説明

可燃性ガス検出装置

【課題】酸性ガスを確実に除去するとともに十分な反応速度を確保し、長期間にわたり高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置を提供する。
【解決手段】検出空間212を有するケース体20と、検出対象ガスのうち酸性ガスを吸着する無機化合物を主体とする無機化合物フィルタ60と、無機化合物フィルタ60を通過した検出対象ガスのうち雑ガスおよび酸性ガスを吸着する活性炭を主体とする活性炭フィルタ30と、所定の時間間隔でパルス通電を行ってオンとオフを繰り返す間欠駆動がなされて、検出対象ガスのうち可燃性ガスに感応して検出信号を出力する薄膜ガスセンサ10と、を備える可燃性ガス検出装置1とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス漏れなど警報を発するために可燃性ガスを検出する可燃性ガス検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にガスセンサは、ガス漏れ警報器などの用途に用いられている。ガスセンサは、ある特定ガス、例えば、一酸化炭素(CO)、メタンガス(CH)、プロパンガス(C)、エタノール蒸気(COH)等に選択的に感応するデバイスであり、その性格上、高感度、高選択性、高応答性、高信頼性、低消費電力が必要不可欠である。
【0003】
ところで、家庭用として普及しているガス漏れ警報器は、都市ガス用やプロパンガス用の可燃性ガス検知を目的としたもの、燃焼機器の不完全燃焼ガス検知を目的としたもの、または、両方の機能を合わせ持ったもの、などであるが、いずれもコストや設置性(ガス検知が必要であるが電源供給不能の箇所である点)の問題から、ガス漏れ警報器の普及率はそれほど高くない。そこで、ガス漏れ警報器の普及率の向上を図るべく、設置性の改善、具体的には、電池駆動によるガス漏れ警報器としてコードレス化することが望まれている。
【0004】
ガス漏れ警報器の電池駆動を実現するためにはガスセンサの低消費電力化が最も重要である。しかしながら、接触燃焼式や半導体式のガスセンサを動作させるためには、ガスセンサのガス感応層が100℃〜500℃の高温に加熱される必要があり、この加熱が電力を消費する要因である。SnOなどの粉体を焼結して作製したガス感応層によるガスセンサは、スクリーン印刷等の方法を用いて薄膜化することでガス感応層の厚みを可能な限り薄くしてガス感応層の熱容量を小さくしているが、薄膜化は限界があって、ガス感応層は充分に薄くならない。このため、ガスセンサを電池駆動する場合、ガス感応層の熱容量は大きすぎることとなり、ガス感応層を高温に加熱するには大きい電力が必要となって電池の消耗が大きくなる。このような理由から、ガス感応層を電池駆動するガスセンサは、実用化が困難であった。
【0005】
そこで、スパッタなどの薄膜成膜技術と微細加工プロセスにより高断熱・低熱容量のダイヤフラム構造として、実用上許容しうる低消費電力の薄膜ガスセンサが開発実用化されて現在に至っている。続いてこのような薄膜ガスセンサについて説明する。図6は、薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【0006】
この従来技術の薄膜ガスセンサ10は、シリコン基板(以下Si基板)11、熱絶縁支持層12、ヒータ層13、電気絶縁層14、ガス検出層15を備える。ガス検出層15は、詳しくは、感知電極層151、ガス感応層152、ガス選択燃焼層153を備える。このガス感応層152はアンチモン(Sb)をドープした二酸化スズ層(以下、SnO層)であり、ガス選択燃焼層153はパラジウム(Pd)または白金(Pt)を触媒として担持したアルミナ焼結材(以下、触媒担持Al焼結材)である。そして、ヒータ層13およびガス検出層15(詳しくは感知電極層151を介してガス感応層152)は、図示しない駆動・処理部に電気的に接続されている。
【0007】
続いて各部構成について説明する。
Si基板11はシリコン(Si)により形成され、貫通孔を有するように形成される。
熱絶縁支持層12はこの貫通孔の開口部に張られてダイアフラム様に形成されており、Si基板11の上に設けられる。この熱絶縁支持層12は、熱絶縁層として形成され、ヒータ層13で発生する熱をSi基板11側へ熱伝導しないようにして熱容量を小さくする機能を有する。また、ヒータ層13との密着性を向上させるとともに電気的絶縁を確保する。
【0008】
ヒータ層13は、薄膜状のTa/PtW/Taヒータであって、熱絶縁支持層12のほぼ中央の上面に設けられる。また、図示しない電源供給ラインも形成される。この電源ラインは、駆動・処理部(図示せず)に電気的に接続される。
電気絶縁層14は、電気的に絶縁を確保するスパッタSiO絶縁層からなり、熱絶縁支持層12およびヒータ層13を覆うように設けられる。ヒータ層13と感知電極層151との間に電気的な絶縁を確保し、また、電気絶縁層14はガス感応層152との密着性を向上させる。
【0009】
感知電極層151は、電気絶縁層14の上に設けられたTa膜(タンタル膜)の上面に、さらにPt膜(白金膜)を形成したものである。このTa膜は、Pt膜と電気絶縁層14との間に介在して接合強度を高める機能を有している。このような感知電極層151は、ガス感応層152の感知電極となるように左右一対に設けられる。
ガス感応層152は、SbをドープしたSnO層からなり、一対の感知電極層151,151を渡されるように電気絶縁層14の上に形成される。
【0010】
ガス選択燃焼層153は、白金(Pt)またはパラジウム(Pd)である触媒を担持した焼結体であり、先に説明したように触媒担持Al焼結材である。ガス選択燃焼層153は、ガス感応層152の表面を覆うように設けられる。Alは多孔質体であるため、孔を通過する検出対象ガスが触媒に接触する機会を増加させて燃焼反応を促進させる。ガス選択燃焼層153は、電気絶縁層14、一対の感知電極層151,151およびガス感応層152の表面を覆うように設けられる。
【0011】
このような薄膜ガスセンサはダイアフラム構造により高断熱,低熱容量の構造としている。
図示しないが、駆動・処理部は、駆動部と処理部とを一体に構成したものであり、ヒータ層13を電気により駆動するように接続され、また、感知電極層151を介してガス感応層152のセンサ抵抗値の変化を検出するように接続される。駆動・処理部によりガス検出駆動が行われる。薄膜ガスセンサ10が駆動・処理部を内臓したり、別途外付けするようにしても良い。
薄膜ガスセンサ10の構成はこのようなものである。
【0012】
この薄膜ガスセンサ10は、様々な気体成分と接触することによりSnO層であるガス感応層152の電気抵抗値(センサ抵抗値)が変化する現象を利用するセンサである。300〜500℃程度に加熱されたSnOは、ガス濃度によりその導電率が変化するという特性を持つ。
【0013】
詳しくは以下のような理由による。
SnOなどのn型金属酸化物半導体であるガス感応層152は、空気中にある場合、ガス感応層152の表面に酸素などを活性化吸着する。酸素は電子受容性が強くて負電荷吸着するため、ガス感応層152の表面に吸着酸素(O2−)が吸着保持されるがこの際にガス感応層152内から電子が取り込まれてガス感応層152内の電子密度が減少する。したがって、ガス感応層152は導電率が低下して高抵抗化する。
そして、ガス感応層152が300〜500℃程度に加熱されてCH,H,COなどの可燃性ガスの燃焼反応が起こる場合、ガス感応層152の表面の吸着酸素(O2−)が消費され、吸着酸素が捕獲していた電子がガス感応層152内にもどされることにより吸着酸素にトラップされていた電子が自由電子としてガス感応層152に戻されてガス感応層152内の電子密度が増加する。したがって、ガス感応層152は導電率が増大して低抵抗化する。
【0014】
なお、各可燃性ガス(CH,H,CO)の燃焼反応が起こるときの反応式は以下のようになる。
CH+4O2−(ad)⇒CO+2HO+8e ・・・(1)
2H+O2−(ad)⇒HO+2e ・・・(2)
CO+O2−(ad)⇒CO+2e ・・・(3)
【0015】
さて、このガス感応層152は、多様なガスの検知が可能である反面、特定のガスを選択的に検知することは困難であった。
そこでガス検出層15は、SnO層であるガス感応層152の表面全体を、触媒担持Al焼結材で構成されたガス選択燃焼層153が覆う構造としている。
このガス選択燃焼層153は、検出対象ガスよりも酸化活性の強いガスを燃焼させるため、ガス検出層15におけるある特定のガスのみの感度を向上させる機能を有している。さらにそのガス検出層15の大きさや膜厚、Si基板11のダイヤフラム径との比なども工夫されている。これにより、ある特定のガス選択性がさらに高められ、消費電力の低減化が可能となっている。
【0016】
さらに、このような薄膜式ガスセンサ10は、CH,C等の可燃性ガス検知の低消費電力化を実現するため、そのヒータ層13の駆動方式が工夫され、検出温度の低温化、検出時間の短縮、検出サイクルの長期化(通電をoffする時間を長くする)という間欠駆動方式を採用している。一般的に、薄膜ガスセンサにおける検出温度・検出時間・検出サイクルはガス種により相違しており、COセンサでは検出温度は〜100℃、検出時間はセンサの応答性から〜500msec、検出サイクルは150秒とされる。また、CHセンサでは検出温度は〜450℃、検出時間はセンサの応答性から〜500msec、検出サイクルは30秒とされる。
【0017】
またoff時間にセンサ表面に付着する水分その他の吸着物を脱離させSnO表面をクリーニングすることが、電池駆動(間欠駆動)の薄膜ガスセンサ10の経時安定性を向上する上で重要であり、検出前に一旦センサ温度を400℃〜500℃に加熱(時間〜100msec)し、その直後に、それぞれのガスの検出温度でガス検知を行っている。
【0018】
これらが考慮された間欠駆動方式について図を参照しつつ説明する。図7は、High−Off方式によるヒータ層温度の時間特性を説明する説明図、図8は、High−Low−Off方式によるヒータ層温度の時間特性を説明する説明図である。
【0019】
High−Off方式は、特にCH等の可燃性ガス濃度の検出で用いられる間欠駆動方式である。ヒータ層13の駆動部(図示せず)は、ヒータ層13に図7で示すような電流による駆動信号を流してヒータ層13のヒータ温度を一定期間(例えば0.05〜0.5s)にわたり高温状態(High状態:300〜500℃)に保持し、その後一定期間にわたりヒータ層13に駆動信号を流さない状態(Off状態)として、検出時以外では不要な電力の消費が抑止される。そして、ヒータ層13の駆動・処理部(図示せず)は、このようなHigh−Offによる駆動を所定の周期(例えば30秒周期)で繰り返し、ヒータ層13を間欠駆動している。
【0020】
このHigh−Off方式のヒータ層13は、High状態でガス検知を行うものであり、ガス検知ではガス感応層152のセンサ抵抗値が感知電極層151を介して測定され、その変化からCH等の可燃性ガス濃度が検出される。このとき、ヒータ温度が高温になるとともにガス選択燃焼層153は高温になり、この高温のガス選択燃焼層153が雑ガスを燃焼させる。しかしながら、ガス選択燃焼層153は不活性なCH等の可燃性ガスはそのまま通過させる。可燃性ガスは拡散し、ガス感応層152に到達してガス感応層152のSnOと反応する。するとガス感応層152のSnOの抵抗値は可燃性ガスの吸着量に応じて変化する。薄膜ガスセンサ10は、このような現象を利用してガス機器などのガス漏れ時に発生するCH等の可燃性ガスの濃度を検出する。
【0021】
また、High−Low−Off方式は、不完全燃焼(CO)を検知するために用いられる間欠駆動方式である。ヒータ層13の駆動・処理部(図示せず)は、ヒータ層13に図8で示すような電流による駆動信号を流して、一旦、ヒータ層13のヒータ温度を一定期間(例えば、0.05s〜0.5s)にわたり高温状態(High状態:300〜500℃)に保持してガス感応層152のクリーニングを行ってから、低温状態(Low状態:約50〜150℃)に降温してガス検知を行い、その後一定期間ヒータ層13に駆動信号を流さない状態(OFF状態)として、検出時以外では不要な電力の消費を抑止する。そして、ヒータ層13の駆動・処理部(図示せず)は、このようなHigh−Low−Offによる駆動を所定の周期(例えば30秒周期)で繰り返し、ヒータ層13を間欠駆動している。
このようなHigh−Low−Off方式は、CO感度および選択性が高くなる方式として知られている。
【0022】
また、このHigh−Low−Off方式は、High状態でクリーニングのみならずメタン(CH)検知も行い、かつLow状態でCO検知を行い、メタン・COの両方を検知する方式としても良く、このようなHigh−Low−Off方式の薄膜ガスセンサも存在する。
【0023】
なお、薄膜ガスセンサ10のガス感応層152は、幾何学的サイズが小さい程熱容量が低くなるため、低消費電力化に有利ではあるが、長期安定性、微細加工精度、薄膜成膜方法/時間などの制約により現実的サイズとしては〜数100μm□で、厚み〜1μm程度としている。
以上説明したように各種の低消費対策が施されている。
【0024】
さて、薄膜ガスセンサ10が検出する検出対象ガスは、検出したい可燃性ガス以外にも酸素、窒素、炭酸ガス、水蒸気などのガス種が含まれている。更に微量ではあるが前記以外のガスセンサにとって有害ガス(特性劣化を引き起こすガス)あるいは干渉ガス(ガスセンサが抵抗変化してあたかも可燃性ガスが存在するかのように振る舞う誤検出を誘発するガス)など種々のガス成分が一時的に共存する場合がある。
【0025】
これら有毒ガスや干渉ガスが長期共存するような環境で薄膜ガスセンサ10の使用を続けると徐々に特性が変化する場合がある。具体的には空気中抵抗値(Rair)が顕著に低下したり、CHセンサの場合にCOガスやHガスなどの干渉ガスに対する選択性が悪くなる場合がある(CO,Hガスが共存するとガス感応層152の抵抗値が低下し、あたかもCHガスが存在するような挙動を示し、誤検出する)。更にはCHガスに対して鋭敏化する場合がある(予めガス感応層152の濃度特性から決めたCH濃度で示すガス感応層152の抵抗値(RCH)が低下し、あたかもCHガス漏れが発生したかのような挙動を示し、誤検出する)。
【0026】
大気中に混入する可能性のある様々な有害ガス、干渉ガスを共存させてその影響を調べたところ、酸性ガスの影響が大きいことが明確になってきた。以下、説明の都合上、酸性ガスを除く有害ガス、干渉ガスをまとめて雑ガスといい、酸性ガスと区別して説明する。
【0027】
更に、この酸性ガスの中でも特にSOが低濃度でもセンサ特性を変化させ誤検出、劣化を引き起こすことが本発明者の研究により明らかになった。薄膜ガスセンサ10は、上記のように間欠駆動を行っているが、センサ温度を常時検出温度(〜400℃)に加熱しておくことで共存SOによるセンサ特性の変化が無いという実験結果が知られている。換言すれば、間欠駆動では周期的にガス感応層152が室温になり室温状態時間が圧倒的に多く、またガス感応層152が高温になる時間は<1秒というものであって、間欠駆動のOFF状態による常温状態が長いため、共存SOにより影響を受けて劣化する。
【0028】
すなわち、SOが室温状態のガス感応層(SnO層)152、ガス選択燃焼層(触媒担持多孔質アルミナ)153に吸着することが劣化の原因と推定される。SOは吸着性の高いガスとして知られており、吸着性が高いSOが上記したような問題を発生させる原因は明確ではないが以下のように推定される。SOはガス選択燃焼層153のPd(O)、更にはガス感応層(SnO層)152の活性点に物理吸着・化学吸着する。
【0029】
常温の場合、ガス選択燃焼層153において一部のSOはPd(O)に化学吸着してPdの硫酸塩(PdSO)を生成する。また、ガス感応層(SnO層)152において一部のSOは化学吸着してSnの硫酸塩(SnSO)を生成する。常温時にガス選択燃焼層153に吸着したSOは十分な時間昇温することでPdSO、SnSOの大部分が分解し脱離するが、間欠駆動では昇温時間<1秒という短時間であるため、PdSO、SnSO の一部がガス検出層15に残留しているおそれがある。
【0030】
ガス選択燃焼層153では上記のPdSOの一部残留によりPdOが変質して酸化活性は低下する。
またガス感応層(SnO層)152においてもSnSO の一部残留により活性点の被覆、変質などが起こり、ガス感応層(SnO層)152内における自由電子の数が変化したり、CHの検知特性が低下する。上記ガス選択燃焼層153、ガス感応層(SnO層)152の変化によりガス種に対する選択性、SnOの抵抗値、CHの検知特性などが変動し、誤検出、特性劣化などを引き起こす。
【0031】
そのため薄膜ガスセンサ10においては雑ガスや酸性ガスの影響を防止するため様々な対策が施されることとなる。このような対策がされた一例である可燃性ガス検出装置100について図を参照しつつ説明する。図9は従来技術の可燃性ガス検出装置の構成図である。この可燃性ガス検出装置100は、先に説明した薄膜ガスセンサ10(図6参照)に加えて、更にケース体20、活性炭フィルタ30、ワイヤ40、リード端子50、を備える。
【0032】
薄膜ガスセンサ10のガス選択燃焼層153は、雑ガスのうち高沸点の炭化水素系ガス(エタノール、VOC)などの干渉ガスを選択的に燃焼しガス検出層15の出力に影響が出ないようにしている。
また、流入口211の下流に設けられた活性炭フィルタ30は、雑ガスのうちシリコーンのような有害ガスやSOという酸性ガスを吸着除去している。家庭用途の可燃性ガス検出装置100の使用環境ではSO濃度は0.04ppm〜1.0ppm程度の低濃度であることが知られており、一般的な活性炭フィルタ30にて吸着除去させていた。
【0033】
また、ボイラ周辺などで高濃度SOが漏れた場合を想定して、特許文献1(実開平7−32559号公報,発明の名称:可燃性ガス検知器ガスセンサ被毒防止用フィルタ)にはガスセンサとは別付けの被毒防止用フィルタが公開されており、SO除去剤としてNaCOという物質をフィルタに用いた例が示されている。
さらにまた、特許文献2(特開2003−254928号公報,発明の名称:ガスセンサ保護用フィルタおよびガスセンサ)には、長期に亘り、SOガスが共存する大気中でも誤検出が防止され、特性劣化の無い経時安定性の良い間欠駆動型ガスセンサが開示されている。
【0034】
【特許文献1】実開平7−32559号公報
【特許文献2】特開2003−254928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0035】
図9に示した従来技術の可燃性ガス検出装置100や特許文献1,2に記載の従来技術では、上記のような様々な対策で雑ガス・酸性ガスの影響を防止しているが、「誤検出防止」の点で問題があることが近年判明してきた。この点について図9を参照しつつ説明する。
【0036】
図9に示した従来技術の可燃性ガス検出装置100の活性炭フィルタ30は、SOを空気中の水分と共に硫酸の形で吸着している。
しかしながら活性炭フィルタ30のSOの吸着力は充分ではなく、SOの一部は活性炭フィルタ30を通過して拡散して薄膜ガスセンサ10まで到達することが本発明者の研究により知見された。このため、薄膜ガスセンサ10のガス選択燃焼層153、更にはガス感応層(SnO層)152の活性点にSOが物理吸着・化学吸着してしまい、誤検出の原因となるおそれがあった。
【0037】
また、先に説明したが、薄膜ガスセンサ10のガス感応層(SnO層)152をガス検出温度(400℃)に常時加熱しておくことで、SOによっての特性変化が起こらないという実験結果を得ているため、ガス感応層(SnO層)152をガス検出温度(400℃)に常時加熱しておくことでも対応できるが、消費電力の増大を招くことになり、電池による駆動時間が大きく抑制されることになる。
【0038】
一方、消費電力を小さくするためには、ガス感応層(SnO層)152を間欠駆動することが必要となるが、常温時間が圧倒的に長い間欠駆動方式では、SOを取り去るだけの十分な加熱時間が得られない。このような間欠駆動方式にてガス感応層(SnO層)152を駆動した場合、活性炭フィルタ30を通過したSOは、やがてガス感応層(SnO層)152やガス選択燃焼層153に蓄積(固着)されてしまうことになる。そうすると、誤検出を免れなくなくなり、やがては、ガス感度・選択性もなくなってしまう。
【0039】
このように、活性炭フィルタ30のSOの吸着力には限界があり、間欠駆動方式にてセンサを駆動した場合、その加熱によって(活性炭フィルタ30を通過した)SOを十分に除去することができないため、この両方を駆使しても長期の特性維持が困難であると言える。
【0040】
また、特許文献1に記載の可燃性ガス検知器ガスセンサ被毒防止用フィルタは、高濃度SOにも対応できるものであり、SO除去剤としてNaCOという物質をフィルタ層に用いている。このフィルタ層を厚くすると、確実にSO除去がなされるが検出対象ガスの通過速度を遅くすることなり、ガスセンサへ可燃性ガスが到達しにくくなってガスセンサの反応が鈍くなるおそれがあった。また、逆にこのフィルタ層が薄いとガスセンサの反応は速くなるがフィルタ層を通過して極微量のSOがガスセンサヘ到達し、上記のような問題が発生する。このようにガスセンサの十分な反応速度を確保しつつSOを完全に除去することは困難であった。
【0041】
また、特許文献2に記載のガスセンサ保護用フィルタおよびガスセンサは、フィルタとして水溶性カチオン型ポリマーと、この水溶性カチオン型ポリマーと塩を形成しうるアニオン型化合物との混合物を含有する吸着膜を用いている。この吸着膜も厚くすると、確実にSO除去がなされるが検出対象ガスの通過速度を遅くすることなり、ガスセンサへ可燃性ガスが到達しにくくなってガスセンサの反応が鈍くなるおそれがあった。また、逆に吸着膜が薄いとガスセンサの反応は速くなるが吸着膜を通過して極微量のSOがガスセンサヘ到達し、上記のような問題が発生する。この場合も、ガスセンサの十分な反応速度を確保しつつSOを完全に除去することは困難であった。
【0042】
そこでこの発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、酸性ガスを確実に除去するとともに十分な反応速度を確保し、長期間にわたり高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0043】
上記した課題を解決するため、請求項1に記載の発明によれば、
検出対象ガスが導入される流入口、および、この流入口下流側にあって流入口と連通する検出空間を有するケース体と、
検出空間内に配置され、上流側にある流入口を通過した検出対象ガスのうち、酸性ガスを吸着する無機化合物、ならびに、雑ガスおよび酸性ガスを吸着する活性炭、をともに含むフィルタと、
検出空間内であってフィルタの下流側に配置され、所定の時間間隔でパルス通電を行ってオンとオフを繰り返す間欠駆動がなされて、フィルタにより酸性ガスおよび雑ガスが吸着された残りの検出対象ガスのうち可燃性ガスに感応して検出信号を出力する薄膜ガスセンサと、
を備えることを特徴とする。
【0044】
従来技術ではSOが共存する雰囲気下に間欠駆動の可燃性ガス検出装置がさらされた場合、活性炭フィルタのみでは不十分であり、酸性ガスを吸着する他のフィルタも併用することが効果的である。この構成によれば、無機化合物が酸性ガスを吸着し、また、活性炭が酸性ガスおよび雑ガスを吸着するというものであり、特に酸性ガスを二種の物質により確実に吸着するため、SOが共存する雰囲気下に間欠駆動の可燃性ガス検出装置がさらされても、SOガスが殆ど除去され薄膜ガスセンサまで到達することはなく、さらに薄膜ガスセンサに到達したとしても、間欠駆動時の加熱によりSO が除去されて影響はないため、誤検出が防止され、かつ特性劣化のない長期に亘り安定な特性の可燃性ガス検出装置とすることが可能になる。
【0045】
また、請求項2に記載の発明によれば、
請求項1に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記フィルタは、
検出空間内であって流入口の下流に配置され、流入口を通過した検出対象ガスのうち酸性ガスを吸着する無機化合物を主体とする無機化合物フィルタと、
検出空間内であって無機化合物フィルタの下流に配置され、無機化合物フィルタを通過した検出対象ガスのうち雑ガスおよび酸性ガスを吸着する活性炭を主体とする活性炭フィルタと、
を備えることを特徴とする。
【0046】
この構成によれば、上流側の無機化合物フィルタが酸性ガスを吸着し、また、下流側の活性炭フィルタが酸性ガスおよび雑ガスを吸着するため、特に酸性ガスを二層のフィルタにより確実に吸着する。
【0047】
また、請求項3に記載の発明によれば、
請求項1に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記フィルタは、
検出空間内であって流入口の下流に配置され、流入口を通過した検出対象ガスのうち雑ガスおよび酸性ガスを吸着する活性炭を主体とする活性炭フィルタと、
検出空間内であって活性炭フィルタの下流に配置され、活性炭フィルタを通過した検出対象ガスのうち酸性ガスを吸着する無機化合物を主体とする無機化合物フィルタと、
を備えることを特徴とする。
【0048】
この構成によれば、上流側の活性炭フィルタが酸性ガスおよび雑ガスを吸着し、また、下流側の無機化合物フィルタが酸性ガスを吸着するため、特に酸性ガスを二層のフィルタにより確実に吸着する。
【0049】
また、請求項4に記載の発明によれば、
請求項1に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記フィルタは、
検出空間内であって流入口の下流に配置され、流入口を通過した検出対象ガスのうち酸性ガスを吸着する無機化合物を主体とする上側の無機化合物フィルタと、
検出空間内であって上側の無機化合物フィルタの下流に配置され、上側の無機化合物フィルタを通過した検出対象ガスのうち雑ガスおよび酸性ガスを吸着する活性炭を主体とする活性炭フィルタと、
検出空間内であって活性炭フィルタの下流に配置され、活性炭フィルタを通過した検出対象ガスのうち酸性ガスを吸着する無機化合物を主体とする下側の無機化合物フィルタと、
を備えることを特徴とする。
【0050】
この構成によれば、上流側の無機化合物フィルタが酸性ガスを吸着し、続いて中間の活性炭フィルタが酸性ガスおよび雑ガスを吸着し、さらに下流側の無機化合物フィルタが酸性ガスを吸着するため、特に酸性ガスを三層のフィルタにより確実に吸着する。
【0051】
また、請求項5に記載の発明によれば、
請求項1に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記フィルタは、
検出空間内であって流入口の下流に配置され、流入口を通過した検出対象ガスのうち雑ガスおよび酸性ガスを吸着する活性炭を主体とする上側の活性炭フィルタと、
検出空間内であって上側の活性炭フィルタの下流に配置され、上側の活性炭フィルタを通過した検出対象ガスのうち酸性ガスを吸着する無機化合物を主体とする無機化合物フィルタと、
検出空間内であって無機化合物フィルタの下流に配置され、無機化合物フィルタを通過した検出対象ガスのうち雑ガスおよび酸性ガスを吸着する活性炭を主体とする下側の活性炭フィルタと、
を備えることを特徴とする。
【0052】
この構成によれば、上流側の活性炭フィルタが酸性ガスおよび雑ガスを吸着し、続いて中間の無機化合物フィルタが酸性ガスを吸着し、さらに下流側の活性炭フィルタが酸性ガスおよび雑ガスを吸着するため、特に酸性ガスを三層のフィルタにより確実に吸着する。
【0053】
また、請求項6に記載の発明によれば、
請求項2〜請求項5の何れか一項に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記無機化合物フィルタは、その厚みを1mm〜3mmとすることを特徴とする。
【0054】
無機化合物フィルタの厚みを1mm〜3mmとした場合に、通過速度を遅くすることなく、酸性ガスの吸着量を確保することを知見した。
【0055】
また、請求項7に記載の発明によれば、
請求項1に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記フィルタは、
雑ガスおよび酸性ガスを吸着する粒状の活性炭と、酸性ガスを吸着する粒状の無機化合物と、を混合したフィルタであることを特徴とする。
【0056】
活性炭および無機化合物をともに粒状にして、厚さ等に応答速度が影響されないようにした。また、量も酸性ガスを確実に吸着できる量を採用して、吸着能力を高めた。
【0057】
また、請求項8に記載の発明によれば、
請求項1〜請求項7の何れか一項に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記無機化合物は、固体塩基性無機化合物であることを特徴とする。
【0058】
前記無機化合物のうちで、特に固体塩基性無機化合物が酸性ガスの吸着に良好である点を知見した。
【0059】
また、請求項9に記載の発明によれば、
請求項8に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記固体塩基性無機化合物は、CaO,MgO,ZnOの何れかによる酸化物であることを特徴とする。
【0060】
固体塩基性無機化合物のうち、CaO,MgO,ZnOが安価であり、また、酸性ガスの吸着に好ましい点を知見した。
【0061】
また、請求項10に記載の発明によれば、
請求項1〜請求項7の何れか一項に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記無機化合物は、炭酸塩であることを特徴とする。
【0062】
前記無機化合物のうちで、特に炭酸塩も酸性ガスの吸着に良好である点を知見した。
【0063】
また、請求項11に記載の発明によれば、
請求項10に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記炭酸塩は、KCO,NaCO,CaCO,BaCO,SrCOのいずれかによる塩であることを特徴とする。
【0064】
炭酸塩のうち、KCO,NaCO,CaCO,BaCO,SrCOが安価であり、また、酸性ガスの吸着に好ましい点を知見した。
【発明の効果】
【0065】
請求項1に係る発明によれば、無機化合物および活性炭により酸性ガスおよび雑ガスが吸着されるため、検出目的となっている可燃性ガスの濃度を高くして薄膜ガスセンサへ到達させて検出精度を高める。また、酸性ガスが到達しないため、薄膜ガスセンサの劣化を抑止する。その結果、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0066】
また、請求項2に係る発明によれば、上流側の無機化合物フィルタが酸性ガスを吸着し、また、下流側の活性炭フィルタが酸性ガスおよび雑ガスを吸着するため、特に酸性ガスを二層のフィルタにより確実に吸着して、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0067】
また、請求項3に係る発明によれば、上流側の活性炭フィルタが酸性ガスおよび雑ガスを吸着し、また、下流側の無機化合物フィルタが酸性ガスを吸着するため、特に酸性ガスを二層のフィルタにより確実に吸着して、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0068】
また、請求項4に係る発明によれば、上流側の無機化合物フィルタが酸性ガスを吸着し、続いて中間の活性炭フィルタが酸性ガスおよび雑ガスを吸着し、さらに下流側の無機化合物フィルタが酸性ガスを吸着するため、特に酸性ガスを三層のフィルタにより確実に吸着して、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0069】
また、請求項5に係る発明によれば、上流側の活性炭フィルタが酸性ガスおよび雑ガスを吸着し、続いて中間の無機化合物フィルタが酸性ガスを吸着し、さらに下流側の活性炭フィルタが酸性ガスおよび雑ガスを吸着するため、特に酸性ガスを三層のフィルタにより確実に吸着して、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0070】
また、請求項6に係る発明によれば、厚みを1mm〜3mmとした場合に、通過速度を遅くすることなく、酸性ガスの吸着量を確保できるため、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0071】
また、請求項7に係る発明によれば、活性炭および無機化合物をともに粒状にして、厚さ等に影響されないようにし、さらに十分な吸着量を確保するように量を選択し、十分に混ぜ合わせることで、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0072】
また、請求項8に係る発明によれば、特に酸性ガスの吸着に良好である固体塩基性無機化合物を採用して、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0073】
また、請求項9に係る発明によれば、固体塩基性無機化合物のうち、CaO,MgO,ZnOを無機化合物フィルタとして採用したときに、安価であって高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0074】
また、請求項10に係る発明によれば、特に酸性ガスの吸着に良好である炭酸塩を主体とするフィルタを採用したときに、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0075】
また、請求項11に係る発明によれば、炭酸塩のうち、KCO,NaCO,CaCO,BaCO,SrCOのいずれかによる塩を無機化合物フィルタとして採用したときに、安価であって高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0076】
総じて以上のような本発明によれば、酸性ガスを確実に除去するとともに十分な反応速度を確保し、長期間にわたり高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0077】
続いて、本発明を実施するための最良の形態の可燃性ガス検出装置1について図を参照しつつ以下に説明する。図1は本形態の可燃性ガス検出装置の構成図である。この可燃性ガス検出装置1は、薄膜ガスセンサ10(図6参照)、ケース体20、活性炭フィルタ30、ワイヤ40、リード端子50、無機化合物フィルタ60を備える。
先に説明した従来技術の可燃性ガス検出装置100と比較すると、無機化合物フィルタ60が追加され、活性炭フィルタ30と無機化合物フィルタ60とで本発明の具体例であるフィルタを構成している点が相違する。
【0078】
続いて各構成について説明する。
薄膜ガスセンサ10は、先に図6を用いて説明した薄膜ガスセンサ10の構造と同じであり重複する説明を省略する。
【0079】
ケース体20は、キャップ21、ステム22を備える。
キャップ21は、円筒体の一方の開口部に、網状の板である流入口211が天井部として取り付けられた部材である。
ステム22は、段付き円板である。ステム22の上段部にキャップ21の他方の開口部が嵌め込まれて固着され、検出空間212が内部に形成されたケース体20となる。検出空間212内には活性炭フィルタ30および無機化合物フィルタ60を配置する空間の仕切となる通過口213が設けられている。この通過口213も網状の板により形成されており、キャップ21内で固着されている。流入口211や通過口213は、例えばステンレス製のネットなどを用いても良い。
【0080】
無機化合物フィルタ60は、検出空間212とほぼ同じ径を有する円板状の形状を有し、流入口211の下流に配置され、流入口211からの検出対象ガスを通過させてそのうちの酸性ガスを吸着する。酸性ガスは、具体的にはSOであり、無機化合物フィルタ60は、詳しくはSOと容易に反応する固体塩基性無機化合物を主成分とする。この固体塩基性無機化合物は、更に好ましくはCaO,MgO,ZnOの何れかによる酸化物である。無機化合物フィルタ60はその厚みを1mm〜3mm程度として、応答速度を確保している。
【0081】
固体塩基性無機化合物は塩基性活性点を無数に有している。塩基とは広義に定義すれば、酸と反応して塩を作る物質といえる。塩基とはプロトンを受け取る物質であり電子対を与える物質である。
塩基性物質であるCao,MgO,ZnOの酸化物は酸性ガスであるSOと容易に反応し、それぞれ以下の反応式で硫酸塩を生成する(上記物質に吸着される)。
【0082】
CaO+SO+1/2O⇒CaSO
MgO+SO+1/2O⇒MgSO
ZnO+SO+1/2O⇒ZnSO
【0083】
無機化合物フィルタ60は、このような固体塩基性無機化合物を採用することで達成される。
【0084】
また、他の無機化合物フィルタ60として、詳しくはSOと容易に反応する固体塩基性無機炭酸塩を主成分とする炭酸塩フィルタを採用する。炭酸塩フィルタは、詳しくはKCO,NaCO,CaCO,BaCO,SrCOのいずれかによる炭酸塩である。
SOの吸着をKCOの例で説明する。KCOはSOと以下の反応によりKSOを生成しSOを固定化する(反応からKCOはSOの吸着剤ではなく吸収剤といったほうが正確である)。
【0085】
CO+SO+1/2O⇒KSO+CO
【0086】
同様にNaCO,CaCO,BaCO,SrCOに対し、SOはそれぞれ以下の反応により吸着される。
【0087】
NaCO+SO+1/2O⇒NaSO+CO
CaCO+SO+1/2O⇒CaSO+CO
BaCO+SO+1/2O⇒BaSO+CO
SrCO+SO+1/2O⇒SrSO+CO
【0088】
無機化合物フィルタ60は、このような炭酸塩を採用することでも達成される。
【0089】
無機化合物フィルタ60は、流入する検出対象ガスとの接触面積が大きいほどよく、それぞれの粉末をシリカゾルのような無機バインダーに担持させて球状、破砕状、ペレット状の形態にし、円板状で通過孔を有するケース体などに収納したフィルタとしても良い。
また円板状であってハニカム状担体などの圧損の少ない担体に、固体塩基性無機化合物粉末にシリカゾルのような無機バインダーを混合したペーストをコーティングして形成したフィルタとしても良い。
【0090】
活性炭フィルタ30は、検出空間212とほぼ同じ径を有する円板状の形状を有し、無機化合物フィルタ60の下流に配置され、無機化合物フィルタ60からの検出対象ガスを通過させてさらに酸性ガスを吸着する。活性炭におけるSOの吸着反応は以下と推定されており、生成したHSOを活性炭内の細孔に吸着するものである。
【0091】
SO+1/2O+HO⇒HSO
【0092】
ワイヤ40は、その一方が図6を用いて説明した感知電極層151と電気的に接続される。このようなワイヤ40は二個の感知電極層151,151とそれぞれ接続するため、二本備える。
【0093】
リード端子50はその一方がワイヤ40と電気的に接続される。このようなリード端子50は二本のワイヤ40とそれぞれ接続するため、二個備える。なお、図示しないが、ヒータ駆動用の駆動・処理部を外付けにして、間欠駆動用の図示しないリード端子を設けるようにしても良い。また、ヒータ駆動用の駆動・処理部を内蔵して電源供給用の図示しないリード端子を設けるようにしても良い。
【0094】
続いて可燃性ガス検出装置1の製造方法について説明する。まず薄膜ガスセンサ10の製造方法について説明する。
まず、板状のシリコンウェハー(図示せず)の表裏両面に膜厚0.3μmの熱酸化膜を形成する。そして一方の熱酸化膜には、更に膜厚0.15μmのSiNと膜厚1μmのSiO膜を順次プラズマDVD法にてそれぞれ形成する。熱絶縁支持層12はこれら熱酸化膜、SiNおよびSiO膜を三層にわたり積層したものである。この熱絶縁支持層12が、図6からも明らかなように、ダイアフラム構造の支持層となる。
【0095】
ヒータ層13は、熱絶縁支持層12の上面に設けられる。このヒータ層13は、Ta/PtW/Taヒータである。さらに電気絶縁層14は、熱絶縁支持層12とヒータ層13との上面に設けられる。この電気絶縁層14は、SiO絶縁層である。
【0096】
ヒータ層13と電気絶縁層14との形成方法であるが、まず熱絶縁支持層12の上に下側接合層として機能するTaを0.05μm形成する。この下側接合層Taの上面にヒータ層として機能するPtW(Pt+4wt%W)膜を0.5μm形成する。更にこのPtW膜の上面に上側接合層として機能するTaを0.05μm形成する。成膜はRFマグネトロンスパッタリング装置を用い、通常のスパッタリング方法によって行う。成膜温度は100℃、成膜パワー100W、成膜厚力1Paである。
【0097】
このようにして形成したTa/PtW/Ta層に対し、さらに微細加工によりヒータパターンを形成する。ウェットエッチングのエッチャントとして、Taには水酸化ナトリウムと過酸化水素混合液、Ptには王水をそれぞれ90℃に加熱して用いた。
【0098】
続いて、ヒータパターンが形成されたTa/PtW/Ta層の上面に、SiO絶縁膜をスパッタ法により2.0μm形成する。そして、このSiO絶縁膜に対して、微細加工により図示されていないがヒータの電極パッド部分をHFにてエッチングして窓開けし、導通の確保とワイヤボンディング性を向上するため、窓内の上側接合層Taは水酸化ナトリウムと過酸化水素混合液で除去する。このようにしてヒータ層13と電気絶縁層14とが一度に形成される。
【0099】
感知電極層151は、下地の電気絶縁層14との密着性向上のため電気絶縁層14の上に接合層を形成し、この接合層の上に形成される。
この一対の感知電極層151の形成方法であるが、まず、レジストで全面を覆った後に、微細加工で接合層および感知電極層151を形成する二カ所の部分のみレジストを除去する。これにより、二カ所の開口部以外をレジストで被覆したパターンを形成する。続いて接合層および感知電極層の成膜は、RFマグネトロンスパッタリング装置を用い、通常のスパッタリング法によって行う。成膜条件は接合層(Ta)、感知電極層(Pt)、ともに同じで、成膜温度は100℃、成膜パワー100W、成膜厚力1Paである。膜厚は接合層となるTaが0.05μm、感知電極層となるPtが0.2μmとなる。このように所定厚みとなるようにスパッタで成膜した後、レジストを除去と同時に不要部分(レジスト上)に付着したTaやPtを除去するレジストリフトオフ方で行う。最終的に、膜厚が0.05μmの接合層、およびこの接合層の上に膜厚が0.2μmの感知電極層151が形成される。これらは一対形成される。
【0100】
ガス感応層152は、一対の感知電極層151,151の間を渡されるように電気絶縁層14上に設けられる。ガス感応層152は、Sb−doped SnO膜である。
このガス感応層152の形成方法であるが、まず、レジストで全面を覆った後に、微細加工でガス感応層152を成膜する部分のみレジストを除去する。これにより、開口部以外をレジストで被覆したパターンを形成する。この開口部のサイズは、例えば100μm□となる。
【0101】
次に、上記のパターニングが施されたウェハーをスパッタチャンバーにセットし、ガス感応層152であるSnO薄膜をスパッタ成膜する。成膜条件は成膜パワー50W、成膜厚力1Pa、成膜雰囲気Ar+O中、成膜温度100℃であり、上記条件でSnOの成膜レートは5nm/minとなる。
所定厚みとなるようにSnO薄膜をスパッタで成膜した後、レジストを除去と同時に不要部分(レジスト上)に付着したSnO薄膜を除去するレジストリフトオフ方で行う。0.5μm厚みのSnO薄膜を成膜後、レジストをリフトオフする。このようにして形成されたガス感応層152の大きさは、100μm□程度、厚さは0.5μmとなる。
【0102】
ガス選択燃焼層153は、電気絶縁層14、一対の感知電極層151,151およびガス感応層152を覆うように形成される。このガス選択燃焼層153は、PdやPtという触媒を担持したアルミナ粉末、バインダーおよび有機溶剤を混合調製した印刷ペーストをスクリーン印刷で感知膜の表面を覆うように塗布印刷し、室温で乾燥後、500℃で1時間焼き付け焼成させて形成される。ガス選択燃焼層153の大きさは、約30μm厚であり、ガス感応層152を十分に覆う大きさとする。このようにスクリーン印刷により厚みを薄くしている。
【0103】
最後にシリコンウェハー(図示せず)は、その裏面から微細加工プロセスとしてドライエッチングによりシリコンが除去され、400μm径の貫通孔が形成されたSi基板11となる。その後にウェハーよりチップを切り出してこれによりダイヤフラム構造の薄膜ガスセンサ10となる。
薄膜ガスセンサ10の製造方法はこのようなものである。
【0104】
続いて、このように予め製造しておいた薄膜ガスセンサ10を用いて行う可燃性ガス検出装置1の製造方法について説明する。なお、説明の具体化のため、無機化合物フィルタ60は、炭酸塩であるKCOを用いるフィルタであるものとして説明する。なお、このKCOに代えて上記した酸化物、炭酸塩のいずれでも同様の手法で製造することが可能であり、重複する説明は省略する。
【0105】
70gのKCO粉末を200℃/大気中で2時間加熱する。常温に戻したKCO粉末にエタノール100gを加えボールミルで約1hr粉砕混合する。その後シリカゾル15gにエタノール40gを混合した溶液をボールミル粉砕したKCO粉末に加え更にボールミルで約1hr粉砕混合する。その後SUSパッドにKCO粉末+シリカゾル混合物を移し広げる。
【0106】
室温でエタノールを蒸発させた後、KCO粉末+シリカゾル混合液の固まりを取り出し、適当な大きさ(数mm〜数cmの固まり)に粉砕後アルミナ坩堝に入れ電気炉で150℃×1hr乾燥後、350℃×1hr焼成する。冷却後、無機バインダーのシリカゾルで固められたKCO粉末+シリカゾル混合物を更に粉砕し80メッシュ〜30メッシュの篩で篩い整粒する。整流されたKCO粉末+シリカゾル混合物の粒径は200〜500μmである。
【0107】
続いて、活性炭を図1のキャップ21内の100メッシュのSUSネットたる通過口213上に所定厚さとなるように充填して活性炭フィルタ30を形成する。
さらに、上記の80メッシュ〜30メッシュ間に整粒されたKCO粉末+シリカゾル混合物を活性炭フィルタ30の上部に敷き詰めて無機化合物フィルタ60を形成する。そして、無機化合物フィルタ60の上側に100メッシュのSUSネットたる流入口211を配置して開口部に固定する。
【0108】
なお、上述のSUSパッドに移すと同時にKCO粉末+シリカゾル+エタノール混合物スラリーにアルミナ担体、ハニカム、あるいはスポンジ状担体(セラミックフォーム)などを浸漬し表面にKCO粉末+シリカゾル+エタノール混合物スラリーを薄くコーティング後焼成しても同様の効果のSO吸着を行う無機化合物フィルタが得られる。
【0109】
続いて、薄膜ガスセンサ10をステム22にダイボンディングした後、ヒーターバッドとリード端子(図示せず)とを、また、センサ電極パッドとリード端子50とを、をAu線であるワイヤ40を用いてそれぞれワイヤボンディングする。続いて、ステム22にキャップ21が嵌め込まれ、抵抗溶接を行って可燃性ガス検出装置1を形成する。
可燃性ガス検出装置1では、ヒータ層13および感知電極層151は、駆動・処理部と電気的に通信可能に接続される。
【0110】
このような可燃性ガス検出装置1では、流入口211から無機化合物フィルタ60・活性炭フィルタ30・通過口213を経て、薄膜ガスセンサ10まで検出対象ガスが到達するが、無機化合物フィルタ60と活性炭フィルタ30とを併用しているため、酸性ガスであるSOの除去能力を向上させている。
無機化合物フィルタ60は、下流にある活性炭フィルタ30と比較すると、より多くのSOを吸着することができ、活性炭フィルタ30のみでは防ぎきれなかったSOの薄膜ガスセンサ10ヘの到達を防ぐことが可能となる。このように活性炭と比較してSOとの反応性が高い固体塩基性無機化合物や炭酸塩という無機化合物を併用することでより高い効率でSOを除去することが可能となる。
【0111】
しかしながら、無機化合物フィルタ60の厚さが薄いと、検出対象ガスは流入口211を通じて濃度拡散により無機化合物フィルタ60、活性炭フィルタ30を通過し、極微量のSOが薄膜ガスセンサ10ヘ到達することがある。無機化合物フィルタ60の厚さを厚くすることでそれは回避することが可能であるが、無機化合物フィルタ60の厚さを厚くすることは、応答速度を遅くすることになるため、その関係は相反することになる。
【0112】
応答速度を維持する厚さまで無機化合物フィルタ60を薄くし、極微量のSOが無機化合物フィルタ60を通過することは許容する必要がある。しかしながら、薄膜ガスセンサ10は、固体容量が非常に小さいため極微量のSOに反応してしまうことがあり、経時的に薄膜ガスセンサ10に蓄積(固着)されたSOによっても薄膜ガスセンサ10の影響(誤検出、劣化)も大きい。
従って、無機化合物フィルタ60を通過するSOの量は、間欠駆動方式でのセンサ加熱時間によりSOを除去できる程度までの極微量としなければならない。
【0113】
そこで、応答性を損なうことなくSOの混入を最小限とするような無機化合物フィルタ60の厚さを割り出すように実験し、無機化合物フィルタ60の厚さは1mm〜7mm未満(望ましくは3mm以下)が好ましいことを本発明者は実験により確認した。この場合には微量のSOが混入しても、間欠駆動による加熱だけでSO が除去できる。このように薄膜ガスセンサ10ヘの適用を考えた場合、塩基性フィルタ+間欠駆動の相乗作用にてSOに対する長期特性維持を達成することが可能になる。その結果、可燃性ガス検出装置1に特有の効果として、SO含有環境におけるセンサ駆動の低消費電力化、検出対象ガスに対するセンサ応答速度の維持、SOに対する誤検出防止、及びSOに対する耐性の4者効果を同時に達成することができる。
【0114】
続いて他の形態の可燃性ガス検出装置について図を参照しつつ説明する。図2は他の形態の可燃性ガス検出装置の構成図である。この可燃性ガス検出装置2は、薄膜ガスセンサ10(図6参照)、ケース体20、活性炭フィルタ30、ワイヤ40、リード端子50、無機化合物フィルタ60を備える。
先に図1を用いて説明した可燃性ガス検出装置1と比較すると、薄膜ガスセンサ10(図6参照)、ケース体20、ワイヤ40、リード端子50は同じであるが、活性炭フィルタ30が流入口側に配置され、無機化合物フィルタ60が活性炭フィルタ30の下流に配置されて本発明の一具体例のフィルタを構成している点が相違する。薄膜ガスセンサ10(図6参照)、ケース体20、ワイヤ40、リード端子50については構成・機能が先に説明した図1の可燃性ガス検出装置1と同じ構成・機能を有するものであり、同じ番号を付すとともに重複する説明を省略する。また、活性炭フィルタ30および無機化合物フィルタ60自体も構成・機能は先に説明した図1の可燃性ガス検出装置1と同じ構成・機能を有するものであり、これら構成・機能について重複する説明を省略する。
【0115】
このような可燃性ガス検出装置2を動作させると、流入口211からの検出対象ガスのうち活性炭フィルタ30が雑ガスおよび酸性ガスを吸着し、活性炭フィルタ30で吸着できなかった酸性ガスを無機化合物フィルタ60が吸着することになるため、特に酸性ガスが確実に吸着され、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置2とする。このような可燃性ガス検出装置2としても良い。
【0116】
続いて他の形態の可燃性ガス検出装置について図を参照しつつ説明する。図3は他の形態の可燃性ガス検出装置の構成図である。この可燃性ガス検出装置3は、薄膜ガスセンサ10(図6参照)、ケース体20、中間層の活性炭フィルタ30、ワイヤ40、リード端子50、上下二層の無機化合物フィルタ60を備える。
先に図1を用いて説明した可燃性ガス検出装置1と比較すると、薄膜ガスセンサ10(図6参照)、ケース体20、ワイヤ40、リード端子50は同じであるが、上側の無機化合物フィルタ60が流入口側に配置され、この上側の無機化合物フィルタ60の下流に中間の活性炭フィルタ30が配置され、この中間の活性炭フィルタ30の下流に下側の無機化合物フィルタ60が順次配置されて本発明の一具体例のフィルタを構成している点が相違する。薄膜ガスセンサ10(図6参照)、ケース体20、ワイヤ40、リード端子50については構成・機能が先に説明した図1の可燃性ガス検出装置1と同じ構成・機能を有するものであり、同じ番号を付すとともに重複する説明を省略する。また、活性炭フィルタ30および無機化合物フィルタ60自体も構成・機能は先に説明した図1の可燃性ガス検出装置1と同じ構成・機能を有するものであり、これら構成・機能について重複する説明を省略する。
【0117】
このような可燃性ガス検出装置3を動作させると上側の無機化合物フィルタ60が酸性ガスを吸着し、中間の活性炭フィルタ30が雑ガスおよび酸性ガスを吸着し、さらに上側の無機化合物フィルタ60や活性炭フィルタ30で吸着できなかった酸性ガスを下側の無機化合物フィルタ60が吸着することになるため、特に酸性ガスが確実に吸着され、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置3とする。このような可燃性ガス検出装置3としても良い。
【0118】
続いて他の形態の可燃性ガス検出装置について図を参照しつつ説明する。図4は他の形態の可燃性ガス検出装置の構成図である。この可燃性ガス検出装置4は、薄膜ガスセンサ10(図6参照)、ケース体20、上下二層の活性炭フィルタ30、ワイヤ40、リード端子50、中間層の無機化合物フィルタ60を備える。
先に図1を用いて説明した可燃性ガス検出装置1と比較すると、薄膜ガスセンサ10(図6参照)、ケース体20、ワイヤ40、リード端子50は同じであるが、上側の活性炭フィルタ30が流入口側に配置され、中間の無機化合物フィルタ60が上側の活性炭フィルタ30の下流に配置され、下側の活性炭フィルタ30が中間の無機化合物フィルタ60の下流側に順次配置されて本発明の一具体例のフィルタを構成している点が相違する。薄膜ガスセンサ10(図6参照)、ケース体20、ワイヤ40、リード端子50については構成・機能が先に説明した図1の可燃性ガス検出装置1と同じ構成・機能を有するものであり、同じ番号を付すとともに重複する説明を省略する。また、活性炭フィルタ30および無機化合物フィルタ60自体も構成・機能は先に説明した図1の可燃性ガス検出装置1と同じ構成・機能を有するものであり、これら構成・機能について重複する説明を省略する。
【0119】
このような可燃性ガス検出装置4を動作させると上側の活性炭フィルタ30が雑ガスおよび酸性ガスを吸着し、上側の活性炭フィルタ30で吸着できなかった酸性ガスを中間の無機化合物フィルタ60が吸着し、さらに上側の活性炭フィルタ30で吸着できなかった雑ガスや酸性ガス、および、中間の無機化合物フィルタ60で吸着できなかった酸性ガスを下側の活性炭フィルタ30が吸着することになるため、特に酸性ガスが確実に吸着され、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置4とする。このような可燃性ガス検出装置4としても良い。
【0120】
続いて他の形態の可燃性ガス検出装置について図を参照しつつ説明する。図5は他の形態の可燃性ガス検出装置の構成図である。この可燃性ガス検出装置5は、薄膜ガスセンサ10(図6参照)、ケース体20、ワイヤ40、リード端子50、混合フィルタ70を備える。
先に図1を用いて説明した可燃性ガス検出装置1と比較すると、薄膜ガスセンサ10(図6参照)、ケース体20、ワイヤ40、リード端子50は同じであるが、活性炭フィルタ30や無機化合物フィルタ60を取り去って、混合フィルタ70を採用して本発明の一具体例のフィルタを構成している点が相違する。薄膜ガスセンサ10(図6参照)、ケース体20、ワイヤ40、リード端子50については構成・機能が先に説明した図1の可燃性ガス検出装置1と同じ構成・機能を有するものであり、同じ番号を付すとともに重複する説明を省略する。
【0121】
混合フィルタ70は、粒状の活性炭と、粒状の塩基化合物(詳しくは粒状の固体塩基性無機化合物または粒状の炭酸塩)と、を混合したフィルタである。この場合、無機化合物フィルタ60のように1mm〜3mmというような厚さの制約がなくなるため、混合フィルタ70は、雑ガスおよび酸性ガスが除去できるような十分な厚さを採用して応答性に影響を与えることなく吸着能力を高めることができる。また、混合比についても適宜設定が可能である。例えば、酸性ガスが多くなる環境下で用いる場合は無機化合物の比率を増やすなどして、適宜選択することも可能である。
このような可燃性ガス検出装置5を動作させると混合フィルタ70が雑ガスおよび酸性ガスを吸着することになるため、特に粒状の活性炭と粒状の塩基化合物とにより酸性ガスが確実に吸着され、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置5とする。このような可燃性ガス検出装置5としても良い。
【実施例1】
【0122】
続いて実施例1について説明する。
この実施例1は、図1を用いて説明した本形態の薄膜ガスセンサ1についての実施例である。
CO粉末+シリカゾル混合物による無機化合物フィルタ60と、活性炭フィルタ30と、の二層からなるフィルタにおいて活性炭フィルタ30は3mm厚に固定して、KCO粉末+シリカゾル混合物層による無機化合物フィルタ60の厚みを素子A:0mm、素子B:1mm、素子C:2mm、素子D:3mmとして可燃性ガス検出装置を試作した。なお、素子Aは図9で示す従来技術の可燃性ガス検出装置100に相当する。ここで、無機化合物フィルタ60と、活性炭フィルタ30と、の二層のトータル厚みが>7mmではガス拡散速度が遅く、応答速度が基準を満たさないため除外した。
素子A〜DについてSO濃度10ppm/空気、周囲温度50℃、相対湿度50%bの試験条件で、耐SO試験を行った。
【0123】
表1は本発明のセンサ(素子B〜D)と従来のセンサ(図9で示す可燃性ガス検出装置100である素子A)を上記雰囲気でパルス通電(試験条件3V/50mW、通電100msecON/30secOFF(通電時ヒータ温度450℃))で10日間試験後、試験前後の環境温度20℃、60%RHでの空気中抵抗値(Rair)(センサ温度450℃)を示したものである。CO,Hガスを共存させた場合の試験前後のCO,H選択性については○×で示した。
【0124】
【表1】

【0125】
表から、本発明の素子B〜Dはいずれも耐SO試験前後で特性劣化は全く認められないことが分かる。一方従来技術による素子AはRairが約1/5に低下し更にCO,H選択性も消失していることが分かる。
SOガスが薄膜ガスセンサ10の特性を低下させる真の原因は明確ではないが、CO,H選択性が消失することからSOが薄膜ガスセンサ10のガス選択燃焼層153の酸化触媒のPdに吸着し触媒活性を低下させているものと推定される。Rairの低下に関してはPdの触媒活性の低下に加えSnOの活性点に化学吸着することでSnOの表面電気伝導性が良くなったものと推定される。
図9で示す可燃性ガス検出装置100のように活性炭フィルタ30のみの場合、上記より明らかなように、CO,H選択性の低下、Rairが低下し、センサ特性が劣化し誤検出の原因となる。
【0126】
劣化した素子Aのガス選択燃焼層の表面をESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis:X線光電子分光装置)で分析したところSが検出されるが、素子B〜Dでは検出されないこともわかっており、無機化合物フィルタ60がSOガスを完全にフィルタリングしていることも確認された。
このように本実施例による可燃性ガス検出装置1は、KCO粉末+シリカゾル混合物による無機化合物フィルタ60と活性炭フィルタ30とを組み合わせることで、SOによる特性劣化、誤検出を防止できるものとなっている。また、上記各形態の可燃性ガス検出装置2,3,4,5も同様な効果を奏しうるものとなる。
【0127】
以上本発明の可燃性ガス検出装置について説明した。本発明によれば、活性炭フィルタと無機化合物フィルタとを併用することで、SOガスが共存する雰囲気下に可燃性ガス検出装置がさらされても、SOガスが完全に除去されて薄膜ガスセンサまで到達することはないため、長期に亘り安定な特性の可燃性ガス検出装置が可能になり、SOによる特性劣化、誤検出を防止できた。また、仮にSOガスが完全に除去されずに薄膜ガスセンサ10まで到達してもヒータ層13の間欠駆動時の加熱によりSOが除去されることとなり、やはり特性劣化、誤検出を防止できた。また、図7,図8で示すような従来技術と同様な間欠駆動を行っても加熱時に確実にSOが除去されて、やはり特性劣化、誤検出を防止できた。
【0128】
以上説明したように、請求項1に係る発明によれば、無機化合物および活性炭により酸性ガスおよび雑ガスが吸着されるため、検出目的となっている可燃性ガスの濃度を高くして薄膜ガスセンサへ到達させて検出精度を高める。また、酸性ガスが到達しないため、薄膜ガスセンサの劣化を抑止する。その結果、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0129】
また、請求項2に係る発明によれば、上流側の無機化合物フィルタが酸性ガスを吸着し、また、下流側の活性炭フィルタが酸性ガスおよび雑ガスを吸着するため、特に酸性ガスを二層のフィルタにより確実に吸着して、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0130】
また、請求項3に係る発明によれば、上流側の活性炭フィルタが酸性ガスおよび雑ガスを吸着し、また、下流側の無機化合物フィルタが酸性ガスを吸着するため、特に酸性ガスを二層のフィルタにより確実に吸着して、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0131】
また、請求項4に係る発明によれば、上流側の無機化合物フィルタが酸性ガスを吸着し、続いて中間の活性炭フィルタが酸性ガスおよび雑ガスを吸着し、さらに下流側の無機化合物フィルタが酸性ガスを吸着するため、特に酸性ガスを三層のフィルタにより確実に吸着して、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0132】
また、請求項5に係る発明によれば、上流側の活性炭フィルタが酸性ガスおよび雑ガスを吸着し、続いて中間の無機化合物フィルタが酸性ガスを吸着し、さらに下流側の活性炭フィルタが酸性ガスおよび雑ガスを吸着するため、特に酸性ガスを三層のフィルタにより確実に吸着して、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0133】
また、請求項6に係る発明によれば、厚みを1mm〜3mmとした場合に、通過速度を遅くすることなく、酸性ガスの吸着量を確保できるため、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0134】
また、請求項7に係る発明によれば、活性炭および無機化合物をともに粒状にして、厚さ等に影響されないようにして、十分な吸着量を確保する厚さに設定できるため、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0135】
また、請求項8に係る発明によれば、特に酸性ガスの吸着に良好である固体塩基性無機化合物を採用して、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0136】
また、請求項9に係る発明によれば、固体塩基性無機化合物のうち、CaO,MgO,ZnOを無機化合物フィルタとして採用したときに、安価であって高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0137】
また、請求項10に係る発明によれば、特に酸性ガスの吸着に良好である炭酸塩を主体とするフィルタを採用したときに、高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0138】
また、請求項11に係る発明によれば、炭酸塩のうち、KCO,NaCO,CaCO,BaCO,SrCOのいずれかによる塩を無機化合物フィルタとして採用したときに、安価であって高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置とすることができる。
【0139】
総じて以上のような本発明によれば、酸性ガスを確実に除去するとともに十分な反応速度を確保し、長期間にわたり高い応答性を実現した可燃性ガス検出装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】本発明を実施するための最良の形態の可燃性ガス検出装置の構成図である。
【図2】他の形態の可燃性ガス検出装置の構成図である。
【図3】他の形態の可燃性ガス検出装置の構成図である。
【図4】他の形態の可燃性ガス検出装置の構成図である。
【図5】他の形態の可燃性ガス検出装置の構成図である。
【図6】薄膜ガスセンサを概略的に示す縦断面図である。
【図7】High−Off方式によるヒータ層温度の時間特性を説明する説明図である。
【図8】High−Low−Off方式によるヒータ層温度の時間特性を説明する説明図である。
【図9】従来技術の可燃性ガス検出装置の構成図である。
【符号の説明】
【0141】
1,2,3,4,5:可燃性ガス検出装置
10:薄膜ガスセンサ
11:Si基板
12:絶縁支持層
13:ヒータ層
14:電気絶縁層
15:ガス検出層
151:感知電極層
152:感知層(SnO層)
153:ガス選択燃焼層(Pd担持Al焼結材)
20:ケース体
21:キャップ
211:流入口
212:検出空間
213:通過口
22:ステム
30:活性炭フィルタ
40:ワイヤ
50:リード端子
60:無機化合物フィルタ
70:混合フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象ガスが導入される流入口、および、この流入口下流側にあって流入口と連通する検出空間を有するケース体と、
検出空間内に配置され、上流側にある流入口を通過した検出対象ガスのうち、酸性ガスを吸着する無機化合物、ならびに、雑ガスおよび酸性ガスを吸着する活性炭、をともに含むフィルタと、
検出空間内であってフィルタの下流側に配置され、所定の時間間隔でパルス通電を行ってオンとオフを繰り返す間欠駆動がなされて、フィルタにより酸性ガスおよび雑ガスが吸着された残りの検出対象ガスのうち可燃性ガスに感応して検出信号を出力する薄膜ガスセンサと、
を備えることを特徴とする可燃性ガス検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記フィルタは、
検出空間内であって流入口の下流に配置され、流入口を通過した検出対象ガスのうち酸性ガスを吸着する無機化合物を主体とする無機化合物フィルタと、
検出空間内であって無機化合物フィルタの下流に配置され、無機化合物フィルタを通過した検出対象ガスのうち雑ガスおよび酸性ガスを吸着する活性炭を主体とする活性炭フィルタと、
を備えることを特徴とする可燃性ガス検出装置。
【請求項3】
請求項1に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記フィルタは、
検出空間内であって流入口の下流に配置され、流入口を通過した検出対象ガスのうち雑ガスおよび酸性ガスを吸着する活性炭を主体とする活性炭フィルタと、
検出空間内であって活性炭フィルタの下流に配置され、活性炭フィルタを通過した検出対象ガスのうち酸性ガスを吸着する無機化合物を主体とする無機化合物フィルタと、
を備えることを特徴とする可燃性ガス検出装置。
【請求項4】
請求項1に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記フィルタは、
検出空間内であって流入口の下流に配置され、流入口を通過した検出対象ガスのうち酸性ガスを吸着する無機化合物を主体とする上側の無機化合物フィルタと、
検出空間内であって上側の無機化合物フィルタの下流に配置され、上側の無機化合物フィルタを通過した検出対象ガスのうち雑ガスおよび酸性ガスを吸着する活性炭を主体とする活性炭フィルタと、
検出空間内であって活性炭フィルタの下流に配置され、活性炭フィルタを通過した検出対象ガスのうち酸性ガスを吸着する無機化合物を主体とする下側の無機化合物フィルタと、
を備えることを特徴とする可燃性ガス検出装置。
【請求項5】
請求項1に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記フィルタは、
検出空間内であって流入口の下流に配置され、流入口を通過した検出対象ガスのうち雑ガスおよび酸性ガスを吸着する活性炭を主体とする上側の活性炭フィルタと、
検出空間内であって上側の活性炭フィルタの下流に配置され、上側の活性炭フィルタを通過した検出対象ガスのうち酸性ガスを吸着する無機化合物を主体とする無機化合物フィルタと、
検出空間内であって無機化合物フィルタの下流に配置され、無機化合物フィルタを通過した検出対象ガスのうち雑ガスおよび酸性ガスを吸着する活性炭を主体とする下側の活性炭フィルタと、
を備えることを特徴とする可燃性ガス検出装置。
【請求項6】
請求項2〜請求項5の何れか一項に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記無機化合物フィルタは、その厚みを1mm〜3mmとすることを特徴とする可燃性ガス検出装置。
【請求項7】
請求項1に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記フィルタは、
雑ガスおよび酸性ガスを吸着する粒状の活性炭と、酸性ガスを吸着する粒状の無機化合物と、を混合したフィルタであることを特徴とする可燃性ガス検出装置。
【請求項8】
請求項1〜請求項7の何れか一項に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記無機化合物は、固体塩基性無機化合物であることを特徴とする可燃性ガス検出装置。
【請求項9】
請求項8に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記固体塩基性無機化合物は、CaO,MgO,ZnOの何れかによる酸化物であることを特徴とする可燃性ガス検出装置。
【請求項10】
請求項1〜請求項7の何れか一項に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記無機化合物は、炭酸塩であることを特徴とする可燃性ガス検出装置。
【請求項11】
請求項10に記載の可燃性ガス検出装置において、
前記炭酸塩は、KCO,NaCO,CaCO,BaCO,SrCOのいずれかによる塩であることを特徴とする可燃性ガス検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−103541(P2009−103541A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−274525(P2007−274525)
【出願日】平成19年10月23日(2007.10.23)
【出願人】(508296738)富士電機機器制御株式会社 (299)
【Fターム(参考)】