四輪駆動車用駆動力伝達装置
【課題】二輪駆動から四輪駆動への切り替え応答性を犠牲にせず、二輪駆動時の後輪差動装置及び駆動力配分装置のオイル粘性抵抗や摩擦損失を減少させることで、燃費低下を伴わない四輪駆動車用動力伝達装置を提供する。
【解決手段】後輪出力軸118への駆動力の配分を制御する多板クラッチ機構106と、後輪差動装置22と右後輪駆動軸70との連結を切断及び接続可能な断接機構76を備え、二輪駆動時に多板クラッチ機構106の引き摺りトルクを後輪駆動力伝達区間78のフリクショントルクよりも小さくすると共に、断接機構76により後輪差動装置22と右後輪駆動軸70との連結を切断して後輪駆動力伝達区間78の回転を停止する。
【解決手段】後輪出力軸118への駆動力の配分を制御する多板クラッチ機構106と、後輪差動装置22と右後輪駆動軸70との連結を切断及び接続可能な断接機構76を備え、二輪駆動時に多板クラッチ機構106の引き摺りトルクを後輪駆動力伝達区間78のフリクショントルクよりも小さくすると共に、断接機構76により後輪差動装置22と右後輪駆動軸70との連結を切断して後輪駆動力伝達区間78の回転を停止する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪駆動と四輪駆動を切り替え可能な四輪駆動車用駆動力伝達装置に関し、特に、二輪駆動時に駆動力の伝達に関わらない部分の回転を停止する四輪駆動車用駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のいわゆるオンデマンド型フルタイム四輪駆動車において、二輪駆動時は前輪を駆動し、四輪駆動時には後輪への駆動力の配分制御を多板クラッチ機構で行う四輪駆動車用駆動力伝達装置としては、例えば図21に示すものが知られている。
【0003】
図21において、駆動力伝達装置300は四輪駆動車302に設けられ、エンジン304からの駆動力を変速機306で変速して駆動力伝達装置300内の前輪差動装置308と駆動力方向変換部310に入力し、駆動力方向変換部310からの出力はプロペラシャフト312を介して多板クラッチ機構314に伝達される。
【0004】
二輪駆動時の多板クラッチ機構314が開放(切り離された状態)されている場合は、駆動力は後輪差動装置324に配分されずに前輪差動装置308に伝達され、前輪差動装置308は左前輪316と右前後輪318の回転速度差を吸収しつつ左前輪316及び右前輪318に等しいトルクを与え回転させる。
【0005】
四輪駆動時の多板クラッチ機構314が締結(接続された状態)されている場合では、駆動力は多板クラッチ機構314に連結されたドライブピニオン320とリングギア322を介して後輪差動装置324にも伝達され、後輪差動装置324は左後輪326と右後輪328の回転速度差を吸収しつつ左後輪326及び右後輪328に等しいトルクを与え回転させる。
【0006】
一般的に、オンデマンド型フルタイム四輪駆動車には、ドライバーが運転中にスイッチ操作で選択できる駆動モードとして、二輪駆動モード、四輪駆動オートモード、四輪駆動ロックモードが用意されている。
【0007】
二輪駆動モードは、駆動力伝達装置300の多板クラッチ機構314を開放して二輪駆動状態で使用するモードであり、燃費が最も良いことから四輪による駆動力が必要ない乾燥舗装路などを走行する場合に選択する。
【0008】
四輪駆動オートモードは、走行中の各種車両状態をセンサで検出し、その検出信号に基づいてECU(Electronic control unit)により多板クラッチ機構314の前後輪への駆動力配分を最適な状態に自動的に制御するモードであり、路面状態に係わらず常時選択が可能な四輪駆動である。
【0009】
このモードでは、多板クラッチ機構314の締結力はアクチュエータにより連続的に増減され、後輪への駆動力がほぼゼロの二輪駆動状態と最大締結力との間で前後輪の駆動力配分を制御する。
【0010】
四輪駆動ロックモードは、各種センサが検出した車両状態に係わらず多板クラッチ機構314を最大締結力に保持するモードであり、悪路走行などで四輪駆動としての走破性を最大限に発揮したい場合に選択する。
【特許文献1】特開平11−125279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、このような従来の四輪駆動車用駆動力伝達装置においては、二輪駆動モードであっても、変速機306からの駆動力は駆動力方向変換部310、プロペラシャフト312及び多板クラッチ機構314の駆動側(前輪側)を回転させ、また、左後輪326及び右後輪328と後輪差動装置324とが直結されているため、左後輪326及び右後輪328が回転することにより、後輪差動装置324、ドライブピニオン320及び多板クラッチ機構314の従動側(後輪側)が回転する。
【0012】
すなわち、多板クラッチ機構314が開放され後輪に駆動力が伝達されない二輪駆動時にも、たとえ多板クラッチ機構314が完全に開放されたとしても、図21に示すように駆動力方向変換部310、プロペラシャフト312、多板クラッチ機構314、ドライブピニオン320及び後輪差動装置324を含む後輪駆動力伝達区間330の各構成要素が回転してしまい、この区間におけるオイルの攪拌抵抗や軸受部の摩擦損失等により燃費低下を招いてしまう問題がある。
【0013】
また、多板クラッチ機構314には複数のクラッチ板が備わり、オイルで潤滑及び冷却されているが、クラッチ板の駆動側と従動側の回転速度差により発生するオイルの粘性抵抗やクラッチ板同士の接触による摩擦損失で発生する、いわゆる引き摺りトルクがドライブピニオン320及び後輪差動装置324のフリクショントルクより大きいために、たとえ左後輪326及び右後輪328と後輪差動装置324の間を切り離したとしても、多板クラッチ機構314の側からドライブピニオン320及び後輪差動装置324を回転させてしまうことで、燃費を悪化させる問題もある。
【0014】
この引き摺りトルクを減少させるには、多板クラッチ機構314へのオイルの供給を止めるか、あるいはオイルの量を極端に減らした状態で使用すれば、オイルの粘性抵抗により発生する引き摺りトルクを減少させ、又はなくすことができる。しかし、駆動力配分制御時には、十分な潤滑がされないと多板クラッチ機構314が焼き付く恐れがある。
【0015】
また、多板クラッチ機構314の開放状態で各クラッチ板の間隔を十分に確保する方法として、隣接する駆動側のクラッチ板、あるいは隣接する従動側のクラッチ板の間に図22に示すような、周方向に波状に形成されたリングばね332を挟む方法も提案されているが、この方法では駆動側のクラッチ板同士、あるいは従動側のクラッチ板同士の間隔を開けることはできるが、駆動側のクラッチ板と従動側のクラッチ板の接触を防止することはできない。
【0016】
四輪駆動オートモードでは、後輪326及び328に駆動力を伝達するため、例えその伝達駆動力が最低であっても、後輪駆動力伝達区間330には二輪駆動モード時より大きな損失が発生するため、燃費は二輪駆動モードより悪くなる。
【0017】
このモードでは、ドライバーが何の操作を行わなくとも駆動力の配分は最適な状態に自動的に制御されるが、乾燥舗装路などの四輪駆動の必要ない走行条件においても、ドライバーが2WDモードへのスイッチ切り替えを忘れると燃費の悪い状態で走行を続けることになる問題がある。
【0018】
この場合、走行条件に応じて自動的に二輪駆動モードと四輪駆動オートモードを切り替えることでドライバーのスイッチ操作に係わらず燃費を向上させることができるが、そのためには二輪駆動と四輪駆動の切り替えを迅速に行う必要がある。
【0019】
多板クラッチ機構314の引き摺りトルクを減少させる他の方法として、多板クラッチ機構314の二輪駆動時の待機状態から四輪駆動時の締結状態に移行するアプローチ区間の距離、いわゆるエンドプレイを大きく取り、二輪駆動時の多板クラッチ機構314が開放状態で各クラッチ板の間隔を十分に確保しクラッチ板同士の接触を防止することが考えられる。しかし、エンドプレイを大きく取ると二輪駆動から四輪駆動に切り替える際に時間がかり、走行性能の低下を招いてしまう。
【0020】
本発明は、二輪駆動から四輪駆動への切り替え応答性を犠牲にせず、二輪駆動時の後輪差動装置及び駆動力配分装置の回転によるオイル粘性抵抗や摩擦損失を減少させることで、燃費低下を伴わない四輪駆動車用動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この目的を達成するため本発明は次のように構成する。まず本発明は、多板クラッチ機構の締結力を連続的に変化させ前輪及び後輪に伝達する駆動力の配分を走行条件に応じて自動的に制御する四輪駆動モードと、多板クラッチ機構を開放して前輪のみに駆動力を伝達する二輪駆動モードとを切り替え可能な四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、動力源からの駆動力を入力して左右前輪駆動軸及び多板クラッチ機構に出力する前輪差動装置と、多板クラッチ機構により配分された駆動力を伝達するプロペラシャフトと、プロペラシャフトからの駆動力を入力して左右後輪駆動軸に出力する後輪差動装置と、後輪差動装置と左右後輪駆動軸の何れか一方又は両方との連結を切断及び接続可能な断接機構を備え、二輪駆動モード時に多板クラッチ機構の引き摺りトルクを多板クラッチ機構から断接機構までの後輪駆動力伝達区間の回転抵抗よりも小さくすると共に、断接機構により後輪差動装置と左右後輪駆動軸の何れか一方又は両方との連結を切断して後輪駆動力伝達区間の回転を停止することを特徴とする。
【0022】
ここで、多板クラッチ機構は、多板クラッチ機構の軸方向に変位可能な複数のクラッチ板と、クラッチ板への潤滑油の供給量を制御する潤滑油供給量可変機構とを備え、多板クラッチ機構の開放時に、潤滑油供給量可変機構によりクラッチ板への潤滑油の供給を停止あるいは所定の量に制限すると共に、クラッチ板相互の間隔の合計を多板クラッチ機構の潤滑油による引き摺りトルクを後輪駆動力伝達区間の回転抵抗よりも小さくする所定の値以上にする。
【0023】
また、多板クラッチ機構は、クラッチ板相互の間隔を広げる方向に付勢するスペーサを備え、スペーサは、クラッチ板の周縁部に設けた板厚方向の凹部に挿入する挟持部と、挟持部からクラッチ板の両表面の径方向に延び、クラッチ板の軸方向に変形可能な弾性片と、を有する板ばね部材であり、また、板ばね部材を前記クラッチ板の内周縁部に設け、更に、板ばね部材は弾性片がクラッチ板の外周方向に開いた形状とする。
【0024】
潤滑油供給量可変機構は、前輪への出力に連動して駆動されクラッチ板へ潤滑油を供給するオイルポンプと、クラッチ板を締結及び開放する軸方向に移動可能な押圧部材と、押圧部材に連動しクラッチ板へ潤滑油を供給する油孔を開閉して潤滑油の流量を制御する油孔開閉部とを備え、油孔開閉部は、油孔をクラッチ板の開放位置では閉鎖し締結位置では開放する。
【0025】
ここで、油孔開閉部は、クラッチ板の磨耗に応じて変化する押圧部材の締結方向の移動限界に連動してクラッチ板へ潤滑油を供給する油孔の位置を変位する油孔位置調整部材を備える。
【0026】
あるいは、潤滑油供給量可変機構は、後輪駆動力伝達区間に連動して駆動され、四輪駆動時にクラッチ板へ潤滑油を供給するオイルポンプを備える。
【0027】
更に、多板クラッチ機構は、クラッチ板を締結及び開放する軸方向に移動可能な押圧部材と、押圧部材を移動させるために回転力を出力する駆動源と、駆動源からの回転力を押圧部材の締結方向に変換及び増幅する押圧機構とを備え、駆動源の回転角に対する押圧部材の軸方向変位への変換率が、押圧部材が開放方向の待機位置から締結方向の締結開始位置まで移動する移行区間と、締結開始位置から締結方向の締結終了位置までの締結力を連続的に変化させる押圧区間とでは、移行区間の方が大きいとを特徴とする。
【0028】
ここで、押圧機構は、押圧部材と同軸に設けられた固定カムプレートと回転カムプレートとの対向面上に円周方向に延びる複数のボールカム溝を各々設けると共に前記両ボールカム溝間に各々ボールを挟持したボールカム機構を備え、ボールカム溝は、押圧部材を移行区間で移動させる非線形領域と、押圧部材を押圧区間で移動させる線形領域とを有し、回転カムプレートの回転角に対する軸方向の変位が、線形領域より非線形領域の方が大きいことを特徴とする。
【0029】
ボールカム機構は、円周方向に配置された各ボールの相対位置を保持するリテーナを備え、リテーナは、ボールカム溝に対するボールの初期位置を規制する位置決め部を有する。
【0030】
また、押圧機構は、押圧部材と同軸に設けられ回転変位を軸方向変位に変換する回転カムプレートと、外周方向のカム面を有し駆動源により回転駆動される周縁カムと、回転カムプレートから延在したアーム部先端に周縁カムと係合するカムフォロアとを備え、カム面は、押圧部材を前記移行区間で移動させる非線形領域と、押圧部材を押圧区間で移動させる線形領域とを有し、周縁カムの回転角に対するカムフォロアの法線方向変位が、線形領域より非線形領域の方が大きいことを特徴とする。
【0031】
あるいは、多板クラッチ機構は、クラッチ板を締結及び開放する軸方向に移動可能な押圧部材と、プライマリークラッチと、プライマリークラッチを締結及び開放する軸方向に移動可能なアクチュエータと、プライマリークラッチからの回転力を押圧部材の締結方向に変換及び増幅する押圧機構とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、二輪駆動モード時に、断接機構により後輪差動装置と左右後輪駆動軸の何れか一方、又は両方との連結を切断して後輪の回転に伴う後輪差動装置のリングギアの回転を抑制し、また、多板クラッチ機構のクラッチ板同士の間隔をスペーサを用いて確保すると共にクラッチ板へのオイルの供給を制限して多板クラッチ機構の引き摺りトルクを後輪駆動力伝達区間のフリクショントルクよりも小さくすることで、後輪駆動力伝達区間の構成要素の回転を止め、この区間のオイル粘性抵抗や摩擦損失を減少させ燃費低下を防止できる。
【0033】
更に、クラッチ板同士の間隔を確保するためにエンドプレイを大きく取った場合でも、押圧部材がクラッチ板に接触、又は近接するまでのアプローチ区間をそれ以降の押圧区間よりも速く動かす押圧機構を備えることで、二輪駆動モードから四輪駆動モードへの切り替え応答性を犠牲にすることなく燃費低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
図1は、本発明による四輪駆動車用駆動力伝達装置の実施形態を示した説明図であり、二輪駆動モードでは前輪を駆動する方式の車両に適用した場合である。図1において、本実施形態の駆動力伝達装置10は四輪駆動車12に設けられ、駆動力配分装置18、前輪差動装置20及び後輪差動装置22を備える。後輪差動装置22はプロペラシャフト24を介して駆動力配分装置18に連結されている。
【0035】
エンジン14からの駆動力は変速機16で変速され、変速機16のドライブギア36及び前輪差動装置20のリングギア38を介して駆動力配分装置18の入力軸102に入力し、二輪駆動モードで、入力軸102に同軸に設けられた多板クラッチ機構106が開放されている場合、駆動力は後輪に配分されずにそのまま前輪差動装置20に出力される。
【0036】
リングギア38はピニオン40、42、サイドギア44、46を介して左前輪駆動軸48及び右前輪駆動軸50を駆動し、左前輪駆動軸48及び右前輪駆動軸50は各々左前輪52及び右前輪54を回転させ駆動力を路面に伝達する。コーナリング時や路面状態の変化等により左前輪52と右全輪54に回転速度差が生じても、前輪差動装置20は回転速度差を吸収し、左前輪52及び右前輪54に等しいトルクを与え回転させることができる。
【0037】
ドライバーが二輪駆動モードから四輪駆動モードに切り替えると、ECUはまず多板クラッチ機構106を締結し、続いて断接機構76の連結を接続することで、多板クラッチ機構106からの駆動力が左後輪72及び右後輪74に伝達可能となる。
【0038】
後輪出力軸118から出力された駆動力は自在継手32、プロペラシャフト24、自在継手34を介し、後輪差動装置22のドライブピニオン56に伝達され、ドライブピニオン56は、リングギア58、ピニオン60、62、サイドギア64、66を介して左後輪駆動軸68及び右後輪駆動軸70を駆動し、左後輪駆動軸68及び右後輪駆動軸70は各々左後輪72及び右後輪74を回転させ駆動力を路面に伝達する。
【0039】
断接機構76は四輪駆動時にはサイドギア66と右後輪駆動軸70を連結しており、サイドギア66の回転はそのまま右後輪駆動軸70に伝達される。コーナリング時や路面状態の変化等により左後輪72と右後輪74に回転速度差が生じても、後輪差動装置22は回転速度差を吸収し、左後輪72及び右後輪74に等しいトルクを与え回転させることができる。
【0040】
多板クラッチ機構106の締結力はサーボモータにより連続的に制御され、必要に応じて後輪出力軸118へ伝達する駆動力を増減させることで、前後輪の駆動力配分を制御する。
【0041】
四輪駆動オートモードから二輪駆動モードに切り替えると、ECUはまず多板クラッチ機構106を開放し、続いて断接機構76の連結を切断する。この場合、ECUは先に断接機構76の連結を切断した後に多板クラッチ機構106を開放してもよい。
【0042】
断接機構76はサイドギア66と右後輪駆動軸70との連結を絶ち、左後輪72及び右後輪74が路面から受ける回転力がリングギア58を回転させることを防止する。これにより、二輪駆動時に燃費低下を招く要因である、後輪を駆動しない二輪駆動時にもリングギア58からベベルギア112までの後輪駆動力伝達区間78が回転してしまう問題を解消できる。
【0043】
また、ドライバーが切り替えスイッチを操作しなくとも、車両状態を検出してECUの判断により、四輪駆動の必要がない時には自動的に二輪駆動モードに切り替え、逆に四輪駆動が必要な時には四輪駆動モードに切り替えるようにしてもよい。
【0044】
図1において、仮に、二輪駆動モード時にサイドギア66と右後輪駆動軸70が連結されているとすると、例えばサイドギア64及び66が同方向に同速度で回転する場合、ピニオン60及びピニオン62は回転(自転)せずにリングギア58が回転する。サイドギア64及び66に回転速度差があったとしても同方向の回転であれば回転速度は変化するがリングギア58は回転し、リングギア58が回転することで連結しているドライブピニオン56、自在継手34、プロペラシャフト24、自在継手32、後輪出力軸118、出力ピニオン114、ベベルギア112が回転してしまう。
【0045】
この、リングギア58からベベルギア112までの後輪駆動力伝達区間78は二輪駆動時には回転する必要のない部位であるにも関わらず、この部分の回転がオイルの粘性抵抗や軸受部の摩擦損失等を引き起こす。すなわち、左前輪52及び右前輪54から路面に伝わった駆動力が左後輪72及び右後輪74を回転させることで、二輪駆動時には回転する必要のない後輪駆動力伝達区間78を回転させ、駆動力の損失となり燃費低下を招いてしまう。
【0046】
そこで、本発明にあっては、二輪駆動モードでは断接機構76によりサイドギア66と右後輪駆動軸70の連結を絶つと共に、多板クラッチ機構106の引き摺りトルクを後輪駆動力伝達区間78のフリクショントルクより小さくすることで、後輪駆動力伝達区間78の回転を防止している。
【0047】
サイドギア66と右後輪駆動軸70の連結が絶たれると、右後輪74の回転はサイドギア66に伝わらず、そのため、左後輪72によるサイドギア64の回転はピニオン60及びピニオン62を介してサイドギア66を反対方向に回転させることが可能で、このピニオン60、ピニオン62、サイドギア66の回転抵抗よりも、リングギア58に繋がるドライブピニオン56からベベルギア112までの回転抵抗の方が大きいため、リングギア58は回転しない。
【0048】
リングギア58が回転しないということは、後輪駆動力伝達区間78が回転しないことであり、この場合の駆動力の損失はピニオン60、ピニオン62、サイドギア66が回転する部分だけとなり、断接機構76がなく前輪駆動力伝達区間78が回転してしまう場合と比べて燃費向上が可能である。
【0049】
なお、本実施形態において、断接機構76は後輪差動装置22内のサイドギア66と右後輪駆動軸70の中間に設置されているが、サイドギア66と右後輪駆動軸70を断続する位置、あるいはサイドギア64と左後輪駆動軸68を断続する位置、又はその両方の位置であれば後輪差動装置22内に設置するか外に設置するかを問わない。更に、ピニオン60、62、サイドギア64、66で構成するユニットをリングギア58と分離し、その連結を断続する方式等の他の機構でも構わない。
【0050】
図2は、図1の後輪差動装置22の実施形態を示した断面図であり、断接機構76を備える。図2において、後輪差動装置22はデフケース80の外周部に固定されたリングギア58、デフケース80に固定されたピニオン軸82に回転自在に軸支されたピニオン60及びピニオン62、左後輪駆動軸68に回転不可に軸支されデフケース80内ピニオン60及びピニオン62と噛み合うサイドギア64、サイドギア軸84に回転不可に軸支されデフケース80内でピニオン60及びピニオン62と噛み合うサイドギア66を備える。
【0051】
更に、端部70bがサイドギア軸84に回転方向に拘束されずに勘合している右後輪駆動軸70、右後輪駆動軸70の歯部70a及びサイドギア軸84の歯部84aとスプライン結合し、右後輪駆動軸70とサイドギア軸84を連結する位置と連結を解除する位置でスライド可能なスリーブ86、スリーブ86の溝部86aに摺動自在に係合する先端部88aによりスリーブ86をスライドさせるフォーク88、フォーク88に固定され図示しないアクチュエータにより軸方向に駆動されるシフト軸90を備え、四輪駆動時にリングギア58と噛み合うドライブピニオン56からの駆動力を左後輪72及び右後輪74に伝達する。
【0052】
図2(A)は、二輪駆動時の断接機構76が非連結状態で、スリーブ86はサイドギア軸84の歯部84aと噛み合っていない。左後輪駆動軸68の回転はサイドギア64、ピニオン60及びピニオン62を介してサイドギア66に伝わり、リングギア58が回転しないことからサイドギア軸84を左後輪駆動軸68とは反対方向に回転させる。
【0053】
図2(B)は、四輪駆動時にフォーク88がL方向に移動し断接機構76が連結された状態で、スリーブ86はサイドギア軸84の歯部84aと噛み合っている。ドライブピニオン56によりリングギア58が回転し、左後輪駆動軸68と右後輪駆動軸70を同方向に回転させる。二輪駆動に戻る際にはフォーク88がU方向に移動し断接機構76は非連結状態に戻る。
【0054】
二輪駆動モード時に燃費低下を招く他の要因として、多板クラッチ機構106に備わる複数のクラッチ板の駆動側(前輪側)と従動側(後輪側)の回転速度差により発生するオイルの粘性抵抗やクラッチ板同士の接触による摩擦損失、いわゆる引き摺りトルクが後輪駆動力伝達区間78のフリクショントルクより大きいために、後輪駆動力伝達区間78が回転してしまう問題がある。
【0055】
図3は、図1の駆動力配分装置18の実施形態を示した断面図である。図3において、駆動力配分装置18はケース100を有し、ケース100の左側にエンジン14からの駆動力を変速機16、前輪差動装置20のリングギア38を介して入力する入力軸102が設けられ、入力軸102には、右前輪駆動軸50が回転自在に貫通している。
【0056】
入力軸102と同軸に多板クラッチ機構106とボールカム機構122が設けられ、多板クラッチ機構106はクラッチハブ108を入力軸102に固定し、クラッチドラム110を入力軸102に対しベベルギア軸116と共に回転自在に設けたベベルギア112に連結している。
【0057】
入力軸102と直角に、後輪側に駆動力を出力する後輪出力軸118がケース100の左下側に設けられており、後輪出力軸118には出力ピニオン114が連結されベベルギア112と噛み合っている。
【0058】
ボールカム機構122の多板クラッチ機構106の反対側にはオイルポンプ184が配置され、入力軸102から動力を得て入力軸102に設けられた油路186にオイルを供給する。
【0059】
このような駆動力配分装置18において、二輪駆動時には、多板クラッチ機構106のクラッチハブ108とクラッチドラム110の間が開放され、入力軸102の駆動力は後輪出力軸118には伝達されない。
【0060】
四輪駆動時にあっては、多板クラッチ機構106が締結され、入力軸102からの駆動力を多板クラッチ機構106、ベベルギア112、出力ピニオン114を介して後輪出力軸118にも伝達する。
【0061】
図4は、図3の多板クラッチ機構106及びボールカム機構122を示した断面図である。図4において、多板クラッチ機構106に対しては、クラッチハブ108とクラッチドラム110の間に設けた複数のクラッチ板120の締結力を制御するボールカム機構122が設けられる。クラッチ板120は、クラッチ板同士の間隔を保持するスペーサ178を備える。
【0062】
ボールカム機構122は、入力軸102と同軸に相対回転自在に設けられた一対の固定カムプレート124と回転カムプレート126の対向するカム面のボールカム溝128にボール140を挟んで保持している。更に、固定カムプレート124と回転カムプレート126の間には位置決め用の突起部138を有するリテーナ136を備える。
【0063】
図5は、図3のボールカム機構122をオイルポンプ184の方向から見た説明図である。図5において、固定カムプレート124は、アーム部142を延在してU字形の先端を保持部152aの外側に嵌め入れて回転を停止させている。回転カムプレート126は、円周方向に複数のボールカム溝128を有し、アーム部144を延在して先端に形成した扇型ギア146が駆動ギア148に噛み合っている。
【0064】
再び、図3及び4を参照するに、サーボモータ150は減速機152を介して駆動ギア148を回転させる。固定カムプレート124の右側にはスラスト軸受154を介して固定プレート158が配置され、回転カムプレート126の左側にはスラスト軸受156を介して押圧部材160が配置される。押圧部材160は、クラッチハブ108との間に備わる復帰ばね162により多板クラッチ機構106の開放方向に付勢されている。
【0065】
ボールカム機構122は、駆動ギア148により回転カムプレート126が固定カムプレート124に対し所定方向に回転駆動されると、対向する面の傾斜溝であるボールカム溝128に挟まれているボール140による押圧を受けて押圧部材160及び復帰ばね162を軸方向に押し、押圧部材160が多板クラッチ機構106のクラッチ板120を押すことで、駆動ギア148の回転量に応じて伝達トルクを増加させ、最大押付け位置で直結状態となる。
【0066】
入力軸102、クラッチハブ108及び押圧部材160に囲まれる部位には、油路186から多板クラッチ機構106の複数のクラッチ板120へのオイルの供給を制御する油孔開閉部164が配置される。油孔開閉部164は、油孔168、ラチェット爪170を有する油孔位置調整部材166、皿ばね172、入力軸102に設けられたラック174、押圧部材160に設けられ油孔168を開閉する弁部176で構成される。
【0067】
図6は、図3の多板クラッチ機構106の油孔開閉部164の動作を示す説明図である。図6(A)は、二輪駆動時の多板クラッチ機構106が開放された状態で、押圧部材160はクラッチ板120から最も離れた待機位置に在る。油孔位置調整部材166は皿ばね172により右方に付勢されているがラチェット爪170とラック174で規制されている。
【0068】
この状態では、クラッチ板120の内でクラッチドラム110に係合した方は回転しないが、クラッチハブ108に係合した方が入力軸102の回転と共に回転する。しかし、押圧部材160がこの位置では弁部176が油孔168を閉じているため、油路186からのオイルはクラッチ板120には供給されず、オイルによる粘性抵抗を軽減することでクラッチドラム110側の引き摺りを防止できる。
【0069】
なお、本実施形態にあっては、図6(A)の多板クラッチ機構106が開放された状態で、弁部176が油孔168を完全に閉じているが、この時点で弁部176が油孔168を完全に閉じることなく、若干のオイルをクラッチ板120に供給するように構成してもよく、その量はクラッチ板120の潤滑や冷却を考慮して任意に設定できる。
【0070】
図6(B)は、二輪駆動から四輪駆動へ切り替わる途中の多板クラッチ機構106の締結初期状態で、ボールカム機構122に押され左方に移動した押圧部材160はクラッチ板120に接触を開始した位置に在る。この時点からクラッチ板120同士も徐々に接触を始め、その摩擦トルクにより多板クラッチ機構106は駆動力を前輪側に伝達し始める。この位置では弁部176が油孔168を開いているため、矢印で示すように油路186からオイルがクラッチ板120に供給され、クラッチ板同士の焼き付を防止する。
【0071】
図6(C)は、四輪駆動に切り替わり多板クラッチ機構106が完全に締結された状態で、押圧部材160はクラッチ板120同士の隙間が全く無い最大押付け位置に在る。油孔位置調整部材166は、突起166aが弁部176に押され、押圧部材160の最大押付け位置でラチェット爪170がラック174に係合し保持される。
【0072】
図7は、図6の油孔開閉部164の油孔位置調整部材166の動作を示す説明図である。図7(A)はクラッチ板120が磨耗をしていない状態、あるいは磨耗の初期状態での油孔開閉部164を示し、図7(B)はクラッチ板120の磨耗が進行した状態での油孔開閉部164を示している。
【0073】
図7(A)から図7(B)にクラッチ板120の磨耗が進むと、押圧部材160の最大押付け位置が全てのクラッチ板120の減少した板厚の合計に略等しい距離分クラッチストロークが深くなる方向、図7において距離W左方に移動する。押圧部材160の最大押付け位置の移動に伴い、油孔位置調整部材166の突起166aが弁部176に押し込まれる位置も左方に変化し、その押し込まれた位置でラチェット爪170がラック174に係止し、油孔位置調整部材166が保持される。
【0074】
油孔位置調整部材166がクラッチ板120の磨耗に追従することで、油孔168の開き始めのタイミングはクラッチ板120の磨耗度に影響されず、クラッチ板120同士の間隔に対し略一定となり、クラッチ板120の潤滑、冷却や引き摺り等に影響するオイル供給量の安定化が図れる。
【0075】
図8は、図3の多板クラッチ機構106のスペーサ178の設置状態を示す説明図である。図8は、二輪駆動時の多板クラッチ機構106が開放された状態で、押圧部材160はクラッチ板120から最も離れた待機位置に在る。
【0076】
多板クラッチ機構106は軸方向に移動可能な複数のクラッチ板120を備え、クラッチ板120は、クラッチハブ108の外周に内側クラッチ板120hがスプライン嵌合されて、クラッチドラム110の内周には外側クラッチ板120dがスプライン嵌合されおり、内側クラッチ板120hと外側クラッチ板120dは1枚置きに配置される。外側クラッチ板120dの内周部には板材を成形した板ばねであるスペーサ178を備え、隣接する両側の内側クラッチ板120hと引き摺りを起さない摩擦面同士の隙間を確保する。
【0077】
クラッチ板120はクラッチハブ108の受圧面108aと押圧部材160の押圧面160aの間で軸方向に移動可能であり、押圧面160aとの隙間Eがあるが、スペーサ178がないとクラッチ板120同士は、オイルによって粘着し分離せず、引き摺りを起す。スペーサ178が摩擦面同士の隙間を確保することで、引き摺りによる駆動力の損失を防止し燃費を向上させることが可能となる。
【0078】
なお、押圧部材160がクラッチ板120から最も離れた待機位置に在る場合の隙間Eの値は、クラッチ120同士の隙間の状態により一定とは限らない。
【0079】
スペーサ178は内側クラッチ板120hの外周部に設置することも可能であるが、トルク損失の小さな内側の方が好ましい。すなわち、スペーサ178が設置されたクラッチ板120に隣接するクラッチ板120と、スペーサ178との摺動による摩擦抵抗が同じであれば内側に設置した方が摩擦トルクは少なく、摩擦トルクは駆動力の損失となるためである。また、スペーサ178のばね荷重は隣接するクラッチ板120hとの間隔を維持できる範囲で小さい方が好ましい。
【0080】
図9は、図8のスペーサを示す斜視図である。図9において、スペーサ178は板材を成形した板ばねであり、外側クラッチ板120dの内周部に設けた板厚方向の凹部120cに挿入する挟持部180と、挟持部180から隣接するクラッチ板120の両表面の外径方向に延び、クラッチ板120の軸方向に変形可能な弾性片182を備る。
【0081】
スペーサ178を矢印で示す方向に凹部120cに挿入し固定するために、挟持部180の間隔は凹部120cの厚みより狭く設定される。
【0082】
図10は、図8のスペーサ178を示す断面図である。図10(A)は、四輪駆動時の多板クラッチ機構106が締結された状態で、スペーサ178が設置された外側クラッチ板120dと隣接する内側クラッチ板120hの各々の摩擦面が密着し回転している。図10(B)は、二輪駆動時の多板クラッチ機構106が開放された状態で、スペーサ178が設置された外側クラッチ板120dと隣接する内側クラッチ板120hの各々の摩擦面がスペーサ178により引き摺りを起さない隙間に隔離されている。
【0083】
図10(B)において、内側クラッチ板120hは回転し、外側クラッチ板120dは回転しないため、スペーサ178の弾性片182の先端が隣接する内側クラッチ板120hと摺動する。そのため、弾性片182の先端は摩擦面ではない部位と接触するのが好ましい。
【0084】
図11は、図3の多板クラッチ機構106のスペーサ178の他の実施形態を示す断面図である。図11おいて、スペーサ178は板材を成形した板ばねであり、外側クラッチ板120dの内周部に設けた板厚方向の凹部120cに挿入する挟持部180と、挟持部180から隣接する内側クラッチ板120hの両表面の内径方向に延び、内側クラッチ板120hの軸方向に変形可能な弾性片182を備える。
【0085】
図11(A)は、多板クラッチ機構106が締結された状態で、スペーサ178が設置された外側クラッチ板120dと隣接する内側クラッチ板120hの各々の摩擦面が密着している。図11(B)は、多板クラッチ機構106が開放された状態で、スペーサ178が設置された外側クラッチ板120dと隣接する内側クラッチ板120hの各々の摩擦面がスペーサ178により引き摺りを起さない隙間に隔離されている。
【0086】
図11(A)と(B)の中間の位置においては、内側クラッチ板120hと外側クラッチ板120dは共に回転するが、回転速度差があるため弾性片182の先端が隣接する内側クラッチ板120hと摺動する。しかし、弾性片182の先端は外側クラッチ板120dの回転による遠心力で、矢印で示すように閉じる方向に力を受けることで摩擦抵抗を減らすことができる。
【0087】
図12は、図3のボールカム機構122のボールカム溝128とリテーナ136を示す説明図である。図12において、一対の固定カムプレート124と回転カムプレート126の相対するカム面のボールカム溝128にボール140を挟んで保持している。ボールカム溝128は、乗り越え部134を境界にしてカム形状が異なる初期領域130と傾斜領域132を有する。
【0088】
また、固定カムプレート124と回転カムプレート126の間には各ボール140の相対位置を保持するリテーナ136を備え、リテーナ136はボールカム溝128に対するボール140の初期位置を規制する位置決め用の突起部138を設ける。突起部138は回転カムプレート126の外周部に形成したガイド部127に係合している。
【0089】
図12(A)は、二輪駆動時の多板クラッチ機構106が開放され、押圧部160が待機位置に在る状態で、ボール140は固定カムプレート124と回転カムプレート126の両ボールカム溝128の初期領域130に位置する。
【0090】
図12(B)は、二輪駆動から四輪駆動へ移行する際の、多板クラッチ機構106の締結初期の押圧部材160がクラッチ板120に接触を開始した位置に在る状態で、ボール140はボールカム溝128の乗り越え部134から傾斜部132に移行した位置する。
【0091】
図12(C)は、四輪駆動へ切り替わり、多板クラッチ機構106が締結されて押圧部材160がクラッチ板120同士を押圧する位置に在る状態で、ボール140はボールカム溝128の傾斜部132に位置する。
【0092】
荷重を分散するために円周上にボール140を複数配置した場合、ボールカム機構122の作動時にボールカム溝128とボール140との滑りにより各ボールの相対的な位置ずれが生じることがあり、その場合、複数のボールカム溝128を均等に押すことができなくなり、多板クラッチ機構106への偏荷重やボールカム溝128の表面の耐久性が著しく低下する。
【0093】
リテーナ136を備えることで、各ボール140の相対位置が保持され、また、図12(C)から図12(A)の初期位置に戻る毎に、位置決め用の突起部138により各ボール140のボールカム溝128に対する初期位置が補正される。
【0094】
図13は、図1の駆動力配分装置18の他の実施形態を示した断面図であり、図3及び4に示す実施形態に対し、ボールカム機構122が異なる点を除けば同じ構成である。図13において、サーボモータ150は減速機152を介して周縁カム198回転させる。
【0095】
回転カムプレート126は、アーム部144を延在して先端に、回転可能なローラから成るカムフォロア196を設けており、カムフォロア196は周縁カム198の外周部に接している。
【0096】
ボールカム機構122は、周縁カム198により回転カムプレート126が固定カムプレート124に対し所定方向に回転駆動されると、対向する面の傾斜溝であるボールカム溝128に挟まれているボール140による押圧を受けて押圧部材160及び復帰ばね162を軸方向に押し、押圧部材160が多板クラッチ機構106のクラッチ板120を押すことで、駆動ギア148の回転量に応じて伝達トルクを増加させ、最大押付け位置で直結状態となる。
【0097】
図14は、図13のボールカム機構122を入力軸102の方向から見た説明図である。図14において、回転カムプレート126は、円周方向に複数のボールカム溝128を有する。この実施例におけるボールカム溝128は、図3の実施例において図12に示すような乗り越え部134は存在せず、傾斜領域132は初期領域130から段差なく接する形状をしている。
【0098】
回転カムプレート126から延在するアーム部144の先端に設けられたカムフォロア196の外周部は、周縁カム198のカム面に接している。周縁カム198のカム面は、初期領域200、非線形領域202及び線形領域206で構成され、時計方向に回転することでカムフォロア196を介して回転カムプレート126を回転駆動し、多板クラッチ機構106を押圧する。
【0099】
図14(A)は、二輪駆動時の多板クラッチ機構106が開放され、押圧部160が待機位置に在る状態で、カムフォロア196は周縁カム198のカム面の初期領域200に位置する。
【0100】
図14(B)は、二輪駆動から四輪駆動へ移行する際の、多板クラッチ機構106の締結初期の押圧部材160がクラッチ板120に接触を開始した位置に在る状態で、カムフォロア196は周縁カム198のカム面の非線形領域202から線形領域206に移行する位置に在り、この点が押圧開始位置204となる。
【0101】
周縁カム198の押圧開始位置204は、非線形領域202から線形領域206に移行する位置の近傍であれば非線形領域202に在っても線形領域206に在っても構わないが、非線形領域202から線形領域206に移行する点が望ましい。
【0102】
ここで、従来例として非線形領域のない線形カム208の形状を示して周縁カム198との比較をすると、線形カム208においては押圧部材160がクラッチ板120を押圧始める押圧開始位置210までに角度βを要するが、非線形領域202の存在する周縁カム198においては角度βよりはるかに小さな角度αで押圧開始位置204に達する。
【0103】
図15及び16は、図12及び14に示すボールカム機構122の動作説明図である。図15は、多板クラッチ機構106の押圧部材160に作用するカム荷重188と、押圧部材160のストローク190の関係、及びばね荷重192を模式的に示したグラフで、横軸は回転カムプレート126のカム角度(θ)、縦軸はカム荷重(F)とストローク(S)を表している。
【0104】
押圧部材160のストローク190は、カム角度θ0からθ1までが非線形領域で、カム角度θ1以降θmaxまでが線形領域であり、クラッチトルク(T)の軸は、カム角度θ1のバネ荷重192を始点(T0)とし、バネ荷重192の傾きに直角である。
【0105】
図16(A)は、図15に示すカム角度θに対応した、押圧部材160、クラッチドラム108、クラッチ板120及び復帰ばね162の状態を表し、各々、多板クラッチ機構106の待機状態θ0、締結開始θ1、締結状態θnである。
【0106】
図16(B)は、図12に示す固定カムプレート124、回転カムプレート126及びボール140のカム角度θに対応した位置関係を表し、左から各々、カム角度θ0のボール140がボールカム溝128の初期領域130に在る場合、カム角度θ1のボール140がボールカム溝128の乗り越え部134を乗り越え終わった位置に在る場合、カム角度θnのボール140がボールカム溝128の傾斜領域132に在る場合である。
【0107】
図16(C)は、図14に示す周縁カム198と回転カムプレート126のアーム部144の先端に位置するカムフォロア196のカム角度θに対応した位置関係を表し、左から各々、カム角度θ0のカムフォロア196が周縁カム198の初期領域200に在る場合、カム角度θ1のカムフォロア196が周縁カム198の押圧開始位置204に在る場合、カム角度θnのカムフォロア196が周縁カム198の線形領域206に在る場合である。
【0108】
多板クラッチ機構106において、押圧部160の移動は、待機位置からクラッチ板120に接触を開始する位置までは、復帰ばね162を押し込むだけの小さな荷重でよいが、二輪駆動から四輪駆動への移行応答性を良くするために大な速度が必要になる。特に、二輪駆動時の引き摺りを防止するためにクラッチ板120同士の間隔を広げ、多板クラッチ機構106のエンドプレイを大きく取った場合はこの区間の移動速度が重要になる。
【0109】
カム角度θ0の待機状態では、押圧部材160とクラッチ板120とに距離eのエンドプレイがあり、図16(B)の場合、ボール140がカム角度θ0からカム角度θ1のボールカム溝128の乗り越え部134を乗り越える非線形領域でこの距離eをすばやく詰める。
【0110】
図16(C)の場合は、カムフォロア196がカム角度θ0からカム角度θ1で非線形領域202を経て押圧開始位置204に移動することでこの距離eをすばやく詰める。このカム角度θ0からカム角度θ1の区間でのカム荷重(F)は復帰ばね162のばね荷重192のみであるため、小さなカム角度θ1で大きなストロークS1を得ることが可能である。
【0111】
その後、押圧部材160がクラッチ板120に接触し押圧を開始すると、クラッチ板120にクラッチトルク(T)が発生し、カム荷重(F)は急激に増加する。カム角度θ1以降は、ボール140はボールカム溝128の傾斜領域132に在り、カム角度θnのストロークSnにおいて、荷重Fnからバネ荷重192を引いた値がクラッチトルクTnに相当する。
【0112】
図17は、本発明による四輪駆動車用駆動力伝達装置の他の実施形態を示した説明図であり、図1に示す実施形態に対しオイルポンプ194を除けば同じ構成である。図17において、ベベルギア軸116にはオイルポンプ194が連結されており、多板クラッチ機構106が締結されベベルギア114が回転するとオイルポンプ194はオイルを図示しない油圧回路を経由して多板クラッチ機構106に供給し、多板クラッチ機構106に備わる複数のクラッチ板の摩擦熱による焼き付きを防止する。
【0113】
なお、本実施形態において、オイルポンプ194はベベルギア軸116に連結され動力を得ているが、二輪駆動時に駆動力が伝達されない部位、例えばベベルギア112や出力ピニオン114から動力を得るようにしても構わない。
【0114】
図18は、図17の駆動力配分装置18の実施形態を示した断面図であり、図3に示す実施形態に対し入力軸102が駆動するオイルポンプ184がなく、代わりにベベルギア軸116が駆動するオイルポンプ194があること、及び図4に詳細を示す油孔開閉部164及び油路186が存在しないことを除けば同じ構成である。
【0115】
図18において、ベベルギア軸116のベベルギア112の反対側にはオイルポンプ194が配置され、ベベルギア軸116から動力を得て、入力軸102の外周部とベベルギア軸116内周部の間、入力軸102の外周部とベベルギア112内周部の間を経由して多板クラッチ機構106にオイルを供給する。
【0116】
このような構成において、二輪駆動時の多板クラッチ機構106が開放され、押圧部材160はクラッチ板120から最も離れた待機位置に在る状態では、クラッチ板120の内でクラッチドラム110に係合した方は回転しないが、クラッチハブ108に係合した方が入力軸102の回転と共に回転する。
【0117】
しかし、クラッチドラム110が回転しないことから、ベベルギア12及びベベルギア軸116が回転せず、よってオイルポンプ194はオイルを吐出しないため、オイルはクラッチ板120には供給されず、オイルによる粘性抵抗を軽減することでクラッチドラム110側の引き摺りを防止できる。
【0118】
二輪駆動から四輪駆動へ切り替わり、ボールカム機構122に押され左方に移動した押圧部材160がクラッチ板120を押圧し、クラッチ板120同士が接触した状態ではクラッチドラム110が回転するため、ベベルギア112を介してベベルギア軸116が回転する。従って、ベベルギア軸116に駆動されるオイルポンプ194はオイルを吐出することで、オイルがクラッチ板120に供給され、クラッチ板同士の焼き付を防止する。
【0119】
図19は、本発明による四輪駆動車用駆動力伝達装置の他の実施形態を示した断面図
である。図19の実施形態は実質的に図17の駆動力配分装置18を示したものであり、図18に示す断面図に対し、プライマリークラッチ212、ボールカム機構214を含む多板クラッチ機構210、油圧ピストン244、油圧ポンプ252及び圧力センサ256が異なることを除けば同じ構成である。
【0120】
図19において、入力軸102と同軸に多板クラッチ機構210、プライマリークラッチ212及びボールカム機構214が設けられ、多板クラッチ機構210はクラッチドラム216を入力軸102に固定し、クラッチハブ218を入力軸102に対しベベルギア軸116と共に回転自在に設けたベベルギア112に連結している。
【0121】
このような駆動力配分装置18において、二輪駆動時には、多板クラッチ機構210のクラッチドラム216とクラッチハブ218の間が開放され、入力軸102の駆動力は後輪出力軸118には伝達されない。
【0122】
四輪駆動時にあっては、多板クラッチ機構210が締結され、入力軸102からの駆動力を多板クラッチ機構210、ベベルギア112、出力ピニオン114を介して後輪出力軸118にも伝達する。
【0123】
図20は、図19の多板クラッチ機構210、プライマリークラッチ212及びボールカム機構214を示した断面図である。図20において、多板クラッチ機構210に対しては、クラッチドラム216とクラッチハブ218の間に設けた複数のクラッチ板220の締結力を制御するボールカム機構214及びボールカム機構214を駆動するプライマリークラッチ212が設けられる。
【0124】
ボールカム機構214は、入力軸102と同軸に相対回転自在に設けられた一対の押圧部材222とカムプレート224の対向するカム面のボールカム溝226にボール228を挟んで保持している。
【0125】
押圧部材222は、クラッチハブ218と共に回転しクラッチハブ218との間に備わる復帰ばね230により多板クラッチ機構210の開放方向に付勢されている。カムプレート224とクラッチドラム216の間にはスラスト軸受232が備わる。
【0126】
プライマリークラッチ212は、クラッチドラム216とカムプレート224の間にクラッチ板234を備え、押圧板236がクラッチ板234を押圧し締結することでクラッチドラム216の回転をカムプレート224に伝達する。
【0127】
押圧板236はクラッチドラム216を貫通する押圧軸238を介して受圧板240と連結しており、受圧板240はスラスト軸受け242を介して油圧ピストン244と係合している。油圧ピストン244はシリンダ246の中をプライマリークラッチ212を開放する位置と締結する位置に移動可能であり、Oリング248でシールされている。
【0128】
図19に示すように、サーボモータ250は油圧ポンプ252を駆動し、油圧ポンプ252から吐出されるオイルが油路254を経由してシリンダ246に流入することで、油圧ピストン244がスラスト軸受242、受圧板240、押圧軸238、押圧板236を介してクラッチ板234を押圧し、プライマリークラッチ212を締結する。
【0129】
油路254には油圧センサ256が備わり、油圧シリンダ246の油圧を検出する。図示しない油圧制御部が、油圧センサ256の検出する油圧を監視し油圧ピストン244を適切な移動量に制御する。
【0130】
ボールカム機構214は、プライマリークラッチ212によりカムプレート224が押圧部材222に対し所定方向に回転駆動されると、対向する面の傾斜溝であるボールカム溝226に挟まれているボール228による押圧を受け、押圧部材222及び復帰ばね230を軸方向に押し、押圧部材222が多板クラッチ機構210のクラッチ板220を押すことで、油圧ピストン244の移動量に応じて伝達トルクを増加させ、最大押付け位置で直結状態となる。
【0131】
このようにプライマリークラッチ212を有する構成にすることで、クラッチ板220の枚数を減らすことが可能であり、これにより多板クラッチ機構210の引き摺りトルクを減少させることができる。引き摺りトルクを後輪駆動力伝達区間のフリクショントルクよりも小さくすることで、後輪駆動力伝達区間の構成要素の回転を止め、この区間のオイル粘性抵抗や摩擦損失を減少させ燃費低下を防止できる。
【0132】
また、本発明は上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明による四輪駆動車用駆動力伝達装置の実施形態を示した説明図
【図2】図1の前輪差動装置の実施形態を示した断面図
【図3】図1の駆動力配分装置の実施形態を示した断面図
【図4】図3の多板クラッチ機構及びボールカム機構を示した断面図
【図5】図3のボールカム機構を軸方向から見た説明図
【図6】図3の多板クラッチ機構の油孔開閉部の動作を示す説明図
【図7】図6の油孔開閉部の油孔位置調整部材の動作を示す説明図
【図8】図3の多板クラッチ機構のスペーサ設置状態を示す説明図
【図9】図8のスペーサを示す斜視図
【図10】図8のスペーサを示す断面図
【図11】図3の多板クラッチ機構のスペーサの他の実施形態を示す断面図
【図12】図3のボールカム機構のボールカム溝とリテーナを示す説明図
【図13】図1の駆動力配分装置の他の実施形態を示した断面図
【図14】図13のボールカム機構を軸方向から見た説明図
【図15】図12及び図14に示すボールカム機構の動作説明図
【図16】図12及び図14に示すボールカム機構の動作説明図
【図17】本発明による四輪駆動車用駆動力伝達装置の他の実施形態を示した説明図
【図18】図17の駆動力配分装置の実施形態を示した断面図
【図19】本発明による四輪駆動車用駆動力伝達装置の他の実施形態を示した断面図
【図20】図19プライマリークラッチ及びボールカム機構を示した断面図
【図21】従来の四輪駆動車用駆動力伝達装置の説明図
【図22】従来の多板クラッチ機構の引き摺り防止用リングばね
【符号の説明】
【0134】
10:駆動力伝達装置
12:四輪駆動車
14:エンジン
16:変速機
18:駆動力配分装置
20:前輪差動装置
22:後輪差動装置
24:プロペラシャフト
32、34:自在継手
36:ドライブギア
38:リングギア
40、42:ピニオン
44、46:サイドギア
48:左前輪駆動軸
50:右前輪駆動軸
52:左前輪
54:右前輪
56:ドライブピニオン
58:リングギア
60、62:ピニオン
64、66:サイドギア
68:左後輪駆動軸
70:右後輪駆動軸
72:左後輪
74:右後輪
76:断接機構
78:後輪駆動力伝達区間
80:デフケース
82:ピニオン軸
84:サイドギア軸
86:スリーブ
88:フォーク
90:シフト軸
100:ケース
102:入力軸
106:多板クラッチ機構
108:クラッチハブ
110:クラッチドラム
112:ベベルギア
114:出力ピニオン
116:ベベルギア軸
118:後輪出力軸
120:クラッチ板
122:ボールカム機構
124:固定カムプレート
126:回転カムプレート
128:ボールカム溝
130:初期領域
132:傾斜領域
134:乗り越え部
136:リテーナ
138:突起部
140:ボール
142、144:アーム部
146:扇型ギア
148:駆動ギア
150:サーボモータ
152:減速機
154、156:スラスト軸受
158:固定プレート
160:押圧部材
162:復帰ばね
164:油孔開閉部
166:油孔位置調整部材
168:油孔
170:ラチェット爪
172:皿ばね
174:ラック
176:弁部
178:スペーサ
180:挟持部
182:弾性片
184、194:オイルポンプ
186:油路
188:カム荷重
190:ストローク
192:ばね荷重
196:カムフォロア
198:周縁カム
200:初期領域
202:非線形領域
204、210:押圧開始位置
206:線形領域
208:線形カム
210:多板クラッチ機構
212:プライマリークラッチ
214:ボールカム機構
216:クラッチハブ
218:クラッチドラム
220:クラッチ板
222:押圧部材
224:カムプレート
226:ボールカム溝
228:ボール
230:復帰ばね
232、242:スラスト軸受
234:クラッチ板
236:押圧板
238:押圧軸
240:受圧板
244:油圧ピストン
246:シリンダ
248:Oリング
250:サーボモータ
252:油圧ポンプ
254:油路
256:圧力センサ
300:駆動力伝達装置
302:四輪駆動車
304:エンジン
306:変速機
308:前輪差動装置
310:駆動力方向変換部
312:プロペラシャフト
314:多板クラッチ機構
316:左前輪
318:右前輪
320:ドライブピニオン
322:リングギア
324:後輪差動装置
326:左後輪
328:右後輪
330:前輪駆動力伝達区間
332:リングばね
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪駆動と四輪駆動を切り替え可能な四輪駆動車用駆動力伝達装置に関し、特に、二輪駆動時に駆動力の伝達に関わらない部分の回転を停止する四輪駆動車用駆動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のいわゆるオンデマンド型フルタイム四輪駆動車において、二輪駆動時は前輪を駆動し、四輪駆動時には後輪への駆動力の配分制御を多板クラッチ機構で行う四輪駆動車用駆動力伝達装置としては、例えば図21に示すものが知られている。
【0003】
図21において、駆動力伝達装置300は四輪駆動車302に設けられ、エンジン304からの駆動力を変速機306で変速して駆動力伝達装置300内の前輪差動装置308と駆動力方向変換部310に入力し、駆動力方向変換部310からの出力はプロペラシャフト312を介して多板クラッチ機構314に伝達される。
【0004】
二輪駆動時の多板クラッチ機構314が開放(切り離された状態)されている場合は、駆動力は後輪差動装置324に配分されずに前輪差動装置308に伝達され、前輪差動装置308は左前輪316と右前後輪318の回転速度差を吸収しつつ左前輪316及び右前輪318に等しいトルクを与え回転させる。
【0005】
四輪駆動時の多板クラッチ機構314が締結(接続された状態)されている場合では、駆動力は多板クラッチ機構314に連結されたドライブピニオン320とリングギア322を介して後輪差動装置324にも伝達され、後輪差動装置324は左後輪326と右後輪328の回転速度差を吸収しつつ左後輪326及び右後輪328に等しいトルクを与え回転させる。
【0006】
一般的に、オンデマンド型フルタイム四輪駆動車には、ドライバーが運転中にスイッチ操作で選択できる駆動モードとして、二輪駆動モード、四輪駆動オートモード、四輪駆動ロックモードが用意されている。
【0007】
二輪駆動モードは、駆動力伝達装置300の多板クラッチ機構314を開放して二輪駆動状態で使用するモードであり、燃費が最も良いことから四輪による駆動力が必要ない乾燥舗装路などを走行する場合に選択する。
【0008】
四輪駆動オートモードは、走行中の各種車両状態をセンサで検出し、その検出信号に基づいてECU(Electronic control unit)により多板クラッチ機構314の前後輪への駆動力配分を最適な状態に自動的に制御するモードであり、路面状態に係わらず常時選択が可能な四輪駆動である。
【0009】
このモードでは、多板クラッチ機構314の締結力はアクチュエータにより連続的に増減され、後輪への駆動力がほぼゼロの二輪駆動状態と最大締結力との間で前後輪の駆動力配分を制御する。
【0010】
四輪駆動ロックモードは、各種センサが検出した車両状態に係わらず多板クラッチ機構314を最大締結力に保持するモードであり、悪路走行などで四輪駆動としての走破性を最大限に発揮したい場合に選択する。
【特許文献1】特開平11−125279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、このような従来の四輪駆動車用駆動力伝達装置においては、二輪駆動モードであっても、変速機306からの駆動力は駆動力方向変換部310、プロペラシャフト312及び多板クラッチ機構314の駆動側(前輪側)を回転させ、また、左後輪326及び右後輪328と後輪差動装置324とが直結されているため、左後輪326及び右後輪328が回転することにより、後輪差動装置324、ドライブピニオン320及び多板クラッチ機構314の従動側(後輪側)が回転する。
【0012】
すなわち、多板クラッチ機構314が開放され後輪に駆動力が伝達されない二輪駆動時にも、たとえ多板クラッチ機構314が完全に開放されたとしても、図21に示すように駆動力方向変換部310、プロペラシャフト312、多板クラッチ機構314、ドライブピニオン320及び後輪差動装置324を含む後輪駆動力伝達区間330の各構成要素が回転してしまい、この区間におけるオイルの攪拌抵抗や軸受部の摩擦損失等により燃費低下を招いてしまう問題がある。
【0013】
また、多板クラッチ機構314には複数のクラッチ板が備わり、オイルで潤滑及び冷却されているが、クラッチ板の駆動側と従動側の回転速度差により発生するオイルの粘性抵抗やクラッチ板同士の接触による摩擦損失で発生する、いわゆる引き摺りトルクがドライブピニオン320及び後輪差動装置324のフリクショントルクより大きいために、たとえ左後輪326及び右後輪328と後輪差動装置324の間を切り離したとしても、多板クラッチ機構314の側からドライブピニオン320及び後輪差動装置324を回転させてしまうことで、燃費を悪化させる問題もある。
【0014】
この引き摺りトルクを減少させるには、多板クラッチ機構314へのオイルの供給を止めるか、あるいはオイルの量を極端に減らした状態で使用すれば、オイルの粘性抵抗により発生する引き摺りトルクを減少させ、又はなくすことができる。しかし、駆動力配分制御時には、十分な潤滑がされないと多板クラッチ機構314が焼き付く恐れがある。
【0015】
また、多板クラッチ機構314の開放状態で各クラッチ板の間隔を十分に確保する方法として、隣接する駆動側のクラッチ板、あるいは隣接する従動側のクラッチ板の間に図22に示すような、周方向に波状に形成されたリングばね332を挟む方法も提案されているが、この方法では駆動側のクラッチ板同士、あるいは従動側のクラッチ板同士の間隔を開けることはできるが、駆動側のクラッチ板と従動側のクラッチ板の接触を防止することはできない。
【0016】
四輪駆動オートモードでは、後輪326及び328に駆動力を伝達するため、例えその伝達駆動力が最低であっても、後輪駆動力伝達区間330には二輪駆動モード時より大きな損失が発生するため、燃費は二輪駆動モードより悪くなる。
【0017】
このモードでは、ドライバーが何の操作を行わなくとも駆動力の配分は最適な状態に自動的に制御されるが、乾燥舗装路などの四輪駆動の必要ない走行条件においても、ドライバーが2WDモードへのスイッチ切り替えを忘れると燃費の悪い状態で走行を続けることになる問題がある。
【0018】
この場合、走行条件に応じて自動的に二輪駆動モードと四輪駆動オートモードを切り替えることでドライバーのスイッチ操作に係わらず燃費を向上させることができるが、そのためには二輪駆動と四輪駆動の切り替えを迅速に行う必要がある。
【0019】
多板クラッチ機構314の引き摺りトルクを減少させる他の方法として、多板クラッチ機構314の二輪駆動時の待機状態から四輪駆動時の締結状態に移行するアプローチ区間の距離、いわゆるエンドプレイを大きく取り、二輪駆動時の多板クラッチ機構314が開放状態で各クラッチ板の間隔を十分に確保しクラッチ板同士の接触を防止することが考えられる。しかし、エンドプレイを大きく取ると二輪駆動から四輪駆動に切り替える際に時間がかり、走行性能の低下を招いてしまう。
【0020】
本発明は、二輪駆動から四輪駆動への切り替え応答性を犠牲にせず、二輪駆動時の後輪差動装置及び駆動力配分装置の回転によるオイル粘性抵抗や摩擦損失を減少させることで、燃費低下を伴わない四輪駆動車用動力伝達装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
この目的を達成するため本発明は次のように構成する。まず本発明は、多板クラッチ機構の締結力を連続的に変化させ前輪及び後輪に伝達する駆動力の配分を走行条件に応じて自動的に制御する四輪駆動モードと、多板クラッチ機構を開放して前輪のみに駆動力を伝達する二輪駆動モードとを切り替え可能な四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、動力源からの駆動力を入力して左右前輪駆動軸及び多板クラッチ機構に出力する前輪差動装置と、多板クラッチ機構により配分された駆動力を伝達するプロペラシャフトと、プロペラシャフトからの駆動力を入力して左右後輪駆動軸に出力する後輪差動装置と、後輪差動装置と左右後輪駆動軸の何れか一方又は両方との連結を切断及び接続可能な断接機構を備え、二輪駆動モード時に多板クラッチ機構の引き摺りトルクを多板クラッチ機構から断接機構までの後輪駆動力伝達区間の回転抵抗よりも小さくすると共に、断接機構により後輪差動装置と左右後輪駆動軸の何れか一方又は両方との連結を切断して後輪駆動力伝達区間の回転を停止することを特徴とする。
【0022】
ここで、多板クラッチ機構は、多板クラッチ機構の軸方向に変位可能な複数のクラッチ板と、クラッチ板への潤滑油の供給量を制御する潤滑油供給量可変機構とを備え、多板クラッチ機構の開放時に、潤滑油供給量可変機構によりクラッチ板への潤滑油の供給を停止あるいは所定の量に制限すると共に、クラッチ板相互の間隔の合計を多板クラッチ機構の潤滑油による引き摺りトルクを後輪駆動力伝達区間の回転抵抗よりも小さくする所定の値以上にする。
【0023】
また、多板クラッチ機構は、クラッチ板相互の間隔を広げる方向に付勢するスペーサを備え、スペーサは、クラッチ板の周縁部に設けた板厚方向の凹部に挿入する挟持部と、挟持部からクラッチ板の両表面の径方向に延び、クラッチ板の軸方向に変形可能な弾性片と、を有する板ばね部材であり、また、板ばね部材を前記クラッチ板の内周縁部に設け、更に、板ばね部材は弾性片がクラッチ板の外周方向に開いた形状とする。
【0024】
潤滑油供給量可変機構は、前輪への出力に連動して駆動されクラッチ板へ潤滑油を供給するオイルポンプと、クラッチ板を締結及び開放する軸方向に移動可能な押圧部材と、押圧部材に連動しクラッチ板へ潤滑油を供給する油孔を開閉して潤滑油の流量を制御する油孔開閉部とを備え、油孔開閉部は、油孔をクラッチ板の開放位置では閉鎖し締結位置では開放する。
【0025】
ここで、油孔開閉部は、クラッチ板の磨耗に応じて変化する押圧部材の締結方向の移動限界に連動してクラッチ板へ潤滑油を供給する油孔の位置を変位する油孔位置調整部材を備える。
【0026】
あるいは、潤滑油供給量可変機構は、後輪駆動力伝達区間に連動して駆動され、四輪駆動時にクラッチ板へ潤滑油を供給するオイルポンプを備える。
【0027】
更に、多板クラッチ機構は、クラッチ板を締結及び開放する軸方向に移動可能な押圧部材と、押圧部材を移動させるために回転力を出力する駆動源と、駆動源からの回転力を押圧部材の締結方向に変換及び増幅する押圧機構とを備え、駆動源の回転角に対する押圧部材の軸方向変位への変換率が、押圧部材が開放方向の待機位置から締結方向の締結開始位置まで移動する移行区間と、締結開始位置から締結方向の締結終了位置までの締結力を連続的に変化させる押圧区間とでは、移行区間の方が大きいとを特徴とする。
【0028】
ここで、押圧機構は、押圧部材と同軸に設けられた固定カムプレートと回転カムプレートとの対向面上に円周方向に延びる複数のボールカム溝を各々設けると共に前記両ボールカム溝間に各々ボールを挟持したボールカム機構を備え、ボールカム溝は、押圧部材を移行区間で移動させる非線形領域と、押圧部材を押圧区間で移動させる線形領域とを有し、回転カムプレートの回転角に対する軸方向の変位が、線形領域より非線形領域の方が大きいことを特徴とする。
【0029】
ボールカム機構は、円周方向に配置された各ボールの相対位置を保持するリテーナを備え、リテーナは、ボールカム溝に対するボールの初期位置を規制する位置決め部を有する。
【0030】
また、押圧機構は、押圧部材と同軸に設けられ回転変位を軸方向変位に変換する回転カムプレートと、外周方向のカム面を有し駆動源により回転駆動される周縁カムと、回転カムプレートから延在したアーム部先端に周縁カムと係合するカムフォロアとを備え、カム面は、押圧部材を前記移行区間で移動させる非線形領域と、押圧部材を押圧区間で移動させる線形領域とを有し、周縁カムの回転角に対するカムフォロアの法線方向変位が、線形領域より非線形領域の方が大きいことを特徴とする。
【0031】
あるいは、多板クラッチ機構は、クラッチ板を締結及び開放する軸方向に移動可能な押圧部材と、プライマリークラッチと、プライマリークラッチを締結及び開放する軸方向に移動可能なアクチュエータと、プライマリークラッチからの回転力を押圧部材の締結方向に変換及び増幅する押圧機構とを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、二輪駆動モード時に、断接機構により後輪差動装置と左右後輪駆動軸の何れか一方、又は両方との連結を切断して後輪の回転に伴う後輪差動装置のリングギアの回転を抑制し、また、多板クラッチ機構のクラッチ板同士の間隔をスペーサを用いて確保すると共にクラッチ板へのオイルの供給を制限して多板クラッチ機構の引き摺りトルクを後輪駆動力伝達区間のフリクショントルクよりも小さくすることで、後輪駆動力伝達区間の構成要素の回転を止め、この区間のオイル粘性抵抗や摩擦損失を減少させ燃費低下を防止できる。
【0033】
更に、クラッチ板同士の間隔を確保するためにエンドプレイを大きく取った場合でも、押圧部材がクラッチ板に接触、又は近接するまでのアプローチ区間をそれ以降の押圧区間よりも速く動かす押圧機構を備えることで、二輪駆動モードから四輪駆動モードへの切り替え応答性を犠牲にすることなく燃費低下を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
図1は、本発明による四輪駆動車用駆動力伝達装置の実施形態を示した説明図であり、二輪駆動モードでは前輪を駆動する方式の車両に適用した場合である。図1において、本実施形態の駆動力伝達装置10は四輪駆動車12に設けられ、駆動力配分装置18、前輪差動装置20及び後輪差動装置22を備える。後輪差動装置22はプロペラシャフト24を介して駆動力配分装置18に連結されている。
【0035】
エンジン14からの駆動力は変速機16で変速され、変速機16のドライブギア36及び前輪差動装置20のリングギア38を介して駆動力配分装置18の入力軸102に入力し、二輪駆動モードで、入力軸102に同軸に設けられた多板クラッチ機構106が開放されている場合、駆動力は後輪に配分されずにそのまま前輪差動装置20に出力される。
【0036】
リングギア38はピニオン40、42、サイドギア44、46を介して左前輪駆動軸48及び右前輪駆動軸50を駆動し、左前輪駆動軸48及び右前輪駆動軸50は各々左前輪52及び右前輪54を回転させ駆動力を路面に伝達する。コーナリング時や路面状態の変化等により左前輪52と右全輪54に回転速度差が生じても、前輪差動装置20は回転速度差を吸収し、左前輪52及び右前輪54に等しいトルクを与え回転させることができる。
【0037】
ドライバーが二輪駆動モードから四輪駆動モードに切り替えると、ECUはまず多板クラッチ機構106を締結し、続いて断接機構76の連結を接続することで、多板クラッチ機構106からの駆動力が左後輪72及び右後輪74に伝達可能となる。
【0038】
後輪出力軸118から出力された駆動力は自在継手32、プロペラシャフト24、自在継手34を介し、後輪差動装置22のドライブピニオン56に伝達され、ドライブピニオン56は、リングギア58、ピニオン60、62、サイドギア64、66を介して左後輪駆動軸68及び右後輪駆動軸70を駆動し、左後輪駆動軸68及び右後輪駆動軸70は各々左後輪72及び右後輪74を回転させ駆動力を路面に伝達する。
【0039】
断接機構76は四輪駆動時にはサイドギア66と右後輪駆動軸70を連結しており、サイドギア66の回転はそのまま右後輪駆動軸70に伝達される。コーナリング時や路面状態の変化等により左後輪72と右後輪74に回転速度差が生じても、後輪差動装置22は回転速度差を吸収し、左後輪72及び右後輪74に等しいトルクを与え回転させることができる。
【0040】
多板クラッチ機構106の締結力はサーボモータにより連続的に制御され、必要に応じて後輪出力軸118へ伝達する駆動力を増減させることで、前後輪の駆動力配分を制御する。
【0041】
四輪駆動オートモードから二輪駆動モードに切り替えると、ECUはまず多板クラッチ機構106を開放し、続いて断接機構76の連結を切断する。この場合、ECUは先に断接機構76の連結を切断した後に多板クラッチ機構106を開放してもよい。
【0042】
断接機構76はサイドギア66と右後輪駆動軸70との連結を絶ち、左後輪72及び右後輪74が路面から受ける回転力がリングギア58を回転させることを防止する。これにより、二輪駆動時に燃費低下を招く要因である、後輪を駆動しない二輪駆動時にもリングギア58からベベルギア112までの後輪駆動力伝達区間78が回転してしまう問題を解消できる。
【0043】
また、ドライバーが切り替えスイッチを操作しなくとも、車両状態を検出してECUの判断により、四輪駆動の必要がない時には自動的に二輪駆動モードに切り替え、逆に四輪駆動が必要な時には四輪駆動モードに切り替えるようにしてもよい。
【0044】
図1において、仮に、二輪駆動モード時にサイドギア66と右後輪駆動軸70が連結されているとすると、例えばサイドギア64及び66が同方向に同速度で回転する場合、ピニオン60及びピニオン62は回転(自転)せずにリングギア58が回転する。サイドギア64及び66に回転速度差があったとしても同方向の回転であれば回転速度は変化するがリングギア58は回転し、リングギア58が回転することで連結しているドライブピニオン56、自在継手34、プロペラシャフト24、自在継手32、後輪出力軸118、出力ピニオン114、ベベルギア112が回転してしまう。
【0045】
この、リングギア58からベベルギア112までの後輪駆動力伝達区間78は二輪駆動時には回転する必要のない部位であるにも関わらず、この部分の回転がオイルの粘性抵抗や軸受部の摩擦損失等を引き起こす。すなわち、左前輪52及び右前輪54から路面に伝わった駆動力が左後輪72及び右後輪74を回転させることで、二輪駆動時には回転する必要のない後輪駆動力伝達区間78を回転させ、駆動力の損失となり燃費低下を招いてしまう。
【0046】
そこで、本発明にあっては、二輪駆動モードでは断接機構76によりサイドギア66と右後輪駆動軸70の連結を絶つと共に、多板クラッチ機構106の引き摺りトルクを後輪駆動力伝達区間78のフリクショントルクより小さくすることで、後輪駆動力伝達区間78の回転を防止している。
【0047】
サイドギア66と右後輪駆動軸70の連結が絶たれると、右後輪74の回転はサイドギア66に伝わらず、そのため、左後輪72によるサイドギア64の回転はピニオン60及びピニオン62を介してサイドギア66を反対方向に回転させることが可能で、このピニオン60、ピニオン62、サイドギア66の回転抵抗よりも、リングギア58に繋がるドライブピニオン56からベベルギア112までの回転抵抗の方が大きいため、リングギア58は回転しない。
【0048】
リングギア58が回転しないということは、後輪駆動力伝達区間78が回転しないことであり、この場合の駆動力の損失はピニオン60、ピニオン62、サイドギア66が回転する部分だけとなり、断接機構76がなく前輪駆動力伝達区間78が回転してしまう場合と比べて燃費向上が可能である。
【0049】
なお、本実施形態において、断接機構76は後輪差動装置22内のサイドギア66と右後輪駆動軸70の中間に設置されているが、サイドギア66と右後輪駆動軸70を断続する位置、あるいはサイドギア64と左後輪駆動軸68を断続する位置、又はその両方の位置であれば後輪差動装置22内に設置するか外に設置するかを問わない。更に、ピニオン60、62、サイドギア64、66で構成するユニットをリングギア58と分離し、その連結を断続する方式等の他の機構でも構わない。
【0050】
図2は、図1の後輪差動装置22の実施形態を示した断面図であり、断接機構76を備える。図2において、後輪差動装置22はデフケース80の外周部に固定されたリングギア58、デフケース80に固定されたピニオン軸82に回転自在に軸支されたピニオン60及びピニオン62、左後輪駆動軸68に回転不可に軸支されデフケース80内ピニオン60及びピニオン62と噛み合うサイドギア64、サイドギア軸84に回転不可に軸支されデフケース80内でピニオン60及びピニオン62と噛み合うサイドギア66を備える。
【0051】
更に、端部70bがサイドギア軸84に回転方向に拘束されずに勘合している右後輪駆動軸70、右後輪駆動軸70の歯部70a及びサイドギア軸84の歯部84aとスプライン結合し、右後輪駆動軸70とサイドギア軸84を連結する位置と連結を解除する位置でスライド可能なスリーブ86、スリーブ86の溝部86aに摺動自在に係合する先端部88aによりスリーブ86をスライドさせるフォーク88、フォーク88に固定され図示しないアクチュエータにより軸方向に駆動されるシフト軸90を備え、四輪駆動時にリングギア58と噛み合うドライブピニオン56からの駆動力を左後輪72及び右後輪74に伝達する。
【0052】
図2(A)は、二輪駆動時の断接機構76が非連結状態で、スリーブ86はサイドギア軸84の歯部84aと噛み合っていない。左後輪駆動軸68の回転はサイドギア64、ピニオン60及びピニオン62を介してサイドギア66に伝わり、リングギア58が回転しないことからサイドギア軸84を左後輪駆動軸68とは反対方向に回転させる。
【0053】
図2(B)は、四輪駆動時にフォーク88がL方向に移動し断接機構76が連結された状態で、スリーブ86はサイドギア軸84の歯部84aと噛み合っている。ドライブピニオン56によりリングギア58が回転し、左後輪駆動軸68と右後輪駆動軸70を同方向に回転させる。二輪駆動に戻る際にはフォーク88がU方向に移動し断接機構76は非連結状態に戻る。
【0054】
二輪駆動モード時に燃費低下を招く他の要因として、多板クラッチ機構106に備わる複数のクラッチ板の駆動側(前輪側)と従動側(後輪側)の回転速度差により発生するオイルの粘性抵抗やクラッチ板同士の接触による摩擦損失、いわゆる引き摺りトルクが後輪駆動力伝達区間78のフリクショントルクより大きいために、後輪駆動力伝達区間78が回転してしまう問題がある。
【0055】
図3は、図1の駆動力配分装置18の実施形態を示した断面図である。図3において、駆動力配分装置18はケース100を有し、ケース100の左側にエンジン14からの駆動力を変速機16、前輪差動装置20のリングギア38を介して入力する入力軸102が設けられ、入力軸102には、右前輪駆動軸50が回転自在に貫通している。
【0056】
入力軸102と同軸に多板クラッチ機構106とボールカム機構122が設けられ、多板クラッチ機構106はクラッチハブ108を入力軸102に固定し、クラッチドラム110を入力軸102に対しベベルギア軸116と共に回転自在に設けたベベルギア112に連結している。
【0057】
入力軸102と直角に、後輪側に駆動力を出力する後輪出力軸118がケース100の左下側に設けられており、後輪出力軸118には出力ピニオン114が連結されベベルギア112と噛み合っている。
【0058】
ボールカム機構122の多板クラッチ機構106の反対側にはオイルポンプ184が配置され、入力軸102から動力を得て入力軸102に設けられた油路186にオイルを供給する。
【0059】
このような駆動力配分装置18において、二輪駆動時には、多板クラッチ機構106のクラッチハブ108とクラッチドラム110の間が開放され、入力軸102の駆動力は後輪出力軸118には伝達されない。
【0060】
四輪駆動時にあっては、多板クラッチ機構106が締結され、入力軸102からの駆動力を多板クラッチ機構106、ベベルギア112、出力ピニオン114を介して後輪出力軸118にも伝達する。
【0061】
図4は、図3の多板クラッチ機構106及びボールカム機構122を示した断面図である。図4において、多板クラッチ機構106に対しては、クラッチハブ108とクラッチドラム110の間に設けた複数のクラッチ板120の締結力を制御するボールカム機構122が設けられる。クラッチ板120は、クラッチ板同士の間隔を保持するスペーサ178を備える。
【0062】
ボールカム機構122は、入力軸102と同軸に相対回転自在に設けられた一対の固定カムプレート124と回転カムプレート126の対向するカム面のボールカム溝128にボール140を挟んで保持している。更に、固定カムプレート124と回転カムプレート126の間には位置決め用の突起部138を有するリテーナ136を備える。
【0063】
図5は、図3のボールカム機構122をオイルポンプ184の方向から見た説明図である。図5において、固定カムプレート124は、アーム部142を延在してU字形の先端を保持部152aの外側に嵌め入れて回転を停止させている。回転カムプレート126は、円周方向に複数のボールカム溝128を有し、アーム部144を延在して先端に形成した扇型ギア146が駆動ギア148に噛み合っている。
【0064】
再び、図3及び4を参照するに、サーボモータ150は減速機152を介して駆動ギア148を回転させる。固定カムプレート124の右側にはスラスト軸受154を介して固定プレート158が配置され、回転カムプレート126の左側にはスラスト軸受156を介して押圧部材160が配置される。押圧部材160は、クラッチハブ108との間に備わる復帰ばね162により多板クラッチ機構106の開放方向に付勢されている。
【0065】
ボールカム機構122は、駆動ギア148により回転カムプレート126が固定カムプレート124に対し所定方向に回転駆動されると、対向する面の傾斜溝であるボールカム溝128に挟まれているボール140による押圧を受けて押圧部材160及び復帰ばね162を軸方向に押し、押圧部材160が多板クラッチ機構106のクラッチ板120を押すことで、駆動ギア148の回転量に応じて伝達トルクを増加させ、最大押付け位置で直結状態となる。
【0066】
入力軸102、クラッチハブ108及び押圧部材160に囲まれる部位には、油路186から多板クラッチ機構106の複数のクラッチ板120へのオイルの供給を制御する油孔開閉部164が配置される。油孔開閉部164は、油孔168、ラチェット爪170を有する油孔位置調整部材166、皿ばね172、入力軸102に設けられたラック174、押圧部材160に設けられ油孔168を開閉する弁部176で構成される。
【0067】
図6は、図3の多板クラッチ機構106の油孔開閉部164の動作を示す説明図である。図6(A)は、二輪駆動時の多板クラッチ機構106が開放された状態で、押圧部材160はクラッチ板120から最も離れた待機位置に在る。油孔位置調整部材166は皿ばね172により右方に付勢されているがラチェット爪170とラック174で規制されている。
【0068】
この状態では、クラッチ板120の内でクラッチドラム110に係合した方は回転しないが、クラッチハブ108に係合した方が入力軸102の回転と共に回転する。しかし、押圧部材160がこの位置では弁部176が油孔168を閉じているため、油路186からのオイルはクラッチ板120には供給されず、オイルによる粘性抵抗を軽減することでクラッチドラム110側の引き摺りを防止できる。
【0069】
なお、本実施形態にあっては、図6(A)の多板クラッチ機構106が開放された状態で、弁部176が油孔168を完全に閉じているが、この時点で弁部176が油孔168を完全に閉じることなく、若干のオイルをクラッチ板120に供給するように構成してもよく、その量はクラッチ板120の潤滑や冷却を考慮して任意に設定できる。
【0070】
図6(B)は、二輪駆動から四輪駆動へ切り替わる途中の多板クラッチ機構106の締結初期状態で、ボールカム機構122に押され左方に移動した押圧部材160はクラッチ板120に接触を開始した位置に在る。この時点からクラッチ板120同士も徐々に接触を始め、その摩擦トルクにより多板クラッチ機構106は駆動力を前輪側に伝達し始める。この位置では弁部176が油孔168を開いているため、矢印で示すように油路186からオイルがクラッチ板120に供給され、クラッチ板同士の焼き付を防止する。
【0071】
図6(C)は、四輪駆動に切り替わり多板クラッチ機構106が完全に締結された状態で、押圧部材160はクラッチ板120同士の隙間が全く無い最大押付け位置に在る。油孔位置調整部材166は、突起166aが弁部176に押され、押圧部材160の最大押付け位置でラチェット爪170がラック174に係合し保持される。
【0072】
図7は、図6の油孔開閉部164の油孔位置調整部材166の動作を示す説明図である。図7(A)はクラッチ板120が磨耗をしていない状態、あるいは磨耗の初期状態での油孔開閉部164を示し、図7(B)はクラッチ板120の磨耗が進行した状態での油孔開閉部164を示している。
【0073】
図7(A)から図7(B)にクラッチ板120の磨耗が進むと、押圧部材160の最大押付け位置が全てのクラッチ板120の減少した板厚の合計に略等しい距離分クラッチストロークが深くなる方向、図7において距離W左方に移動する。押圧部材160の最大押付け位置の移動に伴い、油孔位置調整部材166の突起166aが弁部176に押し込まれる位置も左方に変化し、その押し込まれた位置でラチェット爪170がラック174に係止し、油孔位置調整部材166が保持される。
【0074】
油孔位置調整部材166がクラッチ板120の磨耗に追従することで、油孔168の開き始めのタイミングはクラッチ板120の磨耗度に影響されず、クラッチ板120同士の間隔に対し略一定となり、クラッチ板120の潤滑、冷却や引き摺り等に影響するオイル供給量の安定化が図れる。
【0075】
図8は、図3の多板クラッチ機構106のスペーサ178の設置状態を示す説明図である。図8は、二輪駆動時の多板クラッチ機構106が開放された状態で、押圧部材160はクラッチ板120から最も離れた待機位置に在る。
【0076】
多板クラッチ機構106は軸方向に移動可能な複数のクラッチ板120を備え、クラッチ板120は、クラッチハブ108の外周に内側クラッチ板120hがスプライン嵌合されて、クラッチドラム110の内周には外側クラッチ板120dがスプライン嵌合されおり、内側クラッチ板120hと外側クラッチ板120dは1枚置きに配置される。外側クラッチ板120dの内周部には板材を成形した板ばねであるスペーサ178を備え、隣接する両側の内側クラッチ板120hと引き摺りを起さない摩擦面同士の隙間を確保する。
【0077】
クラッチ板120はクラッチハブ108の受圧面108aと押圧部材160の押圧面160aの間で軸方向に移動可能であり、押圧面160aとの隙間Eがあるが、スペーサ178がないとクラッチ板120同士は、オイルによって粘着し分離せず、引き摺りを起す。スペーサ178が摩擦面同士の隙間を確保することで、引き摺りによる駆動力の損失を防止し燃費を向上させることが可能となる。
【0078】
なお、押圧部材160がクラッチ板120から最も離れた待機位置に在る場合の隙間Eの値は、クラッチ120同士の隙間の状態により一定とは限らない。
【0079】
スペーサ178は内側クラッチ板120hの外周部に設置することも可能であるが、トルク損失の小さな内側の方が好ましい。すなわち、スペーサ178が設置されたクラッチ板120に隣接するクラッチ板120と、スペーサ178との摺動による摩擦抵抗が同じであれば内側に設置した方が摩擦トルクは少なく、摩擦トルクは駆動力の損失となるためである。また、スペーサ178のばね荷重は隣接するクラッチ板120hとの間隔を維持できる範囲で小さい方が好ましい。
【0080】
図9は、図8のスペーサを示す斜視図である。図9において、スペーサ178は板材を成形した板ばねであり、外側クラッチ板120dの内周部に設けた板厚方向の凹部120cに挿入する挟持部180と、挟持部180から隣接するクラッチ板120の両表面の外径方向に延び、クラッチ板120の軸方向に変形可能な弾性片182を備る。
【0081】
スペーサ178を矢印で示す方向に凹部120cに挿入し固定するために、挟持部180の間隔は凹部120cの厚みより狭く設定される。
【0082】
図10は、図8のスペーサ178を示す断面図である。図10(A)は、四輪駆動時の多板クラッチ機構106が締結された状態で、スペーサ178が設置された外側クラッチ板120dと隣接する内側クラッチ板120hの各々の摩擦面が密着し回転している。図10(B)は、二輪駆動時の多板クラッチ機構106が開放された状態で、スペーサ178が設置された外側クラッチ板120dと隣接する内側クラッチ板120hの各々の摩擦面がスペーサ178により引き摺りを起さない隙間に隔離されている。
【0083】
図10(B)において、内側クラッチ板120hは回転し、外側クラッチ板120dは回転しないため、スペーサ178の弾性片182の先端が隣接する内側クラッチ板120hと摺動する。そのため、弾性片182の先端は摩擦面ではない部位と接触するのが好ましい。
【0084】
図11は、図3の多板クラッチ機構106のスペーサ178の他の実施形態を示す断面図である。図11おいて、スペーサ178は板材を成形した板ばねであり、外側クラッチ板120dの内周部に設けた板厚方向の凹部120cに挿入する挟持部180と、挟持部180から隣接する内側クラッチ板120hの両表面の内径方向に延び、内側クラッチ板120hの軸方向に変形可能な弾性片182を備える。
【0085】
図11(A)は、多板クラッチ機構106が締結された状態で、スペーサ178が設置された外側クラッチ板120dと隣接する内側クラッチ板120hの各々の摩擦面が密着している。図11(B)は、多板クラッチ機構106が開放された状態で、スペーサ178が設置された外側クラッチ板120dと隣接する内側クラッチ板120hの各々の摩擦面がスペーサ178により引き摺りを起さない隙間に隔離されている。
【0086】
図11(A)と(B)の中間の位置においては、内側クラッチ板120hと外側クラッチ板120dは共に回転するが、回転速度差があるため弾性片182の先端が隣接する内側クラッチ板120hと摺動する。しかし、弾性片182の先端は外側クラッチ板120dの回転による遠心力で、矢印で示すように閉じる方向に力を受けることで摩擦抵抗を減らすことができる。
【0087】
図12は、図3のボールカム機構122のボールカム溝128とリテーナ136を示す説明図である。図12において、一対の固定カムプレート124と回転カムプレート126の相対するカム面のボールカム溝128にボール140を挟んで保持している。ボールカム溝128は、乗り越え部134を境界にしてカム形状が異なる初期領域130と傾斜領域132を有する。
【0088】
また、固定カムプレート124と回転カムプレート126の間には各ボール140の相対位置を保持するリテーナ136を備え、リテーナ136はボールカム溝128に対するボール140の初期位置を規制する位置決め用の突起部138を設ける。突起部138は回転カムプレート126の外周部に形成したガイド部127に係合している。
【0089】
図12(A)は、二輪駆動時の多板クラッチ機構106が開放され、押圧部160が待機位置に在る状態で、ボール140は固定カムプレート124と回転カムプレート126の両ボールカム溝128の初期領域130に位置する。
【0090】
図12(B)は、二輪駆動から四輪駆動へ移行する際の、多板クラッチ機構106の締結初期の押圧部材160がクラッチ板120に接触を開始した位置に在る状態で、ボール140はボールカム溝128の乗り越え部134から傾斜部132に移行した位置する。
【0091】
図12(C)は、四輪駆動へ切り替わり、多板クラッチ機構106が締結されて押圧部材160がクラッチ板120同士を押圧する位置に在る状態で、ボール140はボールカム溝128の傾斜部132に位置する。
【0092】
荷重を分散するために円周上にボール140を複数配置した場合、ボールカム機構122の作動時にボールカム溝128とボール140との滑りにより各ボールの相対的な位置ずれが生じることがあり、その場合、複数のボールカム溝128を均等に押すことができなくなり、多板クラッチ機構106への偏荷重やボールカム溝128の表面の耐久性が著しく低下する。
【0093】
リテーナ136を備えることで、各ボール140の相対位置が保持され、また、図12(C)から図12(A)の初期位置に戻る毎に、位置決め用の突起部138により各ボール140のボールカム溝128に対する初期位置が補正される。
【0094】
図13は、図1の駆動力配分装置18の他の実施形態を示した断面図であり、図3及び4に示す実施形態に対し、ボールカム機構122が異なる点を除けば同じ構成である。図13において、サーボモータ150は減速機152を介して周縁カム198回転させる。
【0095】
回転カムプレート126は、アーム部144を延在して先端に、回転可能なローラから成るカムフォロア196を設けており、カムフォロア196は周縁カム198の外周部に接している。
【0096】
ボールカム機構122は、周縁カム198により回転カムプレート126が固定カムプレート124に対し所定方向に回転駆動されると、対向する面の傾斜溝であるボールカム溝128に挟まれているボール140による押圧を受けて押圧部材160及び復帰ばね162を軸方向に押し、押圧部材160が多板クラッチ機構106のクラッチ板120を押すことで、駆動ギア148の回転量に応じて伝達トルクを増加させ、最大押付け位置で直結状態となる。
【0097】
図14は、図13のボールカム機構122を入力軸102の方向から見た説明図である。図14において、回転カムプレート126は、円周方向に複数のボールカム溝128を有する。この実施例におけるボールカム溝128は、図3の実施例において図12に示すような乗り越え部134は存在せず、傾斜領域132は初期領域130から段差なく接する形状をしている。
【0098】
回転カムプレート126から延在するアーム部144の先端に設けられたカムフォロア196の外周部は、周縁カム198のカム面に接している。周縁カム198のカム面は、初期領域200、非線形領域202及び線形領域206で構成され、時計方向に回転することでカムフォロア196を介して回転カムプレート126を回転駆動し、多板クラッチ機構106を押圧する。
【0099】
図14(A)は、二輪駆動時の多板クラッチ機構106が開放され、押圧部160が待機位置に在る状態で、カムフォロア196は周縁カム198のカム面の初期領域200に位置する。
【0100】
図14(B)は、二輪駆動から四輪駆動へ移行する際の、多板クラッチ機構106の締結初期の押圧部材160がクラッチ板120に接触を開始した位置に在る状態で、カムフォロア196は周縁カム198のカム面の非線形領域202から線形領域206に移行する位置に在り、この点が押圧開始位置204となる。
【0101】
周縁カム198の押圧開始位置204は、非線形領域202から線形領域206に移行する位置の近傍であれば非線形領域202に在っても線形領域206に在っても構わないが、非線形領域202から線形領域206に移行する点が望ましい。
【0102】
ここで、従来例として非線形領域のない線形カム208の形状を示して周縁カム198との比較をすると、線形カム208においては押圧部材160がクラッチ板120を押圧始める押圧開始位置210までに角度βを要するが、非線形領域202の存在する周縁カム198においては角度βよりはるかに小さな角度αで押圧開始位置204に達する。
【0103】
図15及び16は、図12及び14に示すボールカム機構122の動作説明図である。図15は、多板クラッチ機構106の押圧部材160に作用するカム荷重188と、押圧部材160のストローク190の関係、及びばね荷重192を模式的に示したグラフで、横軸は回転カムプレート126のカム角度(θ)、縦軸はカム荷重(F)とストローク(S)を表している。
【0104】
押圧部材160のストローク190は、カム角度θ0からθ1までが非線形領域で、カム角度θ1以降θmaxまでが線形領域であり、クラッチトルク(T)の軸は、カム角度θ1のバネ荷重192を始点(T0)とし、バネ荷重192の傾きに直角である。
【0105】
図16(A)は、図15に示すカム角度θに対応した、押圧部材160、クラッチドラム108、クラッチ板120及び復帰ばね162の状態を表し、各々、多板クラッチ機構106の待機状態θ0、締結開始θ1、締結状態θnである。
【0106】
図16(B)は、図12に示す固定カムプレート124、回転カムプレート126及びボール140のカム角度θに対応した位置関係を表し、左から各々、カム角度θ0のボール140がボールカム溝128の初期領域130に在る場合、カム角度θ1のボール140がボールカム溝128の乗り越え部134を乗り越え終わった位置に在る場合、カム角度θnのボール140がボールカム溝128の傾斜領域132に在る場合である。
【0107】
図16(C)は、図14に示す周縁カム198と回転カムプレート126のアーム部144の先端に位置するカムフォロア196のカム角度θに対応した位置関係を表し、左から各々、カム角度θ0のカムフォロア196が周縁カム198の初期領域200に在る場合、カム角度θ1のカムフォロア196が周縁カム198の押圧開始位置204に在る場合、カム角度θnのカムフォロア196が周縁カム198の線形領域206に在る場合である。
【0108】
多板クラッチ機構106において、押圧部160の移動は、待機位置からクラッチ板120に接触を開始する位置までは、復帰ばね162を押し込むだけの小さな荷重でよいが、二輪駆動から四輪駆動への移行応答性を良くするために大な速度が必要になる。特に、二輪駆動時の引き摺りを防止するためにクラッチ板120同士の間隔を広げ、多板クラッチ機構106のエンドプレイを大きく取った場合はこの区間の移動速度が重要になる。
【0109】
カム角度θ0の待機状態では、押圧部材160とクラッチ板120とに距離eのエンドプレイがあり、図16(B)の場合、ボール140がカム角度θ0からカム角度θ1のボールカム溝128の乗り越え部134を乗り越える非線形領域でこの距離eをすばやく詰める。
【0110】
図16(C)の場合は、カムフォロア196がカム角度θ0からカム角度θ1で非線形領域202を経て押圧開始位置204に移動することでこの距離eをすばやく詰める。このカム角度θ0からカム角度θ1の区間でのカム荷重(F)は復帰ばね162のばね荷重192のみであるため、小さなカム角度θ1で大きなストロークS1を得ることが可能である。
【0111】
その後、押圧部材160がクラッチ板120に接触し押圧を開始すると、クラッチ板120にクラッチトルク(T)が発生し、カム荷重(F)は急激に増加する。カム角度θ1以降は、ボール140はボールカム溝128の傾斜領域132に在り、カム角度θnのストロークSnにおいて、荷重Fnからバネ荷重192を引いた値がクラッチトルクTnに相当する。
【0112】
図17は、本発明による四輪駆動車用駆動力伝達装置の他の実施形態を示した説明図であり、図1に示す実施形態に対しオイルポンプ194を除けば同じ構成である。図17において、ベベルギア軸116にはオイルポンプ194が連結されており、多板クラッチ機構106が締結されベベルギア114が回転するとオイルポンプ194はオイルを図示しない油圧回路を経由して多板クラッチ機構106に供給し、多板クラッチ機構106に備わる複数のクラッチ板の摩擦熱による焼き付きを防止する。
【0113】
なお、本実施形態において、オイルポンプ194はベベルギア軸116に連結され動力を得ているが、二輪駆動時に駆動力が伝達されない部位、例えばベベルギア112や出力ピニオン114から動力を得るようにしても構わない。
【0114】
図18は、図17の駆動力配分装置18の実施形態を示した断面図であり、図3に示す実施形態に対し入力軸102が駆動するオイルポンプ184がなく、代わりにベベルギア軸116が駆動するオイルポンプ194があること、及び図4に詳細を示す油孔開閉部164及び油路186が存在しないことを除けば同じ構成である。
【0115】
図18において、ベベルギア軸116のベベルギア112の反対側にはオイルポンプ194が配置され、ベベルギア軸116から動力を得て、入力軸102の外周部とベベルギア軸116内周部の間、入力軸102の外周部とベベルギア112内周部の間を経由して多板クラッチ機構106にオイルを供給する。
【0116】
このような構成において、二輪駆動時の多板クラッチ機構106が開放され、押圧部材160はクラッチ板120から最も離れた待機位置に在る状態では、クラッチ板120の内でクラッチドラム110に係合した方は回転しないが、クラッチハブ108に係合した方が入力軸102の回転と共に回転する。
【0117】
しかし、クラッチドラム110が回転しないことから、ベベルギア12及びベベルギア軸116が回転せず、よってオイルポンプ194はオイルを吐出しないため、オイルはクラッチ板120には供給されず、オイルによる粘性抵抗を軽減することでクラッチドラム110側の引き摺りを防止できる。
【0118】
二輪駆動から四輪駆動へ切り替わり、ボールカム機構122に押され左方に移動した押圧部材160がクラッチ板120を押圧し、クラッチ板120同士が接触した状態ではクラッチドラム110が回転するため、ベベルギア112を介してベベルギア軸116が回転する。従って、ベベルギア軸116に駆動されるオイルポンプ194はオイルを吐出することで、オイルがクラッチ板120に供給され、クラッチ板同士の焼き付を防止する。
【0119】
図19は、本発明による四輪駆動車用駆動力伝達装置の他の実施形態を示した断面図
である。図19の実施形態は実質的に図17の駆動力配分装置18を示したものであり、図18に示す断面図に対し、プライマリークラッチ212、ボールカム機構214を含む多板クラッチ機構210、油圧ピストン244、油圧ポンプ252及び圧力センサ256が異なることを除けば同じ構成である。
【0120】
図19において、入力軸102と同軸に多板クラッチ機構210、プライマリークラッチ212及びボールカム機構214が設けられ、多板クラッチ機構210はクラッチドラム216を入力軸102に固定し、クラッチハブ218を入力軸102に対しベベルギア軸116と共に回転自在に設けたベベルギア112に連結している。
【0121】
このような駆動力配分装置18において、二輪駆動時には、多板クラッチ機構210のクラッチドラム216とクラッチハブ218の間が開放され、入力軸102の駆動力は後輪出力軸118には伝達されない。
【0122】
四輪駆動時にあっては、多板クラッチ機構210が締結され、入力軸102からの駆動力を多板クラッチ機構210、ベベルギア112、出力ピニオン114を介して後輪出力軸118にも伝達する。
【0123】
図20は、図19の多板クラッチ機構210、プライマリークラッチ212及びボールカム機構214を示した断面図である。図20において、多板クラッチ機構210に対しては、クラッチドラム216とクラッチハブ218の間に設けた複数のクラッチ板220の締結力を制御するボールカム機構214及びボールカム機構214を駆動するプライマリークラッチ212が設けられる。
【0124】
ボールカム機構214は、入力軸102と同軸に相対回転自在に設けられた一対の押圧部材222とカムプレート224の対向するカム面のボールカム溝226にボール228を挟んで保持している。
【0125】
押圧部材222は、クラッチハブ218と共に回転しクラッチハブ218との間に備わる復帰ばね230により多板クラッチ機構210の開放方向に付勢されている。カムプレート224とクラッチドラム216の間にはスラスト軸受232が備わる。
【0126】
プライマリークラッチ212は、クラッチドラム216とカムプレート224の間にクラッチ板234を備え、押圧板236がクラッチ板234を押圧し締結することでクラッチドラム216の回転をカムプレート224に伝達する。
【0127】
押圧板236はクラッチドラム216を貫通する押圧軸238を介して受圧板240と連結しており、受圧板240はスラスト軸受け242を介して油圧ピストン244と係合している。油圧ピストン244はシリンダ246の中をプライマリークラッチ212を開放する位置と締結する位置に移動可能であり、Oリング248でシールされている。
【0128】
図19に示すように、サーボモータ250は油圧ポンプ252を駆動し、油圧ポンプ252から吐出されるオイルが油路254を経由してシリンダ246に流入することで、油圧ピストン244がスラスト軸受242、受圧板240、押圧軸238、押圧板236を介してクラッチ板234を押圧し、プライマリークラッチ212を締結する。
【0129】
油路254には油圧センサ256が備わり、油圧シリンダ246の油圧を検出する。図示しない油圧制御部が、油圧センサ256の検出する油圧を監視し油圧ピストン244を適切な移動量に制御する。
【0130】
ボールカム機構214は、プライマリークラッチ212によりカムプレート224が押圧部材222に対し所定方向に回転駆動されると、対向する面の傾斜溝であるボールカム溝226に挟まれているボール228による押圧を受け、押圧部材222及び復帰ばね230を軸方向に押し、押圧部材222が多板クラッチ機構210のクラッチ板220を押すことで、油圧ピストン244の移動量に応じて伝達トルクを増加させ、最大押付け位置で直結状態となる。
【0131】
このようにプライマリークラッチ212を有する構成にすることで、クラッチ板220の枚数を減らすことが可能であり、これにより多板クラッチ機構210の引き摺りトルクを減少させることができる。引き摺りトルクを後輪駆動力伝達区間のフリクショントルクよりも小さくすることで、後輪駆動力伝達区間の構成要素の回転を止め、この区間のオイル粘性抵抗や摩擦損失を減少させ燃費低下を防止できる。
【0132】
また、本発明は上記の実施形態に限定されず、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に上記の実施形態に示した数値による限定は受けない。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明による四輪駆動車用駆動力伝達装置の実施形態を示した説明図
【図2】図1の前輪差動装置の実施形態を示した断面図
【図3】図1の駆動力配分装置の実施形態を示した断面図
【図4】図3の多板クラッチ機構及びボールカム機構を示した断面図
【図5】図3のボールカム機構を軸方向から見た説明図
【図6】図3の多板クラッチ機構の油孔開閉部の動作を示す説明図
【図7】図6の油孔開閉部の油孔位置調整部材の動作を示す説明図
【図8】図3の多板クラッチ機構のスペーサ設置状態を示す説明図
【図9】図8のスペーサを示す斜視図
【図10】図8のスペーサを示す断面図
【図11】図3の多板クラッチ機構のスペーサの他の実施形態を示す断面図
【図12】図3のボールカム機構のボールカム溝とリテーナを示す説明図
【図13】図1の駆動力配分装置の他の実施形態を示した断面図
【図14】図13のボールカム機構を軸方向から見た説明図
【図15】図12及び図14に示すボールカム機構の動作説明図
【図16】図12及び図14に示すボールカム機構の動作説明図
【図17】本発明による四輪駆動車用駆動力伝達装置の他の実施形態を示した説明図
【図18】図17の駆動力配分装置の実施形態を示した断面図
【図19】本発明による四輪駆動車用駆動力伝達装置の他の実施形態を示した断面図
【図20】図19プライマリークラッチ及びボールカム機構を示した断面図
【図21】従来の四輪駆動車用駆動力伝達装置の説明図
【図22】従来の多板クラッチ機構の引き摺り防止用リングばね
【符号の説明】
【0134】
10:駆動力伝達装置
12:四輪駆動車
14:エンジン
16:変速機
18:駆動力配分装置
20:前輪差動装置
22:後輪差動装置
24:プロペラシャフト
32、34:自在継手
36:ドライブギア
38:リングギア
40、42:ピニオン
44、46:サイドギア
48:左前輪駆動軸
50:右前輪駆動軸
52:左前輪
54:右前輪
56:ドライブピニオン
58:リングギア
60、62:ピニオン
64、66:サイドギア
68:左後輪駆動軸
70:右後輪駆動軸
72:左後輪
74:右後輪
76:断接機構
78:後輪駆動力伝達区間
80:デフケース
82:ピニオン軸
84:サイドギア軸
86:スリーブ
88:フォーク
90:シフト軸
100:ケース
102:入力軸
106:多板クラッチ機構
108:クラッチハブ
110:クラッチドラム
112:ベベルギア
114:出力ピニオン
116:ベベルギア軸
118:後輪出力軸
120:クラッチ板
122:ボールカム機構
124:固定カムプレート
126:回転カムプレート
128:ボールカム溝
130:初期領域
132:傾斜領域
134:乗り越え部
136:リテーナ
138:突起部
140:ボール
142、144:アーム部
146:扇型ギア
148:駆動ギア
150:サーボモータ
152:減速機
154、156:スラスト軸受
158:固定プレート
160:押圧部材
162:復帰ばね
164:油孔開閉部
166:油孔位置調整部材
168:油孔
170:ラチェット爪
172:皿ばね
174:ラック
176:弁部
178:スペーサ
180:挟持部
182:弾性片
184、194:オイルポンプ
186:油路
188:カム荷重
190:ストローク
192:ばね荷重
196:カムフォロア
198:周縁カム
200:初期領域
202:非線形領域
204、210:押圧開始位置
206:線形領域
208:線形カム
210:多板クラッチ機構
212:プライマリークラッチ
214:ボールカム機構
216:クラッチハブ
218:クラッチドラム
220:クラッチ板
222:押圧部材
224:カムプレート
226:ボールカム溝
228:ボール
230:復帰ばね
232、242:スラスト軸受
234:クラッチ板
236:押圧板
238:押圧軸
240:受圧板
244:油圧ピストン
246:シリンダ
248:Oリング
250:サーボモータ
252:油圧ポンプ
254:油路
256:圧力センサ
300:駆動力伝達装置
302:四輪駆動車
304:エンジン
306:変速機
308:前輪差動装置
310:駆動力方向変換部
312:プロペラシャフト
314:多板クラッチ機構
316:左前輪
318:右前輪
320:ドライブピニオン
322:リングギア
324:後輪差動装置
326:左後輪
328:右後輪
330:前輪駆動力伝達区間
332:リングばね
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多板クラッチ機構の締結力を連続的に変化させ前輪及び後輪に伝達する駆動力の配分を走行条件に応じて自動的に制御する四輪駆動モードと、前記多板クラッチ機構を開放して前輪のみに駆動力を伝達する二輪駆動モードとを切り替え可能な四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、
動力源からの駆動力を入力して左右前輪駆動軸及び前記多板クラッチ機構に出力する前輪差動装置と、
前記多板クラッチ機構により配分された駆動力を伝達するプロペラシャフトと、
前記プロペラシャフトからの駆動力を入力して左右後輪駆動軸に出力する後輪差動装置と、
前記後輪差動装置と前記左右後輪駆動軸の何れか一方又は両方との連結を切断及び接続可能な断接機構を備え、
二輪駆動モード時に前記多板クラッチ機構の引き摺りトルクを前記多板クラッチ機構から前記断接機構までの後輪駆動力伝達区間の回転抵抗よりも小さくすると共に、前記断接機構により前記後輪差動装置と前記左右後輪駆動軸の何れか一方又は両方との連結を切断して前記後輪駆動力伝達区間の回転を停止することを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記多板クラッチ機構は、
前記多板クラッチ機構の軸方向に変位可能な複数のクラッチ板と、
前記クラッチ板への潤滑油の供給量を制御する潤滑油供給量可変機構と、
を備え、
前記多板クラッチ機構の開放時に、前記潤滑油供給量可変機構により前記クラッチ板への潤滑油の供給を停止あるいは所定の量に制限すると共に、前記クラッチ板相互の間隔の合計を前記多板クラッチ機構の前記潤滑油による引き摺りトルクを前記後輪駆動力伝達区間の回転抵抗よりも小さくする所定の値以上にすることを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記多板クラッチ機構は、
前記クラッチ板相互の間隔を広げる方向に付勢するスペーサを備えたことを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項4】
請求項3記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記スペーサは、
前記クラッチ板の周縁部に設けた板厚方向の凹部に挿入する挟持部と、
前記挟持部から前記クラッチ板の両表面の径方向に延び、前記クラッチ板の軸方向に変形可能な弾性片と、
を有する板ばね部材であることを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項5】
請求項4記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記スペーサは、
前記板ばね部材を前記クラッチ板の内周縁部に設けることを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項6】
請求項4記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記スペーサは、
前記弾性片が前記クラッチ板の外周方向に開いた板ばね部材であることを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項7】
請求項2記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記潤滑油供給量可変機構は、
前輪への出力に連動して駆動され前記クラッチ板へ潤滑油を供給するオイルポンプと、
前記クラッチ板を締結及び開放する前記軸方向に移動可能な押圧部材と、
前記押圧部材に連動し前記クラッチ板へ潤滑油を供給する油孔を開閉して潤滑油の流量を制御する油孔開閉部と、
を備え、前記油孔開閉部は、前記油孔を前記クラッチ板の開放位置では閉鎖し締結位置では開放することを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項8】
請求項7記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記油孔開閉部は、
前記クラッチ板の磨耗に応じて変化する前記押圧部材の締結方向の移動限界に連動して前記クラッチ板へ潤滑油を供給する油孔の位置を変位する油孔位置調整部材を備えたことを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項9】
請求項2記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記潤滑油供給量可変機構は、
前記後輪駆動力伝達区間に連動して駆動され、四輪駆動時に前記クラッチ板へ潤滑油を供給するオイルポンプを備えたことを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項10】
請求項2記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記多板クラッチ機構は、
前記クラッチ板を締結及び開放する前記軸方向に移動可能な押圧部材と、
前記押圧部材を移動させるために回転力を出力する駆動源と、
前記駆動源からの回転力を前記押圧部材の前記締結方向に変換及び増幅する押圧機構と、
を備え、前記駆動源の回転角に対する前記押圧部材の軸方向変位への変換率が、前記押圧部材が前記開放方向の待機位置から前記締結方向の締結開始位置まで移動する移行区間と、前記締結開始位置から前記締結方向の締結終了位置までの締結力を連続的に変化させる押圧区間とでは、前記移行区間の方が大きいことを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項11】
請求項10記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記押圧機構は、
前記押圧部材と同軸に設けられた固定カムプレートと回転カムプレートとの対向面上に円周方向に延びる複数のボールカム溝を各々設けると共に前記両ボールカム溝間に各々ボールを挟持したボールカム機構を備え、前記ボールカム溝は、
前記押圧部材を前記移行区間で移動させる非線形領域と、
前記押圧部材を前記押圧区間で移動させる線形領域と、
を有し、前記回転カムプレートの回転角に対する前記軸方向の変位が、前記線形領域より前記非線形領域の方が大きいことを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項12】
請求項11記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記ボールカム機構は、
円周方向に配置された各ボールの相対位置を保持するリテーナを備えたことを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項13】
請求項12記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記リテーナは、
前記ボールカム溝に対するボールの初期位置を規制する位置決め部を有することを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項14】
請求項10記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記押圧機構は、
前記押圧部材と同軸に設けられ回転変位を軸方向変位に変換する回転カムプレートと、外周方向のカム面を有し前記駆動源により回転駆動される周縁カムと、前記回転カムプレートから延在したアーム部先端に前記周縁カムと係合するカムフォロアとを備え、前記カム面は、
前記押圧部材を前記移行区間で移動させる非線形領域と、
前記押圧部材を前記押圧区間で移動させる線形領域と、
を有し、前記周縁カムの回転角に対する前記カムフォロアの法線方向変位が、前記線形領域より前記非線形領域の方が大きいことを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項15】
請求項2記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記多板クラッチ機構は、
前記クラッチ板を締結及び開放する前記軸方向に移動可能な押圧部材と、
プライマリークラッチと、
前記プライマリークラッチを締結及び開放する前記軸方向に移動可能なアクチュエータと、
前記プライマリークラッチからの回転力を前記押圧部材の前記締結方向に変換及び増幅する押圧機構と、
を備えたことを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項1】
多板クラッチ機構の締結力を連続的に変化させ前輪及び後輪に伝達する駆動力の配分を走行条件に応じて自動的に制御する四輪駆動モードと、前記多板クラッチ機構を開放して前輪のみに駆動力を伝達する二輪駆動モードとを切り替え可能な四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、
動力源からの駆動力を入力して左右前輪駆動軸及び前記多板クラッチ機構に出力する前輪差動装置と、
前記多板クラッチ機構により配分された駆動力を伝達するプロペラシャフトと、
前記プロペラシャフトからの駆動力を入力して左右後輪駆動軸に出力する後輪差動装置と、
前記後輪差動装置と前記左右後輪駆動軸の何れか一方又は両方との連結を切断及び接続可能な断接機構を備え、
二輪駆動モード時に前記多板クラッチ機構の引き摺りトルクを前記多板クラッチ機構から前記断接機構までの後輪駆動力伝達区間の回転抵抗よりも小さくすると共に、前記断接機構により前記後輪差動装置と前記左右後輪駆動軸の何れか一方又は両方との連結を切断して前記後輪駆動力伝達区間の回転を停止することを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項2】
請求項1記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記多板クラッチ機構は、
前記多板クラッチ機構の軸方向に変位可能な複数のクラッチ板と、
前記クラッチ板への潤滑油の供給量を制御する潤滑油供給量可変機構と、
を備え、
前記多板クラッチ機構の開放時に、前記潤滑油供給量可変機構により前記クラッチ板への潤滑油の供給を停止あるいは所定の量に制限すると共に、前記クラッチ板相互の間隔の合計を前記多板クラッチ機構の前記潤滑油による引き摺りトルクを前記後輪駆動力伝達区間の回転抵抗よりも小さくする所定の値以上にすることを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項3】
請求項2記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記多板クラッチ機構は、
前記クラッチ板相互の間隔を広げる方向に付勢するスペーサを備えたことを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項4】
請求項3記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記スペーサは、
前記クラッチ板の周縁部に設けた板厚方向の凹部に挿入する挟持部と、
前記挟持部から前記クラッチ板の両表面の径方向に延び、前記クラッチ板の軸方向に変形可能な弾性片と、
を有する板ばね部材であることを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項5】
請求項4記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記スペーサは、
前記板ばね部材を前記クラッチ板の内周縁部に設けることを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項6】
請求項4記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記スペーサは、
前記弾性片が前記クラッチ板の外周方向に開いた板ばね部材であることを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項7】
請求項2記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記潤滑油供給量可変機構は、
前輪への出力に連動して駆動され前記クラッチ板へ潤滑油を供給するオイルポンプと、
前記クラッチ板を締結及び開放する前記軸方向に移動可能な押圧部材と、
前記押圧部材に連動し前記クラッチ板へ潤滑油を供給する油孔を開閉して潤滑油の流量を制御する油孔開閉部と、
を備え、前記油孔開閉部は、前記油孔を前記クラッチ板の開放位置では閉鎖し締結位置では開放することを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項8】
請求項7記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記油孔開閉部は、
前記クラッチ板の磨耗に応じて変化する前記押圧部材の締結方向の移動限界に連動して前記クラッチ板へ潤滑油を供給する油孔の位置を変位する油孔位置調整部材を備えたことを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項9】
請求項2記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記潤滑油供給量可変機構は、
前記後輪駆動力伝達区間に連動して駆動され、四輪駆動時に前記クラッチ板へ潤滑油を供給するオイルポンプを備えたことを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項10】
請求項2記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記多板クラッチ機構は、
前記クラッチ板を締結及び開放する前記軸方向に移動可能な押圧部材と、
前記押圧部材を移動させるために回転力を出力する駆動源と、
前記駆動源からの回転力を前記押圧部材の前記締結方向に変換及び増幅する押圧機構と、
を備え、前記駆動源の回転角に対する前記押圧部材の軸方向変位への変換率が、前記押圧部材が前記開放方向の待機位置から前記締結方向の締結開始位置まで移動する移行区間と、前記締結開始位置から前記締結方向の締結終了位置までの締結力を連続的に変化させる押圧区間とでは、前記移行区間の方が大きいことを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項11】
請求項10記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記押圧機構は、
前記押圧部材と同軸に設けられた固定カムプレートと回転カムプレートとの対向面上に円周方向に延びる複数のボールカム溝を各々設けると共に前記両ボールカム溝間に各々ボールを挟持したボールカム機構を備え、前記ボールカム溝は、
前記押圧部材を前記移行区間で移動させる非線形領域と、
前記押圧部材を前記押圧区間で移動させる線形領域と、
を有し、前記回転カムプレートの回転角に対する前記軸方向の変位が、前記線形領域より前記非線形領域の方が大きいことを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項12】
請求項11記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記ボールカム機構は、
円周方向に配置された各ボールの相対位置を保持するリテーナを備えたことを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項13】
請求項12記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記リテーナは、
前記ボールカム溝に対するボールの初期位置を規制する位置決め部を有することを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項14】
請求項10記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記押圧機構は、
前記押圧部材と同軸に設けられ回転変位を軸方向変位に変換する回転カムプレートと、外周方向のカム面を有し前記駆動源により回転駆動される周縁カムと、前記回転カムプレートから延在したアーム部先端に前記周縁カムと係合するカムフォロアとを備え、前記カム面は、
前記押圧部材を前記移行区間で移動させる非線形領域と、
前記押圧部材を前記押圧区間で移動させる線形領域と、
を有し、前記周縁カムの回転角に対する前記カムフォロアの法線方向変位が、前記線形領域より前記非線形領域の方が大きいことを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【請求項15】
請求項2記載の四輪駆動車用駆動力伝達装置に於いて、前記多板クラッチ機構は、
前記クラッチ板を締結及び開放する前記軸方向に移動可能な押圧部材と、
プライマリークラッチと、
前記プライマリークラッチを締結及び開放する前記軸方向に移動可能なアクチュエータと、
前記プライマリークラッチからの回転力を前記押圧部材の前記締結方向に変換及び増幅する押圧機構と、
を備えたことを特徴とする四輪駆動車用駆動力伝達装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2009−220593(P2009−220593A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−63902(P2008−63902)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000154347)株式会社ユニバンス (132)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000154347)株式会社ユニバンス (132)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]