ね垂直の方向に 整列させ、そしてファンデルワールス相互作用力によって配列中に融合 を生じさせるように前記表面に電界を付与する
工程を含む方法。
【請求項37】
前記酸化条件が、酸素およびCO2の雰囲気中で前記表面を約500℃に加熱することを含む請求項36記載の方法。
【請求項38】
管状炭素分子の巨視的分子配列を形成させる方法であって、前記方法が、最大106個の単層カーボンナノチューブのサブ配列を複合材料配列に集成する工程を含む方法。
【請求項39】
すべての該サブ配列が同種のナノチューブを有する請求項38記載の方法。
【請求項40】
該サブ配列が異種のナノチューブを有する請求項38記載の方法。
【請求項41】
請求項31、34または36記載のいずれか1つの方法によって該サブ配列を作る請求項38記載の方法。
【請求項42】
概ね平行方向にある少なくとも約106個の単層ナノチューブを含む巨視的炭素繊維を絶えず成長させる方法であって、前記方法が、
(a)概して平行方向にあって、約50ないし約500ナノメートルの範囲の 実質的に同じ長さを有する少なくとも約106個の管状炭素分子の巨視 的分子配列を生じさせ;
(b)前記配列中の該管状炭素分子の該上端から該半球状フラーレンキャップ を除去し;
(c)前記配列中の該管状炭素分子の前記上端を少なくとも1つの触媒金属と 接触させ;
(d)前記配列の端部に局部エナネルギーを加えて前記端部を約500℃ない し約1300℃の範囲の温度に加熱する間中、前記配列の端部に炭素の ガス源を供給し;そして
(e)成長しつつある炭素繊維を連続的に回収する
工程を含む方法。
【請求項43】
酸化性雰囲気中で加熱することによって前記フラーレンキャップを取り除く請求項42記載の方法。
【請求項44】
前記酸化性雰囲気が、酸素およびCO2の雰囲気中で約500℃の温度において硝酸による水性エッチングまたは気相エッチングを含む請求項43記載の方法。
【請求項45】
前記触媒金属が第VIII族遷移金属、第VI族遷移金属、ランタニド系列金属、アクチニド系列金属、およびそれらの混合物からなる群から選ばれる請求項42記載の方法。
【請求項46】
前記触媒金属がFe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、IrおよびPtからなる群から選ばれる請求項45記載の方法。
【請求項47】
前記触媒金属がFe、NiおよびCoならびにそれらの混合物からなる群から選ばれる請求項46記載の方法。
【請求項48】
前記触媒金属がCr、Mo、およびWからなる群から選ばれる請求項45記載の方法。
【請求項49】
前記触媒金属を金属原子クラスターとして現場で各ナノチューブ上に載置する請求項42記載の方法。
【請求項50】
前記金属原子クラスターが約10ないし約200個の金属原子を有する請求項49記載の方法。
【請求項51】
前記触媒金属を予備成形ナノ粒子として載置する請求項42記載の方法。
【請求項52】
前記触媒金属がMoである請求項51記載の方法。
【請求項53】
前記触媒金属を前記金属の塩類、酸化物および錯体からなる群から選ばれる金属前駆物質の形で載置する請求項42記載の方法。
【請求項54】
金属原子を蒸発させ、そしてそれを前記ナノチューブ開放端部に凝縮させ融合させることによって前記触媒金属を載置する請求項42記載の方法。
【請求項55】
前記触媒金属を含有するワイヤ(単数および複数)を加熱することによって前記蒸発を行う請求項54記載の方法。
【請求項56】
前記蒸発を分子線蒸発によって行う請求項54記載の方法。
【請求項57】
炭素のガス源が炭化水素および一酸化水素からなる群から選ばれる請求項42記載の方法。
【請求項58】
前記炭化水素が1ないし7個の炭素原子を有するアルキル、アシル、アリールおよびアラールキルからなる群から選ばれる請求項57記載の方法。
【請求項59】
前記炭化水素がメタン、エタン、エチレン、アセチレン、アセトン、プロパン、プロピレンおよびそれらの混合物である請求項58記載の方法。
【請求項60】
前記局部エネルギーがレーザー光線によって与えられる請求項42記載の方法。
【請求項61】
前記局部エネルギーがマイクロ波発生機、R−Fコイルおよび太陽熱集中装置からなる群から選ばれる源によって与えられる請求項42記載の方法。
【請求項62】
前記端部を約900℃から約1100℃の範囲の温度に加熱する請求項42記載の方法。
【請求項63】
少なくとも約80重量%の単層カーボンナノチューブを含む材料組成物。
【請求項64】
少なくとも約90重量%の単層カーボンナノチューブを含む請求項63記載の組成物。
【請求項65】
少なくとも約95重量%の単層カーボンナノチューブを含む請求項63記載の組成物。
【請求項66】
少なくとも約99重量%の単層カーボンナノチューブを含む請求項63記載の組成物。
【請求項67】
少なくとも約80重量%の単層カーボンナノチューブを含む実質的に二次元の物品。
【請求項68】
少なくとも約90重量%の単層ナノチューブを含む請求項67記載の物品。
【請求項69】
少なくとも約95重量%の単層ナノチューブを含む請求項67記載の物品。
【請求項70】
少なくとも約99重量%の単層ナノチューブを含む請求項67記載の物品。
【請求項71】
紙のような材料の形をなす請求項67記載の物品。
【請求項72】
下記の構造を有する管状炭素分子:
【化1】
ここに、
【化2】
は約102ないし106個の炭素原子を有する実質的に無欠陥の管状グラフェン(gra phen)シート(任意に非炭素原子でドープされる)であり;
ここに、
【化3】
は少なくとも6個の五角形および残りの六角形を有する半球形フラーレンキャップであり;
nは、0から30の数であり;そして
R,R1、R2、R3、R4およびR5はそれぞれ独立して水素;アルキル、アシル、アリール、アラールキル、ハロゲン、置換または無置換チオール、無置換または置換アミノ、ヒドロキシ、およびOR′(式中R′は、水素、アルキル、アシル、アリール、アラールキル、無置換または置換アミノ、置換または無置換チオール;およびハロゲンからなる群から選ばれる);ならびに任意に1個以上のヘテロ原子で遮断され、そして任意に1個以上の=O、もしくは=S、ヒドロキシ、アミノアルキル基、アミノ酸、またはアミノ酸が2−8個のペプチドで置換される線状または環状炭素鎖からなる群から選ぶことができる。
【請求項73】
前記グラフェンシートが(n,n)単層カーボンナノチューブに対応する構造を有する請求項72記載の分子。
【請求項74】
前記分子が約5ないし約1000nmの長さを有する請求項72記載の分子。
【請求項75】
前記分子が約5ないし約500nmの長さを有する請求項74記載の分子。
【請求項76】
nが0ないし12である請求項72記載の分子。
【請求項77】
少なくとも1個のエンドヘドラル(endohedral)種をさらに含む請求項72記載の分子。
【請求項78】
前記エンドヘドラル種が金属原子、フラ−レン分子、他の小分子およびそれらの混合物からなる群から選ばれる請求項77記載の分子。
【請求項79】
C60、C70またはそれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも1種のエンドヘドラル種を含有する(10,10)単層ナノチューブを含む請求項78記載の分子。
【請求項80】
前記C60またはC70が、金属原子および金属化合物からなる群から選ばれるエンドヘドラル置換基をさらに含有する請求項79記載の分子。
【請求項81】
概ね平行状態にあって約5から約500ナノメートルの範囲の実質的に同じ長さを有する少なくとも約106個の単層カーボンナノチューブを含む巨視的分子配列。
【請求項82】
前記ナノチューブが同じ種類である請求項81記載の配列。
【請求項83】
前記ナノチューブが(n,n)タイプである請求項82記載の配列。
【請求項84】
前記ナノチューブが(10,10)タイプである請求項83記載の配列。
【請求項85】
前記ナノチューブが(m,n)タイプである請求項83記載の配列。
【請求項86】
前記ナノチューブが種々のタイプを有する請求項81記載の配列。
【請求項87】
前記配列の一端に結合させそして前記配列中の該ナノチューブに対して実質的に直角に向けた基質をさらに含む請求項81記載の配列。
【請求項88】
前記基質がバッキーペーパー(bucky paper)表面である請求項87記載の配列。
【請求項89】
前記基質が金、水銀およびインジウム−スズ−酸化物からなる群から選ばれる金属層である請求項87記載の配列。
【請求項90】
ナノチューブの中心部分が(n,n)タイプでナノチューブの外側部分が(m,n)タイプである請求項86記載の配列。
【請求項91】
概ね平行状態の少なくとも約106個の単層カーボンナノチュ−ブを含む巨視的炭素繊維。
【請求項92】
少なくとも約109個の単層カーボンナノチューブを含む請求項91記載の繊維。
【請求項93】
多数の請求項91記載の該繊維を含む複合繊維。
【請求項94】
請求項91記載の該繊維のセグメントを含む成長しつつある連続長(continuous length)炭素繊維の分子テンプレート(template)配列。
【請求項95】
少なくとも1ミリメートルの長さを有する請求項91記載の繊維。
【請求項96】
前記ナノチューブの大部分が(n,n)タイプである請求項91記載の繊維。
【請求項97】
前記ナノチューブのすべてが同種のものではない請求項91記載の繊維
【請求項98】
金属、ポリマー、セラミックおよびサーメットからなる群から選ばれるマトリックス材料を含み、前記マトリックスが少なくともその一部に性質を高める量の請求項91記載の該炭素繊維を埋封している製造複合物品。
【請求項99】
前記性質が構造的、機械的電気的、化学的、光学的、または生物学的である請求項98記載の複合物品。
【請求項100】
少なくとも1つの導体が請求項96記載の連続炭素繊維を含む高圧送電ケーブル。
【請求項101】
中心導体および同軸配設外側導体がいずれも炭素繊維で構成され、その間に絶縁層が配設されている請求項100記載の送電ケーブル。
【請求項102】
前記絶縁層が空隙である請求項101記載の送電ケーブル。
【請求項103】
前記絶縁層が、(m,n)タイプのカーボンナノチューブから作った絶縁炭素繊維および窒化六ホウ素ナノチューブから作った絶縁BN繊維ならびにそれらの混合物からなる群から選ばれる材料を含む請求項101記載の送電ケーブル。
【請求項104】
光子コレクター(photon collector)として請求項81記載の分子配列を含む、広域スペクトルの光エネルギーを電流に変えるための太陽電池。
【請求項105】
前記配列中の該ナノチューブの該上端にカップルされた光活性染料をさらに含む請求項104記載の太陽電池。
【請求項106】
請求項77記載の該エンドヘドラル装荷管状炭素分子を含む二安定性不揮発メモリビット(memory bit)。
【請求項107】
該管状炭素分子が(10,10)タイプのナノチューブで構成され、そして該エンドヘドラル種がC60またはC70フラーレン分子である請求項106記載のメモリビット。
【請求項108】
請求項106記載の該メモリビット、前記ビットを書き込む手段および前記ビットを読み取る手段を含む二安定性不揮発メモリデバイス。
【請求項109】
前記書き取る手段が、前記エンドヘドラル種を前記ビットの第1端から第2端に移行させるために前記ビットに正または負極性の電圧パルスを指向するように用いられるナノ回路素子を含む請求項108記載のメモリデバイス。
【請求項110】
前記ビットを読み取る前記手段が、
(a)第1の電圧(VRead)に対してバイアスさせ、そして前記ビットの読み取り端から離間させてその間に第1のギャップを形成させるように用いられる第1のナノ回路素子;および
(b)大地電圧(VG)に対してバイアスさせ、そして前記ビットの前記読み取り端から離間させて第2のギャップを形成させるように用いられる第2のナノ回路素子
を含み、そしてそれにより前記第1および第2のギャップを貫通する電流の存在によって前記エンドヘドラル種の存在が明に認められる請求項108記載のメモリデバイス。
【請求項111】
請求項81記載の分子配列を含む電気化学電池用微孔質アノード。
【請求項112】
請求項111記載のアノード、LiCoO2を含むカソードおよび非プロトン性有機電解質を含み、充電条件下で該アノードにリチウムのフラーレン挿入化合物(FIC)が生じるリチウムイオン二次電池。
【請求項113】
少なくとも約106個の単層カーボンナノチューブを含み前記ナノチューブの開放端に触媒金属を載置させている巨視的分子テンプレート配列から連続巨視的炭素繊維を生成させる装置であって、前記装置が、
(a)成長およびアニール帯域内で前記テンプレート配列中の前記ナノチューブの前記開放端のみを約500℃から約1300℃の範囲の温度に局部加熱する手段;
(b)前記テンプレート配列中の前記ナノチューブの前記加熱開放端に直に接する成長およびアニール帯域へ炭素含有原料ガスを供給する手段;および
(c)前記繊維の成長しつつある開放端を前記成長およびアニール帯域内に保ちながら、成長しつつある炭素繊維を前記成長およびアニール帯域から連続的に取出す手段
を含む装置。
【請求項114】
前記局部加熱手段がレーザーを含む請求項113記載の装置。
【請求項115】
排気手段によって真空に保たれる成長チャンバー内に密閉されている請求項113記載の装置。
【請求項116】
大気圧下において、前記連続的に製造される炭素繊維を通す真空供給固定帯域(vacuum feed lock zone)および巻取ロールをさらに含む請求項115記載の装置。
【請求項117】
(a)マトリックス;および
(b)前記マトリックス中に包埋されたカーボンナノチューブ材料
を含む複合材料。
【請求項118】
前記マトリックスがポリマーを含む請求項117記載の複合材料。
【請求項119】
前記ポリマーが熱硬化性ポリマーを含む請求項118記載の複合材料。
【請求項120】
前記熱硬化性ポリマーがフタル酸/マレイン酸系ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール樹脂、シアネート、ビスマレイミド、およびナド末端封鎖ポリイミドからなる群から選ばれる請求項119記載の複合材料。
【請求項121】
前記ポリマーが熱可塑性ポリマーを含む請求項118記載の複合材料。
【請求項122】
前記熱可塑性ポリマーがポリスルホン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンオキシド、ポリスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリアリーレート、および液晶ポリエステルからなる群から選ばれる請求項121記載の複合材料。
【請求項123】
前記マトリックスが金属を含む請求項117記載の複合材料。
【請求項124】
前記マトリックスがセラミックを含む請求項117記載の複合材料。
【請求項125】
前記マトリックスがサーメットを含む請求項117記載の複合材料。
【請求項126】
前記カーボンナノチューブ材料が管状カーボンナノチューブ分子を含む請求項117記載の複合材料。
【請求項127】
前記カーボンナノチューブ材料が最大約103個のSWNTのロープ(rope)を含む請求項117記載の複合材料。
【請求項128】
前記カーボンナノチューブ材料が106個を上回るSWNTの繊維を含む請求項117記載の複合材料。
【請求項129】
補助的繊維材料をさらに含む請求項126、127、または128記載の複合材料。
【請求項130】
前記カーボンナノチューブ材料を変性して、前記マトリックス材料と相互作用させる請求項126、127、または128記載の複合材料。
【請求項131】
(a)マトリックス材料前駆物質を調製し;
(b)カーボンナノチューブ材料を前記マトリックス材料前駆物質と結合させ;そして
(c)前記複合材料を形成させる
ことを含むカーボンナノチューブ含有複合材料の製造法。
【請求項132】
前記形成工程以前に前記カーボンナノチューブ材料を前記マトリック材料前駆物質と結合させる請求項131記載の方法。
【請求項133】
前記形成工程中に前記カーボンナノチューブ材料を前記マトリックス材料前駆物質と結合させる請求項131記載の方法。
【請求項134】
前記形成工程の直後に前記カーボンナノチューブ材料を前記マトリックス材料前駆物質と結合させる請求項131記載の方法。
【請求項135】
前記マトリックス材料前駆物質を前記カーボンナノチューブ材料の予備成形装置の回りに流す請求項131記載の方法。
【請求項136】
(a)繊維材料の集成体を調製し;
(b)前記カーボンナノチューブ材料を前記繊維材料に加え;そして
(c)マトリックス材料前駆物質を前記カーボンナノチューブ材料および前記繊維材料に加える
ことを含むカーボンナノチューブ材料含有複合材料の製造法。
【請求項137】
前記繊維材料を二次元のシートに配列させ、そして前記カーボンナノチューブ材料の一部を前記シートに対して平行以外の方向に配向させる請求項136記載の方法。
【請求項138】
前記カーボンナノチューブ材料が管状カーボンナノチューブ分子を含む請求項131または136記載の方法。
【請求項139】
前記カーボンナノチューブ材料が最大約103個のSWNTのロープを含む請求項131または136記載の方法。
【請求項140】
前記カーボンナノチューブ材料が106個を上回るSWNTの繊維を含む請求項131または136記載の方法。
【請求項141】
誘導された単層カーボンナノチューブ分子から自己集合を行う三次元構造物であって、前記三次元構造物に集成された多数の多機能性単層カーボンナノチューブを含む三次元構造物。
【請求項142】
前記単層カーボンナノチューブがその端面キャップ上に多機能性誘導体を有する請求項141記載の三次元構造物。
【請求項143】
前記単層カーボンナノチューブが前記単層カーボンナノチューブ上の多くの位置に多機能性誘導体を有する請求項141記載の三次元構造物。
【請求項144】
ファンデルワールス吸引力の結果として前記単層カーボンナノチューブが集成される請求項141記載の三次元構造物。
【請求項145】
電磁気的性質を有する請求項141記載の三次元構造物。
【請求項146】
前記電磁気的性質が機能的に特定の薬剤によって測定される請求項141記載の三次元構造物。
【請求項147】
対称的である請求項141記載の三次元構造物。
【請求項148】
対称的ではない請求項141記載の三次元構造物。
【請求項149】
生物学的性質を有する請求項141記載の三次元構造物。
【請求項150】
生化学反応の触媒として作用する請求項149記載の三次元構造物。
【請求項151】
生体組織と相互作用する請求項149記載の三次元構造物。
【請求項152】
生体系の機能と相互作用させるための薬剤として働く請求項149記載の三次元構造物。
【請求項153】
少なくとも1つの単層カーボンナノチューブ導電素子を含み、前記少なくとも1つのナノチューブが所望の電流レベルおよび所望の電圧レベルに対して選ばれた長さを有する光捕集アンテナ(light harvesting antenna)。
【請求項154】
前記少なくとも1つの単層カーボンナノチューブがショットキー障壁(Schottky barrier)を形成する請求項153記載の光捕集アンテナ。
【請求項155】
請求項153記載の光捕集アンテナ配列。
【請求項156】
前記配列が自己集合によって形成される請求項155記載の光捕集アンテナ配列。
【請求項157】
少なくとも1つの単層カーボンナノチューブを含むモレキュラーエレクトロニクス成分(molecular electronic component)。
【請求項158】
前記モレキュラーエレクトロニクス成分が全波整流をもたらすためのブリッジ回路であり、前記ブリッジ回路が、
4個の単層カーボンナノチューブを含み、前記4個の単層カーボンナノチューブがそれぞれ正方形の一辺を形成して4個のバキーボール(buckyball)中の2個に結合され、前記4個のバキーボールがそれぞれ前記正方形の角に配設される
請求項157記載のモレキュラーエレクトロニクス成分。
【請求項159】
前記バキーボールおよび単層カーボンナノチューブが機能的に特定の結合剤を包含するように誘導される請求項158記載のブリッジ回路。
【請求項160】
フラーレンダイオードである請求項157記載のモレキュラ−エレクトロニクス成分。
【請求項161】
少なくとも1個の単層カーボンナノチューブを含むナノスケールマニプレータ−(nanoscale manipulator)。
【請求項162】
ナノホーセプツ(nanoforcepts)である請求項161記載のナノスケールマニプレータ−。
【図1】
【図2】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図18D】
【図3A】
【図3B】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図15E】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図17】
【図19】
【図2】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図18D】
【図3A】
【図3B】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図15E】
【図16A】
【図16B】
【図16C】
【図17】
【図19】
【公開番号】特開2008−100901(P2008−100901A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237285(P2007−237285)
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【分割の表示】特願平10−538896の分割
【原出願日】平成10年3月6日(1998.3.6)
【出願人】(501105635)ウィリアム・マーシュ・ライス・ユニバーシティ (26)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月12日(2007.9.12)
【分割の表示】特願平10−538896の分割
【原出願日】平成10年3月6日(1998.3.6)
【出願人】(501105635)ウィリアム・マーシュ・ライス・ユニバーシティ (26)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]